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裁判例


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目次
当事者の表示1
主文5
事実及び理由5
第1当事者の求める裁判5
第2事案の概要6
1前提となる事実6
(1)当事者等6
(2)本件申請と本件原子炉施設の概要7
ア東京電力による本件原子炉の設置許可申請7
イ本件原子炉施設の概要7
(3)発電用原子炉の仕組みと原子炉施設の潜在的危険性等20
ア発電用原子炉の仕組み20
(ア)原子炉の原理20
(イ)沸騰水型原子炉(BWR)21
イ原子炉施設の潜在的危険性22
(ア)原子炉施設の潜在的危険性と安全性の確保22
(イ)放射線とその影響23
ウICRP(国際放射線防護委員会)等について26
(4)原子力委員会と原子炉安全専門審査会28
(5)安全審査会の審査等31
(6)本件安全審査の基本方針及び審査事項等33
(7)東京電力の技術的能力に係る本件安全審査の内容36
(8)平常運転時における被ばく低減対策に係る本件安全審査の審査内容
37
(9)原子炉施設の事故防止対策に係る本件安全審査の審査内容48
(10)想定される飛来物に対する安全審査64
(11)原子炉施設の地質・地盤及び地震に係る本件安全審査の審査内容
65
(12)原子炉施設の公衆との離隔に係る本件安全審査の審査内容81
(13)原子力委員会の答申及び内閣総理大臣の本件処分等90
(14)異議申立て等91
(15)営業運転開始と原子炉設置変更許可処分92
(16)許容線量等を定める件等の改廃94
2争点96
3当事者の主張103
(1)司法審査のあり方について103
ア規制法24条1項各号の違反のうち,行訴法10条1項の「自己の法
律上の利益に関係」する違法は何か。103
イ原子炉設置許可に際しての安全審査の対象事項となるものは何か。
107
ウ原子炉設置変更許可処分と本件訴訟における審理・判断の対象につい
て112
(ア)本件処分後の本件各変更許可処分の違法事由は本件訴訟における審
理・判断の対象となるか否か。112
(イ)上記(ア)が肯定される場合,どの範囲で,変更許可処分の違法事由

審理・判断の対象となるか。118
(ウ)上記(ア)が肯定される場合,上記(イ)の違法事由の主張・立証責任
はい
ずれの当事者が負担するか。120
エ本件処分の専門技術性について,司法審査の方法はどうあるべきか。
122
(2)本件処分の手続的違法はあるか否か。127
ア本件安全審査手続における構造的瑕疵について127
(ア)安全審査の手続規定に不備あるいは不明確な瑕疵があるか否か。
127
(イ)安全審査に係る技術的基準等の不明確があるか否か。128
(ウ)本件安全審査手続に不公正,不適正があるか否か。129
(エ)立法の瑕疵があるか否か。130
イ本件安全審査手続における個別的瑕疵について131
(ア)原子力委員会における審査手続に瑕疵があるか否か。131
(イ)安全審査会における審査手続に瑕疵があるか否か。133
(3)規制法24条1項1号所定の要件適合性は,司法審査の対象となるか否
か。134
(4)規制法24条1項2号所定の要件適合性は,司法審査の対象となるか否
か。136
(5)規制法24条1項3号のうち経理的基礎に係る部分の要件適合性は,司
法審査の対象となるか否か。また,同条1項3号のうち技術的能力に係る
部分の要件適合性の判断に不合理な点はあるか否か。138
ア規制法24条1項3号のうち経理的基礎に係る部分について
138
イ規制法24条1項3号のうち技術的能力に係る部分について
139
(6)規制法24条1項4号所定の要件適合性の判断に不合理な点はあるか否
か。142
ア原子炉施設の安全性の意義とその安全審査のあり方をどのように考え
るか。142
(ア)原子炉施設の安全性の意義としきい値の存否142
(イ)安全審査のあり方148
イ本件原子炉施設の平常運転時における被ばく低減対策に関する本件安
全審査の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点はあ
るか否か。また,本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計
において,平常運転時における放射性廃棄物について,本件原子炉敷地
周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものとした本件安全
審査における調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか
否か。156
(ア)審査基準に不合理な点があるか否か。156
①本件安全審査が基準とした公衆の線量当量限度は不当に高いもの
であるか否か。156
②「線量目標値指針」の線量目標値に合理性があるか否か。
163
③「線量目標値指針」及び「線量目標値評価指針」の基準並びに
「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被爆線量
の評価について」の報告書に不合理な点がないか否か。
165
(イ)本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,平
常運転時における放射性廃棄物について,本件原子炉敷地周辺の公衆
に対する放射線障害の防止上支障がないものとした本件安全審査にお
ける調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
168
①気体廃棄物の被ばく線量評価について168
a間欠放出による気体廃棄物の過小評価の有無について
168
b放射性ヨウ素の被ばく線量評価の合理性の有無について
169
c粒子状放射性物質の被ばく線量評価の合理性の有無について
171
②液体廃棄物の被ばく評価について173
a液体廃棄物に関する被ばく評価と原子力発電所による環境汚
染の有無について173
b洗濯廃液の評価の不合理性の存否について175
c機器ドレン廃液の環境流失に関する被ばく評価の不合理性の
存否について176
d濃縮係数の不合理性の存否について177
e放出放射性物質の濃度の不合理性の存否について179
f核種組成の不合理性の存否について179
gトリチウムの審査の有無について180
③ムラサキツユクサの研究について183
④放射線管理設備についての審査の有無について184
ウ本件原子炉施設の事故防止対策に係る本件安全審査の調査審議におい
て用いられた具体的審査基準に不合理な点はあるか否か。また,本件原
子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,事故防止対策
に係る安全性を確保し得るもの,すなわち,事故防止対策との関連にお
いて,原子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査
における調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
186
(ア)炉心燃料部の健全性の有無について186
①燃料被覆管の応力腐食割れについて186
②多発する燃料棒に関する異常事象と対策の遅れの有無について
188
aピンホールやひび割れ事象について188
b浸水燃料の事象について190
c燃料棒スペーサのはずれの事象について193
③冷却材喪失事故時における炉心燃料部の健全性の有無について
195
a大破断冷却材喪失事故(LOCA)の危険性の有無について
195
b中小破断冷却材喪失事故(LOCA)の危険性の有無について
199
(イ)圧力バウンダリについて204
①圧力容器の中性子による脆化に対する安全性の有無について
204
a脆化予測式の合理性と不純物及びニッケル等が中性子の照射脆
化に及ぼす影響の有無について204
b照射速度等の影響の有無について208
c本件安全審査が準拠した監視試験方法の妥当性の有無について
211
②応力腐食割れ(SCC)の有無について214
③疲労破壊及び応力集中の有無について221
④圧力バウンダリの使用前検査及び供用期間中検査の合理性につい
て224
⑤運転期間(想定寿命)限定の有無について225
制御棒駆動系について228(ウ)
スクラム排出ヘッダー及びスクラム排出①制御棒駆動系の信頼性と
容器の設計の合理性の有無について228
②スクラム失敗等と暴走事故について231
③タービン・トリップ発生時のスクラム遅れについて241
④スクラム信号系について242
(エ)ECCS(非常用炉心冷却系)について246
①非常用炉心冷却系の流量を定格流量とすることについて
246
②高圧炉心スプレイ系の故障について248
③自動減圧系の不作動の可能性について249
④低圧炉心注入系の注入量減少について251
⑤非常用ディーゼル発電機の冷却水漏洩事象について252
(オ)ポンプ,弁の健全性について253
①原子炉再循環ポンプメカニカルシールの不具合について
253
②タービン駆動原子炉給水ポンプ(A)出口逆止弁からの漏洩につ
いて255
③本件原子力発電所における本件原子炉施設以外の故障について
256
(カ)本件原子力発電所における異常事象と本件安全審査について
257
(キ)TMI事故と本件安全審査について261
(ク)チェルノブイル事故と本件安全審査について263
(ケ)運転時の異常な過渡変化解析及び事故解析の合理性の有無について
268
①シビアアクシデント(過酷事故)について268
②火災事故における安全性について273
③JCO事故について276
(コ)検査能力等の有無について276
(サ)想定される飛来物に対する設計上の考慮について278
(シ)燃料体に対する本件各変更許可処分の違法事由について283
①現在の設計の9行×9列型燃料の破裂について283
②現在の設計の9行×9列型燃料による暴走事故の危険性について
287
(ス)本件各変更許可処分に係る現在の設計におけるLOCA(冷却材喪
失事故)解析の合理性の有無について292
①臨界流モデルと対流熱伝達について292
②下部プレナムフラッシングと炉心入口オリフィス部CCFLにつ
いて295
③シュラウドのひびについて300
④熱伝達係数について301
(セ)プルサーマル計画について302
エ本件原子炉施設の地質・地盤及び地震に関係する安全対策に係る本件
安全審査の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点は
あるか否か。また,本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設
計において,本件原子炉施設の地質・地盤及び同施設周辺において発生
するおそれのある地震が,同施設における大事故の誘因とならず,安全
性を確保でき,原子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件
安全審査における調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があ
るか否か。304
(ア)審査基準に不合理な点があるか否か。304
①設計用地震加速度の合理性の有無について304
②鉛直地震力の考慮の有無について305
③活断層の評価期間の合理性の有無について306
④直下地震の想定の有無について307
(イ)本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,本
件原子炉施設の地盤及び同施設周辺において発生するおそれのある地
震が,同施設における大事故の誘因とならず,安全性を確保でき,原
子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査におけ
る調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
308
①本件原子炉敷地の支持地盤について308
②本件原子炉敷地周辺にみられる断層について312
a柏崎平野における安田層の形成時期について312
b伏在断層を含む断層活動について314
c本件原子炉敷地周辺地域の活断層について319
d寺尾断層について323
e歴史地震の選定について326
f日本海東縁プレート境界について328
g長岡平野西縁断層について331
h中越地震について338
③本件原子炉敷地周辺にみられる断層の評価について343
a気比ノ宮断層について343
b常楽寺断層について345
c真殿坂断層について346
d新しい松田式について347
e金井式-シード図について348
f鳥取県西部地震について349
④本件原子炉施設の安全性とスマトラ沖大地震・津波等について
351
オ本件原子炉施設の公衆との離隔に係る本件安全審査の調査審議におい
て用いられた具体的審査基準に不合理な点はあるか否か。また,本件原
子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,公衆との離隔
に係る安全性を確保し得るもの,すなわち,公衆との離隔による災害の
防止上支障のないものとした本件安全審査における調査審議及び判断の
過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。351
(ア)災害評価(立地評価)における全炉心溶融等の想定について
352
(イ)フィルタの信頼性について353
第3当裁判所の判断355
1司法審査のあり方について355
(1)規制法24条1項各号の違反のうち,行訴法10条1項の「自己の法律
上の利益に関係」する違法は何か。355
(2)原子炉設置許可に際しての安全審査の対象事項となるものは何か。
360
(3)変更許可処分と本件訴訟における審理・判断の対象について
本件処分後の本件各変更許可処分の違法事由は本件訴訟における審理・
判断の対象となるか否か。363
(4)本件処分の専門技術性とその司法審査の方法について369
(5)控訴人らの主張する温排水の熱的影響,固体廃棄物の最終処分,使用済
燃料の再処理,輸送及び最終処分,廃炉,労働者被ばく並びに防災計画に
関する違法事由は,司法審査の対象となるか否か。373
ア温排水の熱的影響に関する主張について373
イ固体廃棄物の最終処分に関する主張について373
ウ使用済燃料の再処理,輸送及び最終処分に関する主張について
374
エ廃炉に関する主張について374
オ労働者被ばくに関する主張について374
カ防災計画に関する主張について375
2本件処分の手続的違法性の有無について375
(1)本件処分の手続について375
(2)本件安全審査手続における構造的瑕疵の有無について375
ア安全審査の手続規定に不備,不明確の瑕疵があるか否か。375
イ安全審査に係る技術的基準等が不合理,不明確であるか否か。
377
ウ本件安全審査は,法律上の根拠に基づくものであるか否か。
379
エ本件安全審査は,いわゆる原子力三原則に違反するか否か。
379
オ本件安全審査における審査体制が不備であるか否か。381
カ部会による安全審査は違法か否か。382
キ合同審査による安全審査手続は違法か否か。383
ク本件安全審査において審査範囲の限定をしたことは違法か否か。
385
ケ資料の収集等の審査方法に違法があるか否か。385
コ本件安全審査手続に不公正,不適正があるか否か。386
サ安全審査手続について立法の瑕疵があるか否か。388
(3)本件安全審査手続における個別的瑕疵について389
ア原子力委員会委員長の不在の際にその職務代理者が選任されていたか
否か。389
イ原子力委員会の審査方法等に違法がないか否か。390
ウ本件安全審査会における並行審査は違法か否か。391
エ安全審査会の出席者は適法か否か。391
オ調査委員中心の本件安全審査は違法か否か。392
(4)小括394
3規制法24条1項1号所定の要件適合性は,司法審査の対象となるか否か。
394
4規制法24条1項2号所定の要件適合性は,司法審査の対象となるか否か。
395
5規制法24条1項3号のうち経理的基礎に係る部分の要件適合性は,司法
審査の対象となるか否か。また,同条1項3号のうち技術的能力に係る部分
の要件適合性の判断に不合理な点はあるか否か。396
(1)規制法24条1項3号のうち経理的基礎に係る部分について396
(2)規制法24条1項3号のうち技術的能力に係る部分について396
6規制法24条1項4号所定の要件適合性の判断に不合理な点はあるか否か。
399
(1)原子炉施設の安全性の意義とその安全審査のあり方をどのように考える
か。399
ア規制法24条1項4号の要件適合性審査に対する司法審査のあり方
400
イ規制法24条1項4号が審査の対象とする原子炉施設の危険性
401
ウしきい値の存否401
エ原子炉施設の安全性の意義408
オ安全審査のあり方411
(2)本件原子炉施設の平常運転時における被ばく低減対策に関する本件安全
審査の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点はあるか
否か。また,本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計におい
て,平常運転時における放射性廃棄物について,本件原子炉敷地周辺の公
衆に対する放射線障害の防止上支障がないものとした本件安全審査におけ
る調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
416
ア審査基準に不合理な点があるか否か。416
(ア)本件安全審査が基準とした公衆の線量当量限度は不当に高いもので
あるか否か。416
(イ)「線量目標値指針」の線量目標値に合理性があるか否か。
428
(ウ)「線量目標値指針」及び「線量目標値評価指針」の基準並びに「発
電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被爆線量評価に
ついて」の報告書に不合理な点がないか否か。430
(エ)小括433
イ本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,平常
運転時における放射性廃棄物について,本件原子炉敷地周辺の公衆に対
する放射線障害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調
査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
433
(ア)気体廃棄物の被ばく線量評価について433
①間欠放出による気体廃棄物の過少評価の有無について433
②放射性ヨウ素の被ばく線量評価の合理性の有無について435
粒子状放射性物質の被ばく線量評価の合理性の有無について③
436
(イ)液体廃棄物の被ばく評価について437
液体廃棄物に関する被ばく評価と原子力発電所による環境汚染の①
有無について437
洗濯廃液の評価の合理性の有無について440②
③機器ドレン廃液の環境流出に関する被ばく線量評価の合理性の有
無について441
④濃縮係数の合理性の有無について442
⑤放出放射性物質の濃度の合理性の有無について443
⑥核種組成の合理性の有無について444
⑦トリチウムの審査の有無について446
(ウ)ムラサキツユクサの研究結果と被ばく線量評価の合理性の有無につ
いて447
(エ)放射線管理設備の審査の有無について448
小括450(オ)
(3)本件原子炉施設の事故防止対策に係る本件安全審査の調査審議において
用いられた具体的審査基準に不合理な点はあるか否か。また,本件原子炉
が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,事故防止対策に係る
安全性を確保し得るもの,すなわち,事故防止対策との関連において,原
子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調
査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
451
ア審査基準に不合理な点があるか否か。451
(ア)事故防止対策に係る審査基準について451
ECCS安全評価指針の合理性について453(イ)
(ウ)小括455
イ本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,事故
防止対策に係る安全性を確保し得るもの,すなわち,事故防止対策との
関連において,原子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件
安全審査における調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があ
るか否か。455
(ア)炉心燃料部の健全性の有無について455
炉心燃料部材の適格性について455①
平常運転時の炉心燃料部の健全性について458②
③多発する燃料棒に関する異常事象と対策の遅れの有無について
464
a敦賀原発及び福島第一原発等において発生した燃料棒及び燃料
集合体に関する異常事象について464
b本件原子力発電所において発生したピンホール及びひび割れ等
の事象について466
(a)ピンホール及びひび割れ事象について466
(b)浸水燃料の事象について468
(c)燃料棒スペーサのはずれの事象について471
④冷却材喪失事故(LOCA)時における炉心燃料部の健全性の有
無について472
a冷却材喪失事故の不可避性について473
b冷却材喪失事故の解析について474
(a)冷却材喪失事故における燃料棒の異常な挙動について
474
(b)大破断LOCAの危険性の有無について476
(c)中小破断LOCAの危険性の有無について479
(イ)圧力バウンダリについて481
①圧力容器の中性子による脆化に対する安全性の有無について
481
a中性子照射による圧力容器の脆化について481
b脆化予測式の合理性と不純物及びニッケル等が中性子の照射脆
化に及ぼす影響の有無について482
c照射速度等の影響の有無について484
d本件安全審査が準拠した監視試験方法の妥当性の有無について
485
②応力腐食割れ(SCC)の有無について489
③疲労破壊,応力集中の有無について495
④解析による設計の合理性の有無について499
⑤使用前検査及び供用期間中検査の合理性の有無について
499
⑥運転期間(想定寿命)の延長の有無について501
(ウ)制御棒駆動系について503
スクラム排出ヘッダー及びスクラム排出①制御棒駆動系の信頼性と
容器の設計の合理性の有無について503
②スクラム失敗等と暴走事故の有無について507
aタービン・トリップによる暴走事故507
b制御棒挿入失敗による暴走事故510
c再循環流量制御系の誤動作による暴走事故512
③タービン・トリップ発生時のスクラム遅れについて513
④スクラム信号系について515
(エ)ECCSについて517
①ECCS安全評価指針の適合性の有無について517
②ECCSの有効性の有無について519
③ECCSの不作動,故障等の有無について521
④非常用炉心冷却系の流量を定格流量とする合理性の有無について
522
⑤高圧炉心スプレイ系の故障の有無について523
⑥自動減圧系の不作動の可能性の有無について524
⑦低圧炉心注入系の注入量減少の有無について526
⑧非常用ディーゼル発電機の冷却水漏洩事象について526
(オ)計測制御システムの欠陥の有無について527
(カ)格納容器の健全性の有無について528
①事故解析について528
②隔離弁について529
制御棒不挿入事故について530③
④格納容器の容積について530
(キ)ポンプ,弁等の健全性について531
①ポンプ,弁等の健全性の欠如の有無について531
②原子炉再循環ポンプメカニカルシールの不具合について
532
③タービン駆動原子炉給水ポンプ(A)出口逆止弁からの漏洩につ
いて533
④本件原子力発電所における本件原子炉施設以外のポンプに関する
故障について534
本件原子力発電所における異常事象等と本件安全審査について(ク)
535
我が国における本件原発以外の原子力発電所の異常事象例等と本件(ケ)
安全審査について537
①敦賀原発1号機における事象例等537
②福島第二原発3号機における事象例542
③美浜原発2号機における事象例543
(コ)TMI事故と本件安全審査について545
①TMI事故の経過等について545
②TMI事故の原因等について551
③TMI事故と本件安全審査557
(サ)チェルノブイル事故と本件安全審査について559
チェルノブイル事故の経過559①
②チェルノブイル事故と本件安全審査568
(シ)運転時の異常な過渡変化解析及び事故解析の合理性の有無について
570
①事象選定等について570
②シビアアクシデント(過酷事故)について572
③火災事故における安全性の有無について573
④JCO事故と本件安全審査について575
(ス)検査能力等の有無について576
(セ)想定される飛来物に対する設計上の考慮の有無について579
(ソ)燃料体に対する本件各変更許可処分の違法事由の有無について
581
①現在の設計の9行×9列型燃料の破裂の有無について
581
②現在の設計の9行×9列型燃料による暴走事故の有無について
582
(タ)本件各変更許可処分に係る現在の設計におけるLOCA(冷却材喪
失事故)解析の合理性の有無について583
①臨界流モデルと対流熱伝達について583
②下部プレナムフラッシングと炉心入口オリフィス部CCFLにつ
いて583
③シュラウドのひびについて586
④熱伝達係数について587
(チ)プルサーマル計画と本件安全審査について589
(ツ)小括589
(4)本件原子炉施設の地質・地盤及び地震に関係する安全対策に係る本件安
全審査の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点はある
か否か。また,本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計にお
いて,本件原子炉施設の地質・地盤及び同施設周辺において発生するおそ
れのある地震が,同施設における大事故の誘因とならず,安全性を確保で
き,原子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査にお
ける調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
589
ア審査基準に不合理な点があるか否か。590
(ア)地質・地盤及び地震に関係する安全対策に係る審査基準について
590
(イ)設計用地震加速度の合理性の有無について591
(ウ)鉛直地震力の考慮の有無について591
(エ)活断層の評価期間の合理性の有無について593
(オ)直下地震の想定の有無について593
(カ)小括594
イ本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,本件
原子炉施設の地質・地盤及び同施設周辺において発生するおそれのある
地震が,同施設における大事故の誘因とならず,安全性を確保でき,原
子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における
調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
595
(ア)本件原子炉敷地の支持地盤の安定性の有無について595
活発な地殻変動の存在について595①
②本件原子炉施設の支持地盤について597
(イ)本件原子炉施設の敷地周辺に見られる断層の活動の有無について
601
柏崎平野における安田層の形成時期について601①
②伏在断層を含む断層活動について602
a柏崎平野の安田層,番神砂層堆積後の断層活動について
602
b複数断層の一斉活動について605
③本件原子炉敷地周辺地域の活断層について606
a試掘坑に見られる断層606
bα,β断層及び真殿坂断層の活動性について608
c滝谷の断層について610
d本件原子炉敷地内外の安田層や番神砂層を切る断層について
610
e本件原子力発電所5号機直下の断層の活動性について
611
f東側道路法面の断層の性質について612
④寺尾断層について613
⑤歴史地震の選定について622
⑥日本海東縁プレート境界について623
⑦長岡平野西縁断層について624
a長岡平野西縁断層の活動について624
b長岡平野西縁断層帯と日本海東縁プレート境界について
625
⑧中越地震について626
a本件原子炉施設の地震観測記録における地震規模と最大加速度
について626
b中越地震の観測地が原子炉施設毎に異なることについて
627
c本件原子力発電所7号機の原子炉自動停止について
627
d本件原子力発電所の設計用地震動の最大加速度値について
628
(ウ)本件原子炉施設の敷地周辺に存在すると推定される主な断層の評価
の合理性の有無について629
①リニアメントについて629
②気比ノ宮断層の延長距離について630
③常楽寺断層(中央丘陵西縁部断層)について632
④真殿坂断層について633
⑤椎谷断層について634
⑥新しい松田式について635
⑦金井式-シード図について636
⑧鳥取県西部地震について637
(エ)本件原子炉施設の安全性の有無について637
①本件原子炉施設の安全性について637
②スマトラ沖大地震・津波と本件安全審査について638
(オ)小括640
本件原子炉施設の公衆との離隔に係る本件安全審査の調査審議において(5)
用いられた具体的審査基準に不合理な点はあるか否か。また,本件原子炉
が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,公衆との離隔に係る
安全性を確保し得るもの,すなわち,公衆との離隔による災害の防止上支
障のないものとした本件安全審査における調査審議及び判断の過程に看過
し難い過誤,欠落があるか否か。640
ア審査基準に不合理な点があるか否か。640
(ア)公衆との離隔に係る審査基準について640
めやす線量について641(イ)
(ウ)小括642
イ本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,公衆
との離隔に係る安全性を確保し得るもの,すなわち,公衆との離隔によ
る災害の防止上支障のないものとした本件安全審査における調査審議及
び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。643
災害評価(立地評価)におけるECCS等の健全性について(ア)
643
災害評価(立地評価)における全炉心溶融等の想定について(イ)
644
(ウ)フィルタの信頼性について645
(エ)小括646
(6)その他の規制法24条1項4号所定の要件適合性について646
第4結論646
主要略語表648
別紙1653
別紙2654
別紙3655
別紙4656
別紙5657
別紙6658
別紙7659
別紙8660
別紙9661
別紙10662
別紙11663
別紙12664
別紙13665
別紙14666
別紙15667
別紙16668
主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
(以下,本判決においては,別紙主要略語表記載の略語を用いる。ただし,正式の
用語を用いる場合もある)。
第1当事者の求める裁判
1控訴の趣旨
(1)原判決を取り消す。
(2)内閣総理大臣が昭和52年9月1日東京電力株式会社に対してなした柏
崎・刈羽原子力発電所の原子炉設置許可処分を取り消す。
(3)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2事案の概要
本件は,柏崎・刈羽原子力発電所(本件原子力発電所)の設置場所である新
潟県柏崎市,同県刈羽郡ω1又はその周辺に居住する控訴人らが,内閣総理大
臣から実用原子炉許可権限を承継した通商産業大臣に対し,内閣総理大臣が昭
和52年9月1日付けで東京電力株式会社(東京電力)に対してなした本件原
子力発電所の原子炉設置許可処分(本件処分)について,その安全審査に瑕疵
があるために違法である等と主張して,本件処分の取消しを求め,これに対し,
被控訴人が,本件処分に手続的違法はなく,実体的にも適法であるとして争う
事案である。
原審は,控訴人らの本件請求をいずれも棄却したので,これを不服とする控
訴人らが控訴した。
なお,昭和53年法律第86号により内閣総理大臣が行った本件処分は通商
産業大臣が行ったものとみなされたが,平成11年法律第160号により通商
産業大臣が行ったものとみなされた本件処分が,更に被控訴人(経済産業大
臣)が行ったものとみなされることとなり,本件訴訟を被控訴人が承継した。
1前提となる事実(末尾に証拠等を掲げた事実のほかは,当事者間に争いがな
い)。
(1)当事者等
ア控訴人らは,柏崎・刈羽原子力発電所(本件原子力発電所)1号機(本
件原子炉)及びその附属施設(以下「本件原子炉施設」という)を設置。
する敷地(以下「本件原子炉敷地」という)周辺から約65㎞までの範。
囲内の新潟県柏崎市,同県刈羽郡ω1又はその周辺の市町村に居住する者
である(弁論の全趣旨。)
イ東京電力は,昭和26年5月1日,電気事業・電気機械器具の製造及び
販売等を目的として設立された株式会社であって,電気事業法(昭和39
年法律第170号,昭和53年法律第27号による改正前のもの。電事
法)所定の一般電気事業者である(乙1ないし3,弁論の全趣旨。)
(2)本件申請と本件原子炉施設の概要
ア東京電力による本件原子炉の設置許可申請
東京電力は,内閣総理大臣に対し,昭和50年3月20日,核原料物質,
核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号,
同52年法律第80号による改正前のもの。規制法)23条2項に基づき,
同日付け柏崎・刈羽原子力発電所原子炉設置許可申請書(乙1)及び添付
書類(乙2)により本件原子炉の設置許可を申請(本件申請)した。
なお,東京電力は,内閣総理大臣に対し,昭和52年7月12日,同日
付け「柏崎・刈羽原子力発電所原子炉設置許可申請書本文及び添付書類の
一部補正について」と題する書面(乙3)を提出して本件申請書及び添付
書類の一部を補正(以下「本件補正」という)した。。
イ本件原子炉施設の概要
本件補正に係る本件申請の本件原子炉施設の概要は,以下のとおりであ
る(甲224の②ないし⑤,乙1ないし3。)
(ア)原子炉の型式等
本件原子炉(基数1)の型式は,濃縮ウラン,軽水減速,軽水冷却型
(沸騰水型)であり,熱出力約3300MW(電気出力約110万k
W)である。
(イ)設置事業所の名称,本件原子炉敷地の位置及び概況等
①a設置事業所の名称柏崎・刈羽原子力発電所
b同所在地新潟県柏崎市及び刈羽郡ω1
②本件原子炉施設の位置,敷地の概況等
a(a)本件原子炉敷地は,東京の北西方向約220㎞にあって,新
潟県の日本海岸のほぼ中央に位置し,同県柏崎市及び刈羽郡ω
1にまたがる日本海に面した頂高60m前後のなだらかな丘陵
地の地域(面積約420万㎡)であり,本件原子炉敷地両端の
凸地とそれらの間に挟まれる凹地からなり,周辺部の丘陵地は
松林に覆われているが,中央部の凹地は砂丘不毛地である。そ
の敷地形状は,海岸線方向約3.2㎞,奥行約1.4㎞の汀線
を長軸とした半楕円形であって,そのほとんどは山林原野であ
る。
そして,本件原子炉敷地の地質は,新第三紀鮮新世の硬質泥
岩の地盤の上に軟質泥岩層及び砂層が分布したものである。
(b)この地方の気候区分は,裏日本気候の雪国に属し,降水量は
年間2500㎜前後で,冬に多く夏に少なく,気温の年平均値
は約13℃で,海洋に面しているため気温の日変化は比較的少
ない。なお,柏崎農業気象観測所における積雪深さの最大値
は,194㎝(1927年(昭和2年)2月13日)である。
(c)本件原子炉敷地周辺の人口は,昭和50年10月当時におい
て,建設地点を中心とする半径30㎞以内で約45万9000
人,10㎞以内で約7万3000人,5㎞以内で約1万500
0人である。
b本件原子炉施設は,本件原子炉敷地の丘陵を標高5mに造成して
建設する計画であり,本件原子炉本体は,本件原子炉敷地中央部南
側寄りの海岸側に設置され,排気筒はその東側に設置する。復水器
冷却用の取水口は,本件原子炉敷地前面に設ける南側防波堤の内側
に,また,放水口は南側防波堤の外側に設置する。
なお,信濃川から取水した発電所用水及びタービン建家西側に設
けた海水淡水化装置により精製した発電所用水を貯えるための貯水
設備は,本件原子炉複合建家東側に設ける。
(ウ)基本的設計方針
①平常運転時,発電所周辺の一般公衆及び発電所従業員に対し,規制
法等に定められている許容基準を超える放射線被ばくを与えないよう
にする。さらに,設計に当たっては,発電所周辺の一般公衆に対し,
「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針について」
(昭和50年5月13日原子力委員会決定。乙12。線量目標値指
針)に定められている線量目標値を超える放射線被ばくを与えないよ
うに努める。
②原子炉施設は,設計,製作,建設,試験,検査を通じて信頼性の高
いものとし,運転員の誤操作などによる異常状態に対しては,警報に
より運転員が措置し得るようにするとともに,もしこれらの修正動作
がとられない場合にも,原子炉の固有の安全性並びに安全保護系の動
作により,重大な事故に発展しないように設計する。
③燃料から放出される放射性核分裂生成物が発電所周辺に放散される
のを防ぐ防壁を何重にも設け,万一事故が起こった場合にも発電所周
辺の一般公衆の安全を確保する。
④原子炉施設は,地震,台風,降雪,高潮,津波等の自然的事象によ
っても損なわれることのない構造及び配置とする。
(エ)本件原子炉施設の構造及び設備等
①本件原子炉施設は,原子炉,原子炉冷却系,タービン系及び各種の
安全防護設備等からなるが,原則として剛構造とし,また,原子炉複
合建家及び海水機器建家のように重要な建物は,原則として直接岩盤
で支持し,更に各設備は,原子炉複合建家,タービン建家,海水機器
建家等に収納し,建物,構築物については,耐震設計を行い,耐震性
を有する構造とする。
②原子炉本体は,燃料体(燃料集合体,制御材(制御棒,減速材))
及び反射材,炉心支持構造物,原子炉圧力容器(以下「圧力容器」と
もいう,内部構造物等から構成され,圧力容器の外側には,放射。)
線遮蔽体を設ける。
a炉心
(a)i炉心の主要寸法は,炉心等価値径約4.8m,炉心有効高
さ約3.7mとし,その構造は,多数の燃料集合体及び制御棒
を正方格子に配列した円筒状であって,十字形の制御棒は,4
本の角型の4体の燃料集合体によって囲まれた配置にする。各
燃料集合体は,燃料支持金具により支持し,その荷重は,制御
棒案内管を通し圧力容器に伝えられる。
ii燃料集合体周囲のチャンネル・ボックスが冷却材流路を形成
し,冷却材は,これを炉心下方から上方向に流れる。そして,
発生した蒸気は,気水分離器及び蒸気乾燥器を通って主蒸気管
へ出て行く構造である。
iii燃料の取替は,炉心の反応度低下に応じて行い,通常,年
1回約1/4ずつ行う。
(b)i燃料集合体の個数は764とし,初装荷炉心ウラン235
)。(約3.2t,取替炉心ウラン235(約2.6t)とする
ii最大過剰増倍率は,約0.14Δkとし,停止余裕として,
最大価値を有する制御棒が1本未挿入の状態であっても,常に
炉心を臨界未満にできることとする。
また,全挿入の位置から引抜く場合の制御棒の価値は,それ
が落下しても原子炉冷却材圧力バウンダリに損傷を与えないよ
うにし,このため引抜く制御棒の最大値は0.015Δk以下
とする。
そして,ボイド反応度係数及びドップラー反応度係数は,負
となるように設計する。
(c)通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時に,燃料被覆管の加
熱及び過度の歪が生じないことを目的として,通常時の熱的制限
値を次のとおり設定する。
i限界出力比
第1サイクルより第3サイクル末期までの期間及び第4サイ
クル以降の各サイクルについて,サイクル初期から,サイクル
末期よりさかのぼって炉心平均燃焼度で1000MWd/t手
前までの期間においては1.19,それ以外の期間においては
1.26とする。
ii燃料棒最大線出力密度44.0kW/m
b燃料体
(a)i燃料体の燃料材の種類は,二酸化ウラン焼結研磨ペレット
(一部ガドリニアを含む)とし,初装荷燃料集合体平均濃縮。
度は約2.2wt%,取替燃料集合体平均濃縮度は約2.7w
t%,ペレットの初期密度は理論密度の約95%とする。
ii被覆材の種類は,ジルカロイ2(ジルカロイ-2製)とする。
本件原子炉に使用される燃料被覆管は,外径が12.5㎜,
燃料棒有効長が3.71m,燃料被覆管厚が0.86㎜,燃料
ペレットとの間隔が0.23㎜であり,燃料ペレットの大きさ
は,直径が10.6㎜,高さが11㎜である。
(b)i燃料要素(燃料棒)の主要寸法は,外径約13㎜,有効長さ
約3.7m,被覆材厚さ約0.9㎜とし,円筒形被覆管に二酸
化ウラン・ペレット(一部ガドリニアを含む)を挿入し,両。
端を密封した構造とする。
ii燃料集合体の主要仕様は,燃料集合体における燃料棒配列8
行×8列型,燃料棒ピッチ約16㎜,燃料集合体当たりの燃料
棒数63本,燃料集合体当たりのウォータロッド数1本であり,
63本の燃料棒と1本のウォータロッドを8行8列の正方形に
配列し,上端及び下端にタイ・プレートを取付ける。
そして,燃料集合体には,外側にチャンネル・ボックスを取
付け,冷却材流路を構成し,各燃料棒の間隔は,ウォータロッ
ドで上下方向を固定された7個のスペーサにより一定に保たれ
るような構造とする。
なお,ウォータロッドには,燃料ペレットは装荷されず,そ
の上部及び下部の側面に穴が開けられ,内部を冷却材が通過す
ることとし,また,チャンネル・ボックスは,燃料集合体の冷
却材流路を定めるほか,制御棒作動のガイド及び制御棒駆動時
に燃料との機械的干渉を防ぐ役割を果たすものである。
iii燃料集合体最高燃焼度約40,000MWd/t
c減速材及び反射材の種類
軽水
d圧力容器
(a)i圧力容器の主要寸法は,胴部内径約6.4m,全高(内の
り)約22m,肉厚約160㎜とし,円筒形の胴部に半球形の
底部を付した鋼製容器に,半球形の鋼製上部蓋をボルト締めす
る構造であり,給水入口ノズルなどを取付ける。
ii主要ノズル位置は,次のとおりである。
再循環水出口ノズル胴下部2箇所
再循環水入口ノズル胴下部10箇所
主蒸気出口ノズル胴上部4箇所
給水入口ノズル胴中央部6箇所
iii圧力容器の下部は,円筒スカート支持とし,その上部は,
横振防止機構で原子炉遮蔽壁及びドライウェルを経てドライウ
ェル外周の壁で支持する。
iv圧力容器の最低使用温度は,脆性遷移温度より33℃以上高
くし,また,中性子照射による脆性遷移温度の変化を監視する
ため,圧力容器内に試験片を挿入する。
(b)圧力容器の最高使用圧力は87.9㎏/cm,最高使用温度

は302℃である。
e放射線遮蔽体の構造
主要な放射線遮蔽体は,圧力容器周囲のコンクリート壁及び原子
炉格納容器(以下「格納容器」ともいう)外周の壁であり,本件。
原子炉敷地周辺の一般公衆及び本件原子力発電所従業員が受けると
予想される放射線被ばく線量が規制法等所定の許容線量を十分下回
るよう遮蔽設計を行う。
③原子炉冷却系統施設の構造等
a一次冷却設備
(a)冷却材の種類
軽水
(b)主要な機器等の構造
原子炉冷却系は,圧力容器へ冷却材を補給する復水・給水系,
冷却材を循環させる冷却材再循環系,圧力容器内で発生した蒸気
をタービンへ送る主蒸気系,蒸気タービン,復水器などからなる。
再循環ループは,再循環ポンプ及び圧力容器内に設けられたジ
ェット・ポンプにより,冷却材を原子炉内に循環させて炉心の熱
除去を行う。炉心で発生した蒸気は,圧力容器内の気水分離器及
び蒸気乾燥器を経た後,主蒸気管でタービンに導く。そして,タ
ービンを出た蒸気は,復水器で復水し,復水は,復水ポンプ,復
水浄化系及び給水加熱器を通り,給水ポンプにより給水として原
子炉に戻し,更に主蒸気管には,タービン・バイパス系を設け,
蒸気を復水器へバイパスできるようにする。
なお,復水器冷却用海水及び補機冷却用海水の取水量は,約7
8m/sであり,敷地前面に築造する防波堤内側から取水され,

復水器及び補機冷却水系統等を通過した冷却水は,放水管及び放
水路蓋渠を経て防波堤外の放水口より放出される。
b二次冷却設備
なし
c非常用冷却設備
(a)冷却材の種類
軽水
(b)主要な機器等の構造
非常用冷却設備(非常用炉心冷却系)は,工学的安全施設の一
設備であって,低圧炉心スプレイ系,低圧注水系,高圧炉心スプ
レイ系及び自動減圧系から構成する。これらの各系統は,外部電
源喪失時にも非常用電源を電源として復水貯蔵タンク又はサプレ
ッション・プールの水を炉内に注入し,又は原子炉蒸気をサプレ
ッション・プールに逃がし,原子炉圧力をすみやかに低下させる
などにより,非常用冷却設備としての多重の機能を持つ構造とす
る。
dその他
平常運転時の原子炉冷却材中のヨウ素131の濃度を0.5マイ
クロキュリー/cm以下に管理する。

④計測制御系統施設の構造等
a計装
(a)核計装については,中性子束は次の三つの領域に分けて原子
炉内で計測する。
i中性子源領域:可動形核分裂計数管方式モニター
4チャンネル
ii中間領域:可動形核分裂電離箱方式モニター
8チャンネル
iii出力領域:小形核分裂電離箱方式モニター
172チャンネル
(b)その他
原子炉施設のプロセス計測制御のため,原子炉水位,原子炉圧
力,冷却材再循環流量,給水流量,主蒸気流量,制御棒駆動水圧
などの計測装置を設ける。
b安全保護回路
安全保護回路は,原子炉スクラム,制御棒引抜きインターロック,
警報及びその他の保護動作(非常用炉心冷却系起動などを含む)。
を行わせる機能を有している。
(a)原子炉停止回路の種類
原子炉停止回路には,次の条件により原子炉をスクラムさせる
ため,2重(2チャンネル)の「1outof2」方式の
回路を設け,2チャンネル同時動作によってスクラムする。
原子炉圧力高
原子炉水位高
ドライウェル圧力高
中性子束高(中間及び出力領域モニター)
中性子計装動作不能(中間及び出力領域モニター)
スクラム・ディスチャージ・ボリューム水位高
主蒸気隔離弁閉
タービン主蒸気止め弁閉
タービン蒸気加減弁急速閉
主蒸気管放射能高
地震加速度大
手動
モード・スイッチ「停止」
所内電源喪失(原子炉緊急停止系用MGセット電源喪失)
電気油圧式制御装置(EHC)油圧低
(b)その他
安全補助回路,制御棒引抜阻止回路及び警報回路等を設ける。
c制御設備
(a)制御材の個数及び構造
原子炉の反応度制御は,制御棒の位置調整により行い,その後
備として非常用制御設備であるホウ酸水注入設備を設ける。
原子炉の出力制御は,制御棒の位置調整及び再循環流量制御の
2方式により行う。
i制御棒個数185
ii中性子吸収材ホウ素(ボロン・カーバイド粉末)
iii制御棒の構造
制御棒は,中性子吸収材を充填したステンレス鋼管(中性子
吸収棒)をステンレス鋼製のU字形シースで十字形に組み合わ
せたもので,その下端に制御棒落下速度リミッタがある。落下
速度リミッタは,制御棒が万一落下した場合でも,その落下速
度を0.95m/s以下に制限するようにしている。各制御棒
は,4体の燃料集合体の中央に,炉心全体にわたって一様に配
置する。なお,中性子吸収材部分の長さは,約3.6mである。
(b)制御棒駆動設備の構造等
制御棒駆動装置は,制御棒の位置を調整するために設ける。
i個数185
ii構造及び駆動方式
駆動方式(通常時及びスクラム時)は,ラッチ付き水圧ピス
トン・シリンダ方式である。
通常駆動時の駆動源は,制御棒駆動水ポンプにより加圧され
た駆動水であり,スクラム時の駆動源は,アキュームレータの
高圧窒素により加圧された駆動水及び通常の原子炉運転圧力に
より加圧された原子炉冷却材であり,制御棒駆動水ポンプは各
駆動機構に共用である。
iii取付箇所圧力容器底部
iv挿入時間及び駆動時間
スクラム時挿入時間(全炉心平均)
全ストロークの90%挿入まで3.5秒以下
v反応度制御能力
反応度制御能力約0.18Δk
制御棒が1本抜けている時の停止余裕は,実効増倍率として,
keff<1である。
d非常用制御設備
(a)制御材の個数及び構造
非常用制御設備として,ホウ酸水注入系を設ける。この系は,
制御棒挿入による原子炉停止が不能になった場合,手動で中性子
を吸収するホウ素(五ホウ酸ナトリウム溶液)を原子炉内に注入
するものである。
系統数1
中性子吸収材ホウ素(五ホウ酸ナトリウム溶液)
(b)主要な機器の構造等
ポンプ台数2台(内1台は予備)
ポンプ容量約10m/h/台

ポンプ揚程約860m
(c)反応度制御能力
この系は,全制御棒が挿入不能の場合でも原子炉を冷態停止す
る能力を持っている。
停止時実効倍率keff<0.95
反応度添加速度0.001Δk/㎜/台以上
(d)その他
制御棒価値ミニマイザ,再循環流量制御,圧力制御装置等を設
け,中央制御室の集中的監視と制御等を行う。
⑤原子炉格納施設の構造等
a構造
原子炉格納施設は,格納容器と原子炉建家並びにそれらの補助系
で構成する。
格納容器は,円錐台形のドライウェル及び円筒形のサプレッショ
ン・チェンバよりなる圧力抑制形であり,その基礎は直接岩盤で支
持する。
形式圧力抑制形
形状ドライウェル円錐台形
サプレッション・チェンバ円筒形
材料炭素鋼
寸法円錐頂部直径約10m
ダイアフラム部直径約25m
円筒部直径約26m
全高約47m
主要貫通部配管貫通部,電気配線貫通部,機器搬入用ハッチ,
所員用エア・ロック等
b設計圧力及び設計温度並びに漏洩率
設計圧力2.85㎏/cm


設計温度ドライウェル171℃
サプレッション・チェンバ104℃
漏洩率格納容器内空間部容積の0.5%/d以下(常温,空
気,設計圧力において)
cその他
格納容器内ガス濃度制御系,格納容器スプレイ冷却系,原子炉建
家,原子炉建家内ガス処理系,原子炉建家常用換気系等を設ける。
⑥その他の本件原子炉施設の設備等
a非常用電源設備を設ける。
b本件原子炉施設の発電所用水を確保するため,信濃川からの取水
のほか,約1000m/dの海水淡水化装置を設け,得られた淡

水は貯水設備に貯える。
⑦使用済燃料の処分方法
使用済燃料は,動力炉・核燃料開発事業団又は我が国が原子力の平
和利用に関する協力のための協定を締結している国の再処理業者にお
いて再処理を行うこととするが,国内における再処理施設の能力に余
力がある場合には,国内の再処理業者に優先的に委託することとする。
海外において,再処理を行う場合には,これによって得られるプル
トニウムは国内に持ち帰ることとし,また,再処理によって得られる
プルトニウムを海外に移転しようとするときは,政府の承認を受ける
こととする。
(3)発電用原子炉の仕組みと原子炉施設の潜在的危険性等
ア発電用原子炉の仕組み
(ア)原子炉の原理
原子炉で作られたエネルギーを直接に電力に変える直接発電などが将
来の方式として提案されているが,現在の原子力発電の仕組みは,原理
的には,火力発電におけるボイラーを原子炉に置き換えたものであって,
燃料としてウランを用い,まずウラン235の起こす核分裂の際に放出
されるエネルギーを熱に変え,その熱で高温の水蒸気を作り,その蒸気
の力でタービンを回転させて電気を起こすという点では,火力発電と全
く同じである。
発電用原子炉は,核分裂反応を制御しつつ継続的に起こさせることに
より,タービンを回転させるのに必要な熱エネルギーを発生させるため
の装置である。その中心部,すなわち炉心は,核分裂反応を起こして熱
を発生させる核燃料,核燃料物質によって新たに発生する高速の中性子
を次の核分裂を起こしやすい状態にまで減速させるための減速材,発生
した熱を取り出すための冷却材,核燃料の核分裂反応を制御するための
制御棒等から成り立っている。
発電用原子炉のうち,軽水型原子炉は,上記減速材及び冷却材の両者
の役割を果たすものとして,普通の水(軽水)を用いるものである。こ
の軽水型原子炉には,原子炉内で直接蒸気を発生させ,これをタービン
に送って発電する型(沸騰水型原子炉・BWR)と,高圧をかけること
によって原子炉内では冷却材を沸騰させることなく,高温の水のまま蒸
気発生器に導いて,そこで蒸気を発生させ,これをタービンに送って発
電する型(加圧水型原子炉・PWR)とがある。
(甲1,2,310ないし313,乙9,16ないし19)
(イ)沸騰水型原子炉(BWR)
本件原子炉は,上記(2)イのとおり沸騰水型原子炉であるが,概略別
紙1のとおりであり,本件申請に係る原子炉に用いる核燃料には,中性
子が当たると核分裂反応を起こすウラン235を数パーセント含む二酸
化ウランをペレット状に焼き固めたものが使用される。この燃料ペレッ
トは,両端を密封されたジルコニウム合金であるジルカロイ-2製の被
覆管の中に縦に積み重ねられて燃料棒を構成し,その燃料棒はまとめら
れて一つの燃料集合体を形成しており,この燃料集合体数百体(本件原
子炉の本件処分時の燃料集合体の個数は764)で炉心を構成している。
また,制御材としては,その内部に中性子を吸収する中性子吸収材が
詰められている棒状の制御棒が使用されており,この制御棒を出し入れ
することによって炉内の中性子数を調整して核分裂反応を制御している。
燃料ペレット,燃料棒,燃料集合体,制御棒の構造は概略別紙2のとお
りである。これら燃料集合体及び制御棒は,高温,高圧に耐え得る鋼鉄
製の圧力容器に収められており,圧力容器の構造は概略別紙3のとおり
である。
そして,圧力容器には,冷却材と減速材を兼ねる水が入れられており,
この水は,核分裂反応によって生じた熱によって高温の蒸気となり,そ
の蒸気は主蒸気管を通ってタービンに送られる。そして,この蒸気は,
タービンにおいて,その熱エネルギーの一部が機械的回転エネルギーに
変換され,タービンに結合された発電機により発電を行う。タービンを
回転させた蒸気は,復水器で海水により冷却されて水となり,この水が
給水管を通って圧力容器に戻され,そこで再び高温の蒸気となってター
ビンを回転させる。
また,圧力容器に冷却材再循環系設備を接続させ,炉心を循環する冷
却水の一部を強制的に再循環させるとともにその循環流量を調整するこ
とにより,発生する蒸気量すなわち出力を制御している。このように,
圧力容器内で発生した蒸気がタービン,復水器を経て水となり,再び圧
力容器に戻ってくる冷却水の循環経路を構成する設備及び上記冷却材再
循環系設備を原子炉冷却系統設備という。そして,圧力バウンダリは,
圧力容器及び原子炉冷却系統設備の一部であって,平常運転時には冷却
材を内包し,異常時には隔離弁によって他の部分と隔離し,圧力障壁を
形成する範囲の施設をいう。
(甲1,乙1ないし3,14,16ないし19,原審における証人P1の
証言,弁論の全趣旨)
イ原子炉施設の潜在的危険性
(ア)原子炉施設の潜在的危険性と安全性の確保
本件原子炉施設は,ウランの核分裂反応を制御しつつ継続的に起こさ
せることにより,タービンを回転させるのに必要な熱エネルギーを発生
させるための装置であって,内蔵するエネルギーが莫大であるから,そ
の安全性確保のためには,核分裂生成物を含む放射性物質の有する潜在
的危険性を顕在化させないよう放射性物質を確実に管理することが基本
方針となり,原子力の利用によって生ずる放射線・放射能等の影響,環
境汚染及び災害などに対する安全対策を立てることができるか否かにか
かっている(甲1,2,9,31ないし33,37,38,105,1
16,乙1ないし4,7ないし20,78,91,94,95,111,
129ないし131,136,140,141,原審における証人P2,
同P3,同P4,同P1,同P5の各証言,弁論の全趣旨。)
(イ)放射線とその影響
①すべての原子の原子核は,陽子と中性子の組み合わせでできており,
原子核が変化するときに放射線を放射する現象を放射能といい,放射
能を持った物質が放射性物質である。天然に存在する元素のうちで原
子番号が84以上のものはすべて放射性物質である。
②放射線には,アルファ線,ベータ線,中性子線等の粒子線と,ガン
マ線,エックス線のような波長の非常に短い電磁波とがある。
そして,粒子線のうち,アルファ線は,物質との相互作用が大きい
ため,透過力が極めて小さく,空気中でも数センチメートル程度しか
透過できず,薄い紙1枚でも遮蔽することができる。しかし,短い距
離で停止するということは,この短い距離の間にある物質に全部のエ
ネルギーを与えるということであるから,同じ距離の中で物質を電離
するというような作用は,他の放射線に比べてはるかに大きい。また,
ベータ線は,透過力はアルファ線よりもかなり大きいが,空気中で数
十センチメートルないし数メートルしか透過できず,数ミリメートル
ないし1㎝程度の厚さのアルミニウムやプラスチックの板で遮蔽する
ことができる。
さらに,中性子線は,低速度のものは透過力が小さく,高速度のも
のはかなり透過力が大きいが,これを水のような水素を大量に含む物
質中に通し,質量のほぼ等しい水素の原子核と衝突させて減速させる
ことなどにより,遮蔽することができる。
放射線のうち,ガンマ線やエックス線のような電磁波は,物質との
相互作用が極めて小さいため,透過力が非常に大きく,これを遮蔽す
るには一般には厚い鉛板やコンクリート壁が必要である。
放射性物質から放出される放射線の量は,時間の経過とともに減速
するが,減速速度は放射性物質の種類(核種)により異なる。放射性
物質は,天然にも存在するが,人工的にも生成され,原子炉内におい
て種々の核種の放射性物質が生成される。
③放射線は,人を含む生物の組織に対して励起ないし電離作用を及ぼ
すが,人はこれを五感により感ずることができない。放射線の被ばく
には,人体の外部に存在する放射性物質により被ばくする外部被ばく
と,何らかの経路で環境に放出された放射性物質を摂取し,人体内部
から被ばくする内部被ばくとがある。外部被ばくの場合,アルファ線
及びベータ線によっては体内器官はほとんど被ばくしないが,ガンマ
線によっては身体内部も含め,全身がほぼ均等に被ばくする。これに
対し,内部被ばくの場合,アルファ線及びベータ線によって体内器官
に集中被ばくが起こる。
④自然界には,宇宙線,地殻を構成している花崗岩,石灰岩,粘土に
含まれる放射性物質及び人が摂取する飲食物に含まれる放射性物質等
様々な起源に由来する放射線が存在し,人類はこれら自然界からの放
射線を絶えず被ばくし続けている。
自然放射線による1人当たりの被ばく線量は,地域によってかなり
の差異がある。人は,1人当たり平均して1年間で約2.4ミリシー
ベルトの自然放射線を受けている。その内訳は,宇宙線などの空間か
ら飛来してくるもの0.39ミリシーベルト,土壌から放出されるも
の0.48ミリシーベルト,日常摂取する食物を通じ体内から照射さ
れるもの0.29ミリシーベルト,それに空気中のラドンなどの吸入
により1.26ミリシーベルトである(国際連合放射線影響科学委員
会(UNSCEAR・UnitedNationsScientificCommitteeonthe
EffectsofAtomicRadiation)の2000年版レポート。また,)
我が国では,最も少ない神奈川県では年間0.81ミリシーベルト
(0.081レム,最も大きい岐阜県では年間1.19ミリシーベ)
ルト(0.119レム)と年間約0.38ミリシーベルト(0.03
8レム)の差があり,更に九州と関東との間には年間0.2ミリシー
ベルト(0.02レム)程度の差がある。また,海外では,ブラジル
のガラパリ地方では,年間約10ミリシーベルト(1レム)の自然放
射線を受けているなど,地質等によりその場所ごとの自然放射線が異
なっている。
⑤人の放射線被ばくによる障害としては,放射線を被ばくした個人に
現れる身体的障害と,その個人の子孫に現れる遺伝的障害とに分けら
れ,身体的障害は,更に,被ばく後余り長くない時期,すなわち通常
2,3週間以内に現れる急性障害と,かなり長い潜伏期間を経て現れ
る晩発性障害とがある。
急性障害は,短期間に高線量の放射線を被ばくした場合に初めて生
じるものであって,被ばく線量や被ばく部位によっても異なるが,吐
き気,倦怠感,下痢に始まり白血球減少,脱毛,発疹,水泡,急性潰
瘍等の症状を引き起こし,極端な高線量被ばくの場合には死に至るこ
ともある。すなわち,急激に高線量の放射線を全身に被ばくし,何ら
の医療措置を受けない場合には,1万ラド以上では,中枢神経の障害
のためごく短期間のうちに死に至り,400ラド程度では,主として
造血組織の障害のため,被ばくした人の半数が30日以内に死亡し,
50ないし75ラド程度では,白血球の一時的な減少が起こるが,2
5ラド以下では,臨床症状はほとんど発生しないといわれている。
晩発性障害は,短期間に高線量の放射線を被ばくしたときだけでは
なく,比較的低線量の放射線を長期間被ばくすることによっても発生
することもあり得ると考えられており,その症状としては,白血病そ
の他の癌,白内障等がある。
遺伝的障害は生殖細胞の中にある遺伝子や染色体が,物理的,科学
的その他種々の要因により突然変異あるいは異常を起こし,それが子
孫に伝えられて生じるものであり,生殖腺が放射線を被ばくした場合
には,その放射線も上記突然変異あるいは異常を起こす要因の一つに
なる可能性があるとされている。
放射線被ばくによる障害は,一般に,ガンマ線,エックス線等の放
射線による被ばく線量の総量が同じであっても,その線量を被ばくし
た期間が長ければ長いほどその影響は小さい。
ウICRP(国際放射線防護委員会)等について
(ア)ICRPは,1928年(昭和3年)に第2回国際放射線医学会
議(ICR)において,国際X線・ラジウム防護委員会の名称で設立
され,その後,1950年(昭和25年)に組織改正及び改称がなさ
れ,現在に至っている。
ICRPについては,委員長及び12名の委員で構成され,その委
員は,国際放射線医学会議への各国の代表団及びICRP自身によっ
てICRPに提出された被指名者の中から,ICRPが選出するもの
とされている。そして,同委員は,国籍によってではなく,専門分野
の適切な均衡を考え,放射線医学,放射線防護学,保健物理学,生物
学,遺伝学,生物化学及び生物物理学の各領域における著明な業績に
基づいて選出されている。また,ICRPは,専門委員会を置くこと
ができ,更に,専門委員でない専門家にも臨時の作業グループとして
協力を求めることができるものとされている。
ICRPの活動としては,その姉妹委員会である国際放射線単位・
測定委員会との密接な連携のもとに作業を行い,また,世界保健機関
(WHO)及び国際原子力機関(IAEA)と公的な関係を有し,国
際連合放射線影響科学委員会(UNSCEAR,国際連合環境プロ)
グラム,欧州協同体委員会,経済協力開発機構原子力機関,国際標準
化機構,国際電気標準会議,国際放射線防護学会等とも重要な関係を
保っている。
ICRPの方針は,適切な放射線防護方策の基礎となる基本原則を
考えることにあり,その採択に係る勧告は,各国において放射線防護
を実施に移す責任を持つ専門家に指針を与えようとするものであって,
発足以来,放射線防護に関し数々の勧告を行ってきた。
(イ)我が国においては,原子力発電所における周辺監視区域(人の居
住を禁止し,かつ,業務上立ち入る者以外の立ち入りを制限する区域。
原子炉規則1条7号,7条3号)外の許容被ばく線量,すなわち公衆
の許容被ばく線量については,許容被曝線量等を定める件(昭和35
年9月30日科学技術庁告示第21号,昭和53年12月28日同庁
告示第12号による改正前のもの。許容線量等を定める件)2条によ
り年間0.5レムと定められていたが,これは,ICRPの1958
年(昭和33年)採択の被ばく線量限度に関する勧告を尊重し定めら
れていたものである。
(ウ)放射線の量を表す方法としては,物質が吸収するエネルギーの量
を基準にする場合には,吸収線量といい,単位としてはラド(ra
d)を用い,これに対し,人体に対する影響を基準にする場合は線量
当量といい,単位としてレム(rem)を用い,レムの値は,吸収線
量(ラド)の値に放射線の性質によるちがいを表す数値である線質係
数を乗じたものであった。
そして,ICRPは,1977年(昭和52年)採択の勧告(甲1
19の①,乙46の①ないし⑦)から,レムに替わる放射線防護・放
射線管理のための単位として,シーベルト(Sv。1Sv=100r
em)を,また,ラドに替わる新しい単位としてグレイ(Gy。Gy
=100rad)を用いるようになった。さらに「許容線量」は,,
ICRPの1965年(昭和40年)採択の勧告以後において「容認
できる線量」の用語として用いられていたが,上記1977年採択の
勧告から,放射線が人体に及ぼす「非確率的影響を防止し,確率的影
響の発生確率を容認できるレベルに制限する」という放射線防護の目
標を達成するために,線量制限体系の要素として「線量当量限度」を
用いるとともに,その単位としてシーベルトを使用するようになり,
我が国も昭和63年より「許容被ばく線量」に替わり「線量当量限
度」が使われている。
(甲1,118,119の①,157,167の①②,181,乙8,
9,16,18,21,22,26,204,46の①ないし⑦,48,
59の①ないし④,60の①ないし④,61の①ないし③,62の①な
いし⑤,63の①ないし④,118,121,原審における証人P2,
同P5及び同P3の各証言,弁論の全趣旨)
(4)原子力委員会と原子炉安全専門審査会
ア本件申請を受けた内閣総理大臣は,原子力委員会委員長に対し,昭和5
0年4月1日,規制法24条2項に基づき,同日付け「東京電力株式会社
柏崎・刈羽原子力発電所の原子炉の設置について(諮問」と題する書面)
(甲57の②)により東京電力の本件申請につき同条1項各号所定の許可
の基準の適用について原子力委員会の意見を求めた。なお,内閣総理大臣
は,原子力委員会委員長に対し,昭和52年7月19日,同日付け「東京
電力株式会社柏崎・刈羽原子力発電所の原子炉の設置許可申請書の一部補
正について(通知」と題する書面(甲92の③)により本件補正を通知)
した。
イ原子力委員会は,本件申請当時,委員長及び委員6人をもって組織され
(原子力委員会設置法(昭和30年法律第188号,昭和53年法律第8
6号による改正前のもの。設置法)6条1項,委員長は科学技術庁長官)
たる国務大臣をもって充てられ(同法7条1項,委員は両議院の同意を)
得て,内閣総理大臣が任命するものであるが(同法8条1項,委員長が)
招集して(設置法11条1項,会議を開き,議決をするには委員長及び)
3人以上の委員の出席を必要とするものであり(同条2項,委員会の議)
事は,出席者の過半数で決し,可否同数のときは,委員長の決するところ
による(同条3項。また,原子力委員会の会議には,毎週1回開かれる)
定例会議のほか,必要に応じて開かれる臨時会議がある(原子力委員会設
置法施行令(昭和31年政令第4号,昭和53年9月28日政令第336
号による改正前のもの。設置法施行令)1条1項,原子力委員会議事運営
規則(昭和32年2月28日原子力委員会決定,昭和40年3月3日同委
員会決定による改正後のもの)2条。)
(顕著な事実)
ウ(ア)原子力委員会は,本件申請当時,その職務を的確に遂行していくた
め,同委員会に,原子炉に係る安全性に関する事項を調査審議するため
の原子炉安全専門審査会(設置法14条の2第1項,安全審査会)や原
子力委員会から指示された事項を調査審議する専門部会(設置法施行令
4条,原子力委員会専門部会運営規程(昭和32年7月4日原子力委員
会決定,昭和51年4月27日同委員会決定による改正前のもの)1条。
なお,安全審査会に設置される後記(ウ)の安全審査会部会とは別のもの
である)を必要の都度設け,内閣総理大臣の諮問に応じて個々の原子。
炉の安全性に関する事項について調査審議したり,原子炉の安全性につ
いての技術的基準を制定するなどした。
安全審査会は,原子炉に係る安全性に関係する事項を調査審議するた
めに原子力委員会に置かれるものであり,審査委員30人以内で組織さ
れる(設置法14条の3第1項。そして,審査委員は,学識経験のあ)
る者及び関係行政機関の職員のうちから,内閣総理大臣が任命するが
(同条2項,非常勤とされている(同条3項。また,安全審査会の))
)。会長は,審査委員の互選によって定められる(同法14条の4第1項
(イ)安全審査会は,会長が招集し(原子力安全専門審査会運営規程(昭
和36年9月6日原子力委員会決定,昭和51年7月13日同委員会決
定による改正後のもの。安全審査会運営規程)2条,議事を開くには)
審査委員の2分の1以上の出席を必要とし(同規程3条1項,決議を)
行う必要があるときは,出席した審査委員の過半数でこれを決し,可否
同数のときは,会長の決するところによる(同条2項。)
安全審査会が原子力委員会委員長への調査審議結果の報告について議
決をする必要があるときは,出席した審査委員の4分の3以上の賛成に
より,これを決するとされていた(同条3項。)
(ウ)安全審査会には,審査委員のほか,調査審議の能率の向上を図るた
め,審査委員を補助して原子炉に係る安全性に関する事項を調査するた
めの調査委員が置かれた。
そして,安全審査会には,安全審査会運営規程8条,9条(本件許可
申請時の昭和51年7月13日原子力委員会決定による改正前の同規程
は7条,8条)の運用によって,通常,各原子炉設置許可申請毎に,安
全審査会には安全審査会部会(以下「部会」という)が設置され,安。
全審査会の審査委員及び調査委員の一部がその構成員となった。部会に
おける審査の方式については,安全審査会会長が安全審査会に諮って定
めるが,実際の部会の運営は,部会全体で一種の合議的検討を行う場合
もあるし,詳細かつ効率的な審査を行うために,大別される専門分野に
応じてグループ分けをした上で,そのグループ単位で会合が開かれるこ
ともあった。
なお,部会は,安全審査会から審査方針,審査事項等の指示を受けて,
調査審議を行い,その過程において適宜,審査状況を安全審査会に報告
し,安全審査会の審議に付するものであり,また,最終的な調査審議結
果を部会報告にまとめて安全審査会に報告するものである。
(甲57の①,60の①及び③,61の①,62の①,63の①,64,
65の①②,66の①②,67の①,68,69の①②,70の①②,7
1の①②,72の①②,73の①②,74の①②,75の①②,76の①
②,77,78の①②,79の①②,80の①②,81の①②,82の①
及び④,83の①②,84の①②,85の①②,86の①②,87の①②,
88の①②,89の①②,90の①②,91,92の①,93,94の①
ないし③,乙4,101ないし104,いずれも原審における証人P1及
び同P6の各証言,弁論の全趣旨)
(5)安全審査会の審査等
ア上記(4)アのとおり内閣総理大臣から意見を求められた原子力委員会に
おいては,原子力委員会委員長が,安全審査会に対し,昭和50年5月2
0日,設置法14条の2第2項に基づき,同日付け「東京電力株式会社柏
崎・刈羽原子力発電所の原子炉の設置に係る安全性について」と題する書
面(甲60の②)により本件申請の原子炉に係る安全性に関する事項(規
制法24条1項3号のうち技術的能力に係る事項及び4号に係る事項)を
調査審議するよう指示し,それ以外の事項については,原子力委員会にお
いて直接審議した。なお,原子力委員会委員長は,安全審査会に対し,昭
和52年7月19日,同日付け「東京電力株式会社柏崎・刈羽原子力発電
所の原子炉の設置許可申請書の一部補正について(通知」と題する書面)
(甲92の②)により本件補正を通知した。
本件申請当時の安全審査会は,原子炉工学,核燃料工学,熱工学,放射
線物理学等原子炉に関する専門的分野のほか,地震学や気象学等広範な分
野から選ばれた,それぞれの分野における専門家である審査委員30名及
び調査委員28名により構成された。
イ原子力委員会委員長から上記アのとおり調査審議するよう指示を受けた
安全審査会は,本件申請に係る所要の調査審議を適切かつ効率的に行うた
め,昭和50年5月23日,第137回審査会において,部会である第1
20部会を設置した。
第120部会は,13名の審査委員と15名の調査委員とをもって構成
された。これらの委員は,主として原子炉施設を担当するAグループ,主
として周辺公衆の被ばく線量評価等環境面に係る事項を担当するBグルー
プ並びに主として地質・地盤及び地震を担当するCグループの3グループ
に分かれて,それぞれの分野における問題を各グループにおいて検討した。
また,各グループの合同会合や部会全体での会合を開いて,関連する問題
の検討を行ったほか,12回にわたって現地調査を行うとともに,適宜審
査状況を安全審査会に報告し,安全審査会における調査審議に付した。
第120部会における各会合は,昭和50年6月10日から昭和52年
8月2日までの間に,全体会合が7回,Aグループ会合が39回,Bグル
ープ会合が11回,Cグループ会合が20回,A・Bグループ会合が2回,
それぞれ開催され,第120部会は,昭和52年8月12日,部会報告書
をとりまとめて安全審査会に報告した。
ウ安全審査会は,昭和50年5月23日から昭和52年8月12日までの
間計26回にわたり,本件補正に係る本件申請について原子力委員会から
指示された事項につき調査審議した。そして,安全審査会は,第120部
会の上記イの部会報告書を基に検討を行い,昭和52年8月12日,第1
62回審査会において「本原子炉の設置に係る安全性は,十分確保し得,
るものと認める」との同日付け「東京電力株式会社柏崎・刈羽原子力発。
電所の原子炉の設置に係る安全性について」と題する安全審査報告書を決
定し,原子力委員会委員長に対して報告した。そこで,原子力委員会は,
上記安全審査報告書を踏まえた上,本件補正に係る本件申請が規制法24
条1項各号所定の許可基準に適合しているかどうかについて調査審議した
(以下原子力委員会及び同委員会に置かれた安全審査会による本件原子炉
施設の安全性に関する審査を「本件安全審査」という。。)
(甲57の①②,60の①ないし③,61の①ないし③,62の①ないし③,
63の①②,64,65の①②,66の①②,67の①②,68,69の①
②,70の①②,71の①②,72の①②,73の①②,74の①②,75
の①②,76の①②,77,78の①②,79の①②,80の①②,81の
①②,82の①ないし④,83の①②,84の①②,85の①②,86の①
②,87の①②,88の①②,89の①②,90の①②,91,92の①な
いし③,93,94の①ないし③,乙1ないし4,101ないし104,い
ずれも原審における証人P1及び同P6の各証言,弁論の全趣旨)
(6)本件安全審査の基本方針及び審査事項等
ア本件安全審査においては,本件原子炉施設が平常運転時はもとより,万
一の事故を想定した場合にも,一般公衆及び従事者の安全が確保されるよ
うに,所要の安全設計等が講じられていることを確認するために,次の事
項が審査の基本方針及び審査事項とされた。
(ア)原子炉施設が設置される場所の地盤,地震,気象,水理等の自然事
象及び交通等の人為事象によって原子炉施設の安全性が損なわれないよ
うな安全設計が講じられること。
(イ)平常運転時に放出される放射性物質による一般公衆の被ばく線量が,
原子炉の設置,運転等に関する規則等の規定に基づき,許容線量等を定
める件2条に規定する許容被ばく線量(年間0.5レム)以下に抑えら
れていることはもちろんのこと,更に,それをできるだけ少なくするよ
うな安全設計が講じられること。
(ウ)平常運転時において,従事者が許容被ばく線量を超える線量を受け
ないような放射線の防護及び管理が講じられること。
(エ)原子炉の運転に際し,異常の発生を早期に発見し,その拡大を未然
に防止するような安全設計が講じられること。
(オ)原子炉の運転に際し,機器の故障,誤操作等が発生しても,燃料の
健全性,冷却材圧力バウンダリの健全性等が損なわれないような安全設
計が講じられること。
(カ)原子炉冷却材を包含している冷却材圧力バウンダリの健全性が損な
われ,冷却材が喪失するような事故,炉心の反応度を制御している制御
系の健全性が損なわれ,反応度が異常に上昇するような事故等の発生を
仮定しても,事故の拡大を防止し,放射性物質の放出を抑制できるよう
な安全設計が講じられること。
(キ)重大事故及び仮想事故を仮定しても,その安全防護施設との関連に
おいて,一般公衆の安全が確保されるような立地条件を有していること。
(甲37,乙1ないし4,10ないし15,78,91,130,いずれ
も原審における証人P1及び同P5の各証言,弁論の全趣旨)
イ本件安全審査の方法については,次の方針がとられた。
(ア)本件安全審査は,東京電力が提出した本件補正に係る本件申請書及
びその添付資料に基づき行い,必要に応じて申請内容の補足資料及び参
考文献の提出を求め審査を行う。
(イ)立地条件の評価に際し,敷地の地質・地盤等の自然的環境及び社会
的環境については,書類による審査のほか,書類上の内容と照合するた
め,必要な事項について現地調査を実施する。
(ウ)非常用炉心冷却系の性能評価については,東京電力が行った性能評
価を審査するほか,日本原子力研究所安全解析部の協力により別途にチ
ェック計算を行い確認する。
(エ)本件安全審査においては,原子力委員会が指示した,(a)「原子炉
立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて(昭和39」
年5月27日原子力委員会決定。乙10。立地審査指針,(b)「軽水)
型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針について(昭和50年5」
月13日原子力委員会決定。乙11。ECCS安全評価指針,(c)線)
量目標値指針(乙12,(d)「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目)
標値に対する評価指針について(昭和51年9月28日原子力委員会」
決定。乙13。線量目標値評価指針,(e)「発電用軽水型原子炉施設)
に関する安全設計審査指針について(昭和52年6月14日原子力委」
員会決定。乙14。安全設計審査指針,(f)「発電用原子炉施設の安)
全解析に関する気象指針について(昭和52年6月14日原子力委員」
会決定。乙15。気象指針)を用い,更に,安全審査会が原子炉施設の
安全審査に当たり,解析条件,判断基準等を内規として運用するために
作成した,(a)「沸騰水型原子炉に用いる8行8列型の燃料集合体につ
いて(昭和49年12月25日。乙78,(b)「被曝計算に用いる」)
放射能エネルギー等について(昭和50年11月19日,(c)「沸」)
騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法について」
(昭和51年2月16日,(d)「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及)
び熱的運転制限値決定手法の適用について(昭和52年2月23日,」)
(e)「発電用軽水型原子炉の反応度事故に対する評価方法について」
(昭和52年5月20日。甲37,乙130,(f)「取替炉心検討会)
報告書(昭和52年5月20日,(g)「発電用軽水型原子炉施設の」)
安全審査における一般公衆の被曝線量評価について(昭和52年6月」
17日。乙91)の各報告書を活用して行う。
(オ)本件安全審査に際しては,先行炉の審査経過及び諸外国の審査基準
を参考として行うとともに,昭和50年2月21日に新潟県知事から,
また同年4月14日に柏崎市長から,それぞれ提出された本件原子炉敷
地の地盤の審査に関する要望書の趣旨を尊重し,さらに,昭和51年7
月5日から同年8月4日までの間に本件原子炉の設置に関して地元の意
見が文書によって提出されているので,そのうち,原子炉に係る安全性
に関する意見についてその趣旨を尊重して審査・判断する。
(甲37,乙1ないし4,10ないし15,78,91,130,いずれ
も原審における証人P1及び同P5の各証言,弁論の全趣旨)
(7)東京電力の技術的能力に係る本件安全審査の内容
ア本件安全審査において検討された事項
本件補正に係る本件申請をした東京電力に,本件原子炉施設を設置する
ために必要な技術的能力及び運転を適確に遂行するに足りる技術的能力が
あるか否かが判断された。
イ東京電力の技術的能力
東京電力には,以下のとおり,技術的能力があるものと判断された。
(ア)東京電力は,昭和41年12月,東京電力福島第一原子力発電所
。,(以下「福島第一原発」という)1号機を着工以来,2号機,3号機
4号機,5号機及び6号機の建設実績並びに同1号機,2号機,3号機
については運転実績を既に有している。そして,更に東京電力福島第二
原子力発電所(以下「福島第二原発」という)1号機についても現在。
建設中である。
(イ)本件原子炉施設の基本設計の実施,工事進捗の管理並びにこれらに
付随する対外連絡等の業務に従事する約70名の要員が継続的に,又は
一時的に関与する見込みであり,また,現地において全工程を通じ実際
の建設に従事する平均50名の要員の合計120名の技術者を確保する
としている。そして,各部門の管理者については,原子力・火力発電所
の建設,運転等に10ないし20年の経験を有する者がそのほとんどを
占め,原子力技術者に限ってみても平均約10年の経験を有している。
さらに,技術能力の養成訓練を行うことを計画している。
(ウ)本件原子炉施設の運転においては,発電所の運営管理,対外連絡等
の業務を行う約10名のほか,実際に発電所の運転管理を行う現地要員
約150名の技術者を運転開始時までに確保することとしている。
(エ)本件原子炉施設の運転に当たり,保健物理系,炉物理系,電気・機
械系及び計測制御系等の知識を有し,原子力経験も5,6年以上のもの
が管理職となる人材を確保することが見込まれる。
(オ)法令上必要な主任技術者として,原子炉主任技術者有資格者14名
及び放射線取扱主任者有資格者40名を有しており,十分確保されてい
る。
(乙1ないし4,原審における証人P1の証言)
(8)平常運転時における被ばく低減対策に係る本件安全審査の審査内容
ア本件安全審査において検討された事項
原子炉施設においては,放射性物質の有する危険性を顕在化させないた
めに,放射性物質が冷却水中に現れることを抑制し,冷却水中から原子炉
冷却系統設備外に現れる放射性物質を,その形態に応じて適切に処理し得
る放射性廃棄物廃棄設備を設け,また,原子炉施設の平常運転に伴って環
境に放出される放射性物質からの放射線による公衆の被ばく線量を適切に
評価し,それが,線量目標値指針が定める線量目標値を下回ることはもち
ろんのこと,ICRPの1958年(昭和33年)採択の勧告によるAL
AP(aslowaspracticable。すべての被ばくを実行可能(達成可能)
な限り低く保つべきこと)の指針に従って可及的にその被ばく線量値を低
減するような基本設計を行う必要があり,その上で,原子炉施設の平常運
転に伴って環境に放出される放射性物質の量と環境中における線量率等を
的確に監視することのできる放射線管理設備を設ける必要があると判断さ
れた。
そして,本件原子炉施設の平常運転時における被ばく低減対策に関し,
本件安全審査において検討された事項は,以下のとおりであり,その際,
原子力委員会が指示した(ア)線量目標値指針(乙12,(イ)線量目標値)
評価指針(乙13)の各指針が用いられ,また,安全審査会が作成した
「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被曝線量評価に
ついて(昭和52年6月17日)の報告書が活用された。」
第1に,本件原子炉施設は,その平常運転時に伴って環境に放出される
放射性物質の量を抑制できるものかどうか,すなわち,(ア)放射性物質が
冷却水中に現れることを抑制できるかどうか,(イ)冷却水中から原子炉冷
却系統設備外に現れる放射性物質を,その形態に応じて適切に処理し得る
放射性廃棄物廃棄設備が設けられているかどうかを確認する。
第2に,平常運転時における被ばく低減対策の総合的な妥当性を評価す
る観点から,本件原子炉施設の平常運転に伴って環境に放出される放射性
物質の放射線による公衆の被ばく線量が適切に評価され,かつ,その評価
値が許容被ばく線量である年間0.5レムを下回ることはもちろんのこと,
線量目標値指針が定める線量目標値,すなわち,放射性希ガスからのガン
マ線による全身被ばく線量及び液体廃棄物中の放射性物質に起因する全身
被ばく線量の評価値の合計値については年間5ミリレム,放射性ヨウ素に
起因する甲状腺被ばく線量の評価値については年間15ミリレムをそれぞ
れ下回ることとなっているかどうかを確認する。
第3に,原子炉施設の平常運転に伴って環境に放出される放射性物質の
量,環境中における線量率等をそれぞれ的確に監視することのできる放射
線管理設備が設けられているかどうかを確認する。
イ放射性物質の種類
原子炉施設の平常運転時に排気筒から放出される放射性物質には,(ア)
主として空気を構成している窒素,酸素,アルゴンが原子炉内及びその近
傍で中性子に照射されて生ずる窒素13,同16,炭素14,アルゴン4
1等の放射化生成物と,原子炉内の燃料の核分裂によって発生したクリプ
トン85,キセノン133等の核分裂生成物からなる気体状放射性物質,
(イ)常温,常圧では液体状又は固体状であるが,高温では揮発して気体状
の挙動を示し,燃料の核分裂によって生成する放射性ヨウ素(ヨウ素13
1,同133)等の揮発性放射性物質,(ウ)原子炉の冷却材中に含まれて
いる微量の不純物が原子炉内の中性子に照射されて生ずる放射化生成物及
び燃料から冷却材中に漏洩した微量の核分裂生成物から成り,塵埃等に付
着して挙動するマンガン54,コバルト58,同60,セシウム137等
の粒子状放射性物質がある。原子炉施設の平常運転時に放出される放射性
物質の放射線源としては,上記気体廃棄物のほかに,液体廃棄物中に含ま
れている放射性物質と原子炉施設に直接起因する放射線とがあり,前者は,
粒子状放射性物質と同様の発生機構によって生成するので,そこに含まれ
ている放射性核種もほぼ同様のものであるが,一般に,原子炉施設は液体
廃棄物処理施設を設けているので比較的管理しやすいとされており,後者
は,原子炉内の燃料が核分裂する際に発生する放射線と原子炉施設内に内
蔵されている放射性物質が放出する放射線であり,これによって通常原子
炉施設周辺で問題となるガンマ線についても,一般に原子炉容器,原子炉
格納施設,使用済燃料プール,固体廃棄物貯蔵倉庫等において十分遮蔽さ
れるので原子炉施設周辺に及ぼす影響は小さいとされている。
ウ一般公衆の被ばく経路
原子炉施設の平常運転時に放出される放射性物質によって,一般公衆が
被ばくする際の主要な被ばく経路としては,(ア)気体として放出された放
射性物質が空気中に拡散している間にこれから放出される放射線による外
部被ばく,(イ)気体として放出された後,地表に沈着した放射性物質から
放出される放射線による外部被ばく,(ウ)気体として放出された放射性物
質を吸入したり,これらが付着した農作物等を摂取することによる内部被
ばく,(エ)液体として放出された放射性物質から放出される放射線によっ
て遊泳中や漁業活動中に受ける外部被ばく,(オ)液体として放出された放
射性物質を取り込んだ海産物を摂取することによる内部被ばくがある。
これまでの軽水型原子炉の運転経験,放射線等に関する調査・研究によ
れば,軽水型原子炉の平常運転に伴って放出される放射性物質の中では,
量的にはクリプトン85,キセノン133等の放射性希ガスが最も多く,
放射性希ガスは,透過力の強いガンマ線を放出するため,これに被ばくす
ると,全身被ばくの可能性が生ずること,揮発性放射性物質のうち,放射
性ヨウ素は生成量が多く,物理的半減期も長いところ,放射性ヨウ素は海
藻等に濃縮したり,葉菜類に付着する等の性質があるとともに,人体内部
に取り込まれた場合には甲状腺に集まる特性があること,鉄,マンガン,
コバルト等は,気体廃棄物中にはほとんど含まれていないが,液体廃棄物
中に占める割合が多く,また,海産物中で濃縮する性質を有するため,そ
れらを取り込んだ海産物を摂取した場合には,人体に比較的大きな被ばく
を与える可能性があること,人体が被ばくすることによって受ける影響に
ついては,各臓器が個別的に被ばくする場合よりも全身にわたって被ばく
する場合の方が大きいことが知られており,このような事実から,一般的
に,一般公衆に対する上記被ばく経路のうち,(ア)の被ばく経路における
希ガスから放出されるガンマ線による外部全身被ばくが最も主要なもので,
次に,(ウ)の被ばく経路におけるヨウ素に起因する内部甲状腺被ばく及び
(オ)の被ばく経路における放射性物質による内部全身被ばくが主要なもの
であり,他の被ばく経路によるものは無視し得る程度のものであると考え
られている。
本件安全審査においては,上記のような主要な被ばく経路について,公
衆の被ばく線量を定量的に評価し,その値が十分低いものであれば,公衆
の被ばく線量は,上記以外の経路の被ばくの寄与分を考慮しても,なお低
く抑えられるとの判断に基づいて,本件原子炉施設の平常運転時における
被ばく低減対策に関する安全審査が行われた。
エ施設内での放射性物質の蓄積
原子炉の平常運転に伴い原子炉施設内に蓄積される主な放射性物質とし
ては,(ア)燃料の核分裂反応によって燃料被覆管内に生成される核分裂生
成物と,(イ)冷却水が接する機器や配管の内面等の腐食によって生成され
た腐食生成物等が中性子により放射化されることによって生じる放射化生
成物の2種類があるところ,(ア)の核分裂生成物については,後記のとお
り,本件原子炉施設において使用される燃料被覆管の健全性が維持される
ような設計となっていること,(イ)の放射化生成物については,冷却水の
水質を腐食の生じ難い清浄な状態に保つために原子炉冷却材浄化系濾過脱
塩装置,復水濾過・脱塩装置等の水質管理を行う設備が設けられているこ
とから,本件安全審査においては,本件原子炉施設は,放射性物質が冷却
水中に現れるのを抑制できるものと判断された。
オ放射性廃棄物の廃棄設備について
原子炉施設においては,多数の燃料棒のうちのごく一部のものの燃料被
覆管にピンホール等が生じる可能性があり,このピンホール等から核分裂
生成物等が冷却水中に漏洩することがある。また,冷却水が接する機器や
配管の内面等のすべてにわたって腐食を完全に防止することは困難であり,
したがって,微量ではあるが冷却水中に放射性物質が現れることは避けら
れないところ,その大部分は,原子炉冷却系統設備内に閉じ込められるが,
一部は,冷却水の清浄度を保つために行う浄化処理の過程において原子炉
冷却系統設備外に取り出され,また,復水器から抽出される空気あるいは
ポンプ,バルブ等から漏洩してくる水と共に原子炉冷却系統設備外に漏洩
する。したがって,これら原子炉冷却系統設備外に現れる放射性物質につ
いては,放射性廃棄物廃棄設備により適切な処理を行い,環境への放出を
できる限り低く抑える必要がある。
本件安全審査においては,本件原子炉施設には,以下のとおり,原子炉
冷却系統設備外に現れる放射性物質について,気体,液体,固体の各形態
に応じて適切に処理し得る放射性廃棄物廃棄設備(別紙4のとおり)が設
けられることが確認された。
(ア)気体状の放射性物質の場合
本件原子炉施設において発生する主な気体状の放射性物質としては,
①平常運転時に,復水器内の真空を保つため復水器空気抽出器により復
水器内から連続的に抽出される空気中に含まれる放射性物質,②タービ
ンの停止後比較的短時間のうちにこれを再起動させる場合に,復水器内
を真空にするために用いられる真空ポンプの運転により復水器内から間
欠的に放出される空気中に含まれる放射性物質,③ポンプ,バルブ等か
ら漏洩する冷却水の蒸気等により原子炉建家内等の空気に含まれる放射
性物質の3種類があり,これらの気体状の放射性物質には,クリプトン,
キセノン等の希ガス,空気中に浮遊する粒子状の放射性物質等がある。
本件原子炉施設の基本設計においては,上記①は,空気抽出器を通っ
た上,減衰管で約30分間減衰され,更に,粒子状放射性物質を捕捉す
るフィルタ(濾過器)で固形物が除去されたのち,希ガスを長時間貯留
してその濃度を低減させる効用を有する活性炭式希ガスホールドアップ
装置,希ガス等を拡散,希釈するための高さ約150mの排気筒を経て
排気されることになっているほか,上記②は,そのような間欠放出の回
数は少なく,1回当たりの放射性物質の放出量も少ないことから,拡散,
希釈するための上記排気筒を経て排気され,更に,上記③は,粒子状の
放射性物質を捕捉するフィルタで固形物が除去されたのち,拡散,希釈
するための排気筒を経て排気されることになっている。
(イ)液体状の放射性物質の場合
本件原子炉施設において発生する主な液体状の放射性物質としては,
①ポンプ,バルブ等からの漏洩水等のうち,放射能濃度が高く,不純物
が少ない機器ドレン廃液及び放射能濃度が低く不純物が多い床ドレン廃
液,②復水脱塩装置や放射性廃棄物廃棄設備で使用された樹脂を再生す
る際に発生する再生廃液等の放射能濃度が高く,不純物が多い化学廃液,
③発電所の従業者が使用した衣類等の洗濯により発生する廃液で,放射
能濃度が低い洗濯廃液の3種類がある。
本件原子炉施設の基本設計においては,上記①のうち機器ドレン廃液
は,収集タンクに集められ,クラッド除去装置及び濾過装置を経て放射
化生成物を含む固形分が取り除かれたのち,イオン状の不純物を取り除
くための脱塩装置を経て,復水貯蔵タンクに送られ,処理水は原子炉の
冷却水等として再使用され,上記①のうち床ドレン廃液及び上記②の化
学廃液は,収集タンクに集められたのち,蒸留して不純物を分離するた
めの蒸発濃縮装置,蒸留水中のイオン状の不純物を取り除くための脱塩
装置等を経て,処理水は原子炉の冷却水等として再使用され,蒸留した
際に残る濃縮廃液は,固体状の放射性物質として処理され,また,上記
③の洗濯廃液は,収集タンクに集められたのち,固形分を除くための濾
過装置等を経て,処理水は復水器冷却用の海水に混合,希釈し,環境へ
放出されることになっている。
(ウ)固体状の放射性物質の場合
本件原子炉施設において発生する主な固体状の放射性物質としては,
①上記(イ)の冷却水の浄化処理等のために使用される脱塩装置等から発
生する使用済樹脂,②上記(イ)の床ドレン廃液及び化学廃液の蒸発濃縮
処理の結果として残る濃縮廃液,③機器の点検や修理の際に冷却水に触
れるなどして放射性物質が付着した布切れや紙くず,気体状の放射性物
質を捕捉するために使用されたフィルタ等の雑固体廃棄物の3種類があ
る。
本件原子炉施設の基本設計においては,上記①のうち比較的放射能濃
度が低いものは,固化材と混合してドラム缶詰めする装置によってドラ
ム缶詰めされ,比較的放射能濃度が高いもの及び上記②は,貯蔵タンク
に貯蔵して放射能を減衰させた上,ドラム缶詰めされ,また,上記③は,
圧縮減容する装置を経て,ドラム缶詰めされることになっており,更に,
上記各ドラム缶は,固体廃棄物貯蔵庫に貯蔵,保管される。
カ公衆の被ばく線量の評価
原子炉施設の平常運転に伴って環境に放出された気体状及び液体状の放
射性物質は大気中や海水中において拡散,希釈するが,公衆は,この拡散,
希釈した放射性物質から放出される放射線によって被ばくしたり,更には,
この拡散,希釈した放射性物質を吸入したり,それを取り込んだ海産物等
を摂取したりすること等によって被ばくすることがあり得るが,本件安全
審査においては,本件原子炉施設の平常運転に伴って環境に放出される放
射性物質について,以下のとおり,公衆の被ばく線量の評価の妥当性の審
査を行い,その結果,上記評価は適切にされており,かつ,その評価値は
許容被ばく線量である年間0.5レムを下回ることはもちろんのこと,線
量目標値指針に定められた線量目標値をも下回るものであると判断された。
(ア)本件安全審査においては,本件原子炉施設の平常運転に伴う公衆の
被ばく線量評価方法の妥当性について以下のとおり検討し,いずれも妥
当なものと判断された。
①本件原子炉施設から平常運転時(年間稼働率80%)に大気中に放
出される気体状放射性物質のうち,a復水器から連続的に抽出される
空気中に含まれる放射性希ガスの放出率は,毎秒1.1ミリキュリー
(年間放出量約2万8000キュリー,b原子炉建家等の換気設備)
から連続的に放出される空気中に含まれる放射性希ガスの放出率は,
毎秒0.68ミリキュリー(年間放出量約1万7000キュリー,)
c真空ポンプの運転により間欠放出される放射性希ガスの1回当たり
の放出量は1000キュリー,年間の放出回数は5回,d真空ポンプ
の運転による間欠放出及び換気設備系から連続的に放出される放射性
ヨウ素の放出量は年間約5.5キュリーとそれぞれ想定されているが,
これらは,先行炉の実績を踏まえ,あるいは,先行炉の実績値(毎秒
0.3キュリー)よりも高い全希ガス漏洩率(毎秒0.4キュリー)
に基づいて計算されたものである。
また,本件原子炉施設から大気中に放出された気体廃棄物の拡散,
希釈の状況については,気象条件は,季節毎の変化を考慮して本件原
子炉施設敷地周辺における昭和46年3月から昭和47年2月までの
気象観測で得られた実測値を用いて計算し(ただし,静穏時の場合は,
風速を毎秒0.5mとし,風速毎秒0.5ないし2.0mのときの風
向出現頻度に応じて各風向きに比例分配した,線量の計算は,排。)
気筒を中心として16方位に分割した陸側10方位の周辺監視区域境
界外について行い,希ガスのガンマ線による全身被ばく線量が最大と
なる地点での線量を求めた。
②本件原子炉施設から平常運転時に海水中へ放出される液体廃棄物中
の放射性物質(トリチウムを除く)の年間放出量は,洗濯廃液中の。
約0.55キュリー,濃縮処理による発生蒸気の凝縮水中の約0.0
3キュリー,トリチウムの環境放出量は年間100キュリー以下と,
いずれも我が国における先行炉の実績等から推定されることから,液
体廃棄物等の放射性物質による全身被ばく線量及び甲状腺被ばく線量
の評価を行う際には,液体廃棄物処理系統の運用の変動を考慮して,
トリチウムを除く液体廃棄物の年間放出量を1キュリー,トリチウム
の年間放出量を100キュリーと想定した。
また,本件原子炉施設から海水中に放出された液体廃棄物の拡散,
希釈の状況については,復水器冷却水放水口に放出された液体廃棄物
は,実際はその放出後,前面海域において拡散,希釈することによっ
てその濃度は低くなるにもかかわらず,その効果を無視し,上記放水
口における濃度がそのまま用いられた。
(イ)本件安全審査においては,上記のような各種の条件を設定して,本
件原子炉の平常運転に伴う公衆の被ばく線量を計算した場合,希ガスか
ら放出されるガンマ線による全身被ばく線量が最大となる地点は,排気
筒南方約740mの周辺監視区域境界であり,その線量は年間約0.3
ミリレムであること,液体廃棄物中の放射性物質に起因する全身被ばく
線量が年間約0.2ミリレムであること,したがって,全身被ばく線量
値は合計して年間約0.5ミリレムと評価されること,また,気体廃棄
物中に含まれる放射性ヨウ素に起因する甲状腺被ばく線量が最大となる
地点は,将来の集落の形成や葉菜又は牛乳摂取による被ばく経路の存在
を考慮すると,排気筒の南約1.2㎞の敷地境界外であり,その地点に
おける気体廃棄物中の放射性ヨウ素の呼吸,葉菜及び牛乳摂取による年
間の甲状腺被ばく線量は,成人で約0.2ミリレム,幼児で約1.4ミ
リレム,乳児で約1.2ミリレムであること,液体廃棄物中に含まれる
放射性ヨウ素による甲状腺被ばく線量は,海藻類を摂取する場合,成人
で年間約0.02ミリレム,幼児及び乳児で年間約0.05ミリレムと
なり,海藻類を摂取しない場合,成人で年間約0.01ミリレム,幼児
で年間約0.04ミリレム,乳児で年間約0.03ミリレムとなること,
気体廃棄物中及び液体廃棄物中に含まれる放射性ヨウ素を同時に摂取す
る場合の甲状腺被ばく線量の最大値は幼児の場合で年間約1.4ミリレ
ムであることが確認された。そして,計算された被ばく線量の最大値は,
全身被ばく線量について年間約0.5ミリレム,甲状腺被ばく線量につ
いて年間約1.4ミリレムであり,線量目標値指針に定める全身被ばく
線量(年間5ミリレム,甲状腺被ばく線量(年間15ミリレム)の線)
量目標値を下回っており,以上の評価にとり上げられていない原子炉施
設からの直接線量及びスカイシャイン線量は,原子炉建家のコンクリー
ト壁等によって十分遮蔽され,人の住居の可能性のある敷地境界におい
て年間5ミリレム以下となることを目標に抑えられ,かつ,また,この
線量は,線源が固定されているため,距離が離れるにしたがって急激に
減衰するという性質を考慮すると,一般公衆の被ばく線量に寄与する地
点は,敷地境界近傍に限られ,他の被ばく線量として,ベータ線による
皮膚被ばく線量,海水浴中に受ける被ばく線量,大気中に放出された粒
子状放射性物質に起因する被ばく線量等があるが,これらの被ばく線量
については,一般に小さい寄与しか与えないことにかんがみ,これらに
よる線量等を考慮しても,周辺監視区域外における被ばく線量は,許容
被曝線量等を定める件所定の許容被ばく線量年間0.5レム(年間50
0ミリレム)をはるかに下回るものと判断された。
キ放射性物質の放出量等の監視
本件安全審査においては,本件原子炉施設には,以下のように,その平
常運転に伴って環境に放出される放射性物質の放出量,環境中における線
量率等をそれぞれ的確に監視することのできる放射線管理設備が設けられ
ていると判断された。
(ア)本件原子炉施設には,気体廃棄物について,活性炭式希ガスホール
ドアップ装置の前後にそれぞれ放射線量を連続的に監視する放射線モニ
ター,排気筒からの放出量を連続的に監視するために排気筒に放射線モ
ニターが設けられている。
(イ)本件原子炉施設には,液体廃棄物について,環境に放出する前に放
射性物質の濃度が十分に低いことを確認するため,いったんサンプルタ
ンクに貯留し,放射性物質の濃度をサンプリングして測定する設備,復
水器の冷却水放水路につながる排水環境に放出量を連続的に監視する放
射線モニターが設けられている。
(ウ)本件原子炉施設の周辺には,環境中の線量率等を監視するためのモ
ニタリングポスト9基が設置され,外部放射線量率を連続監視するほか,
気体廃棄物の放出管理及び発電所周辺の一般公衆の被ばく評価に資する
ために発電所敷地内に風速,日射量,放射収支量等を連続観測する設備
が設けられている。
(甲1,乙1ないし4,12,13,16,18,19,45,91,92
の①ないし④,いずれも原審における証人P1及び同P5の各証言,弁論の
全趣旨)
(9)原子炉施設の事故防止対策に係る本件安全審査の審査内容
ア本件安全審査において検討された事項
原子炉施設においては,放射性物質の有する危険性を顕在化させないた
めに,平常運転時に発生する放射性物質のうち,燃料被覆管内に存在する
核分裂生成物等を燃料被覆管内に,冷却材中に存在する核分裂生成物及び
腐食生成物等を圧力バウンダリ又はこれを含む原子炉冷却系統設備内にそ
れぞれ閉じ込め,異常時には,前者を燃料被覆管内に,後者を圧力バウン
ダリにそれぞれ閉じ込め,これらが環境へ放出されないように防止する必
要があり,そのためには,燃料被覆管や圧力バウンダリ等の健全性が損な
われるおそれのある事態が発生しないような対策を講じる必要があり,具
体的には,まず,燃料被覆管や圧力バウンダリ自体における異常の発生を
防止することが基本となり(異常発生防止対策,次に,上記異常が発生)
した場合においては,それが拡大したり,更には放射性物質を環境に異常
に放出するおそれのある事態にまで発展拡大することを防止することが必
要となり(異常拡大防止対策,また,仮に放射性物質を環境に異常に放)
出するおそれのある事態が発生した場合においてもなお,放射性物質の環
境への異常な放出という結果を防止する(放射性物質異常放出防止対策)
といういわゆる多重防護の考え方に基づいた各種の事故防止対策が原子炉
施設の安全性を確保するために講じられる必要があると判断された。
そして,本件原子炉施設の事故防止対策に関し,本件安全審査において
検討された事項は,以下のとおりであり,その際,原子力委員会が指示し
た(ア)ECCS安全評価指針(乙11,(イ)安全設計審査指針(乙1)
4)の各指針が用いられ,また,安全審査会が作成した(ア)「沸騰水型原
子炉に用いる8行8列型の燃料集合体について(昭和49年12月25」
日,(イ)「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手)
法について(昭和51年2月16日,(ウ)「沸騰水型原子炉の炉心熱」)
設計手法及び熱的運転制限値決定手法の適用について(昭和52年2月」
23日,(エ)「発電用軽水型原子炉の反応度事故に対する評価方法につ)
いて(昭和52年5月20日,(オ)「取替炉心検討会報告書(昭和5」)」
2年5月20日)の各報告書が活用された。
(ア)異常発生防止対策
本件原子炉施設は,燃料被覆管や圧力バウンダリ自体における異常の
発生を防止することができるかどうか,これらの健全性に影響を与える
他の機器等の異常の発生を防止することができるかどうか,具体的には,
①燃料の核分裂反応を確実かつ安定的に制御することができるかどうか,
②核分裂生成物等を閉じ込めるべき燃料被覆管は,熱的,機械的,化学
的影響によってその健全性が損なわれることのない余裕のあるものかど
うか,③放射性物質を閉じ込めるべき圧力バウンダリは,機械的,化学
的影響によってその健全性が損なわれることのない余裕のあるものかど
うか,④燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそ
れのある設備は,これらに起因する異常の発生を防止し得る信頼性が確
保されるかどうかを確認する。
(イ)異常拡大防止対策
本件原子炉施設は,異常が発生した場合においても,それが拡大した
り,更には放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態にまで
発展することを防止できるかどうか,具体的には,①燃料被覆管及び圧
力バウンダリ並びにこれらの健全性に影響を及ぼすおそれのある設備に
異常が発生した場合,所要の措置が採れるよう,その異常の発生を早期
にかつ確実に検知し得るかどうか,②燃料被覆管及び圧力バウンダリの
各健全性に影響を及ぼすおそれのある設備に発生した異常が大きなもの
であり,それに対し,迅速な措置を講じなければ燃料被覆管及び圧力バ
ウンダリの各健全性が損なわれるおそれのある場合に備え,所要の安全
保護設備が設置されるかどうか,③安全保護設備は,いずれも確実に所
期の機能を発揮し,信頼性が確保されるかどうか,④安全保護設備等の
設計の総合的な妥当性に関する解析評価(原子炉施設の寿命期間中にそ
の発生が予測される代表的な起因事象をいくつか想定し,その評価結果
が厳しくなるような前提条件を設定して行う解析評価,以下「運転時の
異常な過渡変化解析」という)によっても,燃料被覆管及び圧力バウ。
ンダリの各健全性を確保できることとなっているかどうかを確認する。
(ウ)放射性物質異常放出防止対策
本件原子炉施設は,放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある
事態が発生した場合においても,放射性物質の環境への異常な放出とい
う結果を防止し,公共の安全を確保することができるかどうか,具体的
には,①圧力バウンダリを構成する配管の破断等が発生する場合に備え,
所要の安全防護設備が設置されるかどうか,②安全防護設備は,いずれ
も確実に所期の機能を発揮し,信頼性が確保されるかどうか,③安全防
護設備等の設計の総合的な妥当性に関する解析評価(原子炉施設におい
て現実に発生する可能性は極めて少ないが,あえて放射性物質を環境に
異常に放出するおそれのある事態をもたらす代表的な起因事象をいくつ
か想定し,その評価結果が厳しくなるような条件設定して行う解析評価。
以下「事故解析」という)によっても,放射性物質の環境への異常な。
放出が防止できるかどうかを確認する。
イ異常発生防止対策について
本件安全審査においては,以下のとおり,本件原子炉施設は,その基本
設計において,燃料被覆管や圧力バウンダリ自体における異常の発生を防
止するとともに,これらの健全性に影響を与える他の機器等の異常の発生
を防止するところの異常発生防止対策が講じられるものと判断された。
(ア)燃料の核分裂反応の確実かつ安定的制御
燃料被覆管や圧力バウンダリの健全性を維持し,原子炉における異常
の発生を防止するためには,まず,燃料の核分裂反応を確実に,かつ安
定的に制御する必要があるところ,本件原子炉施設において使用される
燃料の濃縮度(燃料中の全ウランに対するウラン235の占める重量の
割合)は,平均で約2.2%と低濃縮度のものであり,また,本件原子
炉は,軽水型原子炉であって,核分裂反応の割合が増大して燃料及び冷
却材の各温度が上昇すれば,それに伴って核分裂反応が抑制されるとい
う性質,すなわち,核分裂反応に対して固有の自己制御性を有すること
から,燃料の制御不能な核分裂反応が生ずることはない仕組みになって
いるほか,本件原子炉施設には,燃料の核分裂反応を安定的に制御する
反応度制御系(制御棒,再循環流量制御系等からなる原子炉出力制御)
設備が設けられている。本件安全審査においては,上記諸点が確認され
たとして,本件原子炉施設は,燃料の核分裂反応を確実に,かつ安定的
に制御することができるものと判断された。
(イ)燃料被覆管の健全性の維持
本件原子炉に使用される燃料被覆管の上端には約30㎝の空間(プレ
ナム)が設けられており,ここに,核分裂で生成されたガス状の生成物
を溜めて,被覆管内の圧力が過度にならないようにしてある。本件原子
炉稼働中は,燃料ペレットの中心部の温度は,約1830℃に達するが,
燃料ペレットの熱伝導率が低いため,燃料ペレットの表面温度は約50
0℃,燃料被覆管最高温度は約380℃に止まる。
燃料ペレットを密封し,核分裂生成物等を閉じ込めている燃料被覆管
は,損傷を防止し,その健全性を維持するために余裕をもった設計が行
わなければならないが,燃料被覆管を損傷させる要因として,①核分裂
反応によって発生する熱に比べて除去される熱が少ないために燃料被覆
管の温度が上昇し,燃料被覆管が焼損すること,②燃料ペレットと燃料
被覆管との相対的な熱膨張差によって生じるひずみにより燃料被覆管が
機械的に損傷してしまうこと,③燃料ペレットから浸出した,主として
ガス状の核分裂生成物等による内圧や冷却材による外圧等により燃料被
覆管が機械的に損傷すること,④燃料被覆管が冷却材中の不純物等によ
り化学的腐食を起こし損傷すること等が挙げられる。
本件原子炉施設においては,定格出力(電気出力約110万kW)で
運転等における最小限界出力比が,燃料被覆管を焼損させないための限
界値1.07を十分に上回る1.19以上に維持し得るように設計され,
燃料被覆管の焼損防止策が施されている。また,燃料ペレットと燃料被
覆管の熱膨張差は,平常運転時における燃料の単位長さ当たりの発熱量
(線出力密度)の大小に依存するところ,発熱量は,燃料被覆管が損傷
を起こすおそれの生じる約83kW/mを十分に下回る約44kW/m
以下に抑えられており,本件原子炉施設には,燃料ペレットとの熱膨張
差による燃料被覆管の機械的損傷防止策が施されている。さらに,本件
原子炉施設において使用される燃料被覆管が十分な強度をもって設計さ
れ,内圧や外圧等による燃料被覆管の機械的損傷防止策が施され,また,
燃料被覆管には耐食性に優れた金属(ジルカロイ-2)が使用されるこ
とから,燃料被覆管の化学的腐食による損傷防止策も施されている。
本件安全審査においては,上記諸点が確認されたとして,本件原子炉
施設の燃料被覆管は,熱的,機械的,化学的影響によってその健全性が
損なわれることのない,余裕のあるものが使用されると判断された。
(ウ)圧力バウンダリの健全性の維持
燃料被覆管とともに放射性物質を閉じ込める重要な機能を担う圧力バ
ウンダリも,その健全性を維持することのできる余裕をもった設計が行
わなければならないが,圧力バウンダリを損傷させるに至る要因として,
①圧力容器内の圧力等が過大となって圧力バウンダリが機械的に損傷す
ること,②圧力バウンダリ自体が核分裂反応による中性子照射を受け続
けることにより脆性破壊を起こすこと,③圧力バウンダリが冷却材中の
不純物等により化学的腐食を起こして損傷すること等が挙げられる。
本件原子炉施設においては,圧力容器の設計圧力が約88㎏/cm

に設定され,圧力容器内の圧力を圧力制御装置によって自動的に約71
㎏/cmに保つように設計されており,圧力バウンダリの機械的損傷

の防止策が施され,また,①脆性破壊防止を十分考慮した延性の高い材
料が使用され,②圧力容器内に脆性遷移温度の変化を知るための試験片
が取り付けられ,③圧力容器の最低使用温度を脆性遷移温度より33℃
以上高くすることができるように設計されており,圧力容器の脆性破壊
防止策も施されている。さらに,本件原子炉施設においては,①必要に
応じて,耐食性に優れた材料であるステンレス鋼が使用され,②腐食の
要因となる冷却材中の塩素濃度,pH値等が管理されているなど,冷却
材について,適切な水質管理ができるように設計されており,圧力バウ
ンダリの化学的腐食による損傷防止策が施され,また,圧力バウンダリ
を構成する機器及び配管は,運転開始後の検査によって,その健全性を
確認できるように設計されている。
本件安全審査においては,上記諸点が確認されたとして,本件原子炉
施設の圧力バウンダリは,機械的,化学的影響によってその健全性が損
なわれることのない,余裕のあるものであると判断された。
(エ)燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれの
ある設備の信頼性の確保
燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれのあ
る設備は,信頼性が確保され,原子炉が安定して運転し得るだけの余裕
のある設計がされなければならないが,燃料被覆管及び圧力バウンダリ
の各健全性に影響を及ぼすおそれのある設備としては,燃料棒を支持す
る炉心支持構造物等の圧力容器内部の構造物,原子炉冷却系統設備,原
子炉出力制御設備等があるが,これらの設備については,①性能や強度
等に余裕をもった設計とし,また,②誤操作防止のため,運転員の操作
に対する適切な配慮をするとともに,③必要な場合には自動制御装置を
設置する必要がある。
本件原子炉施設の基本設計においては,上記各設備がいずれも性能や
強度等に十分な余裕をもって設計され,①原子炉冷却系統設備や原子炉
出力制御設備等に,各設備の状態を正確に把握することができるように,
圧力,温度,流量等を測定する計測装置が設けられ,②原子炉出力制御
設備には,運転員が誤って制御棒を引き抜こうとしても同時に2本以上
引き抜けなくする等のインターロックが掛かる装置が設けられており,
誤操作の防止策が講じられている。さらに,本件原子炉施設の基本設計
には,平常運転中タービン入口の蒸気加減弁を自動的に作動させること
により圧力容器内の圧力を一定に保持する圧力制御装置,並びに主蒸気
流量,給水流量及び原子炉水位の3要素により圧力容器内の水位を自動
的にあらかじめ設定された値に保持する水位制御装置が設けられるなど,
原子炉の運転が正常な状態からずれた場合,これを自動的に修正する自
動制御装置が設けられている。
本件安全審査においては,上記諸点が確認されたとして,本件原子炉
施設における燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼす
おそれのある設備は,信頼性が確保され,原子炉は安定して運転し得る
ものと判断された。
ウ異常拡大防止対策について
本件安全審査においては,以上のとおり,本件原子炉施設について異常
発生防止対策が講じられていると判断されたが,それにもかかわらず異常
が発生した場合に備えて,以下のとおり,本件原子炉施設は,その基本設
計において,異常が拡大したり,更には放射性物質を環境に異常に放出す
るおそれのある事態にまで発展することを防止する対策が講じられている
かどうかが検討され,その結果,上記対策が講じられていると判断された。
(ア)異常発生の早期かつ確実な検知
燃料被覆管及び圧力バウンダリ並びにこれらの健全性に影響を及ぼす
おそれのある設備に異常が発生した場合に所要の措置が採れるよう,異
常の発生を早期に,かつ確実に検知する必要があるが,本件原子炉施設
には,燃料被覆管の損傷を検知するために,冷却材中の放射能レベルを
測定監視する計測装置,圧力バウンダリを構成する機器等からの冷却材
の漏洩を検知する漏洩監視装置,原子炉の出力や原子炉冷却系統設備等
の圧力,温度,流量等を測定監視する計測装置等が設置され,異常の発
生を検知した場合には,原子炉の停止等所要の措置が採れるように,直
ちに警報を発する警報装置が設けられている設計である。
本件安全審査においては,上記諸点が確認されたとして,本件原子炉
施設は,異常の発生を早期にかつ確実に検知し得るものと判断された。
(イ)安全保護設備の設置
燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれのあ
る設備に発生した異常が大きなものであり,それに対し,迅速な措置を
講じなければ燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性が損なわれるお
それのある場合に備え,所要の安全保護設備が設置される必要があるが,
本件原子炉施設の基本設計においては,①原子炉冷却系統設備等に何ら
かの異常が発生し,圧力容器内の内圧の上昇や水位の低下等が生じた場
合に,必要に応じて原子炉を緊急に停止させるために全制御棒が自動的
に,かつ瞬間的に挿入される原子炉緊急停止装置が設けられ,②給水系
による圧力容器への給水が停止した場合に,自動的に圧力容器へ給水す
ることにより,圧力容器内の水位を維持するとともに原子炉停止後も残
存する炉心の崩壊熱等を除去するための原子炉隔離時冷却系設備等が設
けられ,更に,③圧力バウンダリ内の圧力が過度に上昇するような異常
が生じた場合に,圧力バウンダリ内を減圧する逃し安全弁が設けられて
いる。
本件安全審査においては,上記諸点が確認されたとして,本件原子炉
施設には,燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすお
それのある異常に備え,所要の安全保護設備が設置されるものと判断さ
れた。
(ウ)安全保護設備の信頼性の確保
本件原子炉施設においては,①安全保護設備がいずれも十分な性能,
強度等を有するように設計され,②安全保護設備のうち原子炉緊急停止
装置については,上記装置用の電源が何らかの原因で喪失した場合にお
いても自動的に制御棒が炉心内に挿入され,原子炉を停止させる能力を
有するように設計されるとともに,上記装置を作動させる回路は多重性
と独立性とを有するように設計されており,また,全制御棒のうちの最
大反応度価値を有する制御棒1本が完全に引き抜かれている状態を仮定
した場合においても,その他の制御棒を挿入することによって原子炉を
停止する能力を有するように設計され,③原子炉隔離時冷却系設備等に
ついては,外部電力を用いず,圧力容器内で炉心の崩壊熱により発生す
る蒸気の一部を用いてタービン駆動のポンプを作動させることにより,
原子炉停止後の崩壊熱等の除去及び圧力容器内の水位の維持を行う能力
を有するように設計されている。さらに,④主蒸気系の安全弁について
は,構造が簡単で信頼性が高く,かつその開閉動作について電源等を一
切必要としないバネ式のものが使用され,⑤安全保護設備は,その信頼
性を常に保持するため,運転開始後もその性能が引き続き確保されてい
ることを確認するための試験を行えるように設計されている。
本件安全審査においては,上記諸点が確認されたとして,本件原子炉
施設に設置される安全保護設備は,いずれも確実に所期の機能を発揮し
得ると判断された。
(エ)安全保護設備等の設計の総合的な妥当性の解析評価
本件原子炉施設の安全保護設備は,以上のとおり,いずれも信頼性が
確保されるものと判断されたが,本件安全審査においては,更に,以下
のとおり,運転時の異常な過渡変化解析が行われ,安全保護設備等の設
計の総合的な妥当性が審査された。
すなわち,具体的には,上記異常な過渡変化として,本件原子炉施設
の寿命期間中にその発生が予想される代表的な異常事象である①再循環
系の過渡変化(再循環ポンプ1台軸固着,再循環ポンプトリップ,再循
環流量制御器誤作動,再循環ループ誤作動,②給水系の過渡変化(給)
水制御器故障,給水加熱喪失,全給水流量喪失,③主蒸気系の過渡変)
化(発電機負荷遮断,タービン・トリップ(タービン主蒸気止め弁閉
鎖,主蒸気隔離弁閉鎖,圧力制御装置の故障,逃し安全弁の開放,))
④制御棒系の過渡変化(起動時における制御棒引抜,出力運転中の制御
棒引抜,⑤その他の過渡変化(高圧スプレイ系の誤起動,外部電源喪)
失)を想定し,これらの事象について,安全保護設備のうち最もその評
価結果が厳しくなるような機器の一つが単一の事象に起因して故障し
(ただし,単一の事象に起因して必然的に起こる多重故障を含む,。)
その機器の有する安全上の機能が発揮されないこと(以下「単一故障」
という)を想定するなどの厳しい前提条件を設定して行われた解析結。
果が検討された。
その結果,最小限界出力比は,最も厳しい過渡現象である給水加熱喪
失時及び発電機負荷遮断(タービン・バイパス弁不作動)時でも,限界
値1.07を下回ることがないこと,燃料の線出力密度が最も厳しくな
る出力運転中の制御棒引抜時においても,線出力密度は,約56kW/
mであり,燃料被覆管の1%塑性歪に対応する線出力密度を下回ってい
ること,急激な反応度増加を伴う過渡現象としてとり上げた起動時の制
御棒引抜の場合の燃料ペレット最大エンタルピも許容設計限界値を下回
っていることから,いかなる運転時の異常な過渡変化時においても,燃
料被覆管の許容設計限界を超えることはないと判断され,また,早期炉
心において原子炉圧力が最大となる発電負荷遮断(タービン・バイパス
弁不作動)時の,最大圧力は,79.8㎏/cmであり,平衡炉心末

期のスクラム特性の劣化を考慮しても,最大圧力は,80.1㎏/cm
に抑えられ,これらの数値は設計圧力の1.1倍の圧力(96.7㎏

/cm)を下回っていることから,圧力バウンダリの健全性が保たれ

ていると判断された。
本件安全審査においては,上記諸点が確認された結果,本件原子炉は,
沸騰水型原子炉がもつ自己制御性と種々の安全保護機能の動作があいま
って,運転中に起こる異常な過渡変化を安定的に制御し,燃料被覆管及
び圧力バウンダリの健全性を保持できることが確認された。
(オ)タービン・トリップの解析評価
タービン主蒸気止め弁が閉鎖すれば,主蒸気の遮断により原子炉圧力
が上昇し,ボイド(気泡)が潰れることによる正の反応度投入によって
中性子束は増加する。
しかし,タービン主蒸気止め弁閉スクラムによる負の反応度投入によ
って中性子束の増加が抑えられ,また,逃し安全弁の作動によって圧力
上昇が抑制され,事象は収束する(乙3の10-36ないし39頁。)
この過渡変化の解析に当たっては,評価結果を厳しくするため,定格
出力の約105%での運転を仮定し,また,タービン・バイパス弁が作
動しないと仮定するなどの前提条件を設定した(乙3の10-37ない
し39頁。)
その解析評価によれば,高出力運転中のタービン・トリップ時におい
ても最小限界出力比が許容限界値を下回ることがないこと,また,表面
熱流束の最大値は定格値の108%にとどまり,燃料の線出力密度は燃
料被覆管の1%円周方向塑性歪に対応する線出力密度を下回っているこ
と,原子炉冷却材圧力バウンダリの最高圧力が,本件原子炉冷却材圧力
バウンダリの最高使用圧力を超えることはないとされていることなどか
ら,燃料被覆管及び原子炉冷却材圧力バウンダリ等の健全性は保持され
るとの評価結果は,妥当なものと判断された(乙3の10-37ないし
39頁,乙4の39,40,42,44頁。)
(カ)再循環流量制御系の誤動作
再循環流量制御系の誤動作においては,炉心流量の増加に伴い,ボイ
ドが減少し,中性子束が増加して出力が増加するが,中性子束の増大に
より,中性子束高スクラム信号が発生して,原子炉はスクラムし,事象
は収束する(乙3の10-25ないし27頁。)
この過渡変化の解析に当たっては,評価結果を厳しくするため,原子
炉は自動流量制御範囲の下限で運転中であり,主制御器の誤作動により
最大となる毎秒11%の流量増加率の増加要求信号が発生した場合であ
ると仮定するなどの前提条件を設定した(乙3の10-26頁。)
その解析評価によれば,再循環流量制御系の誤動作時においても,最
小限界出力比は許容限界値を下回ることはないこと,表面熱流束は定格
値の約80%にとどまること,また,原子炉圧力はわずかに上昇するに
とどまり,原子炉冷却材圧力バウンダリに係る圧力は,最高使用圧力を
大きく下回るとされていることから,燃料被覆管及び原子炉冷却材圧力
バウンダリ等の健全性を保持するとの評価結果は妥当なものと判断され
た(乙3の10-26・27頁,4の39ないし41,44頁。)
エ放射性物質異常放出防止対策について
本件安全審査においては,以上のとおり,本件原子炉施設について異常
発生防止対策及び異常拡大防止対策がそれぞれ講じられているものと判断
されたが,それにもかかわらず,放射性物質を環境に異常に放出するおそ
れのある事態が発生した場合に備えて,以下のとおり,放射性物質の環境
への異常放出という結果を防止する対策が講じられているかどうかが検討
され,その結果,上記対策が講じられていると判断された。
(ア)安全防護設備の設置
本件原子炉施設の基本設計には放射性物質を環境に異常に放出するお
それのある事態の発生に備えて,①別紙5のとおり,燃料被覆管の重大
な損傷を防止するに十分な量の冷却材を炉心に注入するための高圧炉心
スプレイ系一系統,自動減圧系一系統,低圧炉心スプレイ系一系統及び
低圧注水系3系統からなるECCS,②圧力バウンダリから放出される
放射性物質を閉じ込めるための高い気密性(漏洩率は,1日当たり0.
5%以下)を有する格納容器,③圧力バウンダリから高温の蒸気等が放
出された場合に格納容器の健全性を確保するため,格納容器内の雰囲気
(格納容器内部の空間の状態)を冷却,減圧し,更に,上記蒸気中に浮
遊している放射性物質を洗い落とす格納容器スプレイ冷却系設備,④格
納容器から原子炉建家内に漏洩した放射性物質を環境に異常に放出させ
ないための放射性物質除去フィルタ(設計上のヨウ素除去率99%以
上)等からなる非常用ガス処理系設備等が設けられている。
本件安全審査においては,上記諸点が確認されたとして,本件原子炉
施設には,圧力バウンダリを構成するいかなる配管の破断等の異常を想
定しても,放射性物質を環境に異常に放出することを防止し得る安全防
護設備が設置されるものと判断された。
(イ)安全防護設備の信頼性
①本件原子炉施設に設置される安全防護設備は,いずれも十分な性能,
強度等を有するように設計されるとともに,定期的な試験,検査を実
施できるように設計されていると認められた。
②ECCSは,炉心への注水機能を有する高圧炉心スプレイ系一系統,
低圧炉心スプレイ系一系統及び低圧注水系3系統,並びに原子炉の減
圧機能を有する自動減圧系一系統から構成されているところ,これら
の各系統は,外部電源が喪失した場合に備えて,非常用電源により作
動させ得るように設計され,注水機能を有する系統については,低圧
炉心スプレイ系一系統及び低圧注水系一系統(区分Ⅰ,低圧注水系)
二系統(区分Ⅱ,高圧炉心スプレイ系一系統(区分Ⅲ)の独立した)
3区分に分離され,それぞれ一台のディーゼル発電機に,また,自動
減圧系については蓄電池に接続されている。そして,中小口径破断時
には,区分Ⅲが作動するが,仮にこの区分が作動しない場合でも自動
減圧系が作動すると共に,これと連携して区分Ⅰ及び区分Ⅱの2区分
が作動し,大口径破断時には,区分Ⅰ,区分Ⅱ及び区分Ⅲの3区分が
作動し,いずれも1区分の不作動があっても対処できるなど,これら
の系統は,圧力バウンダリを構成するいかなる配管の破断の際にも,
上記3区分のうち1区分の系統の不作動があっても対処できる設計と
認められた。
すなわち,a想定される配管破断等による原子炉冷却材喪失に対し
て,燃料及び燃料被覆管の重大な損傷を防止でき,かつ,燃料被覆管
の金属と水との反応を十分小さな量に制限できる設計であること,b
非常用所内電源系のみの運転下で単一故障を仮定しても,系統の安全
機能が達成できるように,独立性を有する設計であること,c定期的
に試験及び検査ができるとともに,その健全性及び多重性の維持を確
認するため,独立に各系の試験及び検査ができる設計であることなど
が確認された結果(乙3の8-100・101頁,本件原子炉施設)
のECCSは,確実に所期の機能を発揮し,信頼性が確保されるもの
と判断された(乙4の32,33頁。。)
③格納容器は,脆性破壊を防止するため,最低使用温度より17℃以
上低い脆性遷移温度を有する材料が使用され,更に,冷却材喪失事故
時に格納容器の隔離機能を確保するため,格納容器を貫通する配管の
うち閉鎖を要求されるものについて隔離弁が設けられていることが認
められた。
④格納容器スプレイ冷却系設備及び非常用ガス処理系設備は,いずれ
も十分な性能を有する互いに独立した二つの系統が設けられ,かつ,
外部電源が喪失した場合に備えていずれもディーゼル発電機等の非常
用電源により作動させ得るように設計されていると判断された。
⑤本件安全審査においては,上記諸点が確認されたとして,本件原子
炉施設に設置される安全防護設備は,いずれも確実に所期の機能を発
揮し得るものと判断された。
(ウ)安全防護設備等の設計の総合的な妥当性の解析評価
本件原子炉施設の安全防護設備は,以上のとおり,いずれも信頼性が
確保されるものと判断されたが,本件安全審査においては,更に,以下
のとおり,あえて放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態
の発生を想定した場合の事故解析が行われ,安全防護設備等の設計の総
合的な妥当性が審査された。
すなわち,具体的には,①反応度事故として,制御棒落下事故,②圧
力バウンダリにある機器の破損,配管の破断によって引き起こされる事
故として,冷却材喪失事故,③圧力バウンダリ外にある機器の破損,配
管の破断等によって引き起こされる事故として,主蒸気管破断事故,④
機器取扱事故として,燃料取扱事故,⑤放射性廃棄物廃棄施設における
事故として,活性炭式希ガスホールドアップ装置破損事故を想定し,こ
れらの事象について,単一事故を過程(仮定)した上で,評価結果が厳
しくなるような前提条件を設定して行われた解析結果が検討された。
なお,冷却材喪失事故については,炉心の冷却にとって最も厳しい結
果となる定格出力の約105%での運転中に,冷却材再循環系配管の1
本が瞬時に完全に破断し,冷却材再循環系配管の破断と同時に外部電源
が喪失し,かつ,事故時に作動が要求されているECCSに動的機器の
単一故障(低圧炉心スプレイ系の非常用ディーゼル発電機の故障)が起
こるなどと仮定し,解析結果を厳しくするための前提条件を設定したと
),ころ(乙2の10-3-19頁,①燃料被覆管の延性が極度に失われ
炉心の冷却可能形状を保持し続けることができなくなるのは,燃料被覆
管の最高温度が1200℃を超えた場合,又は燃料被覆管の延性を失わ
せる全酸化量が酸化前の燃料被覆管の厚さの15%を超えた場合である
が,燃料被覆管の最高温度は約886℃であるので,燃料被覆管の損傷
はなく,燃料被覆管の破裂に至るような周方向応力も生じないこと,ま
た,燃料被覆管における全酸化量は,酸化前の燃料被覆管の厚さに対し
て最大約0.3%と小さいことから燃料被覆管の延性は失わないことな
どによって燃料棒は冷却可能な形状に維持され,燃料の冷却は確保され
ること,②破断した配管から放出される冷却水及び水-ジルコニウム反
応により発生した水素により原子炉格納容器内の圧力は上昇するものの,
本件原子炉格納容器の設計圧力を超えることはないことなどから,EC
CS,原子炉格納容器等の設計は妥当なものと判断された(乙4の46
ないし48頁。)
その結果,本件安全審査においては,事故事象の分類,代表事故の選
定は,事故の発生原因,事故経過及び結果からみて妥当なものであり,
本件原子炉施設は,万一,放射性物質を環境に異常に放出するおそれの
ある事態が発生しても,放射性物質の環境への異常な放出を防止できる
ものとなっていることが確認され,本件原子炉施設の安全防護設備等の
設計は,総合的にみて妥当なものであると判断された(乙2の10-3
-1ないし5,62ないし90頁,乙4の44ないし49頁。)
(甲30,33,35,37,38,41,45,48,49,乙1ない
し4,9,11,14,16,19,20,30の①②,31ないし37,
原審における証人P1の証言,弁論の全趣旨)
(10)想定される飛来物に対する安全審査
ア安全設計審査指針(乙14)においては「指針5飛来物等に対する,
設計上の考慮」として「安全上重要な構築物,系統及び機器は,想定さ,
れる飛来物,配管のむち打ち又は流出流体の影響等から生じるおそれのあ
る動的影響,熱的影響又は溢水によって原子炉の安全を損なうことのない
設計であること」とされ,原子力委員会が当該指針に付記した「解説」。
によれば「飛来物」には「航空機の墜落」が含まれることが明記されて,
いる(乙14,弁論の全趣旨。)
イ東京電力は,本件補正(乙3)において「航空機落下については,当,
発電所近くに飛行場がなく,発電所上空の航空機は巡航状態であり,巡航
中の航空機落下は考慮する必要がない(乙3の8-47頁)とした。」
(乙3。)
ウこれを受けて本件安全審査においては「航空関係については,敷地周,
辺に飛行場はなく,最寄りの空港は,新潟空港で敷地から約75㎞離れて
いる。敷地の東約5㎞及び西約20㎞離れた位置の上空にはそれぞれ新潟
-名古屋間及び新潟-小松間を結ぶ国内線の航空路があり,敷地上空は前
者の保護空域とされている。保護空域は,計器誤差,風による影響等によ
り航空機が指定のコースからずれることを考慮して,航空機を保護するた
め設けられる空域であるので,原子炉施設上空を航空機が飛行することは
極めて稀であると考えられる。さらに,保護空域となっている本敷地上空
を飛行する民間機の航空便数,機種等についての調査結果を考慮すると航
空機の墜落による原子炉施設への影響については確率的に見て考慮する必
要はないと判断する」とした(乙4の26及び27頁。。)
(11)原子炉施設の地質・地盤及び地震に係る本件安全審査の審査内容
立地審査指針(乙10)は,安全審査会が,陸上に定置する原子炉の設置
に先立って行う安全審査の際,万一の事故に関連して,その立地条件の適否
を判断するために定められた指針であるところ,同指針は,原則的立地条件
として「大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったこと,
はもちろんであるが,将来においてもあると考えられないこと。また,災害
を拡大するような事象も少ないこと」が必要であると明記しており,これを
受けて,安全審査会は,昭和53年8月23日「原子力発電所の地質,地,
」,盤に関する安全審査の手引き(甲105。地質・地盤の手引き)を作成し
「原子炉施設の設置される場所の地質・地盤は,原子炉施設の自己荷重のほ
か,想定される地震その他の荷重をきびしく評価しても,原子炉施設の安全
性を十分に確保し得るものでなければならない」と規定した上で,地質・。
地盤に関する審査要領の中で「敷地周辺の地質構造において,顕著な断層,
または褶曲構造の存在が認められるときは,その活動について十分安全側の
評価がなされなければならない」と規定した。。
そして,当時の原子力委員会は,昭和53年9月に「発電用原子炉施設に
関する耐震設計審査指針」を定め,そして,原子力安全委員会は,昭和56
年7月20日,これを一部改訂して更に「発電用原子炉施設に関する耐震設
計審査指針(乙111。耐震設計審査指針。ただし,一部改訂平成13年」
3月29日同委員会)を決定し,その基本方針として「発電用原子炉施設,
は想定されるいかなる地震力に対してもこれが大きな事故の誘因とならない
よう十分な耐震性を有していなければならない。また,建物・構築物は原則
として剛構造にするとともに,重要な建物・構築物は岩盤に支持させなけれ
ばならない」とし,施設の重要度に応じて基準地震動(敷地の解放基盤表。
面において考慮する地震動)を定め,圧力バウンダリを構成する機器・配管
系等の最重要施設に対しては「地震学的見地に立脚し設計用最強地震を上,
回る地震について,過去の地震の発生状況,敷地周辺の活断層の性質及び地
震地体構造に基づき工学的見地からの検討を加え,最も影響の大きなものを
想定」して選定された「設計用限界地震による地震力に対してその安全機能
が保持できること」と規定された(甲105,乙1ないし4,10,11。
1,いずれも原審における証人P1及び同P6の各証言,弁論の全趣旨)
ア本件安全審査において検討された事項
原子炉施設においては,敷地地盤が脆弱であり,工学的に対処不可能な
ほどの大規模な地すべり,山崩れ,山津波等が発生したり,敷地及び敷地
周辺において活発な構造運動があり,地震が発生したりすると,原子炉施
設の支持地盤の安定性,ひいては同施設の安全性を損なうおそれがあると
判断された。
そして,本件原子炉施設の地質・地盤及び地震に係る安全性に関し,本
件安全審査において検討された事項は,以下のとおりであり,その際,原
子力委員会が指示した立地審査指針(乙10)及び安全設計審査指針(乙
14)が用いられた。
(ア)本件原子炉施設の地質・地盤に係る安全性
本件原子炉施設の敷地の地質・地盤に係る条件が,同施設における大
きな事故の誘因とならないかどうか,具体的には,本件原子炉施設の支
持地盤は,同施設を支持するために必要な地耐力を有しているか,荷重
による不等沈下を起こすおそれがないかどうか,本件原子炉施設の敷地
及び敷地周辺における広範囲にわたる地質の分布及び構造からみて,同
施設の支持地盤が,十分な安全性を有しているかどうか。本件原子炉施
設の敷地の地質・地盤は,本件原子炉施設に損傷を与えるような大規模
な地すべり,山崩れ,山津波等を発生させるおそれがないかどうか。
(イ)本件原子炉施設の地震に係る安全性
地震及びこれに伴う事象が,本件原子炉施設における大きな事故の誘
因とならないかどうか,具体的には,過去の地震歴や,断層の活動性等
から,将来発生することがあり得るものと考えられるべき地震のうち本
件原子炉施設に大きな影響を与えるであろうと考えられる地震,すなわ
ち本件原子炉施設において耐震設計上考慮すべき地震が適切に選定され
ているかどうか。選定される地震が本件原子炉施設の敷地に及ぼすと考
えられる影響を考慮した上で,本件原子炉施設の敷地地盤における設計
用地震動が余裕をもって設定されているかどうか。設定される設計用地
震動に対して,工学的,技術的見地からみて,適切な耐震設計が本件原
子炉施設につき講じられているかどうか。
(乙1ないし4,10,14,いずれも原審における証人P1及び同P6
の各証言,弁論の全趣旨)
イ本件原子炉施設の地質・地盤に係る安全性
本件安全審査においては,以下のとおり,本件原子炉施設の支持地盤が,
同施設を支持するために十分な地耐力を有し,かつ同施設の荷重による不
等沈下を起こさないこと,本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺の地質・地
盤には,褶曲構造が認められるが,褶曲運動等の程度から見て,本件原子
炉施設の支持地盤の安全性を損なうものではないこと,本件原子炉施設の
敷地全体の地質・地盤には,同施設に損傷を与えるような大規模な地すべ
り,山崩れ,山津波を発生させるおそれのある地形又は地質状況は認めら
れないこと等が確認された結果,本件原子炉施設の地質・地盤に係る条件
は,同施設における大きな事故の誘因にならないと判断された(乙1ない
し4,いずれも原審における証人P1及び同P6の各証言,弁論の全趣
旨。)
(ア)支持地盤に係る安全性
本件原子炉施設は,地盤を数十メートル掘り下げて,強固かつ安定し
た岩盤を露出させ,これを支持地盤としてその上に直接建てられている
が,上記支持地盤は,別紙6のとおり,新第三紀に形成された西山層
(泥岩から成る地層である)であり,同地層は本件原子炉施設の敷地。
全域にわたって分布している。本件安全審査においては,以下のとおり,
本件原子炉施設の支持地盤に係る安全性が確保されるものと判断された。
①本件原子炉施設の支持地盤である西山層の支持力は,1cm当た

