弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
1 原判決のうち次の部分を破棄する。
(1) 平成12年(行ヒ)第96号上告人・同第97号被上告人らの敗訴部分のう
ち,
ア 平成12年(行ヒ)第96号被上告人・同第97号上告人A1に対する請求中
第1審判決別紙(一)契約一覧表中26〔編注:「26」は原本では○付き数字で表記
されている。以下,半角数字部分について同じ。〕から34まで及び49の契約に係る
部分を除く部分
イ 平成12年(行ヒ)第96号被上告人・同第97号上告人財団法人A2博覧会
協会に対する遅延損害金の支払請求を除く請求中第1審判決別紙(一)契約一覧表
中26から34までの契約に係る部分を除く部分
ウ 平成12年(行ヒ)第96号被上告人Bに対する請求中第1審判決別紙(一)
契約一覧表中18の契約に係る部分
(2) 平成12年(行ヒ)第96号被上告人・同第97号上告人らの敗訴部分
2 前項(1)ア及びイ並びに(2)の部分につき本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
3 平成12年(行ヒ)第96号上告人・同第97号被上告人らの同第96号被上
告人Bに対する請求中第1審判決別紙(一)契約一覧表中49の契約に係る部分を除
く部分につき,第1審判決を取り消し,同上告人らの訴えを却下する。
4 平成12年(行ヒ)第96号上告人・同第97号被上告人らのその余の上告を
棄却する。
5 第3項に関する訴訟の総費用及び前項に関する上告費用は平成12年(行ヒ)
第96号上告人・同第97号被上告人らの負担とする。
         理    由
 第1 本件の事実関係の概要等
 1 本件は,名古屋市(以下「市」という。)の住民である平成12年(行ヒ)
第96号(以下「第1事件」という。)上告人・同第97号(以下「第2事件」と
いう。)被上告人ら(以下「第1審原告ら」という。)が,市は第1事件被上告人・
第2事件上告人財団法人A2博覧会協会(以下「第1審被告協会」という。)から
世界デザイン博覧会(以下「デザイン博」という。)で使用された施設及び物品を
違法に買い受けたなどと主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正
前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,市に代位して
,市長の職にあった第1事件被上告人・第2事件上告人A1(以下「第1審被告A
1」という。),助役の職にあった第1事件被上告人B(以下「第1審被告B」と
いう。)及び収入役の職にあった同D(以下「第1審被告D」という。)に対し,
損害賠償を求め,第1審被告協会に対し,損害賠償等を求めた住民訴訟である。
 2 原審が確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 市と第1審被告協会との関係
 ア 市は,市制百周年の記念事業としてデザイン博を開催することとし,市議会
に設置された市制百周年記念事業促進特別委員会等を通じて検討を重ね,昭和61
年12月26日,デザイン博の準備及び開催運営を行うことを目的とし,存続期間
を同65年3月31日までとして第1審被告協会が設立された。
 イ 第1審被告協会の会長(理事)には市長である第1審被告A1が,副会長(
理事)には助役である第1審被告Bが,監事には収入役である第1審被告Dが,専
務理事及び常務理事には市幹部職員がそれぞれ就任し,事務局も市職員を中心に構
成された。第1審被告協会の寄附行為によると,第1審被告A1が会長として第1
審被告協会を代表する権限を有し,第1審被告協会の運営に関する重要な事項は理
事会において決することとされていた。また,愛知県や経済団体等の協賛を得る等
の目的からこれらの団体の参加を得て設立段階の基本財産2250万円を確保し,
うち市が1000万円を拠出した。
 ウ デザイン博は,平成元年7月15日から同年11月26日まで開催されたが
,第1審被告協会の収入は後記の本件各契約の代金を含めると265億3500万
円,支出は263億2500万円であり,差額2億1000万円の残余金が生じた。
第1審被告協会は,同2年3月28日,理事会において上記残余金を市に寄附する
旨議決し,同月31日に解散した。
 (2) 本件各契約締結に至る経緯
 ア 第1審被告協会が残余財産を有償譲渡することは当初予定されていなかった
が,平成元年9月ころ,全会期中のデザイン博の入場者数総計が当初見込んでいた
数に達しない状況となり,入場料収入等だけではデザイン博の開催運営経費を賄い
