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平成18年(行ケ)第10067号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成18年6月12日
判決
原告ジャパンプログレス株式会社
訴訟代理人弁理士井澤洵
同井澤幹
被告特許庁長官
中嶋誠
指定代理人藤正明
同岩井芳紀
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2005-2679号事件について平成17年12月20日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が後記意匠につき意匠登録出願をしたところ,特許庁から拒絶
査定を受けたため,これを不服として審判請求をしたが,請求不成立の審決を
受けたことから,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成15年12月26日,後記意匠につき意匠登録出願(以下「
本願」という。)をしたが,特許庁から平成17年1月7日に拒絶査定を受
けたので,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2005-2679号事件として審理した上,平
成17年12月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
し,その謄本は平成18年1月16日原告に送達された。
(2)意匠の内容
本願に係る意匠の内容は,意匠に係る物品を「側溝用ブロック」とし,そ
の意匠の形態を別添審決写し別紙第1の本願意匠のとおりとするものであ
る。
(3)審決の内容
ア審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。
その要点は,本願意匠は,意匠登録第912878号の類似第2号(平
成7年6月28日意匠公報発行。甲12)の意匠(以下「引用意匠」とい
う。審決写し別紙第2)に類似するから,意匠法3条1項3号に該当する
としたものである。
イなお,審決は,本願意匠と引用意匠との対比に当たって,両意匠は意匠
に係る物品が共通であるとしたほか,その共通点及び差異点を以下のとお
りと認定した。
【共通点】
(A)全体を,横長で断面略縦長長方形状の角柱状体の内部中央に,長手
方向に貫通する大きな排水路を設けた管体とするものであって,
(B)その上面中央長手方向に直線状の細幅孔(以下,「スリット」とい
う。)を設け,
(C)排水路の断面形状を,下方を窄まり状とする略卵形に形成し,
(D)左右端面の排水路口の周縁に細い凹溝を設け,
(E)正・背面部下方にそれぞれ両端部に余地部を残して底面中央側に向
け傾斜面とする切欠き部を形成したものとした態様。
【差異点】
(ア)上面部の態様について,まず,面の態様につき,本願意匠は,正・
背面端部から中央スリット部に向けて僅かに下方へ傾斜する面を形成
しているのに対して,引用意匠は,水平面としている点,次に,スリ
ット部につき,本願意匠は,左右端部に余地部を残して設けているの
に対して,引用意匠は,左右端部まで貫通している点。
(イ)正・背面部下方の切欠き部について,本願意匠は,中央にも余地部
を残して,全高の約3分の1の高さから傾斜面を平坦面で中央側底面
部まで形成しているのに対して,引用意匠は,中央部に余地部を設け
ず,全高の約2分の1の高さから傾斜面を緩やかな曲面とし中央側底
面部寄りに垂直面を形成している点。
(ウ)正・背面部の下方左右角部について,引用意匠は,ブロックを接続
するための連結固定用凹部をそれぞれ一ヵ所ずつ設けているのに対し
て,本願意匠は,そのような凹部がない点。
(4)審決の取消事由
本願意匠と引用意匠との間に,前記(3)イのとおりの共通点(A)ないし
(E)及び差異点(ア)ないし(ウ)があることは,認める。
しかしながら,審決は,差異点(ア)及び(ウ)を過小に評価する(取消事由
2)一方で,共通点を過大に評価し(取消事由1),その結果,本願意匠と
引用意匠とが類似するとの誤った結論に至った(取消事由3)ものであるか
ら,違法として取り消されるべきである。
ア共通点についての判断の誤り(取消事由1)
(ア)審決は,共通点(A)について,「両意匠の骨格的な態様であって,形
態全体を支配する要素に係るものであるから,両意匠の類否判断に影響
を与える」(審決2頁第4段落)と判断したが,同判断は意匠審査基準
に反し,誤りである。
意匠の類否判断に与える影響は,一般的に,「①見えやすい部分は,
相対的に影響が大きい。②ありふれた形態の部分は,相対的に影響が小
