弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 控訴人
 主文同旨
2 被控訴人
 本件控訴を棄却する。
第2 事案の概要
1 本件は,平成9年9月9日に死亡したaに係る相続税に関し,平成11年7月
9日,子である被控訴人及びbが,アメリカ在住のbがaから送金を受けた金員を
相続税の課税価格に算入して申告したのは誤りであった旨更正の請求をしたとこ
ろ,控訴人が平成11年8月27日,更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下
「本件通知処分」という。)をしたため,被控訴人においてこれの取消しを求める
事案である。
2 前提事実(争いがない事実以外は各項末尾掲記の証拠により認定した。)
(1) 被控訴人(昭和23年1月28日生)及びb(昭和29年9月25日生)
はa(大正6年1月13日生)の子である。
(2) aは,平成8年12月3日,遺言公正証書(乙1,以下「当初遺言」とい
う。)を作成した。その内容の概略は,aが所有する不動産,預金,有価証券の全
部を被控訴人に,現金及び上記不動産,預金,有価証券以外の財産を被控訴人とb
(同公正証書には「c」と表記)に各2分の1ずつ相続させ,その結果bの相続す
る財産が相続財産全体の4分の1を下回る場合には,その不足額を被控訴人が支払
うことというものであり,当該遺言執行者として本件被控訴人訴訟代理人が指定さ
れた。
(3) aはbに対し,平成9年2月4日,北海道拓殖銀行国分寺支店(現在は中
央三井信託銀行国分寺支店,以下「北海道拓殖銀行」という。)から1000万円
をアメリカ合衆国の「WACHOVIA BANK OF GEORGIA EA
ST MARIETTA BRANCH(以下「ワコービア銀行」という。)」の
b名義の預金口座に電信送金した
(4) aはbに対し,平成9年2月5日,第一勧業銀行国分寺支店(現在はみず
ほ銀行国分寺支店,以下「第一勧業銀行」という。)から,送金日を同月7日とし
て,1017万5275円をワコービア銀行のb名義の預金口座に電信送金した
(前項の送金とを併せて,以下「本件各送金」という。)。
(5) bは,昭和61年3月19日アメリカ合衆国の国籍を取得したため日本国
籍を喪失した。bは,昭和61年以前から現在に至るまで日本国内に住所を有した
ことはなく,aから本件各送金を受けた当時アメリカ合衆国ジョージア州に居住し
ていた。
(6) aは,平成8年1月から平成9年9月9日までの間に,次のとおり北海道
拓殖銀行(アないしキ,ケ)及び第一勧業銀行(ク)からワコービア銀行のb名義
の預金口座に電信送金した(ただし,ウについては被控訴人名義で送金)。(乙2
の①ないし⑧,3)
ア 平成8年 5月30日 宿泊料として54万6250円
イ 平成8年 6月27日 旅行費として55万2250円
ウ 平成8年 7月17日 仕送りとして11万0350円
エ 平成8年10月23日 生活費として11万3400円
オ 平成8年11月19日 仕送りとして11万2450円
カ 平成8年12月24日 仕送りとして11万5350円
キ 平成9年 1月21日 仕送りとして11万9150円
ク 平成9年 2月18日 仕送りとして75万3000円
ケ 平成9年 8月15日 仕送りとして71万2200円
(7) aは,平成9年2月5日に遺言(一部取消・変更)公正証書(以下「変更
遺言」という。乙4)を作成した。
 変更遺言には,「第参条(付記) この遺言の変更は,すでに長女cには生計の
資本として,相当額の生前贈与をなしたこと,その他諸般の事情を考慮してなすも
のであるから,cもこの内容に異議をとなえることなく,この遺言に従うことを強
く希望する。」と記載されていた。
(8) aは,平成9年9月9日死亡した。同人の相続人はその子である被控訴人
及びbであった。
(9) 被控訴人及びbは,平成10年7月7日共同で控訴人に対し相続税の申告
書を提出した(以下「本件申告」という。)。同人らは,本件申告において,本件
各送金に係る金員を被相続人からの贈与により取得したとして相続税法19条の規
定により相続税の課税価格に加算して申告した。
(10) 被控訴人及びbは,平成11年7月9日控訴人に対し,本件各送金に係
