弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成22年6月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10310号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年6月2日
判決
原告株式会社野村総合研究所
同訴訟代理人弁護士横井康真
同弁理士森下賢樹
三木友由
宗田悟志
被告株式会社セフティーアングル
同訴訟代理人弁護士栄枝明典
同弁理士伊丹勝
田村和彦
千且和也
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2008−800265号事件について平成21年8月24日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の下記2の本件発明に係
る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たな
いとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,
下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)被告は,平成14年4月26日,発明の名称を「個人認証方法及びシス
テム」とする特許出願(特願2002−126933号)をし,平成17年5月2
0日,設定の登録(特許第3678417号。以下,この特許を「本件特許」とい
い,本件特許に係る明細書(甲5)を「本件明細書」という。)を受けた。
(2)原告は,平成20年11月26日,全16項からなる請求項のうち,請
求項1,2,5,6,9ないし14に係る発明(以下,請求項の番号に従い,請求
項1記載の発明を「本件発明1」などといい,これらを併せて「本件発明」とい
う。)に係る特許について,特許無効審判を請求し,無効2008−800265
号事件として係属した。
(3)特許庁は,平成21年8月24日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」旨の本件審決をし,同年9月3日,その謄本が原告に送達された。
2本件発明の要旨
本件発明の要旨は,本件明細書における特許請求の範囲の請求項1,2,5,6,
9ないし14に記載された次のとおりのものである。なお,文中の「/」は原文の
改行部分を示す。
【請求項1】ユーザの第1と第2の認証キーのうちの前記第1の認証キーと,前記
ユーザの管理マスタIDとを第1のシステムで記憶するステップと,/前記ユーザ
の第1と第2の認証キーのうちの前記第2の認証キーと,前記ユーザの管理マスタ
IDとを,前記第1のシステムと通信可能な第2のシステムで記憶するステップと,
/前記第1のシステムにて,前記ユーザから第1の認証キーの入力を受けて,入力
された第1の認証キーと,記憶されている前記ユーザの第1の認証キーとを照合す
ることで,第1段階の個人認証を行なうステップと,/前記第1段階の個人認証が
成功した場合,前記第1のシステムから前記ユーザに対して,ワンタイムIDを発
行するステップと,/前記第1のシステムから前記第2のシステムに対し,前記ユ
ーザに発行した前記ワンタイムIDと,前記第1段階の個人認証でマッチしたユー
ザの管理マスタIDとを通知するステップと,/前記第1のシステムから通知され
た前記ワンタイムIDを,通知された前記管理マスタIDに該当するユーザのワン
タイムIDとして,前記第2のシステムで記憶するステップと,/前記第2のシス
テムにて,第2の認証キー及びワンタイムIDの入力を受けて,入力された第2の
認証キー及びワンタイムIDを,記憶されている前記ユーザの第2の認証キー及び
ワンタイムIDと照合することで,第2段階の個人認証を行なうステップと,/前
記第2段階の個人認証の結果に応じて,前記ユーザへのサービスの提供を制御する
ステップと/を有する個人認証方法。
【請求項2】前記ユーザの携帯通信端末の識別番号を前記第1のシステムで記憶す
るステップを,さらに有し,/前記第1段階の個人認証を行なうステップでは,携
帯通信端末を通じて前記ユーザから第1の認証キーの入力を受けて,入力された第
1の認証キー及び前記入力に使用された携帯通信端末の識別番号を,記憶されてい
る前記ユーザの第1の認証キー及び通信端末の識別番号と照合することで,前記ユ
ーザに関する前記第1段階の個人認証を行なう,請求項1記載の個人認証方法。
【請求項5】ユーザの第1と第2の認証キーのうちの前記第1の認証キーと,前記
ユーザの管理マスタIDとを記憶した第1のシステムと,/前記ユーザの第1と第
2の認証キーのうちの前記第2の認証キーと,前記ユーザの管理マスタIDとを記
憶した,前記第1のシステムと通信可能な第2のシステムと,/を備え,
(1)前記第1のシステムは,
(1−1)前記ユーザから第1の認証キーの入力を受けて,入力された第1の認
証キーを,記憶されている前記ユーザの第1の認証キーと照合することで,第1段
階の個人認証を行なう手段と,
(1−2)前記第1段階の個人認証が成功した場合,前記ユーザに対して,ワン
タイムIDを発行する手段と,
(1−3)前記ユーザに発行した前記ワンタイムIDと,前記第1段階の個人認
証でマッチしたユーザの管理マスタIDとを,前記第2のシステムに通知する手段
と,/を有し,
(2)前記第2のシステムは,
(2−1)前記第1のシステムから通知された前記ワンタイムIDを,通知され
た前記管理マスタIDに該当するユーザのワンタイムIDとして,記憶する手段と,
(2−2)第2の認証キー及びワンタイムIDの入力を受けて,入力された第2
の認証キー及びワンタイムIDを,記憶されている前記ユーザの第2の認証キー及
びワンタイムIDと照合することで,第2段階の個人認証を行なうステップと,/
を有し,/前記第2段階の個人認証の結果に応じてユーザへのサービスの提供を制
御可能な個人認証システム。
【請求項6】前記第1のシステムは,/(1−4)前記ユーザの携帯通信端末の識
別番号を記憶する手段を,さらに有し,/前記第1のシステムの前記第1段階の個
人認証を行なう手段(1−1)は,携帯通信端末を通じて前記ユーザから第1の認
証キーの入力を受けて,入力された第1の認証キー及び前記入力に使用された携帯
通信端末の識別番号を,記憶されている前記ユーザの第1の認証キー及び通信端末
の識別番号と照合することで,前記第1段階の個人認証を行なう,請求項5記載の
個人認証システム。
【請求項9】ユーザの第1と第2の認証キーのうちの第2の認証キーと,前記ユー
ザの管理マスタIDとを記憶して前記ユーザの個人認証を行なう認証システムに対
して,個人認証の支援を行なうための,前記認証システムと通信可能な個人認証支
援システムにより行われる方法において,/ユーザの第1と第2の認証キーのうち
の前記第1の認証キーと,前記ユーザの管理マスタIDとを記憶するステップと,
