弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人三宅次郎の上告趣意は末尾に添附した別紙記載の通りである。
 第一点について。
 第一審判決が、本件殺人の事実を認定する資料として掲げた証拠のうち、被告人
が被害者を鉄橋から突き落した事実を示すものは、被告人の自白(被告人に対する
検察官作成の供述調書中の供述記載)のみであるけれども、右自白にかかる事実が
架空のものでないことは、挙示された他の証拠(被害者の死体の位置状況などに関
する司法警察員作成の検証調書の記載、被害者の創傷の部位、程度、原因などに関
する鑑定人Aの鑑定書の記載等)によつて充分にたしかめられるのである。このよ
うに、自白以外の証拠によつて、自白の架空なものでないことがたしかめられるか
ぎり、犯罪事実の一部についての直接の証拠が被告人の自白だけであつても、これ
と他の証拠とを綜合して犯罪事実全体を認定することが、憲法三八条三項に反する
ものでないことは、当裁判所のくりかえし判例とするところである(昭和二二年(
れ)第一五三号同二三年六月九日大法廷判決、昭和二三年(れ)第七七号同二四年
五月一八日大法廷判決、昭和二三年(れ)第一四二六号同二四年一〇月五日大法廷
判決等)。従つてこの点に関する原審の判断は正当であつて、なんら憲法の右条項
に反するものではなく、論旨は理由がない。
 第二点について。
 記録を精査しても所論被告人の検察官に対する供述が、強制、拷問又は脅迫によ
るものであると解すべき根拠はなく、また原判決の説示するとおり、被告人の右供
述は逮捕後僅かに一三日目になされたものであるから、本件の場合、不当に長い抑
留、拘禁後の自白であるといえないことが明白である(昭和二三年(れ)第四三五
号同年一〇月六日大法廷判決参照)。そうして所論のように被告人の供述が警察以
来何度も変化しているからといつて、それだけで、前記検察官に対する供述の任意
性を疑うべき根拠とはならないのである、それゆえ所論は採用することができない。
 第三点について。
 所論は事実誤認の主張であつて刑訴四〇五条の定める上告理由にあたらない。
 被告人の上告趣意について。
 第一審判決の援用する、検察官作成の供述調書中の被告人の自白が、強制等によ
るものであり、また不当に長い抑留、拘禁後の自白であるという所論の採用できな
いことは、弁護人三宅次郎の上告趣意第二点について、判断を示したとおりである。
その他の論旨は、すべて刑訴四〇五条所定の上告理由にあたらない。
 なお、記録を精査しても本件について刑訴四一一条を適用すべき事由は認められ
ない。よつて刑訴四〇八条により主文の通り判決する。以上は裁判官全員一致の意
見である。
  昭和二六年五月一五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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