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平成21年2月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第21343号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成20年12月18日
判決
茨城県守谷市<以下略>
原告A
同訴訟代理人弁護士永島賢也
東京都中央区<以下略>
被告特定非営利活動法人
リサイクルソリューション
大阪市中央区<以下略>
被告東洋建設株式会社
大阪市中央区<以下略>
被告B
被告ら訴訟代理人弁護士佐藤博史
同德永京子
同訴訟復代理人弁護士米澤章吾
主文
1被告特定非営利活動法人リサイクルソリューションは,別紙著作物目
録記載1のうち同目録記載2の部分を複製してはならない。
2被告特定非営利活動法人リサイクルソリューションは,別紙著作物目
録記載1のうち同目録記載2の部分を公衆送信してはならない。
3被告特定非営利活動法人リサイクルソリューションは,別紙著作物目
録記載1のうち同目録記載2の部分に係る報告書及びデータを廃棄せよ。
4被告特定非営利活動法人リサイクルソリューションは,自ら開設する
ウェブサイト(http://<以下略>)のトップページに,別紙謝罪広告
目録記載1の謝罪文を30日間掲載せよ。
5被告Bは,別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分を複製,
翻案又は改変してはならない。
6被告Bは,別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分に係る報
告書及びデータを廃棄せよ。
7被告特定非営利活動法人リサイクルソリューション及び被告Bは,原
告に対し,各自45万円並びに内金40万円について平成16年9月3
0日から,内金5万円について被告特定非営利活動法人リサイクルソリ
ューションは平成20年8月6日から,被告Bは同月7日から,各支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8原告の被告特定非営利活動法人リサイクルソリューション及び被告B
に対するその余の請求並びに被告東洋建設株式会社に対する請求をいず
れも棄却する。
9訴訟費用は,被告特定非営利活動法人リサイクルソリューション及び
被告Bに生じた費用の5分の1及び原告に生じた費用の5分の1を被告
特定非営利活動法人リサイクルソリューション及び被告Bの負担とし,
被告特定非営利活動法人リサイクルソリューション,被告B及び原告に
生じたその余の費用並びに被告東洋建設株式会社に生じた費用を原告の
負担とする。
10この判決は,第7,9項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告特定非営利活動法人リサイクルソリューション(以下「被告リサイクル
ソリューション」という。)は,別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の
部分の報告書及びデータを廃棄せよ。
2被告リサイクルソリューションは,別紙著作物目録記載1のうち同目録記載
2の部分の報告書及びデータを複製してはならない。
3被告リサイクルソリューションは,別紙著作物目録記載1のうち同目録記載
2の部分のデータを公衆送信してはならない。
4被告リサイクルソリューションは,自ら開設するウェブサイト(http://<
以下略>)のトップページに,別紙謝罪広告目録記載1の謝罪文を30日間掲
載せよ。
5被告Bは,別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分の報告書及びデ
ータを廃棄せよ。
6被告B及び被告東洋建設株式会社(以下「被告東洋建設」といい,被告リサ
イクルソリューション,被告B,被告東洋建設を併せて「被告ら」という。)
は,別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分の文章を,複製,翻案又
は改変してはならない。
7被告東洋建設は,自ら開設するウェブサイト(http://<以下略>)のトッ
プページに,別紙謝罪広告目録記載2の謝罪文を30日間掲載せよ。
8被告らは,別紙謝罪広告目録記載3の謝罪広告を,同目録記載4の条件で掲
載せよ。
9被告らは,原告に対し,各自,511万2000円並びに内金316万円に
ついて平成16年9月30日から,内金195万2000円について被告リサ
イクルソリューションにつき平成20年8月6日から,被告B及び被告東洋建
設につき同月7日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
10第2,3,6及び9項につき仮執行宣言申立て
第2事案の概要
本件は,別紙著作物目録記載3の著作物(以下「原告著作物」という。)の
著作者である原告が,被告リサイクルソリューションのホームページ上で公開
された,同目録記載1の著作物うち,「第5章南仏雑感」の被告B作成に係る
「5−4フランスの旅」と題する報告書(以下「被告著作物」という。)中
の,同目録記載2の部分(以下「本件部分」という。)が原告著作物の複製又
は翻案物に該当するから,被告Bにおいて被告著作物を作成し,被告リサイク
ルソリューションに対し寄稿をし,被告リサイクルソリューションにおいて,
これをウェブページ上で公開することは,原告の著作権(複製権,翻案権,譲
渡権,公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害に当たる,被告
Bは被告東洋建設の取締役として被告著作物を作成し,被告リサイクルソリュ
ーションに提出(寄稿)等したのであるから,被告東洋建設は被告Bの行為に
つき民法715条1項に基づき使用者責任を負う,被告B及び被告リサイクル
ソリューションには,著作権とは別の原告の法的に保護された権利ないし利益
を侵害した不法行為責任があり,また,訴訟提起前における被告らの対応が不
法行為に該当するので,被告東洋建設はこれら不法行為についても,民法71
5条1項に基づき,被告Bの使用者としての責任を負う,などと主張して,①
被告らに対し,共同不法行為(民法719条1項)に基づき,著作権及び著作
者人格権の侵害等について損害の賠償(なお,附帯金については,後記のとお
り,不法行為の後の日から支払済みまで民法所定の年5分の遅延損害金)を,
②被告らに対し,著作権法115条に基づき,原告の著作者人格権の侵害に伴
う名誉回復措置として謝罪広告の掲載を,③被告らに対し,著作権法112条
1項に基づき,被告著作物のうち本件部分の複製,翻案,改変,あるいは,公
衆送信の差止めを,④被告B及び被告リサイクルソリューションに対し,著作
権法112条2項に基づき,被告著作物のうち本件部分の廃棄を,それぞれ求
める事案である。
1前提となる事実及び法律関係
(1)当事者等(争いのない事実)
ア原告は,「<略>」のドメインにおいてインターネットホームページを
開設し,同ホームページ上において,原告著作物を公開している者である。
原告は,原告著作物の著作者であり,原告著作物について,著作権及び著
作者人格権を有する。
イ被告リサイクルソリューションは,環境の保全を図る特定非営利活動を
行い,特定非営利活動に係る事業として,リサイクル技術等の調査,研究,
啓蒙,普及及びあっせんに関すること等を,収益事業として,出版事業,
リサイクル推進に係る人材養成,技術支援事業を行う法人である。
被告リサイクルソリューションは,「<略>」のドメインにおいてイ
ンターネットホームページ(以下「被告ホームページ」という。)を開設
している。
ウ被告東洋建設は,土木建築工事の調査,測量,企画,設計,施工,監理
及びコンサルタント業務の請負並びに受託等を目的とする株式会社であり,
被告リサイクルソリューションの団体会員である。
エ被告Bは,被告東洋建設の取締役である。
(2)被告B及び被告リサイクルソリューションの行為等(争いのない事実,甲
5,6,乙1,弁論の全趣旨)
被告Bは,被告リサイクルソリューションが主宰した海外研修調査に参加
した報告書として,被告リサイクルソリューションから求められて,被告著
作物を作成し,被告リサイクルソリューションに対してこれを提出(寄稿)
した。
被告リサイクルソリューションは,平成16年9月ころ,被告ホームペー
ジ上に,「平成16年度(NPO)リサイクルソリューション海外研修調査
南仏マリーナ,運河を支える技術を探る旅海外調査報告書」と題するフ
ァイル(別紙著作物目録記載1)を掲載した。
上記ファイル中には,被告B作成に係る被告著作物が含まれており,被告
リサイクルソリューションは,被告著作物を,少なくとも平成16年10月
から平成20年5月までの間,ウェブサーバの記憶装置に情報を保存するこ
とにより送信可能化し,公衆からの求めに応じて自動的に行う形態で公衆送
信した。
(3)被告Bによる著作権侵害等
ア原告著作物の記述は,別紙原告著作物の内容記載のとおりである。(甲
3)
イ被告著作物の記述は,別紙被告著作物の内容記載のとおりである。(甲
6)
ウ被告著作物のうち,本件部分を,原告著作物のうち,「2.フランス運
河の魅力」以下の記述と対比すると,別紙著作物対比表のとおりである。
これによれば,本件部分における表現は,原告著作物における表現の一
部をほぼそのままに引き写したか,語尾を伝聞形式に修正したり,一部を
削って要約したりしたものにすぎないといえる。また,本件部分の記述の
中で,原告著作物に類似する部分すら見出すことができない箇所は,番号
15の記述のみであり,他の部分については,原告著作物の中に同内容の
記述を見出すことができ,本件部分の論述の順序も原告著作物の論述の順
序に類似している。
したがって,本件部分の記述は,原告著作物の内容及び形式を覚知させ
るに足りるものか,少なくとも,原告著作物の表現形式上の本質的な特徴
を直接感得することができるものであるということができる。
そして,被告Bは,原告に無断で,原告著作物に依拠して本件部分を作
成したのであるから,被告Bの行為は原告の原告著作物に対する著作権
(複製権又は翻案権)の侵害行為に当たる(なお,原告は,被告Bが,本
件部分を含む被告著作物を被告リサイクルソリューションに対して提出
(寄稿)した行為が,原告の原告著作物に対する著作権(譲渡権)の侵害
行為に当たる旨主張するものの,譲渡権とは,著作物の原作品または複製
物を譲渡により公衆に提供する権利であり(著作権法26条の2),特定
かつ少数の者に対する譲渡には譲渡権は働かない(同法2条5項参照)か
ら,この点に関する原告の主張は理由がない。)。
