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平成17年(行ケ)第10790号審決取消請求事件
平成18年7月12日判決言渡,平成18年6月14日口頭弁論終結
判決
原告サムスンエレクトロニクスカンパニーリミテッド
代理人弁理士伊東忠彦,湯原忠男,大貫進介,伊東忠重
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人長島孝志,山本春樹,小池正彦,田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が不服2003-6285号事件について平成17年6月28日にした
審決を取り消す。」との判決。
第2事案の概要
本件は,拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事
案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,1998(平成10年)6月24日(パリ条約に基づく優先権主
張1997年(平成9年)6月25日,同年9月22日,米国),発明の名称を
「ホームネットワーク自動ツリー生成器に対する方法及び装置」とする特許出願
(請求項の数8)をし,平成13年12月14日付け手続補正書により,明細書を
補正した(甲1,2)。
(2)原告は,平成14年12月27日付けの拒絶査定を受けたので,平成15
年4月14日,拒絶査定に対する審判を請求し(不服2003-6285号事件と
して係属),さらに,同年5月14日付け手続補正書により,明細書を補正した
(甲3,以下「本件補正」という。)。
(3)特許庁は,平成17年6月28日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をし,同年7月12日,その謄本を原告に送達した。
2特許請求の範囲の記載
(1)本件補正前のもの(平成13年12月14日付けの補正後のもの)
「1.ホームネットワークに現在連結された家電機器をアクセスするためのイン
タフェースを提供する方法において,
(a)ホームネットワークに現在連結された家電機器を識別する家電機器リンクフ
ァイルを発生する段階と,
(b)前記家電機器リンクファイルで識別された対応する家電機器に対して,少な
くとも一つのグラフィカルあるいはテキスチュアル表現を有する家電機器リンクペ
ージを生成する段階と,
(c)家電機器の表現に関連される家電機器に含まれているウェブページにリンク
を提供するハイパーテキストリンクと前記家電機器の表現のそれぞれとを関連付け
る段階と,
(d)家電機器に基づくブラウザー上に前記家電機器リンクページをディスプレー
する段階とを含むことを特徴とする方法。
2.機器リンクファイルを発生する段階は,ホームネットワークに連結された
家電機器を検出する段階と,論理的機器名を前記家電機器と関連付ける段階と,
前記論理的機器名を機器リンクファイルに貯蔵する段階とを含むことを特徴とする
請求項1に記載の方法。
3.機器リンクページを生成する段階は,前記機器リンクファイルから論理的
機器名を検索する段階と,その論理的機器名を機器リンクページに貯蔵する段階
と,その論理的機器名を機器ボタンに変換する段階とを含むことを特徴とする請求
項1に記載の方法。
4.機器リンクページを生成する段階は,家電機器から機器アイコンイメージ
を検索する段階と,機器アイコンイメージに基づいて機器ボタンを生成する段階
と,その機器ボタンを機器リンクページに貯蔵する段階とを含むことを特徴とする
請求項1に記載の方法。
5.機器リンクページを生成する段階は,家電機器から機器ロゴイメージを検
索する段階と,機器ロゴイメージに基づいて製造者機器ボタンを生成する段階
と,その製造者機器ボタンを機器リンクページに貯蔵する段階とを含むことを特
徴とする請求項1に記載の方法。
6.ハイパー-テキストリンクを各機器ボタンと関連付ける段階は,家電機器と
関連された所有ファイルで管理されるURLをその家電機器から検索する段階と,そ
のURLをその家電機器と関連された機器ボタンと関連付ける段階とを含むことを特
徴とする請求項1に記載の方法。
7.製造者機器ボタンを機器リンクページに貯蔵する段階は,製造者機器ボタン
を機器リンクページの使用者定義可能領域に貯蔵する段階を含むことを特徴とする
請求項6に記載の方法。
8.家電機器からURLを検索する段階は,家電機器に貯蔵された所有ファイルか
らURLを検索する段階を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。」
(2)本件補正後のもの
本件補正は,請求項1を下線部のとおり変更するものである(請求項2以下の記
載は省略)。
「【請求項1】ホームネットワークに現在連結された家電機器をアクセスするた
めのインタフェースを提供する方法において,
(a)ホームネットワークに現在連結された家電機器を識別する家電機器リンクフ
ァイルを発生する段階と,
(b)前記家電機器リンクファイルで識別された対応する家電機器に対して,少な
くとも一つのグラフィカルあるいはテキスチュアル表現を有する家電機器リンクペ
ージを生成する段階と,
(c)家電機器の表現に関連される家電機器によって提供される家電機器の機能又
は状態情報を表現するウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクと
前記家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階と,
(d)家電機器に基づくブラウザー上に前記家電機器リンクページをディスプレー
する段階とを含むことを特徴とする方法。」
3審決の理由の要旨
審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件補正後の請求項1に係る
発明(以下「補正発明」という。)は,引用例1,2に記載の発明及び周知の事項
に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,本件補正は,特許法
