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平成14年(行ケ)第197号 特許取消決定取消請求事件
平成15年2月13日言渡 平成15年1月28日口頭弁論終結
     判    決
 原 告 株式会社ブリヂストン
 訴訟代理人弁理士 鈴木悦郎、渡邊公義
 被 告  特許庁長官 太田信一郎
 指定代理人 藤井昇、蓑輪安夫、高木進、林栄二
     主    文
 特許庁が異議2001-72535号事件について平成14年3月5日にした決
定を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
     事実及び理由
 以下の表記においては、文献を引用する際にも公用文の方式とした部分がある。
第1 原告の求めた裁判
 主文第1項同旨の判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、名称を「ゴムクローラの構造」とする特許第3146289号発明(平
成4年7月4日特許出願、平成13年1月12日設定登録。本件発明)の特許権者
であるが、特許異議があり、異議2001-72535号として審理され、その間
の平成14年1月29日訂正請求があったところ、同年3月5日「訂正を認める。
特許第3146289号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定があり、そ
の謄本は同月25日原告に送達された。
 2 本件発明の要旨
(訂正前)
【請求項1】無端状ゴム弾性体の長手方向に向かって抗張体を埋設し、その外周面
にゴムラグを形成したゴムクローラであって、少なくとも抗張体より内周側のゴム
質を、ロスファクター(tanδ)が0.15以下のゴムを使用したことを特徴と
するゴムクローラの構造。
(訂正後)
【請求項1】無端状ゴム弾性体の長手方向に向かって抗張体を埋設し、その外周面
にゴムラグを形成したゴムクローラであって、抗張体より内周側のゴム質のみを、
ロスファクター(tanδ)が0.15以下のゴムを使用したことを特徴とするゴ
ムクローラの構造。
 3 決定の理由の要点
 別紙決定の理由のとおりである。要するに決定は、本件発明は、刊行物1(特開
昭55-140662号公報。甲第3号証)記載の発明及び刊行物2(特開昭56
-79004号公報。甲第4号証)記載の発明から容易に想到することができたか
ら、特許法29条2項により特許を受けることができない、と認定判断した。
第3 原告主張の決定取消事由
 決定は、本件発明と刊行物1記載の発明との相違点の認定を誤り(取消事由
1)、刊行物2記載の発明の認定を誤り(取消事由2)、相違点の判断に当たり、
刊行物2記載の発明を刊行物1記載の発明へ適用する際の容易性の判断を誤るとと
もに(取消事由3)、本件発明のもたらす特有の効果を看過したものであるから
(取消事由4)、違法として取り消されるべきである。
第4 当裁判所の判断
 取消事由3(相違点の判断の誤り)について、被告の反論にも触れつつ、以下に
判断する。
 1 決定が、本件発明と刊行物1記載の発明とは「いずれも車両走行用ゴムに係
るものであり、繰り返し変形するという運動特性が共通している」(別紙決定の理
由150~151行)と認定したのに対して、原告は、刊行物1記載の発明と刊行
物2記載の発明とは技術思想が大きく異なること、すなわちタイヤにおける各ゴム
層はゴムクローラの内周側のゴム層とは基本的に全く異なる変形が繰り返されるこ
とを見落としたものであり、刊行物2記載のロスファクター0.15以下という数
値が一致するからといって、使用される部位が明らかに異なるゴム質についての刊
行物記載のものが刊行物1記載の発明に適用可能だとした決定の判断は誤りである
と主張する。これにつき被告は、ゴムクローラと空気入りタイヤとは、「いずれも
車両走行用ゴムに係るものであり、繰り返し変形するという運動特性が共通」した
ものであるから、エネルギーロスを低減しようとして、必要な箇所に、周知のロス
