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平成26年6月30日判決言渡
平成26年(行コ)第10002号手続却下処分取消請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成25年(行ウ)第369号)
口頭弁論終結日平成26年5月14日
判決
控訴人アビニシオテクノロジーエルエルシー
訴訟代理人弁護士根本浩
友村明弘
松永耕明
補佐人弁理士稲葉良幸
佐藤睦
被控訴人国
代表者法務大臣
処分行政庁特許庁長官
指定代理人木村智博
高野剛
駒﨑利徳
平川千鶴子
古閑裕人
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を
30日と定める。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2特許庁長官が国際特許出願(特願2011-550259号)について平成
24年4月27日付けで控訴人に対してした,平成23年8月10日付け提出の国
内書面に係る手続却下の処分及び同年10月12日付け提出の国際出願翻訳文提出
書に係る手続却下の処分をいずれも取り消す。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1訴訟の概要
本件は,千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約(以下
「特許協力条約」という。)に基づいて外国語でされた国際特許出願(国際出願番号
PCT/US2010/024036。特願2011-550259号)の出願人
である控訴人が,特許法184条の5第1項各号に掲げる事項を記載した国内書面
及び平成23年法律第63号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)1
84条の4第1項本文に規定する明細書,請求の範囲等の日本語による翻訳文を特
許庁長官に提出したところ,特許庁長官から,国際出願翻訳文提出書に係る手続に
ついては前記翻訳文が翻訳文提出特例期間経過後に提出されたことを理由に,前記
国内書面に係る手続については翻訳文提出特例期間内に前記翻訳文の提出がないた
め同法184条の4第3項により前記国際特許出願が取り下げられたものとみなさ
れたことを理由に,それぞれ却下処分を受けたので,被控訴人に対し,これらの却
下処分の取消しを求めた事案である。
控訴人は,原審において,前記両却下処分は,国際特許出願の際に所定の翻訳文
等を期間内に提出しなかった場合における出願人の権利回復について定めた特許協
力条約に基づく規則(以下「条約規則」という。)49.6(a)ないし(e)に反し,ま
た,特許庁長官が特許法184条の5第2項に基づき補正を命ずべき義務を負って
いたにもかかわらず,補正を命ずることなく手続を却下した点において同項に反し
て違法である旨主張したが,原判決は,控訴人の主張は理由がないとして,控訴人
の請求をいずれも棄却した。
控訴人は,原判決を不服として,控訴を提起した。
2国際出願の国内移行手続に関する特許協力条約,条約規則及び我が国の国内
法令の定め
以下のとおり付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」「第2事案の概要」
「1国際出願の国内移行に関する条約及び我が国の法令の定め」記載のとおりで
ある。
⑴原判決2頁14行目「特許法184条の4第1項は,外国語でされた国際特
許出願の出願人は,」を「旧特許法184条の4第1項本文は,外国語でされた国
際特許出願(以下「外国語特許出願」という。)の出願人は,」と改める。
⑵原判決2頁16行目「図面」の後に「(図面の中の説明に限る。以下,同じ。)」
を加える。
(3)原判決2頁18行目「(同法184条の5第1項各号に掲げる事項を記載し
た書面)」を「(特許法184条の5第1項各号に掲げる事項を記載した書面)」
と改める。
(4)原判決3頁4行目から5行目「特許法184条の4第3項は,国内書面提出
期間内又は翻訳文提出特例期間内に明細書等翻訳文の提出がなかったときは,」を
「旧特許法184条の4第3項は,国内書面提出期間内(第1項ただし書の外国語
