弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人辻本幸臣、同松井康浩、同復代理人犀川季久、同小林正彦の上告理由
について
 原審が適法に確定した事実は、(一) 株式会社D商会(以下「D商会」という。)
の代表取締役であつた亡E及びその父で取締役であつた亡Fの両名は、昭和三三年
九月一〇日、G棉業株式会社(以下「G棉業」という。)とD商会の間の繊維に関
する継続的商取引に基づいてD商会がG棉業に対して現在負担し及び将来負担すべ
き債務につき連帯保証をし、かつ右債務を担保するため、亡Eはその所有の本件土
地について、亡Fはその所有する本件建物について、極度額を二〇〇万円とする根
抵当権(共同抵当)の設定を約し、同時に同一契約書により代物弁済を予約をし、
同月一八日G棉業のため根抵当権設定登記と所有権移転請求権保全の仮登記を経由
した、(二) 右契約書には、D商会が債務の履行を遅滞したときは、G棉業におい
て継続的取引契約を解除し、その選択により、債権全額につき根抵当権を実行しう
るのは勿論、本件土地建物の価額を残存債権額と同額とみなし、あるいはG棉業が
適正に認定した価額をもつて債務の弁済に代えて所有権を取得することができる、
旨の条項がある、(三) 亡Eは昭和三五年七月二五日死亡し、上告人A1が相続に
よりその権利義務を承継し、またG棉業は商号変更及び合併を経て被上告人がその
権利義務を承継した、(四) 亡F及び上告人A1は本件土地建物を担保としてHか
らも一一〇万円を借受けていたが、昭和四〇年六月ころ本件土地建物をHに対し四
〇〇万円で売却し、かつHに対しD商会の債務の整理を依頼した、(五) Hは同年
一〇月五日本件土地建物の第三取得者の立場で被上告人に対し、「被上告人から確
定債権額として請求を受けた金二〇〇万円の支払いのため弁済の提供をしたが受領
を拒まれた。」との原因で二〇〇万円を弁済供託したところ、被上告人は同年一二
月一三日右供託金の還付を受け、同月二八日「放棄」を原因として本件土地建物に
ついての前記根抵当権設定登記の抹消登記手続をした、(六) 被上告人のD商会に
対する債権額は、昭和四一年二月一〇日現在で一四〇〇万三二〇三円となり、被上
告人は同日D商会に対し継続的商取引を解除し、右金員を同月末日までに完済する
よう催告したうえ、上告人A1及び亡F並びに本件土地建物をHから転得して第三
取得者となつた上告人A2に対し、同年三月九日付書面をもつて、前記代物弁済予
約に基づき、本件土地建物を八〇〇万円と評価して右金額で予約完結権を行使する
旨の意思表示をした、(七) 右予約完結権行使の当時における本件土地建物の適正
な評価額は右八〇〇万円が相当である、というのであり、原審は、以上の事実関係
に基づき、被上告人が本件土地建物について取得した代物弁済予約に基づく仮登記
上の権利は、D商会との継続的商取引による現在及び将来の全債権を被担保債権と
して本件土地建物から優先弁済を受けることを目的とした担保権(いわゆる根仮登
記担保権)であつて、根抵当権と併用されている併用根仮登記担保権であるとはい
え、両者は別個の担保権であり、本件併用根仮登記担保権に基づき優先弁済を受け
うる権利の範囲は右の被担保債権の全部に及ぶ趣旨であるとし、したがつて、一部
弁済があつて根抵当権が放棄されても、債権が残存する限り代物弁済予約完結権は
消滅しないのであるから被上告人のした予約完結権の行使は有効であり、その意思
表示の到達をもつて本件土地建物の所有権は確定的に被上告人に帰属したものと判
断した。
 上告理由第二点は、被上告人がHのした二〇〇万円の弁済供託の還付を受けたう
え本件根抵当権を放棄したことにより、本件根仮登記担保権も消滅したと解すべき
であると主張する。
 しかし、被上告人がHに対し二〇〇万円の代価弁済を請求した事実はなく、また
当時被上告人とD商会の間の継続的商取引が解除されるに至らず本件根抵当権の担
保すべき元本も極度額を超えたまま、なお未確定であつたのであり、かつ、右供託
及びその還付の前後を通じて被上告人とHとの間で交渉が続けられていたが右被担
保債権額及び供託の趣旨について争いがあつたことは、原審が適法に確定したとこ
ろであるから、右供託金の供託は代価弁済としての効力を生ぜず、またその還付は、
被上告人にとつて債権の一部弁済としての効果を生ずるにとどまり、本件根抵当権
の消滅をきたす理由はないのであり、本件根仮登記担保権も、その極度額の如何に
かかわりなく、消滅しなかつたものと解すべきである(その後、本件根抵当権設定
登記が抹消されたのは、被上告人が根抵当権だけを任意に放棄したことによるもの
であるとみるべきである。)。これと同趣旨の原審の判断は正当であり、論旨は採