(平成15年法律第47号による改正前のもの,以下同じ。)17条の2第5項で
準用する同法126条4項の規定に違反し,特許法159条1項で準用する同法5
3条1項の規定により却下されるべきであり,本件補正前の請求項1に係る発明
(以下「本願発明」という。)は,引用例1,2に記載の発明及び上記周知の事項
に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項の規
定により特許を受けることができない,というものである。
()本件補正についての補正却下の決定1
[補正却下の決定の結論]
平成15年5月14日付けの手続補正を却下する。
[理由]
ア本件補正は,特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当す
る。
そこで,補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条
の2第5項において準用する同法126条4項の規定に適合するか)について,以下に検討する。
イ特開平7-44477号公報(本訴甲4,以下「引用例1」という。)には,次の発明が記載
されているものと認められる(以下「引用例1記載の発明」という。)。
「LANに現在連結されたマルチメディア機器をアクセスするためのインタフェースを提供する方
法において,
()LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階と,a
()前記リンクファイルで識別された対応するマルチメディア機器に対して,少なくとも一つのグb
ラフィカルあるいはテキスチュアル表現を有する情報を生成する段階と,
()前記情報をディスプレーする段階とを含む方法。」d
特開平9-146973号公報(本訴甲5,以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載
されているものと認められる。
「分散ハイパーテキストビューワを備えた複数の装置をネットワークに接続して,各装置において
ウェブページへのリンクを行い,リンクページの表示を行うこと。」
ウ対比
補正発明と引用例1記載の発明とを対比すると,まず,引用例1記載の発明における「マルチメデ
ィア機器」は,「デジタルVTR機器」や「デジタルカメラ機器」等の家電機器であるので,補正発
明における「家電機器」に相当する。
また,引用例1記載の発明における「LAN」は,上記「マルチメディア機器」,すなわち「デジ
タルVTR機器」や「デジタルカメラ機器」等の家電機器を接続するネットワークであるので,補正
発明における「ホームネットワーク」に相当するということができ,引用例1記載の発明における
「LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリンクファイル」は,補正発明における
「ホームネットワークに現在連結された家電機器を識別する家電機器リンクファイル」に相当すると
いうことができる。
そして,補正発明における「家電機器リンクページ」も,家電機器に関連する「情報」であること
には変わりない。
よって,補正発明と引用例1記載の発明とは,ともに,
「ホームネットワークに現在連結された家電機器をアクセスするためのインタフェースを提供する方
法において,
()ホームネットワークに現在連結された家電機器を識別する家電機器リンクファイルを発生するa
段階と,
()前記家電機器リンクファイルで識別された対応する家電機器に対して,少なくとも一つのグラb
フィカルあるいはテキスチュアル表現を有する情報を生成する段階と,
()前記情報をディスプレーする段階とを含む方法。」d
である点で一致し,次の点で相違する。
相違点:補正発明は,「()家電機器の表現に関連される家電機器によって提供される家電機器c
の機能又は状態情報を表現するウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリンクと前記家電
機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階」を有し,「家電機器リンクファイルで識別された対応す
る家電機器に対して生成する,少なくとも一つのグラフィカルあるいはテキスチュアル表現を有する
情報」が「家電機器リンクページ」であり,「情報をディスプレーする段階」が「家電機器に基づく
ブラウザー上に家電機器リンクページをディスプレーする段階」であるのに対し,引用例1記載の発
明は,上記()の段階を有しておらず,「家電機器リンクファイルで識別された対応する家電機器にc
対して生成する,少なくとも一つのグラフィカルあるいはテキスチュアル表現を有する情報」は「家
電機器リンクページ」ではなく,「情報をディスプレーする段階」は「家電機器に基づくブラウザー
上に家電機器リンクページをディスプレーする段階」ではない点。
エ判断
そこで,上記相違点について検討する。
引用例2に見られるように,一般に,ネットワークに接続した装置において,各装置にハイパーテ
キストビューワを備えるようにし,各装置においてウェブページへのリンクを行い,リンクページの
表示を行うようにすることは,広く行われていることである。
また,家電機器に関連する情報をウェブページ上で表現することも,例えば,国際公開第97/1
8636号パンフレット(本訴甲6)等に見られるような周知の事項にすぎず,家電機器に関連する
情報を表現するウェブページを「家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページ」とすること
も,ごく普通に考えられることにすぎない。
さらに,テレビ等の家電機器でウェブページを見られるようすることも,例えば,特開平9-91
60号公報(本訴甲7)に見られるような周知の事項にすぎない。
してみると,引用例1記載の発明において,「()家電機器の表現に関連される家電機器によっc
て提供される家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページにリンクを提供するハイパーテキ
