弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1参加人が,土地区画整理法78条3項において準用する
同法73条3項に基づき,原告,選定者A,同B及び同有
限会社Cを相手方として損失の補償につき行った土地収用
法94条2項の規定による裁決の申請について,処分行政
庁が平成18年10月24日付けでした裁決を取り消す。
2訴訟費用は差戻し前の第1審,差戻し前の控訴審,上告
審及び差戻し後の第1審を通じて,すべて被告の負担とし,
参加に要した費用は参加人の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
事案の骨子
本件は,原告が,東広島市都市計画事業西条駅前土地区画整理事
業(以下「本件事業」という。)に関し,同事業の施行者である参
加人が土地区画整理法78条3項において準用する同法73条3項
に基づき原告,選定者A(以下「選定者A」という。),同B(以
下「選定者B」という。)及び同有限会社C(以下,「選定者会社」
といい,原告と選定者3名を併せて「原告ら」という。)を相手方
として損失の補償につき行った土地収用法94条2項の規定による
裁決の申請は,土地区画整理法77条7項に基づかず,また参加人
が自ら行うべき建築物等の移転(以下「本件直接施行」という。)
が完了していない段階のものであるなどの理由で不適法であるから,
上記裁決の申請を却下しないでされた処分行政庁の平成18年10
月24日付け裁決(以下「本件損失補償裁決」という。)は違法で
あると主張して,被告を相手に,本件損失補償裁決の取消しを求め
る事案である。
審理の経緯
本件は,差戻し前の第1審において,本件訴えは出訴期間を徒過
した不適法な訴えであるとして却下され,控訴審においても,第1
審と同様に不適法な訴えとされたところ,上告審において,本件損
失補償裁決の取消しを求める訴えは,出訴期間を遵守して提起され
たものというべきであるから,本件訴えが出訴期間を徒過した違法
なものであるとの判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法
令の違反があるとして,控訴審判決のうち被告に関する部分が破棄
された(なお,本件損失補償裁決に対する原告らの審査請求を棄却
した国土交通大臣の平成21年7月22日付け裁決の取消しを求
める訴えも,本件と併合審理されていたが,控訴審判決のうちその
請求を棄却した部分は既に確定している。)。そして,上記の被告
に関する部分につき,第1審判決が取り消され,①本件直接施行が
土地区画整理法77条の規定に従って行われ,同法78条1項の
「前条第1項の規定により施行者が建築物等を移転し,若しくは除
却したことにより他人に損失を与えた場合」に当たるものとして,
かつ,②同法78条3項において準用する同法73条3項の「前項
の規定による協議が成立しない場合」に当たるものとして,施行者
である参加人が処分行政庁の裁決を申請することができるのか否
か等,本件損失補償裁決の適法性について審理させるためとして,
第1審に差し戻された。
したがって,差戻しを受けた当審は,本件損失補償裁決の取消し
を求める訴えは出訴期間を遵守して提起された適法なものである
ことを前提として,上告審で説示されたところに従い,本件損失補
償裁決の適法性について審理すべきことになる。
2関係法令等の定め
土地区画整理法
2条
1項この法律において「土地区画整理事業」とは,都市計画区
域内の土地について,公共施設の整備改善及び宅地の利用の
増進を図るため,この法律で定めるところに従って行われる
土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関す
る事業をいう。
2項ないし8項(省略)
73条
1項(省略)
2項前項の規定による損失の補償については,損失を与えた者
と損失を受けた者が協議しなければならない。
3項前項の規定による協議が成立しない場合においては,損失
を与えた者又は損失を受けた者は,政令で定めるところによ
り,収用委員会に土地収用法(昭和26年法律第219号)
第94条第2項の規定による裁決を申請することができる。
4項(省略)
77条
1項施行者は,第98条第1項の規定により仮換地若しくは仮
換地について仮に権利の目的となるべき宅地若しくはその
部分を指定した場合,第100条第1項の規定により従前の
宅地若しくはその部分について使用し,若しくは収益するこ
とを停止させた場合又は公共施設の変更若しくは廃止に関
する工事を施行する場合において,従前の宅地又は公共施設
の用に供する土地に存する建築物その他の工作物又は竹木
土石等(以下これらをこの条及び次条において「建築物等」
と総称する。)を移転し,又は除却することが必要となった
ときは,これらの建築物等を移転し,又は除却することがで
きる。
2項施行者は,前項の規定により建築物等を移転し,又は除却
しようとする場合においては,相当の期限を定め,その期限
後においてはこれを移転し,又は除却する旨をその建築物等
の所有者及び占有者に対し通知するとともに,その期限まで
に自ら移転し,又は除却する意思の有無をその所有者に対し
照会しなければならない。
3項前項の場合において,住居の用に供している建築物につい
ては,同項の相当の期限は,三月を下ってはならない。ただ
し,建築物の一部について政令で定める軽微な移転若しくは
除却をする場合又は前条第1項の規定に違反し,若しくは同
条第3項の規定により付された条件に違反して建築されて
いる建築物で既に同条第4項若しくは第5項の規定により
移転若しくは除却が命ぜられ,若しくはその旨が公告された
ものを移転し,若しくは除却する場合については,この限り
でない。
4項ないし6項(省略)
7項施行者は,第2項の規定により建築物等の所有者に通知し
た期限後又は第4項後段の規定により公告された期限後に
おいては,いつでも自ら建築物等を移転し,若しくは除却し,
又はその命じた者若しくは委任した者に建築物等を移転さ
せ,若しくは除却させることができる。(後段省略)
8項前項の規定により建築物等を移転し,又は除却する場合に
おいては,その建築物等の所有者及び占有者は,施行者の許
可を得た場合を除き,その移転又は除却の開始から完了に至
るまでの間は,その建築物等を使用することができない。
9項(省略)
78条
1項前条第1項の規定により施行者が建築物等を移転し,若し
くは除却したことにより他人に損失を与えた場合又は同条
