弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人に関する有罪判決部分を破棄する。
     被告人を懲役一年六月に処する。
     訴訟費用中原審証人A、同B、同C、同D、同E、同F、原審並に当審
証人Gに支給した分は被告人の負担とする。
     本件公訴事実中被告人が(一)昭和二五年七月二二日頃、現金一〇万円
を業務上横領したとの点(昭和三二年四月二七日付追起訴状第二の事実)(二)同
年一一月二三日頃、金額五万円の小切手一枚を業務上横領したとの点(同第三の事
実)(三)昭和二六年一月一九日頃、Hより自立貯金することの依頼を受け交付を
受けた現金一〇万円を業務上保管中横領したとの点(同第四の事実)については、
被告人は無罪。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人松本栄一、同鈴木信一提出の控訴趣意書、及び同訂正
申立書記載のとおりであるから、これをここに引用し、これに対し次のとおり判断
する。
 論旨第一点について、(所論は事実誤認の主張を含むものと解する。)
 一、 所論は、原判決判示第一の一の(二)乃至(六)、同第一の二の(一)
(二)及び(四)乃至(九)、同第一の三の(一)(二)の事実につき、原判決は
被告人に業務上横領罪の成立を認めたが、右犯罪の成立を肯認するためには、I、
H、J、及びKの四名が金員返済の債務を負担するに至る原因となつた、被告人の
同人等に対する貸付行為が、市川市L農業協同組合(以下組合と略称する)の正規
の貸付けと認むべき場合に限り妥当するものであるところ、被告人のI等四名に対
する貸付け行為は、いずれも自己、若しくは第三者の利益を図る目的に出た不法の
貸付であるから、右各貸付け行為自体が既に業務上横領罪を構成するものである。
果して然からば、被告人が不法になした貸付け金が後日被告人に返済された場合に
おいて、被告人がその返済金を擅に他人に貸付け、或は自己に着服するも、右は前
の業務上横領罪の当然の結果であつて、不可罰的事後処分行為と目すべきものであ
り、別に犯罪を構成する謂われはないと主張する。よつて按ずるに、
 (イ) 被告人の検察官に対する昭和三二年三月二六日付、同月二七日付、同二
八日付各供述調書、Mの検察官に対する同年三月一五日付供述調書、Gの検察官に
対する同年三月一八日付供述調書、Iの検察官に対する同年三月一五日付、同月一
六日付、同二三日付各供述調書、Aの検察官に対する供述調書の各供述記載及び被
告人の当公廷における供述によると、被告人は原判示の期間組合の先任理事又は専
務理事として原判示の業務を担当処理していたものであり、Iは東京都内から排出
する糞尿を千葉県下の農村にトラックで運搬することを営業とするN株式会社の社
長であるところ、同会社の市川市O営業所主任でa町に在住するMを介し、昭和二
三年五月頃、同会社の運搬用トラック等購入資金として金五〇万円を右組合から借
受けたことがあつて、被告人を識るようになつた者であるが、昭和二五年四月同会
社で必要な運転資金を調達するため、Mを介し被告人に融資を懇請したところ、被
告人はその申出を断ることができず、元来組合の貸付けは組合員に対し組合理事会
の決議を経てなすべきものであり、然かも所定の利息を定め、保証人、その他の担
保を供せしめることを要するに拘らず、組合員でない前記会社の社長たるIの利益
を図る目的を以て、右の如き正規の手続を経ることなく、擅に、組合の資金を融資
することを決意し、同組合会計主任Gをして、組合に預金している組合員の名義を
使用して貯金払戻請求書を作成せしめ、これに対応する貯金を払戻す必要上小切手
を振出すように装い、組合長名義の金額一五万円の小切手を振出させた上、同年四
月二七日頃、市川市bc番地の自宅において、自己が業務上保管する右組合所有の
金額一五万円の小切手(千葉地裁昭和三二年領第九〇号の五)一通を擅に、Mを介
してIに貸与して横領し、昭和二五年六月九日頃に至り、Iから右貸付けに対する