ファクターの小さいものを用いてみようとすることに格別の困難性はないと反論し
ている。
 2 刊行物2(甲第4号証)記載の発明の特許請求の範囲は、
「一対のビード部と一対のサイドウォール部を備える一方、キャップトレッド部に
ベルト補強層を有した空気入りタイヤにおいて、前記キャップトレッド部の路面に
接するゴム層(A)と、該ゴム層(A)と前記ベルト補強層との間のゴム層(B)
及びショルダー部及び又はサイドウォール部のゴム層(C)の各ゴム層のゴムそれ
ぞれの損失正接をtanδa、tanδb、tanδcとし、また前記各ゴム層の
ゴムそれぞれのゴム硬さ(ショアーA硬度)をEa、Eb、Ecとした場合、前記
各損失正接の関係及び各ゴム硬さの関係を、それぞれ
 tanδa>tanδc≧tanδb
 Eb>Ea>Ec
とし、さらに前記各損失正接及び各ゴム硬さの値を、
0.20<tanδa<0.30
 0.05<tanδb<0.15
0.10<tanδc<0.20
 53<Ea<66
 66<Eb<73
 43<Ec<57
の範囲内としたことを特徴とした空気入りタイヤ」
 というものである。
 3 刊行物1記載の無限軌道帯(ゴムクローラ)と刊行物2記載の空気入りタイ
ヤの両者は共に、車両走行用ゴムに係るものであることは明らかであるので、刊行
物1記載の無限軌道帯の内周面のゴムとして、刊行物2に記載されているような空
気入りタイヤの特定箇所における使用を前提としたロスファクターの値を有するゴ
ム層(ゴム層B)を使用することができるかどうか検討するために、まず刊行物1
記載の無限軌道帯(ゴムクローラ)の内周のゴム層にどのような力がどのように作
用して変形を引き起こし、また該ゴム層はどのような特性が要求されているのかを
以下に判断する。
 4 刊行物1記載の無限軌道帯(ゴムクローラ)の内周のゴム層についてみる
に、刊行物1(甲第3号証)には次の記載がある。
 「無限軌道帯1の内周面は転輪の通過面となるため、かような転動荷重の支持に
対応して、第2図にbで示したような損傷を生じないゴム質が使用されるべきであ
り」(7頁左下欄7~10行)
 「無限軌道帯1の両側縁はその使用中接地用ラグ5の中間区間において第2図に
仮想線で示したような耳曲りすなわち内方への撓みdを生じる現象があり、この撓
みdは特に湿田などでの使用中には不都合が著しく、というのはそれによる有効接
地幅の減少が、無限軌道帯1の沈下を招くうえ、特に内周面上に掬い上げられた土
砂が振り落とされることなくそのまま転輪や導輪(図示せず)にかみこまれて脱輪
の原因ともなる」(7頁左下欄12~20行)
 「この種の無限軌道帯においては、ややもすると芯金に働く駆動力により条材4
に芯金3のかどがスプロケットホイール上で直接接触してそれらの接着力を減殺す
るおそれがあり」(7頁右下欄6~9行)
 「摩耗テストにおいて、第2図で記号aを付して示すように摩耗する部分は、ス
プロケット孔6の列に沿った接地用ラグ5の内肩及びスプロケット孔6の側縁とに
始まり、いずれも芯金3の端部に向けて延びる形で集中的にいわば偏摩耗の形で生
じ、また同じくbで示したように転輪通過面は常に圧縮力を繰り返し受けるため、
ゴム圧縮疲労に基づいてそこに芯金3との剥離現象が見受けられた。
 一方、耐クラックテストにおいては、第1図記号cで示すようにスプロケットホ
イールのかみ合い孔6及び接地用ラグ5に近い部分に多発することが確認され、こ
れは主として駆動輪に巻きがけされて反転する際の歪及び転輪が通過する際にゴム
中における芯金3の挙動に基づくものである。
 以上の結果から分かるように、ゴム弾性材料から主としてなる無限軌道帯のゴム
各部はおのおの別異の作用の下でそれぞれ特殊な機能が要求されることが明らかに
なったのである。
 この発明は以上のような知見に基づいてなされたもので、ゴム又はゴム状弾性材
料の帯状成形体内部に、その長手方向の間隔を隔てて該方向に対し直角に芯金を、
そして該方向と平行に条材を、それにより芯金を外囲いする位置にそれぞれ埋設合
体した無端帯よりなり、無端帯の外周面に接地用ラグを備える無限軌道帯におい
