弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人馬渕分也の上告趣旨は、末尾に添えた別紙記載の通りである。
 (一) 論旨第一点は、酒税法は憲法第二五条に違反する、というのであるが、
同法第何条のいかなる点が違憲であるという議論ではなく、酒類を生活必需品なり
とし、その造石高を甚しく制限して「被告の如きは一ケ年僅かに一升に満たない配
給を受けるに過ぎない」ものであつたことは、「最低限度の生活を営む権利」を害
するものだ、というのである。しかしながら、同弁護人の別件における同一内容の
上告趣旨に対し、当裁判所第二小法廷は「酒税法は酒類の造石高を制限している法
律ではないのであるから、この点に関する論旨は見当違いである」としており(昭
和二三年(れ)第一七七九号昭和二四年五月一四日判決)、また「憲法第二五条第
一項の法意は、国家は、国民一般に対して、概括的に、健康で文化的な最低限度の
生活を営ましめる責務を負担し、これを国政上の任務とすべきであるとの趣旨であ
つて、この規定により直接に個々の国民は国家に対して具体的現実的にかかる権利
を有するものではない」旨は、当裁判所大法廷の判示するところである(昭和二三
年(れ)第二〇五号同年九月二九日判決)。さらに真に生活必需品と言うべき主要
食糧を直接に統制する食糧管理法についてさえ、当裁判所大法廷はその違憲でない
ことを判示しているのであつて(前掲昭和二三年(れ)第二〇五号同年九月二九日
判決参照)、いずれの方面よりするも酒税法を違憲なりとする論旨は採用され得な
い。
 (二) 論旨第二点は、物価庁告示中酒類の販売価格指定法令の違憲を主張する
が、右法令は原判決が問題としていないところであつて、本件上告の理由にならな
い。
 (三) 論旨第三点第四点は、被告人の所為は刑法第三七条の緊急避難行為であ
つて、その程度を超えたものでもない、というのであるが、配給で不足だからとて
ほしいままに自家用酒を造つたということは、何としても同条にいわゆる「生命、
身体、自由若クハ財産ニ対スル現在ノ危難ヲ避クル為メ己ムコトヲ得ザルニ出デタ
ル行為」とは言い難く、論旨は理由がない。
 (四) 論旨第五点は、量刑不当の主張であつて、上告の適法な理由にならない。
 なお、本件は刑訴法第四一一条を適用すべきものとも認められない。
 よつて、刑訴法第四〇八条に従い、主文の通り判決する。
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
  昭和二五年七月一一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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