弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
 2 上記取消にかかる被控訴人の請求を棄却する。
 3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1控訴人
   主文同旨
 2 被控訴人
  (1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 当事者の主張
   次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第二 事実関係」欄に記載
のとおりであるから,これを引用する。
 (原判決の付加)
   原判決4頁1行目の「本件ゲームソフトウェア」」の後に「もしくは「本件ゲームソフ
ト」」を加える。
 (当事者の当審主張)
 1 控訴人の当審主張
  (1) 本件請負契約の不成立について
   ① 控訴人と被控訴人間に請負契約が成立したとするためには,請負代金額が合
意されているか,少なくとも請負代金額を特定しうる基準が合意されていなけ
ればならないが,本件においては,控訴人と被控訴人との間にこの合意はな
い。
  すなわち,実行予算表(甲10)は,見積書としての性格を有するもので,製作
費原価概算(甲11の4)は,被控訴人の求めに応じ,この見積もりのうちの外
注費に関する部分を補充して説明するために作成されたものである。したがっ
て,製作原価概算(甲11の4)の1320万円の金額は,請負代金額を記載し
たものではなく,控訴人と被控訴人との間で,1320万円の金額での合意は
なされていない。
  また,控訴人は,1072万円を上回る金額での合意があった旨主張するが,
控訴人と被控訴人の間でその金額を具体的に特定すべき基準が合意された
との主張がないので,主張自体失当である。外注部分に限っても,作画代金
のほかに演出代金も美術代金も必要であるし,プロデューサー,演出助手,
進行などの費用やある程度の利益も得なければならないから,アニメーター
への発注金額だけから,請負代金額を導き出せるものではない。
   ② コンピューターゲームソフトのキャラクターデザインなどの請負契約の締結と履
行は,次のとおり行われる。
     まず,最初に無償を原則とする企画の段階がある。企画にはゲームソフトの発
注予定者と開発予定者,キャラクターデザインの請負予定者等が参加する。
ゲーム内容を次第に具体化し,具体化しつつあるゲームの内容にそったキャ
ラクターのイメージを作る。したがって,企画とはいっても,実際にはキャラクタ
ーのデザインについて相当踏み込んだ検討が行われることが少なくない。そ
して,この企画段階の作業と全く連続的に請負契約の範囲に属するキャラク
ターデザインの具体的作業が行われる。
     もちろん,その間に,企画の製品化決定や請負契約締結交渉及び請負契約の
締結が行われるが,現場の作業は企画段階から終了まで,一連の作業として
途切れることなく連続的に流れていく。どこからどこまでが企画段階であり,ど
こからが請負契約の履行といえるかは抽象的にはいうことができても,実際に
は画然とした境界があるわけではない。流れていくこの作業を中断し,あるい
は打ち切る事情が生じない限り,作業は前へ前へと進行していく。キャラクタ
ーデザインの請負予定者との間で請負契約の条件交渉が進行中であること
は,作業中断の事由とはならない。
     したがって,請負契約が未締結のまま,「打ち入り」が行われたとしても異とする
に足りないし,外部アニメーターに若干の原画作成を行わせたとしても何ら不
合理ではない。
  (2) 控訴人による引継等について
   ① 控訴人代表者Aが,イマジニアインタラクティブ株式会社(以下「イマジニアイン
タラクティブ」という)の経営権をめぐる紛争に関わったことはない。
     イマジニアインタラクティブは,ゲーム業界の大手業者であるイマジニア株式会
社(以下「イマジニア」という)と被控訴人代表者のBが出資して設立したゲー
ムソフトの開発会社である。しかしイマジニアインタラクティブの開発担当スタ
ッフは,そのほとんどが被控訴人代表者のBによって送り込まれた者であっ
た。このうちには,BがAの承諾を得ないまま,控訴人のスタッフであると称し
て送り込んだ者もいる。一種のカモフラージュである。
     このようにして,平成8年5月頃には,イマジニアインタラクティブの開発部門の
幹部及びスタッフの大半が,Bの身内ともいえる人間によって占められる状態
となった。当然のことながら,Bはイマジニアインタラクティブ内において大きな
発言権を獲得した。具体的にどのようないきさつがあったのかは知らないが,
イマジニアとイマジニアインタラクティブの幹部が,この事態に危機感を持つに
至り,Bがイマジニアインタラクティブの「乗っ取り」を画策しているのではない
かと疑うようになった。そして控訴人代表者のAもBの同調者ではないかとの
疑いを受け,イマジニア及びイマジニアインタラクティブの幹部から事情聴取
を受けたりしたが,この疑念は,AについてもBについても誤解であると説明
し,紛争化を回避しようと努めた。Aがイマジニア側について動いた事実はな
いし,またBの悪口をふれ歩いた事実もない。
     この紛争の実態は,イマジニアインタラクティブの出資者であるイマジニアとB
の,その経営権をめぐる権力闘争である。結局,社員の人心の掌握に成功し
かつ出資比率の高いイマジニアが勝利したということであって,Bの敗北の責
任は,自らの送り込んだスタッフの支持さえ得られなかったB自身にある。A
は,本質的に権力闘争であるイマジニアとBの紛争に介入する立場にないし,
介入もしていない。
  ② 控訴人による引継
     Aは,各アニメーターに対して,被控訴人と直接交渉することにより作業を継続し
てほしいと真摯に要請し,各アニメーターの了解を得た。これにつきBは,大
物アニメーターと直接取引することができ,有力な人脈を得ることになるので
そのときは喜んでいたのである。
     上申書(乙2ないし乙4)の作成者である各アニメーターは,いずれも業界では
一家をなす有名人である。彼らは内容虚偽の上申書に署名捺印するような人
達ではないから,Aの要請により本件の仕事を継続することを承諾したという
上申書(乙2ないし乙4)の記載内容は,控訴人の主張を裏付けるものであ
る。
     被控訴人の主張によれば,「BはアニメーターのCに引き合わされ,不本意な経
緯があったにもかかわらず,翌日Aに連れられてアニメーターのDに会った。こ
こでも不本意なやりとりしかなかったのに,さらにAに連れられてアニメーター
のEと会った。そして,ここでも納得できない経過だった。」というのである。こ
れはあまりに不自然である。すなわち,もし被控訴人の主張のような引継をし
たのであれば,BとAの間で口論位発生するのが普通であるのに,この間Bが
Aに対して,引継の仕方について抗議した事実はないし,被控訴人の主張に
もそのような記載はない。いずれにしても,3回も連続して同じような不当な引
継が行われる前に,Bとしては妥当な引継が行われるよう対策を講じるのが
当たり前である。それなのに何もせずにAについて歩いたというのは,およそ
非現実的なものである。
     また,次にAがBの悪口をいいふらして被控訴人の業務を妨害したいのであれ
ば,Bを3回も各アニメーターのところに連れていく必要はない。あえてBの目