第2項の照会を受けた者が自ら建築物等を移転し,若しくは
除却したことによりその者が損失を受け,若しくは他人に損
失を与えた場合においては,施行者(施行者が国土交通大臣
である場合においては国。次項,第101条第1項から第3
項まで及び第104条第11項において同じ。)は,その損
失を受けた者に対して,通常生ずべき損失を補償しなければ
ならない。
2項(省略)
3項第73条第2項から第4項までの規定は,第1項の規定に
よる損失の補償について準用する。この場合において,同条
第4項中「国土交通大臣,都道府県知事,市町村長若しくは
機構理事長等又は前条第1項後段に掲げる者」とあるのは
「施行者」と,「同項又は同条第6項」とあるのは「第77
条第1項」と読み替えるものとする。
4項ないし6項(省略)
98条
1項施行者は,換地処分を行う前において,土地の区画形質の
変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のた
め必要がある場合又は換地計画に基づき換地処分を行うた
め必要がある場合においては,施行地区内の宅地について仮
換地を指定することができる。(後段省略)
2項ないし7項(省略)
99条
1項(省略)
2項施行者は,前条第1項の規定により仮換地を指定した場合
において,その仮換地に使用又は収益の障害となる物件が存
するときその他特別の事情があるときは,その仮換地につい
て使用又は収益を開始することができる日を同条第5項に
規定する日と別に定めることができる。この場合においては,
同項及び同条第6項の規定による通知に併せてその旨を通
知しなければならない。
3項(省略)
土地収用法
94条
1項(省略)
2項前項の規定による協議が成立しないときは,起業者又は損
失を受けた者は,収用委員会の裁決を申請することができる。
3項ないし6項(省略)
7項収用委員会は,第2項の規定による裁決の申請がこの法律
の規定に違反するときは,裁決をもって申請を却下しなけれ
ばならない。
8項収用委員会は,前項の規定によって申請を却下する場合を
除くの外,損失の補償及び補償をすべき時期について裁決し
なければならない。(後段省略)
9項ないし12項(省略)
建築基準法
2条
1号ないし12号(省略)
13号建築建築物を新築し,増築し,改築し,又は移転する
ことをいう。
14号ないし35号(省略)
6条
1項建築主は,第1号から第3号までに掲げる建築物を建築し
ようとする場合(増築しようとする場合においては,建築物
が増築後において第1号から第3号までに掲げる規模のも
のとなる場合を含む。),これらの建築物の大規模の修繕若
しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第4号に掲
げる建築物を建築しようとする場合においては,当該工事に
着手する前に,その計画が建築基準関係規定(この法律並び
にこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の
規定」という。)その他建築物の敷地,構造又は建築設備に
関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令
で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであるこ
とについて,確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け,
確認済証の交付を受けなければならない。(後段省略)
1号ないし3号(省略)
4号前3号に掲げる建築物を除くほか,都市計画区域若しく
は準都市計画区域(いずれも都道府県知事が都道府県都市
計画審議会の意見を聴いて指定する区域を除く。)若しく
は景観法(平成16年法律第110号)第74条第1項の
準景観地区(市町村長が指定する区域を除く。)内又は都
道府県知事が関係市町村の意見を聴いてその区域の全部
若しくは一部について指定する区域内における建築物
2項ないし15項(省略)
9条
1項特定行政庁は,建築基準法令の規定又はこの法律の規定に
基づく許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷
地については,当該建築物の建築主,当該建築物に関する工
事の請負人(請負工事の下請人を含む。)若しくは現場管理
者又は当該建築物若しくは建築物の敷地の所有者,管理者若
しくは占有者に対して,当該工事の施工の停止を命じ,又は,
相当の猶予期限を付けて,当該建築物の除却,移転,改築,
増築,修繕,模様替,使用禁止,使用制限その他これらの規
定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をと
ることを命ずることができる。
2項ないし15項(省略)
18条
1項(省略)
2項第6条第1項の規定によって建築し,又は大規模の修繕若
しくは大規模の模様替をしようとする建築物の建築主が国,
都道府県又は建築主事を置く市町村である場合においては,
当該国の機関の長等は,当該工事に着手する前に,その計画
を建築主事に通知しなければならない。
3項建築主事は,前項の通知を受けた場合においては,第6条
第4項に定める期間内に,当該通知に係る建築物の計画が建
築基準関係規定(第6条の3第1項第1号若しくは第2号に
掲げる建築物の建築,大規模の修繕若しくは大規模の模様替
又は同項第3号に掲げる建築物の建築について通知を受け
た場合にあっては,同項の規定により読み替えて適用される
第6条第1項に規定する建築基準関係規定。以下この項及び
第12項において同じ。)に適合するかどうかを審査し,審
査の結果に基づいて,建築基準関係規定に適合することを認
めたときは,当該通知をした国の機関の長等に対して確認済
証を交付しなければならない。
4項ないし12項(省略)
13項第2項の通知に係る建築物の建築,大規模の修繕又は大
規模の模様替の工事は,第3項の確認済証の交付を受けた
後でなければすることができない。
14項国の機関の長等は,当該工事を完了した場合においては,
その旨を,工事が完了した日から四日以内に到達するよう
に,建築主事に通知しなければならない。
15項建築主事が前項の規定による通知を受けた場合におい
ては,建築主事等は,その通知を受けた日から七日以内に,
その通知に係る建築物及びその敷地が建築基準関係規定
(第7条の5に規定する建築物の建築,大規模の修繕又は
大規模の模様替の工事について通知を受けた場合にあっ
