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判決言渡平成21年12月24日
平成21年(行ケ)第10121号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年12月17日
判決
原告株式会社三共製作所
訴訟代理人弁理士一色健輔
同青木康
被告特許庁長官
指定代理人今村亘
同野村亨
同黒瀬雅一
同酒井福造
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007−32590号事件について平成21年3月30日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が,名称を「回動テーブル装置,及び,工作機械」とする発明
について特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の
審判請求をし,平成21年3月6日付けでも手続補正をしたが,特許庁が請求
不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
2争点は,上記補正後の発明が下記の刊行物に記載された発明との関係で進
歩性を有するか(特許法29条2項),である。

・特開平5−305538号公報(発明の名称「回転割り出し式ワークテーブ
ル装置」,出願人ブラザー工業株式会社,公開日平成5年11月19日。
以下「刊行物1」という。)
・特開昭61−236459号公報(発明の名称「間歇割出し装置」,出願人
株式会社三共製作所,公開日昭和61年10月21日。以下「刊行物2」
という。)
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成14年4月19日,発明の名称を「回動テーブル装置,及
び,工作機械」とする発明について特許出願(特願2002−117599
号)をし,平成19年10月4日付けで特許請求の範囲等を変更する補正を
したが,拒絶査定を受けたので,不服の審判請求をした。
特許庁は上記請求を不服2007−32590号事件として審理し,その
中で原告は,平成21年3月6日付けで特許請求の範囲等を変更する補正
(甲9。請求項の数2,以下「本件補正」という。)をしたが,特許庁は,
平成21年3月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
し,その謄本は平成21年4月14日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件補正後の請求項の数は前記のとおり2であるが,そのうち【請求項1
】は,次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。
「被加工物を加工するための工作機械に用いられる回動テーブル装置にお
いて,
回動する回動テーブルと,
前記回動テーブルとともに回動する軸体と,
前記軸体を回動自在に支持する支持基台と,を備え,
前記軸体は,その回動方向に沿って直接形成された第1V字状溝と,当
該回動方向に沿って間隔を隔てて直接取り付けられた複数のカムフォロア
とを備え,
前記支持基台は,前記第1V字状溝に対向する第2V字状溝を有し,
前記軸体に動力を入力する入力軸体を有し,該入力軸体は当該入力軸体
が回動して位相が軸方向に変位するカム面を備え,
前記軸体と前記支持基台との間に,前記2つのV字状溝と接触して転動
する複数の転動体を介在させるとともに,複数の転動体のうち隣接する転
動体の転動軸を互いに直交させてクロスローラ軸受を構成し,
前記軸体は,前記入力軸体の回動により前記複数のカムフォロアが前記
カム面に順次係合されて回動することを特徴とする回動テーブル装置。」
(3)審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願発
明は刊行物1及び2に記載された発明に基づいて容易に発明することがで
きたというものである。
なお,審決が認定する刊行物1記載の発明(以下「引用発明」という。)
の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,上記審決写し記載の
とおりである。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,次のとおり誤りがあるから違法として取り消さ
れるべきである。
ア取消事由1(刊行物2記載発明の認定の誤り)
(ア)審決は,刊行物2記載の発明を次のように認定した(5頁2行∼9
行)。
「回動する間歇回転テーブル11と,
前記間歇回転テーブル11とともに回動するターレット軸6と,
前記ターレット軸6を回動自在に支持するケーシング8と,を備え,
前記ターレット軸6は,直接取り付けられた複数のターレット1を備
え,
前記ターレット軸6に動力を入力するカム軸5を有し,該カム軸は当
該カム軸5が回動して位相が軸方向に変位するグロボイダルカム2を備
え,
前記ターレット軸6は,前記カム軸5の回動により前記複数のターレ
ット1が前記グロボイダルカム2に順次係合されて回動すること。」
(イ)この認定のうち,「前記ターレット軸6は,直接取り付けられた複
数のターレット1を備え」ているとの認定及び「前記ターレット軸6
は,前記カム軸5の回動により前記複数のターレット1が前記グロボイ
ダルカム2に順次係合されて回動する」との認定は誤っている。
なぜなら,刊行物2には,「複数のターレット1」については全く記
載されていないからである。刊行物2(甲2)の第1図から明らかなよ
うに,刊行物2に記載されているターレット1は,一つである。
(ウ)なお,刊行物2の明細書中に記載はないが,第1図には,グロボイ
ダルカム2と係合可能な六つのカムフォロアが記載されているとして
も,「前記ターレット軸6は,直接取り付けられた複数のカムフォロア
を備え」ているとは認められない。
その理由は,次のとおりである。
a刊行物2(甲2)には,次のような記載がある。
・「第1図は本発明におけるグロボイダルカム方式の間歇回転運動
機構斜視図,第2図は同バレルカム方式の間歇回転運動機構斜視
図」(第3頁右上欄11行∼13行)。
・「図において,1,1’はターレット,2はグロボイダルカム,
2’はバレルカム」(3頁右上欄17行∼18行)
・「なお本実施例ではグロボイダルカム2を使用した場合について
説明したが,これに限らずバレルカム2’を使用した場合につい
ても同様である。」(3頁右下欄17行∼19行)。
・「…ターレット1が一体に固着されたターレット軸6…」(4頁
左上欄4行∼5行)。
なお,第1図に記載されているターレット1及び第2図に記載され
ているターレット1’は,ともに,直径に比べて厚さが小さい部材で
あることは明らかである。
b以上の記載からみて,第1図に記載のグロボイダルカム方式の間歇
回転運動機構を構成するターレット1は,ターレット軸6とは別の部
品であり,ターレット軸6に対して固着されることにより一体とされ
ることは明らかである。このように,ターレット1とターレット軸6
が別の部品であるから,ターレット1に取り付けられた複数のカムフ
ォロアがターレット軸6に直接取り付けられることはあり得ない。
第1図において,ターレット1には,紙面表裏方向に貫通する六つ
の穴が設けられているが,これらの穴にボルトを通すことにより,タ
ーレット1をターレット軸6に取り付ける,すなわち,固着すること
が可能である。また,上記のように,グロボイダルカム2に換えてバ
レルカム2’を使用できると記載されているところ,このような変更
を行うためには,第1図に記載されたグロボイダルカム方式の間歇回
転運動機構を構成するターレット1に換えて,第2図に記載されたバ
レルカム方式の間歇回転運動機構を構成するターレット1’を,ター
レット軸6に固着する必要がある。これらのことからも,ターレット
1が,ターレット軸6とは別の部品であり,ターレット軸6に対して
固着されることにより一体とされることが理解できる。
(エ)また,被告は,「ターレット1」=「一つ一つのカムフォロア」と
主張している。
しかし,日本カム工業会編「カム機構ハンドブック」2001年12
月25日日刊工業新聞社発行(甲12)510頁には,「ターレット」
について「狭義にはパラレルカム,バレルカムおよびローラギヤカムの
出力軸に取り付けられるおおむね円盤状の従節で,この上にカムフォロ
アが取り付けられる。フォロアホイールともいう。広義には出力軸も含
めていう。」と記載されており,506頁∼507頁には,「カムフォ
ロア」について「スタッドのついた円筒状のカムフォロア。カムと直接
接触し,これを通じて変位・力・トルクなどを従節に伝える。」と記載
されている。
甲2の第1図にはターレット1が示されているが,ターレット1は,
グロボイダルカム2に係合する六つのカムフォロアと,それらが取り付
けられた円盤状の部材(以下「ターレット本体」という。)を備えてい
る。そして,当業者であれば,ターレット本体のみ,又は,複数のカム
フォロアが取り付けられたターレット本体を「ターレット」と認識する
ことはあり得るが,複数のカムフォロアの一つ一つを「ターレット」と
認識することはあり得ない。
乙1(特開昭64−21262号公報)においても,「本実施例で
は,タレット22は厳密に言えば正二十四角形を呈する円盤部材72
と,この円盤部材72の周囲に沿ってしかも等間隔に配置されると共に
該円盤部材72の周囲部で回転自在に支持された24個のローラ要素7
4とから構成される。」(6頁右下欄第10行∼14行)と記載されて
おり,複数のローラ要素(カムフォロアに相当)及び円盤部材(ターレ
ット本体に相当)が,「タレット」と認識されている。
イ取消事由2(本願発明と引用発明との相違点についての判断の誤り
(1))
上記アのとおり,審決は,刊行物2記載の発明の認定を誤り,この誤っ
た認定に基づいて,「したがって,本願発明は,引用発明及び刊行物2に
記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ
る。」(6頁29行∼30行)と判断している。この判断には,次のとお
り誤りがある。
(ア)審決は,「…刊行物2に記載の事項の…『ターレット1』…は,そ
れぞれ本願発明の…『「カムフォロア』…に相当していることが明らか
である。してみると,刊行物2に記載の事項は,『…,前記軸体は,回
動方向に沿って間隔を隔てて直接取り付けられた複数のカムフォロアを
備え,…,前記軸体は,前記入力軸体の回動により前記複数のカムフォ
ロアが前記カム面に順次係合されて回動すること。』と言い換えること
ができる。そして,引用発明と刊行物2に記載の事項とは,ともに回動
テーブル装置の駆動手段という共通の技術分野に属するものであり,引
用発明の軸体の伝達機構として刊行物2記載の事項を採用して上記相違
点1に係る本願発明の特定事項とすることは当業者が容易になし得たこ
とである。」(6頁第10行∼25行)と判断している。
しかし,上記ア(イ)のとおり,刊行物2記載のターレット1は一つで
あるから,このような言換えは誤っており,この誤った言換えに基づ
く,「当業者が容易になし得たことである」との判断も誤っている。
(イ)なお,上記ア(ウ)のとおり,刊行物2(甲2)の第1図に,グロボ
イダルカム2と係合可能な六つのカムフォロアが記載されているとして
も,「引用発明の軸体の伝達機構として刊行物2記載の事項を採用して
上記相違点1に係る本願発明の特定事項とすることは当業者が容易にな
し得たこと」ではない。その理由は,次のとおりである。
a仮に,引用発明の軸体の伝達機構として刊行物2の事項を採用した
場合,引用発明の大歯車162に換えて刊行物2記載のターレット1
をスピンドル196に取り付け,引用発明のピニオン158に換えて
刊行物2記載のグロボイダルカム2を設けた構成となる。このような
構成において,スピンドル196には内輪が一体に形成される一方,
ターレット1には六つのカムフォロアが取り付けられることになる。
すなわち,内輪が一体に形成されるスピンドル196と,カムフォロ
アが取り付けられるターレット1は,別の部品となる。
bしたがって,仮に,引用発明の軸体の伝達機構として刊行物2記載
の事項を採用したとしても,少なくとも,本願発明の「前記軸体は,
その回動方向に沿って直接形成された第1V字状溝と,当該回動方向
に沿って間隔を隔てて直接取り付けられた複数のカムフォロアとを備
え」という特定事項は実現し得ない。
cしたがって,「引用発明の軸体の伝達機構として刊行物2記載の事
項を採用して上記相違点1に係る本願発明の特定事項とすることは当