の前で妨害的言動をするメリットはおよそ考えられない。
  (3) 損害との因果関係がないことについて
   ① 被控訴人の製作体勢,進行状況等からして,被控訴人の本件ゲームソフトの
製作作業は,行き詰まっており,事実上完成できない状況であった。
   ② 被控訴人と任天堂が取り交わした本件ゲームソフトの開発委託契約書(甲1)
によれば,開発委託料は2億円で,これが任天堂より,被控訴人に対して,支
払われることになっており,本件ゲームソフトの開発は,利益分が含まれるに
しても,2億円近い費用のかかる作業であることが前提となっていた。そして,
平成8年6月10日に開発委託契約(甲1)を締結し,平成9年3月31日までと
いう短期間内に,製作を完了させる旨を合意したのである。ゲームソフトの開
発は,知識集約的作業であるから,開発費の過半は,人件費である。すなわ
ち,10カ月弱の期間内に,ゲームソフトを完成させるとすれば,相当の人員を
集中的に注ぎ込むことが必要であり,そのような体勢を整えて,製作作業を行
うものとして,2億円という多額の開発委託料が合意されていた。
     このようにみてくると,ゲームソフトの開発には,規模にもよるが,CGデザイナ
ーは10人から40人位が必要であり,プログラマーも5人から20人位は必要
であるという当審証人Fの証言は,合理的である。
     しかして,本件ゲームソフトの製作にかかわったプログラマーは,事実上,Gの
みであり,CGデザイナーは,FとHの2名にすぎない。まして当審証人Gの供
述によれば,Fは,本件においては,グラフィッカーとしての仕事はしていない
というのであるし,またFは,キャラクターデザインも技の作成もできないという
のである。
  一方,Gには,当初から目指していた頂点アニメーションの技術が未熟であっ
た。
  デバック要員に至っては,皆無であった。
  このように,少数かつ弱体な製作体勢で,2億円もの開発費を要するはずの
ゲームソフトの製作ができるわけがない。
   ③ 本件ゲームソフトの製作作業の進行状況は次のとおりである。
  本件ゲームソフトは,当初は,童話の世界を舞台とするものとして開発作業
が進められていたが,しばらくして現代を舞台とするものに変更された。
  現代を舞台とするものに方針変更した後も,はじめのうちは「ストリートファイ
ター」風のものを作る予定であったのに,後に「鉄拳」風のものに変更された。
  その変更の都度,ゲームの内容は,相当変わってくるから,それまでの作業
のかなりの部分が無駄になっている。
     平成8年11月に至って,当初から目指していた頂点アニメーションによるゲーム
ソフトの開発が頓挫した。その原因は,プログラマーであるGの技術が,頂点
アニメーションを使いこなす程に至っていなかったことにあった。
  これによって,それまでの開発作業が,さらに無駄になった。
④ この頂点アニメーションの取り止め(ないし原則的取り止め)の時期は,重要
である。
  平成8年11月に,頂点アニメーションの取り止めという方針転換がなされた
のであれば,それまでに作られたゲームソフトを大幅に変更しなければならな
い。そうすると,平成8年11月頃には,キャラクターデザインの点を除いて,開
発作業は完了していたとする被控訴人の主張と,決定的に矛盾するからであ
る。
  この時期の問題について,当審証人Fは平成8年11月であるといい,当審証
人Gは平成8年8月か9月頃という。客観的証拠としては被控訴人代表者のB
がFとHにファクス送信した平成8年11月11日付の書簡(乙9)がある。その
冒頭に「FAXありがとう。文章を読ませて頂きました。」と記載されている。この
書き方からして,この書簡(乙9)は,FとHのファックス文書を読んだBが,時
を措かずに出した返信であることがわかる。つまり,FとHのB宛てのファック
ス文書は,平成8年11月初旬頃,出されたものと考えられる。
  この書簡(乙9)は続けて「文章の中から皆さんのイカリを感じました“又々ドン
デン返しか!!”といやになっている事と思います。皆さんのやる気をそぐ様
な事をしてすみません。どれだけあやまってもスム事ではないかもしれません
が・・・・。私としてはスキンアニメーションを100%あきらめたわけではありま
せん。スキンアニメを要所要所に使い,アニメの世界を演出したいと考えてい
ます。オープニング,エンディング,リプレー,やられその他スピードを必要とし
ない所で使って行きたいと考えております。」と記載されている。
  この文面から,FとHがBに送信したファクス文書の内容が,スキンアニメーシ
ョン(頂点アニメーション)の取り止めに対する,怒りを込めた抗議書だったこと
がわかる。つまり,FとHは,平成8年11月に,スキンアニメーション(頂点アニ
メーション)の取り止めに抗議し,Bが弁解と説得を試みている経緯が,明白
に見てとれる。頂点アニメーションの取り止め時期が平成8年11月であるとい
う当審証人Fの証言が,乙9と整合するのは明らかである。
  結局,平成8年11月の時点では,本件ゲームソフトの開発は,まだ,これか
らの状態であったといわなければならない。
   ⑤ この書簡(乙9)からは,もっと直接的に,平成8年11月の時点では,本件ゲー
ムソフトの開発がまだまだ未了であったことが読みとれる。
  すなわち,この書簡(乙9)は「スキンアニメを要所要所に使い,・・・・オープニ
ング,エンディング,リプレー,やられその他スピードを必要としない所で使っ
て行きたいと考えております。」というのであるから,どこにスキンアニメーショ
ン(頂点アニメーション)を使うかは,この書簡(乙9)の書かれた平成8年11
月の時点では,今後の検討事項として残されたままであった。
     Gは,平成8年8月ないし9月,FやHとの折り合いが悪くなり,1人でaの事務所
に移転している。そしてGは,aの事務所に移ってからは,FやHと連絡を取っ
ておらず,FやHからの連絡もなかった。そしてGは,本件ゲームに関しては,
Bとも連絡をとりあっていなかった。
  明らかに,本件ゲームソフトの開発チーム(わずか3人のチーム)は,平成8
年8月ないし9月頃以降は,その機能を停止していた。まともなゲームソフトの
開発など,できようもなかった。
   ⑥ 任天堂と被控訴人間の,本件ゲームソフトの開発中止に関する合意を内容と
する覚書(甲16)には,本件ゲームソフトの開発中止の理由が,明記されてい
る。開発中止の理由は「市場の動向,需要等を勘案すると今後当該ゲームソ
フトの開発を継続しても商品化するのは困難であると判断するに至った」こと
である。本件ゲームソフトの開発は,「期限(平成9年3月31日)までに完成せ
ず,乙(被控訴人)は,その後も当該ゲームソフトの開発を継続してきたが,期
限後1年以上経過し,・・・・」というのであるから,その間にキャラクターデザイ
ンをする時間的余裕は十分にあった。
    そして,被控訴人と著名アニメーターのCとは,控訴人代表者のAの引き合わ
せをきっかけとして親しくなり,忘年会に招待しあうほどの関係になっていたう
えに,Cに対して,NINTENDO64専用3D対戦格闘ゲーム企画(乙6)のよう
な詳細な説明と要求を行い,Cからはキャラ案(乙7)やラフ画(乙8)の如き具
体案の提示がなされるなど,実作業が行われていた。被控訴人側に十分な開
発体勢があれば,本件ゲームソフトの開発は可能であった。
   ⑦ さらに,被控訴人が作成したというプログラムによっても,アクションルールや技
