弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
原判決を破棄する。
被上告人の本訳請求中、損害賠償請求に関する部分を東京高等裁判所に差し戻す。
その余の部分につき被上告人の控訴を棄却する。
前項の部分に関する控訴費用及び上告費用は、被上告人の負担とする。
理由
上告代理人雨宮定直、同吉田和彦の上告理由第三点及び第四点について
一原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
1被上告人代表者は、原判決添付別紙本訴対象物件目録表示の目的機能及び構成を有す
る揺動圧入式掘削装置(以下「北辰式掘削装置」という)と実質的に同一の掘削装置に関す。
る発明について特許権を取得してこれを実施することを企図し、特許出願の準備を進めて、
昭和四七年一〇月一四日、右出願をした(以下、右特許出願に係る発明を「本願発明」とい
う。なお、本願発明の明細書の特許請求の範囲には、インゴットの取付け位置を限定する。)
記載はなかった。
2上告人と被上告人は、昭和四七年一月から四月までの間に、本願発明を実施した装置
である北辰式掘削装置の製造を被上告人が上告人に発注し、上告人はこれを製造して被上告
人に納入する旨の契約(以下「本件契約」という)を口頭で締結した。その中で、被上告人。
は代表者において本願発明の特許出願を準備していたため、上告人はその製造した北辰式掘
削装置を被上告人以外には納入販売しないという義務を負う旨の合意をした。
3被上告人代表者は、本願発明の特許出願に関して拒絶理由が通知されたことから、昭
和五二年一一月二一日、本願発明の明細書の特許請求の範囲につき、インゴットの取付け位
置を限定する旨の補正をしたところ、昭和五四年一〇月一八日、右補正された内容で出願公
告され、同五五年五月二〇日、設定登録された(以下、右特許を「本件特許」といい、右特
許に係る発明を「本件発明」という。。)
二本訴は、上告人が製造して昭和五五年六月に他に販売した第一審判決添付別紙目録(一)
記載の装置(以下「被告装置」という)は、本件契約の対象である北辰式掘削装置に含まれ。
るとして、被上告人が上告人に対し、北辰式掘削装置の製造販売等の差止めと損害賠償を請
求するものである。
原審は、前記事実関係の下において、本件契約の対象は本願発明を実施した装置である北
辰式掘削装置であるところ、被告装置は北辰式掘削装置に含まれるとした上で、本願発明に
つき、出願の過程で明細書の特許請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が減縮され
た本件発明として設定登録され、これにより発明の内容が変動しても、右補正前に締結され
た本件契約の対象となる装置が変動することはないとして、被告装置が本件発明の技術的範
囲に含まれるか否かを検討することなく、被上告人の請求を認容した。
三しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりで
ある。
原審の前記認定によれば、上告人はその製造した本願発明の実施に当たる装置を被上告人
以外には納入販売しないとの義務を負っていたが、本願発明は、出願の過程で明細書の特許
請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が減縮された本件発明として設定登録された
というのである。そして、本願発明は掘削装置の構成に関するものであり、右装置が製造さ
れて工事等に使用されたならば、これを現認した者は容易に発明の内容を知ることができる
ところ、右発明について特許出願をして独占権が与えられない限り、被上告人は他者の右発
明の実施を阻止することができないことは明らかである。そうであるならば、特許出願準備
中の本願発明を実施した装置を上告人に製造させる旨の本件契約は、本願発明につき特許出
願がされて将来特許権として独占権が与えられることを前提として、このような発明として
の本願発明の実施に当たる装置を対象として締結されたものと解すべきである。けだし、本
件契約が、本願発明につき特許出願がされ将来特許権として独占権が与えられるか否かにか
かわりなく締結されたとするならば、本件契約に基づいて北辰式掘削装置が製造販売され、
本願発明を他者が知るところとなり、他者がその実施をすることが可能となるに至る技術的
事項につき、契約当事者である上告人のみが実施を禁ぜられることになり、不合理であると
いわざるを得ないからである。したがって、特段の事情の認められない本件においては、本
願発明につき、出願の過程で明細書の特許請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が
減縮された場合には、これに伴って本件契約によって被上告人以外に納入販売しないという
義務の対象となる装置もその範囲のものになると解するのが相当である。
これを要するに、本願発明がその出願の過程で変動しても本件契約の対象となる装置が変
動することはないとした原審の説示には、契約に関する法令の解釈適用を誤る違法があると
いわなくてはならない。
四そうすると、原判決には右の違法があり、これが原判決の結論に影響を及ぼすことが
明らかである。この点をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでも
なく、原判決は破棄を免れない。そこで、後記の部分を除き、更に審理判断させるため、本
件を原審に差し戻すのが相当である。なお、昭和五七年九月三〇日に本件特許を無効とする
旨の審決があり、右審決の取消しを求める訴訟において請求棄却の判決がされ、右判決が平
成二年四月一九日に確定したことは当裁判所に顕著であるから、被上告人の、北辰式掘削装
置の製造販売等の差止めを求める部分は、被告装置が本件発明の技術的範囲に属するか否か
にかかわらず棄却すべきであり、これと同旨の第一審判決は正当であって、被上告人の控訴
は棄却すべきである。
よって、民訴法四〇七条一頃、四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官園部逸夫
裁判官佐藤庄市郎
裁判官可部恒雄
裁判官大野正男

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