る金員を相続税の課税価格に加算して申告したことは誤りであったとして更正の請
求をしたが,控訴人は平成11年8月27日,更正すべき理由がない旨の通知処分
をした。
(11) 被控訴人及びbは平成11年10月27日,控訴人に対して異議申立て
をしたが,控訴人は,平成12年3月2日,被控訴人に対しては異議申立てを棄却
し,bに対しては納税管理人の代理権の証明がないとして異議申立てを却下した。
(12) 被控訴人は,平成12年3月31日東京国税不服審判所長に対し審査請
求をしたが,東京国税不服審判所長は,平成13年5月29日審査請求を棄却する
旨の裁決をした。
3 争点
 相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続開始前3年以内に当該相続に係
る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合,その者が日本に住所を
有しないときは,日本国内にある財産を取得した場合にのみ当該贈与により取得し
た財産の価額を相続税の課税価格に加算することができるとされていることから,
本件でbが日本国内にある財産を取得したといえるかどうかが争点である。
(1) 控訴人の主張
ア 相続税法19条1項は,相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開
始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある
場合においては,その者については,当該贈与により取得した財産(21条の2第
1項から第3項まで,21条の3及び21条の4の規定により当該取得の日の属す
る年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの(特定贈与財産を除く。)
に限る。)の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし
て算出した金額をもって,その納付すべき相続税額とする旨規定している。相続税
法21条の2第1項は,「贈与に因り財産を取得した者がその年中における贈与に
因る財産の取得について第1条の2第1号の規定に該当する者である場合において
は,その者については,その年中において贈与に因り取得した財産の価額の合計額
をもって,贈与税の課税価格とする。」と規定し,同条2項は,「贈与に因り財産
を取得した者がその年中における贈与に因る財産の取得について第1条の2第2号
の規定に該当する者である場合においては,その者については,その年中において
贈与に因り取得した財産でこの法律の施行地内にあるものの価額の合計額をもっ
て,贈与税の課税価格とする。」と規定しているところ,「相続税法1条の2第1
号の規定に該当する者」とは,贈与により財産を取得した個人で当該財産を取得し
た時において国内に住所を有する者であり,「相続税法1条の2第2号の規定に該
当する者」とは,贈与により国内にある財産を取得した個人で当該財産を取得した
時において国内に住所を有しない者(以下「制限納税義務者」という。)とされて
いる。相続税法10条は,財産の所在について,動産若しくは不動産又は不動産の
上に存する権利についてはその所在により判定し(同条1項1号),その財産の所
在の判定は当該財産を相続,遺贈又は贈与に因り取得した時の現況によると規定し
ている(同条4項)。
イ bの取得した財産は,aが日本国内に有していた現金であり,贈与契約成立時
において日本国内に所在した財産として相続税の課税価格に加算すべきものであ
る。すなわち,本件各送金に係る金員(以下「本件金員」という。)は平成9年2
月4日及び同月5日にbに対する海外電信送金の依頼がされた。そして,前記変更
遺言(乙4)は同月5日の作成に係るもので「この遺言の変更は,すでに長女cに
は生計の資本として,相当額の生前贈与をなした」との記載があり,当初遺言が作
成された平成9年2月5日に至るまでの間に本件金員以外に亡aからbに対して
「相当額の生前贈与」がされた形跡が特段見受けられないことからすると,変更遺
言にいう「相当額の生前贈与」とは本件金員を指すものというべきである。
 そうすると,aとbとの間における本件金員の贈与契約は現金の贈与契約であ
り,変更遺言がされた平成9年2月5日以前に成立していたものであって,亡aは