り62ないし85㎏であるところ,本件原子炉施設の自重は,平常時
で1cm当たり7㎏,地震時で1cm当たり14㎏であった(試
22
掘坑内で実施された平板載荷試験の結果。そして,支持地盤が本件)
原子炉施設を支持し得るとしても,上記施設の重量による支持地盤の
変形は避けられないが,本件安全審査においては,試掘坑で実施した
変形試験の結果から,荷重に対する変形はごく小さく,工学的には無
視でき,また,長期的にある荷重がかかり続けると沈下するクリープ
現象も本件原子炉施設の設計上は支障とならず,本件原子炉施設の支
持地盤は変形に対する抵抗力を十分に有すると判断された。さらに,
本件原子炉施設の支持地盤のせん断抵抗力は,幅1m当たり1万04
00トンであり,他方建築基準法施行令88条,建設省告示第107
4号(地盤の種別及び構築物の種別による低減率)所定の最大水平震
度の3倍の力が本件原子炉施設に加えられたときに生ずる水平方向の
),力は,幅1m当たり3300トンであり(岩盤せん断試験等の結果
3.2の安全率があることから,本件安全審査においては,本件原子
炉施設の支持地盤は,十分な余裕を持ったせん断抵抗力を有するので,
同地盤は十分な地耐力を有し,地震による地盤破壊のおそれはないと
判断された(乙2の6-3-42ないし45頁,乙3の6-452,
453,458,459頁,乙4の23,24頁,原審における証人
P6の証言。)
②本件安全審査においては,本件原子炉施設の支持地盤について行わ
れた岩石,岩盤試験の結果から,同支持地盤の強度的不均一性は極め
て小さいため,本件原子炉施設の重量による不等沈下が生ずるおそれ
はないことから,同施設の支持地盤に係る安全性が確保されるものと
判断された(乙3の6-381ないし387,458,459頁,乙
4の23,24頁,原審における証人P6の証言。)
③本件安全審査においては,石油関係資料,海上保安庁水路部資料,
験潮記録及び水準測量記録等の文献調査,本件原子炉施設の敷地を中
心とする半径約30㎞の範囲における詳細な空中写真判読及び地表踏
査,海上保安庁水路部で実施した海上音波審査資料の解析等の調査,
敷地内で実施したボーリング調査の結果等から,a本件原子炉施設の
敷地及び敷地周辺の地盤は,下から上へ(すなわち年代的に古いもの
から新しいものへ)向かって順に,新第三紀に堆積した寺泊層,椎谷
層,西山層及び灰爪層,新第三紀又は第四紀に堆積した魚沼層群,第
四紀に堆積した青海川層,安田層,番神砂層,雪成砂層,沖積層(新
期砂層を含む)の各地層で構成され,寺尾層,椎谷層,西山層及び。
灰爪層並びに魚沼層群の一部に褶曲構造がある(乙2の6-3-4な
いし12,53,57頁,乙4の20,21頁,b地層における褶)
曲構造の存在は,過去において当該地層を褶曲させた構造運動があっ
たことを示し,その褶曲運動の活動時期は,褶曲構造を示す地層の上
位にある褶曲していない地層の形成時期から判断できるところ,本件
原子炉施設の敷地の支持地盤である西山層は褶曲構造を呈しているが,
その上位に分布する第四紀後期(珪藻化石から判断される堆積環境の
変化及び花粉化石から判断される古気候と海水準変動との対応関係か
ら12ないし14万年前と判断される(乙4の22,23頁)地層で
ある安田層は,敷地全域にわたってほぼ水平に連続しており(原審に
おける証人P6の証言,また,西山丘陵地域には空中写真判読によ)
ってもリニアメントは認められず,地表踏査等によっても安田層堆積
終了以降における断層活動を示唆する地形や断層露頭が認められない
ことから(乙4の20,21頁,原審における証人P6の証言,少)
なくとも,安田層の堆積以降においては,褶曲運動が継続していると
は考えられない(乙2の6-3-30頁,c本件原子炉施設の敷地)
は,羽越活褶曲帯に属するとされており,同褶曲帯では広域的には地
殻変動が認められるが,仮に本件原子炉施設の敷地の周辺の地質・地
盤において,近年においても褶曲運動が継続しているとしても,それ
による褶曲の変位の速度は最大に見積もっても年10以下のオーダ
-6
ーであるので,同褶曲運動の本件原子炉施設の敷地への影響は,工学
的には無視できる,dしたがって,本件原子炉施設の支持地盤に係る
安全性を損なうような大規模な構造運動は起こり得ず,地下深部から
地表に至る地殻自体の変動,例えば褶曲運動等の構造運動が本件原子
炉施設の支持地盤の安全性を損なうおそれはないと判断された。
(イ)敷地及び敷地周辺の地質・地盤の安定性
地すべりや山津波等は,地盤の斜面部などで重力(地盤の自重)の不
均衡によって発生する現象であるので,斜面の存在しないところにおい
てはもとより,傾斜地であっても重力の不均衡の要因を取り去れば,発
生することはない。したがって,大規模な地すべりや山津波等が発生す
るおそれがあるか,そして,地すべりや山津波等に対し,傾斜や重力不
均衡の要因の除去という工学的な対処が可能であるか否かは,①地表に
広範囲の急傾斜面があるかどうか,②地質・地盤中に断層や傾斜した地
層その他の広範囲かつ急傾斜した不連続な面(この面に沿って地盤がす
。,べる可能性がある)が存在するかどうか,③地盤を構成する物質(砂
粘土,泥等)のすべりに対する抵抗力が小さいかどうかにかかわること
になる。本件安全審査においては,以下のとおり,本件原子炉施設の敷
地及び敷地周辺の地質・地盤において,同施設に被害を与えるような,
工学的に対処不可能な大規模な地すべりや山津波等が発生するおそれは
ないと判断された。
①本件原子炉施設の敷地は,柏崎市及び刈羽郡ω1にまたがり,西山
丘陵の南端部に位置し,同敷地の形は,海岸線に平行に約3.2㎞,
直角に内陸に向かって約1.4㎞の半楕円形をなし,同敷地前面の海
岸線から同敷地背面の境界部にある標高60m前後の稜線に向かって
なだらかに高くなる丘陵地となっていることから,本件安全審査にお
いては,本件原子炉施設に近接した位置の地表に,地すべりや山津波
の原因となるような広範囲の急傾斜の斜面はないと判断された(乙1,
乙2の6-1-1,3頁,乙4の22頁,原審における証人P6の証
言。)
②本件安全審査においては,本件原子炉施設の敷地内において実施さ
れた地表踏査,ボーリング調査,試掘坑調査等の結果から,本件原子
炉施設の敷地の支持地盤である西山層が,節理の発達が少なく,かつ
大規模な断層や破砕帯も存在しない,強固かつ安定した岩盤であると
判断された(原審における証人P6の証言。)
③本件原子炉施設の敷地の支持地盤である西山層(泥岩層)の上には,
これを覆う形で,約12万年ないし14万年前に形成された安田層
(硬質の粘土等を主体とする)が,ほぼ水平な層を成して存在し,。
また,安田層の上には約3万年ないし8万年前に形成された半固結状
の番神砂層(砂質土を主体とする,更に,最上位の地層として新。)
期砂層(砂丘砂を主体とする)が存在するが,本件安全審査におい。
ては,これら異なる地層が接する不連続な面に傾斜がないわけではな
いが,いずれも地表部付近において局所的に存在しているのみで,本
件原子炉施設に被害をを及ぼすような大規模な地すべりや山津波を引
き起こすおそれはないと判断された(乙4の22頁,原審における証
人P6の証言。)
ウ本件原子炉施設の地震に係る安全性
本件安全審査においては,以下のとおり,本件原子炉施設において耐震
設計上考慮すべき地震は,過去の地震歴や,断層の活動性等から,適切に
選定されていること,選定された地震が本件原子炉施設の敷地に及ぼすと
考えられる影響を考慮した上で,本件原子炉施設の敷地地盤における設計
用地震動が余裕をもって設定されていること,設計用地震動に対して,工
学的,技術的見地からみて,適切な耐震設計が本件原子炉施設につき講じ
られていることが確認された結果,地震及びこれに伴う事象(機器や配管
の振動等)は,本件原子炉施設における大事故の誘因とならないものと判
断された(乙1ないし4,いずれも原審における証人P1及び同P6の各
証言,弁論の全趣旨。)
(ア)耐震設計上考慮すべき地震
原子炉施設の耐震設計に用いられる設計用地震動は,耐震設計上考慮
すべき地震を基準として余裕をもって設定されるべきであるから,設計
用地震動の設定やこれに基づく耐震設計が適切に行われるためには,基
準になる地震の選定が適切に行われる必要があるところ,本件安全審査
においては,以下の諸点が確認され,本件原子炉施設の設計上,耐震設
計上考慮すべき地震が適切に選定されていると判断された。
①耐震設計上考慮すべき地震の選定に関する基本方針
a地震は,ほぼ同様の規模で繰り返し発生するものであるとされて
いるところから,将来においても,本件原子炉施設の敷地及び敷地周
辺において,過去に発生した地震と同じ様な影響を及ぼす地震が同所
で発生するおそれがあること,b有史時代より前に発生した地震は,
地震歴の調査による方法では把握できないので,本件原子炉施設の敷
地及び敷地周辺の断層について,その活動性の有無を調査する必要が
あるところ,我が国においては,第四紀後期においては応力の掛かり
方はほぼ一定方向であり,この力によって同一の断層が繰り返し活動
し,地震を発生させたものと考えられていることから,工学的見地か
らは,第四紀後期における活動性が全くないか,又は低い断層につい
てまで,将来において活動すると考える必要はなく,本件原子炉施設
の耐震設計においては,過去の地震歴の調査によって,過去に発生し,
本件原子炉施設の敷地の地盤に対して影響を与えたことが判明してい
る地震,若しくは影響を与えたことが推定される地震,又は,本件原
子炉施設の敷地及び敷地周辺の地質・地盤に存在する第四紀後期以降
の断層の調査によって,同断層の活動により同地盤において将来発生
することがあり得るものと考えられる地震の中から,本件原子炉施設
に最も大きい影響を与えるであろうと考えられるものが考慮された。
②過去の地震歴
本件原子炉施設の設置場所である柏崎付近が被害の中心となった地
震は有史以降ないが,本件原子炉施設の耐震設計上,a越後南西部の
地震(発生時期1502年,マグニチュード(以下「M」という)。
6.9,震央距離42㎞,推定最大加速度95Gal,b越後高田)
の地震(発生時期1614年,M7.7,震央距離54㎞,推定最大
加速度160Gal,c越後三条の地震(発生時期1828年,M)
6.9,震央距離33㎞,推定最大加速度130Gal,d六日町)
の地震(発生時期1904年,M6.9,震央距離30㎞,推定最大
),加速度150Gal,e新潟地震(発生時期1964年,M7.5
震央距離115㎞,推定最大加速度30Gal)の各地震が考慮され,
上記各地震のうち,同様の地震が将来再び発生した場合に,本件原子
炉施設に最も大きな影響を及ぼすと判断されるものは,推定最大加速
度が最も大きい越後高田の地震(M7.7,推定最大加速度160G
al)であると判断された。
③敷地及び敷地周辺の地質・地盤に存在する断層
本件原子炉施設の耐震設計においては,本件原子炉施設の敷地及び
敷地周辺の広い範囲を対象とする文献調査(石油関連資料等,空中)
写真判読及び地表踏査による地形,地質調査が行われ,その結果,上
記範囲に存在する断層及び存在が推定される断層のうち,地すべり性
の断層,構造性の断層でも本件原子炉施設から遠く,かつ小規模なも
のが除外され,耐震設計上考慮すべき断層と判断される可能性のある
ものとして気比ノ宮断層,中央丘陵西縁部断層,真殿坂断層及び椎谷
断層が選定され,更に,上記4断層について,第四紀後期における活
動性が評価され,それに基づいて,断層活動に基づく地震によって本
件原子炉施設に大きな影響を与えると考えられるものが,耐震設計上
考慮すべき断層として選定されたが,第四紀後期の活動性の評価に当
たっては,第四紀後期の活動が活発かつ大規模な断層は,その断層活
動の痕跡として,連続したリニアメント,すなわち線状を呈する地形
が地表に明瞭に判読されるかどうかとか,リニアメント線上及びその
近傍の露頭に,第四紀後期にしばしば活動したことを示す断層や地下
深部における第四紀後期の断層活動を反映していると考えられる撓曲
構造等が認められるか否か等の地形上,地質構造上の特徴を伴うこと
が着目された。第四紀後期に活動した断層により形成されたリニアメ
ントは,形成年代が新しいことから,浸食される期間が短いため,地
形上の特徴として明瞭に判読され,かつ,断層露頭や撓曲構造近くで
これらと同一方向に向かって延びるものとして判読されるが,古い時
代に活動した断層により形成されたリニアメントは,長い期間の浸食
作用によって不明瞭になったり,断層露頭等と一致しないなど,上記
地形,地質構造上の特徴は,第四紀後期における断層の活動性に関し,
極めて有用な指標となるとされている。
そして,本件原子炉施設の耐震設計においては,以下のとおり,上
記4断層について検討され,断層や撓曲構造,更に構造運動を反映し
た第四紀後期の地層の変形などがリニアメントと対応している場合に
は,最近の地質時代に繰り返し活動している断層であると判断され,
連続して認められるリニアメントに上記地質構造の特質も加えて,こ
れにより断層の長さ(長さにより,当該断層が引き起こし得る地震の
規模が推定される)が判定され,第四紀後期における活動性が評価。
された結果,本件原子炉施設の耐震設計上考慮すべき断層として気比
ノ宮断層が選定された(乙4の20,21,24頁,原審における。
証人P6の証言)
a気比ノ宮断層
気比ノ宮断層は,本件原子炉施設の敷地東方の中央丘陵東縁部信
濃川左岸地区の長岡市ω2付近からω3付近に至る延長約17.5
㎞の範囲で,地下深部に存在の可能性が推定される断層であり,本
件原子炉施設の耐震設計においては,当該地域の段丘面や丘陵部に
は,かなり明瞭なリニアメントが認められていること,地盤の地層
に過褶曲構造が認められ,この過褶曲を呈する構造の方向が上記リ
ニアメントに概ね一致していること,この地区に上記過褶曲構造を
覆って発達する段丘が平野側に著しく傾斜しているという地形上の
特徴を有し,褶曲運動の影響を受けたと考えられていること,及び
上記段丘の堆積物が第四紀後期に形成されたことから,第四紀後期
においても褶曲運動は続いており,上記断層は第四紀後期の活動性
がある程度大きいものと判断された(乙2の6-3-11頁,乙3
の6-266ないし268頁,乙4の21頁,原審における証人P
6の証言。)
b中央丘陵西縁部断層(常楽寺断層)
中央丘陵西縁部断層は,中央丘陵西縁部のω4からω5に至る延
長約12.5㎞の範囲で,地下深部に存在する可能性があると推定
される断層であり,本件原子炉施設の耐震設計においては,上記地
域の新第三紀ないし第四紀の灰爪層又は魚沼層群で構成された地層
部には,気比ノ宮断層で認められたリニアメントに比べて,やや不
明瞭なリニアメントが認められたこと,リニアメントに沿って一部
に撓曲構造が確認されること等から,地表付近においては大規模な
断層は存在しないものの,地下深部においては,断層が存在する可
能性は否定できないこと,しかし,リニアメントと,断層の存在を
推定させる撓曲構造の位置とが一部において一致しないこと,撓曲
構造に沿う多数の露頭で第四紀後期に活動したことを示す断層が存
在しないことから,上記断層の第四紀後期における活動はなかった
か,仮にあったとしても,その活動性はごく小さいものと判断され
た(乙3の6-275ないし278頁,乙4の21頁,原審におけ
る証人P6の証言。)
c真殿坂断層,椎谷断層
真殿坂断層は,本件原子炉施設の敷地の北東方向にある西山丘陵
のω6から北東方向に延びる延長約14㎞の範囲で,地下深部に存
在する可能性があると推定される断層であり,椎谷断層は,西山丘
陵の柏崎市ω7から北東方向にあるω8に至る延長約13㎞の範囲
で,地下深部に存在する可能性があると推定される断層であり,両
断層とも,文献(石油関係資料)において,地下深部に推定されて
いる断層であると判断された。
本件原子炉施設の耐震設計においては,上記両断層が第四紀後期
に活動したとすれば,地形上何らかの形跡が残されているものと考
えられるが,空中写真判読によっても両断層共に全くリニアメント
は認められず,地表踏査等によっても,第四紀後期において断層活
動を示唆する地形(断層崖,ケルンコル等)や断層露頭が認められ
ないことから,上記両断層の第四紀後期において活動性は無視でき
ると判断された(乙2の6-3-9頁,乙3の6-269ないし。
273頁,乙4の20,21頁,原審における証人P6の証言)
以上の検討の結果,本件原子炉施設の耐震設計においては,a耐震
設計上考慮すべき断層は気比ノ宮断層である,b過褶曲構造やその構
造と一致するリニアメントの存在等から断層の長さは,約17.5㎞
と推定される(乙4の21頁,原審における証人P6の証言,c将)
来,断層活動により発生することがあり得るものと考えるべき地震の
規模は,当該断層の長さから推定することができるところ,気比ノ宮
断層の活動によって将来発生することがあり得るものと考えられる地
震の規模を,一般に広く用いられている松田式(断層の長さから地震
の規模を推定する式)により算出すると,M6.9となる,d同地震
による推定最大加速度は,震央距離を20㎞として,220Galと
算定され,これが耐震設計上考慮すべき地震であると考えられるなど
と判断された(乙2の6-5-18,19頁,乙3の6-9,52。
ないし56頁,乙4の24頁,原審における証人P6の証言)
(イ)設計用地震動
地震が原子炉施設に及ぼす影響は,当該地震が原子炉施設の敷地地盤
に対して,どのような地震動を与えるかによって異なり,地震が敷地地
盤にどのような地震動を与えるかは,主に当該地震動の最大加速度及び
周期特性によって左右されるから,設計用地震動の設定に当たっては,
耐震設計上考慮すべき地震による地震動に対して余裕のある最大加速度
と適切な周期特性を選んで採用することが必要であるところ,本件安全
審査においては,以下の諸点が確認され,本件原子炉施設の耐震設計に
おいては,設計用地震動の設定に当たって,過去の地震歴や断層の活動
から将来発生することがあり得るものと考えるべき地震のうち耐震設計
上考慮すべき地震に対しても,十分余裕のある最大加速度を採用し,か
つ,地震動と原子炉施設を構成する機器等との共振に配慮した適切な周
期特性等を採用していると判断された。
①最大加速度
本件原子炉施設において耐震設計上考慮すべき地震によって敷地地
盤に与えられる地震動の推定最大加速度のうち最大のものは,上記
(ア)のとおり,気比ノ宮断層の活動によって将来発生することのあり
得る地震による220Galであるところ,本件原子炉施設の耐震設
計においては,設計用地震動の最大加速度を300Galとした。
②周期特性
本件原子炉施設の耐震設計においては,本件原子炉施設(大部分が
厚い壁,太い柱を有する鉄筋コンクリート造りの構築物)が,原則と
して剛構造である上,直接に岩盤(敷地地盤)上に設置されるため,
同施設の固有周期はほぼ0.5秒以下の短周期振動系となることが考
慮され,敷地地盤における設計用地震動の波形として,重要施設の耐
震設計に広く用いられている過去の代表的な強震記録波形の中から,
ほぼ0.5秒以下の周期範囲で,a比較的短周期側が優勢なゴールデ
ンゲートパーク記録(米国,1957年,サンフランシスコ地震,M
5.3,b比較的中周期が優勢なタフト記録(米国,1952年,)
カーンカウンティ地震,M7.7,及びc比較的長周期側が優勢な)
エルセントロ記録(米国,1940年,インペリアルバレー地震,M
7.1)の3波が選定された。
(乙2の6-5-18,19頁,8-1-50,51頁,乙3の6-9,
52ないし54頁,132頁,乙4の24頁。)
(ウ)本件原子炉施設の耐震設計
①剛構造及び岩盤設置
本件原子炉施設は,地震時における原子炉格納施設や機器の変形の
程度を小さくするため,原則として,同施設の主要な部分を剛構造と
した上,同施設全体を岩盤(西山層)上に直接設置する(乙1,乙2
の8-1-47頁,乙3の7,8頁,乙4の27頁。)
②重要度分類に応じた耐震設計
本件原子炉施設の耐震設計においては,同施設を構成する構築物等
が安全上の重要度に応じてA,B,Cの3種類に分類され,それぞれ
の重要度に応じた耐震設計が講じられ(乙1,乙2の8-1-47,
48ないし50,57頁,乙3の7,8,8-1ないし3,134頁,
乙4の27頁,特に,原子炉施設のうち主要施設(Aクラス,す))
なわち,その機能喪失が原子炉事故を引き起こすおそれのある施設や
本件原子炉施設周辺の公衆に対して放射線障害を与えることを防止す
るために必要な施設に対しては,水平震度については,建築基準法に
定められている水平震度の3倍の震度を,鉛直震度については,同法
に定められている水平震度の1.5倍の震度を考慮した静的解析と,
本件原子炉施設の支持地盤に与えられる設計用地震動を用いた動的解
析がそれぞれ行われ,上記静的解析及び動的解析から求められたいず
れの地震力に対しても余裕のある耐震設計が講じられたほか(乙1,
乙2の8-1-48ないし50頁,乙3の7,8,8-2頁,乙4の
27,28頁,上記各解析によって求められた地震力に,平常運転)
に伴って作用する圧力や熱膨張等による力が加わった場合にも,それ
によって発生する応力の程度が,本件原子炉施設を構成する建設材料
の耐え得る許容限度内にとどまり,上記主要施設には損傷が生じない
よう設計され(乙2の8-1-50,51頁,乙3の8-2頁,更)
に,安全対策上特に緊要な格納容器,原子炉緊急停止装置及びホウ酸
水注入装置については,設計用地震動の1.5倍の地震動を用いた動
的解析によって求められた地震力に,平常運転に伴って作用する圧力
や熱膨張等による力が加わったとしても,同施設が損傷しないことは
もとより,さらに,同施設に課せられた機能が十分維持されるように
設計された(乙1,乙2の8-1-48,51頁,乙3の8,8-2
頁,乙4の28頁。)
(12)原子炉施設の公衆との離隔に係る本件安全審査の審査内容
ア立地審査指針(乙10)は,原則的立地条件として「原子炉は,その,
安全防護施設との関連において十分に公衆から離れていること「原子。」,
炉の敷地は,その周辺も含め,必要に応じ公衆に対して適切な措置を講じ
うる環境にあること」も必要であるとし,更に,万一の事故時にも,公。
衆の安全を確保し,かつ原子力開発の健全な発展を図ることを基本方針と
して「a敷地周辺の事象,原子炉の特性,安全防護施設等を考慮し,,
技術的見地からみて,最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重
大な事故(以下「重大事故」という)の発生を仮定しても,周辺の公衆。
に放射線障害を与えないこと。b更に,重大事故を超えるような技術的
見地からは起こるとは考えられない事故(以下「仮想事故」という)。
(例えば,重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうち
のいくつかが動作しないと仮想し,それに相当する放射性物質の放散を仮
想するもの)の発生を仮想しても,周辺の公衆に著しい放射線災害を与え
ないこと。cなお,仮想事故の場合には,国民遺伝線量に対する影響が
十分に小さいこと」を,立地審査指針によって達成しようとする基本的。
目標とする旨を明記している(乙10,弁論の全趣旨。)
イ本件安全審査においては,災害評価に当たり,重大事故,仮想事故とし
て,冷却材の喪失が最大となる冷却材再循環配管1本が瞬時に完全破断し,
格納容器内に放射性物質が放出される事故としての冷却材喪失事故,冷却
材の流出量が最大となる主蒸気管1本が瞬時に完全破断し,直接格納容器
外に放射性物質が放出される事故としての主蒸気管破断事故が想定された
(乙1ないし4,10,いずれも原審における証人P1及び同P6の各証
言,弁論の全趣旨。)
ウ安全審査において検討された事項
本件原子炉施設の公衆との離隔に係る安全対策に関し,本件安全審査に
おいて検討された事項は,以下のとおりであり,その際,原子力委員会が
指示した立地審査指針(乙10)及び安全設計審査指針(乙14)が用い
られた。
(ア)重大事故の発生と非居住区域の確保
本件原子炉からある距離の範囲内は非居住区域とされているか。すな
わち,敷地周辺の事象,原子炉の特性,安全防護設備等を考慮し,技術
的見地からみて,最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大
事故の発生を仮定しても,そこに人が居続けるならば,その人に放射線
障害を与えるかもしれないと判断される距離までの範囲内が,公衆が原
則として居住しない非居住区域となっているかどうか,ある距離の範囲
を判断するためのめやす線量として,甲状腺(小児)被ばくについて1
50レム,全身被ばくについて25レムを用いて確認する。
(イ)仮想事故の発生と低人口地帯の確保
本件原子炉からある距離の範囲であって,非居住区域の外側の地帯が,
低人口地帯とされているか。すなわち,重大事故を超え,技術的見地か
らは起こるとは考えられない仮想事故(例えば,重大事故を想定する際
には,効果を期待した安全防護設備のうちのいくつかが作動しないと仮
想し,それに相当する放射性物質の放散を仮想するもの)の発生を仮定
しても,何らの措置を講じなければ,その範囲内にいる公衆に著しい放
射線災害を与えるかもしれないと判断される範囲内であって,上記非居
住区域の外側の地帯が低人口地帯(著しい放射線災害を与えないために,
。,適切な措置を講じ得る環境にある地帯をいう)となっているかどうか
ある距離の範囲を判断するためのめやす線量として,甲状腺(成人)被
ばくについて300レム,全身被ばくについて25レムを用いて確認す
る。
(ウ)仮想事故の発生と人口密集地帯からの離隔
本件原子炉の敷地が,人口密集地帯からある距離だけ離れているか。
すなわち,仮想事故の発生を仮定しても,全身被ばく線量の積算値(集
団中の1人,1人の全身被ばく線量の総和)が国民遺伝線量の見地から
十分受け入れられる程度に小さな値になるような距離だけその敷地が人
口密集地帯から離れているかどうか,ある距離の範囲を判断するための
めやす線量として,全身被ばく線量の積算値について200万レムを用
いて確認する。
(乙1ないし4,10,14,いずれも原審における証人P1及び同P6
の各証言,弁論の全趣旨)
エ本件原子炉施設の公衆との離隔に係る安全性
本件安全審査においては,以下のとおり,本件原子炉施設は,原子炉の
公衆との離隔に係る立地条件の適否を検討する災害評価が合理的になされ
ており,その基本設計において,公衆との離隔に係る安全性を確保し得る
もの,すなわち,公衆との離隔に係る立地条件において原子炉等による災
害の防止上支障がないと判断された(乙10,14,弁論の全趣旨。)
(ア)本件原子炉施設の設置位置等
本件安全審査においては,別紙9のとおり,本件原子炉施設は,新潟
県柏崎市及び同県刈羽郡ω1にまたがり,日本海に面した敷地内に設置
されること,本件原子炉敷地は,ほぼ半楕円形をなしており,その面積
は約420万㎡であり,本件原子炉から敷地境界までの最短距離は,約
790mであること,本件原子炉から半径5㎞以内の人口は約1万50
00人,半径10㎞以内の人口は約7万3000人であること等が確認
された。
(イ)重大事故及び仮想事故想定の妥当性
立地審査指針に基づき検討された本件原子炉の公衆との離隔に係る立
地条件の適否についての評価においては,重大事故及び仮想事故として,
格納容器内に放射性物質が放出される事故としての冷却材喪失事故と,
直接格納容器外に放射性物質が放出される事故としての主蒸気管破断事
故との2種類の事故が想定されているが,本件安全審査においては,こ
れらの冷却材喪失事故及び主蒸気管破断事故は,放射性物質の環境への
放出量が最大となる可能性のある事象で,放射性物質が格納容器内と格
納容器外に放出される事象を代表して想定されたものであることから,
上記各条件の想定は妥当なものであると判断された。
(ウ)主要な被ばく形態
冷却材喪失事故及び主蒸気管破断事故による公衆の甲状腺(小児)被
ばく及び全身被ばくに係る主要な被ばく形態としては,放出された放射
性物質のうち,放射性ヨウ素を吸入することに起因する甲状腺の被ばく
と,放射性希ガスから放出されるガンマ線による全身被ばくがある。
(エ)重大事故に係る災害評価条件設定の妥当性
①冷却材喪失事故
本件安全審査においては,a希ガス及びヨウ素の炉内蓄積量を原子
炉が定格出力の105%で1000日間連続運転されているものとし
て算出すること(この場合,燃料内の核分裂生成物の蓄積量はほぼ平
衡に達している,b燃料から圧力容器内中に放出される希ガス及。)
びヨウ素は,全燃料中に内蔵されているもののうち,燃料棒内のギャ
ップ及びプレナム中に蓄積されている希ガス及びヨウ素が全量放出さ
れると仮定し,希ガスについては2%,ヨウ素については1%とする
こと,c燃料から放出された希ガス及び有機ヨウ素(有機ヨウ素の生
成割合は,冷却材喪失事故条件下の実験結果によれば,多くても3.
2%とされているが,10%と仮定された)は,すべて格納容器に。
移行するものとし,無機ヨウ素については,圧力容器,配管及び格納
容器の壁面等に付着,又は沈着する効果を考慮して,50%が格納容
器からの漏洩に寄与するものとすること,d格納容器中のヨウ素は,
液相及び気相中に存在するものとし,気相中のヨウ素は,格納容器ス
プレイ冷却水の効果により,液相中に移行する一方,液相中のヨウ素
も気相中に移行するものとすること,e希ガスやヨウ素の格納容器か
らの漏洩率は,格納容器スプレイ冷却系設備の作動等により格納容器
の圧力が事故後33日後には大気圧にまで低下するので,格納容器の
圧力に依存し漸減するにもかかわらず,この間,格納容器の設計圧力
における漏洩率である1日当たり0.5%で一定と仮定することによ
り,漏洩率を多く見積っていること,f格納容器から原子炉建家に漏
洩した希ガス及びヨウ素は,非常用再循環ガス処理系で再循環され,
その過程において一部が非常用ガス処理系から排気筒を通して大気中
に放出されるものとし,非常用再循環ガス処理系と非常用ガス用処理
系設備におけるフィルタのヨウ素除去率は,99%以上のものとなる
ように設計されるにもかかわらず,これよりも低い95%と仮定して,
ヨウ素の環境への放出量を多く見積っていること,g大気中に放出さ
れた希ガスやヨウ素の拡散,希釈については,風向,風速等が変動す
ることに伴う拡散,希釈の程度を厳しく見積るために,33日間で放
出されると想定されるところを,24時間で放出されるものと仮定し,
更に,まれにしか生じないと思われる濃度等,すなわち,1年間にわ
たる現地でのあらゆる気象データに基づいて計算された濃度等のうち
97%を包含する厳しいものを採用していること等が重大事故として
想定された冷却材喪失事故による災害評価に当たっての評価条件とさ
れていることが確認された結果,上記重大事故に係る評価条件の設定
は,妥当なものであると判断された。
②主蒸気管破断事故
本件安全審査においては,a主蒸気管破断事故が起こる前の原子炉
は,冷却材の希ガス及びハロゲン(ヨウ素131の場合,1cm当

たり0.5マイクロキュリー)の濃度が原子炉の運転上許容される最
大濃度で運転されているものとすること,b主蒸気管が破断した場合,
破断口からの冷却材の流出を阻止するために設けられている主蒸気隔
離弁が短時間(5秒)で閉鎖すること,c主蒸気隔離弁閉鎖後,主蒸
気系からの蒸気の漏洩が停止するのは,事故後1日とすること,d主
蒸気隔離弁閉鎖後に大気中に放出される希ガス及びハロゲンについて
は,運転中の冷却材中に含まれていた希ガス及びハロゲンのほかに,
燃料から圧力容器中に追加放出されるものとし,ピンホールを有する
燃料棒から冷却水中に放出されるヨウ素の量は,最大2万キュリーと
想定されるにもかかわらず,余裕をみてその値の2倍である約4万キ
ュリーと多く見積っていること,e事故時,破断箇所からの冷却水の
流出を抑制するために自動的に閉鎖する8個の隔離弁は,原子炉施設
運転開始後もその作動性を実証するための試験ができるようになって
いること等から,十分な信頼性が確保されるにもかかわらず,隔離弁
1個の閉鎖失敗を仮定していること,及び閉鎖した7個の隔離弁全体
からの漏洩率は,1日当たり約30%(隔離弁1個,1日当たり10
%の漏洩率に相当)以下に制限することができる設計であるにもかか
わらず,十分に余裕をとって1日当たり120%(隔離弁1個,1日
当たり40%の漏洩率に相当)と仮定し,その後は原子炉圧力内の圧
力に依存するとしていること,f主蒸気隔離弁(第1弁及び第2弁)
の後方には,主蒸気第3弁が設けられており,また,第1弁と第2弁
及び第2弁と第3弁との間には,主蒸気隔離弁漏洩抑制系が設けられ
ているが,第2弁と第3弁の間で主蒸気管の破断が起き,最悪の機器
の単一故障を仮定した場合には,この系の有効性が十分期待できない
ことになるので,この系の効果はないものとしたこと,g燃料から追
加放出される希ガスとハロゲンのうち,希ガスと有機ヨウ素は,すべ
て気相に移行するものとし,無機ヨウ素については,液相と気相間に
分配係数100で分配されるものとすること,h主蒸気隔離弁閉鎖後,
残留熱除去系又は逃し安全弁を通して崩壊熱相当の蒸気がサプレッシ
ョン・プールへ移行するが,この蒸気に含まれる核分裂生成物の寄与
は無視すること,i大気中に放出された希ガスやヨウ素の拡散,希釈
については,風向,風速等が変動することに伴う拡散,希釈の程度を
厳しく見積るために,1日間で放出されると想定されるところを,全
量がわずか1時間で放出されるものと仮定し,更に,放射性物質の大
気拡散状態を推定するに必要な気象条件については,まれにしか生じ
ないと思われる濃度等,すなわち,1年間にわたる現地でのあらゆる
気象データに基づいて計算された濃度等のうち97%を包含する厳し
いものを採用していること等が重大事故として想定された主蒸気管破
断事故による災害評価に当たっての評価条件とされていることが確認
された結果,上記重大事故に係る評価条件の設定は,妥当なものであ
ると判断された。
(オ)仮想事故に係る災害評価条件設定の妥当性
①冷却材喪失事故
本件安全審査においては,重大事故に係る災害評価に当たって設定
されたのと同様の厳しい評価条件のほか,全燃料に内蔵されている核
分裂生成物のうち,希ガス100%,ヨウ素50%が圧力容器内に放
出されるものとすること,炉心に蓄積されている核分裂生成物の格納
容器内への放出量については,炉心内の全燃料棒が溶融したと仮定し
た場合に放出される放射性物質の量に相当する量としていること,希
ガス,ヨウ素の格納容器から原子炉建家内への漏洩は,格納容器内の
圧力の低下に伴い,事故の33日後には停止するにもかかわらず,こ
れを無視して一定の漏洩率(1日当たり0.5%)で無限時間継続す
るとしていること等が仮想事故として想定された冷却材喪失事故によ
る災害評価に当たっての評価条件とされていることが確認された結果,
上記仮想事故に係る評価の条件の設定は妥当なものであると判断され
た。
②主蒸気管破断事故
本件安全審査においては,重大事故に係る災害評価に当たって設定
されたと同様の厳しい評価条件のほか,燃料棒から冷却水中に追加放
出される放射性物質については,事故後の圧力容器内の圧力の低下に
伴い徐々に放出されるものであるにもかかわらず,これを無視して1
度に全量が放出されるものとしていること,閉鎖した7個の隔離弁全
体からの漏洩は,圧力容器内の圧力の低下に伴い漸次,圧力容器内の
圧力が大気圧にまで低下する1日後には停止するにもかかわらず,こ
れを無視して一定の漏洩率(1日当たり120%)で,かつ無限時間
継続するとしていること等が仮想事故として想定された主蒸気管破断
事故による災害評価に当たっての評価条件とされていることが確認さ
れた結果,上記仮想事故に係る評価の条件の設定は妥当なものである
と判断された。
(カ)本件原子炉施設に係る評価結果
本件安全審査においては,災害評価における重大事故及び仮想事故の
それぞれの場合の本件原子炉敷地外における被ばく線量の最大値及び仮
想事故の場合における全身被ばく線量の積算値について,以下の結果が
得られることが確認された。
①重大事故の評価結果
a冷却材喪失事故
本件原子炉敷地境界付近(周辺監視区域境界)における被ばく線
量の最大値は,甲状腺(小児)被ばくについては約0.057レム,
全身被ばくについては約0.0019レムと計算されることが確認
された。
b主蒸気管破断事故
本件原子炉敷地境界付近(周辺監視区域境界)における被ばく線
量の最大値は,甲状腺(小児)被ばくについては約30レム,全身
被ばくについては約0.025レムと計算されることが確認された。
②仮想事故の評価結果
a冷却材喪失事故
本件原子炉敷地境界付近(周辺監視区域境界)における被ばく線
量の最大値は,甲状腺(成人)被ばくについては約0.74レム,
全身被ばくについては約0.098レムと計算され,また,全身被
ばく線量の積算値は,昭和50年の人口に対しては約12万人レム,
西暦2020年の推定人口に対しては約15万人レムと計算される
ことが確認された。
b主蒸気管破断事故
本件原子炉敷地境界付近(周辺監視区域境界)における被ばく線
量の最大値は,甲状腺(成人)被ばくについては約15レム,全身
被ばくについては約0.037レムと計算され,また,全身被ばく
線量の積算値は,昭和50年の人口に対しては約0.64万人レム,
西暦2020年の推定人口に対しては約0.85万人レムと計算さ
れることが確認された。
(キ)立地審査指針適合性
上記(カ)のとおり,本件安全審査では,二つの重大事故のいずれの場
合においても,本件原子炉敷地境界付近(周辺監視区域境界)における
被ばく線量の最大値は,めやす線量である甲状腺(小児)被ばく150
レム及び全身被ばく25レムに比べてそれぞれ十分小さく,非居住区域
であるべき範囲は上記敷地内に含まれること,また,二つの仮想事故の
いずれの場合においても,本件原子炉敷地境界付近(周辺監視区域境
界)における被ばく線量の最大値は,めやす線量である甲状腺(成人)
被ばく300レム及び全身被ばく25レムに比べてそれぞれ十分小さく,
低人口地帯であるべき範囲は上記敷地内に含まれ,更に,全身被ばく線
量の積算値もめやす線量である200万人レムに比べて十分小さいもの
であることがいずれも確認され,本件原子炉施設は,立地審査指針に適
合するものであり,したがって,本件原子炉施設は,公衆との離隔に係
る安全性を十分確保し得るものであると判断された。
(乙1ないし4,10,14,いずれも原審における証人P1及び同P4
の各証言,弁論の全趣旨)
(13)原子力委員会の答申及び内閣総理大臣の本件処分等
ア原子力委員会は,本件安全審査に基づいて本件補正に係る本件申請が規
制法24条1項各号に規定する許可基準に適合しているか否かについて検
討した上,内閣総理大臣に対し,昭和52年8月23日,同日付け「東京
電力株式会社柏崎・刈羽原子力発電所の原子炉の設置について(答申」)
と題する書面により本件補正に係る本件申請が上記基準に適合している旨
を答申した(甲67の①②,乙1ないし4,いずれも原審における証人P
1及び同P6の各証言,弁論の全趣旨。)
イ内閣総理大臣は,昭和52年9月1日,上記答申を尊重し,規制法24
条1項各号所定の許可要件に適合していると判断し,かつ,規制法71条
1項に基づき,当時の通商産業大臣から同日付け「東京電力株式会社柏崎
・刈羽原子力発電所の原子炉の設置について」と題する書面による同意を
得た上,東京電力に対し,同日,規制法23条1項に基づき,同日付け
「東京電力株式会社柏崎・刈羽原子力発電所の原子炉の設置について」と
題する書面(乙6)により本件処分をし,その旨通知した(なお,原子力
委員会は,本件処分当時,核燃料物質及び原子炉に関する規制に関するこ
と(設置法2条4号)のほかに,原子力利用に関する政策に関すること
(同条1号)等,原子力の利用と開発を推進することに関しても所掌する
こととされていたものであるが,本件処分後の昭和53年7月5日,同年
法律第86号により設置法が改正され,従前の原子力委員会の所掌事務の
うち安全の確保及び障害の防止に関するものは原子力委員会とは独立した
原子力安全委員会が所掌することとされた(同改正後の設置法2条,13
条(甲67の①②,乙5,6,弁論の全趣旨。)))
(14)異議申立て等
ア控訴人P7らは,昭和52年10月ころ,行政不服審査法48条,25
条1項に基づき,内閣総理大臣に同月25日付け異議申立書を提出し,本
件処分に対する異議申立てをした(甲271の①②,弁論の全趣旨。)
イその後,規制法の昭和53年法律第86号による改正によって同法律附
則3条により,内閣総理大臣の行った本件処分は,通商産業大臣が行った
ものとみなされることになった。
ウ通商産業大臣は,本件訴訟提起後の平成9年4月22日,本件処分には
何ら規制法上の違法又は不当な点も存在しないとして,上記アの異議申立
てを棄却する旨の決定をした(甲271の①②,弁論の全趣旨。)
エさらに,規制法の平成11年法律第160号による改正によって同法律
1301条により,通商産業大臣が行ったものとみなされた本件処分は,
同法律904条による改正後の規制法に基づき被控訴人(経済産業大臣)
が行ったものとみなされ,実用原子炉の設置許可権限が被控訴人に承継さ
れるとともに本件訴訟を被控訴人が承継した。
(15)営業運転開始と原子炉設置変更許可処分
ア本件原子炉施設の営業運転は,本件訴訟提起後の昭和60年9月18日
に開始された。
イ本件原子炉施設については,本件処分後,以下のとおりの原子炉設置変
更許可処分(以下「本件各変更許可処分」という)がなされている(甲。
112,183の①ないし③,227,228,283ないし287,3
47ないし355,乙74の①ないし③,76の①ないし③,138,1
39,弁論の全趣旨。なお,本件原子力発電所1号機(本件原子炉,))
2号機,3号機,4号機,5号機,6号機及び7号機の配置関係は別紙1
6の配置図のとおりである。
(ア)昭和55年9月6日設置変更許可
本件原子力発電所1号機(本件原子炉)施設の変更(フォロワ付制御
棒の採用,廃棄物処理系の変更,換気空調系の変更,海水淡水化装置の
変更)
(イ)昭和56年5月8日設置変更許可
本件原子力発電所1号機(本件原子炉)施設の変更(冷却材再循環流
量制御方式の変更,気体廃棄物処理系の変更,排気筒の位置の変更,非
常用再循環ガス処理系の廃止に伴う変更)
(ウ)昭和57年5月12日設置変更許可
本件原子力発電所1号機(本件原子炉)施設の変更(新型8行×8列
型燃料の採用,プラスチック固化方式の採用,洗濯廃液系の変更)
(エ)昭和61年12月25日設置変更許可
本件原子力発電所1号機(本件原子炉,2号機及び5号機の各原子)
炉施設の変更(新型8行×8列型ジルコニウムライナ燃料の採用,サプ
レッション・プール水サージタンクの設置に伴う変更)
(オ)昭和62年10月9日設置変更許可
本件原子力発電所1号機(本件原子炉,2号機及び5号機の各原子)
炉施設の変更(採用済樹脂の焼却処理の追加に伴う変更)
(カ)昭和63年5月30日設置変更許可
本件原子力発電所1号機(本件原子炉,2号機及び5号機の各原子)
炉施設の変更(新型制御棒の採用に伴う変更)
(キ)平成2年7月10日設置変更許可
本件原子力発電所1号機(本件原子炉,2号機,3号機,4号機及)
び5号機の各原子炉施設の変更(高燃焼度8行×8列型燃料の採用,使
用済燃料プールの貯蔵能力の増強に伴う変更)
(ク)平成4年10月15日設置変更許可
本件原子力発電所1号機(本件原子炉,2号機,3号機,4号機,)
5号機,6号機及び7号機の各原子炉施設の変更(使用済燃料の処分の
方法の変更)
(ケ)平成6年9月12日設置変更許可
本件原子力発電所1号機(本件原子炉,2号機,3号機,4号機,)
5号機,6号機及び7号機の各原子炉施設の変更(洗濯廃液系の共用化,
使用済燃料輸送容器保管建家の設置に伴う変更)
(コ)平成8年12月25日設置変更許可
本件原子力発電所1号機(本件原子炉,2号機,3号機,4号機,)
5号機,6号機及び7号機の各原子炉施設の変更(同3号機,4号機,
6号機及び7号機の各原子炉使用済燃料貯蔵設備等の同1号機,2号機
及び5号機の各原子炉との共用化)
(サ)平成10年12月21日設置変更許可
本件原子力発電所1号機(本件原子炉,2号機,3号機,4号機,)
5号機,6号機及び7号機の各原子炉施設の変更(9行×9列型燃料の
採用)
(シ)平成12年3月15日設置変更許可
本件原子力発電所1号機(本件原子炉,2号機,3号機,4号機,)
5号機,6号機及び7号機の各原子炉施設の変更(同3号機の原子炉の
MOX燃料の採用,再処理委託先確認方法の一部変更)
(16)許容線量等を定める件等の改廃
(ア)本件処分後,許容線量等を定める件については,昭和53年12月2
8日科学技術庁告示第12号による改正があり「実用発電用原子炉の設,
置,運転等に関する規則の規定に基づく許容被曝線量等を定める件(昭」
和53年12月28日通商産業省告示第665号)が制定されたが,平成
元年3月27日「実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則の規定,
に基づく線量当量限度等を定める告示(平成元年3月27日通商産業省」
告示第131号)が制定され,公衆の線量当量限度を実効線量当量として,
1年間につき0.5レム(5ミリシーベルト)から0.1レム(1ミリシ
ーベルト)に変更された。
さらに,上記公衆の線量当量限度については,平成13年3月21日,
「実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則の規定に基づく線量限度
等を定める告示(平成13年3月21日経済産業省告示第187号。線」
量限度等を定める告示)が定められて同年4月1日から施行され「実効,
線量については,1年間(4月1日を始期とする1年間をいう。以下同
じ)につき1ミリシーベルト(同告示3条1項1号「前項第1号の。」),
規定にかかわらず,経済産業大臣が認めた場合は,実効線量について1年
間につき5ミリシーベルトとすることができる(同告示3条2項)と。」
規定されている。
(甲118,119の①ないし④,乙46の①ないし⑦,弁論の全趣旨)
(イ)また,原子力委員会若しくは原子力安全委員会においては,本件処分
後,立地審査指針につき平成元年3月27日,気象指針につき同日,平成
6年4月21日及び平成13年3月29日,線量目標値指針及び線量目標
値評価指針につき各平成元年3月27日及び平成13年3月29日にそれ
ぞれ一部改訂がなされた。
(ウ)さらに,原子力委員会若しくは原子力安全委員会においては,本件処
分後,次のとおり新たに定めている。
①「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針(平成2年8月
30日原子力安全委員会決定。一部改訂平成13年3月29日同委員会。
新安全設計審査指針)
②「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針(昭和53」
年9月29日原子力委員会策定(甲33,一部改訂平成元年3月27)
日原子力安全委員会,平成2年8月30日同委員会決定(乙94。一)
部改訂平成13年3月29日同委員会。安全評価審査指針)
③「発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指
針(平成2年8月30日原子力安全委員会決定。重要度分類指針)」
④「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の性能評価指針(昭和56年7」
月20日原子力安全委員会決定。一部改訂昭和63年5月19日・平成
2年8月30日・平成4年6月11日同委員会(乙141。ECCS)
性能評価指針)
⑤「発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象に関する評価指針(昭」
和59年1月19日原子力安全委員会決定(甲38。一部改訂平成2)
年8月30日同委員会(乙131。反応度投入事象評価指針))
⑥「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としての
アクシデントマネージメントについて(平成4年5月28日原子力安」
全委員会決定。一部改正平成9年10月20日(乙136))
⑦「燃料被覆管は機械的に破損しないこと」の解釈の明確化につい「
て(昭和60年7月18日原子力安全委員会了承(甲45。一部改」)
訂平成2年8月30日同委員会(乙129))
⑧「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」について(審査,「
設計及び運転管理に関する事項《基準関係の反映事項は除く(昭和》)」
55年6月23日原子力安全委員会決定(甲31))
⑨「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」について(昭和「」
56年7月23日原子力安全委員会決定(甲32))
⑩地質・地盤の手引き(昭和53年8月23日原子炉安全専門審査会作
成(甲105))
⑪耐震設計審査指針(昭和53年9月原子力委員会決定。一部改訂昭和
56年7月20日(乙111・平成13年3月29日原子力安全委員)
会)
⑫「原子力発電所等周辺の防災対策について(昭和55年6月原子力」
安全委員会作成。一部改訂平成元年3月(乙95・平成4年6月・平)
成10年11月・平成11年9月・平成12年5月・平成13年3月・
同年6月・平成14年4月・同年11月・平成15年7月同委員会。た
だし,平成12年5月に表題を「原子力施設等の防災対策について」に
改めた)。
⑬「沸騰水型原子炉に用いられる9行9列型の燃料集合体について」
(平成6年3月3日原子力安全委員会了承(乙140))
⑭「原子力事業者の技術的能力に関する審査指針(平成16年5月2」
7日原子力安全委員会決定)
(甲31ないし33,38,45,105,乙94,95,111,12
9,131,136,140,141,弁論の全趣旨)
2争点
(1)司法審査のあり方について
ア規制法24条1項各号の違反のうち,行訴法10条1項の「自己の法律
上の利益に関係」する違法は何か。
イ原子炉設置許可に際しての安全審査の対象事項となるものは何か。
ウ原子炉設置変更許可処分と本件訴訟における審理・判断の対象について
(ア)本件処分後の本件各変更許可処分の違法事由は本件訴訟における審
理・判断の対象となるか。
(イ)(ア)が肯定される場合,どの範囲で,変更許可処分の違法事由が審
理・判断の対象となるか。
(ウ)(ア)が肯定される場合,(イ)の違法事由の主張・立証責任はいずれ
の当事者が負担するか。
エ本件処分の専門技術性について,司法審査の方法はどうあるべきか。
オ控訴人らの主張する温排水の熱的影響,固体廃棄物の最終処分,使用済
燃料の再処理,輸送及び最終処分,廃炉,労働者被ばく並びに防災計画に
関する違法事由は,司法審査の対象となるか否か。
(2)本件処分の手続的違法があるか否か。
ア本件処分の手続について
イ本件安全審査手続における構造的瑕疵について
(ア)安全審査の手続規定に不備,不明確の瑕疵があるか否か。
(イ)安全審査に係る技術的基準等が不合理,不明確であるか否か。
(ウ)本件安全審査は,法律上の根拠に基づくものであるか否か。
(エ)本件安全審査は,いわゆる原子力三原則に違反するか否か。
(オ)本件安全審査における審査体制が不備であるか否か。
(カ)部会による安全審査は違法か否か。
(キ)合同審査による安全審査手続は違法か否か。
(ク)本件安全審査において審査範囲の限定をしたことは違法か否か。
(ケ)資料の収集等の審査方法に違法があるか否か。
(コ)本件安全審査手続に不公正,不適正があるか否か。
(サ)安全審査手続について立法の瑕疵があるか否か。
ウ本件安全審査手続における個別的瑕疵について
(ア)原子力委員会委員長の不在の際にその職務代理者が選任されていた
か否か。
(イ)原子力委員会の審査方法等に違法がないか否か。
(ウ)本件安全審査会における並行審査は違法か否か。
(エ)安全審査会の出席者は適法か否か。
(オ)調査委員中心の本件安全審査は違法か否か。
(3)規制法24条1項1号所定の要件適合性については,司法審査の対象と
なるか否か。
(4)規制法24条1項2号所定の要件適合性については,司法審査の対象と
なるか否か。
(5)規制法24条1項3号のうち経理的基礎に係る部分の要件適合性につい
ては,司法審査の対象となるか否か。また,同条1項3号のうち技術的能力
に係る部分の要件適合性の判断に不合理な点はあるか否か。
ア規制法24条1項3号のうち経理的基礎に係る部分について
イ規制法24条1項3号のうち技術的能力に係る部分について
(6)規制法24条1項4号所定の要件適合性に不合理な点はあるか否か。
ア原子炉施設の安全性の意義とその安全審査のあり方をどのように考える
か。
(ア)規制法24条1項4号の適合性審査に対する司法審査のあり方
(イ)規制法24条1項4号が審査の対象とする原子炉施設の危険性
(ウ)しきい値の存否
(エ)原子炉施設の安全性の意義
(オ)安全審査のあり方
イ本件原子炉施設の平常運転時における被ばく低減対策に関する本件安全
審査の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点はあるか
否か。また,本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計におい
て,平常運転時における放射性廃棄物について,本件原子炉敷地周辺の公
衆に対する放射線障害の防止上支障がないものとした本件安全審査におけ
る調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
(ア)審査基準に不合理な点があるか否か。
①本件安全審査が基準とした公衆の線量当量限度は不当に高いもので
あるか否か。
②「線量目標値指針」の線量目標値に合理性があるか否か。
③「線量目標値指針」及び「線量目標値評価指針」の基準並びに「発
電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被曝線量評価に
ついて」の報告書に不合理な点がないか否か。
(イ)本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,平
常運転時における放射性廃棄物について,本件原子炉敷地周辺の公衆に
対する放射線障害の防止上支障がないものとした本件安全審査における
調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
①気体廃棄物の被ばく線量評価について
②液体廃棄物の被ばく評価について
③ムラサキツユクサの研究結果と被ばく線量評価の合理性の有無につ
いて
④放射線管理設備の審査の有無について
ウ本件原子炉施設の事故防止対策に係る本件安全審査の調査審議において
用いられた具体的審査基準に不合理な点はあるか否か。また,本件原子炉
が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,事故防止対策に係る
安全性を確保し得るもの,すなわち,事故防止対策との関連において,原
子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調
査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
(ア)審査基準に不合理な点があるか否か。
①事故防止対策に係る審査基準について
②ECCS安全評価指針の合理性について
(イ)本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,事
故防止対策に係る安全性を確保し得るもの,すなわち,事故防止対策と
の関連において,原子炉等による災害の防止上支障がないものとした本
件安全審査における調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落が
あるか否か。
①炉心燃料部の健全性の有無について
②圧力バウンダリについて
③制御棒駆動系について
④ECCSについて
⑤計測システムの欠陥の有無について
⑥格納容器の健全性の有無について
⑦ポンプ,弁等の健全性について
⑧本件原子力発電所における異常事象等と本件安全審査について
⑨我が国における本件原発以外の原子力発電所の異常事象例等と本件
安全審査について
⑩TMI事故と本件安全審査について
⑪チェルノブイル事故と本件安全審査について
⑫運転時の異常な過渡変化解析及び事故解析の合理性の有無について
⑬検査能力等の有無について
⑭想定される飛来物に対する設計上の考慮の有無について
⑮燃料体に対する本件各変更許可処分の違法事由の有無について
⑯本件各変更許可処分に係る現在の設計におけるLOCA(冷却材喪
失事故)解析の合理性の有無について
⑰プルサーマル計画について
エ本件原子炉施設の地質・地盤及び地震に関する安全対策に係る本件安全
審査の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか
否か。また,本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計におい
て,本件原子炉施設の地質・地盤及び同施設周辺において発生するおそれ
のある地震が,同施設における大事故の誘因とならず,安全性を確保でき,
原子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における
調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
(ア)審査基準に不合理な点があるか否か。
①地質・地盤及び地震に関する安全対策に係る審査基準について
②設計用地震加速度の合理性の有無について
③鉛直地震力の考慮の有無について
④活断層の評価期間の合理性の有無について
⑤直下地震の想定の有無について
(イ)本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,本
件原子炉施設の地質・地盤及び同施設周辺において発生するおそれのあ
る地震が,同施設における大事故の誘因とならず,安全性を確保でき,
原子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査におけ
る調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
①本件原子炉敷地の支持地盤の安定性の有無について
a活発な地殻変動の存在について
b本件原子炉施設の支持地盤について
②本件原子炉敷地周辺に見られる断層の活動の有無について
a柏崎平野における安田層の形成時期について
b伏在断層を含む断層活動について
c本件原子炉施設周辺地域の活断層について
d寺尾断層について
e歴史地震の選定について
f日本海東縁プレート境界について
g長岡平野西縁断層について
h中越地震について
③本件原子炉敷地周辺に存在すると推定される主な断層の評価の合理
性の有無について
aリニアメントについて
b気比ノ宮断層の延長距離について
c常楽寺断層(中央丘陵西縁部断層)について
d真殿坂断層について
e椎谷断層について
f新しい松田式について
g金井式-シード図について
h鳥取県西部地震について
④本件原子炉施設の安全性の有無について
a本件原子炉施設の安全性について
bスマトラ沖大地震・津波と本件安全審査について
オ本件原子炉施設の公衆との離隔に係る本件安全審査の調査審議において
用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか否か。また,本件原子炉
が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,公衆との離隔に係る
安全性を確保し得るもの,すなわち,公衆との離隔による災害の防止上支
障のないものとした本件安全審査における調査審議及び判断の過程に看過
し難い過誤,欠落があるか否か。
(ア)審査基準に不合理な点があるか否か。
①公衆との離隔に係る審査基準について
②めやす線量について
(イ)本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,公
衆との離隔に係る安全性を確保し得るもの,すなわち,公衆との離隔に
よる災害の防止上支障のないものとした本件安全審査における調査審議
及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
①災害評価(立地評価)におけるECCS等の健全性について
②災害評価(立地評価)における全炉心溶融等の想定について
③フィルタの信頼性について
3当事者の主張
原審における当事者双方の主張は,原判決第2編(原判決第1分冊2頁から
357頁まで,第2分冊358頁から728頁まで)に摘示されているとおり
であるから,これを引用する。以下に,当審における当事者双方の追加・補足
主張を摘示する。
(1)司法審査のあり方について
ア規制法24条1項各号の違反のうち,行訴法10条1項の「自己の法律
上の利益に関係」する違法は何か。
(控訴人らの主張)
(ア)行訴法10条1項は「取消訴訟においては,自己の法律上の利益,
に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない」と規。
定している。これは,およそ法律上の利益の保護という観点とは無関係
に,専ら他の者の利益等を保護するという観点から当該処分の要件とし
て定められているにすぎない事項については,そのような要件に違背し
ているとの理由では,当該処分の取消しを求めることはできないことに
あるという趣旨である。
したがって,同条項は,処分の取消しを求める側で主張し得る当該処
分の違法理由がその処分の取消しを求めようとする者個々人の個別的利
益を保護するという観点から定められた処分要件の違背のみに限定され
るというものではなく,不特定多数者の一般的公益保護という観点から
設けられた処分要件であっても,それが同時に当該処分の取消しを求め
る者の権利・利益の保護という観点とも関連する側面があるようなもの
については,その処分要件の違背を当該処分の取消事由として主張する
ことを妨げるものではない。
(イ)規制法24条1項1号及び2号の要件は,これが公益あるいは国益
の保護という観点から設けられた要件ではあるものの,他方で,仮に,
平和目的以外に利用されるおそれがあり,原子力の開発及び利用の計画
的な遂行に支障を及ぼすおそれがあるような公益目的に合致しない原子
炉の設置等が行われるといった事態があり得るものとすれば,そのよう
な原子炉の設置等によって,その生命・身体等の安全等に危険が及ぶと
いう事態を防止するという観点においては,これらの要件が控訴人ら住
民の権利・利益の保護という観点とも関連する。
また,同項3号のうち経理的基礎に係る部分の要件も,災害の防止上
支障のないような原子炉の設置には一定の経理的基礎が要求されること
などから設けられたものであり,控訴人らの生命・身体等の安全の保護
という観点と無関係なものではない。
さらに,同項3号のうち技術的能力に係る部分及び4号所定の要件に
関する各審査に過誤,欠落があった場合には重大な原子炉事故が起こる
可能性があり,事故が起こったときは,原子炉施設に近い住民ほど被害
を受ける蓋然性が高く,その被害の程度はより直接的かつ重大なものと
なるのであって,特に,原子炉施設の近くに居住する者はその生命・身
体等に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される。そして,同項
3号のうち技術的能力に係る部分及び4号所定の要件は,単に公衆の生
命・身体等の安全,環境上の利益を一般的公益として保護しようとする
にとどまらず,原子炉施設周辺に居住し,上記事故がもたらす災害によ
り直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命・
身体等の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとしたも
のであり,これらの要件が,控訴人らの法律上の利益に関係を持つもの
であることは明らかである。
(ウ)また,規制法24条1項各号所定の安全審査については,原子力発
電所の必要性が前提となっているから,これも裁判所の審理・判断の対
象事項に含まれる。
すなわち,規制法24条1項各号所定の安全審査においては,東京電
力が電力の安定供給を行うためには本件原子炉はもちろんのこと他の原
子炉も欠かせない,つまり原子力発電所がなければ直ちに電力供給が不
安定になり「電気のない生活」を考えなければならないという原発必要
論が存在し,少なくともこれを所与の前提として審査している。そして,
昭和45年以降,我が国のエネルギー需要は今後とも長期にわたり急速
に拡大することが見込まれるとし,エネルギー源の中心を占める石油に
ついては近い将来枯渇するおそれがあるので,安価な原子力発電が必要
であるとして,その経済性が強調されていた。しかし,現在では原子力
発電が代替えできるのは石油を中心とする発電の一部分であり,しかも
過剰なエネルギーがもたらす地球規模の環境破壊に歯止めをかけ,環境
と調和した産業社会を再構築することが問われるに至っており,いわゆ
る核の危険・制御不能とあいまって脱原発の流れは世界的となり,その
社会的経済的有用性は根拠の薄いものとなっているから,本件安全審査
を見直す必要がある。
(エ)したがって,規制法24条1項各号の定める原子炉設置許可処分の
各要件の存否並びにその前提として原子力発電所の必要性の有無につい
て,いずれも本件処分の取消訴訟における裁判所の審理・判断の対象事
項に含まれる。
(被控訴人の主張)
(ア)本件訴訟は,規制法23条,24条に基づいて内閣総理大臣がした
本件処分の取消訴訟であるから,その審理の対象は,本件処分の違法性
の存否,すなわち本件申請が規制法24条1項所定の許可要件に適合す
るとした内閣総理大臣の判断における違法性の存否であるから,本件処
分の違法事由として,裁判所の審理・判断の対象となる事項は,本件申
請に対して内閣総理大臣が規制法24条1項所定の許可要件について審
査した対象事項に限定されることになる。
そして,主観訴訟として位置づけられている取消訴訟は,取消判決に
よって違法な行政作用を排除し公益に資することを目的とするものでは
なく,被告行政庁の処分によって原告の被っている具体的権利,法的利
益の侵害の救済を目的とするものである。
したがって,行訴法10条1項の「自己の法律上の利益に関係のない
違法」とは,被告行政庁の処分に存する違法のうち,個人的権利・利益
の保護を目的として行政権の行使に制約を課するために設けられたもの
とはいえない法規に違背したにすぎない違法をいうから,本件処分の要
件に係る違法の主張であっても,控訴人ら自身の法律上の利益と関係の
ないものは,取消事由として主張することは許されない。
(イ)規制法24条1項1号及び2号の趣旨は,原子力の研究,開発及び
利用を平和の目的に限り,かつ,原子力の開発及び利用を長期的視野に
立って計画的に遂行するとの我が国の原子力に関係する基本政策に適合
せしめ,もって広く国民全体の公益の増進に資することにあるのであっ
て,原子炉施設の周辺住民等の個人的利益の保護を目的として内閣総理
大臣の許可権限の行使に制約を課したものではない。
また,同項3号のうち経理的基礎に係る部分の要件は,原子炉の設置
には多額の資金を要することから,原子炉の設置,運転等をするに足り
る十分な資金的裏付けがあることを要するとしたことにあるのであって,
これも原子炉施設の周辺住民等の個人的利益の保護を目的として内閣総
理大臣の許可権限の行使に制約を課したものではない。
これに対し,同項3号のうち技術的能力に係る部分及び4号所定の要
件は,原子炉施設周辺に居住し,事故等がもたらす災害により直接的か
つ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の個々人の生命・身
体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を
含むと解されるから,これらの規定に違反する違法は,控訴人ら自身の
法律上の利益に関係する違法である。
なお,同項3号のうち技術的能力に係る部分及び4号所定の要件に関
する違法事由であっても,控訴人らはその個別的な権利・利益に関係す
る違法事由に限って主張できるのであるから,その具体的内容が控訴人
ら自身の法律上の利益に関係のない事項に係るものは,行訴法10条1
項により主張することができない。
(ウ)したがって,本件処分の取消訴訟における裁判所の審理・判断の対
象事項は,規制法24条1項3号のうち技術的能力に係る部分及び4号
所定の要件のみである。
イ原子炉設置許可に際しての安全審査の対象事項となるものは何か。
(控訴人らの主張)
(ア)電力会社等が設置する原子力発電所の安全審査に関する手続は,本
件申請当時,実用発電用原子炉の設置に対する内閣総理大臣の設置許可
(規制法23条,電気事業の用に供する電気工作物の設置又は変更の)
工事計画に対する通商産業大臣の認可(電事法41条,電気工作物の)
工事に対する通商産業大臣の使用前検査(同法43条,電気事業の用)
に供する発電用原子炉及びその附属設備に対する通商産業大臣の定期検
査(同法47条)の4段階に分かれているが,規制法が原子力利用につ
き製錬事業(第2章,加工事業(第3章,原子炉の設置,運転等))
(第4章,再処理の事業(第5章,核燃料物質等の使用等(第6))
章,国際規制物質の使用(第6章の2)に分けて事業規制を行ってい)
るから,原子炉の設置,運転から廃棄物処理までのすべてにわたる安全
審査が必要である。
(イ)原子炉設置許可に際しての安全審査の対象を,後記の被控訴人の主
張のとおり原子炉施設自体の安全性に直接関係する事項に限定し,かつ,
原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に限定することでは現実に
事故を全く防止することができない。また,原子力委員会等の専門家の
関与なく行われる詳細設計以降の段階における規制法所定の規制(工事
計画認可以降の手続)が現実には全く機能しておらず,不正が横行して
いるにもかかわらず,それが正規の手続では発見されていない実情を無
視することはできない。
原子力発電は,火力発電や水力発電と異なる放射能災害をもたらす潜
在的危険性を有するから,原子炉施設近くの住民の生命・身体等の安全
を確保するため,原子炉施設の計画・設計段階から運転段階まで審査を
すべきことは当然である。
(ウ)①株式会社ジェー・シー・オー(旧日本核燃料コンバージョン株式
会社,以下「JCO」という)の東海事業所における昭和58年1。
1月22日付け核燃料物質加工事業変更許可申請書には「臨界事故,
については当施設では「変更後における加工施設の安全設計に関す,
る説明書」に示した様にいかなる場合でも安全であるよう十分な設計
がなされているので臨界事故は起こり得ない(甲334の23枚。」
目)と記載されていた。これに対し,当時の科学技術庁の行政審査で
は,臨界防止等について適切な配慮がなされているので安全性は確保
されている「充分な安全対策が講じられており,一般公衆に対して過
度の放射線被ばくを及ぼす事故が起こるとは考えられない」とする。
昭和59年1月付けの安全審査書(甲334の46枚目)が作成され,
また,原子力委員会の内閣総理大臣に対する同年4月26日付け「臨
界管理は妥当なものと判断する「本変更に伴い従来の事故評価の結」
果を変更する必要はないことを確認した」とする答申(甲336)を
行っていた。これによりJCOは所定の核燃料物質加工事業変更許可
を取得した。
しかし,JCOにおいては,平成11年9月30日午前10時35
分ころ,茨城県ω9所在の核燃料再転換工場で臨界事故が発生し,従
業員2名が急性死亡レベルの放射線を被ばくし,更に多数の従業員と
周辺住民が放射線を被ばくする事故が発生した(以下「JCO事故」
という。これは,上記核燃料物質加工事業変更許可を受けた手順。)
である工程の溶解塔を飛ばしてバケツで作業を行う裏マニュアルが作
成されており,所定の臨界管理を無視した運転が日常的に行われてい
たことに原因があった。このように,JCOが臨界管理を無視した取
扱いをしたのは,核燃料サイクル開発機構がJCOにおいて違法操業
をすることを予期しつつ,黙認したものであるから,臨界管理を軽視
する風土は,少なくとも核燃料サイクル開発機構,JCOにおいて根
付いていた。
これまでJCOだけではなく,我が国の原子力事業者において多数
の杜撰な作業,違法な行為が発覚している。これらのほとんどが検査
等で発覚したものではなく,内部告発か事故発生で初めて発覚したも
のであり,それがなければ永遠に発覚しなかったものであるが,この
ような杜撰な作業,違法行為は我が国の原子力事業者一般にあまねく
行われているものと見るべきである。
②原子力安全委員会は,JCO事故について,違法操業が可能な安全
審査指針を認めたことや技術的能力の審査のあり方に反省を持ち,安
全審査指針の見直しをしようとしている。事故調査委員会に至っては
具体的な部分や運転管理に関する部分まで安全審査でチェックすべき
ではないかという同委員からの意見が少なからず出ている。
また,現在の法体系の中でも,専門家団体である原子力安全委員会
が関与する手続が基本的な許可(原子炉設置許可)のみということか
らすれば,同委員会が具体的設計,運転段階まで通した,あるいはそ
れを見通した安全審査をすべきであるというのが素直な読み方であり,
国民の期待するところである。
③原子炉設置許可時の安全審査では,故障,誤操作等の確率が低いこ
と,そして意図的な手順無視がないことを前提に,過渡変化等の解析
に当たり単一の故障のみを想定する単一故障指針が用いられてきたが,
JCOの事故から明らかになったように,確信犯的な手順無視の違法
操業を現実に原子力事業者が長期にわたり行ってきたという事実を前
提にすれば,従来のような事業者への信頼に基づく安全審査では足り
ず,安全装置の意図的なバイパスをも想定して多重故障を想定すべき
である。
また,JCOの上記核燃料物質加工事業変更許可申請書では六フッ
化ウランの漏洩事象を想定し,事故による周辺監視区域以外の一般公
衆の最大被ばく量を9ナノシーベルトであるとしていた。しかし,J
CO事故では敷地境界における被ばく量は,当時の科学技術庁の事故
調査では160ミリシーベルトであったので,最大想定事故の177
8万倍の規模のものであったことに照らすと,安全審査における最大
想定事故の想定があまりにも過小であり,非現実的であることが裏付
けられている。
(エ)したがって,原子炉設置許可に際しての安全審査の対象は,原子炉
施設の基本設計ないし基本的設計方針のみならず,原子炉の具体的な詳
細設計や運転管理並びに廃棄物処理までのすべてが含まれ,総合的に安
全性の審査がなされるべきである。そして,我が国においては固体廃棄
物の最終処理技術も確立していないにもかかわらず,原子力規制として
核燃料物質の製錬から廃棄などの最終処理に至る過程の安全性について
的確な審査と規制手続がないことは,憲法13条の国民の生命・身体へ
の尊重義務に違反するものであり,憲法31条の法定手続の保障にも違
反する。
(被控訴人の主張)
(ア)規制法は,規制の対象を,製錬事業(第2章,加工事業(第3)
章,原子炉の設置,運転等(第4章,再処理の事業(第5章,核燃)))
料物質等の使用等(第6章,国際規制物質の使用(第6章の2)に分)
け,それぞれにつき被告行政庁の指定,許可,認可等を受けるべきもの
としているから,第4章所定の原子炉の設置,運転等に対する規制は,
専ら原子炉設置の許可等の同章所定の事項をその対象とするものであっ
て,他の章において規制することとされている事項までをその対象とす
るものではない。
そして,規制法の第4章所定に係る原子炉の設置,運転等に関する規
制の内容をみると,原子炉の設置の許可,変更の許可(規制法23条な
),いし26条の2)のほかに,設計及び工事方法の認可(規制法27条
使用前検査(規制法28条,保安規定の認可(規制法28条,定期))
検査(規制法29条,原子炉の解体の届出(規制法38条)等が段階)
的に定められており,これらの規制が段階的に行われることとされてい
る。
(イ)JCO東海事業所は,規制法の加工事業(第3章)の規定により規
制される施設であり,原子炉設置許可段階の安全審査である本件安全審
査とは安全規制の分野が異なるものであって,同事業所において生じた
JCO事故は,本件安全審査の対象とは何ら関係がない。
(ウ)上記の控訴人らの主張は,原子炉設置許可処分の後続の規制である
工事計画の認可(電事法41条,使用前検査(同法43条,保安規))
定の認可(規制法37条)などの各段階において審査,確認されるべき
詳細設計,あるいは具体的な運転管理に係る事項等に関する事由を原子
炉設置許可に際しての安全審査の対象事項とするものであるから失当で
ある。
(エ)したがって,原子炉設置許可に際しての安全審査の対象事項は,専
ら当該原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針のみを規制の対象と
するのであって,後続の工事計画の認可(規制法27条)の段階で規制
の対象とされている当該原子炉の具体的な詳細設計及び工事の方法はも
とより,後続の使用前検査,燃料体検査,溶接検査等の各種検査や,原
子炉施設自体の安全性に直接関係しない他分野の規制対象事項(廃棄物
の最終処分の方法,使用済燃料の再処理及び輸送の方法等)は審査の対
象とならない。また,原子炉施設自体の安全性に関係する事項であって
も,後続の安全規制の対象とされる当該施設の詳細設計及び工事の方法,
各種検査,実際の運転管理等に関する事項は,原子炉設置許可の段階の
安全審査の対象とはならない。
ウ原子炉設置変更許可処分(以下「変更許可処分」という)と本件訴訟。
における審理・判断の対象について
(ア)本件処分後の本件各変更許可処分の違法事由は本件訴訟における審
理・判断の対象となるか否か。
(控訴人らの主張)
本件各変更許可処分により変更された原子炉施設,設備に関する事項
については,以下のとおり,上記変更許可処分の違法事由が本件訴訟に
おける審理・判断の対象となる。
①当初の原子炉設置許可処分に対する取消訴訟の係属中に変更許可処
分があった場合は,当該施設に係る当初の原子炉設置許可処分の内容
の変更を目的とする処分であるから,この変更許可処分に基づく当該
施設の変更が現実に実施された以上,実体的には,両処分を一体的な
ものとして取り扱うべきである。
しかも,原子炉施設においてはその施設,設備の各部分が相互に補
完しあって機能しているので,変更後の施設,設備を除いてその原子
炉施設の安全性の有無を判断することはできないから,少なくとも原
子炉施設の安全性の問題に関しては,後の変更許可処分によって変更
を許可された後の内容が,そのまま当該施設に係る原子炉設置許可処
分の処分内容となる,つまり変更許可処分によって内容を変更された
原子炉設置許可処分が全体として存続し,原子炉の設置,運転の法的
根拠は(変更許可処分によって内容を変更された)原子炉設置許可処
分に一元化されているというべきである。
②また,原子炉設置許可処分は,原子炉の設置,運転に関する許認可
の中で冒頭に位置し,唯一専門家で構成される原子力委員会が安全審
査を行う,最も重要な手続である。この手続で審査される原子炉施設
の安全性は,その施設全体を総合的に評価して判断すべきものである。
そして,原子炉施設の安全性とは,最終的には大部分が燃料棒内に存
在する放射性物質が平常時及び事故時に環境に放出されることを防止
できるかということであるから,原子炉施設の安全確保上極めて重要
な機器である緊急停止系(スクラム系,ECCS(緊急炉心冷却)
系)等も含めて各種の機器が十分な機能を有しているといえるかどう
かも少なくとも特定の炉心(燃料棒,燃料集合体)を前提としてでな
ければ評価できない。とりわけ,事故時の安全性で極めて重要な燃料
棒が(発熱・冷却失敗により)損傷するか(溶けるか)否かという点
の判断も燃料棒の発熱特性,形状,核的特性が決まらなければ評価が
できないというべきである。
ところが,原子炉施設については,原子炉設置許可後も度々変更許
可処分がなされ,安全性評価の主要な大前提である燃料集合体そのも
のの変更が多数回なされている。もしも原子炉設置許可処分について
の取消訴訟係属中に変更許可処分がなされた場合に変更許可処分後の
設計の主要な部分をなす新しい燃料集合体の設計が審査対象にならず,
かつ,変更された従来の燃料集合体も審査対象とならないとすれば,
その時点で当該原子炉についての安全性は具体的にはおよそ評価でき
なくなってしまうという性質を持っている。しかも,その変更許可処
分を行うのは,訴訟の一方当事者である本件訴訟の被告行政庁なので
ある。
③後記の被控訴人の主張に従えば,変更許可処分後の原子炉施設を設
置,運転する法律上の根拠は設計が変更された部分については変更許
可処分,変更されない部分については原子炉設置許可処分によること
となる。
しかし,規制法上は,変更許可処分後において事業者に重大な違法
事由があって許可処分の取消しをする場合にも原子炉設置許可処分の
みが取り消されるので(規制法33条2項,被控訴人の主張は規制)
法の規定にそぐわないから,被控訴人の主張は理由がない。
④したがって,変更許可処分後の原子炉施設の安全性の有無が,当初
の原子炉設置許可処分に対する取消訴訟でも審理・判断の対象となる。
(被控訴人の主張)
本件処分後の本件各変更許可処分の違法事由は,以下のとおり,本件
訴訟における審理・判断の対象とならない。
①規制法26条は,同法23条2項に規定する申請書の記載事項のう
ち,同項2号ないし5号(同項4号に掲げる事項のうち工場又は事業
所の名称のみを変更しようとする場合を除く)及び8号に掲げる事。
項を変更しようとする場合は,原子炉設置者は,あらかじめ主務大臣
の許可を受けなければならないと規定し(同法26条1項,この許)
可(原子炉設置変更許可)については,設置許可に関する同法24条
の規定を準用するものとしている(同法26条4項。これらの事項)
は,原子炉の使用の目的,型式,熱出力等,あるいは原子炉施設の位
置,構造及び設備等というものであって,その性質上,同項が規定す
る許可基準への適合性を改めて審査する必要があるというのが,同法
26条1項,4項の趣旨である。
このような規制法の趣旨にかんがみると,原子炉設置者のする設置
変更許可の申請は,設置許可に係る工場又は事業所に設置された原子
炉施設の一部を変更し,当該工場又は事業所において変更申請に係る
原子炉施設を適法に設置することができる地位の付与を求めるもので
あり,これに対する変更許可処分は,原子炉設置者に対し「それま,
での設置許可に係る工場又は事業所に設置された原子炉施設の一部を
変更して,当該「一部,すなわち変更申請に係る原子炉施設の部分」
(変更申請に係る事項の部分)を適法に設置することができる地位」
を付与するものである。
そして,変更許可処分の効果は,このような地位を原子炉設置者に
付与するものにとどまり,かつ,変更許可処分に既存の原子炉設置許
可処分の効力の消滅,変更の効果を結び付けたと解し得るような規定
は存しないから,変更許可処分は,当該原子炉施設につき設置許可処
分によって既に発生している,当該原子炉施設が適法に存立するため
の法的根拠に直ちに影響を及ぼす性質のものではない。まして,既存
の原子炉設置許可処分の効力を消滅させたり,既存の原子炉設置許可
処分の効力を自らに取り込み,吸収して,自らが変更申請に係る事項
の部分以外の部分を含めた原子炉施設全体の存立の法的根拠を提供し
たりするものとは解されない。
②また,原子炉設置許可処分と変更許可処分とは,いずれも申請に対
する行政処分であるところ,それぞれの判断の対象は,各申請に係る
事項(前者については規制法23条2項各号所定の事項,後者につい
ては同法26条1項所定の事項のうち変更しようとするもの)であっ
て,両者は,その基底にある工場又は事業所こそ同一であるが,判断
権行使の対象は異にしている。したがって,後者における被告行政庁
の認定判断は,法的にみれば,前者におけるそれを一部取り消し,又
は修正するというようなものではあり得ない。このような関係にある
以上,特別の立法による根拠がない限り,後者の判断内容が,前者の
それに取り込まれ,吸収されると解することもできない。
しかも,変更許可処分は,原子炉設置許可処分に係る工場又は事業
所において,原子炉施設の変更申請に係る事項の部分を適法に設置し
得る地位を付与するのみであり,原子炉設置者に何ら義務を課するも
のではない。その意味において,変更許可処分は,原子炉設置者に対
し,原子炉設置許可処分に基づいて適法に設置されている原子炉施設
の変更の実行を義務付ける効力を有するというような理解をするのは
誤りである。
③さらに,原子炉設置許可処分と変更許可処分はそれぞれ別個独立の
行政処分であり,原子炉設置許可処分の判断内容が後にされた変更許
可処分のそれに取り込まれると解すべき実定法上,理論上の根拠はな
いから,変更許可処分の違法は,当該変更許可処分そのものの取消訴
訟でのみ争われるべきである。
④控訴人らの主張のように変更許可処分の違法事由も原子炉設置許可
処分の取消訴訟で主張できるとすると,原子炉設置許可処分の取消訴
訟とは別個に変更許可処分の取消訴訟が提起された場合には,審理が
重複し,判断に矛盾抵触が生じるおそれがある。のみならず,変更許
可処分がなされるたびに原子炉設置許可処分の取消訴訟の審理・判断
の対象が変更拡張され,審理が長期化・漂流するおそれがある。さら
に,変更許可処分について行訴法14条所定の出訴期間が経過した後
も原子炉設置許可処分の取消訴訟において変更許可処分の違法事由を
主張することができるとすれば,同条の趣旨が失われてしまうから,
控訴人らの主張は失当である。
⑤以上のとおり,変更許可処分は,原子炉設置者に対し,原子炉設置
許可処分に係る工場又は事業所において,原子炉施設のうちの一部分
(変更申請に係る事項の部分)を適法に設置する地位を付与するもの
であり,原子炉設置者は,この地位と,原子炉設置許可処分によって
既に付与されている地位(厳密にいえば,当該地位のうち,変更申請
に係る事項の部分を除いたその余の部分)とを併せて,上記工場又は
事業所において変更後の全体としての原子炉施設を適法に設置するこ
とができることとなる。そして,原子炉設置許可処分と変更許可処分
は,同一の原子炉施設に関するものであっても,それぞれ別個の申請
に対する応答として,法律上別個の効力を有する別個の処分であって,
その各効力の間に特別の法律上の関係はなく,互いに他の内容や効果
に消長を来すものではないので,一方の処分の違法をもたらす事由は,
当該処分に係るものに限られるから,変更許可処分の違法事由は,原
子炉設置許可処分に対する取消訴訟においては審理・判断の対象とは
ならない。
したがって,本件訴訟は,規制法23条,24条に基づき行われた
本件原子炉の設置許可処分(本件処分)の取消訴訟であるから,本件
訴訟における訴訟物は,本件処分の違法一般であり,かつ,これに限
られるのであり,本件各変更許可処分は,本件原子力発電所1号機と
その附属設備(本件原子炉施設)に関するものではあるが,本件処分
とは別個の行政処分であり,それらの違法は,各変更許可処分の取消
訴訟でのみ争われるべきものであり,これが本件訴訟の審理・判断の
対象になるとは解し得ない。
(イ)上記(ア)が肯定される場合,どの範囲で,変更許可処分の違法事由
が審理・判断の対象となるか。
(控訴人らの主張)
①規制法は,上記(ア)の控訴人らの主張のとおり,変更許可処分後に
おいても変更許可処分によって内容を変更された原子炉設置許可処分
が全体として存続し,原子炉の設置,運転の法的根拠は(変更許可処
分によって内容を変更された)原子炉設置許可処分に一元化されてい
ると解することを前提としている。
②したがって,本件各変更許可処分に係る違法事由のすべてが本件訴
訟の審理・判断の対象となる。
(被控訴人の主張)
①規制法23条2項が,原子炉設置許可の申請書には「原子炉の,
(中略)基数(3号「原子炉を設置する工場又は事業所の名称及」),
び所在地(4号)を記載すべき旨を規定していることなどからする」
と,規制法は,1個の設置許可申請に係る工場又は事業所に設置され
る原子炉(その附属設備を併せていえば原子炉施設)が数基に上る場
合があることを前提とし,このような場合であっても,単一の工場又
は事業所に設置される原子炉施設については1個の設置許可をすると
の立法政策を採っているものと解される。そして,規制法26条1項
本文,23条2項3号により単一の工場又は事業所に設置される原子
炉の基数を変更しようとする場合も設置変更許可の申請をすべきもの
とされることとを併せ考えると,まず,単一の工場又は事業所に1基
の原子炉のみが設置されていた場合に,当該工場又は事業所において
適法に原子炉の基数を増加させる(いわゆる増設をする)ためには,
当該工場又は事業所を基礎として設置変更許可を受ける必要があり,
かつ,それをもって足りると解され,新たな設置許可を受けるべきこ
とにはならない。同様にして,数基の原子炉の設置された工場又は事
業所につき,規制法26条1項により設置変更の許可を受けなければ
ならない事項を変更しようとする場合には,当該変更が,当該工場又
は事業所に設置された上記の数基の原子炉のうちの一部のもののみに
かかわるときであっても,当該工場又は事業所を基礎として変更許可
処分を受ける必要があると解される。
②仮に,上記(ア)の控訴人らの主張を前提としても,これは「原子炉
施設においてはその施設,設備の各部分が相互に補完しあって機能し
ていることからして,その施設,設備がいったん変更された以上,そ
の変更後の施設,設備を除いてその原子炉施設の安全性の有無を判断
することはできない」という実質的考慮に基づくものと解されるから,
その施設,設備の各部分が相互に補完し合って機能しており,これら
が変更された場合にその変更後の施設,設備を除いて原子炉施設の安
全性の有無を判断することはできないという関係は,特別の事情のな
い限り,1基の原子炉の施設,設備の各部分相互の間においてのみ生
じ得ることが明らかである。
そうであるとすれば,単一の工場又は事業所に数基の原子炉が設置
されている場合には,そのうち原子炉設置許可処分に対する取消訴訟
においてその安全性に関する違法が主張されている原子炉(数基の原
子炉のうちの特定の原子炉)にかかわる事項の変更を内容に含む変更
許可処分についてのみ,かつ,当該変更に関する事由のみが審理・判
断の対象となる。これ以上に,当該工場又は事業所についてされたす
べての変更許可処分の全内容にわたって同取消訴訟の審理・判断は及
ばない。
なお,変更許可処分がなされた場合,その判断内容と原子炉設置許
可処分の判断内容とは峻別されるべきであり,原子炉設置許可処分に
対する取消訴訟においてはその判断内容(もっとも,変更許可処分に
より変更が許可され,かつ現実に変更が実行された事項については,
当該設置許可処分に対する取消訴訟のうち,当該設置許可処分中の上
記事項に関する部分につき安全審査の違法を理由として当該部分の取
消しを求める部分は,狭義の訴えの利益を失い,不適法となると解さ
れるから,当該設置許可処分のうち実際に審理・判断の対象となるの
は,変更が許可されていないか又は変更が実行されていないために残
存している事項に限られる)のみについて,変更許可処分に対する。
取消訴訟においてはその判断内容のみについて,それぞれの安全性が
審理・判断の対象となることとなる。そして,変更許可処分による変
更後の施設,設備が全体として安全性を欠くというのは,変更許可処
分がなされたという事後的な事情の発生によってそれ以後安全性を欠
く状態が現出したということであるから,これが遡って設置許可処分
の違法を構成することはあり得ない。
(ウ)上記(ア)が肯定される場合,上記(イ)の違法事由の主張・立証責任
はいずれの当事者が負担するか。
(控訴人らの主張)
①原子炉設置許可処分に対する取消訴訟において,被告行政庁がした
判断に不合理な点があるとの主張・立証責任については,本来,原告
が負うべきものであるが,原子炉施設の安全審査に関する資料をすべ
て被告行政庁の側において所持していることなどを考慮すると,まず,
被告行政庁において,その判断の依拠した具体的審査基準並びに調査
審議及び判断の過程等,被告行政庁の判断に不合理な点のないことを
相当の根拠,資料に基づき主張・立証する必要があり,被告行政庁が
上記主張・立証を尽くさない場合には,被告行政庁がした上記判断に
不合理な点があることが事実上推認される(伊方原発最高裁判決。)
そこで,被告行政庁が,まず変更許可に際しての安全審査に関し,
その依拠した具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等,その
判断に看過し難い過誤,欠落のないことを相当の根拠,資料に基づき
主張・立証する必要があり,被告行政庁がこの主張・立証を尽くさな
い場合には,上記判断に不合理な点があることが事実上推定されるべ
きである。
②したがって,被告行政庁が変更許可処分の具体的審査基準や審査過
程等につき看過し難い過誤,欠落のないことを相当の根拠,資料に基
づき主張・立証すべきである。
(被控訴人の主張)
①仮に,上記(ア)の控訴人らの主張を前提としても,変更許可処分の
違法事由が原子炉設置許可処分の取消訴訟の審理・判断の対象となる
のは,上記(イ)の被控訴人の主張のとおり「原子炉施設においてはそ
の施設,設備の各部分が相互に補完しあって機能していることからし
て,その施設,設備がいったん変更された以上,その変更後の施設,
設備を除いてその原子炉施設の安全性の有無を判断することはできな
い」という特別の事情に基づくものであるから,変更許可処分に関す
る違法事由は,このような特別の事情が明らかにされて初めて,例外
的に,原子炉設置許可処分に対する取消訴訟の争点になる。しかし,
控訴人らは本件各変更許可処分について,上記のような特別の事情を
主張・立証していないから失当である。
②更に仮に,上記のような特別の事情があるとしても,原子炉設置許
可処分取消訴訟においては,変更許可処分につき現実にこれを争う原
告による違法事由の主張を待って問題にするほかない。また,変更許
可処分は,もともと多数回にわたって行われることが珍しくなく,安
全審査の違法に限られるとしても,変更許可処分のすべてについて,
被告行政庁がまず,その判断に看過し難い過誤,欠落のないことを相
当の根拠,資料に基づき主張・立証すべきものとすると,原告による
模索的な主張の展開を通じて争点のいたずらな拡大と不明確化が避け
られず,審理の遅延渋滞に陥ることが必至であるとともに,模索的な
主張の展開を通じて争点のいたずらな拡大と不明確化が避けられない。
③したがって,仮に,変更許可処分の安全性に関する違法事由につき
原子炉設置許可処分に対する取消訴訟の審理・判断の対象となるもの
があるとしても,変更許可処分の違法事由の主張・立証責任は原告が
負担すべきものであり,直ちにそれについて被告行政庁に主張・立証
の必要があるものではない。
エ本件処分の専門技術性について,司法審査の方法はどうあるべきか。
(控訴人らの主張)
(ア)原子炉施設の安全性が確保されないときは,人類未曾有の重大事故
を引き起こし,世界的規模の回復し難い災禍をもたらす可能性をはらん
でいるのみならず,原子炉施設の周辺住民らに対しては,生命・身体等
に直接的に危害を及ぼし,その居住環境を放射能によって汚染・破壊し,
数世代に及ぶ災禍をもたらすなど,他の事故や天然自然の災害とは比較
できない深刻な事態を引き起こすのである。このような地球的規模の災
害及び原子炉施設の周辺住民らである控訴人らの災禍を防止するために
は,その最終的かつ有効な規制は,司法審査以外にはない。
また,内閣総理大臣による原子炉設置許可処分は,一連の原子炉の設
置運転にとってはほとんど決定的な契機であるが,原子炉施設の危険性
に直接さらされる周辺住民らは,国民全体からすると圧倒的な少数派で
あり,その具体的な生命・身体等の危険性を有効適切に規制する手段は,
司法的解決によらざるを得ない。
(イ)本件申請当時の規制法23条1項所定の原子炉設置許可が内閣総理
大臣の権限とされたのは,原子炉施設の安全性の確保など,ことの重大
性にかんがみ慎重に対処すべく,多方面にわたる極めて高度な最新の科
学的,専門的知見に基づく意見を徴した上,特に内閣総理大臣の責任に
おいて,安全と確信した上で許可すべきものとされたからにほかならな
い。そして,内閣総理大臣は,原子炉設置許可に当たり,規制法適合性
の判断が必要であるので,当該許可処分に何がしかの裁量を含むことは
否定できないものの,それは安全性を前提とした上でのことであり,安
全性判断そのものについてではなく,しかも法規適合性の判断が最終的
にその裁量にゆだねられるものではなく,当該許可処分が規制法24条
1項各号に適合した適法な処分か否かについては,別途,司法判断を受
けることになる。それゆえ,内閣総理大臣の原子炉設置許可の際の安全
性の判断においては,原子力委員会などの調査審議及び判断の過程をつ
ぶさに検討しそこに疑問をいれる余地がなければその意見を尊重して対
処し(規制法24条2項,その安全とする意見にいささかでも疑問が)
あれば,更に調査検討を指示するなどし暫定許可を見合わせたり,許可
をしないなどの裁量の余地があるにとどまるというべきである。
(ウ)原子炉施設の特質にかんがみると,絶対的な安全性が確保されるべ
きであるから,規制法24条1項各号の適合性の判断が極めて高度な最
新の科学的,専門技術的知見に基づく総合判断であるからといって,比
較衡量などによって左右される余地はなく,また,裁量によって判断す
べき事柄ではない。そして,原子炉施設の安全性は,専門技術的な検討
によって一義的に定まるというべきであり,ただ検討の仕方や資料など
について若干の専門技術的な裁量の余地があり得るのみである。しかも,
人権尊重の憲法の原則に照らし,基本的人権と直接かかわる問題につい
て,規制法がその準則を示すことを放棄し,被告行政庁にその処理,判
断をまかせきってしまうことはあり得ない。
裁判所は,国民の生命,健康という最高度の人権を擁護すべき義務が
あり,規制法もこれを保護法益としている以上,規制法に照らし原子炉
施設の周辺住民ら国民の権利の侵害のおそれがあるかないかについて吟
味検討の責務を負っているから,本件訴訟における審理・判断について
も科学的,専門技術的検討という困難を避けることはできない。規制法
24条1項各号の適合性の問題は,技術的能力の存否あるいは災害防止
の確率性の有無に関するものであって,講学上の要件裁量の範疇に入る
が,専門技術性ゆえに裁判所が司法審査になじまないとすれば,専門性
を争点に含む係争については一切裁判をすることができず,国民の権利
保護を否定することになる。
(エ)伊方原発最高裁判決は,原子炉施設の専門技術性のために被告行政
庁の原子炉設置許可における審査の裁量権を認めながら,他方で,専門
技術性の判断能力に欠けると自称する裁判所が,原子力委員会若しくは
安全審査会が調査審議に用いた具体的審査基準に不合理な点があるか,
また,その調査審議する過程に看過し難い過誤,欠落が存在しないかど
うかを判断すべしと判示するのは全く矛盾であるから,不当である。そ
もそも,司法審査の対象は,原子力委員会若しくは安全審査会の審査基
準や審査過程の「看過し難い過誤,欠落」があるか否かという消極的な
姿勢ではなく,審査基準や審査過程の合理性であり,内閣総理大臣の原
子炉設置許可処分の適法性そのものであるべきである。
規制法24条1項各号の趣旨は,上記地球的規模の災害及び原子炉施
設の周辺住民らである控訴人らの災禍などが万が一にも起こらないよう
科学的,専門技術的見地から十分な審査をし,もって原子炉施設の安全
性を確保し,控訴人らの生命・身体等の基本的人権を擁護しようとする
ことにある。そして,同項各号の要件は優れて法的概念であり,その適
合性の判断は,他の一般の法律適合性同様,裁判所の任務であるから,
裁判所は,本件処分の規制法適合性,すなわち手続の具備と本件処分に
係る本件原子炉施設の安全性との実体的判断をなすべきである。
(オ)したがって,裁判所は,内閣総理大臣の原子炉設置許可処分に対す
る取消訴訟の審理・判断については,専門技術性があっても,絶対的安
全性が確保されているか否かを覆審的に審査すべきであるので,規制法
24条1項各号の適合性について改めて独自の審理を行い,その結果に
基づく裁判所自らの判断と対比して直接その適否を決する実体的判断を
すべきである。
(被控訴人の主張)
(ア)控訴人らの主張する「絶対的安全」が,原子炉施設においてはいか
なる故障や事故の発生も確率的に零でなければならないという趣旨であ
れば,全く非現実的,非建設的な発想である。現代社会において,人類
が創造し,利用している各種の機器,産業施設で何らかの潜在的危険性
を有しないものは存在せず,この点では原子炉施設も例外ではない。原
子力の平和利用を推進することによって,エネルギー資源を確保し,産
業の振興を図り,もって人類の福祉と国民生活の水準向上に寄与するこ
と等を目的とする基本法を基礎とする我が国における原子力利用に関す
る実定法制度の下において,同法の精神にのっとり,原子力の平和利用
を具体的に実現するための必要な規制を行うことを目的とする規制法に
照らすと,控訴人らの主張は原子炉施設の存在それ自体を否定するもの
であるから失当である。
原子力発電は,人類の英知を結集して形成された極めて高度の技術体
系であり,その安全確保の面においても各般の技術的措置が講じられて
いるが,その安全性確保は,放射性物質の有する危険性をいかに顕在化
させないかの点に尽きる。すなわち,原子炉施設の安全性の問題は,そ
れが放射性物質を内蔵することにより潜在的危険性を有しているという
ことにあるのではなく,産業施設の本来的ともいえる潜在的危険性をい
かに顕在化させないかの問題である。そして,控訴人らの主張のように,
原子炉施設における単なる故障の発生の可能性の存在や各種事故防止対
策のための設備等の存在にもかかわらず事故の発生の可能性が確率的に
は零でないことをもって,換言すれば,各種事故防止対策のための設備
等の存在意義を全面的に否定し去ることによって,原子炉施設が有する
潜在的危険性を顕在化されたものとして把握し,原子炉施設を安全でな
いというのであれば,そのような「絶対的安全」の要求は原子炉施設の
存在それ自体を否定することにほかならず合理性がない。
したがって,原子炉設置許可処分に対する取消訴訟における司法審査
については,高度な科学的,専門技術的知見に基づく総合的な判断を要
することにかんがみると,原子力委員会若しくは安全審査会の専門技術
的な調査審議及び判断を基にしてなされた被告行政庁の判断に不合理な
点があるかという観点から行われるべきであって,調査審議に用いられ
た具体的な審査基準に不合理な点があり,あるいは,当該原子炉施設が
上記具体的審査基準に適合するとした原子力委員会等の調査審議及び判
断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,被告行政庁の判断がこれに依
拠してされたと認められる場合に初めて,被告行政庁の判断に不合理な
点があるものとして,違法とされるものである。
(イ)また,原子炉設置許可処分に対する取消訴訟における裁判所の審理
・判断の対象事項は,上記アの被控訴人の主張のとおり規制法24条1
項3号のうち技術的能力に係る部分及び4号所定の要件であるから,同
要件適合性を肯定し,原子炉設置許可処分をした被告行政庁の判断の合
理性についての主張・立証責任は,これを不合理なものとして争う原告
が負担すべきものである。
(2)本件処分の手続的違法はあるか否か。
ア本件安全審査手続における構造的瑕疵について
(控訴人らの主張)
(ア)安全審査の手続規定に不備あるいは不明確な瑕疵があるか否か。
(控訴人らの主張)
①行政手続が刑事手続と性質上差異があるとしても,憲法31条の適
正手続の要請は行政手続においても民主的統制の必要から広く適用さ
れるべきである。行政手続法(平成5年法律第88号)に照らしても,
行政手続に対する民主的統制の必要性は高い。そして,原子炉施設の
周辺住民の同意手続はともかくとして,規制法等においては申請書や
その添付書類の事前公開手続も定められておらず,公聴会の開催すら
保障されていないので,このような安全審査手続によっては判断の公
正さや正確さを保てることはできないから,刑事手続と性質上の差異
があるとしても,可能にして相当な住民参加の手続が保障されるべき
である。
②したがって,規制法等の原子炉設置許可手続に関する手続規定は憲
法31条に違反する。
(被控訴人の主張)
控訴人らの主張は争う。
(イ)安全審査に係る技術的基準等の不明確があるか否か。
(控訴人らの主張)
①設置許可基準や安全審査基準は,原子炉設置許可の安全審査そのも
のを左右しその決め手になる重要な事項であり,可能な限り明確化さ
れ,法律で定めるべきであるから,法律の委任もなくこれが被告行政
庁の裁量にゆだねられる根拠はない。
そして,規制法24条1項4号は,原子炉を設置する場合の安全性
に関する許可基準を定めているものの,その規定の仕方は極めて抽象
的であって,安全性に係る具体的な事項の審査基準をこれに求めるこ
とは困難であり,他にこれを補充すべき法的規定も整備されていない。
また,実際の安全審査に用いられている立地審査指針,ECCS安全
評価指針,線量目標値指針,線量目標値評価指針,安全設計審査指針,
気象指針等の安全審査の基準は,単なる行政内部の内規にすぎず,そ
のときどきの情勢によって容易に変えられ,しかもその内容や水準が
明瞭にして高度であるとはいえないから,このような基準によりなさ
れた安全審査の手続には重大な瑕疵がある。
②もっとも,控訴人らは,原子炉施設の安全性に関する審査が多方面
にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づいてなさ
れる必要のあること及び科学技術が不断に進歩,発展していることを
否定するものではなく,安全性判断の基準となる技術的基準のすべて
について法律で具体的かつ詳細に規定すべきであると主張するもので
はない。つまり,控訴人らが法律,法律によって授権された政令・省
令をもって規定すべきであると主張する対象は,原子炉の安全審査に
ついて必要不可欠な事項(審査対象,審査項目等)と,それぞれの審
査事項の審査や検討に用いる技術や資料等の範囲,及びそれらの水準
ないし精度,専門家の見解や分析結果等が分かれているときの選択基
準や取扱方法,基準を改定し,変更する場合の手続等であって,必要
にして相当な範囲に限定している。しかし,現行法上においては,こ
のような原子炉設置許可手続に関する手続規定は制定されていない。
③したがって,規制法等の原子炉設置許可手続に関する手続規定は憲
法31条,41条,73条,81条に違反する。
(被控訴人の主張)
控訴人らの主張は争う。
(ウ)本件安全審査手続に不公正,不適正があるか否か。
(控訴人らの主張)
①原子炉設置許可手続における安全審査手続は,他のいかなる行政手
続にも増して,公正らしさと適正らしさが要求され,実際の安全審査
においても厳格かつ公正な判断がなされるべきものであるところ,本
件安全審査にあっては,他の先行炉の安全審査と同等若しくはそれ以
下の杜撰な審査しか行われてきておらず,安全審査の名に値しない。
②「民主「自主」及び「公開」のいわゆる原子力三原則で担保さ」,
れているはずの関係資料の公開や提供がなされず,原子力委員会やそ
の下部機関である安全審査会には,実質的な安全審査をやり遂げるだ
けの人材はなく,施設・設備,資料・データ及び予算もないのが実情
で,具体的な審査のやり方は,本件原子炉の安全審査とは何の関係も
ない他の機関(原子力発電技術顧問会)が関与し,調査委員などと称
する法的地位や資格の極めてあいまいな人が多数関与(それも中心的
に関与している)し,また,専門技術的知見を有する各専門分野の学
識経験者とは全く立場を異にする行政職員との代理者が数多く関与
(それも中心的に関与している)し,しかも,法律上何らの根拠もな
いのにその審査対象を原子炉の基本設計ないし基本的設計方針である
旨不当に限定した上で,原子炉設置許可の申請者側から提出された資
料やデータをごく限られた部会員が短時間,形式的に審査するという
ものであって,こうした審査の実態をみる限り,到底実質的な安全審
査がなされたとはいえない。
③したがって,安全審査は,憲法31条に違反して,不公正,不適正
に行われている。
(被控訴人の主張)
控訴人らの主張は争う。
(エ)立法の瑕疵があるか否か。
(控訴人らの主張)
①上記(ア)の控訴人らの主張のとおり,原子炉設置の安全審査に関す
る手続規定が整備されておらず,かつ,住民参加の手続が保障されて
いないなどの点で極めて不備であって,憲法31条をはじめとする諸
規定との関連で,憲法上極めて問題である。
②上記(イ)の控訴人らの主張のとおり,原子力発電所の安全審査に用
いられている安全審査指針等の技術基準が,内容的にみて一義的に明
確ではなく,かつ,国際基準から時代遅れであったり,そのときどき
の情勢によって容易に変更されるなどの点で問題であるほか,法定化
が可能であるにもかかわらず,法定化することが意識的に避けられて
きているなどの点で憲法上重大な疑義がある。
③上記(ウ)の控訴人らの主張のとおり,現実の原子力委員会若しくは
安全審査会の安全審査においては,原子力三原則を無視した手続がと
られている。
④そこで,原子炉設置の安全審査は形式的・儀式的なものではあって
はならず,そのためには,実質的な安全審査を確保するに足りる相当
の予算と設備等が必要であり,実質審査が可能な審査体制の確立が要
請される。したがって,原子炉設置許可手続における安全審査手続に
おいては,憲法上要請されている手続規定が十分に整備されたり,立
法化されたりしていないので,いずれも立法の瑕疵があり,憲法13
条,31条,41条,73条,81条に違反するのみならず,憲法の
基本原則である国民主権主義,基本的人権尊重主義,民主主義の諸原
則と,憲法が基本的な原理として採用している法治主義の原理,行政
の司法的統制の原理,人権の裁判的保障の原理にも違反する。
(被控訴人の主張)
控訴人らの主張は争う。
イ本件安全審査手続における個別的瑕疵について
(ア)原子力委員会における審査手続に瑕疵があるか否か。
(控訴人らの主張)
①原子力委員会は,委員長及び3名以上の委員の出席がなければ,会
議を開き,議決をすることができないところ(設置法11条2号,)
本件原子炉の安全審査に関連する合計11回の原子力委員会のうち,
昭和50年の第13回定例会議(同年4月1日)及び第17回定例会
議(同年5月20日,昭和51年の第48回定例会議(同年12月)
14日,昭和52年の第32回臨時会議(同年8月12日,第3))
3回定例会議(同年8月16日)及び第34回定例会議(同年8月2
3日)の計6回の各委員会に委員長が出席しておらず,しかもその間
委員長の職務代理者が選任されることはなかったから,本件安全審査
は違法である。
すなわち,原子力委員会は,原子力の研究,開発,利用に関する行
政事務を所掌する国の最も中核的機関であり,原子炉施設の安全審査
に関しては,他のいずれの国家機関(行政機関)よりも上位に位置す
る機関であって,その権限と責任はいずれの機関よりも強くかつ重大
であるために,委員長は国民に対し責任ある立場にある国務大臣(科
学技術庁長官)が充てられ,また,委員長は会務を総理し,委員会を
代表し,会議を招集するなどの絶大な権限を有しているのであるから,
委員長の出席しない原子力委員会は法の予定するところではないが,
病気や事故により執務できない場合もないわけではないため,あらか
じめ常勤の委員の中から委員長に万一故障がある場合には,委員長を
代理する者を定めておくこととされているにとどまる。そうとすれば,
本件安全審査の中で最も重要な手続である上記第32回,第34回の
各原子力委員会に委員長が出席していないことは,それ自体許されな
いことであり,基本的かつ重大な手続的瑕疵というべきである。
②仮に,委員長に故障があり,あらかじめ選任されていた職務代理者
がいたとすれば,当然その選任手続は辞令等の文書によって残されて
いるはずであり,原子力委員会の議事録等にも誰が委員長の職務代理
者であるか分かるように記録されているはずであるにもかかわらず,
これを裏付ける資料はない。なお,委員長又はその職務代理者がいな
ければ,会議を開くことすら許されないから(設置法11条2項,)
委員長以外の委員全員が出席しているとしても会議を開くことさえも
許されない。
(被控訴人の主張)
①原子力委員会においては委員長に故障がある場合に委員長を代理す
る者をあらかじめ常勤の委員のうちから定めておくことができるとこ
ろ(設置法7条3項,委員長として,昭和49年12月9日にP8)
委員長,昭和51年9月15日にP9委員長,及び同年12月24日
にP10委員長がそれぞれ任命されたが,昭和49年12月10日に
P8委員長の代理者として,昭和51年9月21日にP9委員長の代
理者として,昭和52年1月7日にP10委員長の代理者としていず
れもP11委員が指名されている。そして,控訴人らが指摘する委員
長の欠席した計6回の原子力委員会については,いずれも上記P11
委員長代理が出席し,委員長の職務を務めており,原子力委員会開催
に必要な要件を満たしている。
②したがって,委員長不在の際にはいずれの場合も適法に選任された
P11委員長代理によって原子力委員会が開かれ,本件安全審査に係
る審議・議決が行われている。
(イ)安全審査会における審査手続に瑕疵があるか否か。
(控訴人らの主張)
①本件安全審査を行う安全審査会の会合には,毎回のように審査委員
の代理人が出席し,定足数に満たなかったにもかかわらず,安全審査
会が開催され,正規の専門委員でない調査委員が安全審査会に出席し
て審査に当たったのは,いずれも本件安全審査手続の瑕疵であって,
そのような瑕疵ある手続によりなされた本件安全審査は違法である。
なお,審査会運営規程には,審査委員の代理人について何ら規定さ
れていないのであるから,代理人を認めるものとは考えられず,また,
調査委員制度も法の許容する制度ではない。
②安全審査会は,昭和52年4月19日開催の第158回安全審査会
において,定数30名のところ3分の1の10名しか出席していない
から,安全審査会における本件安全審査手続は違法である。
(被控訴人の主張)
①昭和36年9月22日の安全審査会においては,設置法16条,設
置法施行令4条,安全審査会運営規程8条に基づき,関係行政機関の
職員のうちから任命された審査委員については代理出席を認め,これ
らの代理人を定足数に加え,議決権を持つ旨決定している。これら委
員については,その者の有する専門的学識・経験とともに,当該行政
機関自体が有する高度の専門的知見を安全審査に役立てるため,その
者を所属関係行政機関を代表する者として選任する趣旨であるから,
学識経験ある者のうちから任命された審査委員の場合とは異なって,
適切な代理人である限り,代理出席を認めても何ら設置法の趣旨に反
するものではない。そして,安全審査会に代理者を出席させた審査委
員は,いずれも関係行政機関の職員から任命されたものであるから違
法ではない。
また,調査委員制度は,安全審査会が昭和44年6月,設置法16
条,設置法施行令4条,安全審査会運営規程8条に基づき,審査委員
を補助して原子炉に係る安全性に関する事項を調査することによって
調査審議の能率の向上を図るために設けられたものであり,法令上の
根拠を有するから,調査委員が安全審査会に出席したことは適法であ
る。
②上記第158回の安全審査会では,当時の委員総数19名に対して,
出席者数が10名であるから(甲89の①,定足数を満たしている)
ので適法である。
(3)規制法24条1項1号所定の要件適合性は,司法審査の対象となるか否
か。
(控訴人らの主張)
ア上記(1)アの控訴人らの主張のとおり,規制法24条1項1号の要件に
係る違法事由は,本件処分の取消訴訟の審理の対象となる。
イ(ア)ウラン燃料は,ウラン鉱石を精錬,転換,濃縮,再転換,加工して
原子力発電所で燃焼されることになる。そして,日本の原子力平和利用
の結果として生まれた原子力発電所で燃焼した使用済みのウラン燃料は,
一定期間原子炉施設内の使用済燃料プールで冷却した後,再処理工場に
運ばれて再処理され,再処理で抽出したプルトニウムがイギリスやフラ
ンスの各再処理工場で原爆材料に転用され,原爆や水爆,中性子爆弾等
の核爆弾が製造されている。なお,フランスから日本に対し,平成4年
11月から平成5年1月にかけて,軽水炉原子力発電所の使用済燃料を
フランスで再処理して抽出したプルトニウム1.5tが輸送船で運ばれ
た際,日本政府は,当該返還プルトニウムは日本発の分がそのまま帰っ
てくるのではなく,等量で返還されるものであることを認めているから,
日本発の使用済みのウラン燃料が核兵器に転用されていることになる。
(イ)核燃料サイクルから生まれる濃縮ウランの残り滓である劣化ウラン
は,対戦車用等の弾薬に用いられたり,劣化ウラン弾に加工され,実際
に戦争に使用されたりしている。劣化ウランの実戦使用は,平成3年の
湾岸戦争,ユーゴスラビアの内戦のほか,平成7年のボスニア・ヘルツ
ェゴミナ紛争,平成11年のコソボ・セルビア紛争であり,また,沖縄
の射爆場で演習にこれが使用されたことがある。
(ウ)原子力の歴史を振り返ると,軍事費だけで原子力技術を維持できな
くなったため「平和利用」を口実にその技術維持の負担を民間に求め,
てきたものであって,原子力利用は軍事と表裏一体で進められてきた。
日本の原子力政策は,戦争技術としてスタートした原子力を,あたかも
平和利用と装って進めてきた。
エしたがって,本件処分は,規制法24条1項1号に違反する。
(被控訴人の主張)
ア上記(1)アの被控訴人の主張のとおり,規制法24条1項1号の要件に
係る違法事由は,本件処分の取消訴訟の審理の対象とはならないから,控
訴人らの主張は失当である。
イ規制法24条1項1号は,我が国における原子力の研究,開発及び利用
を平和の目的に限って行うという我が国の原子力に関する基本政策に適合
することの要件を定めるものである。そして,本件原子炉は,商業用発電
炉であるから平和目的以外に利用されるおそれはない。また,核燃料物質
は,低濃縮二酸化ウランであり,予定使用量は適正であり,更に使用済燃
料の再処理によって取り出されるプルトニウムは規制法により厳しく規制
されるので,平和目的以外に利用されるおそれはない。
(4)規制法24条1項2号所定の要件適合性は,司法審査の対象となるか否
か。
(控訴人らの主張)
ア上記(1)アの控訴人らの主張のとおり,規制法24条1項2号の要件に
係る違法事由は,本件処分の取消訴訟の審理の対象となる。
イ(ア)日本の電力会社は,地域を電力会社毎に分割した地域独占体制と総
括原価で決められる価格システムを採用しているので,その電気料金は
世界で最も高く,米国の2倍,ヨーロッパの1.5倍であり,その是正
のために電力事業の規制緩和と自由化政策が展開されている。そして,
日本の電力会社は,10社合計の平成12年3月決算で売上15兆30
00億円に対し負債29兆5000億円であって,膨大な負債を抱えて
いる。
(イ)本件原子力発電所は,現在合計出力821.2万kWの世界最大の
原子力発電所であるが,消費地東京から約250㎞離れて建設されてお
り,送電ロスが大きい。そこで,現在注目されているのが小型分散電源
であるマイクロガスタービンや燃料電池である。
マイクロガスタービンは,自動車用ターボチャージャーの技術を応用
した数百kW以下の小容量ガスタービンで,小型ガスタービン,高速発
電機,周波数変換器(インバータ)を組み合わせた,都市ガスやLPG,
灯油などを燃料とするシンプルで低コストの発電機である。また,燃料
電池は,水素と酸素から電気を取り出すクリーンな発電装置である。
今では電力会社も新エネルギーとして研究開発を行っているものの,
現在の大規模集中発電,長距離送電を前提にした電力会社が独占的に小
型分散電源方式に対応できるとは考えられず,ガス会社やその他の新会
社で対応することにならざるを得ない。
(ウ)こうした発電システムの革命的大変化が目前に迫っている段階にお
いては,膨大な負債を抱える電力会社が将来とも計画的に原子力発電を
遂行する義務を果たすことはできない。
ウ(ア)20世紀は,社会制度も技術も効率を求めて大規模集中化し,一方
で,エネルギーの大量消費が地球温暖化をもたらし,便利さや効果を目
的に使用した放射性物質や化学物質が放射能汚染や化学物質汚染をもた
らしているから,21世紀はこうした問題を解決しなければ人類はおろ
か地球の存在すら危ぶまれる事態になっている。
原子力利用で生み出された核のゴミは永久に管理しなければならず,
将来世代に負の遺産として残される,高レベル放射性廃棄物のガラス固
体は,40ないし50年間青森県ω10で冷却管理し,その後高レベル
処分地に地下深く埋設され400年間管理しなければならない計画とな
っているが,その埋設処分は決まっておらず,試験地さえ未定である。
また,電力会社が将来数百年も存在すること自体が予想し難いことであ
る。
(イ)今後の発電システムが急激に変化することが予想される中で,民間
の電力会社が原子力発電所を維持管理することや,原子力発電所を運転
していくことに伴い必然的に生み出される核のゴミを,想像を超える長
期間安全に管理することは不可能である。そして,放射性廃棄物の最終
処分の方法及び廃炉の処理方法とその安全性が確立しない限り「原子,
力の利用及び開発の計画的遂行」は不可能である。
エしたがって,本件処分は,規制法24条1項2号に違反する。
(被控訴人の主張)
ア上記(1)アの被控訴人の主張のとおり,規制法24条1項2号の要件に
係る違法事由は,本件処分の取消訴訟の審理の対象とはならないから,控
訴人らの主張は失当である。
イ規制法24条1項2号は,我が国における原子力の開発及び利用を長期
的視野に立って計画的に遂行するとの我が国の原子力に関する基本政策に
適合することの要件を定めるものである。そして,本件原子炉の設置は,
原子力開発利用長期計画に定められた我が国における原子力開発・利用の
方向に沿っており,原子力の開発及び利用の計画的遂行に支障を及ぼすお
それはない。
(5)規制法24条1項3号のうち経理的基礎に係る部分の要件適合性は,司
法審査の対象となるか否か。また,同条1項3号のうち技術的能力に係る部
分の要件適合性の判断に不合理な点はあるか否か。
ア規制法24条1項3号のうち経理的基礎に係る部分について
(控訴人らの主張)
(ア)上記(1)アの控訴人らの主張のとおり,規制法24条1項3号のう
ち経理的基礎に係る部分に係る違法事由についても,本件処分の取消訴
訟の審理の対象となる。
(イ)東京電力は,上記(4)の控訴人らの主張のとおり膨大な負債を抱え
ており,原子力発電所の事故によって生じる損失を補償し得る経理的基
礎を有していない。
(ウ)したがって,本件処分は,規制法24条1項3号のうち経理的基礎
に係る部分に違反する。
(被控訴人の主張)
(ア)上記(1)アの被控訴人の主張のとおり,規制法24条1項3号のう
ち経理的基礎に係る部分に係る違法事由は,本件処分の取消訴訟の審理
の対象とはならないから,控訴人らの主張は失当である。
(イ)規制法24条1項3号のうち経理的基礎に係る部分は,原子炉の設
置,運転等をするに足りる十分な資金的裏付けがあることの要件を定め
るものである。そして,東京電力の資金調達能力及び原子炉設置のため
の資金計画に照らし,東京電力には原子炉を設置するために必要な経理
的基礎がある。
イ規制法24条1項3号のうち技術的能力に係る部分について
(控訴人らの主張)
(ア)①規制法24条1項3号のうち技術的能力に係る部分の要件は,原
子炉を設置しようとする者が原子炉の設置,運転につき所定の技術的
能力を欠くときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,
身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するな
ど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ,上記災害
が万が一にも起こらないようにするため,原子炉設置許可の段階で,
原子炉を設置しようとする者の技術的能力について,科学的,専門技
術的見地から十分な審査を行わせるものである。
②しかし,原子力委員会若しくは安全審査会の本件安全審査で用いら
れ,また,他の原子力発電所を含めて現在行われている技術的能力に
関する安全審査の方法は破綻しており,実際の技術的能力を審査でき
ていない。
すなわち,電気事業者の原子炉設置許可申請書に記載される技術者
の経験年数が実態と異なることに加えて,国家資格である核燃料取扱
主任者資格の取得者の存在・数が実際の安全性を確保するものではな
く,とりわけ上記(1)イの控訴人らの主張に係るJCO事故では,事
故の原因となった沈殿槽へのウラン溶液の複数バッチ投入につき核燃
料取扱主任者資格取得者が深く関与し,素人でもわかるような危険を
看過して違法作業に積極的な承認を与えていたことから,国家資格取
得者がいることは安全上プラスになっていない。むしろ,JCO事故
からは,核燃料取扱主任者資格取得者が多数いても,それらの者は臨
界規制を順守させることについて全く役に立たず,違法作業をしても
大丈夫であるという形でその知識を悪用して違法作業を支援する危険
性があると判断せざるを得ず,また,核燃料取扱主任者資格を取得し
ていても,臨界管理の初歩的な知識に欠ける,臨界管理能力の全くな
い者が存在すると判断せざるを得ないから,現状からは,核燃料取扱
主任者資格を持つ者がいるということは臨界安全性を保証するもので
はなく,その存在がプラスになるのかどうかさえ怪しいというべきで
ある。そして,原子力委員会若しくは安全審査会による安全審査に当
たり,原子炉設置許可申請をした電気事業者からその技術者の経歴や
経験年数,国家資格者の数を提出させるだけでは電気事業者の技術的
能力を評価することはできないので,現在の技術的能力に関する安全
審査の方法には欠陥がある。
③このため,本件原子炉施設に対する科学的,専門技術的な本件安全
審査においては,東京電力の技術能力に照らして「原子炉等による災
害が万が一にも起こらないこと」が調査審議の過程において十分に確
認されていない。
(イ)①経済産業省原子力安全・保安院は,平成14年8月29日,東京
電力の福島県内の福島第一・第二原発と新潟県内の本件原子力発電所
の合計原子力発電所13基において,昭和61年から平成13年にか
けて東京電力の自主点検記録に29件の不正があったことを発表した。
炉心シュラウドのひび割れについてみると,東京電力の公式の発表
では,福島第一原発2号機で平成6年6月に中間部リングで見つかっ
たひび割れが最初とされていたが,平成3年に福島第一原発1号機と
4号機でひび割れが見つかっていたことが明らかになった。同2号機
で見つかったひび割れも,当時公表されていたよりはるかに大規模で
深刻なものであることが判明した。しかも,東京電力において,ひび
割れが見つかっていないが「予防保全対策」として炉心シュラウドを
交換すると説明していた福島第一原発のシュラウドには,すべてひび
割れが起きていたことが明らかになった。そして,耐応力腐食割れ材
料であるSUS316L材を使用した福島第二原発や本件原子力発電
所の各シュラウドでも運転開始から10年程度でひび割れが見つかっ
ていたが,隠蔽されたまま運転が続けられていた。こうした一連の事
故隠し,損傷隠しは,保守点検を担当する東京電力の補修部が行って
いたが,これを知った東京電力の幹部も放置していた。
原子炉の基本設計が理論的に未然防止をうたう設計であり,また,
常日頃の運転における健全性を維持する設計であったとしても,実際
の電気事業者が事故や損傷を隠し,これを経済産業省原子力安全・保
安院等が発見することができずに16年もの間放置してしまえば,重
大な事故につながる可能性が出てくるのは明らかである。
技術的な能力においても,社会的な信頼性という観点からみても,
事故隠しや記録の改竄を行う東京電力には本件原子力発電所の運転を
する資格はない。
②総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子力安全規制法
制検討小委員会において,平成14年9月13日,同委員から世界初
のシュラウド維持基準を盛り込んだ日本版維持基準の導入が提案され
た。
しかし,東京電力は,平成6年の福島第一原発2号機の炉心シュラ
ウドひび割れ時には,ひび割れは進展しないと主張し,ブラケット工
法(シュラウドの上部胴と中間部胴をその溶接部外側の円周上でステ
ンレス金具を介してボルトを用いて取り付ける工法)という簡単な修
理を施しただけで運転を再開したが,後にシュラウド交換という大手
術に踏み切った。このことは,福島第二原発3号機でとったタイロッ
ド工法(シュラウド全体を固定するため,原子力圧力容器とシュラウ
ドの間に長尺の支柱を90度感覚で4箇所に取り付けて補修する方
法)のような最悪の事態を防ぐためだけの簡単な修理では全く不十分
であったこと,すなわち自らの見通しが誤っていたことを自ら示した
もので,まさに,その見通しの甘さを露呈したものにほかならない。
このような東京電力が,新しい上記シュラウド維持基準について,し
かも米国ではいまだ導入もされていない炉心シュラウドの応力腐食割
れに関する世界初の維持基準について,適切にこれを運用し得る技術
的能力は有していない。
(ウ)したがって,本件処分は,規制法24条1項3号のうち技術的能力
に係る部分に違反する。
(被控訴人の主張)
規制法24条1項3号のうち技術的能力に係る部分は,主として原子炉
施設による災害の防止を図るという観点から規定されたものである。そし
て,東京電力の擁する技術者の質及び数,技術者の養成計画等に照らすと,
東京電力には本件原子炉の建設に必要な技術的能力及び本件原子炉の運転
を適確に遂行するに足りる技術的能力がある。
(6)規制法24条1項4号所定の要件適合性の判断に不合理な点はあるか否
か。
ア原子炉施設の安全性の意義とその安全審査のあり方をどのように考える
か。
(ア)原子炉施設の安全性の意義としきい値の存否
(控訴人らの主張)
①原子力発電所は,その平常運転時において内部に極めて毒性の高い
核分裂生成物など放射性物質を大量に産出するばかりでなく,平常運
転時においてもその幾分かを気体あるいは液体として必然的に周辺環
境に排出し,発電所周辺を汚染する。このため,原子炉施設の周辺住
民らは,その位置,運転稼働により何らかの放射線被ばくを避け得な
い。
すなわち,平常運転時における放射線被ばくは長期かつ広範にわた
り,永い被害をもたらすものである。この被ばくは,比較的低線量放
射線によるものではあるが,原子炉の運転を継続している限り放射性
物質を含む気体及び液体の排出は続き,これによる被ばくは恒常的か
つ長期に継続する。しかも,気体及び液体中の放射性物質はそれ自身
自然的条件によって拡散するばかりでなく,付着ないし濃縮された野
菜や魚介類は自然的社会的な流通によって拡散し,また,遺伝的影響
を受けた人の社会的交通によりその影響は広範囲に広がって行くので
あって,その広がりは想像を超えるものがある。加えて,その影響は
晩発性障害ないしは遺伝的障害に及び,個体の一生を超え数世代にわ
たることとなる。
また,原子力発電所による放射線被ばくは,公衆なかんずく本件原
子炉敷地周辺の公衆にとっては,選択の余地はなく一方的かつ不可避
にもたらされる。しかも,本件原子炉施設の周辺の控訴人らは,医療
被ばくと異なり,選択の余地なく何の対価も利益もなしに「優先的
に」望まない放射線被害を余儀なくされ,これによるリスクを負担す
る。
さらに,原子力発電所による放射線被ばくは,低線量のために,そ
の被害,影響が不可視的であり,因果関係の証明はほとんど不可能で
あって,個体レベルでは晩発性障害として永い年月を経て発症し,ま
た多くは遺伝的影響障害にとどまるのである。しかも,被ばくを受け
たすべてに障害が顕在化するわけでなく,その被害は確率的発生であ
って,発病はごく少数者にとどまる。したがって,被害が出ても立証
は困難であり,これを法的社会的に問題とすることはほとんどできず,
その被害を回復する方途がないので,本件原子炉施設の周辺の控訴人
らは,被害が出てから争うことは不可能であり,まさにその設置,運
転において被害発生の危険性において問題にするしかない。
②原子炉施設の危険性は,いったん事故が発生した場合,その周辺住
民のみならず国民的,場合によっては地球的規模で甚大な被害を及ぼ
し,数世代に及ぶ回復し難い被害を引き起こすものであって,他の各
種の機械,装置等とはその規模において比較にならない。
また,平常運転時における放射線被ばくについても,放射線の危険
性については,いまだ十分解明されておらず,低線量放射線被ばくの
影響についての人類の知見は,短い間に何度も見直しを迫られており,
更に核種毎の挙動,濃縮なども確定した知見はなく,その全容は解明
されていない。
すなわち,放射線が発見されたのは1885年であり,その後19
02年に初めて制限値(1日換算で10レム)が出されたが,これが
1956年には職業人で1日換算で0.01レム(年間5レム)と6
00分の1に下げられている。さらに,T65D(Tentative196
5Doses・1965年暫定線量推定方式)もその後の新たな研究であ
るDS86(DosimetrySystem1986・線量体系1986)によ
り制限値が従前の3ないし10倍以上の厳格な数値に改訂されたので
ある。これは,放射線被ばくの知見がいまだ発展途上にあること,そ
して放射線被ばくのリスク評価に関する定見はいまだ確立していない
ことを示している。したがって,低線量被ばくの人体への影響は今日
なお不明な点があり,ICRPにおいてもこれ以下の線量では障害が
ないというしきい値はないとしている。
後記の被控訴人の主張においては,自然的放射線被ばくの地域差や
変動差に言及するが,現在でも低線量の自然放射線被ばくによる影響
を把握することは著しく困難である。低線量放射線被ばくの影響は,
晩発的・遺伝的・確率的である上,個体毎に食物,飲料水,更には職
業や移動,傷病歴及び医療機会など社会的個体的要因が全く異なって
いることに加え,集団的にも前史ないしは歴史的な年月の間に同地で
の自然放射線の影響を受けにくい,ないしは放射線核種を取り込みに
くい体質を獲得した可能性も否定することができない。今日では低線
量放射線被ばくの影響について「しきい値」がないことは定説であっ
て,低線量放射線被ばくの影響の把握も極めて困難であるから,九州
において関東に比較して多くの人が晩発性障害や遺伝的障害を受けて
いることを裏付ける証拠や,自然放射線被ばくにおける地域差よりも
小さい低線量放射線被ばくによる影響に関して有意な差を証明する証
拠がないとしても,その証拠がないことがまさに影響のないことと同
視されるならば「しきい値」がないとされた意義を没却することに,
なる。
③そこで,原子炉施設の危険性の程度と得られる利益の大きさを比較
衡量してその存在が許容されるとしても,原子炉施設の危険性が他の
機械,装置等とはその規模において比較にならない程甚大であるから,
「危険の程度と利益の大きさの比較衡量」は厳格かつ具体的になされ
るべきである。
そして,原子炉施設の危険性が社会通念上容認される水準以下であ
る場合にはその存在が許容されるとしても,社会通念上容認できる水
準以下の危険性とは,原子力発電所の特質に対応しほぼ絶対的な安全
性に相当するものをいうと解すべきである。
しかし,平常運転時における放射線被ばくを日々直接受ける本件原
子炉の周辺住民である控訴人らにとって,上記のように原子炉施設か
ら得られる利益はなく,また,控訴人らが自らないし子孫の生命,健
康を売り渡した事実はなく,これらの危険性をもって贖った利益もな
いから,上記比較衡量はそもそも成り立たない。本件原子炉による発
電が東京方面における経済的その他の諸活動に有用でありさえすれば,
その「利益」と「比較衡量」してその程度の本件原子炉の周辺住民の
放射線被ばくによるリスク負担は「無視できる」あるいは「社会的に
容認できる」ということはあり得ない。
このような観点からすれば「災害の防止上支障がない(規制法,」
24条1項4号)とは,平常運転時における被ばく低減対策として
「遺伝的,晩発性障害の発生確率がおよそ科学的にないと断定できる
程度に低い線量限度」を採用すべきであるから,本件原子炉施設は,
その周辺住民である控訴人らにとって,絶対的な安全性を保障し得る
ものでなければならない。
(被控訴人の主張)
①現代社会において現に存在が認容されている各種の機械,装置等は,
その危険性が社会通念上容認できる水準以下である場合,その危険性
の程度と得られる利益の大きさを比較衡量してその存在が許容されて
おり,この点では原子炉施設も例外ではなく,他方,控訴人らの主張
する絶対的な安全性の定義自体,具体性がなく不明確なものであり,
基準となり得ない。
②放射線被ばくによる人体への影響については,控訴人らの主張に係
る調査,研究に限らず多数の調査,研究がされいる。
そして,しきい値に関しては,高線量放射線による急性障害のしき
い値が確認されている一方,低線量放射線による晩発性障害と遺伝的
障害については,たとえ障害が起こり得るとしても,その頻度が極め
て小さく,放射線を被ばくした場合としない場合を比較してみても,
障害の発生率に意味のある差は認められず,被ばく線量とそれによっ
て生ずる障害の関係を明確にする知見はいまだになく,現在において
もなおしきい値があるか否かについては,いずれとも断定することは
できない。
このため,現在,放射線防護においては,いかに低い線量でも障害
が生ずるかもしれないという仮定,いわゆる「しきい値がない」とい
う仮定のもとに,遺伝的障害と晩発性障害の発生確率が無視できる程
低い線量を社会的に容認できる線量限度としているものであるが,こ
れは安全を重視する立場から,あえてしきい値が存在しないとしたに
すぎず,現実にしきい値がないことが確認されたことによるのではな
い。
③ICRPは,ALAPを放射線防護の基本原則としている(乙21
の193ないし196頁,乙22の3,12頁。そして,現状にお)
いて低線量放射線被ばくの人体に対する影響とその許容限度を理解す
るに際し参考になるのが,自然放射線被ばくにおける地域差である。
すなわち,宇宙,大地及び食物からの自然放射線による1人当たり
の被ばく線量については,我が国では国内で最も大きい岐阜県では年
間1.19ミリシーベルト(0.119レム,最も小さい神奈川県)
では年間0.81ミリシーベルト(0.081レム)と年間約0.3
8ミリシーベルト(0.038レム)の差があり,海外ではブラジル
のガラパリ地方では年間約10ミリシーベルト(1レム)もの自然放
射線を受けている(乙118の26頁。また,自然放射線の地域差)
による影響については,我が国の場合,例えば,九州と関東との間に
は年間0.2ミリシーベルト(0.02レム)程度の差異が認められ
るにもかかわらず,九州において関東に比較してより多くの人が晩発
性障害や遺伝的障害を受けていることを裏付ける証拠は全く得られて
いない(乙18の95頁,乙63の①ないし④)。また,諸外国におけ
る自然放射線による1人当たりの被ばく線量が大きく異なる地域を相
互に比較してみても,晩発性障害や遺伝的障害の発生率には,意味の
ある差があるという結果は全く認められていない(乙26の131
頁。)
このように自然放射線被ばくにおける地域差よりも小さい低線量放
射線被ばくによる影響に関しては,有意な差が現れていないことが明
らかであり,仮に,有意な差が存在するとしても,それは自然放射線
等の環境によって生ずる範囲を超えるものではない。
④したがって,控訴人らの主張する絶対的な安全性は,現に存在する
自然放射線被ばくを何ら顧慮していないという意味において極めて不
当であり,かつ独自の見解である。
(イ)安全審査のあり方
(控訴人らの主張)
①規制法24条1項4号の適合性の判断においては,少なくとも原子
力発電所の必要性を所与の前提として本件安全審査が行われているか
ら,電力の安定供給という必要性の観点から厳しい審査がなされるべ
きである。
しかし,東京電力は,平成14年4月15日,福島第一原発6号機
を点検のため停止した後,東京電力の全原子力発電所17基(173
0.8万kW)が停止し,同年5月7日に本件原子力発電所6号機が
運転再開し,以降同年6月18日に同発電所7号機,同年7月11日
に福島第一原発6号機,同年7月22日に本件原子力発電所4号機,
同年8月13日に福島第一原発3号機,同月27日に福島第二原発1
号機,同年9月9日に福島第一原発5号機が運転再開するなどしたが,
原子力発電所のピーク時電力である夏の需要期においても,最大電力
量をカバーし得たのであるから,本件原子炉施設がなくとも電力の安
定供給が行われている。今後は,高効率の天然ガスコンバインド発電
所などの建設が進んでいることから,原子力発電所の必要性は薄らい
でおり,今こそ節電や省エネルギー社会の実現こそが求められている。
したがって,現在では地球的規模の災害をもたらしかねない程のリ
スクを抱えて原子力発電所を運転する必要性はなくなっているから,
本件安全審査には瑕疵がある。
②aまた,原子炉設置許可処分は,原子炉の設置,運転に関する許認
可の中で冒頭に位置し,唯一専門家で構成される当時の原子力委員
会が安全審査を行う,最も重要な手続である。この手続においては,
原子炉施設が極めて大きな潜在的危険性を有する施設であることか
ら,平常時はもちろん,事故・故障時においても大量の放射性物質
を環境に放出することがないように設計されていることが審査され
る。各種の事故防止対策(事故拡大防止対策を含む)が十分なも。
のかどうかの評価判断は,設計・施工・運転が完全になされるとい
う前提での設計方針そのものの総合評価のみならず,具体的設計・
施工・運転の段階でミスがあった場合でも大量の放射性物質放出に
至らないようにできることの確認が不可欠である。安全審査指針に
おいて異常な過渡変化・事故の解析評価に当たって事故対策の各機
能毎に最も厳しい単一の故障(ないし誤動作)を想定することを要
求しているのはまさしく後者の考慮のためである。
bそこで,原子炉設置許可の際の安全審査においては,原子炉施設
の固有の潜在的危険性を確認し,その上で安全審査がその後の手続
との関係で極めて重要な位置付けにあること,そして冒頭の審査と
してその後の手続の各段階で後日の異常な過渡変化や事故を起こす
要因が入り込んだとしても「災害の防止上支障がないものである,
こと(規制法24条1項4号)の確認のために安全評価が欠かせ」
ないこと,さらに,そのための安全評価指針がこのような前提で策
定されており,少なくとも調査審議の過程における安全評価に誤り
があれば事故防止対策の合理性を欠き,安全審査自体の誤りとなる
というべきである。
③aさらに,後記の被控訴人の主張に従えば,原子炉設置許可の際の
安全審査においては安全設計そのものの総合評価のみで足りること
になるが,これでは,詳細設計以降の手続や施工,運転の過程で何
も問題がなければ放射性物質が放出されないことを確認しているに
すぎず,原子炉特有の潜在的危険性が万が一にも発生しないことを
審査するという安全審査固有の趣旨が没却され,原子炉設置許可は,
一般の工場等の建設とほぼ同列のものになってしまうのである。
しかし,規制法は,原子力施設が普通の工場とは異なる極めて大
きな潜在的危険性を有しているために,特別に原子力安全委員会が
安全審査をする手続を設けている。また,原子炉施設の事故が現実
には建設時の不良工事や建設後の老朽化や運転上のミスに起因する
ことが多いことからみても,原子炉施設の安全性を評価するには,
詳細設計以降の手続や施工,運転上の欠陥を想定した上で異常な過
渡変化や事故を評価判断するしかないのである。さらに,後記の被
控訴人の主張に係る「原子炉施設の位置,構造及び設備について,
放射性物質の有する潜在的危険性を顕在化させない対策が適切に講
じられている」か否かの判断も,異常な過渡変化及び事故の解析結
果によって確認されるのであるから,これを抜きに判断できない性
格のものであるし,異常な過渡変化や事故の解析に誤りがあれば,
対策が適切に講じられているという判断の根拠が失われるのである
から,安全審査の判断も不合理なものになる。
b原子力委員会若しくは安全審査会の審査対象の範囲を伊方原発最
高裁判決のいう基本設計ないし基本的設計方針に限るとしても,本
件安全審査においても,東京電力の技術的能力と本件原子炉の位置,
構造及び設備の安全性の両面にわたり「原子炉等による災害が万が
一にも起こらないこと」が調査審議の過程において十分に確認され
るべきである。
後記の被控訴人の主張は,上記基本設計の範囲を抽象化しかつ限
定的にし,安全審査指針に定めのある事故対策の方針的なものを基
本的設計方針と主張するものである。このような被控訴人の主張か
らすれば,安全審査では安全維持に関する機器についてはその機能
が十分に確保される設計方針であることが根幹とならざるを得ない
が,これでは安全審査で審議検討すべき根幹まで対象外としようと
するものであるから不当である。また,後記の被控訴人の主張では,
事故防止対策にかかわる設計それ自体を直接の審査対象とするもの
はないから,仮にこの安全評価に誤りがあっても,それだけで直ち
に当該事故防止対策が合理性を欠くとはいえないことになるが,安
全評価に誤りがあれば,当該事故防止対策の合理性は白紙であり,
少なくとも審査をしたとことにはならないので,専門技術的知見に
よる総合判断の結果なされたはずの設置許可処分は,その調査審議
の過程において重大な過誤(審査・判断していないという過誤)を
犯したも同然であり,この点からすればそのような安全審査は誤り
であり,それによる設置許可処分は違法である。
cまた,後記の被控訴人の主張に係る「原子炉の位置,構造及び設
備について,放射性物質の有する潜在的危険性を顕在化させない対
策が適切に講じられている」か否かという判断も,これらの異常な
過渡変化や事故時の解析結果を通じて,想定して確認するものであ
るから,これを行わないですませることはできないし,さらに,そ
の解析に誤りがあれば,潜在的危険性を顕在化させない対策が適切
に講じられているという判断の根拠が失われてしまう結果となる。
そして,安全審査において,異常な過渡変化時や事故時における周
辺地域への影響評価を行わなくてもよいとするならば,各規制の冒
頭に位置する安全審査の意義を半減させることになる。
④したがって,原子炉設置許可の際の安全審査においては,原子炉施
設の必要性の有無とともに「災害の防止上支障がないものであるこ,
」,と(規制法24条1項4号)の確認のため,事故時の影響をはじめ
将来の予測にかかわる事項を含めて「原子炉等による災害が万が一に
も起こらないこと」を多角的,総合的に審査すべきであって,これら
を怠っている本件安全審査には看過し難い過誤,欠落がある。
(被控訴人の主張)
①a本件処分の違法事由として裁判所の審理・判断の対象となる事項
は,内閣総理大臣が規制法所定の許可要件ついて審査した対象事項
に限定されるものである。
そして,規制法24条1項4号は,原子炉施設の位置,構造及び
設備がその基本設計ないし基本的設計方針において,原子炉等によ
る災害の防止上支障がないものであることの要件を定めるものであ
り,同号の文言を規制法の体系の中で位置づけながら解釈すれば,
同号の要件適合性の審査(安全審査)の対象となるのは,原子炉施
設の安全性に直接かかわる事項であって,かつ,原子炉施設の基本
設計ないし基本的設計方針の安全性にかかわる事項に限られる。
同号所定の適合性の審査は,原子炉施設の安全性に関する審査,
すなわち安全審査であるが,この審査が求められるのは,原子炉が
核燃料物質を燃料として使用し,その稼働により放射性物質を発生
させるものであって,原子炉施設の安全性が確保されないときは,
当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危
害を及ぼし,周辺の環境を放射性物質によって汚染するなど,深刻
な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ,その災害が万が
一にも起こらないようにするためであり,言い換えれば,放射性物
質の有する潜在的危険性を顕在化させないことを確保するためであ
る。したがって,安全審査においては,原子炉設置許可申請書に記
載された「原子炉及びその附属施設(以下「原子炉施設」とい
う)の位置,構造及び設備(規制法23条2項5号)について,。」
放射性物質の有する潜在的危険性を顕在化させない対策が適切に講
じられているかどうかが審査されるのであり,逆にいえば安全審査
においては,上記の対策が適切なものかどうかが調査審議され,ま
た,審査すべき対象は,原子炉施設の位置,構造及び設備に尽きる
のである。
bこのような観点から,原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方
針として安全審査において確認すべき事項を平常運転時と事故時に
区分して整理すると,
(a)本件原子炉の平常運転によって放射性物質の有する潜在的危
険性が顕在化しないように,平常運転時における被ばく低減対策
が適切に講じられていること,
(b)本件原子炉施設に事故が発生することにより放射性物質の有
する潜在的危険性が顕在化しないように,自然的立地条件との関
係をも含めた事故防止対策が適切に講じられること,
の2点に尽きる。
そして,本来,上記(a)及び(b)の点が確認されれば,本件原子
炉施設の位置,構造及び設備が,その基本設計ないし基本的設計方
針において,原子炉等による災害の防止上支障がないものであり,
本件原子炉施設が原子炉等規制法24条1項4号の要件に適合する
ことが確認されることとなる。
cしかし,安全審査においては,上記(a)及び(b)の点についての
対策を確認するだけにとどめず,申請者の実施した上記(a)の平常
運転時における被ばく低減対策に係る被ばく線量評価及び(b)の事
故防止対策に係る安全評価の妥当性をも合わせて確認している。
この申請者の実施する安全評価は,通常運転状態を超えるような
異常な事態をあえて想定した上で解析評価を行い,そのような事態
においても,当該原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針にお
いて事故防止対策のために考慮された機器系統などの設計が妥当で
あることを念のために確認するためのものである。
そして,このような安全評価が妥当であるかどうかの審査は,
「原子炉施設の位置,構造及び設備」そのものを審査するのではな
く「原子炉施設の位置,構造及び設備」について,放射性物質の,
有する潜在的危険性を顕在化させない対策が適切に講じられている
と判断したこと,すなわち,事故防止対策に係る安全設計が適切で
あると判断したことが妥当であったか否かを念のため確認するため
に行われるものである。このように,安全審査において申請者が行
った安全評価の妥当性について審査するのは,原子炉施設が放射性
物質を有しているという点を考慮し,念には念を入れるという考え
方に基づくものである。
また,このような観点から,原子炉規則1条の2第2項10号は,
申請者が行った安全評価を示すものとして「原子炉の操作上の過,
失,機械又は装置の故障,地震,火災等があった場合に発生すると
想定される原子炉の事故の種類,程度,影響等に関する説明書」を
申請書に添付するよう要求しているのである。
dしたがって,申請者が実施した安全評価は,当該原子炉施設の事
故防止対策に係る設計の妥当性を確認する一つの手法としてされる
ものであるが,事故防止対策に係る設計それ自体を直接の審査対象
とするものではないから,仮にこの安全評価に誤りがあっても,そ
れだけで直ちに当該事故防止対策が合理性を欠くとはいえない。ま
た,事故防止対策に係る「原子炉施設の位置,構造及び設備(安」
全設計)が規制法24条1項4号に適合するということは,安全評
価によって確認し得るが,逆に安全評価が妥当でないからといって,
そのことから直ちに同項4号要件への適合性が否定され,事故防止
対策に係る安全設計が同項4号に適合しなくなるわけではない。
②発電用原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針における安全審
査の内容を横断的かつ体系的に分野別に整理すると,a原子炉施設の
平常運転時における被ばく低減に係る安全確保対策,b原子炉施設の
事故防止に係る安全確保対策,c原子炉施設の公衆との離隔に係る安
全対策の三つとなり,その安全審査において確認すべき事項は,上記
①bの(a)及び(b)の点であるが,これらの審査においては,安全性
の確保に関する対策の審査そのものと,その申請者が行った安全評価
の妥当性に対する確認とに分けて整理することができる。
③以上の観点から,本件安全審査においては,安全設計審査指針など
の審査基準に照らし,本件原子炉施設が,その基本設計ないし基本的
設計方針において,a平常運転時の被ばく低減対策が適切に講じられ
ていること,b自然的立地条件との関係を含めた事故防止対策が適切
に講じられていることを確認し,併せて,本件申請者が行った平常運
転時の被ばく低減化対策に係る被ばく評価,事故防止対策に係る安全
評価及び公衆との離隔が妥当であることを確認し,その結果,本件補
正に係る本件申請が規制法24条1項4号所定の要件に適合すると判
断されたもので,不合理な点はない。
イ本件原子炉の平常運転時における被ばく低減対策に関する本件安全審査
の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点はあるか否か。
また,本件原子炉が上記具体的審査基準に適合し,その基本設計において,
平常運転時における放射性廃棄物について,本件原子炉敷地周辺の公衆に
対する放射線障害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調
査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
(ア)審査基準に不合理な点があるか否か。
①本件安全審査が基準とした公衆の線量当量限度は不当に高いもので
あるか否か。
(控訴人らの主張)
aICRPの被ばく線量限度に関する1958年(昭和33年)採
択の勧告は,最大許容被ばく線量を職業人に対し年間5レム,公衆
に対し年間0.5レムとしている。我が国の平常運転時の公衆の許
容被ばく線量は,上記ICRPの勧告を基に許容線量等を定める件
2条により年間0.5レムとされている。
b上記ICRPの勧告が職業人に対する許容被ばく線量を年間5レ
ムとした経緯は,人間が子供を持つ平均年齢を30歳と想定し,集
団にとって許容できる線量は30年間で6ないし10レムが上限で
あると考え,既に医療行為に伴って照射されている線量を4.5レ
ム程度と推定し,もし,すべての人工放射線による線量の限度を6
レムと定めるとすれば,既に医療行為によって照射された4.5レ
ムを差し引くと残りは1.5レムとなってしまい,これでは原子力
開発などで使うことのできる線量がはなはだしく狭苦しくなってし
まい,受け入れ困難な国があるので,医療上の被ばくは別に考える
としている。このことは照射線防護を使命とするICRPの立場か
らすれば本末転倒なことである。そして,職業人に対する許容被ば
く線量を年間5レム,公衆に対するそれを年0.5レムとした生物
学的な根拠はなく,ICRPは上記勧告において「勧告されている
最大許容被ばく線量は,最大の値であることが強調される」と申し
訳している。ICRPは,上記勧告を契機に,以後興隆してきた原
子力産業推進のための露払的立場を一層鮮明にしている。
cICRPは,被ばく線量限度に関する1977年(昭和52年)
採択の勧告において,死亡率が1万人に1人を超えない職業を高い
安全水準の職業と位置付け,職業人に対する許容被ばく線量年間5
レムの危険度を検討し,年間5レムであれば1万人に5人が死亡す
ることとなり,他の安全な職業より危険になるおそれがあるが,年
間5レムと定めてもその10分の1位の平均値に収まるものとの実
際論を持ち出して安全性は保たれたとしている。仮に,年間0.5
レム程度の被ばくで収まるのであれば,勧告は年間5レムの10分
の1である0.5レムと勧告すべきであったはずである。にもかか
わらず,1958年(昭和33年)採択の勧告の年間5レムにとど
め置いたのは不当である。
また,ICRPは,上記1977年採択の勧告では,公衆に対す
る線量当量限度について,一般公衆に対する死のリスクの容認でき
るレベルは,職業上のリスクより一桁低いと結論付けることができ
るとし,年間10のマイナス6乗ないし5乗の範囲のリスクは,公
衆の構成員にとっても容認できるであろうとし,これに相当する生
涯線量当量は年10ミリレムないし100ミリレムとなるけれども,
従来の勧告値である年間500ミリレムを引き続き用いても,ある
条件の下では安全性は保たれるとして,公衆に対する線量当量限度
の勧告を見送っている。
その後,ICRPは,1985年(昭和60年)のパリ会議声明
において,公衆の個々の構成員に対する線量当量限度を従来の年間
0.5レム(500ミリレム)を改め,年間0.1レム(100ミ
リレム)と勧告した。これは,1977年(昭和52年)採択の勧
告において,一般公衆は年間10万人に1人ないし100万人に1
人の死のリスクは容認されているとしていたので,少なくとも10
万人に1人という上限値,すなわち,年間100ミリレムを基本に
据えざるを得なくなっためである。
ICRPは,職業人に対する線量当量限度を年間5レムとするこ
とは変更せず,他方,ようやく公衆の個々の構成員に対する線量当
量限度を年間0.5レムからその5分の1の年間0.1レムに切り
下げたもので,この間原子力産業の成育を待っていたことがうかが
われる。
dICRPは,1990年(平成2年)採択の勧告において,職業
人に対する実効線量当量限度を年間50ミリシーベルト(5レム)
を超えないとの条件付で,年間の平均値が年間20ミリシーベルト
(2レム)とし,公衆の個々の構成員に対する実効線量限度を年間
1ミリシーベルト(0.1レム。特殊の状況の下では5年間にわた
る平均が年間1ミリシーベルトを超えなければ,単に1年ではもっ
と高い実効線量があり得る)とした。。
これは,従来のT65Dを見直したDS86の新しい被ばく線量
評価により決められたものであるが,P12は,T65DとDS8
6よれば,ICRPの上記職業人に対する線量当量限度年間5レム
及び公衆に対する線量当量限度年間0.1レムの勧告値と比べ,白
血病で2ないし4倍,それ以外の癌で5ないし10倍程度死亡のリ
スクが増加すると報告し,また,P13の研究によれば,ICRP
のリスク評価より10ないし50倍の危険性があるとされ,P14
の研究においても広島・長崎の被ばく集団よりも他の被ばく集団の
方が,同じ被ばく線量でも5ないし6倍高い癌死のリスクを負って
いるとの報告がなされていた。このような知見を考慮すると,IC
RPの1990年(平成2年)採択の勧告による上記勧告値は,不
必要に高すぎて危険であって,ICRPが安全性の側に立って放射
線防護のための勧告をしたとはいい難い。
低・微量線量の人類に対する危険性は分からないのが実情である
ところ,被控訴人は分からないことを奇貨として,不明を安全と言
い替えているにすぎない。
eICRPは,1954年(昭和29年)採択の勧告では,勧告値
が最大限であって「可能な最低のレベルに」被ばくを抑えるべきと
していたものを,1958年(昭和33年)採択の勧告では「実行
可能な限り低く」とし,1965年(昭和40年)採択の勧告では
「容易に達成できる限り低く」とし,更に1977年(昭和52
年)採択の勧告では「合理的に達成し得る限り低く」としたが,こ
れは放射線防護の基本精神を押しのけ,経済的理由を全面に出して
勧告値の切下げを引き伸ばしてきたものであって,これまでのIC
RPの勧告の変遷が単に分かりやすくするために表現を改めただけ
であるということはできない。そして,放射線防護を使命とするI
CRPは,勧告の基本精神というべき立場を著しく後退させ,原子
力産業推進のための露払的立場となっているから,ICRPの勧告
を守っていれば安全性は保たれるとの論理はもはや空論にすぎず,
その生物学的根拠はないから,ICRPの勧告は今や完全に破綻し
ている。
fしたがって,安全審査会が平常運転時の公衆の許容被ばく線量値
として採用した許容線量等を定める件2条所定の線量値である年間
0.5レムという数値は不当に高く,極めて危険であるから,本件
安全審査には瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
aICRPは,世界各国の放射線防護関連の専門家で構成され(乙
119の78ないし81頁,政府や特定の企業の意向に左右され)
ることなく,あくまでも客観的・中立的立場から放射線防護に関す
る勧告を行っている機関である。
bICRPは,1977年(昭和52年)採択の勧告において,公
衆に対する許容被ばく線量を年間5ミリシーベルト(0.5レム),
生涯を通して年平均1ミリシーベルト(0.1レム)とし,1985
年(昭和60年)のパリ会議において,上記勧告で定められた生涯
を通して受ける放射線の年平均線量当量が1ミリシーベルト(0.
1レム)であることをより確実に実行するためであるとして,公衆
に対する許容被ばく線量を年間1ミリシーベルト(0.1レム)とし,
生涯にわたる平均の年間線量が,これを超えない限り,実際の被ば
く線量については,数年間は年間5ミリシーベルト(0.5レム)が
許容されるとする声明を出した。これは,従来からの基本的考え方
(公衆に対する許容被ばく線量年間5ミリシーベルト(0.5レ
ム)の妥当性)を変更するものではなく,大きな混乱や不当な負担
を伴うことなく実行できるのであれば一層の安全が指向されるべき
であるという放射線防護の基本姿勢に基づくものである(乙64の
①ないし③,65の①②。)
我が国においても上記パリ会議の声明を取り入れた法令改正(平
成元年3月27日通商産業省告示第131号)により,公衆の線量
当量限度を実効線量当量として,1年間につき5ミリシーベルト
(0.5レム)を1ミリシーベルト(0.1レム)に変更し,また,
公衆に対する許容被ばく線量は,米国の基準である年間5ミリシー
ベルト(0.5レム)と同等以下で自然放射線の変動値以下である
ことからも,これらは合理的な値であると考えられる。
cICRPは,1958年(昭和33年,公衆に対する被ばく線)
量の限度を勧告するに当たり,放射線被ばくについてこの線量を超
えさえしなければよいというのではなく,被ばく線量をできるだけ
少なくするという,いわゆるALAPの考え方をも併せて勧告して
いる(乙21の219ないし226頁)。
我が国においても,このALAPの考え方を踏まえ,平常運転に
伴う公衆の被ばく線量を,上記の許容被ばく線量よりも更に一層低
く抑えるための努力が払われてきたが,その努力目標値を明らかに
することが望ましいとの観点から,昭和50年5月13日,線量目
標値指針(乙12)が定められ,放射性希ガスからのガンマ線によ
る全身被ばく線量及び液体廃棄物中の放射性物質に起因する全身被
ばく線量の評価値の合計値については年間0.05ミリシーベルト
(0.005レム,放射性ヨウ素に起因する甲状腺被ばく線量の)
評価値については年間0.15ミリシーベルト(0.015レム)
との努力目標値が明示され(乙12)ており,本件原子炉施設の安全
審査においては上記数値が使用されているものである。
本件安全審査においては,本件原子炉施設による公衆に対する被
ばく線量は,線量目標値指針の目標値を下回り,全身被ばく線量の
合計値については年間0.005ミリシーベルト(0.0005レ
ム)で,甲状腺被ばく線量については年間0.014ミリシーベル
ト(0.0014レム)であり,法令等に定められた許容被ばく線
量等をはるかに下回るものであることが確認されている(乙4の3
9頁。)
なお,控訴人らの主張する新しい線量評価DS86については,
被ばく線量による人体の組織への影響を最新の知見に基づきT65
Dから見直したものであり,ICRPは,この結果を考慮し,19
90年勧告を発表したが,自然放射線の地域による違い等を含め,
最終的に人体全体への影響を考慮した結果としての実効線量限度に
ついては従来の数値と同一となったものであり(乙120の54,
55頁,控訴人らの主張は,人体組織への影響評価の一部を恣意)
的に抽出したものに基づくもので,主張の前提を欠いている。
dさらに,本件訴訟においては,行訴法10条1項に基づき,職業
人の被ばくに関する違法事由は審理の対象とはならず,公衆被ばく
についてのみがその対象となる。
また,ICRPの勧告する線量限度は,行為による便益とそれに
よる被ばくの影響とを比較して数値を定めるものであり,人体が許
容し得る限界値を示したものではない。このような考え方に基づき,
ICRPの勧告は,自然放射線をその考慮の外とするとともに,行
為で生ずる被ばくにより,何の便益も得られない公衆に対する被ば
くと,便益が得られる職業被ばく又は医療被ばくとは,異なる扱い
としている(乙121の86ないし90頁)のであり,診断や治療
などによる医療被ばくについては,通常個人に直接の便益をもたら
すことを目的としたものであるから(言い換えれば,医療上の被ば
くをする個人はその医療行為の直接の利益を受ける者であることか
ら,職業被ばく及び公衆被ばくによる線量限度とは自ずと扱いが)
異なるものであるとして,医療被ばくには線量限度を適用すべきで
はないと勧告しているので,控訴人らの主張はICRPの勧告の内
容を正解しないものである。
eしたがって,許容線量等を定める件2条所定の線量値である年間
0.5レムという数値は不当に高いものではない。
②「線量目標値指針」の線量目標値に合理性があるか否か。
(控訴人らの主張)
a「線量目標値指針(乙12)では,原子力発電所周辺の公衆の」
被ばく線量は,全身につき年間5ミリレム,甲状腺に対する放射性
ヨウ素に起因する被ばくが年間15ミリレムと定められているが,
この目標値が仮に達成されたとしても,原子力発電所周辺の公衆が
30年間全身に被ばくする線量は,0.15レムとなり,これは1
962年(昭和37年)に国際連合放射線影響科学委員会が報告し
た人類の突然変異の倍加線量である年間15レムの1%に相当する
ので,周辺住民が遺伝的に障害を被る危険性が極めて高くなり,原
子力発電所周辺の集団に遺伝質の劣化をもたらすものである。
また,白血病その他の癌についても,癌の倍加線量は約10レム
相当であるから,年間5ミリレムの被ばくは倍加線量の0.05%
に相当し,癌に罹患する確率が1年間に0.05%ずつ,20年間
で1%,50年間で2.5%増加する結果となる。また,甲状腺癌
の倍加線量は,20ラド(ほぼ20レムに等しい)であるから,。
甲状腺への年間15ミリレムの被ばくは0.075%となり,1年
ごとに甲状腺癌に罹患する確率が0.075%増加し,20年間で
は1.5%,50年間では実に3.75%に増大すると予測される。
なお,低線量域における被ばく線量の人体への影響は十分解明さ
れていないから,低線量域の晩発性・遺伝的障害については一応比
例関係があるものとして評価すべきであり,また,被控訴人の主張
する影響を受けた人体の遺伝子や細胞の修復作用も十分な根拠はな
いので,上記のとおり比例的なリスクを負う可能性を否定すること
はできない。
b原子炉施設の周辺住民の晩発性・遺伝的障害の確率的発生も規制
法24条1項4号所定の「災害」であり,その防止の観点からみる
と「線量目標値指針」による目標値は,晩発性障害防止の観点か,
らみても,危険な数値である。
cしたがって,被控訴人の低線量被ばくに関する審査姿勢にはまこ
とに危ういものがあり「線量目標値指針」の線量目標値には合理,
性がない。
(被控訴人の主張)
a控訴人らの主張する倍加線量については,低線量による被ばくに
よって人体の一部の遺伝子や細胞に影響が起きたとしても,修復さ
れる作用があることが医学的に知られており(乙61の1ないし2
7頁,原爆被ばく者の疫学調査においても低線量の被ばく者に発)
癌や遺伝的障害の有意な増加は認められていない。
しかし,低線量における被ばく線量の人体への影響については十
分解明されていないため,安全を重視し比例関係が成り立つと仮定
しているのである。このことをもって,控訴人らが被ばく線量と遺
伝的障害の発生を比例関係であると短絡し,これを前提に更に年毎
にそれが累積されるかのような主張を行うことは,具体的な根拠に
欠けており,低線量の人体への影響を正解しないものである。
そして,低線量における遺伝子への影響が明らかとなっていない
にもかかわらず,低線量における人体への影響が比例関係にあるこ
とを前提とした控訴人らの主張は,その前提において根拠がない。
b1962年(昭和37年)の国際連合放射線影響科学委員会が報
告した人類の突然変異の倍加線量である年間15レムは,動物実験
に基づくものである(乙122の44,45頁。しかし,198)
8年(昭和63年)の同委員会報告書においては,原爆等の被ばく
データに基づく分析結果として人に対する遺伝的影響については,
有意な差は認められないとされており(乙123の422,423
頁,この点についても控訴人らの主張は根拠がない。)
c低線量においての被ばく線量と人体への影響については解明され
ていないため,ICRPにおいて人体への影響が無視できる程度で
ある年間の公衆への線量限度が示され,線量目標値が定められてい
るのであって,この審査基準に不合理な点はない。
なお,控訴人らの主張する年間の各線量値は,あくまでも上限で
あり,通常原子炉施設においてはこれよりはるかに小さい数値であ
ることが確認されているから,本件原子炉施設に関して,線量の上
限値を仮定する控訴人らの主張は,その前提において誤りがある。
dしたがって,線量目標値指針の線量目標値には不合理な点はない。
③「線量目標値指針」及び「線量目標値評価指針」の基準並びに「発
電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被曝線量評価に
ついて」の報告書に不合理な点がないか否か。
(控訴人らの主張)
a裁判所は,具体的審査基準について,単に不合理な点があるか否
かだけを審査すべきものではなく,安全性を審査するに足りる十分
な合理性を有するか否かを審査すべきものである。
本件安全審査に用いられた「線量目標値指針(乙12)及び」
「線量目標値評価指針(乙13)の基準並びに「発電用軽水型原」
子炉施設の安全審査における一般公衆の被曝線量評価について」の
報告書(乙91)は,限られた核種についてのみ評価することとし
ているものであり,また,いまだ確立されていない被ばく評価の方
法なのであるから,基準として甚だしく不十分なものである。
b「線量目標値評価指針」は,原子力委員会において本件申請の審
査途中の昭和51年9月28日に定められ,これに合わせて東京電
力の本件補正がなされた。東京電力の本件申請は,廃棄物の推定発
生量等はすべて先行炉の実績に基づき,過去の確立した方法による
被ばく評価であるとされていたが,上記線量目標値評価指針もまた,
先行炉の実績に基づき,確立した方法による合理的な被ばく評価で
あるとされている。
しかし,本件補正による本件申請書の本文及び添付資料の放射性
廃棄物に関する推定発生量及び被ばく線量評価の一部の大幅な変更
についての合理的な説明はない。これは,データの出所,正確性な
どに疑問があるのみならず,被ばく評価の方法もいまだ確立してい
ないことを示唆するものであって,上記「線量目標値指針」及び
「線量目標値評価指針」の基準並びに「発電用軽水型原子炉施設の
安全審査における一般公衆の被曝線量評価について」の報告書は,
いずれも原子炉施設の安全性を審査する基準たり得ない。
(被控訴人の主張)
a規制法24条2項は,内閣総理大臣が原子炉設置の許可をする場
合においては,同条1項各号に定める許可の基準の適合性について,
原子力委員会の専門技術的な判断に基づく意見を聴き,これを尊重
してしなければならないとしている。これは,原子炉設置許可処分
に係る安全審査が,原子力工学はもとより,多方面にわたる極めて
高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必要と
されることによるものであり,原子力委員会は,その調査審議にお
いて用いるべき審査基準である種々の審査指針がある。
原子炉施設の安全性に関する審査は,多方面にわたる極めて高度
な最新の科学的,専門技術的知見に基づいてされるところ,科学技
術は不断に進歩,発展しているのであるから,その審査基準を具体
的かつ詳細に法律で定めることは困難である。そして,規制法に基
づく審査基準の決定,審査基準への適合性の判断については,各専
門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的,専門技術的
知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆ
だねられているから,本件安全審査の調査審議において用いられる
具体的審査基準は原子力委員会及び被告行政庁の裁量にゆだねられ
ているというべきである。
b東京電力の本件補正は「線量目標値評価指針」が定められた後,
になされているが,被告行政庁による原子炉設置許可処分がなされ
るまでの間,その申請者が必要に応じて申請書記載内容の適正化又
は合理化等のために補正を行うことは何ら妨げられるものではなく,
新規に制定された線量目標値評価指針を踏まえ,放射性廃棄物の推
定発生量及び被ばく線量評価の一部を見直すことには何ら不合理な
点はない。
本件安全審査においては,審査基準に照らし,本件原子炉施設が,
その基本設計ないし基本的設計方針において,①平常運転時の被ば
く低減対策が適切に講じられていること,②自然的立地条件との関
係を含めた事故防止対策が適切に講じられていることを確認し,併
せて,本件申請者が行った平常運転時の被ばく低減化対策に係る被
ばく評価,事故防止対策に係る安全評価及び公衆との離隔が妥当で
あることを確認し,その結果,本件申請が規制法24条1項4号の
要件に適合すると判断されたものである。
cしたがって,本件安全審査に用いられた「線量目標値指針」及び
「線量目標値評価指針」の基準並びに「発電用軽水型原子炉施設の
安全審査における一般公衆の被曝線量評価について」の報告書に不
合理な点はない。
(イ)本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,平
常運転時における放射性廃棄物について,本件原子炉敷地周辺の公衆に
対する放射線障害の防止上支障がないものとした本件安全審査における
調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
①気体廃棄物の被ばく線量評価について
a間欠放出による気体廃棄物の過小評価の有無について
(控訴人らの主張)
(a)本件原子炉においては,運転起動の際短い時間に大量の排気
を行うことが必要となるが,その際には希ガスホールドアップ装
置を使用できないので大量の放射性物質をそのまま周辺に放出す
ることになる。
しかし,この間欠放出の際の気体廃棄物について,本件安全審
査は,先行炉実績を参考にして,間欠放出1回当たりの放射性物
質の放出量を1000キュリー,年間放出回数5回(合計年間5
000キュリー)としているが,その根拠はあいまいであり,先
行炉の1回の放出量1000キュリーの実績自体あいまいであっ
て,信頼することができない。
(b)本件原子炉と同型の福島第一原発3号機,中部電力浜岡原子
力発電所(以下「浜岡原発」という)1号機,日本原子力発電。
敦賀発電所(以下「敦賀原発」という)の昭和51年度の間欠。
放出回数は,それぞれ9,10,7回であり,その後も異常事象
等による運転停止,再起動が相次いでいることに照らすと,年間
放出回数を5回とするのは合理性を欠いている。
(被控訴人の主張)
(a)被ばく線量の評価に際し,本件原子炉施設から環境に放出さ
れる気体廃棄物の量については,全体の年間の放出量に基づいて
被ばく線量を評価した結果,十分低い数値となることが確認され
ている(乙4の37ないし39頁。)
すなわち,本件原子炉施設における気体廃棄物の放出量は,線
量目標値評価指針に記載のとおり,海外等の原子力発電所の運転
実績を参考にし,復水器内から連続的に抽出される空気中に含ま
れるものとして約2万8000キュリー,真空ポンプの運転によ
り間欠的に放出される空気中に含まれるものとして5000キュ
リー,換気設備から連続的に放出される空気中に含まれるものと
して約1万7000キュリー等(合計年間約5万キュリー)と想定
されているところ,本件安全審査当時の昭和50年度における福
島第一原発における気体廃棄物の放出実績は,3基の発電所(合
計電気出力約203万kW)の放出実績を合計しても1万600
0キュリー(乙45の7頁)であり,110万kWである本件原
子炉施設の想定値よりも小さいことが確認できていることから,
本件原子炉施設における実際の放出量はより小さなものである。
(b)本件原子炉も含めた最近の我が国における沸騰水型原子炉の
気体廃棄物の放出実績は,ほとんど検出限界以下又は極めて低い
値(乙92)にすぎないから,本件原子炉施設からの被ばく線量を
評価する際に想定された放出量は,近年の原子力発電所からの気
体廃棄物の放出実績に照らしても,十分に少なく被ばく線量の評
価上も厳しい条件を設けているものであって,これに基づく被ば
く線量の評価は合理的なものである。
b放射性ヨウ素の被ばく線量評価の合理性の有無について
(控訴人らの主張)
(a)本件安全審査において,平常運転時に本件原子炉施設から放
出される放射性ヨウ素は,希ガスと違って人体や生物体などに付
着し取り込まれ,濃縮されるから,公衆に対する被ばく線量は,
付着,沈着に比して飛躍的に増大し,特に,ヨウ素131の場合,
大気中の濃度に比べ,牧草では200万倍以上となるにもかかわ
らず,その濃縮を考慮した被ばく線量評価が欠落している。
(b)したがって,放射性ヨウ素の濃縮された場合の被ばくは,付
着,沈着に比して飛躍的に増大することとなるにもかかわらず,
本件安全審査は単に放射性ヨウ素の沈着を考慮した評価を行って
いるにとどまり,濃縮を前提とした評価を行っていない。
(被控訴人の主張)
(a)控訴人らの主張は,具体的根拠及び経路を示さず,放射性物
質の濃縮をいうものであるが,これが人体や生物体の表面に付着
した放射性ヨウ素が,そのままこれらの生体内に取り込まれると
いうことをいうものであれば,これは根拠に欠け不当である。す
なわち,生体の表面に付着した化学物質は,ずっと付着したまま
ではなく,人体であれば日常活動により,生物体であれば,それ
が例えば付着の可能性が比較的に高いと考えられる屋外にあるも
のの場合には雨等により,それぞれ洗い流されることは自明であ
り,いったん付着した化学物質がそのまま生体内に取り込まれ濃
縮されることは,生物学的常識からもあり得ない。他方,控訴人
らの主張が,呼吸による吸入又は経口摂取をいうのであれば,放
射性物質による内部被ばくは,呼吸による吸入と経口摂取を考慮
するものであり(乙124の40,41頁,控訴人らの主張は)
根拠がない。
(b)本件安全審査においては,平常運転時に本件原子炉施設から
放出される放射性ヨウ素について,一般的に気体廃棄物中の各ヨ
ウ素が呼吸,葉菜及び牛乳を介して,成人,幼児及び乳児にそれ
ぞれ摂取されるとした場合における甲状腺被ばく線量を評価して
おり,その際,空気中のヨウ素が葉菜又は牛乳に吸収される割合,
呼吸等により人体に摂取されたヨウ素が甲状腺に吸収される割合
等も考慮して評価を行っている(乙3の9-78ないし88頁,
乙4の39頁)。
なお,控訴人らの主張においてヨウ素131の場合には大気中
の濃度と比べ牧草において200万倍以上濃縮されるとする根拠
は明らかではなく,さらに,一般的にそもそも大気中の濃度は限
りなく0に近いのであり,この主張の意味するところは不明確で
ある。
(c)したがって,放射性ヨウ素の被ばく線量評価に不合理な点は
ない。
c粒子状放射性物質の被ばく線量評価の合理性の有無について
(控訴人らの主張)
本件安全審査においては,平常運転時に本件原子炉施設から放
出されるコバルト60,マンガン54,ストロンチウム90,セ
シウム137等の半減期の長い粒子状放射性物質についての被ば
く線量評価を行っておらず,安全審査における被ばく線量評価は
部分的なものにすぎない。また,微粒子状放射性廃棄物がフィル
タによって容易に除去されるというのは何ら根拠がない。
原子力発電所の平常運転により排出されるコバルト60,マン
ガン54,ストロンチウム90,セシウム137等の微粒子状放
射性廃棄物は,半減期が長く,かつ,人体に取り込まれやすく,
このため長期にわたって人体に蓄積され,そのアルファ線,ベー
タ線等の体内被ばくが続くことになるから,これらについても審
査すべきであるにもかかわらず,これらの核種による体内被ばく
については,いまだその挙動や測定方法が確立されていないこと
から,本件安全審査においては,これら微粒子状放射性廃棄物に
ついての被ばく線量評価を省略したものである。また,これら微
粒子状放射性廃棄物がフィルタによって容易に除去されるという
のは何ら根拠がないのであるから,このような放射線被ばくの評
価方法は不十分である。
また,本件安全審査においては,立地評価(災害評価)におい
て,重大事故でも仮想事故でも常にヨウ素についてはフィルタに
より95%除去されるという前提で評価されている(乙2の10
-4-10頁,10-4-34頁。)
しかし,旧動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃」という)。
の東海再処理工場アスファルト固化処理施設において,平成9年
3月11日,火災・爆発事故が発生した(以下「動燃事故」とい
う)が,これにより施設外にセシウム,プルトニウム,アメリ。
シウム等の放射性物質が大量に漏洩したが,火災発生後わずか7
分で「高性能フィルタ」が目詰まりして機能喪失になり,最大想
定事故の場合においてフィルタが健全であることを前提にするの
は非現実的で不合理であり,本件安全審査は誤っている。
(被控訴人の主張)
(a)本件原子炉施設から放出されるコバルト60等の粒子状放射
性物質はいずれも固体状の物質であり,気体状の物質にはならな
いため気体中に混入するものはごく微量であり,更に気体中に混
入したものは放射性廃棄物廃棄設備に設けられたフィルタによっ
て容易に除去できることから,本件原子炉施設から環境に放出さ
れる気体廃棄物中に含まれるコバルト60等の粒子状放射性物質
の量は極めて微量である。そして,これら気体廃棄物中の粒子状
放射性物質による被ばく線量は極めて微量であることから無視で
きる上,厳しい条件を設定している公衆の被ばく線量の評価上は,
仮にこれらの粒子状放射性物質の半減期が長くとも,その影響が
他の放射性物質に比べて無視できる程に小さいことから,特にこ
れを取り上げて具体的に計算,評価するまでもないと判断された
ためであり,本件安全審査は合理的である。
(b)粒子状放射性物質の除去性能については,JISにおいても
放射性エーロゾル用高性能エアフィルタの性能は99.97%以
上と規定されていることからも(乙125の2頁,十分根拠が)
ある。
(c)したがって,粒子状放射性物質の被ばく線量評価に不合理な
点はない。
②液体廃棄物の被ばく評価について
a液体廃棄物に関する被ばく評価と原子力発電所による環境汚染の
有無について
(控訴人らの主張)
(a)本件安全審査は,トリチウムの年間放出量を100キュリー,
それ以外を1キュリーとし,放水口における濃度を用いて被ばく
評価をし,その放射性物質に起因する全身被ばく線量が年間0.
3ミリレムとなるとしている。しかし,全希ガス漏洩率,すなわ
ち炉心燃料被覆管の欠陥率については,破損事故が多発しており,
本件安全審査における推定値が原子力発電所稼働期間中維持され
るとは到底考えられない。そして,破損率の増加は直ちに冷却材
中の放射性物質濃度の増加につながるものである。
また,原子炉施設の汚染は進行しており,処理を要する液体状
廃棄物は増加の一途をたどっており,環境汚染の大きな要因にな
っている。
しかも,除染係数についても,本件安全審査では設計上の数値
をそのまま用いているが,機器設備に発生している故障例,事故
からすると,その信頼性は極めて低い。
さらに,本件安全審査に当たり,東京電力の本件申請を本件補
正により核種組成を変更したが,この変更に当たって,魚介類,
海藻類の生体濃縮係数については,格段の根拠もなく10分の1
低い値を採用するなど,その評価の手法は極めて恣意的である。
このように,本件安全審査においては,要求される結論の公衆
被ばく線量がまず措定され,この線量にとどめるべく,放射線量
が導かれている疑いがある。
(b)本件安全審査の被ばく評価は,既存の原子力発電所周辺の汚
染の実態と大きく齟齬し,明らかに過小である。
既存原子力発電所周辺の魚介類や海藻類などの汚染状況調査の
結果は,液体状放射性物質の放出については過小な数値にとどま
らない。
例えば,敦賀原発(BWR,出力35.7万kW,1970年
(昭和45年)稼働)周辺で,1974(昭和49年)年9月及
び11月,京都大学漁業災害研究グループが行った浦底湾のコバ
ルト60汚染実態調査では,海草ホンダワラ科ヤツマタモクの放
水口付近における生重量1㎏当たりのコバルトのガンマ線7.7
×10ピコキュリー,イシダイの内臓重量1㎏当たりは1.2
-2
×10ピコキュリーのコバルトが検出され,この汚染は湾全体
-2
に広がっていることが確認されている。
しかし,被控訴人は,原発から海に放出される放射性物質から
11種の核種を選び,その量を推定し,これが海水の1年間の使
用量に平均的に希釈されるものと評価し,その結果,人間の各器
官に及ぼす全身被ばく線量は年間合計0.2ミリレムにすぎない
としている。そして,被控訴人の主張によれば,放水口での濃度
は1.6×10ピコキュリーで,海草の放射能は1.6×1
-10
0ピコキュリー以上にはならない計算である。ところが,敦賀
-4
原発における現実の例では,7×7×10ピコキュリーで,国
-1
の計算の4800倍となっている。これからすると,これを摂取
する人間は年間1600ミリレム(1.6レム)以上の全身被ば
く(内部被ばく)を受ける危険性がある。
この値は,線量目標値に関する指針の敷地周辺の一般公衆に及
ぼす被ばく線量合計値年間5ミリレムを液体廃棄物だけで大幅に
上回るだけでなく,ICRPの各勧告及び許容被曝線量を定める
件2条所定の年間0.5レムの基準にも反する。
(被控訴人の主張)
控訴人らの主張は争う。
b洗濯廃液の評価の不合理性の存否について
(控訴人らの主張)
(a)110万kW級の原子力発電所である本件原子炉施設の洗濯
廃液の発生量が1日当たり10ないし15mというのは過小値

