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平成26年6月25日判決言渡
平成25年(行ケ)第10336号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成26年5月21日
判決
原告有限会社アイズ
(以下「原告アイズ」という。)
原告月見軒合同会社
(以下「原告月見軒」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士杉山央
船津多香子
被告特許庁長官
指定代理人守屋友宏
井出英一郎
堀内仁子
被告補助参加人有限会社月フーズ
訴訟代理人弁護士馬杉栄一
弁理士佐川慎悟
小林基子
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1原告らの求めた裁判
特許庁が不服2012-21455号事件について平成25年10月30日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,商標登録出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消
訴訟である。争点は,本願商標が商標法4条1項10号所定の商標に該当するか否
か,すなわち,①引用商標の周知性に係る識別の対象(引用商標は,原告ら,被告
補助参加人いずれの業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識さ
れているか。)及び②商標法4条1項10号適用の可否(原告らによる本願商標の
使用等に関する被告補助参加人の認識を理由に商標法4条1項10号を適用するこ
とが許されないか。)である。
1特許庁における手続の経緯
原告アイズは,平成23年8月30日,下記本願商標につき商標登録出願(商願
2011-65670号)をしたが(乙1,丙2。以下「本件出願」という。),
平成24年7月13日,拒絶査定を受けた。
この間,原告月見軒は,本件出願により生じた権利の2分の1を原告アイズから
譲り受け,同年3月13日,特許庁長官に対し,「【承継人】原告月見軒【持分】
1/2」として出願人名義変更届を提出した。
原告らは,同年10月12日,拒絶査定に対する不服の審判請求をした(不服2
012-21455号)。
特許庁は,平成25年10月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」と
の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年11月20日に原告
らに送達された。

【本願商標】
三代目月見軒(標準文字)
指定役務
第35類飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する
便益の提供
第43類ラーメン,餃子,チャーハンを主とする飲食物の提供
2審決の理由の要点
【引用商標】
(1)被告補助参加人による引用商標の使用
被告補助参加人は,引用商標を「ラーメンの提供」の役務について使用している。
(2)引用商標の周知性
「三代目月見軒」は,被告補助参加人の業務に係る役務「ラーメンの提供」(以
下「被告補助参加人の業務に係るラーメンの提供」という。)を表示するものとし
て,新聞記事においては平成20年に(「北のラーメン店(28)三代目月見軒先
代の思い継ぎのれん守る」2008.04.11日本食糧新聞〔丙4〕等),雑
誌においては平成16年に(「じゃらん平成16年10月20日発行」〔乙11〕
等),テレビ番組においては平成11年に(「東日本放送ももの時間北の大地
北海道」〔丙64の7〕等),それぞれ既に紹介されており,その後も継続的に上
記情報媒体により繰り返し紹介されてきたことから,広く需要者の間に印象付けら
れているといえる。したがって,「三代目月見軒」の文字から成る引用商標は,本
件出願時において既に被告補助参加人の業務に係るラーメンの提供を表示するもの
として需要者の間に広く認識されていたと認めるのが相当であり,その状況は本件
審決時に至るまで継続している。
(3)原告らと被告補助参加人との関係
原告らはそれぞれ,被告補助参加人とは名称及び住所を異にし,他人である。
(4)本願商標と引用商標との比較
本願商標と引用商標は互いに類似する商標であり,また,本願商標の指定役務は
引用商標に係る役務である「ラーメンの提供」と同一の役務を含むものである。
(5)結論
以上によれば,本願商標は,本件出願時及び本件審決時のいずれにおいても,他
人である被告補助参加人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く
認識されている商標に類似する商標であって,その役務と同一の役務について使用
をするものであるから,商標法4条1項10号に該当する。
第3原告ら主張の審決取消事由
以下のとおり,本件審決は,(1)引用商標につき,原告らではなく,被告補助参加
人の業務に係る役務を表示する周知商標(以下「被告補助参加人の業務に係る周知
商標」という。)と認定した点,(2)①被告補助参加人が,原告らによる引用商標類
似の本願商標の使用について悪意でありながら,引用商標を使用した点,また,②
