弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役2月に処する。
この裁判が確定した日から2年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,大阪府内に居住し,給与所得のほか,競馬の勝馬投票券の払戻金によ
り収入を得ていたものであるが,
第1平成19年分の総所得金額が1億730万8817円であり,これに対する
所得税額が3887万2700円であるにもかかわらず,正当な理由がないの
に,同年分の所得税確定申告書を法定の申告期限である平成20年3月17日
までに大阪府池田市城南2丁目1番8号所轄豊能税務署長に対して提出しな
かった。
第2平成20年分の総所得金額が3260万8629円であり,これに対する所
得税額が914万5500円であるにもかかわらず,正当な理由がないのに,
同年分の所得税確定申告書を法定の申告期限である平成21年3月16日まで
に大阪市淀川区木川東2丁目3番1号所轄東淀川税務署長に対して提出しなか
った。
第3平成21年分の総所得金額が2024万6010円であり,これに対する所
得税額が398万3700円であるにもかかわらず,正当な理由がないのに,
同年分の所得税確定申告書を法定の申告期限である平成22年3月15日ま
でに前記所轄東淀川税務署長に対して提出しなかった。
(証拠の標目)
省略
(争点に対する判断)
第1本件における争点等
1公訴事実
本件公訴事実の要旨は,判示のような収入を得ていた被告人が,平成19年分の
総所得金額が3億7420万132円,所得税額が1億4562万9100円であ
り,平成20年分の総所得金額が6億9694万8779円,所得税額が2億74
88万1500円であり,平成21年分の総所得金額が3億8836万3205円,
所得税額が1億5123万500円であるのに,それぞれ判示のとおり所得税確定
申告書を提出しなかったとするものである。
2争点
検察官は,勝馬投票券(馬券)の払戻金に係る所得は一時所得であり,「その収
入を得るために支出した金額」として控除すべき金額は,的中した馬券(当たり馬
券)の購入金額のみであるから,本件各年分の被告人の総所得金額及び所得税額は
公訴事実記載のとおりであると主張する。
一方,弁護人は,①本件における馬券の払戻金に係る所得は雑所得に分類される
べきであり,当たり馬券以外の馬券(外れ馬券)を含め1年間における馬券の購入
金額全額が控除の対象となり,②仮に一時所得に該当するとしても,①と同様に1
年間の馬券の購入金額全額が「その収入を得るために支出した金額」として控除の
対象となるとして,これら①,②を理由に,本件各申告期限後に被告人に対して課
された本件公訴事実と同様の課税処分は,所得税法の解釈,適用を著しく誤ってな
されたものであり,課税の根幹に関わる重大かつ明白な瑕疵があって無効であるか
ら,本件につきそもそも納税義務自体が存在しないと主張する。さらに,③本件当
時の被告人が置かれていた状況や馬券の払戻金をめぐる課税実務等からすれば,被
告人には所得税法241条の「正当な理由」に該当する事由があり,又は可罰的違
法性ないし期待可能性が欠けるとして,被告人に単純無申告犯は成立しないと主張
する。
以上より,本件における争点は,(ア)本件における馬券の払戻金に係る所得は一時
所得か雑所得か,(イ)「その収入を得るために支出した金額」又は「必要経費」とし
て控除すべき金額の範囲,(ウ)所得税法241条所定の「正当な理由」の有無及び可
罰的違法性ないし期待可能性の有無である。
第2争いのない事実
1中央競馬の概要
中央競馬は日本中央競馬会(JRA)が主催する競馬であり,全国に10か所あ
る競馬場の2ないし3か所において,年間288日開催されている。開催日は,基
本的には毎週土曜日と日曜日である。
各競馬場では,他の競馬場で行われている競馬の馬券も購入することができる。
各競馬場では,基本的には1日に12レースが行われ,各レースにおいて最大1
8頭の馬が出走する。その際,出走する馬には1ないし18のいずれかの馬番号及
び1ないし8のいずれかの枠番号が割り当てられており,これらの馬番号及び枠番
号を用いて勝馬投票が行われる。
購入された馬券の総額から,約75パーセントが払戻金として的中者に分配され
る。残りの約25パーセントについては,原則として,約10パーセントが国庫に
納付され,約15パーセントが中央競馬の運営に充てられることになる。
2馬券の購入方法等
馬券の購入方法及び的中馬券の払戻方法としては,①競馬場又は場外勝馬投票券
発売所において,自動発売機に現金と購入したい馬券の内容を記入したマークカー
ドを投入するか,有人の窓口で購入したい馬券を口頭で伝えて,馬券を購入し,払
戻しの際には,100万円未満の払戻しであれば的中馬券を自動払戻機に投入して
払戻金を現金で受け取り,払戻額が100万円以上の場合には有人の窓口において
馬券との交換により現金を受け取る方法と,②JRAが提供するA-PAT(パソ
コン,携帯電話及びプッシュホン電話により馬券を購入することができ,利用時の
馬券の購入金の支払い及び払戻金の受領等の決済は全て,加入時に開設したA-P