返済として原判示第一の一の(二)掲記の如く現金一五万円を受領するや、これを
自己に着服したことが明かである。右の如き経緯であるから、原判決に判示する現
金一五万円の着服横領の事実は、被告人が昭和二五年四月二七日敢行した金額一五
万円の小切手の業務上横領罪に当然包含せらるべき事後処分行為であつて、別罪を
構成しないものと謂わなければならない。同様にして、原判示第一の一の(三)の
Iから返済を受けた二〇万円の小切手は、被告人が昭和二五年六月一四日頃、前同
様、擅に同人に貸与して横領した組合所有の金額二〇万円の小切手(同号証の七)
に対する返済金、同(四)の二〇万円の小切手は、被告人が同年一二月二〇日頃、
前同様、擅にIに貸与して横領した組合所有の金額二〇万円の小切手(同号証の
九)に対する返済金、同(五)の現金二〇万円は、被告人が昭和二六年二月二四日
頃、前同様、擅にIに貸与して横領した組合所有の金額二〇万円の小切手(同号証
の一一)に対する返済金、同(六)の現金三〇万円は、被告人が同年一二月一四日
頃、前同様、擅にIに貸与して横領した組合所有の金額一〇万円、一三万円、七万
円の小切手三通(同号証の一三、一四、一二)に対する返済金であることが認めら
れるので、被告人がこれらを他人に貸付け、若しくは自己に着服するも、右は前記
業務上横領行為の事後処分として罪とならぬものであると謂わなければならない。
従つて、原判決は以上の事実につき罪とならざるものを有罪と認定した事実誤認の
違法があり、右は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨はいずれも理
由があり、原判決は破棄を免かれない。
 (ロ) 被告人の検察官に対する昭和三二年四月二三日付、同月二五日付各供述
調書、Hの検察官に対する同年三月二三日付、同年四月一八日付各供述調書の記
載、被告人の当審公判廷における供述によると、Hはa町所在P株式会社を経営し
ていた者であるが、営業資金に窮し、小学校時代の同級生である被告人Qに対し融
資を懇請した結果、同被告人はHが組合員でないのに拘らず、擅に組合の資金を同
人に融資することを決意し、昭和二四年八月一日頃、市川市de番地H方で、自己
が業務上保管する組合所有の金額二〇万円の小切手(同号証の八一)一通を、擅に
同人に貸与して横領し、昭和二五年七月二二日頃、Hから右貸付け金の返済として
原判示第一の二の(一)掲記の如く、現金一〇万円を受領するや、これを自己に着
服したことが明かである。以上の経緯であるから、これまた原判示の現金一〇万円
の横領の事実は、被告人が昭和二四年八月一日頃敢行した二〇万円の小切手の業務
上横領罪に当然包含さるべき事後処分行為であつて、別罪を構成しないものであ
る。同様にして、原判示第一の二の(二)のHから返済を受けた五万円の小切手
は、被告人が昭和二五年四月二〇日頃、前同様、擅に同人に貸与して横領した組合
所有の金額五万円の小切手(同号証の八三)に対する返済金、同(四)の現金一〇
万円は、被告人が同年一〇月二六日頃、前同様、擅にHに貸与して横領した組合所
有の金額一〇万円の小切手(同号証の八五)に対する返済金、同(五)の一〇万円
の小切手は、被告人が同年一二月四日頃、前同様、擅にHに貸与して横領した組合
所有の金額二〇万円の小切手(同号証の八六)に対する返済金、同(六)の現金二
〇万円は、被告人が昭和二六年四月一二日頃、前同様、擅にHに貸与して横領した
組合所有の金額二〇万円の小切手(同号証の八八)に対する返済金、同(七)の現
金二〇万円は、被告人が同年四月二一日頃、前同様、擅にHに貸与して横領した組
合所有の金額二〇万円の小切手(同号証の九二)に対する返済金、同(ハ)の現金
一〇万円は、被告人が同年五月一四日頃、前同様、擅にHに貸与して横領した組合
所有の金額一〇万円の小切手(同号証の九四)に対する返済金、同(九)の現金二
〇万円は、被告人が昭和二七年一二月四日頃、前同様、擅にHに貸与して横領した
組合所有の金額二〇万円の小切手(同号証の九五)に対する返済金であるから、こ