/記憶されている前記ユーザの第1の認証キーを用いて,予備的な個人認証を行な
うステップと,/前記予備的な個人認証が成功した場合,前記ユーザに対して,ワ
ンタイムIDを発行するステップと,/前記第2のシステムに対し,前記ユーザに
発行した前記ワンタイムIDと,前記予備的な個人認証でマッチしたユーザの管理
マスタIDとを通知するステップと,/を有し,それにより,前記認証システムを
して,前記第1のシステムから通知された前記第1のワンタイムIDを,通知され
た前記管理マスタIDに該当するユーザのワンタイムIDとして記憶した上で,記
憶している前記第2の認証キー及びワンタイムIDを用いて前記ユーザの個人認証
を行なうことを可能にならしめる個人認証支援方法。
【請求項10】前記ユーザの携帯通信端末の識別番号を記憶するステップを,さら
に有し,/前記予備的な個人認証を行なうステップでは,携帯通信端末を通じて前
記ユーザと通信を行なって,前記第1の認証キーとともに,前記通信に使用された
携帯通信端末の識別番号も用いて,前記予備的な個人認証を行なう,請求項9記載
の個人認証支援方法。
【請求項11】ユーザの第1と第2の認証キーのうちの前記第2の認証キーと,前
記ユーザの管理マスタIDと記憶して,前記第2の認証キーを用いて前記ユーザの
認証を行なう認証システムに対して,個人認証の支援を行なうための,前記認証シ
ステムと通信可能な個人認証支援システムにおいて,/ユーザの第1と第2の認証
キーのうちの前記第1の認証キーと,前記ユーザの管理マスタIDとを記憶する手
段と,/記憶されている前記ユーザの第1の認証キーを用いて,予備的な個人認証
を行なう手段と,/前記予備的な個人認証が成功した場合,前記ユーザに対して,
ワンタイムIDを発行する手段と,/前記第2のシステムに対し,前記ユーザに発
行した前記ワンタイムIDと,前記予備的な個人認証でマッチしたユーザの管理マ
スタIDとを通知する手段と,/を備え,それにより,前記認証システムをして,
前記第1のシステムから通知された前記ワンタイムIDを,通知された前記管理マ
スタIDに該当するユーザのワンタイムIDとして記憶した上で,記憶されている
前記ユーザの第2の認証キー及びワンタイムIDを用いて,前記ユーザの個人認証
を行なうことを可能にならしめる認証支援システム。
【請求項12】前記ユーザの携帯通信端末の識別番号を記憶する手段を,さらに備
え,/前記予備的な個人認証を行なう手段は,携帯通信端末を通じて前記ユーザと
通信を行なって,前記第1の認証キーとともに,前記通信に使用された携帯通信端
末の識別番号も用いて,前記予備的な個人認証を行なう,請求項11記載の個人認
証支援システム。
【請求項13】ユーザの第1と第2の認証キーのうちの前記第1の認証キーと,前
記ユーザの管理マスタIDとを記憶して,前記第1の認証キーを用いて前記ユーザ
の予備的な個人認証を行ない,前記予備的な個人認証が成功した場合には前記ユー
ザに対してワンタイムID発行する認証支援システムの支援の下で,前記ユーザの
個人認証を行なうための,前記認証支援システムと通信可能な個人認証システムに
より行われる方法において,/前記ユーザの第1と第2の認証キーのうちの前記第
2の認証キーと,前記ユーザの管理マスタIDとを記憶するステップと,/前記認
証支援システムでの前記予備的な個人認証が成功した場合,前記ユーザに対して発
行されたワンタイムIDと,前記予備的な個人認証でマッチしたユーザの管理マス
タIDとを,前記認証支援システムから通知されるステップと,/前記認証支援シ
ステムから通知された前記ワンタイムIDを,通知された前記管理マスタIDに該
当するユーザのワンタイムIDとして,記憶するステップと,/記憶されている前
記ユーザの第2の認証キー及びワンタイムIDを用いて,前記ユーザの第2段階の
個人認証を行なうステップと,/を有する個人認証方法。
【請求項14】ユーザの第1と第2の認証キーのうちの前記第1の認証キーと,前
記ユーザの管理マスタIDとを記憶して,前記第1の認証キーを用いて前記ユーザ
の予備的な個人認証を行ない,前記予備的な個人認証が成功した場合には前記ユー
ザに対してワンタイムID発行する認証支援システムの支援の下で,前記ユーザの
個人認証を行なうための,前記認証支援システムと通信可能な個人認証システムに
おいて,/前記ユーザの第1と第2の認証キーのうちの前記第2の認証キーと,前
記ユーザの管理マスタIDとを記憶する手段と,/前記認証支援システムでの前記
予備的な個人認証が成功した場合,前記ユーザに対して発行されたワンタイムID
と,前記予備的な個人認証でマッチしたユーザの管理マスタIDとを,前記認証支
援システムから通知される手段と,/前記認証支援システムから通知された前記ワ
ンタイムIDを,通知された前記管理マスタIDに該当するユーザのワンタイムI
Dとして,記憶する手段と,/記憶されている前記ユーザの第2の認証キー及びワ
ンタイムIDを用いて,前記ユーザの第2段階の個人認証を行なう手段と,/を備
えた個人認証システム。
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,①本件発明1,5,9,11及び13は,下記の
引用例1記載の発明(以下「引用発明1」という。)と同一ではない,②本件発明
1,5,9,11及び13は,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をするこ
とができたものではない,③本件発明2,6,10及び12は,引用発明1及び下
記の引用例2記載の発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものであるとはいえない,などとしたものである。
(1)引用例1:特開2002−82910号公報(甲1)
(2)引用例2:特開2001−184310号公報(甲2)
4取消事由
(1)本件発明の新規性についての判断の誤り(取消事由1)
(2)本件発明の進歩性についての判断の誤り(取消事由2)
第3当事者の主張
1取消事由1(本件発明の新規性についての判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本件発明1の認定の誤り
ア本件審決は,本件発明1の「管理マスタID」がユーザごとに設定されてい
ること,すなわち管理マスタIDがユーザごとに複数存在することを前提としてい
る。しかしながら,以下のとおり,本件発明1は,管理マスタIDがユーザごとに
複数存在するものに限られるものではない。
イ本件発明1は,特許請求の範囲の記載に,いずれの「ユーザ」という記載の
前後にも「各」や「ごと」等の複数のユーザの存在を前提とした記載がなく,複数
のユーザの個人認証に限定されるものではないから,「管理マスタID」について
も,ユーザごとに複数存在するものに限定されない。
本件発明1における「管理マスタID」は,①第1のシステムで記憶されている,