エ被告Bは,原告に無断で,原告著作物の記載を別紙著作物対比表のとお
り改変した。被告Bの行為は,原告が原告著作物について有する著作者人
格権(同一性保持権)の侵害行為に当たる。
オ原告著作物が掲載されたホームページ上には,「本テキストデータにつ
いては,著作権所有者の私の許可なく改変,複製,転載,再配布すること
はできません。」と明記されており(甲3),被告Bは,少なくとも,原
告著作物が,第三者の著作物であり,無断での複製や改変行為等が禁止さ
れた著作物であることを認識しながら,原告著作物中の記述を流用して,
本件部分を含む被告著作物を作成したものと認められるから(乙1,弁論
の全趣旨),被告Bには著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(同
一性保持権)侵害につき,故意が認められる(なお,仮に,被告Bが参照
した記述が,インターネット上で公開された原告著作物ではなく,「道路
と自然」に掲載された記事(甲4)であったとすれば,書籍中の記事を著
作権者の許諾を得ることなく複製や改変等する行為が禁止されることは明
らかであって,被告Bにおいても,これを当然認識していたものと認めら
れる。)。
カ被告Bは,被告著作物が公衆送信されることを,少なくとも,知り得た
にもかかわらず,被告著作物を被告リサイクルソリューションに対して提
出(寄稿)し,被告リサイクルソリューションにおいて送信可能化し,自
動公衆送信したのであるから(甲8,9,乙1,弁論の全趣旨),民法7
19条1項に基づき,著作権(公衆送信権)侵害についても,被告リサイ
クルソリューションと共同不法行為責任を負う。
(4)被告リサイクルソリューションによる著作権侵害等
ア被告リサイクルソリューションが,被告著作物をインターネットに接続
しているウェブサーバにアップロードし,送信可能化し,自動公衆送信し
た行為は,原告の有する原告著作物についての著作権(公衆送信権)の侵
害行為に当たる。
イ被告リサイクルソリューションは,その業務として,会員からの入会申
込みを受け付け,原稿の執筆を依頼しているのであるから,当該原稿が,
第三者の著作権を侵害するものではないか否かを確認すべき注意義務を負
う。
それにもかかわらず,被告著作物について上記注意義務を怠ったのであ
るから,被告リサイクルソリューションには,過失が認められる。
ウ被告リサイクルソリューションは,その会員である被告東洋建設の一員
として,被告リサイクルソリューションが主宰した海外研修調査に参加し
た被告Bに対し,上記研修への参加報告書の提出を求め,被告Bにおいて
被告著作物を作成し,被告リサイクルソリューションにおいて,これを送
信可能化し,自動公衆送信したものである(乙1)から,民法719条1
項に基づき,著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(同一性保持
権)侵害についても,被告Bと共同不法行為責任を負う。
2主な争点
(1)被告東洋建設が使用者責任等を負うか否か
(2)被告らが訴訟提起前にした原告に対する回答等について不法行為責任を負
うか否か
(3)損害額
(4)差止め及び廃棄の必要性
(5)謝罪広告の要否
第3争点に対する当事者の主張
1争点(1)(被告東洋建設が使用者責任等を負うか否か)について
〔原告〕
(1)被告著作物は,被告リサイクルソリューションの海外調査報告書の一部を
成すものである。被告東洋建設は,被告リサイクルソリューションの会員で
あり,被告Bが,被告リサイクルソリューションの主宰する海外調査に参加
した経緯は,被告東洋建設の取締役であることと無関係ではない。実際,被
告Bは,甲第7号証において,「閘門は,私自身建設会社に勤めていること
もあり専門分野です。会社として,国内で閘門を施工した実績もあり,馴染
み深い施設ですので,現地ではどこよりも興味をもって観察しました。」と
述べており,被告東洋建設の事業と関係のある分野の海外調査であったこと
を認めている。また,被告著作物には,作成者として,「B【東洋建設
(株)】」と表示されており(甲6),被告著作物の作成,提出行為が,被
告Bの個人的な行為として行われたものではないことが示されている。
さらに,被告リサイクルソリューションの海外調査報告書(甲5)には,
被告B以外の参加者の文章も掲載されており,これら他の参加者についても,
肩書きとして会社名が付されている。このような体裁に照らし,上記海外調
査報告書は,被告東洋建設と競合他社との共同報告書であるといえる。
これらの事実に照らせば,被告東洋建設の取締役副社長(被用者)である
被告Bが,被告東洋建設が会員として入会している被告リサイクルソリュー
ションの主宰する,被告東洋建設の専門分野に関する海外調査に参加してそ
の報告書(被告著作物)を作成し,被告リサイクルソリューションに対して
提出し,ウェブサイト上に公開する行為は,被告東洋建設の「事業の執行に
ついて」行われた行為であるといえる。
被告東洋建設と被告Bとの間には指揮監督関係があり,被告東洋建設は,
被告Bによる本件著作権及び著作者人格権の侵害行為について,民法715
条に基づき,被告Bの使用者としての責任を負う。
(2)仮に,被告東洋建設について使用者責任が認められないとしても,被告東
洋建設は,会社法350条の類推適用により,本件著作権及び著作者人格権
侵害行為について責任を負う。
(3)仮に,被告東洋建設について使用者責任が認められず,会社法350条の
類推適用も認められないとしても,被告東洋建設は,民法709条に基づき,
不法行為責任を負う。
〔被告ら〕
(1)原告の主張は否認ないし争う。
(2)使用者責任について
ア民法715条1項の「被用者」に該当するというためには,使用者の選
任監督,指揮命令に服する関係にある者でなければならないが,被告Bは,
取締役執行役員であって,被告東洋建設の被用者には該当しない。
イ被告東洋建設に使用者責任が発生するためには,被告Bの著作権等侵害
行為が被告東洋建設の「事業の執行について」されたことが必要である。
被告Bは,被告著作物を,個人の紀行文として投稿したものであり,こ
の行為は,被告東洋建設の事業の執行についてされたものではない。
被告東洋建設の事業内容は,総合建設業,不動産事業等であり,被告著
作物の作成,提出行為は,この事業に含まれないことは明らかである。
なお,被告東洋建設が被告リサイクルソリューションの会員になってい
るのは,被告東洋建設の業務上の必要性からではなく,業界内の付き合い
の意味があったからにすぎない。被告著作物は,あくまでも,被告リサイ
クルソリューションの事業の一環として,被告Bが渡仏した経験を個人的
にまとめたものであるから,被告著作物の提出は,被告東洋建設の「事業
の執行行為を契機」としていないし,執行行為と「密接に関連を有する」
行為でもない。このことは,被告著作物の「B」の記名部分に「取締役」
の肩書きがないことからも明らかである(甲6)。被告Bの記名に続いて,
「【東洋建設(株)】」と付記されているのは,被告リサイクルソリュー
ションの会員が被告東洋建設であることから,被告Bの所属を示す趣旨に
すぎない。
(3)被告東洋建設について,民法709条に基づき,著作権等侵害の責任が発
生するためには,被告著作物の作成者である被告Bの行為が被告東洋建設の
行為と同一視できる場合でなければならない。
しかしながら,被告Bは,被告東洋建設の取締役にすぎないのであって,
被告東洋建設の代表権を有しないから,被告Bの行為を被告東洋建設の行為
と同一視することはできない。
2争点(2)(被告らが訴訟提起前にした原告に対する回答等について不法行
為責任を負うか否か)について
〔原告〕
(1)「ただ乗り」行為について
ア不法行為(民法709条)は,著作権など法律に定められた権利が侵害
された場合に限らず,法的保護に値する利益が違法に侵害された場合であ
れば成立するものと解される。
価値のある情報は,多大な費用と時間とをかけ,企画策定,移動,取材,
撮影,原稿作成,見出しの作成,写真の配置,編集を経て,html形式のデ
ジタル情報に変換され,ドメインを得て,あるいは,プロバイダとの契約
を締結して,ウェブサーバにアップロードされることで,初めて,インタ
ーネット上に存在することになる。
原告は,平成13年の春ころから秋ころにかけて,学業の合間の時間を
割き,フランスの中部,北部の運河を多数訪問した上で,原告著作物を作
成した。原告は,「道路と自然」という書籍に掲載した著作物(甲4)を
若干修正し,写真を入れ,読み物として興味をもたれるように工夫を施す
などした上で,原告著作物をインターネット上にアップロードした(甲
3)。
被告Bは,上記のような原告の労力(額の汗)に,いわば「ただ乗り」
をして,被告著作物を作成し,被告リサイクルソリューションに提出する
という行為により,著作権とは別に,原告の法的に保護された権利ないし
利益を侵害した。
よって,被告Bは,上記「ただ乗り」行為について,民法709条に基
づき,不法行為責任を負う。
イ被告Bによる上記行為は,被告東洋建設の取締役として行われた行為で
あるから,被告東洋建設は,被告Bの上記行為について,民法715条に
基づき,使用者責任を負う。あるいは,被告Bの上記行為は,被告東洋建
設の行為そのものであるといえるから,被告東洋建設は,民法709条に
基づき不法行為責任を負う。
ウ被告リサイクルソリューションは,被告Bの上記行為によって作成され
た原稿が,第三者の権利を侵害しないか否かを確認すべき注意義務がある
のに,これを怠り,インターネットに接続しているウェブサーバにアップ
ロードし,被告リサイクルソリューションの活動実績として公表して,原
告の法的に保護された権利ないし利益を侵害したから,被告B及び被告東
洋建設と共同不法行為責任を負う。
(2)「言い訳」行為について
ア原告は,被告リサイクルソリューションに対し,著作権侵害を指摘した
ものの,被告リサイクルソリューションは,当初,「ご提出いただいた文
書を特に確認もせずに掲載してしまったことは,いずれにせよ弊社の管理
不行き届きであり,心からお詫び申し上げます。」と述べながら,被告B
とは連絡が取れないとして,事実関係を確認しようとしなかった。
しかしながら,団体会員である被告東洋建設の取締役である被告Bに連
絡が取れないということは不自然であったため,再度,原告は,被告リサ
イクルソリューションに連絡をした。
すると,被告リサイクルソリューションは,原告に対し,被告Bが作成
したという平成20年6月12日付け「特定非営利活動法人リサイクルソ
リューション様へ寄稿したフランス運河の記述について」と題する文書
(甲7。以下「本件文書」という。)を添付して,「B氏のご返答の文書