れらを他に貸付け、若しくは自己に着服するも、それは前の犯行の事後処分行為で
あつて、別罪を構成しないものである。従つて原判決は以上の事実についても、罪
とならざるものを有罪と認定した事実誤認の違法があり、右の違法は原判決に影響
を及ぼすことが明かであるから論旨は理由があり、この点においても原判決は破棄
を免かれない。
 (ハ) 被告人の検察官に対する昭和三二年四月二三日付、同月二五日付各供述
調書、Jの検察官に対する同年四月二〇日付、同月三〇日付各供述調書によると、
Jはa町で家具什器の製造販売業をしていた者であるが、職人に対する賃料の支払
に窮し、被告人に融資を懇請した結果、被告人は正規の手続きを履まず、擅に組合
の資金を同人に融資することを決意し、昭和二五年五月二二日頃、前記自宅におい
て、自己が業務上保管していた組合所有の金額六万円の小切手一通(同号証の一〇
一)を、擅に同人に貸与して横領し、同年六月一八日頃、同人から原判示第一の三
の(一)掲記の如く右貸付金の返済として現金六万円の交付を受けるや、これを自
己に着服したことが明かであるので、これまた前の業務上横領行為の事後処分であ
つて、別罪を構成しない。従つてこの点においても原判決は前同様の違法がありと
いうべく、論旨は理由があり、原判決は破棄を免かれない。
 (ニ) 被告人の検察官に対する昭和三二年四月二三日付、同月二五日付各供述
調書、Kの検察官に対する同年四月二〇日付、五月一日付各供述調書によると、K
は市川市fで海苔採取業をしていた者であつて、被告人とは軍隊で知合つた間柄で
あるが、その資金に窮し、被告人に対し金融を懇請した結果、被告人は同人が組合
員でないのに拘らず同人に組合の資金を貸付けることを決意し、昭和二五年九月五
日頃、前記自宅で、自己が業務上保管する組合所有の金額五万円の小切手一通(同
号証の一〇二)を、擅に同人に貸与して横領し、同年一二月二〇日頃、同人から原
判示第一の三の(二)掲記の如く、右貸付金の返済として現金一万円の交付を受け
るや、これを自己に着服したことが明かなので、これまた、前の業務上横領行為の
事後処分として別罪を構成しないものといわねばならない。従つてこの点において
も、原判決は罪とならざるものを有罪と認定した事実誤認の違法を免かれないもの
というべく、論旨は理由があり、原判決はこの点においても破棄を免かれない。
 二、 所論は、原判決判示第一の一の(一)の事実につき組合は昭和二五年五月
頃、千葉県R協同組合連合会S支所に対し、二〇〇万円の債務を有したところ、同
年五月二六日頃、被告人は組合会計主任Gから右債務の内一〇〇万円返済のため
(一)同月二月二六日付組合長A振出、T1銀行U支所宛金額三〇万円の横線小切
手一通(同号証の八一)(二)同日付同人振出T2銀行V支店宛金額二八万円の小
切手一(三)前記支所に対する組合当座預金振替のため振出した同R連宛金額三〇
万円の小切手一通、(四)同R連宛金額一〇万円の預金払戻請求書一通(五)現金
二万円を受取り、これらを保管中、被告人は(一)のT1銀行U支店宛三〇万円の
小切手につき組合長印で横線を抹消した上、同銀行で金三〇万円の支払を受け、そ
の内金二〇万円を自己所有にかかる同月二五日付N株式会社I振出、T2銀行W支
店宛、金額二〇万円の小切手と交換して(二)、(三)、(四)、(五)と共にこ
れを同R連に交付し、以て金一〇〇万円を弁済したもので、被告人には何等右現金
を不法領得する意思がなかつたものであるから、業務上横領罪は成立しないと主張
する。
 よつて按ずるに、原判決挙示の証拠によれば、判示第一の一の(一)の事実は優
にこれを証明することができる。そこで、右事実に対し業務上横領罪の成否如何に
ついて考えるに、およそ使途の限定された金銭、または有価証券の寄託を受けた者
が、これを擅に委託の本旨に違つた処分をしたときは、直ちに横領罪が成立するも
のと解するのが相当であり、原判決拳示の証拠によれば被告人が組合の会計主任か
らR連に対する組合の借入金の返済に充てるよう依頼せられて原判示の金額三〇万