②第2のシステムで記憶されている,③第1のシステムから第2のシステムに対し
て通知される,④第2のシステムでワンタイムIDを記憶する際に利用される,と
記載され,その技術的意義は明らかであり,リパーゼ判決にいう「特段の事情」が
あるとはいえない。そのため,本件発明1は,第1,第2のシステムが複数ユーザ
の管理マスタIDを記憶している発明を含むが,当然に,1人のユーザの管理マス
タIDのみを記憶している発明も含むのであり,第1,第2のシステムが複数ユー
ザの管理マスタIDを記憶していることを前提とした本件発明1の技術的範囲の特
定には誤りがある。
ウ本件発明1を文言どおり正しく認定すれば,本件発明1の「管理マスタI
D」は,同一ユーザの第1の認証キーと第2の認証キーをシステム間で関連付ける
ものであり,ユーザごとに異なるものであるとして,「管理マスタID」がユーザ
ごとに複数存在するものと限定する本件審決の認定は,誤りである。
(2)引用発明1の認定の誤り
ア「ホームサーバアクセス用識別コードID」の認定の誤り
(ア)本件審決は,引用例1の【0021】の記載を根拠に,ホームサーバア
クセス用識別コードIDは,携帯端末装置を介してユーザにパスワードを発行した
ホームサーバを識別するコードと解した上,ホームサーバアクセス用識別コードI
Dというのは,ホームサーバをアクセスしようとする者に関する識別コードではな
く,アクセスされるホームサーバに関する識別コードであると認定した。
(イ)引用例1の【0021】の記載は,Webページが,ホームサーバアク
セス用の識別コードID及びパスワードの入力を要求して,入力された識別コード
ID及びパスワードによってユーザを認証するためのページであることを明示して
いるのであって,まさに,ホームサーバアクセス用識別コードIDが,ユーザ認証
のために入力されることを特定しているのであり,引用例1の【請求項3】にも記
載するように,識別コードIDがユーザを識別するコードであることに疑いはない。
(ウ)したがって,引用発明1の「ホームサーバアクセス用識別コードID」
は,ホームサーバをアクセスしようとする者に関する識別コードではなく,アクセ
スされるホームサーバに関する識別コードであるとする本件審決の認定は,誤りで
ある。
イ「URL」の認定の誤り
(ア)上記のとおり,本件発明1は,複数ユーザの個人認証に限定されるもの
ではなく,したがって,引用発明1における「URL」が複数のユーザごとに管理
されているか否かにかかわらず,当該「URL」は本件発明1の「管理マスタI
D」に相当するものである。仮に,本件発明1が複数ユーザについての個人認証に
限定されるとしても,引用発明1における「URL」も複数ユーザごとに管理され
ているものである。
(イ)引用例1の【0002】には,通常のユーザ認証の手法として,「予め
定められたユーザ識別コード及びパスワードがユーザごとに記憶されており,アク
セスがあったときに端末装置に入力されたユーザ識別コード及びパスワードが予め
定められたユーザ識別コード及びパスワードと一致することが判定される」ことが
示され,【0003】には,引用発明1の課題として,不正ユーザのアクセスを確
実に排除するために,簡単でかつ確実なユーザ認証が望まれていることが示される。
この課題を解決するべく,引用発明1は,「携帯端末装置11とホームサーバ1
との間の通信可能がパスワードの新規発行要求となって,ホームサーバ1は,新た
なパスワードを作成し(ステップS14),作成したパスワードを携帯端末装置1
1に対して送信する(ステップS15)。ステップS14においてパスワードはホ
ームサーバアクセス用のパスワードであり,例えば,乱数に基づいて生成され
る。」(【0029】)などの処理を実行する。すなわち,【0003】でいうと
ころの「比較的簡単でかつ確実なユーザ認証」とは,予め定められたパスワードを
用いるのではなく,ホームサーバが新たに作成したパスワードを携帯端末装置に送
信し,新規パスワードを用いて,その後のユーザ認証が行われることを意味するの
である。
(ウ)引用例1の【0002】ないし【0004】には,①通常,ユーザ認証
は,ユーザごとに予め定められたユーザ識別コードとパスワードを利用して行われ
ること,②しかしながら,予め定められたパスワードを使用するのでは,不正ユー
ザがアクセスする可能性もあること,③そこで,不正ユーザによるサーバへのアク
セスを確実に排除できるユーザ認証システムを提供することが記載されている。こ
の記載から,不正ユーザによるサーバへのアクセスを排除するためには,個々人を
区別する個人認証をしないでよいなどとは,到底読み取ることはできない。
また,そもそも,引用発明1では,ユーザの携帯端末装置の電話番号を用いて,
第1段階のユーザ認証が行われている。複数のユーザが存在する場合,それぞれの
ユーザの携帯端末装置の電話番号は異なるのであり,したがって電話交換局装置は,
携帯端末装置の電話番号をもとに,それぞれのユーザを認証するのである。引用発
明1のユーザ認証システムでは,このようにユーザの個人認証が行われているので
あって,個々人がすでに区別されていることは明らかである。
したがって,引用発明1においても,各ユーザの区別はなされているのであり,
その結果,当然に「URL」についても,ユーザごとに管理されているのである。
(エ)引用例1の【0025】【0023】の記載からは,回線接続が許可さ
れる特定の電話番号が複数存在する中に携帯端末装置11の電話番号も含まれるとい
うことが理解され,これは引用発明1において複数のユーザが存在することの証左で
もある。また,「回線接続要求には少なくとも発信元の電話番号及び着信先の電話番
号が含まれる」ことから,複数のユーザがそれぞれ別個の電話番号を用いた場合にお
いても,ホームサーバ1側では回線接続要求において通知されている電話番号により
各ユーザを特定できるのであり,単に接続するか否かの2分をしているわけではない。
引用発明1においては,複数のユーザが利用することが前提とされており,かかる
複数ユーザをホームサーバでも区別すべく,それぞれの電話番号が通知されているの
であるから,個別のユーザごとにURLが用意されているのは当然である。
(オ)以上のとおり,引用発明1の「URL」がユーザごとに管理されていな
いとする本件審決の認定は,明らかに誤りである。
〔被告の主張〕
(1)本件発明1の認定について
ア本件審決は,「管理マスタID」が,「同一ユーザの第1の認証キーと第2
の認証キーをシステム間で関連付けるものであり,ユーザごとに異なるものであ
る」と認定しているところ,これは「管理マスタID」の性質を認定しているので
あって,「ユーザごとに複数存在する」ことを認定しているのではない。
イ本件発明1は,特許請求の範囲記載のとおり,「管理マスタID」は「ユー
ザの管理マスタID」であってユーザに固有のものであり,「ユーザ」ごとに異な
るものでなければ,「管理マスタIDに該当するユーザ」を特定することはできな