仮に引用商標が被告補助参加人の業務に係る周知商標であったとしても,被告補助
参加人は,「三代目月見軒」が原告らを識別するものとして広く需要者の間に認識
されていることを知りながら,あえて自らを「三代目月見軒」の使用者と称して継
続的にメディアの取材を受け,その結果として引用商標が被告補助参加人に係る周
知性を備えるに至った,という事情があるにもかかわらず,商標法4条1項10号
を適用した点において誤りがあり,取り消されるべきである。
1引用商標の周知性に係る識別の対象についての認定の誤り
(1)ラーメン店「三代目月見軒」の営業状況
アラーメン店「三代目月見軒」の沿革は,以下のとおりである。
昭和33年にAが札幌市中央区内においてラーメン店「月見軒」を創業し,昭和
40年に同人の長男であるBが同店を承継したが,昭和45年に閉店した。
その約20年余り後,Bは,甥のCのみに屋号「月見軒」の使用を許諾し,同人
がラーメン店「三代目月見軒」を開業した。現在,Cの実兄Dの子である原告月見
軒代表者が,同店ののれんを継承している。他方,原告アイズも,創業者一族から
のれん分けを受け,平成15年5月頃からラーメン店「三代目月見軒」札幌駅北口
店(以下「札幌駅北口店」という。)の営業に当たってきた。
原告らは,継承前のラーメン店「三代目月見軒」の顧客に加え,継承後の営業活動
を通じて新たな顧客を獲得し,上記いずれの店舗も各種メディアにより紹介される
ラーメンの名店として知られている。
イ被告補助参加人がラーメン店「三代目月見軒」の営業を譲り受けた事実
はなく,被告補助参加人は,Dを通じて,Cから,同人の営業を示す「三代目月見
軒」の名称の使用料を支払うという条件の下,ラーメン店「三代目月見軒」の催事
の業務や土産販売等の営業活動の一部を委託されていたにすぎない。
(ア)被告補助参加人は,営業譲渡を立証する書証として,平成15年7
月1日付け「ラーメン専門三代目月見軒代表D」名義の被告補助参加人宛て領
収証(丙5)を提出しているが,Dは,平成14年5月頃から平成17年9月にか
けて数か月おきに入退院を繰り返していた上,平成15年7月1日当時は精神疾患
のために入院する直前であったことに鑑みると,その意思能力には疑義があり,上
記領収証の真正は疑わしい。
(イ)現に,遅くとも平成18年3月31日以降,複数のデパートにお
いて実施された催事に関して,被告補助参加人から法人成り前の「三代目月見軒」
ことE(原告月見軒代表者)に対し,名目上は催事手数料であるが実質的には「三
代目月見軒」の名称使用のライセンス料として,デパートからの入金額の10パー
セントに相当する額が,被告補助参加人のDに対する貸付金との相殺という形で支
払われていた。これは,少なくとも平成18年3月31日の時点においては,Dが
ラーメン店「三代目月見軒」の看板に関する一切の権利を保有していたこと,需要
者も「三代目月見軒」をDの業務に係る役務を表示するものと認識していたことに
つき,被告補助参加人が認めていた証左にほかならない。
加えて,被告補助参加人は,現在,ラーメン店「三代目月見軒」の営業に一切関
与しておらず,この点も上記営業譲渡の事実がないことを端的に示すものといえる。
(ウ)また,被告補助参加人は,ラーメン店「三代目月見軒」の営業を譲
り受けた平成15年以降,札幌市北区内の本店を直営していた旨主張するが,同店
の営業に係る利益の分配を受けた事実はない。しかも,被告補助参加人は,突然,
平成24年6月15日に札幌市白石区内においてラーメン店を開き,同店を「三代
目月見軒本店」としてホームページで紹介しているところ,これは,上記直営の事
実が存しないことを原告らから指摘され,上記主張とつじつまを合わせるための行
動とみることができる。これらの事実に鑑みれば,被告補助参加人が本店の経営に
関与していた時期があったとしても,その間も「三代目月見軒」の商標を使用して
いたのは,原告ら及びその法人成り前にラーメン店「三代目月見軒」の経営に携わ
っていたC,D及び原告月見軒代表者のみである。
ウ以上によれば,「三代目月見軒」は,本件出願時及び本件審決時のいず
れにおいても,原告らの業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認
識されているものといえ,したがって,「三代目月見軒」の文字から成る引用商標
は,原告らの業務に係る役務を表示する周知商標(以下「原告らの業務に係る周知
商標」という。)というべきである。
(2)各種情報媒体を通じた「三代目月見軒」の周知状況
ア本件審決は,引用商標「三代目月見軒」が被告補助参加人の業務に係る
ラーメンの提供を表示するものとして新聞記事,雑誌,テレビ番組等において紹介
されている旨を掲げ,これらに依拠して,引用商標をもって被告補助参加人の業務
に係る周知商標と認定している。
しかしながら,上記新聞記事等はいずれも被告補助参加人に対する取材に基づい
てその見解を繰り返すものにすぎず,本件との関係においては客観性を欠き,引用
商標が被告補助参加人を識別するものとして需要者の間に広く認識されていること
の証拠にはならない。
イ被告及び被告補助参加人において引用商標の周知性に係る識別の対象が
被告補助参加人であることの根拠として提出した書証も,その大半は被告補助参加
人自身の費用によるものと思われる宣伝,広告であり,しかも,被告補助参加人を
