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平成24年5月31日判決言渡
平成23年(行ケ)第10348号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年2月28日
判決
原告レリジャステクノロジーセンター
(審決上の表記レリジヤステクノロジーセンター)
訴訟代理人弁理士大島厚
同柴田泰子
被告Y
訴訟代理人弁理士八木澤史彦
主文
1特許庁が取消2010-300738号事件について平成23年6月21日
にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2前提事実
1特許庁における手続の経緯等
原告は,第41類「哲学の教授その他の技芸・スポーツ又は知識の教授」を指定
役務とする「TheBRIDGE」の欧文字を横書きした商標(登録第3003
547号,平成4年8月4日登録出願,平成6年8月31日設定登録,平成16年
6月29日存続期間の更新登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は,平成22年7月5日,特許庁に対し,商標法50条1項の規定により,本
件商標の指定役務についての登録を取り消すことを求めて審判の請求をし,同月2
2日,同審判請求についての予告登録がされた。特許庁は,平成23年6月21日,
本件商標の商標登録を取り消す旨の審決をし,その謄本は同月29日,原告に送達
された(甲1,甲2,弁論の全趣旨)。
2審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。その判断の概要は,以下のとおりである。
(1)国際サイエントロジー協会(以下「CSI」という場合がある。)とサイエ
ントロジー東京は,本件商標権者(原告)から「ブリッジ」及び「THEBRI
DGE」の各商標の使用を許諾された通常使用権者である(争いがない。)。
(2)CSIにおける使用について
CSIは,少なくとも平成19年9月7日,平成20年6月16日に存在した英
語によるウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)において,
「Scientology」の見出しの下に,「TheBridge(R)Courses」及び「The
Bridge(R)Training」(判決注審決と同様に,○内に「R」の右肩の記号を,
「(R)」と表記する。以下同じ。)の各小見出しを掲載し,それぞれについての説
明を掲載(甲5の2の1・審決乙5の2の1,甲6の2の1・審決乙6の2の1)
したことが認められる。「TheBridge」の文字は,本件商標と社会通念上同一の商
標といえる。本件ウェブサイトは,インターネット上のものであるから,英語圏の
みならず,日本からも閲覧可能ではあるが,そのことをもって我が国の需要者を対
象にしたものとは認められず,本件ウェブサイトに表示されていることをもって日
本国内における本件商標の使用ということはできない。
したがって,CSIは,本件商標の取消審判の請求の登録前3年以内に日本国内
において本件商標と社会通念上同一の商標を宗教哲学に関する知識の教授について
使用をしたということができない。
(3)サイエントロジー東京における使用について
サイエントロジー東京は,商標「ブリッジ(R)」などを記載した宗教哲学に係る
書籍,通信教育などに関するポスター(甲8・審決乙8)を作成し,本件商標の取
消審判の請求の登録前3年以内に日本国内において請求に係る指定役務に含まれる
宗教哲学に関する知識の教授について「ブリッジ(R)」(以下「使用商標」とい
う。)の使用をしたということができるが,使用商標は,本件商標と称呼が異なり,
観念を共通にしない場合もあるから,本件商標と社会通念上同一の商標といえない。
また,サイエントロジー東京が,平成20年7月31日から平成22年5月31
日の間に作成したパンフレット(甲11・審決乙11)には,本件商標の表示が見
当たらず,その頒布時期も不明であり,同時期に作成した「POWER」と題する
小冊子(甲12・審決乙12)は,サイエントロジー東京に係る書籍や宗教哲学に
関する知識の教授についての広告物であり,使用商標が表示されているが,同使用
商標は,本件商標又はこれと社会通念上同一といえない。
さらに,サイエントロジー東京は,ポスター(甲8・審決乙8)の英語版(原
典)であり,表題を「THEBRIDGETOTOTALFREEDO
M」とする印刷物(甲17・審決乙17)(判決注甲17の1ないし3を総称し
て,「甲17」という。)を,販売するために輸入し,平成21年12月末に所有
したが,印刷物(甲17・審決乙17)は,宗教哲学に関する知識の教授に付随し
てその生徒に譲渡等されるものとはいえず,独立して商取引の対象となるものとい
うのが相当であり,ほかに,印刷物がかかる役務の提供に付随するものとみるべき
