弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対し、平成五年六月一〇日付けでした原判決別紙物件目録
記載の建物(以下「本件建物」という。)についての不動産取得税の賦課処分を取
り消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決を求めた。
二 被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
第二 事案の概要
一 本件は、控訴人が、被控訴人の控訴人に対する、本件建物についての不動産取
得税の、平成五年六月一〇日付け賦課処分が違法であると主張して、その取消しを
求めた事案である。原審は、控訴人の本訴請求を棄却した。
二 本件の争いがない事実等、争点及びこれについての当事者双方の主張は、次の
とおり付加するほか、原判決の事実及び理由欄の第二の一、二に記載のとおりであ
るからこれを引用する。
(控訴人の主張)
1 本件建物の所有権取得者について
原審は、本件建物の所有権は、本件建物完成時に控訴人に帰属した旨認定した。し
かしながら、近時の有力学説は、建物建築の請負契約において、請負人が材料の全
部又は主要部分を提供する場合であっても、完成した建物の所有権は注文主が原始
的に取得するものと解すべきであるとしている。また、法務局の不動産登記手続の
実務においても、新築建物の取得に関しては、原則的に建物の完成時に注文主が建
物の所有権を取得するものとするとの取扱いをするようになってきており、請負人
が材料の全部又は主要部分を提供する場合においては、その請負代金の二分の一を
超える金額の支払を了した場合には、当然に注文主が完成した建物の所有権を取得
するが、支払金額が請負代金の二分の一を超えない場合には、注文主と請負人の間
の話し合いが整うまで建物の表示登記の申請を事実上凍結するという取扱いがなさ
れているのが現状である。
したがって、本件建物についても、平成四年四月一〇日ころ、建物竣工検査を了し
た時点で、注文主の株式会社名古屋巧匠(以下「名古屋巧匠」という。)が原始取
得によりその所有権を取得したものというべきであり、控訴人が本件建物の所有権
を取得したとする原審認定は、請負契約に関する民法六三二条、六三三条の解釈適
用を誤り、事実誤認をしたものである。
2 不動産取得税法上の不動産取得事実の不存在について
控訴人には不動産取得税法上の不動産取得事実がないのに、原審は、これがあった
としており、誤りである。
すなわち、原審は、地方税法七三条の二第一項にいう不動産取得税法上の不動産取
得とは、流通税賦課を前提とする所有権取得であって、民法上の不動産の所有権取
得とは完全には一致しないものであることを看過した判断である。
地方税法七三条の三ないし七には、民法上は不動産の所有権取得があったが、地方
税法七三条の二第一項本文の不動産取得には該当しないとする場合を例示・列挙し
ている。
本件建物を建築し、請負工事代金の支払を担保するために建物の占有管理を自分の
手許において、施主と請負工事代金支払に関する交渉を続けていたという一事だけ
では、未だ不動産取得課税上における不動産取得には該当しないというべきであ
る。
3 二重課税の違法について
被控訴人は、本件建物の新築に関して、平成五年六月一〇日に控訴人に対し本件建
物の所有権取得があったとして不動産取得税四六二万二四〇〇円を賦課し、そのわ
ずか一か月後の同年七月九日に名古屋巧匠に対し本件建物の所有権取得があったと
して不動産取得税四五五万七一〇〇円を賦課した。
しかしながら、この時期における本件建物の不動産取得は、社会的・経済的・法律
的に見て、控訴人が建築し、名古屋巧匠においてその所有権を取得したという一個
の事実しか存在していない。控訴人は、平成四年四月一〇日から同五年二月一八日
までの間、本件建物につき請負代金債務支払と同時履行の抗弁権を行使して、その
引渡を拒んだ状況の下に、名古屋巧匠との間で工事請負代金支払に関する話し合い
を継続したのは事実であるが、この場面における控訴人の本件建物に関する占有
は、名古屋巧匠のために善良な管理者の注意をもって行う占有管理であって、自ら
所有権の取得を主張するための自主占有ではない。
ところが、被控訴人は控訴人に所有権取得があったとしたが、これは誤解である。