きれないことが判明したため,第1審被告協会は,収支が赤字となることを回避す
るために施設及び物品を転用することの検討を開始し,転用する施設等の確定,転
用先の調整,転用条件の設定などを行い,同月中旬から下旬にかけて,第1審被告
協会の基本財産の出資者である市,愛知県,名古屋港管理組合,名古屋商工会議所
及び中部経済連合会に対して,転用可能施設一覧表を示して購入を依頼した。
 市においても第1審被告協会の収支が赤字となることを回避する目的で同月から
各局において具体的な購入物件の検討を開始したが,各局から購入希望の出された
物件の数が少なかったため,同年10月16日に開かれた幹部会において,各局に
対して購入物件を増やすよう要請がされた。
 イ 市と第1審被告協会との間で,購入物件の価格について協議がされた結果,
建築物で移設を要するものについては,第1審被告協会が取得価格を基に評価して
提示した転用評価額に0.5を乗じた価格で,それ以外のものについては,転用評
価額に0.9を乗じた価格で,それぞれ市が買い受けることとなった。さらに,市
は,第1審被告協会の要請により,撤去,運搬に要する経費を代金に加算して支払
うこととした。
 ウ 市は,平成元年11月27日から同2年2月15日にかけて,第1審被告協
会から,同協会がデザイン博で使用した施設及び物品を代金総額10億3631万
9324円で買い受けた。上記買受けに際して締結された契約は50件あり,各契
約につき市の担当部局,契約年月日,契約金額及び目的物は,第1審判決別紙(一)
契約一覧表のとおりである(以下,これらを併せて「本件各契約」といい,本件各
契約を個別に特定して論ずる場合には同表の番号を付し「本件契約1」などという。)。
 (3) 本件各契約の行為者等
 ア 市において,本件各契約を締結する旨の意思決定は,第1審判決別紙(二)
のとおり,本件契約16,36及び39については第1審被告A1が行ったが,他の契約
(本件契約49を除く。)については助役以下代決規程(昭和39年達第51号。以
下「本件代決規程」という。)等に基づき代決により行われ,本件契約18について
は第1審被告Bが代決により行った。また,本件各契約(本件契約49を除く。)の
締結は,第1審判決別紙(三)のとおり,いずれも本件代決規程等に基づき代決に
より行われた。
 イ 第1審被告協会において,本件各契約の締結は,本件契約10,16,17,34,
36及び45については第1審被告A1により行われたが,その他の契約の締結は,処
務規程に基づき第1審被告A1に代わって決裁する権限を有する者により行われた。
 ウ 本件各契約(本件契約19から23まで及び49を除く。)の支出負担行為に関す
る確認は,1審判決別紙(五)のとおり,第1審被告Dあるいは収入役室副収入役
以下代決規程(昭和41年収入役達第1号)に基づき副収入役及び審査課長により
行われた。
 エ 本件契約49は,地方公営企業である水道事業の業務に係るものであり,市を
代表する権限を有する管理者である水道局長が市を代表して締結したものであり,
その業務に関する出納を行う権限も管理者が有している(地方公営企業法8条1項
,27条)。
 また,本件契約19から23までは,地方公営企業である病院事業の業務に係るもの
であり,管理者の権限は出納に関するものを含め長が行うものとされている(同法
34条の2,27条)。
 オ 本件各契約(本件契約49を除く。)のうち契約金額が200万円を超えるも
のについてのみ契約書が作成され,いずれも第1審被告A1が,市長として市を代
表すると同時に第1審被告協会の会長として同協会を代表して契約を締結する旨記
載されている。
 (4) 本件各契約締結後の市議会及び第1審被告協会の行為
 ア 平成2年3月22日に開催された市議会の市制百周年記念事業促進特別委員
会において,本件各契約に関する議論がされた後,同委員会に付議された事件の審
査を終了することが議決され,同月26日に開かれた本会議においても,その旨議
決された。
 イ 市議会における平成2年度一般会計予算の審議に際して,同予算には本件各
契約によって市が取得した物品の活用のための予算が含まれていたが,平成2年3
月15日に開かれた市議会の総務民生委員会において,本件各契約に関する質疑が
された後,同予算のうち同委員会関係部分を可決する旨の議決がされ,同月20日
に開かれた本会議において,同予算が可決された。
 ウ 市議会の一般会計等決算特別委員会において,平成元年度の決算を認定する
ことが議決され,平成2年12月18日に開かれた本会議において,同決算が認定
された。