証拠はない。したがって,上記印刷物は,商標法上の商品に該当するというべきも
のであり,これに本件商標が表示されているとしても,そのことをもって請求に係
る指定役務についての本件商標の使用とはいえない。
以上によれば,サイエントロジー東京は,本件商標の取消審判の請求の登録前3
年以内に日本国内において本件商標と社会通念上同一の商標を宗教哲学に関する知
識の教授について使用をしたということができない。
(4)結論
被請求人(原告)は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,商
標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが請求に係る指定役務のいずれ
かについて本件商標の使用をしていたことを証明したものとは認められない。また,
被請求人は,本件商標を請求に係る指定役務について使用していなかったことにつ
いて,正当な理由があることも明らかにしていない。
本件商標の登録は,商標法50条の規定により,取り消すべきものとする。
第3当事者の主張
1原告の主張
審決は,(1)本件ウェブサイトが英語であることを理由に日本における商標使用
を否定した判断の誤り,(2)「ブリッジ」と「TheBRIDGE」が社会通念
上同一でないとした判断の誤り,(3)甲17・審決乙17は商品「印刷物」につい
ての使用であり,本件商標の指定役務についての使用に当たらないとした認定,判
断の誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。すなわち,
(1)本件ウェブサイトが英語であることを理由に日本における商標使用を否定し
た判断の誤り(取消事由1)
審決は,本件ウェブサイトにおいて使用されている「TheBridge」の文字が,本
件商標と社会通念上同一の商標であることを認定したにもかかわらず,本件ウェブ
サイトが英語で表示されていることを理由に,日本における商標使用とは認められ
ない旨判断した。
しかし,審決の判断は誤りである。
アウェブサイトの内容が英語であるとの一事をもって日本における商標使用が
否定されるべきではない。本件においては,本件ウェブサイトにおける「The
Bridge」の文字の使用が,日本における本件商標の使用に当たるとする事情が存在
する。すなわち,
(ア)サイエントロジー宗教哲学の祖語と宗教哲学における祖語の重要性
「サイエントロジー(Scientology)宗教哲学」は,米国人のL.ロンハバー
ド氏によって創始され,その理念や思想はもともと英語で記述されており,日本に
おいては主にこれを翻訳したものを使用して,サイエントロジー宗教哲学の教授が
なされている(甲8,甲17の1,甲18の3,甲19の2)。
宗教哲学において,原典によって,当該宗教哲学の真髄が理解できると考えられ
るため,その原典が重要と解される。「サイエントロジー(Scientology)宗教哲
学」の学習者が,「英語」による原典に触れ,勉強しようと考えることは自然であ
る。サイエントロジー東京は,その要望に応えられるよう,原典の英語版書籍・D
VDを学習者が購入可能な状態に保有・陳列し,これら英語版書籍・DVDを日本
において販売してきた(甲20の1ないし4,甲21,甲24の1ないし3)。ま
た,サイエントロジー宗教哲学の教育内容の一覧を示すポスターの英語版も,学習
者に提示・譲渡できるよう保有してきた(甲17の1,甲22)。
(イ)日本において英語で教育サービスや教育サービスに係る広告が提供されてい
る事実
教育サービスの提供が英語でされることに何らの不都合もなく,その例も少なく
ない。
サイエントロジー東京は,「サイエントロジー宗教哲学」の教育サービスを実際
に日本の顧客に対して提供しており,日本において,外国人講師,外国人のゲスト
を招いた講演会が行われ(甲27の1及び2,甲28の1ないし4),その講演会
は英語でされる。また,学習者には海外よりサイエントロジー宗教哲学に関する教
材やセミナーの広告メールが送られているが(甲29の1ないし8),これらは英
語で作成されている。さらに,日本における学習者に向けて海外から英語の雑誌が
送付されるが,これらの雑誌の中で「TheBRIDGE」の語が使用されてい
る(甲30の1ないし3,甲31)。
以上のとおり,日本における需要者に向けて英語で情報が伝えられ,日本におけ
る学習者が英語の情報を受け,学習する機会が常に存在している。
イ上記アの事情を前提とするならば,日本における学習者(信者)は,各地域
の教会を統括するサイエントロジー宗教哲学の総本山的組織であるCSIのウェブ
サイトの記載について強い関心を有し,当該ウェブサイトの内容を知りたいという
動機を有しているから,本件ウェブサイトが日本の学習者をも対象とし,その利用
にも供されていると解される。
ウしたがって,本件ウェブサイトにおける「TheBridge」の表示(甲5の1,
