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裁判例


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平成13年(行ケ)第230号 特許取消決定取消請求事件
平成15年1月14日口頭弁論終結
判         決
原      告     大日本スクリーン製造株式会社
訴訟代理人弁理士     杉   谷       勉
被      告     特許庁長官 太 田 信一郎
指定代理人      刈   間   宏   信
同            簔   輪   安   夫
同            粟   津   憲   一
同            大   橋   良   三
同            大   野   克   人
同            涌   井   幸   一
主         文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が異議2000-73918号事件について平成13年4月4日にし
た特許取消決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「基板処理装置」とする特許第3034484号の特
許(平成2年5月18日に出願された平成2年特許願第137490号の分割出願
として,平成9年5月27日に特許出願(以下「本件出願」という。)され,平成
12年2月18日に特許権設定登録された。以下「本件特許」という。)の特許権
者である。
本件特許の請求項1,2について,特許異議の申立てがなされた。特許庁
は,これを異議2000-73918号事件として審理し,その結果,平成13年
4月4日に,「特許第3034484号の請求項1及び2に係る特許を取り消
す。」との決定をし,同年4月23日にその謄本を原告に送達した。
2 本件特許請求の範囲
「【請求項1】基板を多段に収納する複数個のカセットを載置する静止したカ
セット載置用の基台と,
前記カセット載置用の基台に沿って移動し,かつ基板を上下多段に収納して
いるカセットの収納高さを昇降して,カセットから基板を取り出すインデクサー搬
送ユニットと,
複数個の処理ユニットへ基板を搬送するプロセス搬送ユニットと,
前記インデクサー搬送ユニットと前記プロセス搬送ユニットとの間であっ
て,前記インデクサー搬送ユニットの移動域の外に設定された基板待機位置で基板
を載置して,基板の位置合わせを行う基板位置合わせ機構とを備え,
前記インデクサー搬送ユニットは,カセットから取り出した基板を,前記基
板待機位置にある基板位置合わせ機構に移載し,前記基板位置合わせ機構は,移載
された基板の位置合わせを行い,前記プロセス搬送ユニットは,位置合わせされた
基板を受け取って,前記複数個の処理ユニットへ搬送することを特徴とする基板処
理装置」(以下「本件発明1」という。)
「【請求項2】基板を多段に収納する複数個のカセットを載置する静止したカ
セット載置用の基台と,
前記カセット載置用の基台に沿って移動し,かつ基板を上下多段に収納して
いるカセットの収納高さを昇降して,カセットから基板を取り出すインデクサー搬
送ユニットと,
複数個の処理ユニットに沿って移動し,これらの処理ユニットへ基板を搬送
するプロセス搬送ユニットと,
前記インデクサー搬送ユニットと前記プロセス搬送ユニットとの間であっ
て,前記インデクサー搬送ユニットの移動域の外で,かつ前記プロセス搬送ユニッ
トの処理ユニットに沿った移動域の外に設定された基板待機位置で基板を載置し
て,基板の位置合わせを行う基板位置合わせ機構とを備え,
前記インデクサー搬送ユニットは,カセットから取り出した基板を,前記基
板待機位置にある基板位置合わせ機構に移載し,前記基板位置合わせ機構は,移載
された基板の位置合わせを行い,前記プロセス搬送ユニットは,位置合わせされた
基板を受け取って,前記複数個の処理ユニットへ搬送することを特徴とする基板処
理装置」(以下「本件発明2」という。)
3 決定の理由の要点
別紙決定書の写し記載のとおりである。要するに,本件発明1,2(以下,
両者を併せて「本件各発明」ということがある。)は,いずれも,先願である特願
平2-126407号の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下,両者を併せ
て「先願明細書」という。本訴甲第3号証は,上記出願の公開公報である。)に記
載された発明(以下「先願発明」という。)と同一であるから,特許法29条の2
の規定に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