であり,特に停止時や定期点検時に多くの排出があるので信用で
きないのみならず,それに含まれる放射性物質の量(0.55キ
ュリー毎年)には根拠がない。
(b)また,廃水に含まれる主な放射性物質は11種あるが,スト
ロンチウムなどについては計測分析されていない。そして,これ
らを核種毎に測定すること自体,多くの時間と労力を要する(特
に,ストロンチウムのガンマ線の分析は不可能である。この。)
ため,日々の放出量と核種毎の実績を記録した具体的なデータは
存在していない。
(c)したがって,本件安全審査は,具体的に上記評価をした形跡
はなく,また,線量目標値評価指針自体洗濯液量も定式的な基準
ないし計算モデルがあるものではないとされているので,具体的
な根拠を欠く不合理なものである。
(被控訴人の主張)
(a)本件安全審査においては,洗濯廃液の発生量を,先行炉であ
る東京電力福島第一原発1号機の実績に基づき,1日当たり15
mと想定し,本件申請書に基づく洗濯廃液の発生量は1日当た

り15m(乙3の9-50頁)として審査されている。そして,

福島第一原発1号機の昭和47年度から昭和49年度までの実績
では,1日当たり10m以下にすぎないのであるから(乙3の

9-98頁),この想定は十分安全側に立つものである。
(b)さらに,液体廃棄物は連続放出ではないため,実際には,被
ばく線量評価上の主要核種であるコバルト60,マンガン54等
の放射性物質の濃度を放出毎に測定することとしており,廃液中
の放射性物質の放射能量を的確に把握して,液体廃棄物中の放射
性物質の放出量を年間1キュリー以下(トリチウムは100キュ
リー以下)の精度で管理している(乙3の9-49頁。)
(c)したがって,控訴人らの主張はその前提において理由がない。
c機器ドレン廃液の環境流失に関する被ばく評価の不合理性の存否
について
(控訴人らの主張)
本件安全審査においては,機器ドレンが環境に放出されないとい
う前提に立って評価されているが,機器ドレン廃液の流出は,今日
の機械工学の技術からも防止できないものであり,流出経路は,原
子炉建家・タービン室のみでなく,液体廃棄物貯蔵施設その他あら
ゆる配管・タンクが予想され,洗濯水のように冷却海水放出路には
限らない。機器ドレンを1滴も漏らさないという前提は,今日の工
業技術・管理を無視した机上の空論であり,著しく不合理である。
(被控訴人の主張)
控訴人らの主張は争う。
d濃縮係数の不合理性の存否について
(控訴人らの主張)
(a)液体廃棄物の被ばく線量評価は,汚染水が復水器冷却水に年
間を通じて平均的に希釈されるという前提に立っているが,液体
廃棄物の放出は間欠的であり,特に定期検査時に放出される液体
廃棄物における放射性物質の濃度(汚染度)は通常よりも高く,
その放出時期によっては生体への影響に差が生ずるにもかかわら
ず,年間を通して復水器冷却水に平均的に希釈されるとして被ば
く線量評価を行っているのは不当である。
(b)また,放出される核種の挙動については今日もほとんど知ら
れておらず,具体的データにも乏しい。そして,我が国の食生活
上,海産物が大きなウエイトを占め,魚種も多数で,食法も外国
とは大きく異なることから,食生活の実態に即した調査,研究が
不可欠であるのに,それが行われていない。
濃縮は,核種によりまた海産物の種類により大きく異なる。さ
らに,放出核種は海水に平均して拡散されるものではなく,水あ
かに付着し比較的浅瀬の海底上に沈着する。したがって,海底地
形や海流,植生などの要素によってもその実態は大きく異なるの
であって,短期間の実験や調査で実態を把握するのは不可能であ
る。
(c)全身内部被ばく線量評価(人体に摂取された核種の各器官へ
の移行による被ばく評価)は,1959年(昭和34年)のIC
RPの推測値によっているが,この推測値自体極めて古く,かつ
原爆データの不完全な分析しかなく,また原子力発電所も存在し
ない時代のものであって信頼することができない。
(被控訴人の主張)
(a)本件安全審査で使用した濃縮係数は,原子力安全委員会の定
めた線量目標値評価指針(乙13)に従いP15らの濃縮係数総
合報告書から引用した値を用いているところ(乙13の976,
982頁),当該報告書は,過去の広い範囲から得られた多数の
元素の想定値を総合してまとめあげられたもので,我が国のもの
を含む多数の研究成果が取り入れられており,上記報告書の濃縮
係数は米国の規制においても採用されている(乙49の③)。
そして,本件安全審査で使用した濃縮係数は,上記報告書のう
ち,放射性核種の濃縮係数をとらずに,安定元素の濃縮係数を採
用している(前者よりも後者の値が概して高めに出ていることか
ら,より厳しい条件を用いていることになる。乙49の③)こと
からみても,その値は十分合理的である。
(b)さらに,海産物の摂取量については,日本人は欧米人に比べ
海草類の摂取量が多いことを考慮した評価を行っている。
本件安全審査においては,公衆の被ばく線量が十分低く抑えら
れるようになっているかどうかを判断するにつき,公衆の年間の
累積被ばく線量を評価するために,一様の連続放出を仮定するこ
とは,専門技術的観点からも十分合理的であるとされている(乙
13の974頁)。
e放出放射性物質の濃度の不合理性の存否について
(控訴人らの主張)
本件安全審査は,液体廃棄物が一様に連続放出されると仮定して
評価しているが,汚染水の放出は間欠的に行われ,放出時期によっ
て濃縮に大きな差が出ることになり,また季節により海水浴などに
よる被ばくも多くなるから,上記平均化した評価は,本件原子炉施
設の周辺住民の安全側に配慮してなされた評価ではない。
(被控訴人の主張)
控訴人らの主張は争う。
f核種組成の不合理性の存否について
(控訴人らの主張)
(a)本件安全審査においては,バリウム140,ラタン140,
ジルコニウム51,ニオブ95,セリウム141などの核種の被
ばく線量評価を行っていないが,これらの核種の排出とこれによ
る敷地周辺の公衆の被ばくも無視することはできない上,これら
核種の濃縮や挙動なども十分解明されていないので,これら核種
の被ばく評価をしていないのは不当である。
(b)敦賀原発の液体廃棄物核種別実績(1975年(昭和50
年)4月から1977年(昭和52年)3月)では,半減期が長
く濃縮係数も高いコバルト60,マンガン54の各構成比がそれ
ぞれ平均47,50%のところ,本件安全審査ではそれぞれ30,
40%として評価されているが,これは被ばく線量の評価結果が
小さくなるように意図的に計算したもので,本件安全審査には合
理性がない。
(被控訴人の主張)
(a)被ばく線量評価は,各核種の量と濃縮係数に基づき行われる
が,安全審査においては,主要核種の被ばく線量評価の際に,主
要核種以外の核種の被ばく線量評価を包含するような条件を設定
して計算される。具体的には,本件安全審査における液体廃棄物
中の放射性物質の主要な核種組成は,先行炉の運転実績に基づき,
主要な各核種の濃縮係数と被ばく線量への換算とを考慮して,全
体として被ばく線量の計算結果が厳しい条件で行われるよう定め
られたものであり,これは運転保守の形態,処理水の運用による
変動,更には想定した核種以外にも放出される核種を包含するよ
う考慮された評価として妥当なものである(乙13の973頁)。
(b)敦賀原発の核種組成は,本件安全審査における核種組成と比
較して,コバルト60及びマンガン54の割合は大きいが,反面,
被ばく線量への寄与の大きい鉄59等の他の核種の割合は小さい
ため,仮に,上記実績に基づいて本件原子炉施設の被ばく線量を
評価した場合には,全体としては本件安全審査で確認した被ばく
線量値よりも小さい数値となる。
gトリチウムの審査の有無について
(控訴人らの主張)
(a)本件安全審査において,トリチウムはすべて液体状で海水に
希釈されて海に流されるものとし,海産物による濃縮はなく(係
数1,したがって人体に対する影響はないとしているが,これ)
は,トリチウムの危険性を過小評価し,かつトリチウムの挙動も
複雑で,また研究途上で明確なデータもないため,十分な評価が
できなかったものである。
すなわち,トリチウムはガス状で水と反応してトリチウム水に
移行しその逆の相互移行も容易であり,そしてトリチウムは水蒸
気・水・雪(氷)の3態をとる。ガス化又は高温化したトリチウ
ム蒸気ないし沸騰水部分が,トリチウム水蒸気となるが,トリチ
ウム水蒸気は必ずしも大気に希釈されることはなく,かたまりと
なって偏在し,雨や雪となって地上に降る。豪雪地新潟県におい
ては,雪として長期に滞留して公衆に被ばくを与えることとなる。
雨として地上に降ったトリチウムは地下水となって飲料水を汚染
し,河川やダム,湖にたまりやがて海に放出され,再びトリチウ
ム水蒸気となって地上に降る。この循環によって,植物,動物及
び人間に取り込まれることになる。
また,1991年(平成3年)2月,カナダのトロント市郊外
にあるピッカリング原子力発電所周辺の草に含まれるトリチウム
の量が3年間に20倍から80倍位に濃縮されていることが報告
され,乳児死亡率との相関関係が問題となった(甲213ないし
215。そして,食物として経口摂取されるトリチウム化合有)
機物の種類によって体内分布が異なること,家畜に有機化合物の
形で与えられた場合5.5ないし15倍もの蓄積が起こり食物連
鎖による人体への蓄積もあるとの指摘がある。
(b)本件安全審査では,トリチウム3Hの放出量について,先行
炉の実績に基づいて年間100キュリーとしている。しかし,こ
の先行炉は一切不明であり,当時の原子力委員会報告においては,
先行炉としてサンオレノフ等の実績が報告されているものの,サ
ンオレノフ炉は加圧水型原子炉であり,本件原子炉より一般に放
射性核種の排出の小さい原子炉である。しかも,その先行炉のト
リチウム年間放出量は2400から4570キュリー(同報告書
1974年(昭和49年)10月50ないし53頁)であり,本
件申請に係る100キュリーの平均35倍である。
(c)したがって,極めて毒性の高い放射線物質であるトリチウム
につき挙動が複雑で濃縮されるという報告があり,サンオレノフ
炉では年間2400から4570キュリーのトリチウム放出が報
告されているにもかかわらず,本件安全審査においては,トリチ
ウムが濃縮されることはなく,また,年間100キュリーしか放
出されないことを前提にしているものであり,看過できない過誤,
欠落がある。
(被控訴人の主張)
(a)本件安全審査における公衆の被ばく線量評価においては,主
要な被ばく経路についての定量的な評価(乙4の39頁)による
線量値が十分低ければ,その他の影響が小さく被ばく線量評価の
対象とならない経路の被ばくによる寄与分を考慮してもなお,全
体として十分低く抑えられるものと判断できることを踏まえ,主
要な被ばく経路について,公衆の被ばく線量評価を行ったもので
ある。したがって,トリチウムを無視できるとした本件安全審査
における公衆の被ばく線量評価は妥当なものである。
また,トリチウムについては,放出される気体廃棄物の中に含
まれる量と被ばく経路を考えると,気体中の被ばく線量は十分小
さいことから,気体として被ばく線量評価の対象とすることは相
当ではない(乙126の17頁。)
さらに,液体廃棄物の被ばく線量評価に際し,トリチウムは海
生生物での濃縮は起こらないとしているところであるが,国際連
合放射線影響科学委員会(UNSCEAR)が地球規模のトリチ
ウムの評価においても海生生物でのトリチウムの濃縮はないとの
データを用いており,トリチウムは生物によって濃縮されない
(乙127)ということは,国際的に広く知られている事実であ
る。
(b)沸騰水型原子炉である本件原子炉施設におけるトリチウム放
出量に関しては,先行炉である米国のオイスタークリーク等の沸
騰水型原子炉の実績のほとんどが,年間数十キュリーであること
から,評価上トリチウムによる被ばく線量値が大きくなるよう,
年間100キュリーと評価している。
なお,乙128(18,52,53頁)においては「附録2,
第6表からみて,我が国でもBWR発電所で1基当たり100Ci
(キュリー)/年・・・中略・・・程度と考えられる」とさ()
れている。また,同報告書においては,控訴人らが指摘するトリ
チウムの放出量を示すデータもあるが,これは加圧水型原子炉の
データであるところ,そもそも加圧水型原子炉は沸騰水型原子炉
に比べてトリチウムの放出量が多いものである。控訴人らの主張
は,同報告書の一部の加圧水型原子炉のデータのみを恣意的に抽
出したものであるから,その前提において誤りがある。
③ムラサキツユクサの研究について
(控訴人らの主張)
a埼玉大学理学部のP3教授(以下「P3教授」という)は,ム。
ラサキツユクサを用いて昭和45年から昭和51年にかけて,ガン
マー圃場におけるKU7株とKU9株について,ガンマ線を照射し
て突然変異数を調べ,線量と突然変異数は直線比例関係にあること
を確認し,最低線量は720ミリレントゲン(レム)であったと報
告している。また,P16の研究においても250ミリレムまで直
線比例関係が確認され,更に中性子線については10ミリラドまで
比例関係が確認されたとの報告がなされている。
bP3教授の原子力発電所周辺におけるムラサキツユクサを用いた
実験結果は,湿度,降雨,日照,自動車の排気ガス等の突然変異の
諸要因を十分に検討した極めて正確なものであるので,原子力発電
所の平常運転時における環境放射線量は,100ないし300ミリ
レムに相当する突然変異率を示しており,線量,目標値の年間5ミ
リレムをはるかに超える放射線が環境に放出されている疑いがある。
cしたがって,P3教授の実験結果を故意に排除した原子力安全研
究会主催の検討会は誤っているから,本件安全審査における被ばく
の評価は誤っている。
(被控訴人の主張)
控訴人らの主張は争う。
④放射線管理設備についての審査の有無について
(控訴人らの主張)
a本件申請書及びその添付書類には,(a)外部放射線量の監視のた
め,モニタリングポイント18か所(3か月毎に読み取り,モニ)
タリングポスト9か所,モニタリングステーション3か所を設置す
ること,(b)周辺環境試料の放射線監視のため,陸水,海水,海底
土,土壌,農畜産物,海洋生物について年2回分析を行うこと,
(c)異常放出があった場合に,モニタリングカーにより本件原子炉
敷地周辺の放射線測定を行うこと等の記載があるが,各周辺放射線
監視設備の数及び設置場所,構造及び性能についての記載はない。
また,放射能が異常放出された場合に使用されるというモニタリン
グカーについての性能や積載機器の性能も明らかにされていない。
bしたがって,放射線監視施設については,モニターの設置場所,
構造,性能が明らかでない限り安全審査ができるはずがないにもか
かわらず,これらが不明のままで本件申請を鵜呑みにして本件安全
審査がなされているから,看過し難い重大な過誤,欠落がある。
(被控訴人の主張)
aモニターの詳細な数及び設置場所,構造及び性能は詳細設計に関
する事項であることは明らかであり,基本設計ないし基本的設計方
針を審査する安全審査の対象外である。
そして,放射性希ガスによる実効線量当量については,指針に定
められるとおり,主要核種であるガンマ線を評価すれば足りるもの
であり,十分に合理性がある(乙126の17頁。)
b原子炉施設の平常運転に伴って放射性物質を環境に放出するに当
たっては,放射性廃棄物廃棄設備が正常に機能していること等を確
認するために,その放出量及び放出後における線量率等を的確に監
視することのできる設備を設けることが必要である。
本件安全審査においては,本件原子炉施設について,まず,(a)
気体廃棄物に関しては,活性炭式希ガスホールドアップ装置の前後
にそれぞれ放射線量を連続的に監視する放射線モニターが設けられ
ること,及び排気筒から環境への放出量を連続的に監視するために
排気筒に放射線モニターが設けられること,(b)液体廃棄物に関し
ては,環境に放出する前に放射性物質の濃度が十分低いことを確認
するため,いったんサンプルタンクに貯留し,放射性物質の濃度を
サンプリングして測定する設備が設けられること,及び復水器の冷
却水放水路につながる排水管に放射性物質の放出量を連続的に監視
する放射線モニターが設けられること等がそれぞれ確認された。
また,環境中の線量率等の監視については,本件原子炉施設の周
辺にモニタリングポスト等の線量率等を測定する設備が設けられる
こと等が確認された結果,本件原子炉施設には,その平常運転に伴
って環境に放出される放射性物質の放出量,環境中における線量率
等をそれぞれ的確に監視することのできる放射線管理設備が設けら
れると判断された。
ウ本件原子炉施設の事故防止対策に係る本件安全審査の調査審議において
用いられた具体的審査基準に不合理な点はあるか否か。また,本件原子炉
が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,事故防止対策に係る
安全性を確保し得るもの,すなわち,事故防止対策との関連において,原
子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調
査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
(ア)炉心燃料部の健全性の有無について
①燃料被覆管の応力腐食割れについて
(控訴人らの主張)
a安全評価審査指針(甲33,乙94)において,運転時の異常な
過渡変化の判断基準につき「燃料被覆管は機械的に破損しないこ
と(同指針4.1.1の(2))と規定されている。」
b本件原子炉施設において使用される燃料被覆管の材料であるジル
カロイ-2には,核分裂生成物であるヨウ素によって応力腐食割れ
が発生する。ジルカロイの機械的な破損は一定の割合で避けられな
い以上,原子力安全委員会は「燃料被覆管は機械的に破損しな,「
いこと」の解釈の明確化について(昭和60年7月18日原子力」
).安全委員会了承(甲45,乙129)により,上記審査指針の4
1.1の(2)の意味を「燃料被覆管に対する機械的な負荷によって
貫通性損傷が系統的には生じないこと」と定め,その基準を狭めて
解釈している。
しかし,本件安全審査においては,ジルカロイ-2の耐食性,安
全性については確認されておらず,燃料被覆管が冷却材や核分裂生
成物によって腐食し,その進行・拡大によって腐食疲労,応力腐食
割れなどの現象が起こる性質を看過している。
(被控訴人の主張)
a「燃料被覆管は機械的に破損しないこと」の解釈の明確化につ「
いて(昭和60年7月18日原子力安全委員会了承(乙129」)
の1001頁)においては,応力腐食割れ現象について検討した結
果「現行の炉型及び燃料については運転時の異常な過渡変化時に,
この現象により燃料の系統的損傷が生ずる可能性は十分小さいと考
えられることから,安全評価審査指針(甲33,乙94)において
燃料の損傷の判断基準を現状では変更する必要はないと判断す
る」とされているのであって,応力腐食割れに関して指針の解釈。
が狭められたことはない。
b上記「燃料被覆管は機械的に破損しないこと」の解釈の明確化「
について」においては「燃料被覆管は機械的に破損しないこと」,
の具体的な判断基準として,燃料被覆管の円周方向の平均塑性歪は
1%以下であることについて,その1%の塑性歪を与える指標とし
て熱的指標である燃料被覆管の表面の単位面積から単位時間当たり
に原子炉冷却材に伝わる熱の量から換算して求めた線出力密度を用
いる方法がとられていることにつき妥当であると判断している。本
件安全審査においては「運転時の異常な過渡変化の解析」に当た,
って熱的指標から求めた同様の判断基準を用い,それを満足するこ
とを確認している。
したがって,控訴人らの上記主張は,安全評価の妥当性を確認し
た本件安全審査の合理性を何ら否定するものではなく,失当である。
cなお,後記②a(被控訴人の主張)のとおり,ジルカロイ-2は,
燃料被覆管破損の確率が非常に低く,その使用実績から十分に安全
であることが確認されている。
②多発する燃料棒に関する異常事象と対策の遅れの有無について
aピンホールやひび割れ事象について
(控訴人らの主張)
(a)本件安全審査では,通常運転時はもちろん,異常な過渡変化
時にあっても「燃料が損傷しない」と審査されていた。
(b)しかし,本件原子炉施設では,平成10年1月16日,気体
廃棄物処理系除湿冷却器出口排ガス放射線モニター指示値上昇に
)。伴う原子炉手動停止が行われる異常事象が発生した(甲351
すなわち,本件原子炉の定格出力運転中の同年1月15日18
時30分ころ,気体廃棄物処理系除湿冷却器出口排ガス放射線モ
ニター指示値が通常値より上昇し,原子炉水の分析により炉水中
のヨウ素濃度も上昇していることが確認された。モニターの指示
値が通常値へ下降したため監視を強化し運転を継続したが,翌同
月16日14時04分ころ,モニター指示値が通常値より上昇し,
「OG系除湿冷却器出口排ガス放射能高」の警報が発生,除湿
冷却器出口排ガス放射線モニター「高」及び同「高高」の表示灯
が点灯していることを確認し,手動停止によって燃料集合体の漏
洩調査を実施した。
その要因の調査の結果,燃料集合体一体(K1J30)に漏洩
があることを確認し,燃料棒下部に長さ1㎝のすじ状の傷を確認
した(以下「本件燃料棒の損傷」という。これは,海外で報。)
告されている被覆管の水素化によって発生する二次的な割れの事
例と類似するので,偶発的に発生した漏洩部分を通じて,燃料棒
内に浸入した水(水蒸気)による被覆管の水素化によって発生し
た二次的な割れと推定された(甲351。この対策として,東)
京電力は,漏洩が確認された燃料集合体を健全な集合体に取り替
えた。
本件安全審査においては,通常運転時はもちろん,異常な過渡
変化時にあっても「燃料が損傷しない(乙4)ようになってい」
たにもかかわらず,上記事象により燃料棒の機械的な破損という
結果が発生している。
しかも,同様の事象は,本件原子力発電所6号機で平成8年8
月24日に,次いで同7号機で平成11年3月31日に起こって
いることからすると,対策を取り得ない欠陥が燃料棒にあり,更
に事業者としての東京電力にこれを防止する能力がないことが実
証されているといっても過言ではない。
なお,燃料集合体におけるピンホールの原因は,PCMI(燃
料ペレット・燃料被覆管の相互作用)又は水素脆化とされ,その
対策は十分にとられているとしていたが,このような対策がとら
れているにもかかわらず,現実に,被覆管の水素化によって発生
する二次的な割れが原因となる本件燃料棒の損傷が生じていた。
(c)したがって,対策をとり得ない欠陥を見逃した本件安全審査
は不合理である。
(被控訴人の主張)
(a)本件安全審査に係る燃料被覆管は,基本設計ないし基本的設
計方針において熱的,機械的,化学的影響によって,その健全性
が損なわれることのない,余裕のあるものであると判断された。
燃料被覆管材料としてのジルカロイ-2は,燃料被覆管破損の
確率が非常に低く,その使用実績から十分に安全であることを確
認しており(乙3,31,炉心燃料部の基本設計ないし基本的)
設計方針において適切な異常発生防止対策が講じられるものであ
ると判断されている。
(b)本件安全審査においては,実際に原子炉に装荷されている多
数の燃料棒が一切損傷しないことを想定したものではない。
すなわち,多数の燃料棒の一部の燃料においてごくまれに生ず
る偶発的な燃料被覆管の損傷が生ずることは,工学的に避けられ
ない。このため,本件安全審査においては,燃料被覆管の損傷を
検知するために,冷却水中の放射能レベルを測定監視する計測装
置等が設けられる。そして,一部の燃料の損傷によりある程度の
放射性物質が燃料棒から漏洩することを前提として原子炉施設周
辺の一般公衆の被ばく線量を評価し(乙4,安全が確保される)
ことを確認しているのである。
ちなみに,原子炉の運転中に,仮に偶発的な燃料被覆管の損傷
が生じたとしても,それを検知できる設計であることは前記のと
おりであるし,その場合は原子炉を停止し損傷が生じた燃料を取
り替える等の措置を採ることができる。
(c)控訴人らの主張は,偶発的な本件燃料棒の損傷が生じたこと
をもって,本件安全審査に瑕疵があることをいうものであり,失
当である。
b浸水燃料の事象について
(控訴人らの主張)
(a)本件燃料棒の損傷によって,本件原子炉の炉心のなかに浸水
燃料が存在していたことが判明している。これは,本件燃料棒の
損傷により燃料被覆管内に侵入した炉水から発生する水素により
二次的な割れが発生し,通常運転だけでも「水素化」という新た
なメカニズムで損傷が発生しつつあるのに,根本的な対策がとら
れていなかったことが明らかである。
しかも,浸水燃料については,本件原子力発電所6号機につき
平成8年8月24日,同2号機につき平成9年1月27日,本件
原子炉につき平成10年1月16日,同7号機につき平成11年
3月31にそれぞれ発見され,毎年のように4件もあり防止でき
ていないこと自体に問題がある。
(b)反応度事故時の浸水燃料の危険性は,反応度投入事象評価指
針(昭和59年1月19日原子力安全委員会決定。甲38)にお
いて異常な過渡変化時の破裂する基準の値として「燃料エンタル
ピ65カロリー/g」が定められたことから明らかなように,
「浸水燃料」が存在すれば,反応度事故時に容易に浸水燃料が破
裂に至ることが現在の知見となっている。
しかし,本件安全審査では,異常な過渡変化時においても「浸
水燃料(燃料被覆管の穴あき等により内部に冷却水が侵入した」
燃料)が全く存在しない前提で評価されている(制御棒落下事故
の解析でも170cal/gまでは燃料は破損しない前提で解析
している。。)
(c)したがって,浸水燃料を考慮していない本件安全審査は,上
記反応度投入事象評価指針に反し,著しく不合理である。
(被控訴人の主張)
(a)浸水燃料に関する評価については「発電用軽水型原子炉の,
反応度事故に対する評価方法について(昭和52年5月20日原
子炉安全専門審査会(乙130)において,検討除外とされ)」
ていたものの,その後の燃料の変更申請により現在装荷されてい
る燃料である高燃焼度8行×8列型燃料(燃料集合体最高燃焼度
50,000MWd/tとして設計された燃料で,8行8列に配
列された60本の燃料棒と1本の太径ウォータロッド等から構成
される燃料集合体をいう(平成2年7月10日設置変更許。)
),可,9行×9列型燃料A・B型(燃料集合体の最高燃焼度55
000MWd/tを目標として開発された燃料集合体であって,
A型とB型の二つの異なる設計がされているが,両型とも,燃料
被覆管及びペレット等の基本構成部材は現行の8行×8列型と同
じ材料を用いた設計とされている(平成10年12月21日。)
設置変更許可)については,反応度投入事象評価指針(昭和59
年1月19日原子力安全委員会決定(甲38,一部改訂平成2)
年8月30日同委員会(乙131)に基づき浸水燃料が破裂し)
たとしても原子炉停止能力及び原子炉圧力容器の健全性を損なわ
ないことが確認されている。
(b)同評価指針についてみると,反応度投入事象の判断基準のう
ち,浸水燃料に係るものとして,同評価指針3.(3)で「運転時
の異常な過渡変化及び事故にあっては,浸水燃料の破裂による衝
撃圧力等の発生によっても,原子炉停止能力及び原子炉圧力容器
の健全性を損なわないこと」を判断基準としている。ただし,。
この判断基準については,同評価指針の添付2「浸水燃料の影響
評価」の解析結果をもって代用できる場合は,除外できると規定
されている(乙131の274頁。この添付2「浸水燃料の影)
響評価」は,反応度投入事象の判断基準のうち浸水燃料に係る基
準の適用除外範囲を明らかにするため,安全余裕をとった前提条
件で浸水燃料が破裂した場合について評価したもので,その評価
結果に基づき,次のとおり除外基準を定めている(乙131。)
i本添付における評価対象プラントと同程度の炉心規模である
こと。
ii断熱計算によるピーク出力部の燃料エンタルピを最も厳しく
するように選定された前提条件を用いた解析によっても,その
結果が150カロリー毎グラム・UO以下であること。2
iii原子炉停止余裕は,1.0%Δk以上であること。
iv落下制御棒価値は,1.5%Δk以下であること。
ここで,当時適用除外とされた,本件申請の8行×8列型燃料
の反応度投入時の燃料エンタルピについて,上記除外条件と比較
すると,ピーク出力部の断熱保有エンタルピは120カロリー毎
グラム・UOであり,上記iiの基準を満足しており,その他の2
各基準についてもいずれも満たしているため,当該基準が適用除
外となる条件を十分満足していたものである。したがって,現在
の科学的技術水準に照らしても本件処分は妥当なものと認められ
る。
(c)また,燃料被覆管の水素化については,ペレットや燃料棒の
製造工程での湿分管理を行えば十分対策が採れることから,運転
管理段階で対処可能なものである(乙132。本件安全審査に)
おいても,燃料棒の製造工程では,燃料被覆管の水素化による損
傷が生じないよう,燃料棒内の水分を十分低く押さえるように管
理し,更に万全を期して,プレナム部にゲッターと呼ぶ水分量を
低減する物質を入れ,燃料被覆管の水素化を抑えるように努める
ことが確認されている。
(d)したがって,浸水燃料に関する本件安全審査に不合理な点は
ない。
c燃料棒スペーサのはずれの事象について
(控訴人らの主張)
(a)本件原子炉施設において,平成10年1月30日,燃料集合
体の不具合による原子炉手動停止の異常事象が発生した。
すなわち,同月16日の燃料集合体の漏洩検査のついでに,他
の燃料集合体6体について外観検査を実施したところ,同月30
日5時30分ころ,6体中2体の高燃焼度8行×8列型燃料集合
体(K1GN1,K1GN2)のスペーサが正規の位置からはず
れていることが確認された。K1GN1は,7個のスペーサのう
ち4個のスペーサが,K1GN2は2個のスペーサがそれぞれ上
方向にずれていた。
その要因の調査の結果,チャンネルボックス取付時にスペーサ
の架橋板に過大な荷重がかかったものと思われ,一部が脱落,運
転中の冷却材循環流によりスペーサが押し上げられたものと推定
された。この対策として,スペーサの位置のずれが確認された燃
料集合体を取り替え,今後チャンネルボックス取付作業にかかわ
る手順書に注意事項を明記し,作業者に対する教育を徹底し,取
付作業自体もテレビカメラで確認することとした。
(b)燃料集合体の位置のずれは,それぞれの燃料棒の燃焼に影響
を与え,更に冷却材である水の循環経路及びその流量に影響し,
ひいては燃料棒の損傷事故につながりかねないものである。にも
かかわらず,今になって作業者に対する教育を徹底し,取付作業
自体もテレビカメラで確認するというのは安全審査の欠陥を糊塗
するものである。
(c)したがって,本件原子炉では,燃料棒スペーサの位置がずれ
ていたのであるから「燃料が損傷しない」と判断した本件安全,
審査は欠陥がある。
(被控訴人の主張)
(a)控訴人らの主張するスペーサのはずれについては,要因分析
をした上,現場及び照射後試験施設等において詳細な点検調査を
行った結果,スペーサの位置がずれたのはチャンネルボックス取
付時にスペーサの架橋板に過大な荷重がかかったためであること
が判明しているから,これは基本設計ないし基本的設計方針に関
する問題ではなく,施工管理に属する問題にすぎない。
(b)したがって,燃料棒スペーサの点は本件安全審査の合理性を
左右するものではない。
③冷却材喪失事故時における炉心燃料部の健全性の有無について
a大破断冷却材喪失事故(LOCA)の危険性の有無について
(控訴人らの主張)
(a)本件安全審査では,再循環系配管1本の破断について外部電
源喪失(したがって再循環ポンプ停止,原子炉は緊急停止)と非
常用ディーゼル発電機1台の故障を想定し,破断口からの冷却材
流出量はP17の臨界流モデルのみを用い(乙2の10-3-2
6頁,下部プレナム水フラッシングによる冷却を考慮し(乙2)
の10-3-34頁,乙3の10-104頁,緊急炉心冷却系)
については作動を想定するもの(高圧炉心スプレイ系及び低圧注
水系2系統)はすべて定格流量を満たすという前提で解析が行わ
れ,燃料被覆管温度は約886℃以下としている(乙2の10-
3-38頁,10-3-80頁。)
しかし,i冷却材喪失事故の場合,緊急停止信号は配管の破断
と同時に出ることはなく,流出した冷却材が気化して格納容器内
の圧力が上昇して初めて「ドライウェル圧力高」の緊急停止信号
が出ること,iiP17の臨界流モデルは,少なくとも大破断LO
CA直後の未飽和(沸騰していない)冷却材の準安定流を考慮し
ていないため,未飽和状態の冷却材については実際の半分以下の
過小評価となるので,破断口からの流出量をP17の臨界流モデ
ルによることはできないこと,iii下部プレナム水フラッシング
の流量は,破断口からの流出の計算に用いるモデルの選択や圧力
損失の計算に用いる式の選択により大幅に変化するが,実験によ
って裏付けられたものではなく机上の計算によるものであるから,
実際にどれだけの流量があるのか不確実な下部プレナムフラッシ
ングによる冷却を解析上全面的に期待するのは不合理であり,下
部プレナムフラッシングによる冷却を全く考慮しない場合,燃料
被覆管温度が数百度高くなる可能性があること,iv緊急炉心冷却
系が定格流量どおりに注水することを想定するのは現実的ではな
く,本件原子炉のメーカーである株式会社東芝(以下「東芝」と
いう)の解析によると,緊急炉心冷却系の注水量が20%減少。
すると燃料被覆管温度は100℃以上上昇すると予想されること,
v現在は,P17の臨界流モデルに替わり均質臨界流モデルが採
用されており,後者によれば,事故経過が緩やかなものとされて
いる。このように解析モデルにより事故経過が大きく異なること
は,LOCA解析の信頼性の低さを示しているから,本件安全審
査における冷却材喪失事故の解析は不合理である。
なお,本件原子炉のメーカーである東芝が,外部電源が健全な
場合の高圧炉心スプレイ系のポンプ起動を事故後約3秒後として
おり,高圧炉心スプレイ系の起動信号が「ドライウェル圧力高」
又は「原子炉水位低」であってLOCAのスクラム原因と同じで
あることにかんがみ,現実的にはスクラム発生時間は高圧炉心ス
プレイ系の起動時間である約3秒後時点とみるべきである。
(b)より激しいあるいはより現実的な条件を前提とする,燃料被
覆管温度は軽く1000℃以上となる。
すなわち,燃料被覆管温度が本件安全審査の結果である886
℃よりも100℃弱上昇すると,水-ジルコニウム反応が活発化
し,200℃程度上昇すると水-ジルコニウム反応が発熱反応で
あることから正のフィードバックを生じて燃料被覆管温度は更に
急激に上昇して行くことになる。その意味で本件安全審査の燃料
被覆管温度に200℃程度の過小評価誤差があった場合,炉心溶
触に至る危険があるから,これを過小評価した本件安全審査には
看過し難い過誤,欠落がある。
(被控訴人の主張)
(a)何らかの原因により,原子炉圧力容器に接続されている各種
配管中の1本が原子炉運転中に破損すると仮定した場合には,原
子炉圧力容器から冷却材が漏出ないし喪失するので,本件原子炉
施設においては,冷却材喪失事故の発生を防止するため,次のよ
うな設計及び運転管理上の事故防止対策が講じられている。
i配管等の設計に当たっては,原子炉の寿命中の各種の応力を
十分に考慮した厳しい条件を適用する。
ii材料の選定,加工及び配管等の製作過程において十分な品質
管理を行う。
iii原子炉供用期間中に主要な個所の検査を行い,その健全性を
確認する。
iv脆性破壊を防止するような運転管理を行う。
vさらに,漏洩検出系による監視によって,破断に進展する前に
破損を検知し,適切な処置を講じる。
上記のような事故防止対策にもかかわらず,万一冷却材喪失事故
が生じても,燃料被覆管が炉心冷却を妨げる程破損することを防止
し,水-ジルコニウム反応を十分に低く抑え,炉心の崩壊熱を長期
にわたって除去する目的でECCSを設けている。
(b)ECCSは,ECCS安全評価指針(乙11)に照らし,その
基本設計ないし基本的設計方針において,次のような事故防止対策
に係る安全性を確保している。
すなわち,小破断から大破断までのいかなる破断面積に対しても
原理の異なる系統を多重に,独立して設けて炉心冷却を行うことと
しており,いかなる動的機器の単一故障に対しても炉心冷却機能を
失わないように設計するものである。
また,ECCSの電源としては,外部電源がない場合にも3台の
ディーゼル発電機によって給電するよう設計する。
次に,冷却材喪失事故に伴い圧力容器から放出された冷却材及び
放射能を閉じこめるため格納施設を設ける。また,非常用ガス処理
系を設け,排気筒を通して大気に放出される前にヨウ素の除去を高
効率で行う。さらに,事故後原子炉格納容器内の水が放射線により
分解されて水素と酸素が発生し,水-ジルコニウム反応により生成
した水素とともに,徐々に蓄積されて燃焼限界に達する可能性があ
るが,本件原子炉では格納容器内ガス濃度制御系を設け,燃焼限界
に達するのを防止する。
(c)冷却材喪失事故は,本件安全審査においては事故解析の一つと
して,想定され,解析された事象である。
すなわち,冷却材喪失事故の解析に当たっては,炉心の冷却に
とって最も厳しい結果となる,定格出力の約105%での運転中
に,冷却材再循環系配管の1本が瞬時に完全に破断し,冷却材再
循環系配管の破断と同時に外部電源が喪失し,かつ,事故時に作
動が要求されているECCSに動的機器の単一故障(低圧炉心ス
プレイ系の非常用ディーゼル発電機の故障)が起こるなどと仮定
し,解析結果を厳しくするための前提条件を設定した(乙2の1
0-3-19。その解析評価は,次のとおりであって,ECC)
S,原子炉格納容器等の設計は妥当なものと判断されている(乙
4の46ないし48頁。)
i燃料被覆管の延性が極度に失われ,炉心の冷却可能形状を保
持し続けることができなくなるのは,燃料被覆管の最高温度が
1200℃を超えた場合,又は燃料被覆管の延性を失わせる全
酸化量が酸化前の燃料被覆管の厚さの15%を超えた場合であ
るところ,燃料被覆管の最高温度が約886℃であり燃料被覆
管の損傷はないこと,また,燃料被覆管における全酸化量は,
酸化前の燃料被覆管の厚さに対して最大約0.3%と小さいこ
とから燃料被覆管の延性は失わないことなどによって燃料棒は
冷却可能な形状に維持され,燃料の冷却は確保される。
ii破断した配管から放出される冷却水及び水-ジルコニウム反
応により発生した水素により原子炉格納容器内の圧力は上昇す
るものの,本件原子炉格納容器の設計圧力を超えることはない。
(d)高圧炉心スプレイ系の起動信号である「原子炉水位低(レベ
ル2」は,スクラム信号である「原子炉水位低(レベル3」))
よりも低い水位レベルに設定されているものであり,スクラム
発生時間と高圧炉心スプレイ系の起動時間は異なるので,控訴
人らの主張は失当である。
なお,実際には配管破断後に通常の水位から「原子炉水位低
(レベル3」が発生する水位に達する時間よりも早く「ドラ)
イウェル圧力高」が発生してスクラム及び高圧炉心スプレイ系
が同時に起動するが,解析ではより厳しい解析条件を課してい
るため,この「ドライウェル圧力高」の発生をあえて考慮して
いない。
b中小破断冷却材喪失事故(LOCA)の危険性の有無について
(控訴人らの主張)
(a)中小破断LOCAは,大破断LOCAと比較してその発生率
が高い。
そして,昭和62年2月17日に運転を開始していた敦賀原発
2号機(加圧水型軽水炉,定格出力116万kW。以下「敦賀2
号機」という)において,平成11年7月12日午前6時05。
分ころ,格納容器内サンプ水位上昇率高の警報が鳴り,同日午前
6時48分に原子炉を手動停止したところ,格納容器内の化学体
積制御系再生熱交換機の配管エルボ(曲管部)に軸方向に貫通亀
裂が生じるなどし,再生熱交換機連絡配管の抽出側配管部から一
次冷却材が漏洩するという中小配管破断冷却材喪失の異常事象が
発生していることが判明した(甲315の①②,316ないし3
21。この貫通亀裂の長さは,当初発表では約80㎜(甲31)
7,その後44㎜(甲319,更に47㎜(甲320)と揺))
れ動いた。この亀裂の内面部は長さ151㎜の亀裂があり(甲3
21,この配管が切断され内面の観察が始まると,亀裂は当初)
発見された軸方向の貫通亀裂一つではなく,極めて多数の亀裂が
同時並行して発生・成長していることが判明した(甲321。)
敦賀2号機の冷却材漏洩事象では,運転員が漏洩箇所を発見し,
漏洩を止めるために当該配管に至る弁を閉止するまでに14時間
を要し,しかも異常事象の収束後でさえ実際の漏洩量を把握でき
ていなかったので,中小破断LOCAの際の運転員の介入につい
て,かなりおぼつかないレベルにあることが明らかになった。
また,解析によって,運転期間(通常40年)中健全性が維持
できると「理論的に」判断されてきたにもかかわらず,敦賀2号
機の運転開始から当該事象時点で12年5か月で貫通亀裂を生じ
ているので,我が国における疲労解析の信用性もかなりおぼつか
ないものであることが明らかになった。
さらに,従来から生じることが想定され,検査等でも発見でき
るはずのものであった溶接部の周方向の割れについても,全周の
3分の1に達し,何らかの衝撃が加われば,ギロチン破断(瞬時
全周破断)に至る危険があるような段階になっても発見すること
ができなかった。敦賀2号機の冷却材漏洩事象では,軸方向の亀
裂の方が先に貫通したが,亀裂の成長の仕方によっては周方向の
亀裂の方が先に貫通してギロチン破断に至る可能性もあった。
なお,電気技術規程では,溶接部以外の部分は非破壊検査の対
象とされておらず,溶接部においても呼び径100㎜未満の配管
については表面検査のみで体積検査,すなわち超音波探傷検査や
放射線探傷検査は行われず,呼び径100㎜未満の配管について
は,外表面に傷があるかどうかの検査が10年に1回か40年に
1回あるのみで内表面や内部の傷の有無は全く検査されないので
あり,これらの配管については,10年に1回の系統の漏洩及び
水圧試験で通常の1.1倍の圧力をかけたときに壊れて漏洩しな
いかがチェックされるだけであるから,その10年に1度の検査
の際たまたま破断寸前まで来ていてわずか1割増の圧力で破壊す
る段階に来ていれば,発見されるにすぎないのであるから,供用
期間中検査で中小破断LOCAを防止することは不可能である。
(b)本件安全審査では,中小破断LOCAにつき特定の破断箇所
を想定せず,単純に破断面積のみで検討し,高圧炉心スプレイ系
の故障のみを想定して,燃料被覆管温度のみを基準として,破断
面積約93cm(0.1平方フィート)の破断が最も厳しく,

燃料被覆管最高温度は782℃としている(乙2の10-3-1
7頁,30ないし31頁,乙4の134頁。そして,本件安全)
審査の際,中小破断LOCAについては,高圧炉心スプレイ系の
故障は想定しているが,それ以外の故障は全く想定せず,自動減
圧系(ADS)及び低圧炉心スプレイ系,低圧注水系は完全に機
能を果たすという前提で解析を行っている。
BWRメーカーの株式会社日立製作所(以下「日立」とい
う)のLOCA解析コードの感度解析報告によれば,中小破断。
LOCAにおいて,本件安全審査で想定された破断面積0.1平
方フィートの場合,この自動減圧系の流量が15%減少すれば
(つまり7個ある逃がし弁の一つが機能しなければ,燃料被覆)
管最高温度は120℃上昇し,900℃に達するところ,燃料被
覆管温度が950℃に達すると,燃料被覆管の材料であるジルコ
ニウムが冷却材である水との間で水-ジルコニウム反応を起こし,
これが発熱反応であるため燃料被覆管温度が急速に上昇していく
ことになり,自動減圧系の流量が更に減少するか,他の要因が重
なれば燃料被覆管最高温度は950℃に達することになる。
また,本件原子炉のメーカーである東芝の解析によれば,本件
原子炉施設と同じ110万kW級のBWR5では破断面積0.1
平方フィートの中小破断LOCAで燃料被覆管最高温度は967
℃とされており,自動減圧系の流量が20%減少すると燃料被覆
管最高温度が196℃程度上昇し,1163℃にも達する(甲3
26。)
さらに,自動減圧系が十分に機能しても,低圧系のECCSが
十分に機能しなければ,同様に燃料被覆管最高温度は更に上昇し,
東芝の解析によれば,低圧注水系の流量が20%減少した場合,
燃料被覆管最高温度は208℃上昇するとされている。
したがって,東芝の解析によると,自動減圧系の流量減少と低
圧系のECCSの機能不全が生じた場合には,燃料被覆管最高温
度が1200℃を超えることも十分にあり得るところであるから,
燃料被覆管最高温度を1200℃以下にとどめることを基準とし
ている軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の性能評価指針にも違反
することになる。
(c)近時の異常事象・事故例にかんがみ,現実に起こり得ると考
えられる故障を想定した上で,東芝,日立のLOCA解析を参考
にして中小破断事故を解析すれば,本件安全審査の事故想定と解
析は極めて甘い不合理なものであり,中小破断LOCAにおいて
も炉心溶融事故に至る危険がある。まして,運転員が事故の進展
中に冷却材漏洩量等の重要データを正確に把握することなく,事
故の収拾にあたれば,更に事態を悪化させる誤介入も起こり得る
から,中小破断LOCAにおいてもかなりの危険があり,そのよ
うな事態まで考慮していない本件安全審査は不合理である。
(被控訴人の主張)
(a)本件原子炉の炉型(BWR型)は,敦賀2号機の炉型(PW
R型)とは異なるものであって,控訴人らが主張する敦賀2号機
の事象が発生した機器(内筒付き再生熱交換器)は,本件原子炉
施設には存在しない。上記敦賀2号機の事象は,再生熱交換器が
内筒を有する構造であったため,機器内の水温変動による高サイ
クル熱疲労により配管に亀裂が生じ,更に進展したものであるが,
これは機器の詳細設計ないし施工管理の段階にかかわる事象であ
って,基本設計ないし基本的設計方針の妥当性を判断する安全審
査の対象外の事象である(乙107の48,49頁。)
また,控訴人らは敦賀2号機の事象を中小破断の冷却材喪失事
故であるかのように主張するが,ECCS安全評価指針において,
想定冷却材喪失事故(LOCA)とは,ECCSの機能及び性能
を評価する見地から想定された原子炉冷却材喪失事故のことを指
し,その流失量が通常運転時に使用される補給水系にて補給でき
る範囲についてはその対象から除外することになっているから,
ECCSの作動が必要となる程の漏洩ではない敦賀2号機の事象
については,事故解析で想定すべきLOCAには至っていない。
(b)控訴人らの主張は,中小破断冷却材喪失事故の可能性につい
て言及するものであるが,想定された事象の発生に加え,適切と
される範囲を超える,事故解析の意義,目的に照らして独自の不
適切な仮定をおくことによって,本件安全審査を不合理とするも
のであって,その主張自体が失当である。しかも,控訴人らの主
張する異常事象・事故,故障例等は,原子炉設置許可に係る安全
審査の対象となる基本設計ないし基本的設計方針にかかわるもの
ではなく,詳細設計ないし施工管理にかかわるものであり,本件
の審理判断の対象とは何らかかわりがないから,本件安全審査の
合理性を左右するものではない。
(イ)圧力バウンダリについて
①圧力容器の中性子による脆化に対する安全性の有無について
a脆化予測式の合理性と不純物及びニッケル等が中性子の照射脆化
に及ぼす影響の有無について
(控訴人らの主張)
(a)本件安全審査においては,寿命期間中の脆性遷移温度の上昇
の予測にはP18のワーストケースカーブが上限となることを用
いている(甲367の①②,368。)
しかし,P18のワーストケースカーブは式の形態に何らの理
論的基礎もなく(甲356の72ないし74頁,材料試験炉で)
の加速(高速)照射によるデータに基づいていること,後記のド
イツ連邦共和国(当時の西ドイツ)のグンドレミンゲン原子力発
電所(BWR,GE社製,25万kW。以下「グンドレミンゲン
原発」という)の圧力容器に関する実験研究や法政大学工学部。
教授(東京大学名誉教授)P19(以下「P19教授」とい
う)らの実験研究等から今やその存在に疑いのない照射速度依。
存性(照射速度が遅いほど脆化が進行しやすい)を全く考慮して
いないのであるから,科学的合理性を有しない。
また,P18のワーストケースカーブの基礎になった材料試験
炉での加速照射の場合,P19教授らの研究によれば,照射脆化
に寄与する欠陥は格子間原子クラスターが支配的であり,他方,
沸騰水型原発の圧力容器程度の照射速度での照射脆化に寄与する
欠陥は銅クラスターが支配的であるから,両者は測定しているも
のが全く異なるものであり,沸騰水型原発の圧力容器の照射脆化
を予測するのに材料試験炉での試験データの何倍かの余裕を見れ
ばよいという性質のものではなく,材料試験炉でのデータに基づ
くP18の式は「試算ないし見通し」にさえならない。実際にも,
沸騰水型原発の監視試験片の当時の通商産業省(以下「通産省」
という)による評価結果にもワーストケースカーブよりも著し。
く脆化しているものがある(甲356の57ないし59頁,86
ないし87頁。)
(b)現在の科学技術水準に照らせば,本件原子炉を含め圧力容器
鋼材に使用されるマンガン・モリブデン・ニッケル鋼板(AST
M・A-533)において,不純物でなく成分元素として大量に
添加されているニッケルは,圧力容器の照射脆化に強い悪影響を
及ぼすことが指摘されている(甲258の15頁,甲259の1
4頁,乙81。)
さらに,現在も不純物が中性子照射脆化に与える影響はいまだ
解明されておらず,ましてや本件安全審査当時に十分解明されて
いたとはいえない。そして,本件安全審査においては,当時不純
物の影響を考慮して作成されたASTMやNRCのRegula
toryGuideへの該当性に関しては何ら検討されていな
いので,不純物の効果についての当時の知見すら何ら反映されて
いない。なお,敦賀原発1号機の監視試験片のシャルピー試験評
価では,米国でも考えられないような量の不純物が混入している
場合(upperlimit)の脆化以上に脆化が進んでいる
(甲365。)
しかし,本件安全審査においては,中性子照射脆化に関する化
学成分の影響としてリンと銅を挙げるにとどまり,不純物の含有
量やマンガン・モリブデン・ニッケル鋼板の成分元素であるニッ
ケルの影響が考慮されていない。
(c)したがって,本件安全審査で用いられたP18のワーストケ
ースカーブは理論的にも合理性がなく,結果的に見ても,実際の
沸騰水型原発での照射速度では中性子照射脆化を過小評価する危
険が非常に高いといわざるを得ず,これを上限と考えることは明
らかに不合理である。また,本件安全審査は,圧力容器の中性子
照射脆化の検討に当たり,不純物及びニッケルの影響を看過した
ものであり,不合理である。
(被控訴人の主張)
(a)本件安全審査においては,圧力容器の脆性破壊防止について
は,i脆性破壊防止を十分考慮した延性の高い材料が使用される
こと,ii圧力容器内に脆性遷移温度の変化を知るための試験片を
取り付けることができるように設計されること,iii圧力容器の
最低使用温度を脆性遷移温度より33℃以上高くすることができ
るように設計されることが確認された(乙1の8,9頁,乙2の
8-4-3,11,12頁,乙3の1,8-14,8-221頁,
乙4の31,32頁。その結果,本件原子炉施設の圧力バウン)
ダリは,その基本設計ないし基本的設計方針において,脆性破壊
に関し,その健全性の損なわれることのない余裕のあるものとし
て設置し得ると判断された。
(b)控訴人らの主張は,圧力容器の材料の脆性遷移温度の把握な
いし予測に係る数値自体を安全審査の対象ととらえるようである
が,これは圧力容器材料の最低使用温度を,圧力容器材料の脆性
遷移温度より33℃以上高くすることができるよう設計されるこ
と及びその実際の変化を知るために監視試験片を取り付けること
ができるように設計されることという各審査事項との間において
関連を有するにすぎないことから,脆性遷移温度の当否そのもの
が原子炉の設置許可に係る安全審査において問題とされるもので
はない。
すなわち,安全審査においては,脆性破壊防止を十分考慮した
延性の高い材料の脆性遷移温度を基に導かれた最低使用温度が十
分低いものであり,中性子照射を受けた後も十分な余裕をもって
運転管理をすることができることが確認されれば足りるのであり,
中性子照射による脆性遷移温度の評価は,このような確認のため
に行われるものである。
また,上記について使用する脆性遷移温度の予測式は,安全審
査においてそれ自体が絶対的な正確性を有する値を与えるものと
は扱われておらず,これによって得られた値は,一試算結果とし
て参考に供されるにすぎない。そもそも安全審査においては,こ
の数値そのものにより将来の脆性遷移温度の変化を絶対的に管理
し得ることの確認は必要ではなく,実際,本件原子炉の圧力容器
の材料の脆性遷移温度の把握ないし予測に係る数値の当否自体が,
本件安全審査の対象事項とされたものではない。
したがって,控訴人らの主張は,脆性遷移温度の予測式及びこ
れらによって得られた値がそれ自体としてどの程度の正確性を有
するかを問題とするのに帰着するから,本件安全審査の合理性を
直ちに左右するものではなく,失当である。
(c)さらに,運転中の原子炉における脆化に関する安全確保につ
いては,原子炉施設の適切な運転等の管理の問題として対処され
るべき問題である。
現在,圧力容器の脆化予測は,社団法人日本電気協会の作成に
係る電気技術規程原子力編「原子炉構造材の監視試験方法(J」
EAC4201-2000(乙133)に記載されている国内)
脆化予測式及び計画的に取り出された監視試験片による評価によ
り行っている。
そして,国内脆化予測式は,国内原子炉圧力容器の監視試験デ
ータ,米国プラントの監視試験データを用いた統計的な評価によ
り,予測値が実測値を包絡するように定めており,実用上問題と
なるものではない(乙133。)
b照射速度等の影響の有無について
(控訴人らの主張)
(a)照射脆化は,照射量のみならず照射温度の影響も受け,更に
照射速度が遅い方が照射脆化が進行する。
そして,実際の原子炉での中性子の照射速度は材料試験炉より
数桁低くBWRは更にPWRより1桁以上低い。
(b)グンドレミンゲン原発は,1977年(昭和52年)に使用
済みとなったが,その圧力容器は,全く同じ材質と製造履歴を持
つ保存材(アーカイブ)を材料試験炉で短期間に実際の圧力容器
よりも大量の中性子照射したものよりもはるかに脆化が進んでい
た(甲356の23ないし27頁,甲357の①の4ないし5頁,
甲358の②。)
すなわち,実際のグンドレミンゲン原発の原子炉は,材料試験
炉より照射量が低く照射速度(1秒当たりの中性子照射量)も3
桁も低いにもかかわらず,実際の原子炉の方が照射脆化が進んで
いた。
そして,グンドレミンゲン原発の圧力容器の照射脆化の進行は
切り出し試験片の方向によって大きく異なっており,軸方向(割
れの方向は円周方向)のものは著しく脆化し,円周方向(割れの
方向は上下方向)のものはあまり脆化していなかったが(甲35
6の23,28ないし30頁,357の①,4ないし5頁,甲3
58の②,甲359の③,この原因は今なお解明されていない)
(甲356の29ないし30頁。さらに,グンドレミンゲン原)
発の圧力容器では試験片の切り出し位置によって脆化の程度が著
しく違っていた(甲357の①の5頁,甲356の37ないし3
9頁,甲359。)
また,米国の研究炉HFIR(HighFluxIsotopeReactor・
高中性子束同位体生産炉)でもグンドレミンゲン原発と同様に材
料試験炉の10分の1の照射量,4桁低い照射速度で材料試験炉
と同様の照射脆化を生じた。
(c)P19教授らのモデル計算の結果,第1に不純物である銅の
効果に関しては照射速度が遅いほど脆化が進行しやすいという照
射速度依存性が理論的に導かれ,第2に照射脆化に寄与する欠陥
は照射速度により異なり,沸騰水型原発の圧力容器程度の照射速
度では銅クラスターの影響が支配的であるのに対し,材料試験炉
クラスの照射速度では格子間原子クラスターの影響が支配的とな
る(甲356の54ないし59頁,甲357の①の5ないし7頁,
甲361。)
P19教授らの実験の結果,照射速度が遅い方が大きな銅クラ
スターが形成されることがミクロ的に観察され,確認された(甲
356の60ないし63頁,357の①の8頁,甲357の②の
図6-1。また,P19教授らの実験で硬さ試験でも銅濃度が)
0.15%程度の場合も含めて,照射速度が遅い方が脆化が進行
することが確認された(甲356の63ないし65頁,甲357
の①の8頁,甲362の②。)
P19教授らの実験結果では,P19教授らのモデル計算で予
測した以上に大きなクラスターが観察されており,実際の原発の
圧力容器ではP19教授らのモデル計算よりも更に早く脆化が進
行する可能性がある(甲356の65ないし68頁。照射脆化)
に関しては,現在なお解明されていない点が多く(甲357の①,
10頁,信頼できる脆化予測式は存在しない(甲356の86)
頁,95ないし96頁。)
(d)したがって,本件安全審査が基にした照射脆化についての知
見は現在の科学水準からは妥当性を欠いているので,本件安全審
査は不合理である。
(被控訴人の主張)
上記aの被控訴人の主張のとおり,圧力容器の材料の脆性遷移温
度の把握ないし予測に係る数値自体は,安全審査の対象となる事
項ではないし,また,控訴人らが照射速度の影響として指摘して
いるグンドレミンゲン原発の調査研究についての主張は,本件原
子炉施設とは別の原子炉に関するものであって,本件安全審査と
は関係がなく,失当である。
c本件安全審査が準拠した監視試験方法の妥当性の有無について
(控訴人らの主張)
(a)本件安全審査が準拠した原子炉構造材の監視試験方法である
社団法人日本電気協会の作成に係る電気技術規程原子力編「原子
炉構造材の監視試験方法(JEAC4201-1970(乙」)
81)は,昭和61年に「原子炉構造材の監視試験方法(JE」
AC4201-1986(甲259)により改訂されている。)
上記JEAC4201-1986においては,試験片に使う材
料は炉心領域に使用したもののうちから照射前の関連温度RTN
DTと化学成分(Cu,Ni等)の影響を考えて設計寿命末期の
RTNDT調整値が最高となると予測されるものを選ぶとされ,
また,試験片の数は,各回毎に引張試験片3個以上,衝撃試験片
12個以上を原則とされている(甲259の1ないし3頁。)
しかし,上記JEAC4201-1970では,JEAC42
01-1986と異なり,関連温度RTNDTや化学成分の考慮
を欠いており,試験片の数も各回毎に引張試験片2個以上,衝撃
試験片8個以上としており(乙81の2頁,少ないのであるか)
ら,現在の科学技術水準では,監視試験片が存在することを基礎
にした本件安全審査は,合理性を失っている。
(b)監視試験片による監視は極めて重要であるが,発電用原子力
設備に関する技術基準を定める省令(昭和40年6月15日通商
産業省令第62号)及び発電用原子力設備に関する構造等の技術
基準告示(告示501号の105条)によれば,1回当たりの試
験片の個数は引張試験片で3個以上,衝撃試験片で12個以上と
なっているにもかかわらず,本件原子炉では,それぞれ2個以上,
8個以上という数しか存在しないのであるから,本件原子炉は,
明らかに,現在の科学技術水準に照らし,安全審査で用いられた
具体的審査基準に不合理な点がある。
また,上記「原子炉構造材の監視試験方法」JEAC4201
-1986(甲259)によると,本件原子炉の設計寿命は,全
出力運転年数(定格負荷相当年数,EFPY(effectivefullp
oweryear)として32年が想定されている。そして,監視試)
験片の取り出し時期に照らすと,本件原子炉の監視試験計画では
運転開始後12年までのデータしかわからず,その設計寿命に有
効に対応する監視計画がないという疑問があるので,廃炉に至る
まで的確な監視試験片のデータが得られないまま手探りで運転を
継続する危険性が高い。
(c)上記グンドレミンゲン原発の圧力容器において,試験片の切
り出し位置によって脆化の程度が異なるのであるから,試験片の
位置如何によって圧力容器の脆化を著しく過小評価することとな
る。
このように試験片の切り出し方向あるいは照射の際の方向によ
り脆化の程度が著しく異なるとすれば,試験片はそれらの事情を
考慮して切り出しの際ないし照射の際の方向を変えてそれぞれに
ついてシャルピー試験が可能な数を配置する必要があるが,その
ような配慮はされていない(甲356の83,97頁。)
さらに,本件原子炉施設では,試験片は原発の寿命期間中に4
回取り出せる数しか取り付けられていないのであるから,現在の
圧力容器の脆化の評価に有効性を持つためには,信頼できる脆化
予測式が存在しなければならないが(甲356の86頁,95な
いし96頁,現在なお,信頼できる脆化予測式は存在しないの)
であるから,試験片の有効性は否定的に解さざるを得ない。
(d)したがって,本件安全審査は,監視試験方法が不十分である
から合理性がない。
(被控訴人の主張)
(a)本件安全審査においては,脆化予測式に基づく脆性遷移温度
の予測値と,その実際の変化を知るための監視試験片による実測
値による補正とによって,実際の脆性遷移温度の変化を把握でき
ることを確認することで足りるのであり,本件原子炉施設におい
ては,当時の「原子炉構造材の監視試験方法(JEAC420」
1-1970(乙81)も踏まえ,運転期間中の脆性遷移温度)
の把握が可能であると判断したものである。
すなわち,上記aの被控訴人の主張のとおり,本件安全審査に
おいては,圧力容器に関する基本設計ないし基本的設計方針とし
て,その材料の脆性遷移温度については,中性子照射を受けた後
も最低使用温度を脆性遷移温度より33℃以上高くすることがで
きるように設計されること,及びその実際の変化を知るために監
視試験片を取り付けることができるように設計されることが,本
件申請の時の知見に照らして可能であることが確認されており,
実際新しい基準において試験片の数が多少増えたとしても,その
安全審査の結果に変わりはない。
(b)実際の本件原子炉施設の運転期間中の脆性遷移温度の把握は,
その適切な運転等の管理の中で対処すべき問題であり,本件安全
審査において確認した基本設計ないし基本的設計方針の合理性を
左右するものではない。
なお,控訴人らは,上記JEAC4201-1970(乙8
1)につきJEAC4201-1986(甲259)による昭和
61年の改訂に基づく試験片の個数の変更に伴い,技術基準に定
められた試験片の数が増加し,変更前の規格に基づく本件原子炉
の試験片の数が相対的に少なくなったことを指摘するが,この試
験片の数に関する変更が,変更前の試験片の数の妥当性を否定し,
脆性遷移温度の把握が不可能であることを明確に示す具体的根拠
は示していない。そして,変更前の基準に従った本件原子炉の試
験片の数について,現在の科学技術水準に照らして不合理な点が
あるという具体的な根拠は何ら示されていない。
また,控訴人らは,EFPYで13年目以降のデータの取得が
行われないことに関する危険性を指摘するが,運転期間中の脆性
遷移温度の変化の把握方法は上記のとおりであり,EFPYで1
2年までの監視試験片による脆性遷移温度の実測値に基づき,脆
化予測式による脆性遷移温度の計算結果の補正を行うことによっ
て,これを確認できるのであり,控訴人らの主張は,本件安全審
査の内容を正解しないものである。
②応力腐食割れ(SCC)の有無について
(控訴人らの主張)
a本件安全審査当時既に判明していた中国電力島根原子力発電所
(以下「島根原発」という)における応力腐食割れ(甲22)に。
ついては,放置すれば重大なLOCAを招いた可能性が否定できな
いものであり,その結果,制御棒駆動水戻りノズルの設計変更をも
たらし,本件原子炉も,その影響を受け本件申請に係る設計変更が
されている(乙2-8-3-88頁,乙3の3-8-198頁,乙
34,35。)
すなわち,本件申請においても応力腐食割れの起きやすい設計そ
のものの変更を余儀なくされている。そこで,応力腐食割れについ
ては,詳細設計等によって対処すれば足りるものではなく,使用さ
れる部材,施工方法や運転方法の不備,瑕疵からでも,応力腐食割
れが起きれば,原子炉の生命線ともいうべき軽水の確保に支障を来
たし,事故が発生するから,応力腐食割れの観点から本件原子炉の
詳細設計やその部材,施工方法や運転方法の審査が不可欠である。
そして,応力腐食割れの対策は確立されているとはいえず,詳細
設計等における対処によっても十分防止することはできず,また,
BWRにおいて,応力腐食割れは,続出し,今なお解決されていな
いから,応力腐食割れ対策を審査すべきである。
なお,福島第二原発最高裁判決が「SCC(応力腐食割れ)の防
止対策の細目等にかかわる事項は,原子炉設置許可の段階における
安全審査の対象にはならない」と判示しているので,むしろ応力腐
食割れ対策の基本的な部分は基本設計に属すると判示していると解
することができる。
b(a)原子炉においては圧力容器の内張,燃料棒の自立を支えるシ
ュラウドには腐食されにくいステンレス素材が導入されているが,
応力腐食割れと思われるひび割れの兆候(インディケーション)
が見つかっている。
東京電力は,平成13年7月6日,同年4月29日から定期検
査中であった福島第二原発3号機において,応力腐食割れを防止
するため炭素含有量を減らしたステンレス素材SUS316Lを
用いたシュラウドのほぼ全周にわたりひび割れがあるのを発見し
た。当該シュラウドの寸法は,外径約5.6m,高さ約6.7m,
肉厚は約50㎜であり,そのひびの深さは,最大で26㎜(11
).5度付近,平均で約16㎜であり,下部リング外表面から約0
3㎜の深さ(極表層部)の組織にはすべり線が認められ,この範
囲は粒内割れであることが確認された。通常,原発の応力腐食割
れで問題となるのは,結晶の粒界に沿ってひび割れが進展する粒
界型応力腐食割れであるが,東京電力は,上記福島第二原発3号
機のシュラウドの極表層部の腐食は粒内型応力腐食割れと推定し
ている。
そして,低炭素ステンレス鋼は,耐粒界型応力腐食割れに対し
て優れていることが確認されているが,切欠きがある場合には粒
界型応力腐食割れが進展することがわかっており,応力腐食割れ
対策材料の効果は極めて限定されたものである。
(b)現実には,沸騰水型原発の約4割において,炉心シュラウド
の応力腐食によるひび割れ又はその兆候が現れるという事態に至
っており,しかも原子力発電所がおよそ30年の稼働期間を想定
して安全審査を受けながら,10年も経ない経過において応力腐
食割れが発生している。実際に,応力腐食割れの発生,進展を防
ぐことはできないし,このような応力腐食割れの亀裂の進行を評
価する具体的な方法は存在しない。
定期点検におけるシュラウドの応力腐食割れの点検は,目視検
査によって行われるが,毎回の検査で検査可能なすべての溶接部
分を点検するわけではない。1回の検査で全体の約10%程度の
検査を行い,各点検箇所については10年毎に検査することにな
っているから,その10年間に応力腐食割れが発生し進展したも
のについては,発見されずに原発の運転が行われることになる。
また,シュラウドのひび割れの表面が微少であれば,内部でひび
割れが進展している場合でも,目視検査では発見されない可能性
は十分にある。
(c)NRCは,1994年(平成6年)の文書で,炉心シュラウ
ドの360度のひび割れが貫通した際の安全評価を行い,炉心シ
ュラウドにおける円周360度におけるシュラウドの分断という
仮定における安全影響を評価した上「最も憂慮される事故のシ,
ナリオは主蒸気管の破断,再循環系の破断,そして地震であ
る」としているから,全周にわたるひび割れが,地震により,。
炉心シュラウドの分離に至る可能性がある。
また,NRCの上記文書によると,出力と流量のミスマッチは
冷却能力の不全をもたらし,炉心シュラウドが持ち上がり,それ
が横方向にずれるような場合には,制御棒の挿入に支障をきたす
おそれが生じ,最悪の場合には燃料棒や制御棒の著しい破損に端
を発する放射能放出事故が起こり得るとしている。
さらに,炉心シュラウドのひび割れによる冷却材喪失事故のお
それがある。
すなわち,炉心シュラウドを構成する金属板が定位置からずれ,
炉心(1番少ない隙間で約5㎝である)方向にずれた時,核燃料
に影響を及ぼす可能性があり,しかもいくつかの燃料集合体の間
を通る水の流れが遮断され,1本又は複数の制御棒が挿入できな
くなってしまう可能性がある。そして,炉心に影響がなかった場
合でも,事故後に炉心シュラウドが水を保持する性能が失われて
しまうおそれがある。もしもひび割れのある炉心シュラウドにお
いて,内側の水も外側の水と同じ速さで漏れ出てしまったら,緊
急冷却装置が機能する前に,核燃料に損傷が起きる可能性が出て
くる。
(d)しかし,本件安全審査においては,炉心シュラウドの応力腐
食割れを起因とするシュラウド自体の分離やずれについて,設計
基準事象として想定していない。
c(a)しかも,本件原発は,我が国の原発のなかでも最も多数の再
循環系配管での応力腐食割れが生じており,平成16年の原子力
安全・保安院の検討結果の整理(甲429の35頁)によると,
本件原子炉施設において溶接継ぎ手数で26もの溶接継ぎ手でひ
び割れが発見され,その欠陥が明らかとなっている。
(b)しかし,現在でも,応力腐食割れのメカニズムは,いまだ解
明されていない。
すなわち,1970年代後半に海外及び我が国の沸騰水型原発
においてSUS304ステンレス鋼配管の熱影響部に応力腐食割
れが多発した(甲429の5頁。この応力腐食割れはステンレ)
スの耐食性を高めているクロムが溶接熱影響部では鋼の強度を保
つために添加されている炭素と結合してクロム炭化物となり結晶
粒界に集中し,結晶粒界近傍にクロム欠乏層が生じ,これが原因
となって結晶粒界に沿って割れが進展したものである(甲427
の①の2頁,441の1頁等。この1970年代に多発したS)
US304ステンレス鋼配管の応力腐食割れはこのように発生の
メカニズムが解明され,その原因がクロム炭化物の析出によりク
ロム欠乏層が生じることにあったので,鋼材中の炭素含有量を低
くしたSUS304L,SUS316L等のL材(LはLow
carbon=低炭素の意味。なお,SUS316はモリブデン
を添加したステンレス)が開発され,これが応力腐食割れ対策の
中心となった(甲427の①の2頁,429の5頁,441の1,
2頁。)
その後の1990年代後半以降,低炭素ステンレス鋼において
も応力腐食割れが多発した。この応力腐食割れにおいては,大部
分でクロム欠乏層が観察されないこと,粒界割れではなく粒内割
れが生じ途中から粒界割れになっているなど1970年代に多発
した応力腐食割れと異なるものであった。その割れの発生場所は,
表面加工による硬化層や溶接部近傍の塑性ひずみによる硬化領域,
炉心シュラウドでは中性子照射による硬化領域(炉心シュラウド
では中性子照射誘起偏析によるクロム欠乏層も発見された)に集
中していたことから,表面加工による硬化や溶接による塑性ひず
みによる硬化等が影響していると判断された(甲427の①の4
)。ないし6頁,429の13ないし17頁,441の3,4頁等
そして,この低炭素ステンレス鋼における応力腐食割れの発生・
進展のメカニズムは現在もなお解明されていない(甲427の①
6,7頁,429の18頁,54頁,441の3頁等。)
このように,我が国の沸騰水型原発においては,後記の被控訴
人の主張のとおり詳細設計段階で低炭素鋼を採用し,運転管理段
階で水素注入を採用しているにもかかわらず,広範に応力腐食割
れが発生しているが,低炭素鋼における応力腐食割れの発生とそ
のメカニズムは未解明であって,運転管理を含めて有効な防止対
策はできないから,再循環系配管をはじめとする圧力バウンダリ
が破断しないように対策を講じることは,当然に基本設計ないし
基本設計方針に含まれると解すべきである。
dしたがって,本件安全審査は,応力腐食割れに関する対策につ
いての審査を欠如しているので,看過し難い過誤,欠落がある。
(被控訴人の主張)
a圧力バウンダリにおける応力腐食割れ(SCC)については,原
子炉施設の詳細設計や具体的な工事方法及び運転管理における安全
規制によって対処されるべき事柄であって,原子炉設置許可に際し
ての安全審査の対象となるものではないことは,福島第二原発最高
裁判決に照らしても明らかである。
b本件安全審査においては,本件原子炉施設の圧力バウンダリはそ
の基本設計ないし基本的設計方針において,化学的腐食による損傷
防止対策がとられ,安全が確保され得ると判断されている。
すなわち,応力腐食割れ(SCC)については,材料,応力,環
境の三つの要因が影響することにより生ずることが分かっているの
で,本件原子炉施設につき,応力腐食割れを起こしにくい材料であ
るステンレス鋼が使用され,また,腐食が起こりにくいように適切
な水質管理ができる設計とされること,しかも運転開始後であって
も検査によって圧力バウンダリの健全性が確認できるように設計さ
れることを審査し,その基本設計ないし基本的設計方針においてS
CCについて安全が確保され得ると判断されている。
さらに,SCCを防止する具体的な対策は,この基本設計ないし
基本的設計方針に基づき詳細設計や具体的な工事方法及び運転管理
による安全規制によって実現されるものである。
c控訴人らは,低炭素ステンレス鋼においても応力腐食割れについ
ては,1970年代に多発した応力腐食割れと異なるものであると
主張するが,いずれも塑性変形や中性子照射の影響が考えられ,材
料,応力,環境の3要因が影響して発生するものであって,その割
れの形状も特異のものではない。
③疲労破壊及び応力集中の有無について
(控訴人らの主張)
a上記(ア)③bの控訴人らの主張のとおり,平成11年7月12日
に発生した敦賀2号機の冷却材漏洩事象の亀裂箇所である再生熱交
換器の配管は,もともと熱疲労が問題となる場所であり,熱疲労に
ついては慎重に解析が行われた上で設計されたはずの箇所であり,
供用期間中の検査をしていたにもかかわらず,12年余りで疲労破
断してしまったことに照らすと,解析,設計,検査が行われている
からといって,圧力バウンダリの健全性が維持されるとはいえない。
そして,近時の異常事象・事故例にかんがみ,現実に起こり得ると
考えられる故障を想定した上で,東芝,日立のLOCA解析を参考
にして,中小破断LCOAの事故例を解析すれば,中小破断LOC
Aにおいても炉心溶融事故に至る危険性があるというべきであるか
ら,疲労破壊及び応力集中に関する審査が不可欠である。
bまた,本件原子炉施設においては,営業運転開始前の原発試験運
転中(出力100%運転開始日3日目)の昭和60年5月31日,
循環水配管からの海水漏洩事象にともなう出力制限を行う異常事象
(復水器の配管に大穴事象)が発生した(甲347。)
すなわち,本件原子炉施設の復水器の循環水配管において,円錐
状の貫通孔(内面寸法最大直径78㎜。外面寸法最大横17㎜,縦
21㎜)が発生し,7トンの海水が漏洩し,応急処置のために循環
水ポンプBを停止,出力を低下させた。その原因は,当該部分の塗
膜が剥離し,異種金属間(チタン・鉄)の腐食電流が生じ,電食に
よる損傷進行の貫通孔と推定された。
この対策として,当該貫通部を切断,撤去し,当該部に母材と同
一仕様の鋼板をはめ込み突き合わせ溶接を行った。溶接部について,
液体浸透探傷試験,放射線透過試験を実施した。さらに,補強材近
傍の塗膜を再施工し,電気防食装置としてアルミニウム合金犠牲陽
極板を取り付けた。取り付け個数は,入口管,出口管各8個である。
そして,復水器が19℃の海水でタービンから来た高温水を復水
し,給水系で加熱し,最高46℃の軽水として送り込む一連の経路
の重要な出発点を構成していること,復水器の冷却能力が喪失すれ
ば,給水制御器の正常な稼働が必要であり,万が一にもここでの故
障が重なった場合には大事故に連なるおそれがあること,一方,復
水器の真空度が低下した場合には,タービン・トリップとなり,こ
のときのタービン・バイパス弁,逃し安全弁の作動如何で重大な事
故もあり得ることがあるにもかかわらず,本件安全審査では全く審
査された形跡がない。
この循環配水管が肉厚13㎜もの配管であるにもかかわらず,通
水後わずか3日という短時間でこのような大貫通孔が発生し,しか
もこの漏洩自体貫通孔(破断)による海水漏洩という事態に至るま
で検知されなかった(破断前検知が実現できなかった)ことは重大
問題である。この破断によってギロチン破断はあり得ないとされる
他の圧力バウンダリを構成する配管,とりわけ肉厚23㎜の再循環
系配管でさえも破断の確率は意外に高い可能性が考えられる。
塗膜剥がれによる異種金属間の腐食電流による貫通孔の形成とい
う推定が正しいならば,この知見に基づく配管の健全性は,安全審
査の対象とはされていないのであるから,配管の厚さや,材質,組
合せ,腐食電流の可能性,必要な防止装置等の各観点から,審査を
やり直す必要がある。
cしたがって,本件安全審査は,疲労破壊及び応力集中に関する対策
についての審査を欠如しているので,看過し難い過誤,欠落がある。
(被控訴人の主張)
a控訴人らの主張に係る敦賀2号機の事象は,上記(ア)③bの被控
訴人の主張のとおり,機器の詳細設計ないし施工管理の段階に係わ
る事象であって,基本設計ないし基本的設計方針の妥当性を判断す
る安全審査の対象外である。また,敦賀2号機は,PWRであり,
漏洩事象を発生させた内筒付き再生熱交換器は本件原子炉には存在
しないから,控訴人らの主張は失当である。
b控訴人らの主張に係る本件原子炉施設の復水器の配管の大穴事象
は,配管の据付け用補強材の除去作業後の補修塗装の施工不良によ
り,塗膜の一部が剥離し,循環水配管の管壁の一部が海水に露出し
たため,復水器と循環水配管との異種金属間に腐食電流が発生し,
異種金属間の電食により循環水配管に貫通孔が生じたものであるか
ら,当該事象は,循環水配管の補修作業の施工管理に属する事項で
あり,本件原子炉施設の安全審査に係る事項ではなく,本件安全審
査の合理性を何ら左右するものではない。
また,控訴人らは,循環水配管漏洩事象が重大な事故につながる
おそれがあると主張するが,これ自体仮定に仮定を重ねた主張であ
って,安全設計審査指針が定める単一故障を正解しないものである。
そして,再循環系配管が破断する恐れがあるとも主張するが,原子
炉再循環系配管と復水器入口循環水配管について,その使用環境や
材質が全く異なっていることを無視するものであって,全く合理的
な根拠がない。
さらに,当該事象は,国際原子力事象評価尺度(甲355の36
頁)上は,安全に関係しない事象である「評価対象外」に分類され
ているので,控訴人らの主張は失当である。
④圧力バウンダリの使用前検査及び供用期間中検査の合理性について
(控訴人らの主張)
a使用前の圧力容器等の母材や溶接部の欠陥(亀裂,ブローホール,
溶接中のスラグ巻き込み等)の発見については,表面については液
体探傷試験(2種類の液体を塗り,欠陥部分があると色がつくこと
から「カラーチェック」ともいう,人が入れない部分の表面や。)
内部については超音波探傷試験,放射線探傷試験が行われる。
しかし,放射線探傷は,ブローホールなどの欠陥は見つけやすい
が,より危険な亀裂状の欠陥の検出能力が劣り,超音波探傷も亀裂
状欠陥の方向により検出能力が左右されるため,検出能力は板厚の
10%である(甲260の23頁。)
そして,本件原子炉の圧力容器の板厚は約160㎜であるから
(乙2の8-4-12頁,欠陥の検出限界はその10%である1)
6㎜となるので,検出能力自体比較的大きな欠陥を見逃す危険性が
ある。
b社団法人日本電気協会作成に係る電気技術規程原子力編「原子炉
冷却材圧力バウンダリの供用期間中検査(JEAC4205-1」
974(甲41)に従えば,圧力容器の溶接部をはじめとする圧)
力バウンダリの最重要部分やECCS配管,制御棒駆動水圧計配管
などの重要な配管もほとんど検査をする必要がなくなる。これでは,
むしろいかに検査をせずにすませるか,重要な箇所を検査しないこ
とを正当化する基準であり,これに依拠して検査を行うこと自体危
険であり不合理である。
c実際の原子炉施設に対する検査は,当時の通産省の検査官や発電
設備技術協会の検査担当官も立ち会わない施工業者任せの検査であ
って検査の信用性は欠如しているから,使用前検査や定期検査で圧
力バウンダリの欠陥が破断前に発見できることはない。
そして,我が国の原子力関係行政庁も検査機関も専門家も安全性
を厳しく追及する姿勢に欠けており,安全審査能力に欠けているた
め,原子炉施設の詳細設計段階以降では,現実には対策が十分に行
われないから,運転検査に関する事項も基本設計段階で安全審査の
対象とする必要がある。
dしたがって,検査により圧力バウンダリの破断を防止し得るとし
た本件安全審査は,不合理である。
(被控訴人の主張)
原子炉設置許可後の運転検査に関する事項については,原子炉設置
許可段階で審査すべき事項ではなく,後続の安全規制に係るものであ
るから,控訴人らの主張は失当である。
⑤運転期間(想定寿命)限定の有無について
(控訴人らの主張)
a本件処分及び本件安全審査においては,本件原子炉の運転年数,
つまり圧力容器や圧力バウンダリを構成する他の機器の想定寿命を
40年又は全出力運転年数(定格負荷相当年数,EFPY)を32
年としていたが,具体的な運転期間を明示して制限しなかった。
bしかし,当時の通産省及び資源エネルギー庁は,老朽化原発の寿
命延長のため「より合理的,効率的な設備管理」と称して,米国を
中心に進められてきた破壊力学(機器に存在する亀裂の振る舞いを
予測する学問)を導入して,従来維持してきた発電用原子力設備に
関する構造等の技術基準告示(告示501号)の基準をも切り下げ
ようとして,平成11年2月付けで「電気事業者の原子力発電所高
経年化対策の評価及び今後の高経年化に関する具体的取組につい
て(甲311)を発表した。そして,当時の通産省及び資源エネ」
ルギー庁は,同年2月ころ,稼働開始から30年が経過する福島第
一原発1号機,関西電力美浜原子力発電所(以下「美浜原発」とい
う)1号機,敦賀原発1号機の各寿命を60年に倍増することを。
承認する見解を示した。
c資源エネルギー庁が,平成8年4月付けで作成した「高経年化に
関する基本的な考え方(甲310)においては,原発の老朽化の」
指摘事項(ただし,その項目)は次のとおりであったので,本件原
子炉の寿命が延長されるとすれば,控訴人らその周辺住民に対する
影響は大きいものがある。
(a)原子炉圧力容器
i起動・停止による材料の疲労(定期的評価必要)
ii中性子照射による材質の脆化
),iiiステンレス鋼等の応力腐食割れ(計画的な点検・検査必要
ivステンレス鋼を内張りしていない部位の腐食
(b)炉内構造物(炉心シュラウド等)
i起動・停止による材料の疲労(疲労限を超えるプラントにつ
き定期的評価必要,)
ii流体振動による材料の高サイクル疲労
iii応力腐食割れ(計画的な点検・検査必要)
ivステンレス鋼の中性子照射脆化(計画的な点検・検査必要)
(c)一次冷却材配管
i疲労(定期的評価必要)
iiステンレス鋼の応力腐食割れ(計画的な点検・検査必要)
iii炭素鋼の腐食(肉厚測定の実施・配管の取り替え)
(d)原子炉再循環ポンプ
i高温での長期間使用に伴うステンレス鋳鋼の熱時効
ii疲労(疲労限を超えるプラントにつき定期的評価必要)
(e)ケーブル
熱・放射線による絶縁劣化(試験・評価・取り替え)
(f)原子炉格納容器
鋼板の腐食・結露水等による局部腐食(塗装・目視検査・再塗
装)
(g)コンクリート構造物
i強度低下(熱,中性子照射,中性化,塩分浸透,アルカリ骨
材反応(定期的な目視点検))
ii遮蔽能力低下(ガンマ線による発熱)
(h)耐震性との関係
i疲労
ii中性子照射脆化
iii腐食
iv応力腐食割れ
v熱時効
viコンクリートの強度低下
dしたがって,当時の通産省及び資源エネルギー庁の対応は本件原
子炉の寿命についても延長されることにつながり,ひいては控訴人
らその周辺住民の健康や安全な生活を送る権利を侵害するものであ
るから,具体的な運転期間を明示して制限しなかった本件処分及び
本件安全審査の瑕疵は重大かつ違法である。
(被控訴人の主張)
控訴人らの主張はすべて争う。
(ウ)制御棒駆動系について
①制御棒駆動系の信頼性とスクラム排出ヘッダー及びスクラム排出容
器の設計の合理性の有無について
(控訴人らの主張)
a制御棒1本ないし数本の挿入失敗は,緊急停止信号が出た場合で
も制御棒駆動系の故障により生じ得るものである。
すなわち,沸騰水型原子炉では,制御棒を重力に逆らって下から
上に水圧で挿入するという極めてユニークなスクラム装置となって
いるが,その制御棒駆動系統のうち特にスクラム・ディスチャージ
・ボリュームに水が入っていると多数の制御棒で同時にスクラム失
敗を生じる。
bこのような事故は,米国ブラウンズ・フェリー原発3号機におい
て,1980年(昭和55年)6月28日,スクラム排出容器に水
がたまり制御棒全体の半分の挿入に失敗して発生し,スクラム達成
までに14分02秒もの長時間を要している(甲9の28ないし3
0頁。)
そして,我が国において,上記米国ブラウンズ・フェリー原発3
号機の教訓を踏まえて,スクラム排出ヘッダーに水がたまらないよ
うにするため,スクラム排出ヘッダーとスクラム排出容器が直接つ
ながる一体化構造とされるようになったのは,1982年(昭和5
7年)から1983年(昭和58年)であり,それまでは,そのよ
うな知見もなく工事が実施されていなかった。
したがって,本件原子炉施設は,スクラム排出ヘッダーとスクラ
ム排出容器は分離した状態であって,これに関する本件申請に添付
の図面(制御棒駆動水圧系系統図。乙3の8-202頁)に照らし
ても,スクラム排出ヘッダーとスクラム排出容器を一体化しないこ
とを前提とした施設であるから,その制御棒駆動系の信頼性は欠如
している。
なお,福島第一原発1号機で1979年(昭和54年)7月20
日に,また,島根原発2号機で平成7年1月30日にそれぞれスク
ラム排出容器に水がたまった状態でもスクラム排出容器水位高のス
クラム信号が出ない限り運転が継続されていたので,スクラム排出
容器に水がたまった場合にスクラム機能に影響を与える事態が現実
に存在している。
cしたがって,スクラム排出容器に水がたまった場合にスクラム機
能に影響を与える点についての検討を欠くなどした本件安全審査は
不合理である。
(被控訴人の主張)
aスクラム排出ヘッダーとスクラム排出容器との具体的な接続方法
は,詳細設計に関することであり,基本設計ないし基本的設計方針
を審査する安全審査の対象とはならないことは明らかである。
b制御棒及び制御棒駆動系についての安全審査においては,
(a)制御棒は,予想される運転時の異常な過渡変化を含む通常運
転時,及び原子炉事故時に燃料被覆管破損限界を超えることなく
炉心を臨界未満にすることができる。
(b)制御棒の停止余裕は,最大反応度価値を持つ制御棒1本を完
全に炉心外に引き抜いた場合でも,冷温で炉心を臨界未満にする
ことができ,かつ臨界未満を維持できるようにすること。
(c)制御棒には落下速度リミッタを設け,自由落下速度を0.9
5m毎秒以下にする。
(d)地盤における最大加速度振幅が450Galの地震動に対し
ても制御棒は確実に挿入できるようにする。
(e)制御棒の最大連続引抜速度は,制御棒引抜手順及び制御棒価
値ミニマイザによる制御棒の最大反応度価値の抑制とあいまって,
運転員が原子炉出力を容易に制御できるような値にする。
(f)スクラム挿入速度は,全ストロークの90%挿入で3.5秒
以下にする。
という設計方針が妥当であることを確認している(乙2の8-3-
25ないし33頁,乙3の8-9ないし10頁,乙4の30頁)こ
とで十分であり,本件安全審査の内容はこれに尽きるのであって,
スクラムヘッダーとスクラム排出容器の具体的な接続方法は基本設
計ないし基本的設計方針の審査対象とはならないことは明らかであ
る。
c控訴人らは,本件申請につきスクラム排出ヘッダーとスクラム排
出容器とが一体化しないことを前提に安全審査が行われたと主張す
る。しかし,原子炉設置許可に係る申請書の記載方法については
事業者に任されているのであり,そもそも指摘のあった図面につい
ては制御棒駆動水圧系の系統図すぎないものであり,機器の詳細な
形状や寸法,配置を示したものでない点につき,その主張の前提を
誤っている。
また,スクラムの際に制御棒が挿入されることにより排出される
水は,スクラム排出ヘッダーからスクラム排出容器を通じて排出さ
れることになるが,スクラム排出ヘッダーに水がたまっていると,
制御棒を押し上げる力が弱くなる。そして,米国ブラウンズ・フェ
リー原子力発電所3号機において,制御棒が円滑に挿入されない事
態が生じたのは,スクラム排出ヘッダーとその下流にあるスクラム
排出容器を細い管で連結する構造となっていたので,水の流れが悪
くなり,スクラム排出ヘッダーに水が残っていたためであり,スク
ラム排出容器に水がたまったことが原因ではない。
しかも,本件原子炉施設においては,スクラム排出ヘッダーとス
クラム排出容器が直接つながる構造となっており,米国ブラウンズ
・フェリー原子力発電所3号機において発生した事象が発生するこ
とは全く考えられない。
dさらに,スクラム排出容器の水位高により発生するスクラムは,
運転中に,スクラム時の排水を受け入れるスクラム排出ヘッダーに
水がたまってスクラム排出水を受け入れる容量がなくなり,スクラ
ムが不可能となる状態を防ぐため,スクラム排出ヘッダー下流のス
クラム排出容器の水位が高くなると自動的に原子炉をスクラムさせ
る設計となっているものである。
福島第一原発1号機,島根原発2号機のスクラム排出容器水位高
のスクラムは,スクラム排出容器の水位が高くなったため,設計ど
おりに原子炉がスクラムしたものであり,控訴人らの主張する米国
ブラウンズ・フェリー原子力発電所3号機で発生したスクラム排出
容器に水がたまった事象とは異なるものである。これらの施設の運
転時においてスクラム失敗を生ずるものではなく,控訴人らの主張
には,その前提において誤りがある。
②スクラム失敗等と暴走事故について
(控訴人らの主張)
aタービン・トリップによる暴走事故
(a)本件原子炉施設の早期炉心における過渡変化解析のうち,タ
ービン・トリップ(タービン・バイパス弁作動)時(105%出
力)の解析(乙3の10-36ないし38頁,10-79頁)に
よれば,解析上(スクラム成功時)の最大出力時刻は事故後0.
79秒(乙3の10-38頁の本文では約0.8秒後)時点であ
る。
この解析では,タービン・トリップによりタービン主蒸気止め
弁が閉鎖し,この10%閉鎖でスクラムする(乙3の10-36
頁。本件原子炉施設のタービン・トリップ時は,事故後0.7)
9秒後において,マイナス1.00ドルのスクラム反応度が補償
されることを前提として,最大出力時刻となっているから,上記
解析における正の反応度投入は1.00ドルを超える。このよう
に大きな正の反応度投入(1ドル以上)がある場合,本件原子炉
施設のタービン・トリップ時(105%出力)の事故後0.79
秒後時点の全反応度はプラス1.00ドルである。
そして,この時点でスクラムに失敗していれば,全反応度はス
クラムにより加えられるはずのマイナス1.00ドルがなくなる
ので,プラス2.00ドルになる。
このタービン・トリップ時(105%出力)の事故後0.79
秒時点の逆炉周期は,中性子平均寿命が43マイクロ秒(乙2の
8-3-36頁,乙3の8-169頁,遅発中性子割合を0.)
006(標準的な数値)として,
(2.00-1)÷(43×10÷0.006)=139.5
-6
となる。つまりこの時点の原子炉周期は139.5分の1秒,す
なわち0.0072秒である。
さらに,この正の反応度投入はタービン主蒸気止め弁閉による
原子炉圧力の上昇による炉心のボイド減少に起因するところ,原
子力圧力は事故後0.79秒時点以後も上昇を続けており,特に
1.25秒時点までは極めて急激な上昇を続けているのであるか
ら,0.79秒時点以後も更に正の反応度が投入される危険があ
る。
したがって,本件原子炉施設においては,タービン・トリップ
時(105%出力)に事故後0.79秒時点でスクラムに失敗し
ていれば,全反応度は暴走事故を引き起こすに十分な数値となる。
(b)上記0.79秒時点の全反応度2.00ドルは,タービン主
蒸気止め弁閉による原子炉圧力上昇に伴う炉心のボイド減少によ
る正の反応度投入と直ちに生じるドップラー効果による負の反応
度補償の合計である。
そして,事故後0.79秒時点までに原子炉蒸気流量は定格の
105%から52.0%に減少しており,かつその時刻付近では
急激な変動はない。原子炉蒸気流量は,炉心で発生した蒸気泡の
総和であるから,炉心の冷却材流量(速度)が変化しなければ,
炉心のボイド率と比例すると考え,炉心のボイド率も定格の10
5%から52.0%に減少したものと想定すると,本件原子炉施
設の定格運転時の炉心平均ボイド率は42.0%とされるので,
炉心平均ボイド率は44.1%から21.8%に減少したことに
なる。炉心平均ボイド率は44.1%から21.8%に減少した
場合に投入される正の反応度は,反応度ボイド係数の曲線(この
場合ほぼ直線)を変化前から変化後まで積分すると,
(14.16×10+10.92×10)×1/2×(44.
-4-4
1-21.8)=279.6×10
-4
となる。このボイド率減少による正の反応度0.02796は,
遅発中性子割合を0.006とすると4.66ドルに相当する。
このような正の反応度投入があった場合,最大出力時刻までの
補償反応度は,スクラムがない以上,ドップラー効果だけであり,
かつ断熱状態とみなし得るので,本件原子炉施設におけるタービ
ン・トリップ時(105%出力)に1秒程度のスクラム遅れが生
じた場合の最大出力時刻まではドップラー効果により上記ボイド
率減少による投入反応度マイナス1ドルの反応度が補償されるこ
とになる。したがって,この場合には最大出力時刻までにマイナ
ス0.02196(3.66ドル)のドップラー効果による反応
度補償が生じなければならない。そして,想定したドップラー反
応度係数によりドップラー効果による補償反応度がマイナス0.
02196なる燃料棒平均温度は2195℃となる。
そして,二酸化ウランペレットの熱容量は,600℃から22
00℃までは360J/㎏℃とされる(甲239。熱容量は比)
熱×質量であるから,これを1g当たりの比熱にして熱量の単位
をカロリー(1J=0.239カロリー)にすると,0.086
cal/g℃となる。
したがって,燃料棒を0℃から2195℃に温度上昇させる発
熱量は188.77cal/g(650℃からの上昇分は132.
87cal/g)である。
(c)最大出力時刻後の出力変動を最大出力時刻前と対称形とみな
すと,本件原子炉施設におけるタービン・トリップ時(105%
出力)に1秒程度スクラム遅れが生じた場合の燃料棒の総発熱量
の平均値は321.64cal/gとなる。これは,十分に燃料
棒破裂・水蒸気爆発を生じ得る値である。
さらに,本件原子炉施設では燃料集合体内の局所ピーキング係
数で1.24が想定されているから(乙3の8-164頁,発)
熱量のピーク箇所は平均値の2.43倍となり得る。そして,東
京電力が提出した計算上もピーキング係数を無視して半径方向と
軸方向だけを組み合わせたピーキング係数(グロスピーキング係
数)は1.5を大幅に上回り,11000MWd/tでは平均値
の1.79倍である(乙3の8-394頁。この場合の発熱量)
の最高値は平均値の1.79倍で575.74cal/gとなる。
なお,後記のチェルノブイル事故の最大燃料エンタルピ(総発
熱量)は300ないし400cal/gであるから(乙51の3
3頁,本件原子炉施設でタービン・トリップ時(105%出)
力)に1秒程度のスクラム遅れが生じた場合には,チェルノブイ
ル事故以上の破局的な暴走事故に至る危険がある。
(d)ところで,タービン・トリップ時にタービン・バイパス弁も
作動しないと事故は更に破局的なものとなる。
東京電力の本件申請に係る解析上スクラム成功時の最大出力時
刻は事故後0.86秒,この時点のスクラム信号経過時間は0.
79秒,この時点のスクラムによる投入反応度は1ドル強であり,
1秒程度のスクラム遅れが生じた場合の事故後0.86秒時点で
の全反応度は2ドル強である。この場合ボイド率が44.1%か
ら14.5%まで減少したとして,ボイド減少による投入反応度
は0.03541(遅発中性子割合を0.006とすると5.9
ドル)となる。そして,1秒程度のスクラム遅れがあるときの最
大出力時刻までのドップラー効果による補償反応度は0.029
41必要であり,それに相応する燃料棒平均温度は約2888℃
であって,0℃からの発熱量は248.37cal/gである。
この場合の総発熱量の平均値は440.84cal/gとなり,
十分に燃料棒破裂・水蒸気爆発に至る数字である。さらに,燃料
発熱量の最高値は,上記平均値の1.79倍で789.10ca
l/gとなり,完全に燃料棒破裂・水蒸気爆発に達する。
このような数値からすると,本件原子炉施設でタービン・トリ
ップ時にタービン・バイパス弁不作動の場合,1秒間全く制御棒
が挿入されない場合のみならず,相当程度の数の制御棒が挿入さ
れた場合でも一部の制御棒の挿入失敗で暴走事故に至る危険があ
る。
(e)原子力発電所では,タービン系統などの異常からタービンを
守るため,極めて多種の極軽微な異常でも瞬時にタービンを自動
的に停止し(タービン・トリップ,主蒸気止め弁閉鎖が生じる)
ように設計されている。
本件原子炉施設のタービン・トリップは,タービン過速度(ス
ピードオーバー,復水器真空度低下,タービンスラスト軸受摩)
耗,タービン軸振動大,電気事故(発電機トリップ等,タービ)
ンに送られる蒸気中の水分上昇等のほか,タービン制御油圧低,
主油ポンプ(タービン主軸ポンプ)吐出圧力低,湿分分離器水位
高により発生する。
そして,タービン・トリップは,原子力発電所で想定される異
常状態(過渡現象)の中でも比較的発生頻度の高いものである。
我が国のこれまでの事故例に照らすと,本件原子炉施設の運転
時間が40年と想定されているので,その間に少なくとも4回の
タービン・トリップ,8回程度のタービン・トリップないしそれ
と同視し得る事態が生じることが現実的に想定される。
b制御棒挿入失敗による暴走事故
(a)本件原子炉施設において,再循環系配管1本の完全破断が生
じた場合,破断の生じた再循環系から冷却材が急激に流出し,炉
心での冷却材(減速材)流量も急激に減少し,事故後約8.7秒
で炉心シュラウド外側(いわゆるダウンカマ部)の水位がジェッ
ト・ポンプ・ノズルの位置まで下がり,炉心での冷却材流量が急
激に減少し,ほとんどゼロになる。さらに,炉心シュラウド外側
の水位が下がって再循環ポンプ吸込口の位置まで下がると冷却材
の上にたまっていた蒸気が破断口から流出して原子炉圧力が急激
に低下し,圧力容器の下部プレナム部で減圧沸騰が生じて,下部
プレナムの冷却材が炉心部に押し上げられる(下部プレナム部の
フラッシング。)
本件原子炉施設の場合,事故後約12秒後の時点で下部プレナ
ム水のフラッシングが生じるとされており(乙2の10-3-3
2頁,0.2秒足らずの間に炉心流量がゼロから定格の60%)
まで急上昇している。
(b)この再循環系配管の完全破断の際の下部プレナム部のフラッ
シングの際には,炉心の減速材が急増するため,本件原子炉施設
のような沸騰水型軽水炉(BWR)では大きな正の反応度が投入
される。この時点で原子炉がスクラムしていない場合はもちろん
のこと,制御棒2本程度の挿入失敗があっただけでも暴走事故に
至る危険がある。
c再循環流量制御系の誤動作による暴走事故
(a)本件申請に係る本件原子炉施設の再循環流量制御系の誤作動
については,過渡変化前,定格出力の68%,定格流量の50%
で比較的長時間安定して運転していた場合について解析されてい
る。
(b)本件原子炉施設の現在の設計において,再循環流量制御系の
誤作動時に過渡変化後2秒時点でスクラム反応度が加えられてい
ない場合(1秒強のスクラム遅れに相当,流量増加率が毎秒1)
1%の場合,燃料棒のピーク部の発熱量は約330.58cal
/gとなって水蒸気爆発が生じ,また,流量増加率が毎秒18%
の場合は,燃料棒のピーク部の発熱量は約536.37cal/
gとなって破局的な水蒸気爆発が発生する。
なお,上記aのとおりチェルノブイル事故の最大燃料エンタル
ピ(総発熱量)は300ないし400cal/gであるから,本
件原子炉施設で再循環流量制御系の誤作動による過渡変化により
チェルノブイル事故と同等ないしそれを超える事態に至る危険が
ある。
dしたがって,スクラム失敗等を想定していない本件安全審査は,
看過し難い過誤,欠落がある。
(被控訴人の主張)
a本件安全審査においては,本件原子炉の制御棒及び同駆動系につ
いては,各制御棒及び同駆動系ごとにアキュムレータが設けられる
こと,原子炉のスクラム(緊急停止)時にすべての制御棒駆動系か
ら排出される水を貯えるスクラム排出ヘッダー及びスクラム排出容
器が設けられること等から,十分なスクラム信頼性を有している。
すなわち,本件原子炉施設におけるスクラム(緊急停止)装置は,
多重性,独立性,試験可能性などの観点から,確実に所期の機能を
発揮し,信頼性が確保されるものと判断されており,解析に当たり
想定された事象の発生に加えて,本件原子炉が所期のスクラムに失
敗するような事態までを考える合理性はない。
したがって,多重性,独立性,試験可能性などの観点から,確実
に所期の機能を発揮し,信頼性が確保されるものと判断されたスク
ラム(緊急停止)装置が,機器等の故障によって正常に作動しない
ものとして,過度のスクラム遅れ(又はスクラム失敗)を仮定すべ
き必要性はなく,また,その合理性もないというべきであり,控訴
人らの上記主張は失当である。
b控訴人らの主張するタービン・トリップは,本件安全審査におい
ては「主蒸気系の過渡変化」の一つとして想定され解析された。
この過渡変化においては,タービン主蒸気止め弁が閉鎖すれば,
主蒸気の遮断により原子炉圧力が上昇し,ボイド(気泡)がつぶれ
ることによる正の反応度投入によって中性子束は増加する。しかし,
タービン主蒸気止め弁閉スクラムによる負の反応度投入によって中
性子束の増加が抑えられ,また,逃がし安全弁の作動によって圧力
上昇が抑制され,事象は収束する。この過渡変化の解析に当たって
は,評価結果を厳しくするため,定格出力の約105%での運転を
仮定し,また,タービン・バイパス弁が作動しないと仮定するなど
の前提条件を設定した。
その解析評価によれば,高出力運転中のタービン・トリップ時に
おいても最小限界出力比が許容限界値を下回ることはないこと,ま
た,表面熱流束の最大値は定格値の108%にとどまり,燃料の線
出力密度は燃料被覆管の1%円周方向塑性歪に対応する線出力密度
を下回っていること,原子炉冷却材圧力バウンダリの最高圧力が,
本件原子炉冷却材圧力バウンダリの最高使用圧力を超えることはな
いとされていることなどから,燃料被覆管及び原子炉冷却材圧力バ
ウンダリ等の健全性は保持されるとの評価結果は,妥当なものと判
断された。
なお,タービン・トリップが生じた場合でも,炉心部分では熱供
給が続いているから,ボイドは発生し続けており,ボイドの発生に
応じて炉内の圧力が上昇して(発生した蒸気の行き場所がなくなっ
),ているため,炉内のボイドが圧縮されるにすぎない。したがって
発生した蒸気が行き場所がなくなると体積が大幅に減少するかのご
とく説明する控訴人らの主張,及び原子炉蒸気流量の減少がボイド
の減少と比例関係にあるとする控訴人らの主張は誤りである。
また,タービン・トリップが生じた場合,まず圧力の上昇による
ボイドの減少が生じ,次いで正の反応度投入により熱発生が増加し,
この熱発生の増加によってボイドが増加して,このボイドの増加に
よって圧力が上昇し,再び圧力の上昇によるボイドの減少が生じる
という過程を時々刻々と繰り返し進行するものであり,しかも,タ
ービン・トリップ時における原子炉圧力の解析図(乙3の10-7
9ないし80頁,10-94ないし95頁)から明らかなように,
圧力がピークに達するまでには2秒程度の時間を要している。この
ように,進行する事象の一部始終を時々刻々と解析すれば,全反応
度が1ドルを超えて超即発臨界に至ることはなく,暴走事故が発生
することはない。
c控訴人らの主張する再循環流量制御系の誤動作は,本件安全審査
においては「再循環流量制御器誤作動-流量増加要求」として,,
想定されて解析された。
この過渡変化においては,炉心流量の増加に伴いボイドが減少し,
中性子束が増加して出力も増加するが,中性子束の増大により,中
性子束高スクラム信号が発生して,原子炉はスクラムし,事象は収
束する。過渡変化の解析に当たっては,評価結果を厳しくするため,
原子炉は自動流量制御範囲の下限で運転中であり,主制御器の誤作
動により最大となる毎秒11%の流量増加率の増加要求信号が発生
した場合であると仮定するなどの前提条件を設定した。
解析評価によれば,再循環流量制御系の誤動作時においても,最
小限界出力比は許容限界値を下回ることはないこと,表面熱流束は
定格値の約80%にとどまること,また,原子炉圧力はわずかに上
昇するにとどまり,原子炉冷却材圧力バウンダリにかかる圧力は,
最高使用圧力を大きく下回るとされていることから,燃料被覆管及
び原子炉冷却材圧力バウンダリ等の健全性を保持するとの評価結果
は妥当なものと判断された。
③タービン・トリップ発生時のスクラム遅れについて
(控訴人らの主張)
a上記①aの控訴人らの主張のとおり,タービン・トリップ発生時
のスクラム遅れは1秒程度を想定すべきである。
およそどれほど緻密に設計した機器においても,具体的な設計過
程,施工,保守管理を見通してなおかつ,わずか1秒程度の作動遅
れが絶対にあり得ないなどという想定は非現実的である。
bしかし,本件安全審査においては,タービン・トリップ発生時の
1秒程度のスクラム遅れを全く想定していない上,これにより破局
的な暴走事故に至ることを見逃している。
したがって,本件安全審査には看過し難い過誤,欠落がある。
(被控訴人の主張)
aスクラム遅れ時間は,原子炉施設の安全保護系,原子炉停止系等
の基本設計ないし基本的設計方針の安全審査に係る過渡解析の解析
条件の一つである。したがって,それは,安全審査に係る過渡解析
の意義及び目的に適するように仮定されなければならない。
過渡解析の目的は,安全保護系,原子炉停止系等の,主として異
常影響緩和系に属する構築物,系統及び機器について,異常状態に
おいても安全確保の観点から所定の機能を果たし得ることを確認す
ることにある。スクラムが正常に作動することを前提としてこれを
行わなければ,所定の機能の確保の確認はできないのである。
原子炉施設の安全保護系,原子炉停止系の安全審査に係る過渡解
析において解析条件とすべきであるのは,設計上考慮される,検出
器の応答に要する時間並びに動作装置入力端子までの論理回路及び
信号伝達回路の応答に要する時間の合計となる。このような前提で
解析条件として考慮されるものをスクラム遅れ時間と称している。
b本件安全審査に係る過渡解析は,本件原子炉施設の基本設計ない
し基本的設計方針に係る安全性の審査の一環として行われるもので
ある。そして,スクラム遅れ時間の長さは,機器又は回路の応答に
おいてその仕様上技術的に生じ得る所要時間を,基本設計ないし基
本的設計方針の審査の評価条件として合理的に仮定する必要があり,
かつ,そうすることで足りる。
そして,タービン・トリップ時の安全保護系を構成する回路は,
電気信号等を伝達するものであるから,安全保護系の回路全体の伝
達に要する時間は,一般的にいって長くとも100分の1秒程度の
単位の,いわば瞬時である。
したがって,控訴人らの主張する時間は,検出器の応答に要する
時間並びに動作装置入力端子までの論理回路及び信号伝達回路の応
答に要する時間というスクラム遅れ時間の性質上,全く現実的,合
理的でなく,このようなものを設計上見込む必要のないことは明白
であって,控訴人らの主張は独自の見解に立つものであり,それ自
体失当である。
④スクラム信号系について
(控訴人らの主張)
a本件原子炉施設では,スクラム信号系の故障に対し,いわゆる1
outof2×2(ワン・アウトオブ・トゥ・トゥワィス)方式を採用
し,1種類の信号につき4つの検知器及び検出回路を設け,それを
二つのチャンネルに分け,双方のチャンネルで一つ以上の信号が同
時に出たときにスクラム信号となる。したがって,同一のチャンネ
ルに属する二つの検知器ないし検出回路が故障すれば,他の二つが
健全であってもスクラム信号は出ない。
そして,検知器の感度が鈍る方向の故障は通常状態のまま不作動
となるから,故障してすぐ発見されるのではなく,その検知器の信
号が出るべき異常が生ずるか,スクラム回路の検査が行われるまで
発見されない。したがって,運転員が気付かない状態で故障が重畳
することがあり得る。
また,スクラム信号系は回路の切断(非励磁状態化)により生じ
るからフェイル・セイフとされるが,実際にはトリップ・ブレーカ
ーが積極的に作動してはじめてスクラム信号が出る仕組になってい
るため,トリップ・ブレーカーの固着により,検知器が異常を検知
してもスクラム信号が出ない事態が生じ得る(甲9の30ないし3
1頁。この場合も,固着は通常状態のまま動かなくなるので,当)
該トリップ・ブレーカーが作動すべき異常が生ずるかスクラム回路
の検査が行われるまで発見されないこととなり,このような事故は
米国で現に発生している。
b本件安全審査においては,冷却材喪失事故と同時に外部電源喪失
を想定するため事故と同時に原子炉が緊急停止することを前提とし
ているが,実際の冷却材喪失事故の場合,破断と同時に緊急停止信
号が出ることはあり得ない。冷却材喪失事故に対応する緊急停止信
号は「ドライウェル圧力高」と「原子炉水位低」であるところ,原
子炉水位は事故後約30秒時点まで低下しないとされているので
(乙2の10-3-32頁,10-3-76頁,下部プレナム水)
フラッシングの時点では「原子炉水位低」の信号は出ない。したが
って,この場合「ドライウェル圧力高」信号以外には緊急停止信号
はない。
この「ドライウェル圧力高」信号の検知器4つのうち二つで不具
合を生じれば(ワン・アウトオブ・トゥ・トゥワィス方式なので,
一方のチャンネルに属する二つの検知器が故障すれば他の二つの検
知器が健全でも緊急停止信号は出ない,緊急停止せずに下部プ。)
レナム水フラッシングを迎え暴走事故に至る危険がある。そして,
検知器が健全でもトリップ・ブレーカーが固着した場合には,緊急
停止せず,下部プレナム水フラッシングを迎え暴走事故に至る可能
性がある。
c本件安全審査においては,冷却材喪失事故を解析するに当たり,
上記のとおり暴走事故に至る可能性を看過するとともに,再循環系
配管完全破断時に「ドライウェル圧力高」の検知器ないしトリップ
・ブレーカーの故障や制御棒駆動系の故障を想定した解析を行わな
かった本件申請をそのまま容認した点で看過し難い過誤・欠落があ
る。とりわけ,何らのスクラム遅れも,最大制御棒価値の制御棒1
本の不挿入も前提にしなかったことは,現在の安全評価審査指針
(甲33,乙94)Ⅱ5.2(6)に反するものであり,現在の科学
技術水準から見て明らかに不合理である。
(被控訴人の反論)
a本件原子炉施設の検知器及び検出回路に関する安全保護系は,一
つのチャンネル中に2組の検知器及び検出回路が設けられるという
多重性と,これらのうちいずれかの機器が故障した際に他の機器に
は影響を与えないという独立性を備えた高い信頼性を有する設計が
要求され,これが確認されているものであり,一つの機器の単一故
障を超えて,工学的及び専門技術的に不合理な条件である同一チャ
ンネル内の二つの検出器や検出回路の同時故障を考慮する必要がな
いことは,合理的判断に基づいて設定された安全設計審査指針の安
全保護系に対する単一故障の要求事項からも明らかであり,控訴人
らの主張は,その前提において誤りがある。
bチャンネル・トリップ,あるいは原子炉スクラムに関連する継電
器の接点の焼損又は溶着など「フェイル・セイフ」に反する方向の
故障については,本件原子炉施設においては各継電器の接点を流れ
る電流が当該継電器の許容する定格の50%以下になるように裕度
を見込んで設計することによって,その発生を防止している。
また,論理回路の継電器接点はすべて直列につながれているので,
複数の継電器のうち1個でも非励磁の状態(回路の切断状態)にな
れば,その継電器が属している論理回路の主トリップ継電器の電源
は喪失することになる。主トリップ継電器の接点は,各ソレノイド
・グループ回路毎に二つずつ直列につないでいることから,仮に継
電器接点が一つ故障した場合でも,スクラム動作を妨げないように
している。
そして,単一故障を考慮しても主トリップ継電器の固着によりス
クラム信号の発信に不都合が生ずる事態は想定できない。
なお,控訴人らが米国で発生したと主張するトリップ・ブレーカ
ーは,本件原子炉とは型式の異なる加圧水型軽水炉のトリップ・ブ
レーカーであって,本件原子炉施設の主トリップ継電器とは全く異
なるものであり,控訴人らの主張には根拠がない。
c緊急停止(スクラム)系を作動させる安全保護系は,次の方針を
満足させるよう設計されている。
(a)多重性と独立性とを有する設計とし,実際に起こると考えら
れるいかなる単一故障によっても,その安全保護機能が妨げられ
ないようにする。
(b)系の遮断,駆動源の喪失においても,安全上許容される状態
になるようにする(フェイル・セイフ。)
(c)通常運転においても,定期的に機能試験を行うことができる
ようにする。
具体的には,原子炉緊急停止系は,二重チャンネル,継電器方式
の構成で,論理回路及びスクラム・パイロット弁のソレノイドを制
御する主トリップ継電器には,特に高信頼度の継電器を用いている。
そして,チャンネル・トリップ又は原子炉スクラムに関連する継電
器は,運転中はすべて励磁状態にあり,一つ以上の継電器が非励磁
状態になると,その継電器が属しているチャンネルはトリップとな
る。
したがって,電源の喪失,コイルの断線及び短絡又は配線の断線
等の継電器の故障の大部分は,継電器自体を非励磁状態に戻し,チ
ャンネル・トリップになるように働くので,このような回路構成は,
大部分の故障条件に対して「フェイル・セイフ」となる。
なお,緊急停止信号が発生する「原子炉水位低(レベル3」は)
シュラウドより高い位置に設定されており,実際には配管破断後に
水位が「原子炉水位低(レベル3」に達して,原子炉水位低によ)
る緊急停止信号が発生し,その後シュラウド外の水位が再循環ポン
プ吸込口レベルまで達した時点で下部プレナム水フラッシングが発
生するので,控訴人らの主張は失当である。
(エ)ECCS(非常用炉心冷却系)について
①非常用炉心冷却系の流量を定格流量とすることについて
(控訴人らの主張)
a本件安全審査においては,緊急炉心冷却系のうち故障を想定する
もの以外はすべて定格流量の冷却水を注入できるという前提で解析
している。
しかし,実際の緊急炉心冷却系の作動例では,美浜原発2号機の
平成3年2月9日の蒸気発生器伝熱管破断事象で高圧系の流入量が
想定以下であった指摘があるほか,福島第一原発2号機の平成4年
9月29日の全給水流量喪失事象では高圧注水系が定期的にほとん
ど注入されない状態となるように,緊急炉心冷却系が定格流量どお
りに注水することを想定するのは現実的ではない。
bしたがって,非常用炉心冷却系の流量を定格流量を前提にした本
件安全審査は不合理である。
(被控訴人の主張)
aECCSとは,配管等の破断による原子炉冷却材喪失時に,燃料
被覆管の重大な損傷を防止するに十分な量の冷却水を炉心に注入し,
その冷却可能な形状を維持しつつ,炉心を冷却し,もって放射性核
分裂生成物の周辺への放出を抑制するよう設計された設備をいう。
本件安全審査においては,本件原子炉施設のECCSについて,そ
の基本設計ないし基本的設計方針が,
(a)想定される配管破断等による原子炉冷却材喪失に対して,燃
料及び燃料被覆管の重大な損傷を防止でき,かつ,燃料被覆の金
属と水との反応を十分小さな量に制限できる設計であること
(b)非常用所内電源系のみの運転下で単一故障を仮定しても,系統
の安全機能が達成できるように,独立性を有する設計であること
(c)定期的に試験及び検査ができるとともに,その健全性及び多重
性の維持を確認するため,独立に各系の試験及び検査ができる設
計であること
などが確認された結果(乙3の8-100ないし101頁,本件原)
子炉施設のECCSは,確実に所期の機能を発揮し,信頼性が確保さ
れるものと判断された(乙4の32ないし33頁。)
b美浜原発2号機において平成3年2月9日に発生した蒸気発生器
伝熱管損傷事象については,再現解析の結果によって,ECCSは
設計どおりに作動し,炉心の冠水は維持され,炉心の健全性に影響
はなかったことが確認されており,さらに,同事象の発生後に念の
ため行われた燃料集合体シッピング検査の結果からも,燃料集合体
に異常は認められていないのである。したがって,同事象において
はECCSが十分な流量確保の機能を発揮したことは明らかである。
また,福島第一原発2号機の平成4年9月29日の全給水流量喪
失事象については,ECCSの高圧炉心注入系の作動に際して,流
量に振れがみられるものの,定格流量が確保されており,ECCS
は期待どおりに作動している。
②高圧炉心スプレイ系の故障について
(控訴人らの主張)
a本件安全審査では,高圧炉心スプレイ系の故障の原因につき高圧
炉心スプレイ系に電源を供給する非常用ディーゼル発電機の故障に
おいている。
しかし,近時の異常事象・事故である高圧炉心スプレイ系の故障
による中小破断LOCAを想定して本件安全審査をすべきであった。
すなわち,日本原子力発電東海第二原子力発電所において,平成
11年5月,定期検査中に低圧炉心スプレイ系注入弁の弁棒の破断
が発見された。このように弁棒が破断した場合,弁体は弁棒をいく
ら動かしても動かないから注入弁を開放することは,弁棒を取り替
えない限りは不可能である。そして,ECCSの注入弁は通常時閉
鎖されていて動かさないのであるから,この故障が発生しても定期
検査で弁の点検をするまで分からないので,他の故障と重畳する危
険性が高い。しかも,このような故障が高圧炉心スプレイ系で起こ
った場合,高圧炉心スプレイ系は1系統しかなく,注入弁も一つだ
けであるから,注入弁が開放不能となれば,高圧炉心スプレイ系が
全く機能しないこととなる。
このような故障が現実に発生していることからすれば,高圧炉心
スプレイ系が全く機能しないという事態は十分にあり得るものとし
て想定すべきであった。
bしたがって,現実的ではない高圧炉心スプレイ系の故障を前提に
した本件安全審査は不合理である。
(被控訴人の主張)
a本件安全審査において,高圧炉心スプレイ系に給電するディーゼ
ル発電機の故障を想定しているのであって,この想定は高圧炉心ス
プレイ系が全く機能しない事態も必然的に包含するのであるから,
控訴人らの主張は,前提において誤りがある。
b控訴人らの主張に係る日本原子力発電東海第二原子力発電所の事
象は,定期検査時の弁点検作業時の施工不良が作業後の作動試験で
発見されたものであり,控訴人らが主張するように次の定期点検ま
での期間故障状態が続くことは,合理的に想定できるものではない。
③自動減圧系の不作動の可能性について
(控訴人らの主張)
a上記(ア)③bの控訴人らの主張に係る敦賀2号機の冷却材漏洩事
象は,現在の原子力発電所の設計において行われている疲労解析の
レベルがなお低いことが明らかとなっているので,少なくとも,再
生熱交換器のような熱疲労が厳しい配管の疲労解析が十分でないこ
とを想定しなければならない。本件原子炉においては,冷却材浄化
系と残留熱除去系の再生熱交換器は格納容器の外側にあるため,こ
れらの配管から冷却材が漏洩した場合,冷却材は格納容器(ドライ
ウェル)内には流出しないから,ドライウェル圧力は上昇せず,原
子炉水位低とドライウェル圧力高の両方の信号が出て初めて起動す
る自動減圧系は永久に作動しない。
もちろん,冷却材浄化系,残留熱除去系の配管の格納容器貫通部
には隔離弁が設けられており,理論的にはLOCA時には隔離弁が
閉鎖されることによってこれらの系統からの漏洩自体が止まること
になっている。しかし,冷却材浄化系と残留熱除去系の離隔弁は原
子炉水位低信号ではなく「過流量状態を検出し」自動閉止すること
になっている。上記敦賀2号機の冷却材漏洩事象と同様に,破断口
が小さく,漏洩速度が遅い場合,過流量と検知されずに離隔弁が閉
鎖しないという事態が考えられ,この場合には漏洩場所の発見に時
間がかかり,運転員による離隔弁の速やかな手動閉鎖が期待できな
い。とすれば,再生熱交換器の配管の貫通亀裂から小破断LOCA
となり,長期間にわたり漏洩が続き(結局冷却材が喪失し)その間
自動減圧系が作動しないという事態があり得ることを想定すべきで
あった。
bしたがって,自動減圧系の不作動の可能性を前提にしなかった本
件安全審査は不合理である。
(被控訴人の主張)
a再生熱交換器の具体的詳細な構造は,機器の詳細設計ないし施工
管理の段階に属する事項であって,基本設計ないし基本的設計方針
の妥当性を判断する安全審査の対象外の事象である。
b控訴人らの主張に係る冷却材浄化系と残留熱除去系の隔離弁は,
原子炉水位低信号又は過流量状態での検出のいずれかで自動閉止す
るので,万一にも冷却材補給機能が働かず,水位の低下が発生,継
続した場合には,原子炉水位低信号により自動閉止する。この隔離
弁が自動閉止する水位は自動減圧系が作動する水位より高いため,
自動減圧系の作動が必要になる水位まで低下する前に自動閉止して
おり「長時間にわたり漏洩が続き,自動減圧系が作動しない」事,
態は生じ得ない。
c敦賀2号機の事象が発生した内筒付き再生熱交換器は,本件原子
炉施設には存在しないものである。当該事象は,敦賀2号機の再生
熱交換器が内筒を有する構造であるため,機器内の水温変動による
高サイクル熱疲労により配管に亀裂が生じ,更にそれが進展したも
のであるから,控訴人らの主張は根拠がない。
なお,上記(ア)③bの被控訴人の主張のとおり,控訴人らは敦賀
2号機の冷却材漏洩事象を中小破断の冷却材喪失事故(LOCA)
であるかのように主張するが,その流出量が通常運転時に使用され
る補給水系にて補給できる範囲であり,ECCSの作動が必要とな
るほどの漏洩ではなく,事故解析で想定すべき冷却材喪失事故には
至らない。
④低圧炉心注入系の注入量減少について
(控訴人らの主張)
a中小破断LOCAにおいて完全に作動することが期待されている
低圧注水系は,残留熱除去系の一つのモードであり,低圧注水系と
して作動する場合にも残留熱除去系の配管を経由して,一部は残留
熱除去系の熱交換器を経由して炉心に注水するのであるから,残留
熱除去系の再生熱交換器の配管の損傷が発生した場合,ECCSの
一つである低圧注水系の冷却材注入量は減少することとなる。また,
同様に,熱交換器部分に限らず残留熱除去系の配管の一部が応力腐
食割れ等により破断した場合も同じである。
bしたがって,低圧炉心注入系の注入量減少を前提にしなかった本
件安全審査は不合理である。
(被控訴人の主張)
控訴人らは,低圧注水系は中小破断LOCAにおいて完全に作動す
ることが期待されていると主張するが,そもそも中小破断事故解析に
おいては,単一故障として,炉心冷却の観点から最も影響の大きい高
圧炉心スプレイ系ディーゼル発電機の故障を仮定すれば足りるのであ
って,より影響が少ない低圧注水系には故障を仮定する必要がない。
そして,控訴人らは,これを看過した上,ECCSのうち炉心冷却の
観点から影響の小さい低圧注水系についても故障を仮定するべきであ
ると主張しているものであり,これは中小破断LOCA解析の内容を
正解しないものであって,その主張の前提において誤りがある。
⑤非常用ディーゼル発電機の冷却水漏洩事象について
(控訴人らの主張)
a本件原子炉施設において,昭和62年8月17日,非常用ディー
ゼル発電機A号機ディーゼル機関からの冷却水の漏洩が発生した。
すなわち,定格出力運転中における非常用ディーゼル発電機A号
機の定例試験において,№10気筒のシリンダーヘッド部の空気抜
き金具付近から漏水が発見されたため,ディーゼル発電機B号機及
び高圧炉心スプレイ系ディーゼル発電機を起動し,冷却水を漏洩し
ていたA号機を待機除外とした。
点検結果により,№11気筒のシリンダーヘッドに小さな穴(欠
陥)が発生し,漏洩した冷却水が,№11気筒の排気管にたまり,
起動時に圧力の関係でガスケット及びリングがはみ出して装着され,
水漏れが発生したと推定された。
この対策として,異常が発生したシリンダーの部品を交換し,発
錆が認められた排気管内面は手入れを実施し,他の気筒についても
点検した。そして,欠陥発生の原因と思われる加工形状(キリ穴部
の曲がり)を一部変更し,曲がりが発生しにくい加工形状とした。
なお,非常用ディーゼル発電機は,非常用炉心冷却系の重要な機
器の一部を構成し,冷却材喪失事故時には直ちに自動起動しなけれ
ばならない機器であり,上記水漏れの発見が遅れた場合には,非常
用炉心冷却系の必要な際にディーゼル発電機の不具合に発展し,最
悪の場合には発電機の不作動の可能性も考えられた。
b現実に非常用ディーゼル発電機の不作動につながりかねない欠陥
に関する設計は,本来安全審査で審査されるべきであったので,本
件安全審査には欠落がある。
(被控訴人の主張)
a控訴人らが指摘する事象は,ディーゼル機関製造時の空気抜き穴
加工時に部品が曲がって加工されたことが原因である。これは施工
管理に属する事項であって,本件原子炉施設の基本設計ないし基本
的設計方針に係る事項ではないから,本件安全審査の合理性に対し
何ら影響を与えるものではない。
b本件安全審査においては,非常用ディーゼル発電機を含む非常用
電源設備について,外部電源喪失と機器の単一故障を仮定しても,
安全上重要かつ必須の設備が所定の機能を果たすための十分な電力
)。を供給できる能力を有することが確認されている(乙4の33頁
(オ)ポンプ,弁の健全性について
①原子炉再循環ポンプメカニカルシールの不具合について
(控訴人らの主張)
a本件原子炉施設において,平成4年12月18日,再循環ポンプ
(B)メカニカルシールの不具合に伴う原子炉手動停止が行われた
(再循環ポンプの不安定な作動事象。)
すなわち,定格出力運転中の同年7月7日,再循環ポンプ(B)
の第二段シールキャビティ圧力に変動が生じ,監視を強化していた
ところ,同年9月2日,通常値より高い値で沈静化した。しかし,
同年9月24日,再び圧力変動が発生し,ドライウェル低電導度廃
液サンプ出口流量が短期に微増,同年10月下旬から当該圧力が低
下傾向を示し,上記流量も微増したため,メカニカルシール取替の
ため手動停止し,出力降下中に「再循環ポンプBシール漏洩大」の
警報が発生した。
その要因の調査の結果,回転リングに2本のひび割れがあり,そ
の原因は微細な異物の進入によるものと推定された。当該対策とし
て,メカニカルシールを取り替え,異物混入の可能性を低減するた
め,工具類と作業場所の清掃を行った後据え付けを実施し,更にメ
カニカルシールテスタ及び制御棒駆動系フィルタについても清掃を
実施した。
b再循環ポンプが炉心の最重要機器であり,ここでの故障は循環し
ている冷却材(軽水)の温度管理,ひいては原子炉内の核分裂その
ものを左右しかねない。このような重要機器の一部における圧力数
値が不安定な変動を見せていたにもかかわらず,事業者は約5か月
にわたり,運転を継続したまま,十分な点検をせず,したがって,
メカニカルシールを構成するリングの一部にひび割れが発生してい
ることも発見できなかった。上記ひび割れ2箇所は,いずれも貫通
寸前の状態にあり,メカニカルシール取り替えの決断が遅れれば,
リング自体が真っ二つに割れていたことが十分考えられる事態であ
り,しかもこのリングの材質はチタンカーバイトであって「微細な
異物」にさえ結果として耐えられない材質であり,現在もそうであ
る。
cしたがって,微細な異物にさえ耐えられないチタンカーバイトを
再循環ポンプの回転リングに用いることを見逃し,このような材質
で運転継続を前提にした再循環ポンプの審査を怠った本件安全審査
は不合理である。
(被控訴人の主張)
a控訴人らの主張の再循環ポンプの不安定な作動事象は,原子炉再
循環ポンプのメカニカルシール部の圧力が変動したため,状況を監
視しながら運転を継続し,その後シール機能低下の兆しがみられた
ため当該メカニカルシールを交換したものであり,その機能低下の
原因は微細な異物がシール部に入り込んだものと推定された(甲3
49。これは,運転管理に起因する事項であり,本件原子炉施設)
の基本設計ないし基本的設計方針に係る事項ではないから,本件安
全審査の合理性を何ら左右するものではない。
b当該事象は,原子力発電所の不具合等に関する国際原子力事象評
価尺度に照らすと尺度以下に位置づけられる0レベルのなかでも特
に安全に影響を与えない事象とされる0-(マイナス,以下同
じ)レベルに分類されるから,控訴人らが主張する「原子炉内の。
核分裂を左右しかねないもの」などに当たらず,このことからも控
訴人らの主張に根拠がない。
②タービン駆動原子炉給水ポンプ(A)出口逆止弁からの漏洩につい