指す表示はほとんど見られない。被告補助参加人の名称が「三代目月見軒」と共に
表記されているものについても,広告等の目立たない箇所にほかの文字よりも小さ
な文字で記載されているにすぎない。また,被告補助参加人は,業者からの請求書
等も提出しているが,これも周知性を認める根拠にはならない。
以上によれば,被告及び被告補助参加人が提出した書証を前提にしても,引用商
標の周知性に係る識別の対象が被告補助参加人であるとはいえず,したがって,引
用商標をもって被告補助参加人の業務に係る周知商標ということはできない。
(3)小括
以上によれば,本件審決が引用商標をもって被告補助参加人の業務に係る周知商
標と認定したことは,誤りである。
2原告らによる本願商標の使用等に関する被告補助参加人の認識と商標法4条
1項10号適用の可否についての認定,判断の誤り
(1)ア判例によれば,第三者が出願人による周知商標の使用の事実につき悪意
でありながら当該周知商標を使用した場合,そのような「第三者」を商標法4条1
項10号のいう「他人」と評価して出願人の商標登録を阻却してはならない。また,
第三者において,ある商標が他の者を識別するものとして広く需要者の間に認識さ
れていることを知りながら,自身を上記商標の識別の対象にすることを企てて行動
し,その結果,上記商標が当該第三者に係る周知性を備えるに至った場合は,同商
標を商標法4条1項10号のいう周知商標と評価すべきではない(大判昭2・9・
28,昭3・10・30)。
イ前記1によれば,被告補助参加人は,「三代目月見軒」がDから原告ら
に至るまでの正統な承継者による使用の継続を通じて著名となったことを前提とし
て剽窃的に引用商標を使用したものであり,したがって,原告らが引用商標類似の
本願商標を使用していることについて悪意でありながら,引用商標を使用したもの
といえ,「他人」と評価することはできない。
また,仮に引用商標が被告補助参加人の業務に係る周知商標であったとしても,
被告補助参加人は,「三代目月見軒」が原告らを識別するものとして広く需要者の
間に認識されていることを知りながら,あえて自らを「三代目月見軒」の使用者と
称して継続的にメディアの取材を受け,その結果として引用商標が被告補助参加人
に係る周知性を備えるに至ったといえるから,引用商標をもって商標法4条1項1
0号のいう周知商標と評価すべきではない。
⑵したがって,本件審決が,原告らと名称,住所を異にするという形式的な
ことを根拠に被告補助参加人を「他人」と認め,また,引用商標を周知商標と評価
し,商標法4条1項10号を適用したことは誤りである。
第4被告の主張
1引用商標の周知性に係る識別の対象について
⑴「三代目月見軒」は,被告補助参加人の業務に係るラーメンの提供を表示
するものとして,遅くとも,新聞記事においては平成20年に,雑誌においては平
成16年に,テレビ番組においては平成11年に,それぞれ既に紹介されており,
その後も継続的に多数の新聞記事,雑誌,テレビ番組において繰り返し紹介され,
また,新聞広告も出されている。
このことから,「三代目月見軒」は,被告補助参加人の業務に係るラーメンの提
供を表示するものとして需要者の間に広く紹介され,印象付けられているといえ,
したがって,「三代目月見軒」の文字から成る引用商標は,本件出願時において既
に上記役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されており,この状況は本
件審決時も継続していたといえるから,被告補助参加人の業務に係る周知商標とい
うべきである。
⑵原告らが「三代目月見軒」の出所として需要者の間に認識されていること
を示す証拠として提出しているのは,甲4号証ないし甲7号証のみであるところ,
これらの証拠によっても,「三代目月見軒」は雑誌において4回にわたり紹介され
ているにすぎず,しかも,それが原告らの業務に係る役務を表示するものであるこ
とを示す記載は見られない。したがって,上記証拠によって,「三代目月見軒」が
原告らの業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていると
はいえない。
2原告らによる本願商標の使用等に関する被告補助参加人の認識と商標法4条
1項10号適用の可否について
被告補助参加人と原告らは別法人であるから,「他人」であることは明らかとい
え,また,原告らの主張及び全証拠によっても,被告補助参加人が原告らによる本
願商標の使用について悪意であることを認めるに足りない。
したがって,本願商標につき,商標法4条1項10号を適用することができる。
第5被告補助参加人の主張
1引用商標の周知性に係る識別の対象について
(1)ラーメン店「三代目月見軒」の営業状況
ア被告補助参加人がラーメン店「三代目月見軒」の経営に携わった経緯は,
以下のとおりである。
昭和33年に創業されたラーメン店「月見軒」が,二代目であるBの体調不良に
より20年余り休業した後,Dがレシピを受け継ぎ,平成5年頃,「三代目月見軒」
という名称でラーメン店を再開した。同人は,長男である原告月見軒代表者と共に
同店を経営してきたが,借金が増えて営業の継続が困難になった。
他方,被告補助参加人代表者は,平成15年5月16日に被告補助参加人を設立
し,上記のとおりラーメン店「三代目月見軒」が経営難に陥っていたので,被告補