 エ 平成2年3月29日に開かれた第1審被告協会の第13回理事会において,
本件各契約による収入を含む平成元年度の収支決算書が議題とされ,同収支決算書
が承認された。
 (5) 本件各契約の目的物
 ア 本件契約26から34までの目的物は,白鳥公園に設置された造形物,噴水等で
あり,市が第1審被告協会から購入した後もそのまま公園施設等として利用されて
いる。
 イ 本件契約16の目的物は,デザイン博開催期間中,名古屋城会場に設置された
音響効果を考慮した仮設建築物である本丸ステージである。その建設工事費総額1
億4487万1000円のうち建築物自体の材料費は5000万円程度である。本
丸ステージは,本件契約16の締結後,新たに9000万円の追加費用をかけて東山
公園内に休憩所及び倉庫として再築されたが,再築までの間,解体された材料が野
積みで放置され,再築後の屋根の材質は従前のものと異なっている。
 ウ 本件各契約の目的物の中には,上記以外の建造物として,車庫,鉄骨造平屋
,便所,休憩所,営業施設等があるが,これらは,特段そのデザインが優れている
とはいえないものや,デザイン都市を創造する等の市の施策の推進に大きな効果が
あるとまでは認められないものである。また,これらの中には,移設に当たり相当
額の設置工事,建設工事を要するとみられるものがある。これらの建造物の購入価
格は,第1審被告協会が設定した建築工事費用等を含む価格の65%相当額のもの
が大半を占め,中には80%を超えるもの,さらには購入価格が第1審被告協会が
設定した価格を超えるものもみられる。
 エ 本件各契約の目的物の中には,上記以外の物品として,放送用機器,ベンチ
,大型電光表示板,電話交換機,クーラー,樹木,投光器,フラッグポール,交通
サイン,ごみ箱,すいがら入れ等があるが,これらは,特段そのデザインが優れて
いるとはいえないものや,デザイン都市を創造する等の市の施策の推進に大きな効
果があるとまでは認められないものである。これらの物品の購入価格は,第1審被
告協会が設定した価格の95%から98%相当額のものが大半を占め,中には購入
価格が第1審被告協会が設定した価格を超えるものもみられる。
 3 第1審原告らは,本件各契約が,双方代理禁止規定に違反して締結されたも
のであって無効であり,また,必要性のないものを不当に高額な代金で買い受けた
ものであってその締結には裁量権の逸脱,濫用があるとして,法242条の2第1
項4号に基づき,市に代位して,① 同号所定の「当該職員」である第1審被告A
1,同B及び同Dに対し,それぞれ,(ア)〔編注:「(ア)」は原本では○付きカタカ
ナで表記されている。以下,かっこ付きカタカナ部分について同じ。〕 代決者に
よる違法な契約の締結を阻止すべき指揮監督上の義務を怠りこれを締結させた,(イ
) 助役として補助職員の担任する事務を監督すべき法的義務を怠りこれを締結さ
せた,(ウ) 収入役として支出負担行為が法令又は予算に違反していないことを確
認した上でなければ支出することができないにもかかわらずこれを怠り支出したな
どとして損害賠償を請求し,
② 同号所定の「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」である第1審被告協会
に対し,第1審被告A1,同B及び同Dと共同して市に違法に公金を支出させたも
のであるとして不法行為に基づく損害賠償を請求し,また,無効な契約に基づき法
律上の原因なく市の損失において代金相当額を利得したものであるとして不当利得
の返還を請求している。
 第1審は,第1審被告A1及び同Bに対する訴えのうち本件契約49に係る部分及
び第1審被告Dに対する訴えのうち本件契約19から23まで及び49に係る部分を不適
法な訴えであるとして却下し,第1審被告A1及び同Dに対するその余の請求,第
1審被告Bに対する本件契約18に係る請求及び第1審被告協会に対する請求(ただ
し,遅延損害金の支払請求を除く。)を認容し,その余の請求を棄却した。第1審
被告らが控訴し,原審は,本件各契約(本件契約49を除く。)は,民法108条に
反する双方代理行為により締結されたものであるが市議会の追認によりその効果が
市に帰属するものであるとした上,本件契約26から34までを除く本件各契約が裁量
権を逸脱,濫用して締結された違法なものであるとして,第1審被告A1に対して
は2億1000万円及びこれに対する遅延損害金の限度で損害賠償請求を認容し,
第1審被告協会に対しては2億1000万円の限度で損害賠償請求を認容し,第1
審被告B及び同Dに対する請求を棄却し,また,本件各契約が無効となるものでは
ないとして第1審被告協会に対する不当利得返還請求を棄却した。