AT専用の銀行口座(PAT口座)を通じて行われる。)又は即PAT(パソコン,
携帯電話により馬券を購入することができ,利用時の馬券の購入金額の支払い及び
払戻金の受領は全て,加入時に登録した特定の銀行口座を通して行われ,馬券の発
売時間帯にも入出金が可能である。)というサービスを利用する方法がある。
3本件において被告人が利用したサービス等
被告人は,前記A-PATと呼ばれるサービス及び「甲」という競馬予想ソフト
(本件ソフト)を用いて馬券の購入及び払戻金の受取等を行っていた。
⑴A-PAT
被告人は,JRAの提供するA-PATを利用し,パソコンからインターネット
を通じて馬券を購入していた。
PAT口座は原則として土曜日及び日曜日の入出金が不可能であるため,土日に
ついては直前の金曜日の所定の時間における口座残高の範囲内で馬券を購入するこ
ととなる。ただし,購入した馬券が的中した場合の払戻金については,それを次の
レースから馬券の購入資金に充てることができる。
PAT口座への入出金は,その投票が行われた競馬開催日の翌銀行営業日(通常
月曜日)に行われる。PAT口座において,的中馬券の払戻金の合計額が振込入金
され,馬券購入額の合計額が振替出金される。そのため,PAT口座の入出金の記
録には,土曜日と日曜日に購入した全馬券の合計金額が「出金」として記録され,
それらの馬券の合計払戻金(返還金を含む。)が「入金」として記録される。
JRAのシステム上においては,個々のレースの購入及び払戻しの結果が管理さ
れており,それによって各レース結果の確定時点での会員の預金残高,すなわち馬
券の購入限度額が随時管理されている。そして,A-PATの利用者は,A-PA
Tシステムにアクセスし照会メニューを操作する等の方法により,自身の購入及び
払戻成績並びに購入可能残高を随時照会することができる。
⑵本件ソフト
本件ソフトは,Data-LaboやJRDBが提供する競馬データを利用して,
馬柱(各馬の過去のレース結果等も示した出馬表)の表示,買い目の抽出及びA-
PATを通じた馬券の自動購入等を行うことができる,有料のソフトウェアである。
本件ソフトの機能としては,①Data-Laboによって提供される,主に馬
柱の表示に必要な最新の競馬データをユーザーによるパソコン操作を要せず自動的
にダウンロードする機能(自動メンテナンス機能),馬体重,オッズ及び払戻情報
等のリアルタイムの競馬データを自動的にダウンロードする機能(当日情報自動取
得機能)のほか,②出走馬ごとに「得点」(デフォルト得点)を計算し,そのデフ
ォルト得点に基づいて独自の抽出条件(デフォルト抽出条件)により馬券の買い目
を抽出する機能,③抽出された買い目をA-PATを通じて自動的に購入する機能
(自動購入機能),④本件ソフトを通じて購入した馬券とその的中の有無を記録し,
後日それを確認し,集計して分析することが可能となる機能,⑤Data-Lab
oによって提供されている過去10年以上のデータに基づいて,ユーザーが任意に
設定した条件に当てはまる買い目を買った場合の購入した買い目の数に対する的中
した買い目の数の比率(的中率)及び合計購入金額に対する合計払戻金の比率(回
収率)を計算して表示する機能等が備わっている。
なお,買い目の抽出については,デフォルト得点及びデフォルト抽出条件に代え
てユーザーが独自に考案した得点(ユーザー得点)及び抽出条件(ユーザー抽出条
件)を用いて買い目を抽出させることが可能である。また,どの買い目をいくら購
入するかについては,ユーザーは自由に設定することができる。
4被告人の行っていた馬券の購入方法
被告人は,過去約10年分の競馬データを分析して,独自に考え出したユーザー
得点及びユーザー抽出条件を設定し,PAT口座の残高に応じた購入金額で馬券を
自動購入していた。
その具体的な方法は以下のとおりである。
⑴過去の競馬データの分析
被告人は,的中率ではなく回収率に着目し,回収率に影響を与え得るファクター
について,それが回収率と普遍的な傾向が認められるか否かを本件ソフトの有する
前記3⑵⑤の機能を用いて検証した。そして,検証の結果,回収率との関係に明確
な傾向が見いだせないファクターや,普遍的な傾向が見いだせないファクターにつ
いては,ユーザー得点に反映させないようにした。
このような行為を休日を利用して数か月繰り返し,前走着順,競走馬の血統,騎
手,枠順,性別及び負担重量などの思いつく様々なファクターを検証した結果,最
終的に約40のファクターを採用した。
⑵ユーザー得点の計算式の作成
前記⑴のとおり採用した約40のファクターに基づき,回収率の高い馬の得点が
高くなるように,ユーザー得点の計算式を作成した。
⑶ユーザー抽出条件の作成
前記⑴及び⑵のように回収率の高い馬に高いユーザー得点が算出されることとな
れば,得点のより高い馬又はそれらの馬の組合せに対応する買い目ほど回収率は高
くなることが予想される。そこで,被告人は,馬単,馬連等の馬券の種類ごとに,
ユーザー得点が何点以上であれば回収率が100パーセントを超え馬券の購入費用
を超える金額の払戻金が得られる見込みが高いのかを,過去のデータに基づいて検