決定が上記結論を導くに当たり認定した本件各発明と先願発明との一致点・
相違点は,次のとおりである。
一致点
「基板を多段に収納する複数個のカセットを載置するカセット載置用の基台
と,前記カセット載置用の基台に沿って移動し,カセットから基板を取り出すイン
デクサー搬送ユニットと,複数個の処理ユニットへ基板を搬送するプロセス搬送ユ
ニットと,前記インデクサー搬送ユニットと前記プロセス搬送ユニットとの間であ
って,前記インデクサー搬送ユニットの移動域の外に設定された基板待機位置で基
板を載置して,基板の位置合わせを行う基板位置合わせ機構とを備え,前記インデ
クサー搬送ユニットは,カセットから取り出した基板を,前記基板待機位置にある
基板位置合わせ機構に移載し,前記基板位置合わせ機構は,移載された基板の位置
合わせを行い,前記プロセス搬送ユニットは,位置合わせされた基板を受け取っ
て,前記複数個の処理ユニットへ搬送する基板処理装置。」である点
相違点(一応の相違点)
本件各発明では,「「カセット載置用の基台」が静止しているものであっ
て,「インデクサー搬送ユニット」が「カセットの収納高さを昇降」するのに対し
て,先願明細書に記載された発明(判決注・先願発明)では,「カセットステーシ
ョン5」が「カセットエレベータ」により「カセット4」を上下方向に移動させる
ものであって,「吸着アーム11」及び「移動台12」が「カセット4」の収納高
さを昇降するものでない点。」
第3 原告主張の決定取消事由の要点
決定の理由中,6頁6行ないし26行まで,7頁8行ないし13行,7頁1
4行ないし29行は,争い,その余は認める。
決定は,本件各発明と先願発明との間の相違点の認定を誤り,その結果,本
件各発明と先願発明とが実質的に同一であると誤って判断し(取消事由1),本件
各発明と先願発明との相違点が周知技術を転換した程度の微差であるとして,これ
らの発明が実質的に同一である,と誤って判断した(取消事由2)。これらの誤り
がそれぞれ決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,決定は違法として
取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の認定の誤りによる実質的同一性の判断の誤り)
(1) 決定の相違点の認定は,次の理由から,誤りである。
本件各発明において,「基台」の静止状態と,「インデクサー搬送ユニッ
ト」の水平移動及び昇降移動とは,複数個のカセットから基板を取り出すという目
的を達成するために有機的に連係した一体不可分の関係にある構成というべきであ
るから,インデクサー搬送ユニットの水平移動と昇降移動とを切り離して,昇降移
動の点のみを相違点として認定することは許されない。本件各発明と先願発明との
間の相違点は,本件各発明が「基板を多段に収納する複数個のカセットを載置する
静止したカセット載置用の基台と,前記カセット載置用の基台に沿って移動し,か
つ基板を上下多段に収納しているカセットの収納高さを昇降して,カセットから基
板を取り出すインデクサー搬送ユニット」(以下「構成甲」という。)を有するの
に対し,先願発明がこの特徴的な構成を有しない点にある,と認定すべきである。
決定の行った相違点の認定は誤りである。
(2) 決定は,その行った相違点の認定を前提として,「カセットからの基板の
取り出しやカセットへの基板の収納の際に,カセットを静止させる一方,基板の取
り出しや収納を行うアームを,カセットの収納高さに沿って昇降させるように構成
することは,上記周知例1及び2の・・・記載からみて,本件特許の遡及する出願
日前周知の技術的手段である。」(決定書6頁13行~17行)と認定した上,
「上記一応相違する点は,カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収
納を行うための手段を具体化する上で,周知の技術的手段を転換したという程度の
微差にすぎず,特許第3034484号の請求項1に係る発明と,特願平2-12
6407号の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された発明とは,実質的
に同一である。」(決定書6頁22行~26行)とした。
しかし,「カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納の際
に,カセットを静止させる一方,基板の取り出しや収納を行うアームを,カセット
の収納高さに沿って昇降させるように構成すること」(以下「構成乙」という。)
が,仮に周知の技術であったとしても,前記「構成甲」が周知の技術ということに