の種類などが提示されておらず,これにキャラクターを当てはめただけでは,
ゲームとしてプレーすることはできない。難易度調整や,3次元コンピューター
グラフィック化,タッチの打ち合わせ,背景の作成もできていないから,完成さ
れるためには相当の期間が必要で,平成9年3月完成というスケジュール自
体当時既に破綻していたといえる。
   ⑧ 以上のように,本件ゲームソフトの開発が失敗したのは,被控訴人の開発体勢
の不整備にその原因があるのであって,控訴人がキャラクターデザインから
手を引いたこととは関係がない。
  (4) いわゆる特別損害について
    被控訴人の主張する損害は,特別な損害であって,控訴人は,このような特別の
損害が発生する事情を知らなかったし,また知りうる事情下にあったわけでもな
いから,控訴人の行為と損害との間には相当因果関係がない。
    キャラクターデザインは,ある特定の技術を要する者でなければできないというわ
けではない代替性の高い作業である。また,本件においては控訴人のメンバー
がデザインの作業をすることが予定されておらず,外注が前提であった。しか
も,その外注先に予定されていた高名なアニメーターであるCを被控訴人に紹介
し,Cもこれに具体的に取り組んでいた。したがって,控訴人が手を引いても他の
支障がない限り,作業は進展するのが普通である。被控訴人主張のような事態
は全く想定外のことであり,予見不可能であった。
 2 被控訴人の当審主張
  (1) 本件請負契約の成立について
   ① 平成8年5月頃には,控訴人と被控訴人との役割分担が積極的に話し合わ
れ,控訴人代表者Aと被控訴人代表者Bとの間において,キャラクター1体に
つき50万円という話がなされていたのであるから,この時点で請負契約は成
立している。
 ② そうでないとしても,控訴人代表者Aと被控訴人代表者Bとの間において,遅
くとも平成8年9月初旬頃までに,代金総額を1320万円とする請負契約が成
立している。
   すなわち,控訴人代表者Aは,被控訴人代表者Bに対し,当初実行予算表と
題する書面(甲10)を見せて,製作原価1339万円に控訴人の30パーセント
近い粗利益516万円を上乗せした1855万円という請負代金を提示したので
あるが,被控訴人代表者Bが,「この不況の世の中において30パーセントも
利益を生む仕事などあるはずがない。もっと分かりやすい予算表を提出してく
れ。」と突っぱねた。そこで,控訴人は,平成8年9月6日頃,被控訴人に対
し,「格闘野郎(仮題)製作費原価概算」と題する書面(甲11の4)をファックス
で送付し,総額1320万円の請負代金を提示した。そして,かかる控訴人の
申込みを被控訴人が承諾したため,ここに控訴人と被控訴人との間で最終的
な請負契約が成立し,控訴人はこの金額に基づいて各アニメーターに具体的
な作業の発注を行ったものである。
 ③ そうでないとしても,控訴人代表者Aと被控訴人代表者Bの間で,平成8年9
月頃,少なくとも代金1072万円を上回る代金で控訴人が被控訴人からキャ
ラクターデザインなどを請け負う旨の契約が成立している。
   すなわち,控訴人は,作画担当の8名のアニメーターに対して請負金額各13
4万円で作画作業を発注している。これらのアニメーターは,アニメーション業
界においてかなりの大物で,すでにいわゆる打ち入り(作業を行う前に行う会
合)も行って正式な作業を開始していた。このように,控訴人と各アニメーター
の間で下請契約が成立していたのであるから,元請人である控訴人と被控訴
人との間で総額1072万円を上回る金額での請負契約が成立していたことは
明らかである。
(2) 被控訴人の債務不履行の前後の状況について
  ① 控訴人代表者Aは,平成8年11月10日午前4時頃,被控訴人代表者Bを渋
谷のデニーズに呼び出し,突然Bの左手を両手で握り泣き崩れた。そして,A
は,控訴人が資金繰りに苦しむ中,Bが金を貸してくれた恩を仇で返す結果と
なった事を詫びるとともにこの仕事をやめると言い出した。控訴人がこのよう
に言い出したのは,控訴人が被控訴人との関係を断ち,イマジニアインタラク
ティブの仕事を乗っ取ろうとしたことにあった。
    もともとイマジニアインタラクティブは,平成7年12月,ゲーム業界大手のイマ
ジニアが3分の2,Bが3分の1を共同出資して設立した会社であった。同社は
ゲームソフトの開発を行っていたが,その開発人員は,Bが代表者を務める株
式会社ベル(以下「ベル」という。)から出向させた6人であり,そのうち3人は
正式にベルからイマジニアインタラクティブに移籍した。そして,イマジニアイン
タラクティブの外注先についても,ベルが今まで取り引きしていた外注先を紹
介することとなり,それまでベルと取引のあった控訴人もイマジニアインタラク
ティブの外注先として紹介することとなった。
    ところが,平成8年5月頃になると,イマジニアのIが,ベルから出向したJ,K,L
の3人に接触を開始し,平成8年10月頃には,控訴人代表者A,J,Kが結託
し,Bをイマジニアインタラクティブから追い出し,イマジニアインタラクティブを
我が物にしようと計画した。そのため,Bは,平成8年11月13日,イマジニア
インタラクティブの代表者を降りるとともに,その出資持分についても全て引き
上げることとなった。
    Aは,平成8年10月頃から各アニメーターに対して「Bはもうすぐイマジニアイン
タラクティブから排除される。」「Bはイマジニアインタラクティブで使い込みをし
ている。」などという根も葉もない悪い噂を広めた上,同年11月10日になっ
て,突然「イマジニアインタラクティブの仕事をしたい。」と言って「この仕事をや
めた。」と発言した。かかる時期がまさにBがイマジニアインタラクティブから手
を引いた同年11月13日の直前であることからも,Aらがイマジニアインタラク
ティブからのB追放を企んでいたことは明らかである。
   ② Aは,従前アニメ業界においては最大手の東映動画株式会社(以下「東映動
画」という。)の発注担当者の地位にあり,東映動画を退職して控訴人会社を
設立してからも,東映動画の下請けをしていたアニメーターとの人間関係を生
かして仕事を受注してきたのであり,現在でも大物アニメーターに対して気軽
に仕事を頼める立場にある。これに対して,被控訴人は,アニメ業界とは何の
コネクションもなくアニメ業界の用語さえ分からない状況にあり,そのためアニ
メ業界と強力なコネクションを有する控訴人に外注による本件ゲームソフトの
キャラクターデザインとアニメーションの作業を依頼したのである。このように,
被控訴人は,Aにコンピューターソフト業界とアニメ業界との仲介役を期待して
仕事を発注したのである。
    Bは,平成8年11月10日,突然Aから仕事を辞めたと通告されたのであるが,
本件ゲームソフトの開発期限も迫っていることから,Aに対して各アニメーター
への引継を行うよう要求した。
    同月12日,Bと被控訴人の社員であるGは,AとともにCの事務所を訪れたの
であるが,Cは,Aに向かって「政治的な問題がいろいろあって,この話はなく
なったという趣旨のことをお前言っていただろ。」と言う始末であった。Bはこの
Cの話を聞き,Aがこの仕事をやめると言っていたのはこの時が初めてではな
いこと,Cの作業が従前から止まっていることに驚き,Cに対して「私としてはこ
の仕事を続けるつもりですので,引き続き先生にお願いしたい。」と告げるの
が精一杯であり,具体的に今後の作業を依頼できるような状況ではなかった。
