弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人作間耕逸の上告趣意第一点について。
 記録によれば、当裁判所第三小法廷はさきり上告審において、「教職にある者が
追放指定の通知を受ければ、爾後その者は講義などはもとより、あらたに一切の執
務をなし得ないこと勿論であるが、唯かかる通知を受けただけで当然直ちにその地
位から離脱するものではないから、残務整理等のため已むを得ざるに出でる行為の
如きはこれをなすことを妨ぐるものではない」旨判示し、この見地の下に、原審の
本件政令違反行為に関する事実認定は、「被告人が一旦教職を退いた後あらたに為
した行為であるか、又若し退かない間の行為であるならば、残務等の為已むを得ざ
るに出でた行為であるか否か」の点について必ずしも明確でなく、原判決には理由
不備の違法があるとして、これを破棄し事件を東京高等裁判所に差戻す旨の判決を
なしたのである。かくの如く上級審において下級審判決が破棄され事件の差戻があ
つた場合には、下級審はその事件を処理するに当り判決破棄の理由となつた上級審
の事実及び法律上の意見に拘束され、必ずその意見に従いこれに基ずいて事件の審
判をしなければならないのであるから、既に下級審が上級審の意見に従つて事件を
処理したものである以上、その上級審の意見が客観的に間違つて居ると否とに拘は
らずその下級審の判決を違法視することはできないのである。本件において、前示
の如く事件の差戻を受けた原審は前示判決破棄の理由として開示された当裁判所の
法律上の意見に従い、所謂残務整理と見られるものを除き、然らざる被告人の行為
のみを本件政令違反に該当するものとし、その罰条を適用したものであることは、
原判決の判示するところにより明瞭である。されば原判決には何等の違法もなく、
論旨は、畢竟さきに第三小法廷によつて開示された判旨を正解せざるに出でた所論
であつて採用に値しない。
 同第二点について。
 論旨は、本件被告人に対する教職不適格の指定は、被告人がさきに公職不適格の
指定を受けたことを理由とするものであるが、右公職不適格の審査決定に対しては、
被告人より再審査の請求を為し、その未確定の間になされた本件教職不適格の指定
は法律上無効であると主張するのであるけれども、仮りにその主張のような関係あ
りとしても、かかる事由によつて、右指定が無効であるかどうかについては、日本
国裁判所にこれを裁判する権限のないことは、既に、当裁判所の判例の示すところ
によつて明らかである。 (昭和二三年(れ)第一八六二号同二四年六月一三日大
法廷判決。昭和二四年(そ)第四号同二五年二月一日大法廷判決)。
 同第三点について。
 被告人が教職不適格者に指定された当時、A会話学院の設立者、兼校長の職に在
つたことは原判決の確定するところであつて、右指定は、かりに、所論のごとく被
告人の同学院の校長たる資格にもとずいてなされたものであるとしても、既に、一
旦教職不適格者の指定を受けた以上、前記文部外八省令別表第二に記載するすべて
の教職から排除せられるものであることは、前記政令二条、三条、及び右省令三条
により明らかであるから、原判決が判示第一、第二の各被告人の所為に対し、いず
れも、同政令三条二項に違反するものと判断したのは正当であつて、論旨は理由が
ない
 よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官塚崎直義、同霜山精一、同栗山茂、同小谷勝重、同斎藤悠輔、
同藤田八郎を除く他の裁判官の一致した意見である。
 弁護人作間耕逸の上告趣意第一点に対する裁判官塚崎直義、同霜山精一、同栗山
茂、同小谷勝重、同斎藤悠輔、同藤田八郎の意見は次のとおりである。
 被告人は、英会話の教授を目的とするA会話学院の設立者であり、その校長を兼
ねていたところ、昭和二二年四月三〇日附で昭和二二年政令第六二号三条にいわゆ
る教職不適格者に指定され、同年六月五日頃東京都長官からその通知を受け、被告
人はこれに対し再審査の請求をしなかつたことは原判決の確定するところである。
しかして、右政令三条により教職不適格者に指定された者は、その者が「教職に在
るときは、これを教職から去らしめるものとする」ことは、同条一項の規定すると
ころであつて、右の意は、その指定が効力を生ずると同時に(指定は該当者に対す
る通知によつて効力を生ずることは昭和二二年五月二一日文部外八省令第一号一条
二項により明らかである)指定を受けた者は当然に、即ち辞職、解職等の手続を待
たず、教職を失うとするにあることは、同政令の基盤を為す昭和二〇年一〇月二二
日附連合国最高司令官の教職に関する覚書は、同覚書に掲げる職業軍人、著名な軍
国主義者若しくは極端な国家主義者又は連合軍の日本占領の目的及び政策に対する
著名な反対者に該当する者を、強く教職から排除し、かかる該当者の一日も民主主
義に更生した日本の教職に止まることを許さないとする趣旨からみて明瞭である。
従つて、右指定を受けた後において、引きつゞき、その教職に従事するもの、又は
あらたに教職に就いた者は、同条二項に違反し、同令八条の罰則の適用を受けるべ
