弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人秋山昭八の上告理由について
 譲渡禁止の特約のある指名債権をその譲受人が右特約の存在を知つて譲り受けた
場合でも、その後、債務者が右債権の譲渡について承諾を与えたときは、右債権譲
渡は譲渡の時にさかのぼつて有効となり、譲渡に際し債権者から債務者に対して確
定日付のある譲渡通知がされている限り、債務者は、右承諾以後において債権を差
し押え転付命令を受けた第三者に対しても、右債権譲渡が有効であることをもつて
対抗することができるものと解するのが相当であり、右承諾に際し改めて確定日付
のある証書をもつてする債権者からの譲渡通知又は債務者の承諾を要しないという
べきである。
 これを本件についてみると、原審が適法に確定したところによれば、(一)被上告
人は、昭和四四年六月一八日、訴外株式会社D(以下、Dという。)に対しビルデ
イングの一室を賃貸し、保証金一二〇万円の預託を受けたが、右保証金返還請求権
には譲渡禁止の特約が付されていた、(二)Dは、昭和四五年八月二六日、訴外Eに
対し右保証金返還請求権を譲渡し、同日、債務者である被上告人に対し確定日付の
ある証書をもつて債権譲渡の通知をしたが、Eは右債権に譲渡禁止の特約が付され
ていることを知つていた、(三)その後、被上告人は、同年一一月二七日ごろまでに、
D及びEに対し右債権の譲渡を承諾する旨の通知をした、(四)他方、上告人は、
昭和四五年六月一一日、Dに対し一〇〇万円を貸し与え、右に関して債務弁済契約
公正証書が作成されたが、Dが弁済を怠つたため、上告人は、昭和四六年一月二〇
日、右公正証書に基づき本件保証金返還請求権を差し押え転付命令を得た、という
のである。
 右事実関係のもとにおいては、被上告人が本件保証金返還請求権の譲渡について
承諾を与えたことによつて、右債権譲渡は譲渡の時にさかのぼつて有効となり、右
承諾に際し改めて確定日付のある証書をもつてDからの譲渡通知又は被上告人の承
諾がされなくても、被上告人は上告人に対し右債権譲渡が有効であることをもつて
対抗することができるのであり、これと同旨の原審の判断は正当として是認するこ
とができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫

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