業者が容易になし得たこと」ではない。
ウ取消事由3(本願発明と引用発明との相違点についての判断の誤り
(2))
審決は,上記イ(ア)のとおり判断している。しかし,引用発明と刊行物
2に記載の事項とは,「ともに回動テーブル装置の駆動手段という共通の
技術分野に属するもの」ではないから,「引用発明の軸体の伝達機構とし
て刊行物2記載の事項を採用して上記相違点1に係る本願発明の特定事項
とすることは当業者が容易になし得たこと」ではない。その理由は,以下
のとおりである。
(ア)刊行物1(甲1)には,段落【0010】∼【0021】に記載さ
れた第1実施例と,段落【0022】∼【0031】に記載された第2
実施例が示されている。第1実施例には,請求項に記載された回転割り
出し式ワークテーブル装置の例として,0°/180°回転ワークテー
ブル装置10が示されている。一方,第2実施例には,請求項に記載さ
れた回転割り出し式ワークテーブル装置の例として,インデックスワー
クテーブル装置130が示されている。そして,これら二つの装置は,
機能において異なるものである。第1実施例として記載された0°/1
80°回転ワークテーブル装置10は,その言葉から,あるいは,段落
【0011】の記載から明らかなように,予め定められた0°の回転位
置と180°の回転位置にて停止する,固定割り出し位置方式のワーク
テーブル装置である。このような固定割り出し位置方式のワークテーブ
ル装置は,段落【0011】に記載されているように,「…作業時にお
いてワークテーブル12が180°ずつ回転させられることにより,パ
レット36,38が交互に,加工装置14の下方の加工位置と加工装置
14から外れた着脱位置とに位置決めされる。」から,ある被加工物を
加工位置にて加工中に,他の被加工物を着脱位置にて着脱することが可
能となる。これに対して,第2実施例として記載されたインデックスワ
ークテーブル装置130は,段落【0022】に「…被加工物を保持し
て所定角度(任意に設定可能であり,等角度である必要はない)ずつ回
転するワークテーブル…」と記載されているように,停止位置を任意の
角度位置に設定可能な,任意割り出し位置方式のワークテーブル装置で
ある。このような任意割り出し位置方式のワークテーブル装置は,任意
の割り出し位置を設定できるという特性を備え,実際,第2実施例にお
いては,多種多様な加工を行うことのできるマシニングセンタに用いら
れている。なお,第1実施例に記載されているタッピングマシンについ
ては,「…ドリル,センタードリル,タップ等の工具16…」(段落【
0010】)とのみ記載されているにすぎないのに対して,第2実施例
に記載されているマシニングセンタについては,「…工具143と工具
147とは,工具交換アーム149に保持され,工具交換アーム149
がモータ150により180°旋回させられることによって,互いの位
置を変える。」(段落【0022】)と記載されていることからも,第
2実施例に記載されているマシニングセンタは,モータを用いて複数の
工具を交換でき,多種多様な加工を行うための装置であることがわか
る。
(イ)一方,刊行物2(甲2)には,「第5図において,第1ウォーム入
力軸を回転すると,第1ウォームホイールが減速回転する。そして前記
第1ウォームホイールの回転は,グロボイダルカム及びターレットを経
てターレット軸を間歇回転し,該ターレット軸に取付けた間歇回転テー
ブルを間歇回転する。一方第2ウォームホイールの回転は第2ウォーム
軸を回転することによって行われ,この場合は前記第2ウォームホイー
ルに締結した中空の回転軸を連続回転し」(3頁左上欄6行∼14行)
とされている。この記載及び刊行物2に開示された機構から,刊行物2
においては,第1ウォーム入力軸が連続回転しており,間歇回転テーブ
ルの間歇回転がグロボイダルカムの形状によって生成されていることは
自明である。してみると,刊行物2に記載の間歇回転テーブルは,固定
割り出し位置方式の間歇回転テーブルである。
(ウ)審決では,刊行物1記載の第1実施例と第2実施例のうち,第1実
施例には着目せずに第2実施例に着目しているところ,上述したよう
に,刊行物1においては,第1実施例のワークテーブル装置と第2実施
例のワークテーブル装置とは,固定割り出し方式か任意割り出し方式か
という点,すなわち,割り出し方式という技術的観点において互いに異
なるものとして明確に区別されている。そもそも,進歩性の判断を行う
際の技術分野の同一性は,当業者が,当該分野における技術開発を行う
に当たり,技術的観点からみて,ある構成を他の構成に転用することを
容易に着想し得るか否かを判断するための概念である。してみると,当
業者が刊行物1記載の第1実施例の固定割り出し位置方式のワークテー
ブル装置ではなくあえて第2実施例の任意割り出し位置方式のワークテ
ーブル装置の技術開発を行うに当たって転用を試みるべき技術分野は,
あくまで,任意割り出し位置方式のワークテーブル装置という技術分野
である。
(エ)したがって,審決の「引用発明と刊行物2に記載の事項とは,とも
に回動テーブル装置の駆動手段という共通の技術分野に属するもの」と
の判断は誤っており,それゆえ,「引用発明の軸体の伝達機構として刊
行物2記載の事項を採用して上記相違点1に係る本願発明の特定事項と
することは当業者が容易になし得たこと」との判断も誤っている。
エ取消事由4(本願発明と引用発明との相違点についての判断の誤り
(3))
審決は,上記イ(ア)のとおり判断している。しかし,「引用発明の軸体
の伝達機構として刊行物2記載の事項を採用」することは,引用発明の技
術的思想の意義を無さしめる行為であるから,「引用発明の軸体の伝達機
構として刊行物2記載の事項を採用して上記相違点1に係る本願発明の特
定事項とすることは当業者が容易になし得たこと」ではない。その理由
は,以下のとおりである。
(ア)刊行物1(甲1)の段落【0002】∼【0005】には,次のよ
うに記載されている。
・「【従来の技術】工作機械の中には,被加工物を保持して予め定めら
れた角度ずつ回転させる回転割り出し式ワークテーブル装置を備えた
ものがある。回転割り出し式ワークテーブル装置は,ワークテーブ
ル,駆動モータ,伝達機構およびモータ制御回路を備え,モータ制御
回路は駆動モータの回転制御を行い,駆動力伝達機構はモータから駆
動力をワークテーブルに伝える。この伝達機構は,ギヤ機構の使用に
よりモータ回転数をワークテーブルの必要とする回転数まで低下させ
るとともに,回転トルクを増大させてワークテーブルに与える機能を
持っている。一方,ワークテーブルの慣性や外力によって発生したワ
ークテーブルの回転トルクがモータに伝達されることは,被加工物の
所定位置からのずれを引き起こすため好ましくない。そこで,駆動力
伝達機構はワークテーブルの回転をモータへ伝えないための非可逆回
転特性を有していることが望ましい。」(段落【0002】)
・「そのため,従来は,駆動力伝達機構にウォームギヤ機構が多く使用
されてきた。ウォームギヤ機構は,ウォームとウォームホイールとを
含み,大きな減速比を得ることができるとともに,非可逆回転特性を
備えている。しかし,ウォームギヤ機構においては,ウォームとウォ
ームホイールとの間の滑りが大きく,回転時の摩擦による発熱のため
に高速回転に適さず,また,摩耗により長期運転時の精度を維持する
ことが困難である。そこで,このような発熱や摩耗に対処すべく素材
面での改良が行われており,ウォームホイールに特殊合金である燐青
銅やアルミ青銅が用いられているがいずれも十分な結果は得られてい
ない。」(段落【0003】)
・「【発明が解決しようとする課題】本発明は,上述の事情を背景とし
てなされたものであり,その解決課題は,回転式ワークテーブル装置
において高速回転性を持ち,ワークテーブルの回転トルクがモータに
伝達されないような非可逆回転特性を持つ回転割り出し式ワークテー
ブル装置を提供することである。」(段落【0004】)
・「【課題を解決するための手段】この課題を解決するために,本発明
の回転割り出し式ワークテーブル装置では,前記伝達機構を,それぞ
れ鋼材からなり,焼き入れ研磨されたピニオンおよび歯車からなる非
可逆回転特性を持つ食い違い傘歯車機構を含むものとした。」(段落
【0005】)
(イ)上記記載から明らかなように,刊行物1に記載されている技術的思
想としての発明は,駆動力伝達機構がワークテーブルの回転をモータへ
伝えないための非可逆回転特性を有していることが望ましいとの前提の
もと,従来の技術として,大きな減速比を得ることができるとともに,
非可逆回転特性を備えているウォームギヤ機構を取り上げ,ウォームと
ウォームホイールとの間の滑りが大きいこと等の問題を挙げ,発明の解
決課題として,高速回転性を持ち,ワークテーブルの回転トルクがモー
タに伝達されないような非可逆回転特性を持つ回転割り出し式ワークテ
ーブル装置を提供することを挙げ,この課題を解決するために,伝達機
構を,それぞれ鋼材からなり,焼き入れ研磨されたピニオンおよび歯車
からなる非可逆回転特性を持つ食い違い傘歯車機構を含むものとしてい
る。
したがって,「それぞれ鋼材からなり,焼き入れ研磨されたピニオン
および歯車からなる非可逆回転特性を持つ食い違い傘歯車機構」は,引
用発明の必須構成要素であることは明らかである。
(ウ)「引用発明の軸体の伝達機構として刊行物2記載の事項を採用して
上記相違点1に係る本願発明の特定事項とすること」は,引用発明か
ら,上記の必須構成要素を取り除くことに外ならず,引用発明の技術的
思想の意義を無さしめる行為である。もちろん,当該必須構成要素に換
えて,刊行物2記載のグロボイダルカム機構を採用しても引用発明の技
術的思想の意義を無さしめることが無いとの事情があればこの限りでな
いが,そのような事情は,審決において一切明らかにされていない。
(エ)したがって,「引用発明の軸体の伝達機構として刊行物2記載の事
項を採用して上記相違点1に係る本願発明の特定事項とすることは当業
者が容易になし得たこと」ではない。
オ取消事由5(本願発明と引用発明との相違点についての判断の誤り
(4))
(ア)審決は,上記イ(ア)のとおり判断している。しかし,本願発明の作
用効果は,刊行物1にも刊行物2にも記載も示唆もされていない格別顕
著なものであるから,「引用発明の軸体の伝達機構として刊行物2記載
の事項を採用して上記相違点1に係る本願発明の特定事項とすることは
当業者が容易になし得たこと」ではない。
(イ)この点について,審決は,「また,本願発明の作用効果についてみ
ても,引用発明及び刊行物2に記載の事項から当業者が予測しうる範囲
内のものであって,格別顕著なものとはいえない。」(6頁26行∼2
8行)と判断している。
しかし,以下のとおり,この審決の判断は誤っている。
a本願発明は,「軸体は,その回動方向に沿って直接形成された第1
V字状溝と,当該回動方向に沿って間隔を隔てて直接取り付けられた
複数のカムフォロアとを備え」という構成要件を有している。すなわ
ち,軸体に対して,第1V字状溝が直接形成されているのみならず,
回動方向に沿って間隔を隔てた複数のカムフォロアも直接取り付けら
れている。ここで,クロスローラ軸受に支持された軸体,ひいては回
動テーブルを,複数のカムフォロアとカムを用いて高精度に駆動する
ためには,軸体が高精度に軸受け支持されることと,軸体が高精度に
駆動されることが必要となる。本願発明においては,まず,軸体に第
1V字状溝を直接形成することにより,軸体が高精度に軸受け支持さ
れる。さらに,複数のカムフォロアをも直接軸体に取り付けることに
より,軸体が高精度に駆動される。
bすなわち,一般に,カムフォロアを取り付ける際には,取付対象と
なる軸体等に対して,取り付け用の穴加工をする必要がある(前記甲
12,231頁参照)。本願発明によれば,上述した構成要件を備え
ているため,軸体に対して,同一の基準(基準面,回動中心等)を用
いて,第1V字状溝を直接形成すること及び複数のカムフォロア取付
穴を直接加工することが可能となり,それゆえ,第1V字状溝と各カ
ムフォロアとの相対位置精度を高くすることが可能となる。したがっ
て,第1V字状溝をその一部とするクロスローラ軸受に支持された軸
体の回動中心軸に対する各カムフォロアの相対位置精度を高くするこ
とが可能となる。
このように,本願発明においては,入力軸体が回動することによっ
て複数のカムフォロアが順次カム面に接触した際に,各カムフォロア
とカム面との接触状態のばらつきを極めて小さくすることができ,軸
体を高精度に駆動することができる。
なお,カムフォロアと,回動により位相が軸方向に変化するカム面
との接触状態が所望の状態からずれた場合には,軸体が所望の回動位
