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平成20年4月24日判決言渡
平成19年(行ケ)第10054号審決取消請求事件
平成20年3月25日口頭弁論終結
判決
原告ディー・エフ・ビーバイオ
テックインコーポレイテッ
ド(審決時の商号フィトン
インコーポレイテッド)
同訴訟代理人弁護士尾崎英男
同池原元宏
同訴訟代理人弁理士谷義一
同主代静義
同岩崎利昭
同田村正
被告株式会社サムヤン・ジェネッ
クス
同訴訟代理人弁護士長沢幸男
同訴訟代理人弁理士日野真美
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2005−80355号事件について平成18年10月5日に
した審決中,「特許第3513151号の請求項1∼27に係る発明について
の特許を無効とする。」との部分を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「タクスス属種の細胞培養によるタキソールおよびタ
キサンの増強された生産」とする特許第3513151号(平成5年2月22
日出願,パリ条約による優先権主張,1992年2月20日,米国,1992
年4月24日,米国,平成16年1月16日設定登録。以下「本件特許」とい
う。)の特許権者である。
被告は,平成17年12月8日,無効審判請求(無効2005−80355
号事件)をし,無効審判係属中に,原告は,平成18年4月26日,本件特許
の請求項1∼36のうち請求項2∼9及び24を削除する内容の訂正請求(以
下「本件訂正」という。訂正後の請求項の数は27である。)をした(甲41
の1,2)。特許庁は,平成18年10月5日,「訂正を認める。特許第35
13151号の請求項1∼27に係る発明についての特許を無効とする。」と
の審決をした。
2特許請求の範囲
本件訂正に係る明細書(甲41の2。以下「本件訂正明細書」という。)に
よると,本件訂正後の本件特許の請求項1ないし27は,次のとおりである。
【請求項1】下記工程を含むことを特徴とする,タクスス・シネンシスの細
胞培養から高収率でタキソールおよびタキサンを回収する方法;
(a)タクスス属種由来の細胞を,1つ以上の栄養培地で,天然の
タクスス・シネンシスにより生産される量より少なくとも10
倍量のタキソールとタキサンとを生産する条件下で培養する工
程であって,
(i)タクスス・シネンシス細胞を,培養細胞の迅速な成長に
有利な懸濁液の成長栄養培地に植菌して植菌懸濁物を形成す
る工程,
(ii)前記工程(i)の植菌懸濁物を成長させ,バイオマスを
増殖させる工程,
(iii)前記工程(ii)の懸濁培養物をタキソール及びタキサ
ンの生合成に有利な生産栄養培地に継代培養して生産培養物
を形成する工程,ここで,前記生産栄養培地は生産物形成の
ために独立して最適化され,前記成長栄養培地と異なる,
(iV)前記工程(iii)の生産培養物をタキソール及びタキサ
ンを形成するための条件下で培養する工程,
を含む工程;及び
(b)前記工程(iv)の培地,細胞,または生産培養物の培地及び細
胞から前記タキソールおよびタキサンを回収する工程。
【請求項2】前記成長条件が前記培地中に使用される成長調整物質の量また
は種類を変えることにより最適化することを特徴とする請求項1に記載の方
法。
【請求項3】前記成長調整物質がホルモン類似体であることを特徴とする請
求項2に記載の方法。
【請求項4】前記成長調整物質がピクロラムであることを特徴とする請求項
2に記載の方法。
【請求項5】前記培地がAgNOを含有することを特徴とする請求項2に3
記載の方法。
【請求項6】前記培地がマクロおよびミクロ塩類,微量元素および/または
ビタミンおよびその他の有機補充物質を含有することを特徴とする請求項2に
記載の方法。
【請求項7】前記培地が植物ホルモン,ホルモン代替物および誘導体,ホル
モン阻害剤および/または合成成長調整物質を含むことを特徴とする請求項2
に記載の方法。
【請求項8】前記培地が生物または非生物エリシターを含有することを特徴
とする請求項2に記載の方法。
【請求項9】前記生物的または非生物的エリシターが表1aから選択される
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】前記エリシターがグルタミン酸キトサン,リゲナン,フェル
ラ酸および安息香酸から選択されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】前記エリシターがグルタミン酸キトサンであることを特徴と
する請求項10に記載の方法。
【請求項12】前記培地が生合成前駆体,代謝および非代謝阻害剤,および
/または刺激剤および/またはアクチベータを含むことを特徴とする請求項2
に記載の方法。
【請求項13】前記生合成前駆体,代謝および非代謝阻害剤,および/また
は刺激剤および/またはアクチベータが表1bから選択されることを特徴とす
る請求項12に記載の方法。
【請求項14】フェニルアラニンが前記培養の生産段階で存在していること
