弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 本件抗告申立の理由は、原決定は事実に誤認があり、延いて法律の適用を誤つた
ものである。即ち、原決定は抗告人は人定質問のため被告人Aが証言台に立つや、
右壇上に至る階段を駈け上らんとして裁判長から「写真は駄目です」と制止された
のにこれに従わず、壇上に上り被告人に向つて写真機を構え同人の写真一枚を撮影
したものであると認定しているが、抗告人は壇上に至る階段を駈け上つたのではな
く、足音を殺して静かに上つたものであり、またフラツシユの閃光により瞬間的に
「写真は駄目だ」と制止されたが既に撮影を終つていたのであつて、制止後に撮影
したのではない。
 被告人は原裁判所のB書記官を通じ「審理の始まる前にとるように」といわれて
いたので、その指示通り人定質問の始まる直前に撮影したものであるから、右の行
為は「裁判所が執つた措置に従わ」なかつたものということはできないし、また使
用したフラツシユは閃光電球であつて、その光線音響はなんら裁判に支障を与えて
おらず、況や抗告人は暴言喧そう、その他不穏当な言動等によつて裁判所の威信を
著しく害したのでもない。そもそも法廷等の秩序維持に関する法律制定の趣旨たる
や、法廷の秩序を紊乱する行為を防止せんとするのにあるのであつて、社会の公器
たる新聞の報道の自由まで制限せんとするものではない。もし原裁判所の執つたご
とき措置が許されんか、ついには新聞の報道の自由は著しく害される虞があり、原
決定は違法である、というのである。
 よつて按ずるに、原決定に対しては法廷等の秩序維持に関する法律第五条第一項
に定められているとおりその裁判が法令に違反することを理由としてのみ抗告を申
立てることができるのであるから、事実の誤認は適法なる抗告の理由とすることは
できない。
 よつて抗告人の所論中原決定が事実の認定を誤つているとの主張は判断の限りで
はない。
 <要旨第一>原決定の認定した事実は、抗告人はCD支社報道部写真班員であり、
原決定の判示日時頃原裁判所において開廷された被告人Aに対する強盗
殺人事件の取材のため法廷内の新聞記者席に居合せたものであるが、同事件の公判
開廷に先ち原裁判所書記官Bを通じ同日の公判に関する公判廷における写真は審理
の都合上裁判官が入廷し公判が開始された以後は許さないから公判開始前に撮影さ
れたいとの写真撮影制限に関する措置を告知され、十分これを了解していたのに拘
らず、裁判官が入廷し、右被告事件の公判が開始せられ人定質問のため被告人が証
言台に立つや勝手に記者席を離れて法廷内の一段高い裁判官席の設けられてある壇
上に上るべく写真機を携帯して傍聴席から向つて右側の右壇上に至る階段を駈け上
らんとし、裁判長から、「写真は駄目です」と制止されたのにこれに従わずそのま
ま右壇上に上り同所において被告人に向つて写真機を構え同人の写真一枚を撮影し
たものであるというのであつて、抗告人の所為は原裁判所が法廷内における秩序維
持のため執つた措置に従わなかつたことに外ならず、法廷等の秩序維持に関する法
律第二条に該当し、同条所定の制裁を免れない。
 <要旨第二>抗告人は、原裁判所の措置は新聞紙の報道の自由を制限する違法のも
のであると主張する。いわゆる報道の自由とは憲法第二十一条に規定さ
れている表現の自田の一種に外ならないが、本件における写真の撮影は取材行為と
いうべく、報道のための準備的行為であつて、報道行為そのものではない。また写
真を撮影しなければ裁判の報道ができないわけではないから写真の撮影を制限或は
禁止することは憲法の規定に違反するものとはいえない。そうして刑事訴訟規則第
二百十五条には公判廷における写真の撮影は裁判所の許可を得なければこれをする
ことができない旨の規定があるのであるから、原裁判所の執つた措置はなんら違法
のものではなく、論旨は理由がない。
 よつて本件抗告を棄却すべきものとし、法廷等の秩序維持に関する規則第十八条
第一項に則り主文のとおり決定する。
 (裁判長判事 熊谷直之助 判事 成智青朗 判事 笠井寅雄)

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