弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A弁護人保坂治喜の上告趣意第一点について。
 所論は、原審において被告人の精神鑑定に対する補足のための再鑑定申請を却下
したことをもつて、審理不尽の違法があると主張する。しかしながら、原判決が被
告人Aに対する弁護人の心神耗弱の主張を排斥する理由は十分首肯するに足りるも
のであり四月一九日の本件犯行の前同月一五旧にも飲酒後熱発作を呈したとの事実
を基礎としてすでに鑑定はなされているのであり、また該鑑定書の記載自体から鑑
定の結論を導き出すことも合理的に可能である。されば、該鑑定の不備を補足する
ためになされた再鑑定の申請が却下された一事を捉えて原審の審理不尽を主張する
論旨は、結局原事実審の自由裁量に属する証拠申請の許否を非難するに帰し、当法
律審に対する適法な上告理由としては認め難い。
 同第二点について。
 前論旨に対する説明でも明らかなように、原審が被告人の心神耗弱の主張を排斥
する理由は、判示被告人の犯行当時の言動、犯行の模様並びに鑑定書の記載その他
一件記録に徴し十分首肯するに足りるものである。所論は、原審の判定した趣旨に
そわない有利な事情のみを特に挙げてこれを強調して独自の見解を述べ、もつて原
審の判断の不当を非難するに過ぎない。全体的に考察して原判決の認定に所論のよ
うな実験則違反その他の違法があると認めることができない。論旨はそれ故に採る
を得ない。
 第三点について。
 鑑定人は、所論のように鑑定の時の精神状態を以て直ちに犯行時の精神状態とな
したものではなく、鑑定書自体において明らかなように鑑定時と共に犯行時におい
ても心神耗弱の状態になかつたことを認めているのである。従つて、所論の違法は
ない。
 同第四点について。
 所論は、原判決は刑の量定甚だしく重きに失するとし、これを前提として種々論
ずるのである。しかしながら、原判決の認定した判示犯罪事実から言つても、また
一件記録に徴しても、所論のように本件の刑の量定が甚だしく重いとは認めること
ができない。また、所論のように原判決の事実認定に実験則違反があるとは認めら
れない。次に、酌量減軽をするか否かは原事実審の自由裁量に属することであり、
本件においてそれをしなかつたことについて違法のかどを認めることはできない。
新刑訴四一一条は本件のごとき旧件には適用がないばかりでなく、本件においては
所論のように同条二号三号に当る前提事実が存在しないことは、前述したところに
より明らかである。次に、刑事訴訟法の改正があつた場合起訴がその施行の前たる
と後たるとによつて旧法又は新法の適用を異にすることを定めた刑訴施行法二条は、
すべて同類型の事件に同様の取扱をなすものであつて、もとより憲法一四条の平等
原則に違反するものでないことは言うをまたない。さらに、憲法三七条の公平な裁
判所とは組織構成において偏頗のおそれのない裁判所を意味するものであつて、個
々の判決が被告人の側から見て量刑が重いと思うという一事から直ちに公平な裁判
所でないということはできぬ。これは今迄に度々判例で示したとおりである。論旨
は、それだから採るを得ない。
 被告人A上告趣意について。
 所論は、結局原判決の事実誤認と量刑不当を非難するものであるが、かような主
張は法律審である最高裁判所に対する上告理由としては許されないものである。
 被告人B弁護人布施辰治上告趣意第一点について。
 所論は、刑法六八条による法定の減刑の方法につき原判決に違法があると主張す
る。しかしながら、法律上刑の減軽をする場合において、本件のように二個以上の
刑名があるときは、先ず適用すべき刑を定め、然る後その選択した刑を減軽すべき
ものであることは、刑法六九条の明定するところである。原判決は、強盗殺人の所
定二個の刑名の中死刑を選択し、然る後心神耗弱による法律上の減軽をし無期懲役
刑に処したものであるから、その法律適用については何等の違法はない。所論は、
理由がない。
 同第二点について。
 所論は、原判決が相被告人Aに対し刑の酌量減軽をしたことを前提とするもので
あるが、これは弁護人の全くの誤解であつて、原判決は同人に対して酌量減軽をし
たものでないことは、これに関する規定を適用していない点及び原判示自体から容
易に知ることができる。それ故、かゝる誤れる前提に立つ論旨は理由なきものであ
る。また、酌量減軽を与えるか否かは、原事実審の自由裁量に属するものであつて、
本件において被告人Bにこれを与えなかつたことに何等の違法を認めることはでき
ない。
 同第三点について。
 本件において原判決は、適法な証拠に基いて犯行時の被告人の精神状態を所論の
ように「全然刑罰責任を負担する意思能力を喪失していた」ものとは認めなかつた
ものであつて、一件記録に徴してもその認定の違法なことを是認すべき資料はない。
論旨は、採るを得ない。
 同第四点について。
 原審においては、第一回公判で事実審理を終り、第二回公判で弁護人申請の証拠
調を終り、第三回公判で検事は論告に当り附帯控訴の申立をしたものであることは、
所論のとおりである。検事の附帯控訴がその提起の時期について何等の制限もなく
許されている旧刑事訴訟法の下において、事件審理の最終段階である検事の論告に
当つて附帯控訴を申立てることは、一面不合理、不公明なやり方と思われる節もあ
るが、他面それが適時であるか又は又は己むを得ざる時期であると見られる場合も
存するのである。それ故、検事が論告の際に附帯控訴を申立てたとの一事をもつて、
所論のようにこれを違法であるとまで論結することはできない。次に、所論は附帯
控訴のあつたことを裁判長から被告人に対し告知もなく、附帯控訴の結果生ずるこ
とあるべき不利益変更について警告されていないことを非難する。しかしながら、
附帯控訴は被告人及び弁護人の面前でなされたものであるから、裁判長が特にこれ
を告知するの必要は認められない、また、弁護士の立会なき被告人に対しては、附
帯控訴による刑の不利益変更について裁判長が注意を与えることは親切な取扱とい
うべきであるが、本件の場合のごとく被告人の弁護機関として資格ある弁護士が立
会つている場合には、裁判長がこれについて被告人に注意を与える必要はないもの
と言うべきである。次に、これについて弁護人が被告人に告知したか否か又は注意
を与えたか否かの問題のごときは、何れにしても裁判所に対する訴訟行為ではない
から、もとより公判調書に記載さるべき事柄でないことは明白である。論旨は、そ
れ故に採用するを得ない。
 よつて、旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 十蔵寺宗雄関与
  昭和二五年七月一九日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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