を特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】前記培地が抗褐変剤,抗酸化剤,安定化剤,増強剤,ラジカ
ルスカベンジャー,調整剤,および/または還元剤を含有することを特徴とす
る請求項2に記載の方法。
【請求項16】定期的な栄養培地の交換の工程をさら含むことを特徴とする
請求項1に記載の方法。
【請求項17】定期的なタキソールおよびタキサン除去の工程をさら含むこ
とを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】成長および生産物形成が,1段階または2段階のバッチプロ
セス,またはフェッド−バッチプロセス,または半連続プロセス,または連続
プロセス,またはそれらの変形を用いて達成されることを特徴とする請求項1
に記載の方法。
【請求項19】前記1つ以上の栄養培地がタキサン前駆体も含むことを特徴
とする請求項1に記載の方法。
【請求項20】前記1つ以上の栄養培地が炭素源としてマルトースを含むこ
とを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項21】前記1つ以上の栄養培地が炭素源としてスクロールを含むこ
とを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項22】前記1つ以上の栄養培地が炭素源としてグルコース,フラク
トース,またはそれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の方
法。
【請求項23】前記1つ以上のタキサンの生産が前記栄養培地の組成の変化
により誘導されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項24】タキサンの生産中に少なくとも1回栄養培地を交換する工程
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項25】前記培養工程中に少なくとも1回栄養培地を交換する工程を
さらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項26】前記タクスス・シネンシス細胞がフェッド−バッチプロセス
により培養されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項27】タキソールが前記細胞培養物の前記細胞または前記培地また
はそれら両方から回収されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
(以下,それぞれ「本件訂正発明1」∼「本件訂正発明27」といい,これ
らを総称する場合は,「本件各訂正発明」という。)
3審決の内容
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件各訂正発明は,米国特許
第5019504号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)の記載及び公知
技術(甲2ないし4,6,7,9,11ないし16,18,21)に基づい
て,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2
項の規定により特許を受けることができない,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明の内容並びに本件訂正発明1と
刊行物1記載の発明(以下「引用発明」という。)との一致点及び相違点を次
のとおり認定した。
(1)引用発明の内容
ア引用発明の方法(1)
タクスス・ブレヴィフォリア由来の細胞を,Gamborg'sB5中で懸濁培養
して成長させ,その継代培養物を,培地1又は培地2で培養して,細胞を
成長させ,これらの培地において成長した細胞によりタキソールを生産さ
せる方法。
イ引用発明の方法(2)
前記アの継代培養物を,培地1,培地2又は培地3で培養して,成長さ
せた細胞を,Gamborg'sB5中で真菌培養を行って,タキソールの生産を誘
導する方法。
(2)一致点
下記工程を含むことを特徴とする,タクスス属種の細胞培養から高収率で
タキソールおよびタキサンを回収する方法;
(a)タクスス属種由来の細胞を,1つ以上の栄養培地で,タキソールとタ
キサンとを生産する条件下で培養する工程であって,
(i)タクスス属種の細胞を,培養細胞の迅速な成長に有利な懸濁液
の成長栄養培地に植菌して植菌懸濁物を形成する工程,
(ii)前記工程(i)の植菌懸濁物を成長させ,バイオマスを増殖さ
せる工程,
(iii)前記工程(ii)の懸濁培養物をタキソール及びタキサンの生合
成に有利な生産栄養培地に継代培養して生産培養物を形成する工
程,ここで,前記生産栄養培地は生産物形成のために独立して最
適化され,前記成長栄養培地と異なる,
(iv)前記工程(iii)の生産培養物をタキソール及びタキサンを形成
するための条件下で培養する工程,
を含む工程;及び
(b)前記工程(iv)の培地,細胞,または生産培養物の培地及び細胞から
