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判決 平成13年11月30日 神戸地方裁判所 平成11年(ワ)第534号損害
賠償請求事件
主文
1 被告は原告に対し,金151万7351円及びこれに対する平成11年3月
20日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し,その4を原告の,その余を被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は原告に対して,金837万8650円及び之に対する平成11年3
月20日から支払済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 当事者
ア 原告は中小企業等協同組合法により法人格を有する企業組合で,阪神淡
路大震災で事業所が被災したため失業したケミカルシューズ産業労働者等で結成さ
れた「被災地雇用と生活要求者組合」の有志が出資金を出し合って設立した組合で
ある。
イ 被告は,「足と靴の科学研究所」を設置し,全国に展開している「フシ
ル」のライセンスを取得したネットワークの会員に対し,セラピーシューズの補正
及び製品の供給を行っている。
(2) 原告・被告間の継続的供給契約の成立
ア 原告は,平成8年7月から8月にかけて,被告が開催する研修を,受講
費用21万円を支払って原告組合員Aに受講させ,Aがフシルのライセンスを取得
したことにより,Aが被告の設立した「足と靴の科学研究所」のネットワークの会
員となり,原告が「足と靴の相談」業務を担当し,かつ,原告の発注に応じて被告
が補正し供給するセラピーシューズを,原告が販売するという継続的供給契約が成
立した。
被告の「足と靴の科学研究所」は,ネットワークの本部の機能を有し,
フシルのライセンスを取得したものは支部と称せられている。
また,顧客は1万円の入会費を支払うことにより「足と靴の科学研究
所」のネットワーク会員となることができるが,その入会費の1万円の半額500
0円ずつを本部と支部で折半するという内容であった。
このような契約関係は販売代理店契約に他ならず,原告と被告との間に
継続的供給契約が成立したものといえる。
イ 継続的供給契約成立を裏付ける事情
(ア) 商品の特殊性
原告が販売していた靴は,メーカーが大量生産して一般小売店で販売
するというものではなく,「足に合わせた靴」を販売するということで,当初か
ら,足と靴に悩んでいる顧客の一人一人の足に合わせた靴(補正靴)を作ることを
特色として,原告が顧客から補正のための情報(カルテ・フットプリント等によっ
て収集した情報)の提供を受けて,その情報をもとに被告が経営する「足と靴の科
学研究所」で靴を特定・補正した上で販売するという特殊な靴である。
(イ) 販売方法の特殊性
顧客は,一般の小売店で靴を買うのとは異なって,補正靴(セラピー
シューズ)を購入するためには,入会金1万円を支払って「足と靴の科学研究所」
の会員にならなければ補正靴を購入できないし,そのアフターサービスも受けられ
ないシステムとなっている。そして,その入会金は,本部と原告が半額ずつ受けと
ることになっている。
(ウ) 販売資格の特殊性
補正靴は,誰もが仕入れて販売できるというものではなく,被告の主
催する6日間の講習会(授業料21万円)を受講しなければ販売事業ができない。
原告も,Aほか2名の組合員が,有料の研修を受け,「足と靴の科学研究所」のネ
ットワークのメンバーとなって,セラピーシューズの販売事業を始めている。
(3) 被告による取引停止の通告
ア 被告は平成10年1月21日付内容証明郵便で,原告組合員Aの扱った
顧客の「補正」については取引を停止するとの通告を行った。
イ 同通告の理由が明確でなかったので,原告のAが,同月24日,被告に
問い合わせたが,被告は「Bという後ろ盾がなくなった。」というのみであった。
ウ 原告は,被告に対し,同年1月31日付の郵便文書で,補正発注を引き