ては,第6条の3第1項の規定により読み替えて適用され
る第6条第1項に規定する建築基準関係規定。以下この条
において同じ。)に適合しているかどうかを検査しなけれ
ばならない。
16項建築主事等は,前項の規定による検査をした場合におい
て,当該建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合し
ていることを認めたときは,国の機関の長等に対して検査
済証を交付しなければならない。
17項ないし23項(省略)
3前提事実(当事者間に争いがないか又は弁論の全趣旨及び後掲の証
拠により容易に認定できる事実)
当事者等
ア原告,選定者A及び選定者Bは,亡D(平成15年9月8日死
亡。以下「亡D」という。)の相続人である。
イ選定者会社は,平成15年10月30日当時,選定者Aを代表
の土地(以下「本件従前地1」という。)上に工作物等を所有し
ていた。
本件移転工事の経緯
ア本件従前地1上に所在する別紙物件目録記載3ないし5の亡
D所有の木造瓦葺平家(一部2階)建の建物(以下「本件建物」
という。),同6の土蔵(以下「本件土蔵」という。),その他
工作物,立竹木土石等(以下,「本件立竹木土石等」といい,本
件立竹木土石等と本件建物及び本件土蔵を併せて「本件建物等」
という。),並びに本件従前地1の一部及び本件従前地2に所在
する選定者会社所有の工作物等一式(以下「本件工作物等」とい
う。)は,本件事業の平成15年度の移転区域に存していた。(甲
1,甲28の1,2)
参加人は,平成10年2月9日,本件従前地1の仮換地を別紙
仮換地3」という。)。
イ参加人は,平成15年10月30日付けで,原告,選定者A及
び選定者Bに対して本件建物等の移転につき,選定者会社に対し
て本件工作物等の移転につき,それぞれ期限を同16年2月10
日とする土地区画整理法77条2項の規定に基づくものとして
の通知及び照会(以下,各通知及び照会を併せて「本件各通知及
び照会」という。)をした。(甲28の1,2)
ウ参加人は,平成16年3月24日,土地区画整理法77条7項
に基づくものとしての本件直接施行に着手し,同年9月29日,
本件建物等及び本件工作物等を仮換地上に移転した上で,原告ら
に対し,本件直接施行の完了を通知した。(甲1,甲4,甲6,
乙B3の1,2)
本件損失補償裁決申請の経緯等
ア参加人は,平成17年3月17日,土地区画整理法78条1項
の規定による損失の補償について原告らとの間で協議をしたもの
の,当該協議が成立しなかったとして,同条3項において準用す
る同法73条3項に基づくものとして,原告らを相手方として,
処分行政庁に土地収用法94条2項の規定による損失の補償に係
る裁決の申請をしたところ,処分行政庁は,同18年10月24
日,本件損失補償裁決をした。(甲1)
イ原告らは,平成18年11月20日,本件損失補償裁決を不服
として,国土交通大臣に対し審査請求をしたところ,同大臣は,
平成21年7月22日,上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。
同裁決の裁決書の謄本は,同月23日,原告らに対して送達され
た。
ウ原告らは,平成22年1月19日,上記イの国土交通大臣がし
た裁決の取消しを求める訴えを広島地方裁判所に提起し,同年6
月1日,同裁決の原処分である本件損失補償裁決の取消しを求め
る訴えを行政事件訴訟法19条1項に基づき併合して提起した。
当審において,原告だけが選定当事者に選定された。
4争点
本件訴訟の争点は,本件損失補償裁決の適法性である。
【原告の主張】
本件直接施行は,「土地区画整理法77条の規定に従って行われ」
たものとはいえず,同法78条1項の「前条第1項の規定により施行
者が建築物等を移転し,若しくは除却したことにより他人に損失を与
えた場合」に当たるとはいえないから違法であり,また,同法73条
3項の「前項の規定による協議が成立しない場合」に当たるともいえ
ない。
したがって,本件損失補償裁決の申請は違法であって,収用委員会
は,同申請を裁決をもって却下しなければならないから,本件損失補
償裁決に係る申請を却下せずにされた本件損失補償裁決は違法であ
る。
本件直接施行が土地区画整理法77条の規定に従って行われた
ものとはいえないこと(同法77条2項の「通知」及び同項の「照
会」の瑕疵)
「相当な期限」は権利者が実際に移転するための準備期間(建築
基準法の確認が下りる期間等工事準備期間を含む。),工事期間等
をいうものであり,土地区画整理法77条2項の通知及び照会がさ
れる前の移転交渉期間や仮換地の使用収益開始前の移転交渉期間が
あるからといって,「相当な期限」が短くていいことにはならない。
参加人が平成15年10月30日付けでした土地区画整理法77
条2項に基づく通知及び照会(本件各通知及び照会)は,その「相
当の期限」の始期どころか,その終期においても本件建物等の移転
先である本件仮換地2が造成工事中であり,地方自治法上の完成検
査も行われていなかったため,原告らによる移転自体が不可能な状
態であった。そして参加人は,平成16年3月24日,本件直接施
行に着手したが,同日においてすら,本件仮換地2の造成工事は完
成検査が未了のままであった(完成検査は同年3月30日)。
また,参加人は,そもそも原告らに対して本件仮換地1,2の使
用収益権を与えず,仮換地の使用を法的に禁じておいたのに,その
仮換地に本件建物等の移転を強要したのである。
要するに,「相当の期限」で定められた原告らの移転完了期限の
時点で,原告らは本件仮換地2の使用収益権を有していなかっただ
けではなく,参加人自身による本件直接施行着手の時点で,本件仮
換地2の造成工事が完成していないため,本件仮換地2への移転工
事ができないし,本件仮換地2への移転の必要性も存在しなかった
のである。
なお,参加人は,本件仮換地1,2の位置は本件従前地1の位置
とほぼ重なっているから,原告らは移転工事をすることができたと
主張するが,本件仮換地1,2全てを使用できなければ,原告らは
本件従前地1上の本件建物等を客観的,物理的に移転できなかった
し,そもそも仮換地の一部を使用して移転すべきであるとの参加人
の主張は,仮換地の全てを使って従前の使用収益を維持し移転する
という土地区画整理事業の本質に反し,原告らの当然の権利を侵害
するものである。
したがって,本件各通知及び照会は移転が不可能な期限を「相当
な期限」としたもので,違法である。
そして,本件各通知及び照会等が違法である以上,これに続く本