証した。そして,その検証の結果をユーザー抽出条件として設定した。
⑷金額式の作成
被告人は,前記⑴ないし⑶の作業により,どのような買い目の馬券を購入するか
を確定させた後,それぞれの馬券の購入金額を決めるための金額式を作成した。
被告人は,競馬に使用する資金を100万円と決めてPAT口座に入金し,これ
がなくなった時点で馬券の購入をやめるつもりであった。そこで,PAT口座の残
額が増えた場合にはそれに応じて馬券の購入金額を増やし,PAT口座の残額が減
ればそれに伴い購入金額も小さくなるような金額式を作成し,想定外の連敗が続い
たとしてもPAT口座の残高がすぐに底をつくことがないようにした。
具体的には,被告人は,PAT口座の現在の残高金額に一定の係数を乗じてオッ
ズで除した金額式を設定した。被告人が,上記のようにオッズに反比例するように
購入金額を決定する金額式を設定したのは,高倍率のオッズの馬券が的中するか否
かに全体の成績が大きく左右されることのないようにして,収支を安定させるため
である。また,上記係数は,被告人が過去の競馬データを用いてシミュレーション
した結果導き出した,PAT口座の残高が効率よく増えるような最適値である。
以上のようにして被告人は,PAT口座の残額に応じて,収支の安定を図り,か
つ効率よく残高を増やすことができるような金額式を作成した。
⑸自動購入
前記3⑵のとおり,本件ソフトにはユーザー抽出条件によって抽出された買い目
を,A-PATを通じ,ユーザーによるパソコン等の操作を要せず自動的に購入す
る機能がある。自動運転ウィンドウにある「自動投票」アイコンをクリックするこ
とで,自動購入機能はオンになる。
そして,この自動購入機能に自動メンテナンス機能及び当日情報自動取得機能を
組み合わせることによって,ユーザーが長期不在であっても,パソコンの電源を切
らない限り,本件ソフトが自動的にダウンロードするオッズ等の情報を基に,馬券
を自動的に購入し続けることが可能となる。
被告人は,前記⑴ないし⑷のとおりに本件ソフトの設定が完了した後は,本件ソ
フトの自動購入機能,自動メンテナンス機能及び当日情報自動取得機能を使用し,
全ての競馬場の,新馬戦と障害レースを除く全てのレースにおいて,ユーザー抽出
条件によって抽出した買い目の馬券を,前記金額式によって算出した金額分購入し
ていた。被告人は,土日はパソコンをつけたまま外出することが多く,ときには,
2週間以上パソコンをつけたままにして自動的に馬券を購入したこともある。
被告人が購入した馬券のうち,当たり馬券の払戻金については,A-PATを通
じて,自動的に被告人のPAT口座に入金された。
なお,被告人は,半年ほど同一のユーザー得点及びユーザー抽出条件で購入した
結果,収支がプラスになりそうにないと判断すれば,ユーザー得点及びユーザー抽
出条件の設定を適宜見直していた。また,年末年始のようにまとまった時間がとれ
る場合にも,ユーザー得点及びユーザー抽出条件の見直しをしていた。
5被告人の馬券購入の収支
被告人は,平成16年にPAT口座に100万円を入金して以来,追加の入金は
一切していない。
前記4記載のとおり,適宜の改変をしつつ本件ソフトを使用して馬券を購入し続
けた結果,長期的には収支はプラスになり,平成17年から平成21年までの5年
間にわたり,毎年多額の利益を得ていた。
第3馬券の払戻金に係る所得は一時所得か雑所得か
1一時所得の判断基準
所得税法34条1項は,一時所得について,「利子所得,配当所得,不動産所得,
事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち,営利を
目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資
産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」と規定する。すなわち,一時所得は,
一時的かつ偶発的に生じた所得である点にその特色があるといえる。したがって,
所得発生の基盤となる一定の源泉から繰り返し収得されるものは一時所得ではな
く,逆にそのような所得源泉を有しない臨時的な所得は一時所得と解するのが相当
である。そして,そのような意味における所得源泉性を認め得るか否かは,当該所
得の基礎に源泉性を認めるに足りる程度の継続性,恒常性があるか否かが基準とな
るものと解するのが相当である。
所得の基礎が所得源泉となり得ない臨時的,不規則的なものの場合,たとえこれ
が若干連続してもその一時所得としての性質に何ら変わるところはない。しかし,
一回的な行為として見た場合所得源泉とは認め難いものであっても,これが強度に
連続することによって,その所得が質的に変化して上記の継続性,恒常性を獲得し,
所得源泉性を有することとなる場合があることは否定できない。そして,このよう
な所得源泉性を有するか否かについては,結局,所得発生の蓋然性という観点から
所得の基礎となる行為の規模(回数,数量,金額等),態様その他の具体的状況に
照らして判断することになる。
2一般的な馬券購入行為から生じた所得について
競馬に興じる者の多くは,その投票により払戻金を獲得するという営利の目的を