を添付致しましたので,ご容赦頂ければ幸いです。」などと記載した電子
メールを送信し,著作権侵害問題の幕引きを急ごうとした。
本件文書の内容は,原告著作物への依拠性を否定するものであり,著作
権侵害を否認するものである。そして,依拠性を否定するための理由に種
々言及する内容となっている。
原告は,本件文書を読み,「一見とぼけてみせるような,それでいて,
自身の非を認めないよう周到に塗り固められた」文章であると感じ,大き
な精神的苦痛を受けるとともに,本当に被告Bが作成した文章であるのか
という疑問を持ち,被告B本人に確かめてみたいと考えるようになったも
のの,どのような手段を採ることができるのか分からず,追及をあきらめ
ざるを得ない悔しい思いをすることになった。
その後,原告は,被告著作物のうち本件部分以外の記述が,第三者のウ
ェブページ上の記述を複製したものであることを知り,被告Bが虚偽の言
い訳をして,事実をうやむやにしようとしていたことを知るに至り,憤慨
するとともに,改めて悔しい思いをすることになった。
被告Bの虚偽による上記言い訳行為(名誉毀損行為)は,原告に対する
不法行為に該当する。
イ被告Bによる上記行為は,被告東洋建設の取締役として行われた行為で
あるから,被告東洋建設は,被告Bの上記行為について,民法715条に
基づき,使用者責任を負う。あるいは,被告Bの上記行為は,被告東洋建
設の行為そのものであるといえるから,被告東洋建設は,民法709条に
基づき不法行為責任を負う。
なお,本件文書は,一人称を示す表記が「当職」とされたり,「私」と
されたりするなど,被告Bが個人的に作成したものではない可能性がある。
また,本件文書中には,不自然な改行箇所(「冒頭部分,歴史的な話」か
ら「ことからもご理解願います。」まで)があり,後に複数の文章が挿入
され,合体された可能性もある。これらのことからも,被告Bが被告東洋
建設の取締役として,本件文書をもって原告に回答したことが分かる。
ウ被告リサイクルソリューションは,本件文書の内容を十分に確認の上,
原告に送付する注意義務があるにもかかわらず,これを怠り,原告に本件
文書を送信した過失により,原告に対して,虚偽の事実を告知し,原告の
精神的安定を害したから,被告B及び被告東洋建設と共同不法行為責任を
負う。
〔被告ら〕
(1)「ただ乗り」行為との主張について
ア被告Bが,原告が時間と費用と労力とをかけて作成した成果にただ乗り
し,著作権とは別に原告の法的に保護された権利ないし利益を侵害したこ
とは認める。
しかしながら,後記のとおり,これによる損害は発生していない。
イ被告リサイクルソリューションが,被告Bの上記行為によって作成され
た被告著作物が,第三者の権利を侵害しないか否かを確認すべき注意義務
があるのに,これを怠り,インターネットに接続しているウェブサーバに
アップロードし,被告リサイクルソリューションの活動実績として公表し
て,原告の法的に保護された権利ないし利益を侵害したことは認める。
しかしながら,後記のとおり,これによる損害は発生していない。
ウ被告東洋建設が,被告Bの使用者としての責任,あるいは,不法行為責
任を負うとの主張は否認ないし争う。
(2)「言い訳」行為との主張について
ア原告の主張は否認ないし争う。
イ被告Bは,原告から,被告リサイクルソリューションを通じて問い合わ
せを受けた際,原告の著作物を故意に盗用したとの認識がなかったため,
本件文書のとおり回答したものの,原告の主張を完全に否定する意図はな
かった。
本件文書の表現に問題があったことは認める。しかしながら,被告Bは,
本件文書において,依拠性を否定したり,著作権侵害を否定したりしたこ
とはない。被告Bは,原告の著作物を故意に盗用したものではないことの
根拠として,閘門が同人の専門分野であり,「水門」とせず「閘門」と書
いたと主張しただけのことで,依拠性を否定したものではない。
被告Bは,「悪意」をもって原告の著作権を侵害したわけではないこと
を回答すべく本件文書を原告に送付したのであって,虚偽の「言い訳」を
述べたわけではない。
原告の本件文書に関する不法行為の主張は失当である。
なお,被告Bが,原告に対し,本件文書をもって回答した経緯は次のと
おりである。
(ア)被告リサイクルソリューションは,平成20年5月末ころ,原告から,
被告著作物の記述が原告著作物の記述に酷似しているとの指摘及びその
ことについて説明を求める旨の申入れを受け,被告Bに連絡した。
被告Bは,上記連絡を受けたものの,被告著作物を作成してから約4
年が経過しており,手元には,被告著作物を作成した際の参考資料は残
っておらず,また,被告Bには,原告著作物を引き写して,被告著作物
を作成したという記憶もなかった。
しかしながら,被告著作物と原告著作物とを比較すると,両者の間に
は,酷似した記述箇所が多数あり,被告著作物を作成するに当たって,
原告著作物を参考にしていないという確信も持つことができなかった。
(イ)そこで,被告Bは,①被告Bには,被告著作物の作成に際して参考に
した文献中に,原告著作物があったという明確な記憶がないので,原告
の著作物であることを承知した上で,意図的に盗用した事実はないこと,
②しかし,同時に,明確な記憶がないだけで,参照,引用した資料の中
に原告の著作物が入っていた可能性はあること,③そこで,結果的に原
告に不快な思いをさせてしまい,大変申し訳なく思っていること,の3
点の趣旨を被告東洋建設の社員に伝え,本件文書を作成させ,被告リサ
イクルソリューションを通じて,原告に送付したものである。
ウ被告東洋建設が,被告Bの使用者としての責任,あるいは,不法行為責
任を負うとの主張は否認ないし争う。
本件文書は,被告Bの考えをそのまま忠実に記載したものであり,本件
文書の作成者は被告Bであって,被告東洋建設ではない。被告Bは,本件
文書に「東洋建設株式会社取締役副社長」という肩書きを付しているも
のの,これは,原告が被告リサイクルソリューションに連絡する際,肩書
きを名乗っていたことから,被告Bも,同様に肩書きを付すのが礼儀であ
ると思ったからにすぎない。
3争点(3)(損害額)について
〔原告〕
(1)著作権侵害分
ア複製権又は翻案権侵害について
(ア)財産的損害(原稿料相当額)として金3万円
(イ)精神的損害として金10万円
原告著作物は,原告が格別の愛着を有する著作物である。財産的損害
が賠償されても,精神的損害は填補されない。被告Bの著作権侵害行為
は,故意によるものであり,上記の金額が認められるべきである。
イ譲渡権侵害について
(ア)財産的損害(原稿料相当額)として金3万円
(イ)精神的損害として金10万円
原告著作物は,原告が格別の愛着を有する著作物である。財産的損害
が賠償されても,精神的損害は填補されない。被告Bの著作権侵害行為
は,故意によるものであり,上記の金額が認められるべきである。
ウ公衆送信権侵害について
(ア)財産的損害として金20万円
被告著作物が公衆送信可能化されていた期間が平成16年9月ころか
ら平成20年5月ころまでと長期間であること,インターネットに接続
されたウェブサーバにアップロードした場合,不特定,多数人の目に触
れることになること,被告リサイクルソリューションは,被告著作物を,
自らの活動実績として公表し,利用して利益を享受したことなどに照ら
し,上記の金額が認められるべきである。
(イ)精神的損害として金30万円
原告著作物は,原告が格別の愛着を有する著作物であり,財産的損害
が賠償されても,精神的損害は填補されない。公衆送信可能化されてい
た期間が平成16年9月ころから平成20年5月ころまでと長期間であ
ること,インターネットに接続されたウェブサーバにアップロードした
場合,不特定,多数人の目に触れることになることから,上記の金額が
認められるべきである。
(2)著作者人格権(同一性保持権)侵害分200万円
改変部分が多数であること,改変により原告著作物の有する内容も変容し
ていること,3年8か月間という長期間にわたって公衆送信可能化され,不
特定,多数人に閲覧されたこと,原告著作物が掲載されている原告の管理す
るフランスの運河についてのホームページは,人気のあるホームページであ
り,「フランスの運河」という検索語で検索すると,検索サイトの上位を占
めるほどであること,原告著作物は,「道路と自然」と題する書籍に掲載さ
れており,同書籍には,原告の本名,勤務先,写真が掲載されていることな
どの事情に照らすと,慰謝料として上記の金額が認められるべきである。
(3)著作権侵害以外の不法行為分
ア「ただ乗り」行為について
原告が原告著作物を作成する際,フランスにおいて取材活動を行うのに
要した費用(概算)の相当額40万円が財産的損害分として認められるべ
きである。
イ「言い訳」行為について
原告は,前述のとおり,本件文書により多大な精神的苦痛を被ったから,
慰謝料として100万円が認められるべきである。
(4)調査手数料について
以下の事務を処理する手数料相当額は,10万円を下らない。
ア原告は,平成20年5月27日ころ,被告リサイクルソリューションの
ホームページ上において,被告著作物,すなわち,原告著作物の著作権が
侵害されている事実を発見し,被告リサイクルソリューションに対し,電
話をかけるとともに,電子メールを送信し,原告の連絡先,被告著作物の
内容(被告著作物のコピーを電子メールに添付),原告著作物が「道路と
自然」2002年春号に掲載されたものであることを伝えた。
イ原告は,同年6月11日,被告リサイクルソリューションが被告Bと連
絡が取れないと連絡してきたことに疑問を感じ,著作権侵害について報告
を求めた。
ウ原告は,同月26日,被告リサイクルソリューションから,本件文書の
送信を受け,当該文書ファイルのプロパティを調べ,会社名が情報システ
ム部となっていることや最終保存者が被告リサイクルソリューションのC
となっていることを発見した。
(5)弁護士費用
弁護士費用相当額として,(1)ないし(4)までの合計426万円の2
割に相当する85万2000円が,被告らの行為と相当因果関係のある損害
である。
(6)遅延損害金の起算日について
(3)イ(言い訳行為の慰謝料),(4)(調査手数料)及び(5)(弁
護士費用)の損害額合計195万2000円については,訴状送達の日(被
告リサイクルソリューションにつき平成20年8月6日,被告B及び被告東
洋建設につき,同月7日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求め,その余の損害額合計316万円については,被告
著作物が作成された後の日である平成16年9月30日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(7)自白の撤回に対する異議