件直接施行もまた違法である。
本件直接施行が,土地区画整理法78条1項の「前条第1項の規
定により施行者が建築物等を移転し,若しくは除却したことにより
他人に損失を与えた場合」に当たるとはいえないこと
ア参加人が,処分行政庁に対し,損失補償裁決を申請するために
は,本件直接施行が完了していなければならないところ,以下の
事実関係のもとでは,本件直接施行が完了しているとはいえない。
建築基準法違反
本件直接施行は,本件建物及び本件土蔵の移転及び新築を目
的とするため建築基準法が適用されるところ,参加人は,工事
着工前に確認済証の交付を受けておらず,また,工事完了後に
検査済証の交付も受けていない。さらに,本件直接施行により,
本件建物及び本件土蔵は従前の価値,機能が維持されていない
ばかりか,建築基準法上の最低限の強度さえも有しない建築物
となっており,居住も不可能である。
したがって,本件直接施行は建築基準法に違反しており,そ
うである以上,本件直接施行は完了していないというべきであ
る。
完成検査未了
参加人は完成検査調書を作成しているところ,本件直接施行
が完了するには参加人の規則に基づく完成検査を経る必要が
あるのに,参加人は,現実には完成検査をしていない。
なお,被告及び参加人が指摘する広島地方裁判所平成16年
(行ウ)第E号土地区画整理法による建築物等の移転通知取消
請求事件及び広島高等裁判所平成19年(行コ)第F号控訴事
件の各判決においてされている直接施行が完了したとの判断
は,判決理由中の判断であるから,既判力はない。
したがって,本件直接施行が完了したか否かについて審理す
べきではない旨の被告及び参加人の主張は失当である。
イ「通常生ずべき損失」の不存在
これまで縷々主張しているように,本件直接施行は違法であり,
原告らは,違法な行政処分によって損害を受けている。原告らは,
適法な行政処分による損失である土地区画整理法78条1項の
規定する「通常生ずべき損失」を受けているわけではない。
土地区画整理法73条3項の「前項の規定による協議が成立しな
い場合」に当たるとはいえないこと
参加人と原告らとの間には,土地区画整理法78条3項の規定に
より準用される同法73条2項所定の「協議」は存在していない。
【被告の主張】
収用委員会が損失補償裁決を行う場合においては,当該裁決の申
請が土地収用法の規定に違反する場合のみ,申請を却下することと
されており,その場合を除いて,この裁決申請に基づいて損失の補
償及び補償をすべき時期について裁決しなければならないとされ
ている(土地収用法94条8項)。
土地収用法94条7項の趣旨は,当事者間に協議が整わない場合
に,早期にその補償額を決定させようとする点にあると解される。
また,同法94条8項は「収用委員会は,・・損失の補償及び補
償をすべき時期について裁決しなければならない。」と規定し,裁
決の対象を補償額と補償時期に限定している。
かかる同法94条7項の趣旨や同条8項の文言からすれば,同法
は収用委員会が裁決申請前の手続上の瑕疵について判断すること
を想定しておらず,裁決申請前の手続上の瑕疵は,同法94条7項
の却下事由にはあたらないと解すべきである。
したがって,仮に本件損失補償裁決申請前の手続に瑕疵があった
としても,そのことは本件損失補償裁決申請の却下事由には該当し
ないから,処分行政庁が本件損失補償裁決申請を却下せずにした本
件損失補償裁決は適法である。
また,本件直接施行は,以下のとおり,土地区画整理法77条の
規定に従って行われたものであり,同法78条1項の「前条第1項
の規定により施行者が建築物等を移転し,若しくは除却したことに
より他人に損失を与えた場合」に当たり,かつ,同法73条3項の
「前項の規定による協議が成立しない場合」に当たるから,本件損
失補償裁決は適法である。
ア本件直接施行が土地区画整理法77条の規定に従って行われ
たものであること
同法77条にいう移転とは,従前地に存する建築物等を土地区
画整理事業遂行の妨げとならないように物理的に他の場所に移
転することをいい,必ずしも移転後の建築物等が完全に従前の建
築物等と同一の機能等を有するようにすることまでを含むもの
ではない。
施行者において,直接施行にかかる移転工事により土地区画整
理事業遂行の支障となっていた建築物等の従前地内からの移転
が物理的に完了し,土地区画整理法77条の定める直接施行の目
的を達したものと判断し,かつ,その判断が手続的にも客観的に
明らかになった場合においては,未だ建築物等が対象地域内に障
害物として現実に残存しているなど特別の事情が認められない
限り,直接施行は完了したというべきである。
本件においては,本件直接施行の施行者である参加人が平成1
6年9月29日に本件直接施行が完了したものと判断して建築
物等移転工事完了通知及び工作物等移転工事完了通知を発して
おり,かつ,本件損失補償裁決時に直接施行の対象地内に土地区
画整理事業遂行の妨げとなるような建築物や工作物が残存して
いた事実もないから,本件損失補償裁決に係る申請の前に本件直
接施行が完了していた。なお,本件直接施行に瑕疵があったとし
ても,本件直接施行の完了の有無を左右するものではない。
イ土地区画整理法73条3項の「前項の規定による協議が成立し
ない場合」に当たること
本件においては,参加人と原告らとの間で損失補償に関する協
議は不調に終わっており,同条同項の「協議が成立しない場合」
の要件を満たしている。
【参加人の主張】
原告らと参加人との間には,本件直接施行が完了したかどうかを
争点にした広島地方裁判所平成16年(行ウ)第E号土地区画整理
法による建築物等の移転通知取消請求事件があり,同裁判所は,平
成19年1月23日,本件直接施行は完了したとして,本件各通知
及び照会の取消しを求める訴えを却下する判決を言い渡した。
原告らは,同判決に対して控訴したが,広島高等裁判所は,同年
9月12日,「直接施行としての本件移転工事は完了したというべ
きであり」と判示し,控訴を棄却した(広島高等裁判所平成19年
(行コ)第F号控訴事件)。
原告らは,同控訴審判決に対して上告及び上告受理申立てをした
が,上告は棄却され,上告受理申立ては受理されなかった(乙B1
2)。
以上のように,本件直接施行が完了したことについては確定判決
が存在するので,この点について審理すべきでない。
収用委員会は土地収用法94条7項の規定によって申請を却下
する場合を除く外,損失の補償及び補償をすべき時期について裁
決しなければならないと規定されているだけで(同条8項),原