有していることは否定できない。しかし,競馬の勝馬投票は,一般的には,趣味,
嗜好,娯楽等の要素が強いものであり,馬券の購入費用は一種の楽しみ賃に該当し,
馬券の購入は,所得の処分行為ないし消費としての性質を有するといえる。また,
レースの結果についても,出走した馬の着順には,天候,出走馬の体調等様々な事
象の影響があり,さらに,そうした事象が及ぼす影響力はレースごとに異なると考
えられる。そのため,一般的には,馬券購入による払戻金の獲得は多分に偶発的で
ある。
また,馬券の購入を継続して行ったとしても,一般的には,上記のとおり馬券購
入が払戻金獲得に結び付くかは偶然に左右されることに加え,馬券購入者は投票ご
とにその都度の判断に基づいて買い目を選択し馬券を購入しているといえることか
らすれば,各馬券購入行為の間に継続性又は回帰性があるとは認められず,繰り返
し馬券を購入したとしてもその払戻金に係る所得が質的に変化しているとはいい難
い。
よって,原則として,馬券購入行為については,所得源泉としての継続性,恒常
性が認められず,当該行為から生じた所得は一時所得に該当する。
3本件馬券購入行為(前記第2の4)から生じた所得について
⑴被告人の本件馬券購入行為は,前記のとおり継続した行為であるが,前記
2の一般的な馬券購入行為と異なって,その払戻金に係る所得が質的に変化し,所
得源泉性を有するといい得るかについて検討する。
⑵被告人は,前記第2の4のとおり,平成16年から平成21年にかけて,
全競馬場の新馬戦及び障害レースを除く全てのレースにおいて馬券を購入した。競
馬開催日1日当たり数百から多いときには1000を超える買い目について馬券を
購入し,その購入金額は1日1000万円以上に上ることがほとんどであり,その
結果,平成19年度から平成21年度の3年間で馬券購入金額は合計28億円を超
えている。
また,被告人は,特定のレースにおいて特定の買い目を当てることによって利益
を出すのではなく,前記第2の4のとおり,A-PAT及び本件ソフトを用いるこ
とにより,ほぼ全てのレースにおいて無差別に,専ら回収率に着目して過去の競馬
データの分析結果から導き出された一定の条件に合致するものとして機械的に選択
された馬券を網羅的に購入することで,長期的観点から全体として利益を得ようと
考え,実際にもそのような方法により馬券を購入し,現に5年間にわたって毎年多
額の利益を得てきた。
さらに,被告人がこのような方法によって馬券を購入したことは本件ソフトのデ
ータやA-PATに係る銀行取引履歴の形で記録されており,本件馬券購入行為が
大量かつ継続的,機械的なものであったことは客観性を帯びた事実である。
そして,被告人の本件馬券購入行為は,その態様からすれば,競馬を娯楽として
楽しむためではなく,むしろ利益を得るための資産運用の一種として行われたもの
と理解することができ,被告人も,その供述するとおり,そのようなものとして捉
えていたものと認められる(このことは,被告人が競馬中継専用のケーブルテレビ
を契約してたまにこれを見ていたからといって,左右されるものではない。)。
⑶このように,被告人の本件馬券購入行為は,一般的な馬券購入行為と異な
り,その回数,金額が極めて多数,多額に達しており,その態様も機械的,網羅的
なものであり,かつ,過去の競馬データの詳細な分析結果等に基づく,利益を得る
ことに特化したものであって,実際にも多額の利益を生じさせている。また,その
ような本件馬券購入行為の形態は客観性を有している。そして,本件馬券購入行為
は娯楽の域にとどまるものとはいい難い。
以上を総合すると,被告人の本件馬券購入行為は,一連の行為として見れば恒常
的に所得を生じさせ得るものであって,その払戻金については,その所得が質的に
変化して源泉性を認めるに足りる程度の継続性,恒常性を獲得したものということ
ができるから,所得源泉性を有するものと認めるのが相当である。
したがって,被告人の本件馬券購入行為から生じた所得は,「営利を目的とする
継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」には該当せず,一時所得に当たらな
いというべきである。
⑷よって,本件馬券購入行為から生じた所得は,利子所得,配当所得,不動
産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得に該当しないこと
はもちろんのこと,一時所得にも該当しないことから,雑所得に分類される。
4検察官の主張について
⑴行為と結果との間の因果関係
検察官は,馬券購入行為が各競走の結果に対して何ら影響力を有するものではな
く,競走の結果も偶然が作用するものであるから,馬券購入行為と払戻金を生じさ
せる競走結果との間には因果関係がなく,よって,馬券購入行為は多数回行ったと
してもそれぞれ独立した行為であり,継続性,恒常性を認めることはできないとし
て,本件馬券購入行為の払戻金による所得を「営利を目的とする継続的行為から生
じた所得」と認めることはできないと主張する。
しかし,まず,馬券購入行為による収入とは払戻金であって,払戻金の有無及び
金額は購入した馬券の買い目及び金額に左右される上,馬券の購入数は全体として