助参加人において同年7月1日付けで同店の営業をDから譲り受けた。なお,甲3
号証,すなわち,Dがアルコール離脱せん妄状態のために平成15年8月8日から
入院治療を受けた旨が記載された証明書は,上記営業譲渡の当時においてDが常時
せん妄状態で意思能力を欠いていたことを示すものではない。
以後,現在に至るまで,被告補助参加人は,ラーメン店「三代目月見軒」の経営,
広告・宣伝活動,物産展等デパートの催事への出展,お土産ラーメンの販売等の営
業活動に継続的に従事し,自らが主体となって「三代目月見軒」の商標を使用して
おり,商域は日本全国に及ぶ。なお,被告補助参加人は,デパートにおける催事に
関し,原告月見軒代表者に対して催事手数料という名目で金員を支払っていたが,
これは当該催事に備えた仕込み等の作業の対価である。
イラーメン店「三代目月見軒」には,本店(札幌),札幌駅北口店,東京
店及び平成17年出店の京都駅ビル店があり,本店,東京店及び京都駅ビル店は被
告補助参加人の直営であるが,札幌駅北口店については原告アイズが営業に従事し
ている。
原告アイズが同店の営業に携わるようになった経緯は,以下のとおりであり,創
業者一族からののれん分けによるものではない。すなわち,平成15年7月頃,被
告補助参加人は,原告アイズの元代表者に対し,被告補助参加人による「三代目月
見軒」営業の傘下に入ることを条件に,前述の営業譲渡により取得した「三代目月
見軒」の商標及びレシピを使用してラーメン店を開業することを許諾した。その後,
原告アイズの元代表者は原告アイズを設立し,前記条件に従って札幌駅北口店を開
業した。被告補助参加人は,開業に際して開店広告掲載の手続を行うとともに費用
も負担し,また,原告アイズに生めんなどを卸していた。
⑵各種情報媒体を通じた「三代目月見軒」の周知状況
被告補助参加人は,新聞(丙35等),万単位の発行部数の雑誌(丙19の1等),
お歳暮カタログ(丙38の1,2),インターネットサイト(丙40の1,2等),
大学祭の賞品協賛(丙43の1から4)と,種々の手段を用いて積極的にラーメン
店「三代目月見軒」を宣伝しており,これらの広報活動の企画・立案,実行,費用
支払のすべてを担っている。また,ラーメン店「三代目月見軒」は,新聞や雑誌に
掲載されること(丙4,丙44の1,2等),テレビ番組で放映されること(丙6
4の1等)もあるが,その掲載,放映の許諾付与及び内容確認も,被告補助参加人
において行ってきた。
そして,宣伝に係る広告には,「三代目月見軒」の名称が単独で記載されている
もの,被告補助参加人の名称と共に記載されているものがあるが,「三代目月見軒」
の名称が被告補助参加人以外の者の名称と共に記載されているものはない。したが
って,需要者や取引者がこれらの広告に接すれば,被告補助参加人を「三代目月見
軒」の主体として認識するはずである。
⑶以上によれば,「三代目月見軒」は,本件出願時及び現在のいずれにおい
ても,被告補助参加人の業務に係るラーメンの提供を表示するものとして需要者の
間に広く認識されているものといえ,したがって,引用商標は被告補助参加人の業
務に係る周知商標というべきである。
2原告らによる本願商標の使用等に関する被告補助参加人の認識と商標法4条
1項10号適用の可否について
「他人」とは,出願者以外の者を広く指称する概念であり,本件における「他人」
は被告補助参加人であるから,本願商標について商標法4条1項10号を適用でき
る。たとえ原告らが「三代目月見軒」の創業者一族又は創業者一族の共同経営者で
あるとしても,そのことは上記適用を妨げるものではない。
第6当裁判所の判断
1前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定でき
る事実。弁論の全趣旨により認められる事実を含む。)
(1)当事者ら
ア原告アイズは,平成15年10月14日に,飲食店の経営及び運営管理
の受託等を目的として設立された有限会社である(丙69の1)。
原告月見軒は,平成23年11月9日に,飲食店の経営,催事の企画,制作及び
運営等を目的として設立された合同会社である。当初は,C及びその実兄Dの長男
であるEが業務執行社員であり,Cが代表社員を務めたが,平成24年12月25
日付けで辞任し,替わってEが就任した。
イ被告補助参加人は,平成15年5月16日に,飲食店業等を目的として
設立された有限会社である(丙7)。
被告補助参加人は,平成23年9月7日,商標「三代目月見軒」(標準文字)に
つき,指定商品を第30類,スープ付き中華そばのめん等,指定役務を第43類,
中華そばを主とする飲食物の提供等として商標登録出願をしたが(商願2011-
64313号),同年11月7日付けで,上記商標は本願商標と同一又は類似であ
って,本願商標に係る指定商品(指定役務)と同一又は類似の商品(役務)につい
て使用するものであるから,商標法4条1項11号に該当する旨の拒絶理由通知を
受けた(丙1,丙3)。
⑵本願商標と引用商標の類比及び各役務の対比
本願商標と引用商標は,互いに類似する商標であり,また,本願商標の指定役務
は,引用商標に係る役務である「ラーメンの提供」と同一の役務を含むものである。
2原告ら主張の審決取消事由について
(1)引用商標の周知性に係る識別の対象について