特許出願にあっては,翻訳文提出特例期間内。以下「国内書面提出期間内又は翻訳
文提出特例期間内」という。)に明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文(以下「明
細書等翻訳文」という。)の提出がなかったときは,」と改める。
3前提となる事実
以下のとおり付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」「第2事案の概要」
「2前提事実」記載のとおりである。
原判決5頁3行目冒頭から5行目末尾までを以下のとおり改める。
「⑵控訴人は,旧特許法184条の4第1項本文により,上記優先日から2年
6月以内すなわち平成23年8月15日(特許法3条2項により,同日をもって期
間の末日とする。)までの国内書面提出期間内に明細書等翻訳文並びに図面及び要約
の日本語による翻訳文を特許庁長官に提出しなければならなかったところ,同月1
0日に国内書面を特許庁長官に提出したので,旧特許法184条の4第1項本文た
だし書により,同日から2月すなわち同年10月11日(特許法3条2項により,
同日をもって期間の末日とする。)までの翻訳文提出特例期間内に当該翻訳文を提出
できることになった。ところが,控訴人は,明細書等翻訳文並びに図面及び要約の
日本語による翻訳文を同月12日に特許庁長官に提出した。」
4争点及び当事者の主張
⑴のとおり付加訂正し,⑵のとおり当審における当事者の主張を付加するほか,
原判決の「事実及び理由」「第2事案の概要」「3争点及びこれについての当
事者の主張」記載のとおりである。
⑴ア原判決6頁17行目「特許法184条の5第2項は,」の後に「明細書
等翻訳文が提出されなかった場合に,出願人の権利を積極的に回復させる義務を指
定官庁に課したものと解するのが相当であり,したがって,補正を命ずべきか否か
を」を加える。
イ原判決6頁18行目「第三者の利益を」の前に「特許庁長官は,」を加
える。
ウ原判決6頁20行目冒頭から7頁4行目末尾までを以下のとおり改める。
「仮に特許庁長官に裁量が認められるとしても,本件において,特許庁長官が以下
の点を考慮せずに,手続の補正をすべきことを命ずることなく本件両処分をしたこ
とは,裁量権の範囲を逸脱するものである。すなわち,①控訴人による明細書等翻
訳文並びに図面及び要約の両翻訳文の提出は,翻訳文提出特例期間の満了日からわ
ずかに1日遅れたにすぎず,軽微な過誤である。しかも,前記提出の日は国内書面
提出期間満了日から2月以内であるところ,同満了日から2月足らずの平成23年
10月11日に翻訳文提出特例期間が満了することになったのは,控訴人において
国内書面提出期間満了日よりも早く国内書面を提出したからにほかならない。これ
らの事実を考慮せずに行われた本件両処分は,国内書面提出期間満了日よりも早く
国内書面を提出したことをもって控訴人に不利益を課すに等しい。②また,平成2
3年当時,既に諸外国においては翻訳文提出期間を徒過した場合の救済制度が設け
られていたのに対し,我が国においてはいまだそのような規定も措置もなく,諸外
国の法制と整合していなかった。本件両処分当時においては改正特許法が成立して
おり,我が国の議会は,諸外国の法制と整合しない旧特許法を実質的に廃止してい
たといえる。」
エ原判決7頁13行目「意味するのが」を「意味すると解するのが」と改
める。
オ原判決7頁16行目「法令でなく,」を「法令ではなく,」と改める。
カ原判決7頁18行目「上記同日以降に」を「上記同日から」と改める。
キ原判決7頁20行目から21行目「特許法184条の4第3項の規定に
より」を「旧特許法184条の4第3項の規定により」と改める。
ク原判決7頁22行目「同第4項及び第5項の規定を」を「特許法184
条の4第4項及び第5項の規定を」と改める。
ケ原判決8頁6行目「同条の4第3項の」を「旧特許法184条の4第3
項の」と改める。
⑵当審における当事者の主張
ア控訴人の主張
(ア)原判決は,条約規則49.6⒡のいう「国内法令」とは,「我が国
の場合,我が国において効力を一般的に現実に発動している法令,すなわち,施行
されている法令を意味する(特許協力条約2条(ⅹ)参照)。」と判示するが,こ