なるわけではない。本件各発明は「構成甲」により,基板の取出しに際してカセッ
トが移動しないので,カセットの振動に伴う塵埃の発生がなく,カセット内の基板
を汚染することがない,という先願発明では得られない特有の効果を奏する。した
がって,「構成甲」を相違点として正しく認定するならば,この相違点について,
「カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を具
体化する上で,周知の技術的手段を転換したという程度の微差にすぎず」(決定書
6頁22行~24行)ということはできない。決定の上記判断は誤りである。
2 取消事由2(周知技術に基づく実質的同一性の判断の誤り)
(1) 決定は,上記のとおり,決定の認定した相違点につき,「カセットからの
基板の取り出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を具体化する上で,周
知の技術的手段を転換したという程度の微差にすぎず」(決定書6頁22行~24
行)とした。
しかしながら,決定が「構成乙」が周知技術であることの根拠として引用
した特開昭63-133521号公報(甲第4号証。以下「周知例1」という。)
及び特開昭62-222906号公報(甲第5号証。以下「周知例2」という。)
にそれぞれ記載された発明と,先願発明や本件各発明とは,カセットに収納された
基板を取り扱うという包括的技術分野においては共通しているものの,発明の各部
の構成に著しい差異があるため,具体的技術分野においては相違している。周知例
1,2は,前記「構成乙」が先願発明や本件各発明に係る具体的技術分野における
周知技術であることの根拠とはならない。すなわち,次のとおりである。
周知例1及び周知例2に記載された各発明は,カセットからの基板の取出
しと,取り出した基板の処理部への搬送とを,共通の搬送機構が行うもので,この
搬送機構の周囲(基板を保持するアームの旋回軌道上)にカセットや処理部が配置
された,いわゆる「クラスタータイプ」の基板処置装置に係るものである。この種
の装置には,搬送機構に備えられたアームは昇降および旋回移動するが,搬送機構
の全体としては移動しない,という特徴がある。
これに対し,先願発明や本件各発明に記載された基板処理装置は,上記の
クラスタータイプの基板処理装置とは別のタイプの基板処理装置として開発された
ものであり,多くの処理部やカセットをできるだけコンパクトに配置するととも
に,処理効率を向上させるために,カセットから基板を取り出す搬送機構と,取り
出した基板を処理部へ搬送する搬送機構とを個別に備えている。
先願発明や本件各発明と上記各周知例の技術とは,このように,それぞれ
の属する具体的技術分野が異なるのであるから,決定認定の相違点につき,決定の
いうように,「カセットからの取り出しやカセットへの基板の収納を行うための手
段を具体化する上で,周知の技術的手段を転換したという程度の微差にすぎず」と
いうことはできず,したがって,この点で異なる本件各発明と先願発明とを,実質
的に同一であるとすることもできないというべきである。
(2) 複数個のカセットから基板を取り出すという目的達成のための具体化手段
として,次の四つの技術的手段が存在し得る。
第1の技術的手段は,複数個のカセットを水平移動させ,次に特定カセッ
トを昇降させるものである。この第1の技術的手段を採用したものに,特開昭63
-86448号公報(甲第6号証)に記載された「半導体ウエハの搬送装置」があ
る。
第2の技術的手段は,複数個のカセットを水平移動させ,次に搬送機構を
昇降させるものである。この第2の技術的手段を採用したものに,特開平1-22
7451号公報(甲第7号証)に記載された処理装置がある。
第3の技術的手段は,搬送機構を水平移動させ,次に特定カセットを昇降
させるものである。先願発明は,この第3の技術的手段を備えている。
第4の技術的手段は,搬送機構を水平移動させ,次に搬送機構を昇降させ
るものである。本件各発明は,この第4の技術的手段を備えている。
このように,複数個のカセットから基板を取り出すための具体化手段は,
選択肢が多いのであるから,第3の技術的手段のみが開示された先願発明に,本件
各発明が採用する第4の技術的手段が記載されているに等しいということはできな
い。しかも,第4の技術的手段は,カセットから基板を取り出す過程でカセットが
全く振動しないため,振動に起因した塵埃発生のおそれがないものである点におい
て,第1ないし第3の各技術的手段とは異質である。
決定が認定した一応相違する点(本件各発明では,「カセット載置用の基
台」が静止し,「インデクサー搬送ユニット」が「カセット収納高さを昇降」する
のに対し,先願発明では,「カセットステーション5」が「カセットエレベータ」