置に対していずれかの回動方向に回動しなければならなくなり,その
結果,軸体の回動精度が悪化することになる。
c以上のような作用効果は,刊行物1及び刊行物2に記載の発明から
当業者が十分予測しうる範囲内のものとはいえず,格別顕著なもので
ある。
カ取消事由6(本願発明と引用発明との相違点についての判断の誤り
(5))
(ア)審決は,上記イ(ア)のとおり判断している。しかし,引用発明にお
いて刊行物2記載のグロボイダルカム機構を用いた伝達機構を用いるこ
とには阻害要因が存在するから,「引用発明の軸体の伝達機構として刊
行物2記載の事項を採用して上記相違点1に係る本願発明の特定事項と
することは当業者が容易になし得たこと」ではない。
(イ)この点について,審決は,「しかしながら,引用発明における軸体
への動力伝達機構として刊行物2に記載のカムとカムフォロアを用いた
伝達機構を用いることで引用発明におけるワークテーブルの回転割り出
しの機能が損なわれることはない。また,刊行物1において軸体への動
力伝達機構として非可逆回転特性を持つものを用いているのはワークテ
ーブルの回転トルクがモータに伝達されないようにするためであるが
(段落【0001】,【0004】等参照),刊行物2に記載のカムと
カムフォロアを用いた伝達機構がたとえ非可逆回転特性を持つものでな
いとしても,入力軸とモータ間に,例えば,刊行物2に記載のようにウ
ォームギヤ機構を介在させることでワークテーブルの回転トルクがモー
タに伝達されないようにすることも可能である。したがって,引用発明
において刊行物2に記載のカムとカムフォロアを用いた伝達機構を用い
ることに阻害要因があるとまでいうことはできない。」(7頁5行∼1
6行)と判断している。
しかし,以下のとおり,この審決の判断は誤っている。
a刊行物1に記載されている技術的思想としての発明は,上記エ(イ)
のとおり,駆動力伝達機構がワークテーブルの回転をモータへ伝えな
いための非可逆回転特性を有していることが望ましいとの前提のも
と,従来の技術として,大きな減速比を得ることができるとともに,
非可逆回転特性を備えているウォームギヤ機構を取り上げ,ウォーム
とウォームホイールとの間の滑りが大きいこと等の問題を挙げ,発明
の解決課題として,高速回転性を持ち,ワークテーブルの回転トルク
がモータに伝達されないような非可逆回転特性を持つ回転割り出し式
ワークテーブル装置を提供することを挙げ,この課題を解決するため
に,伝達機構を,それぞれ鋼材からなり,焼き入れ研磨されたピニオ
ンおよび歯車からなる非可逆回転特性を持つ食い違い傘歯車機構を含
むものとしている。
確かに,刊行物2には,カムとカムフォロアを用いた動力伝達機構
が記載されているが,刊行物2には,当該カムとカムフォロアを用い
た動力伝達機構が非可逆回転特性を備えているとの記載は全く存在し
ない。
したがって,非可逆回転特性を有することを前提とした引用発明の
技術的思想をきちんと理解した当業者であれば,刊行物1記載の「そ
れぞれ鋼材からなり,焼き入れ研磨されたピニオンおよび歯車からな
る非可逆回転特性を持つ食い違い傘歯車機構」に換えて,非可逆回転
特性を備えているとの記載が存在しない刊行物2記載の動力伝達機構
を採用するはずがない。そうであるにもかかわらず「ワークテーブル
の回転割り出しの機能が損なわれることはない」との一言をもって阻
害要因を否定した審決は,引用発明の技術的思想を無視しており誤っ
ている。
bまた,上記エ(ア)のとおり,刊行物1(甲1)の段落【0003】
には,ウォームギヤ機構を用いることの問題点が記載されている。こ
こで,入力軸とモータ間に,例えば,刊行物2記載のようにウォーム
ギヤ機構を介在させる構成は,まさに,刊行物1において問題点が指
摘されているウォームギヤ機構を殊更に用いることに外ならない。こ
のような構成を採用することは,引用発明を,その目的と反する方向
に変更する行為であり,当業者であれば行うはずのない行為である。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)∼(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
(1)取消事由1に対し
ア刊行物2(甲2)には,1頁左欄7行∼9行,2頁左下欄13行∼15
行及び4頁左上欄4行∼5行に,「所要の軸間距離に設定したターレット
1が一体に固着されたターレット軸6と,」と記載されており,「ターレ
ット1」は「ターレット軸6」に固着により一体に,すなわち「ターレッ
ト1」は「ターレット軸6」に固着により取り付けられていることが記載
されている。さらに,3頁左下欄1行∼3行には,「前記ターレット1
は,ターレット軸6と一体で,前記カム軸5と軸角が直角で,所要の軸間
距離に設定されている。」と記載され,「ターレット1」は「ターレット
軸6」に一体に,すなわち「ターレット1」は「ターレット軸6」に取り
付けられていることが明記されている。
一方,図面には,第1図∼第5図にその実施例が示されており,第1図
にはグロボイダルカム方式の間歇回転運動機構斜視図が示され,「ターレ
ット1」が「グロボイダルカム2」に係合している図が示されている。ま
た,第3図,第4図には,刊行物2に記載された発明の要部を示す縦断正
面図及び縦断右側面図が示され,第5図には,当該発明の1使用例を示す
同縦断側面図が示されている。そして,第4図を見ると,「ターレット
1」は,グロボイダルカム2に係合しており,そのグロボイダルカム2に
係合している部材は,ターレット軸6に取り付けられている。図中におい
て,ターレット軸6は,ハッチングされているが,「ターレット1」であ
るとされる符号「1」で示されている部材は,外方に突出するとともに,
グロボイダルカム2に係合しており,ハッチングされていない。このこと
は,第5図においても同様である。そして,第1,4,5図には,当該外
方に突出した部分がターレット軸6に6個設けられていることが示されて
いる。そうすると,第1,4,5図には,グロボイダルカム2に係合する
部材,すなわち,第4,5図に示された「ターレット1」の符号「1」で
示された部材(カムフォロア)が,ターレット軸6に取り付けられている
ことが示されている。
したがって,刊行物2に記載のターレット軸6には,ターレット1(カ
ムフォロア)が取り付けられているといえる。そして,ターレット軸6と
ターレット1(カムフォロア)との間に介在する部材は無いのであるか
ら,ターレット軸6には,ターレット1(カムフォロア)が直接取り付け
られているといえる。
さらに,刊行物2の記載事項及び第1,4,5図から,ターレット1
(カムフォロア)は,グロボイダルカム2に係合する部材からなり,その
数は複数(6個)からなるのであるから,ターレット軸6は,直接取り付
けられた複数のターレット1(カムフォロア)を備えているといえる。
以上のとおり,刊行物2には「複数のターレット1」については全く記
載されていないとの原告の主張は失当であり,審決の「前記ターレット軸
6は,直接取り付けられた複数のターレット1を備え」ているとの認定及
び「前記ターレット軸6は,前記カム軸5の回動により前記複数のターレ
ット1が前記グロボイダルカム2に順次係合されて回動する」との認定に
誤りはない。
イ刊行物2に記載されたグロボイダルカムを用いたグロボイダルカム式動
力伝達機構において,乙1(特開昭64−21262号公報[発明の名称
「グロボイダルカム式減速装置」,出願人津田駒工業株式会社,公開日
平成元年(昭和64年)1月24日]の特許請求の範囲,6頁右下欄10
行∼20行及び第1図の記載)乙2(実願平5−42858号[実開平,
7−7830号公報]のCD−ROM[考案の名称「スイングアームの倍
送り装置」,出願人三井精機工業株式会社,公開日平成7年2月3日]
段落【0009】,【0012】及び図1,2)から明らかなように,グ
ロボイダルカムに係合する部材(カムフォロア)もターレットを構成する
部材であることは技術常識であり,これらの技術常識を踏まえれば,刊行
物2の第1図に記載のターレット1は,グロボイダルカム2に係合する部
材(カムフォロア)が取り付けられたホイール形状の部分が,ターレット
軸6と一体になっているために,ターレットの「グロボイダルカム2に係
合する部材(カムフォロア)」が「ターレット1」として示されていると
解するのが自然である。このことは,刊行物2の第4図,5図においても
同様である。
ウ本願発明において,「直接取り付けた」ことの意味を解釈するに当た
り,本願の明細書及び図面の記載を参酌すると,以下のとおりである。
(ア)本願明細書(甲3)には,「複数のカムフォロア」の取付けに関
し,以下のように記載されている。
・「回転テーブル12の下面側には,回動軸としての軸体をなす円筒状
のターレット9が垂下され,ターレット9の外周面の下部には,周方
向に沿って等間隔に配置された複数のカムフォロワ8が設けられてい
る。」(段落【0025】)
・「さらに詳述すると,軸体状のターレット9の一端部には,その周方
向,すなわち回転方向に沿って適宜間隔を隔てて,ローラギアカム4
8に係合されてカム機構を構成するカムフォロワ8が設けられる。外
輪環状体7は,上環状部材7aと,この上環状部材7aの下側にわず
かなギャップを隔てて重ね合わされる下環状部材7bとから構成され
る。上環状部材7aは,外周面のフランジ部6を介してユニット固定
ボルト35によりハウジング2に固定される。下環状部材7bは,組
み付けボルト36により上環状部材7aに固定される。」(段落【0
033】)
(イ)また本願明細書(甲3)には,「ターレット9」の加工に関し,以
下のように記載されている。
・「このように構成されたクロスローラ軸受30を備える回動テーブル
装置10にあっては,剛性の高い部品であるターレット9に直接加工
して内側軌道部25を形成するようにしたので,加工歪みのない真円
に近い内側軌道部25を形成することができる。また,従来のように
市販品を組み付けた際に,内輪等の凹凸に起因して内側軌道部に歪み
変形が発生してしまうという問題も解決することができる。特に,タ
ーレット9の加工にあたって,好ましくはターレット9の加工と相前
後する時期に,ターレット9の外周に直接第1V字状溝34を構成す
る内側軌道部25を作り出すようにすることで,内側軌道部25の加
工中心はターレット9の加工中心と完全に一致し,従ってターレット
9の回転軸心x2とクロスローラ軸受30の内側軌道部25の芯とを
一致させることができ,これらの位置ずれを排除することができ
る。」(段落【0038】)
・「このように本実施形態にあっては,ターレット9に対して直接内側
軌道部25を形成することにより,従来の軸受構造における精度劣化
の要因を一挙に解消することができて,きわめて運動精度の高い回動
テーブル装置及びこれを用いた工作機械を実現することが可能とな
る。」(段落【0039】)
・「本実施形態にあっては,内側軌道部25をターレット9に直接加工
して形成し,外側軌道部27の方を,ターレット9を囲繞するハウジ
ング2側に取り付けられた外輪環状体7に形成する場合について説明
したが,反対にハウジング2が軸状部を有し,ターレット9がこの軸
状部を囲繞して取り付けられる場合などには,内側軌道部25をハウ
ジング2側に形成し,外側軌道部27の方をターレット9に直接加工
して形成するようにしても良いことはもちろんである。」(段落【0
043】)
(ウ)本願の第2図,第4図,第5図を見るに,ターレット9の端部に,
その周方向,すなわち回動方向に沿って間隔を隔てて直接取り付けられ
たと思われるカムフォロア8が開示されている。
(エ)上記(ア)∼(ウ)の明細書及び図面の記載から見て,本願の明細書及
び図面には,ターレット9の外周に直接,内部軌道部であるV字状溝を
形成すること及びカムフォロア8がターレット9の端部に,その周方
向,すなわち回動方向に沿って間隔を隔てて直接取り付けたことが記載
されているにとどまり,カムフォロア8の取付けのための具体的な加工
やその構造については,記載されていない。
(オ)さらに,本願明細書(甲3)には,「回転テーブル12」を回転さ
せるための駆動力の伝達に関し,以下のように記載されている。
「モータ等の不図示の駆動手段により入力軸44が駆動されると,入
力軸44は,ハウジング2に対して回転する。入力軸44が回転すると
ローラギヤカム48も回転し,これと噛み合っているカムフォロア8が
前記カム面48aに順次係合されて,回転駆動力が回転テーブル12に
伝達され,回転テーブル12がターレット9の回転軸を中心として回転
する。」(段落【0028】)
(カ)したがって,本願発明の「該回動方向に沿って間隔を隔てて直接取