いから,「ユーザごとに異なる」ことは明らかである。
ウ本件発明1は,「ユーザの第1と第2の認証キーのうち前記第1の認証キー
と,前記ユーザの管理マスタIDとを第1のシステムで記憶」し,「前記ユーザの
第1と第2の認証キーのうちの前記第2の認証キーと,前記ユーザの管理マスタI
Dとを,前記第1のシステムと通信可能な第2のシステムで記憶する」ものであり,
「第1と第2の認証キーを,異なるシステムが分離して記憶する。また,第1と第
2のシステムは,ユーザを識別するための管理マスタIDを記憶している。」(本
件明細書【0008】)というものであるから,「管理マスタID」は,「同一ユ
ーザの第1の認証キーと第2の認証キーをシステム間で関連付けるもの」であるこ
とは明らかである。
エよって,「管理マスタID」は,「同一ユーザの第1の認証キーと第2の認
証キーをシステム間で関連付けるものであり,ユーザごとに異なるものである」と
した本件審決の認定に何ら誤りはない。
(2)引用発明1の認定について
ア「ホームサーバアクセス用識別コードID」の認定
(ア)原告の主張は,引用発明1が,ユーザごとに識別されるものであること
を前提とした主張であって,その前提自体に誤りがある。
引用発明1において個々のユーザを識別する必然性は,その目的及び電話交換局
装置の動作からみても存在しない。したがって,引用例1から,「ホームサーバア
クセス用識別コードID」が個々のユーザを識別する機能を持つものであると読み
取ることはできない。むしろ,特定のユーザのみがホームサーバにアクセスするた
めに入力するものであり,その名称のとおり,「ホームサーバアクセス用識別コー
ドID」は,アクセスされるホームサーバに関する識別コードと解すべきである。
(イ)また,引用例1の【0019】【0021】の記載からも明らかなよう
に,「ユーザP」と「ホームサーバ1」とは,一体であって,「ユーザ」を識別す
るということは,「ホームサーバ」を識別することにほかならない。よって,この
点からも本件審決の認定に誤りはない。
イ「URL」の認定
(ア)引用例1にはWWWサーバが複数のユーザに対応してユーザ対応に複数
のURLを有する構成について直接的な記載がない点については原告も認めるとこ
ろであるから,原告の主張は,引用例1の記載から「WWWサーバが複数のユーザ
に対応してユーザ対応に複数のURLを有する構成」が当業者であれば読み取れる
という主張に絞られる。
(イ)引用例1の【0002】ないし【0004】の記載によれば,引用発明
1は,【0002】で述べた従来の手法とは異なる新たな「ユーザ認証システム及
びユーザ認証方法を提供する」ものであることは明らかであり,【0002】で述
べた「従来のユーザ認証の手法をそのまま適用するものではない」とした本件審決
の認定に誤りはないことは明らかである。
(ウ)また,引用例1の【0025】の記載によれば,「交換局装置3a」が,
特定の電話番号を持つ携帯端末装置11のみをモデム2に回線接続することしか開
示されておらず,たとえ複数のユーザがホームサーバ1を利用するとしても,「交
換局装置3a」は,ホームサーバ1へ接続するかどうかの機能しか開示されていな
いのであるから,「電話交換局装置は,発信元電話番号により携帯端末装置のユー
ザを特定の人か特定の人以外かに2分しているだけであり」との本件審決の認定に
誤りはない。逆に,上記記載をもって,「電話交換局装置は,携帯端末装置番号を
もとに,それぞれのユーザを認証する」との原告の主張には,何ら根拠がない。
(エ)さらに,引用例1の【0032】の記載のとおり,WWWサーバのUR
Lを指定するのは,ホームサーバ1であるのに対し,回線接続選択を行うのは,電
話交換局装置3aであって,ホームサーバ1ではない。したがって,「電話交換局
装置」が回線接続選択機能を実行することをもって,「ホームサーバ」が管理する
「URL」について,「その結果,当然に「URL」についてもユーザごとに管理
されている」との結論を導き出す根拠は全く存在しない。
(オ)以上のとおり,引用発明1の「URL」がユーザごとに設定されている
とみることはできないから,引用発明1の「URL」は本件発明1の「管理マスタ
ID」に相当するものではないとした本件審決の認定に誤りはない。
2取消事由2(本件発明の進歩性についての判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)仮に,別々のユーザが近接した時間に連続してホームサーバ1にアクセ
スする状況が特殊であったとしても,ユーザ認証システムを設計する当業者の常識
からして,特殊な状況でも機能不全とならないようにシステムは構築されなければ
ならない。そのためには,携帯端末装置番号ごとのユーザ認証を行う引用発明1に
おいて,URLがユーザごとに異なっていればよいのであって,このことは当業者
にとってみれば当然のことである。引用発明1のユーザ認証システムでは,ユーザ
個人を認証するために,もともとユーザごとの携帯端末装置番号が管理されている
のであり,したがって,ユーザごとにURLを割り当てることは自然のことである。
本件審決は,この点に関し,あえて,「認証用Webページを表示するためのU
RLに関連してユーザごとのデータを記録すれば足りる」などと述べるが,その場
合には,URLで指定される記憶領域に,ユーザごとのホームサーバアクセス用識
別コードIDとパスワードとが記録されることになるため,Webページで入力さ
れた識別コードID及びパスワードは,記憶領域内のそれぞれの識別コードID及
びパスワードと比較されることとなり,認証処理は複雑となる。一方,URLをユ
ーザごとに割り当てれば,認証処理は,単純に1つの識別コードID及びパスワー
ドと比較するだけですむ。このように,URLをユーザごとに割り当てる方が処理
が簡潔になることは,当業者に自明の事項であるから,ユーザごとにURLを割り
当てることは自然である。
(2)以上のように,仮に引用発明1においてURLがユーザごとに設定され
ていると直接的にいえないとしても,引用発明1においてURLをユーザごとに設
定し,割り当てることは当業者にとっては当然の設計的事項といい得るものである。
また,仮に,引用例1にURLがユーザごとに設定されていることが記載されてい
ないとしても,引用発明1のユーザ認証システムは,もともとユーザ個人を認証す
るために,ユーザごとの携帯端末装置の電話番号が管理されているのであるから,
ユーザごとにURLを割り当てることは自然なことである。
よって,本件発明1は,引用発明1に基づき容易に発明できるものである。
(3)被告の主張について
引用例1の【0064】の記載によると,引用発明1においても,別々のユーザが
近接した時間に連続してホームサーバ1にアクセスする事態は十分にあり得ることで
ある。かかる事態における対処としては,ユーザごとにURLを設定しておくのが最
も簡便な方法であり,仮に引用発明1において「URLをユーザごとに設ける」こと