きは当然である。論旨は、右指定を受けた者も、それだけで当然に教職を失うもの
でなく、本件A会話学院のごとき私立の学校にあつては、昭和二二年文部外八省令
第一号二条にもとずく文部大臣の解職処分を受けるまでは、いわゆる「追放」の効
果は発生しないものであると主張するのであるが、そのあやまりであることは前段
説明するところによつて明らかである。
 右文部外八省令二条は、文部大臣に対し、私立学校の教員その他の職員を解職、
解任し得る権限を与えた規定に過ぎないのであつて、この規定があるからといつて、
文部大臣は教職不適格の指定を受けた私立学校の教職員に対し解職等の処分をしな
ければならないとか、政令第六二号三条の効果は、この文部大臣の処分によつて始
めて発生するものであるとかに解すべきではないのである。ことに省令を以て政令
の効力を左右することは立法の形式からいつても許されないところである。それ故
所論はあやまりである。
 たゞ、右判旨に対しては、或は右は、本件第二次上告に対する当裁判所第三小法
廷判決の法律上の見解と牴触する。即ち同一事件に対してさきになされた当裁判所
の判決と相反する判断を下すものであるとの批判をするものがあるかも知れない。
けれども、その然らざる所以を説明する。
 右第三小法廷の判決理由において説明するところは錯雑多岐に亘つて真意を捕捉
するに苦しむところもないではないが、その主意とするところは教職不適格者の指
定を受けたものは、文部大臣の解職等の処分のある以前に於ても、本件において原
判決が確定した判示、第一、第二の如き所為をした場合においては、政令第六二号
三条一項、二項に違反するものであるとするにあることは、これを看取することが
できる。原判決もこの趣旨において右第三小法廷の判決を理解し、これに従つて判
決したものであることは原判文上明白であり、又此のことは、本件多数意見も是認
するところである。即ち本件被告人の所為が政令第六二号三条一項、二項に違反す
るものであるとする見解において当裁判官等の前段に示した判断は、何ら、前第三
小法廷の判決と牴触するところはないのである。
 たゞ、右第三小法廷判決は、教職不適格者の指定を受けたものも、文部大臣の解
職等の処分あるまでは、その地位を失うものでないとの見解を保持するものの如く
に解せられるのであるが、若し然りとすれば、この見解は誤りであると信ずる。教
職不適格者の指定を受けたものは、指定が効力を生じたときから全面的にその職を
失うものであり、その職を失うことは同時にその教職に在る地位をも失うものと解
すべきである。前記文部外八省令第一号二条の規定は右の解釈を否定すべき根拠と
なるものでないことは、既に前段において説明したとおりである。しかしながら以
上の論点は、要するに本判決としては傍論たるに過ぎないのであつて、本件被告人
の所為が政令第六二号三条一項、二項に違反するや否やの判断に対しては、必ずし
も必要欠くべからざるものではないのであつて、この点に対する意見の相違は、本
件に対する大法廷の判断として、前判決に牴触するとの非難に値しないものである。
 又前示第三小法廷の判決は、残務整理等やむを得ざるに出でたる行為は同令第三
条一項、二項に該当しない趣旨を判示している。この点も相当問題である。昭和二
二年勅令第一号いわゆる公職追放令は、第三条において、特に「余人を以て代える
ことが困難な事情があるとき」に関し、例外規定を設けているのに反し、同勅令よ
りも後に制定せられた政令第六二号はかかる例外規定を設けていない。教職――殊
に教授、講義等の仕事――は、その本質上、大体において個人特有のものであつて、
余人を以て代えることが困難なものといい得るであろう。しかも、政令第六二号が
特に右のごとき例外規定を設けない所以のものは、不適格者と指定された教職者の
ごときは一日と雖も、その個人的影響を被教育者に及ぼすことを許すべきでないと
する趣旨に出でたものであろう。残務整理の意義は必ずしも明瞭ではなく、その事
務の具体的内容を十分検討した上でなければ、軽々に判断することはできないので
あるが、余人を以て代え得る教務上の事務処理の如きはここに問題とする要はなく、
真に余人を以て代え難きものであつて、しかも教職追放の趣旨に反しない残務整理
というものが果していくばくあるであろうか。しかしながら、本件第三次上告審に
おいて、審議すべきは、第三次高等裁判所の判決の当否であり、しかして、同判決
は、ここに審議の対象となつている被告人の所為については、それは「残務整理等
やむを得ない場合でない」ことを確定しているのであるから、本判決において、特
に、この点に関し論断を示す必要はない。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二五年一〇月二五日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
 裁判官真野毅、同穂積重遠は出張につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義

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