ストリンクと前記家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階」を有するようなものとし,「家電
機器リンクファイルで識別された対応する家電機器に対して生成する,少なくとも一つのグラフィカ
ルあるいはテキスチュアル表現を有する情報」を「家電機器リンクページ」とし,「情報をディスプ
レーする段階」を「家電機器に基づくブラウザー上に家電機器リンクページをディスプレーする段
階」とすることは,当業者が適宜に設計できる事項にすぎないものと認められる。
そして,補正発明の構成によってもたらされる効果も,引用例1,2に記載の発明及び上記周知の
事項から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって,格別のものとはいえない。
したがって,補正発明は,引用例1,2に記載の発明及び上記周知の事項に基づいて,当業者が容
易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立し
て特許を受けることができないものである。
オむすび
よって,本件手続補正は,特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反するも
のであり,特許法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
()補正却下の決定を踏まえた検討2
ア対比・判断
本願発明は,上記()で検討した補正発明における「()家電機器の表現に関連される家電機器に1c
よって提供される家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページにリンクを提供するハイパー
テキストリンクと前記家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階」を上位概念の「()家電機c
器の表現に関連される家電機器に含まれているウェブページにリンクを提供するハイパーテキストリ
ンクと前記家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階」としたもの(下線部が補正箇所)であ
る。
そうすると,本願発明の構成要件に限定を施したものに相当する補正発明が,上記()エに記載し1
たとおり,引用例1,2に記載の発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすること
ができたものである以上,本願発明も,同様に,引用例1,2に記載の発明及び上記周知の事項に基
づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
イむすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1,2に記載の発明及び上記周知の事項に基づいて,当業者が
容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることが
できない。
第3当事者の主張の要点
1原告主張の審決取消事由
(1)取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)
審決は,引用例1記載の発明が「(a)LANに現在連結されたマルチメディア
機器を識別するリンクファイルを発生する段階」を有すると認定し,補正発明と引
用例1記載の発明とが,「(a)ホームネットワークに現在連結された家電機器を
識別する家電機器リンクファイルを発生する段階」を含む点で一致すると認定した
が,誤りである。
ア引用例1に,「LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリン
クファイルを発生する段階」は記載されていない。すなわち,補正発明の「リンク
ファイル」は,特開平4-170134号公報(乙1)等に開示されているよう
な,「端末の情報を管理するための」単なるファイルではなく,請求項2に記載さ
れているようにして発生され,請求項3に記載されているように機器リンクページ
の生成の基礎データとなるものであるから,「端末の情報を管理するための」単な
るファイルが周知又は技術常識であるとしても,万全な管理を行うには,その管理
ファイルには,端末の動作のいかんにかかわらず,管理対象のすべての端末に係る
ファイルが生成されると解するのが自然であるから,引用例1には,補正発明の
「LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生す
る段階」が記載されているとはいえない。
イ被告は,リンクに係るID及びアドレス情報等のファイルをリンクファイル
と称することができると反論するが,何の客観的な根拠もないのに,ID及びアド
レス情報等のファイルをリンクファイルと称することはできない。
ウしたがって,引用例1記載の発明が「(a)LANに現在連結されたマルチ
メディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階」を含むとした審決の認定
は誤りであり,これに基づく補正発明と引用例1記載の発明との一致点の認定も誤
りであって,審決は,補正発明と引用例1記載の発明との相違点を看過し,これに
ついて判断をしなかったものである。
(2)取消事由2(相違点の判断の誤り)
審決は,引用例1記載の発明において,相違点に係る構成を補正発明のようにす
ることは,当業者が適宜に設計できる事項にすぎないと認定判断したが,誤りであ
る。
ア家電機器に関連する情報を表現するウェブページを「家電機器の機能又は状
態情報を表現するウェブページ」とすることについて
引用例1記載の発明は,ネットワークを介して,複数のマルチメディア機器及び
制御装置が,互いにオブジェクト指向に基づいたメッセージ及びデータの送受信を
することができるシステムであるところ,引用例1には,「マルチメディア機器コ