により「カセット4」を上下方向に移動させるものであって,「吸着アーム11」
及び「移動台12」が「カセット4」の収納高さを昇降するものではない点。)に
ついて,カセットからの基板の取出しやカセットへの基板の収納を行うための手段
を具体化する上で,周知の技術的手段を転換したという程度の微差にすぎない,と
した決定の判断は誤りであり,本件各発明と先願発明とは実質的に同一である,と
いうことはできない。
第4 被告の反論の骨子
決定の認定判断は,正当であり,決定を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(相違点の認定の誤りによる実質的同一性判断の誤り)について
(1) いずれも,インデクサー搬送ユニットによりカセットから基板を取り出す
に当たり必要となる移動である,二つの方向の移動,すなわち,カセット載置用の
基台に沿った移動である水平移動と,カセットの収納高さに沿った移動である昇降
移動とは,それぞれ独立した移動形態であって,相互に関連した移動ではないか
ら,すなわち,水平移動に伴った結果として昇降移動が行われるわけでも,昇降移
動に伴った結果として水平移動が行われるわけでもないから,水平移動に係る構成
と昇降移動に係る構成とは,個別に認識することが可能である。
水平移動と昇降移動とを,相互に一体不可分のものとして相違点を認定す
べきであるとの原告の主張は,失当である。
(2) 決定の相違点の認定及びこれに基づく実質的同一性の判断に誤りはない。
2 取消事由2(周知技術に基づく実質的同一性の判断の誤り)について
(1) 周知例1,2に示された技術も,先願発明及び本件各発明も,共に,カセ
ットに収納された基板を取り扱う技術に関するものであり,当該技術に携わる当業
者が,カセットからの基板の取出しや,カセットへの基板の収納に関する技術を研
究し,又は設計する際に,参考とされるものである。単に具体的な構成が異なるこ
とのみから技術分野が相違するとする原告の主張は,失当である。
(2) 原告は,複数個のカセットから基板を取り出すための技術的手段には,四
つの技術的手段が考えられ,本件各発明の技術的手段は,他の三つの技術的手段と
比較して異質であるから,本件各発明と先願発明とを,実質的に同一であるとする
ことはできない,と主張する。
しかしながら,先願発明において,インデクサー搬送ユニットを昇降させ
るように構成することは,カセットからの基板の取出しやカセットへの基板の収納
を行うための手段を具体化する上で,周知の技術的手段(「複数のカセットを載置
する静止したカセット載置用の基台に沿って移動するインデクサー搬送ユニット
が,カセットから基板を取り出す際に,カセットの収納高さを昇降する」という構
成全体が,本件出願前,既に周知であったことは,乙第4,第5号証によっても明
らかである。)を転換したという程度の事項である。水平移動を行うインデクサー
搬送ユニットを昇降させるように構成すれば,本件各発明と同様に,塵埃を生じさ
せないという効果を奏することが明らかである以上,本件各発明の技術的手段が,
原告主張の他の三つの技術的手段と比較して異質であるかどうかに関わらず,本件
各発明と,先願発明とは,実質的に同一であるというべきである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の認定の誤りによる実質的同一性判断の誤り)について
(1) 原告は,本件各発明において,複数個のカセットを載置する基台は静止し
ており,インデクサー搬送ユニットの方が水平移動および昇降移動のいずれも行
う,という構成は,連係した一体不可分な構成であり,この中からインデクサー搬
送ユニットの昇降移動の点のみを切り離して,相違点として認定することは許され
ない,と主張する。
本件各発明において,①カセットを載置する基台が静止していること,②
インデクサー搬送ユニットが水平移動すること,③インデクサー搬送ユニットが昇
降移動すること,の各構成は,そのいずれもが,特許請求の範囲に記載された構成
であるという意味においては,一体不可分の構成であるということができる。
しかしながら,上記の意味で一体不可分の構成であるということは,一致
点及び相違点の認定に当たって,各構成を切り離して把握することは許されない,
との結論に直ちに結び付くものではない。むしろ,ある発明と他の発明との一致点
及び相違点の認定に当たっては,それらの発明の各構成を切り離して把握すること
が許されないとする特段の事情が認められない限り,適宜切り離された各構成ごと
に把握して対比することは,同一性や進歩性についての判断を合理的にするために
も,当然に行われるべきことである。