り付けられた複数のカムフォロア」とは,本願の明細書及び図面の記載
を参酌すれば,軸体をなす円筒状のターレット9の一端部に,その周方
向,すなわち回転方向に沿って間隔を隔てて,ローラギアカム48に係
合されてカム機構を構成するように設けられたカムフォロア8を有し,
駆動装置からの駆動力をローラギアカム48,カムフォロア8を介し
て,ターレット9に伝達するといった機能を有するものを意味している
にすぎない。
エしてみれば,本願発明の「該回動方向に沿って間隔を隔てて直接取り付
けられた複数のカムフォロア」は,ターレット軸6の端部に,その周方
向,すなわち回転方向に沿って間隔を隔てて設けられたグロボイダルカム
2に係合する部材(カムフォロア)を一体に有し,駆動装置からの駆動力
をグロボイダルカム2に係合する部材(カムフォロア)を介して,ターレ
ット軸6に伝達する機能を有する刊行物2に記載された事項の,ターレッ
ト軸6に対して「直接取り付けられた複数のターレット1(カムフォロ
ア)」と同様のものである。
オ原告は,刊行物2(甲2)の第1図において,ターレット1には,紙面
表裏方向に貫通する六つの穴が設けられているが,これらの穴にボルトを
通すことにより,ターレット1をターレット軸6に取り付ける,すなわ
ち,固着することが可能である旨主張している。
しかし,上記第1図には,ターレット1であると称するホイール形状の
部分に「○内に縦の曲線が描かれた形状」のものが図示されているが,そ
れについての説明は無いので,当該形状のものが原告主張のように,紙面
表裏方向に貫通する穴であるとか,ボルトを通す穴であるとか,さらにそ
れはターレット1をターレット軸6に取り付けるためのものであると解す
ることはできない。
(2)取消事由2に対し
ア前記(1)で述べたとおり,刊行物2(甲2)には,ターレット軸6に対
して,グロボイダルカム2に係合する部材(カムフォロア)が直接取り付
けられたものが記載されており,そのグロボイダルカム2に係合する一つ
一つの部材(カムフォロア)をターレット1と捉えることができるから,
複数のターレットからなるものが開示されている。したがって,審決が,
「…刊行物2に記載の事項の…『ターレット1』…は,それぞれ本願発明
の…『「カムフォロア』…に相当していることが明らかである。してみる
と,刊行物2に記載の事項は,『…,前記軸体は,回動方向に沿って間隔
を隔てて直接取り付けられた複数のカムフォロアを備え,…,前記軸体
は,前記入力軸体の回動により前記複数のカムフォロアが前記カム面に順
次係合されて回動すること。』と言い換えることができる。そして,引用
発明と刊行物2に記載の事項とは,ともに回動テーブル装置の駆動手段と
いう共通の技術分野に属するものであり,引用発明の軸体の伝達機構とし
て刊行物2記載の事項を採用して上記相違点1に係る本願発明の特定事項
とすることは当業者が容易になし得たことである。」と判断したことに誤
りはない。
イ原告は,引用発明の軸体の伝達機構として刊行物2記載の事項を採用し
たとしても,内輪が一体に形成されるスピンドル196と,カムフォロア
が取り付けられるターレット1とは別の部品であるから,本願発明の「前
記軸体は,その回動方向に沿って直接形成された第1V字状溝と,当該回
動方向に沿って間隔を隔てて直接取り付けられた複数のカムフォロアとを
備え」という特定事項は実現し得ない旨主張している。
しかし,前記(1)のとおり,刊行物2には,ターレット軸6に対して,
グロボイダルカム2に係合する部材(カムフォロア)が直接取付けられた
ものが記載されているのであるから,引用発明における,内輪が一体に形
成された駆動力伝達機構である軸体としてのスピンドル196に換えて,
刊行物2に記載されたターレット軸6を採用すれば,ターレット軸6には
グロボイダルカム2に係合する部材(カムフォロア)が直接取付けられて
いるのであるから,本願発明の「その回動方向に沿って直接形成された第
1V字状溝と,当該回動方向に沿って間隔を隔てて直接取り付けられた複
数のカムフォロアとを備え」た軸体が得られることは明らかである。
(3)取消事由3に対し
ア引用発明と刊行物2に記載された発明は,いずれも,工作機械におけ
る,被加工物を加工位置に位置させるための回動テーブル装置に関するも
のであり,それぞれ,引用発明においては「ワークテーブル」を,刊行物
2記載の発明においては「間歇回転テーブル」を回転させるものであるか
ら,被加工物を加工位置に位置させるためにテーブルを回転させる駆動力
伝達機構という点において共通しており,同一の技術分野に属するもので
ある。
また,グロボイダルカムを用いた駆動力伝達機構は,バックラッシが少
なく高速駆動に適したものであることは,乙1(特開昭64−21262
号公報,3頁左下欄18行∼右下欄14行及び8頁右上欄14行∼左下欄
7行)にもあるとおり従来周知であるから,グロボイダルカムを用いた刊
行物2に記載の駆動力伝達機構技術を,高速駆動とバックラッシを少なく
するといったことを目的として,駆動力伝達機構にピニオン158及び大
歯車162を用いている引用発明に適用することは,当業者が容易に想到
することができるものであり,それを困難にするような技術分野の違いが
あるとはいえない。
イ原告は,刊行物1記載の第2実施例の任意割り出し位置方式のワークテ
ーブル装置と刊行物2記載の固定割り出し位置方式の間歇回転テーブルと
は,共通の技術分野に属するものではないと判断すべきである旨主張して
いる。
しかし,刊行物1のワークテーブル装置の駆動力伝達機構は,モータ1
54により駆動されたピニオン158の回転が,大歯車162に伝達さ
れ,大歯車162と固定されたスピンドル196を介してワークテーブル
132が回転させられるものであり,また,刊行物2のワークテーブル装
置の駆動力伝達機構は,モータ9により駆動されたカム軸の回転が,グロ
ボイダルカム2とターレット1(カムフォロア)を介してターレット軸6
が回転し,間歇回転テーブル11が回転させられるものであり,共にモー
タの駆動力をワークテーブルに伝達する機構として共通しており,固定割
り出し位置方式とするか任意割り出し位置方式とするかにより,ワークテ
ーブル装置の伝達機構として格別異なる点は見いだせない。
(4)取消事由4に対し
ア原告は,引用発明から,ピニオン及び歯車からなる非可逆回転特性を持
つ食い違い傘歯車機構という必須構成要素を取り除くことは,引用発明の
技術的思想の意義を無さしめる行為である旨主張している。
しかし,審決において,「…また,引用発明における『スピンドル19
6は,前記ピニオン158の回動が前記大歯車162に伝達されて回動す
る』ことは,『軸体は,前記入力軸体の回動により伝達機構を介して回動
する』ことという限りで,本願発明における『前記入力軸体の回動により
前記複数のカムフォロアが前記カム面に順次係合されて回動する』ことと
共通している。」(5頁15行∼20行)と認定しているように,刊行物
1における,「スピンドル196は,ピニオン158の回動が前記大歯車
162に伝達されて回動する」という機構は,「軸体は,入力軸体の回動
により伝達機構を介して回動する」という機構として把握することができ
るのであり,刊行物1からは,ピニオン及び歯車からなる非可逆回転特性
を持つ食い違い傘歯車機構のみしか把握できないことを前提とした上記原
告の主張は失当である。
イそして,グロボイダルカムを用いた駆動力伝達機構は,バックラッシが
少なく高速駆動に適したものであるということが従来周知であることは,
前記(3)で述べたとおりであり,また,工作機械の技術分野において,被
加工物が所定の位置からずれることが好ましいことでなく,そのような被
加工物の所定位置からのずれを生じさせないようにする工夫(例えば,非
可逆回転特性を有する構造)を施すことは,刊行物1(甲1)の段落【0
001】∼【0004】にも記載されているとおり,従来技術にすぎず,
当該技術分野の当業者が普通に考慮する事項にすぎない。
ウしたがって,当業者が,引用発明の軸体の駆動力伝達機構として,刊行
物2記載の事項を採用する際においても,被加工物の所定位置からのずれ
を生じさせないようにすることを当然考慮するものであり,それに応じた
工夫を適宜施すことも上記のとおり従来技術であるから,刊行物2記載の
グロボイダルカム機構を採用することが,直ちに引用発明の技術的思想の
意義を無さしめるものではない。
(5)取消事由5に対し
ア本願発明の構成自体が,想到容易なものであったことは審決においても
述べたとおりであり,引用発明が,軸体の回動方向に沿って第1V字状溝
を直接形成され,刊行物2には,複数のグロボイダルカム2に係合する部
材(カムフォロア)がターレット軸6に直接取り付けられたものが記載さ
れているから,原告が主張する,本願発明の「第1V字状溝をその一部と
するクロスローラ軸受に支持された軸体の回動中心軸に対する各カムフォ
ロアの相対位置精度を高くすることが可能とな」り,「入力軸体が回動す
ることによって複数のカムフォロアが順次カム面に接触した際に,各カム
フォロアとカム面との接触状態のばらつきを極めて小さくすることがで
き,軸体を高精度に駆動することができる」という作用効果は,引用発明
及び刊行物2記載の発明から当業者にとって十分に予測可能なものであ
る。
イ原告が主張する上記作用効果は,同じ軸体に対して第1V字状溝及び複
数のカムフォロア取付穴を直接加工することにより生じるものであるが,
本願の明細書(甲3,9)には,特許請求の範囲,段落【0015】,【
0016】に「前記軸体は,その回動方向に沿って直接形成された第1V
字状溝と,直接取り付けられた複数のカムフォロアとを備え」との記載が
あるのみで,軸体におけるカムフォロアの取付穴などの取付構造やその加
工については何ら記載されておらず,また,一つの軸体に対して,軸受用
の溝や当該軸体に回転を伝達するための部材等を直接加工することは,機
械加工において広く行われ,それによって加工部の相対位置精度が高くな
ることは,例えば,乙3(特開2001−336603号公報[発明の名
称「ピニオン軸支持用軸受ユニット」,出願人光洋精工株式会社,公開
日平成13年12月7日]段落【0018】,【0023】∼【002
4】及び図1)及び乙4(特開昭58−142023号公報[発明の名称
「複合運動用ボールスプライン」,出願人A,公開日昭和58年8月2
3日]2頁左上欄2行∼右上欄4行,3頁右上欄8行∼左下欄3行及び第
3図,第4図等)に示されるように,従来周知の事項である。
ウそうすると,本願発明は,原告が主張するように格別優れた作用効果を
奏するものであると解すべき理由もない。
(6)取消事由6に対し
ア原告は,引用発明において刊行物2記載のグロボイダルカム機構を用い
た伝達機構を用いることには阻害要因が存在する理由として,刊行物2に
は,動力伝達機構が非可逆回転特性を備えているとの記載は全く存在しな
いため,非可逆回転特性を有することを前提とした引用発明に,非可逆回
転特性を備えているとの記載が存在しない刊行物2記載の動力伝達機構を
採用するはずがない旨主張している。
しかし,前記(4)で述べたように,刊行物1における,「スピンドル1
96は,ピニオン158の回動が前記大歯車162に伝達されて回動す
る」という機構は,「軸体は,入力軸体の回動により伝達機構を介して回
動する」という機構として把握することができるのであり,刊行物1から
は,ピニオン及び歯車からなる非可逆回転特性を持つ食い違い傘歯車機構
のみしか把握できないことを前提とした上記原告の主張は失当である。
そして,グロボイダルカムを用いた駆動力伝達機構は,バックラッシが
少なく高速駆動に適したものであるということが従来周知であることは,
前記(3)で述べたとおりであり,審決において,「…引用発明の軸体の伝
達機構として刊行物2記載の事項を採用して上記相違点1に係る本願発明
の特定事項とすることは当業者が容易になし得たことである。」(6頁2
3行∼25行)と判断したことに誤りはない。
また,工作機械の技術分野において,被加工物が所定の位置からずれる
ことが好ましいことでなく,そのような被加工物の所定位置からのずれを
生じさせないようにする工夫(例えば,非可逆回転特性を有する構造)を
施すことは,刊行物1(甲1)の段落【0001】∼【0004】にも記
載されているとおり,ワークテーブル装置の技術分野において慣用手段に
すぎず,当該技術分野の当業者が普通に考慮する事項にすぎない。
したがって,「引用発明において刊行物2記載のグロボイダルカム機構
を用いた伝達機構を用いることには阻害要因が存在する」との原告の主張
は,失当である。
イさらに,原告は,「入力軸とモータ間に,例えば,刊行物2記載のよう