因行為が適法であることは損失補償裁決の要件とはされていない。
土地収用法の補償裁決制度が上記のとおりであって,収用委員会
は原因行為の適法性(違法性)を審査することを要しないから,本
件直接施行が違法であっても,本件損失補償裁決は適法である。
本件直接施行の適法性
ア参加人は,亡Dに対し,平成10年2月9日付けで仮換地指定
をし,その後,建築物等を移転又は除却することが必要となった。
なお,本件仮換地2の造成工事は,本件各通知及び照会で定め
られた移転の期限である,平成16年2月10日までに概ね完了
していた。
また,本件仮換地1,2の位置は,本件従前地1の位置とほぼ
重なっていて仮換地指定後も原告らは使用をそのまま続けてい
たし,本件仮換地1,2と本件従前地1との間に高低差はない。
さらに,平成15年10月30日時点で本件仮換地2の一部に
は別の建物(パチンコ店)が存在していたが,原告らが占有して
いた大部分の仮換地は原告らが自由に使用できる状態であった。
したがって,原告らにとって本件建物等を仮換地に移転するこ
とは,客観的,物理的に可能であった。
しかし,原告らは移転する意思があるとしつつも条件を提示し,
補償金額を算定するための建物調査を拒んだため,本件直接施行
をすることとなったものであるから,本件直接施行は適法である。
イ本件各通知及び照会について
参加人と原告らは,本件各通知及び照会以前から,何度も移転
についての協議を行っている。本件各通知及び照会における「相
当の期限」は,本件各通知及び照会がされる前の移転交渉期間も
入れると十分な期間である。
ウ土地区画整理事業に建築基準法は適用されないこと
土地区画整理事業は,従前地と(仮)換地とを同一とする換地
処分を中核とするものであり,従前地に上物があるときに,従前
地とその上物(建築物等)とは一体であると考えるものである。
そのため,従前地上の建築物等を仮換地に移行する行為におい
ては,従前地と上物は一体であるから建築行為はなかったものと
取り扱われてきたのである。
したがって,本件直接施行に建築基準法は適用されず,同法が
適用されることを前提とする原告の主張は失当である。
エまた,本件仮換地1は,本件従前地1内にあり,したがって本
件従前地1の使用収益の継続は本件仮換地1を使用収益している
ことになるから,使用収益開始の通知は必要なく,参加人は同通
知を発信しなかったものである。
さらに参加人は,本件直接施行に当たって原告らによる使用を
排除した(土地区画整理法77条8項)ので,建築物の移転完了
日に直ちに使用収益開始日の通知をしたものである。
第3当裁判所の判断
土地区画整理法77条1項は,「施行者は,第98条第1項の規
定により仮換地・・を指定した場合,・・において,従前の宅地・・
の用に供する土地に存する建築物その他の工作物又は竹木土石
等・・を移転し,又は除却することが必要となったときは,これら
の建築物等を移転し,又は除却することができる。」と規定し,同
法78条1項は,「前条第1項の規定により施行者が建築物等を移
転し・・たことにより他人に損失を与えた場合・・においては,施
行者・・は,その損失を受けた者に対して,通常生ずべき損失を補
償しなければならない。」と規定している。また,同条3項は「第
73条第2項から第4項までの規定は,第1項の規定による損失の
補償について準用する。」と規定し,同法73条2項が「前項の規
定による損失の補償については,損失を与えた者と損失を受けた者
が協議しなければならない。」と規定した上,同条3項は「前項の
規定による協議が成立しない場合においては,損失を与えた者・・
は,政令で定めるところにより,収用委員会に土地収用法(昭和2
6年法律第219号)第94条第2項の規定による裁決を申請する
ことができる。」と規定している。そして,上記裁決の申請を受け
た収用委員会は,土地収用法94条7項の規定によれば,「第2項
の規定による裁決の申請がこの法律の規定に違反するときは,裁決
をもって申請を却下しなければならない。」とされている。
これらの規定によれば,土地区画整理事業において直接施行を実
施した施行者が,土地収用委員会に損失補償裁決の申請をすること
ができるのは,①直接施行が土地区画整理法77条の規定に従って
行われ,同法78条1項の「前条第1項の規定により施行者が建築
物等を移転し,若しくは除却したことにより他人に損失を与えた場
合」に当たり,かつ,②同法78条3項において準用する同法73
条3項の「前項の規定による協議が成立しない場合」に当たる場合
を要件とすると解され,そしてその要件を満たさない裁決の申請で
ある場合には,裁決の申請がこの法律の規定に違反するものとして,
土地収用委員会は同裁決申請を却下すべきことになる。
この点につき被告は,上記要件に係る原告主張の違法事由を手続
上の瑕疵と位置づけ,これらは収用委員会の判断事項に含まれない
と主張しているが,関係各規定を素直に理解する限り,土地区画整
理法に定められた上記各要件は,土地区画整理事業施行者による裁
決申請の要件として規定されていると解される。なお,土地の収用
や建築物の移転等の損失を与えた行為(以下「収用等」という。)
そのものの適法性が名宛人によって問題とされない場合であれば
ともかく,少なくとも本件のように名宛人から上記要件についての
瑕疵が具体的に主張,立証され裁決申請の適法性が争われているよ
うな場合においては,収用委員会は,上記関係各規定に従い,それ
らの要件の存否を含めて判断すべきであり,そして要件の存在が認
められない場合には,裁決申請を不適法であるとして裁決をもって
却下するほかないものと解すべきである。
そこで,まず本件直接施行が土地区画整理法77条の規定に従っ
て行われたかを検討するに,直接施行が土地区画整理法77条の規
定に従って行われたといえるためには,同条2項に規定する「通知」
及び「照会」が直接施行の前に「相当の期限」を定めてされること
が要件となるところ,この「通知」及び「照会」が,建築物等の所
有者が自ら移転又は除却を行う意思のある場合にはその意思を尊
重し,併せて当該所有者の生活権を保護する趣旨でされるものと解
されることからすると,ここでいう「相当の期限」と認められるた
めは,その期限内に,建築物等の所有者にて建築物等を移転するこ
とが物理的に可能であることがまず必要であると解される。また同
条項にいう「移転」とは,単に建築物等が仮換地先に物理的に移転
するのみにとどまらず,法適合性も含め,建築物等を従前土地上に
あったと同様の状態で仮換地先においても使用収益できる状態に