円の小切手を受取り、原判示の如くこれを換金した上業務上保管中、その内二〇万
円を自己の用途に供するため着服した事実を認めるに十分である。従つてそのとき
直ちに横領罪が成立するものというべく、たとえ右現金二〇万円に換えるに自己所
有の同額の小切手を以てR連に対する債務を弁済に充て、その結果債務を完済する
ことができたとしても、斯くの如きは横領罪の成否には何等影響を及ぼすべき限り
でない。よつて右被告人の所為に対し、業務上横領罪を以て問擬した原判決は正当
であつて、いささかも法令適用の誤り、若しくは理由にくいちがいの違法は存しな
い。論旨は理由がない。
 弁護人松本栄一、同鈴木信一の控訴趣意第二点、事実誤認の主張について、
 所論は、原判決判示第一の二の(三)の事実につき、被告人は昭和二六年一月、
HからX名義で組合の自立貯金に一〇万円を預入れることの依頼を受け、同人から
現金一〇万円を受取り、同年同月四日、六日、一九日の何れかの日に、組合の担当
者に交付して組合に預金したものであつて、横領の事実はない、と主張するので按
ずるに、被告人の検察官に対する昭和三二年四月二三日付供述調書添付の一覧表、
並に、同月二五日付供述調書には、被告人の供述として昭和二六年一月一九日Hよ
り現金一〇万円を同人の長男名義で自立貯金してくれと依頼を受け預かつたが、そ
の頃、Yから親戚の者に五万円貸したいので何とかしてくれと頼まれ、同女に右一
〇万円の内金五万円を渡し、更にその後、同女に三回位に合計金二万五千円位や
り、その残りはその頃自分の飲食費等に使つた趣意の供述記載があり、またHの検
察官に対する昭和三二年四月二二日付供述調書には、同人の供述として、昭和二六
年一月一九日被告人Qに金五万円を返済した際、同人に返えす金とは別に金一〇万
円を同人に渡し、長男X名義で組合に自立貯金をしてくれるように頼んだことがあ
る趣旨の供述記載があり、いずれも判示に添うが如きであるが、一方組合の自立貯
金台帖(千葉地裁昭和三二年領第九〇号の三三)には、X名義の自立貯金口座に、
昭和二六年一月四日金一〇万円を受入れた旨の記載があり、また被告人の検察官に
対する昭和三二年四月二三日付供述調書添付の一覧表、並に、同月二五日付供述調
書によると、被告人は昭和二六年一月八日頃、Hから受取つた現金一五万円の内一
〇万円を、Gに命じX名義の自立貯金に入れさせた旨の記載があり、Gの検察官に
対する昭和三二年三月一八日付供述調書には、同人は同二五年一二月三一日被告人
から一五万円を受取り保管中、翌二六年一月六日に同被告人の命でその内一〇万円
をX名義の自立貯金に入れた旨の供述記載があつて、前記自立貯金台帖に記載され
た金一〇万円の預入れは、以上の内何れに該当するのか、或は全然別個のものであ
るか、遽に断定し難い。しかるに、証人Hの当審における証人尋問調書、並に、被
告人の当審公判廷における供述によると、Hが被告人に自立貯金の預入れを依頼し
たのは、昭和二六年一月中に一回あるのみ、と謂うのであるから、同年一月四日組
合の自立貯金台帖に記載のある金一〇万円の預入れの外に、Hが被告人に対し別口
の自立貯金として金一〇万円を交付したか否かは甚だ疑わしく、前記被告人及びH
の各検察官に対する供述調書中、同二六年一月一九日金一〇万円をHから被告人に
交付したとの供述記載は、たやすく措信し難いところである。その他、原判決挙示
の証拠によつては、判示事実を確認するに足らないので、原判決はこの点において
事実の誤認があり、その誤認は判決に影響を及ぼすことが明かであるから、論旨は
理由があり、原判決はこの点においても破棄を免かれない。
 よつて被告人の本件控訴は理由があるので、その余の論旨につき判断を省略し、
なお、被告人に対する原判示事実は全部併合罪として判決されたものであるから、
刑事訴訟法第三九七条第一項により、原審の有罪判決部分を全部破棄し、同法第四
〇〇条但書の規定に則り、当裁判所において更に直ちに判決することとする。
 ところで、検察官は当審において、原判示第一の一の(二)乃至(六)、同二の
(四)乃至(九)、同三の(一)(二)の各公訴事実につき、順次後に判示する被
