弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被控訴人のその余の請求を棄却するとの部分を破棄する。
     右破棄にかゝる部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人弁護士十川寛之助の上告理由第一点について。
 期間の定めのない賃貸借契約は賃貸人において何時でも契約の解約申入をなし得
るが、右解約の申入がその効力を生ずるが為めには賃貸人において自ら使用するこ
とを必要とする場合の外、正当の事由がなければならないことは借家法一条ノ二の
明定するところである。そしてこゝに正当の事由があるか、どうかは解約申入当時
における賃貸人賃借人双方に存する事情を比較考量して決定すべきものであること
は当裁判所の夙に判例とするところである。(昭和二五年(オ)第一二〇号同二八
年四月九日第一小法廷判決、民集七巻二九五頁参照)。ところで、上告人から被上
告人になされた本件解約申入の意思表示が包含されていると認められた本件訴状が
被上告人に送達された昭和二五年六月三日当時において被上告人側に存した事情は
どんなものであるかというと、その点に関し原判決の認定説示するところは次のと
おりである。
 すなわち、本件家屋は大阪市a区bc町の北側を東西に通ずる市電々車通りの南
側に北向に建てられた家屋で、昭和一五年頃は二戸一棟で、喫茶店及び飲食店の店
舗に使用されていたが、同年八月三一日被上告人は前賃借人Dから右店舗の設備及
び賃借権を代金一四、二五〇円で買い取り、その頃上告人の承諾を得て、右家屋を
賃借し、敷金一、六〇〇円を上告人に交付した。当時本件家屋の東隣に被上告人経
営の主要構造部分が耐火構造でない映画館E劇場があり、法規に定める観客の休憩
所喫煙所を設ける必要があつたが、同劇場は狭くて、これを設けることができなか
つたので、その西隣にあつた本件家屋の一部をこれに充てることとし、右賃借後上
告人の承諾を得て本件家屋を改造し一戸一棟とするとともに内部も改装し、階下の
東側の一部にE劇場の休憩所兼喫煙所を作つて使用し、その他の部分を被上告人の
事務室に使用したり、憲兵隊の指示により児童文化研究所を開設し、一般児童に対
する思想善導、防空知識の普及等を図るための資料を陳列することに使用し、また
太平洋戦争になつてから憲兵隊の指示により二階を勤労大衆党の事務所として使用
させていた、本件家屋は戦災を免れたが、昭和二元年二月初旬進駐軍に接収され、
同二五年二月一七日接収解除となり、被上告人は同月二一日右家屋の返還を受けた、
被上告人は接収解除後間もなく被上告人の使用に適するように本件家屋の内部の模
様替をし、階下を三部屋と便所、炊事場とし、二階を四部屋に区切り階下東側約九
坪のリノリウム張の部屋をE劇場の休憩所兼喫煙所に当て、階下西側の約三坪と約
七坪の板張の部屋及び二階東側約六坪の板張の部屋を被上告人の事務室として使用
し、二階西側の約二坪及び五坪弱の部屋を一六ミリの映写室と試写室に、二階西側
の約七坪の部屋を被上告人の従業員の医療室に使用していた、「その後原審におけ
る検証期日である昭和三一年一〇月九日以前のことであるが、被上告人はE劇場を
廃止して取りこわし、前記休憩所兼喫煙所の必要がなくなつたので、この部分を改
装し、その一部約三坪五合の部分に被上告人の厚生部の理髪室を作り従業員に利用
させ、その他内部の模様替をして、階下西側の約七坪の部屋を一六ミリ映画事務所、
約三坪の部屋を試写室として使用し、二階東側約六坪の部屋を被上告人の従業員の
ための医療室、同西側約一〇坪の部屋すなわちもと試写室と医療室を被上告人会社
労働組合の事務室として、使用させ、その他の二室すなわちもと映写室と控室とを
倉庫等に使用していた、被上告人は以前その従業員のための診療を旧Fの建物の中
においたところ、観客に与える影響を考えて、大劇の地下室に移したが地下室では
薬品の変質のおそれがあるので、やむを得ず、本件家屋の二階に移して前記のよう
に医療室を作つた。以上のように被上告人は数種の用途に本件家屋を使用している
が(E劇場のなくなつた後は前示休憩所兼喫煙室は必要でなくなつたことは明であ
るが)、これはいずれも被上告人の会社の営業上直接間接に必要なものであり、こ
れを明渡すときはそれぞれ使用目的に合致した休憩所兼喫煙所を拵えたり転居先を
捜さなければならないが、それは容易なことでなく、また相当な費用を要するもの
で、本件家屋を是非必要とする事情にあるものである。」というのである。
 しかしながら、上叙、殊に「 」内の判示によつて考うるに、原判決は前示にい
わゆる正当事由があるかどうかについて被上告人側に存する事情を斟酌するに当り、
前示解約申入当時の状況とは異つた事情を判断の一材料としているばかりでなく、
その事情たるや前示解約申入の時より約六年有余の後の事情を右判断の資料として
いることが明らかである。このような考え方は前示借家法一条ノ二を正当に解釈し
たものというを得ないばかりでなく、前示判例の趣旨にも反するものであつて、他
に首肯させるに足る理由の説示がない限り原判決に影響ある程の審理不尽、理由不
備ないしは法令に違背するものであり、論旨は結局理由あるに帰するものと云わざ
るを得ない。
 同第二点について。
 記録によつて認められる本件訴訟の経過に徴すれば上告人は前示解約申入の効力
を生じた日、すなわち前示訴状が被上告人に送達された昭和二五年六月三日の翌日
から起算して六ヶ月を経過した以後本件賃貸借は消滅に帰したものとし、爾後被上
告人は何らの権原なくして本件家屋を占有し上告人の所有権を侵害しているもので
あるから、上告人に対し時価と認めらるべき賃料ならびに右賃貸借終了の日からは
月額三五、〇〇〇円同年一〇月一日からは月額四〇、〇〇〇円同二七年一〇月一日
以降は月額五二、〇〇〇円相当の損害金を本件家屋明渡済に至るまで支払うべき義
務あるものとして、これが支払を訴求しているものであることは極めて明らかであ
る。然るに原判決は前示解約申入について上告人に正当の事由ないものと断じ、そ
の効力を否定した上、被上告人に上告人主張のような損害金支払の義務がないもの
とし、たゞ被上告人において上告人に対し判示の賃料すなわち金二六三、六〇八円
の支払義務あるを免れないものとしただけで、上告人の右請求を排斥していること
は判文上明らかである。しかしながら、前示解約申入について上告人に正当の事由
があつたものと判断される場合においては上告人の右損害金の請求は或は是認され
るやも計り難い。されば原判決が前示解約申入について正当の事由がないものとし、
延いて上告人の前掲損害金の請求を排斥したのは理由不備の誹を免れないものであ
つて、本論旨も亦結局その理由あるに帰するものと云わざるを得ない(なお、原判
決が被上告人に対し前掲金二六三、六〇八円の支払を命じた部分については被上告
人から附帯上告の申立がないから、その当否についてはこゝに言及するを得ない)。
 上叙の次第で原判決は一部破棄を免れないものと認め民訴四〇七条一項に従い裁
判官全員の一致で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   朔   朗
            裁判官    長   部   謹   吾

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