弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人田村誠一の控訴趣意は同人提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、こ
こにこれを引用する。
 控訴趣意第一点(法令違反)について
 火薬類取締法が定める火薬類取扱主任者の職務内容についての直接規定は同法第
三十条第二項、第三十二条だけであることは所論のとおりである。
 而して同法第三十条第二項によると「火薬類の所有者若しくは占有者(中略)は
火薬類取締主任者を選任し、火薬類の貯蔵又は消費に係る保安について監督を行わ
せなければならない」と規定しており、右に所謂「貯蔵又は消費」とは火薬類の運
搬とは全然別個の行為のように解されること同法第一条が「運搬」を「貯蔵」「消
費」とは一応別個の行為概念として取扱つている規定の体裁上肯定されないわけで
はない。しかし火薬の運搬という行為は必ずしも常に貯蔵や消費と全く別個に独立
したものとして行われるわけではなく、場合によつては貯蔵、消費の行為の実現過
程の中に於て之等の行為の内容に包含されるか尠くとも密接な関係にある場合がす
くなくないのであつて当該「運搬」が「貯蔵」「消費」に関係あるかどうかは結局
は具体的事情について判断しなければならないこととなるのである。
 本件においては、原判決判示の火薬は、A株式会社において終戦後北海道庁から
払下げを受けて使用していたものであるが、同社所有の火薬庫が不備であつたので
北見市所在B店に依頼して前記火薬を同店火薬庫に貯蔵保管していたものを、昭和
二十七年七月頃同社火薬庫が新設完成したので同年十一月下旬B方から取戻す為同
店から前記会社火薬庫迄運搬したものであることが原判決挙示の証拠によつて認め
られるのである。
 であるから右の運搬は判示会社が自己の火薬の消費貯蔵の為の一過程としてなし
たものであり、結局本件火薬の運搬は判示会社の火薬の消費乃至貯蔵の行為と密接
不可分の関係にあるといわなければならない。
 <要旨>斯く解すると、右火薬の運搬につき現実の運搬者が火薬類取締法第十九条
所定の運搬の制限に忠実に従うよう万全の措置を採ることが取りも直さず取
扱主任者に科せられる同条所定の火薬類の貯蔵又は消費に係る保安についての監督
に関する職務であり、取扱主任者は同法第三十二条に従つて誠実にその職務を遂行
しなければならない責任を負うこととなるのである。而して、若し右職務の遂行に
欠くるところがあり、その結果現実の運搬従事者に前記制限の規定に違反する行為
があつた場合には、取扱主任者として固有の責任として同条違反の処罰規定が適用
されることは事明の理である。
 これを本件についてみるのに、原判決引用の証拠によれば被告人はCをして馬車
で本件火薬を運搬させるにあたつて火薬運搬について一定基準があることを知りな
がらそのとおりにしなくても大したことはないと考え、同人に見張をつけることを
忘れ又所定の標識をも渡してなかつたという事実が明かに認められるのであるから
原判決が被告人の行為が直ちに火薬類取締法第十九条第二項同法施行令第五条第一
号第二号に違反するものとして同法第六十条第一号を適用処断したことは右法令の
解釈適用を誤つたものではない。
 控訴趣意第二点(訴訟手続の違反)について
 原判決は右に説明したとおり、被告人に対し単独固有の違反行為ありとして火薬
類取締法規の該当法条を適用したものであるから、更に刑法第六十条の共同正犯に
関する規定や火薬類取締法第六十二条の両罰規定を適用する余地は全く存しないの
である。されば原審が右両個の規定による責任の所在を明確にしなかつた点は何等
訴訟手続に法令の違反があるものではない。又論旨の指摘する起訴事実中「会社の
業務に関し」なる点は起訴状記載の被告人A株式会社に対する両罰規定の適用のた
めの処罰条件として記載されたものであつて被告人自体に対する訴因たる事実とは
無関係であることは火薬類取締法第六十二条の規定の解釈上疑のないところであ
る。従つて原審が被告人のみの本件公判審理においてこの点につき何等取調べをな
さず延いて訴因変更等の処置に出でなかつたことは洵に当然の措置であつてその間
何等法令の違反はないのである。論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべきものとし同法第百
八十一条第一項に従い当審における訴訟費用は被告人の負担とし主文のとおり判決
する。
 (裁判長判事 熊谷直之助 判事 笠井寅雄 判事 宇野茂夫)

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