弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人Aの上告理由は後記書面のとおりである。
 同第一点について。
 所論は複雑詳細にわたつているが、要するに本件訴は、上告人の本件杉立木の権
利が本来一万本であることは法律上不動であり、なお残数七千二百十六本に対する
権利の存在するという主張を前提として、部分林台帳の記載の誤記削除を求めるの
を主とし、併せて従として原告名義に書替を求めるのであるから、原判決が上告人
の請求を名義書替が主で誤記削除が従であると解し、前訴の既判力を理由として上
告人の控訴を棄却したのは憲法及び判例に違反すると主張するのである。そこで原
判決が被上告人の既判力の抗弁について採用した前訴判決(秋田地方裁判所昭和四
年(ワ)第一二号引渡未済部分林区域確認並に部分木引渡請求事件)につき判示す
るところによると、前訴訟における原告(本件上告人以下同じ)の請求原因の要旨
は、Dが明治三二年法律第九九号国有土地森林原野下戻法により、明治三二年五月
六日秋田県山本郡a町母体官林bのc山林反別二十五町歩の杉立木合計一万本につ
き、三官七民の部分林に引直方申請し、明治三五年三月三一日指令第六一一八号を
以て農商務大臣より之を聞届けられ、其のd区域に付てはe区署長の指揮を受くべ
き旨命ぜられ、一方同大臣よりe区署に対し林第六一一八号を以て右下戻申請につ
き聞届の上指命したから引渡方取計うべき旨命じたのであるが、被告(本件被上告
人以下同じ)は右一万本のd区域を指揮せず、明治三五年五月二五日右一万本の内
僅かに二千七百八十四本此の材積二万五百三十九尺〆九分一毛のd区域を指揮した
のみで、その余の七千二百十六本の部分林残木の存在を否定し、未だ前記聞届及び
命令書の趣旨を果さない。右Dから右部分林の権利を譲受けたEからさらに昭和四
年二月六日その権利を譲受けた原告は、被告に対し同年三月一二日名義書替を求め
たがいわれなく書替をしないので、被告に対し右農商務省指令第六一一八号を以て
農商務大臣よりDに下戻した部分林杉立木は一万本で同部分林残木残は七千二百十
六本であることを確認の上該部分林台帳名義人Eとあるのを原告名義に書替すべき
旨の判決を求めるというのであつて、これに対し秋田地方裁判所は、右部分林引直
方聞届けられた杉立木は申請にかかる杉立木全部で且之に止まるものであるが、一
万本というのは目算による概数であつてその七民分は既に明治三五年中全部引渡済
で残木はない旨、従つて原告がEより譲受けたと主張する部分林の権利は、当時既
に客体たる残木なく右部分林の権利は存在しないものであるとし、原告の請求を棄
却する旨の判決を言渡し、その判決は第一審かぎりで確定したことをいずれも認め
るに十分であるという趣旨である。そして本件原判決は、確定した前訴判決によつ
て既判力を生ずる主文に包含される範囲は、上告人が農商務省指令第六一一八号に
よる下戻の部分林一万本の残七千二百十六本につき、Eから譲受けたことを原因と
する之に対する部分林の権利は存在しないことが確定され、且同部分林台帳を上告
人名義に書替手続をする請求権がないとする点にあることは右認定事実により明ら
かであるとし、右確定された法律関係の範囲において、裁判所においてこれと異る
裁判をすることができない既判力を生じ、この既判力の効果として当事者は後の訴
訟においてこれに反する主張を有効にすることができなくなることは疑いないと判
示し、この理由によつて本件訴において上告人は結局請求の趣旨記載のような判決
を求める利益なきに帰するから、本件請求は結局権利保護要件を欠くものと認め、
上告人の本件請求を失当であると判断したのである。
 原判決の理由において、本件訴に前訴判決の既判力の効果が及ぶとする説明は、
要するに本件訴における上告人の請求は、上告人が「部分林残七千二百十六本に対
する権利のあることを主張し之を前提として部分林台帳の附加記載を削除して控訴
人(すなわち本件上告人)名義に書替えることを求めるものである」が、前訴判決
の既判力は、上告人が右部分林に対する権利及び部分林台帳の名義書替請求権が存
在しないことについて生ずるから、これを有効に主張することはできないというの