被告らは,当初,「被告Bは,原告が請求する被告Bに対する被害回復の
方法のうち,損害賠償額100万円を超える部分を除き,これを全面的に認
める。」(答弁書の第2の3項)との陳述をしていたのに,その後,これを
撤回して,損害額について争うに至った。
しかしながら,これは自白の撤回に当たる。原告は,上記自白の撤回につ
いて異議を述べる。
〔被告ら〕
(1)原告の主張は否認ないし争う。
(2)著作権侵害分(原告の主張(1)に係る損害)について
原告は,フランスに関する専門の研究者でも,著述家でもなく,原告著作
物は研究論文でも,文芸作品でもない。
原告は,原告著作物によって何ら対価を受けておらず,原告の損害とは,
被告Bが原告の著作物を引用したことによって原告が受けた精神的な苦痛の
みにすぎない。
なお,被告リサイクルソリューションは,団体会員の研修,視察,調査等
における執筆に関して,会員に原稿料を支払うことはなく,被告リサイクル
ソリューションは,被告著作物について一切原稿料を支払っていない。
(3)著作権侵害以外の不法行為分(原告の主張(3)に係る損害)について
原告は,原告自身のフランス旅行の費用についても,被告Bの「ただ乗
り」行為を理由に請求している。しかしながら,被告Bが原告の著作権を侵
害したとしても,それは原告がフランスに旅行したことそのものとは全く関
係がない。また,被告Bは,本件文書において,「言い訳」をしたわけでは
なく,本件文書による損害も発生していない。
(4)弁護士費用について
原告は,被告Bから本件文書を受領した時点において,訴訟を提起するの
ではなく,原告代理人弁護士を通じて,被告Bに申入れをするなど,訴訟に
代わる代替手段が存在した。被告Bは,弁護士からの申入れに対しては,従
前よりも踏み込んだ回答をしたに違いないから,原告が本件訴訟に要した弁
護士費用は,被告Bの行為と相当因果関係がない。
(5)自白の撤回について
原告は,被告らが,当初,「被告Bは,原告が請求する被告Bに対する被
害回復の方法のうち,損害賠償額100万円を超える部分を除き,これを全
面的に認める。」との陳述をしていたのに,その後,これを撤回し,損害額
について争うに至ったことが,自白の撤回に該当する旨主張する。
しかしながら,自白について拘束力が生じるのは,具体的な事実について
であって,法律効果についてではない。損害賠償額に関する主張は法的効果
に関するものであり,自白の撤回に当たらない。
被告らが,当初100万円の支払義務を認めた点は,自白としての効力を
有しない,いわば和解提案としてのものにすぎない。
4争点(4)(差止め及び廃棄の必要性)について
〔原告〕
(1)被告リサイクルソリューションに対し,著作権侵害による差止請求として,
別紙著作物目録記載1のうち,同目録記載2の部分の報告書及びデータの複
製,公衆送信を禁止することを求めるとともに,著作権侵害物である別紙著
作物目録記載1のうち,同目録記載2の部分の報告書及びデータの廃棄を求
める必要性がある。
(2)被告B及び被告東洋建設に対し,著作権侵害による差止請求として,別紙
著作物目録記載1のうち,同目録記載2の部分の報告書及びデータの複製,
翻案又は改変を禁止することを求めるとともに,被告Bに対し,著作権侵害
物である別紙著作物目録記載1のうち,同目録記載2の部分の報告書及びデ
ータの廃棄を求める必要性がある。
〔被告ら〕
(1)被告リサイクルソリューションに対し,別紙著作物目録記載1のうち同目
録記載2の部分の報告書及びデータの複製,公衆送信の禁止を求める点,上
記部分の報告書及びデータの廃棄を求める点については認める。
(2)被告Bに対し,別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分の報告書
及びデータの複製,翻案又は改変の禁止を求める点,上記部分の報告書及び
データの廃棄を求める点については認める。
5争点(5)(謝罪広告の要否)について
〔原告〕
(1)原告は,著作者人格権侵害についての名誉回復等の措置の請求として,①
被告らに対し,別紙謝罪広告目録記載3の謝罪広告を,同目録記載4の条件
で掲載することを,②被告リサイクルソリューションに対し,その開設する
ウェブサイトのトップページ上に,同目録記載1の謝罪文を30日間掲載す
ることを,③被告東洋建設に対し,その開設するウェブサイトのトップペー
ジ上に,同目録記載2の謝罪文を30日間掲載することを,求める。
(2)必要性について
ア原告の海外レポート「フランスの運河を巡って−美しい田舎風景を求め
て」は,「道路と自然」第114号に掲載された(甲4)。
上記書籍は,原告の氏名,勤務先及び顔写真を掲載している。
上記書籍は,季刊であり,年4回,昭和48年から発行されている,社
団法人道路緑化保全協会のロングセラーの書籍である。現在,年間800
0部が発行されており,官公庁や大学,図書館等にも配布され,緑化事業
の先駆的雑誌として高い評価を受けている。
原告は,首都高速道路公団の職員であり,環境に配慮した道路開発とい
う観点から,現在,観光名所にまで発展し,地元民に親しまれている建造
物に関する海外レポートを公にしている。
したがって,原告は,明らかに社会からの客観的評価を受けており,原
告の名誉声望は,単なる名誉感情にとどまるものではない。
イ被告著作物は,原告の氏名表示がされていないこと,つまみ食い的な取
捨選択がされ,改変箇所も多数に及ぶこと,ニッポンレンタカーのウェブ
ページ上の記載と合体されていること,改変により意味内容も変容してし
まっていること,題号も変更されていること,原告著作物の創作意図が変
更されていること,長期間にわたって公衆送信可能化され,不特定,多数
人に閲覧されていたこと,被告東洋建設は一部上場企業であるにもかかわ
らず,その取締役である被告B自ら,法令遵守体制に違反していること,
原告の管理するフランスの運河についてのホームページは,人気があり,
「フランスの運河」という検索語による検索では,検索サイトの上位を占
めること,原告著作物は,「道路と自然」と題する書籍に掲載され,原告
の本名,勤務先,顔写真が掲載されていることに鑑み,原告の請求すると
おりの謝罪広告が命ぜられる必要がある。
〔被告ら〕
被告リサイクルソリューションの開設するウェブサイトのトップページ上に,
別紙謝罪広告目録記載1の謝罪文を30日間掲載するとの点は認め,その余は否
認ないし争う。
第4当裁判所の判断
1争点(1)(被告東洋建設が使用者責任等を負うか否か)について
(1)前記「第2事案の概要」の「1前提となる事実及び法律関係」(3)
において認定したとおり,被告Bが本件部分を含む被告著作物を作成した行
為は,原告の原告著作物に対する著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格
権(同一性保持権)侵害に当たり,被告Bが被告著作物を被告リサイクルソ
リューションに提出し,被告リサイクルソリューションが本件部分を含む被
告著作物を被告ホームページ上に公開することによって,原告の原告著作物
に対する著作権(公衆送信権)を侵害したことにつき,被告Bは,被告リサ
イクルソリューションと共同不法行為責任を負う。
原告は,被告東洋建設が,被告Bの使用者として,被告Bの上記不法行為
について,民法715条1項に基づき,被告Bと連帯して,損害賠償責任を
負う旨主張するので,この点につき検討する。
(2)前記前提となる事実及び法律関係に記載した事実に証拠(甲1,5,6,
12,21,24,乙1,2)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実
が認められる。
ア被告リサイクルソリューションは,環境の保全を図る特定非営利活動を
行い,特定非営利活動に係る事業として,リサイクル技術等の調査,研究,
啓蒙,普及及びあっせんに関すること等を,収益事業として,出版事業,
リサイクル推進に係る人材養成,技術支援事業を行う法人である。
被告リサイクルソリューションの事業内容は,リサイクルのための新材
料・技術の調査,研究,普及及び啓蒙等であり,その会員は,個人会員
(趣旨に賛同する個人)と団体会員(新材料の提供,新技術の導入意志の
ある会社及び関連団体)とから成る。
イ被告東洋建設は,土木建築工事の調査,測量,企画,設計,施工,監理
及びコンサルタント業務の請負並びに受託等を目的とする株式会社であり,
被告リサイクルソリューションの団体会員(平成11年度入会)である。
被告東洋建設のほかにも,大手建設会社,その他の企業が団体会員とし
て,あるいは,これら企業等の関係者が個人会員として,被告リサイクル
ソリューションに入会している。
ウ被告東洋建設は,そのホームページ(甲24)において,「地球環境保
護に配慮した事業活動を行うこととし,特に建設副産物についてはリサイ
クルや適正な処理に万全を期する。また,より良い環境の創造に寄与する
ことを常に心掛けた技術開発,建設活動を行う。」などとうたっている。
エ被告Bは,被告東洋建設の取締役執行役員副社長の立場にある者である。
被告Bは,被告東洋建設の代表権を有しない。
オ被告Bは,平成16年9月,被告リサイクルソリューションが主宰した
フランスの運河をめぐる海外研修調査に,被告リサイクルソリューション
の団体会員である被告東洋建設の一員として参加した。
被告Bの上記海外研修調査への参加費用のうち,航空券代やホテル代等
の旅行代金は,被告東洋建設が支出した。
カ被告Bは,上記海外研修調査から帰国後,被告リサイクルソリューショ
ンから,研修調査報告書の提出を求められ,被告著作物を作成して,被告
リサイクルソリューションに提出(寄稿)した。
被告著作物には,その作成名義として「B【東洋建設(株)】」と記載
されている(甲6)。
被告著作物の内容は,プロヴァンス地方の歴史や風土,世界遺産や街に
ついての簡単な説明,フランスの運河についての説明や情景描写,あるい
は,被告Bの個人的な感想を紹介するものである。
(3)上記認定事実によれば,被告Bは,被告リサイクルソリューションの主宰
する海外研修調査に,被告リサイクルソリューションの団体会員である被告
東洋建設に所属する者としての資格で参加したものであること,上記研修調
査についての報告書である被告著作物の作成,提出行為も,被告リサイクル
ソリューションの団体会員である被告東洋建設に所属する者としての資格に
おいて行われたものであることが認められる(被告著作物の「B【東洋建設
(株)】」との記載も,被告Bが団体会員である被告東洋建設に所属する者
として,被告リサイクルソリューションにおける活動を行ったことを示すも
のといえる。)。
そして,被告東洋建設は,土木建築工事の設計,施工,監理及びコンサル
タント業務の請負等を目的とする株式会社であり,地球環境保護に配慮した