(控訴人らの主張)
a本件原子炉施設において,平成9年8月19日,タービン駆動原
子炉給水ポンプ(A)の出口逆止弁からの漏洩が発生し,出力制限
が行われた(給水ポンプからの水漏れ事象。)
すなわち,定格出力にて調整運転中「床漏洩「給水ポンプA,」,
室」の警報が発生し,現場でタービン駆動原子炉給水ポンプ(A)
出口逆止弁から給水が漏洩していることを確認し,タービン給水ポ
ンプを隔離・停止し,出力を約半分に低下させた(甲350。)
その要因の調査の結果,逆止弁プラグ部からの漏洩を発見し,弁
の分解点検時の組立の際,所定の位置まで押し込まれていなかった
ことにより,シール機能が熱影響及び圧力変動により維持できなく
なったものと推定された。
この対策として,ガスケットリングを新品にし,再組立するとと
もに,セット位置についての記録管理を行うよう施工要領書を改訂
した。
なお,給水ポンプからの漏洩も原発における冷却材である軽水管
理の一環として,復水器同様にゆるがせにはできない。
bしたがって,本件安全審査は,給水ポンプの審査を見落としてお
り,不合理である。
(被控訴人の主張)
a控訴人らの主張に係る給水ポンプからの水漏れ事象は,弁の分解
点検の際の施工不良に起因するものであり(甲350,本件原子)
炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る事項ではないから,
本件安全審査の合理性を何ら左右するものではない。
b当該事象は,国際原子力事象評価尺度に照らすと尺度以下の0レ
ベルのなかの安全に影響を与えない事象0-レベルに分類されてい
るので,控訴人らの主張には根拠がない。
③本件原子力発電所における本件原子炉施設以外の故障について
(控訴人らの主張)
a本件原子力発電所における本件原子炉施設以外の原子炉施設で発
生したポンプに関する不具合として,次の3件の異常事象が発生し
た。
(a)本件原子力発電所6号機において,平成8年2月23日,再
循環ポンプトリップによる手動停止が行われた。
(b)本件原子力発電所3号機において,平成10年4月5日,再
循環ポンプトリップによる手動停止が行われた。
(c)本件原子力発電所7号機において,平成11年7月28日,
再循環ポンプ1台停止による手動停止が行われた。
bしたがって,現実にポンプに関する不具合が発生しているので,
本件安全審査には欠落がある。
(被控訴人の主張)
a控訴人らの主張の各事象は本件訴訟の審理対象である本件原子炉
施設にかかわるものでなく,また,いずれの事象も施工管理や部品
の製造管理に起因するものであり(甲355,原子炉施設の基本)
設計ないし基本的設計方針に係る事項ではなく,本件安全審査の合
理性を何ら左右するものではない。
bこれらの事象は,いずれも国際原子力事象評価尺度に照らすと尺
度の範疇に入らない0レベルのなかの安全に影響を与えない事象0
-レベルに分類されていることからも,控訴人らの主張には根拠が
ない。
(カ)本件原子力発電所における異常事象と本件安全審査について
(控訴人らの主張)
本件原子力発電所においては,昭和60年5月31日の復水器の配管
漏洩事象(上記ウ(イ)②の控訴人らの主張のcのとおり,昭和62年)
8月17日の非常用ディーゼル発電機の冷却水漏洩事象(上記ウ(エ)⑤
の控訴人らの主張のとおり,平成4年12月18日の再循環ポンプの)
不安定な作動事象(上記ウ(オ)①の控訴人らの主張のとおり,平成9)
年8月19日の給水ポンプからの水漏れ事象(上記ウ(オ)②の控訴人ら
の主張のとおり,平成10年1月16日の燃料棒の破損事象(上記ウ)
(ア)②a及びbの控訴人らの主張のとおり,同月30日の燃料棒スペ)
ーサのはずれ事象(上記ウ(ア)②a及びbの控訴人らの主張のとおり)
計6件の異常事象のほか,次のとおりの異常事象が発生しているので,
本件安全審査には重大な欠陥がある。
①本件原子炉施設の異常事象
a定期検査中の廃液流出事象
本件原子炉施設において,平成10年10月8日,原子炉格納容
器内LCW(低電導度廃液)サンプからのオーバーフローによる圧
力容器弁の全閉となる事象が発生した(甲353。)
すなわち,同月6日より開始した第10回定期検査中,同月8日
9時10分ころから原子炉開放点検準備のため圧力容器の水張り作
業を行っていたところ,同日11時25分「ドライウェルLCW,
サンプ液位高」警報,同日11時30分「ドライウェルHCWサ,
ンプ流量高」警報が発生した。
その要因の調査の結果,圧力容器ヘッドベントラインからの流入
によるものと推定されたので,バルブの開閉状態を確認し,同圧力
容器ベント第1弁,同第2弁,同頂部ガス抜き弁が全開となってい
た。この対策としてマニュアル,手順書を変更した(甲353。)
b復水器の真空度低下事象
本件原子炉施設において,平成11年9月2日,復水器真空度低
下に伴う出力制限となる事象が発生した(甲354。)
すなわち,本件原子炉の定格出力運転中,同日,14時16分こ
ろ,パワーセンター1Dー1がトリップし「受電遮断トリップ,,」
「母線電圧低」等の警報が発生し,その後,復水器真空度の低下に
より発電出力が徐々に低下し,同日14時26分に主復水器A,B,
Cの各「真空度低」の警報が発生し,同日14時27分より発電機
出力を降下させた。
その要因の調査の結果,受電遮断器過電流引き外し装置変流器の
巻線の一部に傷があったり,過熱による断線があったため,過電流
が発生したものと推定された。この対策として,異常発生機器を交
換した(甲354。)
②本件原子力発電所における本件原子炉以外の原発の異常事象(甲3
55)
a平成3年2月21日に本件原子力発電所2号機におけるタービン
の自動停止と原子炉の自動停止
b平成4年5月27日に同2号機における復水器真空度低下による
手動停止
c平成7年1月5日の同4号機におけるタービン発電機停止と原子
炉自動停止
d同年7月13日の同5号機におけるタービン制御油漏洩による手
動停止
e平成8年2月23日の同6号機における再循環ポンプトリップに
よる手動停止
f同年8月24日の同6号機における燃料集合体からの漏洩による
手動停止
g平成10年4月5日の同3号機における再循環ポンプトリップに
よる手動停止
h同年8月29日の同6号機における継電器動作による自動停止
i平成11年3月31日の同7号機における燃料集合体からの漏洩
による手動停止
j同年5月25日の同6号機における発電機励磁装置故障による自
動停止
k同年7月28日の同7号機における再循環ポンプ1台停止による
手動停止
(被控訴人の主張)
①a控訴人らの主張に係る定期検査中の廃液流出事象は,定期検査中,
原子炉開放点検の準備において,主蒸気配管及び原子炉圧力容器の
水張り作業中に閉じるべき弁を閉じなかったために,当該弁を通っ
て主蒸気配管内の水が,原子炉格納容器内LCW(低電導度廃液)
サンプに流入し,同サンプから床にあふれ出たものである。当該事
象は,操作員の作業の引継ぎが不適切であったことに起因し,運転
管理に係る事項であるから,本件原子炉施設の安全審査に係る事項
ではなく,本件安全審査の合理性を何ら左右するものではない。
また,当該事象は,国際原子力事象評価尺度に照らすと尺度以下
の0レベルのなかの安全に影響を与えない事象である0-レベルに
分類されているので,控訴人らの主張は失当である。
b控訴人らの主張に係る復水器の真空度低下事象は,電源系の過電
流を検知する変流器の一つに異常が発生したため,気体廃棄物処理
系の弁操作を行う制御盤に給電している非常用電源盤の受電遮断機
が作動し,これにより弁が閉じたことから,復水器内のガス抽出が
行われなくなり,復水器の真空度が低下したものである。当該事象
の原因は,変流器の巻線に製造段階で傷が発生したことにあると推
定されるから,品質管理にかかわるものであり,本件安全審査の合
理性を何ら左右するものではない。
また,当該事象は,国際原子力事象評価尺度に照らすと,尺度以
下の0レベルのなかの安全に影響を与え得る事象0+(プラス)レ
ベルに分類されているので,控訴人らの主張は失当である。
②控訴人らの主張に係る本件原子力発電所における本件原子炉以外の
原発の異常事象は,本件訴訟の審理の対象となる本件原子炉施設にか
かわるものでなく,いずれも原子炉施設の基本設計ないし基本的設計
方針に係る事項ではないから,本件安全審査の合理性を何ら左右する
ものではない。
(キ)TMI事故と本件安全審査について
(控訴人らの主張)
①米国ペンシルベニア州スリーマイル島にあるTMI原発のうちTM
I2号機(加圧水型原子炉)において,昭和54年3月28日4時こ
ろ,主給水ポンプ2台の同時停止,3系統ある補助給水ポンプ出口弁
の開け忘れ,加圧器逃し弁の開放固着,人的要因を含んだECCSの
性能低下,蒸気発生器の漏洩,キャヴィテーションによる冷却材ポン
プの使用不能等の故障が次々と加わった多重故障事故が発生した(T
MI事故。)
TMI事故においては,TMI2号機のLOCAの冷却水喪失口と
なった加圧器逃がし弁は,重要な機器とは当時認識されていなかった
上,加圧器水位計が最も肝心な時に原発運転員に全く逆の情報を与え
ることなどは夢想だにされていなかったので,原発運転員には過失は
なかった。
すなわち,指示信号であっても,指示があればそのとおりに機器は
作動していなければならず,指示どおりに機械が作用するとは限らな
いとなれば,いかなる操作も無駄であるから,原発運転員が,TMI
事故当時に加圧器逃がし弁の開閉表示が「閉」であったので,現実に
は弁が開放固着していたとしても,弁が閉止したものと判断したこと
はやむを得ないというべきである。しかも,加圧器水位計の針は振り
切れるが,圧力は低いという状況の冷却材喪失状態があることについ
ては,通常想定されておらず,手順書には記載されていなかった。ウ
エスチングハウス社のPWRのECCSの起動信号は,それまでは圧
力低と加圧器水位低の同時信号とされており,圧力低しかし加圧器水
位高などという冷却材喪失状態があるなどとは,数十年間のPWRの
安全研究過程で誰も思い至らなかったものであるから,原発運転員に
おいては,このような事態を正しく掌握することは極めて困難であっ
た。
なお,こうした極めて困難な状況下で,それでも原発運転員らは,
事故後2時間20分にして,加圧器逃がし弁の開放固着状態を探り当
て,これを閉じ冷却材の流出を止めたので,TMI原発2号機はメル
ト・スルーを免れた。
②事故原因の多くは,事故が発生してはじめてその問題性が認識され
る。あらかじめ事故の原因,経過を想定し尽くしてこれに対する万全
の対策を講ずることは不可能である。機器の構造,機能にはなお多く
の隠された弱点,盲点があると考えなければならないし,原発運転員
らの心理,行動形態の有り様を見極めることにも自ずと限界がある。
そして,大きな事故には複合的要因によるものが多く,共通の原因
で複数設けられていた機器の機能が同時に失われたり,機器の故障や
人間の判断の誤りなどが複雑に作用しながら発展させていくもので,
TMI事故はその典型的なパターンである。
原発の安全確保のため人間に重要な役割を期待せざるを得ないので
あれば,人間は必ず誤ることがある,その自明のことを忘れることが
あってはならない。多様にあり得る人的要因事象に対して,原発の安
全が確保されているかどうかが慎重に確認されなければならない。か
かる吟味を抜きにして原発の安全が確認できるものとは到底考えるこ
とができず,また,運転マニュアルのあり方とか原発運転員の日常的
な心構えといった問題も,大事故の重要な人的因子として見過ごすこ
とはできない。
このように考えると,現実の事故の原因やその経過が,基本設計に
属することなのか詳細設計以降あるいは運転管理に属することなのか
は重要な問題ではない。実際の事故は,普通の運転管理状況において,
そして十分なチェックがなされているはずの詳細設計,工事施工に起
因して発生し,あるものは,一定水準以上の技術,能力を持った原発
運転員の必死の努力にもかかわらず,大事故へと発展しているので,
こうした現実を見た安全審査がなされるべきである。
しかし,我が国の原子炉設置許可における安全審査は,原子炉停止
系や緊急冷却装置は,単一故障はあっても,最終的にはすべて有効に
機能を発揮することとされている。TMI事故では,人為的因子が大
きく左右して,ECCSが十分作用し得ずにメルト・スルーの瀬戸際
に至ったのであるから,こうした事態を想定して事故分析を行うべき
であるにもかかわらず,本件安全審査においては,このような事故分
析を行っていない。
③したがって,本件安全審査には欠陥がある。
(被控訴人の主張)
TMI事故は,具体的な運転管理に係る事項であって,原子炉施設の
基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性の確認を目的とする安全審
査の対象となる事項ではないから,控訴人らの主張は理由がない。
(ク)チェルノブイル事故と本件安全審査について
(控訴人らの主張)
①a旧ソ連ウクライナ共和国の首都キエフの北方約130㎞に位置す
るチェルノブイル原発の4号機(黒鉛を減速材,軽水を冷却材とす
る黒鉛軽水冷却沸騰水型原子炉)において,1986年(昭和61
年)4月26日1時23分40秒,同炉を完全に停止させるための
制御棒挿入ボタンが押されたが,その直後の同日1時24分,原子
炉内の出力の上昇を抑制することができず,原子炉が核暴走して2
ないし3回爆発する事故が発生した(チェルノブイル事故。)
b1986年(昭和61年)8月の旧ソ連の「チェルノブイル原発
事故に関する経過報告書(乙50)においては,被ばく線量(外」
部被ばくのみ)は平均でプリピアチで0.03シーベルト(3レ
ム,ほぼ同じ距離のチトゴロフカでは0.43シーベルト(43)
レム,避難民13万5000人の集団被ばく線量は1万6000)
人・シーベルト(160万レム)と報告されていた。また,同報告
書では,事故処理は,放射能を石棺に閉じこめほぼ終了し,消防士
と原発職員約300名が病院に収容されたが,31人が死亡し,避
難民13万5000人の放射線障害は認められなかったとし,更に
チェルノブイル事故の原因を,原発運転員の規則違反による人為ミ
スとしていた。そして,我が国の原子力安全委員会もこの報告を承
認する形で,昭和62年5月28日付けの「ソ連原子力発電所事故
調査報告書(乙51)において「設計における多重防護の適用」,
における脆弱性を背景としつつ,運転員の多数のかつ重大な規則違
反により,設計者が予想しなかったような危険な状態に原子炉を導
いた結果発生した」としていた。
しかし,1991年(平成3年)1月に旧ソ連工業原子力安全監
視国家委員会が旧ソ連最高会議に提出した「チェルノブイル事故の
原因と事故状況に関する報告書」においては,チェルノブイル事故
の原因を,従来発表されていた原発運転員の規則違反による人為ミ
スであったことを否定し,原子炉の構造的欠陥,とりわけその制御
棒システムの欠陥にあったことを報告している。
そして,国連の当時のガリ事務総長が1995年(平成7年)9
月に国連総会へ提出した国連人道擁護局報告書では,ウクライナ,
ベラルーシ,ロシアの3か国において事故により何らかの影響を受
けた人は約900万人にのぼり,約37万5000人が避難民生活
を続け,また,1km2当たり5キュリー以上の汚染地域に住む7
00万人の70%以上が精神的障害を抱え,しかも,汚染除去作業
者は約80万人であって,各種癌の危険にされされ,かつ発癌の恐
怖に苦しんでおり,事故処理に関係した作業員のうち,ロシアだけ
で約7000人が自殺を含め様々な原因で死亡していると報告され
ている。さらに,国連がベラルーシで行った統計調査では,子供の
神経,知覚関連の異常発生が43%増え,同じく骨,筋肉の異常も
62%増え,また,14歳以下の子どもの甲状腺癌は事故前の20
年間で21件しか記録されなかったものが,事故から9年間で37
9件と急増していることが報告されている。
さらに,1996年(平成8年)4月,ウイーンで行われたチェ
ルノブイル事故10周年国際会議において,経済協力開発機構(O
ECD)報告において,事故で放出された放射能放出量は事故当初
の推計の3,4倍にのぼり,事故後多発している小児甲状腺癌の原
因物質として有力視されているヨウ素131の放出量は当初推計の
6.8倍になると報告された。そのほかの専門家グループも,汚染
地域での659人に上る小児甲状腺癌の原因は事故の放射能である
と報告し,今後の癌死亡者数はロシア,ベラルーシ,ウクライナの
3か国で6660人とする予測も提出された。
また,今後も事故後の被害は収まりそうになく,晩発性障害や遺
伝子への影響など人体汚染も深刻であって,長期低線量被ばくの問
題が本格化するおそれがあり,終わりのない悲惨な状況にある。
cチェルノブイル事故の原因は,(a)異常な低出力での運転,(b)
反応度操作余裕の重要さの認識欠如,(c)制御棒そのものの構造的
欠陥であることが判明している(原審における証人P4の証言。)
とりわけ,チェルノブイル原発の制御棒は,本体(6.2m)の下
部に中性子を吸収する水を排除するために(中性子を有効に活用す
るために)中性子を減速させる黒鉛棒(4.55m)が位置してい
るので,制御棒が全部引き抜かれている状態から,反応を止めるた
めに制御棒を挿入していくと,炉心底部の1.25m部分の水が排
除されて,黒鉛が入り,その部分で反応が上がるという事態が発生
する。このポジティブ・スクラムによる正の反応度投入が出力上昇
に寄与した。
②本件原子炉施設においても,上記ウ(ア)③aの控訴人らの主張に係
る大破断LOCAの危険性,同(ウ)①aの控訴人らの主張に係るター
ビン・トリップによる暴走事故及び同(ウ)①bの控訴人らの主張に係
る制御棒挿入失敗による暴走事故等の可能性があるので,原子炉設置
許可の安全審査の際には,チェルノブイル事故と同様の事故が想定さ
れるべきである。
そして,安全審査における立地評価は,現実の事故事象と離れて,
重大事故,仮想事故を公衆との離隔の目安のために想定し,念には念
を入れて公衆の安全を守ろうという趣旨なのであるから,放射線災害
のうち最大に生じる事故を目安とすべきであり,また,事故防止対策
における事故想定とは切り離して,更に安全確保のために万が一の事
故をも想定し,本件原子炉と構造が異なるチェルノブイル原発の事故
の教訓を生かすべきである。
③したがって,チェルノブイル事故は,現実の事故であるからこそ,
本件安全審査に反映されなければならず「万が一の事故」に備えた,
安全審査こそ,伊方原発最高裁判決がいう「現在の科学水準に照ら
し」た安全審査である。チェルノブイル事故の可能性とその災害評価
を具体的に検討していない本件安全審査は,重大な過誤,違法がある。
(被控訴人の主張)
①控訴人らの主張は,そもそもチェルノブイル原発の4号機と本件原
子炉との設計,構造等に関する基本的な相違をことさら無視するもの
であり,失当である。
すなわち,控訴人らの主張に係るチェルノブイル事故の原因である
ポジティブ・スクラムは,そもそも本件原子炉施設のような沸騰水型
原子炉では存在しない。そして,チェルノブイル事故の原因は,多重
防護の適用が十分でない設計を背景としつつ,原発運転員が設計者の
予想もしなかったような危険な状態に原子炉を導いたことに加え,低
出力下では反応度出力係数が正となる設計,つまりすべての出力領域
において固有の自己制御性を有さない設計であること,及びこのよう
な炉特性に対応した原子炉緊急停止装置の設計が不十分であったこと
にある。
②本件原子炉施設の安全審査においては,原子炉の基本設計ないし基
本的設計方針として,原子炉に異常な反応度が投入され,核分裂反応
が異常に急上昇する事象に対しては,すべての出力領域で反応度出力
係数が負となること,また,本件原子炉施設の原子炉緊急停止装置は,
制御棒の位置,炉心の燃焼状態等について最も厳しい条件とし,その
上で更に制御棒一本の挿入失敗を仮定してもなお,原子炉の緊急停止
に必要な負の反応度添加率が確保できることを確認しており,更に多
重防護についても十分考慮されていることを確認している。
このように本件安全審査においては,何らかの理由で主蒸気系の弁
が急速に閉鎖し,原子炉圧力が急上昇するような場合,具体的には,
圧力上昇の観点から最も厳しい発電機負荷遮断等について解析評価を
行い,燃料被覆管及び圧力バウンダリの健全性が確保され,控訴人ら
が主張するような暴走事故には至らないことを確認している。
しかも,本件処分に際しての安全審査において,本件原子炉施設の
基本設計ないし基本的設計方針に関し,チェルノブイル事故の要因と
なった前提条件が存在しないものの,厳しい条件を仮定した反応度投
入事象を想定して十分に安全性が確保されることを確認している。
③したがって,チェルノブイル事故の発生は,本件安全審査の合理性
に何ら影響を与えるものではなく,控訴人らの主張はその前提におい
て失当である。
(ケ)運転時の異常な過渡変化解析及び事故解析の合理性の有無について
①シビアアクシデント(過酷事故)について
(控訴人らの主張)
a現実の事故が示すのは,二重三重の安全確保対策がとられている
にもかかわらず,被告行政庁が想定した過渡変化,事故事象をはる
かに上回る大事故に至るケースがあること,そして周到に準備され
た安全保護設備や防護設備さえ無効ならしめる場合があるという事
実である。原発の技術,システム,その知見にはなお多くの未知の
領域が存し,これを確立した技術はない。実際の事故では,安全装
置の共倒れや将棋倒し的トラブルの伝播,事象の相互作用によって,
事故は予想外の展開を示し,さらに,これに人間の判断,操作が加
わることで,事態は一層複雑かつ困難なものとなる。TMI事故及
びチェルノブイル事故は,シビアアクシデントという言葉を生み出
した。
このシビアアクシデントは「設計基準を超えて炉心損傷を生じ,
るような事故」であって「過酷事故」ともいわれ,欧米では,原発
設備,とりわけ格納容器に対する設計改善を実施してきた。チェル
ノブイル事故を契機に,スウェーデンでは,全原発12基に過酷事
故の際に格納容器に大量の水を噴射して炉心を冷却する代用スプレ
イのシステムを取り付け,それでも圧力上昇が抑えられない場合に
備えて,内部の高圧蒸気ガスをガス抜きするためのフィルタシステ
ムを設置するなどしている。そして,この対策は,当時の西ドイツ,
)。フランスでも導入が始まり,米国も検討を始めている(甲196
我が国においては,当初はチェルノブイル事故を契機にした改善
策がとられておらず,原子力安全委員会も昭和62年5月28日付
けの「ソ連原子力発電所事故調査報告書(乙51)において,シ」
ビアアクシデント対策として何らの対策も改善も必要がないという
態度に終始していた。しかし,原子力安全委員会原子炉安全基準専
門部会は,平成4年に過酷事故(シビアアクシデント)に対して,
),欧米同様の設備を格納容器改善策として提言したので(甲197
我が国の原発においても,シビアアクシデントを想定した事故防止
対策が必要となり,原子炉の設計変更を余儀なくされるに至った。
そこで,本件原子炉においては,(a)シビアアクシデントを想定
した事故防止対策が必要であるのに,その対策がとられていないこ
と,(b)設置許可処分の段階も,その後の段階もシビアアクシデン
トの審査を欠いていることの二つの重大な瑕疵がある。
bシビアアクシデントの対策として,原子炉安全基準専門部会共通
問題懇談会は,平成4年2月17日付け「シビアアクシデント対策
としてのアクシデントマネージメントに関する検討報告書-格納容
器対策を中心として-(乙71)を発表し,アクシデントマネー」
ジメントとして,(a)設計基準事象を超え,炉心が大きく損傷する
おそれのある事態が万一発生したとしても,現在の設計に含まれる
安全余裕や安全設計上想定した本来の機能以外にも期待し得る機能
又はそうした事態に備えて新規に設置した機器等を有効に活用する
ことによって,それがシビアアクシデントに拡大するのを防止する
ための対策(フェーズⅠのアクシデントマネージメント又はシビア
アクシデント拡大防止策,(b)万一,シビアアクシデントに拡大)
した場合にもその影響を緩和するためにとられる措置(フェーズⅡ
のアクシデントマネージメント又はシビアアクシデント影響緩和
策)を指摘している。
そして,原子力安全委員会は,上記「シビアアクシデント対策と
してのアクシデントマネージメントに関する検討報告書-格納容器
対策を中心として-」を受けて,同年5月28日付けで「発電用軽
水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデ
ントマネージメントについて(乙70)を発表し,具体的方策と」
して,(a)今後新しく設置される原子炉施設については,当該原子
炉の設置許可等に係る安全審査(ダブルチェック)の際に,アクシ
デントマネージメントの実施方針(設備上の具体策,手順書の整備,
要員の教育訓練等)について行政庁から報告を受け,検討すること,
(b)運転中又は建設中の原子炉施設については,順次,当該原子炉
施設のアクシデントマネージメントの実施方針について行政庁から
報告を受け,検討すること,(c)(a)及び(b)の際には,当該原子
炉施設に関する確率論的安全評価について行政庁から報告を受け検
討することを定めた。
そこで,東京電力は,平成6年3月に「柏崎刈羽原子力発電所1
号機のアクシデントマネジメント検討報告書」を出し,(a)原子炉
停止機能,(b)原子炉及び格納容器への注水機能,(c)格納容器か
らの除熱機能,(d)安全機能のサポート機能の観点からアクシデン
トマネジメント策を講じているが,いずれも対策が抽象的で実際に
は不十分である。
しかも,(a)確率論的安全評価に対しては,起こり得るあらゆる
事故発生経路が実際に網羅されているという保証がない,(b)各構
成要素の信頼性に関するデータの根拠が不完全である,(c)設計上
の誤りによる結果をすべて網羅し適切に評価することができない,
(d)共通原因による事故モードを完全に取り扱うことが困難である,
(e)人間の誤操作は気まぐれな要素が避けられないが,危険度の分
析においてその評価が不確実である,(f)サボタージュ(意図的な
事故誘発行為)の危険の評価を行い得ないことの批判があるのであ
って,原発事故において確率論的安全評価は誤っている。確率の概
念は何度も起こる現象についてはじめて適用できる概念であって,
原発事故には妥当しないものであり,原発事故により無限大の損害
を被る控訴人ら住民にとって全く役に立たない。
c米国では,1989年(平成元年)に確率論的安全評価で個別プ
ラントを検査した。そして,次世代軽水炉の設計については,シビ
アアクシデント対策として,水素の生成,燃焼対策,炉心デブリの
冷却性確保のための設計,高圧炉心溶融放出の抑制緩和対策,格納
容器の一定レベルの機能において具体的な基準を設け,対策を要求
している。
ドイツは,1986年(昭和61年)から1987年(昭和62
年)にかけて,フィルタ付き格納容器ベント設備の基本要件を決め,
各電力会社に設置を勧告した,そして,1994年(平成6年)7
月に成立した改正原子力法により,事実上原発の新規立地は困難に
なっている。
フランスは,1989年(平成元年)ころまでに,フィルタ付き
格納容器ベント設備をすべての原発に配置した。そして,次世代型
原発のプラントの設計に当たり,シビアアクシデント対策として,
設計段階で圧力容器の破砕を伴う炉心のメルトダウンを考慮するこ
と,シビアアクシデントのシナリオに沿った緊急時対応計画を確立
すること,環境への放射性物質放散の観点から,重要核種手段を検
討することなどを産業界に勧告することにした。
イギリスは,1992年(平成4年)に「原子力発電所に対する
安全評価原則」を改訂し,次世代型原発プラントの設計に対する要
求条件を明確化し,評価に当たっては確率論的評価と決定論的評価
を組み合わせている。
このように諸外国でも新規原発は,シビアアクシデント対策抜き
には考えられず,設計段階からの規制が明らかとなっている。
dしたがって,シビアアクシデント発生の蓋然性は明白であって,
その対策は不可欠であるから,シビアアクシデントの発生を想定し
なかった本件安全審査は違法である。
(被控訴人の主張)
aシビアアクシデントは,設計基準事象を大幅に超える事象であっ
て,安全設計の評価上想定された手段では適切な炉心の冷却又は反
応度制御ができない状態であり,その結果,炉心の重大な損傷に至
る事象のことであるから,基本設計ないし基本的設計方針に係る安
全確保対策を含めた安全規制上の措置が要求されているものではな
い。
b原子力安全委員会の平成4年5月28日付け「発電用軽水型原子
炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネ
ージメントについて」は,我が国の原子炉施設の安全性が現行の安
全規制の下で十分確保されており,シビアアクシデントが工学的に
は現実に起こるとは考えられないほど発生の可能性が十分低くなっ
ているものと判断されるということを前提としながらも,この低い
リスクを一層低減するものとしてアクシデントマネージメント(設
計基準事象を超え,炉心が大きく損傷するおそれのある事態が万一
発生したとしても,現在の設計に含まれる安全余裕や安全設計上想
定した本来の機能以外にも期待し得る機能又はそうした事態に備え
て新規に設置した機器等を有効に活用することによって,それがシ
ビアアクシデントに拡大するのを防止するため,若しくはシビアア
クシデントに拡大した場合にもその影響を緩和するためにとられる
措置)の整備を促進することは意義深いものであるとし,原子炉設
置者及び行政庁に対してそのために一層の努力を要望したというこ
とにとどまるものである(乙70。)
当該対応方針は,原子力安全委員会の判断によって,原子炉設置
許可の際の安全審査に関して何らかの新たな基準等が策定され,シ
ビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントが審査
の対象となるに至ったというものではない。そして,アクシデント
マネージメントは,安全審査の一環として行われるものではなく,
原子力安全委員会が原子炉設置者に要望してその努力の結果を確認
するものであるから,これらの審査が行われていないことをもって,
本件安全審査が違法であるとする控訴人らの主張は失当である。
c上記「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策
としてのアクシデントマネージメントについて」については,平成
9年10月20日,その一部が「詳細設計段階以降速やかに,アク
シデントマネージメントの実施方針について行政庁から報告を受け,
検討することとする(乙136)と改訂されており,当該アク。」
シデントマネージメントが本件処分時の安全審査事項でないことは
明らかである。また,本件原子炉施設を含む既存軽水型原子力発電
所のアクシデントマネージメントの実施方針については,平成7年
12月7日,原子力安全委員会により了承されているとおりである
から(乙137,控訴人らの主張は誤りである。)
②火災事故における安全性について
(控訴人らの主張)
a動燃の東海再処理工場アスファルト固化処理施設において,平成
9年3月11日に動燃事故が発生したが,この1階で起こったと想
定されている爆発で2階の別のセル(A235保守エアロック
室)の壁が破壊され,3.8tもの鉄製の板(リムーバブルルー
フ)が吹き飛ばされ,爆発で大きく変形したドアが施設外にまで吹
き飛ばされた上,3階までの窓ガラスの大半が割れて吹き飛んで放
射性物質の閉じこめ機能が完全に喪失し,施設内外で37名の作業
員が被ばくし,施設外にセシウム,プルトニウム,アメリシウム等
の放射性物質が大量に漏洩し,我が国の原子力史上最悪の事故とな
った。
この事故は,再処理工場の末端の,安全審査で爆発など全く想定
されず,潜在的危険性も小さいと考えられてきた施設でもこのよう
な大規模な爆発事故が発生し得ることを示しており,潜在的な危険
が極めて大きい原発で事故が発生した場合,どれほどの悲惨な事故
になるかを示唆している。
そして,安全審査において,火災・爆発事故の対応及び放射性物
質の密封機能が机上の空論であり,これにつき実質的審査が行われ
ていない。このため,動燃事故を契機に被告行政庁には安全審査能
力が欠落していることが明らかとなっている。
b本件安全審査においては,抽象的に消火設備を設けることのみを
確認したにとどまり,本件原子炉における火災事故については全く
事故解析を行っていない(乙3の10-100頁。)
しかし,本件原子炉に対する上記のような抽象的な防火対策では
火災の拡大を防止することはできない。
すなわち,消火設備が存在するだけでは,火災から重大な事故に
至ることを防ぐことはできず,その消化設備の種類の適切性,消火
能力(容量等,自動消火・手動消火の選択,消火作業場所の安全)
確保といったことに立ち入らなければ消火の実効性を何ら確保する
ことはできない。
本件安全審査は,動燃事故の教訓から見直しをしなければならな
い。
cしたがって,火災事故の評価を一切しなかった本件安全審査には
看過し難い過誤,欠落がある。
(被控訴人の主張)
a動燃事故は,本件原子炉施設とは全く異なる分野の再処理施設で
発生した火災であり,しかもその発生原因は,当該施設固有の特性
に基づくものであるから,控訴人らの主張はその前提において誤り
がある。
b本件原子炉施設においては,火災発生防止,早期火災検知並びに
早期消火,必須の安全機能が火災により損なわれないことの三つの
),原則を組み合わせて設計されている(乙3の8-35頁。そして
安全上重要な構築物,系統及び機器は,可能な限り不燃性・難燃性
材料で構成することとされ,特にケーブルについては,難燃性ケー
ブルを使用するとともに,必要に応じ,延焼防止塗料を併用すると
されている上,安全保護系,原子炉停止系,残留熱除去系,工学的
安全施設などの安全上重要な系統及びこれらのケーブル,配管は,
独立性を持たせるため物理的分離を図り,適切な離隔距離をとり,
又は必要に応じて障壁を設けることとされている。これらの物理的
配置の設計方針と,消火設備及び消火水配管の設計を総合的に組み
合わせ,単一火災発生により,重複性,独立性を持つ両系統が同時
のその機能が損なわれることのない設計とすることなど,火災に対
)。する対策が十分に講じられている(乙3の8-48ないし49頁
このため,火災発生により本件原子炉施設の安全性が損なわれる
ことはなく,火災が原子炉の安全評価で想定する事故の誘因になる
こと,及び事故を拡大することは考えられない(乙3の10-10
0頁。)
c本件安全審査においては,本件原子炉施設に対する火災対策によ
り,本件原子炉施設が火災により安全機能を損なうことがないこと
を確認し(乙4の27頁,火災が原子炉の安全評価で想定する事)
故の誘因になること,及び事故を拡大することは考えられないため,
事故解析の対象事象として火災を考慮する必要はないことも明らか
である。
③JCO事故について
(控訴人らの主張)
a上記(1)イ(ウ)の控訴人らの主張のとおり,原子炉設置許可時の
安全審査では,過渡変化等の解析に当たり単一の故障のみを想定す
る単一故障指針が用いられてきたが,JCOの事故の発生を考慮す
ると,従来のような事業者への信頼に基づく安全審査では足りず,
安全装置の意図的なバイパスをも想定して多重故障を想定すべきで
ある。
bJCO事故に照らすと,本件安全審査における最大想定事故の想
定があまりにも過小であり,非現実的であることが裏付けられてい
る。
cしたがって,本件安全審査には看過し難い瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
JCO事故は,規制法第3章に規定される「加工の事業」を行う施
設における事故であり,本件安全審査で審査の対象となる原子炉施設
の安全性に係る基本設計ないし基本的設計方針とは何ら関係がない。
(コ)検査能力等の有無について
(控訴人らの主張)
①日立の子会社の株式会社日立エンジニアリングサービスの更に下請
業者である株式会社伸光は,昭和57年ころから約15年間にわたり,
溶接後に行う焼鈍という熱処理の際の温度記録をねつ造していたとこ
ろ,平成9年9月16日,これが内部告発により発覚した。これまで
同社において上記焼鈍を請け負ったのは,沸騰水型原発18基であっ
て,主としてタービン系統の配管であった。このように約15年間も
の間,上記ねつ造を発見できなかったのは,指定検査機関と当時の資
源エネルギー庁の責任であるから,これを統括する経済産業省には,
当該検査を行う能力がないことが明らかである。
②英国BNFL(イギリス原子燃料公社)において,日本政府に対し,
平成11年11月8日,ペレット外径データのねつ造の疑いがあるM
OX燃料が関西電力高浜原発(以下「高浜原発」という)4号機の。
燃料に使用されていることを明示する書簡を送付していたことが判明
した。しかし,経済産業省は,このねつ造の事実について,不正を積
極的に解明しようとせず,可能な限りそれを隠蔽して検査を通そうと
しているので,その検査能力が欠如していることが明らかである。
③美浜原発3号機の建設に際し,平成12年2月18日,建築業者が
コンクリートに大量の水を加えたので,設計基準強度を下回る危険が
あることが判明した。しかし,経済産業省は,この加水について,検
査等では明らかにできなかった上,何らの発表もせず,その対策も講
じていないから,規制法所定の安全審査においても,検査能力を欠い
ていることが明らかである。
④したがって,被告行政庁は,規制法24条1項4号所定の検査能力
を欠いている上,原子炉設置許可段階の安全審査において,その基本
設計の安全性にかかわる事項のみを審査対象に限定することは不合理
というべきであるから,本件安全審査には瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
原子炉設置許可の段階の安全審査においては,当該原子炉施設の基本
設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするのみならず,被告行
政庁の検査能力は,規制法24条1項4号の安全審査の要件とはなって
いないから,控訴人らの主張は失当である。
(サ)想定される飛来物に対する設計上の考慮について
(控訴人らの主張)
①イスラム原理主義者により2001年(平成13年)9月11日に
敢行された米国ニューヨークの世界貿易センター及び米国国防総省
(ペンタゴン)対する乗っ取り旅客機による自爆テロは,現代建築の
粋をこらした超高層ビルや国家の威信にかけて頑強に建築された建物
ですら,旅客機の激突には耐えられないことが判明した。そして,近
時のFBI(アメリカ連邦捜査局)の調査では,更にイスラム原理主
義者はTMI原発を標的にしていた可能性があった。
我が国にもイスラム原理主義者が入国しており,また,当時タリバ
ン幹部は日本も米国に協力するなら攻撃対象であると明言していた。
②安全設計審査指針(乙14)は,その「指針5飛来物等に対する
設計上の考慮」として「安全上重要な構築物,系統及び機器は,想定
される飛来物,配管のむち打ち又は流出流体の影響等から生じるおそ
れのある動的影響,熱的影響又は溢水によって原子炉の安全を損なう
ことのない設計であること」とされ,原子力委員会が当該指針に付記
した「解説」によれば「飛来物」には「航空機の墜落」が含まれる,
ことが明記されている。
東京電力は,昭和52年7月12日付けの本件補正(乙3)におい
て「航空機落下については,当発電所近くには飛行場がなく,発電,
所上空の航空機は巡航状態であり,巡航中の航空機落下は考慮する必
要がない(乙3の8-47頁)として航空機落下を全く考慮して。」
いない当初の設計を変更しなかった。そして,本件安全審査において
も「航空関係については,本件原子炉敷地周辺には飛行場はなく,,
最寄りの空港は,新潟空港で本件原子炉敷地から約75㎞離れている。
本件原子炉敷地の東約5㎞及び西約20㎞離れた位置の上空にはそれ
ぞれ新潟-名古屋間及び新潟-小松間を結ぶ国内線の航空路があり,
本件原子炉敷地上空は前者の保護空域とされている。保護空域は,計
器誤差,風による影響等により航空機が指定のコースからずれること
を考慮して,航空機を保護するため設けられる空域であるので,原子
炉施設上空を航空機が飛行することは極めて稀であると考えられる。
さらに,保護空域となっている本件原子炉敷地上空を飛行する民間機
の航空便数,機種等についての調査結果を考慮すると航空機の墜落に
よる原子炉施設への影響については確率的に見て考慮する必要はない
と判断する(乙4の75頁)と審査された。。」
しかし,本件原子炉敷地からわずか5㎞地点の上空に定期航空路が
あるので,計器の誤差や風の影響で民間航空機が墜落し本件原発に対
し影響を与えることを全く考慮しないことは不当である。
③我が国の原子力施設の安全審査において,ω10の核燃料サイクル
施設では,航空機墜落事故が評価されている。
すなわち,航空機墜落による原子炉施設への影響は,航空機の全体
重量による衝撃荷重で建物が大きく崩落する全体破壊と,航空機のう
ち剛性の高いエンジン部分が建物の壁を貫通する局部破壊に分けられ
る。そして,Degen式は,鉄筋コンクリート壁に飛来物が衝突した場
合の貫通限界厚さを飛来物直径,飛来物重量,衝突速度,飛来物(先
端の)形状係数及び壁のコンクリート圧縮強度の関数とする経験式で
あるが,これを実験結果に合わせて修正した上,ω10の核燃料サイ
クル施設の安全審査において計算方法として用いられている。当該計
算により,三沢基地配備の戦闘機のうちF1とF16のみについて検
討されたところ(甲389,衝突速度は150m/秒,コンクリー)
ト圧縮強度は設計強度が240㎏/cmを前提に模擬実験が行われ

(甲390,柔飛来物低減係数を0.75とした場合貫通限界厚さ)
は約80㎝と評価されている(甲389。そして,エンジンについ)
ての飛来物形状係数は0.84が採用され,貫通限界厚さはF1で9
0.75㎝,F16で99.10㎝と考えられている。
本件原子力発電所の3号機の原子炉建家のコンクリート圧縮強度は
330㎏/cmとされているので(甲392,本件原子炉も同じ)

と考えられる。そして,Degen式に従い,飛来物形状係数を0.84
とした場合で航空機B777-300では,貫通限界厚さは180㎝
以上に及ぶものである。
本件原子力発電所の3号機の原子炉建家の外壁は地上部分で最も厚
い部分でも厚さ75㎝であり,同屋内の原子炉棟の壁も地上部分では
厚さ80㎝であって,中央制御室の天井の厚さは50㎝であり,これ
)。らと本件原子炉も大差がないと考えられる(甲393の①ないし④
この程度の壁厚,天井厚であると,ハイジャックされた航空機によ
る自爆テロが敢行された場合,原子炉建家の壁及び天井は全体破壊す
ると予測される。そして,少なくともエンジン部分の貫通を評価した
場合,原子炉建家の壁,天井を貫通することは避けられず,放射性物
質の漏洩を伴う深刻な事故に至ることになる。
④したがって,安全設計審査指針(乙14)において航空機の墜落等
を考慮すべきとされているにもかかわらず,漫然と航空機墜落の確率
は無視し得るとして,航空機墜落に対する防護設計をしていない本件
原発の設計を容認した本件安全審査には看過し難い過誤,欠落がある。
(被控訴人の主張)
①a安全設計審査指針(乙14)は「指針5.飛来物等に対する設,
計上の考慮」において「安全上重要な構築物,系統及び機器は,想
定される飛来物(中略)の影響等から生じるおそれのある動的影,
響,熱的影響又は溢水によって原子炉の安全を損なうことのない設
計であること」とされているのであり,ここでいう「想定され。
る」とは,原子炉施設の設計の妥当性を評価する観点から,原子炉
施設で生じ得る各種の事故事象を包絡し,代表する事象が安全評価
上考慮すべき頻度で発生すると考えることをいう(乙14)ので」
あって,本件原子炉施設の安全設計において,本件原子炉施設に航
空機が墜落することを必ず考慮することを求めているわけではない。
b本件安全審査においては,当時の安全設計審査指針のうち「指針
5.飛来物等に対する設計上の考慮(乙14の985頁)に基づ」
き,そもそも航空機墜落が本件原子炉施設の安全設計の妥当性を評
価する上において考慮すべき事象となり得るかの検討が行われた。
そして,本件原子炉施設の社会環境について,本件原子炉敷地周
辺に飛行場はなく,最寄りの空港は,新潟空港で本件原子炉敷地か
ら75㎞離れている。本件原子炉敷地の東約5㎞及び西約20㎞離
れた位置の上空にそれぞれ新潟-名古屋間及び新潟-小松間を結ぶ
国内線の航空路があり,本件原子炉敷地上空は,前者の保護空域と
されていることが確認された。
原子力施設付近の上空の飛行については,できる限りこれを避け
るよう,運輸省(現国土交通省)及び防衛庁から運航者に指導等が
なされているとともに,航空法(昭和27年法律231号)81条
に規定する最低安全高度以下の飛行についての許可はされないこと
となっている上に,航空法73条の2に基づき,機長は出発前に航
空情報等を確認しなければならないことも確認された。
cさらに,本件原子炉施設の航空機墜落の安全性については,社会
環境から考えて原子炉施設上空を航空機が飛行することは想定し難
く,まして本件原子炉施設に航空機が墜落する可能性は極めてまれ
であると考えられ,また,保護空域となっている本件原子炉施設上
空を飛行する民間機の航空便数,機種等について調査を行った結果
を考慮しても,航空機の墜落による原子炉施設への影響については
確率的にみて考慮する必要はないと判断された(乙4の26及び2
7頁。)
②a本件原子炉施設は,規制法等に基づき原子炉による災害の防止上
支障がないよう十分な安全確保対策が施されると本件安全審査にお
いて確認されたのであり,放射性物質の閉じ込め等のために多重防
護の考え方に基づいた設計上の考慮がされるとともに,地震等の通
常想定すべき外的事象についても安全性が損なわれることがないよ
うに設計されており,相当程度の堅固な構造を有する施設である。
b控訴人らの主張に係る自爆テロについては,それが起こることに
ついての確たる根拠がない上,そもそもテロ行為に対する安全対応
は,我が国全体の治安維持等にかかわる問題である。規制法は,平
和利用のための原子炉において災害が引き起こされることがないよ
う求めるものであって,本件安全審査においては「想定される飛,
来物」としてこのようなテロ行為による航空機を想定する必要はな
い。
③したがって,本件原子炉施設へ航空機が墜落する確率は十分小さい
ことが確認され,航空機の墜落を「想定される飛来物」として,設計
上考慮する必要はないと判断されているのであって,控訴人らの主張
は,安全設計審査指針の趣旨を正解しないものであるから失当である。
(シ)燃料体に対する本件各変更許可処分の違法事由について
①現在の設計の9行×9列型燃料の破裂について
(控訴人らの主張)
a本件原子炉において使用する燃料は,本件処分(当初設計)にお
いては8行×8列型燃料であったが,その後,本件各変更許可処分
により,新型8行×8列型燃料,新型8行×8列型ジルコニウムラ
イナ燃料,高燃焼度8行×8列型燃料と変更され,現在の設計では
9行×9列型燃料が採用されている。
この燃料の変更の主要な目的は,燃料の装荷から取替までの間の
単位ウラン量当たりの累積発熱量(累積発電量)を増大させる「高
燃焼度化」によるコスト削減にある。この設計上の燃料の燃焼度は,
当初設計の8行×8列型燃料では平均約27500MWd/t,最
高約35000MWd/tとされていたが,新型8行×8列型燃料
では平均約29500MWd/t,最高約40000MWd/t,
新型8行×8列型ジルコニウムライナ燃料では平均約29500な
いし33000MWd/t,最高約40000MWd/t,高燃焼
度8行×8列型燃料では平均約39500MWd/t,最高約50
000MWd/t,現在の設計の9行×9列型燃料では平均約45
000MWd/t,最高約55000MWd/tとなっている。な
お,設置変更許可申請書上の9行×9列型燃料の炉内最大滞在期間
は8年である。
核燃料の燃焼が進むと燃料被覆管が中性子の照射,酸化及び水素
吸収により延性が低下し(つまり脆くなり,他方,被覆管内の燃)
料ペレットはガス状の核分裂生成物の蓄積により膨れ,更に出力急
上昇時に膨れ量が増加して燃料破損を生じやすくなる。
つまり,出力急上昇を招くような過渡変化(反応度の投入)があ
った場合に燃料破裂を生じやすくなり,燃料破裂による圧力波の発
生,その圧力波の大きさが圧力容器の吸収限界を超えたときの圧力
容器破裂という事態が生じやすくなる危険性がある。
b反応度事故(暴走事故)の際に燃料の発熱量がどのレベルに達し
たときに燃料破損を生じるかについては,日本原子力研究所のNS
RR(NuclearSafetyResearchReactor・原子炉安全性研究炉)
実験により,健全な燃料については285cal/gが燃料ペレッ
トの溶融による破損の限界とされている(甲395の255頁。)
もっとも,この数値は単独の燃料棒による実験によって得られた
ものであり,NSRR実験では実際の燃料により近いバンドル体系
(複数燃料棒の組み合わせ)の場合破損限界が15%低下する結果
が得られているため(甲395の254頁,健全な燃料の破損限)
界,圧力波発生限界は上記の数値から15%を落とした約240c
al/gと評価されている(甲395の256頁。なお,燃料被)
覆管の穴あき等により内部に冷却水が侵入したいわゆる浸水燃料に
ついては,単独燃料棒の場合で90cal/g,バンドル状態で6
)。5cal/gが破損限界と考えられている(甲395の257頁
cこれに対し,燃焼の進んだ燃料においては,燃料破損限界となる
燃料発熱量が著しく低下することが近年の研究により明らかになっ
た。
これまでBWR燃料について燃焼の進んだ燃料に反応度を加えて
破損に至るか否かの実験は,アイダホ国立工学研究所のSPERT
-CDC実験及びPBF実験,日本原子力研究所のNSRR(研究
用原子炉の略称)実験が行われているのみである(甲396,39
7。)
このSPERT-CDC実験においては,31800MWd/t
の燃焼度において燃料発熱の増加分(当初発熱量は差し引く)85
cal/gで燃料が破損した(甲396の1025頁,1034
頁。同じ実験で32700MWd/tの燃焼度で燃料発熱の増加)
分143cal/gで破裂したものもある(甲396の1034
頁。また,PBF実験では,燃焼度わずか5100MWd/tの)
燃焼度においても燃料発熱140cal/g弱(増加分で120c
al/g程度)で燃料破裂に至ったものがあった(甲396の10
25ないし1026頁,1035頁。更に,NSRR実験におい)
ては,1997年(平成9年)までの実験では,BWR燃料につい
ては敦賀原発1号機で使用した燃料(7×7燃料,燃焼度2600
0MWd/t)で5回,福島第一原発3号機で使用した燃料(新型
8行×8列型ジルコニウムライナ燃料,燃焼度約45000MWd
/t)で2回の実験が行われたが,敦賀原発1号機の燃料では燃料
発熱の増加分55ないし98cal/g,福島第一原発3号機の燃
料では燃料発熱の増加分60又は120cal/gでは燃料破損は
生じなかった。
その後,日本原子力研究所において引き続きNSRRによる実験
が行われ,近時その結果が発表されているが(甲397,燃焼の)
進んだ燃料については通常燃料よりも著しく低い燃料発熱で燃料破
損に至ることが明らかとなっている。
そして,燃焼の進んだ燃料における反応度事故模擬実験での破損
がペレット-被覆管機械的相互作用(PCMI)による破損である
(甲397)ことから,破損に影響を与える主要な要素は,燃料被
覆管の肉厚(肉厚が大きいほど燃料被覆管が破損しにくい)及び燃
料被覆管と燃料の間の空隙(ギャップ(ギャップが大きいほど燃)
料ペレットが膨張しても被覆管に力が加わらないので破損しにく
い)であると考えられる。
d9行×9列型燃料は,高燃焼度8行×8列型燃料と比較して,被
覆管の肉厚は2割弱程度薄く(高燃焼度8行×8列型燃料は約0.
86㎜,9行×9列型燃料はA型が約0.71㎜,B型が約0.7
0㎜,ギャップは同じ(いずれも約0.20㎜)である。したが)
って,9行×9列型燃料の方が高燃焼度8行×8列型燃料よりも燃
焼が進んだ場合のPCMI破損に強いとはいえない。
また,本件原子炉において9行×9列型燃料の平均燃焼度は約4
5000MWd/t,最高約55000MWd/tとされているが,
ここでいう「最高」とは燃料集合体平均の最高であって,燃料ペレ
ットとしての最高燃焼度はこの場合でも75000MWd/tに達
するのである(甲396の1013頁。したがって,平均燃焼度)
が約45000MWd/tとなる本件原子炉の現在の設計における
燃料取替の時期には,燃焼度約61000MWd/tを超える燃料
ペレットが相当量生じている。
eよって,現在の設計の9行×9列型燃料は破裂を生じやすいもの
であるので,当該燃料体に対する本件各変更許可処分は違法である
から,本件処分が違法となる。
(被控訴人の主張)
a本件処分と本件各変更許可処分とは別個の行政処分であり,それ
ぞれの処分の要件適合性を認めた被告行政庁の認定判断の内容が異
なるから,本件原子炉施設の設置変更許可処分は審理の対象とはな
らない。
b(a)燃料体に対する本件各変更許可処分に係る安全審査において
は,9行×9列型燃料の燃料集合体に関し,各構成要素が,原子
炉内における使用期間中を通じ,通常運転中及び運転時の異常な
過渡変化においても,燃料棒の内外圧差,燃料及び他の材料の照
射,負荷の変化により起こる圧力・温度の変化,化学的効果,静
的・動的荷重,燃料ペレットの変形,燃料棒内封入ガスの組成の
変化等を考慮しても十分な強度を有し,その機能が保持できる設
計であることを確認している。また,その強度は,燃料被覆管の
肉厚だけでなくその他の要因によっても決まるものであるが,9
行×9列型燃料体については,燃料被覆管の肉厚は薄くなる一方
で,燃料被覆管に加わる応力が小さくなっていることをもって,
これが特に破損しやすいというものではない。
(b)9行×9列型燃料では,燃料被覆管肉厚の変更が行われてい
るが,ペレットのスエリングを考慮しても,ペレット-被覆管機
械的相互作用に影響を与えないことが実験により確認されている
(乙140の849ないし850頁。)
(c)さらに,ペレットの変形等に基づく燃料被覆管の局所的な歪
みによる損傷を減少させる対策としては,高燃焼度8行×8列型
燃料と同様に,短尺チャンファ付きペレットの使用,延性の大き
なジルコニウムを内張りした燃料被覆管の採用等が行われている
(乙140の859頁。)
(d)したがって,9行×9列型燃料においても高燃焼度8行×8
列型燃料と同様にペレット-被覆管機械的相互作用が問題になる
ことはない。
②現在の設計の9行×9列型燃料による暴走事故の危険性について
(控訴人らの主張)
a(a)本件原発の現在の炉心設計(9行×9列型燃料)のうち9行
×9列型燃料(A型)についての発電機負荷遮断・バイパス弁不
作動(取替炉心)の過渡変化解析に基づき検討し,スクラム遅れ
時間を0.5秒として考えると,過渡変化開始前の原子炉出口蒸
気重量率は17.00%,炉心平均ボイド率は47.97%とな
り,定格よりも低い炉心流量で定格の105%の出力を確保する
ため,蒸気重量率及び炉心平均ボイド率は通常運転時より高くな
っている(原子炉蒸気流量=炉心流量×原子炉出口蒸気重量率と
なるのであるから,少ない炉心流量で定格の105%の蒸気流量
を確保するためには,当然,原子炉出口蒸気重量率が通常運転時
より高くなる必要がある。)
(b)過渡変化0.5秒時点においては,発電機負荷遮断が発生す
ると,タービンを守るため,タービン蒸気加減弁が急速閉止し,
その結果原子炉圧力が急上昇する。この場合に原子炉の蒸気を逃
がすためのタービンバイパス弁が作動しなければ,原子炉圧力の
上昇は更に厳しくなる。原子炉圧力が急上昇すると炉心のボイド
が急速に消滅し,原子炉出力が急上昇する。本件安全審査に提出
され,是認された過渡変化解析では,タービン加減弁は0.07
5秒で急速閉止するとされ,スクラム遅れ時間は0.08秒とさ
れている。
そこで,発電機負荷遮断・バイパス弁不作動の際の0.5秒後
の炉心平均ボイド率を計算すると27.21%となる。
(c)本件原発の現在の炉心設計において,炉心平均ボイド率が4
8.0%から27.2%まで減少した場合のボイド減少による投
入反応度は,サイクル末期では本件原発の現在の炉心のボイド反
応度係数から{-9.45)+(-7.7}÷2×(48.,()
0-27.2)×10=0.0178となる。
-4
(d)原子炉出力のピークまでにドップラー効果により補償される
べき反応度はここから1ドル,すなわち遅発中性子比率を差し引
いた値となる。本件原発の現在の炉心設計では,サイクル末期の
遅発中性子比率は約0.0053であるから,発電機負荷遮断・
バイパス弁不作動・スクラム0.5秒遅れの際に原子炉出力のピ
ークまでにドップラー効果により補償されるべき反応度は,0.
0178-0.0053=0.0125である。
そして,本件原発の現在の炉心設計での早期炉心のドップラー
効果のグラフから,0.011の反応度を補償した場合の燃料温
度は1170℃となる。加えて,二酸化ウラン(燃料棒。甲27
0)の比熱データによれば燃料温度を通常運転温度(520℃)
から1170℃まで上昇させるのに必要な熱量は47.067c
al/gとなり,更に反応度事故の際には温度上昇時と下降時の
発熱はほぼ対称形であること,通常運転温度での燃料の熱量が約
30.935cal/gであることから,この事故時の燃料の発
熱量の平均値は,30.94+47.07×2=125.07c
al/gとなる。
(e)燃料の平均発熱量が125.07cal/gに達したときの
圧力容器への影響を考えると,燃焼が進んだ核燃料に関する近時
の知見によれば,燃焼が進んだ核燃料は反応度投入があって発熱
した場合には70cal/g前後,62cal/g程度で破裂す
ることが判明している。
そうすると,本件原子炉において,燃焼が進んだ段階で発電機
負荷遮断,タービンバイパス弁不作動の過渡変化が発生し,その
際に0.5秒程度のスクラム遅れがあった場合には,炉心平均で
みて125.07cal/gもの発熱を生じるのであるから,燃
料の大半は破裂することなになる。
そして,燃料破裂が生じる場合のエネルギーの変換係数及び圧
力波(衝撃圧力)による機械的エネルギーについて計算すると,
破裂する燃料の発熱量を平均の125.07cal/gでみても
(実際には発熱量の大きなものから順に破裂するのであるから実
際に生じる機械的エネルギーがこれより大きくなることは明らか
である,燃料の半分が破裂した場合の機械的エネルギーは圧。)
力容器が吸収し得るエネルギーの26倍以上,燃料の1割が破裂
した場合ですら圧力容器が吸収し得るエネルギーの5倍以上の機
械的エネルギーが発生することになる。
このような場合,圧力容器が破壊されて破局的な大事故となる
ことは明らかである。
b(a)発電機負荷遮断は発電機の比較的軽微なトラブルでも発生し,
更に送電線の切断(落雷等により比較的簡単に発生する)によ。
っても発生するものであり,原子力発電所のトラブルとしてはか
なり頻度の高いものである。そして,タービンバイパス弁の不作
動は,当初の安全審査でもその後の安全審査でも一貫して想定さ
れているものであり,安全審査の基準でも発電所の寿命期間中に
十分起こり得るものである。控訴人らの想定はこれにわずか0.
5秒程度のスクラム遅れ(スクラム失敗)を追加したものに過ぎ
ない。なお,控訴人らが主張する0.5秒程度のスクラム遅れ
(スクラム失敗)が技術的には起こり得ることは明らかである。
(b)控訴人らが主張する0.5秒程度のスクラム遅れを考慮する
ことが決して非現実的でも解析上不要な要求でもないことは,本
件安全審査において是認された過渡変化解析でも,原子炉圧力高
スクラムについては0.55秒のスクラム遅れが考慮され,原子
炉水位低スクラムについては1.05秒のスクラム遅れが考慮さ
れていることからも明らかである。
(c)したがって,控訴人らが主張する発電機負荷喪失・バイパス
弁不作動,スクラム0.5秒遅れという事態は原子炉の寿命期間
中に起こる可能性が十分にある。
cよって,現在の設計の9行×9列型燃料による暴走事故の危険性
があるので,当該燃料体に対する本件各変更許可処分は違法である
から,本件処分が違法となる。
(被控訴人の主張)
a上記①の被控訴人の主張のaと同じ。
b(a)スクラム遅れ時間は,原子炉施設の安全保護系,原子炉停止
系の安全審査に係る過渡解析における解析条件の一つであり,設
計上考慮される,検出器の応答に要する時間並びに動作装置入力
端子までの論理回路及び信号伝達回路の応答に要する時間の合計
になる。
このため,各スクラムに要する時間はそれぞれ異なっており,
原子炉水位低については水位計で,原子炉圧力高については圧力
計で検出しているために圧力等の物理量を電気信号に変換する時
間を要することから,これらの時間を適切に評価し,スクラム遅
れ時間として考慮することになる。
他方,控訴人らが主張する負荷遮断・バイパス弁不作動時の安
全保護系を構成する回路は,タービン・トリップ事象と同様に,
電気信号等を伝達するものであるから,安全保護系の回路全体の
伝達に要する時間は,一般的にいって長くとも100分の1秒程
度の単位の,いわば瞬時である。
(b)したがって,当該負荷遮断・バイパス弁不動作事象において,
上記の検出器の性質を踏まえれば,控訴人らが電気信号による部
分の少ない機器に必要なスクラム遅れ時間として主張する0.5
秒という仮定は,これを設計上見込む必要がないから,控訴人ら
の主張は合理的根拠を欠いている。
(ス)本件各変更許可処分に係る現在の設計におけるLOCA(冷却材喪
失事故)解析の合理性の有無について
①臨界流モデルと対流熱伝達について
(控訴人らの主張)
a本件原子炉においては,本件各変更許可処分に基づき,炉心の燃
料は当初設計の8行×8列型から新型8行×8列型,新型8行×8
列型ジルコニウムライナ,高燃焼度8行×8列型,9行×9列型
(A型,B型)と変更されてきたが,東京電力は,本件原子炉に装
荷する燃料をいつでも新型8行×8列型,新型8行×8列型ジルコ
ニウムライナ,高燃焼度8行×8列型に戻すことができる体裁とな
っている。
そして,上記の各炉心燃料が併存している結果,事故解析もまた
それぞれの燃料を採用した際の解析が併存している。これをLOC
A解析について通覧すると,解析の結果,特に水位についての解析
が当初設計から高燃焼度8行×8列型の際の解析に移る際に全く異
なる解析になっている。
b本件処分においては,当初の解析と現在の解析で,(a)破断口か
らの流出計算のモデルを変更したために流出量が少なくなり,事故
の展開が全体として緩やかになっていること,(b)蒸気の吹き上げ
による冷却材の注入・流出阻害現象(CounterCurre
ntFlowLimiting・CCFL)を,従前は炉心への
ECCS水の注入を阻害する事象としてのみ扱っていたのに,現在
は炉心からの冷却材の流出を阻害して炉心に冷却材を保つ現象と扱
って事故経過を極めて緩やかなものにしていることの2点が異なっ
ている。
すなわち,当初の解析では破断口からの冷却材流出量計算にP1
7の臨界流モデルを用いて計算し,事故後8.7秒で炉心シュラウ
ド外の水位がジェットポンプノズルに達して吸い込みがなくなって
炉心流量が急速に減少し,12秒で炉心シュラウド外の水位が再循
環ポンプの吸い込み口に達して原子炉圧力が急激に低下して減圧沸
騰により下部プレナムフラッシングが生じるとしていた(乙2の1
0-3-32頁)が,新型8行×8列型燃料採用時の解析で破断口
からの流出量の計算をすべて均質臨界流モデルに変更したために炉
心シュラウド外水位がジェットポンプノズルに達するのは事故後1
0秒,再循環ポンプ吸い込み口に達するのは事故後15秒に変更さ
れ,その後現在に至るまでの解析はすべてそれで統一されている。
これは,P17の臨界流モデルから均質臨界流モデルに変更した
ためであるが,これをすべての冷却材について均質臨界流モデルを
採用し,全体の流出量を少なくしたことには疑問があり,解析モデ
ルの選択一つにより事故経過が大きく変化すること自体,LOCA
解析の信頼性の低さを示している。
cまた,当初設計の際の解析及び新型8行×8列型燃料・新型8行
×8列型ジルコニウムライナ燃料採用時の解析では,炉心シュラウ
ド内の冷却材は一体として解析され,事故後約30秒までは炉心
(燃料棒)は露出しないとされ,他方,露出した燃料棒の熱伝達係
数については,対流熱伝達は断熱(熱伝達係数0)として解析して
いた。
しかし,高燃焼度8行×8列型燃料採用時の解析から,炉心シュ
ラウド内の冷却材の解析がより細かく行われ,従前炉心シュラウド
内の水位が十分高いと解析されていた時点でもそれは燃料頂部での
CCFLによるものであり炉心の燃料棒は(その下で)露出してい
ることが判明し,結果的により速い時点で燃料の露出が発生するこ
とになった。
そうすると,当然にLOCA解析はより厳しいものとなることに
なるが,本件各変更許可処分に際して出された解析では,燃料頂部
でのCCFLの他に,炉心入口オリフィス部(燃料底部)でも炉心
の下側にある圧力容器下部の空間である下部プレナムからの蒸気吹
き上げによって燃料集合体から下側へ(つまり下部プレナムへ)の
冷却材流出を阻害するCCFLが生じるとして,炉心の冷却材は燃
料の下部では失われることがなくつながった燃料被覆管の下部で冷
却されるために,これまで断熱(つまり0)としていた燃料露出中
の対流熱伝達係数を一気に200kcal/㎡・h・℃前後にまで
上昇させて,結果的に燃料被覆管最高温度を従来よりも下げる結果
(866℃から505℃に361℃も下げた)を導いている。。
現在の設計採用時の解析も全く同じ手法を用いて大破断LOCA
時の燃料被覆管最高温度は,9行×9列型A型で588℃,9行×
9列型B型で521℃とされているので,LOCA解析は誤ってい
る。
dよって,本件各変更許可処分に係る現在の設計におけるLOCA
解析は誤っているから,本件処分は違法である。
(被控訴人の主張)
a上記(サ)①の被控訴人の主張のaと同じ。
b安全評価においては,その解析の結果が適切か否かが問題となる
のであって,解析結果がどの程度変わるのかを評価する必要はなく,
控訴人らの主張は,安全評価の考え方の前提において誤りがある。
冷却材の流出において想定される二相流状態(乙141の231
頁)では,P17の臨界流モデルが臨界流を過大評価することはE
CCS性能評価指針が指摘するとおりである(乙141の246な
いし247頁)ものの,現行の解析においては,原子力安全委員会
等による専門技術的判断に基づき,より現実的で同指針にて使用す
ることが認められた平衡均質流(均質臨界流)モデルに変更してい
るのであるから(乙141の231頁,全体の流出量を少なくし)
たことは,必要な検討を行った結果によるものである。
このように妥当性が確認され採用された解析モデルを使用するこ
とにより,結果として事故経過の解析結果に変化が生ずるのは自明
である。こうした変化が生ずることをもってLOCA解析の信頼性
が左右されるかのような控訴人らの主張は,具体的根拠に欠ける。
cまた,事故直後の一時的な炉心露出の現象については,炉心頂部
CCFLの解析をより適切に行った結果,上方から落下する水が,
炉心頂部のCCFL現象を発生させる蒸気流量により落下しないこ
とで発生することが明らかになったものであり,この結果として,
蒸気流による冷却効果により露出部でも熱的に厳しくはないことが
明らかになったものである。
この炉心露出は,急速な減圧と燃料棒からの受熱により冷却材が
蒸発して失われていく過程で発生するものであり蒸発した蒸気は露
出部を通過することから,この蒸気流量に見合った対流熱伝達が存
在することは自明であり,露出時の対流熱伝達を断熱として評価し
たのは当初の解析においてむしろ過度に厳しい条件を設けていたた
めであって,控訴人らの主張は誤解に基づくものである(乙142
の4ないし36頁。)
②下部プレナムフラッシングと炉心入口オリフィス部CCFLについ

(控訴人らの主張)
a(a)本件原発のLOCA解析は,下部プレナムフラッシングによ
る冷却と,炉心入口オリフィス部CCFLによる炉心冷却材流出
の阻害・炉心冷却材の保持を前提としている。これらを前提にし
なければ大破断LOCAでは燃料被覆管最高温度が1200℃を
超えて指針の基準を満たさない(この点は後に計算で明示する)
上,そのような温度に達すると激しく生じる水-ジルコニウム反
応による発熱・燃料被覆管の酸化により炉心溶融が避けられない
のである。
(b)しかし,下部プレナムフラッシングも炉心入口オリフィス部
CCFLも実規模のBWRで現実に生じるか否か,そしてその程
度についてはなお実証されていないというべきである。
これまでBWRにおける模擬実験としてはROSA-Ⅲ及びT
BLがあるのみであり,ROSA-Ⅲは実燃料集合体の2分の1
の長さの燃料集合体(参考までにいえば8行×8列型を模擬した
もの。電気加熱)4体を実炉の424分の1の体積の圧力容器内
に挿入したものであり,TBLは2体の実規模の燃料集合体(電
気加熱)を実炉の382分の1の体積の圧力容器に挿入したもの
である。下部プレナムフラッシングは,ジェットポンプを介して
炉心シュラウド外の部分とつながっている下部プレナムにおいて,
炉心シュラウド外の急速な減圧がジェットポンプ部に伝わり下部
プレナムのジェットポンプに近い部分で減圧沸騰を生じてその急
激な蒸気発生により下部プレナムの冷却材が炉心に押し上げられ
るというものである。下部プレナムの冷却材が炉心に押し上げら
れるか否か,その程度は,減圧沸騰の発生箇所と冷却材の分布,
下部プレナムの形状に依存する。
(c)しかし,これらの実験では,考慮されたのは体積比のみであ
り下部プレナムの形状は全く模擬されておらず(実炉のように半
球形でさえなく,ましてや制御棒案内管等の実炉には存在する構
造物も全く模擬されていない,体積比で縮小して燃料棒長さは)
実炉の半分か実炉長にしたため水平方向では実炉を模擬している
とはいえないため減圧沸騰の発生箇所と冷却材の分布・位置関係
も実炉を模擬できていない。
炉心入口オリフィス部CCFLは,ブローダウン過程で炉心に
おいても減圧沸騰が生じて,上部に向けて蒸気を押し上げて燃料
頂部CCFLを生じて,燃料集合体内は冷却材のない空間となっ
ているのにその上には冷却材があるという状態を作るとともに,
炉心(燃料集合体)から冷却材が炉心入口オリフィスを通ってそ
の下側の下部プレナムへと流出する圧力を(重力に加えて)生じ
るのに対して,下部プレナムでの減圧沸騰による蒸気が炉心入口
オリフィスを通じて吹き上げてその冷却材流出を阻害するという
ものである。
(d)したがって,炉心入口オリフィス部CCFLの発生の有無,
程度は,燃料集合体内での減圧沸騰の程度と下部プレナムでの減
圧沸騰の程度及びその分布に依存し,燃料集合体内での減圧沸騰
の程度は燃料の出力に依存するとともに,それ以前に下部プレナ
ムフラッシングを生じるとすればその程度にも依存することにな
る。そうすると,これらの諸要素には水平方向のばらつきが考え
られ,やはりこの実験をもって実規模のBWR炉心の全域で炉心
入口オリフィス部CCFLが生じることやその程度についての実
証とは到底いえない。
また,解析上も,下部プレナムフラッシングについては,9行
×9列型A型燃料の場合でも9行×9列型B型燃料の場合でも同
じ解析となるはずであるのに,9行×9列型A型燃料の解析では
1回であるが,9行×9列型B型燃料の解析では下部プレナムフ
ラッシングが2回起こるとされているなど,理論的な解明もでき
ていない。
b(a)熱伝達係数を中小破断LOCA解析で現実に用いている20
kcal/㎡・h・℃にした上で,実規模のBWRの炉心全域で
起こることやその程度が実証されていない下部プレナムフラッシ
ングについても考慮しないこととした場合の燃料被覆管温度につ
いて近似計算をする。
(b)本件原子炉の現在設計である9行×9列型A型燃料の大破断
LOCA解析では,事故後15秒まで高出力燃料集合体の部分の
水位が急速に低下し,15秒時点から急に水位が上昇してしばら
く全体が冠水した後に再度水位が下がるとされている。この15
秒時点からの水位上昇が下部プレナムフラッシングの効果である。
これがないものと仮定すると,高出力燃料集合体においては1
5秒時点でも急速な水位の低下が止まらず遅くとも17秒時点に
は中心部が露出すると考えられる。
そこで,17秒時点から高出力燃料集合体の最高出力部分(中
心部)が露出し,設置変更許可申請書の解析通りに65秒時点で
露出が終了するとした場合の燃料被覆管温度を計算すると,事故
後17秒時点での崩壊熱は定格運転時の4.6%に相当する。そ
して,事故後17秒から65秒までの燃料被覆管温度の上昇を計
算すると,炉心露出終了時点(65秒時点)での燃料被覆管温度
は1701.04K(1428℃)となり,指針の基準である1
200℃を軽く超えることになる。
(c)また,同様に9行×9列型B型燃料について同様の前提で燃
料被覆管温度を計算すると露出終了時点(60.7秒時点)で1
649.46K(1376.46℃)となり,指針の基準である
1200℃を軽く超えることになる。
cよって,本件各変更許可処分に係る現在の設計におけるLOCA
解析は誤っているから,本件処分は違法である。
(被控訴人の主張)
a上記(サ)①の被控訴人の主張のaと同じ。
b(a)下部プレナムフラッシングは,減圧により水が沸騰するとい
う現象であり,実規模のBWRにおいても,配管破断後に下部プ
レナム冷却材の飽和圧以下に低下すればフラッシングが起こるこ
とは自明であるので,控訴人らの主張は誤りである。
また,フラッシングの程度は主に減圧速度により決まり,この
速度は容器体積と,容器内に存在する冷却材の質量の出入りとエ
ネルギーの出入りから求められる冷却材体積時間変化により定ま
るので,体積比を考慮すれば十分に実機のLOCA時減圧速度を
模擬することが可能である。
(b)炉心入口オリフィス部のCCFLについては,単に吹き上げ
蒸気により落下水量が制限されるという局所的な現象であるため,
ROSA-ⅢやTBL実験ではなく他の小規模実験において現象
発生の有無とその程度を実証されており(乙142の11ないし
17頁,これらの実験により十分に検証され得るものであるか)
ら,炉心入口オリフィス部CCFLについて発生の有無やその程
度が実証されていないとする控訴人らの主張には根拠がない。
(c)下部プレナムフラッシングの解析においては,燃料のわずか
な圧力挙動等の違い等により,下部プレナムフラッシングの発生
回数にこの程度の差が生ずることは工学的及び専門技術的観点か
ら明らかである。9行×9列型A型燃料と9行×9列型B型燃料
のフラッシング挙動の差異については,下部プレナムフラッシン
グの理論的な根拠を否定するものではないから,控訴人らの主張
は前提において失当である。
③シュラウドのひびについて
(控訴人らの主張)
a下部プレナムフラッシングと炉心入口オリフィス部CCFLが実
規模のBWRの炉心全域で生じるか否か,及びその程度は実証され
ていないが,仮に,これが起こるものとしても,それは炉心シュラ
ウドが健全で炉心シュラウド外の早期に冷却材が流出する部分(ダ
ウンカマ部)と炉心シュラウド内との接点がジェットポンプ(を介
して下部プレナム)に限定されるということが大前提である。
炉心シュラウドに周方向のひび割れが進展して破断に至った場合,
炉心シュラウドの破断口の方がジェットポンプ開口部よりはるかに
大きくなり,減圧沸騰は下部プレナムでよりも炉心シュラウド内で
より激しく生じることになる。
その結果,減圧沸騰による圧力は下部プレナムから炉心に向けて
上向きに働くよりも炉心内から下部プレナムに向けて下向きに働く
方が強くなることもあり得,そうすると下部プレナムフラッシング
も炉心入口オリフィス部CCFLもないという事態になり得る。
bよって,本件各変更許可処分に係る現在の設計におけるLOCA
解析は誤っているから,本件処分は違法である。
(被控訴人の主張)
a上記(サ)①の被控訴人の主張のaと同じ。
b(a)控訴人らの主張に係る下部プレナムフラッシング及び炉心入
口オリフィスに影響を及ぼす事態とは,冷却材喪失事故の発生と
同時に,炉心シュラウドの全周破断が発生する事態であると解さ
れるが,事業者の行う自主検査により,破断に至る前にひびの発
生を確認し得ることから,これらの事態が同時発生することは考
えにくく,全周破断が放置されたまま運転されているという状況
は想定できないので,控訴人らの主張には根拠がない。
(b)また,シュラウドにひびがある状態については,本件原子炉
のシュラウドのひびについて十分な構造強度を有しているとする
事業者の評価結果が妥当であることが「総合資源エネルギー調査
会原子力安全・保安部会原子力発電設備の健全性評価等に関する
小委員会(第7回」でも確認されており(乙143,全周破))
断に至ることはない。なお,米国においてもシュラウドにひびが
存在する状態で運転するリスクについていくつかの評価がなされ
ているが,このような状態に関するリスクは十分小さいとされて
いる(乙144の2頁。)
④熱伝達係数について
(控訴人らの主張)
a仮に,炉心入口オリフィス部CCFLがあるとしても,その場合
の対流熱伝達係数を10のオーダー(単位はキロカロリー/㎡・
h・℃)で期待することは相当でない。現在設計での解析において
中小破断LOCAの解析では,炉心部の冷却材がなくなった後につ
いて対流熱伝達係数を10kcal/㎡・h・℃程度としているの
みならず,それ以前の炉心の下部に冷却材が保持されていると評価
されている時点でも対流熱伝達係数は101のオーダーとされてい
る(9行×9列型A型燃料の解析では炉心の冷却材がなくなる37
3秒時点より20秒以上前から対流熱伝達係数は101のオーダー
:20前後とされているし,9行×9列型B型燃料の解析では同様
に炉心の冷却材がなくなる370秒時点より20秒以上前から対流
熱伝達係数は101のオーダー:20前後とされている。)
中小破断LOCAの解析で用いている熱伝達係数を大破断LOC
A解析では変えているのは,そうしないと安全審査を通る結論を導
けないからである。
bよって,本件各変更許可処分に係る現在の設計におけるLOCA
解析は誤っているから,本件処分は違法である。
(被控訴人の主張)
a上記(サ)①の被控訴人の主張のaと同じ。
b熱伝達係数は,昭和61年7月に原子力発電技術顧問会(基本設
計)LOCA検討会が報告した「沸騰水型原子炉のLOCA/EC
CS性能評価コード(SAFER)について」においてその妥当性
が確認されている各種相関式によって導かれているのであり(乙1
32の54頁,中小破断LOCAと大破断LOCAで熱伝達係数)
が異なっているのは,減圧率及び炉心露出の時間の違いがあり,大
破断LOCAの方が吹き上げ蒸気流量が多く,この蒸気流による対
流熱伝達の効果が大きいことによって燃料被覆管最高温度を与える
位置での熱伝達係数が大きくなっているためである(乙132の1
8ないし33頁。)
したがって,各熱伝達係数の違いは,厳密な計算に基づき生じて
いるものであるから,控訴人らの主張は失当である。
(セ)プルサーマル計画について
(控訴人らの主張)
①東京電力が,本件原子力発電所3号機において,使用済燃料の再処
理によって回収されるプルトニウムとウランを混合したMOX燃料を
軽水炉で使用するプルサーマル計画を実施することを予定している。
しかし,本件安全審査の段階では,MOX燃料の使用を前提とした安
全審査を行っていない。
②したがって,本件安全審査には重大な瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
①本件訴訟は,本件原子力発電所1号機の設置許可処分を対象とする
ものであり,本件原子力発電所3号機に係る処分を対象とするもので
ないから,控訴人らの指摘する点は本件安全審査とは何ら関係がない。
②本件申請は,通常のウラン燃料の使用を前提としたものであり,M
OX燃料の装荷を想定したものではない。
そして,本件原子炉施設においてMOX燃料を装荷する場合には,
申請者によってあらためて設置変更許可申請がされることになるから,
主務大臣はあらためてMOX燃料についての安全審査を行うことにな
る。
すなわち,規制法は,原子炉設置許可後に,原子炉の形式,基数等,
原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備等が変更される場合を
想定し,これらの事項の変更を主務大臣の許可にかからしめている
(規制法26条。)
なお,控訴人らが指摘する本件原子力発電所3号機については,東
京電力がMOX燃料を使用すること等を内容とする原子炉設置変更許
可申請をしたのに対し,通商産業大臣が平成12年3月15日付けで,
規制法26条の規定によりこれを許可している。
③したがって,原子炉設置許可の安全審査の段階で,MOX燃料の使
用を前提とした安全審査を行っていないことは,本件安全審査の合理
性を何ら左右するものではない。
エ本件原子炉施設の地質・地盤及び地震に関係する安全対策に係る本件安
全審査の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点はある
か否か。また,本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計にお
いて,本件原子炉施設の地質・地盤及び同施設周辺において発生するおそ
れのある地震が,同施設における大事故の誘因とならず,安全性を確保で
き,原子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査にお
ける調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
(ア)審査基準に不合理な点があるか否か。
①設計用地震加速度の合理性の有無について
(控訴人らの主張)
」,a本件処分後に定められた「耐震設計審査指針(乙111)では
原発の設置の際の安全審査において,最大想定地震は解放基盤表面
における速度振幅で計算することを原則とすると定めている。しか
し,本件安全審査における設計用地震加速度の想定は,現行の「耐
震設計審査指針」に適合していないことから,本件安全審査は不合
理である。
bしたがって,本件安全審査には瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
a本件処分当時,地質・地盤及び地震に係る安全審査に関しては,
原子力委員会において,立地審査指針(乙10)及び安全設計審査
指針(乙14)が策定されていた。
その後,当時の原子力委員会は,本件処分後の昭和53年9月に,
「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」を定め,そして,
原子力安全委員会は,これを昭和56年7月20日に一部改訂して
「耐震設計審査指針(乙111)を決定した。さらに,原子炉安」
全専門審査会は,昭和53年8月23日,地質・地盤の手引き(甲
105)を策定した。これらは,それまでの発電用原子炉施設の耐
震設計に関する安全審査の蓄積を踏まえ,これを整理,成文化し,
原子炉施設の地質・地盤及び地震に係る審査を客観化するために策
定されたものであるが,地質・地盤及び地震に係る審査の基本的な
考え方は,本件安全審査当時のものが維持されている。
b本件原子炉施設の耐震設計は,現行の「耐震設計審査指針」の策
定以前に実施されたものであるが,資源エネルギー庁がとりまとめ
た「指針策定前の原子力発電所の耐震安全性(平成7年9月」)
(乙116)において,本件原子炉施設の耐震設計が,現行の耐震
設計審査指針に基づいて同指針に定められている設計用最強地震動
及び設計用限界地震動の最大加速度の数値等を基に審査したとして
も,その耐震安全性が確保されるものとなっていることが確認され
ている。
cしたがって,本件安全審査は,現行の「耐震設計審査指針」の考
え方に照らしても妥当なものであって,控訴人らの主張は理由がな
い。
②鉛直地震力の考慮の有無について
(控訴人らの主張)
a兵庫県南部明石海峡において,平成7年1月17日午前5時46
分,北緯34.641度,東経135.179度の深さ13.3㎞
を震源地としてM7.2の地震が発生し(甲240,241,24
3ないし246。以下「兵庫県南部地震」という,既に知られ。)
ていた活断層が地震断層として再活動したり,これまで未知だった
断層が地震断層として活動したのみならず,周囲の小断層が一斉に
活動している(甲241,245。)
この兵庫県南部地震(M7.2)では,揺れが水平方向と垂直方
向でほぼ1対1となっていた観測点が存在するにもかかわらず,原
子力発電所を含めて従来の各種設計基準は,縦揺れを軽視して,横
揺れの20ないし50%しか考慮しておらず,このような基準の非
現実性とそれによる被害が明らかになっている。
bしたがって,鉛直地震力について考慮していない本件安全審査に
は瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
a控訴人らの主張する被害は,位置,構造等が大きく異なる高速道
路や新幹線の橋脚に関するものであり,原子炉施設に被害が生じた
わけではない。
また,鉛直地震力の大きさが,施設の被害の大きさに直結するも
のではないから,異なる施設に関する被害をもって,他の施設に関
する設計の不備を根拠付けることができないのは自明の理であり,
更にこれら高速道路や鉄道橋梁の耐震設計基準と原子炉施設の耐震
設計基準は,異なる点が多く,これらの被害をもって原子炉施設の
耐震設計基準の妥当性を論じることは適切ではない。
b原子力施設の耐震設計は「耐震設計審査指針(乙111の6,」
5頁)に基づき,基準地震動の最大加速度振幅の1/2の値を鉛直
震度として求めた鉛直地震力を水平地震力と同時に不利な方向に組
み合わせて作用させ,評価しているところ,兵庫県南部地震におい
ても水平方向の最大加速度が発生した時刻においての水平方向に対
する上下方向の加速度振幅の比は,それを分析した結果,1/2を
大きく下回るものであり「耐震設計審査指針」の鉛直地震力の評,
価は(乙111の65頁,兵庫県南部地震に照らしても,その妥)
当性が損なわれるものではないことが確認されている(乙113の
)。23頁。したがって,控訴人らの主張は理由がなく,失当である
③活断層の評価期間の合理性の有無について
(控訴人らの主張)
a「耐震設計審査指針(乙111)が対象とする活断層は,基準」
地震動S1に対しては過去1万年の間に活動したもの,基準地震動
S2に対しては過去5万年の間に活動したものに限られているが,
これは活動層のトレンチ掘削の研究成果を反映していないものであ
って,耐震設計上,考慮すべき活断層の評価期間は,不十分である。
bしたがって,本件安全審査には瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
a「耐震設計審査指針」で示されている耐震設計上考慮すべき活断
層の評価期間については(乙111の72ないし73頁,原子力)
安全委員会作成の平成7年9月付け「平成7年兵庫県南部地震を踏
まえた原子力施設耐震安全検討会報告書」においても,その妥当性
が確認されている。
bしたがって,控訴人らの主張は失当である。
④直下地震の想定の有無について
(控訴人らの主張)
a鳥取県西部において,平成12年10月6日午後1時30分,同
県境港市及びω11で震度6強の地震が発生した(甲371,37
2。以下「鳥取県西部地震」という。この鳥取県西部地震は,。)
活断層のないところで起こった内陸直下型の地震(M7.3)であ
るから「耐震設計審査指針(乙111)においてM6.5の直,」
下地震を想定するとしていることは合理性を欠いている。
また,原子力安全委員会は,鳥取県西部地震の発生を契機に直下
地震の想定をM6.5では足りないと認め,現行指針を見直す方針
を固めている。
bしたがって,本件安全審査には瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
a兵庫県南部地震の状況を把握し,詳細に検討を加えた結果,兵庫
県南部地震を踏まえても我が国の原子力施設の耐震安全性を確保す
る上で基本となる「耐震設計審査指針」の妥当性は損なうものでは
ないものと確認されている(乙113の24頁。)
b現行の「耐震設計審査指針」における直下地震の想定は(乙11
1の66ないし71頁,過去の地震歴,原子炉施設の敷地及び敷)
地周辺の地質・地盤に係る調査等の結果,その近傍に直下地震が発
生するという事態が考えられない場合においても,十分な耐震安全
性を確保するという見地から,念のためあえてこれを設計用限界地
震の一つとして無条件で想定すべきものとされているという性質の
ものである。しかし,控訴人らの主張は,これらの前提を無視し,
単に鳥取県西部地震が活断層がないところで発生したM7クラスの
内陸直下型地震であるとして本件安全審査の不合理をいうものであ
って,何ら正当な理由がない。
c原子力安全委員会は,あくまで現行の「安全審査に用いられる関
連指針類に最新の知見等を反映し,より適切な指針類とするために
必要な調査審議を行」うことを指示しており(乙117,鳥取県)
西部地震が発生したことによって直下地震の想定に関する現行の
「耐震設計審査指針」の規定が直ちに不合理となったためそれを見
直すよう指示したことはないから,控訴人らの主張の前提を欠いて
いる。
(イ)本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,本
件原子炉施設の地盤及び同施設周辺において発生するおそれのある地震
が,同施設における大事故の誘因とならず,安全性を確保でき,原子炉
等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調査
審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
①本件原子炉敷地の支持地盤について
(控訴人らの主張)
a本件原子炉敷地の支持地盤となる地層は,泥岩層である西山層で
あり,本件原子炉敷地全域に分布する。その形成年代は,従前は2
00ないし800万年前に形成されていたとされていたが,最近は
広域火山灰や浮遊性有孔虫による対比等の研究から約120ないし
350万年前と考えられているので,西山層は上部は第三紀層では
なく第四紀層である。
すなわち,本件処分当時には,地質・石油地質学関連分野におい
て,西山層は第三紀の地層と考えられていた。しかし,これ以降の
学術的研究の進展の中で,西山層は年代的にはその下底がおよそ3
50万年前,上限は西にいくほど若くなり,西山丘陵地域では12
0万年前後,更にその上位に重なる灰爪層は90万年前後に堆積し
たとされたとの見解が定説とされるに至っている。
もっとも,被控訴人は,西山丘陵において西山層の上位の灰爪層
中に第三紀-第四紀境界付近に位置する出雲崎火山灰を挟むことを
根拠に,いまだに西山層は第三紀の地層であるとするが,出雲崎火
山灰を挟む地層が見つかったのは西山丘陵北部であるところ,西山
丘陵の北部と南部ではその各層の堆積過程とその形成年代が異なる。
北部では第三紀末に圧縮による隆起が起こり,削剥が生じた後,灰
爪層の岩相を呈する地層が堆積したが,一方,南部敷地周辺では引
き続き,半深海から陸棚の環境で西山層から灰爪層が堆積したもの
である。北部の層序関係を南部にあてはめて原発周辺の西山層を第
三紀層と結論づけることはできない。敷地内の西山層の年代そのも
のを西山層に挟まれる火山灰層や微化石に基づいて議論するべきで
ある。
なお,東京電力作成に係る昭和63年5月(平成2年1月一部補
正)の本件原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(6,7号原子
炉の増設)の添付書類六(甲425)においても,その敷地周辺地
域における西山層が上部は第四紀(更新世)に属するとされている。
b本件原子炉施設は,海面下40mまで掘削し,安田層までの土砂
を取り去り,基礎地盤である西山層泥岩の上に建設されることとな
っている。この西山層は,土と岩石の中間の性質をもつ軟岩と呼ば
れるものである。軟岩は重力式ダムの基礎地盤としては不適当とさ
れるが,原子力施設の危険性からいってダムに劣らぬ強度を必要と
するというべきであり,これを基礎地盤とすることは不適当である。
また,西山層泥岩の物理的特性は,単位体積重量約1.7g/c
m,含水比46%,一軸圧縮強度10ないし40㎏/cmとさ
33
れており,したがって,地盤としては軽く,非常に多くの水を含み,
軟弱であることを物語っている。原発敷地以外の西山層について地
すべり対策や石油掘削のため実施された物理試験で,単位体積重量
2.0g/cm以上,含水比20%以下の値が得られているの

で,本件原子炉敷地の西山層泥岩は一般のそれより更に劣悪である。
さらに,弾性波速度(縦波)の試験では,敷地西山層は毎秒1.
7㎞と著しく低い値を示している。堅硬な地盤ほど弾性波速度は早
く,第三紀堆積層では毎秒2ないし4㎞であり,中生代や古生代の
堆積層では毎秒4ないし6㎞である。本件原発の地盤には不適とさ
れ除去された安田層でさえ弾性波速度は毎秒1.6㎞であり,西山
層は,それと大差なく軟弱さは明らかである。
こうした西山層の物理的特性は,堆積年代が上部は第四紀と新し
く,また構造運動に伴う潜在割れ目や顕在化した断層や亀裂があり,
含水比が高く,弾性波速度が小さくなったものと考えられる。そし
て,上記数値はいずれも大きなばらつきがあり,西山層の岩質は著
しい不均質性がある。こうして本件原子炉支持地盤の西山層は,物
性それ自体から見ても不適当である。
cしたがって,本件原子炉が建造されている本件原子炉敷地内で,
西山層の上部を構成するとされる厚さ約100mのN3層はその岩
相記載からは灰爪層と判断すべきものであるから(控訴審における
証人P20(以下「当審証人P20」という)の平成16年5月。
20日付け証言調書(以下「当審証人P20調書」という)5な。
いし7頁,本件原子炉の支持地盤は第三紀ではなく,脆弱な第四)
紀の地層上に建造されていることになり,極めて劣悪であり重大で
あるので,本件安全審査には看過し難い過誤がある。
(被控訴人の主張)
a本件原子炉敷地に分布する西山層の形成年代については,新第三
紀及び第四紀前期の境界付近に分布する出雲崎火山灰層等を鍵層と
した調査の結果,本件原子炉敷地の位置する西山丘陵では,出雲崎
火山灰層が西山層の上位層である灰爪層中に存在し,西山層の上限
が出雲崎火山灰層よりも下位にあることが確認されていること等か
ら判断しても,西山層が新第三紀鮮新世の地層であることは明らか
である。
なお,乙153の54頁の第Ⅳ-4図(おもな火山灰層とその年
代)に記載されているとおり,西山丘陵地域が,西側の西山油帯
(本件原子炉施設が含まれる)と東側の中央油帯に区分されるこ。
とを前提に,火山灰層の研究に基づく評価によると,それぞれの地
域における西山層の最上部の年代は,西側の西山油帯でおよそ22
0万年前,東側の中央油帯ではおよそ120万年前であり,本件原
子炉施設の位置する西山油帯の西山層が,およそ180万年前より
古い新第三紀鮮新世の地層であることが明らかである。
b本件原子炉施設の試堀坑内で実施された平板載荷試験の結果,本
件原子炉施設の支持地盤(西山層)が有する支持力は,1cm当