が記載されていないとしても,それは当業者における単なる設計的事項といえるもの
にすぎない。
(4)よって,本件発明1は引用発明1に基づき容易に発明することができた
ものではないとする本件審決の判断には誤りがある。
〔被告の主張〕
(1)引用例1には,ユーザAとユーザBとが連続してホームサーバにアクセ
スすることを想定する記載も示唆もなく,また,そもそも引用発明1は,複数のユ
ーザA,Bが連続してホームサーバにアクセスできるように構成されたものではな
い。
(2)引用発明1が,複数のユーザA,Bが連続してホームサーバにアクセス
できるように構成されたものでないことは,引用例1の図2及び【0027】ない
し【0033】の記載から明らかである。
すなわち,ホームサーバ1は,ユーザPの携帯端末装置11からの回線接続要求
に基づいて,パスワードを携帯端末装置11に発行した後,携帯端末装置11との
回線を遮断し(ステップS18),インターネット10にダイアルアップ接続する
ことにより,IPアドレスを取得する(ステップS25)。このIPアドレスがア
クセス先データとしてWWWサーバ5の所定URLで指定される記憶領域内に新た
なアクセス先データとして記憶され(ステップS29),以後,ホームサーバ1は,
WWWサーバ5を通じてユーザPがホームサーバ1にアクセスして来るのをインタ
ーネット10に接続した状態で待機することになる。
したがって,引用発明1の技術思想には,そもそも複数のユーザA,Bがホーム
サーバ1に連続してアクセスすることを想定しておらず,仮にユーザAとユーザB
とが連続してアクセスしたとしても,ユーザAの回線接続要求によってインターネ
ット10にダイアルアップしたホームサーバ1は,ユーザAからのインターネット
10を経由したアクセス待ち状態であるから,ユーザBの携帯端末装置11は,ホ
ームサーバ1とは接続できないのである。したがって,引用例1の開示内容から,
複数ユーザの同時連続的なアクセスを想定することはできない以上,そのようなケ
ースを前提とした原告の主張は,そもそも前提が誤りである。
仮に,引用例1の開示内容から複数ユーザの利用を想定できるとすれば,せいぜ
いユーザAのホームサーバ1へのアクセスが終了し,ホームサーバ1がインターネ
ットから切断された後に,別のユーザBがホームサーバ1にアクセスして再度イン
ターネットにダイアルアップ接続するというケースである。このように,1人のユ
ーザが,ホームサーバへの回線接続からインターネット終了まで回線を占有してい
ることは,引用例1の図2及び【0027】ないし【0038】に明示されている。
このようなケースでは,ホームサーバに同時アクセス可能なユーザは必ず1人であ
るから,ユーザごとに「URL」を割り当てる必要はない。すなわち,ホームサー
バに1つの「URL」が割り当てられていれば足りる。したがって,引用例1の開
示内容から,仮に複数ユーザの利用を想定したとしても,「URL」がユーザごと
に設けられなくてはならない必然性は存在しない。
(3)なお,「電話交換局装置」の回線接続選択機能をもって,「ユーザごと
にURLを割り当てることは自然」とはいえないから,原告の上記主張は失当であ
る。
「URL」がユーザごとに割り当てられるためには,ホームサーバに,ユーザの
「電話番号」と「URL」とを対応させる手段を設け,回線接続時にこれを参照す
ることが必要であるが,引用例1には,予め定められた携帯端末装置以外の回線接
続を交換局装置で遮断することは開示されていても,それ以上のことは何ら開示さ
れていないのであり,原告の上記主張は,引用発明1を拡大解釈にしたにすぎない。
(4)よって,本件発明1は引用発明1に基づいて容易に発明することができ
たものということはできないとした本件審決の認定に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(本件発明の新規性についての判断の誤り)について
(1)本件発明1の認定
ア本件明細書の記載(甲5)
本件明細書の【発明が属する技術分野】(【0001】),【従来の技術】
(【0004】),【発明が解決しようとする課題】(【0007】∼【001
0】),【発明の実施の形態】(【0017】∼【0024】,【0027】∼
【0033】)の記載によると,本件発明1は,ワンタイムIDを利用した個人認
証方法において,ユーザの個人認証の信頼性や安全性を向上させることを課題とし
(【0004】,【0007】),ワンタイムIDを発行する認証支援システム
(第1のシステム)と,ユーザがサービスを利用するための個人認証を行なう認証シ
ステム(第2のシステム)とが,ユーザに固有の会員ID(第1の認証キー)とパス
ワード(第2の認証キー)とを分離して管理するとともに(【0008】,【00
17】∼【0024】),ユーザの管理マスタIDを共通に登録しておき(【00
08】【0029】),認証支援システム(第1のシステム)が,発行したワンタイ
ムIDを認証システム(第2のシステム)に通知するとき,管理マスタIDを一緒に
通知し,認証システム(第2のシステム)が,ワンタイムIDがどのユーザに対して
発行されたものかを認識できる構成(【0009】,【0027】∼【003
3】)としたものであると解される。
イ「管理マスタID」の技術的意義
本件発明1の「管理マスタID」は,認証支援システム(第1のシステム)と認
証システム(第2のシステム)に共通に登録された識別コードであって,本件明細
書の【0029】の記載を参照すれば,「管理マスタID」について,「各会員の
データとして,上記の携帯電話番号や会員IDのほかに,認証システム6がその会
員を識別するためにその会員にユニークに割り当てたID」であることから,会員
ID(第1の認証キー)及びパスワード(第2の認証キー)と同様に,ユーザごと
に設定された,ユーザ固有の識別コードということができる。
また,「管理マスタID」は,認証支援システム(第1のシステム)がユーザに
発行したワンタイムIDを認証システム(第2のシステム)に通知する際,ワンタ
イムIDと一緒に通知することにより,認証システム(第2のシステム)において,
通知されたワンタイムIDがどのユーザに対して発行されたものかを認識できるよ
うにする機能を有するものであるから,複数のユーザが存在することを前提に,第
1のシステムのユーザと第2のシステムのユーザとを関連付け,システム間でユー
ザを識別し同定するために設定されたものということができる。
ウ原告の主張について
原告は,本件発明1には,いずれの「ユーザ」という記載の前後にも「各」や
「ごと」等の複数のユーザの存在を前提とした記載がなく,複数のユーザの個人認
証に限定されるものではないから,「管理マスタID」についても,ユーザごとに
複数存在するものに限定されず,単一のユーザの「管理マスタID」のみを記憶し
ている発明も含まれると主張する。
しかし,上記イのとおり,認証システム(第2のシステム)は,「管理マスタI
D」がワンタイムIDと一緒に通知されることによって,通知されたワンタイムI