告人の犯罪事実第一の二乃至六、同第二の一乃至六、同第三の一、二の如く訴因の
予備的追加(但し、第二の一乃至六につき予備的訴因は被告人の住所を犯行場所と
しているが、当裁判所は後に判示する如く、H方を犯行の場所と認定する)をなし
たところ、弁護人等は右訴因の追加は、本位的訴因との間に公訴事実の同一性を欠
くから、許されざるものである旨主張する。よつてこれに対する当裁<要旨>判所の
判断を示すと、さきに説示した如く、本件において本位的訴因において業務上横領
罪の対象となつているのは、何れも被告人が先に組合の貸付として小切手を
貸与しその返済をうけた小切手又は現金である。ところで予備的訴因においては、
右の如く被告人が先になした小切手の貸付行為自体業務上横領罪を構成するものと
されているのであつて、このことは当審における訂正後の起訴状の訴因と予備的訴
因を対比することによつても、本件審理の経過に徴しても明白である。してみれ
ば、本位的訴因において業務上横領の対象となつている小切手又は現金は、予備的
訴因において業務上横領罪を構成するものとされている貸付行為を発生原因とし
て、これに基き受領したものに外ならない。従つて、予備的訴因について業務上横
領罪が成立するときは、本位的訴因として掲げられている行為はその事後処分行為
として別罪を構成することなく、また本位的訴因が業務上横領罪を構成する場合に
は予備的訴因たる行為は別罪を構成しないことが明白であり、その間に択一関係が
存在し、また右の場合には因より同一の被害に関する場合であるから、かかる場合
には右の両者の間に公訴事実の同一性が認められるものと解するのが相当であつ
て、その理は、両者の犯行の日時、場所や横領の対象が異る場合であつても何等異
るところはない。従つて右予備的訴因の追加は許容さるべきものである。
 (当裁判所の認定する罪となるべき事実)
 被告人Qは、市川市g町h番地所在市川市L農業協同組合(旧称a町農業協同組
合、以下組合と略称する)に昭和二三年四月一九日より先任理事、同二六年四月一
九日以降は専務理事として勤務し、金融業務を担当し、同組合金の受払の監督、並
に、保管、及び組合長不在の際は組合長に代り通常の組合業務一切を統轄処理して
いたものであるが、
 第一、 
 一、 昭和二五年五月二六日頃、千葉県R協同組合連合会S支所に対する組合の
借入金を返済するため、組合会計主任Gより、同日付組合長A振出に係る市川市i
町j丁目k番地T1銀行U支店宛の金額三〇万円の小切手一通(千葉地裁昭和三二
年領第九〇号の四)を受取り、同日、同銀行支店において現金化し、組合のため業
務上保管中、その内二〇万円を、擅に同所において自己の用途に充てるため着服し
て横領し、
 二、 同年四月二七日市川市bc番地の自宅において、Mを介しN株式会社取締
役社長Iから同会社の運転資金の貸与を求められるや、自己が業務上保管中の組合
所有の同日付同組合長A振出、T1銀行U支店宛、金額一五万円の小切手一通(同
号証の五)を、擅に同人に貸与して横領し、
 三、 同年六月一四日頃、右自宅において、前同様、Iに対しMを介して、自己
が業務上保管中の組合所有の同日付、同組合長振出、同銀行支店宛、金額二〇万円
の小切手一通(同号証の七)を、擅に貸与して横領し、
 四、 同年一二月二〇日頃右自宅において、前同様、Iに対しMを介して、自己
が業務上保管中の組合所有の同日付組合長振出、同銀行支店宛、金額二〇万円の小
切手一通(同号証の九)を、擅に貸与して横領し、
 五、 昭和二六年二月二四日頃、右自宅において、前同様、Iに対しMを介し、
自己が業務上保管中の組合所有の同日付組合長振出、同銀行支店宛、金額二〇万円
の小切手一通(同号証の一一)を、擅に貸与して横領し、
 六、 同年一二月一四日頃右自宅において、前同様、Iに対しMを介して、自己
が業務上保管中の組合所有の同日付組合長振出、T2銀行V支店宛、金額一〇万円
の小切手(同号証の一三)、金額一三万円の小切手(同号証の一四)、金額七万円