前記タキソールおよびタキサンを回収する工程。」
という点で一致する。
(3)相違点
ア相違点1
細胞培養するタクスス属種が,本件訂正発明1においては,「タクス
ス・シネンシス」であるのに対し,引用発明では,「タクスス・ブレヴィ
フォリア」である点。
イ相違点2
本件訂正発明1では,タキソールとタキサンの生産が,「天然のタク
スス・シネンシスにより生産される量より少なくとも10倍量」であるの
に対し,引用発明では,そのような特定がない点。
第3原告主張の取消事由
審決は,①一致点の認定を誤り(取消事由1),②相違点に対する容易想到
性の判断を誤ったから(取消事由2),取り消されるべきである。
1取消事由1(一致点の認定の誤り)
引用発明には,以下の理由から,(a)(iii)記載の成長栄養培地とは独
立して最適化された,タキソール及びタキサンの生合成に有利な生産栄養培地
の使用が開示されているといえず,その結果,(a)(iv)及び(b)の工程
が存在しないので,審決の一致点の認定は誤りである。
(1)本件訂正発明1の「生産栄養培地」の意義
ア審決は,培養細胞が成長していれば成長のための栄養培地に相当し,タ
キソールの生産が行われていれば生産栄養培地に相当すると判断した上
で,「引用発明1の方法(1)」における「培地1」又は「培地2」及び「
引用発明1の方法(2)」における「真菌エリシターを含むGamborg'sB5培
地」が,いずれも「生産栄養培地」に相当するとして,「生産栄養培地」
が開示されていることを前提として,一致点を認定している。しかし,二
段階培養の第一段階の「成長栄養培地」でもわずかながらの生産が生じ,
第二段階の「生産栄養培地」でも生存のためにいくらかの細胞の成長は持
続するから,審決によると,すべての栄養培地が成長栄養培地であり,か
つ生産栄養培地でもあることになり,本件訂正発明1が二段階培養を内容
とする発明として記載されていることが無意味となり相当でない。
イ本件訂正発明1の「生産栄養培地」の意義
本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載によると,「生産栄養培
地」は,「タキソール及びタキサンの生合成に有利」であり,かつ「生産
物形成のために独立して最適化され」るものである。他方,「成長栄養培
地」は,「培養細胞の迅速な成長に有利」なものとされる。よって,両者
の相互の関連を考慮すれば,「成長栄養培地」は「タキソールやタキサン
の生産よりも細胞の迅速な成長に有利な培地」を意味し,「生産栄養培
地」は,「細胞の成長よりもタキソール及びタキサンの生合成に有利な培
地」を意味するものと解すべきである。さらに,「生産栄養培地」は生産
物の形成のために成長栄養培地とは独立して最適化されるから,「生産栄
養培地」が「成長栄養培地」と比べてタキソール及びタキサンの生合成に
有利であるとされる。なお,本件訂正明細書の「成長は生産培地でおきる
ことがありうるとともに,生産が成長培地で起きることがあり得るし,単
一の栄養培地中で最適の成長と生産が起きることがあり得る」との記載
は,後記ウの成長関連に関するものであり,「成長非関連」における二段
階培養を特徴とする本件訂正発明1とは無関係の記載である。
よって,本件訂正発明1の「生産栄養培地」は,「成長栄養培地の組成
と比べて,成長よりも,タキソール及びタキサンの生合成に有利な組成の
栄養培地」の意味であると解するのが相当である。
ウ当業者の技術常識
本件特許出願の優先権主張当時,当業者の間では,植物生産系における
二次中間代謝物の生産が,成長関連(成長及び生産が同時に起こる)と成
長非関連(成長及び生産が同時に起こらない)に分類されることが知ら
れ,このうち,成長非関連の二次中間代謝物の生産のために二段階培養を
行うことも知られていた(甲24,25,34)。また,培地の組成成分
に関し,細胞の成長に適した組成は,ショ糖とその成分である単糖類,グ
ルコース,フラクトースであり(甲25),二段階培養における二次代謝
物の生産に適した組成は,硫酸塩,アンモニウム塩,リン酸塩,カリウム
塩等であることが知られていた(甲28ないし32,34)。
エ上記イ及びウを総合すると,本件訂正発明1の「生産栄養培地」は,成
長栄養培地の組成と比べて,成長に必須の無機物質を減少させ,成長より
も,タキソール及びタキサンの生合成に有利な組成の栄養培地に限定され
るというべきである。
(2)引用発明における「生産栄養培地」の記載の有無
本件訂正発明1の上記の「生産栄養培地」の意義に照らすならば,「引用
発明1の方法(1)」における「培地1」又は「培地2」,「引用発明1の方
法(2)」における「真菌エリシターを含むGamborg'sB5培地」は,いずれも
本件訂正発明1の「生産栄養培地」に相当せず,引用発明には「生産栄養培
地」が開示されていないから,審決の一致点の認定は誤りである。
2取消事由2(容易想到性の判断の誤り)
(1)審決は,本件訂正発明1の作用効果がタクスス・ブレヴィフォリアを用
いた引用発明の効果と比べて,格別顕著なものとは認められないことを理由
