弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
  1 原判決中,控訴人敗訴の部分を取り消す。
  2 被控訴人の請求を棄却する。
  3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
  主文同旨
2 被控訴人
 (1) 本件控訴を棄却する。
 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 1 本件は,被控訴人の妻が,自ら,両名の長男(当時4歳2か月)を連れて,被控訴
人の下から家出し,行方をくらました際に,被控訴人が,控訴人の担当部署(北区
福祉部福祉課児童係等)に対し,子を保護した事実の有無を問い合わせたところ,
控訴人の職員が当該事実の有無を開示しなかった(回答できない旨を回答した)と
いう事実関係の下で,被控訴人が,職員の上記不開示を違法として,控訴人に対
し,国家賠償法1条に基づく損害賠償として,慰謝料100万円及び遅延損害金(訴
状送達日の翌日以降のもの)を請求したのに対し,控訴人が当該事実の有無を開
示すべき法的義務が存しないこと,不開示につき違法性が存しないこと等を主張し
て争った事案である。
   原審において,被控訴人の親権の行使を制約してもやむを得ない具体的な事情を
認めることができない等の理由で,上記不開示を違法であるとして,慰謝料10万
円及び遅延損害金が認容されたところ,控訴人が控訴した。
2 前提事実及び争点(当事者の主張を含む。)は,原判決「事実及び理由」の「第2 
事案の概要」1及び2のとおりであるから,これを引用する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,被控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のと
おりである。
2 認定事実は,次のとおり加削訂正するほかは,原判決「事実及び理由」の「第3 
当裁判所の判断」1(1)(同4頁5行目から24行目まで)のとおりであるから,これを
引用する。
(1) 原判決4頁6行目の「乙5」を「乙1ないし7」と改める。
(2) 原判決4頁7行目から10行目までを次のとおり改める。
「ア 控訴人は,かねて,母子から夫の暴力や施設入所等の相談があった場合及
び母子を施設に入所させた場合等において,夫から当該相談の有無や内容
及び入所の有無等について問い合わせがあった場合には,守秘義務がある
ことを理由に,「一切回答できない」と回答すべきであるとし,関係部所の職員
を指導している。(乙1,7)
 イ 被控訴人は,平成11年9月29日,控訴人北区福祉部福祉課児童係を訪
ね,担当職員に,8月7日に妻Aの帰宅が遅かったのに理由をはっきり言わな
いので顔面を殴ったこと,同日Aが長男のBと家出をして帰らないこと,家の電
話帳に北区役所児童係の電話番号の表示があったので相談に来たことを告
げて,担当職員に,Aからの相談の有無あるいはA及びBの保護の有無等に
ついて尋ねたところ,担当職員は,質問に回答できない旨を述べた。(甲7,乙
5)」
(3) 原判決4頁11行目の「イ」を「ウ」と,18行目の「ウを「エ」と改める。
3 子を保護した事実の有無を親権者に開示する義務の存否について
 (1) 被控訴人主張の情報開示の求めの拒否,すなわち開示しないという不作為が
違法であるというためには,その前提として,作為義務すなわち開示すべき義務
の存在が必要となる。
 被控訴人は,被控訴人による上記各照会に対し,控訴人の各担当職員につ
き,Bを保護した事実の有無を開示すべき義務があると主張するので,以下この
点を判断する。
 (2) 福祉事務に関与する地方公共団体の職員に,子の保護の有無に関する情報を
親権者に開示すべきことを義務づけた行政法規はない。
 (3) ところで,親権は,排他的に子の監護養育をする権利をその一つの内容として
いるものであるから,親権者は,第三者が親権者の監護養育権の行使を妨げ,
あるいは妨げるおそれのある場合には,妨害行為を排除し,あるいは妨害を予
防するために,子の引渡請求権その他必要な請求権を行使できるものと解され
る。そして,妨害行為の排除等に必要な範囲で妨害者に対して一定の情報開示
を請求することも,同請求権に付随するものとして認められるものであり,妨害
者は,同請求を拒否し得る正当な理由のない限り,開示請求を拒み得ないと解
するべきである。
 しかし,本件においては,控訴人の職員において,被控訴人の親権の行使を
妨げ,あるいは妨げるおそれがあったことについては,これを認めることのでき
る証拠はない。
 (4) 次に,条理上,市町村の福祉事務担当職員について,親権者に対して子の保
護の有無についての情報を開示すべき義務があるかについて検討する。
 市町村は,住民の福祉の増進を図ることを目的とする地方公共団体であり,そ
の福祉事務の担当職員は,母子からの相談を受けて適切な対応をすることを一
つの職務とし,母子が夫からの暴力を受けている場合,一時避難的な措置とし
て,母子の意思に反しない限度で母子生活支援施設等に入所させることもあり
(乙1~4,弁論の全趣旨),そのような場合は夫の子に対する親権の行使を妨
げる結果となること等に鑑みれば,夫が子の保護の有無を照会してきたときは,
保護している場合であるか否かを問わずこれを開示すべき条理上の義務がある
と解せられる余地もないではない。
 しかし,夫の暴力からの避難を求めて相談し,施設入所を決意した母子の保護
の有無を夫に開示することは,その結果,夫が施設に入所した母子の所在を捜
しだし,連れ戻す等の行動に出ることも容易に推測できるところであって,そのよ
うな事態が生ずるおそれがあることとなると,夫の暴力を受けている母子におい
て,福祉事務担当職員に相談することを回避することとなると思われ,家庭内暴
力等の悲惨な事態を防止することができなくなることも考えられる。そして,母子
が一緒に施設入所しているときに,子供だけの保護の有無を開示することは,
母の保護の有無を開示することとなり,情報開示につき母子を分離しては考えら
れない。
 これらの点と,上記保護が緊急避難的なもので,母子の意思に反するものでな
いこと(判断能力が未熟な幼児の場合,母の意思によることとなると思われる。)
に加え,地方公務員法34条1項が地方公務員の守秘義務を規定し,また,近
時,夫による妻等への暴力が社会問題化し,これから母子を保護すべき社会的
要請が高いと思われ,本年4月6日には,「配偶者からの暴力の防止及び被害
者の保護に関する法律」が制定され,既に公布,施行されているものであり,そ
の23条には,配偶者からの暴力に係る被害者の保護に職務上関係ある者につ
き,被害者の安全の確保及び秘密の保持に十分配慮すべきことが規定されて
いること等に鑑みれば,母子が,夫の暴力からの避難を求めて相談し,施設入
所している場合には,その情報の開示を拒否することの選択については正当な
理由があるといえる。
 また,母子を保護している場合に回答を拒否し,保護していない場合にその旨
回答することは,回答拒否の場合は保護していると推測されることが明らかであ
り,結局,上記のような場合には一切の回答を拒否するとの選択に十分合理性
があるといえよう。
 してみれば,上記条理上の情報開示義務も肯定できない。
 (5) そのほか,被控訴人がるる主張する点を考慮しても,控訴人の職員が,被控訴
人に対し,子を保護した事実の有無を開示する法律上の義務を負うと認めること
はできない。
4 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,被控訴人の請求は理由が
ない。
5 よって,原判決中,被控訴人の請求を一部認容した部分は相当ではないから,こ
れを取り消し,被控訴人の請求を棄却することとし,訴訟費用は被控訴人に負担さ
せることとして,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第1部
              裁判長裁判官  田   村   洋   三
裁判官  小   林   克   美
裁判官  戸   田       久

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