弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被上告人の金員支払請求のうち昭和五九年五月二五日から第一
審判決主文第二項掲記の登記がされるまでの間一か月二万九四〇〇円の割合による
金員の支払請求を認容した部分を破棄し、右部分につき第一審判決を取り消す。
     被上告人の前項の部分の請求にかかる訴えを却下する。
     上告人のその余の上告を棄却する。
     訴訟の総費用はこれを五分し、その四を上告人の、その余を被上告人の
負担とする。
         理    由
 上告代理人吉田訓康の上告理由第一及び第二の一について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審
の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づ
いて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同第二の二について
 記録によれば、被上告人は、(1) 第一審判決添付の物件目録記載の土地(以下
「本件土地」という。)は被上告人と上告人との共有であり、被上告人は一〇〇〇
〇分の二九四五の共有持分を有するところ、上告人は本件土地を昭和四〇年一一月
中旬頃から訴外D産業株式会社(以下「訴外会社」という。)に専用駐車場として
賃貸し、同年一二月一日から昭和五三年三月までは毎月一四万円、同年四月以降は
毎月一五万円の収益を得ている、(2) 被上告人は、上告人が共有物件である本件
土地を他へ賃貸して得た収益につき、その持分割合に応じた権利を有するところ、
上告人は、被上告人が取得すべき部分につき、法律上の原因なくして利得している、
(3) よつて、被上告人は、上告人に対し、四七二万八〇〇〇円及び昭和五三年一
一月一日から本件土地につき共有持分の移転登記がされるまでの間一か月三万三二
〇〇円の割合による不当利得返還請求権を有する、と主張している。
 原審は、その適法に確定した事実関係に基づき、(1) 本件土地は上告人と被上
告人の共有であり、上告人が一八五万五九七五分の一三〇万九四七五、被上告人が
一八五万五九七五分の五四万六五〇〇の各共有持分を有するところ、上告人名義に
所有権移転登記が経由されているので、上告人は、被上告人に対し、本件土地につ
き持分一八五万五九七五分の五四万六五〇〇の所有権移転登記手続をする義務があ
る、(2) 被上告人は、上告人が本件土地から生ずる収益(果実)をその持分割合
をこえて取得している場合には、上告人に対しその支払を求める権利を有するとこ
ろ、上告人は、昭和四〇年一一月頃から現在に至るまで本件土地を訴外会社に専用
駐車場として賃貸し、昭和五三年一〇月末日までは年額一〇〇万円、同年一一月一
日以降は年額一二〇万円を下らない純益を上げている、(3) したがつて、上告人
は、被上告人に対し、昭和四〇年一二月一日から昭和五三年一〇月末日までの間の
純益合計一二九一万六六〇〇円(一〇〇円未満四捨五入)のうち上告人の持分割合
をこえる三八〇万三三〇〇円(一〇〇円未満四捨五入)とこれに対する昭和五三年
一一月一日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、同年
一一月一日から前記所有権移転登記完了の日までは一か月の純益のうち上告人の持
分割合をこえる二万九四〇〇円(一〇〇円未満四捨五入)の割合による金員を支払
う義務がある、と判断し、被上告人の前記請求を棄却した第一審判決を取り消して、
右請求を右の限度で認容している。
 よつて案ずるに、原審の右判断のうち、三八〇万三三〇〇円とこれに対する昭和
五三年一一月一日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金
並びに同年一一月一日から原審の口頭弁論終結の日である昭和五九年五月二四日ま
での間一か月二万九四〇〇円の割合による金員の支払請求を認容した部分は、原審
の適法に確定した事実関係に照らし、正当として是認することができるが、昭和五
九年五月二五日から前記所有権移転登記完了の日までの間一か月二万九四〇〇円の
割合による金員の支払請求すなわち将来の給付の訴えにかかる請求を認容した部分
は是認することができない。その理由は、次のとおりである。将来の給付の訴えは、
現在すなわち事実審の口頭弁論終結の時点では即時履行を求めることのできない請
求権について予め給付判決を求める訴えであつて、予め請求をする必要があるとき
に限り提起することが許されるものであり(民訴法二二六条)、既に権利発生の基
礎をなす事実関係及び法律関係が存在し、ただこれに基づく具体的な給付義務の成
立が将来における一定の時期の到来や債権者において立証を必要としないか又は容
易に立証し得る別の一定の事実の発生にかかつているにすぎない期限付債権や条件
付債権のほか、将来発生すべき債権についても、その基礎となるべき事実関係及び
法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、右債権の発生・消滅及び
その内容につき債務者に有利な将来における事情の変動が予め明確に予測し得る事
由に限られ、しかもこれについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ強
制執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても、当事者間の衡平を害すること
がなく、格別不当とはいえない場合には、これにつき将来の給付の訴えを提起する
ことができるものと解するのが相当である(最高裁昭和五一年(オ)第三九五号同
五六年一二月一六日大法廷判決・民集三五巻一〇号一三六九頁参照)。これを本件
についてみるに、被上告人の前記請求は、上告人が被上告人との共有物件である本
件土地を訴外会社に専用駐車場として賃貸することによつて得た収益のうち上告人
の持分割合をこえる部分について不当利得の返還を求めるものであるから、訴外会
社との賃貸借契約の存続及びこれに基づく賃料の現実の収受を当然の前提とするも
のであり、したがつて、賃料が現実に収受されたか否かを問わずに、将来にわたり
賃料収入による収益の分配につき継続的給付を命ずることは、右請求の性質からみ
て問題があるというべきである。もつとも、上告人と訴外会社との間に現に賃貸借
契約が存続していて、上告人に賃料収入による一定の収益がある場合には、継続的
法律関係たる賃貸借契約の性質からいつて、将来も継続的に同様の収益が得られる
であろうことを一応予測し得るところであるから、右請求については、その基礎と
なるべき事実上及び法律上の関係が既に存在し、その継続が予測されるものと一応
いうことができる。しかし、右賃貸借契約が解除等により終了した場合はもちろん、
賃貸借契約自体は終了しなくても、賃借人たる訴外会社が賃料の支払を怠つている
ような場合には、右請求はその基礎を欠くことになるところ、賃貸借契約の解約が、
賃貸人たる上告人の意思にかかわりなく、専ら賃借人の意思に基づいてされる場合
もあり得るばかりでなく、賃料の支払は賃借人の都合に左右される面が強く、必ず
しも約定どおりに支払われるとは限らず、賃貸人はこれを左右し得ないのであるか
ら、右のような事情を考慮すると、右請求権の発生・消滅及びその内容につき債務
者に有利な将来における事情の変動が予め明確に予測し得る事由に限られるものと
いうことはできず、しかも将来賃料収入が得られなかつた場合にその都度請求異議
の訴えによつて強制執行を阻止しなければならないという負担を債務者に課すこと
は、いささか債務者に酷であり、相当でないというべきである。そうとすれば、被
上告人の前記請求のうち、原審口頭弁論終結後の期間にかかる請求部分は、将来の
給付の訴えの対象適格を有するものということはできないから、右訴えにかかる請
求を認容した原審の判断には、訴訟要件に関する法令の解釈適用を誤つた結果、将
来の給付の訴えの対象適格を欠く請求についてその適格を認めた違法があるといわ
ざるを得ず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。したがつて、この
点をいう論旨は理由があり、原判決中右将来の給付請求を認容した部分は破棄を免
れず、第一審判決中右請求に関する部分を取り消し、右請求にかかる訴えを却下す
べきである。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、八九条、九
二条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    高   島   益   郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    四 ツ 谷       巖

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