事業活動を行うことをうたっていること,被告リサイクルソリューションは,
特定非営利活動に係る事業として,リサイクル技術等の調査,研究,啓蒙,
普及及びあっせんに関すること等を行う法人であることに照らすと,被告リ
サイクルソリューションにおける活動が,被告東洋建設の事業活動に資する
面があることは否定できない。
しかしながら,被告著作物の内容は,上記のとおり,被告東洋建設の事業
に直接関わるものではなく,訪問した場所の風景や歴史等を簡単に説明した
上で,その場所や施設等に関する被告Bの個人的な感想を紹介する内容のも
のにすぎず,このような,いわば「紀行文」の作成,提出行為が,被告東洋
建設の上記事業(土木建築工事の設計,施工,監理及びコンサルタント業務
の請負等)の執行と密接に関連する行為であるとは言い難い。
したがって,被告Bの被告著作物の作成,提出行為は,被告東洋建設の
「事業の執行について」されたものであるとは認められず,被告東洋建設が,
被告Bの上記行為について民法715条1項に基づき使用者責任を負うこと
はないというべきである。
よって,原告の上記主張は理由がない。
(4)原告は,被告東洋建設について使用者責任が認められないとしても,被告
東洋建設には,会社法350条の類推適用が認められるべきである旨主張す
る。
しかしながら,被告Bは,被告東洋建設の代表権を有する者ではなく,ま
た,既に述べたところと同様に,被告Bの被告著作物の作成,提出行為は被
告東洋建設の「職務を行うについて」されたものであるとは認められないか
ら,原告の上記主張も理由がない。
(5)原告は,被告東洋建設について会社法350条の類推適用が認められない
としても,被告東洋建設は,民法709条に基づき不法行為責任を負う旨主
張する。
しかしながら,既に述べたところによれば,被告Bの被告著作物の作成,
提出行為を被告東洋建設の行為であると同視することはできず,その他本件
全証拠によっても,被告東洋建設が被告Bの上記行為について原告に対し不
法行為責任を負うと解すべき事情は認められないから,原告の上記主張も理
由がない。
2争点(2)(被告らが訴訟提起前の原告に対する回答等について不法行為責
任を負うか否か)について
(1)「ただ乗り」行為との主張について
原告は,被告Bが,原告が原告著作物を創作するのに要した労力(額の
汗)に,いわば「ただ乗り」して,被告著作物(本件部分)を作成し,被告
リサイクルソリューションに提出したことにより,著作権とは別に,原告の
法的に保護された権利ないし利益を侵害した旨主張する。
しかしながら,本件において,被告Bの行為により,著作権法により保護
された原告著作物に対する原告の権利や利益の侵害とは別に,あるいは,こ
れを超える(すなわち,著作権侵害では評価し尽くされない),原告の法的
に保護された権利ないし利益が侵害されたと認めることはできない。
よって,この点に関する原告の主張は理由がない。
(2)「言い訳」行為との主張について
原告は,被告Bが,原告から,被告著作物が原告の著作権を侵害するもの
であるとの指摘を受けた際,原告著作物への依拠性を否定し,著作権侵害を
否定する内容の本件文書を作成し,原告に送付したことが,虚偽による言い
訳行為として不法行為(名誉毀損行為)を構成する旨主張する。
証拠(甲7)によれば,本件文書中には,「この草稿にあたっては,(中
略),現地で見聞きしたこと,現地のパンフレットのほかジョバンナ・マー
ジ著の「プロヴァンス」ほか数点の日本語訳本を参考に,また自宅近くの図
書館へ行くなど私なりに勉強をした上で書いたものであり,その中に貴殿の
文章は入っておりません。従いまして,貴殿の文章を拝見したのは今回が初
めてであり,確かに似ている部分があるとは感じるものの,決して貴殿の文
章を引用したのではないということをまずはご理解賜りたく存じます。」,
「このネット社会において様々な情報が入り乱れるなか,貴殿の文章が複数
のルートを経由し,これを読んだ何某かの著者の書いた文章が,私の読んだ
資料にあった可能性は捨て切れません。その結果として部分的に酷似した文
章となってしまったのであるならば,このことによって貴殿に不快な想いを
させてしまったことは誠に遺憾であり深くお詫びするものであります。しか
しながら貴殿の文章を直接見ながら書いたのではないという点,あらためて
ご理解を賜りますよう重ねてお願い申し上げます。」などと記載されていた
ことが認められる。
上記認定によれば,被告Bが原告の著作権を侵害する行為を行ったとの原
告からの申し入れについて,被告Bは,本件文書により,原告の著作権を侵
害する行為は行っていない旨回答したものと認めることができる。
そして,前記前提となる事実及び法律関係で述べたとおり,被告Bは,原
告の原告著作物に対する著作権及び著作者人格権を侵害したものと認められ
るから,上記回答の内容は,上記認定に反するものであるといえる。
しかしながら,訴訟前の交渉において,被告Bが,事実と異なることを述
べたことがあったとしても,被告Bが,原告に対し,本件文書を送付したこ
とにより,原告の権利行使が客観的に妨げられる事態が生じたなどの事情は
認められないのであって,被告Bの上記行為により,原告の法的に保護され
る権利や利益が侵害されたとは認められず,原告に対する不法行為を構成す
るとはいえない。
また,本件文書の記載内容は,客観的にみて,原告の社会的名誉や名誉感
情を侵害する違法なものであるということはできないから,原告が本件文書
の記載内容につき不快の念を抱いたことがあったとしても,不法行為は成立
しないというべきである。
よって,この点に関する原告の主張も理由がない。
3争点(3)(損害額)について
(1)以上によれば,被告B及び被告リサイクルソリューションは,原告著作物
の著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持
権)侵害行為により,原告が被った損害を賠償すべき責任を負う(両者の債
務は不真正連帯債務の関係に立つ。)。
(2)著作権侵害(財産的損害)について
ア証拠(甲4,27)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,首都高速道路
公団に勤務する者であること,原告は,平成12年から平成13年にかけ
て,フランス国内の土木学校に派遣され,道路行政に関するマネジメント
を学んでいたこと,学校での勉強の合間をぬって,フランス国内を旅行し,
その経験を元に,原告著作物を作成したこと,原告著作物は,社団法人道
路緑化保全協会の出版する「季刊道路と自然」(平成14年冬号第1
14号第29巻第2号)に掲載された「海外レポートフランスの運河を
巡って−美しい田舎風景を求めて」と題する原告の著作物に補筆をして作
成したものであること,原告は,自ら開設するインターネットホームペー
ジ上において,原告著作物を公開していること,が認められる。
以上の事実に加え,原告著作物の内容,侵害行為の態様(被告著作物の
内容,性質,複製又は翻案箇所の多寡,被告著作物が送信可能化されてい
た期間,送信可能化の方法等),その他本件にあらわれた諸般の事情を総
合考慮すれば,著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)侵害についての原
告著作物の使用料相当額としては,10万円と認めるのが相当である。
なお,原告は財産的損害の算定根拠として,原稿料相当額を挙げるもの
の,被告リサイクルソリューションが,被告著作物について,被告Bに対
し原稿料を支払ったとの事実は認められない(弁論の全趣旨)。
イ原告は,著作権侵害について,損害額として,財産的損害のほか,精神
的損害をも主張する。
しかしながら,著作財産権侵害においては,特段の事情がない限り,財
産的損害の賠償が認められれば,精神的苦痛は慰謝されるものというべき
である。本件において,原告が原告著作物に対し愛着を有していることは
認められるものの(甲27),上記特段の事情があるとまでは認められな
い。
(3)著作者人格権侵害(精神的損害)について
原告は,被告著作物により原告著作物についての同一性保持権を侵害され
たものであり,証拠(甲27)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,これに
より精神的苦痛を被ったものと認められる。
そして,本件における著作者人格権の侵害態様(改変箇所の多寡,改変内
容),被告著作物が送信可能化されていた期間,送信可能化の方法,その他
本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,著作者人格権の侵害により原告
が被った精神的苦痛に対する慰謝料は30万円と認めるのが相当である。
(4)調査手数料について
原告は,調査手数料相当額の損害として10万円の賠償を求めるものの,
本件全証拠によっても,原告が本件著作権及び著作者人格権侵害について,
調査手数料を支出したことを認めるに足りない。
(5)弁護士費用について
本件事案の内容,認容額,本件訴訟の経過等を総合すると,本件著作権侵
害行為及び本件著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額
は,5万円と認めるのが相当である。
(6)合計45万円
(7)遅延損害金の始期について
被告リサイクルソリューション及び被告Bは,上記損害額のうち,弁護士
費用を除く40万円については,不法行為の後の日である平成16年9月3
0日から支払済みまで,弁護士費用に相当する5万円については,不法行為
の後の日である訴状送達の日(被告リサイクルソリューションにつき平成2
0年8月6日,被告Bにつき同月7日)から支払済みまで,それぞれ民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
(8)自白の撤回について
原告は,被告らが,「被告Bは,原告が請求する被告Bに対する被害回復
の方法のうち,損害賠償額100万円を超える部分を除き,これを全面的に
認める。」(答弁書の第2の3項)との陳述をしていたが,その後,これを
撤回し,損害額について争うに至ったことが,自白の撤回に当たるとして,
異議を述べた。
しかしながら,被告らが第1回口頭弁論期日において,原告の請求の棄却
を求めたこと,被告らの答弁書及び平成20年9月24日付け「準備書面
1」の記載内容,その他弁論の全趣旨に照らせば,被告Bは,和解による解
決を希望し,和解の条件についての提案をする趣旨で上記陳述をしたもので
あると認められ,被告Bの上記陳述をもって,事実についての陳述を含むも
のであると解することはできない。被告Bの上記陳述は,せいぜい事実に基