であつて、所論のように、原判決は本件訴を名義書替の請求を主とし、台帳訂正の
請求を従として考え、前訴の名義書替を求める訴が棄却され確定したのだからその
既判力の効果が本訴に及ぶとしたのではない。すなわち台帳訂正を主とし名義書替
を従とする請求であつても、前訴判決において認められないことが確定した部分林
に対する権利の存在することを前提とするのであるから、すでにその前提を主張す
ることができない以上、上告人の請求は結局認められないことに帰着するという趣
旨である。原判決の説明は、行文において台帳訂正と名義書替を前後して記載した
部分もあるが、決して所論のように名義書替が独立の訴であるから既判力が及ぶと
解したのでないことは判文上明らかである。されば原判決の理由につき判示と異な
る解釈に立つて憲法違反又は判例違反を主張する論旨は前提において誤りであつて
理由がない。
 同第二点について。
 所論は、原判決が争点の記載を欠如した違法があると主張しその理由の(イ)と
して、名義書替の請求は独立の主張でなく、台帳訂正の請求に従たるものであるこ
とを主張したのに、この争点について判断しないというのであるが、第一点につい
て説明したとおり、原判決は名義書替の請求を独立の訴とし、それゆえ既判力が及
ぶと判示した趣旨ではないから、論旨は理由がない。またその理由の(ロ)として、
被上告人は前訴が原告の給付の訴であるにかかわらず、これを確認の訴と誤解した
という上告人の主張の争点について、原判決は判断をしていないというのであるが、
原判決は、前訴において上告人は部分林残木数について権利あることの確認を求め
その上台帳名義書替の判決を求めたと判示していること明らかであるから、論旨の
ような違法はない。
 同第三点について。
 所論の詳細に述べているところの要旨は、前訴と本訴とは請求を異にするから、
前訴判決の既判力の効果は、本訴には及ばないというに帰着する。しかし原判決は
前訴と本訴との請求がいずれも同じものとして判断しているのではない。前訴にお
いて本件部分林の権利は当時すでに客体たる残木なく右部分林の権利は存在しない
ということが確定していることを前提とし、この既判力の効果として上告人はこれ
と異なる主張ができない結果、本訴において上告人が台帳を訂正することも名義の
変更を求めることも、たとえその台帳が上告人主張のように下戻指令を原因とする
権利関係を記載するものであつても、いずれもこれを求める利益はないことに帰し、
結局本訴請求は権利保護要件を欠くと判断していることきわめて明らかであつて、
論旨のような違法はない。(もつとも原審が利益がない云々と判示したのは少しく
妥当を欠く嫌がないではない。しかし前訴判決において上告人に部分林の権利がな
いことが確定しているにかかわらず、本訴はそれと反対に右権利の存在することを
前提とするものであるから、この点において棄却を免れないものである。けだし前
訴判決において権利がないことが確定している以上、その既判力のため裁判所は右
の確定に反して権利ありと判定することは許されず、右既判力に従つて権利なしと
する外ないのであるから、上告人の本訴請求は前提たる権利のない請求たるに帰す
るからである。それ故本訴請求を棄却した原判決は結局正当であり、論旨は理由な
きに帰するのである。)
 同第四点について。
 所論は、前訴の判決が、本件下戻指令の趣旨が杉立木の数を主眼として定められ、
地域によつて定められたのでないのにかかわらず、杉立木一万本というのは目算に
よる概数であつて、本件部分林における権利はすでに全部引渡済であると判断した
のは違法であるから、かかる判決は既判力を生ずることはできないという趣旨であ
るが、すべて前訴判決に対する攻撃であつて、本件原判決に対する非難の理由と認
められないから判断のかぎりでない。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとお
り判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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