ア(ア)ラーメン店「三代目月見軒」の営業状況
後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
aAは,昭和33年頃,札幌市中央区内においてラーメン店「月見軒」
を創業し,昭和40年頃,同人の長男であるBが同店の経営を引き継いだものの,
同人の体調不良により昭和45年頃に閉店を余儀なくされた。
その後,平成5年に,同人の甥であるCがラーメン店「月見軒」の屋号及び料理
のレシピを引き継ぎ,ラーメン店「三代目月見軒」を開業した。
Cは,平成7年頃,札幌市北区内に店舗を移して本店とし,同店の経営を実兄の
Dに任せた(甲22,甲24,甲29)。
b平成15年5月16日,飲食店業等を目的とする有限会社として被
告補助参加人が設立され,D及びその長男であるE(原告月見軒代表者)が取締役
に就任した(丙7,丙8)。
c同年7月1日付けで,Dは,自身が経営を任されていた前記札幌市
北区内のラーメン店「三代目月見軒」本店の営業を内部造作と共に対価300万円
で被告補助参加人に譲渡した(丙5)。
d被告補助参加人は,上記営業譲渡を受けた後間もなく「三代目月見
軒」という文字が明記されたパッケージに入ったラーメン(丙12の3,4等)の
販売や(丙12の1から丙15の2の3),新聞,雑誌,テレビ,インターネット
等の情報媒体を用いたラーメン店「三代目月見軒」の広告・宣伝活動(丙19の1
から丙42の2,丙44の1から丙49,丙64の1から14,丙70の1から丙
72の3)に及び,また,平成17年頃には京都駅ビル内の店舗を(「京都駅ビル
店」。丙11の1から丙11の11の5),平成20年には東京都江東区所在のシ
ョッピングセンター内の店舗(「東京店」。丙10の1から11)をそれぞれ開業
した。加えて,平成15年10月頃から,神戸,名古屋,東京,京都,博多,広島,
仙台,新潟,和歌山など全国各地の物産展にラーメン店「三代目月見軒」として出
展したほか(丙17の1から丙18の8),大学祭への協賛(丙43の1から4),
コンビニエンスストアの企画への参加(丙16の1から4)にも及んだ。被告補助
参加人は,このようなラーメン店「三代目月見軒」の営業活動を本件審決当時も続
けていたものと推認できる(丙17の47から丙17の48の4,丙18の1から
8,丙48の1,2等)。
なお,この間,平成15年10月14日に原告アイズが飲食店の経営及び運営管
理の受託等を目的とする有限会社として設立され,被告補助参加人の承諾を得て札
幌駅北口店を開業し,経営してきた(甲23,丙70の1から丙73の94)。
以上aからdの各事実によれば,被告補助参加人は,平成15年7月1日付けで
営業譲渡を受けて以降,ラーメン店「三代目月見軒」の営業活動を積極的に進め,
同店の業務として「ラーメンの提供」という役務を遂行してきたものと認められる。
(イ)各種情報媒体を通じた「三代目月見軒」の周知状況
本件証拠上,おおむね平成16年から平成25年にかけて,以下の情報媒体にお
いて,ラーメン店「三代目月見軒」の紹介,宣伝の欄に同店の経営母体,連絡先,
ラーメンの販売元等として被告補助参加人の名称又はその略称が明記されているこ
とが認められる。
aウェブサイト(乙2,丙9の1,丙40の2〔乙2,丙9の1は
被告補助参加人作成のサイト〕)
例えば,被告補助参加人作成のサイト(丙9の1)においては,トップページに
「ラーメン専門三代目月見軒」という大きな題字が掲げられ,その「店舗紹介」
及び「お土産ラーメン」の各ページの末尾に「ConsultingOffice有限会社月フ
ーズ」と,株式会社デイリー・インフォメーション北海道作成のサイト(丙40の
2)においては,「北海道自慢の名品」の紹介欄に「ラーメン専門三代目月見軒(有)
月フーズ」と,それぞれ記載されている。
b新聞記事(乙4から乙9,乙23,丙4,丙35,丙36の1,
丙37の1,丙50)
例えば,平成24年10月17日付け日刊スポーツ(丙37の1)には,北海道
日本ハムファイターズの応援企業として「ラーメン専門三代目月見軒有限会社月
フーズ代表取締役F」と記載されている。
c雑誌(乙11,乙13,丙20の1,丙21の1,丙22の1,
丙25の1,丙26の1)
例えば,平成17年9月23日に株式会社リクルート北海道じゃらんが発行した
「じゃらんウエルカムトゥ北海道‘05→’06秋・冬編」(乙13)
には,通信販売のラーメンとして「三代目月見軒のラーメン(有)月フーズ」と,
平成16年6月30日に株式会社あるた出版が発行した「くうかい北海道200
4年7月号」(丙22の1)にも,「三代目月見軒」のタイトルの下,通信販売の
ラーメンが紹介され,「お問合せ9:00~15:00有限会社月フーズ」
と,それぞれ記載されている。
dパンフレット類(丙12の2,丙38の1,丙43の1)
被告補助参加人が作成したお土産ラーメンの宣伝リーフレット(丙12の2)に
は,冒頭に「ラーメン専門三代目月見軒」という大きな題字が掲げられ,「おみ
やげ」,「六食入りギフト」という商品の紹介の下に,「発売元・ConsultingOff
ice(有)月フーズ」と,ヨミックス作成に係る通販カタログ(カタログ受付期間平
成21年10月25日から同年12月20日のもの。丙38の1)には,「ラーメ
ン専門三代目月見軒6食入りギフト」の紹介欄の下に,小さく「(有)月フーズ」