のような解釈が条約規則49.6⒡の趣旨等から一義的に導かれるものではなく,
「国内法令」の意義を「議会において可決・成立した法令」と解しても,原判決が
前記解釈の根拠として掲げる「特許協力条約2条(ⅹ)」と矛盾しない。
(イ)原判決は,特許庁長官が手続の補正をすべきことを命ずる余地はな
い旨判示し,その根拠として「特許法184条の4第3項により,本件出願が取り
下げられたものとみなされた」ことを挙げるが,同項の「取り下げられたものとみ
なす」は,法的な擬制にすぎず,特許庁長官による補正命令や出願人による手続補
正等の一切を封じるものではない。このことは,改正された特許法184条の4第
5項の規定の趣旨からも明らかである。
イ被控訴人の主張
前記アの控訴人の主張はいずれも独自の解釈に基づくものにすぎず,理由がない。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,本件両処分に違法な点はなく,控訴人の請求はいずれも理由がない
ものと判断する。その理由は,以下のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実
及び理由」「第3当裁判所の判断」1項及び2項記載のとおりである。
1原判決8頁19行目冒頭から9頁7行目末尾までを「1第2の3において
前述したとおり,控訴人は,翻訳文提出特例期間の満了日である平成23年10月
11日の翌日である同月12日に当該翻訳文を提出した。そうすると,本件におい
ては,翻訳文提出特例期間内に明細書等翻訳文の提出がなかったものであるから,
旧特許法184条の4第3項により,本件出願は取り下げられたものとみなされ
た。」と改める。
2原判決9頁18行目「意味する」を「意味すると解するのが自然である」と
改める。
3原判決9頁19行目「そして,」から22行目「許法184条の4第1項),」
までを「そして,外国語特許出願における出願書類とその翻訳文は,改正特許法が
施行された日の前日である平成24年3月31日までは,国内書面提出期間内又は
翻訳文提出特例期間内に提出しなければならないとされ(旧特許法184条の4第
1項),明細書等翻訳文の提出が上記期間を徒過した場合の救済措置に係る規定は
なく,」と改める。
4原判決10頁2行目「同法184条の4第3項」を「旧特許法184条の4
第3項」と改める。
5原判決10頁3行目「同第4項及び第5項の規定」を「特許法184条の4
第4項及び第5項の規定」と改める。
6原判決10頁8行目「特許法184条の4第3項」を「旧特許法184条の
4第3項」と改める。
7原判決10頁12行目の次に以下のとおり付加する。
「控訴人は,当審において,前記のとおり,条約規則49.6⒡の「国内法令」
の意義につき,施行されている法令を意味するという解釈が一義的に導かれるもの
ではないなどと主張するが,原判決説示のとおり,条約規則49.6(f)は,特許協
力条約22条所定の期間が遵守されなかった場合に,国際出願の出願人を救済する
条約規則49.6(a)ないし(e)とこれを救済しない国内法令の関係を調整する趣旨の
規定であるところ,このような調整が必要になるのは,正に特許協力条約締約国に
おいて国内法令を適用することにより上記条約規則に反する事態が現実に生じる場
合にほかならない。そして,我が国における法令は成立,公布に加えて施行される
ことによって初めて適用されるのであるから,上記「国内法令」の意義は原判決説
示のとおり解すべきであり,控訴人の前記主張は理由がない。」
8原判決10頁14行目冒頭から11頁7行目末尾までを以下のとおり改める。
「ア旧特許法184条の4第3項は,国内書面提出期間内又は翻訳文提出特例
期間内に明細書等翻訳文の提出がなかったときは,その国際特許出願は取り下げら
れたものとみなす旨規定しており,同法上,救済規定は設けられていない。そして,
改正特許法附則2条25項は,同法施行前に明細書等翻訳文の不提出によりみなし
取下げとなった国際特許出願には同法によって新設された救済規定,すなわち,特
許法184条の4第4項及び第5項は適用しない旨を明記しており,これは,その
ような国際特許出願にまで上記救済規定により回復を認めることは法的安定性を害
し,相当ではないことを考慮したものと解される(乙1)。