本件において,上記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。搬送機構の
水平移動と昇降移動との間に,これを切り離して把握することが許されないとする
理由はない(複数個のカセットから基板を取り出すという目的達成のための具体化
手段であるカセット及び搬送機構の移動形態については,複数の組合わせがあり得
ることは,原告自身の主張するところである。このような主張が原告によってなさ
れること自体,上記のように切り離して把握することが少しも不自然なことでない
ことを物語るというべきである。)。
決定が,本件各発明においては,「カセット載置用の基台」が静止してい
るものであって,「インデクサー搬送ユニット」が昇降移動するのに対し,先願発
明においては,前者に相当する「カセットステーション」が上下方向に移動するも
のであって,後者に相当する「吸着アーム」及び「移動台」が昇降するものではな
いことを,一応の相違点として認定したことに誤りはない。
原告の真にいわんとするところが,現実の装置においては,水平移動も昇
降移動も必要であり,水平移動の要素を無視した昇降移動ということはあり得ない
のであるから,昇降移動を水平移動から切り離して前者だけに目を向けることは許
されない,ということであるとすれば,それ自体は正当な主張である。しかし,決
定は,相違点だけを認定したわけではなく,一致点も認定し,その中に,水平移動
するのはインデクサー搬送ユニットである点を挙げているのである。決定の行った
相違点の認定が,このように,水平移動についての一致点の認定を前提にして行わ
れたものである以上,これを,水平移動を離れて昇降移動だけに目を向けたものと
することはできない。原告主張の点が十分に考慮されているか否かは,相違点の認
定に関する問題ではなく,相違点についての判断が適切になされているか,の検討
において論ずべき問題である。
(2) 決定の一応の相違点の認定に誤りがあるとはいえないことは,(1)で説示
したとおりである。決定の一応の相違点の認定に誤りがあることを前提とする原告
の主張は,失当である。
(3) 以上のとおりであるから,取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(周知技術に基づく実質的同一性の判断の誤り)について
(1) 原告は,周知例1,2にそれぞれ記載された発明は,先願発明や本件各発
明と技術分野を異にするものであるから,周知例1,2に基づき決定が周知技術と
して認定した,「カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納の際
に,カセットを静止させる一方,基板の取り出しや収納を行うアームを,カセット
の収納高さに沿って昇降させるように構成すること」は,先願発明や本件各発明の
技術分野における周知技術とはいえない,と主張する。
しかしながら,甲第2ないし第5号証によれば,周知例1,2に記載され
た発明と,先願発明及び本件各発明とは,いずれもカセットに収納された基板を取
り扱うという技術に関する発明である点において共通するものであることが認めら
れるから(この点は原告も認めるところである。),これらの発明が技術分野を同
じくすることは明らかであり,決定が周知例1,2に記載された技術が先願発明及
び本件各発明と同じ技術分野に属することを前提にして判断したこと自体には,何
ら誤りはない。
もっとも,原告の上記主張は,上記の意味での技術分野を問題にするもの
ではなく,審決が周知技術が示されているものの例として挙げた周知例1,2に記
載されている技術は,先願発明や本件各発明におけるように,搬送ユニットが水平
移動する場合のものではないのであるから,この点を無視して,これらに示されて
いる搬送ユニットが昇降するという技術(搬送ユニットが水平移動しないものにお
ける技術)を,先願発明(搬送ユニットが水平移動するものである。)の一部に持
ってくることを,当然のことであるとすることはできない,との趣旨である,と解
することができる。
審決が挙げている周知例1,2に示されている技術が,搬送ユニットが水
平移動する場合のものではない点において先願発明や本件各発明と異なることは,
明らかである(甲第4,第5号証)。そうだとすると,決定が昇降移動を搬送ユニ
ットに行わせるように構成することは周知技術であるとして,その例として周知例
1,2記載の技術を挙げながら,上記の点について何ら触れるところがないまま,
相違点につき,「カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納を行う
ための手段を具体化する上で,周知の技術的手段を転換したという程度の微差にす