    同月13日,Aは,Bをbの喫茶店においてDに引き合わせたが,今回の仕事を
やめるに至った経緯について,イマジニアインタラクティブ,ベル,イマジニア,
控訴人の関係などを図に書いて説明し,Bがイマジニアインタラクティブ側か
ら疑われているなどという発言を繰り返した上,「私はイマジニアインタラクティ
ブについていきます。だから私は降ります。ニューコムと直接やるんだったら
やって下さい。」と言い放った。Bは,DとAの話から,AがDに「Bはもうすぐイ
マジニアインタラクティブから排除される。」などの根も葉もない悪い噂を流し
ていた事実も判明したことから,Bとしては,これ以上D氏に弁明し仕事を再開
すべくDと交渉を続けても全くの時間の無駄であると判断し,それ以上何も言
わず帰宅することにした。
    その後,AはBをEの所へ連れて行ったが,その状況はDの時と全く同様であ
り,とても今後の作業をEに頼めるような状況ではなかった。Bは,Aに対し,
「以前からこの仕事をやめるという話をしていたのか。」と尋ねたところ,Aは
「Dさんの前で言ったことが真実だから,それで判断してくれ。」と言って,従前
から本件仕事をやめる旨を各アニメーターに告げていたことを認めた。Bとし
ても,このようなAの対応では,これ以上他のアニメーターの所を回っても全く
無駄であると考え,それ以上Aに対して各アニメーターの所へ案内するよう要
求もしなかった。
    このように,AがBを連れてC,D,Eの所へ連れていった事実は存在するが,そ
れは引継と呼べるようなものではなく,Aが本件請負契約を解除した理由,す
なわちAがBを裏切ってイマジニアインタラクティブ側につくことを説明し,「私
はイマジニアインタラクティブについていきます。だから私は降ります。ニュー
コムと直接やるんだったらやって下さい。」と言い放つだけであった。従前から
人間関係のあったAから,Bとの関係悪化を理由に本件仕事から手を引いた
旨聞かされて,各アニメーターがその関係悪化の張本人であるBと直接組ん
で仕事をしようと思うはずもなく,Aの主張する「引継」は無意味であるだけで
なく,逆効果さえもつものであった。
   ③ 被控訴人代表者Bは,本件ゲームソフトの開発期限が迫る中,各アニメーター
との直接交渉の道も閉ざされてしまって途方に暮れるばかりであったが,平成
8年12月になって,突然Cから忘年会に呼ばれた。Bとしては,Cが自分を忘
年会に呼ぶ意図を図りかねる部分もあったが,著名なアニメーターの忘年会
ということもあり出席した。
    Bにとって忘年会の居心地は決してよいものではなかったが,たまたま二次会
のカラオケでBとCが同室になり,カラオケ好きのBとCが意気投合した。その
後,Bは,平成9年2月14日にCとCのクラブへ行くなどの親交を重ねて次第
にCとの信頼関係も醸成されてゆき,同年3月の段階でようやくCにキャラクタ
ーデザインの仕事を依頼できるようになった。それまでBは,任天堂に対して
本件ゲームソフトのキャラクターデザインができなくなったと報告することもで
きず,控訴人が抜けたことをどのように説明したらよいか思案に暮れていた
が,ようやく任天堂にCがキャラクターデザインをやってくれると報告すること
ができた。この時Bは,任天堂に対し,キャラクターデザインを一からやり直す
ためにゲームソフト全体の開発が遅れることも伝えたが,任天堂からは「なる
べく早く作らないと流行の波に乗り遅れてしまう。遅くとも今年のクリスマス商
戦には間に合わせて欲しい。」という注文を受けることとなった。本件ゲームソ
フトの発売を平成9年のクリスマス商戦に間に合わせるということは,ロムカセ
ットを製造するのに2か月はかかることから,遅くとも平成9年10月までには
本件ゲームソフトの開発を完了することが必要であった。
    被控訴人代表者Bは,少しでも早くCにキャラクターデザインの仕事をやっても
らうよう催促したいところではあったが,従前東映動画の発注者の地位にあり
気安く仕事を頼めるAと異なり,そもそもアニメ業界の用語も常識も分からず
信頼関係も未だ醸成中の段階にあるBにとって,著名で多忙なCに仕事を早く
進めるよう何度も催促することなど到底不可能であった。結局,Cの作業は,
平成9年3月において,ようやくキャラクターのラフ画を送付してもらうという段
階までしか進行せず,これでは本件ゲームソフト全体の開発最終期限とされ
る平成9年10月までには到底間に合わない状況に陥った。
    そこで,Bは,やむなく現在の状況をありのまま任天堂に報告したところ,任天
堂から,格闘ゲームのキャラクターを格闘ゲームの老舗企業であるナムコや
カプコンに貸してもらえないか頼んでみてはどうかという助言を受けた。被控
訴人は,キャラクターにウエーブのような動きをつけるインバースキネマティッ
クスという技術を持っていたが,この技術は当時ゲーム業界最大手のセガ・エ
ンタープライゼスと被控訴人しか持っていないという最先端技術であった。任
天堂も被控訴人がこの技術を使用して格闘ゲームを開発するよう強く期待し
ており,平成9年4月7日,任天堂のMが直接カプコンへ赴くという力の入れよ
うであった。ところが,コンピューターソフトメーカーにとって,そもそも他社の格
闘ゲームに自社のキャラクターを貸すということは極めて異例の事態であり,
なかなかキャラクターを借りるという話は進行しなかった。
    結局,平成9年6月,被控訴人と任天堂との間で会合を持ち,このまま本件ゲ
ームソフトの開発を続けても発売は随分先にならざるを得ず,その頃には既
に格闘ゲームブームは下り坂になっている危険性が高いという判断から(実
際家庭用ゲーム機よりもブームが先行するゲームセンターでは格闘ゲームが
下り坂になっていた),本件ゲームソフトの開発を断念し,新たに任天堂ブラン
ドの新ゲーム開発を被控訴人が行うという結論を出さざるを得なかった。もち
ろん,被控訴人が新たなゲーム開発を行うといっても,今まで任天堂が被控
訴人に対して支払った1億4000万円の返還は求めない代わりに,任天堂か
ら新ゲーム開発のための費用は支払われず,新作が完成した場合にようやく
6000万円が支払われるというものであった。すなわち,被控訴人は,控訴人
が本件ゲームソフトのキャラクターデザインの仕事を途中で投げ出したために
本件ゲームソフトを完成することができず,そのため本件ゲームソフトを完成
すれば支払われたはずの6000万円の支払いを受けることができなかったば
かりか,新作ゲームソフトの開発代金1億4000万円も支払いを受けることが
できなくなった。
(3) 控訴人の債務不履行と損害との因果関係について
 ① 本件ゲームソフトが平成8年11月の段階においてキャラクターデザイン以外
の部分について完成していたことは,オブジェクトファイルと言われるプログラ
ム作成の最終段階で作られるファイルをプリントアウトした甲14において,フ
ァイル全てが平成8年11月5日の段階で完成していることからも明らかであ
る。難易度調整の作業は,ゲームバランスをシュミレーションするためのソフト
ウェアが既に存在し,これにデータを入れれば作業は終了するから,これには
さほどの期間はかからない。3次元コンピューターグラフィック化の作業も,本
件ゲームソフトのキャラクターがせいぜい8体であるから,モーション作成作業
(キャラクターの動きをつける作業)も含めて,キャラクター完成から2ヶ月もあ
れば十分に終了する。タッチの絵柄は3Dのゲームソフトにおいては重要では