にウォームギヤ機構を介在させる構成は,まさに,刊行物1において問題
点が指摘されているウォームギヤ機構を殊更に用いることに外ならない。
このような構成を採用することは,明らかに,引用発明を,その目的と反
する方向に変更する行為であり,当業者であれば行うはずのない行為であ
る。」と主張している。
しかし,被加工物の所定位置からのずれを生じさせないようにするため
に,非可逆回転特性を備えるようにすることは,当該技術分野の当業者が
普通に考慮する事項にすぎず,当業者であれば,回転数や精度を考慮して
最適な機構を採用するものであり,その機構として,刊行物2に記載され
たウォームギヤ機構を介在させるようなものも利用することができる。
したがって,「引用発明において刊行物2記載のグロボイダルカム機構
を用いた伝達機構を用いることには阻害要因が存在する」との原告の主張
は,失当である。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2本願発明の意義
(1)本件補正後の【請求項1】は,前記第3,1(2)のとおりであり,また上
記補正後の明細書の【発明の詳細な説明】の記載は,次のとおりである(甲
3,9)。
ア発明の属する技術分野
「本発明は,被加工物を保持して回動させる回動テーブル装置,及び,
この回動テーブル装置を備えた工作機械に関する。」(甲3,段落【00
01】)
イ従来の技術
・「軸体を回動軸として回動する回動テーブルを備えた回動テーブル装
置としては,例えば,マシニングセンタ等の工作機械に用いられて被工
作物を保持して回転させる回転テーブル装置が知られている。」(甲
3,段落【0002】)
・「図11に従来の回転テーブル装置50の内部構造を示している。こ
の回転テーブル装置50は,工作機械のベッド52上に設けられたレー
ル54に沿って移動可能なハウジング56と,ハウジング56上部に設
けられた回転テーブル58とを有している。ハウジング56は,器状を
なし,その底部中央に固定軸60が立設され,上部開口部は,固定軸6
0と同心状をなす環状の縁部62が形成されている。」(甲3,段落【
0003】)
・「回転テーブル58は,その下面から垂設された筒状の回転軸体64
を有し,その内側に前記固定軸60が挿入され,回転軸体64と固定軸
60との間に,外輪と内輪との間に複数のボールが設けられたボール軸
受66を介して回転テーブル58をハウジング56に対して回動可能と
している。また,回転テーブル58の周縁部の下面側と,ハウジング5
6の環状の縁部62とは対向し,それらの間にはスラスト軸受68が設
けられ,回転テーブル58がハウジング56に支持されている。」(甲
3,段落【0004】)
・「また,上記ボール軸受66とスラスト軸受68に替えて,図12に
示すように,回転軸体64と固定軸60との間に,外輪と内輪とを有し
それらの間に転動体70を介在させて一体に構成されたクロスローラ軸
受72を介装した回転テーブル装置50aも知られている。このクロス
ローラ軸受72は,外輪72aが回転軸体64の下端内周部に設けられ
た凹部64aに,内輪72bが固定軸60の上端外周部に設けられた凹
部60aにそれぞれ嵌合されて,回転テーブル58がハウジング56に
支持されている。」(甲3,段落【0005】)
・「また,ハウジング56には一対の軸受を介して回転自在に支持さ
れ,前記回転軸体64と直交する入力軸74が設けられ,この入力軸7
4にはウォームギア76が設けられている。前記回動軸体64の外周部
には第1のギア80が設けられ,この第1のギア80と噛み合う第2の
ギア78と,前記ウォームギア76と噛み合うウォームホイール82と
が,ハウジング56に設けられた中間軸に設けられている。そして,こ
の回転テーブル装置50,50aは,入力軸74の回転を,これらギア
列を介して運動変換し,回転テーブル58を回転させるようになってい
る。」(甲3,段落【0006】)
ウ発明が解決しようとする課題
・「近年,高性能な電子機器の開発に伴って各種部品の小型化,高密度
化が進み,これら各種部品を加工する工作機械等に対する要求精度もき
わめて高いレベルとなり,従来の装置で得られる精度ではこのような要
求に応えることが難しい現状にある。特に,工作機械の被加工物を保持
する回転テーブルの僅かな偏心やがたつき等は,加工された部品にわず
かな加工誤差を生じさせることになる。したがって,上記のように固定
軸60と回転軸体64との間および回転テーブル58とハウジング56
との間にそれぞれ軸受66,68を介在させたり,固定軸60と回転軸
体64との間に外輪及び内輪とを有するクロスローラ軸受72を介した
構成の回転テーブル58を使用した工作機械では,高い加工精度を確保
することが難しく,一度加工した被加工物に再加工などの作業を何度も
繰り返さねばならないという問題があった。」(甲3,段落【0007
】)
・「ここで,軸受構造に対して十分な精度を確保することができない一
要因として,一旦組み付けた軸受がその後精度低下を引き起こす原因に
ついて,一般的な軸受構造を例に説明する。」(甲3,段落【0008
】)
・「①出力軸aの軸外形と出力軸aの外周面に接する軸受bの内輪c内
面との間に隙間dがある。図13に示すように,出力軸aの軸外形が真
円であり,かつまた軸受bの内輪cの内面が真円であっても,軸受bの
仕上がり寸法が大きい場合には,組み付けた際に隙間dができてしま
う。この隙間dにより,カム機構で得られた運動で回転する出力軸aの
回転中心eと,軸受bの回転中心fとがずれてしまう。これにより,高
い運動精度を得ることができないだけでなく,荷重の移動に伴って隙間
dの位置も変動するため,出力軸aと内輪cとの間で摩擦を生じて熱を
発生し,結果的に装置寿命を短くしてしまう。」(甲3,段落【000
9】)
・「②出力軸aの軸外形が真円でない。②の問題を回避するために,通
常はしまりばめを用いることが多い。ところが,図14に示すように,
出力軸aの軸外形が真円でなく,わずかでも凹凸があった場合には,た
とえ軸受bの内輪cが十分な精度であったとしても,これを出力軸aに
組み付けた時点で,出力軸aの軸外形と同じような凹凸が内輪cに現
れ,転動体gが回転する軌道面hを歪ませてしまう。転動体gが軌道面
h上を転動する際,この凹凸のために,軌道面hに強く接触する箇所
と,接触が得られない箇所とができ,このために回転が安定せず,また
回転中心も一定しないことから,運動精度を高く確保することもできな
い。そしてまた,転動体gと軌道面hとが強く接触する箇所では摩耗も
激しく,装置寿命を短くしてしまう。」(甲3,段落【0010】)
・「③軸受bの内輪c内面に凹凸がある。上記②とは別のパターンで,
図15(a)の出力軸a装着前および(b)の出力軸a装着後に示すよ
うに,内輪cの内面に凹凸があった場合には,出力軸aの軸外形が真円
であったとしても,当該出力軸aによって内輪c内面の凸部が押し出さ
れて反対側の内輪cの軌道面hに凸部が形成されてしまい,結果的に内
輪cの軌道面hに凹凸が現れることとなって上記②と同様な問題を生ず
る。」(甲3,段落【0011】)
・「④軸受bの端面iが出力軸aに対して直角とならない。図16に示
すように,軸受bを固定するために,通常はフランジ等の突き当て部j
に軸受bの端面iを突き当てるようにしている。軸受bを突き当て部j
に突き当てたときに,この突き当て部jに加工残りがあったり,塵埃や
切り粉等を挟み込んでしまった場合には,軸受bが出力軸aに対して傾
いた状態で固定されてしまう。この結果起こる運動精度の低下は,上記
①の状況と類似していて,出力軸aの回転中心eに対して軸受bの回転
中心fが傾いた状態となって,安定した回転を得ることはできない。以
上は,出力軸aとこれに組み付けられる軸受bの内輪cとの関係で発生
する。」(甲3,段落【0012】)
・「そして,このように市販されている高精度タイプの軸受を用いて
も,種々の要因により,回転テーブルの回転運動の精度を高く確保する
ことが難しく,回転テーブルに保持された被加工物に対し高精度の加工
を実現することができる技術の案出が望まれていた。」(甲3,段落【
0013】)
・「そこで,本発明はかかる従来の課題に鑑みて成されたもので,軸受
部分の組み上がり精度を向上できて,回動テーブルの回転運動の精度を
高く確保することができる回動テーブル装置及びこの回動テーブル装置
を備えた工作機械を提供することを目的とする。」(甲3,段落【00
14】)
エ課題を解決するための手段
「かかる目的を達成するために,被加工物を加工するための工作機械に
用いられる回動テーブル装置において,
回動する回動テーブルと,
前記回動テーブルとともに回動する軸体と,
前記軸体を回動自在に支持する支持基台と,を備え,
前記軸体は,その回動方向に沿って直接形成された第1V字状溝と,当
該回動方向に沿って間隔を隔てて直接取り付けられた複数のカムフォロア
とを備え,
前記支持基台は,前記第1V字状溝に対向する第2V字状溝を有し,
前記軸体に動力を入力する入力軸体を有し,該入力軸体は当該入力軸体
が回動して位相が軸方向に変位するカム面を備え,
前記軸体と前記支持基台との間に,前記2つのV字状溝と接触して転動
する複数の転動体を介在させるとともに,複数の転動体のうち隣接する転
動体の転動軸を互いに直交させてクロスローラ軸受を構成し,
前記軸体は,前記入力軸体の回動により前記複数のカムフォロアが前記
カム面に順次係合されて回動することを特徴とする。」(甲9,段落【0
015】)
オ発明の実施の形態
(ア)・「回転テーブル12の下面側には,回動軸としての軸体をなす円
筒状のターレット9が垂下され,ターレット9の外周面の下部には,
周方向に沿って等間隔に配置された複数のカムフォロワ8が設けられ
ている。」(甲3,段落【0025】)
・「回動テーブル12に駆動力を入力する入力軸体としての入力軸4
4は,一対のボール軸受46により,ハウジング2に対して回転自在
に支持されている。この入力軸44にはカムとしてのローラギヤカム
48が設けられている。このローラギヤカム48は,入力軸44が回
動して位相が軸方向に変位するカム面48aを有し,このカム面48
aとターレット9のカムフォロア8とが噛み合っている。ここでは,
ローラギヤカム機構として,停止中だけでなく,割出中もバックラッ
シが発生しないグロボイダルカムを用いている。」(甲3,段落【0
026】)
・「モータ等の不図示の駆動手段により入力軸44が駆動されると,
入力軸44は,ハウジング2に対して回転する。入力軸44が回転す
るとローラギヤカム48も回転し,これと噛み合っているカムフォロ
ア8が前記カム面48aに順次係合されて,回転駆動力が回転テーブ
ル12に伝達され,回転テーブル12がターレット9の回転軸を中心
として回転する。」(甲3,段落【0028】)
(イ)「さらに詳述すると,軸体状のターレット9の一端部には,その周
方向,すなわち回転方向に沿って適宜間隔を隔てて,ローラギアカム
48に係合されてカム機構を構成するカムフォロワ8が設けられる。
外輪環状体7は,上環状部材7aと,この上環状部材7aの下側にわ
ずかなギャップを隔てて重ね合わされる下環状部材7bとから構成さ
れる。上環状部材7aは,外周面のフランジ部6を介してユニット固
定ボルト35によりハウジング2に固定される。下環状部材7bは,
組み付けボルト36により上環状部材7aに固定される。」(甲3,
段落【0033】)
(ウ)・「このように構成されたクロスローラ軸受30を備える回動テー
ブル装置10にあっては,剛性の高い部品であるターレット9に直接
加工して内側軌道部25を形成するようにしたので,加工歪みのない
真円に近い内側軌道部25を形成することができる。また,従来のよ
うに市販品を組み付けた際に,内輪等の凹凸に起因して内側軌道部に
歪み変形が発生してしまうという問題も解決することができる。特
に,ターレット9の加工にあたって,好ましくはターレット9の加工
と相前後する時期に,ターレット9の外周に直接第1V字状溝34を
構成する内側軌道部25を作り出すようにすることで,内側軌道部2
5の加工中心はターレット9の加工中心と完全に一致し,従ってター
レット9の回転軸心x2とクロスローラ軸受30の内側軌道部25の
芯とを一致させることができ,これらの位置ずれを排除することがで
きる。」(甲3,段落【0038】)
・「このように本実施形態にあっては,ターレット9に対して直接内
側軌道部25を形成することにより,従来の軸受構造における精度劣
化の要因を一挙に解消することができて,きわめて運動精度の高い回
動テーブル装置及びこれを用いた工作機械を実現することが可能とな
る。」(甲3,段落【0039】)
(エ)・「本実施形態にあっては,内側軌道部25をターレット9に直接