に,引用発明において,タクスス・ブレヴィフォリアに代えて,タクスス・
シネンシスを用いることは当業者が容易に想到し得たものと判断した。
しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,本件訂
正発明1は,タクスス属種のうちタクスス・シネンシスを選択したこと,及
び独立して最適化された「成長栄養培地」と「生産栄養培地」を用いる二段
階培養方法に係る発明であり,これにより,引用発明に比してタキソール及
びタキサンの容積生産量を飛躍的に増大させるという顕著な作用効果を奏す
る。この顕著な作用効果は,本件訂正明細書の実施例9に具体的に記載され
ているとおりであり,タキソールの「容積生産量」(培養液1リットル当た
りに生産されるタキソールの量)は,25日目で21.3mg/L,42日
目で153mg/Lであり,引用発明の1∼3mg/Lに比べ35∼150
倍である。
よって,本件訂正発明1の作用効果が引用発明の効果と比べて格別顕著な
ものと認められないとした審決の判断は誤りである。
(2)審決は,引用発明と本件特許の実施例9とでは,細胞接種量,培養期
間,培地組成が異なっていることを理由に,実施例9の記載は本件訂正発明
1の顕著な作用効果を根拠付けるに十分なものではないと判断した。
しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,引用発
明は,成長栄養培地でタキソールを生産しているためにわずかな量の細胞接
種量で培養を開始し,バイオマスは増加するがタキソールの生産はわずかで
あるのに対し,本件訂正発明1は二段階培養方法を採用することにより,成
長培養培地において成長した細胞を生産栄養培地に接種するので,多量の細
胞を接種しても細胞はそれほど増殖せず,タキソールの生産量を飛躍的に増
大することができたものである。
なお,本件特許の実施例8は,エリシター処理をした場合としない場合の
比較をした実験であり,実施例9とは細胞接種量が異なるので,実施例9と
矛盾するものではない。
(3)審決は,本件訂正発明1の特許請求の範囲には,実施例9のような培養
条件が限定されていないから,実施例9の特定の培養条件下において得られ
る容積生産量を本件訂正発明1に係るすべての態様にまで一般化できるとは
いえないと判断する。
しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,当業者
が実施例9の実験内容を見れば,そこで得られた顕著な作用効果が成長栄養
培地によって成長した細胞を,生産栄養培地で培養することによって得られ
たものであることが十分理解でき,特定の培地組成,細胞接種量や培養期間
の設定は,当業者が本件訂正発明1の理解に基づき任意に選択設定できる事
項であるから,上記審決の判断は誤りである。
第4被告の反論
1取消事由1(一致点の認定の誤り)に対し
(1)本件訂正発明1の「成長栄養培地」は,迅速な成長に有利な栄養培地を
指と規定されているが,「生産栄養培地」とは,上記の「成長栄養培地」と
は異なるものであって,タキソール及びタキサンの生合成に有利でかつ何ら
かの指標により生産物形成のために独立して最適化された栄養培地であり,
活性化剤やエリシター等の添加剤が添加された栄養培地を指すものと解すべ
きである。
そうすると,引用発明の実施例4における「培地1」及び「培地2」並び
に実施例8,12における「真菌エリシターを含むGamborg'sB5培地」は「
生産栄養培地」に相当する。
(2)原告は,本件訂正発明1の「生産栄養培地」は,「成長栄養培地の組成
と比べて,成長よりも,タキソール及びタキサンの生合成に有利な組成の栄
養培地」の意味であると解するのが相当であると主張する。しかし,本件訂
正明細書(甲41の2)に記載のとおり,「成長は生産培地でおきることが
ありうるとともに,生産が成長培地で起きることがありうるし,単一の栄養
培地中で最適の成長と生産が起きることがありうる」から,「生産栄養培
地」を「成長栄養培地」とを対比して,タキソール及びタキサンの生合成に
有利な組成の栄養培地に限定する根拠はない。
(3)原告主張の文献には,いずれも生産栄養培地であるためには,必ず成長
栄養培地の成分から無機物質を減少させ,他方,ショ糖などの炭酸源を増加
させなくてはならないことや,原告主張の成分が成長に必須であることは記
載されていない。また,甲19,25,32,乙1の記載によると,二次中
間代謝物の生産栄養培地では,常に成長栄養培地の成分から無機物質を減少
させ,他方,ショ糖などの炭酸源を増加するとはいえない。原告の主張は失
当である。
2取消事由2(容易想到性の判断の誤り)に対し
(1)本件訂正発明1は,「成長栄養培地」と「生産栄養培地」を用いて培養
すると,結果として天然のタクスス・シネンシスにより生産される量より少
なくとも10倍量のタキソールとタキサンとを生産することが機能的に規定
されているのみである。よって,本件訂正発明1が細胞の大量接種を可能に
したことにより容積生産量を飛躍的に増大させたとの原告の主張は,本件特