づく法律効果の成否に関するものであって,いわゆる権利自白の類のもので
あり,被告Bに対し,事実についての自白と同様の拘束力が及ぶものではな
いと解するのが相当である。
したがって,原告の上記異議は失当である。
4争点(4)(差止め及び廃棄の必要性)について
(1)原告は,被告リサイクルソリューションに対し,著作権侵害による差止請
求として,別紙著作物目録記載1のうち,同目録記載2の部分の報告書及び
データの複製,公衆送信を禁止することを求め,被告B及び被告東洋建設に
対し,著作権侵害による差止請求として,別紙著作物目録記載1のうち,同
目録記載2の部分の複製,翻案又は改変を禁止することを求めている。
既に述べたとおり,被告著作物のうち本件部分は,原告著作物の複製又は
翻案物に当たるといえ,被告B及び被告リサイクルソリューションは,被告
著作物により,原告の原告著作物に対する著作権(複製権,翻案権,公衆送
信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害したのであるから,著作権
法112条1項に基づき,被告リサイクルソリューションに対し,別紙著作
物目録記載1のうち,同目録記載2の部分の複製,公衆送信の差止めを命じ,
被告Bに対し,別紙著作物目録記載1のうち,同目録記載2の部分の複製,
翻案又は改変の差止めを命じる必要性がある(なお,被告東洋建設に,差止
めを求める部分は理由がない。)。
(2)原告は,被告リサイクルソリューション及び被告Bに対し,別紙著作物目
録記載1のうち,同目録記載2の部分の報告書及びデータを廃棄することを
求めている。
被告リサイクルソリューション及び被告Bは,被告著作物(書面ないしデ
ータ)を所持しているものと認められるから(弁論の全趣旨),被告リサイ
クルソリューション及び被告Bに対し,別紙著作物目録記載1のうち,同目
録記載2の部分に係る報告書及びデータの廃棄を命ずる必要性がある。
5争点(5)(謝罪広告の要否)について
(1)原告は,本件書籍に関する著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたと
して,被告らに対し,著作権法115条に基づき,①被告リサイクルソリュ
ーションの開設するウェブサイト上における謝罪広告の掲載(「第1請
求」4項),②被告東洋建設の開設するウェブサイト上における謝罪広告の
掲載(同7項),③全国紙の新聞紙面上における謝罪広告の掲載(同8項)
を求めている。
(2)著作者は,故意又は過失によりその著作者人格権を侵害した者に対し,著
作者の名誉若しくは声望を回復するために,適当な措置を請求することがで
き(著作権法115条),「適当な措置」には謝罪広告の掲載も含まれる。
同条にいう「名誉若しくは声望」とは,著作者がその品性,徳行,名声,
信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価,すなわち社会的
名誉声望を指すものであって,人が自分自身の人格的価値について有する主
観的な評価,すなわち名誉感情を含むものではないと解される。
(3)上記を前提に検討するに,原告著作物は,社団法人道路緑化保全協会の出
版する「季刊道路と自然」(平成14年冬号第114号第29巻第2
号)に掲載された「海外レポートフランスの運河を巡って−美しい田舎風
景を求めて」と題する原告の著作物に,原告自ら補筆をして作成し,これを
自ら開設するインターネットホームページ上において,公開していること,
上記「季刊道路と自然」には,上記著作物の著者として,原告の氏名が表
示され,勤務先や原告の顔写真も併せて掲載されていること(甲4),被告
著作物は,平成16年10月から平成20年5月までの3年8か月間にわた
り,被告リサイクルソリューションの開設する被告ホームページ上で送信可
能化されていたこと,被告リサイクルソリューションは,被告ホームページ
上で原告の主張する謝罪広告を掲載することにつき,その必要性を認めてい
ることなどに照らすと,本件においては,原告の名誉回復のための措置とし
ては,別紙謝罪広告目録記載1の謝罪広告を,被告リサイクルソリューショ
ンの開設する被告ホームページのトップページに30日間掲載することが相
当である。
他方,原告は,全国紙の新聞紙面上における謝罪広告の掲載(上記③)を
も求めるものの,本件侵害態様に照らすと,原告の名誉回復のための措置と
しては,上記①の謝罪広告を命じれば足りるものと解される。
なお,被告東洋建設に対し,謝罪広告の掲載を求める上記②に理由がない
ことは,既に説示したことから明らかである。
6結論
以上によれば,原告の本訴請求は,被告リサイクルソリューションに対し,
別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分の複製及び公衆送信の差止め,
上記部分に係る報告書及びデータの廃棄,並びに,被告ホームページのトップ
ページ上への謝罪広告の掲載を求め,被告Bに対し,上記部分の複製,翻案又
は改変の差止め,並びに,上記部分に係る報告書及びデータの廃棄を求め,被
告リサイクルソリューション及び被告Bに対し,連帯して45万円並びに内金
40万円について平成16年9月30日から,内金5万円について被告リサイ
クルソリューションにつき平成20年8月6日から,被告Bにつき同月7日か
ら,各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある
から,これを認容し,被告リサイクルソリューション及び被告Bに対するその
余の請求並びに被告東洋建設に対する請求は理由がないから,これをいずれも
棄却することとし,主文第1,2及び5項については仮執行宣言は相当でない
から付さないこととして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
阿部正幸裁判長裁判官
平田直人裁判官
柵木澄子裁判官
(別紙)
著作物目録
1南仏海外調査報告書(南仏マリーナ,運河を支える技術を探る旅,2004年
9月17日から同月26日までのもの)
2上記1のうち,「第5章南仏雑感」の「5−4フランスの旅」のうち,「フラ
ンスの運河」と題する段落の文章すべて(「これも」から「今感じているところ
です。」まで)
3原告が作成した「フランスの運河を巡って***美しい田舎風景を求めて**
*」の文章(http://<以下略>)
以上
(別紙)
謝罪広告目録
1謝罪文
当法人は,このウェブサイトにおいて,A氏の著作権を侵害するコンテンツを
含む南仏海外調査報告書を掲載し,著作権者に多大のご迷惑をおかけしたことを
反省し,ここに,謝罪いたします。今後,当法人の管理するホームページにおい
て,著作権侵害が起きないよう十分注意いたします。
2謝罪文
弊社が,特定非営利活動法人リサイクルソリューションに提出した南仏海外調
査報告書の原稿中,弊社取締役Bの作成した文章がA氏の著作権を侵害して作成
されたものであったことにつき,弊社及びBともども,著作権者に多大のご迷惑
をおかけしたことを反省し,ここに謝罪いたします。
3謝罪文
特定非営利活動法人リサイクルソリューションが,当法人の管理するウェブサ
イトにおいて,A氏の著作権を侵害するコンテンツを含む南仏海外調査報告書を
掲載し,著作権者に多大のご迷惑をおかけしたことを反省し,ここに,謝罪いた
します。今後,上記サイトにおいて,著作権侵害が起きないよう十分注意いたし
ます。
特定非営利活動法人リサイクルソリューション
東洋建設株式会社が,特定非営利活動法人リサイクルソリューションに提出し
た南仏海外調査報告書の原稿中,弊社取締役Bの作成した文章がA氏の著作権を
侵害して作成されたものであったことにつき,弊社及びBともども,著作権者に
多大のご迷惑をおかけしたことを反省し,ここに謝罪いたします。
東洋建設株式会社
代表者代表取締役<略>
同社取締役副社長B
4掲載条件
朝日新聞の全国版朝刊社会面に,1段の大きさで,表題部は20ポイント活字,
その余の部分は10ポイント活字で,1回掲載すること。
以上
(別紙)
原告著作物の内容
フランスの運河を巡って***美しい田舎風景を求めて***
1.はじめに
クラクションが鳴り響き,雑踏あふれるパリからちょっと郊外に出れば,あた
り一面には畑や森が広がるのどかな田舎風景です。
メトロが網の目のごとく張り巡らされ,絶えず活動的な魅惑のパリですが,2
000年から1年間ちょっと,会社からの派遣でパリに滞在していた私は,たま
に時間を割いてはその喧騒さから脱出し,ミシュランの地図を頼りに小さな集落
から集落へとプジョーを走らせて,一見のんぽりとした変哲もない風景が流れて
いく中,私なりに,フランスらしい「個性的な風景」を探していました。
初めに着目したのは「小川の流れる風景」だったのですが,残念ながら「美し
い」と思ったそれらは,大抵の場合は柵で囲まれた私有地というケースがほとん
どで,それらを直接眺めることはできませんでした。
そんな田舎巡りを始めてしばらくして,パリから北東のヴァレッドという小さ
な町にて,偶然にオルク運河と出会いました。
それ以来,帰国までのわずかな期間,あちこちの運河を求めてフランス中を走
りました。それを集約して私なりの観点ではありますが,フランス運河の魅力を
ざっくばらんに紹介したいと思います。
2.フランス運河の魅力
フランスには,総延長約8,500kmの内陸運河があります。古くは17世
紀初期から,内陸部の都市間の輸送手段を確保するために,あちこちで分水嶺を
越える運河が建設されてきました。
その他,年中安定した通行を確保するために本流の川に沿うように敷かれた運
河,そしてセーヌ川,オワーズ川などのように,年中安定した水量・水流を確保
するために川そのものに水門を設置してしまった「運河化」した川もあります。
残念ながら,輸送の役割としては,鉄道やトラックなどの陸路輸送にほぼその
座を明け渡してしまい,現在はツーリストのため,といった感があります。夏こ
そは,バカンスを楽しむプレジャーボートで賑わいますが,10月を過ぎてしま
うとシーズンオフで,実に閑散としたものになってしまいます。
しかし,パリ近郊から北フランス,ベルギーにかけての「幹線」では,まだま
だペニッシュ(300トンクラスの運河運搬船)の姿をよく見かけることができ
ます。
既に歴史遺産となってしまった感のある運河ですが,実はあちこちで改修工事
が淡々と進められているのも事実です。フランスの大方の運河はVNF(フラン
ス運河公社)によって管理されており,水門や土手の改築,そして水路の浚渫が
行われています。
「運河」といっても,工業的または広々とした川というイメージではなく,基
本的には牛たちが散在するなだらかな丘陵や麦畑の中を,ゆっくりと静かに流れ
ていく小川のようなものです。