続き受け入れるよう申し入れたが,これに対し,被告は補正だけでなく,靴の供給
も停止するとの通告をした。
エ そこで再度,原告から取引停止の理由を被告に明らかにするよう申し入
れたところ,被告は,原告に対し,同年3月2日付で回答書を送付し,取引停止の
理由として,a 原告との取引は,原告の相談役であったB並びに顧問のFとの信
頼関係を前提で始められたものであるが,この2人が原告の業務及び運営に,問題
があると言っていること,b 原告組合員Aが医療行為に直結することを行い,か
つ女性に不快感を与えたこと,c その直後に,Aが,被告代表者Cから研修を受
けずに行ってはならないと言われていたフットケア業務を行い,それを受けた顧客
から「1か月経っても爪の状態がおかしい。」との苦情が出ていることを挙げた。
オ なお,原告が同年1月31日以降も被告に対し補正及び靴の発注を続け
たところ,被告はこれらにいずれも応じて取引を継続してきたが,同年6月3日付
で,被告から,原告に対し,これまでのことは「当方内の手違いで起こったこと」
で,「今後はこのような依頼をお受けすることもできません。」との文書が送付さ
れてきた。
それ以降は,原告が被告に対し靴の補正の発注を行っても,被告から返
送され,原告・被告間の取引は最終的に停止された。
(4) 取引停止の違法性
ア 取引停止の理由のうち,Aによるセクハラについては,セクハラ問題を
訴えた組合員に確認したところ,結論としてセクハラはなかったということが確認
されており,その上で,Aは,仕事柄顧客の足・腰に触れなければならないことか
ら,その際に顧客に不快な思いをさせないよう細心の注意を払うこととするとの結
論に至った。
イ また,Aが医療行為に直結する行為を行ったというのは,原告の例会に
おいて上記セクハラ問題を取り上げた際,Aが「総合的に肩・腰の骨などの全般を
みて」と説明していることを指すものであるが,肩や腰のゆがみなどにより足に異
常な負荷がかかるなど,足と肩・腰とは関係が極めて大きいことは学説上も確立し
ており,Aがこの点に関して被告代表者Cに質問したところ,Cから体の歪みを直
すように指導することが必要であるとの回答を得ていたことに基づき,このような
説明を行ったのであり,被告から特に問題視される理由はない。
ウ フットケアを研修を受けずに行ったことについては,以下のように不当
なものである。すなわち,原告組合員でフットケアの講習に30万円の費用をかけ
て資格を取得した組合員が原告組合を平成10年12月に脱退してしまったため,
Aが被告のフットクリエートに相談したところ,そのフットクリエートは一旦「無
料で研修してあげます。」と言ってくれていたにもかかわらず,被告代表者Cが
「バランスが崩れる。」との理由で,無料での研修を認めなかった。そして,原告
には講習費の30万円を出す余裕がなかったので,結局Aは講習を受けなかった。
しかし,ケアがあることを期待して靴を買いに来る顧客も多く,フット
ケアができないではすまされないとの事情もあったので,原告は,① 顧客に対し
てケアの講習を受けていないことを断った上で,② ケアの料金は無料にし,③ 
さらにケアを受けるかどうかについては顧客の判断によるとの3つの条件を付け
て,10人ほどの顧客に対し,フットケアを行った。
そしてその後,顧客からのクレームが発生したことを伝えられた原告
は,直ちにケアを中止し,被告代表者にも謝罪し,その時は,被告代表者も特に問
題視されていなかった。
したがって,原告の行ったフットケアによって被告が相当の不利益を被
ったという事情は認められない。
エ 以上のように,取引停止の実質的な理由は存在しないにもかかわらず,
その後,被告がこれを問題にしてきたのは,原告組合員であるDと経理の問題で対
立し,休業していた組合員によるAの引き抜き工作にほかならない。
結局,本件取引停止は,経理の問題を起こした組合員及び「予約客すっ
ぽかし」等の問題を起こしBにAのセクハラ問題を告げた組合員に,B,Fが加担
し,Aを引き抜こうとしたものに他ならず,しかもB,Fは,前記組合員らを支援