許に係る特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,失当である。
(2)仮に,実施例9が顕著なタキソール容積生産量を達成しているとして
も,実施例8(エリシターを添加しない場合)のタキソール容積生産量は,
5.4mg/Lにとどまることに照らすならば,実施例9で達成される容積
生産量は,特殊な実施態様に限られる効果である。実施例9の高いタキソー
ル容積生産量は,本件訂正発明1の要件を充たさない生産栄養培地における
長期培養により得られる効果であって,本件訂正発明1の顕著な作用効果と
はいえない。
なお,本件訂正発明1は,生産栄養培地に対して細胞をどの程度大量に接
種すべきか,何日間以上培養すべきか等の有利な容積生産量を達成するため
の培養条件は,何ら規定されているわけではない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,審決には,原告の主張に係る,一致点の認定の誤り及び容易想
到性の判断の誤りはないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1本件訂正明細書(甲41の2)の記載
(1)本件訂正明細書には,以下の記載がある。
「生産培地条件
本明細書において使用されるように,「栄養培地」という用語は植物細胞
カルスおよび懸濁培養の培養に適した培地を記述するのに使用される。「栄
養培地」という用語は一般的であり「成長培地」と「生産培地」の双方を含
む。「成長培地」という用語は培養細胞の迅速な成長に有利な栄養培地を記
述するのに使用される。「生産培地」という用語は培養細胞のタキソールお
よびタキサンの生合成に有利な栄養培地を指称する。成長は生産培地で起き
ることがあり得るとともに,生産が成長培地で起きることがあり得るし,単
一の栄養培地で最適の成長と生産が起きることがあり得ることが了解され
る。」(14頁7行∼15行)
「タクスス・シネンシスにおけるタキソールとタキサンの生産の場合,成
長と迅速な生産物形成は分離されており,独立の培地がそれぞれについて開
発されていた。しかしながら,単一の成長/生産培地をこの培養のために処
方してもよいことが了解される。」(15頁11行∼14行)
「他のものも使用することができるが,種々の種に対する好適な生産培地
を第5表に示す。例えば,他のものを使用することができるが,タクスス・
シネンシス用の好適な生産培地はBおよびCである。これらの培地は第2表
にリストされた成分を含有しているのが好ましい。これらの培地は主要およ
び微量無機塩類,有機物および成長ホルモンもしくは成長調整物質を含有し
ているのが好ましい。量は一般に以下の,第2表に示す各培地成分の濃度の
10分の1ないし3倍の範囲内である。」(15頁21行∼27行)
「タクスス・ブレビフォーリアの培養において達成された細胞密度が1リ
ットルあたりの乾燥重量で1g以下であったのに対し(Christenetal.(1
991)で発表されたデータから計算),タクスス・シネンシスの懸濁培養で
は18日間の増殖で密度が1リットルあたりの乾燥重量で8ないし20gまで
達した。」(22頁9行∼13行)
(2)実施例8には,培地Dの中で成長したタクスス・シネンシスK−1系統
の細胞を,エリシター添加した又は添加しない培地Cで培養して,タキソー
ル及びタキサンの生産量を測定したところ,エリシター処理しないものが
5.4mg/Lであるのに対して,エリシター処理した場合には13.9m
g/Lであったことが記載されている。
(3)実施例9では,タクスス・シネンシスを,成長栄養培地Dで7∼8日
間,懸濁培養後,生産栄養培地B又はCに移して,18∼42日間,培養し
ているが,第9表及び第5図によると,培地Cにおいて,①タキソールの培
地容積に対する生産量(mg/L),②タキソールの生産量(乾燥重量%),③
細胞密度(g/L)は,以下のとおりであることが記載されている。
タキソールの生産量細胞密度
(mg/L)(乾燥重量%)(g/L)
18日培養21.30.06532.8
25日培養24.250.042756.8
42日培養153.340.324447.3
2刊行物1(甲1)の記載
(1)「我々のタキソール産生方法には,以下の工程が含まれる:
a.タクスス属種の生組織を供し;
b.上記組織からのカルス形成に適する及び懸濁細胞増殖に適する栄養
培養培地を供し;
c.上記組織由来のカルスを産生し懸濁細胞増殖のために上記組織を上
記培地において培養し;
d.上記カルス及び懸濁細胞及び上記培地からタキソール及びそれに関
連する化合物を回収すること
場合によっては,工程(c)に誘導剤を添加し,タキソール及びそれに関
連する化合物の産生を最適化してもよい。」(訳文1頁,下から10∼1
行)
(2)「タキソール産生はまた,真菌エリシター(fungalelicitors)バナジル
硫酸を含む様々な化合物の添加により促進されるが,例えば,3,4-ジクロロ
フェノキシトリエチル(アミン)等,副産物の産生をも刺激する他の化合物
によってもさらに促進されうる。真菌エリシター及び他の化合物による迅速