ントロールパネルオブジェクト記述部はマルチメディア機器2の操作をGUIで行
うためのコントロールパネルを記述するGUI記述言語の機能を実現している。」
(段落【0046】)との記載があるものの,ウェブページ上で表現することにつ
いては記載も示唆もない。そうであれば,引用例1記載の発明や国際公開第97/
18636号パンフレット(甲6)の記載を参酌しても,家電機器の機能又は状態
情報を表現する場所をウェブページ上とすることは,当業者がごく普通に考えられ
るものではない。
イ「家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページ」を家電機器によっ
て提供する点について
「テレビ等の家電機器でウェブページを見られるようにすること」が公知であっ
たとしても,このことと補正発明の「家電機器の機能又は状態情報」を見ることと
は何の関係もないから,「テレビ等の家電機器でウェブページを見られるようにす
ること」が記載されている特開平9-9160号公報(甲7)の記載を参酌して
も,家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページは,家電機器によって提
供されるということにはならない。
ウ家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページにリンクを提供するハ
イパーテキストリンクと家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階について
引用例1記載の発明は,引用例1の段落【0054】及び【0057】に記載さ
れているように,オブジェクトリンク情報自体を授受するものであり,補正発明の
ように,ハイパーテキストリンクにして,リンクを張る必要のないものであるか
ら,引用例1の図30の例は,そのリンクがウェブページにリンクを提供するハイ
パーテキストリンクではない。
エ家電機器が家電機器リンクファイルで識別されたものに対応する点について
上記(1)アのとおり,引用例1に,「LANに現在連結されたマルチメディア機
器を識別するリンクファイルを発生する段階」は記載されていない。
オしたがって,審決には,上記アないしエの誤りがあるから,これに基づき,
引用例1記載の発明において,相違点に係る構成を補正発明のようにすることは当
業者が適宜に設計できる事項にすぎないとした審決の認定判断は,誤りである。
(3)取消事由3(発明の認定の誤り)
審決は,本件補正却下の決定を前提にして,本願発明について,「引用例1,2
に記載の発明及び上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで
きたものである。」と判断した。
上記(1),(2)のとおり,本件補正を却下した決定は誤りであるから,審決で判断
しなければならない発明は,補正発明である。しかるに,審決は,本願発明につい
て判断をしているから,審決のした発明の認定は誤りである。
2被告の反論
(1)取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)に対して
ア引用例1では,マルチメディア機器及びそのオブジェクトにIDが付与さ
れ,これらのIDによって,マルチメディア機器を識別している。そして,引用例
1の「マルチメディアコントローラ」は,このIDを利用して情報の受渡しをして
いると解されるから,ファイルとの明記はないものの,「マルチメディアコントロ
ーラ」には,「マルチメディア機器を識別する」ためのID及び具体的にマルチメ
ディア機器がどこに接続されているかを示すアドレス情報等が存在する。
イそして,特開平4-170134号公報(乙1),特開平6-104902
号公報(乙2)及び特開平9-134297号公報(乙3)に記載されているよう
に,LAN等で端末の情報を管理する場合には,一般的に,ファイルの形式を取る
ことが常識であることからすれば,「マルチメディア機器を識別する」ためのID
及びアドレス情報等はファイルの形式を取るものと解されるから,そのようなファ
イルを発生する段階は当然に存在する。
ウそうすると,リンクに係るID及びアドレス情報等のファイルをリンクファ
イルと称し,引用例1記載の発明が「LANに現在接続されたマルチメディア機器
を識別するリンクファイルを発生する段階」を有するとした審決の認定に誤りはな
く,これに基づく補正発明と引用例1記載の発明との一致点の認定にも誤りはな
い。
(2)取消事由2(相違点の判断の誤り)に対して
ア家電機器に関連する情報を表現するウェブページを「家電機器の機能又は状
態情報を表現するウェブページ」とすることについて
ディスプレー上に家電機器の機能又は状態情報を表現するようにすることは,引
用例1の図30に見られるような事項にすぎない。引用例1の図30の表示例は,
ウェブページ上の表現ではないが,家電機器の機能又は状態情報を表現する場所を
ウェブページ上とすることは,引用例2及び国際公開第97/18636号パンフ
レット(甲6)の記載を参酌すれば,当業者がごく普通に考えることにすぎない。
イ「家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページ」を家電機器によっ
て提供する点について
ウェブページを家電機器によって提供することも,「テレビ等の家電機器でウェ
ブページを見られるようにすること」が記載されている特開平9-9160号公報
(甲7)を参酌すれば,当業者が適宜に設計することができるものである。
ウ家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページにリンクを提供するハ
イパーテキストリンクと家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階について
ディスプレー上に家電機器の機能又は状態情報を表現し,家電機器の表現のそれ
ぞれをリンクさせることは,引用例1の図30に見られるような事項にすぎない。
引用例1の図30の表示例は,そのリンクがウェブページにリンクを提供するハイ