上記贈与契約に基づいて同人が日本国内で所持していた邦貨を外貨と交換し,北海
道拓殖銀行又は第一勧業銀行から外国為替による電信送金によってbに送金したも
のと認められる。
 ところで,相続税法上財産の所在の判定は,贈与により取得した時の現況による
とされているところ,「贈与により取得した時」とは民法の贈与契約の規定により
贈与契約成立の時と解すべきところ,本件贈与契約成立の時は平成9年2月5日以
前と思料され,その当時の本件金員の現況は日本国内にある現金である。
ウ したがって,bが贈与により取得した財産は日本国内に所在する財産であり,
相続税法の施行地に所在する財産ということになる。bが取得したのは預金払戻請
求権ではなく本件金員であり,これを贈与により取得した時は贈与契約成立の時
で,電信送金はその履行の問題にすぎないのであるから,電信送金の法的性質いか
んによって「財産を取得した時」の解釈が変わるものではない。書面によらない贈
与であっても贈与契約である以上財産を取得するのはあくまでも契約時であって,
その後履行が終了すればもはや取消しができなくなるというにすぎない。書面によ
らない贈与の課税時期については,通達(相続税基本通達1・1の2共ー7)で
は,その履行の時とされているが,これは納税者の担税力を考慮して履行が完了し
た時を課税時期として取り扱っているもので,財産の所在の判定にまで用いられる
べきものではない。
(2) 被控訴人の主張
ア 本件各送金は,外国為替による電信送金の方法によるものであるところ,電信
送金においては,送金依頼人と電信送金契約を締結した送金取組銀行(仕向銀行)
は支払銀行に対して指図を行うが,支払銀行はこれに応じて直ちに受取人に支払を
するものではなく,当該指図が真正であること,支払資金の決済が確実であること
等を確認し,受取人に支払う場合又は支払銀行における受取人の預金口座に入金す
る場合のいずれにおいても,支払の停止などがないか,支払を請求した受取人は正
当な受取人であるかなどを確認した後に支払に応じ又は口座への入金手続を行う。
したがって,受取人が電信送金に係る金員を取得するのは,支払銀行における受取
人の預金口座に入金する場合は当該入金手続の完了時であり,そうでない場合は受
取人が支払銀行に支払を請求し実際に支払がされた時である。そして,電信送金は
送金された金員が受取人に支払われ,又は支払銀行の受取人名義の預金口座に入金
されるまでは,送金人は仕向銀行を通じて支払銀行に対し支払を停止するよう指示
できるとされていることからすると,贈与の履行が電信送金によりされた場合の履
行の終了は,支払銀行が受取人の預金口座に金員を入金したとき又は支払銀行から
受取人に金員が支払われたときである。以上からすると,bが本件各送金により取
得した財産は支払銀行に対する預金払戻請求権であり本邦に所在する財産ではない
から,相続税の課税価格に加算されるべきではない。
 控訴人は,bは贈与契約成立時に本邦に所在する現金を取得した旨主張する。し
かし,aとbとの間に,本件各送金とは別に贈与契約が締結されたことはなく,本
件における贈与はいわゆる現実贈与であり,aがその意思により一方的にbに送金
したものである。したがって,本件各送金が現実に行われる前に本邦に所在するa
所有の現金を取得したとみる余地はない。また,仮に本件各送金前にaとbとの間
で贈与契約がされていたとしても,金銭の所有権は原則として占有の移転に従って
移転するものであり,現実の占有を有しないbが本邦に所在する現金を取得するこ
とはできないし,aも北海道拓殖銀行又は第一勧業銀行に対して預金払戻請求権を
有していたにすぎず,当該預金に相当する現金を所有していたわけではない。した
がって,控訴人の主張は失当である。
第3 証拠関係
 証拠関係は,本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから,これを引用す
る。
第4 当裁判所の判断
1 前提事実(5)記載のとおり,bはaから本件各送金を受けた平成9年2月当
時アメリカ合衆国ジョージア州に居住し,相続税法の施行地である本邦に住所を有
していなかった。したがって,aからの贈与によって得た財産が,取得した時点に
おいて本邦に所在するものであった場合に限り,bは相続税法1条の2に定める納