他方,特許法184条の5第2項は,第1項所定の国内書面を国内書面提出期間
内に提出しないとき(1号),要約の翻訳文を国内書面提出期間内又は翻訳文提出
特例期間内に提出しないとき(4号)を,特許庁長官において手続の補正をすべき
ことを命ずることができる対象として掲げているが,明細書等翻訳文を国内書面提
出期間内又は翻訳文提出特例期間内に提出しないときについては何ら触れていない。
この点に関し,手続の補正については,総則規定である特許法17条3項が特許庁
長官において手続の補正をすべきことを命ずることができる対象を定めているとこ
ろ,これとは別に同法184条の5第2項は上記のとおり国際特許出願における手
続の補正の対象を規定している。この趣旨は,国際特許出願においては,①我が国
の特許庁以外の受理官庁に対して出願がされた場合も国際出願日にされた特許出願
とみなされ,同法184条の5第1項所定の国内書面が提出されていなくても我が
国の特許庁に出願が係属していると考えられること,②国内出願においては,上記
国内書面提出手続に相当する類似の手続が存しないことから,国際特許出願に係る
手続の特例として,同法17条3項各号所定の事由に加え,国際特許出願特有の事
由を手続の補正の対象として設けたものと解される(乙4)。この趣旨に鑑みると,
同法184条の5第2項各号は上記国際特許出願特有の補正事由を限定列挙したも
のと解され,したがって,そこで言及されていない明細書等翻訳文の不提出は手続
の補正の対象にならないと考えるべきである。なお,同項4号は,明細書等翻訳文
が国内書面提出期間内又は翻訳文提出特例期間内に提出されたことを前提として,
要約の翻訳文が上記期間内に提出されなかったとき,同不提出をもって補正すべき
ことを命ずることができる対象としたものと解するのが相当といえる。
以上によれば,旧特許法が適用される国際特許出願において明細書等翻訳文が国
内書面提出期間内又は翻訳文提出特例期間内に提出されなかった場合は,同不提出
を補正の対象とすることなく,旧特許法184条の4第3項によりその国際特許出
願は取り下げられたものと一律にみなされると解される。
イ前述したとおり,控訴人は,国内書面提出期間内に国内書面を提出したもの
の,翻訳文提出特例期間内に明細書等翻訳文を提出しなかったのであるから,旧特
許法184条の4第3項により,控訴人の国際特許出願は取り下げられたものとみ
なされ,上記不提出は補正の対象とならない。したがって,特許庁長官において控
訴人に対して手続の補正をすべきことを命ずる義務が生ずる余地はない。
ウ控訴人は,特許法184条の5第2項を根拠に,特許庁長官は明細書等翻訳
文の不提出につき補正をすべきことを命ずる義務を負っており,この点に裁量の余
地はなく,また,たとえ一定の裁量を有していたとしても,本件において控訴人に
対して補正をすべきことを命ずることなく本件両処分をしたことは裁量権の範囲を
逸脱する旨主張するが,前記ア,イによれば,特許庁長官にはそのような補正をす
べきことを命ずる権限自体がなかったというべきであり,控訴人の主張は理由がな
い。
また,控訴人は,当審において,前記のとおり,旧特許法184条の4第3項は
特許庁長官による補正命令や出願人による手続補正等の一切を封じるものではなく,
この点は改正された特許法184条の4第5項の規定の趣旨からも明らかである旨
主張するが,前述のとおり旧特許法においては明細書等翻訳文不提出の場合の救済
規定はなく,改正特許法附則2条25項によれば,同法により新設された特許法1
84条の4第4項,第5項の救済規定も同法施行前に旧特許法184条の4第3項
により上記不提出を理由にみなし取下げとなった国際特許出願には適用されないこ
とが明記されており,また,上記不提出は補正の対象ともされていない以上,旧特
許法下においては上記みなし取下げとなった国際特許出願につき権利回復の余地は
ないものといわざるを得ず,控訴人の上記主張も理由がない。」
第4結論
以上によれば,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
新谷貴昭
裁判官
鈴木わかな

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