弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人中村経生、同美奈川成章の上告理由について
 一 原審が確定した事実関係は、次のとおりである。
  本件事故は、昭和四六年五月一八日午後八時一〇分ころ、上告人の長男である
訴外亡Dが、港湾施設の建設工事中であつた福岡県北九州市a区大字b所在の埋立
地(以下「本件埋立地」という。なお、当時の管理者は訴外E管理組合であつたが、
昭和四九年四月一日、その管理権とともに権利義務の一切が被上告人に承継された。)
の岸壁から運転中の軽自動車もろとも海中に転落して死亡した、というものである。
本件事故当時、その現場付近はいまだ港としての設備機能が完成しておらず、荷捌
予定地には砂が積まれていたが、本件埋立地と一般車両の通行する都市計画幹線道
路とは二か所の入口すなわち二本の舗装ずみの取付道路をもつて結ばれていたため、
港湾施設工事に関係のない一般車両であつても、右取付道路を通つて本件埋立地内
に入ることができるようになつていた。そうして、とくに夜間には港湾施設工事に
関係のない一般人が釣やドライブの目的で取付道路を通つて本件埋立地内に立ち入
ることがないではなかつたが、取付道路の入口付近には立入禁止、立入制限の掲示
等はなんら設置されておらず、また、現場付近の夜間照明は、対岸の埋立地にある
石油会社のものだけであつたため、一般人にとつてはどこまでが一般道路でどこか
らが取付道路ないし臨港道路であるのか皆目わからない状況にあり、さらに岸壁近
くにおいても道路前方が海である旨の危険標示が施されていなかつたため、夜間と
くに雨天等の視界不良の状態が重なつたときには、土地不案内の自動車運転者にと
つて岸壁とこれに接する海面との境を識別することが必ずしも容易ではない状況に
あつた。
  亡Dは、本件事故当時ハムの免許を有していたところ、事故当日の午後七時こ
ろ、本件埋立地内に自動車で入つたハム仲間の訴外Fが同地内で落輪事故を起こし
て動けなくなつているとの電波を傍受したことから、同訴外人を救助すべく軽自動
車を運転して自宅を出発した。そうして、亡Dは、同日午後八時ころ、本件埋立地
の入口付近にあるガソリンスタンドで別のハム仲間と言葉を交わしたのち、取付道
路から本件埋立地内に入り、対岸の石油会社の油槽所近くで遭難している訴外F運
転の自動車に接近しようとして右取付道路に接続されたいわゆる甲道路を直進する
うち、同日午後八時一〇分ころ、物揚場の岸壁から軽自動車もろとも海中に転落し
て死亡するに至つた。
  なお、本件事故当日は、終日雨雲がたれこめ、午後六時ころからは雨が降りは
じめ、もやも発生して、午後八時すぎころには現場付近はかなり見通しが悪かつた。
 二 これに対し、原審は、大要、次のとおり判示して上告人の請求を棄却した。
 (1)(イ) 本件埋立地内において取付道路に接続されて岸壁の物揚場に直結す
るいわゆる甲道路は、埠頭地区内の臨港道路として本来円滑な港湾荷役に資する目
的をもつて設置されたもので、一般車両の通行が予定された道路法二条所定の道路
とは異なるから、右甲道路及び本件埋立地の安全施設は、専ら、船舶の離接岸及び
荷役作業の安全確保の観点から計画、設置されれば足り、したがつて、港湾荷役に
関係のない一般車両の転落防止のために、岸壁に車止め、防護柵あるいは道路の位
置関係を示す標識等を設置するとか、岸壁線付近に夜光塗料を塗布して岸壁線の存
在を示す措置をとることは、不要ないし有害の疑いがある。(ロ) のみならず、
本件事故当時は、本件埋立地が港湾施設工事の途中であつて、いまだ港としての機
能を開始するに至らず、とくに本件埋立地の本来の用途目的と無関係な一般車両の
ための安全施設についてはその検討、設置の段階以前の状況にあつた。以上の点に
照らせば、本件埋立地内に一般車両が立ち入ることに備えて安全施設が設けられて
いないからといつて、本件埋立地等の管理の瑕疵に当るものとは認めがたく、この
ことは、本件事故当時、釣やドライブの目的で本件埋立地内に入る若干の車両があ
つたからといつて異なるものではない。
 (2) 仮に本件埋立地等の管理になんらかの瑕疵があつたとしても、本件事故は
暗夜、荒天の最中に発生したのであるから、通常予想される方法、内容による掲示
等の措置があつたとしても、事故防止につながつたか否かは大いに疑いなしとしな
いし、また、亡D車の転落地点の手前七八・七メートルのいわゆる甲道路において
は対岸の石油会社の照明設備が海面を照射しているため前方に海のあることを確認
することができるのであるから、亡Dにおいて前方注視義務と徐行義務を尽くして
おれば、事前の停車により十分に岸壁からの転落を防止することができたにかかわ
らず、亡Dは右義務を怠つて自動車を運転したことが明らかであるから、亡Dの過
失が本件事故の唯一の原因と認めるほかなく、本件埋立地の瑕疵と本件事故との間
にはなんらの因果関係はない。
 三 しかしながら、原審が確定した前記一記載の事実関係のもとにおいては、本