Dが,複数のユーザのうち,どのユーザに対して発行されたものかを認識できるの
であって,原告の主張するように単一のユーザを想定するとすれば,「管理マスタ
ID」を通知するまでもなく,ワンタイムIDに対応するユーザは当該単一のユー
ザにおのずと特定されるものであるから,そもそも「管理マスタID」を通知する
意義が存しないこととなるのである。
また,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載によると,ユーザが単一である場
合を含むか否か一義的に明確とはいえないところ,本件明細書の発明の詳細な説明
の「ユーザを識別するための管理マスタID」(【0008】),「その会員を識
別するためにその会員にユニークに割り当てたID」(【0029】),「全ての
会員の各々について,管理マスタID…が予め登録」(【0029】),「既にデ
ータベース7に格納されている様々な会員のワンタイムIDとパスワードのセット
の中から…マッチするものを探す」(【0032】)等の記載を参酌すれば,ユー
ザが単一の場合を含まないものと解される。
したがって,本件発明1において,文言上,複数のユーザが存在することや,
「管理マスタID」がユーザごとに複数存在することが記載されていないとしても,
ワンタイムIDと一緒に「管理マスタID」を通知することが特定されている以上,
複数のユーザが存在することを前提とした発明であって,「管理マスタID」は,
その複数のユーザを識別するために,ユーザごとに複数設定されるものというべき
である。
よって,原告の上記主張は理由がない。
(2)引用発明1の認定
ア引用例1の記載(甲1)
引用例1の【発明が属する技術分野】(【0001】),【従来の技術】(【0
002】)【発明が解決しようとする課題】(【0003】【0004】),【発
明の実施の形態】(【0019】,【0021】∼【0037】),【発明の効
果】(【0065】)の記載によると,引用発明1は,端末装置からインターネッ
ト等のネットワーク回線に接続されたホームサーバにアクセスする際のユーザ認証
方法において,比較的簡単な構成で,特定のユーザ以外の不正ユーザによる端末装
置からのホームサーバへのアクセスを確実に排除することを課題とし(【000
1】【0004】),その解決手段として,次の構成を備えたものであるというこ
とができる。
固定端末装置からホームサーバにアクセスしようとするユーザは,まず新たなホ
ームサーバアクセス用のパスワードを取得するために,携帯端末装置から公衆電話
回線網を介してホームサーバと通信する。ユーザが携帯端末装置から回線接続要求
すると,電話交換局装置は,携帯端末装置の電話番号が特定の電話番号に含まれる
場合,回線接続を実行する(【0025】∼【0028】)。携帯端末装置とホー
ムサーバとの間の通信が可能になると,ホームサーバは,新たなホームサーバアク
セス用のパスワードを作成し,作成したパスワードを携帯端末装置に送信するとと
もに(【0029】【0030】),インターネットに接続してWWWサーバにア
クセスし,所定のURLで指定される記憶領域内のホームサーバアクセス用のパス
ワードデータとホームサーバへのアクセス先データ(IPアドレス)を,それぞれ
新たなパスワードとDHCPサーバから取得したIPアドレスに更新する(【00
31】∼【0033】)。ユーザが固定端末装置を用いてホームサーバにアクセス
するためにWWWサーバにアクセスすると(【0033】),WWWサーバは,ユ
ーザが所定のURLで指定される記憶領域に保存した,ホームサーバアクセス用の
識別コードID及びホームサーバアクセス用のパスワードの入力を要求するWeb
ページの表示データを,固定端末装置に送信する(【0034】)。ユーザが識別
コードID及びパスワードを入力し送信すると(【0035】),WWWサーバは,
受信した識別コードID及びパスワードが記憶領域内の識別コードID及びパスワ
ードと一致するか否を判別し(ユーザ認証動作),認証が完了すると,所定のUR
Lで指定される記憶領域に保存されているホームサーバへのアクセス先データ(I
Pアドレス)を固定端末装置に送信する(【0036】)。この結果,固定端末装
置は,ホームサーバのIPアドレスにアクセスし,ホームサーバと通信することが
できるようになる(【0037】)。
すなわち,ユーザは,特定の電話番号の携帯端末装置から電話交換局装置を介し
てホームサーバと通信して新たなホームサーバアクセス用のパスワードを取得した
後,固定端末装置からWWWサーバにアクセスし,所定のURLで指定される記憶
領域のWebページから,ホームサーバアクセス用の識別コードIDと取得した新
たなホームサーバアクセス用のパスワードとを入力し,ユーザ認証を受けることに
より,固定端末装置からホームサーバにアクセスできる構成としたものである。
イ「ホームサーバアクセス用の識別コードID」の技術的意義
(ア)引用例1の【0021】には,「ユーザPはWebページを形成する表
示データをWWWサーバ5の所定のURL(ユニホームリソースロケータ)で指定
される記憶領域に保存させている。そのWebページはホームサーバ1へのアクセ
スを許可するためにホームサーバアクセス用の識別コードID及びパスワードの入
力を要求して入力された識別コードID及びパスワードによってユーザを認証する
ページである。」と記載されている。よって,ホームサーバアクセス用の識別コー
ドID及びホームサーバアクセス用のパスワードは,特定のホームサーバにアクセ
スするための識別コードID及びパスワードであって,WWWサーバは,前記のと
おり,ホームサーバアクセス用の識別コードID及びホームサーバアクセス用のパ
スワードが,所定のURLで指定される記憶領域に保存された識別コードID及び
パスワードと一致するか否を判別することによって,固定端末装置から特定のホー
ムサーバにアクセスしようとするユーザを認証し,特定のユーザ以外の不正ユーザ
が特定のホームサーバにアクセスすることを排除しており,「ホームサーバアクセ
ス用の識別コードID」は,ホームサーバアクセス用のパスワードとともに使用さ
れることによって,特定のホームサーバにアクセスできる特定のユーザを識別する
機能を有する識別コードということができる。
(イ)これに対し,本件審決は,ホームサーバアクセス用識別コードIDとい
うのは,ホームサーバをアクセスしようとする者に関する識別コードではなく,ア
クセスされるホームサーバに関する識別コードであると認定した。
被告は,引用発明1には,個々のユーザを識別する必然性はなく,「ホームサー
バアクセス用の識別コードID」が個々のユーザを識別する機能を持つものと解釈
することはできないから,アクセスされるホームサーバに関する識別コードと解す
べきであると主張する。引用発明1の課題は,特定のユーザ以外の不正ユーザによ
る端末装置からのホームサーバへのアクセスを排除することであるから,ユーザ認