 第2 職権による検討
 市においては,助役に対し,本件代決規程により契約を締結する旨の内部的意思
決定をする権限が付与されているが,契約を締結する権限が付与されているもので
はない。したがって,支出負担行為である本件各契約の締結について,法令上本来
的権限を有する市長から助役である第1審被告Bに対し,法令,訓令等により委任
がされ又は専決する権限が付与されていたということはできない。そうすると,第
1審被告Bは法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当しないというべ
きであるから,第1審被告Bに対する訴えは不適法というほかはない。原判決中,
第1審被告Bに対する請求のうち本件契約18に係る部分につきこれを棄却した部分
には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから,原判決中上記部
分を破棄し,第1審判決中上記請求部分につきこれを認容した部分を取り消し,第
1審被告Bに対する訴えを却下することとする。また,本件訴訟は,第1審被告B
に対する訴えのうち本件契約18及び49に係る部分を除く部分も第1審被告Bのした
控訴により原審に移審していたところ,第1審被告Bが法242条の2第1項4号
にいう「当該職員」に該当するか否かは職権調査事項であるから,原審は,同部分
につき職権で第1審判決を取り消して第1審被告Bに対する訴えを却下すべきであ
ったにもかかわらず,上記措置を採らなかった。そこで,同部分につき第1審判決
を取り消した上,第1審被告Bに対する訴えを却下することとする。
 第3 第1事件上告代理人滝田誠一の上告受理申立て理由書(一)の上告受理申
立て理由について
 1 普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約締結行為
であっても,長が相手方を代表又は代理することにより,私人間における双方代理
行為等による契約と同様に,当該普通地方公共団体の利益が害されるおそれがある
場合がある。そうすると,【要旨1】普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団
体を代表して行う契約の締結には,民法108条が類推適用されると解するのが相
当である。そして,【要旨2】普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代
表するとともに相手方を代理ないし代表して契約を締結した場合であっても同法1
16条が類推適用され,議会が長による上記双方代理行為を追認したときには,同
条の類推適用により,議会の意思に沿って本人である普通地方公共団体に法律効果
が帰属するものと解するのが相当である。
 2 これを本件についてみると,前記第1の事実関係等によれば,本件各契約(
本件契約49を除く。)中には,市において代決によって締結された契約や第1審被
告協会において会長に代わって決裁することとされている者により締結された契約
があるが,対外的にはいずれも第1審被告A1の名をもって行われたということが
できるから,本件各契約(本件契約49を除く。)は,第1審被告A1の双方代理行
為により締結されたものであるというべきである。
 しかしながら,前記第1の事実関係等によれば,市議会は,第1審被告A1を会
長とする第1審被告協会との間で本件各契約(本件契約49を除く。)が締結された
ことを十分認識して,前記第1の2(4)アからウまでのとおり審査や議決をしたも
のということができるから,本件各契約(本件契約49を除く。)を追認したという
べきである。また,前記第1の2(4)エの事実によれば,第1審被告協会において
も同様に追認があったというべきである。
 この点に関する原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することがで
きない。
 第4 第2事件上告代理人石原金三ほか及び第2事件上告参加人(以下「第2事
件上告代理人ら」という。)の上告受理申立て理由第三の二及び三並びに第四(た
だし,排除されたものを除く。)について
 原審は,本件各契約(本件契約26から34までを除く。)の締結について裁量権の
逸脱,濫用があったものと判断し,これを前提に第1審被告A1及び第1審被告協
会の損害賠償責任を肯定した。
 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のと
おりである。
 前記第1の事実関係等によれば,市は,市制百周年の記念事業としてデザイン博
