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裁判例


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平成28年6月20日宣告裁判所書記官
平成27年(わ)第1080号公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の
防止に関する条例(昭和38年兵庫県条例第66号)違反被告事件
判決
主文
被告人は無罪。
理由
第1公訴事実の要旨
本件公訴事実の要旨は,被告人は,平成26年12月2日の朝,神戸市中央
区内を走行中のバス車内において,座席左隣に座っていた被害者(当時20歳)
の右大腿部をタイツの上から触り,もって公共の乗物において,人に対して,
不安を覚えさせるような卑わいな言動をしたというものである。
第2争点に関する判断
1被害者は,公訴事実のとおり被告人に触られたと証言しているが,被告人
はこれを否認しており,被害者の証言以外に被告人が犯行をしたことを示す
証拠はない。したがって,被害者の証言の信用性が本件の争点である。
当裁判所は,被害者証言の信用性には疑いを入れる余地があり,被告人が
公訴事実の犯行をしたと断定するには合理的な疑いが残るから,被告人は無
罪であると判断した。その理由は次のとおりである。
2被害者は,本件当時まで被告人と面識がなく,全くありもしない出来事を
作り上げて嘘の証言をする動機は想定し難い。また,証拠によれば,本件当
時,被害者の隣に座っていたのは被告人だけであったことが認められ,人違
いの可能性もない。加えて,被害者の証言する被告人の行為は,被告人の座
席の左端付近をつかんでいた左手の肘から先を180度回転させ,手のひら
を上にした状態で,被害者の右足と座席の間に指先を差し入れ,人差し指,
中指,薬指の3本を動かして,太ももの裏側をタイツの上から触ってきたな
どという相当具体的で詳細なものである。しかも,記録によれば,被害者は,
本件当日の夜になってはじめて警察官に被害を申告し,その時点においては
犯人を特定できなかったが,その2日後,偶然バスに乗り合わせた人物を犯
人として特定して警察官に通報したところ,その人物が実際に本件当時被害
者の隣に座っていた被告人であったことが認められる。これは,犯行があっ
たとされる日時場所において,被害者が被告人を明確に認識し,記憶したと
いうことであり,何らかの強い印象を抱く出来事があったことを示している。
そうすると,その証言の信用性は相当高いようにも思われる。
しかし,被害者が述べる犯行の態様は,バスの車内において短時間のうち
に行われたごく単純なものであるから,その証言が実は誇張を含んでおり,
あるいは錯覚や記憶違いを含んだものであったとしても,具体的で詳細な証
言をすることは難しいことではなく,具体的で詳細であるというだけで信用
できるとはいえない。また,すべてが嘘である可能性は低く,人違いの可能
性も否定できるとはいえ,例えば,被告人の体の一部や荷物が偶然被害者の
体に触れたのに,故意に触られたように被害者が錯覚したといった可能性ま
で直ちに否定されるわけではない。したがって,上記の事情だけで被害者証
言を信用することはできず,その信用性を判断するには,更に慎重な考慮が
必要である。
3そこで,被害者証言の信用性について,更に検討する。
⑴被害の具体的状況に関する被害者の証言には,これを裏付ける証拠はな
い。
検察官は,被害者がバスの車中から友人に対してラインのメッセージで
被害を伝え,犯行の2時間余り後には母親に電話をかけて被害を伝えてい
ると主張する。しかし,ラインのメッセージは「あとで,ちょさ話ある」
というもの,母親に対するものも「足を触られた」というものに過ぎず,
いずれも,証言にあるような詳細な被害状況を訴えるものではなく,偶然
触れたものを故意に触られたように錯覚したものと仮定しても,おかしく
ない内容である。これをもって被害者証言を裏付けるものとまではいえな
い。
被害者は,乗車中に隣に座っている被告人から脇腹をつつかれたように
感じたことや,被告人が手に持っている携帯電話で盗撮されたように感じ
たことから,被告人の行動を不審に思い,次に何かしてきたら証拠として
現場を確認しようと考え,寝たふりをしながら被告人の方を注視していた
ところ,被告人が前記のとおり足を触るのを見たと述べている。
しかし,そのような経緯で被告人に太ももを触られ,その状況を見たと
いうのであれば,直ちに被害を申告するか,少なくとも,それ以上確認を
続ける必要はないから,それ以後は被害に遭わないように防御するのが普