甲5の2の1,甲6の1,甲6の2の1)は,日本の学習者にも閲覧され,本件商
標は日本において使用されたと判断すべきであり,日本における使用を認めなかっ
た審決には誤りがある。
(2)「ブリッジ」と「TheBRIDGE」が社会通念上同一でないとした判
断の誤り(取消事由2)
審決は,「片仮名とローマ字の文字の表示を相互に変更するものにあっては,同
一の称呼及び観念を生ずる商標といえるか否かによって,登録商標と社会通念上同
一の商標に該当するか否かを判断すべき」として,「ブリッジ」と「TheBR
IDGE」について,称呼において「ザ」の音の有無に差異を有し,「同一の称
呼」とはいえないから,社会通念上同一とは認められない旨判断した。
しかし,審決の判断は誤りである。
本件商標中「The」の文字は,本件商標において特段の意味を有さず,「ブリ
ッジ」と「TheBRIDGE」は社会通念上同一の商標とみるべきである。す
なわち,
ア定冠詞「The」について
「The」の語は,「ザ」と発音し,「その」等の意味を有する平易な英語であ
り,「訳さないでよいことが多い」(「小学館ランダムハウス英和辞典<特装版
>第2版」。株式会社小学館)ものである。定冠詞「The」は,日本語に対応す
るものがなく,日本語の文法上,英語のように冠詞を名詞の前に置く習慣も必要性
もないから,本件商標を日本の顧客向けに片仮名表記にする場合,商標として把握
しやすいよう,定冠詞「The」なしで「ブリッジ」と表現することは,商慣行上
自然である(甲33の1ないし3)。
審決は,「定冠詞『The』は,前述のとおり,『ザ』と発音する英語として一
般に知られているものであり,一般の商取引はもとより請求に係る指定役務の分野
においても,これを日本語表記するときには,普通に『ザ』と表記されるのが取引
の実情というべきである」,「定冠詞『The』は,訳さないことがあるとしても,
定冠詞『The』を有する欧文字からなる商標を片仮名で表示する場合に,『Th
e』の音に相当する『ザ』の文字を省略して表示しなければならないような合理的
理由は見いだせない」とするが,日本語の文法上,冠詞を名詞の前に置く必要は全
くなく,翻訳の際,意味がない「ザ」の文字を表示すべき合理的理由はない。
むしろ,「ザ」を省略して商取引をすることが少なくないのが実情であり(甲3
3の1ないし3),原告及び原告関連団体の印刷物やウェブページなどにおいても,
「TheBRIDGE」と「ブリッジ」とは完全に対応する訳語として表示され,
全く同一の商標として使用されている(甲8,甲14の1及び2,甲17の1,甲
19の2)。
イ識別性の観点からの同一性
商標の本質的機能は自他商品等識別機能であるから,社会通念上同一の商標か否
かを判断するに当たっては,物理的に「The」があるかないかではなく,識別性
の観点から,同一性の有無を検討すべきである。
本件商標の構成中,「BRIDGE」の部分は「橋」という意味の既成語である
が,本件商標の指定役務との関係において識別力を有するのに対し,「The」の
部分は本件商標の識別性には影響しない付加的部分であるから,本件商標の特徴的
部分は「BRIDGE」のみにある。また,原告は,上記アのとおり,本件商標と
「ブリッジ」を相互に対応する同一の商標として,使用してきた。
本件において,「The」を省略して「ブリッジ」として本件商標を使用しても,
本件商標の識別力に何ら影響を与えず,これに接する需要者は,「ブリッジ」と
「TheBRIDGE」は,同じ出所を表す同一の商標と理解する。「The
BRIDGE」と「ブリッジ」とは,社会通念上同一の商標というべきである。
ウしたがって,サイエントロジー東京は,本件商標登録の取消審判の請求の登
録前3年以内に日本国内において請求に係る指定役務に含まれる宗教哲学に関する
知識の教授について,「ブリッジ(R)」の使用をしており,「ブリッジ」と本件商
標は社会通念上同一の商標であるから,本件商標が使用されたというべきである。
(3)甲17・審決乙17は商品「印刷物」についての使用であり,本件商標の指
定役務についての使用に当たらないとした認定,判断の誤り(取消事由3)
審決は,印刷物(甲17・審決乙17)は,商標法上の商品に該当するというべ
きものであるから,これに本件商標が表示されているとしても,そのことをもって
請求に係る指定役務についての本件商標の使用に当たらない旨の認定,判断をした。
しかし,審決の判断は誤りである。
甲17における本件商標の使用は,請求に係る指定役務についての使用に該当す
るものである。すなわち,
ア甲17は,サイエントロジー宗教哲学の「ブリッジ(TheBRIDG
E)」との名称を付した教育内容の一覧を示すポスター(英語版)であり,これに
付された「TheBRIDGE」の表示は,①サイエントロジー宗教哲学に関す
る知識の教授(役務の提供)に当たり,その学習者(その提供を受ける者)の利用