ない。背景の作成については,任天堂の指示に基づいて既に完了していた。
したがって,控訴人がキャラクターデザインを完成させれば,平成9年3月まで
に本件ゲームソフトを完成することは十分に可能であった。
   ② 控訴人は,「被控訴人の開発体勢では,本件ゲームソフトの開発自体が不可
能であった。」旨主張しているから,これについて反論する。
 ③ まず,プログラマーが不足していたとする控訴人の主張に反論すると,コンピ
ューターゲームソフトの開発において最も重要な作業を行う者は,言うまでも
なくプログラミングを行うプログラマーである。ゲームソフトの開発において,プ
ログラマーの能力がそのゲームの完成度を決めることは当然のことであり,そ
れこそ優秀なプログラマーさえいればプログラマーの数などというのは全く無
意味である。本件ゲームソフトのメインプログラマーであるGは,全国高校生プ
ログラミングコンテストにおいて通産大臣賞を取得した極めて優秀なプログラ
マーであり,被控訴人代表者Bもその能力に惚れ込んで被控訴人の設立に
際して取締役の一員として迎えたほどである。このように優秀なプログラマー
であるGが1人いれば本件ゲームソフトのプログラミング作業が完了すること
は十二分に可能だったのであり,実際に本件ゲームソフトのキャラクターデザ
イン以外の部分が完成していた。
   もちろん,プログラミング作業以外にもゲームソフト開発には様々な作業が必
要になることから,いかに優秀なプログラマーといえどもGだけで全ての作業
を行うことはできない。そのため,被控訴人は,キャラクターデザインの作業を
控訴人やアニメーターに依頼するとともに,仕上げ作業について被控訴人の
関連会社であるバーテックスやエンカウントを下請けとして使う予定だったの
であり,これらの会社には40人ぐらいの人手があった(甲21)。本件ゲームソ
フトの開発が佳境に入った平成8年11月に,控訴人が突然キャラクターデザ
インの仕事を投げ出したため,被控訴人は本件ゲームソフトの開発を断念せ
ざるを得なくなったのであり,まさに控訴人の分だけ被控訴人の開発体勢に
大きな穴が開いたということができよう。
     次に,書簡(乙9)を根拠に「平成8年11月の時点でスキンアニメーション(頂点
アニメーション)の取りやめという方向転換がなされたのであるから,同時点で
は本件ゲームソフトの開発はまだこれからの状態であった。」との控訴人の主
張について反論する。
     本件ゲームソフトは,当初スキンアニメーションを使う予定であったが,最終的に
スキンアニメーションとオブジェクトアニメーション(ボーンアニメーション)を併
用することとなった。しかしながら,上記変更が決まったのは平成8年9月頃で
あり,かかる時期は各アニメーターが本格的作業を始めることを意味する「打
ち入り」が行われた時期であるから(甲12),変更時期としても適切なもので
あった。また,本件ゲームソフトのうりとなる部分(オープニング,エンディング
など)はスキンアニメーションを使うことに変わりはないし,またスキンアニメー
ションにしてもオブジェクトアニメーションにしても基本になるデータは一緒であ
り,当初から両方を想定してプログラム作業を行って最終的にスキンアニメー
ションとオブジェクトアニメーションを併用することに決定したに過ぎないので
あって,このような変更は方針転換というほど大きく捉えられるようなものでは
ない。
     この点,控訴人は,被控訴人代表者BがFらに対する書簡(乙9)において,「又
々ドンデン返しか!!」という表現を使用していることなどを捉えて,スキンア
ニメーションからオブジェクトアニメーションへの変更が本件ゲームソフトにお
いて大きな意味を持つかのように主張している。かかる主張が妥当であるか
を検討するに当たっては,書簡(乙9)の相手方であるFらが本件ゲームソフト
の開発において実質的な役割を全く果たしていないことを最初に想起しなけ
ればならない。当審証人Fも認めるとおり,平成8年9月頃本件ゲームソフトの
プログラマーであるGは,主要な開発器材とともに,FやHと一緒に作業をして
いた作業所から突然姿を消した。当初Gは,新入社員であるFやHに様々な課
題を与えて同人らを教育していたのであるが,同人らの能力はゲーム好きの
素人の領域を出るものではなく,コンピューターゲームソフトの作成にプロとし
て携わる能力など到底有していなかった。当然のことながら,Gは本件ゲーム
ソフトのメインプログラマーであるから,Fらの教育以外にプログラミングの仕
事を行わなければならないのであって,半年ほどたっても全く成長の見られな
いFらの教育にいつまでも携わっている訳にもいかず,結局本件ゲームソフト
のプログラム作業に専念するために,Fらを残してaの作業所に移ることになっ
た。このように作業所に取り残される形となったFやHは,結局本件ゲームソフ
トの開発から外されたのは言うまでもないのであって,同人らがスキンアニメ
ーション云々を述べること自体,自分の置かれた立場を全く理解していなかっ
たとしか言いようがない。いずれにしても書簡(乙9)は,本件ゲームソフトの開
発から外されていたFらから来たファクス文書に対して,被控訴人代表者Bが
新入社員のFらの立場に配慮して書いた書簡である。新入社員でゲームソフ
トの開発について全く知識のないFらにとってはドンデン返しと捉え得る変更で
あったとしても,ゲームソフトの開発についてプロである控訴人代表者やGに
とっては開発途中における通常の変更に過ぎないのであって,書簡(乙9)や
当審証人Fの証言を根拠に本件ゲームソフトの開発状況を推し量ることなど
到底不可能である。
   このように,本件ゲームソフトがスキンアニメーションからスキンアニメーション
とオブジェクトアニメーションの併用へと変更になったとしても,かかる変更は
本件ゲームソフトが平成9年3月に完成することが可能であった点には何の
影響も与えないのであって,かかる点に関する控訴人の主張は,「ドンデン返
し」という言葉じりのみを捉えて実体を省みないものである。
   ④ さらに,「被控訴人と任天堂との覚書(甲16)の中に,「市場の動向,需要等を
勘案すると今後当該ゲームソフトの開発を継続しても商品化するのは困難で
あると判断するに至った」「期限までに完成せず,乙は,その後も当該ゲーム
ソフトの開発を継続してきたが,期限後1年以上経過し」と記載があることを根
拠として,被控訴人側に十分な開発体勢があれば,本件ゲームソフトの開発
は可能であった。」との控訴人の主張につき反論する。
     被控訴人と任天堂との間で1年以上交渉した結果,ようやく被控訴人が本件ゲ
ームソフトに代わる2本の新たなゲームソフトの開発を行うことで覚書(甲16)
のとおり合意した。本件ゲームソフトが市場の動向,需要に見合わなくなった
のは,控訴人が勝手に本件ゲームソフトのキャラクターデザインを投げ出した
ために,本件ゲームソフトの開発が平成9年3月に間に合わなくなったためで
ある。
     被控訴人が平成9年3月までにキャラクターデザイン以外の本件ゲームソフトの
開発を終えていた根拠として最も重視されるべき点は,現在でも被控訴人と
任天堂との取引が継続していることである。任天堂はコンピューターゲーム業
界において冠たる地位を占めていることは公知の事実であり,任天堂との取
引を行うことができること自体が被控訴人のソフト開発のレベルの高さを物語
るが,そのような任天堂が被控訴人の本件ゲームソフトの開発のために,他