の小切手(同号証の一二)計三通を、擅に貸与して横領し、
 第二、 
 一、 昭和二五年一〇月二六日頃市川市ae番地P株式会社取締役社長H方で、
同人に対し、自己が業務上保管中の組合所有の同日付組合長A振出、T1銀行U支
店宛、金額一〇万円の小切手一通(同号証の八五)を、擅に貸与して横領し、
 二、 同年一二月四日頃前同所において、Hに対し、自己が業務上保管中の組合
所有の同日付同組合長振出、同銀行支店宛、金額二〇万円の小切手一通(同号証の
八六)を、擅に貸与して横領し、
 三、 昭和二六年四月一二日頃前同所において、Hに対し、自己が業務上保管中
の組合所有の同日付同組合長振出、同銀行支店宛、金額三〇万円の小切手一通(同
号証の八八)を、擅に貸与して横領し、
 四、 同年四月二一日頃前同所において、Hに対し、自己が業務上保管中の組合
所有の同日付同組合長振出、同銀行支店宛、金額二〇万円の小切手一通(同号証の
九二)を、擅に貸与して横領し、
 五、 同年五月一四日頃前同所において、Hに対し、自己が業務上保管中の組合
所有の同日付同組合長振出、同銀行支店宛、金額一〇万円の小切手一通(同号証の
九四)を、擅に貸与して横領し、
 六、 昭和二七年一二月四日頃前同所において、Hに対し、自己が業務上保管中
の組合所有の同日付同組合長振出、T2銀行V支店宛、金額二〇万円の小切手一通
(同号証の九五)を、擅に貸与して横領し、
 第三、 
 一、 昭和二五年五月二二日頃、前記自宅において、家具什器製造販売業Jに対
し、自己が業務上保管中の組合所有の同日付同組合長振出、T1銀行U支店宛、金
額六万円の小切手一通(同号証の一〇一)を、擅に貸与して横領し、
 二、 同年九月五日頃右自宅において、海苔採取業Kに対し、自己が業務上保管
中の組合所有の同組合長振出、同銀行支店宛、金額五万円の小切手一通(同号証の
一〇二)を、擅に貸与して横領したものである。
 (証拠説明省略)
 (法令の適用)
 法律に照すと、被告人の判示各所為は、刑法第二五三条に該当するところ、右は
同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条第一〇条に則り、犯情最も重
いと認める判示第一、の六の業務上横領の罪につき定めた刑に法定の加重をした刑
期範囲内で、同被告人を懲役一年六月に処し、訴訟費用については刑事訴訟法第一
八一条第一項本文により、主文掲記のとおり同被告人の負担とする。
 (本件公訴事実中無罪の点に対する判断)
 本件公訴事実中被告人が
 一、 昭和二五年七月二二日頃、H方で同人から組合の貸付金の返済として現金
一〇万円を受領し、これを業務上保管中、その頃前記場所で擅に着服して横領し
(同三二年四月二七日付追起訴状第二の事実)
 二、 同年一一月二三日頃、H方で同人から組合の貸付金の返済として同日付H
振出しにかかるT1銀行U支店宛の金額五万円の小切手一通を受領し、これを業務
上保管中、擅に即日、同市dc番地の自宅でZに貸与して横領し(同追起訴状第三
の事実)
 三、 昭和二六年一月一九日頃、H方において同人より同人の長男Xの名義でL
農業協同組合に自立貯金をすることの依頼を受け、現金一〇万円を受領しこれを業
務上保管中、その頃擅に、同市下lm番地Y方で、自己の用途に充てるため着服し
て横領し(同追起訴状第四の事実)
 たものである。
 との点については、一、の所為は、前記の如く被告人が昭和二四年八月一日頃、
自己が業務上保管中の組合所有の金額二〇万円の小切手一通を、擅にHに貸与して
横領した犯行の事後処分行為であり、二、の所為は被告人が昭和二五年四月二〇日
頃、同様の金額五万円の小切手一通を、擅にHに貸与して横領した犯行の事後処分
行為であつて、いずれも罪とならず、三、は前記の如く、犯罪の証明が十分でない
ので、刑事訴訟法第三三六条により、いずれも無罪の言渡しをなすべきものであ
る。
 (裁判長判事 山本謹吾 判事 渡辺好人 判事 目黒太郎)

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