て、この無端帯が、芯金と条材との間に位置する中間ゴムB、この中間ゴムBに対
しより外周側に位置する外ゴムC、及びより内周側に位置する内ゴムAとの三層よ
りなる高耐久性無限軌道帯であり・・・特に好ましい各ゴム層の硬度をB>A>C
の順にすること、そして外ゴム層Cが耐摩耗、耐クラック性のゴム質であり、内ゴ
ム層Aは耐圧縮疲労及び金属との接着性の良好なゴム質であることがいずれも実施
上望ましい。」(8頁左上欄8行~8頁左下欄7行)
 「内ゴムAについては・・・耐圧縮性で永久伸びを押さえた配合とする」(8頁
左下欄13~15行)
 「スプロケットホイールとテンションプーリー間に無限軌道帯を巻き掛けし、転
輪の荷重下に走行する際、芯金11がスプロケットホイールからの駆動力を受け、
これを弾性的に条材12を介して無端帯に分散伝達する」(9頁左下欄7~11
行)
 「ゴムAの硬度をゴムCよりも高くしたことによって帯状体10の内周面で転輪
との衝突により芯金端に生じるクラックの発生も著しく抑制されることが明らかに
なり、さらには接地ラグ13側の偏摩耗も有利に防止され、これによる推進力の向
上に合わせて転輪通過による圧縮疲労や芯金先端のクラックの発生をも有効に阻止
されることとなった」(10頁左上欄20行~右上欄7行)
刊行物1図面
 5 これらの記載からすると、刊行物1記載の無限軌道帯1(ゴムクローラ)
は、スプロケットホイールとテンションプーリー間に巻き掛けされ、転輪の荷重下
に走行する際、芯金11がスプロケットホイールからの駆動力を受け、これを弾性
的に条材12(抗張体)を介して無端帯に分散伝達するものであり、また、上記無
限軌道帯1(ゴムクローラ)の内周面は、転輪の通過面となるため常に圧縮力を繰
り返し受けるので、内ゴム層Aは耐圧縮疲労及び金属との接着性の良好なゴム質で
あることが望ましく、しかも湿田などでの走行が想定されていると認められる。
 6 他方、刊行物2(甲第4号証)には、「本発明は上述のごとく、キャップト
レッド部を路面に接するゴム層と該ゴム層とベルト補強層との間のゴム層に分割
し、前記路面に接するゴム層には損失正接(tanδ)が小さく、かつゴム硬さ
(ショアーA硬度)の高いゴムを使用するとともに、前記路面に接するゴム層とベ
ルト補強層との間のゴム層、及びショルダー部及び又はサイドウォール部にも前述
した適宜な損失正接(tanδ)とゴム硬さ(ショアーA硬度)の物性値を有する
ゴムを配置する一方、前記各ゴム層の損失正接及びゴム硬さの関係を前述のごとき
関係とし、またこれらの各値を前述のごとき範囲内としたから、自動車用ラジアル
タイヤの湿潤路における運動性能及び乗り心地等のタイヤの一般特性を低下させる
ことなく、タイヤ転動抵抗を著しく低減することができ、この結果タイヤの転動中
における消費エネルギーを低減化することができる。」(5頁左下欄9行~右下欄
6行)との記載がある。
      刊行物2図面
 
 7 そこで、刊行物2記載の発明におけるゴム層を刊行物1記載の発明に適用す
ることが容易であるかを検討するに、刊行物1記載のゴムクローラの内周のゴム層
と刊行物2記載のゴム層Bは共に圧縮変形を受け、両者は確かに「繰り返し変形す
る」ものではあるが、その変形がゴム層に生じる原因となるゴム層に作用する力、
力の作用の仕方及び要求される性能は、以下のように相違するものと認めることが
できる。
 ① 作用する力: ゴムクローラは、刊行物1に記載されているように、スプロ
ケットホイールとテンションプーリー間に巻き掛けされるものであって、刊行物1
記載のゴムクローラの内周のゴム層はスプロケットホイールとテンションプーリー
の外周面により該外周面に沿った曲げ変形を受けると同時に、該外周面から押圧力
を受け、しかも転輪の通過の度に圧縮力を繰り返し受ける。さらに、スプロケット
ホイールからの駆動力が抗張体を介して分散伝達される。これに対して、刊行物2
記載のゴム層Bは、主に圧縮変形を受けるキャップトレッド部を分割したものであ
るので、タイヤの転動に伴い圧縮変形を受ける。
 ② 力の作用の仕方: 刊行物1記載のゴムクローラの内周面はスプロケットホ