パーテキストリンクではないが,引用例2に見られるように,ネットワークに接続
した装置において,各装置にハイパーテキストビューワを備えるようにし,各装置
においてウェブページへのリンクを行い,リンクページの表示を行うようにするこ
とは,広く行われていることである。そうであれば,家電機器の機能又は状態情報
を表現するウェブページに,リンクを提供するハイパーテキストリンクと家電機器
の表現のそれぞれとを関連付けるようにすることは,当業者が適宜に設計すること
ができるものである。
エ家電機器が家電機器リンクファイルで識別されたものに対応する点について
引用例1には,「LANに現在連結されたマルチメディア機器を識別する」構
成,すなわち,補正発明の「家電機器リンクファイル」に対応する構成が実質的に
記載されているから,家電機器が家電機器リンクファイルで識別されたものに対応
するものであることは,当然のことにすぎない。
オそうすると,引用例1記載の発明において,相違点に係る構成を補正発明の
ようにすることは当業者が適宜に設計できる事項にすぎないとした審決の認定判断
に誤りはない。
(3)取消事由3(発明の認定の誤り)に対して
上記(1),(2)のとおり,本件補正却下の決定には何の誤りもないから,審決が,
本件補正却下の決定を前提に,本願発明について,「引用例1,2に記載の発明及
び上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであ
る。」と判断したことに誤りはない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)について
(1)引用例1(甲4)には,次の記載がある。
「そして本発明ではオーディオビジュアル機器及び,コントローラをネットワー
ク上に接続し,それらオーディオビジュアル機器を,個々にオブジェクトとしてと
らえ,コントローラはそれらのオブジェクトを統合的に管理するという手法を用い
ている。オーディオビジュアル機器はネットワーク上に接続されるとオブジェクト
指向に基づいたメッセージ及びデータを送信する際に送信の宛て先として用いられ
るオブジェクトIDが与えられ,このオブジェクトIDに基づいてデータの送受信
を行うことにより,論理的にデータの送信先が決定される為,オーディオビジュア
ル機器間でのデータ送受信関係を構築・修正する際に物理的結線をつなぎかえる必
要はなく,データ送受信関係の構築・修正にかかわるオブジェクトの内部データを
変更するのみでよいことになる。」(段落【0018】)
「図11はシステムディレクターオブジェクト205の構造を示す図である。・
・・1076は内部データ部であり,オブジェクトID,344は複数のマルチメ
ディア機器を用いてある動作を行わせる際の機器間リンク情報管理データ,107
8は接続されたマルチメディア機器,生成したオブジェクトに関するオブジェクト
登録情報である。システムディレクターオブジェクト205はマルチメディア機器
代理オブジェクト生成手段1047を用いてマルチメディア機器2がLAN4に接
続されるとマルチメディア機器代理オブジェクト記述ファイル1061を読み込
み,マルチメディア機器代理オブジェクト記述ファイル1061に記述された情報
から生成すべきオブジェクトの属するクラスを選択し,クラスライブラリー108
1中,該当するクラスのクラス定義部1080に基づきマルチメディア機器代理オ
ブジェクト1068を生成する。」(段落【0052】,【0053】)
「コネクションコンストラクターウィンドウ表示手段(図39の391)は,ま
ずS1で,システムディレクターオブジェクト(図11の205)に対して現在ネ
ットワーク上に接続されている機器のオブジェクトID一覧表を要求する。S2の
ステップにて,メッセージに対応するデータが送られて来るまで待ち状態となる。
システムディレクターオブジェクトが自身の内部データ部内のオブジェクト登録情
報(図11の1078)を参照して,登録されている機器オブジェクトの一覧を返
答してくると,このデータは内部データ部に格納され,S3へと処理を進める。S
3では,内部データ部を参照し,この中に格納されている接続機器オブジェクトI
D一覧表に記載されている全てのオブジェクトIDに対して,アイコンのグラフィ
クスデータ送信要求メッセージを送る。S4にてデータ送信待ちとなり,全てのオ
ブジェクトIDより,グラフィクスデータが送られると,これを内部データ部に格
納した後,S5へと処理を進める。S5では,データ入出力管理オブジェクトに対
して,どのオブジェクトIDからどのオブジェクトIDへとどのようなデータ属性
のリンクが張られているのかと言った,機器間リンク情報送信要求メッセージを送
る。・・・」(段落【0161】,【0162】)
(2)上記(1)には,オーディオビジュアル機器は,LANに接続されると,オブ
ジェクトIDが与えられ,このオブジェクトIDに基づいてデータの送受信を行う
こと,システムディレクターオブジェクトは,内部データ部に,接続されたマルチ
メディア機器,生成したオブジェクトに関するオブジェクト登録情報を有するこ
と,システムディレクターオブジェクトは,自身の内部データ部内のオブジェクト
登録情報を参照して,登録されている機器オブジェクトの一覧を返答するが,この
一覧が,現在ネットワーク上に接続されている機器のオブジェクトID一覧表であ
ること,オブジェクトID一覧表のオブジェクトIDは,張られているリンクの機
器間リンク情報として利用されることが開示されているから,引用例1には,マル
チメディア機器が,LANに接続されると,機器間リンク情報として利用されるオ
ブジェクトIDが与えられ,これにより,接続されたマルチメディア機器,生成さ
れたオブジェクトに関するオブジェクト登録情報を参照して,現在ネットワーク上
に接続されている機器のオブジェクトID一覧表を作成することが記載されている
と認められる。そして,一つのまとまったデータである一覧表は,これをファイル
として管理することが最も一般的であるから,引用例1には,「LANに現在連結
されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階」が記載され
ているということができる。
(3)原告の主張について
ア原告は,補正発明の「リンクファイル」は,請求項2に記載されているよう
にして発生され,請求項3に記載されているように機器リンクページの生成の基礎
データとなるものであって,「端末の情報を管理するための」単なるファイルが周
知又は技術常識であるとしても,万全な管理を行うには,端末の動作のいかんにか
かわらず,その管理ファイルには管理対象のすべての端末に係るファイルが生成さ
れると解するのが自然であるから,引用例1には,補正発明の「LANに現在連結
されたマルチメディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階」が記載され
ているとはいえないと主張する。
しかしながら,補正発明の「リンクファイル」は,請求項1に記載されているよ
うに,「ホームネットワークに現在連結された家電機器を識別する家電機器リンク
ファイル」というものであり,請求項2に記載されているようにして発生されると
か,請求項3に記載されているような機器リンクページの生成の基礎データとなる
とは規定していないし,また,端末の動作のいかんにかかわらず,管理対象のすべ
ての端末に係るファイルが生成されるとも規定していない。
そうであれば,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであ
るといわざるを得ない。
イまた,原告は,何の客観的な根拠もないのに,ID及びアドレス情報等のフ
ァイルをリンクファイルと称することはできないと主張する。
しかしながら,上記(2)のとおり,引用例1には,オブジェクトID一覧表のオ
ブジェクトIDが,張られているリンクの機器間リンク情報として利用されること
が開示されているから,張られているリンクの機器間リンク情報として利用される
オブジェクトIDを含むオブジェクトID一覧表をもって,リンクファイルと称す
ることに格別の問題はない。
(4)したがって,引用例1記載の発明が「(a)LANに現在連結されたマルチ
メディア機器を識別するリンクファイルを発生する段階」を有するとした審決の認
定に誤りはなく,補正発明と引用例1記載の発明とが,「(a)ホームネットワー
クに現在連結された家電機器を識別する家電機器リンクファイルを発生する段階」
を含む点で一致するとした審決の認定にも誤りはないから,原告主張の取消事由1
は理由がない。
2取消事由2(相違点の判断の誤り)について
(1)家電機器に関連する情報を表現するウェブページを「家電機器の機能又は
状態情報を表現するウェブページ」とすることについて
ア引用例1には,次の記載がある。
「一般的なマルチメディア機器のハードウェア面での内部ブロック図を図3に示
す。複数のマルチメデイア機器はそれぞれ4のLANを介して,コントローラと接
続されている。今LANはEthernetであるので,その通信プロトコル(TCP/I
P)を処理するインターフェース部20が設けられている。これは専用LSI等の
利用で実現出来る。」(段落【0029】,【0030】)
「マルチメディアコントローラのハードウェア面での内部ブロック図を図4に示
す。同図において4のLANを介して,マルチメディア機器と接続されている。今
LANはEthernetであるので,その通信プロトコル(TCP/IP)を処理するイ
ンターフェース部31がある。これは専用LSI等の利用で実現出来る。ここで送
られてきたメッセージそのものが取り出されたり,逆にマルチメディア機器へメッ
セージが送りだされる。」(段落【0034】)
「以上の様に,本発明によれば,複数のマルチメディア機器が接続されたシステ
ム全体の制御を行なう際に,今までの様にあらかじめコントローラ側にその制御を
行なう為のデバイスドライバやアプリケーションソフトウェアなどをインストール
して準備する必要がなくなり,マルチメディア機器をLAN上に接続するだけで自
動的にコントロールパネル及び機器状態がコントローラの画面上に表示され,電源
のON/OFF・本体の制御・入出力の切り替えを画面において行い易くなる等の
大きな効果がある。」(段落【0102】)
イ上記アには,マルチメディア機器をLAN上に接続すると,自動的に,コン
トロールパネル及び機器状態をコントローラの画面上に表示し,電源のON/OF
F,本体の制御,入出力の切替えを画面において行うことが開示されているから,
引用例1には,家電機器の機能又は状態情報を表現することが記載されていると認
められる。そして,上記アには,通信プロトコルとしてTCP/IPを用いること
も開示されているところ,TCP/IPはインターネットで使われている標準プロ
トコルであり,また,ウェブページは一般にインターネットで提供される情報ペー
ジを意味するから,引用例1に記載された家電機器の機能又は状態情報を表現する
場所をウェブページ上とすることに格別の困難はない。
なお,国際公開第97/18636号パンフレット(甲6)には,「本ファーム
ウェア機器はhttpリクエストをhttpクライアント(ウェブブラウザ)から
受信し,html(HypertextMarkupLanguage)ドキュメントを返信する。この
html内では,ドキュメントはボタン,テキスト入力ボックス,その他のグラフ
ィカルユーザーインターフェース(GUI)要素であり,ユーザはそれらを使用し
てhttpクライアントの画面上で遠隔的に操作を行い,出来事を発生させる。リ
モートコントローラは,テレビ,エアコン,ビデオデッキ等のリモート機器を制
御,監視する。」(2頁4ないし12行),「図1において,イーサネットネット
ワーク接続NC1はユーザコンピュータUC1を,電子的,電磁的,及び/又は赤
外線のインターフェースSI1を持ち,ファームウェアFI1からなるコントロー
ラCO1に接続する。インターフェースはファームウェアFI1を多数のターゲッ
トTAlに器具・装置の形態で接続する。ターゲットTA1は,例えばビデオデッ
キ,テレビ,及び/又はエアコンである。」(3頁4ないし10行),「本発明