(学習プログラム内容の把握及び自己の学習進行状況の確認)に供する物(ポスタ
ー)に標章「TheBRIDGE」を付する行為に該当し,また,②サイエント
ロジー宗教哲学に関する知識の教授(役務の提供)に当たり,その学習者(その提
供を受ける者)の利用(学習プログラム内容の把握及び自己の学習進行状況の確
認)に供する物(ポスター)に標章「TheBRIDGE」を付したものを用い
てサイエントロジー宗教哲学に関する知識を教授(役務を提供)する行為にも該当
する。
甲17は,印刷物(商品)に本件商標「TheBRIDGE」が付されている
が,本件商標が,「サイエントロジー宗教哲学に関する知識の教授」(役務)を提
供するに当たり,学習者に利用される物について使用されていることを示している。
イ審決は,「役務の提供と独立して商品が譲渡等される場合には,その商品に
付する標章は,かかる役務についての使用とはいえないと解される」として,「サ
イエントロジー東京は,印刷物(甲17・審決乙17)を販売していることが認め
られるところ,かかる印刷物について,被請求人は,『学習者に販売する』とし,
サイエントロジー東京も,陳述書(甲23・審決乙23)において,『当団体の取
り扱い出版物に熟知し・・・生徒が購入できる状態』の旨陳述していることが認め
られる。そうすると,印刷物(甲17・審決乙17)は,宗教哲学に関する知識の
教授に付随してその生徒に譲渡等されるとはいえず,独立して商取引の対象となる
ものというのが相当であり,ほかに,印刷物がかかる役務の提供に付随するものと
みるべき証拠はない」と認定した。
しかし,審決の認定は誤りである。
甲17の印刷物が学習者に販売されることをもって,甲17を「サイエントロジ
ー宗教哲学に関する知識の教授」に付随するものではないと認定すべきではない。
商標法2条3項3号においては,「利用に供する物(譲渡し,又は貸し渡す物を含
む。以下同じ。)」と規定される。本件商標を付した甲17の印刷物を学習者に販
売する行為は,「学習プログラム内容の把握及び自己の学習進行状況の確認に使用
するポスター(譲渡する物を含む)に標章を付する行為」,「学習プログラム内容
の把握及び自己の学習進行状況の確認に使用するポスター(譲渡する物を含む)に
標章を付したものを用いてサイエントロジー宗教哲学に関する知識を教授する行
為」にほかならず,商標法2条3項3号及び4号に該当し,甲17における本件商
標の使用は,その指定役務についての商標の使用である。
また,甲17は,サイエントロジー宗教哲学における「ブリッジ(TheBR
IDGE)」との名称の下に実施される教育内容の一覧を示すポスターであり,サ
イエントロジー宗教哲学に関する知識の教授に関連して学習者に譲渡される。
したがって,甲17における本件商標の使用は,宗教哲学に関する知識の教授に
ついての使用と認めるべきであり,審決の判断は誤りである。
2被告の反論
以下のとおり,審決に誤りはない。
(1)取消事由1(本件ウェブサイトが英語であることを理由に日本における商標
使用を否定した判断の誤り)に対し
原告は,本件ウェブサイトが英語で表示されていることを理由に,日本における
商標使用とは認められない旨判断した審決は誤りである旨主張する。
しかし,原告の主張は前提を欠き,失当である。
審決は,「本件ウェブサイトは,・・・すべて英語で表示されており,主として
我が国の需要者を対象にしていることを客観的,具体的に認めるに足りる記載も見
出せない」としており,本件ウェブサイトが英語で表示されていることを理由に日
本における商標使用を否定したのではなく,総合的に判断した結果,商標使用を否
定したものである。
本件訴訟において提出された証拠(甲27ないし甲33の3)には,発行日付の
記載がなかったり,発行日付が本件商標の取消審判の請求の登録前3年以内ではな
かったり,指定役務との具体的関係を欠いたりするものであり,これらにより,本
件商標の取消審判の予告登録前3年以内における本件商標の使用の事実を認めるこ
とはできない。また,甲34(陳述書)は,甲8(ポスター)に「TheBRI
DGE」なる記載がないにもかかわらず,「同ポスターに表示された『ブリッジ』
(TheBRIDGE)」と記載されているなど,不正確な内容を含んでいる。
(2)取消事由2(「ブリッジ」と「TheBRIDGE」が社会通念上同一で
ないとした判断の誤り)に対し
原告は,本件商標中「The」の文字は,本件商標において特段の意味を有さず,
「ブリッジ」と「TheBRIDGE」は社会通念上同一の商標とみるべきであ
る旨主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
片仮名とローマ字の表示を相互に変更するものにあっては,同一の称呼及び観念
を生ずる商標といえるか否かによって,登録商標と社会通念上同一の商標に該当す
るか否かを判断すべきであり,「ブリッジ」と「TheBRIDGE」は,少な