のソフトメーカーにキャラクターを貸してくれないかどうか交渉してくれたので
ある。結局,被控訴人は,任天堂に対して,本件ゲームソフトの開発を中断せ
ざるを得ないという失態を犯すことになったのであるが,現在でも被控訴人が
任天堂との取引を継続するどころか,任天堂の最新鋭機であるゲームキュー
ブのソフト開発に携わっているのである。かかる任天堂と被控訴人との関係を
考えれば,被控訴人の本件ゲームソフトの開発体勢は十分であり,控訴人が
キャラクターデザインを期限どおり仕上げていれば本件ゲームソフトを平成9
年3月に完成させることは可能だったのである。
  (4) 損害の性質について
    被控訴人の主張する損害は通常損害であるが,仮に特別損害であるとしても,控
訴人は「特別の損害が発生する事情」を予見していたか,予見することが可能で
あった。
    控訴人代表者Aは,被控訴人代表者Bが本件請負契約当時アニメ業界について
は素人同然であり,それ故アニメ業界に通じていた控訴人代表者Aに対して,1
000万円を超える予算をつけて仕事を請け負わせた事情を知っていた。また,
被控訴人の任天堂に対する納期が平成9年3月末日であることを分かっていな
がら,納期間近になって突然仕事をやめると通告してきた。さらに,ゲーム業界
の市場動向が非常に早く変化することも,同業界で仕事をする控訴人代表者A
は当然に知っていた。したがって,控訴人代表者Aは,債務不履行によって本件
ゲームソフトの開発作業に致命的な穴が生じ,開発の遅れによってゲーム市場
の動向,需要等に沿わなくなり,任天堂と被控訴人との間の本件ゲームソフトの
企画自体が頓挫することは容易に予測できた。
    しかも,控訴人代表者Aは,各アニメーターの前で被控訴人代表者Bについて悪
い印象を与える言動をとって被控訴人の開発作業を阻害し,損害の発生を促進
したといえるから,自ら「特別の損害が発生する事情」を作り出したとも評価でき
る。
第3 当裁判所の判断
 1 当事者間に争いのない事実は,原判決第三の一項に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
 2 本件請負契約の成否についての認定,判断は,次のとおり加除訂正するほか,原
判決第三の二項に記載のとおりであるから,これを引用する。
 (1) 原判決8頁4行目の「原告代表者尋問の結果」の後に「,原審における控訴人
代表者A尋問の結果(ただし,原審における被控訴人代表者Bの供述中,後記
信用できない部分を除く。)」を加える。
  (2) 同9頁11行目の「被告から」の後に「キャラクターデザインだけであれば」を加え
る。
  (3) 同10頁10行目の「文書」の後に「(甲8)」を加える。
  (4) 同11頁9行目冒頭から14頁4行目末尾までを次のとおり変更する。
   「5 平成8年7月頃,控訴人代表者Aと被控訴人代表者Bは,機密保持及び無
体財産権の取り扱いに関する覚書(甲2)を取り交わし,本件ゲームソフトウェ
アのキャラクターデザイン,キャラクターアニメーションを平成8年12月末日ま
でに完成させることを前提として,外部アニメーターの選定をした。そして,被
控訴人は,平成8年7月30日頃,「対戦格闘ゲーム,モーションデザインに関
するご依頼内容と説明書類」と題する仕様書(甲9)を作成し,それを控訴人を
通じ,各外部アニメーターに交付した。
   6 平成8年8月末頃,控訴人代表者Aは,被控訴人代表者Bに対し,実行予定表
(甲10)を提示し,請負代金についてのおおよその見積もりを示した。被控訴
人代表者Bがこの実行予定表の見積金額に不満を述べ,その明細が分から
ない旨述べたため,同年9月6日頃,控訴人は,この見積もりのうちの外注費
に関する部分を補充して説明するための製作費原価概算(甲11の4)を作成
し,被控訴人にファックスで送信した。しばらくして,さらに,控訴人代表者A
は,控訴人において外部アニメーターに交付すべき発注書のひな形(甲5)を
作成し,被控訴人にファックスで送信した。なお,製作費原価概算(甲11の4)
では,各アニメーターへの発注金額は平成8年10月に40万円,同年11月に
40万円,同年12月に40万円,平成9年1月に20万円の合計140万円とさ
れたが,被控訴人代表者Bが実行予定表(甲10)の見積金額に不満を述べ
ていたこともあって,ひな形の発注書(甲5)では,各アニメーターへの発注金
額は平成8年11月15日に40万円,同年12月15日に40万円,平成9年1
月15日に40万円,同年2月15日に14万円の合計134万円に減額された。
   7 その後,控訴人代表者Aは,被控訴人代表者Bとの間での明確な請負代金に
ついての合意のないまま,平成8年9月9日に,打ち入り(アニメーション業界
において作業を正式に始める前に行われる会合)の日時を決めるに当たって
の各外部アニメーターの予定を記載した現状報告書(甲12の1)を,平成8年
9月中旬頃に,各キャラクターの担当アニメーター,その製作予定(平成8年1
2月末日が最終期限とされている)を記載した「格闘野郎,アクション原画,作
画製作予定表」(甲6)を,それぞれファックスなどで送付した。その頃から,控
訴人の費用の支出によって,外部アニメーターの作業が具体的に進行するよ
うになっており,控訴人は,被控訴人に対し,同月18日から,各外部アニメー
ターの作成した原画や作業の進行過程をその都度ファックスで送信した(甲1
2の2ないし16)。
   8 被控訴人代表者Bも,各アニメーターへの発注金額134万円を了解し,平成8
年9月30日に,控訴人代表者A,控訴人の社員のほか,外部アニメーターや
被控訴人代表者Bが集まって,打ち入り(アニメーション業界において作業を
正式に始める前に行われる会合)がなされることとなった。
   9 その後も外部アニメーターの作業は進行し,控訴人において相当程度の出費を
していたが,被控訴人代表者Bが控訴人代表者Aに対し,具体的にいついくら
の請負代金を支払うのか,また,外部アニメーターに支払うべき金員を事前に
被控訴人が支払うのかについて明示することなく,何らの金員の支払もしなか
ったことなどから,控訴人代表者Aは,被控訴人代表者Bに不信感を持つよう
になり,平成8年11月10日に,被控訴人代表者Bに対し,この仕事は辞めた
と述べて,その後の業務を一切しなくなった。
    以上の事実が認められる。なお,被控訴人代表者Bは,原審において,「控訴人
代表者Aは平成8年9月6日頃製作費原価概算(甲11の4)を送付し,被控訴人
代表者Bに対し総額1320万円の請負金額を提示してきた。これに対し,被控訴
人代表者Bは控訴人代表者Aに対し,請負代金としてこの金額で合意する旨伝
えたので,平成8年9月初旬頃までには,請負代金の合意がなされている。」旨
供述し,甲13にも同趣旨の記載部分があるが,製作費原価概算(甲11の4)は
その題名のとおり製作費の原価すなわち控訴人の外注費が記載されたもので
あって,控訴人の利益が考慮されていないものであること,及び控訴人代表者A
の原審における反対供述に照らし,容易に信用できない。この点,被控訴人は,
「控訴人作成にかかる各アニメーターに対する発注書(甲5)の金額と製作費原
価概算(甲11の4)の各アニメーターに支払うとされる金額とに6万円の違いが
あり,製作費原価概算(甲11の4)の金額は,控訴人の利益も含まれている。」
とも主張するが,製作費原価概算(甲11の4)と同時に作成された書面(甲11