な促進能は,タキソールの商業的な生産に多大な利益をもたらす。Cytospor
aabietis,ATCCNo.38688及びPenicilliumminioluteum(Dierckx),NRRl18
467を含む真菌エリシターのような様々な真菌種がタキソール生産を誘導す
る。」(訳文3頁,7∼12行)
(3)「実施例3
実施例1で得られたカルスを懸濁培養した。継代培養は,125ml容
量のErlenmeyerフラスコにて,2,4-Dカイネチン,NAA,6-ベンジルアミノ
プリン(BAP)を様々な量のホルモンを含有する15mlのGamborg'sB5培
地を入れて,110−125rpmで振盪して行った。」(訳文4頁29
∼32行)
(4)「実施例4
実施例3の懸濁細胞の継代培養を:(1)硝酸アンモニウムの添加有り
又は無しのGamborg'sB5培地(表I及びII),(2)Lloyd及びMcCown's樹
木植物塩基性塩混合物(表III),5mlMurashige及びSkoog's改変ビタ
ミン混合物(表IV),15gスクロース,2gカザミノ酸及び5ml
2,4−D;又は(3)Anderson'sロドデドロン塩基性塩混合物(表
Ⅲ),5ml2,4−Dに分割した。20μlの細胞を125−ml三
角フラスコに入れた45ml培地中に接種した。培地2及び3の細胞増殖
は,Gamborg'sB5培地にアンモニウムを補足した培地同様,無添加Gambor
g'sB5での増殖よりも2−3倍高かった。」(訳文4頁,下から4行∼5
頁5行)
(5)「実施例6
細胞培養によるタキソール生産は,高速液体クロマトグラフィー解析に
より測定した。懸濁液を細胞画分と上清画分にわけ,−20℃で凍結さ
せ,エーテル抽出した。・・上清におけるタキソールの濃度は1.0−
3.0mg/lであった。」(訳文6頁,1行∼10行)
(6)「実施例8
実施例3の懸濁培養の継代培養を実施例4のように行った。Gamborg's
B5中において真菌培養を行い,タキソール産生を誘導するために用いた。
植物細胞上清のHPLC解析でオートクレーブした菌糸体及びフィルター滅菌
した培養ろ液によりタキソール生産が誘導されたことが示された。Cytosp
oraabietis,ATCC#38688はタキソールを誘導する真菌である。タキソー
ルは,真菌材料を添加後26時間で誘導された。」(訳文6頁14∼19
行)
(7)「実施例12
タキソール生産のベストモード:ストックを寒天プレートに保存し,新
しい懸濁培養を開始するために定期的に供給した。実施例1の樹皮細胞又
は形成層細胞由来の懸濁細胞の継代培養物を実施例3のように生育させ
た。5mlの2,4−Dストック/リットルを含有する125ml三角フ
ラスコ中に45mlのGamborgsB5ごとに20μlの細胞を接種した。細
胞は,暗所で20−25℃で110−125rpmで振盪して生育させ
た,タキソールの迅速生産は,実施例8のように,フラスコ毎に破砕し
た,オートクレーブしたCytosporaabietis菌糸体を2ml加えることに
より達成された。」(訳文7頁1∼7行)
3乙2には,4種類のタクスス・シネンシス種細胞株(654S,GEN−0
04,GEN−006及びGEN−006K)を,本件訂正明細書の実施例9
に記載の方法のとおり培養して,タキソール生産量を測定した結果が記載され
ている。このうち生産培地として培地B,Cを用いた場合のタキソール生産量
をみると,654Sは,培地Bが0.1mg/L,培地Cが0.07mg/
L,GEN−004は,培地Bが0.3mg/L,培地Cが1.4mg/L,
GEN−006は,培地Bが0.4mg/L,培地Cが0.47mg/L,G
EN−006Kは,培地Bが0.13mg/L,培地Cが0.03mg/Lと
なっている。
4取消事由1(一致点の認定の誤り)について
原告は,刊行物1には,「生産栄養培地」についての記載,開示がないか
ら,「生産栄養培地」についての記載があることを前提とした審決の一致点の
認定には誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により採用することができない。
(1)本件訂正発明1の「生産栄養培地」の意義
本件訂正発明1の特許請求の範囲によると,「生産栄養培地」は,①タキ
ソール及びタキサンの生合成に有利なものであり,②生産物形成のために独
立して最適化され,③成長栄養培地とは異なると規定されている。
この点につき,原告は,本件訂正発明1の特許請求の範囲の解釈及び当業
者の理解に基づけば,「生産栄養培地」は,成長栄養培地の組成と比べて,
成長に必須の無機物質を減少させ,成長よりもタキソールやタキサンの生産
に適した組成とした栄養培地に限定されると主張する。
しかし,本件訂正発明1の特許請求の範囲の文言から,生産栄養培地が成
長の点において成長栄養培地と比べて劣るとはただちにいうことはできな
い。また,前記1で認定した本件訂正明細書の記載に照らすならば,「生産
栄養培地」は,培養細胞のタキソール及びタキサンの生合成に有利な栄養培
地を指称するものであり,成長の点において成長栄養培地と比べて劣ること