イールとテンションプーリーの外周面と転輪から直接力を受けるのに対して、刊行
物2記載のゴム層Bは、タイヤ内に封入された空気からの圧力をベルト補強層を介
して受け、さらに路面との間には別のキャップトレッド層を介している。
 ③ 要求される性能: 刊行物1記載のゴムクローラの内周のゴム層は耐圧縮疲
労及び抗張体との接着性の良好なゴム質であることが望ましく、しかも湿田等での
走行が想定されているのに対して、刊行物2記載のゴム層Bは、曲げ変形を受ける
ショルダー部及びサイドウォール部と協働して、湿潤路運動性能や乗り心地性能等
タイヤの一般特性を損なうことなく、転動抵抗を低減させることが要求されてい
る。
 8 そうすると、刊行物1記載のゴムクローラの内周のゴム層と刊行物2記載の
ゴム層Bにおける①作用する力、②力の作用の仕方及び③要求される性能が上記の
ように相違するので、両者は繰り返し変形するという点で共通するだけであって、
両者のゴム層に引き起こされる変形の態様において相違するものである。したがっ
て、刊行物1記載のゴムクローラの内周のゴム層として、該ゴムクローラの内周の
ゴム層と単に繰り返し変形するという一般的概念以外の共通性を見いだすことはで
きないのであり、刊行物2に記載されているような空気入りタイヤにおける特定箇
所での使用を前提としたロスファクターの値を有するゴム層(ゴム層B)を使用す
ることは、当業者といえども容易に想到することができるものと認めることはでき
ない。
 してみると、「いずれも車両走行用ゴムに係るものであり、繰り返し変形すると
いう運動特性が共通しているから」(別紙決定の理由150~151行)との根拠
をもってしては、刊行物1記載の「ゴムクローラの内周にエネルギーロスが少ない
刊行物2記載の発明のロスファクター(tanδ)が0.15以下のゴムを使用す
ることは、・・・当業者にとって格別困難なことではない。」とした決定の判断は
誤りである。
 9 被告は、タイヤの湿潤路運動性能を考慮して路面に接するゴム層には、ロス
ファクターの高いゴムを使用し、残余のゴム層には、タイヤの転動抵抗の低減を図
るべくロスファクターの小さいゴムを使用するという技術思想が、刊行物2や乙第
1号証(特公昭57-49404号公報)に開示されていることから、ロスファク
ターの小さいものを用いる上記必要な箇所を接地面側でない箇所つまりゴムクロー
ラの内周側とすることについては、格別の困難性はなく、極めて自然な発想といえ
るとも反論している。しかし、刊行物1記載のゴムクローラは路面ではなく、湿田
等での走行を想定したものであり、しかも無限軌道帯であるので接地面積は大き
く、さらに外周面にゴムラグ(接地用ラグ13。3頁左下欄、第4図(A)参照)が
形成されているので、刊行物2記載のタイヤのように、路面に接するゴム層の湿潤
路運動性能を考慮する必要があるものと認めることはできない。乙第1号証に記載
の発明も、自動車用ラジアルタイヤに関するものであり、刊行物2に関してと同
様、そこに記載の技術思想を刊行物1記載のゴムクローラに適用する動機付けを認
めることができない。
 10 以上のとおりであって、取消事由3は理由がある。付言するに、決定は、
刊行物1記載のゴムクローラの内周に、エネルギーロスが少ない刊行物2記載の発
明のロスファクター(tanδ)が0.15以下のゴムを使用することについて判
断しているが(別紙決定の理由141~145行)、請求項1記載の「抗張体より
内周側のゴム質のみを、ロスファクター(tanδ)が0.15以下のゴムを使用
したこと」については、「刊行物1には・・・クローラにおいて概略抗張体より内
周側、外周側に異なる性質のゴムを使用することが示唆されており」(別紙決定の
理由146~147行)との説示があるのみで、その点の容易推考性に関する判断
は明確でない。したがって、仮に刊行物1記載のゴムクローラの内周にエネルギー
ロスが少ない刊行物2記載の発明のロスファクター(tanδ)が0.15以下の
ゴムを使用することができたとしても、決定において、本件発明を容易に構成する