の3)には,「各作画監督に金額の提示をします。」との記載があり,同金額は各
アニメーターに提示する金額として記載されたものと認められるから,その金額
に6万円の違いがあったとしても,前記認定を左右するものではない。
    以上認定の事実,特に,控訴人代表者Aと被控訴人代表者Bが平成8年7月頃
機密保持及び無体財産権の取り扱いに関する覚書(甲2)を取り交わし,同年9
月30日までに各アニメーターに発注する金額がほぼ確定し,打ち入り(アニメー
ション業界において作業を正式に始める前に行われる会合)もなされていること
からすれば,控訴人と被控訴人との間で,平成8年9月30日には,請負代金額
が各アニメーターに発注する金額に相当する部分を除き確定していなかったも
のの,控訴人が平成8年12月末日までに本件ゲームソフトウェアのキャラクター
デザイン及びキャラクターアニメーションを完成させ,被控訴人がそれに対し相
応の代金を支払う旨の請負契約が成立したものと認められる。
    この点,控訴人代表者Aは,原審において,「打ち入り,控訴人の費用負担による
作業の遂行,被控訴人へのファックス送信,予定表の送付などは,控訴人が被
控訴人に対し請負契約の締結を促すための既成事実を作ろうとしたもので,そ
の時点で請負契約は成立していない。」旨供述するが,上記認定の経緯からし
て,控訴人と被控訴人との間で請負契約は成立したものというべきである。
 3 控訴人の債務不履行と損害との因果関係について
  (1) 控訴人による被控訴人への引継とその後の経緯について
    証拠(甲15,16,乙2ないし4,当審証人C,当審における控訴人代表者A及び
被控訴人代表者B,ただし,被控訴人代表者Bの供述中後記採用できない部分
を除く。)によれば,次の事実を認めることができる。
   ① 被控訴人代表者Bは,平成8年11月10日,突然控訴人代表者Aから仕事を
辞めたと通告され,Aに対して各アニメーターへの引継を行うよう要求した。
  ② 同12日,Bは,AとともにCの事務所を訪れた。その際,Aは,Cに対し,「Bが
経営に関与しているイマジニアインタラクティブの内紛に巻き込まれそうなの
で,当社としてこの仕事から手を引く。今後は直接被控訴人と打ち合わせをし
て仕事を続けてください。」と申し入れた。これに対し,Cは,「ともかくそういう
もめる話の中には入りたくない。関係したくない。」と述べ,引継に消極的な意
向を示していた。
  ③ その翌日の同月13日,Aは,Bをbの喫茶店においてDに引き合わせた。その
際,Aは,Dに対し,同様に「Bが経営に関与しているイマジニアインタラクティ
ブの内紛に巻き込まれそうなので,当社としてこの仕事から手を引く。今後は
直接被控訴人と打ち合わせをして仕事を続けてください。」と申し入れた。これ
に対し,Dも,消極的な意向を示した。
    同日,AはBをEの所へも連れて行ったが,その状況はDの時と全く同様であっ
た。
  ④ Bは,C,D,Eの応答から,各アニメーターに今後の作業を依頼するのが困難
と考え,各アニメーターと格別の折衝をせず,今後の対応に苦慮していたとこ
ろ,平成8年12月になって,Cから忘年会に呼ばれ,出席した。
    二次会のカラオケでカラオケ好きのBとCは意気投合し,その後,Bは,平成9
年2月14日にCとCのクラブへ行くなどの親交を重ねた。そして,同年3月にC
が被控訴人からキャラクターデザインの仕事を請けることになった。
  ⑤ Cは,平成9年3月頃に,「NINTENNDO64専用3D格闘ゲーム企画」と題す
る書面(乙6),「キャラ案・・・現代設定(リアル)」と題する書面(乙7),キャラク
ターのラフ画(乙8の1ないしを27)を作成し,被控訴人に送付した。しかし,こ
のキャラクターのラフ画は,Bの意に沿うものでなかったため,このラフ画の作
成以上に作業が進むことはなかった。
    その頃,Bは,任天堂から,格闘ゲームのキャラクターを格闘ゲームの老舗企
業であるナムコやカプコンに貸してもらえないか頼んでみてはどうかという助
言を受け,カプコンとも折衝するなどしたが,そもそも他社の格闘ゲームに自
社のキャラクターを貸すということは極めて異例の事態であり,なかなかキャ
ラクターを借りることはできなかった。
  ⑥ 平成10年5月頃,被控訴人と任天堂との間で会合を持ち,このまま本件ゲー
ムソフトの開発を続けても発売は随分先にならざるを得ず,その頃には既に
格闘ゲームブームは下り坂になっている危険性が高いという判断から(実際
家庭用ゲーム機よりもブームが先行するゲームセンターでは格闘ゲームが下
り坂になっていた),本件ゲームソフトの開発を断念し,新たに任天堂ブランド
の新ゲーム開発を被控訴人が行うという結論を出した。もっとも,その頃被控
訴人は任天堂に対し,「上記の結果とはなりましたが,対戦格闘ゲームに対す
る弊社のメンバーのこだわりは強力でして,何とか成就させたいと願っており
ます。まずはドクターマリオとオリジナルフライトシュミレータを完成させ,さら
に64上の鉄拳を仕上げ,任天堂殿の弊社に対する信用が回復した後,ぜひ
次の新企画として対戦格闘ゲーム(モーションの技術を生かしたゲーム)を立
ち上げていただきたいと願っております。・・・」との記載のあるファクス文書(甲
15)も送信している。
    そして,平成10年11月10日,被控訴人と任天堂は,「被控訴人がフライトシュ
ミレータ,ドクターマリオの2本のゲームソフトの開発をし,その開発費用に今
まで任天堂が被控訴人に対して支払った1億4000万円を充当する。任天堂
は,被控訴人に対し,開発委託料を2000万円増額し,平成10年11月末日
までに支払う。そのゲームソフトが完成検収完了した場合は,任天堂は被控
訴人に対し,さらに開発委託料として6000万を支払う。」との合意をした(甲1
6)。同契約書には,「・・・期限までに完成せず,乙は,その後も当該ゲームソ
フトの開発を継続してきたが,期限後1年以上経過し,甲及び乙が開発中の
当該ゲームソフトを評価し協議の結果,現在のゲーム市場の動向,需要等を
勘案すると今後当該ゲームソフトの開発を継続しても商品化するのは困難で
あると判断するに至った。甲及び乙は,以上の経緯を踏まえ,対戦格闘ゲー
ムの開発を断念し,これに代わって乙が次条規定のゲームソフト2本の開発
を行うことに合意した。」との記載がある。
   なお,被控訴人は,「Aは,平成8年10月頃から各アニメーターに対して「Bはも
うすぐイマジニアインタラクティブから排除される。」「Bはイマジニアインタラクティ
ブで使い込みをしている。」などという根も葉もない悪い噂を広めた上,同年11
月10日になって,突然「イマジニアインタラクティブの仕事をしたい。」と言って
「この仕事をやめた。」と発言している。」旨主張し,被控訴人代表者Bは当審に
おいてその旨供述するが,この供述を裏付ける的確な証拠はなく,反対趣旨の
当審証人Cや控訴人代表者Aの当審における供述に照らし,採用できない。
   また,被控訴人は,「本件ゲームソフトの開発を断念したのは,平成9年6月頃で
ある。」旨主張し,被控訴人代表者Bはその旨供述するが,前記ファクス文書(甲
15)の作成された時期とその内容に照らし,容易に採用できない。
  (2) 被控訴人の製作体勢及び本件ゲームソフトの進行状況等について
    証拠(乙9,当審証人F,同G)によれば,次の事実が認められる。
   ① 被控訴人の本件ゲームソフトの製作体勢は,プログラマーとしてGが,CGデザ