さい。……」(意匠審査基準(甲1)27頁)とされている。そうする
と,側溝用ブロックでは,共通点(A)のような「全体を,横長で断面
略縦長長方形状の角柱状体の内部中央に,長手方向に貫通する大きな排
水路を設けた管体」であることは,側溝用ブロックとしては,ごくあり
ふれた形態であって,類否判断への影響は微細であると判断されるべき
である。
(イ)また,審決は,共通点(B)ないし(E)について,「両意匠の形態
を特徴づける要素に係り,そうして,これらの共通するとした態様は,
相まって形態上のまとまりを形成し,かつ,形態全体の大部分を占める
ものであるから,看者に共通する印象を与えるところであり,両意匠の
類否判断を左右する要素と認められる」(審決2頁第4段落)ことを理
由として,類否判断に与える影響は大きいと判断したが,同判断も上記
意匠審査基準に反し,誤りである。
側溝用ブロックとして,両意匠の共通点(B)ないし(E)は両意匠
に見られる特徴的な形態ではない。他の意匠公報である甲2ないし甲5
は,共通点(B)ないし(E)の構成を備え,同じく甲6ないし甲10
は,共通点(B)ないし(E)の構成のうち2つ以上の構成を有し,こ
のことから,共通点(B)ないし(E)は側溝用ブロックとしてごくあ
りふれた形態であることが明らかである。したがって,共通点(B)な
いし(E)は,側溝用ブロックとして,ごくありふれた形態であって,
類否判断への影響は微細であるというべきである。
(ウ)以上,要するに,共通点(A)の構成は側溝用ブロックとして基本的
態様であり,(B)の構成は雨水のみを管内に浸透させるため,細幅の
スリットは必要不可欠の形態であり,(C)の構成は通水の少ない時に
も流速の落ちないようにするため必要不可欠な形態であり,(D)の構
成はブロック同士の密接度を高めるため必要不可欠な形態であり,(
E)の構成はブロック自体を軽量化するため必要不可欠な形態であるの
であるから,これらの構成が類否判断に与える影響が大きいとした審決
の判断は,上記意匠審査基準に反し,誤りというべきである。
イ差異点についての判断の誤り(取消事由2)
(ア)審決は,差異点(ア)の「中央スリット部に向けて僅か下方へ傾斜す
る面」及び「スリット部,左右両端の余地部」は,微弱な差異として,
類否判断に与える影響も微弱であると判断した(審決2頁最終段落~3
頁第1段落)。
しかし,本願意匠は,「中央スリット部に向けて僅か下方へ傾斜する
面」の構成を有することによって,雨水等がスリットに流れ込み易いと
いう効果を有し,また,「スリット部,左右両端の余地部」の構成を有
することによって,従来側溝用ブロックを連結する際に生じていたスリ
ット部の破損,それに伴った底壁,両側壁下端にひびや亀裂を防止する
ことが可能となり,引用意匠とは機能・効果の点において顕著に相違す
る。側溝用ブロックの分野における製造業者・取引者・需要者にとっ
て,排水の仕組み・耐久性はきわめて重要なことであり,上記相違点が
看者にもたらす印象は,その類否判断上の影響が微弱であるなどとは到
底いい得ない。両意匠の差異は,機能的なものであると同時に,その物
品において重要な機能的効果をもたらす部分の形状が,特徴のある意匠
である場合には,その部分が意匠的にも当業者に注目されるから,その
意匠的効果に差異が生じることは当然というべきである。
(イ)審決は,差異点(イ)の「正・背面部下方の切欠き部」において,本
願意匠が「中央部に余地部を残し」,「全高の約3分の1の高さから傾
斜面を平坦面で形成」しているのに対し,引用意匠は「約2分の1の高
さから曲面で形成」している点を微弱な差異とし,類否判断に与える影
響も微弱であるとした(審決3頁第2段落)。
しかし,上記差異点によって,本願意匠は設置時に埋める土等は少な
く,また隙間なく行きわたるという効果を有するとともに,「中央部の
余地部」によって,設置時の安定度・耐久性が引用意匠より増し,ある
程度の長さまで対応できるという機能・効果を有している。このことよ
り,差異点(イ)は当業者に注目されるから,類否判断に与える影響は
大きいといえ,審決の上記判断は誤りである。
(ウ)審決は,差異点(ウ)の「連結固定用凹部」の有無について,微弱な
差異とし,類否判断に与える影響も微弱であるとした(審決3頁第3段
落)。
しかし,本願意匠は設置時にボルト等での連結の手間をすることなく
安定できる点で,引用意匠とは異なる。このことより,差異点(ウ)は
当業者に注目されるから,類否判断に与える影響は大きいといえ,審決
の上記判断は誤りである。
ウ本願意匠と引用意匠との類否判断の誤り(取消事由3)
上記ア,イを総合すると,本願意匠と引用意匠は,共通点(A)ない
し(E)を有するが,差異点(ア)ないし(ウ)が類否判断に与える影響