して「フレンドリーライフ」なるセラピーシューズの販売とフットケアの店を原告
の事務所店舗と1㎞も離れていない近接地域で平成10年3月に開店しているので
あり,その意図は明らかである。
そもそも,本件取引は,原告の組合員3名がフシルの研修会を受講し,
原告が,被告と販売代理店契約を締結することにより開始したものであるから,原
告の取引の継続と組合の内部問題は別問題である。被告は,Bが原告の相談役を辞
任したという内部問題を取引停止事由とするものにすぎない。
よって,被告による本件取引停止は違法である。
(5) 損害
ア 得べかりし利益の喪失
(ア) 被告からの取引停止通告前の1年間(平成9年2月から平成10年

月まで)の売上総額は984万0642円であり,毎月の平均売上高は
82万0053円である。
これに対し,取引停止通告後の11か月間(平成10年2月から同年
12月まで)の売り上げ総額は185万6769円で,毎月の平均売上高は16万
8797円である。
売上高の約55%が仕入値となるので,売上高の45%が粗利であ
る。売上げに必要な諸経費について,取引停止により削減したものはない。
したがって,取引停止通告前の平均月額粗利と取引停止後の平均月額
粗利の差額の11か月分の得べかりし利益を喪失した。
(イ) この点被告は,損害の算出を直近の平成10年2月から5月までの
4か月とその後の同年6月から12月までの7か月を比較すべきであると主張し
て,原告の損害の請求は過大すぎると主張する。
しかし,原告は被告の違法な取引停止通告を受けた平成10年1月2
4日から,それまで企画していた各種イベントを,顧客に迷惑をかけないために取
り消し,販売営業活動を自粛していたのであるし,平成10年2月から5月までは
試験的に行った発注に基づく取引にしかすぎず,この取引でもって正常な取引期間
と同様の評価をして比較しようとすることは実態を伴わない比較である。
イ 信用失墜等の損害
原告は,被告との継続的供給契約の成立に伴い,開業に伴う初期の投資
として原告組合員A及び原告代表者Eのフシルの研修費として,被告に21万円ず
つを支払い,事務所開設費として91万円を投資した。
また,原告は,自らの事務所での「足と靴の相談」のみならず,自らが
主催する,「足と靴の健康講座」等の講座を積極的に開催し,販売促進に多大な努
力を積み重ねてきた。
さらに,特別養護老人ホーム等に出張し,「足と靴の相談」を行ってき
たものである。その結果,原告が営業範囲とする神戸・阪神地域において,原告の
扱うセラピーシューズの商品価値への認識が浸透し,次第に顧客が増大するととも
に信用が高まってきた。
しかし,被告の突然の取引停止によって,原告が積み重ねてきた営業努
力を無為に帰すとともに,築き上げてきた信用を失墜させるという重大な損害を与
えた。
また,原告は,会費を払って会員となった顧客に靴を供給できないばか
りか,アフターサービスとして行わなければならない修理も全く不可能となってし
まい,この点でも原告の信用は著しく傷つけられた。
よって,原告の同信用失墜等による損害額は500万円をくだらないも
のである。
(6) よって,原告は,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償
請求として,金837万8650円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平
成11年3月20日から支払済に至るまで,民事法定利率である年5分の割合によ
る金員の支払いを求める。
2 請求原因に対する認否及び被告の主張
(1) 請求原因(1)アのうち,原告が法人格を有していることは認め,その余は
知らない。
同(1)イのうち,セラピーシューズの補正等とその供給については,一定の
ノウハウを習得したフシルの講習修了者に限っていることは認め,その余は否認す
る。
フシルの運営上,ライセンスという免許的な表現は使用していない。フシ
ルは,Foot&Shoe Science Institute Labora