ぎず,」(審決書6頁22行~24行)としたことには,本件に適用するのに不適
切であるかもしれない周知技術(搬送ユニットが水平移動しないものにおける周知
技術)を認定しておきながら,何の理由付けもなく本件にこれを適用したか,本件
に適用するにふさわしい周知技術(搬送ユニットが水平移動するものにおける周知
技術)を認定したものの,それにふさわしくない周知例を挙げたか,のいずれかの
誤りがあることになるというべきである。しかしながら,特開昭61-45804
号(乙第4号証)及び特開平1-103849号(乙第5号証)には,いずれも,
半導体ウエハ搬送装置において,カセット載置用の基台に沿って水平移動する搬送
ユニットが,カセットから基台を取り出す際に昇降移動する技術が,従来例におけ
るものとしてなど,格別目新しいものではないことを示す形で記載されており,こ
れらの記載によれば,水平移動も昇降移動も共に搬送ユニットに行わせる構成は,
本件出願の日とみなされる日当時周知の技術であったと認められる。
この周知技術に照らすならば,搬送ユニットが昇降するという技術を,搬
送ユニットが水平移動する場合である先願発明の一部に持ってくることは,当業者
であれば,当然に適宜行うことである,というべきであり,「上記一応相違する点
は,カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を
具体化する上で,周知の技術的手段を転換したという程度の微差にすぎず,特許第
3034484号の請求項1に係る発明と,特願平2-126407号の願書に最
初に添付した明細書及び図面に記載された発明とは,実質的に同一である。」(審
決書6頁22行~26行),「上記一応相違する点は,上記4-1で記載したとお
り,カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を
具体化する上での微差にすぎず,特許第3034484号の請求項2に係る発明
と,特願平2-126407号の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載され
た発明とは,実質的に同一である。」(審決書7頁9行~13行)との審決の判断
は,結局のところ,誤りなきに帰するということができる。
原告の上記主張は,採用することができない。
(2) 原告は,数個のカセットから基板を取り出すという目的達成のための具体
化手段として四つの技術的手段があり,どのような手段を採用するかについての選
択肢が多いのであるから,先願発明に,本件各発明が採用する技術的手段が記載さ
れているに等しいとはいえない,本件各発明と先願発明との相違点が,カセットか
らの基板の取出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を具体化する上で,
周知の技術的手段を転換したという程度の微差にすぎない,とした決定の判断は誤
りである,と主張する。
しかしながら,技術的手段の選択肢が多いからといって,そのことから直
ちに,その技術的手段相互の間の実質的同一性が否定されることにはならないこと
は,上記(1)に説示したところに照らし,明らかである。
原告は,本件各発明が採用する技術的手段は,振動に起因した塵埃発生の
おそれがないものであって,他の技術的手段とは異質であるから,本件各発明と先
願発明とは,実質的に同一であるということはできない,と主張する。
しかしながら,振動に起因する塵埃発生を防止するという効果は,先願発
明の一部を上記周知技術に転換することにより当然に奏せられる効果にすぎない。
この程度の効果があることをもって,本件各発明と先願発明との実質的同一性が失
われるということはできない。
(3) 原告の主張は,いずれも採用することができず,取消事由2も理由がな
い。
第6 結論
以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がなく,
その他,決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事
件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官     山   下   和   明
裁判官     阿   部   正   幸
裁判官     高   瀬   順   久

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ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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