たり62ないし85㎏であり,これに対して,本件原子炉施設の自
重は1cm当たり7㎏であること,また,地震時において本件原

子炉施設に働く荷重に,上記自重を加えても,その合計は1cm

当たり14㎏にしかならないことが確認されている。したがって,
本件原子炉施設の構造物が地盤を押さえる力に対して,地盤が構造
物を支える力の方が上回ることから,本件原子炉施設の敷地地盤が
本件原子炉施設の支持地盤として十分な余裕を持った支持力を有す
ることは明らかである。
さらに,支持地盤については,変形に対する抵抗力及びせん断抵
抗力についても,試掘坑内地盤で実施した現地試験の結果に基づき
検討を行うなど,支持地盤としての安全性に問題がないことを確認
している。
②本件原子炉敷地周辺にみられる断層について
a柏崎平野における安田層の形成時期について
(控訴人らの主張)
(a)本件原子炉敷地の地盤となる西山層の上部に安田層,番神砂
層,新砂丘等が堆積しており,本件原子炉敷地内外で安田層,番
神砂層,新砂丘に数多くの断層が確認されている。そして,安田
層の形成年代は,最近の広域火山灰調査等による研究により,挟
まれるOn-Pm1(御岳第1テフラ)の火山灰層の広域的な対
比から関東の小原台層に相当し,酸素同位体比のステージ区分で
いう5c(後期更新世,およそ10万年前)の地層であると考え
られる。
(b)したがって,安田層の形成時期を約12ないし14万年前と
判断した本件安全審査は,その前提を誤っており,看過し難い過
誤がある。
(被控訴人の主張)
(a)安田層の地形面及び堆積物の状況,安田層中で発見された花
粉及び珪藻の分析結果等の詳細な調査結果によれば,安田層の形
成時期は,南関東地方の下末吉層の形成時期(12万年ないし1
4万年前)に相当する。したがって,安田層の形成時期は,別紙
13のとおり,局所的な地殻変動によらずとも現在の高度に分布
し得ることから,酸素同位体比のステージ区分でいう5eの時期,
つまり下末吉期に相当するおよそ12万年前ないし14万年前で
あり(甲414,控訴人らの主張する小原台層の形成時期に相)
当しないことが明らかである。
(b)また,本件安全審査に関する調査結果においては,柏崎平野
周辺において,On-Pm1(御岳第1テフラ)の存在は確認さ
れていない。
なお,控訴人らの主張に係るOn-Pm1(御岳第1テフラ)
については「火山灰アトラス(乙146の82,83,12,」
0頁)にこれまでの海面変化史等に関する研究成果がまとめられ,
別紙14のとおり,On-Pm1(御岳第1テフラ)は小原台層
の最上部の位置に堆積しているとされているが,一般に段丘の形
成は海進初期に始まり,海退開始に伴い終わるものであることか
ら,地層の最上部にあるとされているOn-Pm1(御岳第1テ
フラ)は,小原台層を形成した海進が最も進んだ時期ないしその
後の海退直前に噴出したと解される。これに対し,控訴人らの主
張するOn-Pm1(御岳第1テフラ)の火山灰(甲394では
F1,乙145では藤橋10(F10)に相当)は,安田層の初
期の堆積時期に当たる下部層で確認されていることから,この火
山灰は海進の初期に噴出したこととなり,段丘堆積物中の分布位
置からもOn-Pm1(御岳第1テフラ)に対比することはでき
ない。
(c)したがって,控訴人らの主張は,その前提において誤りがあ
る。
b伏在断層を含む断層活動について
(a)柏崎平野の安田層,番神砂層堆積後の断層活動について
(控訴人らの主張)
i本件原子炉の炉心直下には,原子炉建家西側にα断層,中央
部にβ断層があり,β断層は安田層を最大70㎝切っているが,
本件安全審査では炉心直下の断層は再活動しないと判断してい
る。
しかし,兵庫県南部地震の例のように,本件原子炉直下の断
層であるα,β断層や砂丘を切る無数の断層及び寺尾の断層が
近傍の地震断層に連動して再活動する可能性がある。
すなわち,本件処分後に定められた「発電用原子炉施設に関
する耐震設計審査指針(昭和56年7月20日原子力安全委」
員会決定。乙111。耐震設計審査指針)の基本方針には「建
物・構築物は原則として剛構造にするとともに,重要な建物・
構築物は岩盤に支持させなければならない」と明記されてい。
る。そこで,本件原子炉直下の断層は再活動しないと断じた本
件安全審査は,上記耐震設計審査指針を損なうものである。
iiまた,柏崎平野の沖積面は地形変化,平野の地盤の乱れが著
しく,安田層,番神砂層下部水成層の標高変化が大きい。本件
処分当時は,地層の堆積年代を決定する手法が確立されていな
かったが,その後広域火山灰分析の手法や,花粉分析,珪藻化
石等の分析手法が確立され,柏崎平野周辺においても,更に地
層に含まれる火山灰及び珪藻化石の解析を通じて,その形成年
代及び同時期に形成された地層の現在の標高差が判明し,それ
によって安田層堆積後の断層運動の存在が明瞭になっている。
このように柏崎平野は,地殻変動が継続中であって,本件原子
炉敷地周辺で見られる断層は,炉心直下の安田層を切る断層を
含めて新しい時代における構造性のもの,すなわち活断層と判
断される。
本件安全審査においては,椎谷断層,真殿坂断層はリニアメ
ントが見られないとして,また,常楽寺断層は気比ノ宮断層で
検討すれば十分として,これらの断層を無視している。
しかし,兵庫県南部地震においては,上記のとおりこれまで
未知だった断層が地震断層として活動しているので,椎谷断層,
真殿坂断層,常楽寺断層はもとより,伏在する断層を考慮した
安全審査を実施すべきである。
iiiしたがって,本件安全審査は,柏崎平野の断層活動を無視
しているので,看過し難い過誤がある。
(被控訴人の主張)
i本件安全審査においては本件原子炉敷地及びその周辺の広い
範囲を対象として,文献調査,空中写真判読を行った上,地表
踏査による地形,地質調査を行って,この範囲に存在する断層
及び存在が推定される断層を拾い出した。そして,構造性の断
層であって,その規模及び本件原子炉敷地との距離などを考慮
して,耐震設計上考慮すべき断層と判断される可能性のあるも
のを選定した結果,別紙11のとおりの気比ノ宮断層,中央丘
陵西縁部断層,真殿坂断層及び椎谷断層が選定された。
ii次に,上記4断層について,第四紀後期における活動性を評
価し,それに基づいて,断層活動に基づく地震によって本件原
子炉敷地に大きな影響を与えると考えられるものが,耐震設計
上考慮すべき断層として選定された。また,上記4断層の第四
紀後期の活動性の評価に当たっては,第四紀後期の活動が活発
かつ大規模な断層は,その断層活動のこん跡として,(一)連続
したリニアメントが地表に明瞭に判読される,(二)リニアメン
ト線上及びその近傍の露頭に,第四紀後期にしばしば活動した
ことを示す断層や地下深部における第四紀後期の断層活動を反
映していると考えられる過褶曲構造あるいは撓曲構造が認めら
れる等の地形上,地質構造上の特徴を伴うことに着目した。そ
の結果,本件原子炉施設に関して評価されたのは,気比ノ宮断
層であり,同断層が耐震設計上考慮すべき断層と選定された。
すなわち,本件安全審査においては,(一)本件原子炉施設の
敷地内で実施したボーリング調査等に基づき,12万年ないし
14万年前に堆積した安田層(乙4の22ないし23頁)は敷
地全域にわたってほぼ水平に連続していること,(二)控訴人ら
が真殿坂断層等が存在すると主張する西山丘陵地域には空中写
真判読によってもリニアメントは認められず,地表踏査等によ
っても安田層堆積終了以降における断層活動を示唆する地形や
断層露頭が認められないこと(乙4の20ないし21頁,)
(三)別紙12のとおり,柏崎平野周辺において第四紀後期に堆
積した安田層のうち,堆積後の侵食を免れた部分が段丘面とし
て存在しており,その安田層からなる段丘面が平坦で高度に不
連続は認められないことなどが確認されている。
したがって,柏崎平野及び西山丘陵を含む柏崎平野周辺地域
においては,少なくとも安田層堆積終了以降,すなわち約12
万年前以降における構造運動に伴う褶曲及び断層活動はないこ
とは明らかであり,同平野下に本件原子炉施設の耐震設計上考
慮すべき大規模な断層は,伏在するものか否かを問わず存在す
る余地はない。そして,本件安全審査においては,本件申請に
係る本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針について,
上記指針等の知見などに照らして,総合的に検討した結果,α,
β断層等の再活動のおそれはなく,地質・地盤及び地震に係る
安全性を含めて,本件原子炉施設の自然的立地条件に係る事象
は,いずれも本件原子炉施設において放射性物質の有する潜在
的危険性を顕在化させるような大きな事故の誘因とはならない
ことが確認されている。
iiiこれに対し,控訴人らは一般的かつ抽象的に伏在する断層
の可能性を指摘するのみであって,柏崎平野下に伏在する断層
が存在することについて具体的な根拠を示していない。
また,控訴人らは,兵庫県南部地震を援用するが,そもそも
兵庫県南部と柏崎平野とは地質・地盤,地形等を異にするのは
明らかであるから,兵庫県南部地震をもって柏崎平野に伏在断
層が存在するという論旨は全く意味を有しない。
なお,原子力安全委員会は,兵庫県南部地震を踏まえて,耐
震安全検討会を設け,平成7年9月に「平成7年兵庫県南部地
震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会報告書(乙113)」
をとりまとめているが,兵庫県南部地震によっても耐震安全性
に関する審査手法一般についての妥当性が損なわれるものでは
ないと評価されており,本件安全審査の妥当性を示すものであ
る。
(b)複数断層の一斉活動について
(控訴人らの主張)
i兵庫県南部地震では,震源断層の活動で,三つ子地震を起こ
し,地上で10本を超える地震断層が出現した。
そして,兵庫県南部地震において震源断層の活動に伴い多数
の活断層が一斉に活動したことを,本件原子炉敷地周辺地域に
置き換えると,信濃川左岸の「気比ノ宮断層=鳥越断層群」と
「片貝断層群」が一緒に震源断層として活動したり,更に加え
て中央丘陵西縁の「常楽寺断層」が一斉に活動する可能性を示
すものである。
しかし,本件安全審査においては「気比ノ宮断層=鳥越断,
層群」が単独で地震を起こすことのみを想定して判断している。
iiしたがって,本件安全審査は,単一活断層による地震評価に
とどまっているので,看過し難い過誤がある。
(被控訴人の主張)
i本件安全審査において,本件原子炉敷地周辺において実施し
た地形,地質及び地盤に関する文献調査,空中写真判読,地表
踏査等に基づき,気比ノ宮断層,常楽寺断層及び片貝断層に関
し,その活断層の長さ,連続性について評価を行った結果,互
いに異なる背斜軸の翼部に位置するものであることが確認され
ている。
すなわち,気比ノ宮断層は与板背斜東翼部に,常楽寺断層は
中央油帯背斜西翼部に,片貝断層は片貝・真人背斜東翼部にそ
れぞれ存在が推定されたものである(乙112の10頁の図
2。そして,気比ノ宮断層,関原付近の断層(気比ノ宮断層)
と片貝断層の間に推定される断層)及び片貝断層は,それぞれ
「十分に離れている(比較的相互の距離の大きい)断層であっ
て,その一つ一つが,独立の変位運動をする断層」である。ま
た,常楽寺断層は,上記3断層の関係と比較して,気比ノ宮断
層,片貝断層とは更に離れた断層といえるから,これについて
も一斉活動を考慮する必要はない。
なお,控訴人らの主張は,兵庫県南部地震の六甲-淡路断層
帯(六甲山地南東麓から淡路島北部までの活断層群)と本件原
子炉敷地周辺地域の地質構造等の違いを全く考慮せず,本件原
子炉敷地周辺の断層が一斉に活動することを想定すべきとする
ものであって,根拠を欠いている。
iiしたがって,本件安全審査においては,控訴人らの主張に係
る気比ノ宮断層,片貝断層及び常楽寺断層の一斉活動を考慮す
る必要はない。
c本件原子炉敷地周辺地域の活断層について
(控訴人らの主張)
(a)試掘坑に見られる断層
i本件原子力発電所の基礎地盤には地質調査のために試掘坑が
掘削され,断層や節理が調査されている。
本件原子炉では標高130m地点で十字型に延長200mの
試掘坑が掘削されている。本件原子力発電所の他の炉でも同様
の試掘坑が掘削され,展開図として調査記述された総延長は1
804mであり,粘土を挟む節理,断層の箇所数は389,面
の癒着した断層91,粘土を挟まない節理407,合計887
もの多数になっている。
西山層は,軟岩であることから,節理や面の癒着した断層は
圧密や火山岩の冷却過程で生じたものではあり得ず,地殻構造
運動の結果を反映したものである。なお,本件原子炉の調査と
それ以外の2号機以降の調査との間では調査方法や記述内容に
大きな差異が見られ,全体像判断の妥当性が疑われる。
ii試掘坑で確認された多数の断層のうちで第四紀層までの追跡
調査を実施したのは,本件原子炉のα,β断層,本件原子力発
電所5号機のF3,V2断層,同7号機のL1,L2断層とa
・b断層の8本のみで,調査結果は断層変位は安田層内にとま
っているとして,番神砂層堆積後の断層活動はないと判断して
いる。
しかし,多数存在する断層のうちで試掘坑に表われる断層は
一部であり,そのうちのごく一部の抽出で追跡調査し,ほかも
同じと判断することは調査方法として問題である。
炉心部に掘削された試掘坑中に見られる節理や断層などは,
個別に評価するより,いかなる応力条件により形成されたかを
統一的に評価判断すべきである。そうした方法であるπダイヤ
グラムを上記試掘坑の調査結果について作成し検討すれば,北
西~南東方向の走向がきわめて明瞭に卓越しており,同一構造
)。運動で形成されたものであることが明白となった(甲222
これは,本件原子炉直下のα,β断層も同様である。よって,
α,β断層のみを抽出して評価・判断したものは誤りであり,
これらの断層は構造性のものであると判断すべきものである。
(b)滝谷の断層
iω12では,西山層と番神砂層が断層で接している露頭があ
る。この露頭は真殿坂断層の活動が番神砂層堆積後も続いてい
る証拠である(甲100の10頁。)
東京電力は,本件申請後に反対運動の指摘を受けて追加調査
を実施し,地すべりによるものと判断している(乙3の6-2
12頁以下。しかし,東京電力の当該見解は,地下のボ-リ)
ングやトレンチ調査に基づくものではなく,地表の露頭調査か
らの推定でしかなく,地すべりにこじつけているものである。
iiこれは,西山層から番神砂層までを切る断層であり,地すべ
りではなく,地殻変動による断層である。そして,鏡肌が認め
られるので,同断層は番神砂層をも切断しており5万年よりも
新しい時期に活動したものと考えるべきであるから,滝谷の断
層は構造性のものと判断すべきである。
(c)本件原子炉敷地内外の安田層や番神砂層を切る断層
i本件原子炉敷地内外の第四紀層である安田層や番神砂層が見
られる露頭では無数の断層を確認できる。
東京電力は,これら断層のうち敷地内で17か所,敷地外で
19か所を抽出し露頭調査を実施した結果,断層の走向傾斜が
まちまちである,地形に調和,地すべり判断理由に合致する等
を理由にすべて地すべりによるものであり構造性のものではな
いと判断している。
東京電力が調査した断層は,本件原子炉敷地内外に存在する
安田層や番神砂層を切る断層のうちのごく一部でしかない断層
の抽出調査とそれに基づく応力解析は必ずしも全体を代表する
ものではなく,また大間隔のボ-リング調査で地盤の落差を確
認できるものではない。
すなわち,本件原子炉敷地外で調査した断層はすべて露頭調
査のみで,地盤の落差を確認していない。真実解明のためには,
敷地内外の第四紀層である安田層や番神砂層の断層をトレンチ
掘削するなどして第三紀層との関係を直接観察する必要が絶対
条件となるが,全く実施していない。
ii本件原子炉敷地内外の安田層や番神砂層等の新しい堆積層で
見られる断層は,個別に評価するよりいかなる応力条件により
形成されたかを統一的に評価判断すべきである。
東京電力の本件申請書に記載された敷地内の番神,安田の断
層と寺尾の断層については,上記πダイヤグラムを作成して検
討した結果,北西ないし南東方向の走向がきわめて明瞭に卓越
しており,同一構造運動で形成されたものであることが明白と
なった。
これらを統一的に説明するものに,(一)西中通から寺尾まで
原発を含む一帯が同一の地形条件から巨大な地すべりを起こし
ている,(二)褶曲に伴う構造運動の二つが考えられるが,基盤
岩の地形から上記iの地すべり説はあり得ない。よって,構造
運動が番神砂層堆積時までも続いているのである。
これらの運動は試掘坑の西山層の断層等とも同一の構造運動
である。また地盤の椎谷層から番神砂層を同時に切る寺尾の断
層とも共通である。これは,原子炉直下で地殻構造運動に伴う
断層の活動の危険性が極めて高いことを示すものである。
(d)したがって,本件原子炉敷地周辺地域の活断層の危険性を全
く無視した本件安全審査には看過し難い過誤,欠落がある。
(被控訴人の主張)
(a)控訴人らの主張に係る本件原子炉敷地周辺地域の活断層は,
それ自体断層ですらないもの,又は,断層であっても地震の原因
にならない地すべり性の断層にすぎないもの,あるいは,構造運
動に起因した断層であってももはや活動するおそれのないもので
あること,敷地周辺の露頭に認められる断層も地すべり性のもの
と判断されるものである。
(b)したがって,本件安全審査の合理性を左右するものではない。
d寺尾断層について
(控訴人らの主張)
(a)寺尾断層は,本件原子炉敷地から北東に600mの位置にあ
り,椎谷層,安田層,番神砂層の三つの地層を切る構造性の断層
であって(甲221,地すべりによるものではなく,上記断層)
を引き起こした西山丘陵地域の地殻構造運動は,第四紀後期以降
も継続していた。
寺尾断層は,安田層の泥炭層での変位量は約120㎝であるの
に対し,椎谷層の上限面及び同火山灰での変位量は約140㎝で
あり,下の地層ほど変位が大きくなっている。このことは断層変
位の累積性,その断層活動が繰り返し生じていることを示してお
り,寺尾断層は新しい時期の活断層である。そして,寺尾断層は,
5万年前以降の活断層であって,これを引き起こした構造運動は,
この地域の地質構造の一大特徴である活褶曲に関係している(甲
104。)
すなわち,寺尾断層の変異量は,火山灰質砂岩層を基準として
測定されているところ,i火山灰質砂岩は,断層面の両側(東
西)において連続して存在しており,それが同じ時期に堆積した
ものであることが明らかであること,ii椎谷層の上限面及び安田
層の黒褐色亜炭層を変位基準とした場合の変位量と調和すること,
iii同地層の上下における層序・層厚が断層面の両側で一致して
いることから,火山灰層を鍵層として変位を測定すれば,安田層
の泥炭層での変位量は約120㎝に対して,椎谷層の上限面及び
火山灰での変位量は約140㎝で,変位は累積していることにな
る。さらに,約4万6千年前の堆積層である番神砂層を切ってい
るので,寺尾断層は,5万年前以降に活動した活断層と判断する
ことが正しいのである。
(b)ところで,断層が構造性か地すべり性かについて,枝分かれ
が下からか上からかで判断できるとの被控訴人の主張は誤りであ
る。実際に,構造性断層が上から枝分かれしている例は極めて多
いから,地質学の世界でこうした判断基準などあり得ない。
寺尾断層は,地形的には尾根側が,地質構造的には背斜の軸側
が落ちる高角正断層であることから,地すべりによるものではな
い。そして,寺尾断層は,背斜軸に並走する縦走断層であり,圧
縮応力場で形成されていることから褶曲構造の成長,プレートの
運動と関係があると判断することが自然である。
なお,椎谷層を切る断層は,安田層形成前に活動し,断層によ
る急崖が存在して,安田層堆積後に発生した地すべり時に,この
開口していた旧断層亀裂に落ち込んだとする論理はその断層の産
状の検討からしてあり得ない。
(c)本件原子炉敷地周辺地域を含む西山丘陵において,活発な褶
曲運動が続いていることは地質学研究者の一致した見解である
(甲104,223。そして,本件原子炉施設の設計に際して)
掘削抗中に見られる断層や節理の走向が北西から南東方向に卓越
していることが認められている。したがって,寺尾断層が構造性
のものであり,地すべりによるものでないことは,上記変位の累
積という事実及び同断層が地形的には尾根側が,地質構造的には
背斜の軸側が落ちる高角正断層であることなどの特徴からも明ら
かである。そして,寺尾断層は,後谷・宮川背斜の成長を示すも
のであり,同一構造上に設置されている本件原発の支持地盤で断
層が発生したり,既存の直下断層が再活動することで地盤が喪失
する危険性を示すものである。
しかし,本件安全審査においては,西山丘陵の地殻構造運動は
第四紀後期以降は存在しない,つまり安田層の堆積時には構造運
動があったが,番神砂層堆積後の構造運動はなかったという前提
で判断しているが,寺尾断層の発見によりその前提が崩れている。
(d)したがって,本件安全審査は,寺尾断層に対する審査を欠い
ているので,看過し難い過誤がある。
(被控訴人の主張)
(a)一般に構造性の断層によって地層が切られる場合,古い地層
ほど断層によって変位を受ける回数が多くなるため変位量は累積
する。また,構造性の断層は地球内部から生じる応力によって地
下深部で発生し地表に向かってのびるものであるから,断層が枝
分かれする場合には,下方から上方に向かって枝分かれする特徴
を有する。
(b)寺尾断層については,上記活断層の特徴である変位の累積性
は認められないこと,断層が上方から下方に向かって枝分かれし
ていることなどの構造性の断層と符合しない特徴を伴うものであ
るから,本断層は地すべり性の断層である。
(c)12万年ないし14万年前に堆積した安田層は敷地全域にわ
たって,ほぼ水平に連続していること,西山丘陵地域には空中写
真判読によってもリニアメントは認められず,地表踏査等によっ
ても安田層堆積終了以降における断層活動を示唆する地形や断層
露頭が認められないこと等が,本件安全審査において確認されて
いることから,柏崎平野及び西山丘陵地域を含む柏崎平野周辺地
域においては,少なくとも安田層堆積終了以降,すなわち12万
年ないし14万年前以降における構造運動に伴う褶曲及び断層活
動はないことは明らかである。
なお,寺尾断層についての判断は,原子力安全委員会にも報告
され,妥当なものとして了承されている(乙114。)
e歴史地震の選定について
(控訴人らの主張)
(a)本件安全審査に用いられた過去の地震は,1614年11月
26日の越後高田の地震と1828年12月18日の越後三条の
地震だけであるところ,越後高田の地震は日本海側の地震ではな
いし,また,越後三条の地震よりも本件原子炉敷地に大きな影響
を与えた地震として,i1751年5月21日の越後・越中の地
震(M7.0ないし7.4,ii1847年5月8日の善光寺地)
震(M7.4,iii1847年5月13日の越後頸城郡の地震)
(M6.5)の3地震を見落としている。
(b)本件安全審査においては,過去の地震として対象としたのは,
最近400年足らずのものでしかなく,資料も不十分である。
(c)したがって,本件安全審査は,歴史地震の考慮が不十分であ
り,看過し難い過誤がある。
(被控訴人の主張)
(a)本件安全審査においては,過去の地震歴によって,耐震設計
上考慮すべき地震を選定するには,原子炉施設の敷地及び敷地周
辺の地盤において過去に発生した地震につき,そのMや震央距離
等に基づいて,金井式(地震のMと震源距離から最大加速度を推
定する式。以下「金井式」という)により,同施設の敷地地盤。
における地震動の推定最大加速度(以下「推定最大加速度」とい
う)を算出した。
その結果,同様の地震が将来再び発生した場合に,本件原子炉
敷地に最も大きな影響を及ぼすと判断され,選定された地震は,
推定最大加速度が最も大きい1614年の越後高田の地震(M7.
7,推定最大加速度160Gal)である。
すなわち,歴史地震の選定については,本件原子炉敷地に影響
を与えたものを選定するものであるところ,越後高田の地震につ
いては,この地震が日本海側の地震でないとの説はいくつかの文
献で見られるものの,高田における被害の記事があることから,
本件原子炉施設の耐震設計上考慮する最大加速度振幅を安全側に
評価する観点に基づき,あえて本件原子炉敷地に近い日本海側で
発生し,敷地に影響を与えた地震と評価されたものである(乙2
の6-5-3,4,18頁。たとえ,この地震が日本海側の地)
震でなかったとしても,そのことが本件安全審査の妥当性を損な
うものではない。
(b)また,本件安全審査においては,控訴人らが越後三条の地震
(乙2の6-5-18,28頁)よりも本件原子炉敷地に大きい
影響を与えたとするi1751年5月21日の越後・越中の地震,
ii1847年5月8日の善光寺地震,iii1847年5月13日
の越後頸城郡の地震(M6.5)についても検討された結果(本
件申請書添付書類六(乙2の6-5-20ないし23頁,各地)
震は地震規模と震央距離からその敷地地盤における地震動が評価
され,本件原子炉敷地に及ぼす影響は越後三条の地震を上回るも
のではないと判断されたものであり,これらを「見落とした」と
の控訴人の主張は全くの誤りである。
なお,越後高田の地震,越後三条の地震等の評価と同様に上記
iないしiiiの各地震について,その地震規模と震央距離に基づ
き((a)の地震については,仮に控訴人らの主張する地震規模M
7.0ないし7.4を用いて)金井式とシードの図表により敷地
地盤における最大加速度値を求めると,それぞれ100Gal,
50Gal,80Galにすぎず,越後高田の地震,越後三条の
地震の最大加速度値160Gal,130Galを上回るものと
はならない(乙2の6-5-28頁。)
(c)本件申請書の添付書類六(乙2の6-5-20ないし23
頁)には,863年以来の29地震に関する情報が記載されてい
るので,歴史地震の選定に関する資料も十分である。
f日本海東縁プレート境界について
(控訴人らの主張)
(a)プレートテクトニクス理論は,地球の表層部分(リソスフェ
ア)がいくつかの堅い板(プレート)に分かれており,それがほ
とんど変形することなしに相互に水平運動(球面上の回転)をし
ているという考えに基づく理論である。そして,プレート運動に
起因する地震(プレート型地震)が発生することは確立された理
論である。当時の通商産業省資源エネルギー庁作成の「原子力発
電所の耐震安全性」と題するパンフレット(甲296)にもプレ
ート型地震のメカニズムが説明されている。
国土地理院が平成6年4月から110地点の測点でGPS(汎
地球測位システム)による観測をした結果,日本列島の地殻水平
変動が精密に観測され(甲300,別紙10のとおり,日本海)
東縁プレート境界の南部の位置が佐渡島の東を通って新潟市付近
から信濃川に沿って松本市に至り,同所から静岡に続くことが裏
付けられた。
これによれば,北から,
i1940年8月2日積丹半島沖地震(M7.5)
(北緯44.3度,東経39.5度)
ii1993年7月12日北海道南西沖地震(M7.8)
(北緯42.8度,東経139.2度)
iii1983年5月26日日本海中部地震(M7.7)
(北緯40.4度,東経139.1度)
iv1833年12月7日山形沖地震(M7.5)
(北緯38.9度,東経139.25度)
v1964年6月16日新潟地震(M7.5)
(北緯38.4度,東経139.2度)
vi1828年12月18日三条地震(M6.9)
(北緯37.6度,東経138.9度)
vii1847年5月8日善光寺地震(M7.4)
(北緯36.7度,東経138.2度)
の各地震が,日本海東縁プレート境界型の地震として理解するこ
とができる。
これらの7回の地震の平均ではM7.45となるから,日本海
東縁プレート境界での地震としては,M7.5程度の規模の地震
実績が存在する。
なお,測地学審議会は,平成9年6月,日本海東縁プレート境
界を構成するフォッサマグナ=糸魚川-静岡線でM8.0規模の
地震が発生する可能性があることを指摘している(甲297。)
(b)本件安全審査の対象となった中央丘陵西縁部断層(常楽寺断
層,信濃川西縁断層(気比ノ宮断層)及び信濃川東縁断層(悠)
久山断層)は,日本海東縁プレート境界から派生した地表地震断
層と推定され,これらの各活断層による地震は,プレート境界型
の地震を想定しなければならず,その規模は上記7回の地震の平
均値であるM7.5を想定すべきである。
なお,国土地理院から地震予知連絡会に対し,平成13年2月
19日,日本海東縁部の地殻活動に関する報告があったが,プレ
ート境界の存在が確認されている。
(c)したがって,本件安全審査は,プレート境界型の地震を想定
していないので,看過し難い過誤がある。
(被控訴人の主張)
(a)日本海東縁プレート境界の存在及び位置については諸説があ
り,定説となっているわけではなく,控訴人らの主張はその前提
を欠いている。
すなわち,控訴人らは,いまだ確認されていないプレート境界
をあえて仮定した上で,その位置の近辺で発生した地震を「プレ
ート境界型の地震」として単に列挙したものにすぎない。
なお,控訴人らが指摘するパンフレット(甲296)3頁欄外
注にも「ユーラシアプレートと北米プレートの境界は未確認」で
あるとされている。
(b)本件原子炉施設の安全性に影響を与えるような大地震は,そ
の発生機構を問わず一般に同一地域で繰り返し起こると認められ
ていることから,当該敷地あるいはその近傍に影響を与えた過去
の地震の調査を十分に行うことが重要であり,地震の規模につい
ては,過去の地震や活断層により生じる地震からあくまで地域毎
に判断すべきものである。
そして,活断層により生じる地震の地震規模の推定には活断層
の長さから地震規模を推定することが妥当であり,本件安全審査
において,敷地周辺における活断層調査を十分に行い,敷地に最
も影響を与える活断層の長さを17.5㎞,その地震規模をM6.
9と推定していることに何ら問題はない。本件安全審査では,控
訴人らの主張に係る「プレート境界型の地震」についても,19
64年の新潟地震,1928年の三条地震,1847年の善光寺
地震が考慮されているというべきである(乙2の6-5-20な
いし23頁。)
なお,控訴人らは,日本海東縁プレート境界から派生した地表
地震断層から生じる地震の規模をM7.5以上と想定しているが,
一般に各断層から生じる地震の規模は各断層の長さに基づいて算
定されるものであって,断層の成因を論じ,日本海東縁プレート
境界から派生したものであるか否かによって,当該断層から生じ
る地震の規模の算定が左右されるという控訴人らの主張は合理性
がない。
g長岡平野西縁断層について
(a)長岡平野西縁断層の活動について
(控訴人らの主張)
i地震調査研究推進本部は,平成16年10月13日,次の内
容の「長岡平野西縁断層帯の長期評価について」と題する報告書
(甲451。以下「本件断層帯報告書」という)を発表した。。
(一)断層帯の位置及び形態
長岡平野西縁断層帯は,新潟県新潟市の沖合から小千
谷市にかけて,南北方向に延びている。長さは約83kmで,
断層の西側が東側に対して相対的に隆起する逆断層である。
(二)断層帯の過去の活動
長岡平野西縁断層帯の平均的な上下方向のずれの速度は,
3m/千年程度の可能性があり,最新の活動は13世紀以後
にあったと推定される。活動時には,断層の西側が東側に対
して相対的に約2m以上隆起したと推定される。長岡平野西
縁断層帯の平均活動間隔は約1千2百-3千7百年であった
可能性がある。
(三)断層帯の将来の活動
長岡平野西縁断層帯は,全体が一つの区間として活動した
場合,M8.0程度の地震が発生する可能性がある。その時,
断層の近傍の地表面では西側が東側に対して相対的に約6-
7m高まる段差や撓みが生ずる可能性がある。長岡平野西
縁断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発
生する長期確率は今後100年以内の地震発生確率9%以下,
同50年4%以下,同30年2%以下である。本評価で得ら
れた地震発生の長期確率には幅があるが,その最大値をとる
と,今後30年の間に地震が発生する可能性が,我が国の活
断層の中ではやや高いグループに属することになる。
(四)今後に向けて
長岡平野西縁断層帯は複数の断層からなる長大な断層帯で
あるが,鳥越断層以外は活動履歴に関する詳しい資料が得ら
れていない。特に,大河津分水路以北では第四紀後期の活動
履歴に関する資料が,また,海域では断層の位置に関する資
料を含めて不足している。したがって,これらについての精
度良いデータを集積させて,活動区間を明確にし,最近の活
動履歴や平均活動間隔を正確に把握する必要がある。また,
本断層帯周辺では測地学的研究を通して非地震性の地表変形
の存在が指摘されてきている。これらの実態を調査し,本断
層帯との関係を明らかにする必要がある。
ii気比ノ宮断層は,長岡平野西縁断層帯に含まれるが,本件安
全審査では,長岡平野西縁断層の活動による地震は検討されて
いない。
地震調査研究推進本部の「M8.0程度の地震が発生する可
能性がある」との指摘は,本件安全審査の想定地震が誤りであ
ったことを示すものである。
すなわち,長岡平野西縁断層帯の活動により長岡市ω13の
地点でM8の地震が発生した場合の本件原子炉の揺れを安全審
査で用いたと同じ金井式で算定すると,震源深さ5ないし20
kmについて,1154ないし704Galとなる。この値は,
設計に用いた300Galや限界地震で想定した450Gal
を大きく超えるものである。本件原発は,長岡平野西縁断層帯
のM8地震には耐えられないことが明らかとなったのであり,
これを想定していない本件安全審査の誤りは明確である。
iiiしたがって,長岡平野西縁断層帯を考慮していない本件安
全審査は,看過し難い過誤がある。
(被控訴人の主張)
i地震調査研究推進本部は,平成7年に発生した兵庫県南部地
震を契機として制定された地震防災対策特別措置法(平成7年
法律第111号)に基づき,総理府に設置(現在は文部科学省
に設置)されたものである(甲451。)
本件断層帯報告書は,地震防災対策の強化,特に地震による
被害の軽減に資する地震の調査研究の推進を目標に,全国の活
断層が一定の基準に従い一律に評価されるものであり,長岡平
野西縁断層帯の評価についても,約200万年前以降活動した
可能性がある断層を一律に活断層帯とみなし,同断層帯全体が
一つの区間として活動した場合を想定して評価している。そこ
では,同断層帯全体が一斉活動する可能性について,必ずしも,
過去の地震歴や同断層帯を構成する各断層に関する子細な調査
を元に判断されているわけではなく,同報告書の「今後に向け
て」においては「長岡平野西縁断層帯は複数の断層からなる,
長大な断層帯であるが,鳥越断層以外は活動履歴に関する詳し
い情報が得られていない。特に,大河津分水路以北では第四紀
後期の活動履歴に関する資料が,また,海域では断層の位置に
関する資料を含めて不足している」としており「2.2。,
(5)活動区間」においては「本断層帯における活動区間に,
関する直接的資料は得られていない「2.1(2)断層面。」,
の位置・形状」においては「北方の海域内における断層の位,
置に関しては,調査が不十分で,正確に把握されていない側面
がある」としている。このことは,推進本部が長岡平野西縁。
断層帯を構成するとして評価した角田山東縁断層,鳥越断層,
関原断層,片貝断層,逆谷断層及び親沢断層等の各断層のうち,
第四紀後期の活動履歴の詳細が明らかとなっている活断層は,
鳥越断層(本件安全審査における気比ノ宮断層)に限られるこ
とを意味するものであって,これらの断層が第四紀後期に一つ
の区間として活動したことを述べているものではない。
ii本件安全審査においては,本件原子炉敷地及びその周辺の広
い範囲を対象として,文献調査,空中写真判読を行った上,地
表踏査による地形,地質調査を行って,この範囲に存在する断
層及び存在の推定される断層が抽出されている。その上で,第
四紀後期以降に活動し,今後も活動する可能性のある断層が耐
震設計上考慮すべき活断層として選定されている。このような
観点から,第四紀後期に明らかな活動がある断層であり,その
規模及び同敷地との距離などに基づき同敷地に最も影響がある
ものとして,気比ノ宮断層(鳥越断層)が耐震設計上考慮すべ
き活断層として選定されている。このような本件安全審査にお
ける気比ノ宮断層の評価は,別紙15のとおり,地震調査研究
推進本部の上記評価内容に照らしても,覆るものではない。
そして,本件安全審査では,気比ノ宮断層の長さを17.5
㎞と評価している。
すなわち,当初,その北限については,地体構造的に見た場
合には,信濃川に沿ってさらに,北北東方向に同一の断層系に
属する別の断層が雁行配列する可能性は否定できないとされた
(乙4の21頁)が,現在の知見では,雁行配列する活断層は
存在せず,気比ノ宮断層と同時に活動する可能性は否定できる
と判断されていることから,同断層の北部において第四紀後期
以降における活動を考慮すべき活断層が延長するものでないこ
とは明らかである。また,気比ノ宮断層の南限については,ω
2から南に明瞭なリニアメントが認められず,地層の過褶曲構
造が認められないことから,ω2以南にはその地下に最近活動
した断層を推定する必要はないと判断されている。
さらに,本件安全審査においては,本件原子炉施設の敷地周
辺において実施した地形,地質及び地盤に関する文献調査,空
中写真判読,地表踏査等に基づき,気比ノ宮断層及び片貝断層
に関し,その活断層の長さ,連続性についての評価を行った結
果,互いに異なる背斜軸の翼部に位置するものであることが確
認された。これは,気比ノ宮断層は与板背斜東翼部に,片貝断
層は片貝・真人背斜東翼部にそれぞれ存在が推定されたもので
あって(乙112の10頁の図2,気比ノ宮断層,関原付近)
の断層(気比ノ宮断層と片貝断層の間に推定される断層)及び
片貝断層は,それぞれ「十分に離れている(比較的相互の距離
の大きい)断層であって,その一つ一つが,独立の変位運動を
する断層」であると判断されているものである。
iiiこのように本件安全審査における活断層評価は,推進本部
の評価において「長岡平野西縁断層帯」としてひとまとまりに
されている各々の活断層について,地表踏査等に基づく第四紀
後期における活動性の詳細な検討を行っているものであり,よ
り詳細なデータといえるのであるから,本件安全審査における
活断層評価が推進本部による評価結果と異なるものであったと
しても,工学的判断に基づく本件安全審査の合理性が左右され
るものではない。したがって,本件断層帯報告書は,本件安全
審査における活断層評価に影響を及ぼさないというべきである。
(b)長岡平野西縁断層帯と日本海東縁プレート境界について
(控訴人らの主張)
i日本海は,今から約2000万年前以降に地殻が東西に引き
延ばされることによって,大陸から切り離され,陥没して形成
された。その際に,正断層として発生した古傷が,その後に,
東西から押されることにより,逆断層に変化したものと考えら
れている。
1983年に日本海東縁にプレート境界が存在すると提唱し
た学説において,当初は,プレート境界位置は佐渡沖からフォ
ッサマグナ西縁に至るとされていたが,GPS観測の結果を踏
まえて,信濃川沿いに存在すると言われるようになっている。
ii国土地理院が,この構造帯が生じている原因を探るために実
施したGPS観測の結果,新潟-神戸構造帯より西側の地殻は
東へ,東側の地殻は西へと移動していることが判明した。その
速度は,年間1-2㎝にも及び,新潟-神戸構造帯は,現在で
も地殻が東西両側から押され続けており,逆断層を形成するよ
うな変形が日々進行しているのである。
長岡平野西縁断層帯を最初に問題視したのは,地形学関係者
の最新段丘面の傾動から大きな変動が続いている括褶曲の報告
であった。そして,ω14や長岡市ω13の沖積面の変動地形
地点でのトレンチ掘削や群列ボーリング調査の結果からM8の
地震が繰り返し起こっているとの研究につながり,こうした研
究を無視できず,本件断層帯報告書が作成された。
iii地震予知連会長のP21教授は,後記の中越地震との関連
,,で「日本海東縁プレート境界のうち中越地震が起きた場所は
1847年の善光寺地震と1964年の新潟地震の間で『ギャ
ップD』と呼ばれる空白域にあたる。ここでは,1828年に
三条地震も起きたが,まだ,空白域はすべて埋まってはいない。
三条地震と新潟地震の震源域の間に空白域のギャップD1が,
中越地震と善光寺地震の間には,D2がある」とする。そし。
て,同教授は「それぞれの地域でM(マグニチュード)7程度
の地震が,いずれ起きると見ている「数十年の間に集中す」『
る傾向がある』と指摘している」と発言したと報じられてい。
る(甲455。)
iv長岡平野西縁断層帯は,その位置と前記研究の端緒等からし
ても,日本海東縁プレート境界の一部と考えるのが,当然であ
り,これが,M8程度の地震の発生を予測している。
(被控訴人の主張)
i日本海東縁プレート境界の存在が定説となっているわけでは
なく,本件断層帯報告書においても,同断層帯が日本海東縁プ
レート境界の一部に該当するという記載はない。
ii後記の中越地震は,長岡平野西縁断層帯が活動したことによ
るものではなく,控訴人らの主張には根拠がない。
h中越地震について
(a)本件原子炉施設の地震観測記録における地震規模と最大加速
度について
(控訴人らの主張)
i新潟県中越地方において,平成16年10月23日17時5
6分,北緯37.3度,東経138.9度の地点で深さ約13
㎞を震源とするM6.8の地震が発生した(以下「中越地震」
という。。)
本件原子力発電所での地表と基礎の観測値を比較すると,い
ずれも地表の値が基礎の値と比べて大きい値となるが,その比
率を見ると,本件原子力発電所1号機ではNSは最小1.6
7倍,平均5.17倍,EWは最小2.20倍,平均3.88
倍,UDは最小1.88倍,平均3.11倍,全平均4.05
倍であった。
また,同5号機ではNSは最小1.09倍,平均2.56
倍,EWは最小1.57倍,平均2.01倍,UDは最小0.
86倍,平均1.42倍,全平均1.99倍であった。
さらに,同6号機ではNSは最小1.21倍,平均2.4
5倍,EWは最小1.25倍,平均1.84倍,UDは最小0.
86倍,平均1.40倍,全平均1.90倍であった。
ii本件原子力発電所各号機の建家基礎で観測された水平と上下
の最大加速度と震源距離を比較すると奇妙なことが判る。
平成16年10月23日17時56分発生,M6.8の本震
地震と,同7号機がタービン警報信号で停止した同年11月0
4日8時57分発生,M5.2の余震を比較すると,前者の本
震地震はM6.8,震源距離は31kmであり,後者の余震は
M5.2,震源距離は33kmである。
本来,計算式からは,近くて大きな地震の揺れは大きく,遠
くて小さな地震の揺れは小さくなるはずなのに,遠くて小さな
地震の後者の余震が大きな値を観測している。このことは,本
件原発が想定した計算式に誤りがあることを示すものである。
また,同じ地震でありながら,本件原子力発電所各号機によ
り観測値に大きな差があるので,その測定値,方法に重大な疑
問がある。
iiiしたがって,本件安全審査には瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
i地震は,自然現象であるため,測定される加速度の数値にも
ある程度のばらつきがあるのは当然のことである。
中越地震の規模と揺れの大きさの関係も,そのばらつきによ
り生じたものと考えられるのであるから,これをもって,本件
原子炉施設が想定した計算式に誤りがあるということはできな
い。
なお,上記余震による最大加速度というものは,安全のため
地震の揺れ(加速度)を感知して原子炉を自動的に停止させる
ほどの大きさのものではなく,耐震設計上考慮している地震に
よる最大加速度を上回るものでもなかった。
ii本件安全審査においては,原子炉施設の耐震設計に用いられ
る設計用地震動の最大加速度の設定に当たって,地震動の評価
式が経験式であるというその成り立ちに由来する性質と地震が
自然現象であるということを考慮し,放射性物質を内部に有す
る原子炉施設の潜在的危険性を顕在化させないための配慮から,
十分に安全側に余裕を見込んで合理的に最大加速度を決定して
いることが確認されている。
また,このように設定された設計用地震動に対して,工学的,
技術的見地からみて,本件原子炉施設に適切な耐震設計が講じ
られ得ることが確認されている。
iiiしたがって,中越地震の地震規模と地震動の観測記録の最
大値との関係が,計算式から想定される大小関係と異なるとい
うことのみをもって,本件安全審査において地震動の想定に用
いられた計算式の妥当性や本件原子炉施設の耐震設計に係る安
全審査の合理性が左右されるものでない。
(b)中越地震の観測値が原子炉施設毎に異なることについて
(控訴人らの主張)
i中越地震の揺れの観測値について,同じ地震でありながら近
接して立地している本件原子力発電所各号機毎に大きな相違が
ある。しかも,水平加速度と鉛直加速度の比率も統一性がない
ことから,揺れの測定値,あるいは,その測定方法に重大な誤
りがある。
iiしたがって,本件安全審査には瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
i本件発電所において,地震計が設置されている原子炉建家は,
それぞれの原子炉施設ごとに建家の形状,埋め込みの深さ等が
異なるものであるから,中越地震によって発生した揺れ方につ
いてもそれぞれの原子炉建家によって異なって当然である。
iiしたがって,本件原子力発電所の原子炉施設毎のこのような
相違を考慮しない控訴人らの主張は失当である。
(c)本件原子力発電所7号機の原子炉自動停止について
(控訴人らの主張)
i本件原子力発電所7号機は,平成16年11月4日に発生し
た余震により停止した。これは,同号機の地震計によるもので
はなく,タービン軸の震動幅が制限値を超えたことが原因であ
る。
iiしたがって,本件発電所の原子炉施設の地震スクラム設定値
の基準は不合理であるから,本件安全審査には看過し難い過誤
がある。
(被控訴人の主張)
i本件原子力発電所7号機は,本件原子炉の本件安全審査の対
象ではなかった。
また,原子炉の安全保護を目的として,ある程度以上の地震
による揺れで原子炉を自動停止させる,いわゆるスクラム用の
地震感知器が作動する加速度の具体的な設定値については,原
子炉の運転段階において決められるものであり,本件安全審査
の対象となるものではない。
ii本件原子力発電所7号機が停止したのは,同号機のタービン
スラスト軸受摩耗センサーが,規定値を超えるタービン軸の位
置の変化(0.75㎜)を検知し,タービンを停止させたこと
によるものであり,その結果原子炉も停止したものである。こ
の事象は,本件発電所の原子炉施設の原子炉以外の設備を機械
的な面で保護する観点から設置されたセンサーが作動したこと
によりタービンが停止したものであり,原子炉の安全保護を目
的とするスクラム用の地震感知器の作動による原子炉の自動停
止ではない。スクラム用の地震感知器は,耐震設計上考慮して
いる地震による加速度よりも小さい加速度で作動するように設
定されているが,同余震による加速度はこれを下回るものであ
った。したがって,原子炉の安全保護とは目的が異なるタービ
ンのセンサーが作動したということは,原子炉の安全保護のみ
ならず,さまざまな観点からその他の設備も保護されているこ
と,すなわち,あらゆる観点から事故・故障を防止しているこ
との現れであって,このような事実をもって,地震スクラム設
定値の基準が不合理である旨の指摘は,その基準の趣旨・目的
を前提から誤解しており全く意味のないものである。また,同
7号機は,原子炉停止後の点検においても,安全上問題のなか
ったことが確認されている。
iiiしたがって,控訴人らの主張はその前提を誤っている。
(d)本件原子力発電所の設計用地震動の最大加速度値について
(控訴人らの主張)
i中越地震発生時の気象庁及びK-NET(独立行政法人防災
科学技術研究所の強震観測ネット)の各観測点で実際に観測さ
れた加速度値を本件原子力発電所の地表での記録とみなすと仮
定し,かつ地下の地盤の加速度の値は地表における加速度の半
分の値になるとすれば,それぞれの場所での地表における加速
度の測定値から算出して,ω15では1257Gal,十日町
市では875Gal,小千谷市が750Galとなる。
これらの値は,本件原子炉施設の設計用地震動の加速度の3
00Gal,あるいは限界地震の加速度の450Galをも大
きく超える値である。このため,本件原子力発電所の近くで中
越地震と類似の地震が発生したと仮定すると,本件発電所は破
壊されることが明らかになった。
iiしたがって,本件安全審査には瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
i地震の揺れは,その地盤の種類,性質によって大きく異なる
ものであるから,異なる地盤状況にある上記ω15等の各観測
点の観測記録をそのまま流用して別の地点である本件原子炉施
設における地震動を考慮することは地盤の種類,性質の違いを
無視するものであり,正しいデータの用い方ではない。
ii控訴人らは中越地震による揺れについて,本件原子力発電所
の地表における観測値と原子炉建家基礎の観測値の比率を用い
て,本件原子炉施設の地下の地盤における加速度なるものを算
出しているが,控訴人らは支持地盤上に設置された原子炉建家
の基礎と設計用地震動を評価する地盤とを混同していることか
ら,仮に比較するにしても比較すべき対象となる地震動を誤っ
ている。さらに,本件原子炉施設の近くで中越地震と類似の地
震が発生するという仮定自体も全く根拠がない。
③本件原子炉敷地周辺にみられる断層の評価について
a気比ノ宮断層について
(控訴人らの主張)
(a)本件安全審査においては,気比ノ宮断層の長さをω3から長
岡市ω2までの17.5㎞であると評価している。
しかし,気比ノ宮断層については,同断層の延長をω3から柏
崎市ω16までの約36㎞と見るべきであるので,本件安全審査
の同断層の評価は過小である。
(b)したがって,本件安全審査には瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
(a)本件安全審査においては,気比ノ宮断層の北部について,地
表では断層面が確認できないものの,地表踏査や空中写真判読の
結果として活断層が推定される範囲を考え,更に石油関係資料を
考慮した上で,地表に確認されるリニアメントの終端から約7.
5km北部までを活断層であるとみなして評価している。
(b)また,本件安全審査においては,気比ノ宮断層は「長岡地,
域の地質(乙156)に添付される地質平面図及び断面図に示」
されるとおり,与板背斜の東翼に西側上がりの逆断層として想定
されるものである。これに対し「柏崎地域の地質(乙15,」
2)に添付される地質平面図及び断面図において,気比ノ宮断層
が南方に連続する地域は,山屋背斜とその西側に位置する大積向
斜及び渋海川向斜の間の部分に当たり,緩やかな西落ちの構造と
なっている。このように,気比ノ宮断層は与板背斜の東翼に想定
される西側上がりの逆断層であり,気比ノ宮断層の南方に連続す
る断層は緩やかな西落ちの構造となっているから,落ちの方向が
全く逆の構造である。したがって,これらを一連の活断層として
活動することを想定することは非科学的である。
(c)ω2付近以南の気比ノ宮断層の延長線上には,明瞭なリニア
メントや過褶曲構造が全く認められず(乙3の6-266ないし
268,290ないし292頁,ω2付近以北と以南とでは,)
地形上,地質構造上に明白な差異があることから,同町以南につ
いては,地下に気比ノ宮断層の延長と思われる断層の存在を推定
することはできないと判断した。
(d)したがって,気比ノ宮断層の長さは,ω3から長岡市ω2ま
での17.5㎞である。
b常楽寺断層について
(控訴人らの主張)
(a)本件安全審査においては,常楽寺断層の長さをω5からω4
までの12.5㎞であると評価している。
しかし,中央丘陵西縁部にある常楽寺断層は,その北部区間に
ついて,現在も活動が続いていること,同断層の南部区間につい
ては,灰爪層の撓曲が連続して追跡できること,地形的に山地と
平地とが直線状の境界線をなしていることから,同断層が,ω5
から柏崎市ω17までの24㎞であるので,本件安全審査の同断
層の評価は過小である。
(b)したがって,本件安全審査には瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
(a)「柏崎地域の地質(乙152)に添付される地質図によれ」
ば,控訴人らが主張する活断層が想定されるとする位置には,所
々に中位段丘である安田層が点在し,沖積層の谷が安田層に遮ら
れて長く連続しないことは明らかである。
(b)中央丘陵西縁部断層(常楽寺断層」の一部)の存在が推定「
されているω4からω5にかけての地表部付近には,第四紀後期
において活動した断層が認められる露頭が全く認められないから,
同断層の第四紀後期における活動があったとしても,ごく小さい
ものと判断される。
また,中央丘陵西縁部断層の南方においては,地表踏査をして
も連続して追跡できるような撓曲構造が認められず,山地と平地
の境界にみられる比較的,直線的な地形については,過去の海岸
線に起因する地形(現在より海水準が高い時代の海食崖)にすぎ
ない。
さらに,柏崎平野周辺地域に分布する安田層について,高度不
連続がなく,ほぼ水平に分布し,柏崎平野及び西山丘陵を含む柏
崎平野周辺地域においては,少なくとも安田層堆積終了以降,す
なわち約12万年前以降における構造運動に伴う褶曲及び断層活
動がなく,仮に,断層が存在するとしても安田層堆積終了以降の
活動がないから,控訴人らの主張は根拠がない。
c真殿坂断層について
(控訴人らの主張)
(a)本件安全審査においては,真殿坂断層はω6を南限とする1
4㎞であると評価している。
しかし,真殿坂断層については,ω12の真殿坂断層上の露頭
で西山層から古砂丘までを切る断層があること等から,鯖石川河
口からω8までの21㎞であるので,本件安全審査の同断層の評
価は過小である。なお,一般に活動度の高いA級活動層に比べ,
活動度の劣るB級,C級の活動層は,変位の基準となる地形面が
乏しいことや,断層による変位が山地の浸食速度と同等又は劣る
ため,空中写真で断層地形を発見することは困難である。それゆ
え,リニアメントが見られないことを理由に活断層を否定するこ
とはできない。
(b)したがって,本件安全審査には瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
控訴人らの主張の真殿坂断層の存在が推定される地域では,空
中写真判読においてリニアメントの存在が全く認められず,地表
踏査の結果によっても第四紀後期における断層活動を示唆する断
層崖やケルンコル等の地形や断層露頭が認められないことから,
第四紀後期における活動性について無視できるものと判断した。
また,ω12の露頭に見られる断層について,地すべり運動に
よって番神砂層及び安田層が西山層中に落ち込んで生じた地表の
断層であり,真殿坂断層とは関係がないから,控訴人らの主張は
失当である。
d新しい松田式について
(控訴人らの主張)
(a)活断層の長さから想定すべき最大地震のM(マグニチュー
ド)を算出する式として従前よりいわゆる「松田式」が用いられ
てきた。近時,松田式の考案者であるP22が最新の研究成果に
基づき,新しい松田式(松田(1998。甲306)に修正し)
ている。
本件原子炉施設近辺の活断層である気比ノ宮断層について,仮
に断層の長さを17.5㎞として新しい松田式により最大地震の
Mを算出すると7.124488.となり,本件安全審査に..
おける算定値は誤りである。
(b)したがって,本件安全審査には瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
(a)本件安全審査で用いられた松田式とは,P22が1975年
に提案したもので,濃尾地震(1891年)以降の,日本の内陸
で発生した活断層長さと地震規模が求められている地震のデータ
を基に,活断層長さL(㎞)と地震規模M(マグニチュード)の
関係を示した式である。
logL=0.6M-2.9
ここでいう活断層長さLとは,地震により地表に断層が表れた
長さ,及び地表に断層が表れなかった地震でも地震学の知見など
他の方法で断層長さが推定されている値である。
新しい松田式(1998)は,地表地震断層が明らかな地震の
みについて,その地表地震断層の長さと地震規模Mとの関係を求
めているものである。
そして,本件安全審査で用いられた松田式は,日本の内陸で発
生した地震について,活断層の長さと地震規模の関係を示す経験
式である。ここで用いる活断層の長さの値は,地震により地表に
断層が現れた長さ及び地表に断層の一部が現れなかった地震でも
地震学の知見など他の方法で断層の長さを推定した値である。
(b)控訴人らの主張する新しい松田式(1998)は,地表から
確認できる地表地震断層の長さと地震規模の関係を求めたもので
ある。
原子炉施設の設計に当たっては,敷地近傍の断層を詳細に調査
しており,断層の長さについては地表に現れている長さに限らず,
活断層の長さを保守的に推定している。
したがって,そのようにして推定された活断層の長さにより地
震の規模を適切に算出するためには,松田式を用いなければなら
ないものであって,新しい松田式(1998)を用いるべきとす
る控訴人らの主張は,両式の意義を正解しないものであって失当
である。
なお,第166回原子炉安全専門委員会(平成11年2月10
日)においても「現段階においては,新しく提案された松田式
(1998)を採用する必要はないと考える」と確認されてい。
る(乙115。)
e金井式-シード図について
(控訴人らの主張)
(a)本件安全審査においては,金井式がM(マグニチュード)と
震源距離から「最大加速度」を求める式として用いられている。
本来は「最大速度振幅」を算出する式であるから,これを「最大
加速度」の算出に用いることはそれ自体便宜的なものである。
そして,本件原子炉施設敷地での最大加速度の算定に用いた金
井式-シード図の組合せは,実測値と比較すると過小評価をして
いる。
このため,原子力発電所の耐震設計・安全審査に用いる最大加
速度の算定に用いることは合理性を欠いている。
(b)したがって,本件安全審査には瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
(a)本件原子炉施設の敷地地盤における最大加速度振幅を算定す
るために用いた金井式は,岩盤(地盤)における地震動の最大加
速度振幅,震源距離及びMの関係を表す経験式であり,地震工学
の分野において一般にその妥当性が広く認められている。したが
って,敷地地盤における地震動の最大加速度振幅の算定式として
金井式を用いることは妥当であって合理性を欠くものではない。
(b)一般に地震動は,岩盤(地盤)から地表に到達するまでの間
に大きく増幅される特性を有するため,当然のことながら,岩盤
(地盤)における地震動を金井式によって算定した数値は増幅作
用を受けた地表面等における観測値とは大きく異なるものである。
しかるに,控訴人らが主張する実測値と称するものは,表層に設
置された地震計によって観測されたものであるから,かかる実測
値と称するものに基づき金井式を用いて算出された敷地地盤の最
大加速度振幅が過小評価であるとする控訴人らの主張は理由がな
い。
f鳥取県西部地震について
(控訴人らの主張)
(a)鳥取県西部地震においては,ω11の観測点では,地表にお
いて最大加速度1135Gal,計測震度6.6が記録され,ま
た,地下100m地点でも東西方向で最大574.7Galが記
録された(甲371,372。)
このω11の観測点で本件安全審査の方法で最大加速度を計算
すると,地震発生以前は約195Galとなる。したがって,鳥
取県西部地震発生前にω11地点において本件安全審査と同様の
手法により原発の設置許可申請を行っていれば,設計用地震加速
度が鳥取県西部地震でのω11地点における実測値と比べてかな
りの過小評価となったはずであるから,設計用地震加速度の算定
方法が全体として過小評価である。
(b)したがって,本件安全審査には瑕疵がある。
(被控訴人の主張)
(a)鳥取県西部地震については,現在,多数の専門家が調査して
いるところであり,同地震の全体につき科学的に十分な考察を遂
げた学術論文等は,いまだ公表されていない。このような段階に
おいて,同地震が,地震に関する従来の知見を否定し,新たな知
見をもたらしたということはできない。
しかも,ω11地点及びその周辺においては,本件安全審査に
おいて実施されたような地質・地盤等に関する詳細な調査が実施
されていない。控訴人らの主張は,詳細な調査を実施せずに判明
していた資料を基にして設計用地震加速度を算定し,算定値が実
測値よりも過小評価となったはずであると結論づけるものである。
(b)本件安全審査は,地震に係る安全性についても詳細な調査を
行い,それによって判明した調査結果を考慮した上での設計用地
震加速度の算定であるから,安全審査における設計用地震加速度
の算定のための前提であるかかる態様の調査結果もないまま算定
した値を基に本件安全審査の合理性を覆し得るものでない。
④本件原子炉施設の安全性とスマトラ沖大地震・津波等について
(控訴人らの主張)
aインドネシアのスマトラ島沖において,平成16年12月26日
午前9時58分ころ(日本時間,M9.0の地震が発生した(甲)
477。以下「スマトラ沖大地震」という。この巨大地震のた。)
め,巨大津波が発生し,その犠牲者は13カ国で18万人を超える
最悪の結果となった。そして,波高25mに達した例もあり,多数
の鉄筋コンクリート建物が崩壊した(甲480,481。)
また,1983年(昭和58年)の日本海中部地震による津波の
記録上,波高20m以上の津波が観測されたにもかかわらず,潮位
計の記録ではせいぜい2mにとどまっている。
本件安全審査においては,科学的には意味のない潮位計の記録や
日本海が津波の静穏期であった時期の記録に基づいて行われ,防波
堤が6.8mの高さで設計されており,過去の最大地震である新潟
地震の最高潮位が満潮時に来ても,津波の高さが2.34m程で防
波堤を越えることがないので,安全であるとしているが,日本海側
の平坦な海岸線でも波高20mクラスの津波被害は発生すると考え
るべきである。
bしたがって,本件安全審査における津波に対する審査は,現在の
科学水準からは既に不合理である。
(被控訴人の主張)
控訴人らの主張は争う。
オ本件原子炉施設の公衆との離隔に係る本件安全審査の調査審議において
用いられた具体的審査基準に不合理な点はあるか否か。また,本件原子炉
が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,公衆との離隔に係る
安全性を確保し得るもの,すなわち,公衆との離隔による災害の防止上支
障のないものとした本件安全審査における調査審議及び判断の過程に看過
し難い過誤,欠落があるか否か。
(ア)災害評価(立地評価)における全炉心溶融等の想定について
(控訴人らの主張)
本件安全審査の災害評価(立地評価)において想定している重大事故
及び仮想事故は,現実に起きているチェルノブイル事故より小規模であ
り,また,実際の暴走事故や炉心溶融事故などの原発事故の被害は甚大
であるから,災害評価(立地評価)が十分ではない。
したがって,本件安全審査には看過し難い欠落がある。
(被控訴人の主張)
a原子炉設置許可に際しての安全審査における立地評価は,原子炉施
設において,多重防護の考え方に基づく各種の事故防止対策が講じら
れ,その基本設計ないし基本的設計方針における事故防止対策に係る
安全性が確認されることが前提条件としてあり,これに加えて原子炉
施設における安全性の確保には念には念を入れるとの観点から,立地
審査指針に基づいて,原子炉の公衆との離隔に係る立地条件の適否が
検討されるものであり,立地評価において上記の事故防止対策が全く
機能しないときに初めて生じ得る暴走事故や炉心溶融事故を仮定して
審査する必要性はない。
また,立地審査指針において,原子炉の公衆との離隔に係る立地条
件につき「その安全防護施設との関連において,一定の要求を満,」
たすべきものとしているのも,このような安全審査の内容を踏まえて
のものであることはいうまでもなく,この点については,安全評価審
査指針(甲33,乙94)中の「解説」においても明確にされている。
b本件立地評価においては,重大事故及び仮想事故として,原子炉格
納容器内に放射性物質が放出される事故としての冷却材喪失事故と,
直接原子炉格納容器外に放射性物質が放出される事故としての主蒸気
管破断事故との2種類の事故が想定されており(乙4の49頁),本件
安全審査においては,これらの冷却材喪失事故及び主蒸気管破断事故
は,放射性物質の環境への放出量が最大となる可能性をもつ事故事象
で,放射性物質が原子炉格納容器内と原子炉格納容器外に放出される
事故事象を代表して選定されたものであることから,各事故の想定は
妥当なものであると判断された(乙4の52頁)ものである。
なお,想定された事故に対する安全審査が,立地審査指針に基づき,
過誤,欠落なく適切に実施されている。
(イ)フィルタの信頼性について
(控訴人らの主張)
本件安全審査においては,災害評価(立地評価)において,重大事故
でも仮想事故でも,ヨウ素については常にフィルタにより95%除去
されるということが前提とされているが,動燃東海再処理工場の火災
・爆発事故では,火災発生後わずか7分で「高性能粒子フィルタ」が
目詰まりして機能喪失しており,最大想定事故の場合においてフィル
タが健全であることを前提にするのは非現実的で不合理である。
したがって,本件安全審査には看過し難い欠落がある。
(被控訴人の主張)
a控訴人らの指摘する動燃東海事業所の再処理工場は,規制法第5章
の規定により規制される「再処理の事業」を行う施設であって,本件
原子炉施設とはその目的や安全確認の方法が異なるのであり,本件安
全審査の対象となる原子炉施設の位置,構造及び設備の基本設計ない
し基本設計方針に対する要求は,当然,再処理工場とは異なるもので
あるから,控訴人らの主張はその前提において失当である。
b本件安全審査においては,本件原子炉施設の原子炉建家内ガス処理
系は高性能フィルタのみによって構成されるものではなく,事故時に
おいても環境に放出される放射性物質を低減させる機能を有するもの
であると判断されている(乙4の33,34頁。)
第3当裁判所の判断
1司法審査のあり方について
(1)規制法24条1項各号の違反のうち,行訴法10条1項の「自己の法律
上の利益に関係」する違法は何か。
ア行訴法10条1項は,取消訴訟においては,自己の法律上の利益に関係
のない違法を理由としては,処分の取消しを求めることができないものと
規定している。この規定の趣旨は,取消訴訟が違法な処分の是正を直接の
目的とする客観訴訟ではなく,違法な処分によって侵害された原告の権利
・利益を救済するための主観訴訟であるから,当該処分により自己の権利
若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれ
のある者に該当するとして,当該処分の取消しを求めるについて行訴法9
条にいう法律上の利益が認められる者であっても,取消訴訟において原告
が具体的に主張し得る処分の違法事由は,自己の法律上の利益に関係のあ
るものに限られるとするものである。
そして,同条項所定の「自己の法律上の利益に関係のない違法」とは,
一般的・抽象的には,被告行政庁の処分に存する違法のうち,原告の権利
・利益を保護する趣旨で設けられたのではない法規に違反したにすぎない
違法と解するのが相当であって,ここにいう「法律」とは当該処分の根拠
規定である行政実体法規を意味するものというべきである。もっとも,こ
のことは,原告が行政実体法規による処分の名宛人であることを要するも
のではなく,また,原告の権利・利益を保護する趣旨で設けられた規定で
あるかどうかは,当該行政実体法規の立法趣旨,同法規と目的を共通する
関連法規の関係規定との関係等を考慮して決定すべきものである。
そこで,本件処分は,内閣総理大臣が昭和52年9月1日付けで東京電
力に対してなした原子炉設置許可処分であるから,第三者である控訴人ら
が本件処分の本来的効果によって直接その実体的な権利の侵害を受けたり,
受忍義務を課されるものではないが,本件処分は規制法24条1項に基づ
くものであるから,同規定が上記のような意味で控訴人らの権利・利益を
保護する趣旨を含むものであるか否かを,以下において検討する。
イ本件処分の要件を規定する規制法24条1項各号についてみてみると,
まず,規制法24条1項各号所定の許可要件のうち,同項1号は「原子炉
が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと」との要件を,同項2号
は「その許可をすることによって原子力の開発及び利用の計画的な遂行に
支障を及ぼすおそれがないこと」との要件をそれぞれ定めているが,上記
各要件が定められた趣旨は,専ら,原子力の研究,開発及び利用を平和の
目的に限り,かつ,原子力の開発及び利用を長期的視野に立って計画的に
遂行するとの我が国の原子力に関係する基本政策に適合せしめ,もって,
広く国民全体の公益の増進に資することにあると解され,それゆえ,原子
炉施設の周辺住民等の個人的利益の保護を目的として内閣総理大臣の許可
権限の行使を制限したものではないというべきである。
また,同項3号のうち,経理的基礎があることを要件とした趣旨は,原
子炉の設置には多額の資金を要することにかんがみ,原子炉設置許可申請
者の総合的経理能力及び原子炉設置のための資金計画を審査することにし
たものであって,直接的には原子炉施設の周辺住民等の個人的権利・利益
を具体的に保護する趣旨を含まないものである。
したがって,規制法24条1項1号,2号及び3号のうち経理的基礎に
係る部分は,控訴人らの法律上の利益に関係しないものであるから,控訴
人らは,これらの規定に違反することを理由に本件処分の取消しを求める
ことはできない。
ウこれに対し,規制法24条1項3号のうち技術的能力に係る部分は,原
子炉設置許可申請者が原子炉を設置するために必要な技術的能力及びその
運転を的確に遂行するに足りる技術的能力を有するか否かにつき,また,
同項4号は,当該申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物
質(使用済燃料を含む,核燃料物質によって汚染された物(原子核分。)
裂生成物を含む)又は原子炉による災害の防止上支障がないものである。
か否かにつき,審査を行うべきものと定めている。
原子炉設置許可の基準として,同項3号のうち技術的能力に係る部分及
び4号が設けられた趣旨は,原子炉が,原子核分裂の過程において高エネ
ルギーを放出するウラン等の核燃料物質を燃料として使用する装置であり,
その稼働により,内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるもの
であり,原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置,運転につき所定の
技術的能力を欠くとき,又は原子炉施設の安全性が確保されないときは,
当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及
ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こ
すおそれがあることにかんがみ,上記災害が万が一にも起こらないように
するため,原子炉設置許可の段階で,原子炉を設置しようとする者の上記
技術的能力の有無及び申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備の安全
性につき十分な審査をすることとし,原子炉を設置しようとする者におい
て所定の技術的能力があり,かつ,原子炉施設の位置,構造及び設備が上
記災害の防止上支障がないものであると認められる場合でない限り,主務
大臣(本件処分当時は内閣総理大臣)は原子炉設置許可処分をしてはなら
ないとするものと解される。
そして,同項3号所定の技術的能力の有無及び4号所定の安全性に関す
る各審査に過誤,欠落があった場合には重大な原子炉事故が起こる可能性
があり,事故が起こったときは,原子炉施設に近い住民ほど被害を受ける
蓋然性が高く,特に原子炉施設の近くに居住する者はその生命,身体等に
直接的かつ重大な被害を受けるものと想定され,上記のような技術的能力
及び安全性に関する各号の規定は,このような原子炉の事故等がもたらす
災害による被害の性質を考慮した上で,設けられているものということが
できる。
そうすると,同項3号(技術的能力に係る部分に限る)及び4号の設。
けられた趣旨,上記各号が考慮している被害の性質等にかんがみると,上
記各号は,単に公衆の生命,身体の安全,環境上の利益を一般的公益とし
て保護しようとするにとどまらず,原子炉施設周辺に居住し,上記事故等
がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範
囲の住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべき
ものとする趣旨を含むと解するのが相当である。
そして,第2の1の「前提となる事実(末尾に証拠等を掲げた事実のほ
かは,当事者間に争いがない(以下「上記前提となる事実」とい。)」
う)によると,控訴人らは,本件原子炉敷地周辺から約65㎞までの範。
囲内の新潟県柏崎市及び刈羽郡ω1並びにその周辺市町村に居住する者で
あって,本件原子炉施設から環境へ放射性物質が放出されるとこれによる
放射線被ばくに遭遇する危険があり,更に本件原子炉の事故が発生すると,
その生命,身体及び財産等を侵害され得る立場にあるというべきであるか
ら,このような控訴人らの個別的な権利・利益に関係する限りにおいて,
規制法24条1項3号(技術的能力に係る部分に限る)及び4号に係る。
違法事由を主張することができるというべきである。
エもっとも,控訴人らは,規制法24条1項各号所定の安全審査について
は,原子力発電所の必要性が前提となっているから,これも裁判所の審理
・判断の対象事項に含まれる旨主張する(なお,以下において,当事者の
主張として記載するものは,特に注記しない限り,本判決において当事者
の主張として記載したもの及び原判決第二編に記載されている当事者の主
張を合わせて記載するか,若しくは,本判決において当事者の主張として
記載したものであり,原判決第二編にだけ記載されている当事者の主張を
引用するときは,その旨注記する。。)
しかし,原子力発電所の社会的経済的有用性は,規制法24条1項の文
言に照らしても,設置許可処分の要件ではなく,また,同条項各号所定の
許可要件と関連性を有するともいえないのであって,原子炉施設による発
電の必要性はその安全審査の対象とはなっていないというべきである。そ
して,本件訴訟の審理の対象は,規制法24条1項各号所定の許可要件に
適合することについての内閣総理大臣の判断における違法性の有無であり,
しかも,控訴人らは,行訴法10条1項により,控訴人らの個別的な権利
・利益に関係する規制法24条1項3号(技術的能力に係る部分に限
る)及び4号に係る違法事由のみに限り主張することができるのである。
から,原子力発電所の必要性の有無そのものは本件訴訟の審理・判断の対
象とはならないというべきである。
オところで,規制法24条1項3号(技術的能力に係る部分に限る)及。
び4号の要件は極めて抽象的,一般的である上,後記(4)のとおり,原子
炉施設の安全性に関する審査の適合性については,各専門分野の学識経験
者等を擁する原子力委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を尊重
して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねる趣旨と解するのが相当で
ある。そして,規制法23条,24条2項は,同法24条1項各号所定の
許可要件に適合することについての内閣総理大臣の判断が適正になされる
ことを担保するために厳格な手続を定めているというべきであるから,安
全審査手続が適法であってはじめて上記判断の適正が保障されるというこ
とができる。
そうすると,手続上の違法が実体上の違法をもたらさないことが明白で
ない限り,控訴人らは,手続上の違法を主張する利益があるもの解するの
が相当である。それゆえ,被控訴人は,規制法には原子炉施設の周辺住民
に対して原子炉設置許可手続への参加を保障する趣旨の規定がないことか
ら,上記住民は安全審査手続自体に関する利益を個別的に保護されている
とはいえず,安全審査手続の違法は,控訴人らの法律上の利益に関係がな
い旨主張するが,被控訴人の上記主張は採用することができない。
カしたがって,控訴人らが本件訴訟において主張することのできる本件処
分の違法事由は,本件安全審査の手続上の瑕疵(実体上の違法をもたらさ
ないことが明白であるものを除く)並びに規制法24条1項3号のうち。
技術的能力に係る部分及び4号各所定の要件適合性の審査・判断に係る瑕
疵に限られるというべきである。
(2)原子炉設置許可に際しての安全審査の対象事項となるものは何か。
ア規制法は,その規制の対象を,製錬事業(第2章,加工事業(第3)
章,原子炉の設置,運転等(第4章,再処理事業(第5章,核燃料物)))
質等の使用等(第6章,国際規制物質の使用(第6章の2)に分け,そ)
れぞれにつき内閣総理大臣の指定,許可,認可等を受けるべきものとして
いるのであるから,第4章所定の原子炉の設置,運転等に対する規制は,
専ら原子炉設置の許可等の同章所定の事項をその対象とするものであって,
他の各章において規制することとされている事項までもその対象とするも
のではないことは明らかである。
また,規制法第4章の原子炉の設置,運転等に関する規制の内容をみる
と,原子炉の設置の許可,変更の許可(23条ないし26条の2)のほか
に,設計及び工事方法の認可(27条,使用前検査(28条,保安規))
定の認可(37条,定期検査(29条,原子炉の解体の届出(38))
条)等の各規制が定められており,これらの規制が段階的に行われること
とされている(なお,本件原子炉のような発電用原子炉施設について,規
制法73条は27条ないし29条の適用を除外するものとしているが,こ
れは,電事法41条,43条及び47条により,その工事計画の認可,使
用前検査及び定期検査を受けなければならないこととされているからであ
る。。)
したがって,原子炉の設置の許可の段階においては,専ら当該原子炉の
基本設計のみが規制の対象となるのであって,後続の設計及び工事方法の
認可(27条)の段階では規制の対象とされる当該原子炉の具体的な詳細
設計及び工事の方法は規制の対象とはならないものと解すべきである。
イ(ア)もっとも,控訴人らは,原子力発電が火力発電や水力発電と異なる
放射能災害をもたらす潜在的危険性を有するから,原子炉施設近くの住
民の生命・身体等の安全を確保するため,原子炉施設の計画・設計段階
から運転段階まで審査をすべきであるとし,更にJCO事故の教訓に照
らすと,原子炉設置許可に際しての安全審査の対象は,原子炉施設の基
本設計ないし基本的設計方針のみならず,原子炉の具体的な詳細設計や
運転管理並びに廃棄物処理までのすべてが含まれ,総合的に安全性の審
査がなされるべきである旨主張する。
しかし,控訴人らの主張は,原子炉設置許可処分の後続の規制である
工事計画の認可(電事法41条,使用前検査(同法43条,保安規))
定の認可(規制法37条)などの各段階において審査,確認されるべき
詳細設計,あるいは具体的な運転管理に係る事項等に関する事由を原子
炉設置許可に際しての安全審査の対象事項とするものであって,これは,
上記アにみたように原子炉の設置の許可は後続の詳細設計及び工事方法
の認可等とは別個の処分とし,その要件を特定して定めている規制法の
体系に反するものであり,そして,詳細設計や運転管理並びに廃棄物処
理等は,上記のように原子炉設置許可処分である本件処分の要件ではな
いから,控訴人らの上記主張は採用することができない。
また,控訴人らの主張に係るJCO東海事業所は,規制法の第3章所
定の加工事業施設であるから,原子炉設置許可段階の安全審査である本
件安全審査とは安全規制の分野が異なるので,同事業所において生じた
JCO事故は,本件安全審査の対象とは何ら関係がないから,控訴人ら
の上記主張は失当である。
(イ)さらに,控訴人らは,我が国においては固体廃棄物の最終処理技術
も確立していないにもかかわらず,原子力規制として核燃料物質の製錬
から廃棄などの最終処理に至る過程の安全性について的確な審査と規制
手続がないことは,憲法13条の国民の生命・身体への尊重義務に違反
するものであり,憲法31条の法定手続の保障にも違反する旨主張する。
しかしながら,原子炉設置許可申請書の提出に当たっては,規制法2
3条2項8号所定の使用燃料の処分の方法について「その売渡,貸付,
返還等の相手方及びその方法又はその廃棄の方法」を記載し(原子炉規
則1条の2第1項5「核燃料物質及び核燃料物質によって汚染され),
た物による放射線の被曝管理並びに放射性廃棄物の廃棄に関する説明
書」を添付すること(原子炉規則2条9号)等と規定されている上,内
閣総理大臣の安全審査に際しては,規制法23条,24条により原子炉
設置許可申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備の安全性に関する
審査の適正を確保するため,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力
委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を聴き,これを尊重する
という,慎重な手続が法律で定められているから,その安全審査の合理
性を十分首肯し得るものである。そして,上記アにみた規制法の構造に
照らすと,原子炉設置の許可は,原子炉の設置,運転に関する一連の規
制の最初に行われる重要な行政処分であり,原子炉設置許可の段階で当
該原子炉の基本設計における安全性が確認されることは,後続の各規制
の当然の前提となるものであるから,原子炉設置許可の段階における安
全審査の対象の範囲を上記アのように解したからといって,上記安全審
査の意義,重要性を何ら減ずるものではないというべきである(最高裁
判所昭和60年(行ツ)第133号平成4年10月29日第一小法廷判
決・民集46巻7号1174頁(伊方原発最高裁判決,同平成2年)
(行ツ)第147号平成4年10月29日第一小法廷判決・訟務月報3
9巻8号1563頁(福島第二原発最高裁判決)等参照。)
そうすると,控訴人らの上記主張はその前提を欠くものであり理由が
ない。
ウしたがって,原子炉設置の許可の段階の安全審査においては,当該原子
炉施設の安全性にかかわる事項のすべてをその対象とするものではなく,
その基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解する
のが相当である。
(3)変更許可処分と本件訴訟における審理・判断の対象について
本件処分後の本件各変更許可処分の違法事由は本件訴訟における審理・判
断の対象となるか否か。
ア上記前提となる事実のとおり,本件原子炉施設については本件各変更許
可処分がなされているところである。
イ規制法26条1項によれば,原子炉設置者は,同法23条2項2号から
5号まで及び8号に掲げる事項を変更しようとするときは,主務大臣の許
可を受けなければならないと定めており,同法26条4項によれば,変更
許可処分に当たっては,許可処分への適合性を改めて審査するものとされ
ている。そして,同法23条2項3号は,原子炉の型式,熱出力及び基数,
同項4号は,原子炉を設置する工場又は事業所の名称及び所在地,同項5
号は原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備,同項8号は使用済燃
料の処分の方法を掲げている(ただし,変更許可処分においては,同項4
号については,工場又は事業所の名称のみを変更しようとする場合を除
く。このように,同一の原子炉施設の場合を含み,原子炉設置者が同。)
法23条2項2号から5号まで及び8号に掲げる事項を変更しようとする
ときは,当初の原子炉設置許可処分そのもののを変更する処分ではなく,
これとは別個の新たな変更許可処分を受けるべきものとされているから,
当初の設置許可処分とその後の変更許可処分とはいずれも別個の行政処分
であることは明らかである。そして,変更許可処分は,原子炉設置者に対
し,変更許可された事項を設置することができる法的地位を付与するが,
これを超えて当初の設置許可処分自体の効力を一部取り消しあるいは変更
する効力を有するものではなく,それゆえ,変更許可処分がなされても,
当初の設置許可処分は,そのままの効力を維持するものと解される。
したがって,当初の設置許可処分である本件処分の取消訴訟の継続中に,
複数の変更許可処分がなされたとしても,これら処分は,それぞれ別個の
処分であるから,変更許可処分の内容を設置許可処分の内容と実質的に同
一視し得る等の特段の事情がない限り,たとえ後になされた変更許可処分
に瑕疵があったとしても,これが遡って本件処分の違法事由になることは
あり得ないのであり,それゆえ,変更許可処分の違法事由は,上記のよう
な特段の事情がない限り,本件訴訟における審理・判断の対象にならない
ものである。
ウ(ア)もっとも,控訴人らは,原子炉施設の安全性については,その施設
全体を総合的に評価して判断すべきものであるとし,原子炉設置許可後
も度々変更許可処分がなされているので,変更された従来の燃料集合体
も審査対象とならないとすれば,その時点で当該原子炉についての安全
性は具体的にはおよそ評価できなくなってしまうから,原子炉設置許可
処分の取消訴訟においても,変更許可処分の違法事由を審理・判断でき
る旨主張する。
しかしながら,本件訴訟は,本件原子炉の設置許可処分の取消訴訟で
あるから,審理・判断の対象になるのは,本件処分が法的に本件原子炉
設置の許可要件を充たしているかどうかであり,安全審査の対象事項に
なるのも,本件原子炉の基本設計のみであって,後続の段階で規制の対
象とされる本件原子炉の具体的な詳細設計や工事の方法等は対象とはな
らないものである。それゆえ,本件処分の取消訴訟は,本件原子炉が現
実に建設され稼働する以前においても,提起することができるものであ
り,その訴訟においては,本件原子炉の基本設計が適法であるか否かが
審理・判断の対象となるものである。したがって,本件訴訟の係属中に
複数の変更許可処分がなされ,変更許可処分に基づいて設備等が変更さ
れた結果現実に稼働している原子炉としては,その型式,熱出力等に変
更が生じたとしても,これによって本件訴訟の上記のような対象が変わ
るものではない。
そして,各変更許可処分は,それぞれ独立の行政処分であり,控訴人
らは,これに対してそれぞれ独立の取消訴訟を提起することができたの
であるから,本件訴訟において,各変更許可処分の違法事由を主張でき
ないからといって,控訴人らの権利保護に欠けるところがあるとはいえ
ない。
ちなみに,控訴人らが本件訴訟において変更許可処分の違法事由も主
張し得るとすれば,行訴法上,変更許可処分があったときは,その都度
変更許可処分に対する取消訴訟を提起することが可能であるから,原子
炉設置許可処分の取消訴訟と別途提起される変更許可処分の取消訴訟の
各審理が重複し,判断に矛盾抵触が生じるおそれがあるということがで
きる。また,変更許可処分の取消訴訟を提起しなくとも,変更許可処分
がなされるたびに,当初の原子炉設置許可処分の取消訴訟において,変
更許可処分の違法事由を追加して主張することができるとすると,同取
消訴訟の審理が長期化し,その審理が錯綜するおそれがあるだけでなく,
変更許可処分に対する取消訴訟の提起については行訴法14条が出訴期
間を定めた趣旨を没却することになる。したがって,本件訴訟において
控訴人らが変更許可処分の違法事由も主張し得るとする見解は,以上の
ような理由からも採用することができない。
(イ)また,控訴人らは,①当初の原子炉設置許可処分に対する取消訴訟
の係属中に変更許可処分があった場合は,当該施設に係る当初の原子炉
設置許可処分の内容の変更を目的とする処分であるから,この変更許可
処分に基づく当該施設の変更が現実に実施された以上,実体的には,両
処分を一体的なものとして取り扱うべきであること,②原子炉施設にお
いてはその施設,設備の各部分が相互に補完しあって機能しているので,
変更後の施設,設備を除いてその原子炉施設の安全性の有無を判断する
ことはできないこと,③少なくとも原子炉施設の安全性の問題に関して
は,後の変更許可処分によって変更を許可された後の内容が,そのまま
当該施設に係る原子炉設置許可処分の処分内容となる,つまり変更許可
処分によって内容を変更された原子炉設置許可処分が全体として存続し,
原子炉の設置,運転の法的根拠は(変更許可処分によって内容を変更さ
れた)原子炉設置許可処分に一元化されていることなどから,変更許可
処分の違法事由も原子炉設置許可処分の取消訴訟で主張できると主張す
る。
しかしながら,上記のように,本件訴訟において審理・判断の対象に
なるのは,本件処分が法的に本件原子炉設置の許可要件を充たしている
かどうかであり,安全審査の対象事項になるのも,本件原子炉の基本設
計のみであって,その後の施設,設備の変更は審理・判断の対象となら
ないから,控訴人らの上記主張は採用することができない。ちなみに,
規制法26条1項本文,23条2項3号によると,単一の工場又は事業
所に設置される原子炉の基数を変更しようとするときも変更許可の申請
をすべきものとされているので,単一の工場又は事業所において,既に
1基の原子炉のみが設置されているときにその基数を増設する場合も,
増設炉について新たに設置許可処分を受けるのではなく,変更許可処分
を受けるべきであり,その際,同法26条4項により原子炉設置許可に
関する同法24条の規定が準用されるので,原子炉の使用の目的,型式,
熱出力等のほか,原子炉施設の位置,構造及び設備,工事計画,原子炉
に燃料として使用する核燃料物質の種類及びその年間予定使用量,ある
いは使用済燃料の処分の方法等について,改めてその許可基準への適合
性が審査されるから,このような場合には,変更許可処分が新たな行政
処分であることは一層明らかであるということができる。また,変更許
可処分後において,仮に,当該原子炉施設が全体として安全性を欠くに
至っていると判断される場合は,変更許可処分後の事後的な事情の発生
によってそれ以後安全性を欠く状態が現出したとみることができるから,
変更許可処分に関する違法事由を構成するものであって,既存の原子炉
設置許可処分に関する違法事由を構成することはないというべきである。
以上のように,変更許可処分の違法事由は,原子炉設置許可処分に対
する取消訴訟においては審理・判断の対象とはならないというべきであ
るから,控訴人らの上記主張は採用することができない。
(ウ)次に,控訴人らは,原子炉設置許可処分が原子炉の設置,運転に関
する許認可の中で冒頭に位置し,唯一専門家で構成される当時の原子力
委員会が安全審査を行う,最も重要な手続であって,この手続で審査さ
れる原子炉施設の安全性は,その施設全体を総合的に評価して判断すべ
きところ,とりわけ事故時の安全性において極めて重要な燃料棒が損傷
するか否かという点の判断は燃料棒の発熱特性,形状,核的特性が決ま
らなければ評価ができないというべきであるが,変更許可処分により燃
料集合体そのものの変更が多数回なされているので,変更された従来の
燃料集合体が審査対象とならないとすれば,その時点で当該原子炉につ
いての安全性は具体的にはおよそ評価できなくなってしまうから,原子
炉設置許可処分の取消訴訟においても,変更許可処分の違法事由を審理
・判断できる旨主張する。
しかし,上記イのとおり,変更許可処分によって原子炉設置許可処分
の効力の消滅,変更等をもたらすものではないから,たとえ変更許可処
分により燃料集合体の変更が多数回なされているとしても,変更された
従来の燃料集合体に関する原子炉設置許可処分の効力に影響はないので,
変更許可処分により変更された燃料集合体に関する違法事由は,本件処
分の違法事由とならないものというべきである。
(エ)さらに,控訴人らは,規制法においては,変更許可処分後において
事業者に重大な違法事由があって許可処分の取消しをする場合にも原子
炉設置許可処分のみが取り消されるので(規制法33条2項,変更許)
可処分後の原子炉施設の安全性の有無については,当初の原子炉設置許
可処分に対する取消訴訟でも審理・判断の対象となる旨主張する。
しかし,原子炉の設置許可の要件は,規制法24条に定められており,
その許可処分がなされ,更に変更許可処分がなされた後に同変更許可処
分を取り消す場合の要件は全く別であるから,後者に関する規定によっ
て原子炉設置許可処分の取消訴訟における審理・判断の対象を定めるこ
とはできない。
エ以上のとおり,本件各変更許可処分は,本件処分とは別個の行政処分で
あり,そして,本件各変更許可処分の内容を設置許可処分である本件処分
の内容と実質的に同一視し得る等の特段の事情があると認め得る証拠はな
いから,本件各変更許可処分の違法事由は,これら変更許可処分に対する
取消訴訟において審理・判断の対象となるとしても,本件訴訟における審
理・判断の対象とはならないものというべきである。
もっとも,後記(4)のとおり,原子炉施設の安全性に関する判断の適否
が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟においては「現在の科学技術,
水準」に照らし,裁判所の審理・判断がなされるべきであるから,変更許
可処分に基づく一定の変更が現実に実施された特定の原子炉施設の安全性
の問題については,当該原子炉施設の設備の各部分が相互に補完しあって
機能しているので,その変更後の施設,設備を除いてその安全性の有無を
判断することはできないなどの事情がある場合には,上記「現在の科学技
術水準」及びその適合性に関する主張・立証のために,変更許可処分に係
る安全審査の内容,科学的知見及びその資料等を用いることは許されると
いうべきである。
(4)本件処分の専門技術性とその司法審査の方法について
ア上記(1)のとおり,原子炉を設置しようとする者は,内閣総理大臣の許
可を受けなければならないものとされており(規制法23条1項,内閣)
総理大臣は,原子炉設置の許可申請が,同法24条1項各号に適合してい
ると認めるときでなければ許可してはならず(同条1項,上記許可をす)
る場合においては,上記各号に規定する基準の適用については,あらかじ
め核燃料物質及び原子炉に関する規制に関すること等を所掌事務とする原
子力委員会の意見を聴き,これを尊重してしなければならないものとされ
ており(同条2項,原子力委員会には,学識経験者及び関係行政機関の)
職員で組織される原子炉安全専門審査会が置かれ,原子炉の安全性に関す
る事項の調査審議に当たるものとされている(設置法14条の2,3。)
また,規制法24条1項3号は,原子炉を設置しようとする者が原子炉
を設置するために必要な技術的能力及びその運転を適確に遂行するに足り
る技術的能力を有するか否かにつき,同項4号は,当該申請に係る原子炉
施設の位置,構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む,核燃料。)
物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む)又は原子炉によ。
る災害の防止上支障がないものであるか否かにつき,審査を行うべきもの
と定めている。原子炉設置許可の基準として,上記のように定められた趣
旨は,上記のように,原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを
放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり,その稼働により,
内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって,原子炉
を設置しようとする者が原子炉の設置,運転につき所定の技術的能力を欠
くとき,又は原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設
の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環
境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがある
ことにかんがみ,上記災害が万が一にも起こらないようにするため,原子
炉設置許可の段階で,原子炉を設置しようとする者の上記技術的能力並び
に申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備の安全性につき,科学的,
専門技術的見地から,十分な審査を行わせることにあるものと解される。
イ上記技術的能力を含めた原子炉施設の安全性に関する審査は,当該原子
炉施設そのものの工学的安全性,平常運転時における従業員,周辺住民及
び周辺環境への放射線の影響,事故時における周辺地域への影響等を,原
子炉設置予定地の地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的
条件及び当該原子炉設置者の上記技術的能力との関連において,多角的,
総合的見地から検討するものであり,しかも,上記審査の対象には,将来
の予測に係る事項も含まれているのであって,上記審査においては,原子
力工学はもとより,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術
的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかである。
そして,規制法24条2項が,内閣総理大臣は,原子炉設置の許可をする
場合においては,同条1項3号(技術的能力に係る部分に限る)及び4。
号所定の基準の適用について,あらかじめ原子力委員会の意見を聴き,こ
れを尊重してしなければならないと定めているのは,上記のような原子炉
施設の安全性に関する審査の特質を考慮し,上記各号所定の基準の適合性
については,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的,
専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断
にゆだねる趣旨と解するのが相当である。
そして,どのような事項が原子炉設置の許可の段階における安全審査の
対象となるべき当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項に該当
するのかという点も,上記各号所定の基準の適合性についての内閣総理大
臣の合理的な判断を構成するものとして,同様に原子力安全委員会の意見
を十分に尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねられていると
解するのが相当である。
ウ以上の点を考慮すると,上記原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争
われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理・判断は,原子
力委員会若しくは安全審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてさ
れた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべ
きであって,現在の科学技術水準に照らし,上記調査審議において用いられ
た具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該原子炉施設が上記具体
的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは安全審査会の調査審議及
び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,被告行政庁の判断がこれに依
拠してされたと認められる場合には,被告行政庁の上記判断に不合理な点が
あるものとして,上記判断に基づく原子炉設置許可処分は違法であると解さ
れる。
そして,原子炉設置許可処分についての上記取消訴訟においては,同許可
処分が上記のような性質を有することにかんがみると,被告行政庁がした上
記判断に不合理な点があることの主張・立証責任は,本来,原告が負うべき
ものと解されるが,当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行
政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると,被告行政庁の側におい
て,まず,その依拠した上記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過
程等,被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠,資料に基づ
き主張・立証する必要があり,被告行政庁が上記主張・立証を尽くさない場
合には,被告行政庁がした上記判断に不合理な点があることが事実上推認さ
れるものというべきである。
エもっとも,控訴人らは,地球的規模の災害及び原子炉施設の周辺住民らで
ある控訴人らの災禍を防止するためには,その最終的かつ有効な規制は,司
法審査以外にはないから,内閣総理大臣の規制法適合性の判断は最終的にそ
の裁量にゆだねられるものではなく,また,原子炉施設については絶対的な
安全性が確保されるべきであって,その安全性は専門技術的な検討によって
一義的に定まるというべきであるから,司法審査の対象は,原子力委員会若
しくは安全審査会の審査基準や審査過程の「看過し難い過誤,欠落」がある
か否かという消極的な姿勢ではなく,審査基準や審査過程の合理性であり,
内閣総理大臣の原子炉設置許可処分の適法性そのものであるとして,裁判所
は,規制法24条1項各号の適合性について改めて独自の審理を行い,その
結果に基づく裁判所自らの判断と対比して直接その適否を決する実体的判断
をすべきである旨主張する。
確かに人の生命,身体の安全は,最大限の尊重を必要とするけれども,現
代社会において,科学技術を利用した装置等は,絶対に安全というものはな
く,常に何らかの危険性を有しているが,その危険性が社会通念上容認でき
る水準以下である場合,又はその危険性の相当程度が人間によって管理でき
ると考えられる場合に,その危険性の程度と科学技術の利用により得られる
利益の大きさとの比較考慮の上で,上記装置等を一応安全なものとして利用
してきている。そして,原子炉施設についてもこのような相対的安全性の考
え方を適用することが許されないものではなく,規制法24条の規定も,こ
のような相対的安全性の考え方を採用していると解され,原子炉の安全性判
断の手続・方法としては,上記のように原子炉の安全性については多方面に
わたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必
要であることから,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学
的,専門的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的判断にゆ
だねたものと解されるので,原子炉設置許可処分の取消訴訟においては,裁
判所の審理・判断の対象は,このようにしてされた内閣総理大臣の判断に不
合理な点があるか否かであるというべきである。したがって,控訴人らの上
記主張は採用することができない。
(5)控訴人らの主張する温排水の熱的影響,固体廃棄物の最終処分,使用済
燃料の再処理,輸送及び最終処分,廃炉,労働者被ばく並びに防災計画に関
する違法事由は,司法審査の対象となるか否か。
ア温排水の熱的影響に関する主張について
控訴人らは,本件処分において,温排水について審査されなかったのは
違法である旨主張するが(原判決第二編第一章第五節第三,温排水自体)
は,火力発電所の発電設備など蒸気等を冷却するために水を使用する設備
からは常に排出されるものであって,その熱的影響等の問題は,原子炉施
設固有の問題ではなく,そもそも原子力の利用に係る固有の事項を規制の
対象としている規制法においてはその対象とされないものであり,したが
って,本件訴訟における審理,判断の対象とはならないから,控訴人らの
上記主張は失当である。
イ固体廃棄物の最終処分に関する主張について
控訴人らは,本件処分において,本件原子炉の運転に伴って発生する固
体廃棄物の最終処分について審査されなかったのは,規制法24条1項2
号及び4号要件に違反する旨主張するが(原判決第二編第一章第六節第二
),款第一の三,同項2号の要件は,控訴人らの法律上の利益に関係がなく
また,固体廃棄物に係る安全性に関する事項については,原子炉設置許可
に際しての安全審査において,固体廃棄物の当該原子炉施設の敷地内にお
ける廃棄設備の構造等が災害防止上支障がないものかどうか等,原子炉施
設における基本設計の安全性に関係のある事項が,同項4号の許可要件に
適合するかどうかの観点から上記審査の対象となるにとどまるものであっ
て,固体廃棄物の最終処分に係る安全性の問題は上記審査の対象に含まれ
るものではないから,控訴人らの上記主張は理由がない。
ウ使用済燃料の再処理,輸送及び最終処分に関する主張について
控訴人らは,本件処分において,使用済燃料の再処理,輸送及び最終処
分について審査されなかったのは,規制法24条1項2号及び4号要件に
),違反する旨主張するが(原判決第二編第一章第六節第二款第一の四,五
同2号の要件は,控訴人らの法律上の利益に関係がないものであり,また,
使用済燃料に係る安全性に関する事項については,原子炉設置許可に際し
ての安全審査において,使用済燃料の当該原子炉施設の敷地内における貯
蔵設備の構造等が災害防止上支障がないものかどうか等,原子炉施設にお
ける基本設計の安全性に関係のある事項が,同項4号の許可要件に適合す
るかどうかの観点から上記審査の対象となるにとどまり,使用済燃料の再
処理,輸送及び最終処分に係る安全性の問題は上記審査の対象に含まれる
ものではないから,控訴人らの上記主張は採用することができない。
エ廃炉に関する主張について
控訴人らは,本件処分において,廃炉について審査されなかったのは,
規制法24条1項2号及び4号要件に違反する旨主張するが(原判決第二
編第一章第六節第二款第一の六,同項2号の要件は,控訴人らの法律上)
の利益に関係がないものであり,また,廃炉に係る安全性に関する事項は,
原子炉設置許可に際しての安全審査の対象となる事項とされておらず,別
途,規制法38条,65条,66条等によって規制されることとされてい
るから,控訴人らの上記主張は理由がない。
オ労働者被ばくに関する主張について
控訴人らは,本件処分に際し,原発従事者の被ばくについて審査しなか
ったのは違法である旨主張するが(原判決第二編第一章第六節第二款第一
の七,労働者被ばくに関する問題は,本件原子炉施設の周辺住民である)
と主張するにとどまる控訴人ら自らの法律上の利益に関係のない事項であ
るから,控訴人らの上記主張は失当である。
カ防災計画に関する主張について
控訴人らは,本件処分に際し,防災計画について審査しなかったのは違
法である旨主張するが(原判決第二編第一章第六節第二款第五,防災対)
策に関係する事項は,原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項では
ないから,本件原子炉設置許可に際しての安全審査の対象ではないので,
控訴人らの上記主張は失当である。
2本件処分の手続的違法性の有無について
(1)本件処分の手続について
上記前提となる事実によると,本件処分は,本件安全審査を含めて,設置
法,規制法等の法定の手続にのっとり行われたものであると認められる。
(2)本件安全審査手続における構造的瑕疵の有無について
ア安全審査の手続規定に不備,不明確の瑕疵があるか否か。
(ア)控訴人らは,行政手続が刑事手続と性質上差異があるとしても,憲
法31条の適正手続の要請は行政手続においても民主的統制の必要から
広く適用されるべきであって,行政手続法に照らすと,行政手続に対す
る民主的統制の必要性は高いというべきところ,原子炉施設の周辺住民
の同意手続はともかくとして,規制法等においては原子炉設置許可申請
書やその添付書類の事前公開手続は定められておらず,公聴会の開催す
ら保障されていないので,このような安全審査手続によっては判断の公
正さや正確さを保てることはできないから,規制法等の原子炉施設設置
許可手続に関する規定は憲法31条に違反するものであり,また,住民
の参加手続と資料や議事録の公開手続規定もなく,原子炉設置許可の公
正を担保する厳格かつ適正な法律上の手続規定もないまま本件安全審査
が行われているから,本件処分も憲法31条に違反する旨主張する。
しかし,行政手続につき憲法31条による保障が及ぶと解すべき場合
であっても,行政手続は刑事手続とその性質においておのずから差異が
あり,また,行政目的に応じて多種多様であるから,常に必ず行政処分
の相手方等に事前の告知,弁解,防御の機会を与えるなどの一定の手続
を設けることを必要とするものではないと解するのが相当である。
そこで,本件処分に関して検討すると,上記1(4)のように,原子炉
設置の安全性の審査に当たっては,多方面にわたる極めて高度な最新の
科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるところ,規
制法及び設置法は,原子力発電所の設置規制手続について具体的に規定
し,原子炉の安全性については多数の専門家をもって組織される安全審
査会において,各審査委員の専門分野の専門技術的知見に基づくだけで
なく,安全審査会の審議・決定を通じて総合的見地からの検討・判断が
行われ,その結果報告に基づいて原子力委員会が意見を述べ,これを尊
重して内閣総理大臣が最終的に判断することとしており,このように原
子炉設置許可の段階で,原子炉を設置しようとする者の技術的能力並び
に申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備の安全性につき,科学的,
専門技術的見地から,十分な審査が行われるように規定されている。す
ると,このような規制によって,原子炉設置許可処分をするに当たり判
断の公正さが十分担保されるといえるから,安全審査の手続規定が不備,
不明確であるということはできない。
(イ)以上にかんがみると,基本法及び規制法が,原子炉設置予定地の周
辺住民を原子炉設置許可手続に参加させる手続及び設置の申請書等の公
開に関する定めを置いていないからといって,その一事をもって,上記
各法が憲法31条の法意に反するものとはいえず,また,本件処分に際
し,周辺住民である控訴人らに安全審査の議事録及び資料が公開されず,
適正手続の保障としての公聴会,告知・聴聞の手続が開催されなかった
ことが,同条の法意に反するものではないというべきであり(伊方原発
最高裁判決参照,なお,これらが行政手続法の趣旨に反するともいえ)
ないから,控訴人らの上記主張は理由がない。
イ安全審査に係る技術的基準等が不合理,不明確であるか否か。
(ア)控訴人らは,原子炉設置許可基準や安全審査基準は,安全審査その
ものを左右しその決め手になる重要な事項であるので,可能な限り明確
化され,法律で定めるべきであるから,原子炉の安全審査について必要
不可欠な事項(審査対象,審査項目等)と,それぞれの審査事項の審査
や検討に用いる技術や資料等の範囲,及びそれらの水準ないし精度,専
門家の見解や分析結果等が分かれているときの選択基準や取扱方法,基
準を改定し,変更する場合の手続等は,法律の委任もなくこれが被告行
政庁の裁量にゆだねられる根拠はないところ,規制法24条1項4号の
規定の仕方は極めて抽象的であって,安全性に係る具体的な事項の審査
基準をこれに求めることは困難であり,更に実際の安全審査に用いられ
ている立地審査指針,ECCS安全評価指針,線量目標値指針,線量目
標値評価指針,安全設計審査指針,気象指針等の安全審査の基準は,単
なる行政内部の内規にすぎず,そのときどきの情勢によって容易に変え
られ,しかもその内容や水準が明瞭にして高度であるとはいえず,この
ような不合理,不明確な基準によりなされた安全審査の手続には重大な
瑕疵があるから,規制法等の原子炉設置許可手続に関する手続規定は憲
法31条,41条,73条,81条に違反する旨主張する。
しかし,規制法24条1項4号は,原子炉設置許可の基準として,原
子炉施設の位置,構造及び設置が核燃料物質(使用済核燃料を含む,。)
核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む)又は原。
子炉による災害の防止上支障がないものであることと規定しているが,
それは,原子炉施設の安全性に関係する審査が,多方面にわたる極めて
高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づいてされる必要がある上,
科学技術は不断に進歩,発展しているため,原子炉施設の安全性に関す
る基準を具体的かつ詳細に法律で定めることは困難であるのみならず,
最新の科学技術水準への即応性の観点からみて適当ではないとの見解に
基づくものと考えられ,上記見解は十分首肯し得るところである。
そして,上記1(4)ア及びイのとおり,規制法24条1項3号(技術
的能力に係る部分に限る)及び4号の要件適合性の判断については,。
内閣総理大臣の専門技術的判断にゆだねているから,具体的審査基準を
定めてその適合性を判断する方法を採用するか,又はこのような基準を
定めないで各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的,
専門技術的判断にゆだねる方法を採用するか,あるいはこのような基準
を定めるとしても,どの程度具体的かつ詳細なものとするかなどの事項
についても,内閣総理大臣ないし原子力委員会・安全審査会が自ら判断
して決定すべき事柄であると解するのが相当である。
(イ)そうすると,実際の安全審査に用いられている立地審査指針,EC
CS安全評価指針,線量目標値指針,線量目標値評価指針,安全設計審
査指針,気象指針等の安全審査の基準が,行政内部の内規にすぎないと
しても,これをもって,規制法等の原子炉設置許可手続に関する手続規
定が直ちに憲法31条,41条,73条,81条に違反するものという
ことはできない。なお,本件安全審査における具体的審査基準に不合理
な点があるといえないことは後記6(2)ないし(6)のとおりである。
,しかも,上記1(4)ア及びイのとおり,原子炉設置許可に当たっては
その申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備の安全性に関する審査
の適正を確保するため,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員
会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を聴き,これを尊重するとい
う,慎重な手続が定められていることを考慮すると,規制法等の原子炉
設置許可手続に関する手続規定が不合理,不明確であるとの非難は当た
らないというべきであるから,控訴人らの上記主張は失当である。
ウ本件安全審査は,法律上の根拠に基づくものであるか否か。
控訴人らは,本件処分は,法律又はその委任に基づいて定められたもの
ではない原子炉施設の安全性に関する立地審査指針,ECCS安全評価指
針,線量目標値指針,線量目標値評価指針,安全設計審査指針,気象指針
等の安全審査の基準を用いた本件安全審査に依拠してされたものであるか
ら,権力分立の原則を定めた憲法41条,73条,81条に違反する旨主
張する。
しかし,上記立地審査指針等は,あくまで内部的な指針であり,一般に
行政庁がある行政処分に関し法的に何ら拘束力を有しない内部的な基準や
指針を定めても,これが直ちに違法となるものではない。したがって,原
子力委員会あるいは安全審査会が本件安全審査に当たりこれら指針を参考
にしたとしても,本件処分が憲法41条,73条,81条に違反するとは
いえない。
エ本件安全審査は,いわゆる原子力三原則に違反するか否か。
(ア)控訴人らは,本件安全審査について,第120部会の審査が秘密裡
に行われ,その議事録も公開されないで公聴会もなく,殊に原子力委員
会の委員及び安全審査会の審査委員は,政府が原子力発電所の建設に積
極的に賛成する学者等を恣意的に選出しており,学術会議や学会からの
推薦という形式を採っておらず,原発建設に慎重な,あるいは批判的な
姿勢を持つ学者は1人も審査委員に任命されていないなど原子力委員会
の委員及び安全審査会の審査委員の人選は不公正であって,原子力委員
会はほぼ完全に政府の支配下にあるというべきであるので,本件安全審
査を適切かつ公平に行う審査体制があったとはいえないから,基本法2
条に定める「民主「自主「公開」の原子力三原則に違反する旨主」,」,
張する。
そこで,基本法を検討すると,同法は,原子力の研究,開発及び利用
を推進することによって,将来におけるエネルギー資源を確保し,学術
の進歩と産業の振興とを図り,もって人類社会の福祉と国民生活の水準
向上とに寄与することを目的とし(同法1条,原子力の研究,開発及)
び利用は平和の目的に限り,民主的な運営の下に,自主的にこれを行う
ものとし,その成果を公開し,進んで国際協力に資するものとすること
とし(同法2条,このようにその基本方針を明らかにしている。そし)
て,基本法は「原子炉を建設しようとする者は,別に法律で定めると,
ころにより政府の行う規制に従わなければならない(14条前段)。」
と規定しているから,上記基本方針は,原子炉の設置にも妥当すべきも
のであるが,具体的な法的規制についてはすべて別に制定された規制法
等及びその下位法令の定める手続にゆだねられているので,上記基本方
針もこれらの法律等を通じて実現されるべきことが予定されているにと
どまり,基本法が,これらの法律等をとおさずに,原子力の研究,開発
及び利用に関して直接国民の権利義務に影響を及ぼしたり,国民と国家
との間の具体的な法律関係を形成するものではないと解するのが相当で
ある。
(イ)そこで,上記基本方針のうち民主の原則についてみるに,上記前提
となる事実によると,基本法は,原子力委員会を置くことを定め(同法
4条,原子力の研究,開発及び利用に関する事項について企画し,審)
議し,及び決定することを規定しているところ(同法5条,原子力委)
員会の委員は,両議院の同意を得て,内閣総理大臣が任命するとされ
(設置法8条1項,安全審査会の審査委員は,学識経験のある者及び)
関係行政機関の職員のうちから,内閣総理大臣が任命するとされ(同法
14条の3第2項,他方,内閣総理大臣は,原子炉設置許可処分をす)
る場合においては,規制法24条1項各号に規定する基準の適用につい
て原子力委員会の意見を聴き,これを尊重しなければならないことが同
条2項に規定されているから,民主の原則は原子炉設置許可手続におい
ては,このような形で実現されているというべきである。そして,原子
力委員会の委員には身分保障(設置法10条2項)があり,内閣総理大
臣は原子力委員会の決定を尊重しなければならないとされていることに
照らすと,原子力委員会が政府の支配下にあったと断ずることはできず,
また,本件全証拠によっても,個々の原子力委員,審査委員が原子力発
電所の建設を積極的に推進することだけを考え,その学問的あるいは専
門的知識に基づいた真摯な安全審査を行わなかったと認めることはでき
ない。
また,上記基本方針のうち自主の原則は,我が国が他国の支配や干渉
を受けずに自主的に研究等を行うべきことを宣言したもので,原子炉設
置許可処分においては,安全審査の手続や原子力委員会の構成等により
おのずから実現されるものと予定されているだけで,特段の具体的な手
続規定が設けられていると解すべき根拠はない。
さらに,上記基本方針のうち公開の原則は,原子力の研究等の成果に
ついてであって,原子炉の設置許可処分をするに当たりその審査手続ま
で公開することを含んでいないことは明らかであり,また,規制法等に
おいて安全審査の手続を逐一公開すべきことや公聴会を開催すべきこと
までが規定されていると解すべき根拠はない。
(ウ)以上のとおり,上記原子力三原則は,原子力の平和利用を担保しよ
うとするものであり,原子力の平和利用方法である発電用原子炉の設置
許可手続を直接規制するものではないから,控訴人らの上記主張は理由
がない。
オ本件安全審査における審査体制が不備であるか否か。
控訴人らは,我が国の原子力委員会やその下部機関である安全審査会,
それらの事務局である科学技術庁原子力局規制課には,実質的な安全審査
を実施できる人員も,施設・設備も,予算もないのが実態であり,また,
審査委員は,いずれも大学教授等他に本職を持つ非常勤の委員で構成され
ており,安全審査に専念できる体制になっていないことなどから,本件安
全審査における審査体制では,本件原子炉施設の安全性を実質的に審査す
ることが極めて困難であった旨主張する。
しかし,上記前提となる事実のとおり,本件安全審査は,原子炉工学,
核燃料工学,熱工学,放射線物理学,地震学,気象学等のそれぞれの分野
における専門家である審査委員30名及び調査委員28名により構成され
た本件安全審査会によって,昭和50年5月23日から同52年8月12
日まで合計26回にわたり開催されていること,安全審査会は,第120
部会を設置し,更にこれをAないしCの3つのグループに分け,同50年
6月10日から同52年8月2日までの間に,全体会合が7回,Aグルー
プ会合が39回,Bグループ会合が11回,Cグループ会合が20回,A
・Bグループ会合が2回,それぞれ開催されていることが認められる。
そうすると,我が国の原子力委員会やその下部機関である安全審査会,
それらの事務局である科学技術庁原子力局規制課に実質的安全審査を実施
できる相応の人員,施設・設備及び予算を有していたと推認することがで
き,これを左右するに足りる証拠はない。そして,審査委員が非常勤とさ
れているのは,できるだけ広い分野にわたり高度な専門技術的知見を有す
る優秀な人材を審査委員に採用することを可能とするためとも考えられ,
審査委員が非常勤であることが直ちに審査の不十分さを招くともいえず,
これを認めるに足りる証拠もない。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
カ部会による安全審査は違法か否か。
控訴人らは,安全審査会において必要的機関でも常設的機関でもない第
120部会が設置された上,本件原子炉に係る実質的な安全審査が,同部
会や,更に同部会内にA,B及びCの3グループにおいて実施されたのは
行政の責任転嫁であり,極めて危険な安全審査手続である旨主張する。
しかし,上記前提となる事実によれば,安全審査会に,その所掌事務を
分掌させるために部会を置くことができるとされており(昭和51年7月
),13日原子力委員会決定による改正前の安全審査会運営規程7条,8条
部会は,安全審査会から審査方針,審査事項等の指示を受けて,調査審議
を行い,その過程において適宜,審査状況を安全審査会に報告し,安全審
査会の審議に付するものであって,最終的な調査審議結果を部会報告にま
とめて安全審査会に報告することになっていたのであるから,これは,調
査審議を適切かつ効率的に行うための方策と考えられ,しかも同部会のみ
が実質的な審査をなし,本件安全審査会の安全審査が形骸化していたと認
め得る証拠はないから,控訴人らの上記主張は理由がない。
キ合同審査による安全審査手続は違法か否か。
(ア)控訴人らは,第120部会が原発推進の急先鋒である通産省原子力
発電技術顧問会と合同で審査を行っているので,安全審査の技術基準の
あいまいさも加わって,馴れ合い的な安全審査が行われてきた可能性を
否定できず,また,科学技術庁原子力局の局長ら職員が毎回多数,安全
審査会や部会に出席し,事実上審査をリードしたのであるから,このよ
うに他の機関の実質上の関与によってなされた報告書等は,信用性を欠
如しており,本件安全審査は違法である旨主張する。
そして,証拠(甲68,乙4)及び弁論の全趣旨によれば,昭和50
年5月23日に開催された第137回安全審査会において,第120部
会が設置されると共に,審議は,通産省原子力発電技術顧問会と合同で
行う旨決定されたことが認められる。
しかし,証拠(乙4,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣
旨によると,①原子力発電技術顧問会は,昭和40年11月の通産省省
議決定により,規制法71条に基づく内閣総理大臣への同意,通産大臣
の電事法上の原子力発電に係る許認可等に際し,当該原子炉を含む電気
工作物全体の安全性に関する技術的事項について諮問するため,通産大
臣の諮問機関として設置されたこと,②このため同顧問会の審査と安全
審査会(又はその部会)における審査は,両審査が密接な関連を有し,
審査の効率化に資するため,合同で審査を行うことが慣例であったこと,
③本件安全審査の審査委員の多くが同顧問会の会員を兼ねていたことが
認められる。
上記認定事実によると,第120部会と通産省原子力発電技術顧問会
は,いずれも原子炉の安全性に係る専門技術的事項を審査するにすぎな
いから,本件安全審査における第120部会が通産省原子力発電技術顧
問会と合同で本件原子炉の安全性に係る事項について審査を行ったとし
ても,本件安全審査会の判断が不当な影響を受けたとはいい難く,また,
このような事実を認めるに足りる証拠もない。
(イ)次に,証拠(乙4,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣
によると,科学技術庁原子力局長は,本件安全審査会の審査委員に任命
されていたことが認められる(なお,本件安全審査の途中で,昭和51
年1月の科学技術庁設置法改正に伴い,同庁原子力局長が審査委員を退
任し,同庁原子力安全局長が審査委員となった。しかし,設置法1。)
5条によれば,原子力委員会の庶務は,科学技術庁原子力局において処
理するものとされ,更に安全審査会運営規程4条2項により,安全審査
会の議案に必要な資料は科学技術庁原子力局において準備するものとさ
れていることを総合考慮すると,同局の職員が原子力委員会,本件安全
審査会及び第120部会に出席することは当然であり,また,科学技術
庁原子力局の局長ら職員が事実上安全審査をリードしたと認めるに足り
る証拠もない。
(ウ)したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
ク本件安全審査において審査範囲の限定をしたことは違法か否か。
控訴人らは,本件安全審査においては,温排水による海中生物への影響,
固体廃棄物や廃炉などの最終処分,使用済燃料の再処理,輸送等の問題が
審査対象外とされている上,安全審査対象事項を本件原子炉の基本設計な
いし基本設計方針に限定しているので,審査範囲・審査対象を不当に限定
した点において本件安全審査は違法である旨主張する。
しかしながら,上記1(2)及び(5)のとおり,規制法24条により,原子
炉設置許可における安全審査については,当該原子炉施設における基本設
計の安全性にかかわる事項のみが審査の対象となるのであるから,控訴人
らの上記主張は失当である。
ケ資料の収集等の審査方法に違法があるか否か。
控訴人らは,原子力発電所の安全性を確保すべき第一次的責任は,原子
炉施設の設置の許否を決することのできる行政庁にあるにもかかわらず,
本件安全審査においては,原子炉設置者である申請者の提出する資料やデ
ータに基づき,その基本設計及び基本的設計方針が適切であるか否かが確
認されただけで,自ら必要な資料やデータを収集し,必要な計算や実験を
行うという方法が採られなかったから,本件安全審査の審査方法は違法で
ある旨主張する。
しかしながら,原子炉の安全性の確保は,直接原子炉を設置,運転する
原子炉設置者が第一次的にその責を果たすべきであり,原子炉設置許可に
おける安全審査においては,原子炉設置者の申請に係る内容が災害の防止
上支障のないものであるかどうかをその申請者の提出する資料に基づいて
審査すれば足りると考えられるから(なお,資料に疑義があれば,原子力
委員会は,申請者にその点の説明や追加資料の提出を促すことができると
解される,控訴人らの上記主張は失当である。。)
コ本件安全審査手続に不公正,不適正があるか否か。
(ア)控訴人らは,原子炉設置許可手続における安全審査手続は,他のい
かなる行政手続にも増して,公正らしさと適正らしさが要求され,実際
の安全審査においても厳格かつ公正な判断がなされるべきものであると
ころ,①原子力委員会は,本件安全審査の当時,原子力開発を推進する
側とこれを規制する側との両方の役割を同時に兼ねていたため,安全審
査体制自体に甚だしい不公正が生じていること,②原子力三原則で担保
されているはずの関係資料の公開や提供がなされなかったこと,③原子
力委員会やその下部機関である安全審査会には,実質的な安全審査をや
り遂げるだけの人材はなく,施設・設備,資料・データ及び予算もない
のが実情で,具体的な審査のやり方は,本件原子炉の安全審査とは何の
関係もない他の機関(通産省原子力発電技術顧問会)が関与し,調査委
員などと称する法的地位や資格の極めてあいまいな人が多数関与(それ
も中心的に関与している)したこと,④しかも,専門技術的知見を有。
する各専門分野の学識経験者とは全く立場を異にする行政機関の職員の
代理者が数多く関与(それも中心的に関与している)したこと,⑤ご。
く限られた部会員が,原子炉設置許可の申請者側から提出された資料や
データを短時間,形式的に審査しただけであることから,本件安全審査
は,憲法31条に違反して,不公正,不適正に行われている旨主張する。
上記前提となる事実によると,本件安全審査及び本件処分当時の原子
力委員会は,核燃料物質及び原子炉に関する規制に関すること(設置法
2条4号)のほかに,原子力利用に関する政策に関すること(同条1
号)等,原子力の利用と開発を推進することに関しても所掌することと
されていたが,本件処分後の昭和53年7月5日,同年法律第86号よ
り設置法が改正され,従前の原子力委員会の所掌事務のうち安全の確保
及び障害の防止に関するものは原子力委員会とは独立した原子力安全委
員会が所掌することとされた。
しかし,原子力の研究,開発及び利用に関する行政の民主的かつ効率
的な運営を図るために,原子力の利用,開発の推進とその安全の確保と
を総合的見地から併せ所掌する1つの委員会を設置するのと,これらを
各別に所掌する2つの委員会を設置するのと,いずれが優れた制度であ
るかは,にわかに断じ難く,立法政策に属する事柄であるということが
できる。
そして,安全審査会の審査委員の資格は法定され(設置法14条の
3,原子力委員会の委員の任免及びその服務についても厳格な規制が)
なされている(同法8ないし10条,13条,14条)など,原子炉設
置許可に関する安全審査体制は慎重かつ厳正な審査を確保し得るよう整
備されており,かつ,本件処分も上記体制に沿って行われたのであるか
ら,控訴人ら主張のような体制が採られていたからといって,その一事
をもって,本件処分が不公正,不適正に行われた違法なものであるとい
うことはできない。
(イ)さらに,設置法は原子力委員会の委員の資格について特に定めてい
ないから(同法8条,同法は,原子炉に係る安全性に関する事項につ)
いての専門技術的観点からする調査審議は,原子力委員会が直接に行う
のではなく,安全審査会の専門技術的調査審議に基づく報告を踏まえて
行うことを予定していると解され,原子力委員全員が,原子炉施設の安
全性に関する専門技術的知識や経験を有する者である必要はなく,また,
安全審査会と同じレベルでの専門技術的議論がなされなければならない
というものではないというべきである。そして,本件安全審査手続に控
訴人ら主張の不公正,不適正があったことを裏付ける具体的な事情を認
めるに足りる証拠はない。
内閣総理大臣がした本件処分においては,上記前提となる事実のとお
り,原子力委員会は規制法等所定のとおり審議・判断したものであって,
上記アないしケ並びに後記(3)アないしオのとおり,控訴人ら主張の違
法はないというべきである。
(ウ)したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
サ安全審査手続について立法の瑕疵があるか否か。
控訴人らは,(ア)原子炉設置の安全審査に関する手続規定が整備されて
おらず,かつ,住民参加の手続が保障されていないなどの点で極めて不備
であって,憲法31条をはじめとする諸規定との関連で,憲法上極めて問
題であること,(イ)原子力発電所の安全審査に用いられている安全審査指
針等の技術基準が,内容的にみて一義的に明確ではなく,かつ,国際基準
から時代遅れであったり,そのときどきの情勢によって容易に変更される
などの点で問題であるほか,法定化が可能であるにもかかわらず,法定化
することが意識的に避けられてきているなどの点で憲法上重大な疑義があ
ること,(ウ)現実の原子力委員会若しくは安全審査会の安全審査において
は,原子力三原則を無視した手続が取られていることから,原子炉設置許
可手続における安全審査手続においては,憲法上要請されている手続規定
が十分に整備されたり,立法化されたりしていないので,いずれも立法の
瑕疵があり,憲法13条,31条,41条,73条,81条に違反するの
みならず,憲法の基本原則である国民主権主義,基本的人権尊重主義,民
主主義の諸原則と,憲法が基本的な原理として採用している法治主義の原
理,行政の司法的統制の原理,人権の裁判的保障の原理にも違反する旨主
張する。
しかし,本件安全審査手続が憲法31条に違反するものではないことは,
上記2(2)アのとおりであり,安全審査基準の内容が高度の専門性及び多
様性を有することや,科学技術の進歩に対応する等のため,むしろ安全審
査基準は法律により定めることに適さないことは,上記2(2)イのとおり
であり,安全基準を法律によって定めるべきものと解すべき根拠はなく,
また,安全審査が原子力三原則に反するものでないことは上記2(2)エの
とおりである。そして,他に控訴人らの上記主張のような安全審査手続に
ついて憲法に違反する立法の瑕疵に該当する事実があると認め得る証拠は
ない。
(3)本件安全審査手続における個別的瑕疵について
ア原子力委員会委員長の不在の際にその職務代理者が選任されていたか否
か。
(ア)控訴人らは,原子力委員会が本件安全審査を行った際,委員長不在
のまま審議をしたことがあるほか,最終答申という最も大切な委員会決
定すら委員長不在のまま行われており,委員長の職務代理者も選任され
ていなかったから,本件安全審査は違法である旨主張する。
上記前提となる事実によると,原子力委員会は,委員長及び3人以上
の委員の出席がなければ,会議を開き,議決をすることができないとさ
),れている(設置法11条2項。そして,証拠(甲57の①,60の①
64,65の①,66の①,67の①)及び弁論の全趣旨によれば,本
件原子炉の安全審査に関連する合計11回の原子力委員会のうち,昭和
50年の第13回定例会議(同年4月1日)及び第17回定例会議(同
年5月20日,昭和51年の第48回定例会議(同年12月14日,))
昭和52年の第32回臨時会議(同年8月12日,第33回定例会議)
(同年8月16日)及び第34回定例会議(同年8月23日)の計6回
の各委員会に委員長が出席していなかったことが認められる。
しかし,証拠(乙101ないし104)及び弁論の全趣旨によると,
(ア)原子力委員会においては委員長に故障がある場合に委員長を代理す
る者をあらかじめ常勤の委員のうちから定めておくことができること
(設置法7条3項,(イ)委員長として,昭和49年12月9日にP8)
委員長,昭和51年9月15日にP9委員長,及び同年12月24日に
P10委員長がそれぞれ任命されたが,昭和49年12月10日にP8
委員長の代理者として,昭和51年9月21日にP9委員長の代理者と
して,昭和52年1月7日にP10委員長の代理者としていずれもP1
1委員が指名されたこと,(ウ)控訴人らが指摘する委員長の欠席した計
6回の原子力委員会については,いずれも上記P11委員長代理が出席
し,委員長の職務を務め,原子力委員会開催に必要な要件を満たしてい
たことが認められる。
(イ)したがって,委員長不在の際にはいずれの場合も適法に選任された
P11委員長代理によって原子力委員会が開かれ,本件安全審査に係る
審議・議決が行われているから,控訴人らの上記主張は理由がない。
イ原子力委員会の審査方法等に違法がないか否か。
控訴人らは,原子力委員会の本件安全審査について,自らあるいは事務
局を使って必要な資料を分析,点検,検討して行うことをせず,専ら原子
力委員会の下部機関である安全審査会及び第120部会に任せ,原子力委
員会独自の審査は1時間ないし2時間の短時間内に多くの議題や報告(多
いときは5件以上あった)を掛け持ちして行ったにすぎず,到底法の要。
求している科学的,専門技術的事項についての専門家の安全審査といえな
いから,本件安全審査は違法である旨主張する。
しかし,上記(2)コのとおり,設置法は,原子力委員会の委員の資格に
ついて特に定めていないから(同法8条,同法は,原子炉に係る安全性)
に関する事項についての専門技術的観点からする調査審議は,原子力委員
会が直接に行うのではなく,安全審査会の専門技術的調査審議に基づく報
告を踏まえて行うことを予定しているところ,上記前提となる事実によっ
て認められる本件処分に係る安全審査会における審査の状況,原子力委員
会の本件安全審査の手続経過,内容及び内閣総理大臣に対する答申等を総
合考慮すると,本件安全審査には合理性があるから,科学的,専門技術的
事項についての専門家の安全審査ではないと断ずることはできないので,
控訴人らの上記主張は理由がない。
ウ本件安全審査会における並行審査は違法か否か。
控訴人らは,本件安全審査会における審査は,正味2,3時間のうちに
少ないときでも5,6件,多いときは10件以上の審査を同時並行的に行
っており,本件安全審査は余りにも機械的,形式的であり,到底専門技術
的審査とはいえないから,本件安全審査は違法である旨主張する。
しかし,証拠(原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によれ
ば,本件安全審査会は,1期日に多数の案件を処理することもあるが,議
事の内容に応じ,重要な案件については十分な時間を掛けて審査したこと,
その程度の審議であっても,専門技術的知見を有する審査委員らが安全性
の確保の判断として十分であるとしたことが認められるから,控訴人らの
上記主張は失当である。
エ安全審査会の出席者は適法か否か。
(ア)控訴人らは,①本件安全審査を行う安全審査会の会合には,毎回の
ように審査委員の代理人が複数人出席し,定足数に満たなかったにもか
かわらず,安全審査会が開催され,実質的な審議が行われたこと,②正
規の審査委員のほかに法的な性格が全く不明な調査委員が多数参加して
いたこと,③昭和52年4月19日開催の第158回安全審査会におい
て,定数30名のところ3分の1の10名しか出席していないことから,
安全審査会における本件安全審査手続は違法である旨主張する。
しかし,審査委員は,学識経験のある者及び関係行政機関の職員のう
ちから,内閣総理大臣が任命することとなっている(設置法14条の3
第2項)が,上記委員のうち,関係行政機関の職員のうちから任命され
た審査委員については,その者の有する専門的学識・経験とともに,当
該行政機関自体が有する高度の専門技術的知見を安全審査に役立てるた
め,その者が属する関係行政機関を代表する者として選任されるものと
解されるから(個別的な学識経験が重視されて)学識経験のある者の,
うちから任命された審査委員の場合とは異なって,適切な代理者である
限り,代理出席を認めても何ら法の趣旨に反するものではないと解する
のが相当である。
証拠(乙105,106,原審における証人P1の証言)及び弁論の
全趣旨によれば,安全審査会は,昭和36年9月22日,設置法16条,
設置法施行令4条,安全審査会運営規程8条に基づき,上記関係行政機
関の職員のうちから任命された審査委員については代理出席を認め,そ
の代理人を定足数に加え,議決権を持つ旨を決定したこと,本件安全審
査会に代理者を出席させた審査委員は,いずれも関係行政機関の職員の
うちから任命されたものであることが認められる。
(イ)また,証拠(乙4,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣
旨によれば,調査委員制度は,昭和44年6月,設置法16条,設置法
施行令4条,安全審査会運営規程8条に基づき,審査委員を補助して安
全審査会の調査審議の能率向上を図るために設けられ,原子炉の安全性
に関する事項を調査することを職務内容とされたことが認められるので,
調査委員制度は法令上の根拠を有するから,調査委員が安全審査会に出
席したことは適法である。
(ウ)さらに,証拠(甲89の①,原審における証人P1の証言)及び弁
論の全趣旨によれば,控訴人らの主張の第158回の安全審査会では,
当時の委員総数19名に対して,出席者数が10名であるから,定足数
を満たしていることが認められるから適法である。
(エ)したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
オ調査委員中心の本件安全審査は違法か否か。
(ア)控訴人らは,第120部会における部会員の出席率は悪く,審査委
員の代理人も出席しており,また,実際に調査や審議を担当した者は何
らの資格も権限もなかった調査委員であり,特に現地調査の大半は少数
の調査委員によって行われたものにすぎず,このように調査委員中心で
行われた同部会の審査方法は違法であり,その判断を受け継いだ原子力
委員の本件安全審査も違法である旨主張する。
しかし,証拠(甲94の③,乙4)及び弁論の全趣旨によれば,第1
20部会の会合に代理者は出席していなかったことが認められ,また,
上記エのとおり,調査委員制度は,設置法16条,設置法施行令4条,
安全審査会運営規程8条に基づき,審査委員を補助して安全審査会の調
査審議の能率の向上を図るために設けられたものであり,調査委員は,
原子炉の安全性に関する事項を調査することをその職務内容とするもの
であるから,第120部会における調査審議に関与し,現地調査を行っ
たことは適法であるというべきである。
(イ)また,証拠(甲94の③,乙4,原審における証人P1の証言)に
よると,審査委員も第120部会の調査審議に関与し,多数回にわたり
現地調査を行ったことが認められるから,現地調査の大半が少数の調査
委員によって行われ審査委員がこれに関与していなかったということは
できない。
(ウ)さらに,証拠(乙4,原審における証人P1の証言)及び弁論の全
趣旨によると,第120部会においては,審査委員及び調査委員のそれ
ぞれの専門分野に応じたAないしBの三つのグループ毎の調査審議が行
われ,しかも,その中でも特定の専門分野に係る事項については,特定
の審査委員,調査委員が分担して審査するという方式がとられているこ
とが認められる。
そして,原子炉に係る安全性に関する事項のような高度に専門技術的
事項を審査する場合には,上記のような方式は合理性があり,議題ごと
に各グループ,更には第120部会の出席者が代わり,それぞれの会合
に審査委員及び調査委員全員が参加しなかったとしても必ずしも調査審
査に支障が生ずるわけではないと考えられ,第120部会が行った調査
審議の方法が違法であったということはできない。
(エ)したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
(4)小括
以上によれば,本件処分の手続的違法に関する控訴人らの主張はいずれも
失当であり,本件処分にはその手続において取消理由となるような違法はな
いというべきである。
3規制法24条1項1号所定の要件適合性は,司法審査の対象となるか否か。
(1)控訴人らは,ア本件処分においては,本件原子炉から生じる使用済核燃
料の再処理によって取り出されるプルトニウムについての軍事転用の危険性
を防止する十分な保障がされていないこと,イ日本の原子力平和利用の結果
として生まれた原子力発電所で燃焼した使用済みのウラン燃料は,一定期間
原子炉施設内の使用済燃料プールで冷却した後,再処理工場に運ばれて再処
理され,再処理で抽出したプルトニウムがイギリスやフランスの各再処理工
場で原爆材料に転用され,原爆や水爆,中性子爆弾等の核爆弾が製造されて
いること,ウ核燃料サイクルから生まれる濃縮ウランの残り滓である劣化ウ
ランは,対戦車用等の弾薬に用いられたり,劣化ウラン弾に加工され,実際
に戦争に使用されているところ,劣化ウランの実戦使用は,平成3年の湾岸
戦争,ユーゴスラビアの内戦のほか,平成7年のボスニア・ヘルツェゴミナ
紛争,平成11年のコソボ・セルビア紛争であり,また,沖縄の射爆場で演
習にこれが使用されていること,エ原子力の歴史を振り返ると,軍事費だけ
で原子力技術を維持できなくなったため「平和利用」を口実にその技術維,
持の負担を民間に求めてきた経緯があること等から,本件処分は規制法24
条1項1号に違反する旨主張する。
しかし,上記1(1)のとおり,規制法24条1項1号は,専ら公益実現の
ための規定であって,控訴人らの法律上の利益に関係がないものであり,控
訴人らの主張の上記要件に係る違法事由は本件訴訟の審理・判断の対象とは
ならないというべきである。
(2)したがって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの上記
主張は失当である。
4規制法24条1項2号所定の要件適合性は,司法審査の対象となるか否か。
(1)控訴人らは,ア本件処分においては,本件原子炉の運転に伴って発生す
る固体廃棄物の最終処分,使用済燃料の再処理,輸送及び最終処分並びに廃
炉等について審査が行われていないこと,イ日本の電力会社においては,地
域を電力会社毎に分割した地域独占体制と総括原価で決められる価格システ
ムを採用しているので,その電気料金は世界で最も高く,その是正のために
電力事業の規制緩和と自由化政策が展開されているが,膨大な負債を抱えて
いる上に,発電システムの革命的大変化が目前に迫っている現段階において
は,将来とも計画的に原子力発電を遂行する義務を果たすことはできないこ
と,ウ原子力発電所を運転していくことに伴い必然的に生み出される核のゴ
ミを,想像を超える長期間安全に管理することは不可能であること,エ放射
性廃棄物の最終処分の方法及び廃炉の処理方法とその安全性が確立しない限
り「原子力の利用及び開発の計画的遂行」は不可能であること等から,本,
件処分は規制法24条1項2号に違反する旨主張する。
しかし,上記1(1)のとおり,規制法24条1項2号は,専ら公益実現の
ための規定であって,控訴人らの法律上の利益に関係がないものであり,控
訴人らの主張の上記要件に係る違法事由は本件訴訟の審理・判断の対象とは
ならないというべきである。
(2)したがって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの上記
主張は失当である。
5規制法24条1項3号のうち経理的基礎に係る部分の要件適合性は,司法審
査の対象となるか否か。また,同条1項3号のうち技術的能力に係る部分の要
件適合性の判断に不合理な点はあるか否か。
(1)規制法24条1項3号のうち経理的基礎に係る部分について
ア控訴人らは,東京電力においては膨大な負債があって,原発災害時の生
命,健康,財産の損失を補填する経理的基礎がないにもかかわらず,本件
処分においてこれが認められたことは,規制法24条1項3号の経理的基
礎に係る部分に違反する旨主張する。
しかし,上記1(1)のとおり,規制法24条1項3号の経理的基礎に係
る部分は,専ら公益実現のための規定であって,控訴人らの法律上の利益
に関係がないものであり,控訴人らの主張の上記要件に係る違法事由は本
件訴訟の審理・判断の対象とはならないというべきである。
イしたがって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの上記
主張は失当である。
(2)規制法24条1項3号のうち技術的能力に係る部分について
ア(ア)規制法24条1項3号のうち技術的能力に係る部分の要件適合性審
査については,専門技術的判断に基づいて,原子炉設置許可申請者に原
子炉の設置,すなわち原子炉施設の詳細設計,工事を進めるのに十分な
技術者が確保されているか否か,また,運転が開始される時までに運転
を適確に遂行するのに十分な技術者が確保されることになっているか否
かという観点から行われるものである。そして,これに対する裁判所の
審理・判断は,上記1(4)のとおり,原子力委員会若しくは安全審査会
の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に
不合理な点があるか否かという観点から行われるべきものである。
上記技術的能力の要件適合性の審査として法令が予定している資料は,
原子炉設置許可申請書に添付すべき「原子炉施設の設置及び運転に関す
る技術的能力に関する説明書(原子炉規則1条の2第2項5号)等で」
ある。
(イ)上記前提となる事実によると,安全審査会は,規制法24条1項3
号のうち技術的能力に係る部分については,東京電力に当該技術的能力
があるものと認め,原子力委員会も,上記安全審査会の審査結果のとお
り判断して,内閣総理大臣に対してその旨を答申し,内閣総理大臣がこ
の答申を尊重して本件処分をしたことが認められる。
イ上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審における証人P1の証
言)及び弁論の全趣旨によれば,(ア)東京電力は,昭和30年以来,原子
力発電に関する諸調査,諸準備などを進めるとともに,特に技術者を国内
及び国外の原子力関係諸施設へ多数派遣し,研究,調査,建設,運転等を
通じ,技術的能力の涵養に努めてきていること,(イ)東京電力は,昭和4
1年12月に福島第一原発1号機(電気出力460MW)を着工し,昭和
46年3月に営業運転を開始し,更に同2号機(電気出力784MW)が
昭和49年7月に,同3号機(電気出力784MW)が昭和51年3月に
それぞれ営業運転を開始し,引き続き本件安全審査のころは同4・5号機
(いずれも電気出力784MW)及び6号機(電気出力1100MW)並
びに福島第二原発1号機(電気出力1100MW)を各建設中であったこ
と,(ウ)東京電力の昭和52年7月1日現在の在籍する原子力関係技術者
数は900名を超えているが,本件原子炉施設の基本設計の実施,工事進
捗の管理並びにこれらに付随する対外連絡等の業務に従事する約70名の
要員が継続的に,又は一時的に関与し,更に現地において全工程を通じ実
際の建設に従事する平均50名の要員の合計120名の技術者を確保する
見込みであったこと,(エ)各部門の管理者については,原子力・火力発電
所の建設,運転等に10ないし20年の経験を有する者が大半を占め,原
子力技術者だけでも平均約10年の経験を有し,今後も技術能力の養成訓
練を行うことを計画していたこと,(オ)本件原子炉施設の運転においては,
発電所の運営管理,対外連絡等の業務を行う約10名のほか,実際に発電
所の運転管理を行う現地要員約150名の技術者を運転開始時までに確保
し,また,保健物理系,炉物理系,電気・機械系及び計測制御系等の知識
を有し,かつ原子力経験も5,6年以上のものから管理職となる人材を確
保することが見込まれたこと,(カ)法令上必要な主任技術者として,原子
炉主任技術者有資格者14名及び放射線取扱主任者有資格者40名を有し
ていたことが認められる。
そうすると,東京電力は,これまで複数の所定の原子力発電所設置許可
を受けて,その建設と運転の実績を有し,現実に運転管理を行っている上,
原子炉施設の詳細設計,工事を担当する技術者を含め相当数の原子力関係
技術者を保有し,かつ,本件原子炉施設の発電所要員に対する研修教育に
ついての計画を有し,本件原子炉施設の運転開始までに必要な要員と法令
上必要な主任技術者を確保しているので,本件安全審査における上記判断
には合理的根拠があり,その判断に不合理な点はないというべきである。
ウもっとも,控訴人らは,平成11年9月30日に発生したJCO事故の
教訓から核燃料取扱主任資格取得者が多数存在しても電気事業者の技術的
能力を評価することはできず,また,東京電力には昭和61年から平成1
3年にかけてその保有する原子力発電所の自主点検記録に29件もの不正
があって,多くの事故隠し及び損傷隠しが判明しており,更に炉心シュラ
ウドの応力腐食割れに関する米国の新しい維持基準についても適切にこれ
を運用し得る技術的能力はないので,東京電力に規制法24条1項3号所
定の技術的能力があると判断した本件安全審査は不合理である旨主張する。
しかし,JCO事故は,規制法第3章に規定される「加工の事業」を行
う施設における事故であり,本件安全審査で審査の対象となる原子炉施設
の基本設計の安全性にかかわる事項とは関連性がないものである。また,
規制法24条1項3号の技術的能力に係る部分は,主として原子炉施設に
よる災害の防止を図る観点から規定されたものであるから,控訴人らの主
張に係る自主点検記録の不正や報告懈怠は技術的能力の判断とは関係がな
いというべきである。さらに,弁論の全趣旨によると,炉心シュラウドの
応力腐食割れに関する米国の新しい維持基準は,いまだ確立したものでは
ないから,控訴人らの上記主張はその前提を欠いており失当である。
ちなみに,上記前提となる事実及び弁論の全趣旨によると,本件処分後
において,JCO事故を契機として「原子力事業者の技術的能力に関す,
る審査指針(平成16年5月27日原子力安全委員会決定)が定められ」
ているが,これは,それまでの原子炉施設の知見の蓄積を踏まえて整理,
成文化したものであり,本件安全審査の基礎とされた本件処分当時の知見
がその後の新しい科学技術上の知見等からみて誤りであったとして全く新
たな指針等を策定したものではないと解されるから,本件安全審査が前提
とした知見及びその合理性に影響を与えるものではないというべきである。
また,本件安全審査当時には,上記「原子力事業者の技術的能力に関する
審査指針」は策定されていなかったが,原子炉設置許可の際の安全審査は,
明文化された各指針のみならず,それまでの安全審査によって積み重ねら
れてきた経験及び審査委員等が有する科学的,専門技術的知見に基づく総
合的な審査であるから,本件処分当時に具体的に明文化された当該審査基
準が策定されていなくとも上記認定・判断を左右するものではないという
べきである。
エしたがって,本件処分において,規制法24条1項3号のうち技術的能
力の要件適合性の判断に違法な点はないというべきである。
6規制法24条1項4号所定の要件適合性の判断に不合理な点はあるか否か。
(1)原子炉施設の安全性の意義とその安全審査のあり方をどのように考える
か。
ア規制法24条1項4号の要件適合性審査に対する司法審査のあり方
(ア)規制法24条1項4号の要件適合性審査については,専門技術的判
断に基づいて,原子炉施設の位置,構造及び設置が原子炉等による災害
の防止上支障がないものであるか否かの観点から行われるものである。
そして,これに対する裁判所の審理・判断は,上記1(2)及び(4)のとお
り,原子炉施設の安全性にかかわる事項のすべてをその対象とするもの
ではなく,その基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とし,
かつ,原子力委員会若しくは安全審査会の専門技術的な調査審議及び判
断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという
観点から行われるべきであって,現在の科学技術水準に照らし,上記調
査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるい
は当該原子炉施設が上記具体的審査基準に適合するとした原子力委員会
若しくは安全審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落
があり,被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合に
は,被告行政庁の上記判断に不合理な点があるものとして,上記判断に
基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきものである。
規制法24条1項4号所定の要件適合性の審査として法令が予定して
いる資料は,原子炉設置許可申請書に記載される「原子炉を設置する工
場又は事業所の所在地(規制法23条2項4号「原子炉施設の位置,」),
構造及び設備(同項5号)並びに同申請書添付書類のうち「原子炉」,
施設を設置しようとする場所に関する気象,地盤,水理,地震,社会環
境等の状況に関する説明書」など,原子炉規則1条の2第2項6号ない
し10号等が定める書類等である。
(イ)上記前提となる事実によると,安全審査会は,規制法24条1項4
号については,本件原子炉施設の設置に係る安全性は十分確保し得るも
のと認め,原子力委員会も,上記安全審査会の審査結果のとおり判断し
て,内閣総理大臣に対してその旨を答申し,内閣総理大臣がこの答申を
尊重して本件処分をしたことが認められる。
そこで,規制法24条1項4号の適合性審査・判断の違法性の有無を
検討する前提として,同規定が審査の対象とする原子炉施設の危険性,
しきい値の存否,原子炉施設の安全性の意義,安全審査のあり方につい
て,以下,順次検討する。
イ規制法24条1項4号が審査の対象とする原子炉施設の危険性
上記前提となる事実によると,原子炉施設は,ウランの核分裂反応を制
御しつつ継続的に起こさせ,必要な熱エネルギーを発生させるための装置
であって,内蔵するエネルギーが莫大であるので,その安全性確保のため
には,核分裂生成物を含む放射性物質の有する潜在的危険性を顕在化させ
ないよう放射性物質を確実に管理することが基本方針となる。
そこで,規制法24条1項4号が審査の対象とする原子炉施設の安全性
とは,その文言上も,原子力施設に特有の使用済燃料を含む核燃料物質,
原子核分裂生成物を含む核燃料物質によって汚染された物又は原子炉によ
りもたらされるおそれのある災害を防止し得るものであることを意味する
ことが明らかである。そして,基本法20条の規定を併せ考慮すると,そ
こで想定されている原子炉施設の潜在的危険性は,主として原子力施設に
特有の放射線による生命,身体の損傷及び放射性物質による環境の汚染で
あると解するのが相当である。
ウしきい値の存否
(ア)上記前提となる事実と証拠(甲1,118,119の①ないし④,
120ないし122,152,154,156,157,161,16
3ないし166,167の①②,168ないし171,174の①ない
し③,181,204,乙8,9,16,18,21,22,24,2
6,46の①ないし⑦,47の①ないし⑤,48,59の①ないし④,
60の①ないし④,62の①ないし⑤,63の①ないし④,118ない
し124,126,いずれも原審における証人P2及び同P3の各証
言)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
①放射線が人体に与える影響は,放射線の種類や量によって異なるも
のであり,それ自身の持つ電離作用などの性質により,生体に影響を
与えるものである。そして,放射線の生体への作用には,放射線が細
胞のDNA(遺伝子を構成する高分子化合物)などに直接当たること
によって生ずる「直接作用」と,放射線が細胞内の水や有機物質など
を電離することにより酸化力の強い物質(フリーラジカル)を発生さ
せ,このフリーラジカルがDNAなどを傷つける「間接作用」とがあ
る。
放射線被ばくと身体的障害発生との関係におけるしきい値があるか
否かの問題については,身体的障害のうちの高線量放射線による急性
障害のしきい値に関してはこれを肯定する見解が一般的であるが,低
線量放射線被ばくによる影響に関しては,線量が低くなるほど晩発性
障害及び遺伝的障害の発生頻度は低くなるが,どのような低線量であ
ってもその確率を零とすることはできないとして,しきい値はないと
する見解,しきい値がないと断定できないが,これがないと推定すべ
きであるとする見解,放射線防護の観点からしきい値がないものと仮
定すべきであるとする見解などがある。
②ところで,1940年(昭和15年)代に入り,動植物に十数レム
相当の放射線を照射すると,染色体が切断されるという異常が現れ,
その切断数と放射線量が比例関係にあるという報告がなされていたが,
人体に対しては,第二次大戦直後ころまでは,100レムに相当する
放射線を浴びてもいかなる障害も発生しないとされていた。
その後,イギリスのP23は,1955年(昭和30年,妊娠中)
の女性が下腹部又は骨盤部に診療用エックス線を受けた場合に,生ま
れた子供に幼児性白血病が多発するとの研究発表を行い,米国のP2
4は,1961年(昭和36年,ショウジョウバエを用いた実験に)
よりエックス線の線量を5レムまで下げても,線量と突然変異率が比
例関係にある旨報告し,さらに,米国のP25は,1962年(昭和
37年,妊娠中に骨盤部にエックス線検診を受けた人と受けなかっ)
た人,それらの者の子(合計70万組)を対象とした調査を行った結
果,数レム程度の被ばくと子の幼児性白血病との間に明白な関係があ
る旨報告した。また,上記P23は,P26と共同で,被ばくが妊娠
13週以内であれば3分の1ラドで,小児癌と白血病の発生率が自然
発生率の2倍になる旨報告した。
③また,P16は,1972年(昭和47年,エックス線の場合2)
50ミリラド程度,中性子線の場合10ミリラド程度で,それぞれ放
射線量と突然変異数とが比例関係にある旨,米国のP27夫妻は,1
965年(昭和40年,自然放射線が高いことで有名なコロラド州)
において,自然放射線によるムラサキツユクサの雄しべの毛及び花弁
の突然変異率の上昇が認められ,その線量は84ミリレムであった旨,
インドのP28は,昭和45年,トリウム232を含むケララ州の土
壌を利用したムラサキツユクサの栽培実験を行ったところ,内部被ば
くによって取り込まれた放射性核種の量と突然変異率が高い相関関係
を示した旨,P29は,サソリの精原細胞の染色体異常を調査したと
ころ,自然放射線と染色体異常の発生との間に明確な関係が認められ
た旨,それぞれ報告した。
そして,P3教授は,昭和45年から昭和51年にかけて,ムラサ
キツユクサにおける突然変異の発生率と放射線量との関係についての
研究を行い,ガンマ線及び散乱放射線の各線量と突然変異数とは,直
線比例関係にあり,直線比例関係が確認された最低線量は,ガンマ線
の場合2.1レントゲン,散乱放射線の場合0.72レントゲンであ
る旨報告した。
しかし,ムラサキツユクサを用いた実験については,ムラサキツユ
クサの雄しべの毛の細胞が,放射線のみならず,温度,降雨,日照,
農薬,自動車排気ガス等の諸要因に対しても高い感受性を示すため,
ムラサキツユクサを用いた野外での実験によって,その雄しべの毛の
細胞における突然変異の発生に対する放射線の寄与を正確に把握する
ことは現実的にはほとんど不可能に近いし,仮に,可能であるとして
も,そのためには,実験の方法や実験結果の解析の方法等を極めて慎
重かつ緻密に行わなければならないところ,それが十分に行われてい
なかったとの批判もある。なお,これに対し,P3教授は,温度との
関係等についても十分考慮して実験を行った旨反論している。
④さらに,東北大学のP30教授は,昭和53年,全国27道県40
2地点で22年間にわたり5万7000人以上の白血病死亡をとり上
げて研究した結果,癌死亡率と線量率との間には正の相関関係がある
が,相関係数は0.5までであまり大きくないこと,白血病死亡率と
放射線との相関関係はこれより更に小さく,かつ負の相関をもつもの
が多いことが判明したとの論文を発表したが,上記論文に対し,その
用いる線量率のデータが不十分であること,計算間違いが多いことな
どからその内容の信用性に疑問があるとする批判もなされている。
また,京都大学のP31教授は,1986年(昭和61年,ロン)
ドンで開催された「電離放射線の生物効果」に関する国際会議におい
て,日本の各地における体外自然放射線の被ばく線量率とこれら地域
での癌発生率との間の相関関係について講演し「ガンの発生率と自,
然放射線との明らかな相関を,観察した6期間のいずれにおいても得
ることができなかった。しかし,いくつかのガンでは,自然放射線と
の間に有意な関係があるように見える」などと報告した。。
⑤また,ICRPは,1958年(昭和33年)採択の勧告において,
「生物学的な面では,低レベルの連続的被ばくから予想される放射線
の長期の影響の場合『回復』は初期に想像されていたほど重要な役,
割をおそらく果たしていない「最もひかえめなやり方は,しきい」,
値も回復もない,つまりその場合には,たとえ低い蓄積線量ですら,
感受性の高い人々に白血病を誘発させることがあり,またその頻度は
蓄積線量に比例するであろう,と仮定することである「人類は電。」,
離放射線を全く使用することなしにすませることはできないので,実
際上の問題は放射線線量を,個人及び集団全般に許容不能ではないよ
うな危険を伴う程度にまで,制限することである。この量が『許容線
量』と呼ばれるものである「勧告されている最大許容線量は最大。」,
の値であることが強調される。委員会は,あらゆる線量をできるだけ
低く保ち,不必要な被ばくはすべて避けるように勧告する」などと。
述べた上で,職業上の個人の被ばくについて「18歳以上のすべて,
の年齢の人の生殖腺,造血臓器,および水晶体中に蓄積される最大許
容総線量」を5×(年齢-18)レムとすること(最大週線量が0.
1レムであることを示す,管理区域の周辺に住む一般人の被ばく。)
について,このような公衆には放射線感受性の高い子供(胎児を含
む)が含まれていることなどを考慮し,年間0.5レムを許容線量。
とすること,更に,集団に対する遺伝線量(これをその集団の各人が
受胎から子供を持つ平均年齢までに受けたと仮定した場合に,それら
の個人が受けた実際の線量によって生ずるのと同じ遺伝的負担を全集
団に生じるような線量)については,人の平均生殖年齢(30歳)に
達するまでの30年間において,自然的バックグラウンド放射線及び
医療行為以外の人工放射線源からの遺伝線量を5レム以下とすること
などを勧告した。
そして,ICRPは,1958年(昭和33年)採択の勧告以後1
990年(平成2年)採択の勧告(甲204,乙121)に至るまで,
低線量放射線による晩発性障害及び遺伝的障害について「しきい値,
がない」ことを確認するに足りる資料はないが,しきい値はないもの
と仮定する立場をとっている。
⑥現在の自然放射線被ばくにおける地域差と晩発性障害及び遺伝的障
害に関係については,人は,1人当たり平均して1年間で宇宙線など
の空間から飛来してくるもの0.39ミリシーベルト,土壌から放出
されるもの0.48ミリシーベルト,日常摂取する食物を通じ体内か
ら照射されるもの0.29ミリシーベルト,それに空気中のラドンな
どの吸入により1.26ミリシーベルトの計約2.4ミリシーベルト
の自然放射線を受けており(UNSCEAR(国際連合放射線影響科
学委員会)の2000年版レポート,また,我が国の九州と関東と)
の間には年間0.2ミリシーベルト(0.02レム)程度の差異が認
められるにもかかわらず,九州において関東に比較してより多くの人
が晩発性障害や遺伝的障害を受けていることを裏付ける資料はない。
そして,諸外国における自然放射線による1人当たりの被ばく線量
が大きく異なる地域を相互に比較してみても,晩発性障害や遺伝的障
害の発生率には,意味のある差があるという結果はいまだ認められて
いない。
(イ)上記認定事実によると,自然放射線被ばくにおける地域差よりも小
さい低線量放射線被ばくによる影響に関しては,有意な差が現れていな
いことが認められ,上掲証拠による限り,本件処分当時も現在も,低線
量域の放射線被ばくと晩発性障害及び遺伝的障害との関係についてはす
べて解明されているとはいえず,ICRPが採用しているしきい値がな
いと仮定する見解が支配的であると認めるのが相当である。
もっとも,控訴人らは,今日では低線量放射線被ばくの影響について
ICRPにおいてもこれ以下の線量では障害がないという「しきい値」
はないとしており「しきい値」がないことは定説である旨主張する。,
しかし,上記(ア)に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,低線量放
射線による晩発性障害及び遺伝的障害については,障害の頻度が極めて
小さく,放射線を被ばくした場合としない場合とを比較した結果におい
ても障害の発生率に特段の差が存しないので,被ばく線量とそれによっ
て生ずる障害の関係を明確にする知見はいまだにないこと,このため,
ICRPにおいても,いかに低い線量でも障害が生ずるかもしれないと
いう仮定,いわゆる「しきい値がない」という仮定のもとに,遺伝的障
害及び晩発性障害の発生確率が無視できる程低い線量を社会的に容認で
きる線量限度とし,安全を重視する立場から,あえてしきい値が存在し
ないとしているにすぎず,現実にしきい値がないことが確認されたこと
によるのではないことが認められるから,控訴人らの上記主張は失当で
ある。
(ウ)安全審査において,しきい値の存否の問題は,原子炉施設の周辺住
民又は環境が被ばくする放射線の量が許容限度内にあるか否かの判断を
する前提として考慮の対象となるべきものであるところ,上記前提とな
る事実と証拠(乙1ないし4,原審における証人P1の証言)によると,
本件安全審査においては,従前のICRPの勧告に基づいてしきい値は
ないものと仮定し,下限を設けないで実用可能な限り放射性物質の放出
を低減することを目標とすべきことを方針としたことが認められる。そ
して,しきい値の存否は,極めて高度な最新の科学的,専門的知見に係
る事項というべきであり,上記のようなしきい値に関する科学的,専門
的見解の状況に照らすと,本件安全審査において,しきい値はないもの
と仮定し,下限を設けないで実用可能な限り放射性物質の放出を低減す
ることを目標とすべきことを方針としたことが現在の科学技術水準に照
らして不合理な点があるということはできない。加えるに,原子炉施設
が放射性物質を排出することが一定の範囲で許容されるか否かは,しき
い値の不存在を肯定するかこれを仮定するかにより決まるのではなく,
規制法24条1項4号の解釈及び低線量域における線量と影響・効果の
具体的関係によるものというべきである。したがって,しきい値の存否
の問題は本件安全審査の内容における違法性の判断に影響を及ぼすもの
ではないというべきである。
エ原子炉施設の安全性の意義
(ア)規制法24条1項4号の規定で想定されている原子炉施設の潜在的
危険性は,上記イのとおり,主として放射線による生命,身体の損傷及
び放射性物質による環境の汚染であるから,原子炉施設における安全性
の確保は,このような放射性物質の有する危険性をいかに顕在化させな
いかにかかっているというべきである。
しかし,規制法24条1項4号の規定が,原子炉設置許可の安全審査
についてはいかなる意味においても完全に放射線障害の発生等の災害を
防止することを適合要件とする趣旨であるとすると,上記ウのとおり放
射線障害の発生にはしきい値がないと仮定すべきであるから,原子炉施
設は,放射線を環境に全く放出しないものでなければならなくなる。
ところが,上記前提となる事実と弁論の全趣旨によると,原子炉施設
は,その運転により不可避的に一定の放射性物質を環境に放出する施設
であり,原子炉施設も人工の施設である限り,どのような安全上の対策
を講じても,絶対的に事故を発生しないということがあり得ないことは,
経験則上自明というべきである。そうすると,規制法24条1項4号の
規定を上記のように放射線による障害の発生を完全に防止する趣旨の規
定と解するときには,原子炉の設置は現実にはおよそ許容される余地が
ないことになる。
しかしながら,上記1(4)のとおり,現代社会においては,科学技術
を利用した装置等は,絶対に安全というものはなく,常に何らかの危険
性を有しているものの,その危険性が社会通念上容認できる水準以下で
ある場合,又はその危険性の相当程度が人間によって管理できると考え
られる場合に,その危険性の程度と科学技術の利用により得られる利益
の大きさとの比較考慮の上で,これを一応安全なものとして利用すると
いう相対的安全性の考え方が採用されてきたのであり,原子炉施設につ
いてもこのような相対的安全性の考え方は適用されるものということが
できる。そして,規制法も,基本法を基礎として,上記相対的安全性の
考え方を採用し,原子力の平和利用を具体的に実現するための必要な規
制を行っているものであるから,同項4号は,原子炉施設が放射性物質
を環境に放出するものであることを前提として,これによる災害発生の
危険性が社会通念上無視し得る程度に小さいことを要件とするものと解
すべきである。
(イ)もっとも,控訴人らは「災害の防止上支障がない(規制法24,」
条1項4号)とは,平常運転時における被ばく低減対策として「遺伝的,
晩発性障害の発生確率がおよそ科学的にないと断定できる程度に低い線
量限度」を採用すべきであるから,本件原子炉施設は,その周辺住民で
ある控訴人らにとって,絶対的な安全性を保障し得るものでなければな
らない旨主張する。
しかし,上記ウのとおり,人は,自然放射線被ばくを受けているが,
自然放射線被ばくにおける地域差よりも小さい低線量放射線被ばくによ
る影響に関しては,有意な差が現れていないことに加えて,上記(ア)の
規制法の趣旨に照らすと,控訴人らの上記絶対的な安全性の主張はその
前提を欠くものであって,採用することができない。
また,控訴人らは,自然放射性核種と人工放射性核種とは異なるもの
があり,しかも,低線量放射線被ばくの影響については,晩発的・遺伝
的・確率的である上,個体毎に食物,飲料水,更には職業や移動,傷病
歴及び医療機会など社会的個体的要因が全く異なっていることに加え,
集団的にも前史ないし歴史的な年月の間に同地での自然放射線の影響を
受けにくい,ないしは放射線核種を取り込みにくい体質を獲得した可能
性も否定することができないから,自然的放射線被ばくにおける地域差
よりも小さい低線量放射線被ばくによる影響に関して有意な差がないと
しても,その証拠のないことがまさに影響のないことと同視することは
できない旨主張する。
しかしながら,証拠(甲1,118,119の①ないし④,120な
いし122,152,154,156,157,161,163ないし
166,167の①②,168ないし171,174の①ないし③,1
81,204,乙8,9,16,18,21,22,24,26,46
の①ないし⑦,47の①ないし⑤,48,59の①ないし④,63の①
ないし④,118ないし124,126,いずれも原審における証人P
2,同P3及びP5の各証言)及び弁論の全趣旨によると,社会的個体
的要因のほか,自然放射性核種と人工放射性核種とを分けて低線量放射
線被ばくの影響を考慮すべきであるとしても,人体組織や生物体組織が
放射性物質から受ける影響は,原則として,当該放射性核種から放出さ
れるアルファ線,ベータ線及びガンマ線などのエネルギー及び放射線量
等によって決まるものであること,そして,自然放射線及び人工放射線
による被ばく線量は,最近の報告(乙8,9,59の①ないし④,11
8)によってもほぼ同様な結果が示されていることが認められるから,
自然放射性核種による被ばく線量と人工放射性核種による被ばく線量と
を比較して,線量当量限度を検討することは相当であるから,控訴人ら
の当該主張を採用することはできない。
(ウ)したがって,規制法24条1項4号が規定する原子炉施設の安全性
の確保は,原子炉施設の有する潜在的危険性を顕在化させないよう,放
射性物質の環境への放出を可及的に少なくし,これによる災害発生の危
険性を社会通念上容認できる水準以下に保つことにあるというべきであ
る。
オ安全審査のあり方
(ア)原子炉施設の安全性の確保の意義が上記エのとおりであるとすると,
原子炉設置許可に際しての規制法24条1項4号所定の要件適合性の安
全審査は,原子炉施設の位置,構造及び設備について,その基本設計に
おいて,原子炉施設から排出する放射性物質を可及的に少なくし,これ
による災害発生の可能性を社会通念上容認できる水準以下に保つような
方策が講じられているかどうかについて行われるべきものと解される。
そして,我が国の原子力行政の責任者である内閣総理大臣において,
規制法24条1項4号所定の要件適合性の安全審査につき,具体的にど
のような審査方針を樹立し,どのような事項について審査を行うかにつ
いては,上記1(4)のとおり,その専門技術的知見を総合して決すべき
事項であり,しかも,原子炉設置の許可の段階において,どのような事
項が当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項に該当するのか
という点も,原子力安全委員会の意見を十分に尊重して行う内閣総理大
臣の合理的な判断にゆだねられているというべきである。
(イ)もっとも,控訴人らは,規制法24条1項4号の要件適合性の判断
においては,少なくとも原子力発電所の必要性を所与の前提として本件
安全審査が行われているから,電力の安定供給という必要性の観点から
厳しい審査がなされるべきであるところ,東京電力が平成14年4月1
5日に福島第一原発6号機を点検のため停止した後,東京電力の全原子
力発電所17基(1730.8万kW)が停止し,全原子力発電所が運
転再開する同年9月9日までの間,原子力発電所のピーク時電力である
夏の需要期においても最大電力量をカバーし得たのであるから,現在で
は地球的規模の災害をもたらしかねない程のリスクを抱えて原子力発電
所を運転する必要性はなくなっているので,本件安全審査には瑕疵があ
る旨主張する。
しかしながら,上記1(1)のとおり,原子力発電所の必要性の有無そ
のものは本件訴訟の審理・判断の対象とはならないというべきであるか
ら,控訴人らの上記主張はその前提を欠いており失当である。
また,控訴人らは,①少なくとも調査審議の過程における安全評価に
誤りがあれば事故防止対策の合理性を欠き,安全審査自体の誤りとなる
こと,②原子炉施設の安全性を評価するには,詳細設計以降の手続や施
工,運転上の欠陥を想定した上で異常な過渡変化や事故を評価判断する
必要があり,しかも「原子炉施設の位置,構造及び設備について,放,
射性物質の有する潜在的危険性を顕在化させない対策が適切に講じられ
ている」か否かの判断も,異常な過渡変化及び事故の解析結果によって
確認されるのであるから,これを抜きに判断できない性格のものであっ
て,異常な過渡変化や事故の解析に誤りがあれば,対策が適切に講じら
れているという判断の根拠が失われること,③原子力委員会若しくは安
全審査会の審査対象の範囲を基本設計ないし基本的設計方針に限るとし
ても,本件安全審査においても,東京電力の技術的能力と本件原子炉の
位置,構造及び設備の安全性の両面にわたり「原子炉等による災害が万
が一にも起こらないこと」が調査審議の過程において十分に確認される
べきであるので,安全評価に誤りがあれば,当該事故防止対策の合理性
は白紙であり,少なくとも審査をしたことにはならないこと,④安全審
査において,異常な過渡変化時や事故時における周辺地域への影響評価
を行うことは不可欠であること等から,原子炉設置許可の際の安全審査
においては「災害の防止上支障がないものであること(規制法24,」
条1項4号)の確認のため,事故時の影響をはじめ,将来の予測にかか
わる事項を含めて「原子炉等による災害が万が一にも起こらないこと」
を多角的,総合的に審査すべきである旨主張する。
しかしながら,上記エのとおり,規制法24条1項4号は,原子炉施
設の安全性の確保のため,原子炉施設の有する潜在的危険性を顕在化さ
せないよう,放射性物質の環境への放出を可及的に少なくし,これによ
る災害発生の危険性を社会通念上容認できる水準以下に保つべきことを
規定していると解されるのであって,安全審査においては,原子炉設置
許可申請書に記載された原子炉施設の位置,構造及び設備について,そ
の基本設計において,放射性物質の有する潜在的危険性を顕在化させな
い対策が適切に講じられているかどうかが審査されるというべきである。
なお,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審における証人
P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,安全審査においては,原子炉
設置許可申請者の実施した平常運転時における被ばく低減対策に係る被
ばく線量評価及び事故防止対策に係る安全評価の妥当性をも合わせて確
認していることが認められるが,これは,通常運転状態を超えるような
異常な事態をあえて想定した上で解析評価を行い,そのような事態にお
いても,当該原子炉施設の基本設計において事故防止対策のために考慮
された機器系統などの設計が妥当であることを念のために確認するため
のものであり,したがって,事故防止対策に係る安全設計が適切である
と判断したことが妥当であったか否かを念のため確認するために行われ
るものと解するのが相当である。すなわち,原子炉設置許可申請者の実
施した平常運転時における被ばく低減対策に係る被ばく線量評価及び事
故防止対策に係る安全評価は,当該原子炉施設の事故防止対策に係る設
計の妥当性を確認する一つの手法としてされるものであって,これによ
り原子炉施設の位置,構造及び設備が規制法24条1項4号に適合する
ことを確認することができるが,事故防止対策に係る設計それ自体を直
接の審査対象とするものではないから,たとえ同申請者の実施した上記
被ばく線量評価及び安全評価が誤っているとしても,これによって直ち
に同条1項4号に適合しなくなるものではないというべきである。
したがって,控訴人らの当該主張は,理由がなく採用することができ
ない。
(ウ)そして,上記前提となる事実によると,本件安全審査においては,
その基本方針及び審査事項として,①原子炉施設が設置される場所の地
盤,地震,気象,水理等の自然事象及び交通等の人為事象によって原子
炉施設の安全性が損なわれないような安全設計が講じられること,②平
常運転時に放出される放射性物質による一般公衆の被ばく線量が,原子
炉の設置,運転等に関する規則等の規定に基づき,許容線量等を定める
件2条に規定する許容被ばく線量(年間0.5レム)以下に抑えられて
いることはもちろんのこと,更に,それをできるだけ少なくするような
安全設計が講じられること,③平常運転時において,従事者が許容被ば
く線量を超える線量を受けないような放射線の防護及び管理が講じられ
ること,④原子炉の運転に際し,異常の発生を早期に発見し,その拡大
を未然に防止するような安全設計が講じられること,⑤原子炉の運転に
際し,機器の故障,誤操作等が発生しても,燃料の健全性,冷却材圧力
バウンダリの健全性等が損なわれないような安全設計が講じられること,
⑥原子炉冷却材を包含している冷却材圧力バウンダリの健全性が損なわ
れ,冷却材が喪失するような事故,炉心の反応度を制御している制御系
の健全性が損なわれ,反応度が異常に上昇するような事故等の発生を仮
定しても,事故の拡大を防止し,放射性物質の放出を抑制できるような
安全設計が講じられること,⑦重大事故及び仮想事故を仮定しても,そ
の安全防護施設との関連において,一般公衆の安全が確保されるような
立地条件を有していることなどを定め,本件原子炉施設が平常運転時は
もとより,万一の事故を想定した場合にも,一般公衆及び従事者の安全
が確保されるように,所要の安全設計等が講じられていることを確認す
ることとしたことが認められる。
さらに,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審における証
人P1,同P5及び同P6の各証言)及び弁論の全趣旨によると,本件
安全審査においては,原子炉施設の有する潜在的危険性を顕在化させな
いよう,いわゆる多重防護の考え方に基づいた各種の安全対策が講じら
れる必要があると判断されていること,その安全審査の内容を安全確保
対策の観点から整理すると,①原子炉施設の平常運転時における被ばく
低減に係る安全確保対策,②原子炉施設の自然的立地条件等に係る安全
性を含む原子炉施設の事故防止に係る安全確保対策,③原子炉施設の公
衆との離隔に係る安全確保対策の三つに分類することができるが,上記
②の原子炉施設の自然的立地条件等に係る安全性については,気象,水
理などの自然事象,交通等の人為事象,社会環境等に係る安全性の確保
が対象となり,そのうち特に原子炉施設の地質・地盤及び地震に係る安
全確保対策が重要であるとの観点から,これに重点を置いて本件安全審
査がなされていることが認められる。
上記認定の審査方針及び審査事項は,その内容にかんがみると合理性
があり,審査方針の樹立及び審査事項の選定自体には不合理な点はない
というべきである。
なお,上記1(5)及び4のとおり,上記審査方針及び審査事項に,本
件原子炉についての温排水の熱的影響,固体廃棄物の最終処分,使用済
燃料の再処理,輸送及び最終処分,廃炉,労働者被ばく並びに防災計画
等が含まれていないとしても,これらは原子炉設置許可に際しての安全
審査の対象となるものではないこと等から,いずれも本件訴訟の審理・
判断の対象となるものではない。
(エ)そこで,更に以下においては,争点である本件安全審査における,
①本件原子炉施設の平常運転時における被ばく低減対策,②本件原子炉
施設の事故防止対策,③本件原子炉施設の地質・地盤及び地震の安全対
策,並びに④本件原子炉施設の公衆との離隔の安全対策などの各判断に
ついて不合理な点があるか否かについて検討する。
(2)本件原子炉施設の平常運転時における被ばく低減対策に関する本件安全
審査の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点はあるか否
か。また,本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,
平常運転時における放射性廃棄物について,本件原子炉敷地周辺の公衆に対
する放射線障害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調査審
議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
ア審査基準に不合理な点があるか否か。
(ア)本件安全審査が基準とした公衆の線量当量限度は不当に高いもので
あるか否か。
①控訴人らは,安全審査会が平常運転時の公衆の許容被ばく線量値と
して採用した許容線量等を定める件2条所定の線量値である年間0.
5レムという数値は不当に高く,極めて危険であるので,本件安全審
査には瑕疵がある旨主張する。
,上記前提となる事実及び上記6(1)ウ(ア)の認定事実と証拠(甲1
118,119の①ないし④,120ないし122,152,154,
156,157,161,178の①ないし⑥,181,204ない
し207,乙12,13,21,22,46の①ないし⑦,47の①
ないし⑤,48,62の①ないし⑤,64の①ないし③,65の①②,
67の①ないし④,68の①ないし④,119ないし124,126,
いずれも原審における証人P2及び同P5の各証言)及び弁論の全趣
旨によると,以下の事実が認められる。
aICRPは,1954年(昭和29年)採択の勧告により,線量
制限について「可能な最低レベルまで引き下げる(tothelowe,」
stpossiblelevel)の考え方がとられ,電離放射線に対する被ば
くを可能な最低レベルまで引き下げる努力を払うべきであると説明
していた。
b次に,ICRPの上記6(1)ウ(ア)⑤の1958年(昭和33
年)採択の勧告においては,線量制限について「すべての被ば,
くを実行可能(達成可能)な限り低く保つべきこと(aslowas」
practicable。ALAP)の考え方がとられ,最大許容量は最大
の値で,あらゆる被ばく総量を実行可能な限り低く保ち,不必要
な被ばくはすべて避けるようにすると説明されていた。
cまた,ICRPの1965年(昭和40年)採択の勧告において
は「放射線防護の目的は,放射線の急性効果を防止し,かつ,晩,
発性効果の危険を認容できるレベルまで制限することである,。」
「放射線による白血病およびその他の型の悪性腫瘍の誘発機構はわ
かっていない「しきい線量の存在は不明であるため,どんな小。」,
さい線量でもそれに比例して小さい悪性腫瘍誘発の危険を伴うと仮
定されてきた。また,人における悪性腫瘍誘発の線量-効果関係の
本性に関する知識-特に放射線防護で問題とされる線量レベルでの
知識-が不足しているため,線量-効果関係が直線的であるという
仮定,および,線量は積算的に作用するという仮定に代わる実際的
な代案を持っていない「電離放射線への被ばくが含まれる活動。」,
をしないですまそうと望むのでない限り,ある程度の危険性が存在
することを認識しなければならず,かつ,考えられる危険が,この
ような活動から得られる利益からみて,その人および社会にとり容
認できると思われるレベルにまで放射線量を制限しなければならな
い「どんな被ばくでもある程度の危険を伴うことがあるので,。」,
委員会は,いかなる不必要な被ばくも避けるべきであること,およ
び,経済的および社会的な考慮を計算にいれた上,すべての線量を
容易に達成できるかぎり低く保つべきである」などと表明した上。
で,職業上の個人の全身被ばくについて,最大許容線量を年間5レ
ムとすること,公衆の構成員の被ばくについて「放射線作業者に,
対し容認できると考えられる線量と同程度の大きさの線量を公衆の
構成員が受けることは望ましくない。公衆の構成員中には子供,す
なわち成人より大きい危険にさらされるかも知れず,また全生涯を
通じて被ばくするかもしれない者を含んでいる。公衆の構成員は
(放射線作業者と異なり)被ばくするかしないかに関して選択の自
由がなく,かつ,その被ばくから直接的利益を何も受けないであろ
う。これらの人々は放射線作業に必要とされる人選,監督及びモニ
タリングを受けないし,また自身の職業の危険にさらされてい
る」とした上で,その全身被ばくの線量限度を年間0.5レム。
(ただし,公衆の構成員の線量限度を放射線作業者の値の10分の
1とすることについて,現在,放射線生物学上の知見が十分ではな
いので,この係数の大きさにはあまり生物学的な意義をもたせるべ
きではないとも指摘している)とすることを勧告した。。
そして,線量制限について「容易に達成できる限り低く(as,」
lowasreadilyachievable。ALARA)との考え方がとられ,
経済的及び社会的な考慮を計算に入れた上で,すべての被ばく線量
を容易に達成できる限り低く保つべきであると説明されていた。
dさらに,ICRPの1977年(昭和52年)採択の勧告におい
ては,放射線の影響を確率的影響と非確率的影響に区分した上で,
「放射線防護の目的は,非確率的な有害な影響を防止し,また,確
率的影響を否認できると思われるレベルにまで制限することにおく
べきである「(a)いかなる行為も,その導入が正味でプラスの。」,
利益を生むのでなければ,採用してはならない,(b)すべての被ば
くは,経済的および社会的な要因を考慮に入れながら,合理的に達
成できるかぎり低く保たれなければならない,(c)個人に対する線
量当量は,委員会がそれぞれの現状に応じて勧告する限度を超えて
はならない」ことをICRPの勧告する線量制限体系とする,全。
身均等照射による放射線誘発癌に関する死亡のリスク係数は,男女
及びすべての年齢の平均値として,1レム当たり約1万人分の1で
あるとICRPは結論するなどと表明した上,放射線作業者に関す
る線量等量限度について,高い安全水準の職業とは,職業上の危険
による平均年死亡率が1万人に1人を超えない職業と位置付け,放
射線作業者が年間5レム被ばくすると死亡率は1万人に5人となり,
他の安全な職業より危険になるおそれがあるが,実際には,年間0.
5レム程度の被ばくにとどまるので安全性は確保されるとして,そ
の全身均等照射による被ばくの線量限度を年間5レムとすること,
公衆の個々の構成員に対する線量当量限度については,一般公衆に
対する死のリスクの容認できるレベルは,職業上のレベルより1桁
低いと結論付けられ,年間10万ないし100万分の1の範囲の死
亡リスクは,公衆の個々の構成員にとっても容認できるから,公衆
の個々の生涯線量当量を,一生涯を通して年間0.1レムの全身被
ばくに相当する値に制限することを意味するが「公衆の個々の構,
成員に対して5ミリシーベルトという年線量当量限度を適用すると
き,公衆の被ばくをもたらすような行為は少ししかなく,決定グル
ープ外の人々の被ばくがほとんどないならば,平均線量当量は1年
につき0.5ミリシーベルトより低くなると思われる」などとし。
て,結局,従来どおり,年間0.5レム(5ミリシーベルト)とし,
生涯を通して年平均0.1レム(1ミリシーベルト)という全身線
量当量限度を用いることなどを勧告した。
そして,線量制限について「合理的に達成し得る限り低く(a,」
slowasreasonablyachievable。ALARA)との考え方がとら
れ,被ばく線量は,経済的及び社会的な考慮を計算に入れた上で,
合理的に達成し得る限り低く保つことと説明されていた。
eところで,ICRPは,1985年(昭和60年)のパリ会議に
おいて,上記1977年(昭和52年)採択の勧告で定められた生
涯を通しての年平均線量当量0.1レム(1ミリシーベルト)をよ
り確実に実行するためとして,公衆の構成員に対する実効線量当量
限度を年間0.1レム(1ミリシーベルト)とするが,生涯にわた
る平均の年実効線量当量が上記限度を超えることのない限り,1年
につき0.5レム(5ミリシーベルト)という補助的線量限度を数
年にわたって用いることができるとする旨の声明を出した。
fそして,ICRPは,これまでの多角的な研究成果を踏まえ,1
990年(平成2年)採択の勧告において,ICRPが,それまで
に明らかになった日本の原爆被ばく者の研究,新しい線量算定体系
であるDS86,UNSCEAR(国際連合放射線影響科学委員
会,BEIR(CommitteeontheBiologicalEffectsofIoniz)
ingRadiation・米国電離放射線生物影響委員会)等の機関による
研究等を評価し,致死癌の確率を推定した旨表明した上,職業人に
対する実効線量限度を,年間50ミリシーベルト(5レム)を超え
ないとの条件付きで,5年間の平均値が年間20ミリシーベルト
(2レム)とすること,公衆の個々の構成員に対する実効線量限度
を,年間1ミリシーベルト(0.1レム)とし,特殊の状況下では
5年間にわたる平均が年当たり1ミリシーベルトを超えなければ,
単一年ではもっと高い実効線量が許されることもあり得ること,妊
娠していない女性に関する職業被ばくの管理の基礎は男性の職業被
ばくの場合と同じであること,事故時等の緊急時の職業人に対する
線量限度を50レムとすることなどを勧告した。
なお,線量制限については,上記1977年(昭和52年)採択
の勧告のとおり,ALARAの考え方が維持された。
gこれまでICRPの勧告は,米国をはじめとして各国で尊重され,
その線量当量限度については,各国の法令にとり入れられている。
我が国では,ICRPの1958年(昭和33年)採択の勧告を
尊重し,昭和35年9月30日,科学技術庁告示第21号をもって
定められた許容線量等を定める件2条により公衆の許容被ばく線量
を年間0.5レムと定めた。そして,平常運転に伴う公衆の被ばく
線量を,上記許容被ばく線量より一層低く抑えるための努力が払わ
れてきたが,その努力目標値を明らかにすることが望ましいとの観
点から,昭和50年5月13日「線量目標値指針(乙12)が,」
定められ,放射性希ガスからのガンマ線による全身被ばく線量及び
液体廃棄物中の放射性物質に起因する全身被ばく線量の評価値の合
計値については,年間5ミリレム(0.005レム,放射性ヨウ)
素に起因する甲状腺被ばく線量の評価値については年間15ミリレ
ム(0.015レム)との努力目標値が明示され,この線量目標値
への適合性を判断する際の指針として,昭和51年9月28日に
「線量目標値評価指針(乙13)が定められた。」
h本件処分後,許容線量等を定める件については,昭和53年12
月28日科学技術庁告示第12号による改正があり「実用発電用,
原子炉の設置,運転等に関する規則の規定に基づく許容被曝線量等
を定める件(昭和53年12月28日通商産業省告示第665」
号)が制定された。
しかし,更に上記ICRPにおける1985年(昭和60年)パ
リ会議における公衆に対する線量当量限度を年間0.1レム(1ミ
リシーベルト)とし,生涯にわたる平均の年間線量がこれを超えな
い限り,年間0.5レム(5ミリシーベルト)という補助的線量限
度を数年にわたって用いることができる旨の声明を受けて「実用,
発電用原子炉の設置,運転等に関する規則の規定に基づく線量当量
限度等を定める告示(平成元年3月27日通商産業省告示第13」
1号)が制定され,公衆の線量当量限度を実効線量当量として,1
年間につき0.5レム(5ミリシーベルト)から0.1レム(1ミ
リシーベルト)に変更され,昭和53年12月28日通商産業省告
示第665号は平成元年3月21日限り廃止された。
iその後,更に平成13年3月21日,線量限度等を定める告示が
制定されて,平成13年4月1日から施行され「実効線量につい,
ては,1年間(4月1日を始期とする1年間をいう。以下同じ)。
につき1ミリシーベルト(同告示3条1項1号「前項第1号の」),
規定にかかわらず,経済産業大臣が認めた場合は,実効線量につい
て1年間につき5ミリシーベルトとすることができる(同告示。」
3条2項)と規定され,上記平成元年3月27日通商産業省告示第
131号は平成13年3月31日限り廃止されている。
②上記認定事実によると,本件処分当時の許容線量等を定める件2条
の許容被ばく線量値(年間0.5レム)は,ICRPの1958年
(昭和33年)採択の勧告を尊重し,昭和35年9月30日,科学技
術庁告示第21号をもって定められたものであるが,現在では許容線
量等を定める件は廃止され,上記許容被ばく線量値は採用されていな
いことが認められる。そして,ICRPが,上記1990年(平成2
年)採択の勧告のとおり,公衆の個々の構成員に対する実効線量限度
を,年間1ミリシーベルト(0.1レム,特殊の状況下では5年間に
わたる平均が年当たり1ミリシーベルトを超えなければ,単一年では
もっと高い実効線量が許されることもあり得る)とする考え方を採。
用し,また,我が国においても,線量限度等を定める告示が制定され
て,同告示3条1項1号において,実効線量については,1年間(4
月1日を始期とする1年間をいう)につき1ミリシーベルトと規定。
されていることにかんがみると,許容線量等を定める件2条の許容被
ばく線量値(年間0.5レム)は,現時点においては公衆の線量当量
限度としての合理性は乏しいというべきである。
しかし,上記前提となる事実によると,本件安全審査においては,
平常運転時に放出される放射性物質による一般公衆の被ばく線量が,
許容線量等を定める件2条に規定する許容被ばく線量(年間0.5レ
ム)以下であるのみならず,更に,それをできるだけ少なくするよう
な安全設計が講じられることを基本方針としていることが認められる。
そして,証拠(乙4,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣
旨によれば,線量目標値指針(乙12)所定の線量値(放射性希ガス
からのガンマ線による全身被ばく線量及び液体廃棄物中の放射性物質
に起因する全身被ばく線量の評価値の合計値については年間5ミリレ
ム,放射性ヨウ素に起因する甲状腺被ばく線量の評価値については年
間15ミリレム)を基準として設定し,実際には,これを公衆の線量
限度とした上,ALAPの精神に従って,可能な限り被ばく線量を低
下させるための対策が講じられているか否かを審査し,本件原子炉施
設による公衆に対する被ばく線量は,線量目標値指針の目標値を下回
り,全身被ばく線量の最大合計値は年間約0.005ミリシーベルト
(0.0005レム,0.5ミリレム)で,甲状腺最大被ばく線量に
ついては年間約0.014ミリシーベルト(0.0014レム,1.
4ミリレム)であることを確認し,上記線量当量限度をはるかに下回
るものである旨判断されていることが認められる。
そうすると,本件安全審査においては,許容線量等を定める件2条
の許容被ばく線量値(年間0.5レム)よりも更に厳しい基準を設定
して行われているので,ICRPの上記1990年(平成2年)採択
の勧告が定めている年間1ミリシーベルト(0.1レム)及び同様に
我が国の線量限度等を定める告示が規定する公衆の線量当量限度(年
間1ミリシーベルト)との対比においても十分低い値になっているも
のというべきであるから,控訴人らの上記主張は理由がない。
したがって,現時点では許容線量等を定める件2条の許容被ばく線
量値(年間0.5レム)の合理性が乏しく,また,ICRPの勧告に
定める線量限度の数値が改定され,しかも,我が国においても線量限
度等を定める告示が新たに制定されているものの,本件安全審査が実
際に基準とした公衆の線量当量限度はこれらが定める値よりはるかに
厳しいものであるから,本件安全審査が違法となるものではないとい
うべきである。
③もっとも,控訴人らは,aICRPの1958年(昭和33年)採
択の勧告が職業人に対する許容被ばく線量を年間5レムとした経緯は,
人間が子供を持つ平均年齢を30歳と想定し,集団にとって許容でき
る線量は30年間で6ないし10レムが上限であると考え,既に医療
行為に伴って照射されている線量を4.5レム程度と推定し,もし,
すべての人工放射線による線量の限度を6レムと定めるとすれば,既
に医療行為によって照射された4.5レムを差し引くと残りは1.5
レムとなってしまい,これでは原子力開発などで使うことのできる線
量がはなはだしく狭苦しくなってしまい,受け入れ困難な国があるの
で,医療上の被ばくは別に考えるとしたこと,bこのことは放射線防
護を使命とするICRPの立場からすれば本末転倒なことであること,
c職業人に対する許容被ばく線量を年間5レム,公衆に対し年0.5
レムとした生物学的な根拠はなく,ICRPは上記勧告において「勧
告されている最大許容被ばく線量は,最大の値であることが強調され
る」と申し訳していることから,ICRPが上記勧告を契機に,以後
興隆してきた原子力産業推進のための露払的立場を一層鮮明にしてい
る旨主張する。
しかし,ICRPが原子力産業推進のための露払的立場となってい
ることを具体的に裏付けるに足りる証拠はない。
のみならず,上記前提となる事実と証拠(甲1,118,119の
①ないし④,120ないし122,152,154,156,157,
161,178の①ないし⑥,181,204ないし207,乙12,
13,21,22,46の①ないし⑦,47の①ないし⑤,48,6
2の①ないし⑤,64の①ないし③,65の①②,67の①ないし④,
68の①ないし④,119ないし124,126,いずれも原審にお
ける証人P2及び同P5の各証言)及び弁論の全趣旨によると,aI
CRPは,中立かつ独立した国際機関であって,その委員は,国籍に
よってではなく,専門分野の適切な均衡を考え,放射線医学,放射線
防護学,保健物理学,生物学,遺伝学,生物化学及び生物物理学など
の放射線防護の分野における専門家をもって構成し,その姉妹委員会
である国際放射線単位・測定委員会との密接な連携のもとに作業を行
い,また,世界保健機関(WHO)及び国際原子力機関(IAEA)
と公的な関係を有し,国際連合放射線影響科学委員会(UNSCEA
R,国際連合環境プログラム,欧州協同体委員会,経済協力開発機)
構原子力機関,国際標準化機構,国際電気標準会議,国際放射線防護
学会等とも重要な関係を保っていること,bICRPは,線量当量限
度を勧告するに当たっては,しきい値がないものと仮定し,公衆の中
に放射線感受性の強い胎児や子供を含めた上,最新の科学的知見に照
らして,社会的に容認できる線量限度を勧告していること,cICR
Pの勧告する線量限度は「放射線被ばくを伴うどんな行為も,その,
行為によって,被ばくする個人又は社会に対して,それが引き起こす
放射線障害を相殺するのに十分な便益を生むものでなければ,採用す
べきでない(行為の正当化)ことを前提にし,行為による便益とそ」
れによる被ばくの影響とを比較して数値を定めるものであり,人体が
許容し得る限界値を示したものではないこと,dICRPの勧告は,
自然放射線をその考慮外とした上,行為で生ずる被ばくにより,何の
便益も得られない公衆に対する被ばくと,便益が得られる職業被ばく
又は医療被ばくとは,異なる扱いをし,診断や治療などによる医療被
ばくについては,通常個人に直接の便益をもたらすことを目的とする
ため,職業被ばく及び公衆被ばくによる線量限度とは扱いが相違する
として,医療被ばくには線量限度を適用すべきではないと勧告してい
ることが認められるから,控訴人らの上記主張はその前提を欠いてお
り理由がない。
また,控訴人らは,ICRPにおいては,上記1954年(昭和2
9年)採択の勧告では勧告値が最大限であって「可能な最低のレベ,
ルに」被ばくを抑えるべきとしていたものを,1958年(昭和33
年)勧告では「実行可能な限り低く」とし,1965年(昭和40
年)採択の勧告では「容易に達成できる限り低く」と,更に1977
年(昭和52年)採択の勧告では「合理的に達成し得る限り低く」と,
放射線防護の基本精神を押しのけ,経済的理由を全面に出して勧告値
の切下げを引き伸ばして,放射線防護を使命とする勧告の基本精神を
著しく後退させているから,ICRPの勧告を守っていれば安全性は
保たれるとの論理はもはや空論にすぎず,ICRPの勧告は今や完全
に破綻しているから,上記ICRPの1990年(平成2年)採択の
勧告による勧告値も,不必要に高すぎて危険であって,ICRPが安
全性の側に立って放射線防護のための勧告をしたとはいい難い旨主張
する。
しかしながら,証拠(乙21,62の①ないし⑤)及び弁論の全趣
旨によると,ALAPの表現が控訴人らの主張のとおり変化している
ものの,これは,表現をより具体的にしてより分かり易くし,その内
容をより明確にしようとするものであると認めることができ,そして,
上記のとおり,ICRPの委員は,放射線防護の分野における専門家
によって構成され,ICRPは,最新の科学的知見に照らして社会的
に容認できる線量限度を勧告しているものであり,本件安全審査にお
いても,上記②のとおり,ALAPの精神に従って,可能な限り被ば
く線量を低下させるための対策が講じられているか否かを審査してい
ることが明らかである。そして,上記6(1)ウ(ア)及び(2)ア(ア)①の
各認定事実に照らすと,ICRPの上記1990年(平成2年)採択
の勧告に係る実効線量限度をALAPの精神とともに用いる限りにお
いては,自然放射線の変動値以下であることからも,放射線被ばくに
よる危険を社会通念上容認できる水準以下に保つための基準として合
理的なものと解するのが相当であるから,控訴人らの当該主張を採用
することはできない。
④したがって,本件安全審査が基準とした公衆の線量当量限度は不当
に高いものではないというべきである。
(イ)「線量目標値指針」の線量目標値に合理性があるか否か。
①控訴人らは,線量目標値指針(乙12)所定の線量値(放射性希ガ
スからのガンマ線による全身被ばく線量及び液体廃棄物中の放射性物
質に起因する全身被ばく線量の評価値の合計値について年間5ミリレ
ム,放射性ヨウ素に起因する甲状腺被ばく線量の評価値については年
間15ミリレム)についても,合理性のない危険なものである旨主張
する。
しかし,上記(ア)①の認定事実によると,ICRPの1990年
(平成2年)採択の勧告が,公衆の個々の構成員に対する実効線量限
度を,年間1ミリシーベルト(0.1レム)としている上,本件安全
審査においては,ALAPの精神に従って,可能な限り被ばく線量を
低下させるための対策が講じられているか否かが審査されていること
が認められるので,現在の科学水準に照らしても,本件安全審査にお
いて用いられた線量目標値が不合理なものではないというべきである
から,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
②また,控訴人らは,線量目標値指針によると,a原子力発電所周辺
の公衆の被ばく線量は,全身につき年間5ミリレム,甲状腺に対する
放射性ヨウ素に起因する被ばくが年間15ミリレムと定められている
が,この目標値が仮に達成されたとしても,原子力発電所周辺の公衆
が30年間全身に被ばくする量は,0.15レムとなり,これは19
62年(昭和37年)に国際連合放射線影響科学委員会が報告した人
類の突然変異の倍加線量である年間15レムの1%に相当するので,
周辺住民が遺伝的に障害を被る危険性が極めて高くなり,原子力発電
所周辺の集団に遺伝質の劣化をもたらすものであること,b白血病そ
の他の癌についても,癌の倍加線量は約10レム相当であるから,年
間5ミリレムの被ばくは倍加線量の0.05%に相当し,癌に罹患す
る確率が1年間に0.05%ずつ,20年間で1%,50年間で2.
5%増加する結果となり,更に甲状腺癌の倍加線量は,20ラド(ほ
ぼ20レムに等しい)であるから,甲状腺への年間15ミリレムの。
被ばくは0.075%となり,1年ごとに甲状腺癌に罹患する確率が
0.075%増加し,20年間では1.5%,50年間では実に3.
75%に増大すると予測されることから「線量目標値指針」による,
目標値は,晩発性障害防止の観点からみても危険な数値であるので合
理性がない旨主張する。
しかし,上記6(1)ウ(ア)及び(2)ア(ア)①の各認定事実並びに弁論
の全趣旨によると,ICRPにおいては,低線量における被ばく線量
と人体への影響については解明されていないため,人体への影響が無
視できる程度である年間の公衆への線量限度が示され,線量目標値が
定められているとともに,安全を重視して比例関係が成り立つと仮定
していることが認められるから,控訴人らの主張のように被ばく線量
と遺伝的障害の発生が比例関係にあって,更に年毎にそれが累積され
るという合理的な根拠はないというべきである。のみならず,証拠
(乙61の①ないし③,122,123)及び弁論の全趣旨によると,
倍加線量については,低線量による被ばくによって人体の一部の遺伝
子や細胞に影響が起きたとしても,修復される作用があること,本件
原子炉施設においては,線量目標値指針が定める公衆の被ばく線量よ
りはるかに小さい数値の低線量であること,そして,1962年(昭
和37年)の国際連合放射線影響科学委員会が報告した人類の突然変
異の倍加線量である年間15ラドは,動物実験に基づくものであるが,
1988年(昭和63年)の同委員会報告書においては,原爆等の被
ばくデータに基づく分析結果として人に対する遺伝的影響については,
有意な差は認められないと報告されていることが認められるので,控
訴人らの上記主張はその前提を欠いており失当である。
(ウ)「線量目標値指針」及び「線量目標値評価指針」の基準並びに「発
電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被曝線量評価につ
いて」の報告書に不合理な点がないか否か。
①控訴人らは,a裁判所においては,具体的審査基準につき,単に不
合理な点があるか否かだけを審査すべきものではなく,安全性を審査
するに足りる十分な合理性を有するか否かを審査すべきであること,
b本件安全審査に用いられた線量目標値指針(乙12)及び線量目標
値評価指針(乙13)の基準並びに「発電用軽水型原子炉施設の安全
審査における一般公衆の被曝線量評価について」の報告書(乙91)
は,限られた核種についてのみ評価することとしているものであり,
また,いまだ確立されていない被ばく評価の方法であって,評価方法
によって,平常運転時の被ばく評価に関する数値はいくらでも変わり
得るものであるから,基準として甚だしく不十分であることから,本
件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,上記1(4)及び6(1)のとおり,規制法に基づく審査基準の
決定,審査基準への適合性の判断については,各専門分野の学識経験
者等を擁する原子力委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を
尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねられているところ,
具体的にどのような審査方針を樹立し,どのような事項について審査
を行うかについては,その専門技術的知見を総合して決すべき事項で
あり,しかも,具体的にどの程度の安全性のレベルをもって原子炉設
置を相当とする基準とすべきかの点についても,多方面にわたる極め
て高度な最新の科学的,専門技術的知見を踏まえた総合的な判断が必
要であるから,本件安全審査の調査審議において用いられる具体的審
査基準の策定は,内閣総理大臣及び原子力委員会の合理的な判断にゆ
だねられているものというべきである。そして,線量目標値指針及び
線量目標値評価指針の基準並びに「発電用軽水型原子炉施設の安全審
査における一般公衆の被曝線量評価について」の報告書の各内容を具
体的に不合理とすべき特段の事情はないというべきであるから,控訴
人らの上記主張は理由がない。
②もっとも,控訴人らは,線量目標値評価指針は,原子力委員会にお
いて本件申請の審査途中の昭和51年9月28日に定められ,これに
合わせて東京電力の本件補正がなされたものであるところ,本件補正
における本件申請書の本文及び添付資料の放射性廃棄物に関する推定
発生量及び被ばく線量評価の一部の大幅な変更についての合理的な説
明はないので,データの出所,正確性などに疑問があるのみならず,
被ばく評価の方法もいまだ確立していないことを示唆するものである
から,線量目標値指針及び線量目標値評価指針の基準並びに「発電用
軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被曝線量評価につい
て」の報告書は,いずれも原子炉施設の安全性を審査する基準とはな
らない旨主張する。
しかし,控訴人らの上記主張内容はそれ自体一般的かつ抽象的であ
り,具体的な裏付けを欠くものであるのみならず,放射性廃棄物の推
定発生量等に関する知見は,科学技術の発展とともに不断に進歩,発
展し,新しい知見が発見されていることにかんがみると,上記推定発
生量に関する数値に変動があるからといって,直ちに,恣意的な変更
であるということはできない。むしろ,線量目標値指針等の設定,改
正の経緯は上記(ア)のとおりであって,それぞれ科学的根拠を有する
ものである。そして,内閣総理大臣の本件申請に対する原子炉設置許
可処分がなされるまでの間,東京電力が必要に応じて本件申請書記載
内容の補正を行うことは適法というべきであって,線量目標値評価指
針を踏まえ,放射性廃棄物の推定発生量及び被ばく線量評価の一部を
見直すことは合理性があるから,控訴人らの当該主張は失当である。
③そして,上記前提となる事実によると,本件安全審査においては,
線量目標値指針及び線量目標値評価指針の基準並びに「発電用軽水型
原子炉施設の安全審査における一般公衆の被曝線量評価について」の
報告書を活用した上,本件原子炉施設が,その基本設計において,平
常運転時の被ばく低減対策が適切に講じられていることを判断してい
るものであって,その調査審議において用いられた具体的審査基準に
不合理な点はないというべきである。
さらに,上記前提となる事実によると,線量目標値指針及び線量目
標値評価指針については,それぞれ各平成元年3月27日及び平成1
3年3月29日にそれぞれ一部改訂がなされていることが認められる。
しかし,弁論の全趣旨によると,同改訂後の「発電用軽水型原子炉
施設周辺の線量目標値に関する指針」では「発電用軽水炉施設の通,
常運転時における環境への放射性物質の放出に伴う周辺公衆の受ける
線量を低く保つための努力目標として,施設周辺の公衆の受ける線量
についての目標値(以下「線量目標値」という)を実効線量で年間。
50マイクロシーベルトとする「ここで設定した線量目標値は,。」,
周辺監視区域外の線量限度及び周辺監視区域外における放射性物質の
濃度限度の規制値に代わるものではなく,いわゆる「aslowasread
ilyachievable」の考え方に立って周辺公衆の受ける線量を低く保つ
ための努力目標値であるこの線量目標値が達成できないことをもって,
運転停止,出力制限等の措置を必要とするような安全上の支障がある
と解すべきものではない」としているので,上記一部改訂によって。
上記認定判断が左右されるものではないというべきである。
(エ)小括
以上のとおり,上記前提となる事実により認められる本件原子炉施設
の平常運転時における被ばく低減対策に関する本件安全審査の審査内容
にかんがみると,上記調査審議において用いられた具体的審査基準に不
合理な点はないというべきである。
イ本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,平常運
転時における放射性廃棄物について,本件原子炉敷地周辺の公衆に対する
放射線障害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調査審議
及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
(ア)気体廃棄物の被ばく線量評価について
①間欠放出による気体廃棄物の過少評価の有無について
控訴人らは,a本件原子炉の運転起動の際,短い時間に大量の排気
を行うことが必要となるが,希ガスホールドアップ装置を使用できな
いので大量の放射性物質をそのまま周辺に放出することになること,
bこの間欠放出の際の気体廃棄物について,本件安全審査においては,
先行炉実績を参考にして,間欠放出1回当たりの放射性物質の放出量
を1000キュリー,年間放出回数5回(合計年間5000キュリ
ー)としているが,その根拠はあいまいであり,先行炉の1回の放出
量1000キュリーの実績自体あいまいであって,信頼することがで
きないこと,c本件原子炉と同型の福島第一原発3号機,浜岡原発1
号機,敦賀原発の昭和51年度の間欠放出回数は,それぞれ9,10,
7回であり,その後も事故による運転停止,再起動が相次いでいるこ
とに照らすと,その年間放出回数を5回とするのは合理性を欠いてい
ることから,間欠放出による気体廃棄物が過少評価されている旨主張
する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙3,4,13,45,92
の①ないし④)及び弁論の全趣旨によると,a本件原子炉施設におけ
る気体廃棄物の放出量は,線量目標値評価指針のとおり,海外等の原
子力発電所の運転実績を参考にし,復水器内から連続的に抽出される
空気中に含まれるものとして約2万8000キュリー,真空ポンプの
運転により間欠的に放出される空気中に含まれるものとして5000
キュリー,換気設備から連続的に放出される空気中に含まれるものと
して約1万7000キュリー等(合計年間約5万キュリー)と想定され,
全希ガス漏洩率が毎秒1キュリーのときの真空ポンプ運転1回当たり
の放出量を2500キュリー,運転回数を5回として,年間放出量を
1万2500キュリーとし,これに全希ガス漏洩率である毎秒0.4
キュリーを乗じて算出されたものであること(乙3,4,13,b)
本件安全審査当時の昭和50年度における福島第一原発における気体
廃棄物の放出実績は,同原発1号機から3号機までの3基(合計電気
出力約203万kW)の放出実績を合計しても1万6000キュリー
にすぎないこと(乙45,c平成3年度の本件原子炉も含めた我が)
国における沸騰水型原子炉の気体廃棄物の放出実績は,ほとんど検出
限界以下,又は極めて低い値となっていること(乙92の①ないし
④)が認められる。
そうすると,本件安全審査においては,被ばく線量の評価に際し,
本件原子炉施設に係る気体廃棄物の推定発生量を,間欠放出による気
体廃棄物(年間合計5000キュリー)を含めて年間約5万キュリー
と高めに想定し,本件原子炉施設から環境に放出される気体廃棄物の
量につき,全体の年間の放出量に基づいて被ばく線量を評価して十分
低い数値となることが確認されており,被ばく線量の評価は合理的な
ものであるというべきであるから,間欠放出の放出量及び放出回数に
関する本件安全審査の上記判断の過程に看過し難い過誤,欠落がある
とは認めることができない。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
②放射性ヨウ素の被ばく線量評価の合理性の有無について
控訴人らは,本件安全審査において,平常運転時に本件原子炉施設
から放出される放射性ヨウ素について,希ガスと違って人体や生物体
などに付着し取り込まれ,濃縮されるから,公衆に対する被ばく線量
は,付着,沈着に比して飛躍的に増大し,特に,ヨウ素131の場合,
大気中の濃度に比べ,牧草では200万倍以上となるにもかかわらず,
その濃縮を考慮した被ばく線量評価が欠落している旨主張する。
しかし,控訴人らの上記主張は,具体的根拠及び経路を示さないで
放射性物質の濃縮を主張するものであるのみならず,ヨウ素131の
場合には大気中の濃度と比べ牧草において200万倍以上濃縮される
とする根拠も明らかではない。
しかも,上記前提となる事実と証拠(乙3,4,13,124,原
審における証人P5の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全審
査においては,平常運転時に本件原子炉施設から放出される放射性ヨ
ウ素について,気体廃棄物及び液体廃棄物中の各ヨウ素が呼吸,葉菜,
牛乳及び海産物を介して,成人,幼児及び乳児にそれぞれ摂取される
とした場合における甲状腺被ばく線量を評価しており,その際,空気
中又は海水中のヨウ素濃度,空気中のヨウ素が葉菜あるいは牛乳に移
行する割合,海産物の濃縮係数,呼吸等により人体に摂取されたヨウ
素が甲状腺に移行する割合等も考慮した評価を行っていることが認め
られるから,本件安全審査における上記判断の過程に看過し難い過誤,
欠落があるとは認めることはできない。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
③粒子状放射性物質の被ばく線量評価の合理性の有無について
控訴人らは,本件安全審査においては,a平常運転時に本件原子炉
施設から放出される気体廃棄物中に含まれるコバルト60,マンガン
54,ストロンチウム90,セシウム137等の半減期の長い粒子状
放射性物質についての被ばく線量評価が行われておらず,安全審査に
おける被ばく線量評価は部分的なものにすぎないこと,b微粒子状放
射性廃棄物がフィルタによってこれらの物質が容易に除去されるとい
うのは何ら根拠がないこと,c動燃の東海再処理工場アスファルト固
化処理施設において,平成9年3月11日に発生した動燃事故により
施設外にセシウム,プルトニウム,アメリシウム等の放射性物質が大
量に漏洩したが,火災発生後わずか7分で「高性能フィルタ」が目詰
まりして機能喪失になり,最大想定事故の場合においてフィルタが健
全であることを前提に安全審査をするのは非現実的で不合理であるこ
とから,本件安全審査は誤っている旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙4,13,91,125)
及び弁論の全趣旨によれば,a本件原子炉施設から放出されるコバル
ト60等の粒子状放射性物質はいずれも固体状の物質であり,気体状
の物質にはならないため気体中に混入するものはごく微量であり,ま
た,気体中に移行したものについても放射性廃棄物廃棄設備に設けら
れたフィルタによって容易に除去できるため,本件原子炉施設から環
境に放出される気体廃棄物中に含まれる粒子状放射性物質の量は極め
て微量であること,b本件安全審査において,本件原子炉施設から放
出される気体廃棄物中に含まれる粒子状放射性物質について具体的な
線量評価を行わなかったのは,これらの放射性物質の食物中ないし人
体内における濃縮を考慮してもなお,その被ばく線量は無視できる程
度にすぎず,厳しい条件を設定した公衆の被ばく線量評価上は,特に
これを取り上げて具体的に計算,評価するまでもないと判断されたた
めであること,c粒子状放射性物質の除去性能については,JISに
おいても放射性エーロゾル用高性能エアフィルタの捕集効率が99.
97%以上と規定されているので(乙125,これを考慮して安全)
審査がなされていることが認められ,このような安全審査は合理的で
あるというべきであるから,本件安全審査における上記判断の過程に
看過し難い過誤,欠落があるとは認めることができない。
なお,動燃は,平成10年10月1日,核燃料サイクル開発機構と
なった(平成10年法律第62号附則2条。)
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
(イ)液体廃棄物の被ばく評価について
①液体廃棄物に関する被ばく評価と原子力発電所による環境汚染の有
無について
a控訴人らは,(a)本件安全審査においては,トリチュウムの年間
放出量を100キュリー,それ以外を1キュリーとし,放水口にお
ける濃度を用いて被ばく評価をし,その放射性物質に起因する全身
被ばく線量が年間0.3ミリレムとなるとしているが,全希ガス漏
洩率,すなわち炉心燃料被覆管の欠陥率については,破損事故が多
発しており,本件安全審査における推定値が原発稼働期間中に維持
されるとは到底考えられず,破損率の増加は直ちに冷却材中の放射
性物質濃度の増加につながること,(b)原子炉施設の汚染は進行し
ており,処理を要する液体状廃棄物は増加の一途をたどっており,
環境汚染の大きな要因になっていること,(c)除染係数についても,
本件安全審査では設計上の数値をそのまま用いているが,機器設備
に発生している故障例,事故からすると,その信頼性は極めて低い
ことから,本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,控訴人らの上記主張は,本件原子炉施設の稼働後の将来
の破損事故や故障例などを仮定した上で,本件安全審査の前提とな
っている数値を批判するにすぎないものであるから失当である。の
みならず,上記6(1)のとおり,原子炉設置許可に際しての規制法
24条1項4号所定の要件適合性の安全審査は,原子炉施設の位置,
構造及び設備(規制法23条2項5号)について,その基本設計に
おいて,原子炉施設から排出する放射性物質を可及的に少なくし,
これによる災害発生の可能性を社会通念上容認できる水準以下に保
つような方策が講じられているかどうかについて行われるべきもの
であるから,控訴人らの当該主張はその前提を欠いているというべ
きである。
bまた,控訴人らは,本件安全審査に当たり,東京電力の本件申請
を本件補正により核種組成を変更したが,この変更に当たって,魚
介類,海藻類の生体濃縮係数については,格段の根拠もなく10分
の1低い値を採用するなど,その評価の手法は極めて恣意的である
ので,本件安全審査においては,要求される結論としての公衆の被
ばく線量がまず措定され,この線量にとどめるべく,放射線量が導
かれている疑いがある旨主張する。
しかし,被ばく線量に関する知見は,科学技術の発展とともに不
断に進歩,発展し,新しい知見が発見されていることにかんがみる
と,魚介類,海藻類の生体濃縮係数につき変動があるからといって,
直ちに,恣意的な変更であるということはできないから,控訴人ら
の上記主張は理由がない。
cさらに,控訴人らは,本件安全審査の被ばく評価は,既存の原子
力発電所周辺の汚染の実態と大きく齟齬し,明らかに過小であって,
既存原子力発電所周辺の魚介類や海藻類などの汚染状況調査の結果
は,液体状放射性物質の放出については過小な数値にとどまらない
から,ICRPの各勧告及び許容被曝線量を定める件2条の年間0.
5レムの基準にも反する旨主張する。
しかしながら,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,12,
13,原審における証人P5の証言)及び弁論の全趣旨によると,
本件安全審査においては,人体に対する主要な被ばく経路として,
(a)気体として放出された放射性物質が空気中に拡散している間に
これから放出される放射線による外部被ばく,(b)気体として放出
された後,地表に沈着した放射性物質から放出される放射線による
外部被ばく,(c)気体として放出された放射性物質を吸入したり,
これらが付着した農作物等を摂取することによる内部被ばく,(d)
液体として放出された放射性物質から放出される放射線によって遊
泳中や漁業活動中に受ける外部被ばく,(e)液体として放出された
放射性物質を取り込んだ海産物を摂取することによる内部被ばくを
検討し,これらのうち,放射性希ガスから放射されるガンマ線によ
る外部全身被ばく,ヨウ素に起因する内部甲状腺被ばく,液体とし
て放出された放射性物質に起因する内部全身被ばくを対象として公
衆の被ばく線量評価を行っていること,このような審査の方法がと
られたのは,上記放射性希ガスから放射されるガンマ線による外部
全身被ばく,ヨウ素に起因する内部甲状腺被ばく,液体として放出
された放射性物質に起因する内部全身被ばくが主要なものであり,
このような主要な被ばく経路についての定量的な評価による線量値
が十分低ければ,その他の影響が小さく,被ばく線量評価の対象と
しなかった経路の被ばく線量による寄与分を考慮してもなお,全体
として十分低く抑えられるものとの判断に基づいて,被ばく低減対
策に関する安全審査が行われたためであること,そして,本件安全
審査の被ばく評価においては,許容被曝線量を定める件2条所定の
線量当量限度はもとより,線量目標値指針に定められた線量目標値
も下回るものと判断されたことが認められる。そこで,このような
安全審査に不合理な点はないというべきであるから,本件安全審査
における上記判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとは認める
ことができない。
したがって,控訴人らの上記主張は採用することはできない。
②洗濯廃液の評価の合理性の有無について
控訴人らは,a110万kW級の原子力発電所である本件原子炉
施設の洗濯廃液の発生量1日当たり10ないし15mは過小値で