toryの略称であり,「足と靴の科学研究所」のもっている「足に優しい靴」の
ノウハウ全般を講習することを目的としている。従って,講習終了が,ただちに営
業と結びつくわけではないし,講習修了者を会員とする制度でもない。
(2) 同(2)は否認する。
ア 原告は支部ではない。支部を称するのは,2年間の講習を終え,補正技
術を身につけた上で,のれん料を支払うことが条件であり,補正技術もなく,フシ
ルの講習を終えただけの原告が支部を名乗ることはできない。
また,原告との取引の実体は,一般の卸と小売の関係である。毎月定期
的に注文を受けるわけでもなく,注文のない月もあり,数は一足でもかまわない
し,返品も認めている。
販売価格は,靴本体は定価の55%(原告の利益45%)補正は定価の
70%(原告の利益30%)である。
補正靴はアフターケアが必要であることから会員登録制を採用してお
り,その意味で顧客をネットワーク会員と呼ぶことは正しいが,フシルの講習修了
者を会員と称するのは誤りである。
入会金は,補正靴のユーザーに対するアフターケアのための登録が目的
であり,被告が補正を行った場合に,責任の所在を明らかにするために5000円
を代価として請求しているものであり,1万円を原告と被告が折半するという性格
のものではない。したがって,会員として入会しても被告の方で補正をしない場合
には,被告が5000円を請求することはない。
このような実体を有する原告・被告間の取引は,基本的には補正に関す
る付随契約付の売買契約であり,原告の主張する継続的取引契約とはとうていいえ
ない。
イ そもそも原告と被告との取引は,平成8年4月頃,Bから,被災地の失
業者が再建に向けて一生懸命頑張っているからその事業の一助としてフシルとのか
かわりを持たせてほしいとの申し入れがあったことが始まりである。
被告は,被災者支援の立場から,他のフシル受講者とは全く異なる視点
で,できるだけ費用をかけない方法で原告の事業を軌道に乗せることに努めた。ま
た,企業組合賛助会に参加し,賛助会員としても原告を支援することとした。
被告は,平成8年7月から9月にかけて講習を受けたAに対し,靴医学
界の活用を提案するとともに,学会への参加手続き,マスコミへの協力依頼,諸経
費の負担等の便宜を図った。
また,早期自立を希望しているとのことであったため,補正技術習得の
ためのアカデミーを急遽実施することとし,組合の資金不足を考慮し,受講料の後
払い,分割払いという特別扱いをして平成9年4月の開講を準備した。もっとも,
この時はEが組合内部の調整がつかないということで参加せず,組合の参加がない
まま採算割れ状態で開講した。
このように,原告と被告との関係は,当初より対等な商取引関係ではな
く,原告に対する被告の被災者を支援するという道義的な気持ちを核とする一方的
な協力関係の色彩を強く有した取引関係であった。
(3) 同(3)のやりとりは概ね認める。
(4) 同(4)は否認ないし争う。
もともと原告との関わりは,組合の結成前から原告のために尽力していた
Bから,被災地の失業者たちが再建に向けて一生懸命頑張っているので,その事業
の一助として,フシルとの関わりを持たせてくれないかとの話があり,被告として
も,信頼するB,Fがそれぞれ組合相談役,顧問として組合の活動を支えていくと
いう前提で取引等に応じたものである。
したがって,取引停止の一番の理由は,Bらが被告と原告との仲立ちをす
ることができない旨の連絡を受け,相談役,顧問の方が話をしてもそれを受け入れ
ようとしない原告の体質に失望したこと,及び,B,Fの両名が事実上原告の活動
から手を引けば,取引継続の前提を欠くと判断したからである。
その他にも,Aが顧客にセクハラ行為をし,顧客から抗議された事実,A
が研修を受けていないにもかかわらずフットケアを行い,顧客から痛いなどという
苦情が被告に寄せられた事実があり,Aを本件業務からはずすよう求めてきたもの
であるが,顧客から苦情があったという事実があるにもかかわらずセクハラ行為で
はなく,たいした問題ではないと強弁に終始している。