することまで含むものと解すべきであるから,同条項にいう「相当
の期限」とは,そのような移転をするために必要な期間を確保した
期限をいうと解すべきである。したがって,建築物等を移転するた
めに建築基準法の手続が必要であるならば,その手続に必要な期間
をも考慮されている必要があるというべきである。
そしてこれと異なり,定められた期限内の移転が物理的に困難で
あったり,従前地と同様の状態での使用収益ができなかったり,さ
らには建築基準法の手続が必要であるのに期限内にその手続もなし
得ないものであったのなら,その期限を付された「通知」及び「照
会」の瑕疵は重大なものといわざるを得ず,ひいてはその後にされ
た直接施行をもって土地区画整理法77条に従って行われたものと
いうことはできないというべきである。
そこで進んで,以下,本件各通知及び照会が適法に行われたか否
か検討するに,前提事実,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,
以下の事実が認められる。
ア本件事業は,参加人が施行者となって,山陽本線JR西条駅前
地区の約7.6ヘクタールの区域において行われた土地区画整理
事業であり,平成7年3月13日に事業認可を得て,平成10年
2月9日に仮換地指定を行い,平成10年度から事業区域を8ブ
ロックに分けて移転等工事が順次実施された。(甲1,甲57の
1,2)
イ本件事業の平成15年度の移転区域内に明治30年(一部は昭
和2年)に建築された木造建築物である本件建物及び本件土蔵を
所有していた亡Dは,参加人に対し,平成14年3月6日及び同
年5月7日に差し出した書留内容証明郵便において,本件立竹木
土石等の移転費用の前払の要求及び本件立竹木土石等に係る補
償協議申入れをしたが,参加人は同要求及び同申入れに応じなか
った。(甲46,甲47,甲91,甲92)
そこで亡Dは,同年6月12日,参加人を相手方として,本件
立竹木土石等の移転費用の補償に関する協議を直ちに開始する
ことを求めて調停を申し立てたが,同年7月10日,調停が成立
しないものとして終了した。(甲45,甲93)
ウ一方,参加人と亡Dとの間では,参加人所有地と本件従前地1
及び同2との間の境界確定訴訟が平成10年頃から係属し,最高
裁まで争われていた。しかし,同訴訟は,亡Dの主張する境界を
採用した判決で確定し,このことを受け,参加人は,亡Dに対し,
平成14年12月27日付けで,平成10年2月9日付けの仮換
地指定を変更した。(甲74の1,2)
エ参加人は,平成15年2月10日付けで,亡Dに対しては,本
件建物及び本件立竹木土石等の一部について,移転先を本件従前
地1の仮換地である本件仮換地1,2のうち,その一部である本
件仮換地1のみと指定し,移転期限を同年7月31日とする土地
区画整理法77条2項の通知及び照会並びに本件土蔵及び本件
立竹木土石等の一部について除却期限を同年7月31日とする
同項の通知及び照会をし(甲27の1,2),選定者会社に対し
ては,本件工作物等について除却期限を同年7月31日とする同
項の通知及び照会をした(以下,参加人が平成15年2月10日
付けで亡D及び選定者会社に対してした同項の通知及び照会を
併せて「2月10日付け各通知及び照会」という。)をした。(甲
27の3)
なお平成15年2月10日当時,本件従前地1の仮換地の一部
である本件仮換地2には,他人が所有する建築物等が存在し,そ
の建築物の借家人がパチンコ店を営業していたため(以下,当該
建築物を「本件パチンコ店」という。),本件建築物等を本件従
前地2に移転することは不可能であった。(甲35)
オ2月10日付け各通知及び照会に対し,亡D及び選定者会社は,
広島県知事に対し,平成15年4月8日付けで,2月10日付け
各通知及び照会の取消しを求めて審査請求をし,その一方で参加
人に対し,同月9日付けで,2月10日付け各通知及び照会に対
し,本件事業に協力する意思があること,除却するかについて話
し合いたい旨を通知した。(甲36の1,2,甲44の1,2)
カ参加人は,平成15年9月1日付けで,亡Dに対しては,本件
建物及び本件立竹木土石等の一部を早急に移転するとともに本
件土蔵及び本件立竹木土石等の一部を早急に除却するよう催告
し,選定者会社に対しては,本件工作物等を早急に除却するよう
催告した。(甲37の1ないし3)
キ亡Dは,平成15年9月8日に死亡し,同人の地位は,同人の
子である原告,選定者A及び選定者Bに承継された。
ク参加人は,平成15年9月29日,本件仮換地2に存在する本
件パチンコ店の所有者及びその借家人との間で,本件パチンコ店
の移転に係る物件移転補償契約を締結した。(甲35)
参加人は,本件仮換地2から本件パチンコ店等の移転の目処が
立ったこと等を理由として,平成15年10月30日付けで,2
月10日付け各通知及び照会を取り消した上で,新たに,原告,
選定者A及び選定者Bに対しては本件建物等の移転につき,選定
者会社に対しては本件工作物等の移転につき,移転先を本件従前
地1の仮換地の全てである本件仮換地1,2と指定し,それぞれ
移転期限を平成16年2月10日とする土地区画整理法77条
2項の通知及び照会(本件各通知及び照会)をした。(甲26の
1,2,甲28の1,2,甲35,丙2の1ないし3)
ケ本件各通知及び照会がされた平成15年10月30日時点で
は,本件仮換地2には本件パチンコ店が,なお存続しており,本
件パチンコ店の取壊しが完了したのは,同年11月14日であっ
た。(甲77の1ないし6,甲78,丙3)
コ原告らは,平成15年12月25日,本件各通知及び照会の取
消しを求めて,審査請求した。
サ参加人は,平成15年12月26日,社団法人Gと本件直接施
行実施に関する業務委託契約を締結し,平成16年2月4日,株
式会社Hと本件直接施行についての請負契約を締結した。(甲2
2の1,甲38)
シ本件仮換地2では,遺跡発掘調査が行われ,平成16年1月3
0日,同調査が完了したが,本件各通知及び照会の移転期限であ
る同年2月10日当時,本件仮換地2の造成工事は完了していな
かった。(甲29の1,2,甲56の1ないし15,甲79の1
ないし3,甲81)
ス選定者Aは,平成16年2月18日,参加人の代表者である東
広島市長に対し,本件建物等の移転についての協議を求める内容
証明郵便を差し出した。(甲43)
セ参加人は,平成16年3月8日付けで,原告らに対し,同月2
4日から本件建物等の移転工事(本件直接施行)をする旨の建築
物等移転工事施行通知をした。同通知には,注意事項として,移