あり,特に停止時や定期点検時に多くの排出があるので信用できな
いこと,bそれに含まれる放射性物質の量(0.55キュリー毎
年)には根拠がないこと,c廃水に含まれる主な放射性物質は11
種あるが,ストロンチウムなどについては計測分析されていないこ
とから,本件安全審査は,具体的に上記評価をした形跡はなく,ま
た,線量目標値評価指針自体洗濯液量も定式的な基準ないし計算モ
デルがあるものではないとされているので,具体的な根拠を欠く不
合理なものである旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙3,4,13,91,原
審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,a本件原
子炉の洗濯廃液の発生量については,先行炉である福島第一原発1
号機の実績に基づき,1日当たり15mと想定されたこと,b同

発電所1号機の昭和47年度から昭和49年度までの実績では,1
日当たり10m以下にすぎないこと,c洗濯廃液中の放射性物質

の量は,先行炉の実績等から判断すると非常に少なく,1cm当

たり約0・0001マイクロキュリーとされ,本件安全審査におい
ては,これに洗濯廃液の年間の発生量を乗じて,洗濯廃液に起因す
る放射性物質の量を年間0.55キュリーと想定されたこと,d液
体廃棄物は連続放出ではないため,実際には,被ばく線量評価上の
主要核種であるコバルト60,マンガン54等の放射性物質の濃度
を放出毎に測定することとしており,廃液中の放射性物質の放射能
量を的確に把握して,液体廃棄物中の放射性物質の放出量を年間1
キュリー以下(トリチウムは100キュリー以下)の精度で管理し
ていることが認められる。
したがって,控訴人らの上記主張はその前提を欠いているので失
当であり,本件安全審査における上記判断の過程に看過し難い過誤,
欠落があるとは認めることはできない。
③機器ドレン廃液の環境流出に関する被ばく線量評価の合理性の有無
について
控訴人らは,本件安全審査において,原子炉施設の配管のバルブ,
ポンプ等から漏れ出る機器ドレン廃液が1滴も環境に放出されないと
いう前提で被ばく評価が行われているが,機器ドレン廃液の流出につ
いては,今日の機械工学の技術からも防止できないものであり,流出
経路が原子炉建家・タービン室のみでなく,液体廃棄物貯蔵施設その
他あらゆる配管・タンクが予想され,洗濯廃液のように冷却海水放出
路には限らないから,今日の工業技術・管理を無視した本件安全審査
は著しく不合理である旨主張する。
しかし,上記前提となる事実によると,本件原子炉施設の基本設計
においては,機器ドレン廃液は,収集タンクに集められ,クラッド除
去装置及び濾過装置を経て放射化生成物を含む固形分が取り除かれ,
更に,イオン状の不純物を取り除くための脱塩装置を経て,復水貯蔵
タンクに送られ,処理水は,原子炉の冷却材等として再使用されるこ
とになっていることが認められるから,機器ドレンが環境に放出され
ないという前提で被ばく評価が行われた本件安全審査に不合理な点は
なく,その判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとは認めること
はできない。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
④濃縮係数の合理性の有無について
控訴人らは,a液体廃棄物の被ばく線量評価は,汚染水が復水器冷
却水に年間を通じて平均的に希釈されるという前提に立っているが,
液体廃棄物の放出は間欠的であり,特に定期検査時に放出される液体
廃棄物における放射性物質の濃度(汚染度)は通常よりも高く,その
放出時期によっては生体への影響に差が生ずるにもかかわらず,年間
を通して復水器冷却水に平均的に希釈されるとして被ばく線量評価を
行っているのは不当であること,b濃縮は,核種によりまた海産物の
種類により大きく異なるが,放出される核種の挙動については今日も
ほとんど知られておらず,具体的データにも乏しいのみならず,放出
核種は海水に平均して拡散されるものではなく,水あかに付着し比較
的浅瀬の海底上に沈着するので,海底地形や海流,植生などの要素に
よってもその実態は大きく異なり,短期間の実験や調査で実態を把握
するのは不可能であること,c全身内部被ばく線量評価(人体に摂取
された核種の各器官への移行による被ばく評価)は,1959年(昭
和34年)のICRPの推測値によっているが,この推測値自体極め
て古く,かつ原爆データの不完全な分析しかなく,また原子力発電所
も存在しない時代のものであって信頼することができないことから,
本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙13,49の①ないし④)
及び弁論の全趣旨によれば,a本件安全審査においては,公衆の被ば
く線量が十分低く抑えられるようになっているかどうかを判断するに
つき,公衆の年間の累積被ばく線量を評価するために,一様の連続放
出を仮定することは,専門技術的観点からも十分合理的であるとされ
ていること,b本件安全審査において使用された濃縮係数は,線量目
標値評価指針(乙13)に従い,P15らの濃縮係数総合報告書から
引用した値が用いられていること,c同報告書は,過去の広い範囲か
ら得られた多数の元素の測定値を総合してまとめあげたもので,我が
国の研究者による成果も多数取り入れられていること,d同報告書に
とりまとめられた濃縮係数は,広い範囲から得られた多数の測定値か
らその平均レベルを求めたものであること,e本件安全審査で使用さ
れた濃縮係数には,上記報告書のうち,放射性核種の濃縮係数をとら
ず,一般にそれよりも濃縮係数が高くなる安定元素の濃縮係数を採用
し,また,海産物の摂取量については,日本人は欧米人に比べ海草類
の摂取量が多いことを考慮した評価を行っていることが認められる。
したがって,本件安全審査において用いられた濃縮係数が不合理で
あるということはできず,その判断の過程に看過し難い過誤,欠落が
あるとは認めることはできないから,控訴人らの上記主張は失当であ
る。
⑤放出放射性物質の濃度の合理性の有無について
控訴人らは,本件安全審査においては,液体廃棄物が一様に連続放
出されると仮定して評価しているが,液体廃棄物の放出は間欠的であ
り,特に定期検査時に放出される液体廃棄物における放射性物質の濃
度は通常よりも高くなり,季節により海水浴などによる被ばくも多く
なるにもかかわらず,年間を通して復水器冷却水に平均的に希釈され
るとして被ばく線量評価を行っているので,本件原子炉施設の周辺住
民の安全側に配慮してなされた評価ではない旨主張する。
しかし,上記6(2)ア(ア)のとおり,ICRPにおいても,実効線
量限度を年平均線量をもって勧告する等しているのであって,液体廃
棄物の一様な連続放出を仮定した本件安全審査の判断が科学的に不合
理であるとはいえず,また,本件原子炉において,液体廃棄物におけ
る放射線物質の濃度がこのような仮定を不当とする程高くなり得ると
認められるような証拠もないから,液体廃棄物の一様な連続放出を仮
定した本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると認
めることはできない。
したがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
⑥核種組成の合理性の有無について
控訴人らは,本件安全審査においては,バリウム140,ラタン1
40,ジルコニウム51,ニオブ95,セリウム141などの核種の
被ばく線量評価を行っていないが,これらの核種の排出とこれによる
敷地周辺の公衆の被ばくも無視することはできない上,これら核種の
濃縮や挙動なども十分解明されていないので,これら核種の被ばく評
価をしていないのは不当である旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙3,4,13,91)及び
弁論の全趣旨によると,安全審査においては,被ばく線量評価は,各
核種の量と濃縮係数に基づき行われるが,主要核種の被ばく線量評価
の際に,主要核種以外の核種の被ばく線量評価を包含するような条件
を設定して計算されるものであること,本件安全審査における液体廃
棄物中の放射性物質の主要な核種組成については,運転保守の形態,
処理水の運用による変動,想定した核種以外にも放出される核種を包
含するよう配慮した上,先行炉の運転実績に基づき,主要な各核種の
濃縮係数と被ばく線量への換算とを考慮して,全体として被ばく線量
の計算結果が厳しい条件で行われるよう定められたものであること,
本件安全審査においては,液体廃棄物に含まれる核種のうち量が最も
重く,かつ全身被ばくに支配的なものとして11核種をとり上げて定
量的な被ばく評価をすれば,本件原子炉施設の安全性を確認するのに
十分であると判断され,液体廃棄物中に含まれる放射性物質による全
身被ばく線量が年間約0.2ミリレムであると評価されたことが認め
られるから,上記主要11核種以外の核種について定量的評価をしな
かった本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると認
めることはできない。
もっとも,控訴人らは,先行炉である敦賀原発の液体廃棄物核種別
実績(1975年(昭和50年)4月から1977年(昭和52年)
3月)では,半減期が長く濃縮係数も高いコバルト60,マンガン5
4の各構成比がそれぞれ平均47,50%であるが,本件安全審査で
はそれぞれ30,40%として評価されているので,これは被ばく線
量の評価結果が小さくなるように意図的に計算したものであることか
ら,本件安全審査には合理性がない旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙3,4,13,91,93
の①ないし③)及び弁論の全趣旨によると,敦賀原発の核種組成は,
本件安全審査における核種組成と比較して,コバルト60及びマンガ
ン54の割合は大きいが,反面,被ばく線量への寄与の大きい鉄59
等の他の核種の割合は小さいため,仮に,上記実績に基づいて本件原
子炉施設の被ばく線量を評価した場合には,全体としては本件安全審
査で確認した被ばく線量値よりも小さい数値となること,そこで本件
安全審査においては,各核種の濃縮係数と線量への換算係数を考慮し,
被ばく線量の計算結果が安全側になるように核種組成を定めたことが
認められ,上記核種組成比につき意図的に計算したと認めるに足りる
証拠もないから,液体廃棄物中の放射性物質の核種組成に関する本件
安全審査が不合理であるということはできない。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
⑦トリチウムの審査の有無について
控訴人らは,a本件安全審査において,トリチウムはすべて液体状
で海水に希釈されて海に流されるものとし,海産物による濃縮はなく
(係数1,したがって人体に対する影響はないとしているので,ト)
リチウムの危険性を過小評価している上,トリチウムの挙動が複雑で,
また研究途上で明確なデータもないため,十分な評価をしていないこ
と,b本件安全審査では,トリチウム3Hの放出量について,先行炉
の実績に基づいて年間100キュリーとしているが,この先行炉は一
切不明であり,当時の原子力委員会報告においては,先行炉としてサ
ンオレノフ等の実績が報告されているものの,サンオレノフ炉は加圧
型原子炉であり,本件原子炉より一般に放射性核種の排出の小さい原
子炉であるにもかかわらず,その先行炉のトリチウム年間放出量は2
400から4570キュリーであって,本件申請に係る100キュリ
ーの平均35倍であることから,本件安全審査には看過できない過誤,
欠落がある旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,126,12
7,原審における証人P5の証言)及び弁論の全趣旨によると,aト
リチウムは,放出される気体廃棄物の中に含まれる量と被ばく経路を
考えると,気体中の被ばく線量は十分小さいので,気体として被ばく
線量評価の対象とすることは相当ではないこと(乙126,bトリ)
チウムについては,生物によって濃縮されないことは,国際的に広く
知られていること(乙127,c本件安全審査においては,沸騰水)
型原子炉である本件原子炉施設におけるトリチウム放出量に関しては,
先行炉である米国のオイスタークリーク等の沸騰水型原子炉の実績に
照らすと,年間数十キュリーであることから,評価上トリチウムによ
る被ばく線量値が大きくなるよう,年間100キュリーと評価してい
ること,d本件安全審査における公衆の被ばく線量評価においては,
主要な被ばく経路についての定量的な評価による線量値が十分低けれ
ば,その他の影響が小さく被ばく線量評価の対象とならない経路の被
ばくによる寄与分を考慮してもなお,全体として十分低く抑えられる
ものと判断できることを踏まえて公衆の被ばく線量評価を行ったもの
であることが認められる。
そうすると,トリチウムの評価に関する本件安全審査の判断は合理
的であって,その過程に看過し難い過誤,欠落があると認めることは
できず,トリチウムに関する審査が不十分であったとはいえないから,
控訴人らの上記主張は失当である。
(ウ)ムラサキツユクサの研究結果と被ばく線量評価の合理性の有無につ
いて
控訴人らは,aP3教授が,ムラサキツユクサを用いて昭和45年か
ら昭和51年にかけて,ガンマー圃場におけるKU7株とKU9株につ
いて,ガンマ線を照射して突然変異数を調べ,線量と突然変異数は直線
比例関係にあることを確認し,最低線量は720ミリレントゲン(レ
ム)であったと報告し,P16の研究においても,250ミリレムまで
直線比例関係が確認され,更に中性子線については10ミリラドまで比
例関係が確認されたとの報告がなされていること,bP3教授の実験結
果は,湿度,降雨,日照,自動車の排気ガス等の突然変異の諸要因を十
分に検討した極めて正確なものであるので,原子力発電所の平常運転時
における環境放射線量は,100ないし300ミリレムに相当する突然
変異率を示しており,線量,目標値の年間5ミリレムをはるかに超える
放射線が環境に放出されている疑いがあることから,本件安全審査の際
における平常運転時の被ばく線量評価は不合理である旨主張する。
しかし,証拠(甲161,163,168,170ないし173,乙
21,26,原審におけるP3の証言)及び弁論の全趣旨によると,a
ムラサキツユクサの雄しべの毛は青色を呈しているが,特別な系統を用
いれば突然変異が起こった場合ピンクに変わるので,これをとらえるこ
とができる可能性があること,bしかし,この雄しべの毛の細胞は,放
射線のみならず,温度,降雨,日照,農薬,自動車排気ガス等の諸要因
にも極めて敏感で,高い感受性を示すため,ムラサキツユクサを用いた
野外での実験によって,その雄しべの毛の細胞における突然変異の発生
に対する放射線の寄与を正確に把握することは,現実的にはほとんど不
可能に近く,仮に,可能であるとしても,そのためには,実験の方法や
実験結果の解析の方法等を極めて慎重かつ緻密に行わなければならない
こと,cP3教授は,ムラサキツユクサを用いた野外での実験において,
突然変異率の上昇の原因を原子炉施設から放射されるヨウ素であると推
論するものの,その推論を裏付けるための空気中の放射能濃度の測定や
ムラサキツユクサ中の放射能測定を行って突然変異率との関係を分析す
るということは行われておらず,ヨウ素の定量的評価はできていないこ
とが認められるから,P3教授の実験結果をもって,直ちに本件安全審
査における被ばく評価に誤りがあると断定することはできない。
したがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
(エ)放射線管理設備の審査の有無について
控訴人らは,a本件原子炉施設における放射線管理施設は何ら機能し
ていないし,同施設に対する本件安全審査も不十分であること,b本件
申請書及びその添付書類には,(a)外部放射線量の監視のため,モニタ
リングポイント18か所(3か月毎に読み取り,モニタリングポスト)
9か所,モニタリングステーション3か所を設置すること,(b)周辺環
境試料の放射線監視のため,陸水,海水,海底土,土壌,農畜産物,海
洋生物について年2回分析を行うこと,(c)異常放出があった場合に,
モニタリングカーにより本件原子炉敷地周辺の放射線測定を行うこと等
の記載があるが,各周辺放射線監視設備の数及び設置場所,構造及び性
能についての記載はなく,また,放射能が異常放出された場合に使用さ
れるというモニタリングカーについての性能や積載機器の性能も明らか
にされていないことから,放射線管理システム機能の欠如を看過した本
件安全審査の判断の過程には看過し難い過誤,欠落がある旨主張する。
しかし,上記1(2)のとおり,モニターの詳細な数及び設置場所,構
造及び性能は詳細設計に関する事項であるというべきであって,基本設
計の安全性にかかわる事項ではないから,安全審査の対象外である。
そして,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,126,原審に
おける証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,a本件安全審査に
おいては,本件原子炉施設の平常運転時における被ばく低減対策に関し,
第1に,本件原子炉施設は,その平常運転に伴って環境に放出される放
射性物質の量を抑制できる対策がとられていること,第2に,本件原子
炉施設の平常運転に伴って環境に放出される放射性物質からの放射線に
よる公衆の被ばく線量が適切に評価され,かつ,その評価値は許容被ば
く線量である年間0.5レムを下回ることはもちろんのこと,線量目標
値指針が定める線量目標値を下回ることとなっていることがいずれも確
認された上,原子炉施設の平常運転に伴って環境に放出される放射性物
質の量,環境中における線量率等をそれぞれ的確に監視することのでき
る放射線管理設備が設けられているかどうかが確認されたこと,b本件
原子炉施設については,(a)気体廃棄物に関しては,活性炭式希ガスホ
ールドアップ装置の前後にそれぞれ放射線量を連続的に監視する放射線
モニターが設けられること,及び排気筒から環境への放出量を連続的に
監視するために排気筒に放射線モニターが設けられること,(b)液体廃
棄物に関しては,環境に放出する前に放射性物質の濃度が十分低いこと
を確認するため,いったんサンプルタンクに貯留し,放射性物質の濃度
をサンプリングして測定する設備が設けられること,及び復水器の冷却
水放水路につながる排水管に放射性物質の放出量を連続的に監視する放
射線モニターが設けられること等がそれぞれ確認されたこと,(c)環境
中の線量率等の監視については,本件原子炉施設の周辺にモニタリング
ポスト等の線量率等を測定する設備が設けられること等が確認された結
果,本件原子炉施設には,その平常運転に伴って環境に放出される放射
性物質の放出量,環境中における線量率等をそれぞれ的確に監視するこ
とのできる放射線管理設備が設けられると判断されたこと,(d)放射性
希ガスによる実効線量当量については,主要核種であるガンマ線を評価
すれば足りるものであって,本件原子炉施設の平常運転時における被ば
く低減対策として,すべての放射性物質による放射線を完全に監視する
ことのできる放射線管理設備が設けられる必要まではないものと考えら
れること,(e)本件安全審査においては,本件原子炉施設に気体廃棄物
を監視する放射線モニター,液体廃棄物を監視する放射線モニター等が
設置され,本件原子炉施設の周辺には,環境中の線量率等を監視するた
めのモニタリングポスト9基等が設置されていることが確認され,これ
によって主要な放射線を監視することが可能であると考えられることが
認められる。
したがって,放射線管理設備に関する本件安全審査の判断には不合理
な点はなく,その過程に看過し難い過誤,欠落があると認めることはで
きないから,控訴人らの上記主張は失当である。
(オ)小括
以上のとおり,上記前提となる事実にかんがみると,本件原子炉が具
体的審査基準に適合し,その基本設計において,平常運転時における放
射性廃棄物について,本件原子炉敷地周辺の公衆に対する放射線障害の
防止上支障がないものとした本件安全審査における調査審議及び判断の
過程には看過し難い過誤,欠落があるとは認められない。
(3)本件原子炉施設の事故防止対策に係る本件安全審査の調査審議において
用いられた具体的審査基準に不合理な点はあるか否か。また,本件原子炉が
具体的審査基準に適合し,その基本設計において,事故防止対策に係る安全
性を確保し得るもの,すなわち,事故防止対策との関連において,原子炉等
による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調査審議及
び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
ア審査基準に不合理な点があるか否か。
(ア)事故防止対策に係る審査基準について
①上記前提となる事実によると,本件原子炉施設の事故防止対策に係
る本件安全審査の調査審議においては,原子力委員会が指示したaE
CCS安全評価指針(乙11,b安全設計審査指針(乙14)の各)
指針が用いられ,また,安全審査会が作成したa「沸騰水型原子炉に
用いる8行8列型の燃料集合体について(乙78,b「沸騰水型」)
原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法について,c」
「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法の適
用について,d「発電用軽水型原子炉の反応度事故に対する評価方」
法について(甲37,乙130,e「取替炉心検討会報告書」の」)
各報告書が活用されたことが認められる。
②ところで,上記前提となる事実と証拠(甲31ないし33,38,
45,乙94,95,129,131,136,140,141)及
び弁論の全趣旨によると,本件処分後において,原子炉施設の事故防
止対策に関係するものとして,(a)新安全設計審査指針(平成2年8
月30日原子力安全委員会決定。一部改訂平成13年3月29日同委
員会,(b)安全評価審査指針(昭和53年9月29日原子力委員会)
策定(甲33,一部改訂平成元年3月27日原子力安全委員会,平)
成2年8月30日同委員会決定(乙94。一部改訂平成13年3月)
29日同委員会,(c)重要度分類指針(平成2年8月30日原子力)
安全委員会決定,(d)ECCS性能評価指針(昭和56年7月20)
日原子力安全委員会決定。一部改訂昭和63年5月19日・平成2年
8月30日・平成4年6月11日同委員会(乙141,(e)反応))
度投入事象評価指針(昭和59年1月19日原子力安全委員会決定
(甲38。一部改訂平成2年8月30日同委員会(乙131,)))
(f)「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策とし
てのアクシデントマネージメントについて(平成4年5月28日原」
子力安全委員会決定。一部改正平成9年10月20日(乙136,))
(g)「燃料被覆管は機械的に破損しないこと」の解釈の明確化につ「
いて(昭和60年7月18日原子力安全委員会了承(甲45。一」)
部改訂平成2年8月30日同委員会(乙129,(h)「我が国の))「
安全確保対策に反映させるべき事項」について(審査,設計及び運転
管理に関する事項《基準関係の反映事項は除く(昭和55年6月》)」
23日原子力安全委員会決定(甲31,(i)「我が国の安全確保))「
対策に反映させるべき事項」について(昭和56年7月23日原子」
力安全委員会決定(甲32,(j)「原子力発電所等周辺の防災対))
策について(昭和55年6月原子力安全委員会作成。一部改訂平成」
元年3月(乙95・平成4年6月・平成10年11月・平成11年)
9月・平成12年5月・平成13年3月・同年6月・平成14年4月
・同年11月・平成15年7月同委員会。ただし,平成12年5月に
表題を「原子力施設等の防災対策について」に改めた,(k)「沸。)
騰水型原子炉に用いられる9行9列型の燃料集合体について(平成」
6年3月3日原子力安全委員会了承(乙140)などが定められて)
いること,しかし,これらは,いずれもそれまでの原子炉施設の知見
の蓄積を踏まえて,それらを整理,成文化されたものであり,本件安
全審査の基礎とされた本件処分当時の知見にその後の新しい科学技術
上の知見等からみて誤りであったものとして,全く新たな指針等を策
定したものではないことが認められる。
(イ)ECCS安全評価指針の合理性について
控訴人らは,ECCS安全評価指針(乙11)においては,冷却材喪
失事故時にECCS(非常用炉心冷却装置)が炉心の冷却可能な形状を
維持しつつこれを冷却し,もって放射性物質の環境への放出を十分抑制
することができるかを評価するに際しての具体的な判断基準として,
「(1)燃料被覆管温度の計算値の最高値は,1200℃以下でなければ
ならない(以下「基準(1)」という。(2)燃料被覆管の全酸化量の計。)
算値は,酸化前の燃料被覆管の厚さの15%以下でなければならない
(以下「基準(2)」という。(3)炉心で,燃料被覆管が水と反応して。)
発生する水素の量は,格納容器の健全性を確保するために十分低くなけ
ればならない(以下「基準(3)」という。(4)炉心形状の変化をも考。)
慮して,長半減期核種の崩壊熱の除去が長期間にわたって行われること
が可能でなければならない(以下「基準(4)」という」の4項目が。)。
示されているが,これらについては,(a)冷却材喪失事故時に燃料被覆
管に作用する応力の大きさに係る基準がないこと,(b)燃料被覆管の脆
化に係る基準がないこと,(c)水素の発生量に係る基準が抽象的である
ことなどから,燃料被覆管破損防止の基準としては不十分である旨主張
する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の五4(一))。
しかし,証拠(乙1ないし4,11,14,原審における証人P1の
証言)及び弁論の全趣旨によれば,(a)安全設計審査指針(乙14)は
「指針40.非常用炉心冷却系1.非常用炉心冷却系は,想定される
配管破断による冷却材喪失事故に対して,燃料及び燃料被覆の重大な損
傷を防止でき,かつ,燃料被覆の金属と水との反応を十分小さな量に制
限できる設計であること」と定めていること,そして,(b)まず,冷。
却材喪失事故時に燃料被覆管に作用する応力であるECCSによる冷却
材注入時に発生する熱応力等については,燃料被覆管の最高温度及び酸
化量がそれぞれ基準(1)及び(2)において定める1200℃及び燃料被覆
管の厚さの15%を下回っていれば,燃料被覆管の脆化は十分に抑えら
れるので,燃料被覆管は,この応力に対しても十分に冷却可能な形状と
して維持されることが,実験により確認されていること(乙11の95
0頁,次に,(c)冷却材喪失事故時に燃料被覆管に作用する応力であ)
る燃料被覆管の内外圧力差によって発生する応力については,この応力
によって生ずる燃料被覆管の膨れ及び破裂による変形を考慮して基準
(1)及び(2)への適合性を評価すれば足りると解されること,また,(d)
燃料被覆管の脆化については,その脆化の程度は酸化量に依存し,その
酸化量は過度の温度上昇により急激に増加するので,酸化量及び温度が
上記各制限値を下回れば,燃料被覆管の脆化は十分に抑えられるから,
酸化量及び温度に係る基準は,脆化に対する基準と評価できるとされて
いるので,別途燃料被覆管の脆化に係る基準を設ける必要はないこと,
(e)格納容器内の水素の濃度(水素は,一般に,その濃度が4vol%以
上で,かつ,酸素の濃度が5vol%以上の状態で燃焼を生じる可能性が
あるので,格納容器の健全性の確保の観点からは,格納容器内の水素濃
度を4vol%未満に抑えるか,又は酸素濃度を5vol%未満に抑える必要
がある(乙3の8-109頁)は,燃料被覆管の水とジルコニウム。)
反応によって発生する水素の量以外にも,格納容器の大きさ,可燃性ガ
ス濃度制御系の性能等ECCS以外の設備設計等に依存するものである
から,水素の濃度を抑えるためには,水素の発生量を主たる基準として
設ける合理性はなく,基準(3)で十分であることが認められる。
そうすると,ECCS安全評価指針は,燃料被覆管破損防止の基準と
しても合理性があるというべきであるから,控訴人らの上記主張は失当
である。
(ウ)小括
以上のとおり,上記前提となる事実により認められる本件原子炉施設
の事故防止対策に関する本件安全審査の審査内容にかんがみると,上記
調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点はないという
べきである。
イ本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,事故防
止対策に係る安全性を確保し得るもの,すなわち,事故防止対策との関連
において,原子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審
査における調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
(ア)炉心燃料部の健全性の有無について
①炉心燃料部材の適格性について
a控訴人らは,核燃料や燃料被覆管をとり巻く環境条件が,一般工
業材料に比して量的にも質的にも厳しいところ,(a)炉心燃料部材
であるジルカロイ-2,ジルカロイ-4,ステンレス鋼,インコネ
ル-X等は不適格な材料であること,(b)燃料被覆材として用いら
れているジルカロイ-2は,放射線照射による機械的,化学的変化
や,高温,高圧に対する機械的性質の変化,冷却材等による化学反
応の変化などの点で必ずしも優れた特性を有しているものではなく,
しかも,他の工業分野での使用実績もないので,いまだ試用段階,
実験段階にあるので,炉心材料として不適格であることから,本件
安全審査には瑕疵がある旨主張する(原判決第二編第一章第六節第
二款第二の二2(一)(二)。)
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審におけ
る証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全審査にお
いては,(a)本件原子炉施設において使用される核燃料の濃縮度は
平均で約2.2%の低濃縮のものであること(乙1の6,7頁,乙
2の8ー1-2頁,8-3-77頁,乙4の9頁,(b)本件原子)
炉は,軽水型原子炉(BWR)であって,核分裂反応の割合が増大
して燃料及び冷却水の各温度が上昇すれば,それに伴って核分裂反
応が抑制されるという性質があるから,燃料の健全性に影響を及ぼ
す出力の振動は生じないこと,(c)燃料ペレットとの熱膨張差によ
る燃料被覆管の機械的損傷防止策として,平常運転時における燃料
の単位長さ当たりの発熱量(線出力密度)が,燃料被覆管が損傷を
起こすおそれの生じる83kW/mを十分に下回る44kW/m以
下に抑えられていること(乙3の8-172ないし175頁,乙4
の28,29頁,(d)燃料被覆管の焼損防止については,定格出)
力(電気出力約110万kW)で運転中における最小限界出力比が,
燃料被覆管を焼損させないための限界値1.07を十分に上回る1.
19以上に設計されていること(乙3の8-172ないし175頁,
乙4の28,29頁,(e)内圧や外圧等による燃料被覆管の機械)
的損傷防止については,使用される燃料被覆管が十分な強度をもっ
て設計されていること(乙2の8-3-4ないし14頁,乙3の8
-6ないし8頁,8-59ないし60頁,乙4の29頁,(f)燃)
料被覆管材料としてのジルカロイ-2については,燃料被覆管破損
の確率が非常に低く,耐食性に優れた金属であって,その使用実績
により十分に安全であることが確認されたこと(乙1の7頁,乙2
の8-3-4頁,乙3の8-146ないし149頁,乙31の30
頁)から,本件原子炉施設で使用される燃料被覆管は,その基本設
計において,熱的,機械的,化学的影響によってその健全性が損な
われることがない,余裕のあるものであると判断されていることが
認められる。
bそして,証拠(乙1ないし4,16,19,30の①②,31,
32,78,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によ
ると,(a)現在では軽水炉(BWR,PWR)の燃料は,ジルカロ
イ(Zr合金)で被覆された低濃縮の二酸化ウラン(UO)であ2
ることが基本となっているが,このジルカロイについては,195
0年代後半に商業用軽水炉が出現して以来,中性子の吸収が少ない
こと,強度や延性が大きいこと,中性子照射による性能劣化が小さ
いこと,冷却材に対する耐食性に優れていることなどが総合的に判
断された結果,燃料被覆管の材料として最適のものとされて一貫し
て使用され,加速的に増える使用実績によって今や,他に代え難い
材料となっていること,(b)沸騰水型原子炉(BWR)に使用され
たジルカロイ-2被覆管燃料棒は,1974年(昭和49年)9月
までに81万本使用されているが,被覆管に損傷を生じた燃料棒は,
0.76%程度であり,その間にも各種材料について種々の開発,
研究が行われ,1973年(昭和48年)に改良型7行7列配列の
燃料集合体,1974年(昭和49年)に本件原子炉と同様の8行
8列配列の燃料集合体が採用されて以降,損傷率は非常に少なくな
っており,また,実用8行8列配列の燃料集合体は,本件申請当時
には既に米国,スペイン及びスウェーデンで使用されていたこと,
(c)ジルカロイ-2,ジルカロイ-4,ステンレス鋼,インコネル
-Xなどの炉心燃料部材も,過去の経験から沸騰水型原子炉の条件
に十分適合でき,原子炉の運転中にその設計目的を十分満足できる
旨報告されていたことが認められる。
cしたがって,炉心燃料部材の適格性に関する本件安全審査の判断
に不合理な点はなく,控訴人らの上記主張はその前提を欠いており
理由がない。
②平常運転時の炉心燃料部の健全性について
a控訴人らは,本件申請に係る燃料ペレットについて,焼結温度1
450℃から1700℃において製造されるため,運転中の燃料ペ
レットの中心温度が焼結温度以上の高温になると,焼結が一層進み,
燃料ペレットの密度が高くなって体積が縮むという焼きしまり現象
が生じることが予想され,その結果,燃料ペレットと燃料被覆管,
燃料ペレットと燃料ペレットとの熱伝達を低下させ,燃料ペレット
に発生した熱が冷却材に伝わることを妨げ,燃料ペレットの中心温
度を上昇させて燃料溶融の危険性が生ずる旨主張する(原判決第二
編第一章第六節第二款第二の二3(一)(1)ア。)
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,30の①②,
31,32,78)及び弁論の全趣旨によると,(a)燃料ペレット
の内部は,高温度となり,また急な温度勾配があるところ,197
0年(昭和45年)の初め,加圧水型原子炉(PWR)の一部で,
燃料棒の部分がつぶれているものが発見されたが,これは,照射下
で生じる燃料ペレットの密度の上昇現象である焼きしまり現象と分
かったこと,(b)その後,焼きしまり現象に対する研究が進められ,
加圧水型原子炉の燃料の場合,燃料ペレットの密度,焼結温度を上
昇させるなどの防止策を講じたこと,(c)燃焼ペレットの焼きしま
り現象に対する安定性の研究の結果,初期密度が高く,結晶粒が大
きく,ボイドも小数の大きいものとすれば焼きしまりにくいことが
見い出され,焼結温度を高めるなどの製造上の配慮がなされている
こと,(d)本件原子炉のような沸騰水型原子炉(BWR)の燃料の
場合は,もともと焼きしまり現象を生じ難い燃料ペレットが使用さ
れているなどの理由から,燃料棒のつぶれにまでは至っていないこ
と,(e)本件原子炉においても,燃料ペレットの密度を約95%の
高密度に焼結するとともに,照射中の焼きしまりを小さくするよう
製造方法を配慮していることが認められる。
したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。
b次に,控訴人らは,(a)燃料ペレットについては,1000℃を
超える急激な温度勾配があるので,砂時計状に変形するなどし,燃
料被覆管が竹筒状に変形して破損するおそれがあること,(b)核分
裂による気体状及び固体状の核分裂生成物が燃料ペレット内に蓄積
し,燃料ペレットの体積が増大するという照射スエリング現象によ
って,燃料被覆管が影響を受け,破損するおそれがあることから,
炉心燃料部の健全性が欠如している旨主張する(原判決第二編第一
章第六節第二款第二の二3(一)(1)イウ。)
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,30の①②,
31,32,78,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣
旨によると,(a)平常運転時における燃料の単位長さ当たりの発熱
量(線出力密度)については,上記①認定のとおり,燃料被覆管が
損傷を起こすおそれの生じる約83kW/mを十分に下回る約44
kW/m以下に抑えられ,本件原子炉施設には,燃料ペレットとの
熱膨張差による燃料被覆管の機械的損傷防止策が施されていること,
(b)本件原子炉においては,燃料ペレットの変形のおそれを前提に
した上,燃料ペレットの変形に基づく燃料被覆管の局所的な歪みに
よる損傷を減少させる対策として,短尺チャンファ付ペレットを使
用し,強度及び延性の点で優れたジルカロイ-2を燃料被覆管材と
していること,(c)燃料ペレットと燃料被覆管との間に0.23㎜
の間隔が設けられているので,熱膨張と照射スエリングによって燃
料被覆管に過大な歪みが生じないように配慮され,燃料ペレットの
),膨張等に備えていること(乙2の8-3-7頁,乙3の8-7頁
(d)更に燃料被覆管の歪みの限界を,燃料ペレットと燃料被覆管の
間隔と照射された試料についての試験結果から安全と判断された1
%としていることが認められる。
そうすると,控訴人らの上記主張は理由がないというべきである。
cまた,控訴人らは,燃料被覆管について,中性子等の照射によっ
て,耐力,張力等の強度が増加する反面,延性が著しく減少するた
め,燃料被覆管の脆性破壊(塑性変形を伴わない破壊)の原因とな
る旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の二3(一)
(2)ア。)
しかし,燃料被覆管については,上記①のとおり,燃料被覆管の
部材として最適とされ,安全面においても実績のあるジルカロイ-
2が使用されているから,控訴人らの上記主張はその前提を欠いて
おり失当である。
dそして,控訴人らは,燃料の燃焼の進行とともに冷却材圧力を受
け,徐々に燃料被覆管の外径が減少するクリープ現象によって,燃
料被覆管が細く変形し,ついには延性破壊(塑性変形後の破壊)の
原因となる旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の二
3(一)(2)イ。)
しかし,証拠(乙1ないし4,30の①②,31,32,原審に
おける証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,(a)沸騰水型
原子炉における燃料被覆管は,クリープ現象を考慮しても,外圧に
よって挫屈を起こすことがないよう燃料被覆管の肉厚対半径比を十
分大きくするとともに,製造時に燃料被覆管の偏平率を小さく抑え
ており,過去の実績でもクリープ圧潰を起こしたことがないこと,
(b)本件申請に係る8行8列配列の燃料の場合,従来の7行7列配
列の燃料より肉厚対半径比を大きくし,クリープ圧潰に対する余裕
が大きくなっていること(乙2の8-3-14頁,乙3の8-8
頁)が認められる。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がなく失当である。
e加えて,控訴人らは,長尺の細い管である燃料被覆管の一部に楕
円状のものが混じることは避けられず,こうした楕円状の燃料被覆
管は,管内外の圧力差等の力学的作用によって楕円度を進行させ,
ひいては燃料棒の座屈損傷の原因となる旨主張する(原判決第二編
第一章第六節第二款第二の二3(一)(2)ウ。)
しかし,ジルカロイ-2は,上記①のとおり,これまで燃料被覆
管の材料として最適のものとされて一貫して使用され,加速的に増
える使用実績によって,今や他に代え難い材料となっていることに
照らすと,控訴人らの上記主張は採用することができない。
fまた,控訴人らは,燃料被覆管が,冷却材や核分裂生成物等によ
って腐食し,その進行,拡大によって,腐食疲労,応力腐食割れ等
の現象を引き起こし,燃料被覆管を破断させる原因となる旨主張す
る(原判決第二編第一章第六節第二款第二の二3(一)(2)エ。)
しかし,上記①のとおり,燃料被覆管については,その部材とし
て耐食性に優れ,安全面においても実績のあるジルカロイ-2が使
用され,しかも,各種材料について種々の開発,研究が行われた結
果,ジルカロイ-2被覆管燃料棒の損傷率は非常に少なくなってい
るので,控訴人らの上記主張はその前提を欠いており失当である。
もっとも,控訴人らは,(a)安全評価審査指針(甲33,乙9
4)において,運転時の異常な過渡変化の判断基準につき「燃料被
覆管は機械的に破損しないこと(同指針4.1.1の(2))と規」
定されていること,(b)本件原子炉施設において使用される燃料被
覆管の材料であるジルカロイ-2には,核分裂生成物であるヨウ素
によって応力腐食割れが発生するので,ジルカロイ-2の機械的な
破損は一定の割合で避けられないこと,(c)「燃料被覆管は機械「
的に破損しないこと」の解釈の明確化について(昭和60年7月」
18日原子力安全委員会了承(甲45)においても,上記(a)の)
指針4.1.1の(2)の意味を「燃料被覆管に対する機械的な負荷
によって貫通性損傷が系統的には生じないこと」と定め,その基準
を狭めて解釈していることに照らすと,本件安全審査においては,
ジルカロイ-2の耐食性,安全性については確認されていないから,
燃料被覆管が冷却材や核分裂生成物によって腐食し,その,進行・
拡大によって腐食疲労,応力腐食割れなどの現象が起こる性質を看
過している旨主張する。
しかしながら,証拠(甲33,45,乙94,129)及び弁論
の全趣旨によると「燃料被覆管は機械的に破損しないこと」の,「
解釈の明確化について(昭和60年7月18日原子力安全委員会」
了承(甲45)においても,ジルコニウム合金の応力腐食割れ現)
象については「これまでに行われた出力急昇試験データをもとに,
検討した結果,現行の炉型及び燃料については運転時の異常な過渡
変化時にこの現象により燃料の系統的損傷が生ずる可能性は十分小
さいと考えられることから,評価指針において燃料の損傷の判断基
準を現状では変更する必要はないと判断する」と明記され,その。
後の「燃料被覆管は機械的に破損しないこと」の解釈の明確化に「
ついて(一部改訂平成2年8月30日原子力安全委員会(乙12」
9)においても同内容が維持されていることが認められるから,)
応力腐食割れに関して安全評価審査指針の解釈が狭められたことは
ないというべきである。
しかも,上記「燃料被覆管は機械的に破損しないこと」の解釈「
の明確化について(甲45,乙129)においては「燃料被覆」,
管は機械的に破損しないこと」の具体的な判断基準として,燃料被
覆管の円周方向の平均塑性歪は1%以下であることについて,その
1%の塑性歪を与える指標として熱的指標である燃料被覆管の表面
の単位面積から単位時間当たりに原子炉冷却材に伝わる熱の量から
換算して求めた線出力密度を用いる方法がとられていることにつき
妥当であると判断していることが明らかである。そして,上記前提
となる事実と証拠(乙1ないし4,原審における証人P1の証言)
及び弁論の全趣旨によると,本件安全審査においては,運転時の異
常な過渡変化の解析について熱的指標から求めた同様の判断基準を
用いて換算して求めた線出力密度を検討し,その基準を満たしてい
ることが確認されていること(乙4の28,29頁)が認められる
から,この点に関する本件安全審査は合理性があり,控訴人らの上
記主張は失当である。
gさらに,控訴人らは,(a)燃料棒とスペーサが接触し,擦れあっ
て生ずるフレッティング腐食によって燃料被覆管が損傷するおそれ
があること,(b)燃料棒の膨張がスペーサにより拘束されることに
よって燃料被覆管が屈曲したりするおそれがあること,(c)炉心燃
料部における圧力損失や不安定圧力により燃料棒が過熱して破損す
るおそれのあることを主張し,炉心燃料部の健全性が欠如している
旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の二3(一)(2)
オ。)
しかし,証拠(乙1ないし4,78,原審における証人P1の証
言)及び弁論の全趣旨によると,(a)沸騰水型原子炉に用いられて
いるスペーサは,過度なフレッティング腐食を起こさないことが実
験及び照射実験で確認されていること,(b)本件原子炉の燃料棒は,
上部タイプレート,下部タイプレート及びスペーサにより,水平方
向の変位が抑えられているが,熱膨張若しくは照射成長による軸方
向の伸びは,上部タイプレートを通して自由に逃げられるようにな
っているところ,スペーサを支持するウォータロッドについては,
他の燃料棒と同じ材料を用い,軸方向の伸びは他の燃料棒と同じく
上部タイプレートを通じて自由に逃げられるようになっており,更
にスペーサについては,上記軸方向の伸びを拘束し,曲がりを発生
させることのないようにその接触圧を考慮していること(乙2の8
-3-13,14頁,乙3の8-8頁,(c)燃料棒については,)
上記①のとおり,燃料被覆管の部材として最適とされ,かつ安全面
においても実績があって他に代え難い材料であるジルカロイ-2が
使用され,また,本件原子炉と同様の8行8列配列の燃料集合体が
採用されて以降,各種材料について種々の開発,研究が行われ,そ
の損傷率は非常に少なくなっていること等が認められる。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がなく失当である。
③多発する燃料棒に関する異常事象と対策の遅れの有無について
a敦賀原発及び福島第一原発等において発生した燃料棒及び燃料集合
体に関する異常事象について
(a)控訴人らは,我が国の敦賀原発及び福島第一原発等や諸外国の
原発において,燃料棒及び燃料集合体について,これまで多くの
ピンホール(目に見えないほど微少な孔)やひび割れ事象,つぶ
れ事象,曲がり事象並びに破損事象が発生しているが,これらの
異常事象の大部分はいまだにその原因がはっきりしないので,適
切な対策はほとんど講じられていないから,本件安全審査におい
ても,本件原子炉の炉心燃料部の健全性が確認されていない旨主
張する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の二3(二)。)
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,30の①
②,31,32,78)及び弁論の全趣旨によると,控訴人らの
主張に係る敦賀原発及び福島第一原発において発生した燃料被覆
管のピンホール及びひび割れは,燃料ペレットと燃料被覆管との
,相互作用(PCMI)によるものであることが判明していること
そして,本件安全審査当時も,ピンホール及びひび割れについて
は,既に上記PCMIや,燃料被覆管内に残留する湿分から発生
する水素によって燃料被覆管が脆化するいわゆる水素脆化に起因
するものであることは,既に判明していたので(乙78,これ)
を踏まえて安全審査が行われていること,このため,本件申請に
係る8行8列配列の燃料については,燃料ペレットの形状を工夫
し,燃料の被覆管の延性の向上を図る熱処理の方法がとられ,更
に燃料棒の製造工程で,燃料被覆管の水素化による損傷が生じな
,いように,燃料棒内の水分を十分低く抑えるように管理された上
,プレナム部にゲッターと呼ばれる水分と反応しやすい物質を入れ
燃料被覆管の水素化を抑える工夫がなされていること(乙2の8
-3-13,14頁,乙31の34頁,乙32の19頁,そし)
て,燃料ペレットと燃料被覆管との相互作用については,上記②
bのようにペレットの変形等に基づく被覆管の局所的な歪による
損傷を減少させる対策として,短尺チャンファ付きペレットの使
用,延性の大きい再結晶焼きなまし被覆管材の使用等の考慮がな
されていること(乙2の8-3-14頁)が認められる。
したがって,本件原子炉においては,上記PCMI及び水素脆
化による燃料被覆管のピンホール等への対策がなされているとい
うべきである。
(b)そして,証拠(乙1ないし4,9,30の①②,31,32,
,78,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると
,控訴人らが主張する敦賀原発及び福島第一原発以外の事象である
美浜原発及び関西電力株式会社大飯原子力発電所のほか,スイス
及び米国等の各原発の各事象については,いずれも本件原子炉と
は異なる加圧水型原子炉(PWR)にかかわるものであって,沸
騰水型原子炉(BWR)である本件原子炉の炉心燃料部の健全性
の問題には直接関係しないものであり,しかも,これらの事象に
ついても,その原因が究明された上,既に防止対策がとられてい
ることが認められる。
(c)したがって,控訴人らの主張する我が国や諸外国の燃料棒及び
燃料集合体に関するピンホールやひび割れ事象,つぶれ事象,曲
がり事象並びに破損事象の存在については,本件原子炉の炉心燃
料部の健全性に影響を与えるものではないというべきである。
b本件原子力発電所において発生したピンホール及びひび割れ等の事
象について
(a)ピンホール及びひび割れ事象について
控訴人らは,i本件安全審査においては,異常な過渡変化時に
,あっても「燃料が損傷しない」と審査されていたにもかかわらず
本件原子炉施設では,平成10年1月16日,気体廃棄物処理系
除湿冷却器出口排ガス放射線モニター指示値上昇に伴う原子炉手
動停止が行われる事象が発生したこと,iiこの事象の原因の調査
の結果,燃料集合体一体(K1J30)に漏洩があることが確認
され,本件燃料棒の損傷が判明したが,これは,海外で報告され
ている被覆管の水素化によって発生する二次的な割れの事例と類
似するので,偶発的に発生した漏洩部分を通じて,燃料棒内に浸
入した水(水蒸気)による被覆管の水素化によって発生した二次
的な割れと推定されたこと,iiiこの対策として,東京電力は,漏
洩が確認された燃料集合体を健全な集合体に取り替えたこと,iv
この事象は,本件原子力発電所6号機で平成8年8月24日に,
次いで同7号機で平成11年3月31日に起こっており,この燃
料棒事象の原因と対策が十分ではなく,その対策のとり得ない欠
陥が燃料棒にあり,更に事業者としての東京電力にこれを防止す
る能力がないことが実証されていること,v燃料集合体における
ピンホールの原因は,PCMI(燃料ペレットと燃料被覆管の相
互作用)又は水素脆化とされ,その対策は十分にとられていると
していたにもかかわらず,現実に,被覆管の水素化によって発生
する二次的な割れが原因となる本件燃料棒の損傷が生じていたこ
とから,このような対策をとり得ない欠陥を見逃した本件安全審
査は不合理である旨主張する。
しかし,上記①のとおり,本件安全審査においては,燃料被覆
管材料としてのジルカロイ-2は,燃料被覆管破損の確率が非常
,に低く,その使用実績から十分に安全であることが確認された上
本件原子炉施設で使用される燃料被覆管は,その基本設計におい
て,熱的,機械的,化学的影響によってその健全性が損なわれる
ことがない,余裕のあるものであると判断されている。控訴人ら
の上記主張内容は,原子炉施設の運転中の偶発的な本件燃料棒の
損傷をもって本件安全審査が不合理であると主張するものである
から失当である。
また,証拠(乙1ないし4,原審における証人P1の証言)及
び弁論の全趣旨によると,装荷されている多数の燃料棒の一部の
燃料において,ごくまれに生ずる偶発的な燃料被覆管の損傷が生
ずることは否定できないこと,このため,本件安全審査において
は,燃料被覆管の損傷を検知する目的で冷却水中の放射能レベル
を測定監視する計測装置等が設けられるとともに,一部の燃料の
損傷により放射性物質が燃料棒から漏洩する場合における原子炉
施設周辺の一般公衆の被ばく線量を評価し(乙4の37頁,安)
全が確保されることを確認していることが認められる。
したがって,控訴人らの主張に係る上記本件原子炉施設等の各
事象は,本件安全審査における想定内のものであるから,控訴人
らの主張は理由がない。
(b)浸水燃料の事象について
控訴人らは,i上記(a)の本件燃料棒の損傷によって,本件原
子炉の炉心のなかに「浸水燃料(燃料被覆管の穴あき等により」
内部に冷却水が侵入した燃料)が存在していたことが判明してい
ること,iiこれは,本件燃料棒の損傷により燃料被覆管内に侵入
した炉水から発生する水素により二次的な割れが発生し,通常運
転時だけでも「水素化」という新たなメカニズムで損傷が発生し
つつあるのに,根本的な対策がとられていなかったこと,iii浸水
燃料については,本件原子力発電所2号機,6号機及び7号機に
つきそれぞれ発見され,毎年のようにこれが発生しているものの
防止できていないこと,iv反応度事故時の浸水燃料の危険性は,
反応度投入事象評価指針(昭和59年1月19日原子力安全委員
会決定。甲38)において異常な過渡変化時の破裂する基準の値
,として「燃料エンタルピ65cal/g」が定められているので
「浸水燃料」が存在すれば,反応度事故時に容易に浸水燃料が破
裂に至ることが,現在の知見となっていること,v本件安全審査
では,異常な過渡変化時においても浸水燃料が全く存在しない前
提で評価されていることから,浸水燃料を考慮していない本件安
全審査は,上記反応度投入事象評価指針に反し,著しく不合理で
ある旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(甲37,38,乙78,
130,131,138ないし140)及び弁論の全趣旨による
,と,i本件安全審査において,浸水燃料に関する評価については
「発電用軽水型原子炉の反応度事故に対する評価方法について
(昭和52年5月20日原子炉安全専門審査会(甲37及び乙)」
130の各582頁)において「検討範囲からは除外」とされ,
ていたこと,iiその後,反応度投入事象評価指針(昭和59年1
月19日原子力安全委員会決定。甲38)において,浸水燃料に
ついては,燃料エンタルピがピーク出力部の熱断計算で65ca
l/g・UOを超える燃料棒の被覆は破裂したものとし,発生す2
る機械的エネルギーの影響を評価しなければならないとされたこ
と,iiiさらに,反応度投入事象評価指針(一部改訂平成2年8月
30日原子力安全委員会(乙131)においては,反応度投入)
事象の判断基準のうち,浸水燃料に係るものとして,同評価指針
3.(3)で「運転時の異常な過渡変化及び事故にあっては,浸水燃
料の破裂による衝撃圧力等の発生によっても,原子炉停止能力及
び原子炉圧力容器の健全性を損なわないこと」としているが,。
この判断基準については,同評価指針の添付2「浸水燃料の影響
評価」の解析結果をもって代用できる場合は,除外できると規定
されており(乙131の274頁,その評価においては,安全)
余裕をとった前提条件を設定しており,そして,除外基準として
(乙131の314ないし322頁,)
(一)添付2「浸水燃料の影響評価」における評価対象プラント
と同程度の炉心規模であること
(二)断熱計算によるピーク出力部の燃料エンタルピを最も厳し
くするように選定された前提条件を用いた解析によっても,そ
の結果が「150cal/g・UO」以下であること2
(三)原子炉停止余裕は「1.0%Δk」以上であること,
(四)落下制御棒価値は「1.5%Δk」以下であること,
を定めていることが認められる。
そして,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4)及び弁論の
全趣旨によると,i本件原子炉は,電気出力約1100MW(熱出
力3293MW)であって,上記(一)の要件である「浸水燃料の影
響評価」における評価対象プラントと同程度の炉心規模であること
(乙2の2-1頁,ii本件申請に係る当時の8行×8列配列燃料)
の反応度投入時の燃料エンタルピについては,ピーク出力部の断熱
保有エンタルピが「120cal/g・UO」であるので,上記(二)の2
要件である「150cal/g・UO」以下であること(乙3の10-2
149頁,iii本件原子炉停止余裕は,上記(三)の要件である)
「1.0%Δk」以上であること(乙2の8-3-40ないし42,
8-3-106頁,iv本件原子炉施設の落下制御棒価値は,上記)
(三)の要件である「1.5%Δk」以下であること(乙1の22頁,
乙2の8-3-25ないし28頁,乙3の8-9,10頁)が認め
られるので,当該除外基準により上記反応度投入事象評価指針が適
用除外になるというべきである。そうすると,本件安全審査の内容
は,結果において同指針にも反していないことが明らかである。
さらに,証拠(乙1ないし4,132)及び弁論の全趣旨による
と,燃料被覆管の局部水素化については,燃料棒制作時に燃料棒内
にペレット表面などに吸着して混入する微量水分が被覆管内面の局
部と反応して水素化合物を形成し,損傷に至ること等から,ペレッ
トや燃料棒の製作工程中で乾燥工程を取り入れるなどの湿分管理を
行うことでその対策ができるので,本件原子炉の運転管理段階で対
処が可能であること,このために本件安全審査においても,燃料棒
の製造工程では,燃料被覆管の水素化による損傷が生じないよう,
燃料棒内の水分を十分低く押さえるように管理し,更に万全を期し
て,プレナム部にゲッターと呼ぶ水分量を低減する物質を入れ,燃
料被覆管の水素化を抑えるように努めること(乙2の8-3-13
頁)が確認されていることが認められる。
なお,証拠(甲38,乙131,138ないし140)及び弁論
の全趣旨によると,その後,本件原子炉施設においては,東京電力
からの燃料の変更申請により,現在,本件原子炉に装荷されている
燃料である高燃焼度8行×8列配列燃料(平成2年7月10日設置
変更許可)及び9行×9列配列燃料A・B型(平成10年12月2
1日設置変更許可)については,反応度投入事象評価指針(昭和5
9年1月19日原子力安全委員会決定(甲38,一部改訂平成2)
年8月30日同委員会(乙131)に基づく安全審査において,)
浸水燃料が破裂したとしても,原子炉停止能力及び原子炉圧力容器
の健全性を損なわないことがそれぞれ確認されていることが認めら
れる。
したがって,現在の科学技術水準に照らしても,浸水燃料に関す
る本件安全審査に不合理な点はないというべきであるから,控訴人
らの上記主張は理由がない。
(c)燃料棒スペーサのはずれの事象について
控訴人らは,i本件原子炉施設において,平成10年1月30日,
燃料集合体の不具合による原子炉手動停止の事象が発生したこと,
iiこれは,同月16日の燃料集合体の漏洩検査のついでに,他の燃
料集合体6体について外観検査を実施したところ,同月30日5時
30分ころ,6体中2体の高燃焼度8行×8列型燃料集合体(K1
GN1,K1GN2)のスペーサが正規の位置からはずれているこ
とが確認されたものであること,iiiK1GN1は,7個のスペー
サのうち4個のスペーサが,K1GN2は2個のスペーサがそれぞ
れ上方向にずれていたこと,ivその原因の調査の結果,チャンネル
ボックス取付時にスペーサの架橋板に過大な荷重がかかったもので,
一部が脱落,運転中の冷却材循環流によりスペーサが押し上げられ
たものと推定されたこと,vこの対策として,スペーサの位置のず
れが確認された燃料集合体を取り替え,今後チャンネルボックス取
付作業にかかわる手順書に注意事項を明記し,作業者に対する教育
を徹底し,取付作業自体もテレビカメラで確認することとしたこと
から「燃料が損傷しない」と判断した本件安全審査には欠陥があ,
った旨主張する。
しかし,証拠(甲351,352,355,乙1ないし4)及び
弁論の全趣旨によると,控訴人らの主張するスペーサの位置がずれ
たのは,チャンネルボックス取付時にスペーサの架橋板に過大な荷
重がかかったことが原因であることが認められるが,これについて
は,原子炉設置許可の際の安全審査の対象である基本設計の安全性
にかかわる事項ではなく,施工管理に属する事項であるので,控訴
人らの上記主張は本件安全審査の合理性を左右するものではない。
そして,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審におけ
る証人P1の証言)にかんがみると,燃料棒スペーサに関する本件
安全審査には不合理な点はないというべきであるから,控訴人らの
上記主張はその前提を欠いており採用することができない。
④冷却材喪失事故(LOCA)時における炉心燃料部の健全性の有無に
ついて
a冷却材喪失事故の不可避性について
控訴人らは,圧力バウンダリを構成する機器の破損,配管の破断等
によって引き起こされる冷却材喪失事故が容易に推測でき,原子炉作
業従事者の手落等を含めて考えると,冷却材喪失事故は避けられない
旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の二4。)
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審における
証人P1の証言)によると,本件安全審査においては,本件原子炉施
設について,(a)異常発生防止対策として,i燃料の核分裂反応を確
実かつ安定的に制御することができるかどうか,ii核分裂生成物等を
閉じ込めるべき燃料被覆管は,熱的,機械的,化学的影響によってそ
の健全性が損なわれることのない余裕のあるものかどうか,iii放射
性物質を閉じ込めるべき圧力バウンダリは,機械的,化学的影響によ
ってその健全性が損なわれることのない余裕のあるものかどうか,iv
燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれのあ
る設備は,これらに起因する異常の発生を防止し得る信頼性が確保さ
れるかどうかが,それぞれ確認されていること,(b)異常拡大防止対
策として,i燃料被覆管及び圧力バウンダリ並びにこれらの健全性に
影響を及ぼすおそれのある設備に異常が発生した場合,所要の措置が
採れるよう,その異常の発生を早期にかつ確実に検知し得るかどうか,
ii燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれの
ある設備に発生した異常が大きなものであり,それに対し,迅速な措
置を講じなければ燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性が損なわ
れるおそれのある場合に備え,所要の安全保護設備が設置されるかど
うか,iii安全保護設備は,いずれも確実に所期の機能を発揮し,信
頼性が確保されるかどうか,iv運転時の異常な過渡変化解析によって
も,燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性を確保できることとな
っているかどうかが,それぞれ確認されていること,(c)放射性物質
異常放出防止対策として,i圧力バウンダリを構成する配管の破断等
が発生する場合に備え,所要の安全防護設備が設置されるかどうか,
ii安全防護設備は,いずれも確実に所期の機能を発揮し,信頼性が確
保されるかどうか,iii事故解析によっても,放射性物質の環境への
異常な放出が防止できるかどうかが,それぞれ確認されたことから,
その安全性が確認されて災害の防止上支障がないものと判断されてい
るので,その判断の過程に不合理な点はないというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張はそれ自体失当であるというべき
である。
b冷却材喪失事故の解析について
(a)冷却材喪失事故における燃料棒の異常な挙動について
控訴人らは,冷却材喪失事故が発生した場合,本件原子炉の燃料
被覆管が破裂し,炉心崩壊の危険性があるから,冷却材喪失事故の
発生を想定した場合の事故解析が不合理である旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審におけ
る証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全審査にお
いては,冷却材喪失事故の解析評価に当たり,i圧力容器に接続さ
れている配管のうち,冷却材の喪失量が最大となり,炉心の冷却に
とって最も厳しい結果となる冷却材再循環系配管の1本が瞬時に完
全に破断するものと仮定したこと,ii平常運転時には定格出力を超
えて運転することはないが,定格出力の約105%(3440MW
t)で運転するものと仮定したこと,iii冷却材再循環系配管の破
断と同時に外部電源が喪失し,かつ,事故時に作動が要求されてい
るECCSに動的機器の単一故障(低圧スプレイ系の非常用ディー
ゼル発電機の故障)が起こることを仮定したことを前提条件として,
非常用炉心冷却系の性能解析を行っていること(乙2の10-3-
19頁,10-3-31頁,乙3の10-2頁,乙4の46頁,4
7頁)から,事故解析における起因事象の想定が妥当であり,解析
評価に際し,評価結果が厳しくなるような前提条件が適切に設定さ
れていることが確認されていることが認められる。
さらに,上記前提となる事実と上掲証拠及び弁論の全趣旨による
と,本件安全審査においては,上記冷却材喪失事故の解析評価につ
いて,i燃料被覆管の最高温度が1200℃を超えた場合,又は燃
料被覆管の全酸化量が酸化前の燃料被覆管の厚さの15%を超えた
場合には,燃料被覆管の延性が極度に失われ,炉心の冷却可能形状
を保持し続けることができなくなるものであるところ,燃料被覆管
の最高温度は約886℃を超えることはなく,燃料被覆管の損傷は
発生しないし,また,燃料被覆管における全酸化量は,酸化前の燃
料被覆管の厚さに対して最大約0.3%と極めて小さいことから,
燃料被覆管の延性は失われず,燃料棒は,冷却可能な形状に維持さ
れ,破裂の発生する燃料棒はなく,燃料の冷却は確保されること
(乙2の10-3-39頁,乙3の10-4頁,乙4の47頁,)
ii破断した配管から放出される冷却材及び水とジルコニウム反応に
より発生した水素により格納容器内の圧力は上昇するものの,最高
圧力は約2.6㎏/cmgにとどまり,格納容器の設計圧力であ

る2.85㎏/cmgより低いこと(乙2の10-3-44頁,

乙3の10-5頁,iii水とジルコニウム反応による水素の発生)
に加え,更に評価結果が厳しくなるような条件下での水の放射線分
解による水素及び酸素の発生を仮定した場合でも,可燃性ガス濃度
制御系を使用して,水素と酸素を結合させることにより,格納容器
内の水素及び酸素の各濃度は燃焼限界(水素濃度4vol%又は酸素
濃度5vol%)以下に抑えられることから,原子炉格納容器の健全
性は損なわれないとの評価結果が妥当なものであること(乙2の1
0-3-46ないし48頁,乙3の8-109頁,10-5頁,乙
4の47頁)が確認され,圧力バウンダリの損傷という事態が万一
発生しても,放射性物質の環境への異常な放出が防止できるものと
判断され,本件原子炉施設の安全防護設備等の基本設計については
妥当なものであると審査されたことが認められる(乙4の46ない
し48頁。)
したがって,冷却材喪失事故に関する本件安全審査の判断に不合
理な点はなく,その判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると認
めることはできないから,控訴人らの上記主張は失当である。
(b)大破断LOCAの危険性の有無について
控訴人らは,本件安全審査において,i冷却材喪失事故の解析評
価については,破断口からの冷却材流出量はP17の臨界流モデル
のみを用い,下部プレナム水フラッシングによる冷却を考慮し,緊
急炉心冷却系については作動を想定するものとしているが,緊急停
止信号は配管の破断と同時に出ることはなく,流出した冷却材が気
化して格納容器内の圧力が上昇して初めて「ドライウェル圧力高」
の緊急停止信号が出ること,しかも,iiP17の臨海流モデルは,
少なくとも大破断LOCA直後の未飽和(沸騰していない)冷却材
の準安定流を考慮していないため,未飽和状態の冷却材については
実際の半分以下の過小評価となるので,破断口からの流出量をP1
7の臨界流モデルによることはできないこと,また,iii破断口か
らの流出の計算に用いるモデルの選択や圧力損失の計算に用いる式
の選択により大幅に変化するが,下部プレナム水フラッシングの流
量は実験によって裏付けられたものではなく机上の計算によるもの
であり,実際にどれだけの流量があるのか不確実な下部プレナムフ
ラッシングによる冷却を解析上全面的に期待するのは不合理であり,
下部プレナムフラッシングによる冷却を全く考慮しない場合,燃料
被覆管温度が数百度高くなる可能性があること,そして,iv緊急炉
心冷却系が定格流量どおりに注水することを想定するのは現実的で
はなく,東芝の解析によると,緊急炉心冷却系の注水量が20%減
少すると,燃料被覆管温度は100℃以上上昇すると予想されるこ
と,加えて,v東芝が,外部電源が健全な場合の高圧炉心スプレイ
系のポンプ起動を事故後約3秒後としているので,現実的にはスク
ラム発生時間は高圧炉心スプレイ系の起動時間である約3秒後時点
とみるべきであること,さらに,vi燃料被覆管温度が本件安全審査
の結果である886℃よりも100℃弱上昇すると,水-ジルコニ
ウム反応が活発化し,200℃程度上昇すると水-ジルコニウム反
応が発熱反応であることから正のフィードバックを生じて燃料被覆
管温度は更に急激に上昇して行くことになるので,本件安全審査の
燃料被覆管温度に200℃程度の過小評価誤差があった場合,炉心
溶触に至る危険があることから,本件安全審査における冷却材喪失
事故の解析は不合理である旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審におけ
る証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると非常用炉心冷却系
(ECCS)については,小破断から大破断までのいかなる破断面
積に対しても原理の異なる系統を多重に,独立して設けて炉心冷却
を行うこととし,いかなる動的機器の単一故障に対しても炉心冷却
機能を失わないように設計するものとされているところ(乙3の8
-100,101頁,乙4の32,33頁,冷却材喪失事故の解)
析に当たっては,上記(a)の認定事実のとおり,炉心の冷却にとっ
て最も厳しい結果となる,定格出力の約105%(3440MW
t)での運転中に,冷却材再循環系配管の1本が瞬時に完全に破断
し,冷却材再循環系配管の破断と同時に外部電源が喪失し,かつ,
事故時に作動が要求されているECCSに動的機器の単一故障(低
圧炉心スプレイ系の非常用ディーゼル発電機の故障)が起こるなど
と仮定し,解析結果を厳しくするための前提条件を設定したこと,
そして,その解析評価は,燃料被覆管の延性が極度に失われ,炉心
の冷却可能形状を保持し続けることができなくなるのは,燃料被覆
管の最高温度が1200℃を超えた場合,又は燃料被覆管の延性を
失わせる全酸化量が酸化前の燃料被覆管の厚さの15%を超えた場
合であるところ,燃料被覆管の最高温度が約886℃であり燃料被
覆管の損傷はないこと,また,燃料被覆管における全酸化量は,酸
化前の燃料被覆管の厚さに対して最大約0.3%と小さいことから,
燃料被覆管の延性は失わないことなどから燃料棒は冷却可能な形状
に維持され,破裂の発生する燃料棒はなく,燃料の冷却は確保され
ること,更に破断した配管から放出される冷却水及び水-ジルコニ
ウム反応により発生した水素により原子炉格納容器内の圧力は上昇
するものの,本件原子炉格納容器の設計圧力を超えることはないこ
と,加えて,高圧炉心スプレイ系の起動信号である「原子炉水位低
(レベル2」は,スクラム信号である「原子炉水位低(レベル)
3」よりも低い水位レベルに設定され,スクラム発生時間と高圧)
炉心スプレイ系の起動時間は異なること(乙2の8-8-33頁,
46頁,そして,実際には配管破断後に通常の水位から「原子炉)
水位低(レベル3」が発生する水位に達する時間よりも早く「ド)
ライウェル圧力高」が発生してスクラム及び高圧炉心スプレイ系が
同時に起動するが,解析ではより厳しい解析条件を課しているため,
この「ドライウェル圧力高」の発生をあえて考慮していないことが
認められる。
そうすると,冷却材喪失事故に関する本件安全審査の判断には不
合理な点はないから,控訴人らの上記主張は理由がなく採用するこ
とができない。
(c)中小破断LOCAの危険性の有無について
控訴人らは,i中小破断LOCAについては,大破断LOCAと
比較してその発生率が高いところ,現実に敦賀2号機において,平
成11年7月12日午前6時05分ころ,格納容器内サンプ水位上
昇率高の警報が鳴り,同日午前6時48分に原子炉を手動停止する
事故が発生し,格納容器内の化学体積制御系再生熱交換機の配管エ
ルボ(曲管部)に軸方向に貫通亀裂が生じて,再生熱交換機連絡配
管の抽出側配管部から一次冷却材が漏洩するという中小配管破断冷
却材喪失事象に至ったこと,そして,iiこの事象の貫通亀裂は,当
初発見された軸方向の貫通亀裂一つではなく,極めて多数の亀裂が
同時並行して発生・成長しており,供用期間中検査では中小破断L
OCAを防止することは不可能であること,しかし,iii本件安全
審査では,中小破断LOCAにつき特定の破断箇所を想定せず,単
純に破断面積のみで検討し,高圧炉心スプレイ系の故障のみを想定
した上,燃料被覆管温度のみを基準として,破断面積約93cm