くとも称呼において相違するから,両商標は社会通念上同一とはいえない。
(3)取消事由3(甲17・審決乙17は商品「印刷物」についての使用であり,
本件商標の指定役務についての使用に当たらないとした認定,判断の誤り)に対し
原告は,甲17には,本件商標「TheBRIDGE」が付されているが,本
件商標は,印刷物という「商品」の商標ではなく,「サイエントロジー宗教哲学に
関する知識の教授」という指定役務を提供するに当たり,学習者に利用される物に
ついて使用されている旨主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
甲17には,「TheBRIDGE」なる表示はなく,また,甲17は独立の
取引の対象である(甲23)。さらに,甲17には「THEBRIDGETO
TOTALFREEDOM」なる表示があり,当該表示全体が一体として標語の
ような記載となっており,当該表示中の「THEBRIDGE」なる部分が識別
力を有する態様,すなわち,商標的態様で使用されているともいえない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,他の取消事由の当否を検討するまでもなく,原告の主張に係る取消
事由3には理由があるものと判断する。事案にかんがみ,取消事由3について述べ
る。
1取消事由3(甲17・審決乙17は商品「印刷物」についての使用であり,
本件商標の指定役務についての使用に当たらないとした認定,判断の誤り)につい

審決は,本件商標の通常使用権者であるサイエントロジー東京が,販売するため
に輸入し,平成21年12月末に11部を所有した印刷物(甲17・審決乙17)
について,「宗教哲学に関する知識の教授に付随してその生徒に譲渡等されるもの
とはいえず,独立して商取引の対象となるものというのが相当であり,ほかに,印
刷物がかかる役務の提供に付随するものとみるべき証拠はない。したがって,上記
印刷物は,商標法上の商品に該当するというべきものであり,これに本件商標が表
示されているとしても,そのことをもって請求に係る指定役務についての本件商標
の使用とはいえない。」と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
(1)認定事実
アサイエントロジー東京は,国際サイエントロジー教会の日本における支部な
いし関連組織であって,サイエントロジー宗教の布教及び広告活動,サイエントロ
ジー宗教哲学に基づいたトレーニングないし体験コースに関する契約の締結及び実
践,日曜サービス等の提供及び実施,サイエントロジー宗教哲学の関連書籍,冊子,
ポスター等の作成,展示及び販売などに関連した各種活動を行っている(甲5ない
し13,15,17,22,23(各枝番号の表記を省略する。),弁論の全趣
旨。)。
イサイエントロジー東京は,その生徒に配布する資料等として,印刷物(甲1
7)を輸入して,平成21年12月末に少なくとも11部所有し,生徒が購入でき
る状態に置いていた(甲22,甲23)。
甲17の詳細は,以下のとおりである。すなわち,
(ア)最上部には「THEBRIDGETOTOTALFREEDOM」
(甲8の邦訳「完全なる自由へのブリッジ」)との表題が大きく表記され,左上部
には「Thefollowingareadditionaltrainingservicesthatmaybedoneat
variouspointsonTheBridge(R)」(甲8の邦訳「ブリッジ(R)のさまざまな地
点で行うことのできる追加のトレーニング・サービス」),右上部には「The
followingareadditionalprocessingservicesthatmaybedoneatvarious
pointsonTheBridge.」(甲8の邦訳「ブリッジ(R)のさまざまな地点で受ける
ことのできる追加のプロセシング・サービス」)と表記されている。
また,最下部には「・・・TheBridge,・・・aretrademarksandservice
marksownedbyRTCandusedwithitspermission.」(甲8の邦訳「・・・ザ
ブリッジ・・・は,ReligiousTechnologyCenterが所有する登録商標およびサー
ビスマークであり,使用にあたってはその許可が必要です。」)と表記されている。
(イ)最上段の表題の下に,「SCIENTOLOGYCLASSIFICATIONGRADATIONAND
AWARENESSCHARTOFLEVELSANDCERTIFICATES」(甲8の邦訳「サイエントロジー
レベルと認定証に関するクラス,グレード,意識のチャート」)の記載がある。中
央部にはチャートが大きく記載され,その左側が「TRAINING」,右側が
「PROCESSING」,中央が「AwarenessCharacteri
stics」の表題の下に克明詳細な内容が示されており,同チャートは,下方か