が大きいことから,共通点を大きく凌駕して,看者に別異の印象を与える
ものである。したがって,本願意匠と引用意匠は非類似であることが明ら
かであり,本願意匠と引用意匠が類似するとした審決の判断は誤りであ
る。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)共通点についての判断の誤り(取消事由1)に対し
ア原告が主張するように両意匠の骨格的な態様に係る共通点(A)がありふ
れた形態であったとしても,同共通点は意匠の類否判断に影響を与えるも
のである。すなわち,意匠の類否判断は,物品の外観の全体にわたって,
その形態を観察する全体的,視覚的な判断であるから,その共通する骨格
的な態様が周知又は公知の態様であるとしても,他に意匠上格別評価すべ
き部分がない場合は,意匠全体に占める割合が大きく,意匠的なまとまり
を成し,看者の注意をひくところが類否判断の要部となるものであり,本
件の場合のように差異点に格別見るべき点がないときは,共通する骨格的
な態様が両意匠の類否判断の要部となり得るものである。
また,原告は,審決の判断は意匠審査基準に反すると主張するが,意匠
審査基準は,「意匠審査における意匠法の統一的な条文解釈及びその運用
を図るためのもの」であって,法規としての性質を有しない一種のガイド
ラインないし指針にすぎない上,意匠審査基準は,なお書きで,「それら
の共通点及び差異点が意匠の類否判断に与える影響は,個別の意匠ごとに
変化するものである」こと,そして,「一般的には,②ありふれた形態の
部分は,相対的に影響が小さい」とし,原告が主張するように「ありふれ
た形態は,類否判断への影響は微細である」と判断すべき旨を規定したも
のでないから,原告の主張は失当である。
イ共通点(B)ないし(E)は,共通点(A)に比べれば,類否判断に与える影
響は,さほど大きいものとはいえないが,共通点(A)とともに,その態様
は両意匠に共通する印象を与える要素となり得るものである。そして,共
通点(B)ないし(E)が,本願意匠の出願前にありふれた形態であったとし
ても,骨格的な態様を成す共通点(A)とあいまって,形態上のまとまりを
形成し,かつ,形態全体の大部分を占めるものであるから,その類否判断
を左右する要素となり得るものである。
ウ審決は,本願意匠と引用意匠を比較検討するに当たり,共通点として(
A)ないし(E)を認定するとともに,差異点として(ア)ないし(ウ)を挙
げ,共通点と差異点の比較考量を通して両意匠の類否判断を行っているの
であり,原告が挙げる甲2ないし甲10の各意匠中に共通点(A)ないし(
E)が存在するとしても,それ以外の形態についての評価判断については
未検討のままであり,本件と同様の共通点が存在するからといって,その
ことから直ちに,本件における判断と一致しなければならないというもの
ではない。
(2)差異点についての判断の誤り(取消事由2)に対し
ア意匠の類否判断は,物品の外観の全体にわたって,その形態を観察する
全体的,視覚的な判断であるから,当業者が機能・効果の点から,それら
の形状に関心を持つとしても,意匠の評価は,必ずしも意匠に係る物品に
ついての機能・効果の関心と一致するものではない。これを前提に本件の
両意匠を見ると,本件に係る物品の側溝ブロックは,全体が大きいもので
あり,また,コンクリート製で,さほど精密さを問われるものでないこと
を考慮すると,機能・効果の点から差異点(ア)にいうような相違があると
しても,視覚的効果の観点からすると,その差はいずれもわずかなもので
あり,両意匠の共通する態様から生ずる形態全体の印象を覆すほどのもの
ではない。本願意匠に見られる上面の傾斜面の態様及びスリット部の左右
端部の余地部の態様は,いずれも本願の出願前に公知であることから格別
看者の注意を引くものとはいえないものである。
イ原告は,差異点(イ)についても,差異点(ア)と同様の理由により類否判
断に与える影響は大きいと主張するが,審決は,意匠法的観点から,その
差異は微弱なものと判断したものである。本願意匠のような態様は,審決
で例示した意匠公報である乙4の他にも見受けられ(乙5),本願の出願
前に公知のものである。
ウ原告は,差異点(ウ)についても,差異点(ア),(イ)と同様の理由により
類否判断に与える影響は大きいと主張するが,審決は,意匠法的効果の観
点から,その差異は,微弱なものと判断したものである。本願意匠のよう
な形態は,例えば甲3ないし甲10の意匠に見られるように,本願の出願
前から公知のものである。
(3)本願意匠と引用意匠との類否判断の誤り(取消事由3)に対し
原告は,差異点(ア)ないし(ウ)が類否判断に与える影響が大きいことを前