オッズに影響を及ぼすのであるから,馬券購入行為とそれによって得られる収入に
一定の因果関係があることは明らかである。競走結果のみを取り上げて馬券購入行
為との関係を論ずる検察官の主張は当を得ない。確かに,個々のレースについては
競走結果が偶然に左右され,したがって,購入した当該馬券に対する払戻金の有無
及び金額も偶然に左右されることは検察官主張のとおりであるが,後述するとおり
FX取引等の投機的取引の所得分類にも照らし,収入の有無及び金額が偶然に左右
されることの一事をもって所得源泉性を否定することはできない。
そして,前記第3の1で述べたとおり,一回的な行為として見たときには偶発的
所得として一時所得の性質を有するものであっても,これが連続して継続的行為と
なることで所得の性質が変化し,雑所得等他の所得になる可能性があるものという
べきである。本件馬券購入行為については,既に述べたように,源泉性を認めるに
足りる継続性,恒常性が認められ,これによる所得の性質が変化するに至ったと見
られるのであるから,幾ら大量かつ多額の馬券を反復,継続して購入しても馬券購
入行為の性質ないし本質は変わらないとして,本件馬券購入行為についてまでも継
続性,恒常性を認めず,その払戻金に係る所得は「営利を目的とする継続的行為か
ら生じた所得」に当たらないとする検察官の主張は採り得ない。
⑵競馬に対する社会通念
検察官は,馬券を購入する行為は,払戻金を得られるか否かが偶然の作用による
という射倖性が極めて強い行為であることから,社会通念上,営利を目的とする継
続的行為と位置づけることは明らかに失当であると主張する。
確かに,馬券購入行為が有する高度の投機性及び射倖性から,社会通念上,競馬
とはギャンブルであって,生計を立てるためにこれを利用することは想定し難いも
のであり,むしろ余暇に楽しむ娯楽として認識されている。
しかし,上記のような競馬に対する社会通念は,事業所得における事業性の判断
においてはこれを否定する方向に働くものではあるが,「営利を目的とする継続的
行為」の判断においては,直ちに否定的影響を及ぼすものではない。なぜなら,こ
れは営利性及び所得源泉性を意味するものであるが,ここで求められる営利性は,
文字通り財産上の利益を目的とすることであり,また,所得源泉性については,既
に述べたとおり所得発生の蓋然性という観点から所得の基礎となる行為の規模(回
数,数量,金額等),態様その他の具体的状況を総合して判断すべきものだからで
ある。
なお,その所得が雑所得に分類されている先物取引及び外国為替証拠金取引(F
X取引)について見ると,少ない資金で大きな量の取引を行うことが可能なため,
取引態様によっては,大きな利益を得られる一方で短時間に多額の損失を被る危険
性も有しており,その投機性は非常に高いといえる。さらに,利益を得られるか否
かについては商品取引相場又は外国為替相場及び利率の変動等に左右されることと
なるが,この変動を生じさせる原因となる事象が全て予測可能なわけではなく,一
定程度偶然が作用していることは否定できない。また,先物取引及びFX取引につ
いては,取引対象物の獲得を主たる目的とするのではなく,当該取引を行うことに
よって得られる差額により利益を得ることを目的としてなされることが多く,一般
的にもそのようなものとして認識されている。そうであるとすれば,競馬と先物取
引及びFX取引とは射倖性がある点において共通するのであるから,そもそも射幸
性があるからといって「営利を目的とする継続的行為」への該当性を否定すること
はできない。
以上のとおり,検察官の前記主張は採り得ない。
⑶先物取引及びFX取引との類似性
検察官は,先物取引及びFX取引が投機性を有することは認めつつ,その本質が
あくまでも商品等の売買であり,取引をする者の判断で取引の方法,時期及び量を
管理調節することによって投資等の結果に対して影響を及ぼすことができることを
理由に,これらと競馬による所得とは異なると主張する。
確かに,先物取引及びFX取引の本質はあくまで商品等の売買であり,その商品
等の購入行為は全体としては商品取引相場又は外国為替相場に影響を及ぼすものと
認められるのに対して,競馬はレースに出走した馬の着順を予想しこれに金銭を賭
けるギャンブルであるから,馬券の購入数は全体としてオッズに影響を及ぼすとは
いい得るものの,その本質に相違があることは否定できない。しかし,既に述べた
とおり,一時所得か雑所得かを判断する上で重要となるのは所得源泉性を有するか
否かであって,所得の基礎となる行為の本質については,所得源泉性を有するか否
かを判断する上で,一つの考慮要素となることはあっても,決定的な判断基準とな
るものではない。
また,先物取引やFX取引においては,取引をする者の判断で取引の方法,時期
及び量を管理調節することにより,投資等の結果に対して影響を及ぼすことができ
ることは検察官指摘のとおりであるが,他方で,取引をする者が実際に利益を得ら
れるか否かについては,前記⑵のとおり,競馬と同様偶然が作用しており,いずれ
も投機性の高い行為である。一方,馬券購入行為は,競走結果(着順)に影響を及
ぼすことはないものの,前記⑴のとおり,払戻金の有無及び金額との間に一定の因