加工して形成し,外側軌道部27の方を,ターレット9を囲繞するハ
ウジング2側に取り付けられた外輪環状体7に形成する場合について
説明したが,反対にハウジング2が軸状部を有し,ターレット9がこ
の軸状部を囲繞して取り付けられる場合などには,内側軌道部25を
ハウジング2側に形成し,外側軌道部27の方をターレット9に直接
加工して形成するようにしても良いことはもちろんである。」(甲
3,段落【0043】)
・「以上説明した本発明にかかるクロスローラ軸受30はその構成か
らして,高精度の位置決め運動が要求される回転テーブル装置に採用
することは有効であり,特に,上記実施形態で例示したようなグロボ
イダルカムを備える回転テーブル装置は,連続切削加工中であって
も,単なるギヤ機構のようなガタツキが発生しない。このため,上記
のような回転テーブル装置を用いた工作機械によれば,滑らかな連続
曲線を容易に加工することができ,きわめて優秀な性能を発揮させる
ことが可能となる。」(甲3,段落【0044】)
カ発明の効果
・「以上説明したように本発明に係る回動テーブル装置にあっては,回
動テーブルの回動軸をなす軸体と,支持基台との間に介在させて構成す
るクロスローラ軸受の,転動体が接触して転動する第1V字状溝を直接
軸体に形成したので,軸体を加工する際には,軸体の加工と同時に第1
V字状溝を形成することが可能となる。すなわち,第1V字状溝を加工
する際に,軸体を取り外すことなく加工できるため,軸体の回転軸と第
1V字状溝の中心軸とを一致させることが可能となり,これらの位置ず
れをほぼ完全に排除することができる。これにより,従来のように市販
品を組み付けた際に,2つの部材に設けられた軸受取り付け部の偏心等
に起因する軸受の組み立てによる精度低下や,内輪等の凹凸に起因して
転動体の軌道に歪み変形による運動精度の低下等の問題を解決すること
ができる。」(甲3,段落【0045】)
・「このように本発明にあっては,回動テーブルの軸体に対して直接V
字状溝を形成することにより,従来の軸受構造における精度劣化の要因
を一挙に解消することができて,きわめて運動精度の高い回動テーブル
装置を作り出すことが可能となる。」(甲3,段落【0046】)
・「また,回動テーブル装置は,入力軸体が回動して位相が軸方向に変
位するカム面を備えた入力軸体の回動により複数のカムフォロアが前記
カム面に順次係合されて回動することとしたので,高精度の位置決め運
動が要求される回転テーブル装置に採用することは有効である。」(甲
3,段落【0047】)
・「また,本発明に係る工作機械にあっては,工具保持体に対し直交す
る3方向に相対移動可能な回動テーブル装置のクロスローラ軸受を構成
し,回動テーブルの回動軸をなす軸体に,転動体が接触して転動する第
1V字状溝を直接軸体に形成したので,高い運動精度を備えた回動テー
ブル装置を有する工作機械が実現可能となり,工作機械の加工精度を向
上させることが可能となる。」(甲3,段落【0048】)
・「さらに,工作機械が備える回動テーブル装置は,入力軸体が回動し
て位相が軸方向に変位するカム面を備えた入力軸体の回動により複数の
カムフォロアが前記カム面に順次係合されて回動することとしたので,
高精度の位置決め運動が可能であり,この工作機械によって加工された
工作物の精度をさらに向上させることが可能となる。」(甲3,段落【
0049】)
キ【図2】(本発明にかかる回転テーブル装置の縦断面図)
(2)上記(1)の記載によれば,本願発明は,被加工物を加工するための工作機
械に用いられる回動テーブル装置に関する発明であって,回動テーブルの回
動軸をなす軸体と,支持基台との間に介在させて構成するクロスローラ軸受
の,転動体が接触して転動する第1V字状溝を直接軸体に形成することによ
り,軸体の回転軸と第1V字状溝の中心軸とを一致させることが可能とな
り,これらの位置ずれをほぼ完全に排除することができるとともに,入力軸
体が回動して位相が軸方向に変位するカム面を備えた入力軸体の回動によ
り,回動方向に沿って間隔を隔てて軸体に直接取り付けられた複数のカムフ
ォロアがカム面に順次係合されて回動することとしたので,高精度の位置決
め運動が可能となったものである。
3引用発明の意義
(1)刊行物1(特開平5−305538号公報[発明の名称「回転割り出し
式ワークテーブル装置」,出願人ブラザー工業株式会社,公開日平成5年
11月19日]。甲1)には,次の記載がある。
ア産業上の利用分野
「本発明は,回転割り出し式ワークテーブル装置に関するものであり,
特に高速回転性と,ワークテーブルの回転トルクがモータに伝達されない
非可逆回転特性を持つものに関する。」(段落【0001】)
イ従来の技術
・「工作機械の中には,被加工物を保持して予め定められた角度ずつ回
転させる回転割り出し式ワークテーブル装置を備えたものがある。回転
割り出し式ワークテーブル装置は,ワークテーブル,駆動モータ,伝達
機構およびモータ制御回路を備え,モータ制御回路は駆動モータの回転
制御を行い,駆動力伝達機構はモータから駆動力をワークテーブルに伝
える。この伝達機構は,ギヤ機構の使用によりモータ回転数をワークテ
ーブルの必要とする回転数まで低下させるとともに,回転トルクを増大
させてワークテーブルに与える機能を持っている。一方,ワークテーブ
ルの慣性や外力によって発生したワークテーブルの回転トルクがモータ
に伝達されることは,被加工物の所定位置からのずれを引き起こすため
好ましくない。そこで,駆動力伝達機構はワークテーブルの回転をモー
タへ伝えないための非可逆回転特性を有していることが望ましい。」
(段落【0002】)
・「そのため,従来は,駆動力伝達機構にウォームギヤ機構が多く使用
されてきた。ウォームギヤ機構は,ウォームとウォームホイールとを含
み,大きな減速比を得ることができるとともに,非可逆回転特性を備え
ている。しかし,ウォームギヤ機構においては,ウォームとウォームホ
イールとの間の滑りが大きく,回転時の摩擦による発熱のために高速回
転に適さず,また,摩耗により長期運転時の精度を維持することが困難
である。そこで,このような発熱や摩耗に対処すべく素材面での改良が
行われており,ウォームホイールに特殊合金である燐青銅やアルミ青銅
が用いられているがいずれも十分な結果は得られていない。」(段落【
0003】)
ウ発明が解決しようとする課題
「本発明は,上述の事情を背景としてなされたものであり,その解決課
題は,回転式ワークテーブル装置において高速回転性を持ち,ワークテー
ブルの回転トルクがモータに伝達されないような非可逆回転特性を持つ回
転割り出し式ワークテーブル装置を提供することである。」(段落【00
04】)
エ課題を解決するための手段
「この課題を解決するために,本発明の回転割り出し式ワークテーブル
装置では,前記伝達機構を,それぞれ鋼材からなり,焼き入れ研磨された
ピニオンおよび歯車からなる非可逆回転特性を持つ食い違い傘歯車機構を
含むものとした。」(段落【0005】)
オ作用
・「上記焼き入れ研磨されたピニオンおよび歯車からなる食い違い傘歯
車機構は,適切なオフセット量の時,外力の作用によるワークテーブル
の回転をモータに伝達しないような非可逆回転特性を有する。食い違い
傘歯車は,ピニオンの軸と大歯車の軸との食い違い距離であるオフセッ
ト量によって歯面ねじれ角が決まり,概してオフセット量が大歯車の外
径の30%以上(ただし,減速比1/40以上)のとき,非可逆回転特
性を持つに到るのである。ワークテーブルは,一般に大きな質量を有す
るものであり,その上に被加工物が固定されるため,全体として大きな
回転慣性を有する。したがって,伝達機構が非可逆回転特性を有しない
場合には,ワークテーブルを停止させる際,この大きな回転慣性に抗し
てモータを減速させ,停止しなければならず,モータおよびワークテー
ブルを正確な位置で停止させることが困難である。しかるに,本発明に
おいては,非可逆回転特性を有する食い違い傘歯車機構を使用するた
め,ワークテーブルを容易に正確な位置で停止させることができる。」
(段落【0006】)
・「また,食い違い傘歯車機構は,ウォームギヤ機構に比較して歯面で
の滑りが小さいため,回転時の摩擦による発熱や摩耗はウォームギヤ機
構より小さい。また,焼き入れ研磨した歯車を使用することにより歯面
の加工精度を高めることができ,バックラッシを小さくすることができ
るため,高精度の位置決め特性が得られる。」(段落【0007】)
カ実施例
(ア)・「図1は,本発明に係る回転割り出し式ワークテーブル装置の一
例である0°/180°回転ワークテーブル装置10を備えたタッピ
ングマシンを示す。0°/180°回転ワークテーブル装置10は,
ワークを保持して180°ずつ回転するワークテーブル12を備えた
ものであり,本タッピングマシンは,0°/180°回転ワークテー
ブル装置10と,ワークテーブル12上の被加工物を加工するための
加工装置14とを備えている。加工装置14に取り付けられるドリ
ル,センタドリル,タップ等の工具16は三次元空間内の任意の位置
へ移動可能である。これは,加工装置14がX軸方向(図面の紙面に
直角な方向),Y軸方向(図面の左右方向),Z軸方向(図面の上下
方向)に移動可能な3つの部分を有するためである。X軸方向の移動
は,ベッド18に支持されたキャリッジ20が図示しないモータによ
り移動させられることにより,Y軸方向の移動はキャリッジ20上に
支持されたコラム26がモータ24により移動させられることによ
り,Z軸方向の移動はコラム26に支持された主軸ヘッド28がモー
タ30により移動させられることによりなされる。また,工具16は
主軸ヘッド28に取り付けられた主軸モータ32によって回転させら
れ,被加工物を切削する。ワークテーブル12も0°/180°回転
ワークテーブル装置10に内蔵されたモータにより必要に応じて18
0°回転する。このような一連の動作は,ベッド18に取り付けられ
た制御装置34によって制御される。」(段落【0010】)
・「図2に示す如く,本実施例の0°/180°回転ワークテーブル
装置10のワークテーブル12は長方形をなし,長手方向の両端部に
はパレット36,38が設けられている。パレット36,38にそれ
ぞれ,被加工物を直接または治具を介して取り付けるための溝40,
42が切られており,作業時においてワークテーブル12が180°
ずつ回転させられることにより,パレット36,38が交互に,加工
装置14の下方の加工位置と加工装置14から外れた着脱位置とに位
置決めされる。」(段落【0011】)
(イ)・「図7は,本発明の別の実施例であるインデックスワークテーブ
ル装置130を備えたマシニングセンタを示す。インデックスワーク
テーブル装置130は,被加工物を保持して所定角度(任意に設定可
能であり,等角度である必要はない)ずつ回転するワークテーブル1
32(図11参照)を備えたものであり,本マシニングセンタは,イ
ンデックスワークテーブル装置130と,それを支持して水平面内で
直行する2方向に移動可能なスライドワークテーブル134と,加工
装置136とを備えている。ベース138に固定のコラム139に支
持された主軸台140は,コラム139の上端に取り付けられたモー
タ141によって上下方向に移動させられる。主軸台140の図示し
ない主軸に工具ホルダ142を介して取り付けられるドリル,センタ
ドリル,タップ等の工具143は主軸モータ144によって回転させ
られ,被加工物を切削する。工具マガジン145は,マガジンモータ
146によって主軸と直角の軸線回りに回転させられ,工具マガジン
145に収められた工具147および工具ホルダ142を順次最下端
の交換位置まで移動させる。工具147は,揺動モータ148によっ
てその軸線方向を,主軸の軸線と直角な方向から主軸の軸線と平行な
方向に変えられる。工具143と工具147とは,工具交換アーム1
49に保持され,工具交換アーム149がモータ150により180
°旋回させられることによって,互いの位置を変える。」(段落【0
022】)
・「インデックスワークテーブル装置130のワークテーブル132
は,図8および図11に示す如く,食い違い傘歯車機構152を介し
てモータ154によって回転させられる。モータ154の回転は,そ
のモータ154の回転軸に取り付けられた平歯車156と,ピニオン
158に取り付けられた平歯車160との噛み合いによって伝達さ
れ,この回転は,ピニオン158と大歯車162との噛み合いによっ
て上記ワークテーブル132に伝達される。」(段落【0023】)
・「図11に示す如く,ピニオン158の回転は大歯車162に伝達
され,大歯車162と固定されたスピンドル196を介してワークテ