通であると思われる。そして,被害者によれば,寝たふりをやめて姿勢を
正したら直ちに被告人は触るのをやめたというのであるから,そのまま起
きていればいいにもかかわらず,被害者は,その後も再び寝ているような
そぶりをして,右胸を触られそうになったとも述べている。そのような行
動は,証拠として現場を確認しようとして実際に確認したというのであれ
ば,不自然なものである。
また,被害者は,バスから降車する際,バスの運転手に被害を申告せず,
近くにバスターミナルがあったにもかかわらず,同所のバス関係者にも被
害を申告しておらず,これも,証拠として現場を確認しようとして実際に
確認した者の行動としては不自然なものである。被害者は,被害申告をし
ようと思ったが,バスの外に被告人がいたため怖くてできなかった,バス
ターミナルで被害申告することも考えたが,学校に遅刻してしまうと思い,
しなかったと述べる。しかし,運転手との関係では,被告人がバスの外に
とどまっていることは,犯人を特定しやすくなる点でむしろ好都合なはず
である。バスターミナルについても,すぐ近くであって被害申告にかかる
時間は運転手の場合と大差がない。
このように,被害者の行動には,証拠として痴漢の現場を確認しようと
して注視していたにしては不自然な点が複数あり,現場を確認しようとし
て被告人の方を注視していたという被害者の証言の信用性には疑問がある。
そうすると,それを前提とする被害の具体的内容に関する証言についても,
その信用性には疑問が生じる。
また,被害者は,当初,被告人は被害者の右足と座席シートとの間に指
先を差し入れて太ももを触ったと証言していたが,反対尋問においてそれ
ではスカートの裾が邪魔になってタイツに触れることができないのではな
いかと尋ねられると,足と座席シートとの間に指先を差し入れたのではな
く,右足の座席シートより前に出ている部分の裏側を触ったと証言を変え
ている。このような供述の変遷は不自然なものであり,被害の具体的内容
に関する被害者の証言の信用性には,この点においても疑問がある。
一方,犯行を否認する被告人の供述には,特に不自然なところはない。
そして,被告人は,犯行があったとされる時間ころには車酔いをしてお
り,座った状態でなるべく楽な姿勢を探そうと体を動かしていたと述べて
おり,この供述の信用性を疑うべき事情はない。そして甲24号証によれ
ば,犯行現場とされるバスの座席は普通に座っていても隣席の者と体が触
れあいそうな狭さである。そうすると,車酔いをして体を動かした被告人
の手や荷物が被害者の体に偶然触れたという可能性もあり,それを被害者
が故意に触られたと勘違いした可能性も否定できない。
なお,被告人自身は,当日,被害者の体に触れたことはないと供述して
いるが,そう判断する理由は触った記憶がないというだけであり,この供
述によって,被告人が意識しないうちに偶然被害者の体に触れてしまった
可能性までは排除されない。
検察官は,被告人は捜査段階では本件当時車酔いをしていたと述べてお
らず,本当に車酔いをしていたのであれば不自然であるから,車酔いをし
て体を動かしたという被告人の公判供述は信用できないと主張する。しか
し,被告人はこの点について,質問されなかったから言わなかったと述べ
ている。取調状況が録音録画されておらず,取調べの中でどのような問答
が行われたか明らかでない本件においては,被告人の上記弁解が不合理で
あるとは断定できず,捜査段階で車酔いのことを述べなかったことが不自
然とまではいえない。
そうすると,被害者の証言のうち,被害の具体的内容に関する部分や,
被害に遭った際,被告人の方を注視していたという部分には,その信用性
に疑問がある。そして,これらの部分を除き,被告人の供述も踏まえて被
害者の証言の信用性を検討すると,被告人の手や荷物が被害者の体に偶然
触れたのを被害者が故意に触られたと勘違いした可能性は否定できない。
結局,被害者の証言の信用性には疑いを入れる余地がある。
4以上のとおり,被告人が本件公訴事実の犯行をしたと断定するには合理的
な疑いが残り,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,
刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
平成28年6月20日
神戸地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官長井秀典
裁判官森幸督
裁判官日巻功一朗

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