は,コントローラによる赤外線及び/又は電磁的伝送を使用することを伴う。コン
トローラは,近接した他の機器と通信するため,赤外線及び/又は電磁的な送受信
機を持つ。httpクライアント(ウェブブラウザ)からのコマンドを受信する
と,コントローラは赤外線又は電磁的な信号をターゲットTA1に送信する。実施
の形態によれば,ビデオデッキ,テレビ,エアコン等のターゲットによりコントロ
ーラCO1に対して返信やステータス情報の送信が行われ,受信される。コントロ
ーラはテレビなどの一般的な機器を制御するためのいくつかのデフォルトのhtm
lページを備えているが,このシステムはエンドユーザが自分のhtmlドキュメ
ントをネットワークを通じてコントローラCO1にアップロードして,好みの制御
環境を持つことができるように構成されている。また,制御されたターゲット機器
からのステータス情報に基づいて動作するように,コントローラにプログラムをア
ップロードすることもできる。コントローラCO1のアプリケーションは拡張可能
であり,実施の形態の1つではビデオデッキ,テレビ,エアコン等の家電を制御す
る。」(5頁12行ないし6頁3行),「コントローラCO1は企業への適用やサ
ービスプロバイダーに適しており,簡易な操作が可能であり,実施の形態において
はセットアップや設置が簡単である。ユーザは,単にユニットをイーサネットのハ
ブに接続し,IPアドレス/ネットマスクを製品の内蔵型液晶表示パネルで設定す
れば,ユニットはネットワークにウェブページを供給するように構成される。」
(7頁3ないし9行)との記載があり,ウェブページに家電機器のステータス情報
(すなわち,機能又は状態情報)を表示し,制御することが開示されている。そう
であれば,このことからみても,上記のとおり,引用例1に記載された家電機器の
機能又は状態情報を表現する場所をウェブページ上とすることに格別の困難はない
というべきである。
ウ原告は,引用例1には,ウェブページ上で表現することについて記載も示唆
もないから,引用例1に記載の発明や国際公開第97/18636号パンフレット
の記載を参酌しても,家電機器の機能又は状態情報を表現する場所をウェブページ
上とすることは,当業者がごく普通に考えるものではないと主張する。
しかしながら,上記イのとおり,引用例1には,家電機器の機能又は状態情報を
表現することが記載されており,また,通信プロトコルとしてTCP/IPを用い
ることも開示されているから,引用例1に記載された家電機器の機能又は状態情報
を表現する場所をウェブページ上とすることに格別の困難はないのであって,この
ことは,国際公開第97/18636号パンフレットに,ウェブページに家電機器
のステータス情報(すなわち,機能又は状態情報)を表示し,制御することが開示
されていることからみても,明らかである。
(2)「家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページ」を家電機器によ
って提供する点について
ア特開平9-9160号公報(甲7)には,「【産業上の利用分野】本発明
は,表示制御装置および表示制御方法に関する。特に,例えばテレビジョン放送に
よる映像を表示するテレビジョン受像機などの解像度を検出し,その解像度に応じ
て,インターネットなどにより提供されるHTMLなどで記述されたデータを間引
くようにすることにより,そのデータを,テレビジョン受像機で表示することがで
きるようにした表示制御装置および表示制御方法に関する。」(段落【000
1】)との記載があり,インターネットにより提供されるHTMLで記述されたデ
ータをテレビジョン受像機で表示することが開示されている。インターネットによ
り提供されるHTMLで記述されたデータがウェブページを含むことは,当業者に
とって明らかであるから,特開平9-9160号公報には,家電機器であるテレビ
でウェブページを表示することが記載されているということができる。そうであれ
ば,テレビ等の家電機器でウェブページを見られるようにすることも,容易である
といわなければならない。
イ原告は,「テレビ等の家電機器でウェブページを見られるようにすること」
と補正発明の「家電機器の機能又は状態情報」を見ることとは何の関係もないか
ら,特開平9-9160号公報(甲7)の記載を参酌しても,家電機器の機能又は
状態情報を表現するウェブページが家電機器によって提供されるということにはな
らないと主張する。
しかしながら,上記アのとおり,特開平9-9160号公報には,家電機器であ
るテレビでウェブページを表示することが記載されているのであるから,家電機器
の機能又は状態情報を表現するウェブページが家電機器によって提供されること
も,当業者が適宜に設計することができるものである。
(3)家電機器の機能又は状態情報を表現するウェブページにリンクを提供する
ハイパーテキストリンクと家電機器の表現のそれぞれとを関連付ける段階について
ア引用例1には,次の記載がある。
「第2オブジェクト描画情報605は第1オブジェクト描画情報601と同様の
方法で押されたときのボタンの描画情報626を記述している。第1オブジェクト
描画情報601と第2オブジェクト描画情報605をもとにして描画パラメータ6
23が決定される。リンクデータ624はオブジェクトリンク情報609にもとづ
いて設定され,送出メッセージとして’play’が,リンク先オブジェクトID
としてリンク先オブジェクトIDが設定されるが,メッセージを送出する際に受取
先のオブジェクトがシステム全体で一意に決定される目的で,デジタルVTR20
3をLAN4に接続した際にシステムディレクターオブジェクト205がデジタル
VTRに割り当てたデバイスIDをリンク先オブジェクトIDに付加した形で設定
される。」(段落【0082】)
「図23と図29にしたがってデジタルVTR203のコントロールパネル表示
動作と再生動作の指示方法を説明する。図16で説明した動作においてシステムデ
ィレクターオブジェクト205がデジタルVTR代理オブジェクト220を生成し