ことができたとの根拠が示されているものではない。
第5 結論
 よって、決定は取り消されるべきである。
 東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官   塩   月   秀   平
            裁判官   古   城   春   実
裁判官   田   中   昌   利
平成14年(行ケ)第197号 異議2001-72535号
    決定の理由
1.手続きの経緯
 本件特許3146289号の請求項1に係る発明についての出願は、平成4年7
月4日に出願され、平成13年1月12日にその発明について特許権の設定登録が
なされ、その後、その特許について、異議申立人オーツタイヤ株式会社より特許異
議の申立がなされ、平成13年11月20日付けで取消理由の通知および審尋がな
され、その指定期間である平成14年1月29日付けで意見書、訂正請求書および
審尋回答書が提出されたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
 上記訂正請求は、願書に添付した明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のと
おり訂正することを求めるものであるが、その要旨は次のとおりのものと認める。
 ア、訂正事項1
 願書に添付した明細書の【特許請求の範囲】の「【請求項1】無端状ゴム弾性体
の長手方向に向かって抗張体を埋設し、その外周面にゴムラグを形成したゴムクロ
ーラであって、少なくとも抗張体より内周側のゴム質を、ロスファクター(tan
δ)が0.15以下のゴムを使用したことを特徴とするゴムクローラの構造。」な
る記載を、「【請求項1】無端状ゴム弾性体の長手方向に向かって抗張体を埋設
し、その外周面にゴムラグを形成したゴムクローラであって、抗張体より内周側の
ゴム質のみを、ロスファクター(tanδ)が0.15以下のゴムを使用したこと
を特徴とするゴムクローラの構造。」と訂正する。
 イ、訂正事項2
 願書に添付した明細書の段落番号【0006】の「...少なくとも抗張体より
内周側のゴム質を...」なる記載を、「...抗張体より内周側のゴム質のみ
を...」と訂正する。
 ウ、訂正事項3
 願書に添付した明細書の段落番号【0011】「...加振条件は15Hz±2
%...」を「...加振条件は周波数15Hz、歪振幅±2%...」と訂正す
る。
 エ、訂正事項4
 願書に添付した明細書の段落番号【0013】の【表1】中の「tanδ(15
Hz±2%)」を、「tanδ(加振条件:周波数15Hz、歪振幅±2%)」と訂正する。
 オ、訂正事項5
 願書に添付した明細書の段落番号【0017】の「...tanδ(15Hz±
2%)...」を、「...tanδ(加振条件:周波数15Hz、歪振幅±2
%)...」と訂正する。
 カ、訂正事項6
 願書に添付した明細書の段落番号【0021】「...外周側のゴム質...」
を、「...内周側のゴム質...」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
 ア、 訂正事項1について
 願書に添付した明細書の段落番号【0005】に「ゴムクローラの抗張体より内
周側におけるこの抵抗を低減させることを目的としたものであり、この部位のゴム
質を改良して内部抵抗の減少をもたらそうとするにある。」なる記載、明細書の段
落番号【0020】に「結果は図1に示す通りである。このテストにあっては、ゴ
ムクローラの外周側のゴム質のtanδは常に一定(tanδ=0.30)とし、抗
張体の内周側のゴム質のtanδの値を変化させた場合をA線で示す。そして、ゴム
クローラの中立点である抗張体をはさむ内外のゴムのtanδの値が、いずれも
0.30の場合の走行抵抗を100として指数表示したものである。因みに、抗張
体をはさむ内外のゴムのtanδを同一値とした場合をB線で示した。」なる記載
等から、「抗張体よりも内周側のゴム質のみをロスファクター(tanδ)が0.