果関係を有している。そして,これにとどまらず,取り分け本件において被告人の
行った馬券購入方法は,恒常的に所得を生じさせ得るように,本件ソフトを用いて
最新の競馬データに基づき算出された条件に適合する馬券を,算出された価格分購
入するというものであるから,市場の動向等に応じて取引方法,時期及び取引量を
管理調節することと類似しているということができる。以上の点からすれば,先物
取引及びFX取引と本件馬券購入行為にはむしろ所得源泉性という観点からすると
類似性が認められるというべきである。
⑷所得税基本通達の存在
所得税基本通達34-1は,一時所得の例示として,「競馬の馬券の払戻金,競
輪の車券の払戻金等」を挙げているが,通達は,行政機関の長が所管の諸機関及び
職員に対して行う命令ないし示達であり(国家行政組織法14条2項),国民に対
する拘束力を有する法規範ではない。したがって,通達の定めは,裁判所の行う法
律解釈に際し,当該法令についての行政による解釈としてその参考とはなり得るが,
それ以上の影響力を持つものではない。このことは,租税行政が通達の下に統一的,
画一的に運用されていること,そのため国民が納税義務の有無等を判断するに当た
っても重要な指針となっていると考えられることを踏まえても,何ら変わるもので
はない。
また,上記所得税基本通達が発出された当時,本件馬券購入行為のような形態の
馬券購入は,そもそも想定されていなかったものと考えられる。
さらに,所得税基本通達においても,その前文には「……この通達の具体的な適
用に当たっては,法令の規定の趣旨,制度の背景のみならず条理,社会通念をも勘
案しつつ,個々の具体的事案に妥当する処理を図るよう努められたい。」と規定さ
れている。すなわち,本件馬券購入行為の払戻金に係る所得についても,その具体
的な馬券購入方法等を考慮することなく,上記通達の例示を根拠として画一的にこ
れを一時所得として処理することは,必ずしも上記通達前文の趣旨に沿うものとは
いえないのであって,具体的事案の内容等を検討した上で実質的にそれに見合った
所得分類を判断することが求められているというべきである。
第4所得計算上控除すべき金額
1必要経費
⑴前記第3のとおり,本件馬券購入行為から生じた所得は雑所得に当たるか
ら,その金額は,その年中の雑所得に係る総収入金額から必要経費を控除したもの
となる(所得税法35条2項2号)。
そして,所得税法37条1項によれば,雑所得の金額の計算上必要経費に算入す
べき金額は,別段の定めがある場合を除き,当該所得の総収入金額に係る売上原価
その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売
費,一般管理費その他当該所得を生ずべき業務について生じた費用の額である。
⑵必要経費について課税対象から除外することを認める理由は,そもそも課
税は担税力が存在するところにそれに見合った額についてなされることが前提とさ
れており,得られた収入のうち必要経費に相当する部分については投下資本の回収
に当たるため担税力を欠くといえる上,必要経費の控除が,原資を維持しつつ拡大
再生産を図るという資本主義経済の要請にも沿うからである。
2本件における必要経費の範囲
当たり馬券の購入費用が払戻金を得るために「直接に要した費用」として必要経
費に当たることは明らかである。
そして,被告人による本件馬券購入方法は,前記のとおり,新馬戦及び障害レー
スを除いた全レースについて,被告人が過去約10年間の競馬データを回収率に着
目して分析した結果に基づいて設定した一定の条件により抽出された馬券を機械
的,網羅的に購入することによって,長期的に見て全体として利益を上げるという
ものであったから,本件においては,外れ馬券を含めた全馬券の購入費用は,当た
り馬券による払戻金を得るための投下資本に当たるのであって,外れ馬券の購入費
用と払戻金との間には費用収益の対応関係があるというべきである。もっとも,外
れ馬券の購入費用は,特定の当たり馬券の払戻金と対応関係にあるというものでは
ないから,「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額」として
必要経費に該当する。
なお,本件各年分における本件ソフトや競馬データ等の利用料金も,上記外れ馬
券と同様の理由から,必要経費に当たるというべきである。
したがって,本件馬券購入行為による所得計算に当たっては,年間の当たり馬券
の払戻金から,その年の外れ馬券の購入費用を含めた全馬券の購入費用及び本件ソ
フトや競馬データ等の利用料金が「必要経費」として控除されることになる。
第5納税義務の有無
前記のとおり,一時所得ではないとしても,本件馬券の払戻金について雑所得と
して所得が発生していることは明らかであって,弁護人もそのこと自体を争うもの
ではない。そうすると,被告人には,本件馬券購入行為による所得について納税義
務が存在し,ひいては本件各年分について所得税を確定申告すべき義務があったこ
とは明らかである。
弁護人は,前記のとおり,本件公訴事実と同様の課税処分は無効であると主張す
るが,課税処分の適法性,有効性は,このような意味での納税義務や申告義務の存