た時点でデジタルVTR代理オブジェクト220はアイコン表示229をアイコン
画像1426に基づいて表示するが,利用者がデジタルVTRのアイコン229を
カーソル230で指示してダブルクリックすると(643),デジタルVTR代理
オブジェクト220のコントロールパネルオブジェクト221はコントロールパネ
ルオブジェクト221を構成するすべてのオブジェクトにたいして描画を指示する
メッセージを送出する。該メッセージにしたがって図21に示したすべてのオブジ
ェクトが描画手段を実行し,コントロールパネルオブジェクトはその際,第2オブ
ジェクト描画情報に基づいてデジタルVTRのコントロールパネルのフレームを描
画する。その結果,デジタルVTR203を操作するためのデジタルVTRコント
ロールパネル表示231が図24のように表示され(644),利用者の指示を待
つ(645)。この状態で利用者が該コントロールパネル231の再生ボタン27
2をカーソル230で指示してクリックすると(646),コントロールパネルオ
ブジェクト221はデジタルVTR203のコントローラオブジェクト214にメ
ッセージ’PLAY’を送出する(647)。これによつてデジタルVTR203
のコントローラオブジェクト214は該メッセージに反応して再生実行手段を起動
する(648)。再生実行手段の起動によってデジタルVTR203の再生動作が
開始される。以上説明したように本発明によればマルチメディア機器をマルチメデ
ィアコントローラにLANを介して接続するだけでマルチメディア機器の操作に必
要なマルチメディア機器代理オブジェクトがマルチメディアコントローラに自動的
に生成され,さらにマルチメディア機器の操作に必要なコントロールパネルがマル
チメディアコントローラのディスプレーに自動的に表示され,該コントロールパネ
ルに対して利用者が操作を行うとマルチメディア機器のコントローラオブジェクト
に適切なメッセージが送出され所望の操作を行うことができる。マルチメディア機
器の操作に必要なマルチメディア機器代理オブジェクトを生成するために必要な情
報はマルチメディア機器から読み込んだマルチメディア機器代理オブジェクト記述
ファイルから取得するため,マルチメディアコントローラには基本的なクラスライ
ブラリーがあるだけでよく,特定のマルチメディア機器に関する情報をあらかじめ
持っている必要はない。」(段落【0088】,【0089】)
イ上記アには,リンク先オブジェクトIDに設定されたデバイスID(例え
ば,デジタルVTRのコントローラオブジェクトのID)により,そのデバイスI
Dが割り当てたマルチメディア機器(例えば,デジタルVTR)の操作を行うこ
と,具体例として,利用者がコントロールパネルの再生ボタンをカーソルで指示し
てクリックすると,コントロールパネルオブジェクトは,デジタルVTRのコント
ローラオブジェクトにメッセージ’PLAY’を送出し,これにより,デジタルV
TRのコントローラオブジェクトは,メッセージに反応して再生実行手段を起動
し,デジタルVTRの再生動作が開始されることが開示されているから,引用例1
記載の発明は,少なくともリンク先オブジェクトIDによって,マルチメディア機
器の操作を行っているのであって,マルチメディア機器との間にリンクを張ってい
ると認められる。そして,上記(1)イのとおり,引用例1に記載された家電機器の
機能又は状態情報を表現する場所をウェブページ上とすることに格別の困難はない
ところ,ハイパーテキストリンクは,一般にウェブページにリンクを提供するため
のものであるから,引用例1記載の発明において,家電機器の機能又は状態情報を
表現する場所をウェブページ上とする場合には,当然に,リンクを張るためのもの
としてハイパーテキストリンクを採用するものであると認められる。
そうであれば,引用例1記載の発明においても,ウェブページ上で家電機器の機
能又は状態情報を表現する場合には,ウェブページを提供するハイパーテキストリ
ンクとし,リンクを張るものと理解するのが相当である。
ウ原告は,引用例1記載の発明は,オブジェクトリンク情報自体を授受するも
のであり,補正発明のように,ハイパーテキストリンクにして,リンクを張る必要
のないものであるから,引用例1の図30の例は,そのリンクがウェブページにリ
ンクを提供するハイパーテキストリンクではないと主張する。
確かに,引用例1の図30の例は,そのリンクがウェブページにリンクを提供す
るハイパーテキストリンクではない。しかし,上記イのとおり,引用例1記載の発
明においても,ウェブページ上で家電機器の機能又は状態情報を表現する場合に
は,ウェブページを提供するハイパーテキストリンクとし,リンクを張るのであ
る。
(4)家電機器が家電機器リンクファイルで識別されたものに対応する点について
上記1(2)のとおり,引用例1には,「LANに現在連結されたマルチメディア
機器を識別するリンクファイルを発生する段階」が記載されているから,家電機器
は,家電機器リンクファイルで識別されたものに対応するということができる。
(5)したがって,引用例1記載の発明において,相違点に係る構成を補正発明
のようにすることは当業者が適宜に設計できる事項にすぎないとした審決の認定判
断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。
3取消事由3(発明の認定の誤り)について
取消事由3は,取消事由1又は2のいずれかに理由があることを前提とするもの
であるが,上記1,2のとおり,取消事由1及び2は,いずれも理由がない。
したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
第5結論
以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由はすべて理由がないから,原告
の請求は棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
高野輝久
裁判官
佐藤達文

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