B,Fも,辞任の理由としてセクハラ等の問題があったにもかかわらずそ
れをそう認識していない原告の体質を問題としており,被告もまさに同じ認識であ
る。
被告は,このような認識から,このままAを業務に従事させるのであれ
ば,原告との取引を停止する旨通知した。
ただ,原告及び顧客の状況を勘案し,原告代表者がそれを引き続き行うの
であればそれはそれでかまわない旨あわせて通知しており,一刀両断の最後通告を
したわけではないが,経過は,原告は,何ら反省もなく,相談役らを批判するのみ
であった。
したがって,これら理由による取引停止は,何ら不当違法と指摘されるも
のではなく,正当な行為といえる。
(5) 同(5)は争う。
ア 原告は,平成9年2月から平成10年1月までの売上げの推移と,同年
2月から同年12月までの売上げの比較をもとに,その損害を計上している。
しかし,原告自身自認しているように,被告が取引停止期限として通知
した平成10年1月以降も,同年6月3日頃までは事実上補正及び靴の発注を続
け,被告はこれに応じて取引を継続していた。
したがって,少なくとも同期間中は損害が生じていたとはいえない。む
しろ,平成10年2月から同年5月までの期間が,当時の靴等の売上げ状況を反映
しているものである。
なぜなら,平成9年2月から平成10年1月までの間は,開店直後新聞
報道などによるマスコミ効果あるいは被災地支援の協力者の購入等から売上げが急
増した期間であるからである。その後,次第に同効果は収束し,平成9年9月以降
は靴の販売,フットケアを含めても50万円を超えたことは2回だけであり,これ
が当時の取引実態である。
仮に被告の取引停止を理由に損害が生じたとしても,上記のとおり,直
近の4か月の売上げとの差額を損害の根拠とすべきであり,同期間の設定が妥当で
ないとしても,通常損害賠償案件で収入期間として考えられる半年あるいは1年を
基準とすべきである。ただ,前記支援者の協力という一時的事情を背景としている
ことからすれば,収入期間は半年と考えるのが合理的である。
イ 粗利について
原告の損害計算は,売上げから仕入れ費用を引いた粗利が45%である
とし,平成9年2月から平成10年1月までの粗利と,平成10年2月から同年1
2月までの粗利を比較し,差額を損害としている。
しかし,仕入れ価格は定価の55%(原告の利益45%),補正価格は
定価の70%(原告の利益30%)である。ここから本来であれば販売経費がかか
るが,原告は諸経費が変わっていないという理由でこれを控除していない。しか
し,販売経費分の控除はされるべきであり,粗利が45%であるということは不合
理である。
ウ 損害額について
仮に粗利が45%であるとしても,比べるべき期間は前記のとおりであ
り,直近の平成10年2月から同年5月までの売上げは計126万8649円であ
り,月平均31万7163円として粗利は14万2723円である。
そして,その後の6月から12月までの売上げは,55万7624円,
1か月平均7万9660円である。
そうすると,損害は14万2723円から7万9660円を引いた6万
3063円の7か月分の44万円あまりにすぎない。
理由
1 請求原因について
(1) 原告が法人格を有することは当事者間に争いがなく,証拠(甲1ないし1
8,乙2ないし5,原告代表者,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,以下の
事実が認められる。
ア 当事者
原告は,阪神・淡路大震災後,震災による失業者で設立された「被災地
雇用と生活要求者組合」を母体として設立された組合である。原告は,「被災地ワ
ーカーズコープ」の名称で,フットケア,靴の販売及び靴の補正を内容とする営業
をしている。
被告は,「足と靴の科学研究所」を設置しており,セラピーシューズの
供給及び補正等を行っている。
被告代表者Cは,約10年ほど前から,ドイツの整形外科靴マイスター
から,補正靴の技術等を教わっていた。また,医師の講義を受けるなどして足と靴
の関係についての勉強も行っていた。もっとも,現在,日本では,足に特化した教