や,成長に必須の無機物質を減少させた培地にすることを必須の要素として
いないことは明らかである。
また,原告は,二段階培養の第一段階の「成長栄養培地」でもわずかなが
らの生産が生じ,第二段階の「生産栄養培地」でも生存のためにいくらかの
細胞の成長は持続するから,仮に,審決の認定を前提とすれば,すべての栄
養培地が,成長栄養培地にも生産栄養培地にも該当することになり,本件訂
正発明1が二段階培養を内容とする発明として記載されていることが無意味
となると主張する。
しかし,前記のとおり,「生産栄養培地」は,培養細胞のタキソール及び
タキサンの生合成に有利な栄養培地を指称するものであり,原告が主張する
ようなわずかながらの生産が生じている程度の培地は,生合成に有利な培地
ということはできず,「生産栄養培地」には当たらないというべきである。
以上のとおり,原告の上記各主張は失当である。
(2)刊行物1における「生産栄養培地」の記載,開示の有無
前記2で認定した刊行物1の記載によると,「Cytosporaabietis菌糸
体」が,タキソール及びそれに関連する化合物の産生を最適化する誘導剤で
あるといえる。したがって,刊行物1の実施例8において,Cytosporaabie
tis菌糸体が添加された培地,すなわち「真菌エリシターを含むGamborg'sB
5」は,「タキソール及びタキサンの生合成に有利な生産栄養培地」であ
り,かつ,「生産物形成のために独立して最適化された」ものと認められ
る。また,実施例4に記載された,細胞増殖を促進する物質が添加された(
1)∼(3)の培地が,実施例8における成長栄養培地であると認められる
ので,実施例8において,Gamborg'sB5は,これらの成長栄養培地と異なる
ものである。したがって,刊行物1の実施例8のGamborg'sB5は,本件訂正
発明1の「生産栄養培地」に該当するということができる。
(3)小括
そうすると,審決が,引用発明の実施例4における「培地1」及び「培地
2」並びに実施例8,12における「真菌エリシターを含むGamborg'sB5培
地」は「生産栄養培地」に相当することを前提として,本件訂正発明1と引
用発明の一致点を第2の3の(2)のとおりと認定した点に,原告主張の誤り
はない。したがって,原告主張に係る取消事由1は理由がない。
5取消事由2(容易想到性の判断の誤り)について
原告は,本件訂正発明1の実施例9において,生産栄養培地でのタキソール
の容積生産量が,引用発明に比べて顕著なことから,この作用効果は,タクス
ス属の中からタクスス・シネンシスを選択し,それを二段階培養することによ
ってはじめて得られたものであるから,本件訂正発明1は,引用発明から容易
に想到し得るとはいえないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由から採用することができない。
(1)前記1で認定した本件訂正明細書の実施例8によると,エリシター処理
した場合もしない場合も,いずれもタクスス・シネンシスを用いて,二段階
培養を行っているものと認められるにもかかわらず,容積生産量が少ないこ
とが認められる。原告は,実施例8は実施例9とは細胞接種量が異なると主
張するが,本件訂正発明1には細胞接種量の限定はないので,実施例8もま
た本件訂正発明1の実施例というに妨げず,原告の主張は採用の限りでな
い。
前記3で認定した乙2記載の実験結果によると,タクスス・シネンシス種
に属するものであっても,株によってタキソール生産量が異なる(培地Bで
4倍,培地Cで約47倍の開きがある。)ことが認められる(原告は,上記
実験結果の信用性については争っておらず,前記記載のとおりの実験である
と認める。)。
以上によると,本件訂正発明1のごとく,タクスス・シネンシスを選択し
てこれを二段階培養した場合に,実施例9の効果が得られる場合があるとは
いえても,上記構成によってその効果が直ちに得られるということはできな
い。しかも,本件訂正発明1においては,実施例9記載の接種量等が何ら特
定されているものではない。したがって,本件訂正発明1の構成を充足すれ
ば,必然的に実施例9記載の効果が得られるということはできないから,原
告の主張は採用できない。
(2)原告提出の実験結果等について
原告提出の実験結果等(甲33,36ないし39)を検討しても,下記の
とおり,本件訂正発明1の構成によって引用発明と比べて顕著な作用効果が
得られるとは認められない。
なお,被告は,甲36ないし38の提出は,時機に後れた攻撃方法として
許されないと主張する。しかし,上記証拠の提出は,訴訟の完結を遅延させ
る(民訴法157条1項)とまではいえないので,時機に後れた攻撃方法と
して却下するのは相当でない。
アRoach博士の宣誓供述書(甲33)について
甲33の表B(成長培地にメチルジャスモネートを加えたもの)による
と,パクリタキセル(タキソールのこと,以下同じ。)の生産量は,6∼
266.0mg/l,表C(成長培地にメチルジャスモネートを加えてい
ないもの)によると,21∼68mg/Lの生産量を示しており,他のタ