転工事の間は参加人の許可を得なければ,本件建物等を使用する
ことができないこと,着工前日までに明け渡すべきことが記載さ
れていた。(甲4)
ソ参加人は,平成16年3月24日午前9時30分,本件直接施
行の開始宣言をし,本件直接施行に着手したが,その時点におい
ても,本件仮換地2には工作物(同土地の従前の権利者が設置し
たコンクリート)が残置されていた。(甲79の1ないし3)
タ本件直接施行は,本件建物及び本件土蔵を曳家工法により移転
するほか,本件土蔵の前室等を取り壊し,その代替建物(床面積
15.44平方メートル)を新たに建築するなどというものであ
ったが,参加人は,その工事について建築基準法所定の確認済証
の交付を受けていなかった。(甲65,乙B8)
チ平成16年3月30日,本件仮換地2の宅地造成工事の完成検
査がされた。(甲30の1,2,甲82,甲83)
ツ参加人は,平成16年9月29日付けで,原告,選定者A及び
選定者Bに対し,同日から本件仮換地1ないし同3を使用又は収
益することができる旨の仮換地の使用収益開始日の通知をした。
(甲58,甲59)
また参加人は,同日付で,本件建物等の所有者である原告,
選定者A及び選定者B,本件工作物等の所有者である選定者会
社,本件建物等の占有者である原告のそれぞれに対し,本件直
接施行が完了し,本件建物等を従来どおり使用することができ
る旨の通知をした。(甲5,甲6,乙B3の1,2)
テ参加人は,平成16年10月6日付けで,原告に対し,同月1
5日までを期限として,本件直接施行実施の間使用を許可してい
た住宅の明渡しを求めた。(甲7)
ト参加人は,原告らに対し,平成17年1月4日付けで,損失補
償についての協議書を送付したが,これに対して原告らは,参加
人に対し,同年2月10日,損失の内容が具体的に明示されてい
ないため協議のしようがない旨を回答した。(乙B9,10)
ナ参加人は,平成17年3月17日,土地区画整理法78条1項
の規定による損失の補償について原告らとの間で協議をしたも
のの,当該協議が成立しなかったとして,同条3項において準用
する同法73条3項に基づき,原告らを相手方として,処分行政
庁に土地収用法94条2項の規定による損失の補償に係る裁決
の申請をした(乙B7)。
同裁決の名宛人となる原告らは,同裁決の手続において,処分
行政庁に対し,本件におけると概ね同趣旨の参加人のした本件直
接施行の違法性を主張し,それとともにその主張を基礎付ける資
料を,多数提出した。
しかし,処分行政庁は,本件直接施行が建築基準法に違反して
いるとの主張に対しては「本件直接施行が(建築)基準法に違反
していても,それのみをもって(土地)収用法第94条第7項に
規定する却下事由に該当するものではない」とし,また,その他
の主張に対しては,「本件直接施行に係る行政処分は未だ取り消
されておらず,また重大かつ明白な瑕疵があるとしてこれを当然
無効と認めることもできない」から,本件直接施行に係る行政処
分はその効力を有するとした上で,「以上により,本件申請を却
下する理由はない」として,平成18年10月24日,本件損失
補償裁決をした。(甲1,甲20,乙B8)
おり,本件各通知及び照会に定められた相当の期限の始期には,移
転先である本件仮換地2に,取壊し予定の建物が残っていたという
のであり,またその間,本件仮換地2では遺跡発掘調査さえもなさ
れていたというのであり(特に甲56の1,2),さらに移転期限
である平成16年2月10日時点においても,本件仮換地2には残
置物があって造成工事が完了していなかったというのであるから,
本件各通知及び照会で定められた期限までに,本件建物等を移転す
ることは物理的に可能であったといえないものと認められる。
また,本件建物及び本件土蔵を都市計画区域内の土地である本件
仮換地2に移転することは,建築基準法2条13号所定の「建築」
に当たると解されるから,そのためには建築基準法所定の手続を経
なければならないが,本件建物及び本件土蔵は,建築基準法施行前
の築造に係る建物である上,既に一部は築後100年を優に超えて
いたというのであるから,そのような建物の移転について建築基準
法所定の手続を遂げることは,決して容易でないものと考えられる。
そうであれば,本件各通知及び照会を受けた日から本件各通知及び
照会に定められた期間である4か月弱の間に,原告らにおいて,上
記手続を遂げるだけでなく,さらに移転工事まで完了することが可
能であったとは到底考えられないところである。そして実際に,本
件直接施行により本件建物及び本件土蔵を移転し,本件土蔵の前室
部分を新築した参加人においてすら,建築確認手続を経た事実もな
いというのである。
そうすると,本件各通知及び照会に定められた移転期限の始期及
び終期における本件建物等の移転先である本件仮換地2の状況な
どの物理的障害に加え,本件建物及び本件土蔵の移転に必要な建築
基準法上の手続という手続的障害の点も考慮すると,本件各通知及
び照会に定められた移転期限が,土地区画整理法77条2項にいう
「相当の期限」とはいえないことは,むしろ明らかというべきであ
る。
したがって,本件各通知及び照会は,土地区画整理法77条2項
にいう「相当の期限を定め」るとの要件を満たすものではないから,
これによってした本件直接施行は同法77条の規定に従って行わ
れたということはできないということになる。
この点,参加人は,原告らと参加人との間で,本件建物等の移転
に向けて相当長期にわたる事前の協議がされていたから,その協議
期間も考慮して,相当の期限といえるか否かを判断すべきように主
間では,本件建物等の移転に向けて長期にわたって協議が続けられ
てきた事実が認められる。
しかし,土地区画整理法77条2項の通知及び照会のされた経緯
についてみると,確かに,本件各通知及び照会に先行して亡D存命
当時にも,既に亡Dに対して2月10日付け各通知及び照会がなさ
れているが,その通知及び照会は,本件建物及び本件立竹木土石等
の一部の移転先を本件従前地1の一部である本件仮換地1に限っ
たものであって,その点でそもそも問題がある(仮換地の一部に取
壊し未了の建物があったからと推認される。)。また,その点を措
くとしても,その内容は,本件仮換地1,2の全てを移転先とした
本件各通知及び照会と著しく異なっていることになるから,亡D存
命時に本件各通知及び照会に先行して2月10日付け各通知及び
照会がされたからといって,これと異なる内容となる本件各通知及
び照会に付された「相当の期限」が短期間で足りるということには
決してならない。