と,札幌大学大学祭実行委員会作成に係る平成22年10月8日から同月10日に
かけて開催された第43回札幌大学大学祭の「賞品協賛パンフレット」(丙43の
1)には,「三代目月見軒」という文字が明記されたパッケージに入ったラーメン
の写真の横に大きな文字で「有限会社月フーズ<生ラーメン>」と,それぞれ記
載されている。
以上のaからdの各事実によれば,被告補助参加人は,これらの情報媒体によっ
て,北海道を中心とするかなりの広域にわたりラーメン店「三代目月見軒」の経営
母体,連絡先,ラーメンの販売元等として需要者に認識されてきたものと推認でき
る。
(ウ)上記(ア)及び(イ)の各事実に鑑みれば,「三代目月見軒」及
びこれらの文字から成る引用商標は,平成23年8月30日の本件出願時において
既に被告補助参加人の業務に係るラーメンの提供を表示するものとして需要者の間
に広く認識されていたものと認定でき,この状況は平成25年10月30日の本件
審決時においても継続していたものと認められる。したがって,引用商標は被告補
助参加人の業務に係る周知商標というべきである。
イ以上に対し,原告らは,前記第3のとおり,①ラーメン店「三代目月見
軒」の営業をCら創業者一族から継承したのは原告らであり,被告補助参加人がラ
ーメン店「三代目月見軒」の営業を譲り受けた事実はなく,被告補助参加人は,D
を通じて,Cから,同人の営業を示す「三代目月見軒」の名称の使用料を支払うと
いう条件の下,ラーメン店「三代目月見軒」の催事の業務や土産販売等の営業活動
の一部を委託されていたにすぎない,②このことから,「三代目月見軒」は,本件
出願時及び本件審決時のいずれにおいても,原告らの業務に係る役務を表示するも
のとして需要者の間に広く認識されているものといえ,したがって,「三代目月見
軒」の文字から成る引用商標は原告らの業務に係る周知商標というべきである旨主
張する。
(ア)a原告ら主張に係る①の点については,前記アにおいて認定した
とおり,Dが平成7年頃からラーメン店「三代目月見軒」の経営に携わってきたこ
と,平成15年5月16日に被告補助参加人が飲食店業等を目的とする有限会社と
して設立された際,被告補助参加人代表者が代表取締役に,D及び原告月見軒代表
者が取締役に,それぞれ就任したことに加え,⒜上記設立に係る「法人設立設置届
出書」(丙6)において,「設立の形態」が「個人企業を法人組織とした法人」と
され,「設立前の個人企業」はD及び原告月見軒代表者の各飲食店である旨が記載
されており,「事業開始(見込)年月日」欄には平成15年7月1日と明記されて
いること,⒝被告補助参加人の定款(丙8)によれば,資本総額は300万円(6
0口)であり,被告補助参加人代表者が50口(250万円),Dが10口(50
万円)をそれぞれ出資したこと,⒞上記のとおり「法人設立設置届出書」中「事業
開始(見込)年月日」欄に記載された日付と同じ日付,すなわち,平成15年7月
1日付けの「ラーメン専門三代目月見軒代表D」名義に係る「本店内部造作及
び営業譲渡代金として」300万円を領収した旨の被告補助参加人宛て領収証(丙
5)が存在することが認められる。なお,原告らは,上記領収証につき,作成当時
のDの意思能力には疑義があることを理由に,作成の真正は疑わしい旨を主張して
おり,証拠(甲2,甲3)によれば,Dは平成15年8月8日から同年10月上旬
にかけて「アルコール離脱せん妄状態」のために入院して治療を受けたことが認め
られるものの,この事実は,上記入院開始日の約1か月前の日付に係る上記領収証
作成当時におけるDの意思能力に疑義を生じさせるものとまではいい難く,ほかに
同領収証の真正を疑わせる事情の存在もうかがわれず(なお,同人は,後記株式会
社デイーエム企画の監査役として,平成15年8月31日に重任されている〔丙6
5〕。),原告らの上記主張は採用できない。
これらの事実に鑑みれば,平成15年5月頃までに被告補助参加人代表者とDと
の間においてラーメン店「三代目月見軒」の営業譲渡の話が具体化したものと推認
でき,その営業を譲り受けて承継する主体として被告補助参加人が設立され,上記
営業譲渡の実現に至ったとみるのが自然である。しかも,同営業譲渡後間もない平
成15年9月頃から平成17年にかけて,被告補助参加人は,Cが代表取締役を,
Dが監査役を務める印刷会社株式会社デイーエム企画に対し,ラーメン店「三代目
月見軒」の業務に使用するラーメンケース,シール,ギフトケース,被告補助参加
人の名称を明記したラーメン店「三代目月見軒」の宣伝,広告用のパンフレットな
どを多数発注しており(丙12の5の1から丙12の7の6,丙65),このこと
から,Cらにおいて,被告補助参加人が自らの名前でラーメン店「三代目月見軒」
の営業活動を行うことを認識し,これに異論を述べていなかったことは明らかとい
える。
また,前記認定のとおり,被告補助参加人が従事してきたラーメン店「三代目月
見軒」の営業活動は多岐にわたり,その中には京都駅ビル店及び東京店の開業とい
う大がかりなものも含まれる上,営業許可の取得(丙10の2),店舗に関わる工
事の注文(丙10の5の1,2,丙11の6等),広告,宣伝活動に関する業者と
の対応(丙19の1から3等),物産展の主催者等との交渉(丙17の48の2か
ら4等)などといった営業活動に関する外部接渉の一切を被告補助参加人において