ーブル132が回転させられる。ピニオン158と大歯車162の歯
の形状を図12に示す。ハウジング170にボルト198で外輪が固
定されたクロスローラベアリング200は,内輪がスピンドル196
と一体に形成されており,スピンドル196にはワークテーブル13
2と大歯車162が固定されて回転部202を形成している。回転部
202は,クロスローラベアリング200及び深みぞ玉軸受け172
を介してハウジング170により回転可能に支持されているのであ
る。なお,大歯車162のハウジング170に対する軸方向の位置の
調整は,クロスローラベアリング200の外輪とハウジング170の
肩面203との間のスペーサ204の厚さを変えることにより行われ
る。このスペーサ204による大歯車162の軸方向の位置調整によ
って,ピニオン158と大歯車162とのバックラッシの調整が可能
である。」(段落【0027】)
キ図面
【図1】,【図11】,【図12】は,次のとおりである。
(ア)【図1】(本発明の一実施例である0°/180°回転ワークテー
ブル装置を備えたタッピングマシンの正面図)
(イ)【図11】(本発明の一実施例であるインデックスワークテーブル
装置の側面断面図)
(ウ)【図12】(上記インデックスワークテーブル装置の食い違い歯車
機構の一部を拡大して示す平面図[一部断面])
(2)上記(1)の記載によれば,刊行物1には,審決(3頁下4行∼4頁16
行)が認定するような引用発明が記載されており,本願発明との間では審決
(5頁23行∼6頁7行)が認定するような【一致点】及び【相違点】があ
るものと認められる。
4取消事由1(刊行物2記載発明の認定の誤り)について
(1)刊行物2(特開昭61−236459号公報[発明の名称「間歇割出し
装置」,出願人株式会社三共製作所,公開日昭和61年10月21日]。
甲2)には,次の記載がある。
ア産業上の利用分野
「本発明は時計その他の計器類の精密部品及び自動車における小型パー
ツ等の自動加工機械または自動組立機械のベースマシンとして使用される
間歇割出し装置に関するものである。」(1頁右欄5行∼8行)
イ特許請求の範囲
「…所要の軸間距離に設定したターレット1が一体に固着されたターレ
ット軸6と,」(1頁左欄7行∼9行)
ウ問題点を解決するための手段
「…所要の軸間距離に設定したターレット1が一体に固着されたターレ
ット軸6と,」(2頁左下欄13行∼15行)
エ作用
「第5図において,第1ウォーム入力軸を回転すると,第1ウォームホ
イールが減速回転する。そして前記第1ウォームホイールの回転は,グロ
ボイダルカム及びターレットを経てターレット軸を間歇回転し,該間歇タ
ーレット軸に取付けた間歇回転テーブルを間歇回転する。」(3頁左上欄
6行∼11行)
オ実施例
「第1図は本発明におけるグロボイダルカム方式の間歇回転運動機構斜
視図,第2図は同バレルカム方式の間歇回転運動機構斜視図…」(3頁右
上欄11行∼13行)。
「図において,1,1′はターレット,2はグロボイダルカム,2′は
バレルカム,3は第1ウォームホイール,5はカム軸であつて,該カム軸
5には前記グロボイダルカム2と第1ウォームホイール3とが固着されて
おり,前記ターレット1は,ターレット軸6と一体で,前記カム軸5と軸
角が直角で,所要の軸間距離に設定されている。
前記ターレット軸6は中空であって,前記グロボイダルカム2の回転に
より間歇回転されるとともにその内部には中空な固定軸7が設置されてい
る。8はケーシング,9はモータである。10は前記ケーシング8に固定
された固定テーブルであって,自動加工装置または自動組立装置の作動ユ
ニツト13を設置するものである。11は前記中空のターレット軸6に取
付けられた間歇回転テーブルであつて,自動加工または自動組立される部
品(ワーク)が載置されるものである。」(3頁右上欄17行∼左下欄1
3行)
「なお本実施例ではグロボイダルカム2を使用した場合について説明し
たが,これに限らずバレルカム2’を使用した場合についても同様であ
る。」(3頁右下欄17行∼19行)。
カ効果
「…所要の軸間距離に設定したターレット1が一体に固着されたターレ
ット軸6と,」(4頁左上欄4行∼5行)。
キ図面
第1図,第4図及び第5図は,次のとおりである。
(ア)第1図(本発明におけるグロボイダルカム方式の間歇回転運動機構
斜視図)
(イ)第4図(本発明の要部を示す縦断右側面図)
(ウ)第5図(本発明の一使用例を示す同縦断側面図)
(2)日本カム工業会編「カム機構ハンドブック」2001年12月25日日
刊工業新聞社発行(甲12)510頁には,「ターレット」について「狭義
にはパラレルカム,バレルカムおよびローラギヤカムの出力軸に取り付けら
れるおおむね円盤状の従節で,この上にカムフォロアが取り付けられる。フ
ォロアホイールともいう。広義には出力軸も含めていう。」と記載されてお
り,506頁∼507頁には,「カムフォロア」について「スタッドのつい
た円筒状のカムフォロア。カムと直接接触し,これを通じて変位・力・トル
クなどを従節に伝える。」と記載されている。これらの記載によれば,通常
の技術的な用語としては,上記刊行物2の第1図に記載されている「直径に
比べて厚さが小さく,内部に○を6個有する円形の部材」が「ターレット」
であり,その周りに設けられた六つの円筒状の部材は「カムフォロア」であ
ると認められる。
ところが,上記(1)の記載によれば,刊行物2の第1図には,「直径に比
べて厚さが小さく,内部に○を6個有する円形の部材」に「ターレット1」
と表示されているのに対し,第4図及び第5図では,上下に長いハッチング
された部材に「6」と表示され,当該部材の下部の左右に設けられている,
ハッチングされていない部材に「1」と記載されていることが認められる。
そして,上記(1)のとおり,刊行物2には,「…所要の軸間距離に設定した
ターレット1が一体に固着されたターレット軸6と,」と記載されている。
このように,刊行物2には,「ターレット1」という記載はあるものの,
「カムフォロア」との記載はなく,しかも,第4図及び第5図では,本来
「カムフォロア」であるべき部分に「ターレット」を意味する「1」と記載
されているのであるから,刊行物2においては,上記認定の通常の意味とは
異なり,「カムフォロア」の部分を含めて「ターレット1」と称していると
認められる。
そうすると,審決の刊行物2記載の発明についての認定(5頁2行∼9
行)のうち「複数のターレット」(5頁5行,8行)は,「カムフォロア」
の部分を意味すると解することができるのであり,上記審決の認定が誤りで
あるということはできない。
(3)次に,審決の刊行物2記載の発明についての認定(5頁2行∼9行)の
うち,「前記ターレット軸6は,直接取り付けられた複数のターレット1を
備え,」(5頁5行)における「直接取り付けられた」との認定の適否につ
いて判断する。
ア本願発明は,「前記軸体は,…当該回動方向に沿って間隔を隔てて直接
取り付けられた複数のカムフォロアとを備え,」というものであって,
「軸体」に「複数のカムフォロア」が「直接取り付けられた」ものであ
る。この直接取付けの意義について,本件補正後明細書の【発明の詳細な
説明】に明示的に説明する記載はないが,前記2(1)オ(ア)のとおり,
「発明の実施の形態」には,「回転テーブル12の下面側には,回動軸と
しての軸体をなす円筒状のターレット9が垂下され,ターレット9の外周
面の下部には,周方向に沿って等間隔に配置された複数のカムフォロワ8
が設けられている。」(段落【0025】)と記載され,前記2(1)キの
とおり,【図2】には,ターレット9に単一のパターンでハッチングが施
されており,それにカムフォロア8が密接状態で設けられている図が記載
されている。そして,これらに,「直接」についての日本語としての通常
の意味を総合すると,本願発明における「軸体」に「複数のカムフォロ
ア」が「直接取り付けられた」ことには,上記【図2】に記載された形状
のものが含まれると解される。
イそして上記のとおり,刊行物2の第4図及び第5図では,上下に長いハ
ッチングされた部材に「6」と表示され,当該部材の下部の左右に設けら
れている,ハッチングされていない部材に「1」と記載されている上,刊
行物2には,「…所要の軸間距離に設定したターレット1が一体に固着さ
れたターレット軸6と,」と記載されているから,「ターレット1のカム
フォロア部分」は,「ターレット軸6」と一体に固着されているものと認
められるのであり,刊行物2の第4図及び第5図記載の「軸体6」と「タ
ーレット1のカムフォロア部分」との関係と,本願における上記【図2】
の記載における「軸体」と「複数のカムフォロア」との関係に差異がある
とは認められない。
ウこれに対し原告は,刊行物2の第1図に記載された「ターレット1」が
ボルトでターレット軸6に取り付けられていると主張する。
しかし,上記のとおり,刊行物2の第1図には,「直径に比べて厚さが
小さく,内部に○を6個有する円形の部材」が記載されているが,刊行物
2には,この部材がターレット軸6にボルトで取り付けられているとの説
明やそのような図が記載されているわけではないし,また,刊行物2にお
いては,グロボイダルカム2に換えてバレルカム2’を使用できると記載
されているところ,その場合に,第1図に記載されたグロボイダルカム方
式の間歇回転運動機構を構成するターレット1に換えて,第2図に記載さ
れたバレルカム方式の間歇回転運動機構を構成するターレット1’を,タ
ーレット軸6に固着することが刊行物2に記載されているわけでもない
上,刊行物2の第4図及び第5図の記載は上記のとおりであるから,原告
の上記主張は採用することはできない。
エしたがって,刊行物2において,複数の「ターレット1(カムフォロ
ア)」は「ターレット軸6」に直接取り付けられているものと認められ
る。
(4)以上のとおり,審決の刊行物2記載の発明の認定(5頁2行∼9行)の
うち,「前記ターレット軸6は,直接取り付けられた複数のターレット1を
備え」ているとの認定及び「前記ターレット軸6は,前記カム軸5の回動に
より前記複数のターレット1が前記グロボイダルカム2に順次係合されて回
動する」との認定に誤りがあるということはできないから,取消事由1は理
由がない。
5取消事由2(本願発明と引用発明との相違点についての判断の誤り(1))に
ついて
(1)原告は,刊行物2記載のターレット1は一つであるとの主張に基づき,
審決に誤りがあると主張するが,前記4のとおり,原告の上記主張を採用す
ることができないから,審決に誤りがあるということはできない。
(2)引用発明の「ワークテーブル132」は本願発明の「回動テーブル」に
相当し,以下同様に「スピンドル196」は「軸体」に,「ハウジング17
0」は「支持基台」に,「ピニオン158」は「入力軸体」に,「クロスロ
ーラベアリング200」は「クロスローラ軸受」に,それぞれ相当する(審
決5頁11行∼15行)。また,審決の刊行物2記載の発明の認定に誤りが
あるとの原告の主張を採用することができないことは,前記4のとおりであ
り,刊行物2に記載の事項の「間歇回転テーブル11」,「ターレット軸
6」,「ターレット1(カムフォロア部分)」,「カム軸5」及び「グロボ
イダルカム2」は,それぞれ本願発明の「回動テーブル」,「軸体」,「カ
ムフォロア」,「入力軸体」及び「カム面」に相当する(審決6頁10行∼
14行)。
(3)前記3(1)の刊行物1の記載によれば,引用発明においては,「スピンド
ル196」に固定された「大歯車162」に「ピニオン158」が係合し
て,モータからの動力が伝達され,ワークテーブル132が回転されるもの
である。これに対し,審決の刊行物2記載の発明の認定に誤りがあるとの原
告の主張を採用することができないことは,前記4のとおりであり,前記4
(1)の刊行物2の記載によれば,刊行物2記載の発明においては,「ターレ
ット軸6」に直接取り付けられた「ターレット1(カムフォロア)」に「グ
ロボイダルカム2」が係合して,モータからの動力が伝達され,間歇回転テ
ーブル11が回転される。これらのことからすると,刊行物2の「ターレッ
ト軸6」及び「ターレット1」は,引用発明の「スピンドル196」及び
「大歯車162」に相当し,刊行物2の「グロボイダルカム2」は,引用発
明の「ピニオン158」に相当するものと認められる。
そうすると,引用発明の「スピンドル196」及び「大歯車162」に換
えて刊行物2の「ターレット軸6」及び「ターレット1」とし,引用発明の
「ピニオン158」に換えて刊行物2の「グロボイダルカム2」とすること
によって,本願発明の「前記軸体は,その回動方向に沿って直接形成された
第1V字状溝と,当該回動方向に沿って間隔を隔てて直接取り付けられた複