税義務を負う。
2 控訴人は,bがaからの贈与によって取得した財産はaが本邦において所有し
ていた現金である旨主張している。ところで,一定の金額を表示してされる金銭の
贈与は,贈与者の所持する現金について所有権を観念しその所有権を受贈者に移転
するというものではなく,その特定の金額に相当する経済的価値を金銭をもって受
贈者に取得させることをその本体とするものである。そして,贈与は契約であるか
ら意思表示により成立し,贈与者の上記内容の意思表示とこれに対する受贈者の受
諾の意思表示がされて意思表示の合致をみればここに贈与契約は成立し,受贈者は
贈与者に対しその契約に基づき特定の金額に相当する経済的価値を金銭によって取
得し得べき請求権を取得することになる。金銭の贈与の多くの場合,契約の成立と
ともに現金が交付されて履行が完了し請求権の残る余地はないが,隔地者間の場
合,金額が高額の場合等,請求権が発生しているが履行は終わっていないという場
合もある。本件では,bは本邦に居住していなかったため現金が直接同人に交付さ
れることはなく,外国為替による海外電信送金がされたのである。したがって,同
人が贈与により本邦に所在する財産を取得したといえるのは,本件各送金の前すな
わちこれに先だってaとbとの間で本件各送金の額に相当する金銭に関し贈与契約
が成立した場合,換言すれば本件各送金手続が執られたのはその履行のためである
と認められる場合でなければならない。
3 そこで,本件各送金に先だってaとbとの間で本件各送金の原資に当たる邦貨
による金額に相当する金銭につき贈与契約が成立し,その履行のために本件各送金
手続が執られたのかどうかについて検討する。
 aとbとの間において本件各送金に先だって贈与契約が成立していたか否かの立
証責任についてみると,更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分
の取消訴訟にあっては,申告により確定した税額等を納税者に有利に変更すること
を求めるのであるから,納税者において,確定した申告書の記載が真実と異なるこ
とにつき立証責任を負うものと解するのが相当である。被控訴人は,aとbとの間
に特段の贈与契約が締結された事実はなくaが一方的にbに本件各送金をしたにす
ぎない旨主張するに止まり,本件各送金についてのaの意思,送金を受けたbの意
思その他贈与の成立時期等(仮に本件各送金がaからの一方的な送金であったとし
ても,bが受領を拒否したとの事実が窺われない本件においては贈与契約が存在す
ること自体は否定できない。)について何ら具体的な立証をしていない(bを証人
として申請する考えはないかとの裁判所からの問いに対して被控訴人は申請しない
と答えている(当審第1回弁論)。)。
 そして本件証拠に照らしても上記主張の点が立証されているとはいえず,かえっ
て事前に贈与契約が成立したとみるべき事実関係が認められる。すなわち,bがア
メリカ合衆国で生活しているとはいえ,親子の間であればこそ連絡を取るのは簡単
で,電話でひとこと送金の趣旨と金額を伝えれば足りること,本件各送金は100
0万円及び1017万5275円と高額であり,相続に関連する重要な問題である
から事前に何の説明もなしにいきなり送金されるということは考えにくいこと,平
成9年2月5日作成の変更遺言(乙4)には「この遺言の変更は,すでに長女cに
は生計の資本として,相当額の生前贈与をなした」との記載があり,変更遺言が作
成された平成9年2月5日に至るまでの間に本件各送金に係る金員以外にaからb
に対して「相当額の生前贈与」がされた形跡が特段見受けられず(送金状況は前提
事実(6)記載のとおりであり,宿泊料,旅行費,生活費,仕送りであり,これら
も贈与とみる余地はあるとしても,遺言を変更する契機となるほど高額なものでは
なく「相当額の生前贈与」というには当たらない。),変更遺言にいう「相当額の
生前贈与」とは本件各送金に係る金員の贈与を指すものとみることができること等
からすると,本件各送金に先だってaからbに対し電話その他の方法により本件各
送金をすることを連絡するとともに贈与であることの説明をしたとみるのが自然で
あり,一方,bにおいて異存のあろうはずもなく謝意を表したことも十分あり得る
ところである。したがって,両者間に各送金額の金銭について贈与契約が成立した