15以下のものとしたゴムクローラ」は記載されているから、上記訂正事項1は、
新規事項の追加に該当しない。そして、訂正前は、内周側のゴム質のみを特定する
もの及び内周側、外周側の両側のゴム質を特定するものを含んでいたが、訂正事項
1により「内周側のゴム質のみ」を特定するものに限定したものであり、訂正事項
1は特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認める。上記訂正事項1は、新規事
項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
 イ、訂正事項2について
 訂正事項2は、訂正事項1と整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載
の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に
特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
 ウ、訂正事項3について
 訂正事項3は、tanδ測定時の加振条件として、願書に添付した明細書の段落
【0011】に「15Hz±2%」と記載されていた事項を、通常の表現形式に沿う
ように、周波数と歪振幅を個別に「周波数15Hz、歪振幅±2%」と記載したも
のであり、明りょうでない記載の釈明に相当し、願書に添付した明細書に記載した
事項の範囲内のものである、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するも
のではない。
 エ、訂正事項4について
 訂正事項4は、表1中のtanδの加振条件を前項の訂正事項3と同様に訂正し
たものであり、明りょうでない記載の釈明に相当するものである。
 オ、訂正事項5について
 訂正事項5は、願書に添付した明細書の段落番号【0017】の記載中のtan
δの加振条件を訂正事項3と同様に訂正したものであり、明りょうでない記載の釈
明を目的とし、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であ
り、又、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
 カ、訂正事項6について
 訂正事項6は、願書に添付した明細書の段落番号【0021】(特許公報第3頁
第5欄第46行~第50行目)の記載中の訂正であり、本来「内周側のゴム質」と
すべきところを、「外周側のゴム質」と誤記したものと認められる。願書に添付し
た明細書の段落番号【0020】の内容を図1と対応させると、図1のA線は走行
抵抗80以下で、tanδが0.15以下であり、A線は【符号の説明】から、外
周側のゴム質tanδが一定で、抗張体の内周側のゴム質のtanδ値を変化させ
ており、内周側のゴム質に着目している。そして、内周側のゴム質のtanδの値
を0.15以下とすることは、願書に添付した明細書の段落【0006】に記載さ
れている。したがって、訂正事項6は、願書に添付した明細書又は図面に記載した
事項の範囲内の訂正であり、又、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもな
い。
(3)むすび
 以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年
法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特
許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前
の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当
該訂正を認める。
3.本件発明
 前記平成14年1月29日付け訂正請求が認められるから、本件請求項1に係る
発明は(以下、本件発明という)は、上記訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1
に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】無端状ゴム弾性体の長手方向に向って抗張体を埋設し、その外周面
にゴムラグを形成したゴムクローラであって、抗張体より内周側のゴム質のみを、
ロスファクター(tanδ)が0.15以下のゴムを使用したことを特徴とするゴ
ムクローラの構造。」
 
4.引用例
 前記取消理由において引用した特開昭55一140662号公報(以下、「刊行
物1」という)には、次の事項が記載されている。
 ア、「この発明はゴム又はゴム状弾性材料を主体とする無限軌道帯...を提供
