弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 検察官の上告趣意について。
 所論第一点は、判例違反をいうけれども、引用の判例は、所論の公益事業令失効
後における経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律(以下整備法という)二条、別表乙号
二九号の効力自体に関し、なんら判断を示したものとは認められず、本件には適切
でない。それゆえ、所論は前提を欠き、適法な上告理由に当らない。
 同第二点、第三点は、いずれも単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条
の上告理由に当らない。
 職権をもつて調査すると、本件公訴事実は、被告人Aに対する昭和二七年二月一
六日付起訴状記載の公訴事実(但し、同起訴状添附別紙第一の一七を除く)、同B
に対する同日付起訴状記載の公訴事実(但し、同公訴事実六を除く)、同Cに対す
る同日付起訴状記載の公訴事実(但し、同公訴事実一を除く)、同Dに対する同日
付起訴状記載の公訴事実と同一であるから、ここにこれらを引用するが、右のうち、
被告人Aの所為は、整備法二条、別表乙号二九号に規定する賄賂の収受に当るもの
として、同条の罰則の適用を求められたものであり、その余の被告人らの所為は、
右賄賂の供与に当るものとして、同法五条一項の罰則の適用を求められたものであ
る。しかるに、原審は、公益事業令(昭和二五年政令三四三号、同年一二月一五日
施行)が、原判示の経緯で昭和二七年一〇月二四日限り失効したことにより、同令
により許可を受け電気事業を営んでいたものの役職員は、右罰則の構成要件的身分
を失い、同令失効後右と同じ行為をしたとしても、整備法によつて処罰することは
できず、たとえ、同法別表乙号二九号は、形式的に削除されなかつたとしても、昭
和二七年法律三四一号電気及びガスに関する臨時措置に関する法律の制定を見るま
では死文化していたものであるから、本件は、犯罪後の法律の変更により刑の廃止
があつたものと解し、刑法六条、刑訴法三三七条二号により、被告人らを免訴して
いる。
 しかし、原判示のように公益事業令の失効により、すでに同令に基づく許可を受
けて電気事業を営む会社の役職員は、整備法二条による収賄者たる身分を失い、ひ
いては、その収賄者を処罰する同条またはその贈賄者を処罰する同法五条一項の各
刑が廃止されたものと解することが失当であることは、昭和三六年(あ)第二九八
六号、同四〇年七月一四日宣告の大法廷判決の趣旨とするところである。
 しからば、公益事業令の失効に伴う電気事業に対する許可制の一時的空白は、収
賄者または贈賄者たる本件被告人らにつき、すでに成立した本件の罪責を左右する
とは解されず、原審が同令の失効を根拠として、本件は犯罪後刑の廃止があつた場
合に当るとして、被告人らを免訴したのは、刑の廃止に関する法令の解釈適用を誤
つた違法があるものというべきで、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかで
あり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
 よつて、刑訴法四一一条一号、四一三条本文により、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官柏原語六の反対意見があるほか裁判官全員一致の意見による
ものである。
 裁判官柏原語六の反対意見は、前掲大法廷判決において、同裁判官の同調する裁
判官奥野健一の反対意見と同じであるから、これをここに引用する。
 検察官 米田之雄公判出席
  昭和四〇年七月二〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎

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