と考えるのが合理的である。
 なお,この辺りの事情についてはbを尋問すれば直ちに明らかになると考えられ
るのであるが,被控訴人は前記のとおり同人の証人申請をしようとせず,陳述書も
提出しない。
4 そうすると,本件各送金に先だってaとbとの間で,本件各送金の原資に当た
る邦貨による金額に相当する金銭につき贈与契約が成立し,その履行のために本件
各送金手続が執られたとみることができ,bは贈与契約締結時にaが日本国内に有
していた金銭の贈与を受けたものということができる。
 もっとも,この贈与は書面によるものではないから,贈与者は履行が終わるまで
は贈与を取り消すことができその間受贈者の権利は不確定であるとの見地から,履
行が終わった時に受贈者の権利は確定し,その時点をもって課税すべきであるとの
立場もあり得る。租税実務上書面によらない贈与についてはその課税時期を履行の
時としている。
 しかし,本件のようにアメリカ合衆国に在住する者に金銭の贈与を約束しその履
行として電信送金の手続をとった場合は,受贈者の預金口座に入金されるのはいわ
ば時間の問題で,送金された金銭は贈与者の手を離れ事実上その支配下にない状態
になったということができる。法的,観念的にはなお贈与を取り消す余地はあり,
電信送金手続上送金依頼人が支払停止の指示をすることも可能であるが,電信送金
をする者の通常の意思としてはその手続を了した時に贈与に係る金銭は自己の支配
下を離れ受贈者がこれを受け取るのを待つ(何らかの事故で送金されないというよ
うな事態にならないことを願う。)というものであると考えられる。そうすると,
上記のような立場に立っても,受贈者の預金口座に入金された時あるいは受贈者が
支払銀行に支払を請求し実際に支払がされた時まで待たずとも,贈与者が送金の手
続を了した時に受贈者の贈与を受ける権利(贈与契約に基づく請求権)は確定的に
なったものということができる。履行という概念は権利の確定との関連で相対的に
とらえるべきものであって,金銭の贈与の場合に受贈者の権利が確定したというた
めには,完全な履行があったこと,すなわち受贈者が当該金銭を現実に入手したこ
とまで要するものではないというべきである。このように解することは前記租税実
務に反するものではないと考えられる(なおこの実務は納税者の経済的負担(実際
上の担税力)を考慮した扱いであるということもできる。)。
 被控訴人は電信送金の法的性質に基づいて贈与の時期を争うが,電信送金の法的
性質いかんによって「財産を取得した時」の解釈が変わるものではない。すなわ
ち,被控訴人はbが取得するのは支払銀行に対する預金払戻請求権であると主張す
るが,これは贈与契約の履行過程における別個の法律関係から生ずるものであっ
て,贈与契約によりbがどのような権利をいつ取得したかという見地からすれば上
記のような被控訴人の立論を是認するのは困難である。
 以上のとおりであるから,本件贈与によってbが取得した財産については,相続
税法10条が相続,遺贈又は贈与に因り取得した時の現況によると規定している財
産取得時とは,契約締結時をいうものと解すべきであり,仮にそうでなくても日本
国内の前記各銀行において電信送金による送金手続を了した時ということができ
る。そうすると,いずれにしてもbは本邦に所在した財産を取得したというべきで
ある。
 以上によれば,被控訴人の更正請求については更正をすべき理由がなく,本件各
送金に係る金員を相続税の課税価格に加算して被控訴人の相続税額を算出すると,
被控訴人が納付すべき相続税額は2億6245万5800円となり,これは本件申
告に係る被控訴人の納付すべき相続税額と同額であるから,本件申告に係る更正の
請求に対して控訴人がした本件通知処分は適法である。
第5 結論
 よって,本件通知処分の取消しを認めた原判決は相当でないからこれを取り消し
て被控訴人の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7
条,民事訴訟法67条2項,61条を適用して,主文のとおり判決する。
(平成14年7月24日口頭弁論終結)
東京高等裁判所第17民事部
裁判長裁判官 新村正人
裁判官 田川直之
裁判官 志田博文

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