用することができない。
 上告理由第一点は、本件併用根仮登記担保権の極度額が本件根抵当権のそれと同
額の二〇〇万円に限定されると解すべきであると主張する。
 思うに、一定の継続的取引から発生する不特定の債権を担保するための独立の担
保権として、不動産につき根仮登記担保権の設定契約をする場合においては、根抵
当権の設定契約をする場合と同様に、契約当事者間において極度額(担保権設定者
に対する関係での目的不動産についての責任の限度及び第三者に対する関係での優
先弁済権の範囲)を定めるのが相当であるけれども、現行の不動産登記法のもとに
おいては代物弁済予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記について極度額を登
記公示する手段を欠いているばかりでなく、仮登記担保権は、目的不動産を適正な
評価額により換価処分しその換価金から債権の満足を得ることを内容とする担保権
であつて、その債権の満足を受けうる範囲は通常目的不動産の適正な評価額を限度
とするものであるから、極度額につき特段の定めがされない場合には、当該根仮登
記担保権の極度額は、目的不動産の適正な評価額と同額と定める趣旨であると解す
るのが相当であり、この場合においては、目的不動産の価額の変動に応じて極度額
も変動すると解するほかはない。
 次に、同一の発生原因に基づく不特定の債権の担保のために根抵当権と根仮登記
担保権とが併用された場合においては、後者が単に前者の担保権についての実行方
法を特約したものにすぎないと認めるべき特段の事情がない限り、根仮登記担保権
と根抵当権のいずれかの担保権の選択的な実行を許す趣旨であると解するのが、取
引当事者の通常の意思に合致するものと考えられる(しかし、二つの担保権の競合
的行使を許す趣旨であると解すべきではない(最高裁昭和四〇年(オ)第一一一〇
号同四三年二月二九日第一小法廷判決・民集二二巻二号四五四頁参照)。)。そう
して、この場合においても、根仮登記担保権の極度額は、設定契約によつて根抵当
権の極度額と同額と定めうることはいうまでもないが、このような特段の定めのな
い場合には、前記の理由により、目的不動産の適正な評価額と同額と定める趣旨で
あると解するのが相当である。このように解しても、併用根仮登記担保権の性質上、
後順位権利者等の第三者としては、その仮登記の存在によつて、自己の権利の保全
ができなくなる危険性を容易に予測できるのであるから、その保護に欠けるところ
はなく、また債務者にとつて不動産の担保価値の利用がその限りで制約を受けるこ
とがあるのは、現行法上やむをえないところといわなければならない。
 これを本件についてみるのに、その設定契約書の文言及び本件継続的商取引の経
緯に関する原判決認定の事実関係に照らすときは、本件の根抵当権及び根仮登記担
保権は、一個の契約書により、同一の発生原因に基づく不特定の債権を担保するた
め、同一の不動産について設定されたものであつて、両者は併用されたものである
が、本件併用根仮登記担保権の極度額を本件根抵当権の極度額と同額の二〇〇万円
とするとの約定があつたと認められないとした原審の認定は正当として是認するこ
とができ、他に一定の金額をもつてその極度額とする旨の合意があつたことは原審
の確定しないところであるから、本件併用根仮登記担保権については、本件土地建
物の適正な評価額をもつてその極度額とする趣旨であつたと解すべきである。そう
すると、本件根仮登記担保権の極度額は、被上告人が本件代物弁済予約の完結の意
思表示をした昭和四一年三月九日当時における本件土地建物の適正な評価額と同額
の八〇〇万円であり、かつ、被上告人が当時有していた被担保債権の額は右金額を
超えていたのであるから、右仮登記担保権の実行としての予約完結に際し清算金の
提供は要しないのであり、被上告人は、右の意思表示によつて本件土地建物の所有
権を取得したものというべきである。
 したがつて、右と同趣旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はなく、
論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全
員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    吉   田       豊
            裁判官    本   林       讓
            裁判官    栗   本   一   夫

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