を開催することとし,市議会に設置された市制百周年記念事業促進特別委員会等を
通じて検討を重ね,愛知県や経済団体等の協賛を得る等の目的からこれらの団体の
参加を得て設立段階の基本財産2250万円を確保し,デザイン博の準備及び開催
運営を行わせることを唯一の目的として期間を限って第1審被告協会を設立したの
であり,第1審被告協会の運営も市職員を中心として行われたのであって,第1審
被告協会において上記検討を受けてデザイン博の実際の運営を行ったところ,入場
者数が想定していた数字を下回る見込みとなり,デザイン博の入場料収入等だけで
はデザイン博の開催運営経費を賄いきれないことが判明し,第1審被告協会の赤字
を回避する目的で本件各契約が締結されたというのである。【要旨3】上記事実関
係に基づいて考えると,デザイン博は市の事業として行われたのであって,市は,
第1審被告協会の設立に際し,第1審被告協会に市の基本的な計画の下でデザイン
博の具体的な準備及び開催運営を行うことをゆだねたものと解することも可能であ
り,両者の間には実質的にみて準委任的な関係が存したものと解する余地がある。
そうであるとすれば,市が,第1審被告協会に対し,同協会がデザイン博の準備及
び開催運営のために支出した費用のうち,市が同協会にゆだねた範囲の事務を処理
するために必要なものであって基本財産と入場料収入等だけでは賄いきれないもの
を補てんすることは,不合理ではなく,市にその法的義務が存するものと解する余
地も否定することができない。そして,上記の点は,本件各契約の締結に裁量権の
逸脱,濫用があったか否かを判断する上で,重要な考慮要素となるというべきであ
る。そうすると,デザイン博の準備及び開催運営に関する市と第1審被告協会との
関係の実質,第1審被告協会が行ったデザイン博の準備及び開催運営の内容並びに
これに関して支出された費用の内訳を検討しなければ,本件各契約の締結について
裁量権の逸脱,濫用があったかどうかを判断することはできないものというべきで
ある。しかるに,原審は,上記の点を確定しないまま前記のとおり判断しているの
であって,その判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論
旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,その余は採用することができない。
 第5 第1事件上告代理人福島啓氏ほかの上告受理申立て理由書(四)の上告受
理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 第1審被告Dが本件契約1から18まで,24,25,35から48まで及び50について損
害賠償責任を負わないとした原審の判断は,正当として是認することができる。論
旨は採用することができない。
 第6 第1事件上告代理人鈴木良明の上告受理申立て理由書(二)の上告受理申
立て理由,第2事件上告代理人らの上告受理申立て理由第二について
 原審は,市が第1審被告協会に対して補助金を交付せざるを得なかった蓋然性等
を根拠に,市に2億1000万円の限度で損害が生じたものと判断した。
 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のと
おりである。
 仮に,本件各契約(本件契約26から34までを除く。)の締結について裁量権の逸
脱,濫用があったものとすれば,これらにより市に生じた損害は,市が支払った代
金額と市が取得した財産の価額との差額により算定すべきである。また,市が第1
審被告協会に対して補助金を交付するには,公益上の必要があり(法232条の2)
,かつ,予算に計上して議会の議決を経なければならないことからすれば,原審の
いう補助金交付の蓋然性のみでは本件各契約により市に損害が生じたことと市が第
1審被告協会に対する補助金の支出を免れたこととの間に相当因果関係があると認
めることはできない。そうすると,本件各契約により市に2億1000万円の限度
で損害が生じたものとする原審の上記判断は,損害額の算定の方法を誤り,さらに
,十分な根拠なく補助金の支出を免れたとするものであり,判決に影響を及ぼすこ
とが明らかな法令の違反があるというべきである。第1事件上告代理人鈴木良明の
論旨は,この趣旨をいうものとして理由がある。
 他方,市は,本件各契約により施設及び物品を取得しており,これらの施設及び
物品の客観的価値は損害の算定に当たり考慮されるべきである。上記の物件がいず
れも無価値であるとの事実は確定されておらず,むしろ記録によれば上記目的物の
中には一定の客観的価値を有するものが含まれていることがうかがわれる。そうす
