弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の本件請求を棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士林原吉春の上告理由第三点について。
 自作農創設特別措置法による政府の農地買収については、単に不動産登記簿上の
所有者を相手方として買収処分を行うべきではなく、真実の農地の所有者から買収
すべきものではあるが、個々の農地につき一々真実の所有者を探究することは必ず
しも容易でなく、登記簿の記載は一応真実に合致するものとの推定の下に登記簿の
記載に従つて買収計画を樹立し、これに基いて買収処分を行うことは是認さるべき
であり、真実の所有者が右買収計画に対し、同法所定の異議を述べたときは、その
計画実施者である農地委員会が該事実を審査し、その真実の所有者の所在に従つて
買収計画を是正すべきである。そして、右買収計画が異議、訴願等なくして確定し、
買収令書の交付による買収処分が行われ、これに対して出訴期間内に訴訟の提起が
なかつた場合には、それが登記簿上の所有名義人に対してなされたとの一事を以て
当然に無効であると解し得ないことは当裁判所屡次の判例の示すところである(昭
和二四年(オ)第一七七号同二五年九月一九日第三小法廷判決、昭和二五年(オ)
第二八〇号同二九年一月二二日第二小法廷判決、昭和三一年(オ)第八四五号同三
二年七月一八日第一小法廷判決、昭和二七年(オ)第一一三二号同三二年九月一九
日第一小法廷判決、昭和二八年(オ)第三〇七号同三二年一二月一二日第一小法廷
判決、各参照)。しかるに本件において原判決の確定した事実は判示農地委員会は
登記簿上Dの所有名義になつている本件農地につき、同人が右農地の所在するa村
に居住せず、隣村b村に居住していたので、不在地主の小作地として買収計画を樹
立し、上告人はこれに基いて昭和二二年七月二日附買収令書をDに交付して、これ
が買収処分をなしたものなるところ、これよりさき、昭和一六年五月五日Dと被上
告人間には本件農地と判示土地との交換契約が成立し、本件農地の所有権は被上告
人に移転しており、ただその移転登記手続を経由していなかつたというのであり、
右買収計画及び買収処分に対しては異議、訴願、出訴等所定の不服申立の方法が採
られたことは被上告人においてこれを主張しないところである。さすれば、前記当
裁判所の判例に照し前示買収処分はこれを当然無効とすることはできないのであつ
て、所論は結局理由あるに帰し、右に反する判断をした原判決は爾余の論旨に対す
る審究をまつまでもなく失当と言わざるを得ない。
 よつて、民訴四〇八条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとお
り判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎

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