証において個々のユーザを識別する必要性はなく,また,「ホームサーバアクセス
用の識別コードID」は,ホームサーバアクセス用のパスワードとともに使用され
ることによって,特定のユーザを識別する機能を達成できるのであるから,それ自
体が個々のユーザを識別する機能を有するということはできない。しかし,「ホー
ムサーバアクセス用の識別コードID」は,個々のユーザを識別する機能を有しな
いとしても,特定のホームサーバにアクセスできる特定のユーザを識別するユーザ
認証において使用されるものである以上,ホームサーバをアクセスしようとする者
に関する識別コードではないということはできない。「ホームサーバアクセス用の
識別コードID」は,アクセスされるホームサーバに関する識別コードであるとと
もに,ホームサーバにアクセスしようとするユーザ認証に関する識別コードと解さ
れる。
したがって,本件審決の上記認定は,ユーザ認証に関する識別コードであること
を否定する趣旨であるとすれば,是認することができない。
ウ「URL」の技術的意義
(ア)引用発明1における「所定のURL」(以下「URL」という。)は,
引用例1の【0021】の記載によると,Webページを表示するデータ,ホーム
サーバアクセス用の識別コードID,ホームサーバアクセス用のパスワードデータ
及びホームサーバへのアクセス先データ(IPアドレス)を保存するWWWサーバ
の記憶領域を指定するものであり,WWWサーバには,「URL」が記憶されてい
るということができる。
Webページは,ユーザがWWWサーバにアクセスすると,ユーザの固定端末装
置に送信され,ユーザに識別コードIDとパスワードの入力を要求し,入力された
識別コードIDとパスワードによってユーザを認証するページであり,ユーザが保
存させたものである(【0021】)。また,ホームサーバアクセス用のパスワー
ドデータ及びホームサーバへのアクセス先データ(IPアドレス)は,ユーザが携
帯端末装置からホームサーバに回線接続要求をし,通信可能になったとき,ホーム
サーバによって作成されたデータ及びDHCPサーバから割り当てられたIPアド
レスであり,ホームサーバの指示により更新されるものである(【0032】)。
また,ホームサーバは,新たなホームサーバアクセス用のパスワードを作成する
と,WWWサーバにアクセスし,「URL」で指定される記憶領域内のホームサー
バアクセス用のパスワードデータとホームサーバへのアクセス先データ(IPアド
レス)を更新することから,ホームサーバには,「URL」が記憶されているとい
うことができる。
(イ)本件発明1の「管理マスタID」は,前記(1)イのとおり,複数のユ
ーザが存在することを前提に,第1のシステムのユーザと第2のシステムのユーザ
とを関連付けるために,ユーザごとに設定されたユーザ固有の識別コードといえる
から,引用発明1における「URL」が本件発明1の「管理マスタID」に相当す
るというためには,少なくとも,引用発明1が,複数のユーザが存在することを前
提とした発明であり,「URL」が,ユーザごとに設定されたユーザ固有のもので
あることが必要である。
しかし,引用例1には,「この実施例では説明を簡単にするために携帯端末装置
11だけを示しているが,これに限らず,複数の携帯端末装置があっても良い。」
(【0023】)との記載があり,ホームサーバと通信できる携帯端末装置が複数
存在することは示唆されているものの,ホームサーバにアクセスできる複数のユー
ザが存在すること及び「URL」がユーザごとに設定されていることは,明示され
ていない。
また,引用発明1は,前記イのとおり,特定のユーザ以外の不正ユーザによる端
末装置からのホームサーバへのアクセスを排除することを課題とした発明であり,
特定のユーザが,少なくとも1人いれば実施できるものであるから,引用発明1が,
複数のユーザが存在することを前提としているということはできない。
さらに,引用発明1において,「URL」によって指定される記憶領域に記憶さ
れたホームサーバアクセス用のパスワード及びホームサーバへのアクセス先データ
(IPアドレス)は,特定のユーザが特定の電話番号の携帯端末装置からホームサ
ーバと通信するたびに更新されるのであり,また,ホームサーバアクセス用の識別
コードIDも,個々のユーザを識別する機能を有するものではないから,単一の
「URL」によって指定される記憶領域を複数の特定のユーザが共用することを妨
げるものではない。そして,仮に複数の特定のユーザが存在しているとしても,そ
れぞれの特定のユーザは,携帯端末装置からホームサーバと通信し,ホームサーバ
アクセス用のパスワードデータを入手した後,WWWサーバにアクセスすれば,所
定の「URL」で指定される記憶領域に保存したWebページの表示データを受信
することができ,ホームサーバアクセス用の識別コードIDとホームサーバアクセ
ス用のパスワードデータを入力することによってユーザ認証を受けることができる
のであるから,「URL」が,ユーザごとに設定されるユーザ固有のものであると
はいえない。
(ウ)以上のとおり,引用発明1は,ホームサーバにアクセスするユーザが複
数存在することを前提とした発明であるとはいえないし,「URL」が,ユーザご
とに設定されるユーザ固有のものであるともいえないから,引用発明1の「UR
L」が,本件発明1の「管理マスタID」に相当するということはできない。
エ原告の主張について
(ア)原告は,本件発明1は複数ユーザの個人認証に限定されるものではない
から,引用発明1における「URL」は,本件発明1の「管理マスタID」に相当
すると主張する。
しかし,上記(1)イ,ウのとおり,本件発明1の「管理マスタID」は,複数
のユーザが存在することを前提に,第1のシステムのユーザと第2のシステムのユ
ーザとを関連付けるために,ユーザごとに設定されたユーザ固有の識別コードであ
るのに対し,引用発明1の「URL」は,複数のユーザが存在することを前提とし
ているともいえないし,ユーザごとに設定されたユーザ固有のものともいえないか
ら,引用発明1における「URL」が,本件発明1の「管理マスタID」に相当す
るということはできない。
(イ)原告は,仮に本件発明1が複数ユーザについての個人認証に限定される
としても,引用発明1は,ホームサーバが新たに作成したパスワードを用いてユー
ザ認証を行うものであり,「ユーザ認証」とは,その文言から,ユーザ個人を認証
する意味であるから,個人を区別する個人認証をしないでよいと解釈することはで
きず,引用発明1における「URL」も複数のユーザごとに管理されていると主張
する。
しかし,引用例1の記載において,ユーザ個人を識別する個人認証が排除されて
いないからといって,必然的に「URL」が複数のユーザごとに管理されていると
いうことはできない。また,ホームサーバにアクセスできる特定のユーザが複数存
在するとしても,上記ウのとおり,引用発明1は,単一の「URL」を複数の特定
のユーザが利用することを妨げるものではないから,「URL」が複数のユーザご