提に,両意匠は差異点が共通点を大きく凌駕して非類似であると主張する
が,前述したとおり,差異点はいずれも微弱であって,それらがあいまった
効果を考慮しても共通点を凌駕するものではないから,原告の主張は,その
前提において誤りである。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(意匠の内容)及び(3)(
審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2共通点についての判断の誤り(取消事由1)について
(1)原告は,意匠の類否判断に与える影響は,一般的に,「①見えやすい部分
は,相対的に影響が大きい。②ありふれた形態の部分は,相対的に影響が小
さい。……」(意匠審査基準(甲1)27頁)とされているから,側溝用ブ
ロックでは,共通点(A)のような「全体を,横長で断面略縦長長方形状の
角柱状体の内部中央に,長手方向に貫通する大きな排水路を設けた管体」で
あることは,側溝用ブロックとしては,ごくありふれた形態であって,類否
判断への影響は微細であると判断されるべきであり,また,共通点(B)な
いし(E)は両意匠に見られる特徴的な形態ではなく,側溝用ブロックとし
てごくありふれた形態であるから,共通点(A)について「両意匠の骨格的な
態様であって,形態全体を支配する要素に係るものであるから,両意匠の類
否判断に影響を与える」(審決2頁第4段落)とし,共通点(B)ないし(
E)について,「両意匠の形態を特徴づける要素に係り,そうして,これら
の共通するとした態様は,相まって形態上のまとまりを形成し,かつ,形態
全体の大部分を占めるものであるから,看者に共通する印象を与えるところ
であり,両意匠の類否判断を左右する要素と認められる」(審決2頁第4段
落)ことを理由として,類否判断に与える影響は大きいとした審決の判断
は,誤りであると主張する。
確かに,本願意匠と引用意匠(ただし,「本願意匠と同じ向きに合わ
せ」(審決1頁最終段落)たもの。以下同じ。)との共通点(A)のよう
な「全体を,横長で断面略縦長長方形状の角柱状体の内部中央に,長手方向
に貫通する大きな排水路を設けた管体」である構成態様は,原告が主張する
ように,物品「側溝用ブロック」においてありふれた態様というべきであ
り,また,証拠(甲2~11)によれば,共通点(B)ないし(E)の各構
成態様は,いずれも本願出願前から公知であることが認められる。
しかし,一般に,意匠は全体として機能的に構成されていることが多く,
公知の部分が意匠の支配的部分を占め,これが全体的なまとまりとして視覚
を通じて美感を起こさせることがあるから,公知の部分であっても,当該構
成部分が意匠全体から見て看者の注意をひく場合には,その部分が意匠の要
部になり得るものというべきである。
これを本件についてみると,本願意匠と引用意匠とを全体的に観察した場
合,上記共通点に係る構成は,意匠全体の支配的部分を占め,意匠的まとま
りを形成するものと認められる。そして,本願意匠の各部の形態は,差異点
の構成態様につき後述するように格別のものと評価することはできないか
ら,本願意匠と引用意匠との前記共通点について,共通点(A)につき「両
意匠の骨格的な態様であって,形態全体を支配する要素に係るものであるか
ら,両意匠の類否判断に影響を与える」(審決2頁第4段落)とし,共通
点(B)ないし(E)について「両意匠の形態を特徴づける要素に係り,そ
うして,これらの共通するとした態様は,相まって形態上のまとまりを形成
し,かつ,形態全体の大部分を占めるものであるから,看者に共通する印象
を与えるところであり,両意匠の類否判断を左右する要素と認められる」(
同)とした上,「意匠全体として,これらの共通点が両意匠の類否判断に及
ぼす影響は大きいものといわざるを得ない」(同頁第5段落)とした審決の
判断は相当であり,原告主張の誤りはない。
(2)原告は,審決の上記判断は意匠審査基準(甲1)に反するとも主張する。
しかし,意匠審査基準は,意匠要件の審査に当たる審査官にとって基本的
な考え方を示すものであり,出願人にとっては出願管理等の指標として広く
利用されているものではあるが,飽くまでも意匠出願が意匠法の規定する要
件に適合しているか否かの特許庁の判断の公平性,合理性を担保することに
資する目的で作成された判断基準にすぎず,法規範ではないから,意匠審査
基準に反するか否かは,上記アの判断を左右するものではない。
また,意匠審査基準は,「それらの共通点及び差異点が意匠の類否判断に
与える影響は,個別の意匠ごとに変化するものである」,「一般的には,…
…②ありふれた形態の部分は,相対的に影響が小さい」(甲1の27頁)と
