弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人真田幸雄の上告理由第一点について。
 所論は、原審が、本件鉱業権(採掘権)につき昭和二七年五月二四日附譲渡契約
に基づき、同年八月一五日訴外D外五名(上告人の先代、Eを含む)から株式会社
F(第一審被告G株式会社の前身)に採掘権の取得登録がなされたことを認定しな
がら、他方において、昭和二九年二月二〇日右Eの死亡により、上告人が右鉱業権
の持分を相続取得したものと判示して、上告人に対し右鉱業権の持分に応じて本件
債務の負担を命じたのは、事実誤認竝びに法解釈を誤つた違法があると主張する。
 しかし、原審は、本件鉱業権がEを含むDら四名の共有であつて、その持分は均
等であつたこと、右鉱業権に基づくGの採掘等の業務を一任されていたDが、その
運営資金のため昭和二六年七月四日より同年一〇月九日迄の間五回にわたり前途金
名義をもつてH株式会社(被上告会社の前身)から金員を借り受け、立替金の債務
を含めて合計一〇〇万円の債務を負担していたこと、本件鉱業権が昭和二七年五月
二四日附譲渡契約によりG株式会社の前身である株式会社Fに譲渡され、同年八月
一五日その旨の登録がなされたこと、上告人が昭和二九年二月二〇日Eの死亡によ
り、前記債務中の同人の負担部分を相続したことを認定判示しているのであつて、
右事実認定は原判決挙示の証拠により肯認できないことはない。なるほど、上告人
が本件鉱業権をも相続により取得して現に共同鉱業権者であるとの原判示は、Eの
死亡前、既に右鉱業権が株式会社Fに譲渡されていたとの判示と矛盾するものとい
わなければならないが、右判示は単なる蛇足的記載にすぎない。しかして、Eが共
同鉱業権者として負担していた所論債務の負担部分は、右鉱業権が他に譲渡された
後も、右債務についてその引受がなされない以上は、依然として同人の負担すべき
ものであり、同人の死亡によりその相続人である上告人が右債務を承継するのは当
然であるから、これと同趣旨の判断をした原判決は結局正当であり、なんら判決に
影響を及ぼすべき違法があるとはいえないから、所論は採用できない。
 同第二点について。
 所論は、乙第三号証によれば、被上告会社がDに対して出捐した金八〇万円はG
の共同経営に関する契約に基づいて、支出した出資金であること明らかであるのに、
原審が同号証の存在に何等ふれることなく、右金八〇万円につき、これを被上告会
社が右鉱山の経営資金として貸し付けたものと認定したのは、証拠に対する判断を
遺脱した違法があると主張する。しかし、所論乙号証の存在から直ちに被上告会社
のなした右八〇万円の出捐が共同経営契約に基づく出資と認めるべきものというこ
とはできず、却つて、原判決挙示の各証拠に照合すれば、前記第一点について説示
したとおり、右八〇万円は本件共同鉱業権者が前記鉱山の経営資金として被上告会
社より借り受けたものである旨の原審の事実認定を首肯できるので、原判決には所
論違法はなく、その余の所論は要するに原審の認定しない事実に基づいて原審の事
実認定を非難するにすぎないから、理由がない。
 同第三点について。
 所論は、鉱業法四四条一項にいわゆる共同鉱業権者の代表者は、国に対する関係
においてのみ代表者として取扱われるにすぎず、私法上の関係において業務執行者
又は組合代理人たる権限を認める趣旨ではないから、Dは組合の名で組合のため業
務を執行する権限を有しないのに、同人の負担した債務について鉱業法四四条によ
つて上告人にまでその責を負わせた原判決は、同法条の解釈を誤つた違法があると
主張する。しかし、原審はDが本件鉱業権につき代表者であると共に、他の共同鉱
業権者から一任されて業務を執行していたことを認定しているのであり、従つて同
人が右鉱業権に基づくGの運営資金を被上告会社より借り受けた以上、共同鉱業権
者たるEがその負担部分に応じて右債務を負担するのは当然であり、同人の負担す
る右債務をその相続人である上告人において承継するものとして、上告人に対しそ
の負担を命じた原判決は正当であり、所論は結局、独自の見解を主張して原審の事
実認定を非難するにすぎないから、採用できない。
 同第四点について。
 所論は、Dに対する被上告会社の本件出捐がGの運営資金の貸付ではなく、右銅
山の共同経営契約に基づく出資であることを前提として原判決を非難するが、右は
原審の認定に反する事実に基づいて原審の事実認定を非難するにすぎないことが前
記第二点について説示したところにより明らかであり、採用するに足りない。
 同第五点について。
 所論は、Eの有していた本件鉱業権の持分を争つて原判決を非難する。しかし、
原審は、本件鉱業権がDら六名の共有として鉱業権原簿に登録されているが、その
中I、Jの両名は右鉱業権の共有者ではなく、結局、右鉱業権はその余の四名の共
有にかかり、その持分は相均しいものと認定しているのであつて、所論は原審の認
定しない事実を前提として独自の見解を主張するに外ならないから、採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   朔   郎

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