育機関はないため,補正靴の技術の習得は基本的には独学にならざるを得なかっ
た。
イ フシルのシステム
フシルとは「Foot&Shoe Science Institut
e Laboratory」の略称であり,「足と靴の科学研究所」の持っている
「足に優しい靴」のノウハウ全般を講習することを目的としている。フシルの講習
では,身体上の問題,足の疾患とその原因について,身体上の問題や足の疾患と靴
との関係,足型をとる技術及び補正靴に関する説明等の講習があり,靴の販売を目
的とする者のほか,保健婦,健康士,整形外科関係者など,靴販売とは無関係の者
も参加している。
そして,単に被告の卸す靴を販売するだけであればフシルの講習を受け
る必要はないが,被告が補正した靴を販売する場合には,フシルの講習を受けてい
ることが前提となっていた。
被告はフシルの他,フット&シュー・アカデミーを行っている。フット
&シュー・アカデミーでは,ドイツ整形外科靴マイスターのノウハウ獲得を目的と
し,ドイツ整形外科靴マイスター学校で使用されているテキストと同様のテキスト
の翻訳本を使用し,視診・問診・触診方法,フットプリントの採取方法,補正方
法,足底靴の制作方法等を学んでいる。
被告は,フシルは,ソフト情報の収集のための必要最小限の知識及び技
術の取得を目的するものと位置づけ,それを超えるフットケアなどは,フット&シ
ュー・アカデミー受講者でなければ行わせないとの見解を有していた。
ウ 原告・被告間での契約の成立
Bは,被災地支援の目的で神戸で活動をしていた。Bは,原告に対し,
補正靴を扱っている会社が名古屋にあるので,原告が補正靴を販売できるよう交渉
したいと申し入れた。原告はこれを了承し,Bに,被告との仲介役を依頼した。
被告とBとの交渉の結果,原告組合員がフシルの研修に参加し,補正靴
の基礎的知識を学んだ上,補正靴の販売から取り組みを始めるということで双方の
意見が一致した。
そこで原告は,被告の補正靴を取り扱うことを目的として,平成8年6
月頃から同年9月頃まで,原告の組合員であるAに,フシルの講習を受講させた。
そして,Aがフシルの講習を終了した平成8年9月頃,原告と被告との間で,原告
が,顧客の足の状態,ひざ,腰の状態の観察,フットプリントの採取を行い,同デ
ータを被告に送り,被告が,同データを元にして靴を補正し,原告に送付したもの
を原告が顧客に販売するという販売体制を内容とする契約が成立した。
原告の営業内容は,フットケア(フットバス(足浴),タコ・ウオノ
メ・角質の除去等),足と靴の相談(足のカルテの作成,足と靴についてのアドバ
イス,靴の補正,アフターケア),補正靴の販売であった。
原告が販売している補正靴としては,ショットシューズ,ショットパン
プス,オフィス用シューズ,ナースシューズ,リウマチ・糖尿病・高齢の方のため
の靴,子供靴等があった。
顧客は,初めて原告に補正靴の注文または自分の靴の補正を依頼する場
合,入会金として,原告に対し1万円を支払うこととなっており,同1万円は,原
告と被告とが5000円ずつ折半することになっていた。
原告は,補正靴に関しては,被告のみを取引相手としており,他の業者
から補正靴を仕入れることはなかった。また,靴の補正についても,原告が作成し
た足のカルテ等をもとに,被告に補正を依頼していた。
エ 契約関係の終了
11月頃,Aが顧客に対してセクハラ行為を行ったということが問題と
なった。
原告は,平成年11月5日に例会を開催し,Aのセクハラ問題について
検討をした。その結果,Aが,フットケアの際に顧客の腰や肩の骨にさわったこと
は事実であるが,Bが指摘する,重大なセクハラではなかったとの確認をし,その
旨,被告に伝えた。
また,11月初旬頃,Aが顧客のフットケアを行ったことについて,1
2月20日頃,顧客から爪の表面に凹凸が生じた等の苦情が被告に寄せられた。
Aは,顧客からの苦情に対し,非を認め,その後はフットケアを行って
いない。
被告は,平成10年1月21日付で,原告に対し,Aとの取引は終了す