するにすぎず,原告が主張するように,ありふれた形態の類否判断への影響
は微細であると判断すべき旨を規定したものではない。本願意匠と引用意匠
との上記各共通点に係る構成態様がありふれた態様ないし公知の態様であ
り,類否判断に与える影響が一般的には「相対的に影響が小さい」として
も,意匠審査基準がいうように「共通点及び差異点が意匠の類否判断に与え
る影響は,個別の意匠ごとに変化するものである」。そして,本願意匠の各
部の形態は,差異点の構成態様が,後述するように格別のものと評価するこ
とはできず,意匠全体の支配的部分を占め意匠的まとまりを形成する上記共
通点に係る構成態様の類否判断に与える影響が相対的に大きなものになると
いうべきであるから,審決の上記判断が意匠審査基準に反するということも
できない。
3差異点についての判断の誤り(取消事由2)について
(1)原告は,本願意匠は,差異点(ア)の「中央スリット部に向けて僅か下方
へ傾斜する面」の構成及び「スリット部,左右両端の余地部」の構成を有す
ることによって,引用意匠とは機能・効果の点において顕著に相違し,その
物品において重要な機能的効果をもたらす部分の形状が,特徴のある意匠で
ある場合には,その部分が意匠的にも当業者に注目されるから,その意匠的
効果に差異が生じることは当然というべきであるなどとして,差異点(ア)
の「中央スリット部に向けて僅か下方へ傾斜する面」及び「スリット部,左
右両端の余地部」について,微弱な差異として,類否判断に与える影響も微
弱であるとした審決の判断(審決2頁最終段落~3頁第1段落)は,誤りで
あると主張する。
しかし,本願は,視覚を通じて美感を起こさせる物品の形状等が問題とな
る意匠権に関する出願であって,物品の機能・効果は直接の審査対象でない
ものであるところ,証拠(甲4,6,10,乙1,2,3)によれば,上記
差異点(ア)の「中央スリット部に向けて僅か下方へ傾斜する面」の構成及
び「スリット部,左右両端の余地部」の構成は,いずれも本願出願前から公
知であることが認められる。そして,「側溝ブロック」は,全体が大きいも
のであり,コンクリート製でさほど精密さを問われるものでないことを考慮
すると,本願意匠と引用意匠との間に機能・効果の点に相違があるとして
も,視覚的効果の観点からすると,その差はいずれもわずかなものにすぎ
ず,格別看者の注意を引くものとは認められない。
したがって,審決の上記判断に原告主張の誤りがあるということはできな
い。
(2)また,原告は,本願意匠の差異点(イ),(ウ)の構成も,引用意匠にない
機能・効果を有し,このことより当業者に注目されるから,類否判断に与え
る影響は大きいといえ,同差異点を微弱な差異とし,類否判断に与える影響
も微弱であるとした審決の判断(差異点(イ)につき審決3頁第2段落,同
(ウ)につき同頁第3段落)は,誤りであると主張する。
しかし,意匠出願において物品の機能・効果は直接の審査対象でないこと
は上記のとおりであるところ,証拠(甲3~10)によれば,本願意匠の差
異点(イ),(ウ)の構成も,いずれも本願出願前から公知であることが認め
られ,本願意匠に格別のものではない。そして,上記「側溝ブロック」の大
きさ等を考慮すると,差異点(イ)に係る「正・背面部下方の切欠き部」の
差異,及び,差異点(ウ)に係る「正・背面部の下方左右角部」における「連
結固定用凹部」の有無は,いずれも,さほど目立つものでなく,この差異
も,意匠全体として見た場合,部分的かつ微弱な差異というほかなく,類否
判断に与える影響は微弱なものと認められる。
したがって,審決の上記判断にも原告主張の誤りがあるということはでき
ない。
4本願意匠と引用意匠との類否判断の誤り(取消事由3)について
原告は,本願意匠と引用意匠は,差異点(ア)ないし(ウ)が類否判断に与
える影響が大きいことから,共通点を大きく凌駕し,看者に別異の印象を与え
るものであるから,本願意匠と引用意匠が類似するとした審決の判断は,誤り
であると主張する。
しかし,本願意匠の差異点(ア)ないし(ウ)に係る構成態様は格別のもの
と評価することはできず,意匠全体の支配的部分を占め意匠的まとまりを形成
する上記共通点(A)ないし(E)に係る構成態様が類否判断に与える影響に
おいて相対的に大きなものになることは,上記(1),(2)に述べたとおりである
から,本願意匠と引用意匠とが類似するとした審決の判断に原告主張の誤りが
あるということはできない。
5結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官岡本岳
裁判官上田卓哉

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