(0.1平方フィート)の破断が最も厳しく,燃料被覆管最高温度
は782℃とし,高圧炉心スプレイ系の故障以外の故障は全く想定
せず,自動減圧系(ADS)及び低圧炉心スプレイ系,低圧注水系
は完全に機能を果たすという前提で解析を行っていること,しかも,
iv東芝の解析によると,自動減圧系の流量減少と低圧系のECCS
の機能不全が生じた場合には,燃料被覆管最高温度が1200℃を
超えることも十分にあり得るから,燃料被覆管最高温度を1200
℃以下にとどめることを基準としている軽水型動力炉の非常用炉心
冷却系の性能評価指針にも違反すること,さらに,v東芝,日立の
LOCA解析を参考にして中小破断事故を解析すれば,本件安全審
査の事故想定と解析は極めて甘い不合理なものであり,中小破断L
OCAにおいても炉心溶融事故に至る危険がある上,運転員が事故
の進展中に冷却材漏洩量等の重要データを正確に把握することなく,
事故の収拾に当たれば,更に事態を悪化させる誤介入も起こり得る
ことから,近時の異常事象・事故例にかんがみ,現実に起こり得る
と考えられる故障を想定していない本件安全審査は不合理である旨
主張する。
しかし,証拠(乙1ないし4,107)及び弁論の全趣旨による
と,敦賀2号機は,加圧式軽水炉(PWR)であって,本件原子炉
(BWR)とは異なり,控訴人らが主張する敦賀2号機の事象が発
生した機器(内筒付き再生熱交換器)は,本件原子炉施設には存在
しないことが認められるから,控訴人らの上記主張はその前提を欠
くものである。
のみならず,上記(a)のとおり,冷却材喪失事故に関する本件安
全審査の判断には合理性があるというべきところ,上記前提となる
事実と証拠(乙4,11,107,141)に照らすと,控訴人ら
が主張する敦賀2号機の事象及び本件原子炉に関する故障の想定内
容等は,機器の詳細設計ないし施工管理の段階にかかわる事象であ
って,原子炉設置許可の際の安全審査の対象である基本設計の安全
性にかかわる事項ではなく,しかも,控訴人らの上記主張内容は独
自の仮定を前提にして本件安全審査の不当性を主張するものである
からそれ自体失当というべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は,本件安全審査の合理性を左
右するものではなく失当である。
(イ)圧力バウンダリについて
①圧力容器の中性子による脆化に対する安全性の有無について
a中性子照射による圧力容器の脆化について
控訴人らは,圧力容器が平常運転時核分裂反応によって放射され
る中性子の照射を絶えず受け続けるため硬くなり,次第にその靱性
が低下するが,この圧力容器の中性子照射脆化については,いまだ
そのメカニズムすら分かっていないので,圧力容器の安全性が確保
されていないから,本件原子炉の設計の根本において災害防止上重
大な欠陥を有する旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第
二の三1。)
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,19,79
の①ないし④,80の①ないし④,82の①ないし⑤,83の①な
いし⑤,133,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨
によると,(a)金属材料は,使用温度がある温度(脆性遷移温度)
より下がると,急激に強さが減少し,もろくなる脆性遷移現象が生
じること,(b)脆性遷移温度は通常かなり低く,実用上の使用温度
範囲には入らないが,金属材料が中性子照射を受けると,金属材料
中に原子レベルの空孔等が生じ,この脆性遷移温度が上昇する中性
子照射脆化が起こること,(c)中性子照射脆化に起因する脆性遷移
温度の上昇は,中性子照射量や金属材料中の不純物,特にリンや銅
等の含有量が多いと大きくなる特性を有していること,(d)このよ
うな中性子照射脆化のメカニズムは,本件安全審査当時,既に解明
されていたこと,(e)そして,本件安全審査においては,本件原子
炉の圧力容器の材料に,焼入れ,焼戻しの熱処理を施し,不純物の
含有量を非常に少なくして照射脆化特性を改良した「原子力発電用
マンガン・モリブデン・ニッケル鋼板2種相当品(JIS・G・3
120・SQV2A・ASTM・A-533鋼相当」が母材とし)
て使用され,中性子照射による脆性遷移温度の上昇をも十分考慮し
た余裕のある設計となっていること(乙2の8-4-12頁,乙4
の31頁,乙19の56ないし58頁)から,使用期間中に中性子
照射による脆化が問題となることはないと判断されたことが認めら
れる。
したがって,本件安全審査における上記判断には合理性があると
いうべきである。
もっとも,控訴人らは,米国オークリッジ国立研究所が,炉壁に
含まれる銅やリンなどの不純物で中性子照射による脆化の進行を速
める等の報告をした旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款
第二の三1。)
しかしながら,上掲証拠及び弁論の全趣旨によると,米国オーク
リッジ国立研究所の当該報告は,圧力容器に使用される鋼材に含ま
れる銅等の含有率が高かった米国の初期の加圧水型原子炉について
解析をした場合,圧力容器の脆性破壊が問題となり得る旨指摘した
ものであり,本件原子炉のような沸騰水型原子炉の場合には,加圧
水型原子炉の場合と比較して,炉心に最も近い圧力容器壁の受ける
中性子照射量が少なく,また,その構造上ECCSの作動による注
入水が上記圧力容器内壁に直接当たることはなく,本件原子炉の圧
力容器に直接当てはまるものではないことが認められるから,控訴
人らの当該主張はその前提を欠いており失当である。
したがって,中性子照射による圧力容器の脆化に関する本件安全
審査の判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると認めることはで
きない。
b脆化予測式の合理性と不純物及びニッケル等が中性子の照射脆化
に及ぼす影響の有無について
控訴人らは,(a)本件安全審査では,寿命期間中の脆性遷移温度
の上昇の予測にはP18のワーストケースカーブが上限となること
を用いているが,P18のワーストケースカーブは式の形態に何ら
の理論的基礎もなく,材料試験炉での加速(高速)照射によるデー
タに基づいていること,(b)当該式は,グンドレミンゲン原発の圧
力容器に関する実験研究やP19教授らの実験研究等から,今やそ
の存在に疑いのない照射速度依存性(照射速度が遅いほど脆化が進
行しやすい)を全く考慮していないのであるから,科学的合理性を
有しないこと,(c)現在の科学技術水準に照らせば,本件原子炉を
含め圧力容器鋼材に使用されるマンガン・モリブデン・ニッケル鋼
板において,不純物でなく成分元素として大量に添加されているニ
ッケルは,圧力容器の照射脆化に強い悪影響を及ぼすこと,(d)本
件安全審査においては,中性子照射脆化に関する化学成分の影響と
してリンと銅を挙げるにとどまり,不純物の含有量やマンガン・モ
リブデン・ニッケル鋼板の成分元素であるニッケルの影響が考慮さ
れていないことから,本件安全審査は不合理である旨主張する。
しかし,上記前提となる事実及び弁論の全趣旨にかんがみると,
本件安全審査においては,圧力容器の材料の脆性遷移温度の把握な
いし予測式によって得られた数値は,一試算結果として検討された
ものであって,その数値の当否自体が安全審査の対象とはされてい
ないのみならず,控訴人らの主張に係る運転中の原子炉の圧力容器
の脆化に関する安全確保については,原子炉施設の運転管理にかか
わる事項であって,原子炉設置許可の際の安全審査の対象ではない
から,その主張自体失当である。
そして,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,19,79
の①ないし④,80の①ないし④,82の①ないし⑤,83の①な
いし⑤,133,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨
によると,本件安全審査においては,(a)圧力容器の脆性破壊防止
については,上記aのとおり,脆性破壊防止を十分考慮した延性の
高い「原子力発電用マンガン・モリブデン・ニッケル鋼板2種相当
品(JIS・G・3120・SQV2A・ASTM・A-533鋼
相当」が使用されているので,中性子照射を受けた後も十分な余)
裕をもって運転管理をすることができること,(b)圧力容器の最低
使用温度を,脆性遷移温度より33℃以上高くすることができるよ
うに設計されること,(c)圧力容器内に脆性遷移温度の変化を知る
ための監視試験片を取り付けることができるように設計されること
が確認されたこと(乙1の8,9頁,乙2の8-4-3,11,1
2頁,乙3の8-14,8-221頁,乙4の31,32頁)から,
本件原子炉施設の圧力バウンダリは,その基本設計において,その
健全性が判断されたことが認められる。なお,証拠(甲258)に
よれば,ニッケルが中性子照射脆化傾向を増加させるということか
ら,原子力発電用マンガン・モリブデン・ニッケル鋼板を圧力容器
に使用することが否定されているものではないと認められる。
したがって,圧力容器の健全性に関する本件安全審査の判断の過
程に看過し難い過誤,欠落があると認めることはできない。
c照射速度等の影響の有無について
控訴人らは,(a)照射脆化については,照射量のみならず照射温
度の影響も受け,更に照射速度が遅い方が照射脆化が進行すること,
(b)実際のグンドレミンゲン原発の原子炉は,材料試験炉より照射
量が低く照射速度(1秒当たりの中性子照射量)も3桁も低いにも
かかわらず,実際の原子炉の方が照射脆化が進んでいたこと,(c)
米国の研究炉HFIRでもグンドレミンゲン原発と同様に材料試験
炉の10分の1の照射量,4桁低い照射速度で材料試験炉と同様の
照射脆化を生じたこと,(d)P19教授らのモデル計算の結果,第
1に不純物である銅の効果に関しては照射速度が遅いほど脆化が進
行しやすいという照射速度依存性が理論的に導かれ,第2に照射脆
化に寄与する欠陥は照射速度により異なり,沸騰水型原発の圧力容
器程度の照射速度では銅クラスターの影響が支配的であるのに対し,
材料試験炉クラスの照射速度では格子間原子クラスターの影響が支
配的となること,(e)P19教授らの実験の結果,照射速度が遅い
方が大きな銅クラスターが形成されることがミクロ的に観察され,
確認されたが,照射脆化に関しては,現在なお解明されていない点
が多く,信頼できる脆化予測式は存在しないことから,本件安全審
査が基にした照射脆化についての知見は,現在の科学水準からは妥
当性を欠いているので,本件安全審査は不合理である旨主張する。
しかし,上記bのとおり,圧力容器の材料の脆性遷移温度の把握
ないし予測に係る数値自体は,安全審査の対象となる事項ではない
から,控訴人らの上記主張はその前提を欠いているというべきであ
る。
そして,本件安全審査においては,上記a及びbのとおり,圧力
容器の健全性に関する本件安全審査の判断に不合理な点があると認
めることはできないから,控訴人らの上記主張は失当である。
d本件安全審査が準拠した監視試験方法の妥当性の有無について
(a)控訴人らは,わずかな監視試験片の変化を監視しただけでは,
分厚い圧力容器材の脆化を評価することはできず,このような
不確かな検査方法では圧力容器の健全性の維持確保はなし得な
いので,本件原子炉による災害防止上重大な欠陥を有する旨主
張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,81)
及び弁論の全趣旨によると,本件処分当時における本件原子炉
の圧力容器構造材の監視は,社団法人日本電気協会の作成に係
る電気技術規程原子力編「原子炉構造材の監視試験方法(J」
EAC4201-1970。乙81)に従い,実際の圧力容器
と同じ照射特性が得られるよう,圧力容器と同一の鋼材から取
り出した監視試験片を圧力容器の内側に取り付け,圧力容器と
同様な条件で照射し定期的に取り出して試験を行うこととされ
ていたこと,そこで,本件安全審査においては,上記原子炉構
造材の監視試験方法を踏まえた上,圧力容器に関する基本設計
として,その材料の脆性遷移温度については,中性子照射を受
けた後も最低使用温度を脆性遷移温度より33℃以上高くする
ことができるように設計され,その実際の変化を知るために監
視試験片を取り付けることができるように設計されることを確
認して審査を行っていることが認められる。
したがって,圧力容器の健全性に関する本件安全審査の判断
の過程に看過し難い過誤,欠落があると認めることはできない
から,控訴人らの上記主張は失当である。
(b)もっとも,控訴人らは,i本件安全審査が準拠した上記「原
子炉構造材の監視試験方法(JEAC4201-1970)」
は,昭和61年に「原子炉構造材の監視試験方法(JEAC」
),4201-1986(甲259)により改訂されていること
iiこの改訂によるJEAC4201-1986においては,試
験片に使う材料は炉心領域に使用したもののうちから,照射前
の関連温度RTNDTと化学成分(Cu,Ni等)の影響を考
えて設計寿命末期のRTNDT調整値が最高となると予測され
るものを選ぶとされ,また,試験片の数は,各回毎に引張試験
片3個以上,衝撃試験片12個以上を原則とされていること,
iii上記JEAC4201-1970では,JEAC4201
-1986と異なり,関連温度RTNDTや化学成分の考慮を
欠いており,試験片の数も各回毎に引張試験片2個以上,衝撃
試験片8個以上としており,少ないことに照らすと,現在の科
学技術水準では,従前の監視試験片による監視方法が存在する
ことを基礎にした本件安全審査は,合理性を失っている旨主張
する。
しかし,そもそも本件原子炉施設の運転期間中の脆性遷移温
度の把握は,その運転管理の中で対処すべき問題であって,原
子炉設置許可の際の安全審査の対象である基本設計の安全性に
かかわる事項ではないというべきである。
のみならず,上記(a)の認定事実と証拠(甲259,乙1な
いし4,81)及び弁論の全趣旨によると,本件処分当時にお
ける本件原子炉の圧力容器構造材の監視については,上記「原
子炉構造材の監視試験方法(JEAC4201-1970)」
の定める原子炉の圧力容器構造材の監視方法によって可能であ
って,その監視試験片による手法には合理性があり,脆性遷移
温度の把握もできていたこと,その後の控訴人らの指摘する改
訂による試験片の数等に関する変更については,それまでのデ
ータや知見の蓄積を踏まえて成文化されたものであって,本件
安全審査の基礎とされた本件処分当時の知見にその後の新しい
科学技術上の知見等からみて誤りであったとして,新たな内容
を策定したものではないことが認められるから,控訴人らの上
記主張は理由がないというべきである。
さらに,控訴人らは,i発電用原子力設備に関する技術基準
を定める省令(昭和40年6月15日通商産業省令第62号)
及び発電用原子力設備に関する構造等の技術基準告示(告示5
01号の105条)によれば,1回当たりの試験片の個数は引
張試験片で3個以上,衝撃試験片で12個以上となっているに
もかかわらず,本件原子炉では,それぞれ2個以上,8個以上
という数しか存在しないこと,ii上記「原子炉構造材の監視試
験方法(JEAC4201-1986)によると,本件原子」
炉の設計寿命は,全出力運転年数(定格負荷相当年数,EFP
Y)として32年が想定されているが,監視試験片の取り出し
時期に照らすと,本件原子炉の監視試験計画では運転開始後1
2年までのデータしかわからないこと,iiiこのため,その設
計寿命に有効に対応する監視計画がないという疑問があるので,
廃炉に至るまで的確な監視試験片のデータが得られないまま手
探りで運転を継続する危険性が高いこと,ivグンドレミンゲン
原発の圧力容器において,試験片の切り出し位置によって脆化
の程度が異なるのであるから,試験片の位置如何によって圧力
容器の脆化を著しく過小評価することとなること,v試験片の
切り出し方向あるいは照射の際の方向により脆化の程度が著し
く異なるとすれば,試験片はそれらの事情を考慮して切り出し
の際ないし照射の際の方向を変えてそれぞれについてシャルピ
ー試験が可能な数を配置する必要があるが,このような配慮は
なされていないこと,vi本件原子炉施設では,試験片は原発の
寿命期間中に4回取り出せる数しか取り付けられていないので
あるから,現在の圧力容器の脆化の評価に有効性を持つために
は,信頼できる脆化予測式が存在しなければならないが,現在
なお,信頼できる脆化予測式は存在しないことから,監視試験
方法の審査が不十分な本件安全審査には合理性がない旨主張す
る。
しかし,上記(a)の認定事実と証拠(甲259,乙1ないし
4,81)及び弁論の全趣旨によると,上記のとおり従前の
「原子炉構造材の監視試験方法(JEAC4201-197」
0)の定める原子炉の圧力容器構造材の監視方法によっても脆
性遷移温度の把握ができていたこと,これまでの運転期間中の
脆性遷移温度の変化の把握については,EFPY(全出力運転
年数)で12年までの監視試験片による脆性遷移温度の実測値
に基づき,脆化予測式による脆性遷移温度の計算結果の補正を
行うことによって,これを確認できること,従前の監視試験片
による方法では,脆性遷移温度の把握が不可能であったことを
示すような合理的な根拠はなく,しかも,同方法が,現在の科
学技術水準に照らして不合理な点があるとする具体的事情もな
いことが認められるから,控訴人らの当該主張はその前提を欠
いており失当である。
②応力腐食割れ(SCC)の有無について
a控訴人らは,本件原子炉の圧力容器の内張,再循環系配管等には,
比較的耐食性の優良な材料であるオーステナイト系ステンレス鋼,
高ニッケル合金等が使用されているが,従来各地の原子力発電所及
び本件原子炉においていわゆる応力腐食割れが多発しており,しか
も,1990年代後半以降の低炭素ステンレス鋼の応力腐食割れに
ついては,1970年代に多発した応力腐食割れと異なるものであ
って,これらの応力腐食割れ(SCC)については,5年ないし1
0年経過して発生することが多いものの,その原因究明や対応策が
全く解決されていないことから,本件安全審査は,応力腐食割れの
審査を欠如しているので,看過し難い過誤,欠落がある旨主張する。
しかし,証拠(甲428ないし430,432ないし435,4
37,438,441,443ないし445,450,乙19,3
3ないし35,157,158,原審における証人P1の証言)及
び弁論の全趣旨によると,1970年代に多く発生した応力腐食割
れは,(a)金属材料に耐食性をもたらしているクロムが,溶接時の
加熱によってその金属材料中の炭素と結合し,クロム炭化物として
析出することにより,その付近に部分的なクロム欠乏部が生じ,金
属材料の耐食性が低下すること,(b)原子炉施設の運転に伴い発生
する内圧や熱荷重等による引張応力に,溶接による残留応力が加わ
って,材料に過度の引張応力が存在していること,及び(c)冷却材
等の溶存酸素濃度が高いなど冷却材が腐食環境にあることの三つの
要因(材料,応力,環境)がからみあって発生すること,このため
に,(a)材料として,炭素含有量の低い低炭素ステンレス鋼等を用
いること,(b)溶接時の入熱量を減らす等適切な溶接方法ないしは
溶接管理を行うことによって,金属材料の鋭敏化や残留応力の低減
を図ること,及び(c)原子炉の停止時には冷却材中の溶存酸素濃度
が高くなるので,その起動時に冷却材中の溶存酸素濃度を低減する
ような運転を行うことなどの対策を講じることによって,上記応力
腐食割れは,その発生を防止できること,更に1990年代後半以
降の低炭素ステンレス鋼の応力腐食割れ及び1970年代に多発し
た応力腐食割れは,いずれも塑性変形や中性子照射の影響が考えら
れ,材料,応力,環境の3要因が影響して発生するものであること
に大きな差はなく,その割れの形状も特異の差はないことから,そ
の低減策としては,いずれも個々の要因をいかに排除又は最小化し
得るかにかかっていると認められる。
もっとも,甲356,357の①ないし④,427の①②には,
低炭素ステンレス鋼における応力腐食割れについては,ひび割れの
機序が解明されておらず,その割れの発生及び進展のメカニズムが
明らかになっていないので,応力腐食割れの抜本的対策を立てるこ
とはできない旨の記載部分があり,同趣旨の当審における証人P1
9の供述部分が存する。
しかしながら,証拠(甲428,429,乙19,33ないし3
5,157,158,原審における証人P1の証言)及び弁論の全
趣旨によると,応力腐食割れは,上記認定のとおり材料,環境,応
力の3要因が重畳して発生する(甲428の3頁,乙33の13
頁)ものであって,適切な間隔で検査及び補修を行うことで炉心シ
ュラウド等の健全性を十分確保できることが認められるから,上記
甲356,357の①ないし④,427の①②の各記載部分並びに
上記証人P19の供述部分を直ちに採用することはできない。
そして,上記前提となる事実と証拠(甲428ないし430,4
32ないし435,437,438,441,443ないし445,
乙1ないし4,19,33ないし35,157,158,原審にお
ける証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,応力腐食割れに
ついては,材料,応力,環境の三つの要因が影響することにより生
ずるので,本件安全審査においては,本件原子炉施設につき,応力
腐食割れを起こしにくい材料であるステンレス鋼が使用され,更に
腐食が起こりにくいように適切な水質管理ができる設計とされるこ
と,及び運転開始後においても検査によって圧力バウンダリの健全
性が確認できるように設計されることを審査し,その基本設計にお
いて安全性が確保され得るものと判断されていることが認められる
から,その判断の過程に不合理な点はないというべきである。
そうすると,上記1(2)のとおり,応力腐食割れ事象に対する具
体的対策は,原子炉施設の詳細設計や具体的な工事方法及び運転管
理における安全規制によって対処すべき事項であるので,原子炉設
置許可の段階の安全審査の対象とはならないというべきであるから,
)。控訴人らの上記主張は失当である(福島第二原発最高裁判決参照
bところで,控訴人らは,(a)本件安全審査当時既に判明していた
島根原発における応力腐食割れ(甲22)のために制御棒駆動水戻
りノズルの設計変更をもたらし,本件原子炉も,その影響を受け本
件申請に係る設計変更がなされていること,(b)応力腐食割れにつ
いては,詳細設計等によって対処すれば足りるものではなく,使用
される部材,施工方法や運転方法の不備,瑕疵からでも,応力腐食
割れが起きれば,原子炉の生命線ともいうべき軽水の確保に支障を
来たし,事故が発生するから,応力腐食割れの観点から本件原子炉
の詳細設計やその部材,施工方法や運転方法の審査が不可欠である
こと,(c)応力腐食割れの対策は確立されているとはいえず,詳細
設計等における対処によっても十分防止することはできず,また,
沸騰水型原子炉においては今なお解決されていない問題であること
から,原子炉設置許可の段階の安全審査においても,応力腐食割れ
対策を審査すべきである旨を主張し,これに沿う甲356,357
の①ないし④,427の①②の各記載部分並びに当審における証人
P19の供述部分がある。
しかし,上記1(2)及び上記aのとおり,原子炉の設置許可の段
階においては,専ら当該原子炉の基本設計の安全性にかかわる事項
のみが規制の対象となるのであって,後続の当該原子炉の具体的な
詳細設計及び工事の方法並びに運転管理等は規制の対象とはならな
いものと解すべきであるから,その余の点について検討するまでも
なく,控訴人らの上記主張は理由がない。
cまた,控訴人らは,(a)原子炉において圧力容器の内張,燃料棒
の自立を支えるシュラウドには腐食されにくいステンレス鋼素材が
導入されているが,現在,応力腐食割れと思われるひび割れの兆候
(インディケーション)が見つかっていること,(b)東京電力は,
平成13年7月6日,同年4月29日から定期検査中であった福島
第二原発3号機において,応力腐食割れを防止するため炭素含有量
を減らしたステンレス鋼素材SUS316Lを用いたシュラウドの
ほぼ全周にわたりひび割れがあるのを発見したこと,(c)当該シュ
ラウドの寸法は,外径約5.6m,高さ約6.7m,肉厚は約50
㎜であり,そのひびの深さは,最大で26㎜(115度付近,平)
均で約16㎜であり,下部リング外表面から約0.3㎜の深さ(極
表層部)の組織にはすべり線が認められ,この範囲は粒内割れであ
ることが確認されたが,東京電力は,上記福島第二原発3号機のシ
ュラウドの極表層部の腐食は粒内型応力腐食割れと推定しているこ
と,(d)低炭素ステンレス鋼は,耐粒界型応力腐食割れに対して優
れていることが確認されているが,切欠きがある場合には粒界型応
力腐食割れが進展することがわかっており,応力腐食割れ対策材料
の効果は極めて限定されたものであることが判明していることから,
この点の審査を看過した本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかしながら,上記aのとおり,本件安全審査の判断の過程に不
合理な点はないから,その後に控訴人ら指摘のひび割れ事象が発生
したとしても,これにより直ちに原子炉設置許可の際の安全審査が
不当となるわけではないので,控訴人らの上記主張を採用すること
はできない。
dさらに,控訴人らは,(a)現時点では沸騰水型原発の約4割にお
いて,炉心シュラウドの応力腐食によるひび割れ又はその兆候が現
れるという事態に至っており,しかも,原子力発電所がおよそ30
年の稼働期間を想定して安全審査を受けながら,10年も経ない期
間において応力腐食割れが発生していること,(b)実際に,応力腐
食割れの発生,進展を防ぐことはできないし,このような応力腐食
割れの亀裂の進行を評価する具体的な方法は存在しないこと,(c)
定期点検におけるシュラウドの応力腐食割れの点検は,目視検査に
よって行われるが,毎回の検査で検査可能なすべての溶接部分を点
検するわけではなく,また,シュラウドのひび割れの表面が微少で
あれば,内部でひび割れが進展している場合でも,目視検査では発
見されない可能性は十分にあるので,原子炉の設置許可の段階で応
力腐食割れの観点から,本件原子炉の詳細設計やその部材,施工方
法や運転方法の審査が不可欠であることから,本件安全審査におい
ては,応力腐食割れの審査を看過している旨主張する。
しかし,応力腐食割れについては,上記1(2)及び上記aのとお
り,原子炉施設の詳細設計や具体的な工事方法及び運転管理におけ
る安全規制によって対処されるべき事柄であって,原子炉設置許可
に際しての安全審査の対象となるものではないから,控訴人らの上
記主張は失当である。
eそして,控訴人らは,(a)NRCが1994年(平成6年)の文
書において,炉心シュラウドの360度のひび割れが貫通した際の
安全評価を行い,炉心シュラウドにおける円周360度におけるシ
ュラウドの分断という仮定における安全影響を評価した上「最も,
憂慮される事故のシナリオは主蒸気管の破断,再循環系の破断,そ
して地震である」としているから,全周にわたるひび割れが,地。
震により,炉心シュラウドの分離に至る可能性があること,(b)N
RCの上記文書によると,出力と流量のミスマッチは冷却能力の不
全をもたらし,炉心シュラウドが持ち上がり,それが横方向にずれ
るような場合には,制御棒の挿入に支障をきたすおそれが生じ,最
悪の場合には燃料棒や制御棒の著しい破損に端を発する放射能放出
事故が起こり得るとしていること,(c)炉心シュラウドのひび割れ
による冷却材喪失事故のおそれがあり,もしもひび割れのある炉心
シュラウドにおいて,内側の水も外側の水と同じ速さで漏れ出てし
まったときは,緊急冷却装置が機能する前に,核燃料に損傷が起き
る可能性が出てくることから,本件安全審査においては,炉心シュ
ラウドの応力腐食割れを起因とするシュラウド自体の分離やずれに
ついて,設計基準事象として想定していないので不当であること,
(d)平成16年の原子力安全・保安院の検討結果の整理(甲429
の35頁)において,本件原子炉施設の溶接継ぎ手数で26もの溶
接継ぎ手でひび割れが発見され,その欠陥が明らかとなっているこ
とから,再循環系配管をはじめとする圧力バウンダリが破断しない
ように対策を講じることは,当然に基本設計ないし基本設計方針に
含まれると解すべきである旨主張する。
しかし,応力腐食割れを防止する具体的対策については,上記1
(2)及び上記aのとおり,本件安全審査の対象である基本設計の安
全性にかかわる事項ではなく,それ以後の段階にある詳細設計や具
体的な工事方法及び運転管理における安全規制によって実現される
べきものである。
fしたがって,控訴人らの上記主張は理由がなく採用することがで
きない。
③疲労破壊,応力集中の有無について
a控訴人らは,疲労破壊,応力集中によって圧力バウンダリが破壊
されるおそれがあるので,この点の審査を看過した本件安全審査に
は瑕疵がある旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(甲41,乙1ないし4,1
9,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,
(a)本件原子炉の圧力バウンダリ等は,平常運転時,運転時の異常
な過渡変化時,補修時,試験時及び事故時に発生する応力に対して,
脆性的挙動及び急速な伝播型破断の防止の観点から,応力解析,疲
労解析等を行うとともに,使用材料の管理,使用圧力・温度の制限
及び供用期間中の監視を考慮した設計がなされていること,(b)原
子炉の運転開始後,圧力バウンダリの健全性を確認するため,定期
的に供用期間中検査が行えるよう,機器,配管等の設計にあたって
は,検査箇所へ検査機器等が接近できるように機器,配管等の配置
が考慮されていること,(c)本件原子炉の圧力バウンダリ等の試験,
検査として,使用前に電事法等で定められた使用前検査,供用中に
社団法人日本電気協会作成に係る電気技術規程原子力編「原子炉冷
却材圧力バウンダリの供用期間中検査(JEAC4205-19」
74)に基づく検査,逃がし安全弁の設定点の確認等を実施し,そ
の健全性が確認されること,(d)本件安全審査においては,本件原
子炉施設の圧力バウンダリの健全性が維持されると判断されたこと
が認められる。
そうすると,疲労破壊,応力集中に関する圧力バウンダリの健全
性に係る本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤,欠落がある
と認めることはできない。
bもっとも,控訴人らは,(a)平成11年7月12日に発生した敦
賀2号機の冷却材漏洩事象の亀裂箇所である再生熱交換器の配管は,
もともと熱疲労が問題となる場所であり,熱疲労については慎重に
解析が行われた上で設計されたはずの箇所であるにもかかわらず,
疲労破断しているので,解析,設計,検査が行われているからとい
って,圧力バウンダリの健全性が維持されるとはいえないこと,
(b)中小破断LOCAにおいても,炉心溶融事故に至る危険性があ
るので,疲労破壊,応力集中に関する審査は不可欠であることから,
本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,上記(ア)④b(c)のとおり,敦賀2号機は,加圧式軽水
炉(PWR)であって,本件原子炉(BWR)とは異なり,控訴人
らが主張する敦賀2号機の事象が発生した機器は,本件原子炉施設
には存在しないものである。のみならず,上記敦賀2号機の事象は,
機器の詳細設計ないし施工管理の段階にかかわる事象であって,本
件安全審査の対象である基本設計の安全性にかかわる事項ではない
から,控訴人らの上記主張は失当である。
cさらに,控訴人らは,(a)本件原子炉施設においては,営業運転
開始前の原発試験運転中(出力100%運転開始日3日目)の昭和
60年5月31日,循環水配管からの海水漏洩事象にともなう出力
制限を行う事象(復水器の配管に大穴事象)が発生したこと,(b)
この対策として,当該貫通部を切断,撤去し,当該部に母材と同一
仕様の鋼板をはめ込み突き合わせ溶接を行ったものの,この循環配
水管が肉厚13㎜もの配管であるにもかかわらず,通水後わずか3
日という短時間でこのような大貫通孔が発生し,しかも,この漏洩
自体貫通孔(破断)による海水漏洩という事態に至るまで検知され
なかった(破断前検知が実現できなかった)こと,(c)この破断に
よってギロチン破断はあり得ないとされる他の圧力バウンダリを構
成する配管,とりわけ肉厚23㎜の再循環系配管でさえも破断の確
率は意外に高い可能性が考えられること,(d)これについて,塗膜
剥がれによる異種金属間の腐食電流による貫通孔の形成という推定
が正しいならば,この知見に基づく配管の健全性は,安全審査の対
象とはされていないことから,本件安全審査については,配管の厚
さや,材質,組合せ,腐食電流の可能性,必要な防止装置等の各観
点によって,その審査をやり直す必要がある旨主張する。
しかしながら,証拠(甲347,355,乙19,90)及び弁
論の全趣旨によると,控訴人らの主張する本件原子炉施設に係る海
水漏洩事象(復水器の配管の大穴事象)は,循環水系配管内面に腐
食防止の目的で塗られていたタールエポキシ樹脂の塗膜の一部が,
当該配管に仮設されていた鋼製補強材を配管据付け後に撤去する際,
作業に伴う熱の影響を受けたため,本来であれば,熱の影響を受け
た塗膜を完全に除去した上で,新たにタールエポキシ樹脂を塗るべ
きところ,その除去が不完全なままで重ね塗りがなされた結果,塗
膜の一部が剥離し,配管内面が直接海水にさらされたので,腐食し
て穴があいたために発生したものであり,すなわち,配管の据付け
用補強材の除去作業後の補修塗装の施工不良によって塗膜の一部が
剥離し,循環水配管の管壁の一部が海水に露出したことにより,復
水器と循環水配管との異種金属間に腐食電流が発生し,異種金属間
の電食により循環水配管に貫通孔が生じたものであり,この事象は,
国際原子力事象評価尺度上は,安全に関係しない事象である「評価
対象外」に分類されていることが認められる。
そうすると,本件原子炉施設における上記海水漏洩事象は,塗装
方法の不備という本件原子炉施設の施工管理に起因するものであっ
て,重大な事故につながるおそれはないというべきである。しかも,
控訴人らの主張に係る配管の健全性については,原子炉設置許可処
分の段階における安全審査の対象ではなく,その後続の安全規制の
対象とされる当該施設の詳細設計及び工事の方法や配管の補修作業
の具体的な施工管理に属する事項であるから,本件原子炉施設がそ
の基本設計において災害の防止上支障のないものとした本件安全審
査の判断を左右するものではないというべきである。
dしたがって,控訴人らの上記主張は失当である。
④解析による設計の合理性の有無について
控訴人らは,本件原子炉施設の圧力容器の設計は,詳細応力解析に
よる設計に従ってなされているところ,温度変化の計算,温度差によ
る応力の発生とその解析,疲労の検討等の基準は,すべて設計者にゆ
だねられており,特に炉心スプレイノズル2本,給水ノズルは,熱伝
達理論が十分把握されていないので,圧力容器は安全性が確保されて
いるとはいえないから,本件安全審査には瑕疵がある旨主張し(原判
決第二編第一章第六節第二款第二の三4,これに沿う甲182の記)
載部分及び原審における証人P32の証言部分がある。
しかし,控訴人らの上記主張内容は一般的かつ抽象的な危険性を主
張するにとどまるものであり,そして,上記前提となる事実と証拠
(乙1ないし4,原審における証人P1の証言)によると,本件安全
審査においては,本件補正に係る本件申請に基づいて,本件原子炉施
設の圧力バウンダリが,その基本設計において,機械的,化学的影響
によってその健全性が損なわれることのない,余裕のあるものである
と具体的に判断されたことが認められていることに照らすと,上記甲
182の記載部分及び上記証人P32の証言部分をいずれも直ちに採
用することはできない。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
⑤使用前検査及び供用期間中検査の合理性の有無について
a控訴人らは,圧力バウンダリ,冷却系配管及び炉内構造物等にお
けるひび割れを微少なうちに発見することは困難であって,本件安
全審査において確認された検査方法には限界があり,信頼に値しな
いから,本件安全審査には瑕疵がある旨主張する(原判決第二編第
一章第六節第二款第二の三5。)
しかし,上記前提となる事実と証拠(甲41,乙1ないし4,原
審における証人P1の証言)によると,(a)本件補正に係る本件申
請においては,機器,配管等の設計に当たり,本件原子炉の運転開
始後,圧力バウンダリの健全性を確認するため,定期的に供用期間
中検査を実施でき,検査箇所へ検査機器等が接近できるように,機
器,配管等の配置が考慮されていること,(b)本件安全審査におい
ては,本件原子炉の圧力バウンダリ等については,使用前に電事法
等で定められた使用前検査が実施され,また,供用中には社団法人
日本電気協会作成に係る電気技術規程原子力編「原子炉冷却材圧力
バウンダリの供用期間中検査(JEAC4205-1974)に」
基づく検査並びに逃がし安全弁の設定点の確認等が実施されるので,
その健全性が維持されると判断されたことが認められる。
そうすると,事前検知等に関する本件安全審査に不合理な点はな
いというべきであるから,その判断の過程に看過し難い過誤,欠落
があると認めることはできない。
bもっとも,控訴人らは,(a)使用前の圧力容器等の母材や溶接部
の欠陥(亀裂,ブローホール,溶接中のスラグ巻き込み等)の発見
に関しては,表面については液体探傷試験(カラーチェック,人)
が入れない部分の表面や内部については超音波探傷試験,放射線探
傷試験が行われるが,放射線探傷は,ブローホールなどの欠陥は見
つけやすいものの,より危険な亀裂状の欠陥の検出能力が劣り,ま
た,超音波探傷も亀裂状欠陥の方向により検出能力が左右され,検
出能力自体に照らしても比較的大きな欠陥を見逃す危険性があるこ
と,(b)社団法人日本電気協会作成に係る電気技術規程原子力編
「原子炉冷却材圧力バウンダリの供用期間中検査(JEAC42」
05-1974)に従えば,圧力容器の溶接部をはじめとする圧力
バウンダリの最重要部分やECCS配管,制御棒駆動水圧計配管な
どの重要な配管もほとんど検査をする必要がなくなるので,これに
依拠して検査を行うこと自体危険であり不合理であること,(c)実
際の原子炉施設に対する検査は,当時の通産省の検査官や発電設備
技術協会の検査担当官も立ち会わない施工業者任せの検査であって,
検査の信用性は欠如しているので,使用前検査や定期検査で圧力バ
ウンダリの欠陥が破断前に発見できることはないこと,(d)我が国
の原子力関係行政庁は,検査機関も専門家も安全性を厳しく追及す
る姿勢や安全審査能力に欠けているため,原子炉施設の詳細設計段
階以降では,現実には対策が十分に行われないので,基本設計段階
で安全審査の対象とすべきであることから,事前検知等に関する十
分な審査を看過した本件安全審査は不合理である旨主張する。
しかしながら,上記1(2)のとおり,原子炉の設置許可の段階に
おいては,専ら当該原子炉の基本設計の安全性にかかわる事項のみ
が規制の対象となるのであって,原子炉設置許可後の使用前検査や
定期検査並びに運転検査及び圧力バウンダリの破断の防止対策に関
する事項については,本件安全審査の対象ではなく,それ以後の段
階にある詳細設計や具体的な工事方法及び運転管理における安全規
制によって実現されるべきものである。
cしたがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
⑥運転期間(想定寿命)の延長の有無について
控訴人らは,a本件処分及び本件安全審査においては,圧力容器や
圧力バウンダリを構成する他の機器の想定寿命を40年又は全出力運
転年数(定格負荷相当年数,EFPY)を32年としていたが,具体
的な運転期間を明示して制限しなかったこと,b当時の通産省及び資
源エネルギー庁は,平成11年2月付けで「電気事業者の原子力発電
所高経年化対策の評価及び今後の高経年化に関する具体的取組につい
て(甲311)を発表し,老朽化原発の寿命延長のため「より合理」
的,効率的な設備管理」と称して,稼働開始から30年が経過する福
島第一原発1号機,美浜原発1号機,敦賀原発1号機の各寿命を60
年に倍増することを承認する見解を示したこと等から,本件原子炉の
寿命についても延長されることになるので,具体的な運転期間を明示
して制限しなかった本件安全審査の瑕疵は重大かつ違法である旨主張
する。
しかし,証拠(甲309ないし314)によると,資源エネルギー
庁は,平成8年4月付けで「高経年化に関する基本的な考え方(甲」
310)を作成し,同報告書において,今後の我が国の原子力発電所
の高経年化に対応するため技術的検討を行い,その際評価条件として
60年間の運転年数を仮定していること,また,当時の通産省及び資
源エネルギー庁は,上記報告書を勘案し,原子力発電所の高経年化に
関する取組,特に福島第一原発1号機等が稼働開始から30年を経過
した場合の設備管理方策等を検討し,平成11年2月付けで「電気事
業者の原子力発電所高経年化対策の評価及び今後の高経年化に関する
具体的取組について(甲311)を作成したこと,もっとも,原子」
力安全委員会は,同年2月8日の第7回原子力安全委員会定例会議に
おいて,福島第一原発1号機,美浜原発1号機及び敦賀原発1号機の
高経年化に関する具体的取り組みについて検討したが,本件原子炉に
ついては,その運転期間を延長することについては何ら触れておらず,
本件原子炉の寿命の延長につき具体的に論議されてはいないことが認
められる。
のみならず,上記1(2)及び(5)エのとおり,原子炉の設置許可の段
階においては,専ら当該原子炉の基本設計の安全性にかかわる事項の
みが規制の対象となるのであって,控訴人らの主張に係る運転期間
(想定寿命)については,原子炉施設の具体的な設計工事・運転管理
及び廃炉にかかわる事項であるので,その後続の詳細設計や具体的な
工事方法及び運転管理などにおける安全規制によって実現されるべき
ものであるから,控訴人らの上記主張は失当というべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。
(ウ)制御棒駆動系について
①制御棒駆動系の信頼性とスクラム排出ヘッダー及びスクラム排出容
器の設計の合理性の有無について
a控訴人らは,(a)米国ブラウンズ・フェリー原発3号機において,
1980年(昭和55年)6月28日,原子炉停止作業(スクラ
ム)の際に,スクラム排出容器に水がたまり制御棒全体の半分の挿
入に失敗する事象が発生し,スクラム達成までに14分02秒もの
長時間を要していること,(b)NRCは,ジェネラル・エレクトリ
ック社製造の沸騰水型原子炉の制御棒駆動機構に重大な欠陥がある
と指摘する報告をしていること,(c)我が国の原発においても,制
御棒駆動機構,駆動水配管のひび割れ事象,駆動水圧ポンプ軸の損
傷事象,制御棒逆さ取付ミスが多数発生しているので,本件原子炉
における制御棒・駆動系についてもその信頼性が欠けるから,本件
安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(甲9,乙1ないし4,84
の①ないし④,88の①ないし④,原審における証人P1の証言)
及び弁論の全趣旨によると,(a)米国ブラウンズ・フェリー原発3
号機において制御棒が円滑に挿入されない事態が生じたのは,スク
ラム排出ヘッダーとその下流側にあるスクラム排出容器とを結ぶ長
い小口径の連絡管に水詰まりが生じ,その結果,制御棒を原子炉内
に挿入しようとした際に,水が十分排出されなかったことによるも
のであるが,本件原子炉施設においては,スクラム排出ヘッダーと
スクラム排出容器が直接つながる構造となっており,上記ブラウン
ズ・フェリー原子力発電所3号機において発生した事象が発生する
ことは考えられないこと,(b)控訴人らが指摘するNRCの報告は,
当時の中間報告であり,その後の1981年(昭和56年)8月,
沸騰水型原子炉の制御棒駆動水圧系スクラム排出系配管が破断する
可能性は極めて低いので,原子力発電所を引き続き運転することは
妥当と判断する旨の報告を行ったこと(乙88の①ないし④)が明
らかである。
さらに,上掲証拠及び弁論の全趣旨によると,(a)本件安全審査
においては,本件補正に係る本件申請について,i制御棒が,予想
される運転上の異常な過渡変化を含む通常運転時,及び原子炉事故
時に燃料破損限界を超えることなく炉心を臨界未満にできるように
すること,ii制御棒の停止余裕が,最大反応度価値を持つ制御棒1
本を完全に炉心外に引き抜いた場合でも,冷温で炉心を臨界未満に
することができ,かつ臨界未満を維持できるようにすること,iii
制御棒には落下速度リミッタを設け,制御棒価値ミニマイザで許容
する最大反応度価値(0.015Δk)の制御棒が自重によって落
下しても,反応度の急速な付加による燃料二酸化ウランの最大エン
タルピが280cal/gを超えることがないように自由落下速度
を0.95m/s以下にすること,iv地盤における最大加速度振幅
が450Galの地震動に対しても制御棒は確実に挿入できるよう
にすること,v制御棒の最大連続引抜速度は,制御棒引抜手順及び
制御棒価値ミニマイザによる制御棒の最大反応度価値の抑制とあい
まって,運転員が原子炉出力を容易に制御できるような値にするこ
と,viスクラム挿入時間は,全ストロークの90%挿入で3.5秒
以下にすること,及びvii個々の制御棒は,すべて別々に取付け,
取外しが可能なようにすることを内容とする設計方針が妥当である
ことを確認していること(乙2の8-3-25ないし33頁,乙3
の8-9ないし10頁,乙4の30頁,そして,(b)更に本件安)
全審査においては,本件原子炉の主要設備として制御棒駆動系につ
いて,各制御棒及び同駆動系ごとにアキュムレータ(高圧窒素及び
駆動水を蓄える蓄圧装置)が設けられるとともに,原子炉の緊急停
止時にすべての制御棒駆動系から排出される水を貯えるスクラム排
出ヘッダー及びスクラム排出容器が設けられること(乙2の8-3
-31ないし33頁,及び本件原子炉施設における制御棒駆動系)
の水圧制御ユニットについては,安全保護設備として,設計上十分
信頼性を有し,また,厳重な品質管理の下に製造されているので,
ユニット内の配管に亀裂が生じることは考え難いこと(乙3の8-
34,36ないし38頁)に照らして,本件原子炉の制御棒駆動系
に十分な信頼性があると判断されたことが認められる。
そうすると,制御棒駆動系に関する本件安全審査は合理性がある
というべきであって,その判断の過程に看過し難い過誤,欠落があ
ると認めることはできない。
bもっとも,控訴人らは,(a)制御棒1本ないし数本の挿入失敗は,
緊急停止信号が出た場合でも制御棒駆動系の故障により生じ得るも
のであって,沸騰水型原子炉では,その制御棒駆動系統のうち特に
スクラム・ディスチャージ・ボリュームに水が入っていると多数の
制御棒で同時にスクラム失敗を生じること,(b)我が国において,
上記米国ブラウンズ・フェリー原発3号機の教訓を踏まえて,スク
ラム排出ヘッダーに水がたまらないようにするため,スクラム排出
ヘッダーとスクラム排出容器が直接つながる一体化構造とされるよ
うになったのは,1982年(昭和57年)から1983年(昭和
58年)であり,それまでは,そのような知見もなく工事が実施さ
れていなかったこと,(c)本件原子炉施設は,本件申請書に添付の
図面(制御棒駆動水圧系系統図。乙3の8-202頁)に照らして
も,スクラム排出ヘッダーとスクラム排出容器を一体化しないこと
を前提とした施設であること,(d)福島第一原発1号機で1979
年(昭和54年)7月20日に,また,島根原発2号機で平成7年
1月30日にそれぞれスクラム排出容器に水がたまった状態でもス
クラム排出容器水位高のスクラム信号が出ない限り運転が継続され
ていたので,スクラム排出容器に水がたまった場合にスクラム機能
に影響を与える事態が現実に存在していることから,本件原子炉施
設の制御棒駆動系の信頼性は欠如している旨主張する。
しかし,上記1(2)のとおり,原子炉の設置許可の段階において
は,専ら当該原子炉の基本設計の安全性にかかわる事項のみが規制
の対象となるのであって,スクラム排出ヘッダーとスクラム排出容
器との具体的な接続方法は,詳細設計及び工事の方法に関すること
であり,基本設計の安全性にかかわる事項を審査する安全審査の対
象とはならないから,控訴人らの上記主張は理由がないというべき
である。
のみならず,上記のように米国ブラウンズ・フェリー原子力発電
所3号機において,制御棒が円滑に挿入されない事態が生じた原因
は,スクラム排出ヘッダーとその下流にあるスクラム排出容器を細
い管で連結する構造となっていたため,水の流れが悪くなり,スク
ラム排出ヘッダーに水が残っていたことにあり,そして,上記前提
となる事実と証拠(甲257,乙1ないし4,84の①ないし④,
88の①ないし④,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣
旨によると,(a)控訴人らが指摘する本件申請に添付の図面は,制
御棒駆動水圧系の系統図すぎないものであり,機器の詳細な形状や
寸法,配置を示したものでなく,また,本件原子炉施設においては,
スクラム排出ヘッダーとスクラム排出容器が直接つながる構造とな
っており(上記証人P1の証言,上記米国ブラウンズ・フェリー)
原子力発電所3号機で発生した事象が判明する以前から,同事象が
そもそも生じない構造になっていたこと,(b)福島第一原発1号機,
島根原発2号機のスクラム排出容器水位高のスクラムは,スクラム
排出容器の水位が高くなったため,設計どおりに原子炉がスクラム
したものであり(乙134,上記米国ブラウンズ・フェリー原子)
力発電所3号機で発生した事象とは全く異なることが認められる。
cしたがって,控訴人らの主張はその前提を欠いており失当である。
②スクラム失敗等と暴走事故の有無について
aタービン・トリップによる暴走事故
控訴人らは,(a)本件原子炉施設の早期炉心の過渡変化解析のう
ち,タービン・トリップ時(105%出力)の解析において,スク
ラム成功時の最大出力時刻は事故後0.79秒時点であるとしてい
るが,このタービン・トリップ時に事故後0.79秒時点でスクラ
ムに失敗していれば,全反応度は暴走事故を引き起こすに十分な数
値となること,(b)上記0.79秒時点の全反応度2.00ドルは,
タービン主蒸気止め弁閉による原子炉圧力上昇に伴う炉心のボイド
減少による正の反応度投入と直ちに生じるドップラー効果による負
の反応度補償の合計であり,燃料棒を0℃から2195℃に温度上
昇させる発熱量は188.77cal/g(650℃からの上昇分
は132.87cal/g)であること,(c)最大出力時刻後の出
力変動を最大出力時刻前と対称形とみなすと,本件原子炉施設にお
けるタービン・トリップ時(105%出力)に1秒程度スクラム遅
れが生じた場合の燃料棒の総発熱量の平均値は321.64cal
/gとなるが,これは,十分に燃料棒破裂・水蒸気爆発を生じ得る
値であって,チェルノブイル事故以上の破局的な暴走事故に至る危
険があること,(d)東京電力の本件申請に係る解析上スクラム成功
時の最大出力時刻は事故後0.86秒,この時点のスクラム信号経
過時間は0.79秒,この時点のスクラムによる投入反応度は1ド
ル強であり,1秒程度のスクラム遅れが生じた場合の事故後0.8
6秒時点での全反応度は2ドル強であるが,更に本件原子炉施設で
タービン・トリップ時にタービン・バイパス弁不作動の場合,1秒
間全く制御棒が挿入されない場合のみならず,相当程度の数の制御
棒が挿入された場合でも一部の制御棒の挿入失敗で暴走事故に至る
危険があること,(e)タービン・トリップは,原子力発電所で想定
される異常状態(過渡現象)の中でも比較的発生頻度の高いもので
あり,我が国のこれまでの異常事象例に照らすと,本件原子炉施設
の運転時間が40年と想定されているので,その間に少なくとも4
回のタービン・トリップ,8回程度のタービン・トリップないしそ
れと同視し得る事態が生じることが現実的に想定されることから,
タービン・トリップ時のスクラム失敗を想定しない本件安全審査は
不合理であって,その判断の過程に看過し難い過誤,欠落がある旨
主張する。
しかし,上記6(1)オのとおり,安全審査においては,原子炉設
置許可申請者の実施した平常運転時における被ばく低減対策に係る
被ばく線量評価及び事故防止対策に係る安全評価の妥当性をも合わ
せて確認しているが,これは,通常運転状態を超えるような異常な
事態をあえて想定した上で解析評価を行い,そのような事態におい
ても,当該原子炉施設の基本設計において事故防止対策のために考
慮された機器系統などの設計が妥当であることを念のために確認す
るためのものであり,したがって,事故防止対策に係る安全設計が
適切であると判断したことが妥当であったか否かを念のため確認す
るために行われるものである。そして,上記前提となる事実と証拠
(乙4,11,14,原審における証人P1の証言)及び弁論の全
趣旨によると,本件原子炉設置許可に際しての本件安全審査におい
ても,所要の安全保護設備が設置されていること及びその信頼性が
確保されているか否かなどを確認するために,念のために更に運転
時の異常な過渡変化解析に基づいて安全保護設備等の設計の総合的
な妥当性を判断することとしていたことが認められる。
そうすると,原子炉設置許可段階における安全審査の過渡変化,
事故解析の趣旨に照らすと,控訴人らの上記主張内容は,本件安全
審査において想定された事象を超える独自の不適切な暴走事故を想
定し,過度のスクラム失敗を仮定することによって本件安全審査の
不合理をいうものであるから,その主張自体失当というべきである。
のみならず,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審に
おける証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,(a)控訴人ら
の主張するタービン・トリップは,本件安全審査においては「主蒸
気系の過渡変化」の一つとして想定され解析されていること,そし
て,(b)この過渡変化の解析に当たっては,評価結果を厳しくする
ため,定格出力の約105%での運転を仮定し,また,タービン・
バイパス弁が作動しないと仮定するなどの前提条件を設定したこと,
更に,(c)この過渡変化においては,タービン主蒸気止め弁が閉鎖
すれば,主蒸気の遮断により原子炉圧力が上昇し,ボイド(気泡)
がつぶれることによる正の反応度投入によって中性子束は増加する
が,タービン主蒸気止め弁閉スクラムによる負の反応度投入によっ
て中性子束の増加が抑えられ,また,逃がし安全弁の作動によって
圧力上昇が抑制され,事象は収束することが確認されていること
(乙3の10-36ないし39頁,そして,(d)更に本件安全審)
査におけるその解析評価では,高出力運転中のタービン・トリップ
時においても最小限界出力比が許容限界値を下回ることはなく,ま
た,表面熱流束の最大値は定格値の108%にとどまり,燃料の線
出力密度は燃料被覆管の1%円周方向塑性歪に対応する線出力密度
を下回っており,更に原子炉冷却材圧力バウンダリの最高圧力が,
本件原子炉冷却材圧力バウンダリの最高使用圧力を超えることはな
いとされていることなどから,燃料被覆管及び原子炉冷却材圧力バ
ウンダリ等の健全性は保持されるとの評価結果は,妥当なものと判
断されたこと(乙3の10-37ないし39頁,乙4の39,40,
42,44頁)が認められる。
そうすると,タービン・トリップに関する本件安全審査の判断に
不合理な点はなく,その過程に看過し難い過誤,欠落があると認め
ることはできない。
b制御棒挿入失敗による暴走事故
控訴人らは,(a)本件原子炉施設において,再循環系配管1本の
完全破断が生じた場合,破断の生じた再循環系から冷却材が急激に
流出し,炉心での冷却材(減速材)流量も急激に減少し,事故後約
8.7秒で炉心シュラウド外側(いわゆるダウンカマ部)の水位が
ジェット・ポンプ・ノズルの位置まで下がり,炉心での冷却材流量
が急激に減少し,ほとんどゼロになること,(b)炉心シュラウド外
側の水位が下がって再循環ポンプ吸込口の位置まで下がると冷却材
の上にたまっていた蒸気が破断口から流出して原子炉圧力が急激に
低下し,圧力容器の下部プレナム部で減圧沸騰が生じて,下部プレ
ナムの冷却材が炉心部に押し上げられること(下部プレナム部のフ
ラッシング,(c)本件原子炉施設の場合,事故後約12秒後の時)
点で下部プレナム水のフラッシングが生じるとされており,0.2
秒足らずの間に炉心流量がゼロから定格の60%まで急上昇してい
ること,(d)この再循環系配管の完全破断の際の下部プレナム部の
フラッシングの際には,炉心の減速材が急増するため,本件原子炉
施設のような沸騰水型軽水炉(BWR)では大きな正の反応度が投
入されるので,この時点で原子炉がスクラムしていない場合はもち
ろんのこと,制御棒2本程度の挿入失敗があっただけでも暴走事故
に至る危険があることから,制御棒挿入失敗による暴走事故を想定
しない本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,上記aのとおり,控訴人らの上記主張内容は,過度のス
クラム失敗を仮定することによって本件安全審査の不合理をいうも
のであるから,その主張自体失当というべきである。
しかも,本件安全審査においては,上記①aの認定事実のとおり,
本件原子炉の制御棒及び同駆動系については,各制御棒及び同駆動
系ごとにアキュムレータが設けられるとともに,原子炉の緊急停止
時にすべての制御棒駆動系から排出される水を貯えるスクラム排出
ヘッダー及びスクラム排出容器が設けられること,及び本件原子炉
施設における制御棒駆動系の水圧制御ユニットについては,安全保
護設備として,設計上十分信頼性を有し,また,厳重な品質管理の
下に製造されているので,ユニット内の配管に亀裂が生じることは
考え難いことから,本件原子炉の制御棒駆動系に十分な信頼性があ
ると判断されたことが認められるので,十分なスクラム信頼性を有
しているというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
c再循環流量制御系の誤動作による暴走事故
控訴人らは,(a)本件申請に係る本件原子炉施設の再循環流量制
御系の誤作動については,過渡変化前,定格出力の68%,定格流
量の50%で比較的長時間安定して運転していた場合について解析
されていること,(b)本件原子炉施設の現在の設計において,再循
環流量制御系の誤作動時に過渡変化後2秒時点でスクラム反応度が
加えられていない場合(1秒強のスクラム遅れに相当,流量増加)
率が毎秒11%の場合,燃料棒のピーク部の発熱量は約330.5
8cal/gとなって水蒸気爆発が生じ,また,流量増加率が毎秒
18%の場合は,燃料棒のピーク部の発熱量は約536.37ca
l/gとなって破局的な水蒸気爆発が発生すること,(c)チェルノ
ブイル事故の最大燃料エンタルピ(総発熱量)は300ないし40
0cal/gであるから,本件原子炉施設で再循環流量制御系の誤
作動による過渡変化により,チェルノブイル事故と同等ないしそれ
を超える事態に至る危険があることから,再循環流量制御系の誤動
作による暴走事故を想定していない本件安全審査には,看過し難い
過誤,欠落がある旨主張する。
しかし,上記aのとおり,控訴人らの上記主張内容は,本件安全
審査において想定された事象を超える独自の不適切な暴走事故を想
定することによって本件安全審査の不合理をいうものであるから,
その主張自体失当というべきである。
のみならず,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審に
おける証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,控訴人らの主
張に係る再循環流量制御系の誤動作は,本件安全審査においては,
「再循環流量制御器誤作動-流量増加要求」として想定されて解析
されていること,(b)過渡変化の解析に当たっては,評価結果を厳
しくするため,原子炉は自動流量制御範囲の下限で運転中であり,
主制御器の誤作動により最大となる毎秒11%の流量増加率の増加
要求信号が発生した場合であると仮定するなどの前提条件を設定し
たこと(乙3の10-26頁,(c)この過渡変化においては,炉)
心流量の増加に伴いボイドが減少し,中性子束が増加して出力も増
加するが,中性子束の増大により,中性子束高スクラム信号が発生
して,原子炉はスクラムし,事象は収束すること(乙3の10-2
5ないし27頁,(d)本件安全審査における解析評価では,再循)
環流量制御系の誤動作時においても,最小限界出力比は許容限界値
を下回ることはなく,表面熱流束は定格値の約80%にとどまる上,
原子炉圧力はわずかに上昇するにとどまり,原子炉冷却材圧力バウ
ンダリにかかる圧力は,最高使用圧力を大きく下回るとされている
ことから,燃料被覆管及び原子炉冷却材圧力バウンダリ等の健全性
を保持するとの評価結果は妥当なものと判断されたこと(乙3の1
0-26及び27頁,乙4の39ないし41,44頁)が認められ
る。
そうすると,再循環流量制御系に関する本件安全審査の判断に不
合理な点はなく,その過程に看過し難い過誤,欠落があると認める
ことはできないから,控訴人らの上記主張は失当である。
③タービン・トリップ発生時のスクラム遅れについて
控訴人らは,aおよそどれほど緻密に設計した機器においても,具
体的な設計過程,施工,保守管理を見通してなおかつ,わずか1秒程
度の作動遅れが絶対にあり得ないなどという想定は非現実的であるの
で,タービン・トリップ発生時のスクラム遅れは1秒程度を想定すべ
きであること,b本件安全審査においては,タービン・トリップ発生
時の1秒程度のスクラム遅れを全く想定していない上,これにより破
局的な暴走事故に至ることを見逃していることから,本件安全審査に
は看過し難い過誤,欠落がある旨主張する。
しかし,上記②aのとおり,本件安全審査においては,所要の安全
保護設備が設置されていること及びその信頼性が確保されているか否
かなどを確認するために,念のために更に運転時の異常な過渡変化解
析に基づいて安全保護設備等の設計の総合的な妥当性が判断されるも
のである。そして,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,14,
94,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,本
件安全審査における過渡解析の目的は,安全保護系,原子炉停止系等
の,主として異常影響緩和系に属する構築物,系統及び機器について,
異常状態においても安全確保の観点から所定の機能を果たし得ること
を確認することにあるので,スクラムが正常に作動することを前提と
してこれを行う必要があること,そして,スクラム遅れ時間の長さは,
機器又は回路の応答においてその仕様上技術的に生じ得る所要時間を,
基本設計の安全性にかかわる事項の審査の評価条件として合理的に仮
定する必要があるが,タービン・トリップ時の安全保護系を構成する
回路は,電気信号等を伝達するものであるから,安全保護系の回路全
体の伝達に要する時間は,長くとも100分の1秒程度の単位の時間
であることが認められる。
そうすると,控訴人らの主張する時間は,スクラム遅れ時間の性質
に照らすと現実的ではなく,これを設計上見込む必要性はないという
べきであるから,この点に関する本件安全審査の判断に不合理な点は
なく,その過程に看過し難い過誤,欠落があると認めることはできな
い。
④スクラム信号系について
控訴人らは,a本件原子炉施設では,スクラム信号系の故障に対し,
いわゆる1outof2×2(ワン・アウトオブ・トゥ・トゥワィス)
方式を採用しているので,同一のチャンネルに属する二つの検知器な
いし検出回路が故障すれば,他の二つが健全であってもスクラム信号
は出ないこと,また,トリップ・ブレーカーの固着により検知器が異
常を検知してもスクラム信号がでない事態が生じ得ること,b本件安
全審査においては,冷却材喪失事故と同時に外部電源喪失を想定する
ため事故と同時に原子炉が緊急停止することを前提としているが,実
際の冷却材喪失事故の場合,破断と同時に緊急停止信号が出ることは
なく,冷却材喪失事故に対応する緊急停止信号は「ドライウェル圧力
高」と「原子炉水位低」であるところ,原子炉水位は事故後約30秒
時点まで低下しないとされているので,下部プレナム水フラッシング
の時点では「原子炉水位低」の信号は出ないから,この場合「ドライ
ウェル圧力高」信号以外には緊急停止信号はないこと,cこの「ドラ
イウェル圧力高」信号の検知器4つのうち二つで不具合を生じれば,
緊急停止せずに下部プレナム水フラッシングを迎え暴走事故に至る危
険があり,また,検知器が健全でもトリップ・ブレーカーが固着した
場合には,緊急停止せず,下部プレナム水フラッシングを迎え暴走事
故に至る可能性があること,d本件補正に係る本件申請においては,
冷却材喪失事故を解析するに当たり,再循環系配管完全破断時に「ド
ライウェル圧力高」の検知器ないしトリップ・ブレーカーの故障や制
御棒駆動系の故障を想定した解析を行っていないこと等から,本件申
請をそのまま容認した本件安全審査は,暴走事故に至る可能性を看過
するとともに,現在の安全評価審査指針(甲33,乙94)のⅡ5.
2(6)にも反しているので不合理である旨主張する。
しかし,証拠(甲33,乙1ないし4,14,94,原審における
証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,a本件安全審査におい
ては,本件原子炉施設の検知器及び検出回路に関する安全保護系は,
一つのチャンネル中に2組の検知器及び検出回路が設けられるという
多重性と,これらのうちいずれかの機器が故障した際に他の機器には
影響を与えないという独立性を備えた高い信頼性を有する設計が要求
され,これが確認されていること,b安全設計審査指針(乙14)に
おいては,一つの機器の単一故障を超えて,工学的及び専門技術的に
不合理な条件である同一チャンネル内の二つの検出器や検出回路の同
時故障を考慮する必要はないとされていること(乙14の984ない
し985頁)が認められるので,控訴人らの上記主張はその前提を欠
いており失当である。
のみならず,上記前提となる事実と上掲証拠及び弁論の全趣旨によ
ると,aチャンネル・トリップ,原子炉スクラムに関連する継電器の
接点の焼損又は溶着など「フェイル・セイフ」に反する方向の故障に
ついては,本件原子炉施設においては各継電器の接点を流れる電流が
当該継電器の許容する定格の50%以下になるように裕度を見込んで
設計することによって,その発生を防止していること(乙2の8-8
-16頁,b論理回路の継電器接点は,すべて直列につながれてい)
るので,複数の継電器のうち1個でも非励磁の状態(回路の切断状
態)になれば,その継電器が属している論理回路の主トリップ継電器
の電源は喪失することになり,主トリップ継電器の接点は,各ソレノ
イド・グループ回路毎に二つずつ直列につないでいることから,仮に
継電器接点が一つ故障した場合でも,スクラム動作を妨げないように
していること(乙2の8-8-16頁,c単一故障を考慮しても,)
主トリップ継電器の固着によりスクラム信号の発信に不都合が生ずる
事態は想定できないこと,d電源の喪失,コイルの断線及び短絡又は
配線の断線等の継電器の故障の大部分は,継電器自体を非励磁状態に
戻し,チャンネル・トリップになるように働くので,このような回路
構成は,大部分の故障条件に対して「フェイル・セイフ」となること
(乙2の8-8-15ないし16頁,乙3の8-84ないし88,9
0,91頁,e緊急停止信号が発生する「原子炉水位低(レベル)
3」はシュラウドより高い位置に設定されており,実際には配管破)
断後に水位が「原子炉水位低(レベル3」に達して,原子炉水位低)
による緊急停止信号が発生し,その後シュラウド外の水位が再循環ポ
ンプ吸込口レベルまで達した時点で下部プレナム水フラッシングが発
生すること(乙3の8-510頁)が認められる。
そうすると,スクラム信号系に関する本件安全審査の判断に不合理
な点はなく,その過程に看過し難い過誤,欠落があると認めることは
できない。
(エ)ECCSについて
①ECCS安全評価指針の適合性の有無について
a控訴人らは,本件安全審査においては,燃料被覆管が中性子照射,
酸化,応力腐食等によって劣化しているにもかかわらず,劣化を想
定しない健全な燃料棒に基づいて無意味な事故解析を行っているの
で,ECCS安全評価指針(乙11)に適合しない旨主張する(原
判決第二編第一章第六節第二款第二の五4(二)。)
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,11,14,
94,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,
ECCSとは,配管等の破断による原子炉冷却材喪失時に,燃料被
覆管の重大な損傷を防止するに十分な量の冷却水を炉心に注入し,
その冷却可能な形状を維持しつつ,炉心を冷却し,もって放射性核
分裂生成物の周辺への放出を抑制するよう設計された設備をいうと
認められるところ,上記(3)イ(ア)④b(a)のとおり,本件安全審
査においては,燃料被覆管温度が最も高くなるのは再循環配管の完
全破断の場合であり,燃料被覆管最高温度は約886℃であって,
燃料被覆管の酸化層の厚みの最大値は約0.3%と微小であるので,
冷却中に燃料被覆管の延性が失われることはなく,また,破裂の発
生する燃料棒はなく,水とジルコニウム反応割合は,全燃料被覆管
のジルコニウムの約0.04%であり,格納容器の健全性は確保さ
れ,中性子照射後の燃料被覆管に関する破裂実験の結果によっても
なお十分に余裕があることが確認されているので,燃料被覆管が中
性子照射等によって劣化することを想定して解析する必要はないと
いうべきであるから,控訴人らの上記主張は失当である。
bまた,控訴人らは,本件原子炉施設について,冷却材喪失事故時
に温度上昇の結果生ずる燃料被覆管の膨れによる流路閉鎖及び破裂
について何ら実証的な検討が行われていないので,ECCS安全評
価指針に適合しない旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款
第二の五4(二)。)
しかし,証拠(乙1ないし4,11,14,94,原審における
証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全審査におい
ては,燃料被覆管が膨れたり,破裂したりすることがないことが解
析等により確認されていること(乙2の10-3-38,39,8
1頁,乙3の10-4頁,乙4の47頁)が認められるから,本件
安全審査における燃料棒の健全性に関する判断の過程に看過し難い
過誤,欠落があることは認めることはできないから,控訴人らの上
記主張は失当である。
cさらに,控訴人らは,日本原子力研究所が燃料被覆管の内面酸化
は外面酸化より4倍多く進行するとの報告をしているので,本件安
全審査においては,燃料被覆管の最高温度及び水とジルコニウムの
反応量にいずれも重大な影響を与える燃料被覆管の内面酸化を過少
評価している点において,本件原子炉のECCSはECCS安全評
価指針に適合しない旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款
第二の五4(二)。)
しかし,本件全証拠によっても,日本原子力研究所の報告におい
て,内面酸化と外面酸化との酸化量の比較を示す結果が得られてい
ることを認定することはできない。
むしろ,上記(3)イ(ア)④b(a)(b)のとおり,燃料被覆管は,
LOCA時においても破裂することなく,仮に燃料被覆管に破裂が
生じた場合でも,燃料被覆管の全酸化量の計算値は,ECCS安全
評価指針の基準(2)(酸化前の燃料被覆管の厚さの15%以下でな
ければならない)を充足するものであり,そして,証拠(乙8。
6)によれば,日本原子力研究所が,昭和58年に実施した実験の
結果,燃料被覆管の内面酸化と外面酸化を合わせた全酸化量の計算
値が酸化前の燃料被覆管の厚さの15%以下でなければならないと
するECCS安全評価指針の基準値が安全側に設定されたものであ
ると確認されたことが認められる。
そうすると,本件原子炉施設のECCSは,ECCS安全評価指
針に適合しているというべきであるから,控訴人らの上記主張は理
由がない。
②ECCSの有効性の有無について
控訴人らは,a米国アイダホ州の国立原子炉試験所において,19
71年(昭和46年)に加圧水型原子炉におけるECCSのセミスケ
ール実験により,ECCSが設計どおりに機能を発揮しないことが判
明していること,b我が国においても,昭和49年からECCSに関
する実験が開始されているものの,その設計どおりの性能が実証され
ていないことから,この点を看過した本件安全審査には瑕疵がある旨
主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の五2。)
しかし,証拠(乙19,56の①ないし③,85の①②,89の①
②)及び弁論の全趣旨によると,a米国アイダホ州の国立原子炉試験
所で行われた加圧水型原子炉におけるECCSのセミスケール実験は,
いわゆるロフト計画の一連の実験の初期において,本件原子炉のよう
な実用発電用原子炉とは規模,内容を異にする簡単な模型実験装置に
おける実験であるので,その実験結果を実用発電用原子炉である本件
原子炉にあてはめることはできないこと(乙19の134頁,138
頁,b実用発電用原子炉により近い小型原子炉を用いたロフト計画)
の実験においては,ECCSにより有効に原子炉内に注水が行われ,
燃料被覆管の最高温度が計算による予測値よりも低い温度にとどまる
との実験結果が得られていること(乙89の①②,c沸騰水型原子)
炉においても,実用発電用原子炉に近い形に模擬した総合システム実
験において,ECCSによって有効に原子炉内に注水がなされ,燃料
被覆管の最高温度が計算による予測値よりも低い温度にとどまるとの
実験結果が得られていること(乙85の①②,d美浜原発2号機に)
おいて平成3年2月9日に発生した蒸気発生器伝熱管損傷事象につい
ては,後記(ケ)③のとおり,ECCSが設計どおりに作動し,炉心の
冠水は維持され炉心の健全性に影響はなかったこと(乙56の①ない
し③)が認められる。
そして,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,19,56の
①ないし③,85の①②,89の①②,原審における証人P1の証
言)及び弁論の全趣旨によると,a本件原子炉のECCSの性能を評
価するに当たっては,解析モデルを用いて設備等の性能評価を行う方
法がとられたこと,b原子炉施設については,実際に異常を発生させ
て実験することができないことから,このような方法が有効,かつ合
理的なものとされていること,cECCSの性能評価解析に用いられ
たモデルは,実験によって十分な確証が得られている部分については,
その結果を踏まえ,また,いまだ実験によって十分な確証が得られて
いない部分については,十分厳しい条件を設定し,全体としては,安
全上厳しい結果となるように作成されたものであること,d実際のE
CCSの性能評価においては,更に厳しい条件を設定した安全側の評
価が行われたこと,e本件安全審査においては,本件原子炉のECC
Sが確実に所期の機能を発揮し得るものと判断されたことが認められ
るから,ECCSの有効性に関する本件安全審査に不合理な点はない
というべきであるので,その判断の過程に看過し難い過誤,欠落があ
ると認めることはできない。
③ECCSの不作動,故障等の有無について
控訴人らは,ECCSは,弁,ポンプの故障,配管のひび割れ,非
常用電源としてのディーゼル発電機の不作動,計測制御系の故障等に
よって作動しない可能性があり,しかも,過去には必要なときにEC
CSが正しく機能しなかった実例があるので,この点を看過した本件
安全審査には瑕疵がある旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二
款第二の五3。)
しかし,控訴人らの主張するECCSの弁,ポンプの故障等による
不作動,故障等については,原子炉設置許可の際の安全審査の対象で
はなく,その後続の詳細設計及び運転管理にかかわる事項であるから,
控訴人らの上記主張は失当である。
のみならず,上記②のとおり,ECCSの有効性については実証さ
れていることが認められる。そして,上記前提となる事実と証拠(乙
1ないし4,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨による
と,aECCSは,弁,ポンプ,配管,非常用のディーゼル発電機,
計測制御装置等によって構成され,ECCS起動信号が発せられると,
ポンプが自動的に起動して水源であるサプレッション・プール等の水
を炉心に注水するという構造・動作上単純な設備であること,bこの
ために,製造時には厳重な品質管理の下に製造されること,cECC
Sは,種々の故障を想定し,多重性を有するように設計されるととも
に,定期的な試験,検査を実施できるように設計されていること,d
本件安全審査においては,上記①のとおり,本件原子炉施設のECC
Sについては,ECCS安全評価指針に適合し,これが確実に所期の
機能を発揮し得るものと判断されたことが認められる。
したがって,ECCSに関する本件安全審査の判断の過程に看過し
難い過誤,欠落があると認めることはできないから,控訴人らの上記
主張は失当である。
④非常用炉心冷却系の流量を定格流量とする合理性の有無について
控訴人らは,本件安全審査においては,緊急炉心冷却系のうち故障
を想定するもの以外はすべて定格流量の冷却水を注入できるという前
提で解析しているが,実際の緊急炉心冷却系の作動例では,美浜原発
2号機の平成3年2月9日の蒸気発生器伝熱管損傷事象で高圧系の流
入量が想定以下であった指摘があるほか,福島第一原発2号機の平成
4年9月29日の全給水流量喪失事故では高圧注水系が定期的にほと
んど注入されない状態となるように,緊急炉心冷却系が定格流量どお
りに注水することを想定するのは現実的ではないことから,非常用炉
心冷却系の流量を定格流量を前提にした本件安全審査は不合理である
旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,11,14,
56の①ないし③,94,135,原審における証人P1の証言)及
び弁論の全趣旨によると,a本件安全審査においては,(a)想定され
る配管破断等による原子炉冷却材喪失に対して,燃料及び燃料被覆管
の重大な損傷を防止でき,かつ,燃料被覆管の金属と水との反応を十
分小さな量に制限できる設計であること,(b)非常用所内電源系のみ
の運転下で単一故障を仮定しても,系統の安全機能が達成できるよう
に,独立性を有する設計であること,及び(c)定期的に試験及び検査
ができるとともに,その健全性及び多重性の維持を確認するため,独
立に各系の試験及び検査ができる設計であることが確認された結果,
本件原子炉施設のECCSは,確実に所期の機能を発揮し,信頼性が
確保されるものと判断されていること(乙3の8-100ないし10
1頁,乙4の32ないし33頁,b美浜原発2号機の事象について)
は,後記(ケ)③のとおり,再現解析の結果によって,ECCSは設計
どおりに作動し,炉心の冠水は維持され,炉心の健全性に影響はなか
ったことが確認され,また,燃料集合体シッピング検査の結果からも,
燃料集合体に異常は認められていないことから,同事象においてはE
CCSが十分な流量確保の機能を発揮したこと(乙56の①ないし
③,c上記福島第一原発2号機の事象については,ECCSの高圧)
炉心注入系の作動に際して,定格流量が確保されてECCSが期待ど
おりに作動していること(乙135)が認められる。
したがって,非常用炉心冷却系の流量を定格流量を前提にした本件
安全審査の判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると認めることは
できないから,控訴人らの上記主張は失当である。
⑤高圧炉心スプレイ系の故障の有無について
控訴人らは,a本件安全審査においては,高圧炉心スプレイ系の故
障につき高圧炉心スプレイ系に電源を供給する非常用ディーゼル発電
機の故障においているにとどまること,b日本原子力発電東海第二原
子力発電所において平成11年5月に定期検査中に低圧炉心スプレイ
系注入弁の弁棒の破断が発見されたが,注入弁の故障は定期検査まで
分からず,このような故障が高圧炉心スプレイ系で起こった場合,高
圧炉心スプレイ系は1系統しかなく,注入弁も一つだけであるから,
注入弁が開放不能となれば,高圧炉心スプレイ系が全く機能しないお
それがあったこと,cこのため,高圧炉心スプレイ系の故障による中
小破断LOCAを想定して安全審査をすべきであることから,現実的
ではない高圧炉心スプレイ系の故障を前提にした本件安全審査は不合
理である旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審における
証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全審査において
は,高圧炉心スプレイ系に給電するディーゼル発電機の故障を想定し
ているが,この想定については,高圧炉心スプレイ系が全く機能しな
い事態も含めて性能解析が行われていること(乙2の10-3-19
頁)が認められるから,控訴人らの主張はその前提を欠くものであり
失当である。
⑥自動減圧系の不作動の可能性の有無について
控訴人らは,a敦賀2号機において平成11年7月12日に発生し
た冷却材漏洩事象については,現在の原子力発電所の設計において行
われている疲労解析のレベルがなお低いことが明らかとなっているの
で,少なくとも,再生熱交換器のような熱疲労が厳しい配管の疲労解
析が十分でないことを想定しなければならないこと,b本件原子炉に
おいては,冷却材浄化系と残留熱除去系の再生熱交換器は格納容器の
外側にあるため,これらの配管から冷却材が漏洩した場合,冷却材は
格納容器(ドライウェル)内には流出しないから,ドライウェル圧力
は上昇せず,原子炉水位低とドライウェル圧力高の両方の信号が出て
初めて起動する自動減圧系は永久に作動しないこと,cそこで,再生
熱交換器の配管の貫通亀裂から小破断LOCAとなり,長期間にわた
り漏洩が続き(結局冷却材が喪失し)その間自動減圧系が作動しない
という事態があり得ることを想定すべきであることから,自動減圧系
の不作動の可能性を前提にしなかった本件安全審査は不合理である旨
主張する。
しかし,控訴人らの主張に係る再生熱交換器の具体的詳細な構造は,
機器の詳細設計ないし施工管理の段階に属する事項であるところ,上
,記1(2)のとおり,原子炉設置許可に際しての安全審査の対象事項は
専ら当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項のみを規制の
対象とするのであって,後続の工事計画の認可の段階で規制の対象と
されている当該原子炉の具体的な詳細設計及び工事の方法は安全審査
の対象外の事象であるから,控訴人らの上記主張は失当である。
のみならず,証拠(乙1ないし4,11,14,107)及び弁論
の全趣旨によると,上記敦賀2号機の冷却材漏洩事象は,その流出量
が通常運転時に使用される補給水系で補給できる範囲であり,ECC
Sの作動が必要となるほどの漏洩ではないので,中小破断LOCA
(冷却材喪失事故)ではなく,事故解析で想定すべき冷却材喪失事故
には当たらないこと,敦賀2号機は,加圧式軽水炉(PWR)であり,
敦賀2号機の同事象は内筒付き再生熱交換器の連絡配管において発生
したところ,沸騰水型原子炉(BWR)である本件原子炉施設にはこ
のような設備は存在しないことが認められる。
したがって,控訴人らの上記主張はその前提を欠くので失当である。
⑦低圧炉心注入系の注入量減少の有無について
控訴人らは,a中小破断LOCAにおいて完全に作動することが期
待されている低圧注水系は,残留熱除去系の一つのモードであり,低
圧注水系として作動する場合にも残留熱除去系の配管を経由して,一
部は残留熱除去系の熱交換器を経由して炉心に注水するのであるから,
残留熱除去系の再生熱交換器の配管の損傷が発生した場合,ECCS
の一つである低圧注水系の冷却材注入量は減少すること,b同様に,
熱交換器部分に限らず残留熱除去系の配管の一部が応力腐食割れ等に
より破断した場合も同じであることから,低圧炉心注入系の注入量減
少を前提にしなかった本件安全審査は不合理である旨主張する。
しかし,証拠(乙1ないし4,11,14)及び弁論の全趣旨によ
ると,本件安全審査において,控訴人ら主張に係る中小破断事故解析
においては,単一故障として,炉心冷却の観点から最も影響の大きい
高圧炉心スプレイ系ディーゼル発電機の故障を仮定すれば足りるので
あって,より影響が少ない低圧注水系には故障を仮定する必要がない
こと(乙2の10-3-19頁)が認められる。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
⑧非常用ディーゼル発電機の冷却水漏洩事象について
控訴人らは,本件原子炉施設において昭和62年8月17日に非常
用ディーゼル発電機A号機ディーゼル機関からの冷却水の漏洩が発生
したが,現実に非常用ディーゼル発電機の不作動につながりかねない
欠陥に関する設計は,本来安全審査で審査されるべきであったので,
本件安全審査には欠落がある旨主張する。
しかし,証拠(甲348,乙1ないし4,11,14)及び弁論の
全趣旨によると,a本件安全審査においては,非常用ディーゼル発電
機を含む非常用電源設備について,外部電源喪失と機器の単一故障を
仮定しても,安全上重要かつ必須の設備が所定の機能を果たすための
十分な電力を供給できる能力を有することが確認されていること(乙
4の33頁,b本件原子炉施設における上記冷却水の漏洩事象は,)
ディーゼル機関のシリンダーヘッド製造時のキリ穴加工における作業
ミスにより,排気弁ポート肉厚が一部非常に薄くなっており,これが
冷却水による腐食及びディーゼル機関起動時の水圧によりクラックに
進展し,冷却水の漏洩に至ったものと推定されたこと(甲348)が
認められる。
そうすると,本件原子炉施設における上記冷却水の漏洩事象は,原
子炉設置許可に際しての安全審査の対象事項ではなく,後続の工事計
画の認可の段階で規制の対象とされている施工管理に属する事項であ
るから,本件安全審査の合理性を左右するものではないというべきで
ある。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
(オ)計測制御システムの欠陥の有無について
控訴人らは,米国及び我が国において計測制御システムの故障例が発
生しているので,原子炉における各種制御システムは未完成の技術分野
であり,信頼性も欠如しているから,本件安全審査には瑕疵がある旨主
張する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の六。)
しかし,上記前提となる事実及び証拠(乙1ないし4,原審における
証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全審査においては,
①燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれのあ
る原子炉出力制御設備,安全保護設備等の制御装置については,十分な
性能,強度等を有するように設計されたこと,及び②異常の発生を早期,
かつ確実に検知するため,本件原子炉施設については,燃料被覆管の損
傷を検知するために冷却材中の放射能レベルを測定監視する計測装置,
圧力バウンダリを構成する機器等からの冷却材の漏洩を検知する漏洩監
視装置,原子炉の出力や原子炉冷却系統設備等の圧力,温度,流量等を
測定監視する計測装置が設けられ,異常の発生を検知した場合には,原
子炉の停止等の所要の措置がとれるよう,直ちに警報を発する警報装置
等が設けられていること等が確認された結果,これらの計測制御システ
ムに十分な信頼性があり,本件原子炉は安定して運転し得るものと判断
されたことが認められる。
そうすると,計測制御システムに関する本件安全審査は合理性がある
というべきであるから,その判断の過程に看過し難い過誤,欠落がある
と認めることはできない。
(カ)格納容器の健全性の有無について
①事故解析について
控訴人らは,ECCSが不作動に陥る可能性が十分考えられるにも
かかわらず,ECCS等の安全防護設備が絶対的に機能し,炉心溶融
はあり得ないという前提で行われた本件安全審査の事故解析は不合理
であり,このような事故解析を前提として行われた格納容器の健全性
についての判断も不合理である旨主張する(原判決第二編第一章第六
節第二款第二の七1。)
しかし,上記(エ)③のとおり,控訴人らの主張するECCSの不作
動については,原子炉設置許可の際の安全審査の対象ではなく,その
後続の詳細設計及び運転管理にかかわる事項であるから,控訴人らの
上記主張はその前提を欠いているというべきである。
そして,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,11,14,
原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,a安全設
計審査指針(乙14)においては,格納容器バウンダリの用語の定義
として「冷却材喪失事故時に圧力障壁となり,かつ,放射性物質の,
放散に対する障壁を形成するように設計された範囲の施設をいう」。
と定め,その機能として,想定される配管破断による冷却材喪失事故
に際して,事故後に想定される最大エネルギー放出によって生じる圧
力と温度に耐え,かつ,出入口及び貫通部を含めて所定の漏洩率を超
えることがないように働くものとされ,また,平常運転時,運転時の
異常な過渡変化時,保修時,試験時及び事故時において,脆化的挙動
を示さず,かつ,急速な伝播型破断を生じない設計であることを要求
していること,そして,b本件安全審査においては,安全設計審査指
針等にのっとり,本件原子炉に設置される安全防護設備がいずれも確
実に所期の機能を発揮し得るものと判断したことが認められるから,
事故解析に関する本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤,欠落
があると認めることはできない。
②隔離弁について
控訴人らは,格納容器の隔離弁がしばしば故障しているほか,事故
時にECCS等を使用した場合にはそれらの配管類が閉ざされないの
で,格納容器における隔離機能は十分ではないから,本件安全審査に
は瑕疵がある旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の七
2。)
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,11,14,
原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全
審査においては,a格納容器を貫通する配管には,格納容器の内外若
しくは外側に隔離弁が設けられ,これらの隔離弁は十分な余裕をもっ
た設計とされていること,bこれらの隔離弁は,いずれも隔離信号に
より自動的に閉鎖するばかりでなく,中央制御室からの遠隔手動操作
によっても閉鎖することができるようになっていること,cそのうち,
配管に2個の隔離弁を設けている場合には,その2個の隔離弁はそれ
ぞれ独立した電源によりこれを駆動することができること,d本件原
子炉の運転開始後においても,定期的に隔離弁の機能を確認するため
の試験が実施できる構造となっていること(乙2の8-5-7,15
頁,乙3の8-112ないし114,225,469ないし471頁,
乙4の11,33頁)から,格納容器の隔離弁が十分な信頼性を有す
ると判断されたことが認められる。
そうすると,隔離弁に関する本件安全審査の判断の過程に看過し難
い過誤,欠落があるとは認められないから,控訴人らの上記主張は失
当である。
③制御棒不挿入事故について
控訴人らは,主蒸気の隔離時には多量の蒸気がサプレッション・チ
ェンバに流入するが,この際の衝撃が格納容器に大きな力を加え,圧
力容器を動かす可能性があり,そうなれば制御棒不挿入事故も起こる
可能性があるので,格納容器が安全とはいえないから,本件安全審査
には瑕疵がある旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の
七3。)
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,11,14,
原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,圧力容器
は,圧力容器ペデスタル(基礎台)によってその全重量が支持されて
いること,このため,圧力容器は,格納容器の変位を直接受けるよう
な構造となっていないこと(乙2の8-4-4頁)が認められる。
したがって,蒸気がサプレッション・チェンバに流入する際の衝撃
が制御棒の挿入性に影響を与えることはないというべきであるから,
控訴人らの上記主張は理由がない。
④格納容器の容積について
控訴人らは,沸騰水型原子炉の格納容器は加圧水型原子炉の格納容
器と比べ,容積が小さいので,水素爆発等に対して極めて弱いから,
沸騰水型原子炉である本件原子炉に係る本件安全審査には瑕疵がある
旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の七4。)
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審における
証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全審査において
は,a沸騰水型原子炉の場合には,加圧水型原子炉の場合と異なり,
格納容器内に放出された蒸気を,格納容器の下部にあるサプレッショ
ン・プールの水によって凝縮復水させることによって,格納容器内の
圧力の上昇を抑制できること,b本件原子炉施設には,通常運転中,
格納容器内の酸素濃度を低く保つため,格納容器内の空気をあらかじ
め窒素ガスで置換する不活性ガス系及び可燃性ガス濃度制御系がそれ
ぞれ設置され,冷却材喪失事故時の水素及び酸素の発生を考慮しても,
,格納容器内の水素及び酸素濃度は,十分燃焼限界(水素濃度4vol%
又は酸素濃度5vol%)以下に抑えることができること(乙2の8-
5-9頁,乙3の8-109頁,乙4の34頁)が確認され,本件原
子炉の格納容器の健全性が維持されると判断されたことが認められる。
したがって,格納容器に関する本件安全審査は合理性があるという
べきであるから,控訴人らの上記主張は失当である。
(キ)ポンプ,弁等の健全性について
①ポンプ,弁等の健全性の欠如の有無について
控訴人らは,我が国においては,昭和46年1月から昭和56年3
月までの間に,多数のポンプ,弁の故障例があるので,本件原子炉に
おいて使用されているポンプ,弁の健全性が欠如しているから,本件
安全審査には瑕疵がある旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二
款第二の八。)
しかし,上記(エ)③のとおり,控訴人らの主張するECCSの弁,
ポンプの故障等による不作動,故障等については,原子炉設置許可の
際の安全審査の対象ではないというべきである。そして,上記1(2)
のとおり,控訴人らの主張するポンプ,弁に関する故障例の防止対策
に関する事項については,原子炉設置許可後の段階にある詳細設計や
具体的な工事方法及び運転管理における安全規制によって実現される
べきものであるから,控訴人らの上記主張は失当というべきである。
のみならず,上記(エ)③のとおり,ポンプ,弁を重要な要素とする
本件原子炉のECCSが所期の機能を発揮し得るものとした本件安全
審査の判断は合理性があるというべきである。さらに,上記前提とな
る事実と証拠(乙1ないし4,11,14,原審における証人P1の
証言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全審査においては,a主蒸
気系の安全弁については,構造が簡単で信頼が高く,開閉動作につい
て電源を一切必要としないバネ式のものが使用されていること,b復
水ポンプは,低圧復水ポンプ,高圧復水ポンプがそれぞれ3台設置さ
れ,各1台が予備ポンプとされていること,c原子炉給水ポンプは,
常用の2台のポンプのほかに2台の予備ポンプが設けられていること,
d原子炉冷却材浄化系,残留熱除去系及び原子炉隔離時冷却材を構成
するポンプは,定期的に検査されて健全性が確認されることから,本
件原子炉において使用されるポンプ,弁の健全性が維持されると判断
されたことが認められる。
そうすると,ポンプ,弁等の健全性に関係する本件安全審査の判断
には不合理な点はないというべきであるから,控訴人らの上記主張は
失当である。
②原子炉再循環ポンプメカニカルシールの不具合について
控訴人らは,a本件原子炉施設において,平成4年12月18日,
再循環ポンプ(B)メカニカルシールの不具合に伴う原子炉手動停止
が行われ,再循環ポンプの不安定な作動事象が発生したこと,bこの
再循環ポンプは,炉心の最重要機器であり,ここでの故障は循環して
いる冷却材(軽水)の温度管理,ひいては原子炉内の核分裂そのもの
を左右しかねないこと,c上記メカニカルシールを構成するリングの
一部にひび割れが発生していたが,このリングの材質はチタンカーバ
イトであって「微細な異物」にさえ結果として耐えられない材質であ
ったことから,このような材質で運転継続を前提にした再循環ポンプ
の審査を怠った本件安全審査は不合理である旨主張する。
しかし,証拠(甲349,355,乙1ないし4)及び弁論の全趣
旨によると,a本件原子炉施設の上記再循環ポンプの不安定な作動事
象は,原子炉再循環ポンプのメカニカルシール部の圧力が変動したた
め,状況を監視しながら運転を継続し,その後シール機能低下の兆し
がみられたため当該メカニカルシールを交換したこと,bその機能低
下の原因は,微細な異物がシール部に入り込んだものと推定されたこ
と,c当該事象は,国際原子力事象評価尺度では,0レベルのなかで
も特に安全に影響を与えない事象0-(マイナス)レベルに分類され
ること(甲355の36頁)が認められる。
したがって,本件原子炉施設の上記再循環ポンプの不安定な作動事
象は,運転管理に起因する事項であって,本件原子炉施設の基本設計
の安全性にかかわる事項ではないから,本件安全審査の合理性を何ら
左右するものではないというべきである。
③タービン駆動原子炉給水ポンプ(A)出口逆止弁からの漏洩につい

控訴人らは,a本件原子炉施設において,平成9年8月19日,タ
ービン駆動原子炉給水ポンプ(A)の出口逆止弁からの漏洩が発生し,
給水ポンプからの水漏れが生じて出力制限が行われたこと,bこの対
策として,ガスケットリングを新品にし,再組立するとともに,セッ
ト位置についての記録管理を行うよう施工要領書を改訂したことから,
本件安全審査は,給水ポンプの審査を見落としているので,不合理で
ある旨主張する。
しかし,証拠(甲350,355,乙1ないし4)及び弁論の全趣
旨によると,a本件原子炉施設の上記給水ポンプからの水漏れ事象は,
弁の分解点検の際における組立作業の不良に起因するものであること,
b当該事象は,国際原子力事象評価尺度では,0レベルのなかの安全
に影響を与えない事象0-(マイナス)レベルに分類されること(甲
355の41頁)が認められる。
したがって,本件原子炉施設の上記給水ポンプからの水漏れ事象は,
運転管理に起因する事項であって,本件原子炉施設の基本設計の安全
性にかかわる事項ではないから,本件安全審査の合理性を何ら左右す
るものではないというべきである。
④本件原子力発電所における本件原子炉施設以外のポンプに関する故
障について
控訴人らは,本件原子力発電所における本件原子炉施設以外の原子
炉施設で発生したポンプに関する不具合として,a本件原子力発電所
6号機において,平成8年2月23日,再循環ポンプトリップによる
手動停止が行われたこと,b同3号機において,平成10年4月5日,
再循環ポンプトリップによる手動停止が行われたこと,c同7号機に
おいて,平成11年7月28日,再循環ポンプ1台停止による手動停
止が行われたことがあるので,ポンプに関する本件安全審査には欠落
がある旨主張する。
しかし,証拠(甲355,乙1ないし4)及び弁論の全趣旨による
と,控訴人らの主張に係る上記ポンプに関する不具合の各事象は,い
ずれも施工管理や部品の製造管理に起因するものであるのみならず,
本件原子力発電所3号機,6号機及び7号機に関するものであって,
本件原子炉に関係しないものであることが認められるから,これらに
ついては,本件訴訟の審理対象である本件原子炉施設の基本設計の安
全性にかかわるものでないというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張はその前提を欠いており失当であ
る。
(ク)本件原子力発電所における異常事象等と本件安全審査について
①控訴人らが主張する昭和60年5月31日の復水器の配管漏洩事象
については,上記(イ)③cのとおりである。
②同昭和62年8月17日の非常用ディーゼル発電機の冷却水漏洩事
象については,上記(エ)⑧のとおりである。
③同平成4年12月18日の再循環ポンプの不安定な作動事象につい
ては,上記(キ)②のとおりである。
④同平成9年8月19日の給水ポンプからの水漏れ事象については,
上記(キ)③のとおりである。
⑤同平成10年1月16日の燃料棒の破損事象については,上記(ア)
③b(a)のとおりである。
⑥同月30日の燃料棒スペーサのはずれ事象については,上記(ア)③
b(c)のとおりである。
⑦ところで,控訴人らは,本件原子炉施設において,平成10年10
月8日,原子炉格納容器内LCW(低電導度廃液)サンプからのオー
バーフローによる圧力容器弁の全閉となる事象が発生したので,本件
安全審査には重大な欠陥がある旨主張する。
しかし,証拠(甲353,355,乙1ないし4)及び弁論の全趣
旨によると,a本件原子炉施設の上記事象は,定期検査中,原子炉開
放点検の準備において,主蒸気配管及び原子炉圧力容器の水張り作業
中に閉じるべき弁を閉じなかったために,当該弁を通って主蒸気配管
内の水が,原子炉格納容器内LCW(低電導度廃液)サンプに流入し,
同サンプから床にあふれ出たものであること,b当該事象の原因は,
操作員の作業の引き継ぎが不適切であったことにあること,c当該事
象は,国際原子力事象評価尺度では,0レベルのなかの安全に影響を
与えない事象0-(マイナス)レベルに分類されること(甲355の
44頁)が認められる。
したがって,本件原子炉施設の上記事象は,運転管理にかかわる事
項であって,原子炉設置許可に際しての安全審査の対象事項ではない
から,本件安全審査の合理性を何ら左右するものではないというべき
である。
⑧また,控訴人らは,本件原子炉施設において,平成11年9月2日,
復水器真空度低下に伴う出力制限となる事象が発生したので,本件安
全審査には重大な欠陥がある旨主張する。
しかし,証拠(甲354,355,乙1ないし4)及び弁論の全趣
旨によると,a本件原子炉施設の上記事象は,電源系の過電流を検知
する変流器の一つに異常が発生したため,気体廃棄物処理系の弁操作
を行う制御盤に給電している非常用電源盤の受電遮断機が作動し,こ
れにより弁が閉じたことから,復水器内のガス抽出が行われなくなり,
復水器の真空度が低下したものであること,b当該事象の原因は,変
流器の巻線に製造段階で傷が発生したことにあると推定されること,
c当該事象は,国際原子力事象評価尺度では,0レベルのなかの安全
に影響を与え得る事象0+(プラス)に分類されること(甲355の
45頁)が認められる。
したがって,本件原子炉施設の上記事象は,原子炉設置許可処分後
の工事計画の認可の段階で規制の対象とされている施工管理及び部品
の製造管理に属する事項であって,原子炉設置許可の際の安全審査の
対象ではないから,控訴人らの上記主張は失当である。
⑨さらに,控訴人らは,a平成3年2月21日に本件原子力発電所2
号機におけるタービンの自動停止と原子炉の自動停止,b平成4年5
月27日に同2号機における復水器真空度低下による手動停止,c平
成7年1月5日の同4号機におけるタービン発電機停止と原子炉自動
停止,d同年7月13日の同5号機におけるタービン制御油漏洩によ
る手動停止,e平成8年2月23日の同6号機における再循環ポンプ
トリップによる手動停止,f同年8月24日の同6号機における燃料
集合体からの漏洩による手動停止,g平成10年4月5日の同3号機
における再循環ポンプトリップによる手動停止,h同年8月29日の
同6号機における継電器動作による自動停止,i平成11年3月31
日の同7号機における燃料集合体からの漏洩による手動停止,j同年
5月25日の同6号機における発電機励磁装置故障による自動停止,
k同年7月28日の同7号機における再循環ポンプ1台停止による手
動停止が発生しているとして,本件安全審査には瑕疵がある旨主張す
る。
しかしながら,控訴人らの主張に係る本件原子力発電所における本
件原子炉以外の上記各事象は,いずれも本件原子炉施設に関係するも
のではないので,本件訴訟の審理の対象となる原子炉施設の基本設計
の安全性にかかわる事項ではないというべきであるから,控訴人らの
上記主張はその前提を欠いており失当である。
(ケ)我が国における本件原発以外の原子力発電所の異常事象例等と本件
安全審査について
①敦賀原発1号機における事象例等
a給水加熱器からの冷却材漏出事象
控訴人らは,敦賀原発1号機における給水加熱器からの冷却材漏
出事象に照らすと,設計で採用されている機器や設備が技術的に信
頼性を有するか否か,あるいは現実にその機器や設備が設計どおり
に機能するかどうかについても確認する必要があるから,これを看
過した本件安全審査には瑕疵がある旨主張する(原判決第二編第一
章第六節第二款第二の九1(一)(1)。)
そして,敦賀原発1号機(沸騰水型原子炉)において,昭和56
年1月10日,その冷却材系B系列第4給水加熱器胴体部分の溶接
部分に生じたひび割れから放射性物質が漏洩したこと,このため,
同月14日,漏洩箇所のひび割れ部分に当て板を溶接して補修し,
次いで同月24日,再度,上記漏洩箇所から放射性物質の漏洩があ
ったので,補修をしたことは,いずれも当事者間に争いがない。
しかし,上記争いのない事実と証拠(乙39ないし42)及び弁
論の全趣旨によると,(a)敦賀原発1号機において,昭和56年1
月10日午後7時30分から同日午後8時30分ころの運転員の巡
視の際,B系統第4給水加熱器の胴体部分下部からドレン水(給水
を加熱した蒸気が凝縮する等により胴体内下部にたまった温水で,
復水器に戻されるもの)が数秒間に1滴程度漏洩しているのが発。
見されたこと,(b)この小漏洩の原因は,胴体部分の最終溶接線近
傍に発生したひび割れによるものであることが確認され,同月14
日18時から翌15日1時30分ころにかけ,応急の補修作業とし
て,漏洩箇所に当て板を溶接する作業が実施されたこと,(c)更に
同月24日午後3時から同日午後4時ころの運転員の巡視の際に,
上記漏洩箇所付近から同程度の漏洩が発見されたこと,(d)同漏洩
の原因は,当て板溶接部の近傍に発生した新たなひび割れによるも
のであることが確認され,同月28日15時から17時ころにかけ
て,応急の補修作業としてコーキング(平たがねと金槌によりひび
割れ周辺部を叩き,ひび割れを圧縮することにより漏れ止めを行う
こと)が実施されたこと,(e)その後,上記漏洩の原因は,給水加
熱器胴体部分溶接部が2度にわたり溶接されたことから,2度目の
溶接に際し,その溶接部に1度目の溶接部との関係において胴体内
面に応力集中を生じやすい切欠き状の溝等が生じ,その結果,ひび
割れが発生したことが認められる。
そうすると,敦賀原発1号機の上記ドレン水漏洩事象は,給水加
熱器製造時における溶接施工上の問題に起因する事象であって,原
子炉施設の詳細設計段階以降における安全規制の対象である施工管
理及び運転管理に属する事項であり,原子炉設置許可に際しての安
全審査の対象事項ではないから,本件安全審査の合理性を何ら左右
するものではないというべきである。
b濃縮廃液貯蔵タンクからの濃縮廃液漏出事象
控訴人らは,敦賀原発1号機における濃縮廃液貯蔵タンクからの
濃縮廃液漏出事象については,塩害の影響が原因であるにもかかわ
らず,安全審査では機器の材質に及ぼす塩害の影響については全く
考慮されていないから,これを看過した本件安全審査には瑕疵があ
る旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の九1(一)
(2)。)
しかしながら,敦賀原発1号機において,昭和56年1月19日,
その放射性廃棄物処理建家内濃縮廃液貯蔵タンク2基の配管つけ根
部分に穴があき,同箇所から放射性廃液が漏洩する事象があったこ
とは,当事者間に争いがなく,すると,敦賀原発1号機の上記濃縮
廃液貯蔵タンクから濃縮廃液が漏出した事象の原因は,そのタンク
2基の配管つけ根部分に穴があいていたことにあるから,同事象は
原子炉施設の施工管理及び運転管理に起因するものであると認めら
れる。
したがって,敦賀原発1号機の上記濃縮廃液貯蔵タンクからの濃
縮廃液漏出事象の防止対策については,原子炉設置許可に際しての
安全審査の対象事項ではなく,原子炉施設の詳細設計段階以降にお
ける安全規制の対象である施工管理及び運転管理に属する事項であ
るから,この点に関する本件安全審査に不合理な点はないというべ
きである。
cフィルタスラッジ貯蔵タンクからの放射性廃液漏出事象
控訴人らは,敦賀原発1号機におけるフィルタスラッジ貯蔵タン
クからの放射性廃液漏出事象については,廃棄物処理施設の真下に
一般配水施設があるという構造的欠陥があることを見落としていた
ことが原因であって,現実にその機器や設備が設計どおりに機能し
安全であるかどうかについても確認する必要があるから,これを看
過した本件安全審査には瑕疵がある旨主張する(原判決第二編第一
章第六節第二款第二の九1(一)(3)。)
そして,敦賀原発1号機において,昭和56年3月7日ころ,放
射性廃棄物処理旧建家内のフィルタスラッジ貯蔵タンクから放射性
廃液がオーヴァーフローし,同建家内に流出したこと,廃液の一部
が洗濯廃液濾過装置室床下にある一般排水路に漏出したことは,当
事者間に争いがない。
しかし,上記争いのない事実と証拠(乙39ないし42)及び弁
論の全趣旨によると,(a)敦賀原発1号機においては,昭和56年
3月7日午後8時20分ころから,フィルタスラッジをサージタン
クから貯蔵タンクに移送する作業が行われ,上記移送作業の終了後
の同日午後9時35分ころ,移送配管の洗浄作業が開始されたこと,
(b)上記洗浄作業を担当していた運転員らは,洗浄作業中であるこ
とを忘却し,洗浄系弁の操作スイッチがある廃棄物処理旧建家内の
制御盤及び洗浄系弁設置場所から引継のために中央制御室に帰室し
てしまったこと,(c)その際,旧建家内の制御盤にある洗浄系弁の
開閉状態を示す表示灯は,故障したまま放置されていたため,上記
洗浄作業に際し,洗浄系弁が開かれたにもかかわらず,洗浄系弁が
閉じていることを示す緑色の表示になっていたこと,(d)その結果,
洗浄水は,貯蔵タンクへ流入し続け,上記貯蔵タンク,ドレンタン
クがいずれもオーヴァーフローし,オーヴァーフローした廃液は,
配管を通してサンプに流入し,更にこのサンプから建家の床面に溢
れ出たこと,(e)この間,廃棄物処理建家内の制御盤における上記
貯蔵タンクの水位計の異常に気付いた者はなく,また,廃棄物処理
新建家内の制御盤に示される貯蔵タンク室のサンプにたまった廃液
を回収するサンプポンプの作動状況,サンプの水位が異常に高くな
ったことを示す警報に気付いた者もいなかったこと,(f)貯蔵タン
ク室においてサンプから床に溢れ出た廃液のほとんどは,更に,建
家内の通路を経由して床ドレンファンネルに至り,階下の廃液中和
タンクに回収されたが,一部は,隣室の洗濯廃液濾過装置室に流れ
込み,同室の内側の壁面に沿って設置された4本の電線管の床埋込
み部周辺に生じていた細孔及び同室の壁面に沿って存在する側溝の
一部に生じていた微細なひび割れを通して,床下に埋設されていた
一般排水路へ漏洩したこと,(g)同月8日11時における運転員に
よる巡視によって,漸く廃液の漏洩が発見され,洗浄系弁が閉じら
れ,廃液漏洩の拡大を防止する措置が講じられたこと,(h)上記廃
液の廃棄物処理旧建家床面のオーヴァーフロー量は14.5ないし
15m,そのうち回収量は約14m,一般排水路への漏洩は約
33
1mと推定され,上記一般排水路への漏洩廃棄物に含まれていた

放射性物質の量は,十数ミリキュリーから数十ミリキュリーと推定
されていることが認められる。
そうすると,敦賀原発1号機における上記放射性廃液漏洩事象の
主要な原因は,(a)運転員が洗浄系弁を閉め忘れたこと,(b)運転
員が貯蔵タンクの水位の異常を看過したこと,(c)運転員がサンプ
ポンプの作動を示す表示やサンプの水位の異常を示す警報を看過し
たこと,(d)洗濯廃液濾過装置室の床にひび割れ等があったことで
あるから,いずれも,原子炉の運転管理に起因するものであり,原
子炉設置許可段階における原子炉施設の基本設計の安全性にかかわ
るものではないから,本件原子炉施設の基本設計において災害の防
止上支障のないものとした本件安全審査の判断を左右するものでは
ないというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
②福島第二原発3号機における事象例
控訴人らは,福島第二原発3号機において,昭和64年1月1日,
再循環ポンプに異常振動が発生する事象が発生し,杜撰な運転管理が
行われていたが,この共振現象などの発生を看過した本件安全審査に
は瑕疵がある旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の九
1(三)。)
まず,福島第二原発3号機(沸騰水型原子炉)において,昭和64
年1月1日に再循環ポンプに異常振動が発生する事象が発生したこと
は,当事者間に争いがない。
しかし,上記争いのない事実と証拠(甲151の①ないし⑪,17
9の⑧,182,189の①ないし⑨,乙55の①②並びに③の(1)
及び(2),57の①ない③,原審における証人P32及び同P4の各
証言)及び弁論の全趣旨によると,a福島第二原発3号機において,
昭和64年1月1日午後7時ころ,その再循環ポンプに異常振動が発
生し,ポンプ回転軸の振動計が振り切れ,警報が鳴ったこと,b運転
員は,出力を下げて運転を継続したが,その後も振動は続き,同月6
日,再び,振動計の警報装置が作動したので,更に出力を下げたが,
回復せず,同日午後,翌日に予定した定期検査のため,原子炉を停止
したこと,c上記異常振動の原因が調査された結果,再循環ポンプ内
部の回転軸を支える直径1m,重さ100㎏の水中軸受リングが割れ
て脱落し,一部が下にあった羽根車に当たり,羽根車も長さ44㎝,
幅8㎝にわたって破壊され,更に,水中軸受リングを支えていたボル
トや座金も破損し,金属片が燃料棒や圧力容器内各部に金属粉となっ
て付着していることが判明したこと,d上記再循環ポンプ損傷は,水
中軸受リングの共振と水中軸受リングの溶接が不十分であったことが
原因であり,水中軸受リングの溶接部の強度が共振によって生ずる応
力を下回らないように施工すれば,上記損傷を防止することができた
ことが認められる。
そうすると,上記再循環ポンプ損傷事象については,溶接方法の不
備に起因するものというべきであるので,原子炉施設の詳細設計段階
以降における安全規制の対象である施工管理及び運転管理に属する事
項であるから,原子炉設置許可に際しての安全審査の対象事項ではな
いというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張はその前提を欠いており失当であ
る。
③美浜原発2号機における事象例
a控訴人らは,美浜原発2号機において,平成3年2月9日,蒸気
発生器伝熱管損傷事象が発生したところ,その原因は同伝熱管の疲
労劣化及びこれを無視した供用の連続にあり,そして,加圧器逃し
弁が故障していたため,ECCSが十分に機能しなかったことによ
り,燃料棒の冷却が妨げられ,水とジルコニウムの反応による燃料
棒破損という危機的な状況も発生するおそれがあったので,設計で
採用されている機器や設備が技術的に信頼性を有するか否か,ある
いは現実にその機器や設備が設計どおりに機能するかどうかについ
ても確認する必要があるから,これを看過した本件安全審査には瑕
疵がある旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の九1
(四)。
まず,美浜原発2号機(加圧水型原子炉)において,平成3年2
月9日,その蒸気発生器伝熱管が損傷したことは,当事者間に争い
がない。
しかし,上記争いのない事実と証拠(甲198,乙56の①ない
し③,原審における証人P32の証言)及び弁論の全趣旨によると,
a美浜原発2号機において,平成3年2月9日午後0時16分,そ
の蒸気発生器ブローダウン水モニターの指示値が「注意信号」を発
し,同日午後1時40分ころから原子炉圧力が急降下し,放射線高
のアラームが鳴ったこと,b運転員らは,原子炉停止作業に掛かろ
うとしたところ,原子炉圧力が160気圧から100気圧まで1気
に下がり,原子炉はスクラム状態となって,ECCS高圧注入系が
作動したこと,c運転員らは,蒸気発生器伝熱管の破断に気付き,
破断した蒸気発生器の隔離を行うなどの措置を講じたが,同日午後
2時48分,二次冷却系側への水抜けが止まるまでに一次系から二
次系に約55トンの冷却材が流出したことが認められる。
bもっとも,甲190ないし193には美浜原発2号機のECCS
は,設計どおりには完全に作動しなかった旨の各記載部分があり,
原審における証人P4の証言中にも同様な供述部分が存する。
しかし,証拠(乙56の①ないし③)及び弁論の全趣旨によると,
美浜原発2号機における上記蒸気発生器伝熱管損傷事象に対する再
現解析の結果によって,当該事象においてはECCSは設計どおり
に作動し,炉心の冠水は維持され,炉心の健全性に影響はなかった
ことが確認されている上,燃料集合体シッピング検査の結果からも
燃料集合体に異常は認められなかったことが確認されていることが
認められる。
上記認定事実に照らすと,上記甲190ないし193の各記載部
分並びに原審における証人P4の供述部分は,いずれも不自然であ
って,乙56の①ないし③に照らすと採用することができない。
cそうすると,上記美浜原発2号機における事象例においてECC
Sが十分に機能しなかったことを前提とする控訴人らの上記主張は
その前提を欠いているというべきである。のみならず,敦賀2号機
は,加圧式軽水炉(PWR)であって,本件原子炉(BWR)とは
異なるから,美浜原発2号機における上記蒸気発生器伝熱管損傷事
象の発生が,本件原子炉施設の基本設計において災害の防止上支障
のないものとした本件安全審査の判断を左右するものではないとい
うべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
(コ)TMI事故と本件安全審査について
控訴人らは,原子炉設置許可段階の安全審査においては,TMI事故
を教訓として我が国の安全確保対策に反映した厳格な審査をすべきであ
るから,TMI事故を検討していない本件安全審査には欠陥がある旨主
張するので,以下,検討する。
①TMI事故の経過等について(この点に関する当事者の主張は,原
判決第二編第一章第六節第二款第二の九2及び第二編第二章第六節第二
の二3(八))
a(a)スリーマイルアイランド(TMI)原発は,米国ペンシルヴ
ェニア州スリーマイル島にある原発であって,同原発には,バブコ
ック・アンド・ウィルコックス社設計の加圧水型原子炉(PWR)
が2基設置されており,TMI事故は,TMI2号機(電気出力9
5万9000kW,昭和53年12月営業開始)で発生したこと,
(b)昭和54年3月28日午前4時(米国東部時間)ころ,運転中
の2号機において,復水器を通過して水に戻った二次冷却水を蒸気
発生器へ給水するために二次冷却系に設けられている主給水ポンプ
2台が突然いずれも停止し,これにより蒸気発生器への給水が停止
したこと,(c)このために,上記主給水喪失時に,直ちに蒸気発生
器に給水し,一次冷却系の除熱を確保するために設けられていた補
助給水系の補助給水ポンプがすべて自動的に起動したが,本来開け
られているべき補助給水ポンプの出口側の弁が閉じられたままの状
態で運転されていたため,蒸気発生器における一次冷却系の除熱能
力が失われたこと,(d)一方,一次冷却系においては,温度,圧力
が急速に上昇し,主給ポンプ停止の3秒後(以下,経過時間は主給
ポンプ停止後の時間をいう)には,一次冷却系の圧力が上昇する。
ことを抑制することを目的として加圧器に設けられている加圧器逃
し弁が開き,蒸気と熱水が格納容器ドレンタンクに流入したこと,
そして,(e)その8秒後には,原子炉緊急停止装置が作動して,原
子炉が自動停止したこと,(f)上記加圧器逃し弁の開放及び原子炉
停止によって,一次冷却系の圧力は急速に低下し,加圧器逃し弁が
閉止すべき圧力以下に低下したこと,しかし,(g)加圧器逃し弁は,
開放状態のまま固着して閉止せず,遂には,ドレンタンクのラプチ
ャーディスクを破壊させ,冷却材は,格納容器内の格納容器サンプ
へと流出し続けたこと,(h)その2分2秒後,炉内圧力低下により,
ECCSの一つである高圧注入系が自動起動し,原子炉内に注水を
開始したこと,(i)そこで,運転員は,圧力調整が不能となること
を恐れ,手動でポンプを停止したり,流量を絞ったりしたが,原子
炉の炉心が損傷したこと,(j)その2時間20分後,運転員は,加
圧器逃し弁の開放固着に気付き,加圧器逃し弁の元弁を手動で閉じ
たこと,(k)希ガスの環境への放出量は,約250万キュリーと報
告され,また,ヨウ素131の環境への放出量は,約15キュリー
と報告されていることは,いずれも当事者間に争いがない。
b上記争いのない事実と証拠(甲2,5,27ないし29,乙9,
43,44の①②,いずれも原審における証人P1,同P4の各証
言)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
(a)TMI2号機は,電気出力95万9000kWの加圧水型原
子炉(PWR)であり,昭和53年12月に営業運転を開始し,
昭和54年3月28日にTMI事故を起こした。
(b)TMI2号機においては,TMI事故前から,次のような運
転がなされていた。
i加圧器逃し弁又は安全弁から毎時約1.4mもの一次冷却

材が漏洩し,そのため,上記各弁の出口配管温度が82℃以上
を示していたにもかかわらず,何らの措置もとられず,長期間
運転が継続されていた。
ii主給水喪失時に直ちに蒸気発生器に給水し,一次冷却系の除
熱をするために設けられていた補助給水系の補助給水ポンプの
出口側の弁2個が,いずれも閉じられたままの状態で運転され
た。
,iiiECCSの不必要な起動がTMI事故前までに4回もあり
それによる様々なトラブルが生じていたこともあって,運転員
は,ECCSの起動信号が発信した時は直ちにこの起動信号を
切り,すぐに手動操作に移れるように指示されていた。
(c)事故の直前,TMI2号機は,定格の約97%の出力で運転
されていたところ,事故の約11時間前から,二次冷却系の脱
塩塔からイオン交換樹脂を再生するための移送作業が行われて
いたが,この移送配管に樹脂が詰まったため,移送作業が難航
していた。そして,昭和54年3月28日午前4時37秒,
主給水ポンプ2台が突然いずれも停止し,ほとんど同時にター
ビンが停止した。上記主給水ポンプの停止の原因は,樹脂移
送用の水が弁等を制御する計装用空気系に混入し,脱塩塔出入
口の弁が閉じたためであると推定されている。
(d)蒸気発生器への給水が停止したため,直ちに補助給水系の補
助給水ポンプがすべて自動的に起動したが,本来開けられてい
るべき補助給水ポンプの出口側の弁が閉じられたままの状態で
運転されていたため,蒸気発生器における一次冷却系の除熱能
力が失われ,一次冷却系においては,温度,圧力が急速に上昇
し,主給ポンプ停止後3秒(以下,経過時間は主給ポンプ停止
後の時間をいう)には,加圧器逃し弁が開き,蒸気と熱水が。
格納容器ドレンタンクに流入した。
そして,8秒後には,原子炉緊急停止装置が作動して,原子
炉が自動停止した。
(e)上記加圧器逃し弁の開放及び原子炉停止によって,一次冷却
系の圧力は急速に低下し,加圧器逃し弁が閉止すべき圧力以下
に低下したが,加圧器逃し弁は,開放状態のまま固着して閉止
しなかった。
しかし,中央制御室における上記弁の開閉表示は,上記弁の
開閉状態を直接検出してこれを表示するものではなく,弁の開
閉を指示する電気信号の状態を間接的に表示する方式のもので
あったため,現実には,弁が開放固着していたにもかかわらず,
「閉」の状態を表示した結果,運転員は,上記表示を見て,設
計どおり上記弁が閉止したものと判断した。
ところが,現実には加圧器逃し弁は,閉止しなかったため,
一次冷却材が上記弁から流出し,小破断冷却材喪失事故の状態
となった。
(f)一方,二次冷却系では,上記主給水ポンプ停止により,補助
給水ポンプ3台がすべて設計どおり自動起動したが,上記(d)
のとおり,本来開かれているべき補助給水ポンプの出口側の弁
2個が閉じられていたので,蒸気発生器に二次冷却材を注入す
ることができなかった。このため,約2分後には,蒸気発生器
の二次側の水はほとんど蒸発してしまい,蒸気発生器による除
熱能力は急速に低下した。
しかし,8分後に,運転員が上記弁が閉じられていることに
気付き,これを開いたため,蒸気発生器の除熱能力は回復した。
(g)その間,一次冷却系においては,一次冷却材の流出が続いた
ため,圧力が低下し,2分2秒後には,ECCSの一つである
高圧注水系のポンプ2台が設計どおり自動起動し,原子炉内に
注水を開始した。
ところが,上記(f)のとおり,蒸気発生器の除熱能力が低下
していたため,一次冷却材が局所的に沸騰し,発生した蒸気泡
が冷却材を押し上げ,加圧器の水位を上昇させた。そのため,
加圧器水位計の表示上,一見,一次冷却材の量が増加したかの
如き現象を呈した。これを見た運転員は,常々加圧器を満水に
して圧力制御不能になる状態を回避するように教育されていた
ため,4分30秒後に,高圧注水ポンプ1台を停止し,残りの
1台の流量を最低限にまで絞り,加圧器水位の上昇を抑えるた
めに,抽出量を最大にし,一次冷却材量が減少しているのに,
これを補給せず,かえって減少させる操作を行った(これらの
措置がとられずに,高圧注水系を作動させておけば,事故はこ
れ以上発展せず終息していた。。)
しかし,加圧器水位計上は,水位の上昇を示し,5分51分
後には振り切れ,6分後には加圧器が満水状態を示していた。
(h)加圧器逃し弁から流出した一次冷却材は,一次冷却材ドレン
タンクに流入したため,同タンクの圧力が上昇を続け,15分
27秒には,同タンクのラプチャーディスクが破壊され,一次
冷却材は格納容器サンプへと流出した。
ところが,格納容器の隔離がなされなかったため,この水は,
更に,サンプポンプにより補助建家の放射性廃棄物貯蔵タンク
に移送された。
(i)一次冷却材の喪失が更に進行した結果,蒸気泡が増加し,こ
のため,冷却材ポンプの振動が激しくなり,運転員は,上記ポ
ンプの破損を防止するため,やむを得ず,4台の上記ポンプを,
1時間13分後から1時間41分後にかけて,順次停止させた。
このため,冷却材の流れが止まり,これによる冷却機能が失わ
れるとともに,水と蒸気が分離し,その直後から炉心上部が蒸
気中に露出し始めた。
(j)運転員は,2時間20分後になって,初めて加圧器逃し弁の
開放固着に気付き,同弁の元弁を閉じたが,依然として高圧注
水ポンプを全開にして冷却材を注入することをしなかった。こ
のころには既に,炉心は上部約3分の2が露出したと推定され,
露出した燃料棒は温度が上昇し,重大な損傷が生じて大量の放
射性物質が一次冷却系に放出された。また,燃料被覆管と蒸気
が反応して大量の水素が発生した。
(k)3時間20分後には,短時間ではあったが,高圧注水ポンプ
が起動され,炉心は再び冠水したが,注水時の急冷により,炉
心のかなりの部分の形状が変形,崩壊した。
(l)この間,事故発生直後から警報が次々と出され,その数は1
00を超えたが,警報の内容を打ち出すプリンターの速度が情
報に追いつかず,遅れ出し,情報の遅れは,2時間39分後に
は約1時間半にも達したため,運転員は,1時間13分後以降
の情報を捨て,2時間47分後からプリンターの使用をした。
しかし,その後も情報の遅れが生じ,5時間17分後には再
度約1時間半もの遅れに達した。
(m)炉心内で発生した水素は,運転員が7時間30分後に減圧の
ため加圧器逃し弁の元弁を開いたため,格納容器に漏洩し,9
時間50分後に水素爆発が生じたが,格納容器の破壊は生じな
かった。
以上認定の事故の経過によれば,主給水ポンプ停止及びタービン
停止を炉心損傷にまで拡大させた原因は,第1に,加圧器逃し弁が
約2時間20分にもわたり開放したままの状態に置かれていたこと,
第2に,高圧注水ポンプの流量が約3時間16分にもわたり最小限
に絞られていたことの2点にあるということができ,これらの点が
短時間で解決されていれば,炉心損傷にまでは至らなかったことが
認められる。
②TMI事故の原因等について
a加圧器逃し弁開放固着状態の放置について
控訴人らは,(a)TMI事故が一つ一つの原因を見るとそれ自体
さほど重要とはいえない故障,やむを得ない判断の誤りが複雑に作
用し,それが発展,拡大して惹起された事故であり,運転員らに過
失はなかったこと,そして,(b)TMI2号機のLOCAの冷却水
喪失口となった加圧器逃がし弁は,重要な機器とは当時認識されて
いなかった上,加圧器水位計が最も肝心な時に原発運転員に全く逆
の情報を与えることなどは夢想だにされていなかったので,原発運
転員には過失はなかったこと,さらに,(c)指示信号であっても,
指示があればそのとおりに機器は作動していなければならず,指示
どおりに機械が作用するとは限らないとなれば,いかなる操作も無
駄であるから,原発運転員が,TMI事故当時に加圧器逃がし弁の
開閉表示が「閉」であったので,現実には弁が開放固着していたと
しても,弁が閉止したものと判断したことはやむを得ないというべ
きであり,しかも,加圧器水位計の針は振り切れるが,圧力は低い
という状況の冷却材喪失状態があることについては,通常想定され
ておらず,手順書には記載されていなかったこと,加えて,(d)ウ
エスチングハウス社のPWRのECCSの起動信号は,それまでは
圧力低と加圧器水位低の同時信号とされており,圧力低しかし加圧
器水位高などという冷却材喪失状態があるなどとは,数十年間のP
WRの安全研究過程で誰も思い至らなかったものであるから,原発
運転員においては,このような事態を正しく掌握することは極めて
困難であったことから,運転員らにTMI事故の原因や責任はなか
った旨主張する。
そこで,控訴人らの上記主張について検討すると,上記①の認定
事実によると,加圧器逃し弁開放固着状態が長時間にわたり継続し
た要因は,上記弁の開放固着状態を長時間にわたり運転員が発見し
得なかったことが決定的な要因というべきである。もっとも,中央
制御室における上記弁の開閉表示は,上記弁の開閉状態を直接検出
してこれを表示するものではなく,弁の開閉を指示する電気信号の
状態を間接的に表示する方式のものであったため,現実には,弁が
開放固着していたにもかかわらず「閉」の状態を表示した結果,,
運転員は,上記表示を見て,設計どおり上記弁が閉止したものと判
断したものであるから,開閉状態の表示に係る構造上の欠陥と,運
転員に対する開閉表示に係る指示の不徹底という運転管理上の問題
が,上記開放状態の放置の一因となっているというべきである。
さらに,上記のような誤表示があったにもかかわらず,その表示
を信じて,運転員が弁の開放固着に気付かなかったことが過誤とい
えるか否かについて検討するに,上記①の認定事実に,証拠(甲5,
27,28,乙9,43,44の①②,いずれも原審における証人
P1及び同P4の各証言)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実
が認められる。
(a)加圧器逃し弁が開き,一次冷却材が流出すると,同弁の出口
配管の温度が上昇するところ,同弁の出口配管には温度計が取
り付けられ,中央制御室に上記温度計の温度が表示されるよう
になっているので,上記温度上昇の表示により,一次冷却材が
流出し続けていることが認識できた。
そこで,運転員は,上記弁の出口温度が30秒後には115
℃であったものが,24分58秒後には140.8℃にも達し,
これを確認したにもかかわらず,元弁は閉じられず,上記温度
から弁の開放固着に気付く者はいなかった。しかも,運転員が
加圧器逃し弁の出口配管の温度が高いのを見ても異常を察知し
なかった原因の一つとして,加圧器逃し弁又は安全弁から毎時
約1.4mもの一次冷却材が漏洩し,そのため,上記各弁の

出口配管温度が82℃以上を示していたにもかかわらず,何ら
の措置もとらず,長期間運転が継続されていたという,TMI
2号機の緊急手順書,技術仕様書に違反した平常運転時の運転
管理上の過誤があった。
(b)加圧器逃し弁から流出する一次冷却材を一時的に収容するた
めに,原子炉格納容器内に設けられている一次冷却材ドレンタ
ンクに一次冷却材が流入すると,同ドレンタンクの水位及び温
度が上昇するところ,この水位,温度が中央制御室に表示され
るようになっているので,上記水位上昇の表示及び温度上昇の
表示により,更に同ドレンタンクのラプチャーディスクの破裂
により,一次冷却材が流出し続けていることを認識することが
できた。
(c)原子炉格納容器内への漏水等の場合に備えて格納容器底部に
設けられているサンプの水位についても,中央制御室に表示さ
れるようになっており,上記水位上昇の表示により,一次冷却
材が流出し続けていることを認識できた。
(d)TMI2号機は,もともと他の原子炉用に設計されたものを,
現場の運転員の経験,要望,運転体制等についての固有の事情
をほとんど反映しないまま,必要最小限の設計変更のみを行っ
て流用したものであり,かつ,制御盤,計器,操作器などの大
きさ,配置も適切とは言い難く,また,事故発生後短時間に1
00を超える警報が出るなどして,運転員の判断を困難にした。
(e)TMI2号機では,多数の機器の故障や不具合が放置された
ままになっており,このため,制御室内に点灯していた警報が
常時52個を下回ったことがなかった。
(f)TMI2号機には,他の原子炉と同様,NRCが認可した技
術仕様書があり,これに基づいて運転手順書,緊急手順書及び
保守点検手順書(運転規則等)が作成されていたが,これらの
整備は十分でなく,かつ,定期的な見直しをされていなかった。
緊急手順書の「小破断LOCAの徴候」の項は,明らかに矛盾
を含んでおり,運転員は,事故中,上記項目を参照しなかった。
(g)TMI2号機の運転員に対しては,特に緊急時の訓練が十分
でなく,運転員のチームを組んでの訓練もないなど,教育訓練
の内容に問題があった。
以上認定の事実によれば,加圧器逃し弁の開放固着が冷却材喪失
事故にまで発展したのは,運転員の過誤による誤判断のみならず,
表示装置の構造上の欠陥を含む設計上の不備並びに設置者による機
器の保守及び運転員に対する教育訓練の不備等の運転管理の不備等
が重畳して,上記誤判断を招来したと認定するのが相当である。
b高圧注水ポンプの流量制限について
控訴人らは,(a)事故原因の多くは,事故が発生してはじめてそ
の問題性が認識されるものであって,あらかじめ事故の原因,経過
を想定し尽くしてこれに対する万全の対策を講ずることは不可能で
あること,(b)機器の構造,機能にはなお多くの隠された弱点,盲
点があると考えなければならないし,運転員らの心理,行動形態の
有り様を見極めることにも自ずと限界があること,(c)大きな事故
には複合的要因によるものが多く,共通の原因で複数設けられてい
た機器の機能が同時に失われたり,機器の故障や人間の判断の誤り
などが複雑に作用しながら発展させていくもので,TMI事故はそ
の典型的なパターンであると主張する。
しかし,上記①の認定事実のとおり,運転員が高圧注水ポンプを
絞ること等により,冷却材喪失を促進させてしまったのは,加圧器
水位計が一見,一次冷却材の量が増えたかのように高い水位を表示
したため,冷却材喪失はないものと判断したことに起因したもので
ある。
そして,乙44の①によれば,TMI2号機の緊急手順書では,
「高圧注水ポンプを停止するか否かは,加圧器水位が維持され,か
つ,一次冷却系の圧力が起動設定値以上であること」にかかってい
ることと明記されていたものの,運転員が高圧注水ポンプを停止し
た際には,圧力が上記起動設定値を下回っていたことが認められ,
運転員の操作に明らかな過誤があったことが認められる。
また,上記①の認定事実のとおり,ECCSの不必要な起動がT
MI事故前までに4回もあり,それによる様々なトラブルが生じて
いたこともあって,運転員は,ECCSの起動信号が発信した時は
直ちにこの起動信号を切り,すぐに手動操作に移れるように指示さ
れていた上,常々加圧器を満水にして圧力制御不能になる状態を回
避するように教育されていたことなど,安全上の設計の考慮を無視
した不適切な指示を受けていたこと,更に上記②認定の(d)ないし
(g)の各事実も,上記運転員の過誤の要因となっていたことが認め
られる。
以上によれば,高圧ポンプの流量制限が冷却材喪失事故にまで発
展したのは,運転員の過誤による誤判断のみならず,原子炉設置者
による機器の保守及び運転員に対する教育訓練の不十分等の運転管
理の不備等が複合して,上記誤判断の惹起を助長したことに原因が
あったということができる。
そうすると,TMI事故において,主給水ポンプ停止を炉心損傷
にまで発展させた要因は,運転員の誤判断,誤操作並びにその惹起
を助長した設計,設置者による機器の保守及び運転員に対する教育
訓練の不十分等の運転管理の不備の重畳であったものと認めるのが
相当である。
③TMI事故と本件安全審査
a上記②のとおり,TMI事故において,主給水ポンプ停止を炉心
損傷にまで発展させた要因は,運転員の誤判断,誤操作並びにその
惹起を助長した設計,設置者による機器の保守及び運転員に対する
教育訓練の不十分等の運転管理の不備の重畳であったものというの
が相当であり,設計上の問題というべき加圧器逃し弁の開閉表示装
置の検知方式,中央制御盤の具体的配列等は,いずれも詳細設計に
属する事項というべきである。
のみならず,TMI2号機は加圧水型原子炉であり,沸騰水型原
子炉である本件原子炉において,TMI事故と同一の経過による事
故が生ずることはないことにかんがみると,TMI事故の発生は,
本件原子炉施設がその基本設計において災害の防止上支障のないも
のとした本件安全審査の判断を左右するものではないというべきで
ある。
bもっとも,控訴人らは,TMI事故が多重故障事故であるにもか
かわらず,本件安全審査においては単一故障の事故解析をしている
ので,本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,上記②のとおり,TMI事故において,主給水ポンプ停
止を炉心損傷にまで発展させた要因は,運転員の誤判断,誤操作並
びにその惹起を助長した設計,設置者による機器の保守及び運転員
に対する教育訓練の不十分等の運転管理の不備の重畳であったとい
うべきであり,安全保護設備及び安全防護設備の故障が重複し,故
障が連鎖的に拡大したという事故ではないから,TMI事故の発生
によって,単一故障の事故解析を非難する控訴人らの上記主張は失
当である。
cまた,控訴人らは,TMI事故においては,機器の故障に人為的
要因が重畳することによって重大な事故が発生したところ,本件安
全審査においては,人的要因を考慮した審査を行っていないから,
本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,原子炉施設のみならず,工学的施設,機器は,一般に,
運転者の一定水準以上の技術,能力,それを確保する運転者の教育,
訓練等の運転管理が適切に行われることなくして,事故の発生を回
避することができないことは,経験則上明らかであるから,上記一
定水準以上の技術,能力があり,それを確保する運転者の教育,訓
練等の運転管理がなされることを前提とした原子炉施設の基本設計
が不合理とはいえないというべきである。
そして,証拠(乙1ないし4,原審における証人P1の証言)及
び弁論の全趣旨によると,本件安全審査においては,運転時の異常
な過渡変化解析及び事故解析を通じて,本件原子炉施設の安全保護
設備及び安全防護設備の設計の総合的な妥当性の解析評価の検討が
行われているが,解析評価の対象となった過渡変化及び事故には当
然,人為的過誤に起因するものも含まれていることが認められるか
ら,控訴人らの上記主張は失当である。
dさらに,控訴人らは,原発の安全確保のため人間に重要な役割を
期待せざるを得ないのであれば,人間は必ず誤ることがあることを
忘れることがあってはならないこと,そして,現実の事故の原因や
その経過が,基本設計に属することなのか詳細設計以降あるいは運
転管理に属することなのかは重要な問題ではないので,こうした現
実を見た安全審査がなされるべきであること,このため,TMI事
故のような人為的因子が大きく左右して,ECCSが十分作用し得
ずにメルト・スルーの瀬戸際に至る事態を想定して事故分析を行う
べきであることから,このような事故分析を行っていない本件安全
審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,上記1(2)のとおり,原子炉設置許可の段階の安全審査
においては,当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわるものの
みをその対象とするものであるのみならず,上記cのとおり,本件
原子炉施設の事故解析には人為的過誤に起因するものも含まれ,か
つ運転時の異常な過渡変化解析及び事故解析には不合理な点はない
というべきであるから,控訴人らの上記主張は理由がない。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
(サ)チェルノブイル事故と本件安全審査について
控訴人らは,原発事故は大惨事をもたらすので,現実の事故であるチ
ェルノブイル事故の教訓を原子炉設置許可の際の安全審査にも具体的に
反映させるべきであるから,チェルノブイル事故を検討していない本件
安全審査には過誤がある旨主張するので,以下,検討する。
①チェルノブイル事故の経過
a(a)チェルノブイル原発は,旧ソ連ウクライナ共和国の首都キエ
フの北方約130㎞に位置する原発であり,旧ソ連が独自に開発し
た黒鉛を減速材,軽水を冷却材とする黒鉛軽水冷却沸騰水型原子炉
(RBMK1000型炉,定格熱出力320万kW,定格電力出力
100万kW)が4基稼働していたところ,チェルノブイル事故は,
1983年(昭和58年)12月に運転を開始した4号機で発生し
たこと,(b)1986年(昭和61年)4月25日,保守点検のた
めにチェルノブイル原発4号機の運転を停止する機会があり,それ
を利用して,発電所外部の電源が喪失してタービンへの蒸気供給が
停止した場合に,惰性で回転しているタービン発電機のエネルギー
を,発電所内で必要な電源としてどこまで利用できるかという実験
が実施されたこと,(c)運転員は,同日午前1時(モスクワ時間)
ころから,実験計画に従って,定格熱出力320万kWで運転中の
4号機の出力を低下させ,同日午後1時5分,原子炉出力を160
万kWまで下げた時に,2台あるタービンのうち,1台のタービン
を送電系統から切り離し,更に同日午後2時,実験中の水位低下に
備え,緊急注水を防ぐためにECCSの信号回路を解除したこと,
(d)実験計画によれば,出力の低下を更に続ける予定であったが,
給電担当者からの要請により,その後,約9時間にわたって原子炉
の熱出力が160万kWの状態で運転が続けられたこと,(e)運転
員は,同日午後11時10分,出力降下の操作を再開したところ,
熱出力が3万kW以下に低下してしまうアクシデントが発生したた
め,熱出力の回復に努め,翌26日午前1時ころ,原子炉の熱出力
を20万kWにまで回復させたが,キセノンの毒作用の進行等の理
由により,これ以上の出力上昇は困難と判断したこと,(f)その際,
運転員は,原子炉の熱出力が実験計画の70ないし100万kWよ
り下回っていたが,実験は可能と判断したこと,(g)運転員が,同
日午前1時3分及び7分,それまで作動していた6台の主循環ポン
プに加えて,2台の主循環ポンプを起動させた結果,炉心を通過す
る冷却材流量が増大し,炉内の冷却材の状態は予測のつかない不安
定なものとなり,炉心内の冷却材に占める蒸気泡(ボイド)の体積
割合(ボイド率)が減少し,気水分離器の水位と圧力が低下したこ
と,(h)このために,運転員は,原子炉が自動停止してしまうこと
を懸念し,気水分離器内の蒸気圧と水位に関する安全保護信号の回
路を切り,同日午前1時19分,気水分離器の水位の低下を防ぐた
め,気水分離器への給水を増加させたところ,低温の冷却材が気水
分離器を介して原子炉内に流入したため,炉心におけるボイド率が
減少し,負の反応度が加えられたこと,(i)そこで,運転員は,正
の反応度を加え,原子炉の出力を維持するため,自動制御棒及び手
動制御棒を相次いで引き抜いたこと,(j)次いで運転員は,同日午
前1時22分ころ,気水分離器の水位が上昇してきたため,給水量
を急激に低下させ,その結果,炉心に流入する水の温度が上昇し,
ボイド率が上昇し,更に同日午前1時22分30秒ころ,操作可能
な制御棒が6ないし8本程度しかなく,通常であれば原子炉の緊急
停止を要する値となるまで反応度操作余裕が少なくなっていること
を認知したが,実験実行を優先して原子炉の運転を継続させたこと,
(k)更に運転員は,実験の前提であるタービン停止によって原子炉
自体が自動停止するという自動停止回路を切り,同日午前1時23
分4秒,タービン発電機の蒸気停止加減弁を閉じて実験を開始し,
タービンの蒸気停止加減弁を閉じたことによって,タービンの回転
数が低下し始め,それに伴い,タービン発電機を電源としていた給
水ポンプ及び主循環ポンプの機能が低下したこと,(l)気水分離器
内の蒸気圧及び循環水の温度が上昇するとともに,冷却材循環流量
が低下し,炉心内におけるボイド率が上昇した結果,正の反応度が
加えられ出力が上昇し始め,反応度出力係数が正のため出力の上昇
は加速されたこと,以上の事実はいずれも当事者間に争いがない
(原判決第二編第一章第六節第二款第二の九3(二)及び第二編第二
章第六節第二の二3(九)。)
b上記争いのない事実と証拠(甲184,195,201,263,
265の①ないし⑤,266の①②,346,乙50,51,10
9,いずれも原審における証人P1及び同P4の各証言)及び弁論
の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
(a)チェルノブイル原発4号機の主要な設計上の特徴は,i燃料
及び冷却材を収納する縦型の燃料チャンネルを有する炉である
こと,iiジルコニウム被覆管に収納した二酸化ウラン製の燃料
棒を円筒状に束ねた燃料集合体を使用していること,iii燃料
チャンネル間には,減速材としての黒鉛ブロックが存在してい
ること,ivタービンに蒸気を直接供給するいわゆる再循環方式
の沸騰水型原子炉であるが,この原子炉は,定格出力の約20
%を下回る状態では,反応度出力係数が正となること,v炉心
の出力分布を安定させるために複雑な制御システムを必要とし
ていることが問題点とされている。
(b)チェルノブイル原発4号機においては,発電所外部の電源が
喪失してタービンへの蒸気供給が停止した後,タービン発電機
の回転惰性エネルギーがどの程度発電所内の電源需要に応じる
ことができるかという実験を実施することになった。
そこで,運転員は,1986年(昭和61年)4月25日午
前1時,定格熱出力320万kWで運転中のチェルノブイル原
発4号機の出力を実験計画に従い70ないし100万kWまで
低下させる操作にかかった。同日午後1時5分,原子炉出力が
定格熱出力の2分の1である160万kWとなった状態で,2
台あるタービンのうちの1台を送電系統から切り離した。
そして,運転員は,同日午後2時,実験中の水位低下に備え,
緊急注水を防ぐためにECCSの信号回路を解除した。実験計
画によれば,出力の低下を更に続ける予定であったが,給電担
当者からの要請により,その後,約9時間にわたって原子炉の
熱出力が160万kWの状態で運転が続けられた。
(c)運転員は,同日午後11時10分,出力降下の操作を再開し
たところ,運転員が出力制御系の操作手順を誤ったため,原子
炉の熱出力を3万kW以下に低下させてしまった。
このため,運転員は,熱出力の回復に努め,翌26日午前1
時ころ,原子炉の熱出力を20万kWにまで回復させたが,キ
セノンの毒作用の進行等の理由により,これ以上の出力上昇は
困難であり,原子炉の熱出力は,実験計画の70ないし100
万kWより下回っていたものの,実験の実施は可能であると判
断した。
(d)同日午前1時3分及び7分,運転員は,それまで作動してい
た6台の主循環ポンプに加えて,2台の主循環ポンプを起動さ
せた結果,炉心を通過する冷却材流量が増大し,これによって
上記炉心内の冷却材に占める蒸気泡の体積割合(ボイド率)が
減少するとともに,気水分離器の水位と圧力が低下した。
そして,運転員は,原子炉が自動停止してしまうことを懸念
し,気水分離器内の蒸気圧と水位に関する安全保護信号をバイ
パスさせ,同日午前1時19分,気水分離器の水位の低下を防
ぐため,気水分離器への給水を増加させたところ,低温の冷却
材が気水分離器を介して原子炉内に流入したため,炉心におけ
るボイド率が減少し,負の反応度が加えられた。
そこで,運転員は,正の反応度を加え,原子炉の出力を維持
するため,自動制御棒及び手動制御棒を相次いで引き抜き,反
応度操作余裕を少なくした。このときの反応度操作余裕は,運
転規則で定められている最小値30本相当を大幅に下回る6な
いし8本相当の制御棒にまでなっていた。
(e)同日午前1時22分ころ,運転員は,気水分離器の水位が上
昇してきたため,給水量を急激に低下させ,その結果,炉心に
流入する水の温度が上昇し,ボイド率が上昇した。
(f)運転員は,同日午前1時22分30秒ころ,反応度操作余裕
を計算する高速計算プログラムの出力データ中に,反応度操作
余裕が原子炉の緊急停止を要する値になっていることを発見し
たが,原子炉を停止しなかった。
(g)運転員は,2台のタービンが停止した場合に出る原子炉緊急
停止信号をバイパスさせた上,同日午前1時23分4秒,ター
ビン発電機の蒸気停止加減弁を閉じて実験を開始し,更に,タ
ービンの蒸気停止加減弁を閉じた。それによって,タービンの
回転数が低下し始め,タービン発電機を電源としていた給水ポ
ンプ及び主循環ポンプの機能が低下した。
そして,気水分離器内の蒸気圧及び循環水の温度が上昇する
とともに,冷却材循環流量が低下し,炉心内におけるボイド率が
上昇した。この結果,正の反応度が加えられ出力が上昇し始め,
反応度出力係数が正のため出力の上昇は加速された。
(h)このため,運転員は,同日午前1時23分40秒,原子炉緊
急停止ボタンを押したが,原子炉内の出力の上昇を抑制するこ
とができず,その結果,多量の蒸気発生,燃料過熱,燃料損傷,
破損した燃料粒子による急激な冷却材沸騰,燃料チャンネルの
破壊,そして,最終的には,同日午前1時24分ころ爆発が2
回発生し,すべての圧力管及び原子炉上部の構造物が破壊され
るとともに,燃料及び黒鉛ブロックの一部が飛散した。また,
原子炉建家の屋根も破壊され,炉心の高温物質は吹き上げられ
て原子炉諸施設,機械室等の屋根に落ち,火災が発生し,それ
に伴い多量の放射性物質が環境に放出された。
チェルノブイル原発4号機の制御棒は,制御棒本体の下部に
黒鉛棒が付けられており,制御棒が炉心に挿入されると,炉心
の底部では,中性子を吸収していた水柱がほとんど中性子を吸
収しない黒鉛棒と置き変わるため,運転員が原子炉緊急停止ボ
タンを押し,制御棒が一斉に挿入された結果,最初にプラスの
反応度が加わりポジティブスクラムが発生し,原子炉の出力上
昇に寄与したと推定される。
(i)運転員の上記一連の行為のうち,i反応度操作余裕を著しく
少ない状態にさせ,原子炉の緊急停止機能を低下させたこと,
ii実験計画で指定された出力より更に低い出力まで低下させて,
実験を実施し,原子炉を不安定な状態においたこと,iii待機
中の循環ポンプを導入して,過剰な冷却材を送り込んだことに
より,原子炉を極めて不安定な状態にしたこと,iv2基のター
ビン発電機の停止信号に基づいた原子炉の保護信号をバイパス
させ,原子炉の自動停止の可能性を失わせたこと,v気水分離
器内の水位レベルと蒸気圧に関する保護信号をバイパスさせ,
熱パラメータによる原子炉の停止機能を失わせたこと,viEC
CSを切り離し,これによって事故の規模を小さくする可能性
を失わせたことは,いずれも運転規則違反の行為である。
(j)チェルノブイル事故の火災を消すために,運転員,消防隊,
ヘリコプター部隊,正規軍らが消火活動を行い,上空から約5
000トンの砂や2000トンの鉛,ドロマイト,ホウ素が投
下されたが,その原子炉の火災がおさまったのは,事故から1
0日後の同年5月6日であった。この事故により,原子炉内の
1661本の圧力管すべてが破壊され,1000トン近いコン
クリートの蓋を持ち上げて,垂直に落とし,黒鉛の一部が外へ
放出され,炉内に残って燃焼した黒鉛の量は約250トンと推
定され,ウラン燃料190トンのうちの3ないし4%が放出さ
れ,核分裂生成物であるヨウ素,セシウム等が放出された。
同年8月の旧ソ連の「チェルノブイル原発事故に関する経過
報告書(1986年(昭和61年)報告。乙50)において」
は,被ばく線量(外部被ばくのみ)は平均でプリピアチで0.
03シーベルト(3レム,避難民13万5000人の集団被)
ばく線量は1万6000人・シーベルト(160万レム)と報
告されていた。また,同報告書では,事故処理は,放射能を石
棺に閉じこめほぼ終了し,消防士と原発職員約300名が病院
に収容されたが,31人が死亡し,避難民13万5000人に
急性放射線障害は認められなかったとし,更にチェルノブイル
事故の原因を,原発運転員の規則違反による人為ミスとしてい
た(乙50,51。)
(k)1991年(平成3年)1月に旧ソ連工業原子力安全監視国
家委員会が旧ソ連最高会議に提出した「チェルノブイル事故の
原因と事故状況に関する報告書」においては,上記(j)の19
86年報告とは異なり「事故の原因は,運転員の規則違反で,
はなく,設計の欠陥と責任当局の怠慢にあり,チェルノブイル
のような事故はいずれ避けられないものであった」と述べてい
る(甲195。)
また,国連の当時のガリ事務総長が1995年(平成7年)
9月に国連総会へ提出した国連人道擁護局報告書では,ウクラ
イナ,ベラルーシ,ロシアの3か国において事故により何らか
の影響を受けた人は約900万人であり,しかも,約37万5
000人が避難民生活を続けている。そして,この事故による
放射能汚染地域については,ベラルーシでは国土の30%,ウ
クライナでは国土の7%,ロシアでは国土の1.7%であり,
総面積では日本の4割に当たる16万kmであって,ウクラ

