弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
原判決中上告人らの控訴を棄却した部分を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人宮原貞喜ほかの上告受理申立て理由第一ないし第三について
 1 本件は,佐賀県(以下「県」という。)の住民である上告人らが,県の平成
5年度,同6年度,同8年度及び同9年度の複写機リース会社に対する複写機使用
料に係る支出の一部が水増しされた違法な支出であるとして,地方自治法(平成1
4年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4
号に基づき,県に代位して,当時県知事の職にあった被上告人Bに対し,損害賠償
を求めるとともに,同項3号に基づき,被上告人県知事に対し,上記複写機リース
会社に対する不当利得返還請求権及び上記違法支出に関与した県職員に対する損害
賠償請求権の行使を怠る事実の違法確認を求める事案である。
 2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 県は,かねてから,複写機リース会社2社との間で複数の複写機リース契
約を締結し,上記2社に対して各部課ごとに使用枚数に応じた複写機使用料を支払
っていた。平成5年度から同9年度までの県庁全体の複写機使用料に係る支出の合
計金額は,19億5176万3000円であった。
 (2) 県は,上記の複写機使用料に係る支出に関し,不正の疑いが生じたことか
ら調査を実施し,平成10年6月16日,平成7年度の支出のうち2億2412万
4000円は正規のものではない不適切なものであることを明らかにし,さらに,
同年9月4日,平成5年度から同9年度までの支出のうち6億4433万6000
円は正規のものではない不適切なものであることを公表した。県の上記調査におい
ては,対象期間中の複写機使用料に係る個々の支出ごとに不適切な支出であるかど
うかが検討された。
 (3) 上告人らは,平成10年10月15日,県監査委員に対し,平成5年度,
同6年度,同8年度及び同9年度の県庁全体の複写機使用料に係る支出について住
民監査請求(以下「本件監査請求」という。)をした。本件監査請求に係る監査請
求書(以下「本件監査請求書」という。)には,請求の要旨として,「佐賀県は,
本年9月4日,1993年度から1997年度の佐賀県庁全庁の複写機使用料の支
出についての内部調査結果を発表し,過去5年分にわたる複写機使用料のうち架空
使用分の水増し支出の総額は,6億4433万6000円にものぼることが判明し
た。このうち1995年度の複写機使用料の水増し支出額は2億2412万400
0円であるから,1995年度を除く過去5年の右水増し支出額合計は,4億20
21万2000円である。(中略)よって,監査委員は,1995年度を除く19
93年度から1997年度の佐賀県庁全庁の複写機使用料のうち架空使用であるに
もかかわらず違法に支出した4億2021万2000円をB佐賀県知事に損害賠償
をさせる等,右違法支出による佐賀県の損害の填補に必要な措置,及びその他の措
置を直ちに講ぜよ。」と記載され,事実を証する書面として,関連する新聞記事が
添付されていた。
 (4) 県監査委員は,平成10年12月14日付けで,本件監査請求は請求の対
象の特定を欠くなどとして,これを却下した。
 3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断した。
 (1) 本件監査請求は,県の複数の部課における各複数回の支出をすべて包括し
て監査の対象としているところ,これらを一体とみてその違法又は不当性を判断す
るのを相当とする特段の事情は認められないから,監査請求人としては,当該支出
を他の支出と区別して特定認識できる程度に個別具体的に摘示する必要がある。
 (2) 本件においては,個々の支出ごとに,支出した部課,支出年月日,金額,
支出先等のうち所要の項目を示して対象とする支出を個別具体的に摘示する必要が
あるところ,本件監査請求は,本件監査請求書に添付された新聞記事の内容を併せ
てみても,上記のような支出の個別具体的な摘示がされていないから,請求の対象
の特定を欠くものというべきである。
 4 しかしながら,原審の上記判断のうち(2)は是認することができない。その
理由は,次のとおりである。
 【要旨1】住民監査請求においては,対象とする財務会計上の行為又は怠る事実
(以下「当該行為等」という。)を,他の事項から区別し特定して認識することが
できるように,個別的,具体的に摘示することを要するが,監査請求書及びこれに
添付された事実を証する書面の各記載,監査請求人が提出したその他の資料等を総
合して,住民監査請求の対象が特定の当該行為等であることを監査委員が認識する
ことができる程度に摘示されているのであれば,これをもって足りるのであり,上
記の程度を超えてまで当該行為等を個別的,具体的に摘示することを要するもので
はないというべきである。そして,この理は,当該行為等が複数である場合であっ
ても異なるものではない。最高裁平成元年(行ツ)第68号同2年6月5日第三小
法廷判決・民集44巻4号719頁は,以上と異なる趣旨をいうものではない。
 【要旨2】前記事実関係等によれば,本件監査請求は,平成5年度,同6年度,
同8年度及び同9年度の県庁全体の複写機使用料に係る支出のうち,県の調査の結
果不適切とされたものの合計額4億2021万2000円が違法な公金の支出であ
るとして,これによる県の損害を補てんするために必要な措置等を講ずることを求
めるものであり,県の上記調査においては,対象期間中の複写機使用料に係る個々
の支出ごとに不適切な支出であるかどうかが検討されたというのであるから,本件
監査請求において,対象とする各支出について,支出した部課,支出年月日,金額
,支出先等の詳細が個別的,具体的に摘示されていなくとも,県監査委員において
,本件監査請求の対象を特定して認識することができる程度に摘示されていたもの
ということができる。
 そうすると,本件監査請求は,請求の対象の特定に欠けるところはないというべ
きである。
 5 以上によれば,本件監査請求について請求の対象の特定を欠くものとした原
審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由
があり,原判決中上記判断に基づき上告人らの控訴を棄却した部分は破棄を免れな
い。そして,本件監査請求について,法242条2項本文所定の監査請求期間を経
過しているのかどうか,また,同項ただし書にいう正当な理由があるのかどうかに
つき,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉
 徳治 裁判官 才口千晴)

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