弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
原決定を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 抗告人の抗告理由(ただし、平成一一年一一月二二日付け抗告許可申立書一項及
び二項記載の抗告理由を除く。)について
 破産法三六六条ノ二〇により準用される同法一一二条後段の規定の趣旨及び文言、
多数の利害関係人について集団的処理の要請される破産法上の手続においては不服
申立期間も画一的に定まる方が望ましいこと等に照らすと、【要旨】免責決定が公
告された場合における即時抗告期間は、破産法上公告が必要的とされている決定に
ついての即時抗告期間と同様に、公告のあった日より起算して二週間であり、この
ことは、免責決定の送達を受けた破産債権者についても、異なるところはないもの
と解するのが相当である。そして、本件の免責決定は平成一一年七月二八日に抗告
人に送達されているが、これが官報に掲載されて公告されたのは同年八月一二日で
あるから、同月二六日に抗告人のした即時抗告は、即時抗告期間内にされた適法な
ものということができる。
 そうすると、本件の即時抗告期間を抗告人が免責決定の送達を受けた日から一週
間であり、本件の即時抗告を右期間の経過後にされた不適法なものであるとして却
下した原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論
旨は理由があり、その余の抗告理由について判断するまでもなく、原決定は破棄を
免れない。そして、抗告人の即時抗告に理由があるか否かについて更に審理を遂げ
させるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官千種秀夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文
のとおり決定する。
 裁判官千種秀夫の補足意見は、次のとおりである。
 私は、法廷意見のよってきたる理由については、より明確にすべき点があると考
え、若干補足して意見を述べたい。
一 民事訴訟手続における決定、命令は、相当の方法で告知することにより効力を
生じるが(民訴法一一九条)、即時抗告の許される決定、命令については、即時抗
告期間の起算点を明らかにするため、送達の方法により告知することが行われる。
一方、破産法上の手続に関する裁判に対しては即時抗告が許され、その告知方法は
送達によるが、公告をもって代えることができるとされている(破産法一一一条、
一一二条、一一七条、三六六条ノ二〇)。このように公告をもって送達に代えるこ
ととした趣旨は、破産法上の手続においては、利害関係人が申立人及びその相手方
に限られず、その所在も分明でないことがあるため、公にその内容を告知し、利害
関係人がすべて裁判内容を了知したものと擬制して、手続の安定を図ろうとするも
のである。送達と公告とでは、利害関係人にとって、前者の方がより確実な告知方
法であるが、他面、破産法上の手続においては、すべての利害関係人に対し、短期
間に、一律に裁判内容を告知せしめる必要があり、そのために公告の手続が余儀な
くされるのであって、そのような者との関係では、不服申立期間も公告の時を基準
とせざるを得ない。破産法一一二条前段が、利害関係人に即時抗告の権利を与え、
かつ、その後段において、不服申立期間を、公告のあったときは、公告から二週間
としているのはそのためである。
二 それでは、本件のように、免責決定が異議申立人に特別送達の方法で告知され
るとともに、公告もされた場合はどのように解すべきか。送達の趣旨について前述
したところからすれば、送達から一週間以内に即時抗告をしなければ、当該受送達
者は不服申立権を失うとすることには一応の合理的理由がある。しかし、公告がさ
れた場合には、すべての利害関係人は、公告から二週間で不服申立権を失うとされ
ている以上、別途送達を受けた者、あるいはその後に送達を受ける者も、右の時点
で一律に不服申立権を失うものと解せざるを得ない。そこで、この両者の効果が重
畳した場合、不服申立期間は、送達を受けた時から一週間か、公告から二週間のい
ずれか早い方であるとする原審の考え方も一理あるということができる。
三 しかしながら、破産法上の手続のような集団的権利関係の処理においては、画
一的処理による確実性、能率的事務処理による手続の迅速性、手続の全体的な安定
性等への配慮も欠かすことができず、知られざる利害関係人もいることから、公告
の手続が多く利用されるのであって、送達を受けた者についてのみ個別的に即時抗
告期間を起算することは、破産法上の手続に関する裁判に画一的に不可争性を付与
して手続の進行を安定させるという目的に沿わないのである。
 しかも、免責決定の公告に加えて、免責申立てにつき異議申立てをした債権者に
対してされる免責決定の送達は、本来免責手続の当事者として手続に関与している
者への送達とは趣を異にする。すなわち、異議を申し立てた債権者は、単に裁判所
の職権の発動を促すために異議を申し立てているにすぎず、裁判所に対し、その異
議申立てに対する判断を求めているものではない。したがって、異議に理由がなく
てもその異議が却下されることはないのであり、免責決定の送達も、異議が採り上
げられなかったことの通知の意味しかない。そうであれば、免責決定について公告
がされるときは、この送達には余り重きをおいて考える必要はなく、免責決定に対
する不服申立ての期間を他の利害関係人と同じく公告から二週間として一律に処理
することは、合理的であるといえるのである。
 もっとも、送達をしたが公告をするか否かが長期間分からないような事態が生じ、
免責決定の確定時期がいつであるか分明でないことになれば、手続の安定性を害す
ること甚だしい。したがって、今後の実務においては、免責決定は必ず公告するこ
ととし、これに対する不服申立期間は公告から二週間と統一することが、手続の安
定性と簡易迅速性を確保するために必要である。
四 以上は、単なる法文の字義の解釈にとどまらず、政策的配慮によるものとの見
方もあり得よう。しかしながら、今日の大量の自己破産及び免責の申立て事件は、
破産法の制定当時には想定されていなかった事態であって、急激な社会的変化の中
で、法的整備が整わない状況の下では、与えられた条件の中で最も適当な手続形態
を定め、それに合致した解釈を樹立して、統一的手続を確立していくことも肝要で
あり、殊に破産、執行等の本来の訴訟事件と異なる手続については、その配慮が必
要である。新しい民訴法になり、許可抗告の制度が設けられたのも、そのような実
務の必要をおもんぱかってのことと理解できるのであって、本件が原審の許可決定
に基づくものであることを考慮し、あえてその理由を詳述した次第である。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 奥田
昌道)

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