否を左右する事情ではないというべきである。
第6本件各年分の本件馬券購入行為による所得金額について
本件ソフトに残されたデータによれば,被告人が払戻金によって得た収入は,平
成19年は7億6778万1370円,平成20年は14億4683万5500円,
平成21年は7億9517万6110円である。
これに対し,年間を通じて購入した全馬券の購入金額は,平成19年は6億67
35万200円,平成20年は14億2039万8800円,平成21年は7億8
176万5600円であり,これらに毎年分の本件ソフトや競馬データ等の利用料
金として毎年6万4500円を加えたものが収入から控除すべき必要経費である。
以上からすれば,本件馬券購入行為による雑所得は,平成19年には1億36万
6670円,平成20年には2637万2200円,平成21年には1334万6
010円である。
第7所得税法241条所定の「正当な理由」,可罰的違法性ないし期待可能性の
有無
1弁護人の主張
弁護人は,本件当時,被告人は,課税庁の見解に従って確定申告をすれば極めて
過大な納税義務を課せられ,他方で,自己の見解に基づいて確定申告をすれば過少
申告ほ脱犯として重く処罰され得るという極めて過酷な状況に置かれていたこと,
所得計算上馬券の払戻金額から控除すべき経費について実務上の取扱いが定まって
いなかったこと,馬券の払戻金に係る所得について確定申告が必要であることを国
税当局及びJRAが一切周知していなかったこと並びに所得の捕捉が困難なため馬
券の払戻金については事実上課税が行われてこなかったことを指摘する。
その上で,弁護人は,納税者に無申告加算税を課することが不当又は酷であると
評価し得る事情がある場合には,国税通則法66条1項ただし書にいう「正当な理
由」が認められ,無申告加算税が課されないところ,本件においては,上記のとお
り被告人にとって過酷というべき事情が存在するから,上記「正当な理由」が認め
られる場合に当たるとする。そして,その場合,行政上の制裁措置である無申告加
算税よりも解釈適用において一層謙抑的であるべき刑罰たる単純無申告犯について
は,所得税法241条にいう「正当な理由」が存在し,又は可罰的違法性ないし期
待可能性を欠くものというべきであるから,本件において単純無申告犯は成立しな
い旨主張する。
2検討
⑴本件無申告に至る経緯等
本件においては,確かに,被告人が馬券の払戻金に係る所得について確定申告を
行わなかったことの一因として,国税当局による通達の画一的な運用によって誤っ
た法解釈がなされれば過大な課税がなされることとなる状況にあったことが挙げら
れる。
しかし,被告人は,上記所得について申告義務があることを平成17年から認識
していたにもかかわらず,平成19年までは確定申告書の作成に着手すらしておら
ず,また,平成19年分の確定申告を行わなかったことについて国税当局から何ら
指摘を受けなかったことから,次年分以降も申告義務を怠ったものである。被告人
は,その理由として,外れ馬券が必要経費として認められない可能性があるという
ことに加え,馬券購入で得た所得について確定申告しなかったことで過去に問題と
なった事例が見当たらなかったこと,また,平成17年分及び平成18年分につい
ては所得金額がそれほど大きくなかったことを挙げている。
さらに,被告人は,国税当局の見解に従えば過大な税が課されると分かった後も
確定申告をしないまま馬券購入を続けており,その理由として,国税当局の見解は
理不尽だと感じていたと供述するほか,本件ソフトや類似のソフトを使用し,収支
の記録が残るPAT口座を用いて馬券の購入及び払戻しを行っている者が大勢いる
はずであるにもかかわらず,国税局に摘発された事案が見当たらないということは,
現実には馬券購入による所得に対する課税というのは余り重視されていないのでは
ないかと感じ,申告しなければ税務署がわざわざ調査してまで課税しようとするこ
とはないだろうと考えていた旨供述している。また,税理士の開設するホームペー
ジで知った国税当局の見解について,被告人が直接税務署等に確認することはなか
ったという。
このような被告人の態度からすれば,被告人は,過大な金額の課税がなされるこ
とに対する不安もさることながら,実際には申告しなければ馬券購入による所得に
は課税されないであろうという予想の下,過大な課税がなされると分かっていて申
告する必要はないという判断も少なからずあって,確定申告を行わなかったものと
いえる。
⑵過大な税負担等との関係
本件のような馬券購入方法によって得られた払戻金の所得分類については具体的
な法解釈を示した先例がなく,国税当局は通達を前提に,馬券の払戻金に係る所得
については一時所得であり,控除されるのは当たり馬券の購入金額のみであるとの
画一的な判断をするものと見込まれていた。そして,この国税当局の見解によれば,
被告人は一生かけても支払うことのできない過大な税額を負担することになるとい
う状況に置かれていた。
しかし,税額が現時点における自己の支払能力を超えるほどに多額になることが
予想されるからといって,被告人に申告義務の履行を求めることが直ちに酷である
