弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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   主      文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
  事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中,被控訴人に関する部分を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,200万円及びこれに対する平成12年11月2
4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用中,第2審で生じたものと第1審において生じたものの2分の1を
被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要
  本件は,不動産競売手続により土地,建物を買い受けた控訴人が被控訴
人に対して,現況調査を担当した執行官が同土地上に原審共同被告A株式
会社を所有者とする所有権保存登記が存する件外建物のあることを看過し
た過失により,件外建物の所有者に対する建物収去等を求める訴訟を提起
する対抗措置を講じることを余儀なくされ損害を蒙ったとして,国家賠償法1
条に基づく損害賠償を求めた事案である。
1 争いのない事実等及び争点
 争いのない事実等及び争点は,次のとおり付加訂正するほか原判決の事
実及び理由欄の「第2の1及び2の(2),(3)」に摘示のとおりであるから,これ
を引用する。
(1) 原判決3頁2行目の「8月ころに」を「8月1日受付登記をもって同年4月
21日変更,増築を原因として,」と改める。
(2) 同頁22行目の「なされた」を「なされ,控訴人は同年4月18日,代金を
納付してその所有権を取得した」と改める。
2 当審における控訴人の補足的主張
 民事執行法57条4項が,執行官に対し市町村に資料の交付を請求する権
限を付与していること,民事執行規則29条が,件外建物の調査を執行官の
職務として明示していることからして,不動産競売手続において現況調査を
命じられた執行官が,当該土地上に件外建物あるいはその外観を呈するも
のが存在するかどうかを調査することは基本的事項である。また,同法57
条4項は未登記建物についての執行官の調査権限を拡大したものであり,
執行官が件外建物の登記の有無を調査することを当然の前提としており,
本件執行官が3度も法務局へ行き公図から競売対象建物の図面まで調査し
ているのであるから,本件物件の登記の有無を調査することに制約はなか
った。本件執行官が本件物件の登記を看過した過失は明らかというべきで
ある。
3 被控訴人の反論
(1) 民事執行法57条4項,民事執行規則29条は,執行官の件外建物の存
否,状況の調査義務及び調査手段,権限を定めたものであって,執行官
が具体的にどのような調査手段,方法を採るべきかについて定めたもの
ではない。
(2) 登記された建物の家屋番号は,数筆の土地にまたがって建物が存在す
る場合,登記実務では,「数筆の土地にまたがって一個の建物が存する
場合には,主たる建物(附属建物の存する場合)又は床面積の多い部分
(附属建物の存しない場合)の存する敷地の地番と同一の番号をもって,
主たる建物が二筆以上の土地にまたがる場合には,床面積の多い部分
の存する敷地の地番と同一の番号をもって定める(不動産登記事務取扱
手続準則138条3号本文)。」ことから,競売対象土地に建物がまたがっ
て存する場合,当該建物の床面積が多い土地,若しくは主たる建物が存
する土地が競売対象土地外にあると,競売対象土地の地番を家屋番号と
する建物登記存否の検索によっては,その存在を確認できない場合があ
り,さらに精密に調査するためには,建物登記簿の所在欄に競売対象土
地の地番が記載されているか否かの調査が必要となる。さらに,現況では
建物が滅失していても登記は抹消されず残っていることも相当数存するこ
とは公知の事実である。これらの事情を考慮し,執行官の現況調査が限
られた時間内に迅速かつ経済的制約の下で行われること等に照らすと,
執行官の具体的調査に際して採るべき手段・方法は,現場での現況把握
を中心に,各種資料を総合考慮した上での合理的な裁量に委ねられてい
ると考えるべきである。この点,本件物件は,その現況からは容易に建物
とは認め難いものであったことから,本件執行官が精密な登記調査まで
行わなかったとしても,裁量権の逸脱とは評価できない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件執行官に過失はなく,本訴請求は棄却すべきものと判断
するが,その理由は次のとおり付加訂正するほか原判決の事実及び理由欄
の「第3の2」に説示のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決10頁5行目の「と思われる」を「を改造した」と改め,6行目の「金
属製の引き戸が設置されている。」を「コンテナの貨物搬入口部分が金属
製の引き戸に替えられている。」と改める。
(2) 同頁8行目の「壁面の下部からは」の前に「コンテナ床部分を取り外し
た」を加える。
(3) 同11頁3行目の「工作物と思われる」を「設備である」と改める。
(4) 同頁23行目の「各事実に照らすと」を次のとおり改める。
 「とおり,原判決別紙物件目録4の建物は公衆浴場(スーパー銭湯)であ
り,その近くに付属設備である水槽,ボイラー及びポンプとともに本件物件
が存在し,しかも本件物件はコンテナを改造したもので,床面積は14・40
㎡にすぎず,コンテナの貨物搬入口部分を引き戸に替え,床部分を取り外
して,内部には地面から直接機械設備が設置してあったというのであるか
ら」
(5) 同12頁5行目冒頭から14行目末尾までを次のとおり改める。
 「 控訴人は,執行官が件外建物の登記の有無を調査することは基本的な
職務であり,その調査権限も与えられているところ,本件執行官が現況調
査の過程で前後3回法務局を訪れているにもかかわらず,本件物件の登
記を看過したのであるから,その過失は明らかである旨主張する。
  しかしながら,本件物件は原判決別紙物件目録1,3,6記載の土地及び
他の1筆の土地上にまたがって存在するものであるところ,登記実務で
は,建物の家屋番号について,『数筆の土地にまたがって一個の建物が
存する場合には,主たる建物(附属建物の存する場合)又は床面積の多
い部分(附属建物の存しない場合)の存する敷地の地番と同一の番号を
もって,・・(略)・・定めるものとする。』(不動産登記事務取扱手続準則13
8条3号本文)とされているから,競売対象土地に建物がまたがって存す
る場合,主たる建物又は床面積の多い部分の存する敷地が競売対象土
地外にあると,競売対象土地の地番を家屋番号とする建物登記存否の検
索によっては,その存在を確認できない場合もあり,さらに精密に調査す
るためには,建物登記簿の所在欄に競売対象土地の地番が記載されて
いるか否かの調査が必要となる。そうすると,第1回目の現況調査命令に
よる現況調査報告書提出前に,既に本件物件の登記がされていたとして
も,原判決別紙物件目録記載1ないし4の土地建物に対する現況調査に
おいて,『669番』を家屋番号とする本件物件の登記の存在を調査確認
することは困難であり,また原判決別紙物件目録記載1ないし6の土地建
物に対する第2回目の現況調査命令に基づく現況調査においては,前回
の現況調査命令から約2か月しか経過していないし,競売対象物件の現
況が前回と外見上変化しておらず,本件執行官が本件物件を建物ではな
いと判断したことに合理性を欠く点はないのであるから,原判決別紙物件
目録6記載の土地と同一の前記家屋番号をもって定められた本件物件の
登記の有無を調査確認しなかったとしても,これをもって本件執行官に本
件物件の登記を看過した過失を認めることはできないというべきである。
よって,控訴人の主張は採用することができない。」
2 以上の次第で,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴
は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
 名古屋高等裁判所民事第4部
裁判長裁判官    小   川   克   介
          裁判官    黒   岩   巳   敏
裁判官  永   野   圧   彦

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