弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人向江璋悦、同長谷山行毅の上告趣意は、末尾添付の別紙書面記載のとおり
である。
 同上告趣意第一点について。
 所論にかかる、被告人の妻Aの検察官に対する供述調書記載の供述は、被告人が
近頃自宅に不在であることについての若干の事情を述べているに過ぎないものであ
つて、かかる調書が、所論のように裁判官に事件につき予断を生ぜさせる虞のある
書類に当るものということはできない。されば検察官が被告人に対する公訴提起後、
起訴状謄本の送達不能の証明資料としてかかる調書を裁判所に提出しても、刑訴二
五六条六項に違反するものでないことは明らかである。そして原判決も同じく右調
書が同項の書類に当らない旨判示しているのであるから、同項に当る書類に関する
所論判例に違反する旨の主張は、その前提を欠くものであつて、上告適法の理由と
ならない(なお論旨は、右調書提出の時機が刑訴規則一六六条に違反していること
を主張するが、検察官が起訴当時所在不明であることの明らかな被告人に対し公訴
を提起した場合、その起訴状謄本の送達が不能になるのをまたないで、送達不能の
証明資料を裁判所に提出することは、刑訴規則一六六条の禁ずるところではないと
解するを相当とする)。
 同上告趣意第二点について。
 論旨は違憲をいうが、その実質は、被疑者に被疑事実について弁解の機会を与え
ないで起訴することが、訴訟法違反であることを主張するに外ならないものであつ
て、上告適法の理由とならない(被疑者が逃げ隠れしていた等のため捜査官憲の取
調を受けず、被疑事実についての弁解の機会が与えられないままで起訴されたから
といつて、その起訴が違法であると解すべき理由は少しもない)。
 同上告趣意第三点について。
 所論は、第一審裁判所の裁判官(単独)は、本件起訴前刑訴二二七条による証人
尋問をなしたものであるから、除斥または忌避の原因があるにかかわらず本件審判
をなしたことは、憲法三七条一項に違反するというのである。所論の事実は記録上
認められるが、刑訴二二七条による証人尋問をした裁判官は当該被告事件の審判か
ら除斥されるものではなく(昭和二七年(あ)一三二七号、同二八年四月一六日第
一小法廷判決参照)、所論裁判官が本件訴訟手続において忌避の申立を受けた事実
も記録上認められないのであるから、所論憲法の主張は前提を欠くものであつて、
上告適法の理由とならない。
 同上告趣意第四点及び第五点について。
 論旨は採証非難、審理不尽及び量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理
由に当らない(第五点の論旨中違憲をいう点もあるが、その前提たる所論量刑事情
は、原判決の判示していないところであつて、単なる想像に過ぎない)。
 記録を調べても、本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて刑訴四〇八条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三〇年三月二五日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    池   田       克

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