4 租税公平主義違反について
控訴人が、請負代金債権の支払を受けるために同時履行の抗弁権を行使したことに
よって、一般の場合には不要とされている不動産取得税負担の不利益を甘受しなけ
ればならないこととなるのは、不合理・不平等な扱いであって、租税公平主義の原
則と憲法一四条に定める法の下の平等原則に違反するものである。
また、地方税法七三条の七においては、信託財産の所有権移転(第三号、第四号、
第五号)の場合は期間の制限なく、譲渡担保(第八号)の場合は設定の時から二年
間に限って、不動産取得税を賦課しないとしている。本件における場合と比較する
と、債権担保の場合緊急性・必要性が信託契約や譲渡担保の場合よりも格段に高い
のに、請負工事業者には不動産取得税を賦課し、信託契約の当事者、譲渡担保の当
事者には不動産取得税を賦課しないとの取扱いをすることは、不平等・不合理な扱
いであって、憲法一四条の法の下の平等原則をうけた租税公平主義に違反するもの
である。
したがって、右の限度において、地方税法七三条の二第二項ただし書きは無効であ
る。
(被控訴人の主張)
控訴人の右主張はいずれも争う。
第三 証拠関係(省略)
第四 当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきものであると判断するが、
その理由は、次のとおり控訴人の当審主張に対する判断を付加するほか、原判決の
事実及び理由欄の第四に記載のとおりであるからこれを引用する。
一 控訴人は、原審が、本件建物の所有権が本件建物完成時に控訴人に帰属した旨
認定したのが誤認である旨主張する。しかしながら、右の点に関する原審の認定判
断は原審挙示の証拠関係に照らして相当であって、誤りは認められない。控訴人の
主張は、独自の見解であって採用することはできない。
二 控訴人は、控訴人には未だ不動産取得税法上の不動産取得の事実がない旨主張
するが、控訴人が請負契約に基づいて本件建物を建築したことによって原始的に本
件建物の所有権を取得し、新築の日から六月を経過した日において控訴人が本件建
物の所有者であったとする原審の認定判断は、その挙示の証拠関係に照らして相当
であって、この事実が認められる以上、不動産取得税法上の不動産取得の事実がな
いとはいえないのであるから、控訴人の右主張は採用できない。
三 控訴人は、控訴人に対する賦課処分と名古屋巧匠に対する賦課処分は、本件建
物の不動産取得が、社会的・経済的・法律的に見て、控訴人がこれを建築し、名古
屋巧匠においてその所有権を取得したという一個の事実しか存在していないから、
二重課税の違法がある旨主張するが、原審の認定した事実関係においては、控訴人
の本件建物の原始取得と、控訴人から承継取得した名古屋巧匠の本件建物の所有権
の取得が社会的・経済的・法律的に見て一個の事実であるとすることはできないか
ら、控訴人の右主張は採用できない。
四 控訴人は、控訴人が請負代金の支払確保のため同時履行の抗弁権を行使したこ
とによって、一般の場合には不要とされる不動産取得税負担の不利益を甘受しなけ
ればならないこととなるのは、不合理・不平等な取扱いであって、租税公平主義の
原則と憲法一四条に定める法の下の平等原則に違反するものである旨主張するが、
請負代金の支払確保のために同時履行の抗弁権を行使するかどうか、また、いつま
で行使するかは、請負人において自由に決定し得ることがらであり、また、注文主
に債務不履行があった場合の処理については予め請負契約において合意しておくこ
とができる(例えば、建築建物等に対する抵当権の設定等)ものであることに照ら
せば、控訴人に対して不合理・不平等な取扱いをするものではなく、租税公平主義
の原則や憲法一四条に定める法の下における平等原則に反するものとはいえないの
であるから、控訴人の右主張も採用できない。
第五 結論
よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却し、訴訟費用の負
担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判
決する。
(裁判官 渡辺剛男 菅 英昇 筏津順子)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