また,上記のとおり,本件における本件建物等の移転先の状況は,
「相当の期限」の始期においては取壊し予定の建物がなお存し,そ
の期限内の期間中には遺跡発掘調査さえもなされ,その終期におい
ても,なお造成工事の完成未了であったというのであるから,原告
らが任意に移転工事をしようとしても,明らかな物理的障害があっ
たということができる。
そうすると,いかに事前の協議期間を考慮し,またその協議期間
中における原告らの対応振りを参加人に有利に斟酌し,さらには建
築確認手続を不要とする参加人の法解釈に与したとしても,その期
限内における原告らによる任意の移転を全く想定していないとし
か考えられない期限の定め方をもって,土地区画整理法77条2項
が要求する「相当の期限」を定めたということはできない。
次いで,本件直接施行において,土地区画整理法78条1項に規
定する「前条第1項の規定により施行者が建築物等を移転し」たと
直接施行により,本件建物等が移転させられたことが認められる。
しかし,ここにいう「移転」とは,単なる物理的移転を意味するも
のではないと解すべきである。すなわち,同法77条7項による移
転が行われる場合,その建築物等の所有者及び占有者は,その移転
の開始から完了に至るまでの間は,その建築物等を使用することが
できないとされ(同条8項),その完了後にはその使用をすること
ができるところ,それは,移転前において適法な状態の建物として
使用することができていた場合には,移転後においても適法な建物
として使用できることが予定されているといえるのである。そうす
ると,物理的に移転を終えただけでは,直ちには,同法78条1項
の移転の完了とは評価し得ないというべきであるから,直接施行に
よって移転した後の建築物を適法に使用できない場合には,同条同
項にいう移転には当たらないというべきである。そして,建築物の
移転にも建築基準法が適用され,かつ,移転した建築物が同法に違
反する場合には,同法9条により除却,修繕,使用禁止,使用制限
等の措置を命じられる可能性が存するのであるから,移転後の建築
物について上記措置が命じられる現実の可能性が存するときは,物
理的に移転したことのみをもって移転が完了したと評価すること
はできないものといわざるを得ない。
そこで,以上の解釈を踏まえて,本件直接施行を巡る事実関係に
ついてみると,
を移転するためには建築基準法所定の手続を経る必要があるが,参
加人は本件直接施行をするに当たり,そもそもその手続を全く経て
いないというのであるから,本件直接施行は建築基準法の定める手
続に従って適法にされたものとはいえない。
さらに,証拠(乙B15,乙B17,乙B18)によれば,本件
直接施行がされた後の本件建物には,基礎,柱,屋根など建物の全
体にわたって数多くの不適切な工事箇所が存在し,そのために,建
築基準関係規定に違反する箇所が数多存在することが容易に認め
られるから,本件建物には建築基準関係規定に違反する箇所が多数
存在することを理由として,建築基準法9条により除却,修繕,使
用禁止,使用制限等の措置を命じられる可能性すら存するものと考
えられる。
したがって,本件直接施行により移転された本件建物及び本件土
蔵は,適法に使用することができないものであるから,本件直接施
行による本件建物及び本件土蔵の移転をもって,土地区画整理法7
8条1項にいう「移転」と評価することはできないというべきであ
る。
4以上の検討によれば,本件損失補償裁決の申請は,本件直接施行が
土地区画整理法77条の規定に従って行われたとはいえず,また同法
78条1項の「前条第1項の規定により施行者が建築物等を移転し」
たとは認められないから,これ「により他人に損失を与えた場合」に
当たるともいえないのであり,そして,これらの事実に基づく瑕疵の
主張が本件損失補償裁決の名宛人である原告らからなされていた以
上,処分行政庁は,それらの事実に基づく関係諸規定の要件の存否を
判断した上,本件損失補償裁決に係る申請を,土地区画整理法の規定
に違反するものとして,裁決をもって却下すべきであったということ
になる。
そうすると,本件損失補償裁決に係る申請を却下しないままにされ
た本件損失補償裁決は違法であり,取り消されるべきである。
なお被告は,原告らは,参加人のなした本件直接施行が違法行為で
あるとして国家賠償法に基づき,参加人を被告として損害賠償請求訴
訟を提起しているところ,損失補償の原因行為の適法性は損失補償裁
決申請の要件ではないから損失補償裁決がされたからといって原因
行為が適法であるということにはならないし,またその原因行為の違
法を理由として建築物等の所有者が損失補償でまかなえない損害を
国家賠償法に基づき損害賠償請求することも妨げられないから,本件
訴訟における訴えの利益はないように主張する。しかし,被告のいう
訴えの利益は,その主張自体から明らかなとおり,訴えの実質的な利
益という訴訟手続の負担をいっているにすぎず,これをもって,法的
な意味での訴えの利益がないものということはできないから,被告の
主張は失当である。
5よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,
主文のとおり判決する。
広島地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官森崎英二
裁判官吉岡茂之
裁判官土山雅史
別紙
物件目録
1土地
従前の宅地
所在広島県東広島市西条本町
地番b番c
地目宅地
地積1647.22平方メートル
仮換地1
街区・画地番号d街区e番地
地積989.51平方メートル
仮換地2
街区・画地番号d街区f番地
地積485.02平方メートル
2土地
従前の宅地
所在広島県東広島市西条本町
地番g番h
地目宅地
地積419.90平方メートル
仮換地3
街区・画地番号d街区i番地
地積411.00平方メートル
3建物
所在東広島市西条本町b番地のc
家屋番号j番k
種類専用住宅
構造木造瓦葺平家建
床面積60.33平方メートル
4建物
所在東広島市西条本町b番地のc
家屋番号j番l
種類専用住宅
構造木造瓦葺平家建
床面積115.70平方メートル
5建物
所在東広島市西条本町b番地のc
家屋番号j番m
種類風呂場
構造木造瓦葺平家建
床面積49.58平方メートル
6建物
所在東広島市西条本町b番地のc
家屋番号j番n
種類土蔵
構造木造瓦葺二階建
床面積49.58平方メートル

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