件事故当時、港湾施設の建設工事に関係のない一般車両が都市計画幹線道路から舗
装ずみの取付道路を通つて本件埋立地内に立ち入ることがきわめて容易で、かつ、
その可能性を否定することができない状況にあり(現にとくに夜間には一般車両が
立ち入ることがあつた。)、しかも夜間にこれらの車両が本件埋立地内の道路を進
行した場合には、亡Dと同じように、物揚場の岸壁から海中に転落して死傷等の事
故の発生する危険性が客観的に存在したことは否定することができないから(とく
に車両がいわゆる甲道路を直進した場合には、その延長線上の海を挟んだ対岸に石
油会社の照明設備があることから、気象状況のいかんによつては、運転者に対して
あたかも右道路が対岸まで一直線に延びているかのような錯覚を与える危険のあつ
たことがうかがわれる。)、本件埋立地の管理者としては、一般車両が本件埋立地
内に立ち入つて事故を起こす危険に備えて、夜間でも識別することができるように、
取付道路の入口付近に一般車両の立入りを禁止するための立札ないし標識灯を設置
するか、又はいわゆる甲道路と交差する物揚場の岸壁付近に道路前方が海であるこ
とを示す危険標識を設置するなどして、進入車両の転落事故の発生を未然に防止す
るための安全施設を設置することが、最小限必要であつたものと解するのが相当で
ある。けだし、国家賠償法二条一項にいう公の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、
営造物が通常有すべき安全性を欠くことをいうのであるが、当該営造物の利用に付
随して死傷等の事故の発生する危険性が客観的に存在し、かつ、それが通常の予測
の範囲を超えるものでない限り、管理者としては、右事故の発生を未然に防止する
ための安全施設を設置する必要があるものというべきであり、たとい本件において、
本件埋立地内のいわゆる甲道路が一般車両の通行が予定された道路法二条所定の道
路にはあたらないこと、また、本件事故当時、右甲道路を含む本件埋立地が港湾施
設工事の途中であつて、その本来の用途目的と無関係な一般車両のための安全施設
についてはその検討、設置の段階以前の状況にあつたこと等の原判決の指摘する事
情があつたとしても、この点から直ちに、一般車両の本件埋立地への立入りを予測
することが困難であるとか、あるいはこれを予測して危険防止のための措置を講ず
ることを要求することが不当であるとすることはできないからである。してみれば、
他に特段の事情のない限り、本件埋立地の管理には瑕疵のあつた疑いがあるものと
いわざるをえないから、原審が前記二(1)(イ)(ロ)に記載したような理由に基
づいて右管理の瑕疵を否定したことは、国家賠償法二条一項の解釈適用を誤つたか、
又は審理不尽、理由不備の違法があるというべきである。
 なお、原審は、前記二(2)に記載したように、仮に本件埋立地の管理に瑕疵があ
るとしても右瑕疵と本件事故との間になんらの因果関係はないとの判断をしている。
しかし、右のうち、本件事故は暗夜、荒天の最中に発生したのであるから、通常予
想される方法、内容による掲示等の措置があつたとしても、事故防止につながつた
か否かは大いに疑いなしとしないという部分は、たとえば、取付道路の入口付近に
夜間でも識別の可能な一般車両の立入りを禁止するための立札ないし標識灯を設置
した場合、又はいわゆる甲道路と交差する物揚場の岸壁付近に道路前方が海である
ことを示す危険標識を設置した場合などについての具体的な検討をした結果でない
ことが明らかであり、また、亡D車の転落地点の手前七八・七メートルのいわゆる
甲道路においては対岸の石油会社の照明設備が海面を照射しているため前方に海の
あることを確認することができるという部分は、主として晴天、星空の気象条件の
もとで実施された第一審における検証の結果に依拠したものと推測されるところ、
これのみからは原審が認定した本件事故当時の気象及び見通しの状況の下における
右確認の可能性を肯定しえないことが明らかであるのに、卒然として右確認が可能
であることを前提として事を論じており、いずれも、因果関係を否定する根拠とし
ては不十分であるといわなければならない。したがつて、原審の右判断には、因果
関係に関する法律の解釈適用を誤つたか、又は理由不備の違法があるというべきで
ある。
  そうして、以上の違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
 四 以上のとおりであつて、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れないから、
さらに審理を尽くさせるため本件を福岡高等裁判所に差し戻すこととし、民訴法四
〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    谷   口   正   孝

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