ること,取引関係を継続したい場合には,EがAの仕事を受け継ぐこととし,その
際にはEの技量の確認及び必要に応じた追加研修を受けることを条件として提示し
た。
この間,Aは,正月にCと面会をしているほか,フットケアを行ったこ
とについての謝罪の電話をしているが,Cからは,Aを原告の仕事からはずすよう
指示されたことはなかった。
その後,数度にわたり,原告・被告間で契約の終了に関する理由の開示
等についての双方の意見のやりとりなどをしたが,結局折り合いがつかず,平成1
0年6月3日付書面にて,原告・被告間の取引関係は終了した。この間,被告は,
内部的な手続のミスにより,原告からの注文に応じていた。
オ その後の事情
原告が最初に被告から取引停止の通知をうけてから,新たな仕入れ先を
開拓するまでに,約11か月かかった。
(2) 継続的契約関係の成否
当事者間の契約関係が継続的契約であるかどうかは,その取引の種類,態
様,支払手段,契約当事者の意思などの諸般の事情を総合的に考慮して決せられる
べきものである。
本件では,前記認定事実によれば,原告は,靴の販売及び靴の補正を営業
内容としており,そのことは被告も認識していたこと,補正を前提とした補正靴の
販売を目的として被告との取引をするためには,被告が主催するフシルの講習を受
けていることが必要であること,補正靴の購入者は購入時(補正のみの場合には補
正時)に入会金として1万円を支払う必要があり,受け取った入会金は原告と被告
が5000円ずつ取得するシステムになっていること,原告は補正靴を被告からし
か仕入れていなかったことが認められ,このような取引状況からすれば,原告・被
告間の本件取引は継続的契約であったと認められる。
(3) 継続的契約関係の解除事由の有無
継続的契約関係は当事者間の信頼関係を基礎とし,契約関係の維持・継続
を前提とすることから,公平の原則ないし信義誠実の原則に照らして,相手方が信
頼関係を破壊するような行為を行うとか,相手方に著しい信用不安があり,契約を
継続することにより損害を生じるおそれがあるなど,やむを得ない理由がある場合
に,契約を解除することができると解すべきである。
前記認定事実によれば,Aのセクハラ問題が発生した際には,原告は内部
で検討会を開き,事実関係の確認等を行っていること,Aがフットケアを行ったこ
とにより顧客から苦情が生じた際には,Aは直ちに謝罪をし,その後Aのフットケ
アサービスは直ちに中止されていることが認められ,これらの事実からすれば,原
告は問題が生じた場合には直ちに問題点の検討をし,一定の回答を示しているとい
える。このような原告の態度からすれば,原告と被告との間の信頼関係が破壊され
たとまではいえない。
この点被告は,契約関係の解除事由として,本件取引開始時の仲介者であ
り,また被告が信頼をおいていたB及びFが組合を辞めたこと,Aが講習も受けず
に無料とはいえフットケアを行い,顧客から苦情が出たこと,Aのセクハラ問題疑
惑があったこと,Aの手法が我流であったことなど,原告の体質自体に問題がある
との主張をする。
しかし,本件の契約関係はあくまで原告と被告との間に存在するものであ
り,仲介人であるBらが組合を辞めたことが直ちに取引の継続を困難にする事情で
あるとはいえず,また,前記のように,原告は問題が発生する毎に組合内で対応を
し,問題に対する回答,対応を示していること,補正靴については専門的な教育機
関がなく,各人が独自に勉強をする必要があることから,Aの手法もCの眼から見
て我流であるというにすぎないことなどからすれば,被告主張の各事実は本件取引
停止の理由とはならないというべきである。
よって,被告の本件取引の停止には何ら理由がなく,違法なものであると
いえる。
(4) 損害及び数額
ア 得べかりし利益の喪失
(ア) 原告の逸失利益の計算方法
原告は,被告の違法な取引停止により,取引停止がなされなければ得
られていたであろう利益を得ることができなくなった。原告・被告間の取引におい
て,靴の販売における原告の粗利が45%であることは当事者間に争いがなく,証