数のカムフォロアとを備え」という特定事項を実現することができる。
(4)したがって,取消事由2も理由がない。
6取消事由3(本願発明と引用発明との相違点についての判断の誤り(2))に
ついて
(1)前記4(1)のとおり,刊行物1(甲1)には,段落【0010】に記載さ
れた実施例(以下「第1実施例」という。)と,段落【0022】に記載さ
れた実施例(以下「第2実施例」という。)が示されている。第1実施例
は,予め定められた0°の回転位置と180°の回転位置で停止する,固定
割り出し位置方式のワークテーブル装置であり,第2実施例は,任意の角度
ずつ回転する,任意割り出し方式のワークテーブル装置である。
(2)原告は,刊行物2に記載の間歇回転テーブルは,固定割り出し方式の間
歇回転テーブルであるから,上記第2実施例とは,技術分野が異なると主張
する。
しかし,引用発明と刊行物2に記載された発明は,いずれも,工作機械に
おける,被加工物を加工位置に位置させるための回動テーブル装置に関する
ものであるから,そもそも技術分野が異なるということはできない上,引用
発明における「スピンドル196」,「大歯車162」及び「ピニオン15
8」と,刊行物2記載の発明における「ターレット軸6」,「ターレット
1」及び「グロボイダルカム2」は,モータの駆動力をワークテーブルに伝
達する機構として共通するから,引用発明の「スピンドル196」及び「大
歯車162」に換えて刊行物2の「ターレット軸6」及び「ターレット1」
とし,引用発明の「ピニオン158」に換えて刊行物2の「グロボイダルカ
ム2」とすることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の
知識を有する者)が容易に想到しうるというべきである。固定割り出し方式
か任意割り出し方式かの違いは,停止のタイミングが異なるにすぎず,回転
伝達機構自体には特段の差異はないから,このことによって上記判断が左右
されることはない。そして,前記5のとおり,引用発明の「スピンドル19
6」及び「大歯車162」に換えて刊行物2の「ターレット軸6」及び「タ
ーレット1」とし,引用発明の「ピニオン158」に換えて刊行物2の「グ
ロボイダルカム2」とすることによって,本願発明の「前記軸体は,その回
動方向に沿って直接形成された第1V字状溝と,当該回動方向に沿って間隔
を隔てて直接取り付けられた複数のカムフォロアとを備え」という特定事項
を実現することができる。
(3)したがって,取消事由3も理由がない。
7取消事由4(本願発明と引用発明との相違点についての判断の誤り(3))に
ついて
(1)原告は,「それぞれ鋼材からなり,焼き入れ研磨されたピニオンおよび
歯車からなる非可逆回転特性を持つ食い違い傘歯車機構」は,引用発明の必
須構成要素であることは明らかであるところ,「引用発明の軸体の伝達機構
として刊行物2記載の事項を採用して上記相違点1に係る本願発明の特定事
項とすること」は,引用発明から,上記の必須構成要素を取り除くことに外
ならず,引用発明の技術的思想の意義を無さしめる行為である,と主張す
る。
(2)前記3(1)の記載によれば,引用発明の解決課題は,回転式ワークテーブ
ル装置において高速回転性を持ち,ワークテーブルの回転トルクがモータに
伝達されないような非可逆回転特性を持つ回転割り出し式ワークテーブル装
置を提供することであり,そのために,駆動力伝達機構を,それぞれ鋼材か
らなり,焼き入れ研磨されたピニオンおよび歯車からなる非可逆回転特性を
持つ食い違い傘歯車機構を含むものとしたことが認められる。
他方,グロボイダルカムを用いた場合,それが非可逆回転特性を有するか
どうかは,カムの形状によって定まるから,カムの形状を適宜設定すること
により非可逆回転特性を持たせることは可能であるということができる。
そうすると,引用発明の解決課題が上記のようなものであり,そのため
に,引用発明においては,駆動力伝達機構を,それぞれ鋼材からなり,焼き
入れ研磨されたピニオンおよび歯車からなる非可逆回転特性を持つ食い違い
傘歯車機構としているとしても,グロボイダルカムを用いた場合に非可逆回
転特性を持たせることができないということはないから,引用発明の「スピ
ンドル196」及び「大歯車162」に換えて刊行物2の「ターレット軸
6」及び「ターレット1」とし,引用発明の「ピニオン158」に換えて刊
行物2の「グロボイダルカム2」とすることは,当業者が容易に想到しうる
というべきである。
(3)したがって,取消事由4も理由がない。
8取消事由5(本願発明と引用発明との相違点についての判断の誤り(4))に
ついて
(1)原告は,本願発明においては,軸体に第1V字状溝を直接形成することに
より,軸体が高精度に軸受け支持され,さらに,複数のカムフォロアをも直
接軸体に取り付けることにより,軸体が高精度に駆動される,すなわち,本
願発明においては,軸体に対して,同一の基準(基準面,回動中心等)を用
いて,第1V字状溝を直接形成すること及び複数のカムフォロア取付穴を直
接加工することが可能となり,それゆえ,第1V字状溝と各カムフォロアと
の相対位置精度を高くすることが可能となり,軸体を高精度に駆動すること
ができる,という格別の作用効果を有する旨主張する。
(2)しかし,引用発明は,前記3のとおり,軸体に第1V字状溝を直接形成
したものであり,前記6,7のとおり,複数のカムフォロアを直接軸体に取
り付ける構成は,容易想到である。
そして,このような構成を有する回動テーブル装置が,軸体が高精度に軸
受け支持され,さらに,軸体が高精度に駆動されること,すなわち,軸体に
対して,同一の基準(基準面,回動中心等)を用いて,第1V字状溝を直接
形成すること及び複数のカムフォロア取付穴を直接加工することが可能とな
り,それゆえ,第1V字状溝と各カムフォロアとの相対位置精度を高くする
ことが可能となり,軸体を高精度に駆動することができることは,下記の周
知の技術事項に照らすと,当業者にとっては予測可能なものというべきであ
って,格別のものということはできない。
ア乙3(特開2001−336603号公報[発明の名称「ピニオン軸支
持用軸受ユニット」,出願人光洋精工株式会社,公開日平成13年12
月7日])には,ピニオン軸支持用軸受ユニットについて,次の記載があ
る。
・「ピニオン軸1の一端には小歯車11が一体形成されており,その小
歯車11に隣接して,円すいころ軸受内輪用の大鍔12bと軌道面12
aとが一体形成されている。この軌道面12aの小端側には小鍔は形成
されておらず,ぬすみ部12cを介して円筒面12dが一体形成され,
その円筒面12dの外径寸法は軌道面12aの小端径と同等となってい
る。この軌道面12aの外側には,複数の円筒ころ3が保持器3aによ
って周方向に一定のピッチで保持された状態で配置されている。」(段
落【0018】)
・「これにより,複数の円すいころ3を保持して内輪軌道面12aに対
して組み付けられる保持器3aは,内輪軌道面12aの小端径と同等の
外径を有する円筒面12dを通過するだけでいいため,組付けに際して
開いた後に閉じる,いわゆるカシメ工程が不要となり,単に内輪軌道面
12aの外側に挿入するだけでよくなる。また,円すいころ3および保
持器3aを内輪軌道面12aの外側に挿入した後,円すいころ4および
保持器4aが既にセットされた内輪2をピニオン軸1に圧入してその延
出部2dを円筒面12d上に位置させることで,内輪軌道面12a上の
円すいころ3および保持器3aが脱落してしまうことがない。そして,
内輪軌道面12aおよび大鍔12bをピニオン軸1に一体形成している
が故に,これらを別部材の内輪に形成してピニオン軸1に圧入する場合
に比して,その内輪とピニオン軸1との嵌め合いのばらつきに起因して
生じる可能性のある組込後の予圧のばらつき,ピニオンハイトのばらつ
きが生じることがない。また,内輪軌道面12aをピニオン軸1に一体
形成することにより,ピニオン軸1自体の曲げ剛性が向上するととも
に,大鍔12bの強度も向上する。」(段落【0023】)
・「また,以上の実施の形態によると,ピニオン軸1に設けたセンター
孔を基準としてヘッド側(小歯車11側)の内輪軌道面の加工が行える
ことから,回転精度が向上するという利点もある。」(段落【0024
】)
イ乙4(特開昭58−142023号公報[発明の名称「複合運動用ボー
ルスプライン」,出願人A,公開日昭和58年8月23日])には,複
合運動用ボールスプラインに関して次の記載がある。
・「従来,この種のボールスプラインを用いて複合運動の機構を構成す
る手段としては,例えばボールスプラインを筒体内部に組込み,この筒
体外部には歯車を組付けると共にハウジングに回転自在に取付けるため
のベアリングを取付けている。
しかしながら,このような手段によっては,ボールスプラインのほか
に歯車,この歯車を取付けるための筒体及びハウジングに取付けるため
のベアリングが必要になり,部品点数が多くて製品コストが高くなるば
かりでなく,各部品をいくら精度良く加工しても各部品ごとに生じる僅
かな加工誤差が積み重なつて全体としての加工精度を高くすることは難
しく,また,設計が極めて面倒であるほかコンパクトにすることも難し
いという多くの問題を抱えていた。
この発明は,かかる観点に鑑み,ボールスプラインのスプラインベア
リングを構成する外筒にはその外壁略中央部に伝動部材を一体に形成す
ると共にその外壁両端部にはハウジングへの取付に使用される取付用ベ
アリングを設け,これによって上記従来の手段における種々の問題点を
一挙に解決することができる複合運動用ボールスプラインを提供するも
のである。」(2頁左上欄2行∼右上欄4行)
・「…この発明に係る複合運動用ボールスプラインは,そのスプライン
ベアリング(B)を構成する外筒(1)の外壁略中央部にはその円筒方
向に沿って伝動部材(2)を一体に形成し,前記外筒(1)の外壁両端
部にはハウジング(H)に取付けられてこの外筒(1)を回転自在に保
持する取付用ベアリング(8)を設けたので,この取付用ベアリング
(8)を介してボールスプラインを直接ハウジング(H)に取付けるこ
とができるほか,外筒(1)に設けられる伝動部材を別体に形成した
り,この別体の伝動部材を外筒に取付けるために筒体を形成する必要が
なく,部品点数を著るしく減少させることができる。このため,各部品
に生じる加工誤差が積み重なって大きな加工誤差になるようなことがな
く,全体を高精度に製造することができるほか,コンパクトにすること
ができ,また,設計が極めて容易になる。」(3頁右上欄8行∼左下欄
3行)
ウ上記ア,イの記載によれば,別部材同士を組み付けるのではなく,対象
部材を直接加工することにより精度を高めることができることは,従来周
知の技術事項であると認められる。
なお,上記アは,ピニオン軸支持用軸受ユニットに関するものであり,
上記イは,複合運動用ボールスプラインに関するものであって,その点で
は本願発明とは異なるが,部材を直接加工することによって精度が高まる
ことがピニオン軸支持用軸受ユニットあるいは複合運動用ボールスプライ
ンの技術に特有のものということはできないから,上記のとおり本願発明
の作用効果が当業者にとって予測可能なものであるとの認定に用いること
ができるものである。
(3)したがって,取消事由5も理由がない。
9取消事由6(本願発明と引用発明との相違点についての判断の誤り(5))に
ついて
原告は,引用発明において刊行物2記載のグロボイダルカム機構を用いた伝
達機構を用いることには阻害要因が存在すると主張し,その理由として,①引
用発明は,非可逆回転特性を有することを前提としたものであるから,刊行物
1記載の「それぞれ鋼材からなり,焼き入れ研磨されたピニオンおよび歯車か
らなる非可逆回転特性を持つ食い違い傘歯車機構」に換えて,非可逆回転特性
を備えているとの記載が存在しない刊行物2記載の動力伝達機構を採用するは
ずがない,②刊行物1(甲1)の段落【0003】には,ウォームギヤ機構を
用いることの問題点が記載されているから,刊行物2記載のようにウォームギ
ヤ機構を殊更に用いることを行うはずがない,と主張する。
しかし,上記①については,前記7のとおりであり,阻害要因となるもので
はない。そして,上記①の点が阻害要因とならないのであるから,非可逆回転
特性を備えるためにウォームギヤ機構を用いる必要があるということもできな
い。
したがって,取消事由6も理由がない。
10結論
以上によれば,原告主張の取消事由は全て理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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