流れの両脇には必ず側道があって,サイクリストや散歩をする人をちらほらと
見かけます。そして茂った並木が淡々と続いています。
そして運河は常に良く整備されています。土手の雑草が伸びてくればきれいに
刈り込まれます。
そのようなフランス運河の魅力はすばり,それがかもし出す「美しい田舎風
景」でしょう。もちろん,美しいか否かは個人個人の主観に寄ることではありま
す。
しかし,単調でのんぽりとした風景を引き締めるアクセントとして,例えば集
落とその中心にそびえる教会の塔,街道に添う並木そして牧草地に集う牛などと
同様,フランスの田舎風景に欠かすことのできない要因の一つだと思います。
むしろアクセントというよりは,全体的に整備された風景の中に溶けこんで,
まさに絵画の一部となっている印象も受けます。
3.水門の魅力
風景的な魅力だけではありません。
運河をたどっていきますと,所々にエクリューズ(仏語で"水門"の意味)とい
う,ローカル鉄道の駅のようなものがあり,その前後で運河の水位が段違いに変
わっています。
そこにはプラットホームのような大きな石畳の水槽があって,その両側には大
きな扉がついています。水槽の中に船を閉じ込めて水位を上げ下げすることで,
違った区間に船を送り出すわけです。
多くの水門の隣には,石積みのこじんまりとした家が建っていて,水門番(仏
語:エクリュージェ)が住んでいます。彼らはれっきとした国家公務員で,年が
ら年中,通過する船のために水門の開け閉めをしています。
敷地内には花壇があったり,ちょっとしたオブジェがあったりして,四季折々
の風情を演出しています。極めてまれではありますが,通過する船を客相手にカ
フェレストランを経営している水門番もいます。
しかし,すべての水門に人が住んでいるのではなくて,オートマチック式の水
門もよく見かけます。運河によってはほとんどの水門が無人,というところもあ
ります。大抵の場合,そんな水門の脇には廃墟となった家があってなんとも言え
ない侘しさを感じさせます。
水門の魅力は,船を上げ下げする,という珍奇な作業を間近で見られることも
ありますが,やはり人とのコミュニケーションです。水門番は,人にも寄ります
が,暇なこともあってとても親切です。
「一日何隻通るの?」と聞くと彼らは決まってこう答えるでしょう。
「さあ,そのとき次第だな,5隻か10隻か。全く通らない時もあるよ。」
もちろん,ロープを操っている船員(とはいえ大方の場合,クルーは船長を含
めて2人ぐらいしかいないのですが)や,あたりを散歩している人と世間話をす
ることもあります。
4.連続水門の魅力
さらには,分水嶺の前後などやや勾配がきつい区間では,水門同士がかなり近
接しているのが見られます。中には「水槽」をいくつか直接つなげてしまった,
真の「連続水門」もあります。
ちなみにブリヤール運河には,1642年に建設され1887年まで使われた
7連続水門の遺跡があります。
大西洋から地中海へ抜ける運河の一つ,ニベルネ運河の分水嶺の北側には,2
kmの区間に16個所の水門が近接している「16水門のはしご」があります。
夏のヴァカンス時だったせいか,プレジャーボートが何隻も押し寄せていて,
いくつかの水門を兼任している水門番は,家族総動員体制で船からのロープの受
け渡し,水門の開け閉めをしていました。
中には操船初めてという老人カップルのクルーもいて,船をなかなか岸に固定
できずに四苦八苦,そんな船の後を追っかけてあたふたと次の水門へと走ってい
く彼らは本当に忙しそうでした。
5.運河の橋の魅力
そればかりでなく,フランス運河ではあちこちで大小様々な橋を見かけます。
船が橋を悠々と渡っていくのは実に珍奇な光景です。
有名なのはロワール川にかかるブリヤールの運河橋で,川を横切る際の航行の
安全を確保するという目的で1897年に開通しました。ここは風光明媚なせい
もあって観光スポットの一つになっています。
6.運河のトンネルの魅力
運河には橋だけでなくトンネルもあります。特に分水嶺に近接しているところ
では,数キロに渡るトンネルもあります。船の排気ガスが坑内に溜まらないよう
に,立坑が間隔を置いて設置されているところもあります。
サンクェンタン運河のリクェヴァルトンネルには,電気式曳き船に引っ張って
もらってトンネル内を航行します。この船はトロリーバスのようにパンタグラフ
で電気をもらい,水底にあるチェーンをガラガラと引き上げて歯車に絡ませなが
ら進んでいくものです。
ちなみにトンネルの坑口脇には引退した曳き船が鎮座していて,その中が曳き
舟や運河に関する博物館になっています。
7.運河のエレベータの魅力
さらには,ややマニアックになりますが,「インクライン」という,船を浮か
ばせた大きな水槽が斜面を移動していくものがあります。
マルヌ・ライン運河のストラスブルグの近く,アズビエールには一気に45m
程度を上がり下りするものがあります。インクライン設置前は17箇所の水門で
峠を登っていました。
ここも観光名所になっていて,フランスばかりでなくドイツからも大勢の観光
客で賑わいます。水槽を引き上げるための大きなウィンチが設置されている施設
内も見学できます。
8.おわりに
あちこちの運河を訪れましたが,いろんな人と出会えたことも良い想い出です。
帰り道によく田舎町のカフェに立ち寄るのですが,「初めて訪れた日本人」と
して歓迎されたり,日本通と称するご老人に絡まれたりすることもしばしばでし
た。
もちろん,車をトロトロと運転している私の顔に好奇な視線を向けられる場合
もよくありますが,それでも人々は親切で,下手なフランス語でも「忍耐」を持
って聞いてくれます。
運河には単なる風景の美しさだけでなく,そこにはフランスの人々,その生活
を本当に理解するための大きなきっかけが秘められていると思います。
「フランスの真髄は田舎にあり」だと私は常々感じます。
皆様もフランスに行く機会があれば運河を訪れてみては如何でしょうか?
(別紙)
被告著作物の内容
5−4フランスの旅
B【東洋建設(株)】
プロバンス地方の歴史と風土
フランスの観光案内書によると,アルプスから流れ下るローヌ川が,地中海に注
ぐデルタ地帯その付近一帯をプロバンス地方と呼ぶのだそうです。
プロバンス地方の歴史は古く,紀元前のローマ時代から始まったそうです。その
昔,ギリシャ人はマルセイユに植民地をつくり,カエサルのローマ軍はアルルを握
り,地中海沿岸からは十字軍が船出して行き,やがてアヴィニヨンに法王庁が建て
られたそうです。
輝く太陽,さわやかな空気,そして,ゆるやかな丘陵には小麦,野菜,ぶどうに
オリーブが豊かに実り,地中海からの贈り物の魚介類に恵まれたプロバンスは,イ
タリア人もスペイン人もみなが欲しがり戦争が絶えなかった所であったらしいです。
この地方がフランスに合併されたのは15世紀も後半のことだそうです。
今回の研修旅行で感じたことは,そんな長い歴史の跡を,街や村にいまも昔の姿
を多く残して居るところでした。
プロバンス地方の世界遺産
ポン・デュ・ガール
ポン・デュ・ガールは,アヴィニョンの西へ約3kmの,緑深い谷を流れるガルド
ン川にかかる巨大な石の橋でした。
やはりフランスの観光案内書によると,1世紀の中頃から後半にかけて建造され
たと言う水道橋で,高さ49m全長275m,最大6トンもの巨石を積み上げられている
壮大なものでした。ここから約16km西北のユゼス近くの水源から,古代ローマ都市
ニームに飲料水を送っていたそうです。
ニームとユゼスとは,高度差が17mしかなく,1kmにわずか34cmという微妙な勾
配で水を流したということです。その正確なローマ人の建築技術もさることながら,
3層の美しいアーチは芸術面でも優れていたことに改めて驚かされました。今でも
橋の上を自由に歩くことができることも凄いと思いましたが,はるか下を流れるガ
ルドン川を見下ろす橋には一本の柵もないのも驚きました。
ニーム
ニームの街を散策してみましたが,観光案内書に書いてある通り,「フランスの
中のローマ」と言われているように,ローマ時代の遺跡の多い街でありました。ま
た,「フランスのマドリッド」ともいわれる闘牛とフラメンコの盛んな街だそうで
す。
紀元1世紀ごろの建設といわれる古代闘技場は現存するローマ闘技場のなかでは,
大きさこそ中程度だそうですが,保存状態では一番と言われているそうです。現在
も多少手を加えられてはいましたが,当時のままの状態で闘牛をはじめ,オペラ,
バレエ,ロックコンサートとさまざまなイベントが行われているそうです。
そのほか,カエサルの2人の孫に捧げられた神殿はアポロン神殿を模して造られ
たという「メゾン・カレ」や,城壁の名残の一つであるアウグストゥス門,ポン・
デュ・ガールの水道橋を通って引かれてきた水の貯水槽なども見ることが出来まし
た。
アルル
アルル城壁の中へ入ると,目に飛び込んで来たのが,円形闘技場でした。
ローマ時代は,1万人もの観客を集めたそうです。直径は最も広いところで136m
もあり,フランスで現存する闘技場では,一番大きい闘技場だそうです。今までの,
闘技場は遺跡見学だけのものだったものを,観客席を鉄骨で造り直したりして,現
在は闘牛をはじめ,さまざまなイベントの場として活用しているそうです。
最上階まであがると,アルルの南仏特有の美しい町並みとローヌ川が見渡せるそ
うです。
この闘技場の隣には紀元1世紀末に完成したという古代劇場跡がありましたが,
現在は大理石の柱が数本残るだけでした。
フランスの運河
これも,フランスの観光案内書によると,フランスには総延長で8,500kmもの内
陸運河があるそうです。それは,17世紀はじめから,内陸部の輸送手段として,建
設されてきたそうです。しかし現在は,輸送の役割は,鉄道やトラックなどの陸路
輸送に,その座を明渡しているそうです。
今回の研修旅行で実際の運河を船に乗ってみましたが,工業目的の為の広々とし
た川と言うイメージではなく,牛の群れが居る牧草地の中を,ゆっくり流れている
用水路のようなもので,歴史遺産と言う感じを受けました。
その両側には,青く茂ったプラタナスの並木が延々と続く側道があって,水はそ
の真中を,淡々と流れていました。そのようなフランス運河の魅力は,美しい田舎
の風景だと感じました。
運河をたどっていくと,所々に田舎の鉄道の駅のような雰囲気のする,閘門の施
設がありました。それは石積みの大きな水槽であり,その前後に大きな扉がついて
いました。その扉を操作して,船を水槽の中に閉じ込め,水を出し入れすることに
よって船の水位を変えて,隣の水位の区間に船を送り込む仕組みでした。ほとんど
の閘門の近くには,小さな田舎造りの家が建っていて,閘門番が居ました。彼らは,
通過する船のために閘門を開け閉めしていました。大きな閘門では,通過する船の
客相手の,レストランがあるところもありました。さらに勾配のきつい区間では,