とはいえない。そして,被告人は,雑所得としてであっても本件馬券の払戻金に係
る所得について申告する義務を負っていたのであり,自己の見解に従って申告した
上で誤った課税処分に対しては審査請求等や裁判により是正を求めることができた
のであるから,国税当局の見解の誤りや税額の過大負担を理由に申告義務を果たさ
ないことが許されるものではない。このことは,被告人が自己の見解に従って申告
すれば虚偽過少申告ほ脱犯に問われる可能性があったとする弁護人の主張を踏まえ
ても同様である。
そして,被告人自身も,本件当時から,本件馬券の払戻金に係る所得について申
告義務があることを十分に認識しており,また,国税当局の見解に異論があれば裁
判等により主張して是正を求めることが可能であることについても理解していた。
なお,被告人は,本件当時,自己の見解である雑所得として確定申告をした場合に,
単純無申告犯よりも刑の重い虚偽過少申告ほ脱犯に問われる可能性があることには
思い至っていなかったというのであって,これが被告人の確定申告をためらわせた
理由となっていたとは認められない。
3小括
国税通則法66条1項ただし書にいう「正当な理由」とは,期限内申告書の提出
をしなかったことについて納税者の責めに帰すべき事由がなく,無申告加算税によ
る制裁を課すことが不当又は酷と評価されるような場合をいうものと解するのが相
当であるところ,前記2のとおりの被告人が本件無申告に至った経緯や被告人の置
かれていた状況からすれば,本件無申告について被告人の責めに帰すべき事由が存
在し,無申告加算税による制裁を課したとしても不当又は酷ではないというべきで
ある。したがって,上記「正当な理由」は認められない。
また,所得税法241条にいう「正当な理由」について見ても,本件無申告につ
き真にやむを得ないといえるだけの事情は認められず,上記「正当な理由」も認め
られない。
さらに,前記2の事情に加えて,本件無申告に係る税額にも照らせば,本件無申
告について可罰的違法性を欠くとはいえないし,前記2のとおりの被告人の認識か
らすれば,期待可能性がないともいえない。
なお,弁護人は,前記1のとおり,国税当局による周知行為の欠如や払戻金に対
する課税の実情等をも指摘するが,いずれも上記判断を左右する事情とはいえない。
第8結論
以上によれば,被告人には所得税法241条の単純無申告犯が成立するが,本件
馬券購入行為から生じた所得は一時所得ではなく雑所得に該当するため,判示の総
所得金額を認定した上,これに対する所得税額を認定した。
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも平成22年法律第6号附則146条により同法に
よる改正前の所得税法241条本文に該当するところ,いずれも所定刑中懲役刑を
選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条によ
り犯情の最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲
役2月に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から2
年間その刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,3年分にわたって,馬券購入による雑所得がありながら,正
当な理由なく,法定の申告期限内に確定申告書を提出しなかったという所得税法違
反の事案である。
本件無申告に係る課税所得は1億5000万円余りであり,その所得税額は50
00万円余りと高額であって,その結果は重大である。
被告人は,平成17年に馬券購入による所得について申告義務があることを認識
したにもかかわらず,その後も自ら確定申告をしなければ国税当局に摘発されるこ
ともないとの身勝手な判断から確定申告をしなかったのであって,申告義務をない
がしろにし,ひいては納税意識に欠けた犯行といわざるを得ない。
しかし,一方で,前記のとおり,所得税基本通達によれば馬券購入に係る所得は
一時所得とされていたところ,これによれば本件の具体的事情を考慮することなく
過大な課税処分を受けることが予想され,このことが被告人による確定申告を躊躇
させたことは否定できない。このことは被告人の杞憂ではなく,実際にも,国税当
局は,その後上記のような過大な課税処分を行っている。
さらに,被告人が既に7000万円を超える額の納税を行っていること,本件発
覚後競馬をやめていること,本件無申告が明るみに出たことによって職を失うなど
既に十分な社会的制裁を受けていること及び被告人には前科前歴がないこと等,被
告人のために酌むべき事情が存在する。
本件は,無申告に係る税額が高額であることなどから,刑の免除はもとより,罰
金刑で済まされるべき事案ではないものの,以上の事情を総合考慮の上,被告人を
懲役2月に処し,その執行を2年間猶予することが相当であると判断した。
(求刑懲役1年)
平成25年5月23日
大阪地方裁判所第12刑事部
裁判長裁判官西田眞基
裁判官増田啓祐
裁判官栗阪美穂

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