イナとロシアでは各300万人,ベラルーシでは180万人が
)。汚染地域で今も生活しているとされている(甲265の①②
さらに,1996年(平成8年)4月,ウイーンで行われた
チェルノブイル事故10周年国際会議において,経済協力開発
機構(OECD)報告において,事故で放出された放射能放出
量は事故当初の推計の3,4倍にのぼり,事故後多発している
小児甲状腺癌の原因物質として有力視されているヨウ素131
の放出量は当初推計の6.8倍になると報告された(甲265
の③④。)
c以上認定の事実に加えて,証拠(甲184,195,201,2
63,265の①ないし⑤,266の①②,267の①ないし⑧,
乙50,51,109,いずれも原審における証人P1及び同P4
の各証言)及び弁論の全趣旨によると,(a)チェルノブイル事故は,
運転員の度重なる運転規則違反あるいは原子炉の安全性に影響を及
ぼす行為と,チェルノブイル原発4号機の制御棒の設計上の問題に
起因すること,(b)運転員の行為は,単なる錯誤というよりも意識
的なもので,運転員は,数々の規則違反あるいは原子炉の安全性に
影響を及ぼす行為を繰り返しながら,原子炉がどれほど危険な状態
になっているかについての認識がなかったか,あるいは極めて不十
分であったが,これは,運転員のみならず,試験計画者,発電所の
管理体制全般に,安全を優先するという意識が欠けていたこと,
(c)チェルノブイル事故の原因は,チェルノブイル原発4号機が低
出力では反応度出力係数が正のフィードバック特性を示し,固有の
自己制御性を失う性質があるのに,それに対応し得るだけの制御系
・緊急停止系が確保されていないなどの設計上の問題があったこと
が認められる。
そうすると,チェルノブイル事故については,安全思想が希薄な
管理体制のもとで,運転員が意識的に多数かつ重大な運転規則違反
あるいは原子炉の安全性に影響を及ぼす行為を重ねた上,制御棒の
挿入でポジティブスクラムが発生するという制御棒の設計上の問題
が重畳した結果生じた原子炉の反応度事故であると認めるのが相当
である。
②チェルノブイル事故と本件安全審査
a控訴人らは,(a)本件原子炉施設においても,大破断LOCAの
危険性,タービン・トリップによる暴走事故及び制御棒挿入失敗に
よる暴走事故等の可能性があるので,原子炉設置許可の安全審査の
際には,チェルノブイル事故と同様の事故が想定されるべきである
こと,(b)原子炉設置許可段階の安全審査においては,事故防止対
策における事故想定とは切り離して,更に安全確保のために万が一
の事故をも想定し,本件原子炉と構造が異なるチェルノブイル原発
の事故の教訓を生かすべきであることから,暴走事故を見落とした
本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,チェルノブイル原発4号機は,旧ソ連が独自に開発した
黒鉛減速軽水冷却沸騰水型であり,本件原子炉とは制御棒の構造を
含め,著しく設計,構造を異にし,そもそもチェルノブイル事故の
原因であるポジティブ・スクラムは本件原子炉施設では存在しない
こと,そして,チェルノブイル事故の原因は,多重防護の適用が十
分でない設計を背景としつつ,運転員が設計者の予想もしなかった
ような危険な状態に原子炉を導いたことに加え,低出力下では反応
度出力係数が正となる設計であって,すべての出力領域において固
有の自己制御性を有しない設計であること,更にこのような炉特性
に対応した原子炉緊急停止装置の設計が不十分であったことにある
から,控訴人らの上記主張はその前提を欠いているというべきであ
る。
のみならず,大破断LOCAの危険性については上記(ア)④b
(b)のとおり,また,タービン・トリップによる暴走事故につい
ては上記(ウ)②aのとおり,さらに,制御棒挿入失敗による暴走
事故については上記(ウ)②bのとおりであって,本件安全審査に
おいては暴走事故には至らないことを確認しているものというべ
きである。
すなわち,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審にお
ける証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全審査に
おいては,(a)原子炉に異常な反応度が投入され,核分裂反応が異
常に急上昇する事象に対しては,すべての出力領域で反応度出力係
数が負となり,自己制御性を有していること(乙2の8-1-2頁,
8-3-37ないし38頁,乙3の8-160ないし163頁,乙
4の28頁,(b)本件原子炉施設の原子炉緊急停止装置は,制御)
棒の位置,炉心の燃焼状態等について最も厳しい条件とし,更に制
御棒1本の挿入失敗を仮定してもなお,原子炉の緊急停止に必要な
負の反応度添加率が確保されるように設計されていること(乙2の
8-3-32,37,41頁,乙3の8-10,156頁,乙4の
28,30頁,及び(c)何らかの理由で主蒸気系の弁が急速に閉)
鎖し,原子炉圧力が急上昇するような場合,圧力上昇の観点から最
も厳しい発電機負荷遮断等について解析評価を行い,燃料被覆管及
び圧力バウンダリの健全性が確保され,暴走事故には至らないこと
(乙3の10-34ないし36頁,乙4の42頁)がそれぞれ確認
され,かつまた,多重防護についても十分考慮されていることが確
認されていることが認められる。
したがって,チェルノブイル事故の発生は,本件安全審査の判断
の合理性に何ら影響を与えるものではなく,控訴人らの主張はその
前提において失当である。
bまた,控訴人らは,反応度出力係数が負である本件原子炉施設に
おいても,原子炉内の圧力上昇によって蒸気泡がつぶれた場合には
正の反応度が投入されるし,その他種々の状況が重なれば,チェル
ノブイル事故のような大事故に至る可能性があるから,このような
大事故を想定していない本件安全審査には過誤がある旨主張する
(原判決第二編第一章第六節第二款第二の九3(七)。)
しかし,上記①の認定事実にかんがみると,正の反応度が投入さ
れるだけで,チェルノブイル事故のような大事故が発生するとは認
められないというべきである。そして,上記aのとおり,本件安全
審査においては,本件原子炉施設に十分な事故防止対策が講じられ
ていることが確認されているので,本件安全審査の判断には合理性
があるというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張はその前提を欠いているので失
当である。
(シ)運転時の異常な過渡変化解析及び事故解析の合理性の有無について
①事象選定等について
控訴人らは,起こり得る全事象をあらかじめ予想することは不可能
であるから,運転時の異常な過渡変化解析及び事故解析の対象となる
事象の選定は困難であるところ,本件安全審査においては,事象選定
が恣意的であり,しかも,単一故障を前提にして運転時の異常な過渡
変化解析及び事故解析をしているので誤っている上,故障等の重畳,
安全系機器の共倒れを想定していないので,本件安全審査には瑕疵が
ある旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第二の一〇。)
しかし,上記前提となる事実と証拠(甲33,乙14,94,原審
における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,安全設計審査
指針(乙14)では「単一故障とは,単一の事象に起因して一つの,
機器が所定の安全上の機能を失うことをいい,単一の事象に起因して
必然的に起こる多重故障を含む「多重性とは,同一の機能を有す。」,
る系が二つ以上あることをいう「独立性とは,多重に設けた機器。」,
又は系統が設計上考慮する環境条件及び運転状態に対して共通要因又
は従属要因によって同時に故障状態にならないことをいう」とそれ。
ぞれ定められていること(乙14の984頁,そして,この「単一)
故障」は,運転時の異常な過渡変化解析及び事故解析において想定さ
れた起因事象に対処するために必要な機器の一つが所定の安全機能を
失うことをいい,従属する要因に基づく多重故障を含むものであるか
ら,ある着目した機器のみの故障を念頭におくのみである「単一の故
障」とは異なる概念であることが認められる。
そして,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審における
証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全審査において
は,a本件原子炉施設について,多重防護の考え方に基づいた各種の
事故防止対策が講じられており,かつ,事故防止対策に係る設備のう
ち,安全保護設備及び安全防護設備の各信頼性については,(a)強度
等において十分な余裕をもった設計となっていること,(b)原則とし
て多重性及び独立性を有する設計となっていること,及び(c)原子炉
の運転開始後においても定期的にその性能確認のための試験,検査が
実施できる構造となっていること等が要求されていることが確認され
ていること,そして,b解析評価においては,その対象となる起因事
象の中から,安全上の観点から厳しいものを仮定した上,上記起因事
象の発生に伴い作動が要求される安全保護設備及び安全防護設備,そ
れらの設備を構成する機器について,要求される機能ごとに結果が最
も厳しくなるような単一故障の発生を想定していることが確認された
結果,本件原子炉施設の安全保護設備及び安全防護設備に,同時に故
障が発生するとは考えられず,上記各設備の設計は総合的にみて妥当
なものと判断されたことが認められ,本件安全審査の上記判断は合理
性があるというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張はその前提を欠いており失当であ
る。
②シビアアクシデント(過酷事故)について
控訴人らは,a本件原子炉においては,(a)シビアアクシデントを
想定した事故防止対策が必要であるのに,その対策がとられていない
こと,及び(b)原子炉設置許可の段階も,その後の段階もシビアアク
シデントの審査を欠いていることの二つの重大な瑕疵があること,b
東京電力は,原子力安全委員会が発表した平成4年5月28日付けの
「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としての
アクシデントマネージメントについて」を受けて,平成6年3月に
「柏崎刈羽原子力発電所1号機のアクシデントマネジメント検討報告
書」を出し,(a)原子炉停止機能,(b)原子炉及び格納容器への注水
機能,(c)格納容器からの除熱機能,(d)安全機能のサポート機能の
観点からアクシデントマネジメント策を講じているが,いずれも対策
が抽象的で実際には不十分であること,c諸外国でも,TMI事故及
びチェルノブイル事故を契機としてシビアアクシデントの対策がとら
れ,新規原発についてはシビアアクシデント対策抜きには考えられず,
設計段階からの規制が明らかとなっていることから,シビアアクシデ
ントの発生を想定しなかった本件安全審査は違法である旨主張する。
しかし,証拠(甲31,32,253,254,乙10ないし15,
70,71,94,95,111,131,136,137,14
1)及び弁論の全趣旨によると,aシビアアクシデント(過酷事故)
は,設計基準事象を大幅に超える事象であって,安全設計の評価上想
定された手段では適切な炉心の冷却又は反応度制御ができない状態で
あり,炉心の重大な損傷に至る事象のことであるから,原子炉設置許
可の段階における安全審査の対象である基本設計の安全性にかかわる
事項との関係では,その安全確保対策を含めた安全規制上の措置が要
求されているものではないこと,b原子力安全委員会の平成4年5月
28日付け「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対
策としてのアクシデントマネージメントについて(乙70)は,我」
が国の原子炉施設の安全性が多重防護の思想に基づき厳格な安全確保
対策が行われているので,シビアアクシデントが工学的には現実に起
こるとは考えられないほど発生の可能性が十分低くなっているものの,
更にこのリスクを一層低減するものとしてアクシデントマネージメン
トの整備を実施し,原子炉設置者及び行政庁に対してそのために一層
の努力を要望したものであること,c上記「発電用軽水型原子炉施設
におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメン
トについて」は,平成9年10月20日,その一部が「今後新しく設
置される原子炉施設については,当該原子炉施設の詳細設計の段階以
降速やかに,アクシデントマネージメントの実施方針(設備上の具体
策,手順書の整備,要員の教育訓練等)について,行政庁から報告を
受け,検討することとする(乙136)と改訂されているので,。」
シビアアクシデントは,詳細設計段階以降の安全規制の対象であるこ
と,d本件原子炉施設を含む既存軽水型原子力発電所のアクシデント
マネージメントの整備については,平成7年12月7日,原子力安全
委員会により了承されていること(乙137)が認められる。
そうすると,控訴人らの主張に係るシビアアクシデントは,原子炉
設置許可の段階における安全審査の対象ではないから,控訴人らの上
記主張はその前提を欠いており失当である。
③火災事故における安全性の有無について
控訴人らは,a動燃の東海再処理工場アスファルト固化処理施設に
おいて,平成9年3月11日に発生した動燃事故は,我が国の原子力
史上最悪の事故であるが,安全審査では爆発など全く想定されず,潜
在的危険性も小さいと考えられてきた施設でもこのような大規模な爆
発事故が発生し得ることを示しているので,潜在的な危険が極めて大
きい原発で事故が発生した場合,どれほどの悲惨な事故になるかを示
唆していること,b安全審査において,火災・爆発事故の対応及び放
射性物質の密封機能が机上の空論であり,これにつき実質的審査が行
われていないので,動燃事故を契機に被告行政庁には安全審査能力が
欠落していることが明らかとなっていること,c本件安全審査におい
ては,抽象的に消火設備を設けることのみを確認したにとどまり,本
件原子炉における火災事故については全く事故解析を行っていないが,
本件原子炉に対する防火対策では火災の拡大を防止することはできな
いことから,火災事故の評価を一切しなかった本件安全審査には看過
し難い過誤,欠落がある旨主張する。
しかし,証拠(甲272,273)及び弁論の全趣旨によると,動
燃事故については,規制法第5章の規定により規制される「再処理の
事業」を行う施設である再処理施設において発生した火災・爆発事故
であって,その発生原因についても,東海再処理工場アスファルト固
化処理施設固有の特性に基づくものであることが認められるから,控
訴人らの上記主張に係る火災事故の内容は,本件安全審査で審査の対
象となる原子炉施設の安全性にかかわる事項ではないというべきであ
る。
のみならず,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審にお
ける証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全審査にお
いては,本件原子炉施設について,ai火災発生防止,ii早期火災検
知及び早期消火,iii必須の安全機能が火災により損なわれないこと
の三つの原則を組み合わせ,いわゆる「火災についての深層防護(多
重防護」の設計思想で火災対策設計がなされていること(乙3の8)
-35頁,b安全上重要な構築物,系統及び機器については,可能)
な限り不燃性・難燃性材料で構成することとされ,特にケーブルにつ
いては,難燃性ケーブルを使用するとともに,必要に応じ,延焼防止
塗料を併用するとされている上,安全保護系,原子炉停止系,残留熱
除去系,工学的安全施設などの安全上重要な系統及びこれらのケーブ
ル,配管は,独立性を持たせるため物理的分離を図り,適切な離隔距
離をとり,又は必要に応じて障壁を設けることとされていること,c
これらの物理的配置の設計方針と,消火設備及び消火水配管の設計を
総合的に組み合わせ,単一火災発生により,重複性,独立性を持つ両
系統が同時にその機能が損なわれることのない設計とするなど,火災
に対する対策がとられていること(乙3の8-48ないし49頁)か
ら,火災発生により本件原子炉施設の安全性が損なわれることはなく,
火災が原子炉の安全評価で想定する事故の誘因になること及び事故を
拡大することは考えられないこと(乙3の10-100頁)が確認さ
れていることが認められる。
そうすると,火災に対する本件安全審査には合理性があるから,控
訴人らの上記主張は理由がない。
④JCO事故と本件安全審査について
控訴人らは,aJCOの事故の教訓から,従来のような事業者への
信頼に基づく安全審査では足りず,安全装置の意図的なバイパスをも
想定して多重故障を想定すべきであること,bJCO事故に照らすと,
本件安全審査における最大想定事故の想定があまりにも過小であり,
非現実的であることが裏付けられることから,本件安全審査には看過
し難い瑕疵がある旨主張する。
しかし,上記1(2)及び5(2)のとおり,原子炉の設置の許可の段階
においては,専ら当該原子炉の基本設計のみが規制の対象となるとこ
ろ,JCO事故は,規制法第3章に規定される「加工の事業」を行う
施設における事故であり,本件安全審査で審査の対象となる原子炉設
置許可の段階の安全性にかかわる事項ではないというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は,その前提を欠いているから失
当である。
(ス)検査能力等の有無について
①控訴人らは,a日立の子会社の株式会社日立エンジニアリングサー
ビスの更に下請業者である株式会社伸光において,昭和57年ころか
ら約15年間にわたり,溶接後に行う焼鈍という熱処理の際の温度記
録をねつ造していたことが平成9年9月に発覚したことにより,それ
まで当該検査をしていた指定検査機関と当時の資源エネルギー庁には
その検査を行う能力がなく,これを統括する経済産業省には規制法所
定の安全審査を行う検査能力のないことが判明したので,原子炉設置
許可段階の安全審査において,その基本設計の安全性にかかわる事項
のみを審査対象に限定することは不合理というべきであるから,本件
安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,証拠(甲279の①ないし③,280ないし288,28
9の①ないし④)及び弁論の全趣旨によると,配管溶接工事は,溶接
検査(電事法46条)により規制されることが認められる。
そして,上記1(2)のとおり,原子炉の設置の許可の段階において
は,専ら当該原子炉の基本設計のみが規制の対象となるのであって,
後続の設計及び工事方法の認可(規制法27条)の段階では規制の対
象とされる当該原子炉の具体的な詳細設計及び工事の方法は規制の対
象とはならないものと解すべきところ,上記認定の溶接検査は,規制
法所定の安全規制である基本設計段階,詳細設計段階を経た後の工事
段階における施工時検査に区分されるものであるから,原子炉設置許
可の安全審査とは関係がないというべきである。
のみならず,主務大臣(本件処分時は内閣総理大臣)の原子炉設置
許可に係る審査権限は,規制法によって認められたものであって,個
々の審査において主務大臣に検査能力があること自体が安全審査の要
件となるものではないというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は,その前提を欠いているから失
当である。
②また,控訴人らは,当時の経済産業省においては,英国BNFL
(イギリス原子燃料公社)が日本政府に対し,平成11年11月8
日,ペレット外径データのねつ造の疑いがあるMOX燃料が高浜原
発4号機の燃料に使用されていることを明示する書簡を送付してい
たことが判明したにもかかわらず,不正を積極的に解明しようとせ
ず,可能な限りそれを隠蔽して検査を通そうとするなど,その検査
能力を欠いていることが判明したので,原子炉設置許可段階の安全
審査において,その基本設計の安全性にかかわる事項のみを審査対
象に限定することは不合理というべきであるから,本件安全審査に
は瑕疵がある旨主張する。
しかし,証拠(甲337,338,339の①ないし⑦,340,
341,342の①②,343)及び弁論の全趣旨によると,燃料
ペレットの外径データは,燃料体検査(電事法45条)により規制
されることが認められる。
そして,上記1(2)のとおり,原子炉設置許可の段階の安全審査に
おいては,当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項のみ
をその対象とするから,上記認定の燃料ペレットの外径データの検
査は,規制法所定の安全規制においては施工時検査に区分されるの
で,原子炉設置許可の安全審査とは関係がないというべきである。
のみならず,上記①のとおり,主務大臣の原子炉設置許可に係る
審査権限は,規制法によって認められたものであって,個々の審査
において主務大臣に検査能力があること自体が安全審査の要件とな
るものではないから,控訴人らの上記主張はその前提を欠いている
というべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
③さらに,控訴人らは,当時の経済産業省の検査等においては,美浜
原発3号機の建設に際し設計基準強度を下回る危険がある程の加水が
行われていたことをチェックすることができず,しかも,経済産業省
は,これにつき何らの発表もせず,その対策も講じていないので,検
査能力を欠いていることが明らかであるから,原子炉設置許可段階の
安全審査において,その基本設計の安全性にかかわる事項のみを審査
対象に限定することは不合理であり,本件安全審査には瑕疵がある旨
主張する。
しかし,証拠(甲344の①ないし③)及び弁論の全趣旨によると,
コンクリート工事は工事計画認可及び使用前検査(電事法41条,4
3条)により規制されるものであることが認められる。
そして,上記1(2)のとおり,原子炉設置許可の段階の安全審査に
おいては,当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項のみを
その対象とするから,上記認定のコンクリート工事の検査は,規制法
所定の安全規制においては施工時検査に区分されるので,原子炉設置
許可の安全審査とは関係がないというべきである。
のみならず,上記①及び②のとおり,主務大臣の原子炉設置許可に
係る審査権限は,規制法によって認められたものであって,個々の審
査において主務大臣に検査能力があること自体が安全審査の要件とな
るものではないから,控訴人らの上記主張はその前提を欠いていると
いうべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
(セ)想定される飛来物に対する設計上の考慮の有無について
控訴人らは,①イスラム原理主義者により2001年(平成13年)
9月11日に敢行された米国ニューヨークの世界貿易センター及び米国
国防総省(ペンタゴン)対する乗っ取り旅客機による自爆テロは,TM
I原発を標的にしていた可能性があったこと,②本件原子炉敷地からわ
ずか東5㎞地点の上空に定期航空路があるので,計器の誤差や風の影響
で民間航空機が墜落し本件原発に対し影響を与えることがあり得るにも
かかわらず,これを全く考慮しないことは,安全設計審査指針(乙1
4)の指針5に反すること,③我が国の原子力施設の安全審査において,
ω10の核燃料サイクル施設では,航空機墜落事故が評価されているこ
とから,航空機墜落に対する防護設計をしていない本件原子炉の設計を
容認した本件安全審査には看過し難い過誤,欠落がある旨主張する。
しかし,安全設計審査指針(乙14)は「指針5.飛来物等に対す,
る設計上の考慮」において「安全上重要な構築物,系統及び機器は,想
定される飛来物(中略)の影響等から生じるおそれのある動的影響,,
熱的影響又は溢水によって原子炉の安全を損なうことのない設計である
こと」と定めているところ,ここでいう「想定される」とは,原子。「
炉施設の設計の妥当性を評価する観点から,原子炉施設で生じ得る各種
の事故事象を包絡し,代表する事象が安全評価上考慮すべき頻度で発生
すると考えることをいう(乙14)のであって,本件原子炉施設の安」
全設計において,原子炉施設に航空機が墜落することを必ず考慮するこ
とを求めているわけではないというべきである。
そして,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,14,原審にお
ける証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全審査におい
ては,当時の安全設計審査指針(乙14)のうち「指針5.飛来物等に
対する設計上の考慮(乙14の985頁)に基づき,本件原子炉施設」
の社会環境について検討されたものであるところ,a本件原子炉敷地周
辺に飛行場はなく,最寄りの空港は,新潟空港で本件原子炉敷地から7
5㎞離れているが,本件原子炉敷地の東約5㎞及び西約20㎞離れた位
置の上空にそれぞれ新潟-名古屋間及び新潟-小松間を結ぶ国内線の航
空路があり,本件原子炉敷地上空は,前者の保護空域とされていること
が確認されたこと,そして,b原子力施設付近の上空の飛行については,
できる限りこれを避けるよう,当時の運輸省及び防衛庁から運航者に指
導等がなされ,また,航空法(昭和27年法律231号)81条に規定
する最低安全高度以下の飛行についての許可はされず,更に航空法73
条の2に基づき,機長は出発前に航空情報等を確認しなければならない
ことが確認されたこと,さらに,c本件原子炉施設の航空機墜落の安全
性については,社会環境から考えて原子炉施設上空を航空機が飛行する
ことは想定し難く,本件原子炉施設に航空機が墜落する可能性は極めて
まれであって,保護空域となっている本件原子炉施設上空を飛行する民
間機の航空便数,機種等について調査を行った結果を考慮しても,航空
機の墜落による原子炉施設への影響については確率的にみて考慮する必
要はないと判断されたこと(乙4の26及び27頁)が認められる。
ところで,控訴人らが主張する航空機による自爆テロは,原子炉施設
自体に由来する安全性に関する事象ではなく,外部的な,しかも人為的
な出来事であるから,原子炉施設の安全審査において,このような出来
事については,希有なあらゆる事象を想定することまでは必要でなく,
したがって,上記安全設計審査方針における「想定される飛来物」につ
いての指針及び用語の定義は合理的であるということができる。そして,
控訴人らが主張するような航空機による自爆テロは,近時の世界的な政
治情勢やテロの方法・手段の凶悪化に伴って生じたものであるところ,
本件原子炉施設において,このような自爆テロが安全評価上評価すべき
頻度で発生すると認めるに足りる証拠はないから,想定される飛来物に
対する本件安全審査の判断には合理性があるというべきであって,その
判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると認めることはできない。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
(ソ)燃料体に対する本件各変更許可処分の違法事由の有無について
①現在の設計の9行×9列型燃料の破裂の有無について
控訴人らは,本件原子炉の燃料体について,本件各変更許可処分に
より,現在の設計では9行×9列型燃料が採用されているが,これは
破裂を生じやすいものであるので,当該燃料体に対する本件各変更許
可処分は違法であるから,本件処分が違法となる旨主張する。
しかし,上記1(3)のとおり,本件処分と本件各変更許可処分とは
別個の行政処分であり,本件原子炉施設の設置変更許可処分は本件訴
訟の審理の対象とはならないというべきであるから,控訴人らの上記
主張は失当である。
なお,付言するに,証拠(乙138ないし140)及び弁論の全趣
旨によると,a燃料体に対する本件各変更許可処分に係る安全審査に
おいては,9行×9列型燃料の燃料集合体に関し,各構成要素が,原
子炉内における使用期間中を通じ,通常運転中及び運転時の異常な過
渡変化においても,燃料棒の内外圧差,燃料及び他の材料の照射,負
荷の変化により起こる圧力・温度の変化,化学的効果,静的・動的荷重,
燃料ペレットの変形,燃料棒内封入ガスの組成の変化等を考慮しても
十分な強度を有し,その機能が保持できる設計であることを確認して
いること(乙140の844頁,b9行×9列型燃料体の強度につ)
いては,燃料被覆管の肉厚が薄くなり,燃料被覆管に加わる応力が小
さくなっていることをもって,これが特に破損しやすいというもので
はないこと,c9行×9列型燃料では,燃料被覆管肉厚の変更が行わ
れているが,ペレットのスエリングを考慮しても,ペレット-被覆管
の機械的相互作用に影響を与えないことが実験により確認されている
こと(乙140の849ないし850頁,dペレットの変形等に基)
づく燃料被覆管の局所的な歪みによる損傷を減少させる対策としては,
高燃焼度8行×8列型燃料と同様に,短尺チャンファ付きペレットの
使用とともに,延性の大きなジルコニウムを内張りした燃料被覆管の
採用等が行われていること(乙140の850頁,859頁)が認め
られるから,9行×9列型燃料においても,ペレット-被覆管の機械
的相互作用が問題になることはないというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
②現在の設計の9行×9列型燃料による暴走事故の有無について
控訴人らは,現在の設計の9行×9列型燃料による暴走事故の危険
性があるので,当該燃料体に対する本件各変更許可処分は違法である
から,本件処分が違法となる旨主張する。
しかし,上記①のとおり,本件各変更許可処分は,本件処分とは別
個の行政処分であるので,本件訴訟の審理の対象とはならないという
べきであるから,控訴人らの上記主張は失当である。
なお,付言するに,上記①のとおり,9行×9列型燃料の健全性は
維持されおり,控訴人らの主張は合理的根拠を欠いているというべき
である。そして,本件全証拠によっても,控訴人らの主張に係る暴走
事故を想定することはできないから,控訴人らの上記主張はその前提
を欠いており失当である。
(タ)本件各変更許可処分に係る現在の設計におけるLOCA(冷却材喪
失事故)解析の合理性の有無について
①臨界流モデルと対流熱伝達について
控訴人らは,a本件原子炉においては,本件各変更許可処分に基づ
き,炉心の燃料は当初設計の8行×8列型から新型8行×8列型,新
型8行×8列型ジルコニウムライナ,高燃焼度8行×8列型,9行×
9列型(A型,B型)と変更されてきたが,東京電力は,本件原子炉
に装荷する燃料をいつでも新型8行×8列型,新型8行×8列型ジル
コニウムライナ,高燃焼度8行×8列型に戻すことができる体裁とな
っていること,b上記の各炉心燃料が併存している結果,事故解析も
またそれぞれの燃料を採用した際の解析が併存しているが,本件各変
更許可処分に係る現在の設計におけるLOCA解析は誤っていること
から,本件処分は違法である旨主張する。
しかし,上記(ソ)①②のとおり,本件各変更許可処分は,本件処分
とは別個の行政処分であるので,本件訴訟の審理の対象とはならない
というべきであるから,控訴人らの上記主張はその前提を欠いている
のでそれ自体失当である。
なお,付言するに,安全評価においては,その解析の結果が適切か
否かが問題となるものの,解析結果がどの程度変わるのかを評価する
必要はないというべきであるから,控訴人らの上記主張は合理的根拠
を欠いているというべきである。そして,本件全証拠によっても,控
訴人らの主張に係るLOCA解析の誤りを認定することはできないか
ら,控訴人らの上記主張は失当である。
②下部プレナムフラッシングと炉心入口オリフィス部CCFLについ

控訴人らは,a本件原発のLOCA解析は,下部プレナムフラッシ
ングによる冷却と,炉心入口オリフィス部CCFLによる炉心冷却材
流出の阻害・炉心冷却材の保持を前提としていること,そして,bこ
れらを前提にしなければ大破断LOCAでは燃料被覆管最高温度が1
200℃を超えて指針の基準を満たさない上,そのような温度に達す
ると激しく生じる水-ジルコニウム反応による発熱・燃料被覆管の酸
化により炉心溶融が避けられないこと,しかし,c下部プレナムフラ
ッシングも炉心入口オリフィス部CCFLも実規模のBWRで現実に
生じるか否か,そしてその程度についてはなお実証されていないとい
うべきであること,つまり,dこれまでの実験では,考慮されたのは
体積比のみであり下部プレナムの形状は全く模擬されておらず,体積
比で縮小して燃料棒長さは実炉の半分か実炉長にしたため水平方向で
は実炉を模擬しているとはいえないため減圧沸騰の発生箇所と冷却材
の分布・位置関係も実炉を模擬できていないこと,さらに,e本件原
子炉の現在設計である9行×9列型A型燃料の大破断LOCA解析で
は,事故後15秒まで高出力燃料集合体の部分の水位が急速に低下し,
15秒時点から急に水位が上昇してしばらく全体が冠水した後に再度
水位が下がるとされていること,そして,fこの15秒時点からの水
位上昇が下部プレナムフラッシングの効果であるが,これがないもの
と仮定すると,高出力燃料集合体においては15秒時点でも急速な水
位の低下が止まらず,遅くとも17秒時点には中心部が露出すると考
えられること,このため,g17秒時点から高出力燃料集合体の最高
出力部分(中心部)が露出し,設置変更許可申請書の解析通りに65
秒時点で露出が終了するとした場合の燃料被覆管温度を計算すると,
事故後17秒時点での崩壊熱は定格運転時の4.6%に相当すること,
また,h事故後17秒から65秒までの燃料被覆管温度の上昇を計算
すると,炉心露出終了時点(65秒時点)での燃料被覆管温度は17
01.04K(1428℃)となり,指針の基準である1200℃を
軽く超えることになること,そして,i同様に9行×9列型B型燃料
について同様の前提で燃料被覆管温度を計算すると,露出終了時点
(60.7秒時点)で1649.46K(1376.46℃)となり,
指針の基準である1200℃を軽く超えることになること等から,本
件各変更許可処分に係る現在の設計におけるLOCA解析は誤ってい
るので,本件処分は違法である旨主張する。
しかし,上記①のとおり,本件各変更許可処分は,本件処分とは別
個の行政処分であるので,本件訴訟の審理の対象とはならないという
べきであるから,控訴人らの上記主張はその前提を欠いておりそれ自
体失当である。
なお,付言するに,証拠(乙3,19,138ないし140,14
2)及び弁論の全趣旨によると,a下部プレナムフラッシングは,配
管の破断によりシュラウドの外側の水位が下がることにより冷却材上
部の水蒸気が破断口から流出して原子炉圧力が急激に低下し,このよ
うな減圧により水が沸騰するという現象であるが,沸騰水型原子炉
(BWR)においても,配管破断後に下部プレナム冷却材の飽和圧以
下に低下すればフラッシングが起こること,bフラッシングの程度は
主に減圧速度により決まり,この速度は容器体積と,容器内に存在す
る冷却材の質量の出入りとエネルギーの出入りから求められる冷却材
体積時間変化により定まるので,体積比を考慮すれば十分に実機のL
OCA時減圧速度を模擬することが可能であること,c炉心入口オリ
フィス部のCCFLについては,単に吹き上げ蒸気により落下水量が
制限されるという局所的な現象であるため,ROSA-ⅢやTBL実
験ではなく他の小規模実験において現象発生の有無とその程度が実証
されていること(乙142の11ないし17頁,d下部プレナムフ)
ラッシングの解析においては,燃料のわずかな圧力挙動等の違い等に
より,下部プレナムフラッシングの発生回数にこの程度の差が生ずる
ことは工学的及び専門技術的観点から明らかであること,e9行×9
列型A型燃料と9行×9列型B型燃料のフラッシング挙動の差異につ
いては,下部プレナムフラッシングの理論的な根拠を否定するもので
はないことが認められるから,控訴人らの主張はその前提において失
当というべきである。
③シュラウドのひびについて
控訴人らは,a下部プレナムフラッシングと炉心入口オリフィス部
CCFLが実規模のBWRの炉心全域で生じるか否か及びその程度は
実証されていないが,仮に,これが起こるものとしても,それは炉心
シュラウドが健全で炉心シュラウド外の早期に冷却材が流出する部分
(ダウンカマ部)と炉心シュラウド内との接点がジェットポンプ(を
介して下部プレナム)に限定されるということが大前提であること,
b炉心シュラウドに周方向のひび割れが進展して破断に至った場合,
炉心シュラウドの破断口の方がジェットポンプ開口部よりはるかに大
きくなり,減圧沸騰は下部プレナムでよりも炉心シュラウド内でより
激しく生じることになること,cその結果,減圧沸騰による圧力は下
部プレナムから炉心に向けて上向きに働くよりも炉心内から下部プレ
ナムに向けて下向きに働く方が強くなることもあり得うるので,そう
すると下部プレナムフラッシングも炉心入口オリフィス部CCFLも
ないという事態になり得ることから,本件各変更許可処分に係る現在
の設計におけるLOCA解析は誤っているので,本件処分は違法であ
る旨主張する。
しかし,上記①及び②のとおり,本件各変更許可処分は,本件処分
とは別個の行政処分であるので,本件訴訟の審理の対象とはならない
というべきであるから,控訴人らの上記主張は失当である。
なお,付言するに,証拠(乙143,144)及び弁論の全趣旨に
よるとa控訴人らの主張に係る下部プレナムフラッシング及び炉心入
口オリフィスに影響を及ぼす事態とは,冷却材喪失事故の発生と同時
に,炉心シュラウドの全周破断が発生する事態であると解されるが,
事業者の行う自主検査により,破断に至る前にひびの発生を確認し得
ることから,これらの事態が同時発生することは考えにくく,全周破
断が放置されたまま運転されているという状況は想定できないこと,
b「総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子力発電設備
の健全性評価等に関する小委員会(第7回」において,本件原子炉)
のシュラウドのひびについて十分な構造強度を有しているとする事業
者の評価結果が妥当であることが確認されているので(乙143,)
全周破断することは考えられないこと,c米国においても,シュラウ
ドにひびが存在する状態で運転するリスクについていくつかの評価が
なされているが,このような状態に関するリスクは十分小さいとされ
ていること(乙144の2頁)が認められるから,控訴人らの上記主
張は理由がない。
④熱伝達係数について
控訴人らは,a炉心入口オリフィス部CCFLがあるとしても,そ
の場合の対流熱伝達係数を10のオーダー(単位はkcal/㎡・
h・℃)で期待することは相当でないこと,b現在設計での解析にお
いて中小破断LOCAの解析では,炉心部の冷却材がなくなった後に
ついて対流熱伝達係数を10kcal/㎡・h・℃程度としているの
みならず,それ以前の炉心の下部に冷却材が保持されていると評価さ
れている時点でも対流熱伝達係数は101のオーダーとされている
(9行×9列型A型燃料の解析では炉心の冷却材がなくなる373秒
時点より20秒以上前から対流熱伝達係数は101のオーダー:20
前後とされているし,9行×9列型B型燃料の解析では同様に炉心の
冷却材がなくなる370秒時点より20秒以上前から対流熱伝達係数
は101のオーダー:20前後とされている)こと,c中小破断LO
CAの解析で用いている熱伝達係数を大破断LOCA解析では変えて
いるのは,そうしないと安全審査を通る結論を導けないからであるこ
とから,本件各変更許可処分に係る現在の設計におけるLOCA解析
は誤っているので,本件処分は違法である旨主張する。
しかし,上記①,②及び③のとおり,本件各変更許可処分は,本件
処分とは別個の行政処分であるので,本件訴訟の審理の対象とはなら
ないというべきであるから,控訴人らの上記主張は失当である。
なお,付言するに,証拠(乙138ないし140,142)及び弁
論の全趣旨によると,a熱伝達係数は,昭和61年7月に原子力発電
技術顧問会(基本設計)LOCA検討会が報告した「沸騰水型原子炉
のLOCA/ECCS性能評価コード(SAFER)について」にお
いてその妥当性が確認されている各種相関式によって導かれているこ
と(乙142の18ないし29頁,b中小破断LOCAと大破断L)
OCAで熱伝達係数が異なっているのは,減圧率及び炉心露出の時間
の違いがあり,大破断LOCAの方が吹き上げ蒸気流量が多く,この
蒸気流による対流熱伝達の効果が大きいことによって燃料被覆管最高
温度を与える位置での熱伝達係数が大きくなっているためであること
(乙142の18ないし33頁)が認められる。そうすると,控訴人
ら主張に係る各熱伝達係数の違いは,大破断LOCAと中小破断LO
CAの現象・内容の差異に基づいて生じているものであるから,控訴
人らの主張は失当である。
(チ)プルサーマル計画と本件安全審査について
控訴人らは,東京電力が,本件原子力発電所3号機において,使用済
燃料の再処理によって回収されるプルトニウムとウランを混合したMO
X燃料を軽水炉で使用するプルサーマル計画を実施することを予定して
いるにもかかわらず,本件安全審査の段階では,MOX燃料の使用を前
提とした安全審査を行っていないので,本件安全審査には重大な瑕疵が
ある旨主張する。
しかし,上記前提となる事実によると,MOX燃料を使用するのは本
件原子力発電所3号機であることが認められるから,プルサーマル計画
については,同発電所1号機(本件原子炉)の基本設計の安全性にかか
わる事項ではないのみならず,本件訴訟は,本件原子炉の設置許可処分
を対象とするものであって,同発電所3号機に係る処分を対象とするも
のでないから,控訴人らはこれを理由に本件処分の取消しを求めること
はできないというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
(ツ)小括
以上のとおり,上記前提となる事実にかんがみると,本件原子炉が具
体的審査基準に適合し,その基本設計において,事故防止対策に係る安
全性を確保し得るもの,すなわち,事故防止対策との関連において,原
子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における
調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとは認められな
い。
(4)本件原子炉施設の地質・地盤及び地震に関係する安全対策に係る本件安
全審査の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点はあるか
否か。また,本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,
本件原子炉施設の地質・地盤及び同施設周辺において発生するおそれのある
地震が,同施設における大事故の誘因とならず,安全性を確保でき,原子炉
等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調査審議
及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
ア審査基準に不合理な点があるか否か。
(ア)地質・地盤及び地震に関係する安全対策に係る審査基準について
①上記前提となる事実によると,本件原子炉施設の地質・地盤及び地
震に関係する安全対策に係る本件安全審査の調査審議においては,原
子力委員会が指示した立地審査指針(乙10)及び安全設計審査指針
(乙14)が用いられたことが認められる。
②ところで,上記前提となる事実及び上記(3)ア(ア)の認定事実と証
拠(甲33,105,乙10,14,94,111)及び弁論の全趣
旨によると,本件処分後において,立地審査指針が平成元年3月27
日に一部改訂された上,地質・地盤及び地震に係る安全対策に関係す
るものとして,a新安全設計審査指針(平成2年8月30日原子力安
全委員会決定。一部改訂平成13年3月29日同委員会,b安全評)
価審査指針(昭和53年9月29日原子力委員会策定(甲33,一)
部改訂平成元年3月27日原子力安全委員会,平成2年8月30日同
委員会決定(乙94。一部改訂平成13年3月29日同委員会,))
c地質・地盤の手引き(昭和53年8月23日原子炉安全専門審査会
作成(甲105,及びd耐震設計審査指針(昭和53年9月原子))
力委員会決定。一部改訂昭和56年7月20日(乙111・平成1)
3年3月29日原子力安全委員会)などが定められていること,しか
し,これらは,いずれもそれまでの原子炉施設の知見の蓄積を踏まえ
て,原子炉施設の地質・地盤及び地震に係る審査を客観化するために
策定されたものであって,地質・地盤及び地震に係る審査の基本的な
考え方は,本件安全審査当時のものが維持されており,本件安全審査
の基礎とされた本件処分当時の知見にその後の新しい科学技術上の知
見等からみて誤りであったものとして,新たな指針等を策定したもの
ではないことが認められる。
(イ)設計用地震加速度の合理性の有無について
控訴人らは,本件安全審査における設計用地震加速度の想定は,本件
処分後に定められた耐震設計審査指針(乙111)に適合していないの
で,本件安全審査は不合理であるから,本件安全審査には瑕疵がある旨
主張する。
しかし,証拠(甲33,105,乙10,14,94,111,11
6)及び弁論の全趣旨によると,資源エネルギー庁作成に係る「指針策
定前の原子力発電所の耐震安全性(平成7年9月(乙116)は,)」
原子力発電所が想定されるいかなる地震力に対してもこれが大きな事故
の誘因とならないよう十分な耐震性を有していることを要するとして定
められたものであるが,本件原子炉施設の耐震設計については,耐震設
計審査指針(昭和53年9月原子力委員会決定。一部改訂昭和56年7
月20日原子力安全委員会(乙111)に適合し,同指針に定められ)
ている設計用最強地震動及び設計用限界地震動の最大加速度の数値等を
基に審査したとしても,その耐震安全性が確保されるものとなっている
ことが確認されていること,その後,同指針については,静的地震力の
算定法等について新たな知見により見直しがなされ,平成13年3月2
9日に原子力安全委員会により一部改訂されているが,本件原子炉施設
の耐震設計においては,同改訂後の耐震設計審査指針に基づく耐震安全
性が確保されていることが認められる。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
(ウ)鉛直地震力の考慮の有無について
控訴人らは,平成7年1月17日に発生した兵庫県南部地震(M7.
2)においては,鉛直地震力の影響によって被害が出ているが,原子力
発電所を含めて従来の各種設計基準が,縦揺れを軽視しているから,鉛
直地震力の考慮をしていない本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,証拠(甲33,105,240,241,243ないし24
6,乙10,14,94,111,113)及び弁論の全趣旨によると,
控訴人らの主張する被害は,位置,構造等が大きく異なる高速道路や新
幹線の橋脚に関するものであるが,高速道路や鉄道橋梁の耐震設計基準
と原子炉施設の耐震設計基準は相違しているのみならず,原子炉施設に
被害が生じたわけではなく,一般に地震時の構造の設計を支配するのは
水平地震力であり,鉛直地震力の影響は少ないものと考えられており,
兵庫県南部地震における構造物の被害についても,上下動の影響はあっ
たとしても主たる原因は大きな水平動であったとの報告があること,そ
して,原子力安全委員会作成の平成7年9月付け「平成7年兵庫県南部
地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会報告書(乙113)におい」
て,原子力施設の耐震設計は「耐震設計審査指針(乙111の65,」
頁)に基づき,基準地震動の最大加速度振幅の1/2の値を鉛直震度と
して求めた鉛直地震力を水平地震力と同時に不利な方向に組み合わせて
作用させ,評価しているところ,兵庫県南部地震においても水平方向の
最大加速度が発生した時刻においての水平方向に対する上下方向の加速
度振幅の比は,それを分析した結果,1/2を大きく下回るものであり,
「耐震設計審査指針」の上記鉛直地震力の評価は,兵庫県南部地震に照
らしても,その妥当性が損なわれるものではないことが確認されている
こと(乙113の23頁,その後,同指針については,平成13年3)
月29日に原子力安全委員会により一部改訂されているが,本件原子炉
施設の耐震設計においては,基本的には同改訂後の耐震設計審査指針に
基づく耐震安全性が確保されていることが認められる。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
(エ)活断層の評価期間の合理性の有無について
控訴人らは,耐震設計審査指針(乙111)における耐震設計につい
ては,兵庫県南部地震等の現実の地震発生状況などに照らすと,活断層
の評価期間(乙111の72ないし73頁)が不十分であって,その合
理性はないから,本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,証拠(乙111,113)及び弁論の全趣旨によると,上記
耐震設計審査指針で示されている耐震設計上考慮すべき活断層の評価期
間については,原子力安全委員会作成の平成7年9月付け「平成7年兵
庫県南部地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会報告書(乙113」
の23ないし24頁)においても,その妥当性が確認されていること,
その後,同指針については,平成13年3月29日に原子力安全委員会
により一部改訂されているが,本件原子炉施設の耐震設計においては,
基本的には同改訂後の耐震設計審査指針に基づく耐震安全性が確保され
ていることが認められる。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
(オ)直下地震の想定の有無について
控訴人らは,①活断層のないところで平成12年10月6日に鳥取県
西部地震(M7.3の内陸直下型の地震)が発生しているので,耐震設
計審査指針(乙111)においてM6.5の直下地震を想定するとして
いることは合理性を欠いていること,②原子力安全委員会は,鳥取県西
部地震の発生を契機に直下地震の想定をM6.5では足りないと認め,
現行の耐震設計審査指針を見直す方針を固めていることから,直下地震
の想定をしていない本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,証拠(乙111,113,117)及び弁論の全趣旨による
と,①「耐震設計審査指針(乙111の66ないし71頁)における」
直下地震の想定は,過去の地震歴,原子炉施設の敷地及び敷地周辺の地
質・地盤に係る調査等の結果,その近傍に直下地震が発生するという事
態が考えられない場合においても,十分な耐震安全性を確保するという
見地から,念のためこれを設計用限界地震の一つとして無条件で想定す
べきものとされているにすぎないこと,②上記耐震設計審査指針につい
ては,原子力安全委員会作成の平成7年9月付け「平成7年兵庫県南部
地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会報告書」において,兵庫県南
部地震の状況を把握し,これを踏まえて,摘出した「耐震設計審査指
針」の考え方のなかで検討すべき事項について詳細に検討を加えた結果,
兵庫県南部地震を踏まえても我が国の原子力施設の耐震安全性を確保す
る上で基本となる耐震設計審査指針の妥当性が損なわれるものではない
との結論を得た旨確認されていること(乙113の24頁,③原子力)
安全委員会は,平成13年6月25日付けで現行の「安全審査に用いら
れる関連指針類に最新の知見等を反映し,より適切な指針類とするため
に必要な調査審議を行」うことを指示しているが(乙117,鳥取県)
西部地震が発生したことによって直下地震の想定に関する現行の「耐震
設計審査指針」の規定が直ちに不合理となったとしてこれを見直すよう
指示したことはないことが認められる。
そうすると,控訴人らの主張は,単に鳥取県西部地震が活断層がない
ところで発生した内陸直下型地震であることのみを理由として本件安全
審査の不合理をいうものであって,上記のような「耐震設計審査指針」
が科学的に不適当であることを具体的に指摘するものではないから失当
というべきである。
(カ)小括
以上のとおり,上記前提となる事実により認められる本件原子炉施設
の地質・地盤及び地震に関係する安全対策に係る本件安全審査の審査内
容にかんがみると,上記調査審議において用いられた具体的審査基準に
不合理な点はないというべきである。
イ本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,本件原
子炉施設の地質・地盤及び同施設周辺において発生するおそれのある地震
が,同施設における大事故の誘因とならず,安全性を確保でき,原子炉等
による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調査審議
及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
(ア)本件原子炉敷地の支持地盤の安定性の有無について
①活発な地殻変動の存在について
控訴人らは,本件原子炉施設が海面下40mまで掘削され,沖積層,
番神砂層,安田層の土砂を取り去り,直接西山層泥岩を基礎地盤とし
て建設されているが,a本件原子炉施設の敷地が羽越活褶曲帯に属し,
地形測量の結果活発な地震活動が存在すること,b柏崎平野の沖積層
の地形変化が著しいこと,c柏崎平野の地盤の乱れが著しいこと,d
遺跡の埋没状況,安田層及び番神砂層下部水成層の標高変化が大きい
こと,e荒浜砂丘の標高が高いこと,f試掘坑や本件原子炉施設の敷
地周辺に見られる安田層や番神砂層を切る断層の走向が一致している
ことなどに照らすと,本件原子炉施設の敷地周辺は,現在も褶曲運動
が継続しており,危険であるから,その支持地盤の安定性に関する本
件安全審査には瑕疵がある旨主張する(原判決第二編第一章第六節第
二款第三の二及び三1。)
そして,証拠(甲96の②ないし④,104及び218)及び弁論
の全趣旨によると,a地質調査の調査・研究報告においては,(a)東
山背斜,中央油田背斜等の褶曲の背斜部は,現在も隆起し,向斜部は
沈下しており,向斜部の水準点を基準にして,背斜軸部に設置された
水準点の相対的な成長速度を求めると,東山背斜が年間0.54㎜,
中央油田背斜が年間2.8㎜となり,これを100万年間の累積変位
量にすると,それぞれ540m,2800mとなり極めて大きく,こ
れらの褶曲は現在も活発に活動していること,(b)昭和2年10月2
7日に発生した関原地震(M5.3,昭和37年2月2日に発生し)
た長岡地震,昭和54年7月から昭和57年1月まで続いた小千谷群
発地震,平成2年12月7日に発生した高柳地震(M5.4,5.
3)等はいずれも,羽越活褶曲帯における褶曲運動が原因であること,
及び(c)番神砂層上・下部境界面の高度差から,陥没が番神砂層堆積
後も継続していることなどの報告がなされていること,b本件原子炉
施設の設計に際して掘削された試掘坑中に見られる断層や節理の走向
が北西から南東方向に卓越していることが認められる。
しかし,上記前提となる事実と証拠(甲222,乙1ないし4,1
12,原審における証人P6の証言)及び弁論の全趣旨によると,本
件安全審査においては,a本件原子炉施設の敷地で実施した地表踏査,
約600孔に及ぶボーリング調査,試掘坑調査等の結果から,本件原
子炉敷地の敷地全域にわたって新第三紀に形成された西山層(泥岩
層)が分布し,この西山層が本件原子炉施設の支持地盤であること,
b西山層は,褶曲構造を呈しているが,節理の発達が少なく,かつ大
規模な断層や破砕帯も存在しないので,強固かつ安定した岩盤である
こと,c西山層の上には,これを覆う形で硬質の粘土等を主体とする
安田層がほぼ水平に連続していることが確認されたことから,少なく
とも本件原子炉施設の敷地周辺では,安田層の堆積以降,褶曲運動が
継続しているとは考えられないこと,d約80年間にわたる柏崎周辺
の水準測量結果の解析から,平野部と丘陵部との相対的な変位には,
沖積層の圧密沈下も含まれており,丘陵部の隆起速度も年間1㎜を超
えず,たとえ近年も褶曲運動が継続しているとしても,それによる地
盤傾動速度は極めて小さく,同褶曲運動の本件原子炉施設の敷地への
影響は,工学的には無視できること,e柏崎平野にある下谷地遺跡は,
弥生時代中期のものとされているが,上記遺跡は,埋没深さ等遺跡の
埋没状況が日本各地で発掘された同時代の遺跡と大きく異なるわけで
はないこと,f砂丘は,風により運搬された砂が堆積して形成される
ものであり,砂丘の標高は,砂の供給量,旧地形等の砂丘形成時の堆
積環境により決まるものであるから,上記砂丘の標高が高いことをも
って,構造運動の根拠とすることはできないこと,g本件原子炉施設
の敷地内外の安田層及び同層の上に形成された番神砂層を切る断層の
走向には必ずしも明確な一定の方向性があるとはいえないことが確認
され,褶曲運動等の構造運動が本件原子炉施設の支持地盤の安定性を
損なうおそれがなく,同施設における大きな事故の原因にはならない
と判断されたことが認められる。
そうすると,支持地盤の安定性に関する本件安全審査の判断は合理
性があるというべきであるから,その判断の過程に看過し難い過誤,
欠落があると認めることはできない。
②本件原子炉施設の支持地盤について
a控訴人らは,(a)本件原子炉施設の敷地の支持地盤である西山層
の形成年代は,従前は200ないし800万年前に形成されていた
とされていたが,最近は広域火山灰や浮遊性有孔虫による対比等の
研究から約120ないし350万年前と考えられているので,西山
層の上部は第三紀層ではなく第四紀層であること,(b)本件処分当
時には,西山層は第三紀の地層と考えられていたが,これ以降の学
術的研究の進展の中で,西山層は年代的にはその下底がおよそ35
0万年前,上限は西にいくほど若くなり,西山丘陵地域では120
万年前後,更にその上位に重なる灰爪層は90万年前後に堆積した
とされたとの見解が定説とされるに至っているので,西山層は原子
炉施設の支持地盤としては不適当であることから,支持地盤の劣悪
性に関する本件安全審査には瑕疵がある旨主張し,これに沿う甲4
13の記載部分及び当審証人P20の証言部分がある。
しかし,当審証人P20は,当審において,他方で,西山丘陵地
域が,本件原子炉施設を含む西側の西山油帯と東側の中央油帯に区
分されることを前提にした上,火山灰層の研究に基づく評価におい
ては,それぞれの地域の西山層の最上部の年代は,西側の西山油帯
でおよそ220万年前,東側の中央油帯でおよそ120万年前であ
り,西山油帯の西山層がおよそ180万年前より古い新第三紀鮮新
世の地層であることを認める旨証言しているので(平成16年7月
15日付け当審証人P20調書5ないし6頁,上記甲413の記)
載部分及び当審証人P20の上記証言部分は,いずれも直ちに採用
することはできない。
そして,上記前提となる事実と証拠(甲222,乙1ないし4,
75の①②,112,145,146,152,153,154の
①②,155,156,原審における証人P6の証言)及び弁論の
全趣旨によると,本件原子炉敷地に分布する西山層の形成年代は,
新第三紀及び第四紀前期の境界付近に分布する出雲崎火山灰層等を
鍵層とした調査の結果,本件原子炉敷地の位置する西山丘陵では,
出雲崎火山灰層が西山層の上位層である灰爪層中に存在し,西山層
の上限が出雲崎火山灰層よりも下位にあることが確認されているこ
とから,西山層が新第三紀鮮新世の地層であることが認められる。
もっとも,控訴人らは,東京電力作成に係る昭和63年5月(平
成2年1月一部補正)の本件原子力発電所原子炉設置変更許可申請
書(6,7号原子炉の増設)の添付書類六(甲425)においても,
その敷地周辺地域における西山層が上部は第四紀(更新世)に属す
るとされている旨主張する。
しかし,甲425及び弁論の全趣旨によると,本件原子力発電所
原子炉設置変更許可申請書(6,7号原子炉の増設)の添付書類六
には,敷地内の西山層は「鮮新世」と記載されていることが認めら
れるから,その敷地周辺地域における西山層の上部が第四紀(更新
世)に属するとされているものではないことが明らかであるので,
控訴人らの上記主張はその前提を欠いており失当である。
bまた,控訴人らは,(a)西山層については,土と岩石の中間の性
質をもつ軟岩と呼ばれるものであって,軟岩は重力式ダムの基礎地
盤としては不適当とされているので,原子力施設の危険性からいっ
てこれを基礎地盤とすることは不適当であること,(b)西山層泥岩
の物理特性として,単位体積重量約1.7g/cm,含水比46

%,一軸圧縮強度10ないし40㎏/cmとされ,地盤としては

軽く,非常に多くの水を含み,軟弱であることを物語っていること,
(c)原発敷地以外の西山層について地すべり対策や石油掘削のため
実施された物理試験で,単位体積重量2.0g/cm以上,含

水比20%以下の値が得られているので,本件原子炉敷地の西山層
泥岩は一般のそれより更に劣悪であること,(d)弾性波速度(縦
波)の試験では,敷地西山層は毎秒1.7㎞と著しく低い値を示し,
また,堅硬な地盤ほど弾性波速度は早く,第三紀堆積層では毎秒2
ないし4㎞であり,中生代や古生代の堆積層では毎秒4ないし6㎞
であるが,本件原発の地盤には不適とされ除去された安田層でさえ
弾性波速度は毎秒1.6㎞であり,西山層は,それと大差なく軟弱
さは明らかであることから,支持地盤の劣悪性に関する本件安全審
査には瑕疵がある旨主張し,これに沿う甲413の記載部分及び当
審証人P20の供述部分がある。
しかしながら,上記前提となる事実及び証拠(乙1ないし4,1
52,153,154の①②,156,原審における証人P6の証
言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全審査においては,(a)本
件原子炉施設の試掘坑内で実施された平板載荷試験の結果,本件原
子炉施設の支持地盤(西山層)が有する支持力は,1cm当たり

62ないし85㎏であり,これに対して,本件原子炉施設の自重は,
平常時で1cm当たり7㎏であること,(b)地震時において本件

原子炉施設に働く荷重に,上記自重を加えても,その合計は1cm

当たり14㎏にしかならないこと(乙3の6-452,453,4
58,459頁,乙4の24頁,(c)地盤の変形試験の結果等に)
よると,沈下する現象(クリープ現象)は,設計上支障がないこと
(乙3の6-452,453頁,乙4の24頁,(d)せん断抵抗)
力については,岩盤せん断試験の結果から,本件原子炉施設の支持
地盤のせん断抵抗力は,幅1m当たり1万400トンであり,これ
に対して建築基準法施行令88条,建設省告示第1074号(地盤
の種別及び構築物の種別による低減率)に定められた最大水平震度
の3倍の力が本件原子炉施設に加えられたときに生ずる水平方向の
力は,幅1m当たり3300トンであるので,十分な余裕をもった
せん断抵抗力を有すること(乙3の6-458,459頁,乙4の
24頁)が確認され,本件原子炉施設の構造物が地盤を押さえる力
に対して,地盤が構造物を支える力の方が上回ることから,本件原
子炉施設の敷地地盤が本件原子炉施設の支持地盤として十分な余裕
を持った支持力を有すると判断されていることが認められる。
そうすると,本件安全審査の上記判断には合理性があり,その判
断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとは認めることはできない
というべきである。
したがって,上記甲413の記載部分及び当審証人P20の証言
部分はいずれも不自然であって採用することはできず,控訴人らの
上記主張は失当である。
(イ)本件原子炉施設の敷地周辺に見られる断層の活動の有無について
①柏崎平野における安田層の形成時期について
控訴人らは,本件原子炉敷地の地盤となる西山層の上部に安田層,
番神砂層,新砂丘等が堆積しているが,安田層の形成年代は,最近の
広域火山灰調査等による研究により,挟まれるOn-Pm1(御岳第
1テフラ)の火山灰層の広域的な対比から関東の小原台層に相当し,
酸素同位体比のステージ区分でいう5c(後期更新世,およそ10万
年前)の地層であると考えられるので,安田層の形成時期を約12な
いし14万年前と判断した本件安全審査は,その前提を誤っており,
看過し難い過誤がある旨主張し,これに沿う甲394の記載部分及び
当審証人P20の供述部分がある。
しかし,証拠(乙1ないし4,原審における証人P6の証言)及び
弁論の全趣旨によると,本件安全審査に関する調査結果においては,
柏崎平野周辺において,On-Pm1(御岳第1テフラ)の存在は確
認されていないことが認められる。のみならず,当審証人P20の証
言によると,同証人は,安田層中でOn-Pm1(御岳第1テフラ)
を確認したとする位置について,安田層下部層の下半部,すなわち甲
394の33頁第4図のF1の位置であると証言するが(平成16年
7月15日付け当審証人P20調書12頁,他方で,安田層との関)
係では海進のピークの位置は安田層下部層の最上部,すなわち甲39
4の32頁第3図の6m少し上の安田層上部と下部の境界であり,と
ころが小原台層ではOn-Pm1(御岳第1テフラ)はその最上部に
あると証言する(同調書14及び15頁。すると,安田層下部層の)
下半部で確認される火山灰は海進の初期に噴出したが,小原台層の最
上部にある火山灰は海進が最も進んだ時期ころに噴出したと考えられ
るから,On-Pm1(御岳第1テフラ)が小原台層の最上部にある
とともに安田層下部層の下半部にもあるというのは,海進の時期との
関係では疑問が生ずることになるが,同証人のこの点についての説明
は,必ずしも具体的かつ合理的ではない(同調書15頁)ので,安田
層の形成時期が小原台層期に相当するとする旨の上記甲394の記載
部分及び当審証人P20の証言部分はいずれも採用することはできな
い。
そして,証拠(乙1ないし4,112,145,146,152,
153,154の①②,155,156,原審における証人P6の証
言)及び弁論の全趣旨によると,a本件安全審査においては,安田層
の地形面及び堆積物の状況,安田層中で発見された花粉及び珪藻の分
析結果等の詳細な調査結果により,安田層の形成時期については,南
関東地方の下末吉層の形成時期(12万年ないし14万年前)に相当
すると判断したこと(乙3の6-185ないし199頁,乙4の22
ないし23頁,b安田層の形成時期は,別紙13のとおり,局所的)
な地殻変動によらずとも現在の高度に分布し得ることから,酸素同位
体比のステージ区分でいう5eの時期,つまり下末吉期に相当するお
よそ12万年前ないし14万年前であると理解できること(甲414,
乙154の①の102,103頁)が認められる。
したがって,控訴人らの主張は理由がない。
②伏在断層を含む断層活動について
a柏崎平野の安田層,番神砂層堆積後の断層活動について
控訴人らは,(a)本件安全審査においては,本件原子炉の炉心直
下に約12万年前に堆積したといわれる安田層を切る断層が存在す
るものの,炉心直下の断層は再活動しないと判断しているが,兵庫
県南部地震の例のように,本件原子炉直下の断層であるα,β断層
や砂丘を切る無数の断層及び寺尾の断層が近傍の地震断層に連動し
て再活動する可能性があること,(b)本件処分後の広域火山灰分析
の手法や,花粉分析,珪藻化石等の分析手法が確立され,更に地層
に含まれる火山灰及び珪藻化石の解析を通じて,その形成年代及び
同時期に形成された地層の現在の標高差が判明し,それによって安
田層堆積後の断層運動の存在が明瞭になり,柏崎平野は地殻変動が
継続中であって,本件原子炉敷地周辺で見られる断層は,炉心直下
の安田層を切る断層を含めて新しい時代における構造性のもの,す
なわち活断層と判断されること,(c)本件安全審査においては,椎
谷断層,真殿坂断層はリニアメントが見られないとして,また,常
楽寺断層は気比ノ宮断層で検討すれば十分として,これらの断層を
無視しているが,兵庫県南部地震のように未知だった断層が地震断
層として活動することがあり得るので,椎谷断層,真殿坂断層,常
楽寺断層はもとより,伏在する断層を考慮した安全審査を実施すべ
きであることから,柏崎平野の断層活動を無視した本件安全審査に
は看過し難い過誤がある旨主張する。
しかし,控訴人らの上記主張内容は,兵庫県南部地震を援用し,
一般的かつ抽象的に伏在する断層の可能性を主張するのみであって,
具体的な根拠を示して柏崎平野下に伏在する断層の存在を指摘する
ものではないからそれ自体失当というべきである。のみならず,証
拠(乙1ないし4,113)及び弁論の全趣旨によると,上記ア
(ウ)のとおり,原子力安全委員会は,兵庫県南部地震を踏まえて,
耐震安全検討会を設け,平成7年9月付け「平成7年兵庫県南部地
震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会報告書(乙113)をと」
りまとめているが,兵庫県南部地震によっても耐震安全性に関する
審査指針及び審査手法一般についての妥当性が損なわれるものでは
ないと評価されていることが認められるから,控訴人らの上記主張
はそれ自体根拠のないものである。
そして,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,112,1
45,146,152,153,原審における証人P6の証言)及
び弁論の全趣旨によると,本件安全審査においては,(a)本件原子
炉敷地及びその周辺の広い範囲を対象として,文献調査,空中写真
判読を行うとともに,地表踏査による地形,地質調査を行って,こ
の範囲に存在する断層及び存在が推定される断層を拾い出した上,
構造性の断層であって,その規模及び本件原子炉敷地との距離など
を考慮して,耐震設計上考慮すべき断層と判断される可能性のある
ものを選定した結果,別紙11のとおりの気比ノ宮断層,中央丘陵
西縁部断層,真殿坂断層及び椎谷断層が選定されたこと(乙4の2
),0頁,(b)上記4断層の第四紀後期の活動性の評価を行った結果
気比ノ宮断層が耐震設計上考慮すべき断層と選定されたこと,及び
(c)地表踏査等によっても安田層堆積終了以降における断層活動を
),示唆する地形や断層露頭が認められず(乙4の20ないし21頁
また,柏崎平野周辺において第四紀後期に堆積した安田層のうち,
堆積後の侵食を免れた部分が段丘面として存在しており,その安田
層からなる段丘面が平坦で高度に不連続は認められないことなどが
確認されたことから,α,β断層等の再活動のおそれはなく,地質
・地盤及び地震に係る安全性を含めて,本件原子炉施設の自然的立
地条件に係る事象は,いずれも本件原子炉施設において放射性物質
の有する潜在的危険性を顕在化させるような大きな事故の誘因とは
ならないと判断されたことが認められる。
そうすると,本件安全審査の上記判断には合理性があり,その判
断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとは認めることはできない。
b複数断層の一斉活動について
控訴人らは,(a)兵庫県南部地震では,震源断層の活動で,三つ
子地震を起こし,地上で10本を超える地震断層が出現したこと,
(b)兵庫県南部地震において震源断層の活動に伴い多数の活断層が
一斉に活動したことを,本件原子炉敷地周辺地域に置き換えると,
信濃川左岸の「気比ノ宮断層=鳥越断層群」と「片貝断層群」が一
緒に震源断層として活動したり,更に加えて中央丘陵西縁の「常楽
寺断層」が一斉に活動する可能性を示すものであること,(c)本件
安全審査においては「気比ノ宮断層=鳥越断層群」が単独で地震,
を起こすことのみを想定して判断していることから,単一活断層に
よる地震評価にとどまっている本件安全審査には看過し難い過誤が
ある旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,112,1
45,146,152,153,原審における証人P6の証言)及
び弁論の全趣旨によると,(a)気比ノ宮断層は与板背斜東翼部に,
常楽寺断層は中央油帯背斜西翼部に,片貝断層は片貝・真人背斜東
翼部にそれぞれ存在が推定されたものであること(乙112の10
頁の図2,(b)気比ノ宮断層,関原付近の断層(気比ノ宮断層と)
片貝断層の間に推定される断層)及び片貝断層は,それぞれ十分に
離れている(比較的相互の距離の大きい)断層であって,その一つ
一つが,独立の変位運動をする断層といいうること,(c)常楽寺断
層は,上記3断層の関係と比較して,気比ノ宮断層,片貝断層とは
更に離れた断層といえるので,これについても一斉活動を考慮する
必要はないことが認められるから,本件安全審査において,控訴人
らの主張に係る気比ノ宮断層,片貝断層及び常楽寺断層の一斉活動
を考慮する必要はないとした判断は合理性があるというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
③本件原子炉敷地周辺地域の活断層について
a試掘坑に見られる断層
控訴人らは,(a)本件原子力発電所の基礎地盤には地質調査のた
めに試掘坑が掘削され,断層や節理が調査されているが,試掘坑で
確認された多数の断層のうちで第四紀層までの追跡調査を実施した
のは,本件原子炉のα,β断層,本件原子力発電所5号機のF3,
V2断層,同7号機のL1,L2断層とa・b断層の8本のみで,
調査結果は断層変位は安田層内にとまっているとして,番神砂層堆
積後の断層活動はないとしていること,しかし,b多数存在する断
層のうちで試掘坑に表われる断層は一部であり,そのうちのごく一
部の抽出で追跡調査し,ほかも同じと判断することは調査方法とし
て問題であること,そして,c炉心部に掘削された試掘坑中に見ら
れる節理や断層などは,個別に評価するより,いかなる応力条件に
より形成されたかを統一的に評価判断すべきであるから,本件原子
炉直下のα,β断層のみを抽出して評価・判断したのは誤りであり,
これらの断層は構造性のものであると判断すべきであることから,
本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,112,1
45,146,152,153,154の①②,155,156,
原審における証人P6の証言)及び弁論の全趣旨によると,上記①,
②a及びbのとおり,本件安全審査においては,控訴人らの主張に
係る本件原子炉敷地周辺地域の活断層は,それ自体断層ですらない
もの,又は,断層であっても地震の原因にならない地すべり性の断
層にすぎないもの,あるいは,構造運動に起因した断層であっても
もはや活動するおそれのないものであって,敷地周辺の露頭に認め
られる断層も地すべり性のものと判断されたことが認められ,この
点に関する本件安全審査には不合理な点はないというべきである。
もっとも,控訴人らは,本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺の番
神砂層や安田層に認められる多数の断層を,一部の断層について,
大間隔のボーリング調査や地表面から数メートル掘った程度のトレ
ンチカット調査を行うだけでは,地すべりに起因すると判断するこ
とはできない旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と上掲証拠及び弁論の全趣旨による
と,(a)地すべりは,地形(斜面)などの要因によって重力のバラ
ンスが崩れ,地盤の表面だけに発生する変形であるから,地すべり
によって生じる断層は,一般に,i斜面に沿って存在し,ii断層を
引き起こした力(重力)の方向もその斜面の傾斜方向に沿っており,
iii断層は,地下深部に達しておらず,断層の傾斜は下方に行くに
従って地層の抵抗力が増すため緩やかなものとなり,そのため,断
層面は,全体として湾曲している等の特徴を示すこと,(b)構造運
動に起因して地震を発生させるような断層は,一般に,i斜面とは
無関係に存在し,ii断層面は,水平方向に直線状に連なっていて,
iii断層は,構造運動に伴う地殻変動の結果として,地下深部まで
達しており,かつ断層面はほぼ一様の傾斜で地下深部に向かって連
続していること,したがって,(c)当該断層が地すべり性の断層で
あるか否かは,露頭調査,トレンチ調査,ボーリング調査等,地質
調査において判断できること,(d)本件原子炉施設の設計に当たっ
て,本件原子炉施設の敷地内の番神砂層や安田層等に認められる断
層について,まず,断層露頭について詳細な調査が行われた上,更
に,これらの断層のうち規模が比較的大きいと思われるものについ
ては,トレンチ調査等によって,断層の性状,水平方向の連続性等
が把握され,かつ,数メートルから数十メートル間隔のボーリング
調査によって,断層の性状,鉛直方向の連続性等が把握されたこと,
(e)その結果,i断層露頭の調査から上記断層は,番神砂層や安田
層等の各旧斜面に沿ってそれぞれ存在すること,iiそれらの断層を
形成した力の方向も番神砂層や安田層等の各旧斜面の傾斜方向に沿
ったものであること,iiiトレンチ調査等から,それら断層の傾斜
は下方に行くに従って緩やかなものとなり,断層面は全体として湾
曲していること等,地すべり性の断層に見られる一般的特徴を有す
るものであることが判明し,その結果,上記断層はいずれも,番神
砂層や安田層等がかつて地表に表れていた時代において,浸食作用
で形成されたかつての谷の斜面に沿って小規模かつ局所的に生じた
地すべり性により形成された断層であり,本件原子炉施設に特段の
影響を及ぼすものでないと判断されたこと,(f)本件原子炉施設の
敷地周辺の番神砂層や安田層の露頭の調査結果から,同露頭に認め
られる断層は,同施設の敷地内に認められる地すべり性の断層と同
様の性状,形態を示すことが判明し,本件原子炉施設の耐震設計に
おいては,これら露頭の断層も,地表部のみに形成された地すべり
性の断層と判断されたことが認められる。そして,本件安全審査に
おいては,上記(a)ないし(f)を踏まえた上,本件原子炉施設の敷
地及び敷地周辺の番神砂層や安田層に認められる多数の断層が地す
べりに起因するものと判断されているから合理性があり,その判断
の過程に看過し難い過誤,欠落があると認めることはできない。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
bα,β断層及び真殿坂断層の活動性について
控訴人らは,本件原子炉施設の支持地盤に認められたα断層及び
β断層は,地震の発生源となる活断層ではないとしても,周辺地域
で地震が発生した場合,再びずれを生じるおそれがあるので,本件
安全審査には瑕疵がある旨主張する(原判決第二編第一章第六節第
二款第三の四6。)
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,74の①な
いし③,112,145,146,152,153,154の①②,
155,156,原審における証人P6の証言,原審における昭和
55年5月16日付け検証の結果)及び弁論の全趣旨によると,
(a)本件原子炉施設の地盤面上に北東から南西方向に走行する2本
の高角度正断層(α,β断層)があり,α断層の落差は0ないし約
1.1m,断層面に伴う粘土の厚さは0ないし約3㎝あり,β断層
の落差は0ないし約0.7m,断層面に伴う粘土の厚さは0ないし
約2.5㎝あること,(b)本件原子力発電所2号機及び5号機増設
の本件各変更処分に係る安全審査においては,α,β断層は,破砕
幅及び落差が小さく,これらを覆う第4系の安田層上部に変位を与
えておらず,約12万年前以降は活動していないと推定されること
から,両断層の再活動のおそれはなく,安全上支障となるものでは
ないと確認されたこと,(c)本件安全審査においては,真殿坂断層
は,地質構造的にみて,ω18付近の褶曲構造の向斜軸部に位置す
る西山層以深の地層が急傾斜をなしていることにより,地下深部に
その存在が推定されているものであるところ,本件原子炉施設の敷
地において実施された多数のボーリング調査の結果,同敷地内の西
山層の傾斜は,極めて緩やかに連続しており,断層に伴う変位は認
められないので,本件原子炉施設の敷地内には,真殿坂断層や,そ
れに関連する断層は存在しないと確認され上,α,β断層を含む試
掘坑内の小断層が将来地震力により変位を生ずるおそれはないと判
断されたことが認められる。
そうすると,α,β断層によっても,本件原子炉施設の地盤に係
る条件が同施設における大きな事故の誘因にならないとした本件安
全審査の判断には合理性があるから,その判断の過程に看過し難い
過誤,欠落があるとは認めることはできないというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
c滝谷の断層について
控訴人らは,(a)ω12では,西山層と番神砂層が断層で接して
いる露頭があり,この露頭は真殿坂断層の活動が番神砂層堆積後も
続いていること,(b)これについては,東京電力が本件申請後に追
加調査を実施し,地すべりによるものと判断しているが,西山層か
ら番神砂層までを切る断層であり,地すべりではなく,地殻変動に
よる構造性の断層であることから,滝谷の断層を看過した本件安全
審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,控訴人ら主張に係る滝谷の断層については,その主張を
客観的に裏付ける証拠はなく,上記aのとおり地すべりによるもの
(乙3の6-212から214頁)と認めるのが相当である。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
d本件原子炉敷地内外の安田層や番神砂層を切る断層について
控訴人らは,(a)本件原子炉敷地内外の第四紀層である安田層や
番神砂層が見られる露頭では無数の断層を確認できること,(b)東
京電力は,これら断層のうち敷地内で17か所,敷地外で19か所
を抽出し露頭調査を実施した結果,構造性のものではないとしてい
るが,本件原子炉敷地外で調査した断層はすべて露頭調査のみで,
地盤の落差を確認していないので,真実解明のためには,敷地内外
の第四紀層である安田層や番神砂層の断層をトレンチ掘削するなど
して第三紀層との関係を直接観察する必要が絶対条件となるにもか
かわらず,全く実施していないこと,(c)本件原子炉敷地内外の安
田層や番神砂層等の新しい堆積層で見られる断層は,個別に評価す
るよりいかなる応力条件により形成されたかを統一的に評価判断す
べきであるが,東京電力の本件申請書に記載された敷地内の番神,
安田の断層と寺尾の断層については,同一構造運動で形成されたも
のであって,構造運動が番神砂層堆積時までも続いていること,
(d)これらの運動は,試掘坑の西山層の断層等とも同一の構造運動
であり,また地盤の椎谷層から番神砂層を同時に切る寺尾の断層と
も共通であって,これは,原子炉直下で地殻構造運動に伴う断層の
活動の危険性が極めて高いことを示すものであることから,本件原
子炉敷地周辺地域の活断層の危険性を全く無視した本件安全審査に
は看過し難い過誤,欠落がある旨主張する。
しかし,上記aのとおり,本件原子炉敷地周辺の露頭に認められ
る断層も地すべり性のものと確認し,本件原子炉施設の地盤に係る
条件が同施設における大きな事故の誘因にならないとした本件安全
審査の判断には合理性があるというべきであるから,控訴人らの上
記主張は採用することができない。
e本件原子力発電所5号機直下の断層の活動性について
控訴人らは,(a)本件原子炉から北東へ約1㎞離れた地点に設置
が計画されている本件原子力発電所5号機の敷地地盤に見られる断
層が西山層及び安田層を切っていること,(b)上記5号機設置計画
地点付近の県道露頭に見られる断層が安田層及び番神砂層を切って
いることから,上記5号機の敷地地盤に見られる断層は,番神砂層
をも切る極めて新しいものである可能性が高いので,本件安全審査
には瑕疵がある旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第三
の四2。)
しかし,証拠(乙74の①ないし③,原審における証人P6の証
言)及び弁論の全趣旨によると,(a)本件原子力発電所2号機及び
5号機の増設のための本件各変更許可処分に係る安全審査において
は,本件原子力発電所5号機基礎底面付近に高角度断層であるV系
断層と低角度断層であるF系断層が認められるが,これらは,ボー
リング調査,試掘抗調査等の結果,破砕幅及び落差が小さく,これ
らを覆う第4系の安田層上部に変位を与えておらず,約12万年前
以降は活動していないと推定されることから安全上支障となるもの
ではないと確認されたこと,(b)同5号機建設予定地の北東約20
0m付近の番神砂層中などに断層が認められるものの,詳細な露頭
観察及びボーリング調査により,安田層下部及び西山層中には断層
による落差を示唆するものはないことから,これらの断層は地すべ
り等によって生じたものであり,地下深部に達する構造性の断層で
はなく,原子炉施設の安全上支障となるものではないと判断された
ことが認められる。
そうすると,控訴人らの主張に係る本件原子力発電所5号機直下
の断層は安全上支障がないものであるから,本件原子炉施設の地盤
に係る条件が同施設における大きな事故の誘因にならないとした本
件安全審査の判断に影響を与えるものではないというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
f東側道路法面の断層の性質について
控訴人らは,(a)本件処分後,本件原子炉の炉心から北東へ約3
00mの地点において,本件原子力発電所東側道路の掘削工事中,
同道路法面に発見された断層は,新砂丘,番神砂層及び安田層を切
っており,さらに西山層をも切っている可能性があること,(b)上
記断層の変位に累積性が認められることから,上記断層は,極めて
新しく,かつ活発な活動を繰り返している断層であることから,東
側道路法面の断層の存在を看過した本件安全審査には瑕疵がある旨
主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第三の四3。)
しかし,証拠(甲228,乙74の①ないし③,原審における証
人P6の証言)及び弁論の全趣旨によれば,(a)本件原子力発電所
東側道路法面に断層が認められたこと,(b)本件原子力発電所2号
機ないし5号機増設の本件各変更許可処分に係る安全審査において,
露頭調査,トレンチ調査,ボーリング調査等が行われた結果,上記
断層は,番神砂層及び安田層上部には変位を与えているものの,下
位の地層である安田層下部及び西山層には全く変位を与えておらず,
番神砂層や安田層の旧斜面に沿って存在し,更に,主断層の傾斜は
下方に行くに従って緩やかなものとなり,断層面は全体として湾曲
していることから,地すべり性の断層であると判断されたことが認
められる。
そうすると,控訴人らの主張に係る東側道路法面の断層は本件原
子炉施設の安全上支障がないものであるから,本件原子炉施設の地
盤に係る条件が同施設における大きな事故の誘因にならないとした
本件安全審査の判断に影響を与えるものではないというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
④寺尾断層について
a控訴人らは,(a)寺尾断層は本件原子炉敷地から北東に600m
の位置にあり,椎谷層,安田層,番神砂層の三つの地層を切る構造
性の断層であって,地すべりによるものではなく,上記断層を引き
起こした西山丘陵地域の地殻構造運動は,第四紀後期以降も継続し,
5万年前以降に活動した活断層であること,(b)寺尾断層は,地形
的には尾根側が,地質構造的には背斜の軸側が落ちる高角正断層で
あるので,地すべりによるものではなく,背斜軸に並走する縦走断
層であり,圧縮応力場で形成されていることから,褶曲構造の成長,
プレートの運動と関係があること,(c)寺尾断層は,構造性のもの
であり,後谷・宮川背斜の成長を示すものであり,同一構造上に設
置されている本件原発の支持地盤で断層が発生したり,既存の直下
断層が再活動することで地盤が喪失する危険性を示すものであるこ
とから,寺尾断層に対する審査を欠いている本件安全審査には看過
し難い過誤がある旨主張する。
b証拠(甲219,221ないし223,225の①②,乙99の
①②,100の①②,112,114,145,146,原審にお
ける証人P6の証言)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認
めることができる。
(a)寺尾断層のトレンチ南側壁面の概略は,別紙7及びその拡大
図面である別紙8のとおりである。
(b)P33ら荒浜砂丘団体研究グループは,平成4年8月,本件
原子炉施設の敷地境界から北東約600m離れたω19地区の
西側にある土砂採取場において,椎谷層から番神砂層下部まで
を通して切る断層を発見した旨の研究報告を行った。上記研究
報告によれば,i椎谷層は,暗灰色粗粒砂岩層で,泥岩の薄層
を挟み,190㎝以上であり,安田層は,炭質物を含む青灰色
塊状のシルトを主体とし,層相変化が著しく,下位の第3系に
由来する泥岩及び砂岩の角礫を大量に含む角礫層,粗粒・中粒
砂層,亜炭層を伴い,下位の椎谷層を不整合で覆い,番神砂層
は中粒・粗粒の砂層で,安田層に整合に重なっていること,ii
寺尾断層は,正断層で,地盤の椎谷層とともに安田層を切って
おり,地形的には尾根側が落ち,地質構造的には背斜の軸側に
向かって落ちており,これによる垂直隔離は,番神砂層下部及
び安田層に対して110ないし120㎝,椎谷層に対して13
0ないし140㎝あり,両者の垂直隔離の差が約20㎝認めら
れ,このことは,安田層堆積前に既に椎谷層がこの断層によっ
て変位していたことを示しており,更に,安田層及び番神砂層
下部も変位していることから,番神砂層下部形成後においても
断層の活動があったことを示し,寺尾断層は,椎谷層から番神
砂層下部までの一連の地層を切り,かつ複数回の変位が累積さ
,れていることを示しており,iii地層の年代測定結果によれば
番神砂層下部では4万6000年前と報告されているので,寺
尾断層は,4ないし5万年前以降も活動が続いていると推定さ
れる,iv寺尾断層は,地形的には,尾根側が,地質構造的には,
背斜の軸側が落ちる高角正断層であり,地すべりによって形成
された可能性は少なく,断層が後谷背斜の軸方向と並走する縦
走断層であること,及び断層面の形状から圧縮応力場で形成さ
れたと考えられることから,褶曲構造の成長と断層形成との間
には何らかの因果関係があるものと推定されるなどとされてい
る。
(c)東京電力は,同年11月,寺尾断層を調査し,その結果,i
寺尾断層は,トレンチ内では,より下方に向かうほぼ鉛直な断
層と上部の走向・傾斜を有したまま西傾斜する断層の2条に分
岐していること,ii下方に分岐した鉛直な断層は,東側の椎谷
層と西側の安田層とを境し,椎谷層上限に鉛直1.0ないし1.
2mの高度差を与えているように見えるが,同断層は,椎谷層
内では面なし断層となっており,この面なし断層による椎谷層
の泥岩の変位は約0.5m西落ちであり,断層上部の安田層内
での変位量と調和していないこと,iii上部の走向・傾斜を有
したまま西傾斜する断層についても,椎谷層上限面に5ないし
30㎝の高度差が見られるものの,椎谷層内では面なし断層と
なるか,あるいは連続が不明瞭となること,iv寺尾断層は,下
方で変位量が小さくなるから地すべり性の断層と判断でき,上
部で発生した地すべり性の断層が下方の椎谷層上限面の急崖・
風化により,面なし断層が開口した亀裂を利用して椎谷層に達
したと考えられると報告した。
(d)東京電力は,更に平成5年4月5日,寺尾断層のトレンチ南
側壁に見られる断層の性状について,i安田層中には,同層中
の腐植質シルト層の約1.2mの鉛直変位を与える断層が分布
していること,ii同断層は,より下方に向かうほぼ鉛直な断層
と,西傾斜する断層の2条に分岐していること,iii下方に向
かうほぼ鉛直な断層は,椎谷層と安田層の境界部に沿って分布
しているが,一部は緩く西側に向かって枝分かれしており,一
方,西傾斜する断層は,椎谷層上限面に達しており,同上限面
に高さ約30㎝の落差が認められること,iv両断層下方延長部
の椎谷層中には,断層は認められないものの,筋状になってい
ること,v椎谷層と安田層の境界面に沿う断層の下方では,椎
谷層中の泥岩の挟み層に約0.5ないし0.8mの鉛直変位が
見られ,安田層中に見られる断層の変位量より小さくなってい
ること,vi椎谷層に見られる断層は,ほぼ鉛直であるのに対し,
安田層中の断層は斜めの性状となっていること,vii当該地域
には空中写真判読でリニアメントは認められないことから,寺
尾断層は,一般にいわれている活断層の特徴を有しておらず,
下部の椎谷層の変位量より上位の安田層の変位量の方が大きく,
正断層であるなどから,地すべり性の断層であることの補足説
明を行った。
(e)新潟大学理学部講師P34らは,平成5年6月15日,i寺
尾断層のうち,トレンチ内の下方に向かうほぼ鉛直な断層は,
安田層中の腐食泥炭層を巻き込むとともに,その上部及び下部
においても,断層角礫を含む破砕帯を伴った開離型の断層であ
り,この断層の主たる動きは,安田層堆積後であること,ii砕
屑物中の相当層を認定する際,地質学的同一時間面をより正確
に表す火山灰層ないし火山灰質層を用いるのは調査の基本であ
るところ,寺尾断層のトレンチ内南側壁面に見られる火山灰質
層の落差は約140㎝になること,iii寺尾断層が地すべりに
よるものであるとすれば,滑動する底の部分が面として存在し
なければならないが,寺尾断層ではこれがないこと,iv1万年
前以降の新砂丘が厚く発達する地域においてリニアメントが認
められないからといって,数万年前の構造運動を否定すること
はできないことなどを述べて,東京電力の上記(c)及び(d)の
見解を批判した上,(b)と同様に,寺尾断層は,現在もなお成
長しつつある後谷背斜の隆起に伴う引張応力場で形成され,番
神砂層下部堆積後,すなわち,5万年前よりも新しい時期に背
斜頂部に向かって活動した正断層というべきである旨報告した。
(f)当時の通商産業省は,原子力安全委員会に対し,寺尾断層が
地すべり性の断層と判断されたことが妥当であることを記載し
た,資源エネルギー庁原子力発電安全企画審査課作成名義の平
成6年1月27日付け「東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所
付近の西山丘陵地域の断層について」と題する報告書(乙11
2)を提出したところ,原子力安全委員会において,同年1月
27日,これを了承した(乙114。)
c上記認定事実によれば,寺尾断層については,これを地すべり性
の断層と評価する見解と,構造性の活断層と評価する見解が対立し
ているが,原子力安全委員会においては,寺尾断層が地すべり性の
断層と判断されたことを了承していることが認められる。
そこで,上記③aの事実と証拠(乙112,152,原審におけ
る証人P6の証言)及び弁論の全趣旨によると,(a)構造運動に起
因して地震を発生させる構造性の断層は,地下深部(地球内部)か
ら来る応力によって生じるものであるため,i斜面とは無関係に存
在し,ii断層面は水平方向に直線状に連なって,iii断層は地下深
部まで達し,iv断層面はほぼ一様な傾斜角度で,地下深部に向かっ
て連続しているとの特徴を示し,また,v断層活動の繰り返しによ
り地層の変位が累積する結果,より古い地層(より多くの断層活動
を経ている)である下位の地層における変位量が,より新しい地。
層である上位の地層における変位量より大きく,更に,vi構造性の
断層は地下深部で発生し,地表に向かって延びるものであるから,
断層が枝分かれする場合には下方から上方に向かう等の特徴がある
こと,(b)これに対し,地すべりは,地形(地表のものに限らな
い)などの要因によって重力のバランスが崩れた結果,地盤の表。
面付近(地表ではない)にのみ発生する変形であることから,一。
般に,i斜面に沿って存在し,ii断層を引き起こした力(重力)の
方向も,その斜面の傾斜方向に沿っており,iii地下深部に達して
おらず,iv斜面下方へ進むに従って徐々に地層の抵抗が増すため,
断層の傾斜は下方へ行くに従って緩やかなものとなり,vそのため,
断層面は全体として湾曲しているとの特徴を示し,また,vi地下の
地すべり性断層に沿って,地上にリニアメントが生ずることはなく,
,vii斜面上方に当たる上位の地層における地すべりによる変位量が
斜面下方に当たる下位の地層における地すべりによる変位量より大
きいため,地すべりによる地層の鉛直変位量は,上位の地層の方が
下位の地層よりも大きい等の特徴があるとされていることが認めら
れる。
そして,上記事実によれば,上記bの(b)及び(e)の見解は,椎
谷層における変位量が安田層におけるそれよりも大きいと認めて,
寺尾断層を構造性のものと判断し,これに対し,東京電力の上記b
の(c)及び(d)の見解は,逆にこれが小さいとして,地すべり性の
ものと判断していると解されるところ,証拠(甲221,223)
及び弁論の全趣旨によると,椎谷層における鍵層として,前者は別
紙7のX及びX’の層を選び(上記b(e)の見解は,この層を火山
灰質砂層としている,変位量を別紙7のとおり約140㎝と認。)
定しているのに対し,後者は泥岩層(別紙8の泥岩層①)を選び,
変位量を別紙7のとおり約90㎝と認定しており,これが上記のよ
うに見解が分かれる理由であると解される。
ところで,控訴人らは,断層の変位量を測定するには,断層面の
両側にある連続して同一時期に堆積した地層を正しく対比して,そ
のずれを測定する必要があるから,堆積時期が同一と判断できる火
山灰層が鍵層として最適であり,別紙7のX及びX’の層を鍵層と
認めるべきである旨主張し,甲222にはこれに沿う記載部分があ
る。
しかし,乙100の①②によると,別紙7のX及びX’の層は石
灰質砂岩であること,別紙7のX及びX’の層を対比すると,Xの
層の上下が粗粒砂岩であるのに対し,X’の層の上下は粗粒ないし
中粒砂岩であること,X’の層の上位にある泥岩層が,Xの層の上
位にないことが認められ,すると,必ずしも層序が一致するとはい
えないから,椎谷層の変位量が約140㎝あったと認めるにはなお
不十分であるので,上記甲222の記載部分を採用することはでき
ない。
また,当審証人P20は,当審において,ω19で見られた断層
については,地すべり性の断層ではなく,活断層である旨供述し,
その判断根拠として,(a)寺尾断層の露頭において,寺尾断層が4
万6千年前程度に形成された番神砂層を切り,安田層及び椎谷層中
の鍵層に変位の累積性が認められることから,寺尾断層は活断層で
あり(平成16年5月20日付け当審証人P20調書19ないし2
3頁,(b)断層による落差を判定する場合には,その基準となる)
べき「鍵層」は,火山灰層とすべきであり,寺尾断層において控訴
人らが「鍵層」とした地層については,自らが顕微鏡で観察するこ
とによって確認し,火山灰であることを認定しているから,火山灰
層を用いるべきであり,泥岩層を用いることは誤りである(同証人
調書19ないし21頁)と証言している。
しかしながら,証拠(乙112,114)及び弁論の全趣旨によ
ると,寺尾断層については,活断層の特徴である変位の累積性は認
められず,断層が上方から下方に向かって枝分かれしていること
(乙112の4,16,17頁)などの構造性の断層と符合しない
特徴を伴うものであることが認められる。のみならず,他方で,当
審証人P20の証言によると,安田層及び椎谷層中の鍵層に変位の
累積性が認められるとすると,寺尾断層は,10万年前より古い時
期に20ないし30㎝動いた後,番神砂層が堆積した4万6千年前
以後に120㎝動いたことになり(平成16年7月15日付け当審
),証人P20調書24頁,すると,活動間隔がおよそ5万年を超え
活動時の変位量に相当な違いのある活断層ということになること,
そして,当審証人P20は,このような活断層の例をほかに知って
いるかとの質問に対し「活断層について,一つ一つの地域におけ,
る現象について,十分にフォローをしておりませんので,そのこと
について,確たる証言はできないと思います(同調書24頁)。」
と述べていることが認められるから,変位の累積性をもって寺尾断
層が活断層であると断定することは困難であるというべきである。
また,当審証人P20が指摘する「鍵層」については,同証人に
おいてデータを検証するために必要となる情報を全く提示していな
いので,同証人のいう「鍵層」が火山灰層であることは的確に立証
されていないから,同証人の証言によっては,被控訴人らが泥岩層
及び石灰質砂岩層を鍵層として用いたことが誤りであると認めるこ
とはできない。
もっとも,甲413には,寺尾断層は断層面の傾斜から判断する
と,その滑った方向が現在の地形からして高い方に滑っており,被
控訴人の主張は,重力の法則に反するという矛盾に関する説明が不
十分である旨の記載部分がある。しかし,証拠(乙112,11
4)及び弁論の全趣旨によると「現地形は新期砂層が堆積した結,
果として表れているのであって,地すべり性の断層は,地すべりが
発生した当時の旧地形や地盤の上限面との関連によっては,現在の
地形と調和的に分布しない場合もあり得る(乙112の5頁)。」
ことが認められるから,寺尾断層が地すべり性の断層であるとの判
断に矛盾があるとはいえないので,上記甲413の記載部分を直ち
に採用することはできない。
そして,上記前提となる事実のとおり,本件安全審査においては,
12万年ないし14万年前に堆積した安田層は,敷地全域にわたっ
て,ほぼ水平に連続していること,また,西山丘陵地域には空中写
真判読によってもリニアメントは認められず,地表踏査等によって
も安田層堆積終了以降における断層活動を示唆する地形や断層露頭
が認められないこと等が確認され,柏崎平野及び西山丘陵地域を含
む柏崎平野周辺地域においては,少なくとも安田層堆積終了以降,
すなわち12万年ないし14万年前以降における構造運動に伴う褶
曲及び断層活動はないことから,本件原子炉施設の支持地盤に係る
安全性を損なうような大規模な構造運動は起こり得ず,地下深部か
ら地表に至る地殻自体の変動,例えば褶曲運動等の構造運動が本件
原子炉施設の支持地盤の安全性を損なうおそれはないと判断された
ことにかんがみると,寺尾断層によっても,本件原子炉施設の地盤
に係る条件が同施設における大きな事故の誘因にならないとした本
件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとは認める
ことはできないというべきである。
dしたがって,控訴人らの寺尾断層に関する主張は理由がない。
⑤歴史地震の選定について
控訴人らは,a本件安全審査に用いられた過去の地震は,1614
年11月26日の越後高田の地震と1828年12月18日の越後三
条の地震だけであるところ,越後高田の地震は日本海側の地震ではな
いこと,b越後三条の地震よりも本件原子炉敷地に大きな影響を与え
た地震として,(a)1751年5月21日の越後・越中の地震(M7.
0ないし7.4,(b)1847年5月8日の善光寺地震(M7.)
4,(c)1847年5月13日の越後頸城郡の地震(M6.5)の)
3地震を見落としていること,c本件安全審査においては,過去の地
震として対象としたのは,最近400年足らずのものでしかなく,資
料も不十分であることから,歴史地震の考慮が不十分な本件安全審査
には看過し難い過誤がある旨主張する。
しかし,証拠(乙1ないし4)及び弁論の全趣旨によると,a本件
申請書の添付書類六(乙2の6-5-20ないし23頁)には,86
3年以来の29地震に関する情報が記載されていること,b歴史地震
の選定については,本件原子炉敷地に影響を与えたものを選定するも
のであるところ,越後高田の地震については,この地震が日本海側の
地震でないとの説はいくつかの文献で見られるものの,高田における
被害の記事があることから,本件原子炉施設の耐震設計上考慮する最
大加速度振幅を安全側に評価する観点に基づき,あえて本件原子炉敷
地に近い日本海側で発生し,敷地に影響を与えた地震と評価されたも
のであること(乙2の6-5-3,4,18頁,c本件安全審査に)
おいては,(a)1751年5月21日の越後・越中の地震,(b)18
47年5月8日の善光寺地震,(c)1847年5月13日の越後頸城
郡の地震(M6.5)についても検討された結果(乙2の6-5-2
0ないし23頁,各地震は地震規模と震央距離からその敷地地盤に)
おける地震動が評価され,本件原子炉敷地に及ぼす影響は越後三条の
地震を上回るものではないと判断されたことが認められる。
そうすると,本件安全審査においては,歴史地震の選定につき十分
な資料をもってなされているというべきであって,その判断について
も不合理な点はないから,控訴人らの上記主張は失当である。
⑥日本海東縁プレート境界について
控訴人らは,a日本海東縁プレート境界の南部の位置は,別紙10
のとおり,佐渡島の東を通って新潟市付近から信濃川に沿って松本市
に至り,同所から静岡に続くこと,b本件安全審査の対象となった中
央丘陵西縁部断層(常楽寺断層,信濃川西縁断層(気比ノ宮断層))
及び信濃川東縁断層(悠久山断層)は,日本海東縁プレート境界から
派生した地表地震断層と推定され,これらの各活断層による地震は,
プレート境界型の地震を想定しなければならず,その規模はこれまで
の地震の平均値であるM7.5を想定すべきであることから,プレー
ト境界型の地震を想定していない本件安全審査には看過し難い過誤が
ある旨主張する。
しかし,証拠(甲296)によると,パンフレット「原子力発電所
の耐震安全性(通商産業省資源エネルギー庁編集)においては,」
「ユーラシアプレートと北米プレートの境界は未確認」と記載されて
おり,本件全証拠によっても,控訴人ら主張の日本海東縁プレート境
界の存在及び位置を確定することはできないから,控訴人らの上記主
張はその前提を欠いているというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
⑦長岡平野西縁断層について
a長岡平野西縁断層の活動について
控訴人らは,地震調査研究推進本部の本件断層帯報告書において
は,気比ノ宮断層が長岡平野西縁断層帯に含まれ「M8.0程度,
の地震が発生する可能性がある」との指摘があるので,長岡平野西
縁断層帯を考慮していない本件安全審査には看過し難い過誤がある
旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(甲451,乙1ないし4,
原審における証人P6の証言)及び弁論の全趣旨によると,(a)本
件断層帯報告書は,地震防災対策の強化,特に地震による被害の軽
減に資する地震の調査研究の推進を目標に,全国の活断層が一定の
基準に従い一律に評価されるものであり,長岡平野西縁断層帯の評
価についても,約200万年前以降活動した可能性がある断層を一
律に活断層帯とみなし,同断層帯全体が一つの区間として活動した
場合を想定して評価していること,そして,(b)同断層帯全体が一
斉活動する可能性について,必ずしも,過去の地震歴や同断層帯を
構成する各断層に関する子細な調査を元に判断されているわけでは
なく,同報告書の「今後に向けて」においては「長岡平野西縁断,
層帯は複数の断層からなる長大な断層帯であるが,鳥越断層以外は
活動履歴に関する詳しい資料が得られていない。特に,大河津分水
路以北では第四紀後期の活動履歴に関する資料が,また,海域では
。,断層の位置に関する資料を含めて不足している」としていること
さらに,(c)本件安全審査においては,本件原子炉敷地及びその周
辺の広い範囲を対象として,文献調査,空中写真判読を行った上,
地表踏査による地形,地質調査を行って,この範囲に存在する断層
及び存在の推定される断層が抽出された上で,第四紀後期以降に活
動し,今後も活動する可能性のある断層が耐震設計上考慮すべき活
断層であるとして,気比ノ宮断層(鳥越断層)が耐震設計上考慮す
べき活断層として選定されていること,そして,(d)本件安全審査
では,気比ノ宮断層の長さを17.5㎞と評価しているので,この
ような本件安全審査における気比ノ宮断層の評価は,別紙15のと
おり,地震調査研究推進本部の上記評価内容に照らしても矛盾しな
いことが認められる。
そうすると,本件安全審査における活断層評価は,推進本部の評
価において「長岡平野西縁断層帯」としてひとまとまりにされてい
る各々の活断層について,地表踏査等に基づく第四紀後期における
活動性の詳細な検討を行っているものであり,より詳細なデータと
いえるから,本件安全審査における活断層評価が推進本部による評
価結果と異なるものであったとしても,工学的判断に基づく本件安
全審査の合理性が左右されるものではないというべきである。
b長岡平野西縁断層帯と日本海東縁プレート境界について
控訴人らは,(a)日本海は,今から約2000万年前以降に地殻
が東西に引き延ばされることによって,大陸から切り離され,陥没
して形成されたが,その際に,正断層として発生した古傷が,その
後に,東西から押されることにより,逆断層に変化したものと考え
られていること,(b)長岡平野西縁断層帯は,日本海東縁プレート
境界の一部と考えるのが,当然であり,これが,M8程度の地震の
発生を予測していることから,長岡平野西縁断層帯を考慮していな
い本件安全審査には看過し難い過誤がある旨主張する。
しかし,上記⑥のとおり,日本海東縁プレート境界の存在が確定
していないので,控訴人らの主張はその前提を欠いており失当であ
る。
⑧中越地震について
a本件原子炉施設の地震観測記録における地震規模と最大加速度に
ついて
控訴人らは,(a)平成16年10月23日に発生した中越地震に
おいて,本件原子力発電所での地表と基礎の観測値を比較すると,
いずれも地表の値が基礎の値と比べて大きい値となること,(b)本
件原子力発電所各号機の建家基礎で観測された水平と上下の最大加
速度と震源距離を比較すると,本件原発が想定した計算式に誤りが
あり,また,同じ地震でありながら,本件原子力発電所各号機によ
り観測値に大きな差があるので,その測定値,方法に重大な疑問が
あることから,本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,証拠(甲456,465,467の①ないし⑥,469
の①ないし⑥,470の①ないし⑤,471,473,乙159)
及び弁論の全趣旨によると,地震は,自然現象であるため,測定さ
れる加速度の数値にもある程度のばらつきがあり,中越地震の規模
と揺れの大きさの関係も,そのばらつきにより生じたものと考えら
れるのであるから,これをもって,本件原子炉施設が想定した計算
式に誤りがあるということはできないことが認められるから,中越
地震の地震規模と地震動の観測記録の最大値との関係が,計算式か
ら想定される大小関係と異なるということのみをもって,本件安全
審査において地震動の想定に用いられた計算式の妥当性や本件原子
炉施設の耐震設計に係る安全審査の合理性が左右されるものではな
いというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
b中越地震の観測値が原子炉施設毎に異なることについて
控訴人らは,中越地震の揺れの観測値について,同じ地震であり
ながら近接して立地している本件原子力発電所各号機毎に大きな相
違があり,しかも,水平加速度と鉛直加速度の比率も統一性がない
ことから,揺れの測定値,あるいは,その測定方法に重大な誤りが
あることから,本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審におけ
る証人P6の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件発電所におい
て,地震計が設置されている原子炉建家は,それぞれの原子炉施設
ごとに建家の形状,埋め込みの深さ等が異なるので,中越地震によ
って発生した揺れ方についてもそれぞれの原子炉建家によって異な
ってことが認められるから,控訴人らの主張はその前提を欠いてい
るので失当である。
c本件原子力発電所7号機の原子炉自動停止について
控訴人らは,本件原子力発電所7号機は,平成16年11月4日
に発生した余震により停止したが,これは,同号機の地震計による
ものではなく,タービン軸の震動幅が制限値を超えたことが原因で
あるので,本件発電所の原子炉施設の地震スクラム設定値の基準は
不合理であるから,本件安全審査には看過し難い過誤がある旨主張
する。
しかし,本件原子力発電所7号機は,本件原子炉の本件安全審査
の対象ではないから,控訴人らの上記主張はその前提を欠いており
失当である。
d本件原子力発電所の設計用地震動の最大加速度値について
控訴人らは,(a)中越地震発生時の気象庁及びK-NET(独立
行政法人防災科学技術研究所の強震観測ネット)の各観測点で実際
に観測された加速度値を本件原子力発電所の地表での記録とみなす
と仮定し,かつ地下の地盤の加速度の値は地表における加速度の半
分の値になるとすれば,それぞれの場所での地表における加速度の
測定値から算出して,ω15では1257Gal,十日町市では8
75Gal,小千谷市が750Galとなること,(b)これらの値
は,本件原子炉施設の設計用地震動の加速度の300Gal,ある
いは限界地震の加速度の450Galをも大きく超える値であるこ
とから,本件原子力発電所の近くで中越地震と類似の地震が発生し
たと仮定すると,本件原子力発電所は破壊されることが明らかにな
ったので,本件安全審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,証拠(甲456,465,467の①ないし⑥,469
の①ないし⑥,470の①ないし⑤,471,473,乙159)
及び弁論の全趣旨によると,地震の揺れは,その地盤の種類,性質
によって大きく異なるものであって,異なる地盤状況にある上記ω
15等の各観測点の観測記録をそのまま流用して別の地点である本
件原子炉施設における地震動を考慮することは地盤の種類,性質の
違いを無視するものであると認められる。そして,上記前提となる
事実及び上記(ア),(イ)①ないし⑦,⑧aないしcのとおり,本件
原子炉施設の耐震性設計上考慮すべき断層は気比ノ宮断層であり,
そのリニアメントの存在等から推定される同断層の長さからすると,
同断層活動により発生し得る地震の規模はM6.9となり,震央距
離を20㎞として,本件原子炉施設における推定最大加速度は22
0Galとなるものである。
以上のとおり,上記事例は震源地や地質構造が本件原子炉施設の
安全審査において検討されところとは異なるのであるから,上記事
例から本件安全審査における最大加速値が不合理であるとはいえな
い。
したがって,控訴人らの上記主張はその前提を欠いているので失
当である。
(ウ)本件原子炉施設の敷地周辺に存在すると推定される主な断層の評価
の合理性の有無について
①リニアメントについて
控訴人らは,本件安全審査においては,断層の認定について,地形
的にリニアメントが見られるか否かが判断基準とされているが,リニ
アメントの確認できないC級活断層は,地震が起こって初めて存在が
確認できるものであり,これを無視した本件安全審査の判断は不合理
である旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第三の五1。)
しかしながら,上記前提となる事実及び証拠(乙1ないし4,原審
における証人P6の証言)及び弁論の全趣旨によると,a本件原子炉
施設の耐震設計においては,過去の地震歴の調査によって,過去に発
生し,本件原子炉施設の敷地の地盤に対して影響を与えたことが判明
している地震,若しくは影響を与えたことが推定される地震,又は,
本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺の地盤に存在する第四紀後期以降
の断層の調査によって,同断層の活動により同地盤において将来発生
することがあり得るものと考えられる地震の中から,本件原子炉施設
に最も大きい影響を与えるであろうと考えられるものが考慮されたこ
と,b本件原子炉施設の耐震設計に考慮すべき断層を選定するに当た
っては,空中写真判読によるリニアメントの調査だけでなく,本件原
子炉施設の敷地及び敷地周辺の広い範囲を対象する文献調査(石油関
連資料等)及び地表踏査による地形,地質調査が行われ,その結果,
上記範囲に存在する断層及び存在が推定される断層のうち,地すべり
性の断層や,構造性の断層でも本件原子炉施設から遠く,かつ小規模
なものが除外されたことが認められる。
そうすると,本件原子炉施設において耐震設計上考慮すべき地震は,
過去の地震歴や,断層の活動性等から適切に選定されているとした本
件安全審査の判断には合理性があるというべきであるから,その判断
の過程に看過し難い過誤,欠落があると認めることはできない。
②気比ノ宮断層の延長距離について
控訴人らは,気比ノ宮断層の長さについては,ω3から柏崎市ω1
6までの約36㎞とみるべきであるから,これを17.5㎞と過小評
価した本件安全審査には過誤がある旨主張する。
しかしながら,証拠(乙2,3,4,77の③,152,156,
原審における証人P6の証言)及び弁論の全趣旨によれば,a本件原
子炉施設の耐震設計においては,気比ノ宮断層について,文献調査,
空中写真判読,地表踏査等に基づいて,第四紀後期の断層活動を示唆
する地形上の特徴や地質構造上の特徴が検討されたこと,bω2付近
以北与板町付近までの西山層,灰爪層及び魚沼層における背斜構造の
東翼部には,地下深部において断層を伴うことが多いとされる過褶曲
構造が認められ,かつ,この過褶曲構造の東縁に沿って,地表にかな
り明瞭なリニアメントが認められるのに対し,ω2付近以南の気比ノ
宮断層の延長線上には,明瞭なリニアメントや過褶曲構造が全く認め
られないことから,ω2付近以北と以南とでは,地形上,地質構造上
に明白な差異があり,気比ノ宮断層の南限は,長岡市ω2付近と推定
されたこと,cω2付近以南の気比ノ宮断層の延長線上には,明瞭な
リニアメントや過褶曲構造が全く認められず(乙3の6-266ない
し268,290ないし292頁,ω2付近以北と以南とでは,地)
形上,地質構造上に明白な差異があることから,同町以南については,
地下に気比ノ宮断層の延長と思われる断層の存在を推定することはで
きないこと,d活断層研究会が編集した「日本の活断層」と題する文
献中には,ω2付近以南柏崎市ω16までの区間には,リニアメント
が示されているが,同時に,本件安全審査において気比ノ宮断層を推
定したリニアメントの一部に相当するリニアメント(鳥越断層群に係
るもの)が上記リニアメントとは別のものとして示されており,この
二つのリニアメントについて活断層の存在の確かさを表す確実度の評
価も前者を確かさが最も低いⅢとし,後者を確かさが最も高いⅠとし
ているのであるから「日本の活断層」の編者らも,二つのリニアメ,
ントを必ずしも一体のものと考えていないこと,e甲103中には,
長岡平野西に長さ30㎞以上,活動度Bとする逆断層が存在する旨の
記載があるが,この記載は,気比ノ宮断層を含むその周辺の雁行して
いる断層を一括して表したものであること,f本件安全審査において
は,気比ノ宮断層は「長岡地域の地質(乙156)に添付される,」
地質平面図及び断面図に示されるとおり,与板背斜の東翼に西側上が
りの逆断層として想定されたが,これに対し「柏崎地域の地質」,
(乙152)に添付される地質平面図及び断面図において,気比ノ宮
断層が南方に連続する地域は,山屋背斜とその西側に位置する大積向
斜及び渋海川向斜の間の部分に当たり,緩やかな西落ちの構造となっ
ているので,気比ノ宮断層は与板背斜の東翼に想定される西側上がり
の逆断層であり,気比ノ宮断層の南方に連続する断層は緩やかな西落
ちの構造となっているから,落ちの方向が全く逆の構造であって,こ
れらを一連の活断層として活動することを想定することはできないこ
と,g本件安全審査においては,気比ノ宮断層の北部について,地表
では断層面が確認できないものの,地表踏査や空中写真判読の結果と
して活断層が推定される範囲を考え,更に石油関係資料を考慮した上
で,地表に確認されるリニアメントの終端から約7.5km北部まで
を活断層であるとみなして評価し,気比ノ宮断層の長さは,ω3から
長岡市ω2までの17.5㎞であるとしていることが認められる。
そうすると,気比ノ宮断層の南限を長岡市ω2付近までとした本件
安全審査の判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると認めることは
できないから,控訴人らの上記主張は失当である。
③常楽寺断層(中央丘陵西縁部断層)について
控訴人らは,a中央丘陵西縁部にある常楽寺断層は,その北部区間
について,現在も活動が続いていること,b同断層の南部区間につい
ては,灰爪層の撓曲が連続して追跡できること,c地形的に山地と平
地とが直線状の境界線をなしていることから,同断層が,ω5から柏
崎市ω17までの24㎞であるので,同断層を過小評価した本件安全
審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,152,15
6,原審における証人P6の証言)及び弁論の全趣旨によると,a本
件原子炉施設の耐震設計においては,中央丘陵西縁部断層(控訴人ら
の主張する「常楽寺断層」の一部がこれに当たる)の存在が推定さ。
れているω4からω5にかけての地表部付近には,第四紀後期におい
て活動した断層が認められる露頭は認められないこと,b上記区間に
認められるリニアメントも,中央丘陵西縁部断層が地下深部に存在す
ると推定する根拠となった撓曲構造の位置と一部で一致していないが,
これは撓曲構造に係る構造運動によって形成されたリニアメントが,
長い期間の侵食作用を受けて東側に後退した結果撓曲構造とずれた結
果であると判断されたこと,cω20周辺の露頭において複数の断層
が認められるが,その位置や断層面の方向は,中央丘陵西縁部断層を
推定する根拠となった上記リニアメント及び撓曲構造の位置や方向と
一致していない上,上記各断層は,地すべり性の断層の特徴を示して
いること,d中央丘陵西縁部断層の南方においては,地表踏査をして
も連続して追跡できるような撓曲構造が認められず,山地と平地の境
界にみられる比較的,直線的な地形については,過去の海岸線に起因
する地形(現在より海水準が高い時代の海食崖)にすぎないこと(以
上,乙3の6-275ないし278,293,294頁,乙4の21
頁,上記証人P6の証言,e「柏崎地域の地質(乙152)に添)」
付される地質図によれば,控訴人らが主張する活断層が想定されると
する位置には,所々に中位段丘である安田層が点在し,沖積層の谷が
安田層に遮られて長く連続しないことが認められる。
そうすると,中央丘陵西縁部断層の第四紀後期の活動性は無視でき
るとした本件安全審査の判断には合理性があるというべきであるから,
控訴人らの上記主張は失当である。
④真殿坂断層について
控訴人らは,真殿坂断層の長さについては,ω8から鯖石川河口ま
での21㎞に及ぶ活断層であるので,同断層を過小評価した本件安全
審査には瑕疵がある旨主張する。
しかし,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,152,15
6,原審における証人P6の証言)及び弁論の全趣旨によると,a本
件原子炉施設の耐震設計においては,真殿坂断層の存在が推定される
地域の空中写真判読によっては,リニアメントの存在は全く認められ
ず,また,これに加えて実施された地表踏査の結果によっても,第四
紀後期における構造運動に起因した断層活動を示唆する断層崖やケル
ンコル等の地形的特徴及び露頭は認められなかったことから,上記断
層の第四紀後期における活動は無視できると判断されたこと(乙2の
6-3-9頁,乙3の6-269ないし273頁,乙4の20ないし
21頁,上記証人P6の証言,bω12の露頭に見られる断層につ)
いて,地すべり運動によって番神砂層及び安田層が西山層中に落ち込
んで生じた地表の断層であり,真殿坂断層とは関係がないこと(乙3
の6-212ないし218頁,乙4の22頁,c真殿坂断層は,背)
斜軸と背斜軸との間にある向斜軸が急傾斜になっている地域に推定さ
れる断層であるところ,ω6より南側には認められないこと(乙3の
6-269ないし273頁,上記証人P6の証言)などから,上記ω
6が真殿坂断層の南限と判断されたことが認められる。
そうすると,真殿坂断層の長さをω8からω6までの約14㎞とし,
真殿坂断層の第四紀後期以降の活動性は無視できるとした本件安全審
査の判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると認めることはできな
いから,控訴人らの上記主張は失当である。
⑤椎谷断層について
控訴人らは,椎谷断層について,石油関係資料で魚沼層群を切って
いるとの記載があるので,空中写真によりリニアメントが認められず,
かつ断層露頭がないことを理由にして同断層の活動を無視した本件安
全審査には瑕疵がある旨主張する(原判決第二編第一章第六節第二款
第三の五5。)
石油関係資料には,椎谷断層が魚沼層群を切っているとの記載があ
ることは,当事者間に争いがない。
しかし,証拠(乙1ないし4,152,156,原審における証人
P6の証言)によれば,本件安全審査においては,a本件原子炉施設
の耐震設計においては,椎谷断層が存在すると推定される地域の地表
踏査の結果,断層露頭が確認されず,椎谷断層線に沿った稲川付近で
は,逆転した灰爪層の上に,安田層より古い水平な半固結層があるが,
断層で切られている形跡がないことが確認されたこと,b空中写真の
判読結果によっても変位地形が全く認められなかったことから,椎谷
断層の活動は少なくとも安田層堆積前にほとんど終了し,それ以降の
活動は全くなかったか,あってもごく小さいものと判断されたことが
認められる。
そうすると,椎谷断層の第四紀後期以降の活動性は無視できるとし
た本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると認める
ことはできないから,控訴人らの上記主張は失当である。
⑥新しい松田式について
控訴人らは,活断層の長さから想定すべき最大地震のM(マグニチ
ュード)を算出する式として従前よりいわゆる「松田式」が用いられ
てきたが,近時においてその考案者であるP22が最新の研究成果に
基づき,新しい松田式(松田(1998。甲306)に修正してい)
るから,本件安全審査における算定値は誤りである旨主張する。
しかし,証拠(甲306,乙115)及び弁論の全趣旨によると,
a新しい松田式(1998)は,地表地震断層が明らかな地震のみに
ついて,その地表地震断層の長さと地震規模Mとの関係を求めている
ものであるが,本件安全審査で用いられた松田式は,日本の内陸で発
生した地震について,活断層の長さと地震規模の関係を示す経験式で
あること,b原子炉施設の設計に当たっては,敷地近傍の断層を詳細
に調査しており,断層の長さについては地表に現れている長さに限ら
ず,活断層の長さを保守的に推定しているので,そのようにして推定
された活断層の長さにより地震の規模を適切に算出するためには,松
田式を用いなければならないこと,c第166回原子炉安全専門委員
会(平成11年2月10日)においても「現段階においては,新しく
提案された松田式(1998)を採用する必要はないと考える」と。
確認されている(乙115)ことが認められる。
したがって,控訴人らの上記主張はその前提を欠いているから失当
である。
⑦金井式-シード図について
控訴人らは,本件安全審査においては,金井式がM(マグニチュー
ド)と震源距離から「最大加速度」を求める式として用いられている
が,本来は「最大速度振幅」を算出する式であるから,これを「最大
加速度」の算出に用いることはそれ自体便宜的なものであること,そ
して,本件原子炉施設敷地での最大加速度の算定に用いた金井式-シ
ード図の組合せは,実測値と比較すると過小評価をしていることから,
原子力発電所の耐震設計・安全審査に用いる最大加速度の算定に用い
ることは合理性を欠いているので,本件安全審査には瑕疵がある旨主
張する。
しかし,証拠(乙1ないし4,147,原審における証人P6の証
言)及び弁論の全趣旨によれば,本件原子炉施設の敷地地盤における
最大加速度振幅を算定するために用いた金井式は,岩盤(地盤)にお
ける地震動の最大加速度振幅,震源距離及びMの関係を表す経験式で
あり,地震工学の分野において一般にその妥当性が是認されているこ
とが認められるから,敷地地盤における地震動の最大加速度振幅の算
定式として金井式を用いることは不合理ではないというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
⑧鳥取県西部地震について
控訴人らは,a平成12年10月6日に発生した鳥取県西部地震に
おいては,ω11の観測点では,地表において最大加速度1135G
al,計測震度6.6が記録され,また,地下100m地点でも東西
方向で最大574.7Galが記録されたこと,bこのω11の観測
点で本件安全審査の方法で最大加速度を計算すると,地震発生以前は
約195Galとなり,鳥取県西部地震発生前にω11地点において
本件安全審査と同様の手法により原発の設置許可申請を行っていれば,
設計用地震加速度が鳥取県西部地震でのω11地点における実測値と
比べてかなりの過小評価となったことから,設計用地震加速度の算定
方法が全体として過小評価であるので,本件安全審査には瑕疵がある
旨主張する。
しかし,証拠(甲371,372)及び弁論の全趣旨によると,ω
11地点及びその周辺においては,本件安全審査において実施された
ような地質・地盤等に関する詳細な調査が実施されていないことが認
められるから,控訴人らの主張は,詳細な調査を実施せずに判明して
いた資料を基にして設計用地震加速度を算定し,算定値が実測値より
も過小評価となったはずであると推測するものであるから,その合理
的根拠を欠いており,本件安全審査の合理性を左右するものではない
というべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
(エ)本件原子炉施設の安全性の有無について
①本件原子炉施設の安全性について
控訴人らは,気比ノ宮断層等によって,最大加速度500Gal以
上の地震が襲う可能性が十分あり,その場合には,本件原子炉施設の
格納容器,ECCS,計測制御系システム等は機能を喪失し,大きな
原発事故に至るおそれがあるので,この原発事故を想定した耐震設計
の審査を欠如している本件安全審査には瑕疵がある旨主張する(原判
決第二編第一章第六節第二款第三の五6。)
しかしながら,上記前提となる事実と証拠(乙1ないし4,原審に
おける証人P6の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件安全審査に
おいては,a本件原子炉施設における耐震設計上においては,敷地地
盤に与えられる地震動の推定最大加速度のうち最大のものは,気比ノ
宮断層の活動によって将来発生することのあり得る地震による220
Galとされたこと,b安全対策上特に緊要な格納容器,原子炉緊急
停止装置及びホウ酸水注入装置については,設計用地震動(最大加速
度300Gal)の1.5倍の地震動を用いた動的解析によって求め
られた地震力に,平常運転に伴って作用する圧力や熱膨張等による力
が加わったとしても,主要施設が損傷せず,十分に機能が維持される
ように設計されたことが確認された上,その基本設計において,本件
原子炉施設の地盤及び同施設周辺において発生するおそれのある地震
が,同施設における大事故の誘因とはならず,安全性を確保でき,原
子炉等による災害の防止上支障がないものと判断されたことが認めら
れる。
そうすると,本件安全審査における上記判断には合理性があるとい
うべきであるから,その判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると
認めることはできない。
②スマトラ沖大地震・津波と本件安全審査について
控訴人らは,a平成16年12月26日に発生したスマトラ沖大地
震のため,巨大津波が発生し,波高25mに達した例もあり,多数の
鉄筋コンクリート建物が崩壊してその犠牲者は13カ国で18万人を
超える最悪の結果となったこと,b本件安全審査においては,科学的
には意味のない潮位計の記録や日本海が津波の静穏期であった時期の
記録に基づいて行われ,防波堤が6.8mの高さで設計されており,
過去の最大地震である新潟地震の最高潮位が満潮時に来ても,津波の
高さが2.34m程で防波堤を越えることがないので,安全であると
し,スマトラ沖大地震・津波などの大地震・巨大津波を想定していな
いことから,現在の科学水準に照らすと,本件安全審査には瑕疵があ
る旨主張する。
しかし,証拠(甲477ないし481,乙1ないし4,原審におけ
る証人P6の証言)及び弁論の全趣旨によると,aスマトラ沖大地震
の震源は,スンダ海溝に位置し,インド・オーストラリアプレートが
ユーラシアプレートに沈み込んでいる地域であり,b本件原子炉敷地
が面する日本海においては,スマトラ沖大地震と同様な地震をもたら
すプレートの沈み込みはなく,過去にもスマトラ沖大地震のような大
地震・巨大津波が発生したことはないこと,c昭和58年の日本海中
部地震による津波で波高が20mを超える観測がされているが,これ
は局地的な現象であり,当該観測場所における地形(海岸線の形状や
水深)の影響であって,本件原子炉施設が設置されている敷地前面の
海域の地形はそのような津波が発生するものとはいえないこと,d本
件安全審査においては,本件原子炉敷地付近で,過去における津波・
高潮による被害の記録がなく,これまでの最高潮位は新潟地震(昭和
39年6月16日)による津波で,土木学会作成の「新潟地震震害調
査報告(昭和39年」により,柏崎港内物揚場において,最高潮位)
T.P+1.8mであり,塑望平均満潮時T.P+0.54mであっ
たことを確認し,これに対して主要構造物の敷地標高を5m以上とす
る(乙2の6-4-3及び4頁,乙4の26頁)ので,異常潮位によ
る被害を受けるおそれはないと判断されたことが認められるから,津
波等に対する本件安全審査の判断に不合理な点はないというべきであ
る。
したがって,控訴人らの上記主張はその前提を欠いているから失当
である。
(オ)小括
以上のとおり,上記前提となる事実にかんがみると,本件原子炉が具
体的審査基準に適合し,その基本設計において,本件原子炉施設の地質
・地盤及び同施設周辺において発生するおそれのある地震が,同施設に
おける大事故の誘因とならず,安全性を確保でき,原子炉等による災害
の防止上支障がないものとした本件安全審査における調査審議及び判断
の過程に看過し難い過誤,欠落があるとは認められない。
(5)本件原子炉施設の公衆との離隔に係る本件安全審査の調査審議において
用いられた具体的審査基準に不合理な点はあるか否か。また,本件原子炉が
具体的審査基準に適合し,その基本設計において,公衆との離隔に係る安全
性を確保し得るもの,すなわち,公衆との離隔による災害の防止上支障のな
いものとした本件安全審査における調査審議及び判断の過程に看過し難い過
誤,欠落があるか否か。
ア審査基準に不合理な点があるか否か。
(ア)公衆との離隔に係る審査基準について
a上記前提となる事実によると,本件原子炉施設の公衆との離隔に係
る本件安全審査の調査審議においては,原子力委員会が指示した立地
審査指針(乙10)及び安全設計審査指針(乙14)が用いられたこ
とが認められる。
bところで,上記前提となる事実,上記(3)ア(ア)及び(4)ア(ア)の各
認定事実並びに弁論の全趣旨によると,本件処分後において,立地審
査指針が平成元年3月27日に一部改訂された上,これに関連するも
のとして新たに,(a)新安全設計審査指針,(b)安全評価審査指針,
(c)重要度分類指針,(d)ECCS性能評価指針,(e)反応度投入事
象評価指針,(f)「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデ
ント対策としてのアクシデントマネージメントについて,(g)」
「燃料被覆管は機械的に破損しないこと」の解釈の明確化につい「
て,(h)「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」につい」「
て(審査,設計及び運転管理に関する事項《基準関係の反映事項は除
く,(i)「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」につ》)」「
いて,(j)地質・地盤の手引き,(k)耐震設計審査指針,(l)「原」
子力発電所等周辺の防災対策について,(m)「沸騰水型原子炉に用」
いられる9行9列型の燃料集合体について」が定められていること,
しかし,これらは,上記(3)ア(ア)及び(4)ア(ア)のとおり,いずれも
それまでの原子炉施設の知見の蓄積を踏まえて,それらを整理,成分
化されたものであり,審査の基本的な考え方は,本件安全審査当時の
ものが維持されており,本件安全審査の基礎とされた本件処分当時の
知見にその後の新しい科学技術上の知見等からみて誤りであったもの
として,新たな指針等を策定したものではないことが認められる。
(イ)めやす線量について
控訴人らは,立地審査指針が定めているめやす線量は,何ら根拠がな
く,このような過大な線量値を定めている同指針に依拠した本件安全審
査も不合理である旨主張し,原審における証人P4の証言中には,これ
に沿う供述部分がある(原判決第二編第一章第六節第二款第四の四。)
しかし,証拠(甲33,乙10,94,原審における証人P1の証
言)及び弁論の全趣旨によると,立地審査指針(乙10)は,原子炉設
置許可に際しての安全審査において,申請に係る原子炉施設につき,そ
の基本設計に関して,平常運転時における被ばく低減対策及び事故防止
対策に係る安全性がそれぞれ確保されるものであることを確認した上,
当該原子炉施設が,その安全防護設備との関係において十分に公衆から
離れているとの立地条件を満たすものであるかどうかを審査することを
定めていること,そして,災害評価(立地評価)は,事故防止対策等に
係る安全確保対策を講じた原子炉施設が,更に適切な社会的立地条件を
具備しているか否かを評価するものであって,めやす線量については,
当該原子炉施設の公衆との離隔に係る立地条件の適否の判断基準となる
ものであるが,上記指針が定めるめやす線量は,その基本設計からみて
現実には発生する蓋然性のない事故を想定した場合においても,当該原
子炉施設はその安全防護設備との関連において十分に公衆から離れてい
るかどうかを判断する目安としての線量にとどまるものであって,公衆
がその線量を現実に被ばくする蓋然性があることを前提としたものでは
ないことが認められる。
しかも,上記前提となる事実と証拠(甲33,乙1ないし4,10,
94,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,本件
安全審査においては,災害評価(立地評価)における重大事故及び仮想
事故として,核分裂生成物の大気中への放出量が最大になる可能性をも
つ事故事象として,冷却材喪失事故と主蒸気管破断事故の2種類の事故
が想定されているが,本件原子炉敷地境界付近における重大事故及び仮
想事故の評価結果は,上記めやす線量に比べて十分小さいものと確認さ
,れ,立地審査指針に適合していると判断されていること(乙4の49頁
52頁)が認められ,めやす線量に関する本件安全審査には合理性があ
るというべきである。
そうすると,上記証人P4の供述部分を採用することはできず,控訴
人らの上記主張は失当というべきである。
(ウ)小括
以上のとおり,上記前提となる事実により認められる本件原子炉施設
の公衆との離隔に係る本件安全審査の審査内容にかんがみると,上記調
査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点はないというべ
きである。
イ本件原子炉が具体的審査基準に適合し,その基本設計において,公衆と
の離隔に係る安全性を確保し得るもの,すなわち,公衆との離隔による災
害の防止上支障のないものとした本件安全審査における調査審議及び判断
の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否か。
(ア)災害評価(立地評価)におけるECCS等の健全性について
控訴人らは,本件安全審査における災害評価は,冷却材喪失事故及び
主蒸気管破断事故を想定しているが,ECCS,圧力容器及び格納容器
等の健全性が絶対的な前提となっているので,その設定条件が恣意的で
ある上,本件原子炉施設の安全防護等の技術的因子の有効性を考慮して
災害評価をするのは不合理であるから,本件安全審査には瑕疵がある旨
主張する(原判決第二編第一章第六節第二款第四の二1。)
しかし,上記前提となる事実と証拠(甲33,乙1ないし4,10,
94,原審における証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,立地
評価は,いわゆる多重防護の考え方に基づいて事故防止対策が講じられ,
かつその基本設計において安全性が確認された原子炉施設について,安
全性の確保の観点から念のために立地審査指針により公衆との離隔に係
る立地条件の適否を評価するために評価条件を仮定して行うものであっ
て,炉心内の全燃料の溶融などを仮定しているものではないこと,すな
わち,立地審査指針への適合性の評価は,基本設計において災害防止上
支障がないものであるかどうかを判断する一環として行われるものであ
ると認められ,基本設計において採用された安全対策の技術的有効性を
すべて否定するような想定は合理性を欠くものというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
(イ)災害評価(立地評価)における全炉心溶融等の想定について
a控訴人らは,本件安全審査の災害評価において想定している重大事
故及び仮想事故が,現実に起きているチェルノブイル事故より小規模
であって,暴走事故や炉心溶融事故とそれによって炉心内に貯蔵され
ている放射性物質の相当部分が環境内に放出される事態を想定してい
ないなど恣意的であり,災害評価が十分ではないから,本件安全審査
には看過し難い欠落がある旨主張する。
しかし,証拠(甲33,乙1ないし4,10,14,94,原審に
おける証人P1の証言)及び弁論の全趣旨によると,安全評価審査指
針(甲33,乙94)の解説「Ⅲ.立地評価」の「評価すべき範囲と
評価すべき事象の選定について」において「重大事故」及び「仮,「
想事故」を想定する目的は,対象となる原子炉と,周辺の公衆との離
隔が適正に確保されていることを確認することである。最小限度必要
とされる離隔距離は,当該原子炉の基本的構造,出力その他の特性,
安全防護施設(工学的安全施設)を含む安全上の対策等によって変化
するものである。したがって「重大事故「仮想事故」の選定に当,」,
たっては,この趣旨が適切に考慮される必要がある。例えば「仮想,
事故」の選定に当たって,炉心の核分裂生成物の多重防壁のすべてが,
無条件に機能しないと仮定すると,離隔距離は事実上原子炉出力のみ
で定まってしまうことになり,その他の重要な因子は無視されること
になる。このような仮定は,最小限度必要とされる離隔距離を判断す
るという見地からは,適切とはいい難く,したがって「原子炉立地,
審査指針」が必須な仮定として求めているものではない」と明記さ。
れていること,そして,原子炉設置許可に際しての安全審査は,原子
炉施設の位置,構造及び設備の妥当性を評価するものであるから,安
全防護設備等の存在を無視して初めて発生するような事故を立地評価
(災害評価)において評価する必要はないことが認められるので,控
訴人らの上記主張は失当である。
bまた,控訴人らは,我が国の昭和34年の原子力産業会議の報告の
ほか,昭和32年の米国ブルックヘブン国立研究所のブルックヘブン
報告書,昭和50年の米国原子力委員会のラスムッセン報告書,チェ
ルノブイル事故の教訓などに照らすと,原発事故による最悪の事態に
おける被害の甚大性などの災害評価を行うべきであるから,シビアア
クシデントを想定しない本件安全審査は不合理である旨主張する(原
判決第二編第一章第六節第二款第四の三1ないし5。)
しかし,控訴人らの主張に係るシビアアクシデントは,上記6(3)
イ(シ)②のとおり,原子炉設置許可の段階における安全審査の対象で
はないから,控訴人らの上記主張はその前提を欠いており失当である。
(ウ)フィルタの信頼性について
控訴人らは,本件安全審査においては,災害評価において,重大事故
と仮想事故の双方で常にフィルタによりヨウ素が95%除去されるとい
うことが前提とされているが,動燃東海再処理工場の火災・爆発事故で
は,火災発生後わずか7分で「高性能粒子フィルタ」が目詰まりして機
能喪失しており,最大想定事故の場合においてフィルタが健全であるこ
とを前提にするのは非現実的で不合理であるから,本件安全審査には看
過し難い欠落がある旨主張する。
しかし,動燃事故については,上記6(3)イ(シ)③のとおり,規制法
第5章の規定により規制される「再処理の事業」を行う施設である再処
理施設において発生した火災・爆発事故であって,本件安全審査の対象
となる原子炉施設の位置,構造及び設備の基本設計の安全性にかかわる
事項ではないというべきであるから,控訴人らの主張はその前提を欠い
ており失当である。
のみならず,証拠(乙1ないし4,原審における証人P1の証言)及
び弁論の全趣旨によると,本件安全審査においては,本件原子炉施設の
原子炉建家内ガス処理系は,非常用再循環ガス処理系と非常用ガス処理
系から成り,高性能フィルタのみによって構成されるものではなく,し
かも,原子炉建家内ガス処理系は,事故時においても環境に放出される
放射性物質を低減させる機能を有するものであると判断されていること
(乙4の33,34頁)が認められる。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
(エ)小括
以上のとおり,上記前提となる事実にかんがみると,本件原子炉が具
体的審査基準に適合し,その基本設計において,公衆との離隔に係る安
全性を確保し得るもの,すなわち,公衆との離隔に係る立地条件におい
て原子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査にお
ける調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとは認めら
れない。
(6)その他の規制法24条1項4号所定の要件適合性について
その他,上記前提となる事実と証拠(乙1なしい4,原審における証人P
1,同P5及び同P6の各証言)にかんがみると,本件安全審査においては,
原子炉施設の自然的立地条件である気象,水理などの自然事象のほか,交通
等の人為事象,社会環境等に係る安全対策を含む規制法24条1項4号所定
の要件適合性の判断に不合理な点はないというべきである。
第4結論
以上の次第で,本件処分には,手続的違法はなく,また,現在の科学水準に
照らし,本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があ
るとはいえず,規制法24条1項3号(技術的能力に係る部分に限る)及び。
4号の要件適合性についての内閣総理大臣の判断に不合理な点があると認める
ことはできないから,実体的違法もないというべきである。
よって,控訴人らの本件請求はいずれも理由がないから棄却すべきであって,
これと結論において同旨の原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がな
いから,これを棄却することとし,控訴費用の負担について行訴法7条,民訴
法67条,61条,65条1項を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第24民事部
裁判長裁判官大喜多啓光
裁判官河野清孝
裁判官水谷正俊は,転補のため,署名・押印することができない。
裁判長裁判官大喜多啓光
(主要略語表)
・民訴法民事訴訟法(平成8年法律第109号)
・行訴法行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号,平成16
年法律第84号による改正前のもの)
・電事法電気事業法(昭和39年法律第170号,昭和58年法
律第83号による改正前のもの)
・基本法原子力基本法(昭和30年法律第186号,昭和53年
法律第86号による改正前のもの)
・設置法原子力委員会設置法(昭和30年法律第188号,昭和
53年法律86号による改正前のもの)
・設置法施行令原子力委員会設置法施行令(昭和31年政令第4号,昭
和53年9月28日政令第336号による改正前のも
の)
・規制法核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律
(昭和32年法律第166号,昭和52年法律第80号
による改正前のもの)
・規制法施行令核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律
施行令(昭和32年政令第324号,昭和52年政令第
315号による改正前のもの)
・原子炉規則原子炉の設置,運転等に関する規則(昭和32年総理府
令第83号,昭和52年総理府令第42号による改正前
のもの)
・安全審査会運営規程原子炉安全専門審査会運営規程(昭和36年9月6日原
子力委員会決定,昭和51年7月13日同委員会決定に
よる改正前のもの)
・許容線量等を定める件
原子炉の設置,運転等に関する規則等の規定に基づき,
許容被曝線量等を定める件(昭和35年9月30日科学
技術庁告示第21号,昭和53年12月28日同庁告示
第12号による改正前のもの)
・立地審査指針原子炉立地審査指針及びその運用に関する判断のめやす
について(昭和39年5月27日原子力委員会決定)
・気象指針発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針について
(昭和52年6月14日原子力委員会決定)
・安全設計審査指針発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針につ
いて(昭和52年6月14日原子力委員会決定)
・線量目標値指針発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針
について(昭和50年5月13日原子力委員会決定)
・線量目標値評価指針発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価
指針について(昭和51年9月28日原子力委員会決
定)
・ECCS安全評価指針
軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針につい
て(昭和50年5月13日原子力委員会決定)
・新安全設計審査指針発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針(平
成2年8月30日原子力安全委員会決定。一部改訂平成
13年3月29日同委員会)
・安全評価審査指針発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針
(昭和53年9月29日原子力委員会策定。一部改訂平
成元年3月27日原子力安全委員会。平成2年8月30
日同委員会決定。一部改訂平成13年3月29日同委員
会)
・重要度分類指針発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関す
る審査指針(平成2年8月30日原子力安全委員会決
定)
・ECCS性能評価指針
軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の性能評価指針(昭和
56年7月20日原子力安全委員会決定。一部改訂・昭
和63年5月19日・平成2年8月30日・平成4年6
月11日同委員会)
・反応度投入事象評価指針
発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象に関する評価
指針(昭和59年1月19日原子力安全委員会決定。一
部改訂平成2年8月30日同委員会)
・耐震設計審査指針発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(昭和53
年9月原子力委員会。一部改訂昭和56年7月20日・
平成13年3月29日原子力安全委員会)
・地質・地盤の手引き原子力発電所の地質,地盤に関する安全審査の手引き
(昭和53年8月23日原子炉安全専門審査会作成)
・線量限度等を定める告示
実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則の規定に
基づく線量限度等を定める告示(平成13年3月21日
経済産業省告示第187号)
─────────────────────────────────────
・安全審査会原子炉安全専門審査会
・東京電力東京電力株式会社
・本件原子力発電所柏崎・刈羽原子力発電所
・本件原発柏崎・刈羽原子力発電所
・本件原子炉本件原子力発電所1号機
・本件申請東京電力が,内閣総理大臣に対し,昭和50年3月20
日付けでなした本件原子炉設置許可申請。ただし,東京
電力は,内閣総理大臣に対し,昭和52年7月12日,
同日付け「柏崎・刈羽原子力発電所原子炉設置許可申請
書本文及び添付書類の一部補正について」と題する書面
を提出して本件申請書及び添付書類の一部を補正。
・本件処分内閣総理大臣が,東京電力に対し,本件申請について,
昭和52年9月1日付けでなした本件原子炉設置許可処

・伊方原発最高裁判決伊方原子力発電所原子炉設置許可処分取消訴訟について
の最高裁判所昭和60年(行ツ)第133号平成4年1
0月29日第一小法廷判決・民集46巻7号1174頁
・福島第二原発最高裁判決
福島第二原子力発電所原子炉設置許可処分取消訴訟につ
いての最高裁判所平成2年(行ツ)第147号平成4年
10月29日第一小法廷判決・訟務月報39巻8号15
63頁・判例時報1441号50頁・判例タイムズ80
4号65頁
─────────────────────────────────────
・ASTM米国材料試験協会(AmericanSocietyofTestingMate
rials)
・ECCS非常用炉心冷却設備(emergencycorecoolingsyste
m)
・ICRP国際放射線防護委員会(InternationalCommissionon
RadiologicalProtection)
・NRC米国原子力規制委員会(NuclearRegulatoryCommissio
n)
・SCC応力腐食割れ(stress-corrosion-cracking)
・TMI発電所米国ペンシルヴェニア州スリーマイルアイランド原子力
発電所(ThreeMileIslandNuclearPowerPlant)
・TMI事故昭和54年3月28日,TMI発電所において発生した
事故

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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