閘門同士が接近しているところもありました。圧巻は水槽を幾つか直接繋げてしま
った,連続閘門でした。
船旅を続けて居ると,運河の上を横断している橋に何回も遭遇しました。道路橋
であり鉄道橋でした。船が橋の下を通過することがほとんどでしたが,鉄道橋の時
などは橋そのものが跳ね橋となっている所も有りました。
また運河自体が大きな川を渡るための橋も通過しました。船が橋を渡っていくの
は実に奇妙な光景でした。そこは風光明媚な所であり,観光スッポトとなっていま
した。
今回の運河の旅の最後は,運河トンネルでした。運河が山を貫通していました。
今回の運河の旅は単なる風景を楽しむ旅ではなく,南フランスの歴史や,人達を
理解するきかっけとなる旅だったと,今感じているところです。
(別紙)
著作物対比表
原告著作物被告著作物
2.フランス運河の魅力フランスの運河1
これも,フランスの観光案内書による
フランスには,総延長約8,500kと,フランスには総延長で8,500kmもの
mの内陸運河があります。古くは17内陸運河があるそうです。それは,17世
世紀初期から,内陸部の都市間の輸送紀はじめから,内陸部の輸送手段とし
手段を確保するために,あちこちで分て,建設されてきたそうです。
水嶺を越える運河が建設されてきまし
た。
その他,年中安定した通行を確保する2
ために本流の川に沿うように敷かれた
運河,そしてセーヌ川,オワーズ川な
どのように,年中安定した水量・水流
を確保するために川そのものに水門を
設置してしまった「運河化」した川も
あります。
残念ながら,輸送の役割としては,鉄しかし現在は,輸送の役割は,鉄道やト3
道やトラックなどの陸路輸送にほぼそラックなどの陸路輸送に,その座を明渡
の座を明け渡してしまい,現在はツーしているそうです。
リストのため,といった感がありま
す。
夏こそは,バカンスを楽しむプレジャ4
ーボートで賑わいますが,10月を過
ぎてしまうとシーズンオフで,実に閑
散としたものになってしまいます。
しかし,パリ近郊から北フランス,ベ
ルギーにかけての「幹線」では,まだ
まだペニッシュ(300トンクラスの
運河運搬船)の姿をよく見かけること
ができます。
既に歴史遺産となってしまった感のあ今回の研修旅行で実際の運河を船に乗っ5
る運河ですが,実はあちこちで改修工てみましたが,工業目的の為の広々とし
事が淡々と進められているのも事実でた川と言うイメージではなく,牛の群れ
す。フランスの大方の運河はVNFが居る牧草地の中を,ゆっくり流れてい
(フランス運河公社)によって管理さる用水路のようなもので,歴史遺産と言
れており,水門や土手の改築,そしてう感じを受けました。
水路の浚渫が行われています。
「運河」といっても,工業的または広
々とした川というイメージではなく,
基本的には牛たちが散在するなだらか
な丘陵や麦畑の中を,ゆっくりと静か
に流れていく小川のようなものです。
流れの両脇には必ず側道があって,サその両側には,青く茂ったプラタナスの6
イクリストや散歩をする人をちらほら並木が延々と続く側道があって,水はそ
と見かけます。そして茂った並木が淡の真中を,淡々と流れていました。
々と続いています。
そして運河は常に良く整備されていま7
す。土手の雑草が伸びてくればきれい
に刈り込まれます。
そのようなフランス運河の魅力はすばそのようなフランス運河の魅力は,美し8
り,それがかもし出す「美しい田舎風い田舎の風景だと感じました。
景」でしょう。
もちろん,美しいか否かは個人個人の9
主観に寄ることではあります。
しかし,単調でのんぽりとした風景を
引き締めるアクセントとして,例えば
集落とその中心にそびえる教会の塔,
街道に添う並木そして牧草地に集う牛
などと同様,フランスの田舎風景に欠
かすことのできない要因の一つだと思
います。
むしろアクセントというよりは,全体
的に整備された風景の中に溶けこん
で,まさに絵画の一部となっている印
象も受けます。
3.水門の魅力
風景的な魅力だけではありません。
運河をたどっていきますと,所々にエ運河をたどっていくと,所々に田舎の鉄10
クリューズ(仏語で"水門"の意味)と道の駅のような雰囲気のする,閘門の施
いう,ローカル鉄道の駅のようなもの設がありました。
があり,その前後で運河の水位が段違
いに変わっています。
そこにはプラットホームのような大きそれは石積みの大きな水槽であり,その11
な石畳の水槽があって,その両側には前後に大きな扉がついていました。その
大きな扉がついています。水槽の中に扉を操作して,船を水槽の中に閉じ込
船を閉じ込めて水位を上げ下げするこめ,水を出し入れすることによって船の
とで,違った区間に船を送り出すわけ水位を変えて,隣の水位の区間に船を送
です。り込む仕組みでした。
多くの水門の隣には,石積みのこじんほとんどの閘門の近くには,小さな田舎12
まりとした家が建っていて,水門番造りの家が建っていて,閘門番が居まし
(仏語:エクリュージェ)が住んでいた。彼らは,通過する船のために閘門を
ます。彼らはれっきとした国家公務員開け閉めしていました。
で,年がら年中,通過する船のために
水門の開け閉めをしています。
敷地内には花壇があったり,ちょっと13
したオブジェがあったりして,四季折
々の風情を演出しています。極めてま
れではありますが,通過する船を客相大きな閘門では,通過する船の客相手
手にカフェレストランを経営しているの,レストランがあるところもありまし
水門番もいます。た。
しかし,すべての水門に人が住んでい
るのではなくて,オートマチック式の
水門もよく見かけます。運河によって
はほとんどの水門が無人,というとこ
ろもあります。大抵の場合,そんな水
門の脇には廃墟となった家があってな
んとも言えない侘しさを感じさせま
す。
水門の魅力は,船を上げ下げする,と
いう珍奇な作業を間近で見られること
もありますが,やはり人とのコミュニ
ケーションです。水門番は,人にも寄
りますが,暇なこともあってとても親
切です。
「一日何隻通るの?」と聞くと彼らは
決まってこう答えるでしょう。
「さあ,そのとき次第だな,5隻か1
0隻か。全く通らない時もあるよ。」
もちろん,ロープを操っている船員
(とはいえ大方の場合,クルーは船長
を含めて2人ぐらいしかいないのです
が)や,あたりを散歩している人と世
間話をすることもあります。
4.連続水門の魅力14
さらには,分水嶺の前後などやや勾配さらに勾配のきつい区間では,閘門同士
がきつい区間では,水門同士がかなりが接近しているところもありました。圧
近接しているのが見られます。中には巻は水槽を幾つか直接繋げてしまった,
「水槽」をいくつか直接つなげてしま連続閘門でした。
った,真の「連続水門」もあります。
船旅を続けて居ると,運河の上を横断し15
ている橋に何回も遭遇しました。道路橋
であり鉄道橋でした。船が橋の下を通過
することがほとんどでしたが,鉄道橋の
時などは橋そのものが跳ね橋となってい
る所も有りました。
また運河自体が大きな川を渡るための橋
も通過しました。
ちなみにブリヤール運河には,16416
2年に建設され1887年まで使われ
た7連続水門の遺跡があります。
大西洋から地中海へ抜ける運河の一
つ,ニベルネ運河の分水嶺の北側に
は,2kmの区間に16個所の水門が
近接している「16水門のはしご」が
あります。
夏のヴァカンス時だったせいか,プレ
ジャーボートが何隻も押し寄せてい
て,いくつかの水門を兼任している水
門番は,家族総動員体制で船からのロ
ープの受け渡し,水門の開け閉めをし
ていました。
中には操船初めてという老人カップル
のクルーもいて,船をなかなか岸に固
定できずに四苦八苦,そんな船の後を
追っかけてあたふたと次の水門へと走
っていく彼らは本当に忙しそうでし
た。
5.運河の橋の魅力
そればかりでなく,フランス運河では
あちこちで大小様々な橋を見かけま
す。
船が橋を悠々と渡っていくのは実に珍船が橋を渡っていくのは実に奇妙な光17
奇な光景です。景でした。
有名なのはロワール川にかかるブリヤ
ールの運河橋で,川を横切る際の航行
の安全を確保するという目的で189
7年に開通しました。
ここは風光明媚なせいもあって観光スそこは風光明媚な所であり,観光スッポ18
ポットの一つになっています。トとなっていました。
6.運河のトンネルの魅力今回の運河の旅の最後は,運河トンネル19
運河には橋だけでなくトンネルもありでした。運河が山を貫通していました。
ます。
特に分水嶺に近接しているところで20
は,数キロに渡るトンネルもありま
す。船の排気ガスが坑内に溜まらない
ように,立坑が間隔を置いて設置され
ているところもあります。
サンクェンタン運河のリクェヴァルト
ンネルには,電気式曳き船に引っ張っ
てもらってトンネル内を航行します。
この船はトロリーバスのようにパンタ
グラフで電気をもらい,水底にあるチ
ェーンをガラガラと引き上げて歯車に
絡ませながら進んでいくものです。
ちなみにトンネルの坑口脇には引退し
た曳き船が鎮座していて,その中が曳
き舟や運河に関する博物館になってい
ます。
7.運河のエレベータの魅力
さらには,ややマニアックになります
が,「インクライン」という,船を浮
かばせた大きな水槽が斜面を移動して
いくものがあります。
マルヌ・ライン運河のストラスブルグ
の近く,アズビエールには一気に45
m程度を上がり下りするものがありま
す。インクライン設置前は17箇所の
水門で峠を登っていました。
ここも観光名所になっていて,フラン
スばかりでなくドイツからも大勢の観
光客で賑わいます。水槽を引き上げる
ための大きなウィンチが設置されてい
る施設内も見学できます。
8.おわりに
あちこちの運河を訪れましたが,いろ
んな人と出会えたことも良い想い出で
す。
帰り道によく田舎町のカフェに立ち寄
るのですが,「初めて訪れた日本人」
として歓迎されたり,日本通と称する
ご老人に絡まれたりすることもしばし
ばでした。
もちろん,車をトロトロと運転してい
る私の顔に好奇な視線を向けられる場
合もよくありますが,それでも人々は
親切で,下手なフランス語でも「忍
耐」を持って聞いてくれます。
運河には単なる風景の美しさだけでな今回の運河の旅は単なる風景を楽しむ旅21
く,そこにはフランスの人々,その生ではなく,南フランスの歴史や,人達を
活を本当に理解するための大きなきっ理解するきかっけとなる旅だったと,今
かけが秘められていると思います。感じているところです。
「フランスの真髄は田舎にあり」だと22
私は常々感じます。
皆様もフランスに行く機会があれば運
河を訪れてみては如何でしょうか?

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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