とに管理されているということもできない。
(ウ)また,原告は,引用発明1では,ユーザの携帯端末装置の電話番号を用
いて第1段階のユーザ認証が行われているから,電話番号により各ユーザの区別が
なされており,当然に「URL」についてもユーザごとに管理されていると主張す
る。
引用例1の【0025】には,「モデム2に接続される上記の交換局装置3aは,
特定の電話番号によるモデム2への回線接続要求以外の回線接続要求に対してはモ
デム2との回線確立を行わず,遮断処理する。特定の電話番号には携帯端末装置1
1に割り当てられた電話番号が含まれるので,携帯端末装置11からのモデム2へ
至る電話回線への回線接続要求に対しては交換局装置3aは回線接続を行う。これ
により,予め定められた携帯端末装置以外からモデム2を介してホームサーバ1と
通信することはできない。」と記載されており,電話交換局装置は,携帯端末装置
の電話番号が特定の電話番号に含まれるか否かによって,携帯端末装置をモデムに
回線接続するか遮断するかを判断しているから,携帯端末装置の電話番号に基づい
てユーザ認証を行っているということができる。しかし,電話交換局装置における
ユーザ認証は,特定の電話番号の携帯端末装置以外からのモデムへの通信を遮断す
ることを目的としたものであり,ホームサーバは,携帯端末装置とホームサーバと
の間の通信が可能になると,新たなホームサーバアクセス用のパスワードを作成す
るのであるから,ホームサーバにおいて,ユーザ個人が区別されて管理されている
必然性はない。
したがって,引用発明1は,電話交換局装置において,電話番号により個別のユ
ーザを識別することが可能であるとしても,「URL」がユーザごとに個別に用意
されているのが当然ということはできない。
(3)本件発明1の新規性
以上のとおり,引用発明1の「URL」は,本件発明1の「管理マスタID」に
相当するものではない。よって,結局,本件発明1は,引用発明1と同一であると
いうことはできない。
(4)本件発明5,9,11,13及び14の新規性
また,同様の理由により,本件発明5,9,11,13及び14が引用発明1と
同一であるということもできない。
(5)小括
よって,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(本件発明の進歩性についての判断の誤り)について
(1)本件発明1と引用発明1との相違点
前記1のとおり,本件発明1は,複数のユーザが存在することを前提に,第1の
システムのユーザと第2のシステムのユーザとを関連付けるために設定された,ユ
ーザ固有の「管理マスタID」を有するのに対し,引用発明1は,ホームサーバに
アクセスするユーザが複数存在することを前提とした発明であるとはいえないし,
「URL」がユーザごとに設定されるユーザ固有のものであるともいえない。よっ
て,引用発明1の「URL」は,本件発明1の「管理マスタID」に相当するもの
ではなく,引用発明1は本件発明1と,少なくともこの点において相違する。
(2)本件発明1と引用発明1との技術分野及び課題の共通性
本件発明1は,前記1(1)のとおり,ワンタイムIDを利用した個人認証方法
において,ユーザの個人認証の信頼性や安全性を向上させることを課題とした発明
であり,一方,引用発明1は,前記1(2)のとおり,端末装置からホームサーバ
にアクセスする際のユーザ認証方法において,特定のユーザ以外の不正ユーザによ
る端末装置からのホームサーバへのアクセスを排除することを課題とした発明であ
る。よって,両者は,いずれも,広い意味で「認証」に関する技術分野に属する発
明ということができる。
しかし,本件発明1における課題は,前記1(1)のとおり,ユーザ個人を認証
する「個人認証」であるのに対し,引用発明1は,前記1(2)のとおり,特定の
ホームサーバにアクセスしようとする者が特定のユーザか不正ユーザかを識別する
ものであって,ユーザ個人を識別する必要はない。よって,両者は,解決すべき課
題が,前提において相違する。
さらに,本件発明1の「管理マスタID」は,前記1(1)のとおり,第1のシ
ステムのユーザと第2のシステムのユーザとを関連付けるために用いられるユーザ
固有の識別コードであるのに対し,引用発明1の「URL」は,前記1(2)のと
おり,複数の特定のユーザが共用することを妨げるものではない。そうすると,引
用発明1において,複数のユーザが存在するとしても,複数の「URL」を設定し,
ユーザごとに割り当てる動機付けも存在しないというべきである。
したがって,本件発明1は,引用発明1に基づいて容易に発明することができた
ものということはできない。
(3)原告の主張について
原告は,引用発明1において,別々のユーザが近接した時間に連続してホームサ
ーバ1にアクセスする状況に対処するためには,URLがユーザごとに異なってい
ればよく,URLで指定される記憶領域にユーザごとのホームサーバアクセス用識
別コードIDとパスワードとを記録するよりも,URLをユーザごとに割り当てる
方が処理が簡潔になることは,当業者に自明の事項であり,もともとユーザごとの
携帯端末装置番号が管理されているから,ユーザごとにURLを割り当てることは
当業者にとって当然の設計事項であり,自然なことであると主張する。
しかし,引用発明1は,前記1(2)のとおり,単一のユーザによっても実施す
ることができるものであり,また,引用例1には,別々のユーザが近接した時間に
連続してホームサーバにアクセスする状況があることは,記載も示唆もされていな
い。また,前記1(2)のとおり,電話交換局装置において,携帯端末装置の電話
番号に基づいてユーザ認証が行われているとしても,ホームサーバにおいてユーザ
個人が区別されて管理されているとはいえない。よって,引用例1に記載された事
項から,URLをユーザごとに設定するという構成を採用することを,想起する契
機も動機付けもないというべきである。したがって,引用発明1において,ユーザ
個人を認証するために,ユーザごとにURLを割り当てることが,当業者にとって
当然の設計的事項であるということも,自然なことであるということもできない。
(4)本件発明1の進歩性
以上のとおり,本件発明1は引用発明1に基づいて容易に発明をすることができ
たものということはできない。
(5)本件発明2,5,6,9ないし14の進歩性
また,同様の理由により,本件発明5,9,11,13及び14が引用発明1に
基づいて容易に発明をすることができたものということはできないし,本件発明2,
6,10及び12が引用発明1及び引用発明2に基づいて容易に発明をすることが
できたものということもできない。
(6)小括
よって,取消事由2は理由がない。
3結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官高部眞規子
裁判官井上泰人

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