ると,原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある
というべきである。第2事件上告代理人らの論旨は,この趣旨をいうものとして理
由がある。
 第7 結論
 以上によれば,原判決中,① 第1審原告らの敗訴部分のうち,(ア) 第1審被
告A1に対する請求中本件契約26から34まで及び49に係る部分を除く部分,(イ) 
第1審被告協会に対する遅延損害金を除く請求中本件契約26から34までに係る部分
を除く部分,(ウ) 第1審被告Bに対する請求中本件契約18に係る部分,② 第1
審被告A1及び同協会の敗訴部分は,破棄を免れず,上記①(ア)及び(イ)並びに②の
部分については以上説示したところによって更に審理を尽くさせるため本件を原審
に差し戻すべきであり,第1審原告らの第1審被告Bに対する請求中本件契約49に
係る部分を除く部分につき,第1審判決を取り消し,第1審原告らの訴えを却下す
べきであり,第1審原告らのその余の上告を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官藤田宙
靖の補足意見がある。
 裁判官藤田宙靖の補足意見は,次のとおりである。
 私は,法廷意見に賛成するものであるが,本件各契約への民法108条の適用な
いし類推適用の有無の問題を中心として,若干の補足を行っておくこととしたい。
地方公共団体の締結する契約であっても,それが財産管理に関する民法上のもので
ある場合には,原則として民法の適用があることは,いうまでもなく,このことは
,双方代理に関する法理についても,同様である。この点に関し地方自治法上に何
らの規定もないことは,この理を排除する趣旨ではなく,この理の適用をあえて排
除する必要はない,との趣旨と解すべきである。
 もっともその場合,契約の相手方との関係で,果たして,またどの程度の利益相
反を現実に認め得るか,という問題が残ることは否定できない。すなわち,国・地
方公共団体を問わず,一般に行政主体は,その政策を実施するに当たり,自らこれ
を行うのでなく,独立の法人格を持った別の法主体を創設して,これに行わせるこ
とがしばしばあるが,その場合,両者間の組織上・財政上の関係には,極めて密な
ものからかなり希薄なものまで,様々のケースがあり,その利益相反関係を,一律
に,例えば,私法上の親会社と子会社との相互関係のアナロジーで考えてよいかど
うか,問題となるようなケースも少なくないからである。本件における市と第1審
被告協会との関係も,正にその一つの例であるのであって,本件の場合,同協会は
,市とは法人格を異にし,また,財政的にも市のみならず複数の団体から基本財産
の拠出を受けて成立している財団法人である,という点において,市からは独立性
を保っているものの,他方では,市の市制百周年記念事業としてのデザイン博を実
施するものであり,市の行政目的の一翼を担っていて,その役員も市長・助役・収
入役等が就任している,という点で,両者は極めて密接な関係にある。言葉を換え
ていうと,法人格を異にする限り両者は法的に同一であるとはいえず,その限りで
相互間には「距離」が存在し,また,この「距離」をキープするための何らかの法
的手法が考えられなければならないが,その際,本件のようなケースを含め,あら
ゆる法人につき,民法の「双方代理」の法理をもって一律に対処するのが果たして
妥当かどうかについては,必ずしも,問題がないとはいえないのである。したがっ
て今後,上記の意味での「距離」を確保するために,民法108条に直接基づくの
でなく,それに代わるものとして,このような組織上の実態に即した,何らかの行
政法理が考案される可能性はあり得ないではないものと考えられる。しかし,その
ような特別の法理が確立しているとはいえない現状において,本件のようなケース
に民法108条の適用ないし類推適用をおよそ否定することが,適切であるとは思
われず,ただ,上記のような問題の所在を踏まえ,その具体的適用,例えば,何を
もって追認があったと考え得るか,といった問題に関し,事案に即した柔軟な考察
をすべき場合もあるのではないか,と考える。
(裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田
豊三)

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今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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