行い,費用もすべて負担したことが認められる。加えて,後述するとおり,原告ら
及びその各代表者やCなどの原告ら関係者のいずれに対しても,被告補助参加人か
ら「三代目月見軒」の名称の使用料が支払われたことを示す明らかな証拠はない。
以上に鑑みれば,被告補助参加人が原告らの委託によりラーメン店「三代目月見
軒」の営業活動の一部を担当していたにすぎないとは考え難いというべきである。
b(a)ところで,証拠(甲8の1から甲21の3)及び弁論の全趣旨に
よれば,平成18年3月から平成21年10月にかけて,ラーメン店「三代目月見
軒」のデパートにおける催事に係る実収入,すなわち,デパートからの入金額の1
0パーセントに相当する額が,被告補助参加人のDに対する貸付金との相殺という
形で,被告補助参加人から原告月見軒代表者に支払われており,領収証及び上記相
殺に係る相殺通知書の宛先はすべて「ラーメン専門三代目月見軒」とされてい
ることが認められる。
しかしながら,前記認定のとおり,被告補助参加人は,ラーメン店「三代目月見
軒」に関し,デパートにおける催事にとどまらず種々の営業活動を幅広く行ってお
り,その際には常に「三代目月見軒」の名称を使用しているところ,本件証拠上,
上記催事に係る支払のほか,被告補助参加人から原告らやその関係者に対して,定
期的な金銭の支払など何らかのライセンス料の納付とみる余地のある支払がされた
形跡はない。上記催事に係る支払についても,名目は「手数料」(甲8の2,3等)
とされており,同支払を「三代目月見軒」の名称使用と関連付ける事実は証拠上明
確に認められない。
他方,前記認定のとおり,原告月見軒代表者は,平成15年5月16日に被告補
助参加人が設立された当初,Dと共に取締役に就任し,平成23年10月7日に辞
任するまで(丙7)その地位にとどまっていたことから,上記設立後しばらくの間
はラーメン店「三代目月見軒」の営業に関して被告補助参加人と協力関係にあった
ものと推認でき,この点に鑑みると,上記催事に係る支払については,被告補助参
加人が主張するとおり,原告らやその関係者が当該催事に備えた仕込み等の作業に
携わった対価とみる余地もあるものといえる。
以上によれば,上記催事に係る支払については,原告ら主張に係る「三代目月見
軒」の名称使用のライセンス料と一義的に解することはできないというべきである。
なお,前述のとおり上記領収証及び相殺通知書の宛先はいずれも「ラーメン専門
三代目月見軒」とされているが,前記営業譲渡の際,以後は原告らやその関係
者において「三代目月見軒」の名称を一切使用しないなどという,同名称使用につ
いて明確な取決めがなされたことはうかがわれないことに鑑みると,上記宛先の点
は営業譲渡についての前記認定を揺るがすものとはいえない。
(b)また,前記認定のとおり,原告アイズは,札幌駅北口店を自ら開
業し,店舗敷地の借地契約も締結しているが(甲23),開店に際しての宣伝,広
告については被告補助参加人が業者と交渉して費用も負担し(丙70の1から丙7
2の3),営業に不可欠な生ラーメン等の原材料や販売用のお土産ラーメンについ
ても被告補助参加人が原告アイズに提供してきたこと(丙73の1から94)が認
められる。他方,ラーメン店「三代目月見軒」の創業者一族,すなわち,Cや原告
月見軒代表者らが,上記のように営業上重要な事項の決定,実施につき,札幌駅北
口店に関わったことを示す客観的証拠はない。
以上に鑑みれば,原告アイズによる札幌駅北口店の開業,経営は,創業者一族か
らのれん分けを受けたことによるものではなく,被告補助参加人の承諾に基づくも
のとみるのが相当である。
(c)さらに,原告らが提出した証拠中,平成24年9月9日付けのB
作成の意見書(甲22)には,月見軒の名前の使用を許したのはCのみであり,B
やCの承諾なしに月見軒の名前を使用することは認められない旨が,同年3月13
日付けのC作成の上申書(甲24)には,札幌駅北口店の営業は,開店以来,原告
らが協同して担っている旨が,平成23年11月9日付けの原告ら作成の確認書(甲
26)には,原告アイズが平成15年8月8日にのれん分けの対価として300万
円をDに支払い,これによって「三代目月見軒」の名称によるラーメン店経営を許
諾された旨が,平成26年5月9日付けの製めん業者代表者作成の陳述書(甲29)
には,同人は原告らがラーメン店「三代目月見軒」を経営しているという認識を有
している旨がそれぞれ記載されているものの,これらはいずれも本件出願後に作成
されたものであって客観的裏付けを伴うものではなく,前記認定を揺るがすものと
はいえない。
加えて,原告らは,被告補助参加人が現在はラーメン店「三代目月見軒」の営業
に一切関与していないこと,平成24年6月15日に突然札幌市白石区内にラーメ
ン店を開いて同店を本店として紹介したことを指摘して,被告補助参加人がラーメ
ン店「三代目月見軒」の営業を譲り受けて経営してきた事実を争うが,原告ら指摘
に係る事実があったとしても,前記認定を揺るがすものとまではいえない。
c以上によれば,原告らの前記①の主張は採用できない。
(イ)原告ら主張に係る前記②の点についても,前記認定のとおり,本件証
拠上,おおむね平成16年から平成25年にかけて,ウェブサイト,新聞記事,雑
誌,パンフレット類といった多数の情報媒体において,ラーメン店「三代目月見軒」