イナーとしてFとHが担当するというものであった。
   ② 本件ゲームソフトは,平成8年4月頃は,童話の世界を舞台とするものとして開
発作業が進められていたが,しばらくして現代を舞台とするものに変更され
た。
  現代を舞台とするものに方針変更した後も,はじめのうちは「ストリートファイ
ター」風のものを作る予定であったのに,後に,「鉄拳」風のものに変更され
た。
  さらに,平成8年11月に至って,当初から目指していた頂点(スキン)アニメ
ーションによるゲームソフトの開発を断念するに至った。
   ③ この間,Gは,平成8年8月ないし9月頃に,FやHとの折り合いが悪くなり,1人
でaの事務所に移転した。そしてGは,aの事務所に移ってからは,FやHとほ
とんど連絡を取っておらず,FやHからの連絡もなかった。Gは,本件ゲームソ
フトに関しては,Bとも連絡をとりあっていなかった。
   ④ FとHは,Bが頂点(スキン)アニメーションによるゲームソフトの開発を断念した
ことに抗議し,Bにファクスを送信した。
     これに対し,Bは,FとHに対し,平成8年11月11日付でファクス(乙9)を送信し
た。そのファクスには「文章の中から皆さんのイカリを感じました“又々ドンデン
返しか!!”といやになっている事と思います。皆さんのやる気をそぐ様な事
をしてすみません。どれだけあやまってもスム事ではないかもしれません
が・・・・。私としてはスキンアニメーションを100%あきらめたわけではありま
せん。スキンアニメを要所要所に使い,アニメの世界を演出したいと考えてい
ます。オープニング,エンディング,リプレー,やられその他スピードを必要とし
ない所で使って行きたいと考えております。ですからスキンアニメを撤廃する
事は一切考えておりません。これがこのゲームの特チョウである事は以前変
化はありません。ゲーム性にかかわる所でスキンアニメを実行するとスピード
が遅い,IKが使えないetcの問題が発生します。これとてHくんが土日にも出
勤してガンバッテ作ってくれたデーターのおかげです。心の底から感謝してい
ます。Fくんにしてもスキンアニメと言う事で1体1体思い入れをおこして土日の
時間外にいっしょうけんめい考えてくれたキャラでしょう。ゲーム性にかかわる
所でスキンアニメを使わなければ,せっかく考えた技が一部使えなくなります。
ひじょうにくやしかろうと思います。・・・」と記載されていた。
  FとHは,そのファクスを受けてまもなくの平成8年11月末か,12月初め頃,
Bのもとではいいゲームソフトが開発できないと考え,被控訴人を退社するこ
ととなった。
  (3) 上記認定にかかる控訴人による被控訴人への引継とその後の経緯並びに被控
訴人の製作体勢及び本件ゲームソフト開発の進行状況等によれば,被控訴人
の債務不履行によって,本件ゲームソフトの開発が断念され,被控訴人と任天
堂の間で,「被控訴人がフライトシュミレータ,ドクターマリオの2本のゲームソフ
トの開発をし,その開発費用に今まで任天堂が被控訴人に対して支払った1億4
000万円を充当する。任天堂は,被控訴人に対し,開発委託料を2000万円増
額し,平成10年11月末日までに支払う。そのゲームソフトが完成し検収完了し
た場合は,任天堂は被控訴人に対し,さらに開発委託料として6000万を支払
う。」との合意に至ったものとは容易に認められない。
    すなわち,前記認定事実に証拠(甲1,当審証人F)及び弁論の全趣旨を総合す
れば,被控訴人と任天堂が取り交わした,本件ゲームソフトの開発委託契約で
は,開発委託料は2億円で,開発期間は平成8年6月10日から平成9年3月31
日までとされていたこと,ゲームソフトの開発には,規模にもよるが,CGデザイ
ナーは10人から40人位が必要であり,プログラマーも5人から20人位は必要
であること,本件ゲームソフトの製作にかかわったプログラマーは,Gのみで,C
Gデザイナーは,FとHの2名にすぎないこと,しかも,CGデザイナーのFとHは
平成8年11月末か12月頃,被控訴人を退職していること,本件ゲームソフト
は,方針変更が頻繁にあり,特に平成8年11月頃に頂点(スキン)アニメーショ
ンでの開発が断念されたことが認められ,これらの事実からすれば,控訴人の
債務不履行がなくとも,本件ゲームソフトが開発期限の平成9年3月31日までに
完成したとは認め難いところである。
    この点,当審証人G及び被控訴人代表者Bは当審において,「控訴人の債務不
履行がなければ,本件ゲームソフトは開発期限の平成9年3月31日までに完成
した。」旨供述するが,これを裏付ける的確な証拠はなく,かえって,上記認定の
事実からして容易に採用できない。
    その上に,控訴人代表者Aが各アニメーターに引継の手配をし,特にアニメーター
のC,D,Eを,直接被控訴人代表者Bに引き合わせているにもかかわらず,被
控訴人代表者Bにおいて,C以外には積極的に引継についての交渉をしていな
いこと,Cが「NINTENNDO64専用3D格闘ゲーム企画」と題する書面(乙6),
「キャラ案・・・現代設定(リアル)」と題する書面(乙7)のほか,キャラクターのラ
フ画(乙8の1ないしを27)を作成しているが,結局,被控訴人はそれを採用しな
かったことからすれば,被控訴人の債務不履行と前記の被控訴人と任天堂との
間の合意との間に相当因果関係を認めるのは困難である。
    もっとも,控訴人の債務不履行により,被控訴人としては,Cと個別に折衝したり,
カプコンなど他社にキャラクターを借りる交渉をしたりせざるを得なくなったことな
どは認められ,被控訴人が相当程度の損害を被ったことは認められる。しかし,
前記認定のとおり,本件請負契約は,請負代金額について確定的な合意のない
まま,実行に移されたものであり,加えて,契約金額が相当高額であるにもかか
わらず,契約途中において契約が解消になった場合の損害賠償等についての
約定もなく,したがって,この問題についての解決はゲームソフトウェア開発のた
めのキャラクターデザイン及びキャラクターアニメーション業界の取引慣行等に
委ねられていたものと推測されるところ,この点について,前掲控訴人代表者A
の尋問結果によれば,ゲームソフトウェア開発においては,当該企画に見込が
ないことが判明すれば,直ちに企画は打ち切られ,それまでに当事者が出捐し
た費用は,それぞれの負担となることが多かったこと,事実,控訴人は,本件請
負契約の解消を申出るまでに前記外部アニメーターとの交渉に当たり相当額の
経費を出捐しているが,これら実費の請求をしていないこと(支払時期の点はひ
とまず置く。)が認められる。これらの事実に照らすと,被控訴人の上記損害につ
いては,これを認めるのは相当でないと言わざるを得ない。
 4 以上によれば,被控訴人の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。
第4 結論
   よって,上記と異なる原判決中控訴人敗訴部分を取り消し,同取消にかかる被控
訴人の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法67条2項,61条を
適用して,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第3部
裁判長裁判官福  田  晧  一
裁判官内  田  計  一
裁判官倉  田  慎  也

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