ら上方に「Class」及び「Grade」等が昇進するように表記されている。
また,左下部には,「Howtousethischart/Thischartdescribestheroute
tohumanrecoveryandultimateexpansionofone’sabilityandpowerasa
spiritualbeing.ThefieldofhumanrecoverybelongstoDianetics(R)
technology.Scientologyphilosophybringsanindividualtohigherstates
ofbeingandability.Thischartcouldbeconceivedasamapofthe
expansionoflife.Itshowsateachleveltherealizationofagreater
potentialwith,attheleftunderTraining,anewknowledgeandskillin
handlinglife,inthecenterofthechartunderAwarenessCharacteristics,
anexpandedawareness,andattherightunderProcessing,theattainment
ofahigherstateofbeingness.・・・」(甲8の邦訳「このチャートの使い方
/このチャートは,人間の回復と精神的なビーイングとしての人の能力とパワーの
究極的な拡張への道筋を説明しています。人間の回復はダイアネティックスの技術
に属しています。サイエントロジー哲学は個人に,より高いビーイングおよび能力
の状態をもたらします。このチャートは生命拡張のための地図として考えることが
できます。それは,それぞれのレベルでの,さらに大きな潜在的能力に対する認識
を示しています。左側のトレーニングの下では人生に対処する新しい知識と技能を,
中央の意識の特性では拡張した意識を,右側のプロセシングの下では達成されるよ
り高い状態の存在性を示しています。・・・」)との記載がある。
(2)判断
上記(1)イ(ア)認定の事実によれば,甲17の印刷物には「THEBRIDG
E」,「TheBridge(R)」,「TheBridge」との記載があり,「TheBridge」につ
いては原告の商標であることが明確に注記されているから,甲17における「The
Bridge」は,原告の出所を識別するものとして使用されていることが認められる。
「TheBridge」と本件商標とは,文字の外観(大文字と小文字において若干の相違
がある。),称呼及び観念において共通し,両者は,社会通念上同一の商標である。
また,上記(1)イ(イ)認定の事実によれば,甲17の印刷物は,サイエントロジ
ー哲学を学習する者,又は,その学習を始めようとする者に対し,「完全なる自
由」という意識の特性に至るチャートを示して,人間の回復と精神的な人の能力と
パワーの究極的な拡張への道筋を説明し,その過程で受けることのできるサービス
やトレーニングを紹介し,もしくは,自己の学習の進行状況を確認させることを目
的として作成されたものと解される。
さらに,甲17は,サイエントロジー東京の生徒向けの資料として輸入し,保有
され,その部数も限られていることに照らすならば,同印刷物は,サイエントロジ
ー哲学を学習する者,又は,その学習を始めようとする者に対して,供与されるも
のであって,不特定多数の者に対する販売することを目的としたものではないと解
される。
そうすると,甲17の印刷物は,サイエントロジー哲学の教授という役務の提供
を受ける者の利用に供する物であるというべきであるから,これに本件商標と社会
通念上同一の商標を付する行為は,本件商標の指定役務である「哲学の教授その他
の技芸・スポーツ又は知識の教授」中,「哲学の教授」について本件商標を使用し
たものと評価すべきである(商標法2条3項3号)。
したがって,甲17の印刷物は,商標法上の商品に該当し,これに本件商標が表
示されているとしても,請求に係る指定役務についての本件商標の使用とはいえな
いとした審決の認定,判断は,誤りである。
2小括
以上のとおり,原告の主張の取消事由3には理由があるから,その余の点につい
て判断するまでもなく,審決は違法として取り消されるべきである。被告は,その
他縷々主張するが,いずれも採用の限りではない。
第5結論
よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
池下朗
裁判官
武宮英子

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司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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