しようとするものである。」(7頁右欄15行~19行)
 イ、「ゴム弾性材料から主としてなる無限軌道帯のゴム各部はおのおの別異の作
用の下でそれぞれ特殊な機能が要求されることが明らかになったのである。」(8
頁右上欄3行~6行)
 ウ、「ゴム又はゴム状弾性材料の帯状成形体内部に、その長手方向の間隔をへだ
てて該方向に対し直角に芯金を、そして該方向と平行に条材をそれにより芯金を外
囲いする位置にそれぞれ埋設合体した無端帯よりなり、無限帯の外周面に接地用ラ
グを備える無限軌道帯において、この無端帯が、芯金と条材との間に位置する中間
ゴムB、この中間ゴムBに対しより外周側に位置する外ゴムC、及びより内周側に
位置する内ゴムAとの三層よりなる高耐久性無限軌道帯であり...そして外ゴム
層Cが耐摩耗、耐クラック性のゴム質であり、内ゴム層Aは耐圧縮疲労および金属
との接着性の良好なゴム質であることが何れの実施上望ましい。」(8頁右上欄8
行目~同頁左下欄7行目)
 上記ア、ウおよび第4図の記載から、刊行物1には、「ゴム状弾性材料の帯状体
の長手方向に向かって条材を埋設し、帯状体の外周面にゴムラグを形成した無限軌
道帯」が記載されているものと認める。
 また、前記取消理由において同時に引用した特開昭56一79004号公報(以
下、「刊行物2」という。)には次の事項が記載されている。
 エ、「タイヤの各構成部に損失正接(tanδ)の小さい物性を有するゴムを用
いる事は、エネルギーロスを低減する上で有効である」(3頁右上欄3行~6
行)、
 オ、「ゴム層Bのtanδについては、湿潤路制動性能に影響を与える事なく、
転動抵抗低減の為には、0.15以下が必要であり、生産工程に於ける作業性を考
慮すると0.05がその最低値に近い。」(5頁右上欄9行~13行)
5.対比判断
 刊行物1記載の「無限軌道帯」も「ゴムクローラ」と称することができ、本件発
明と上記刊行物1記載の発明を比較すると、刊行物1記載の発明の「条材」は本件
発明の「抗張体」に相当するから、両発明は「無端状ゴム弾性体の長手方向に向か
って抗張体を埋設し、その外周面にゴムラグを形成したゴムクローラ」で一致し、
本件発明では、「抗張体より内周側のゴム質のみを、ロスファクター(tanδ)
が0.15以下のゴムを使用」しているのに対し、刊行物1記載の発明は、ゴム質
のロスファクターが明りょうでない点で相違する。
 しかしながら、刊行物2記載の発明の「損失正接(tanδ)」は本件発明の
「ロスファクター(tanδ)」と同義と認められることから、刊行物2には上記
4.エ及びオで指摘したとおり、エネルギーロスを低減するためにロスファクター
(tanδ)が小さいゴムが使用されること、および、ロスファクター(tan
δ)0.15以下のゴムが適していることが記載されているものと認められる。
 また、刊行物1には、上記4.イおよびウで引用したように、クローラにおいて
概略抗張体より内周側、外周側に異なる性質のゴムを使用することが示唆されてお
り、繰り返し変形が予測されるゴムクローラの内周にエネルギーロスが少ない刊行
物2記載の発明のロスファクター(tanδ)が0.15以下のゴムを使用するこ
とは、刊行物1及び2記載の発明が、いずれも車両走行用ゴムに係るものであり、
繰り返し変形するという運動特性が共通しているから、当業者にとって格別困難な
ことではない。そして、本件発明が出願前より周知のいわゆる「水虫現象」(例え
ば、実願昭61-127660号(実開昭63-32973号公報)のマイクロフ
イルム、実願昭63-11254号(実開平1-114490号公報)のマイクロ
フイルム、実願平1-45348号(実開平2-135384号公報)のマイクロ
フイルムなど参照)を改良できる効果は、前述のとおり、刊行物1記載の発明と刊
行物2記載の発明から容易に構成されたものがもたらす効果にすぎず、本件発明を
構成することが容易であることは依然として変わらない。
6.むすび
 以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許
を受けることができない。
 したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出
願に対してされたものと認める。
 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14
条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める
政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定す
る。

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