拠上,補正にかかる原告の粗利が45%であることを認めることはできないから,
被告が認める粗利30%で計算すべきである。
また,原告は,取引停止前後において,補正靴の販売等にかかる経費
で増減したものはないから,経費は控除すべきではないと主張する。しかし,原告
は販売業を営んでいる以上,補正靴の販売等に係る直接経費(包装費,配送・販売
管理費等)を当然要するはずであり(これらの費用がかからなかったことを認める
に足りる証拠はない。),同経費については販売数等によって増減するものである
から,同経費分は逸失利益の算定において粗利から控除すべきである。よって,民
事訴訟法248条の趣旨に照らして,前記粗利の10%を直接経費として,逸失利
益から控除すべきと解する。
(イ) 逸失利益の算出期間
取引期間について,確かに被告が原告に対して取引停止を通知した平
成10年1月21日以降も被告は原告からの注文などに応じており,また,顧客へ
のアフターケアについても,顧客から被告へ連絡があればこれに応じる旨原告に伝
えている(甲10)。しかし,一度取引停止が通知されている以上,原告としても
通常の取引と全く同様に被告との取引を継続していくことが困難であったことは容
易に想像できるし,被告自身も原告の注文に応じたことは被告の手違いであった旨
認めている(甲10)ことからすれば,取引停止通知後,原告・被告間の取引が完
全に終了するまでの間についても,取引停止により損失が生じている期間と考える
べきである。
また,原告の開店当初の宣伝効果,被災地救済効果等についても原告
の性格や宣伝によるものであるから,同効果が生じていたと考えられる期間につい
ても,逸失利益の算出期間から控除する必要はないと解する。
よって,取引停止通知日である平成10年1月21日までの1年間の
月平均利益と,取引停止通知日後,原告が新たな仕入れ先を開拓するまでの約11
か月間の月平均利益との差額が原告の1か月分の逸失利益であるといえ,その11
か月分が本件における原告の逸失利益であるといえる。
(ウ) 以上を前提とした場合,前記認定事実に加え,証拠(甲15,1
6,18)及び弁論の全趣旨によれば,別紙計算書1及び2記載のとおり,原告の
取引停止前の月平均利益は金21万3944円,取引停止後の月平均利益は金7万
6003円であるから,原告の逸失利益は,金151万7351円である。
なお,別紙の計算に際しては,証拠上,靴販売であるか補正であるか
不明確なものについては一律に補正の際の利益率で計算をし,靴販売・靴補正と他
の項目(フットケア等)が区別不能であるものについては証明がないものとして,
売上げとして算出していない。ただし,靴販売・補正と入会金のみとが合算されて
いることが証拠上明らかなものについては,証拠上の金額から1万円を引いた額を
売上げとして計算している(備考欄に「1万円は入会金。」と記載のあるも
の。)。
イ 信用失墜による損害
前記認定事実によれば,原告は被告の違法な取引停止により,新たに取
引先を開拓するまでの約11か月間にわたり,入会料を支払って会員となった者ら
に対し,補正靴の販売や,販売した靴の補正等に応じることができなかったもので
あり,そのことにより原告の社会的信用が害されたであろうことは容易に推認でき
るが,かかる信用失墜による損失も,前記逸失利益の算定において考慮されている
ことからすれば,信用失墜による損害を別途損害として認めることはできないとい
うべきである。
第3 結語
以上によれば,原告の請求は主文掲記の限度で理由があるからこれを認容
し,その余は理由がないので棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法
64条,61条を適用して,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第5民事部
裁判長裁判官     前坂 光雄
裁判官永田 眞理
裁判官藤倉 徹也

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