の紹介,宣伝の欄に同店の経営母体,連絡先,ラーメンの販売元等として被告補助
参加人の名称又は略称が明記されているのに対し,上記のような情報媒体に原告ら
を示す内容が記載されているものは見受けられない。また,前記認定のとおり,原
告アイズが被告補助参加人の承諾を得て開業した札幌駅北口店のほか,原告らがラ
ーメン店「三代目月見軒」の営業に主体的に携わったことを認めるに足りる証拠も
ない。
なお,原告らは,上記ウェブサイト等の内容が被告補助参加人に対する取材に基
づくものであること,大半が被告補助参加人自身の費用によると思われる宣伝,広
告であることを指摘するが,使用する商標の周知性等の立証のために,自らが費用
を負担して積極的に行った宣伝,広告の結果である資料を提出するのは当然のこと
であり,これらの点は,周知性に関する認定を左右するものとはいえない。
したがって,原告らの前記②の主張も採用できない。
ウ小括
以上によれば,「三代目月見軒」は,平成15年7月1日の営業譲渡の後,長年
にわたり被告補助参加人の業務に係るラーメンの提供を表示するものとして需要者
の間に広く周知されてきたことが認められ,「三代目月見軒」の文字から成る引用
商標は,本件出願時において既に上記役務を表示するものとして需要者の間に広く
認識されており,この状況は本件審決時も継続していたものと認められる。
したがって,本件審決が,引用商標をもって被告補助参加人の業務に係る周知商
標と認定した結論に誤りはない。なお,本件審決の理由中,「『三代目月見軒』は,
『月フーズ』の業務に係る役務『ラーメンの提供』を表示するものとして,(中略)
テレビ番組においては1999年にはすでに紹介されており,」という点について
は,前述のとおり被告補助参加人が設立されたのは平成15年であり,したがって,
1999年,すなわち,平成11年当時にはいまだ被告補助参加人が存在していな
かったことから,その限度で誤りがあるといわざるを得ないが,この点は本件審決
の結論の当否に影響を及ぼすものとまではいえない。
(2)原告らによる本願商標使用等に関する被告補助参加人の認識と商標法4
条1項10号の適用の可否について
ア商標法4条1項10号の適用の可否については,①商標法32条が先使
用による商標の使用権を認めるに当たり「不正競争の目的でなく」当該商標又はこ
れに類似する商標を使用することを要件としていること,②周知商標の使用者にお
いて,他の者が当該周知商標又はこれに類似する商標を使用していることを知りな
がらあえて当該周知商標の使用を開始し,商標の出所混同の事態が生ずるおそれを
招いた場合にまで,上記他の者による商標登録出願を排除するのは相当とはいえな
いことに鑑み,商標法4条1項10号の適用には,周知商標の使用者が使用開始時
において他の者が当該商標又はこれに類似する商標を使用していることにつき,特
段の事情のない限り,善意であることを要すると解すべきである(大審院昭和2年
9月28日判決・審決公報号外第4号大審院判決商標第1巻⑵107頁参照)。
イ前記(2)において認定した事実によれば,被告補助参加人は,平成15年
7月1日付けの営業譲渡直後から「三代目月見軒」の使用を開始したものと認めら
れる。
原告らについてみると,原告アイズは同年10月14日に設立され,被告補助参
加人の承諾を得て札幌駅北口店を開業したものであるから,被告補助参加人の方が
原告アイズよりも先に「三代目月見軒」を使用していたものと推認される。なお,
仮に原告アイズの使用が先行し被告補助参加人がその事情を知り得たとしても,原
告アイズによる使用は被告補助参加人の承諾に基づくものであるから,事実上,被
告補助参加人自身による使用と同視できるのであって,商標法4条1項10号の適
用は妨げられないというべきである。
原告月見軒が設立されたのは平成23年11月9日であり,前記認定事実によれ
ば,上記設立よりも先に被告補助参加人が「三代目月見軒」を使用していたのは明
らかであるから,被告補助参加人において原告月見軒による「三代目月見軒」の使
用を認識しながら,自らもこれを使用したということはあり得ない。
なお,原告らは,引用商標が被告補助参加人の業務に係る周知商標であったとし
ても,被告補助参加人は,「三代目月見軒」が原告らを識別するものとして広く需
要者の間に認識されていることを知りながら,あえて自らを「三代目月見軒」の使
用者と称して継続的にメディアの取材を受け,その結果として引用商標が被告補助
参加人に係る周知性を備えるに至ったといえるから,引用商標をもって商標法4条
1項10号のいう周知商標と評価すべきではない旨主張するが,前記のとおり,「三
代目月見軒」は被告補助参加人を識別するものとして需要者の間に広く認識されて
おり,被告補助参加人とは別法人である原告らを識別するものとして周知されてい
たとは認められないから,上記主張は前提を欠き,採用できない。
ウ以上によれば,本願商標について商標法4条1項10号が適用されるの
は明らかといえ,本件審決の結論に誤りはない。
第7結論
以上によれば,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
新谷貴昭
裁判官
鈴木わかな

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