クスス属種の「candensis」,「cuspidata」,「baccata」,「globos
a」,「wallichiana」,「yunanesis」に比べて,おおむね生産量が多い
ことが認められる。
しかし,甲33記載の実験では,タクスス・ブレヴィフォリアについて
行われておらず,タクスス・シネンシスと同一の条件でいかなる生産量を
示すかは不明である。また,同じタクスス・シネンシスであっても,その
株の種類や成長期間,培地の組成によって,パクリタキセル(タキソー
ル)の生産量が,表Bの場合では約44倍,表Cの場合でも約3倍の違い
があることが認められる。そうすると,タキソールの生産量は,タクスス
属種植物の株の選択や,培地の組成に負うところが大きく,タクスス・シ
ネンシス種を選択し,成長栄養培地とは異なるタキソール生産に適した生
産栄養培地を用いるというだけでは,顕著な作用効果を奏するということ
はできない。
イスリニバサン博士の宣誓供述書1(甲36)について
甲36には,タクスス・シネンシスとタクスス・ブレヴィフォリアにつ
いて一段階培養した実験結果が記載され,この実験の目的は,典型的な成
長培地であり,刊行物1の表1及び表2にその組成が記載されているGamb
orgsB5を用いて一段階培養することとされる。しかし,前記4で認定し
たとおり,審決に一致点の認定の誤りはなく,引用発明は二段階培養に関
するものであるから,上記実験は刊行物1の実験の追試とはなっていな
い。また,タクスス・シネンシスを培養した場合もタクスス・ブレヴィフ
ォリアを培養した場合も,接種量が0.4g/L又は20g/Lと少ない
場合には培養期間を28日間としても容積生産量が検出不能とされ,その
容積生産量に差を見出すことができない。したがって,この実験結果は本
件訂正発明1の顕著な作用効果を裏付けるものではない。
ウ「タクスス・ブレヴィフォリア細胞の培養におけるタキソール及び関連
タキサンの生産:糖の効果」(甲37)について
甲37には,タクスス・ブレヴィフォリアを成長培地で培養してもタキ
ソールが検出されなかったこと,成長培地で培養し,次いで細胞を本件訂
正明細書記載の生産培地Bに移したが,生産されたタキソールの生産量は
最大1.43mg/Lであったことが実験結果で示されている。しかし,
この実験は同じ条件でタクスス・シネンシスを培養した場合にいかなる生
産量を示すか不明であるし,同じ属種であっても株の種類や培地の条件に
よってタキソールの生産量が大きく異なることは,前記アのとおりであ
り,上記の実験から,タクスス・ブレヴィフォリア全体について同様の結
果となると断ずることはできないので,本件訂正発明1が,引用発明に比
べて顕著な作用効果を奏する根拠としては,上記実験結果を採用すること
ができない。
エ「バイオリアクターにおけるタキソール生合成の反応速度論」(甲3
8)について
4324甲38には,MS培地と比較して,低い濃度のNHNOとKHPO
から構成され,6BA,酢酸ナトリウム,フェニルアラニンを補充した生
産栄養培地を用いて,25日間培養を行ったもので,タキソールの生産量
は,19.4∼27.5mg/Lであり,本件訂正明細書の実施例9の2
5日間培養で24.25mg/Lとされるのに匹敵する生産量である。し
かし,同一条件下で,タクスス・ブレヴィフォリアを培養した場合にいか
なる生産量を示すかは不明であるし,上記タキソールの生産量自体も本件
訂正発明1の顕著な作用効果とまではいえない。したがって,甲38の実
験結果をもってしても,本件訂正発明1が,引用発明に比べて顕著な作用
効果を奏する根拠ということはできない。
オスリニバサン博士の宣誓供述書2(甲39)について
甲39には,タクスス・ブレヴィフォリアに対し,本件実施例9と同様
の実験条件で二段階培養を行っても,タキソールの容積生産量の顕著な増
加はみられなかったとの記載がある。しかし,この実験ではタクスス・シ
ネンシスの場合との対比を行っていないことに加え,この実験結果は1種
類の株について1つの条件の下で行われており,上記の実験から,タクス
ス・ブレヴィフォリア全体について同様の結果となると断定することはで
きないので,本件訂正発明1が,引用発明に比べて顕著な作用効果を奏す
る根拠としては,上記実験結果を採用することができない。
(3)小括
審決が,本件訂正発明1は引用発明から容易に想到し得るとした判断に誤
りはない。
6結論
以上のとおり,本件訂正発明1についての審決の認定,判断に誤りがないか
ら,本件訂正発明1と従属する関係にある本件訂正発明2ないし27について
の審決の判断にも誤りがないことになる(原告は,本件訂正発明2ないし27
については,固有の取消事由を主張していない。)。
原告の主張する取消事由にはいずれも理由がない。原告は,その他縷々主張
するが,いずれも審決を取り消すべき誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官上田洋幸
裁判官三村量一は,差し支えのため署名押印することができない。
裁判長裁判官飯村敏明

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