弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,Aに対して33万円,Bに対して24万円,Cに対して12万
円及びDに対して6万円の返還を請求せよ。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
本件は,木津川市の住民であり,同市議会議員である控訴人が,木津川市議
会政務調査費の交付に関する条例(以下「本件条例」という)は,政務調査。
費の交付額について,会派に対しては月額1万円に所属議員数を乗じた額と,
会派に所属しない議員に対しては月額7000円とそれぞれ規定しているとこ
ろ,これは憲法14条に違反することなどにより無効であるから,木津川市議
,,(,「」。),会の会派であるABC及びD以下併せて本件各会派というは
本件各会派に対する政務調査費の交付額のうち月額3000円に本件各会派の
所属議員数を乗じた額(以下「本件上積み分」という)を法律上の原因なく。
利得しているとして,被控訴人に対し,地方自治法(以下「法」という)2。
42条の2第1項4号に基づき,本件各会派に対する政務調査費の交付額のう
ちの本件上積み分を木津川市に対して返還するように請求することを求めたと
ころ,原審は控訴人の請求を棄却したので,控訴人がこれを不服として,前記
控訴の趣旨記載のとおりの判決を求めて控訴した事案である。
(,〔,,,,,1前提となる事実争いがないか証拠甲1346の1ないし49
10,13,19,22ないし24,乙4の1・2,5,7の1ないし4,8
の1の1ないし4,8の2の1ないし4,8の3の1ないし4,8の4の1な
いし4,9,10〕及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア控訴人は,前記肩書地に住所を有し,平成19年3月11日時点でα町
の町議会議員であり,同年3月12日にα町がβ町及びγ町と合併して木
津川市が成立した後は同市の市議会議員となり,同年4月の木津川市議会
議員選挙に当選し,現にその職にある。
,,。控訴人は木津川市議会においてはいずれの会派にも所属していない
なお,木津川市議会で会派に所属していない議員は控訴人1名である。
イ被控訴人は,普通地方公共団体である木津川市の執行機関である。
ウ原判決別紙木津川市議会議員目録記載の者は,平成19年4月以降,木
津川市議会議員の職にある者であり,同目録記載1ないし11の各議員は
Aに,同目録記載12ないし19の各議員はBに,同目録記載20ないし
23の各議員はCに,同目録記載24及び25の各議員はDにそれぞれ所
属している。
なお,本件各会派は,いずれも平成19年4月26日に結成され,同年
5月9日に木津川市議会会派幹事会規程(平成19年5月9日木津川市議
会訓令第3号。以下「本件幹事会規程」という)に基づき,会派結成届。
を提出している。
(2)本件条例の制定に至る経過等
ア平成12年5月の法改正(平成13年4月1日施行)により,法100
条13項(当時は12項)に基づき,普通地方公共団体は,条例の定める
ところにより,会派又は議員に政務調査費を交付することができることが
規定された。
上記法改正以前は,法232条の2の規定により,都道府県議会,市町
村議会(以下,合わせて「地方議会」という)について,補助金(又は。
寄付金)として「県政調査交付金「市政調査交付金」等の名称で政務」,
調査費と同様の趣旨の金員が会派に限定して交付されており,α町におい
ても,法232条の2に基づき,町政調査研究交付金交付要綱を平成7年
10月16日に制定し,会派(2人以上で構成される議員組織で所定の届
出のあるもの)に限定して町政調査研究交付金を交付していた。なお,β
町及びγ町にはこのような交付金の制度はなかった。
上記法改正の審議過程においては,改正の趣旨として,地方議会の活性
,,化を図るためにはその審議能力を強化していくことが必要不可欠であり
地方議員の調査活動の基盤の充実を図る観点から,議会における会派及び
議員に対する調査研究費等の助成を制度化し,あわせて,情報公開を促進
する観点から,その使途の透明性を確保することが重要であるとされた。
また,平成12年10月の全国市議会議長会の報告書における条例及び
規則の参考例では,政務調査費の交付の対象となる会派は所属議員が1人
の場合を含むとされ,国会における各会派に対する立法事務費の交付に関
する法律においても,会派には政治資金規正法所定の届出のあった政治団
体で議院におけるその所属議員が1人の場合も含むとされている。
イ上記法改正後の平成13年7月6日,法100条13項及び14項(た
だし,当時は12項及び13項)に基づき,α町議会政務調査費の交付に
関する条例が制定された。
上記条例によれば,政務調査費はα町議会の会派及び会派に所属しない
議員に対して交付し(2条,会派に対する政務調査費については月額1)
万円に当該会派の所属議員数を乗じた額を会派に対して交付し(3条,)
会派に所属しない議員に対する政務調査費については月額7000円を交
付する(4条)ものとされた。その後,平成17年11月28日に上記月
額1万円は月額5000円に,上記月額7000円は月額3000円にそ
れぞれ減額された。
ウ平成19年3月12日,α町,β町及びγ町が合併し,木津川市が成立
し,同年5月9日及び10日に第1回目の木津川市議会が開催され,本件
条例が制定された。
(3)本件条例の内容
本件条例は,政務調査費の交付について,次のとおり規定している。
ア交付の対象
政務調査費は,木津川市議会における会派(本件幹事会規程第2条に規
定する会派をいう)及び会派に所属しない議員に交付する(2条。。)
なお,本件幹事会規程第2条では,会派とは議会活動を同じくする2人
以上の所属議員を有する団体をいうとされている。
イ交付の額
会派に対する政務調査費は,各月1日(基準日)における当該会派の所
属議員数に月額1万円を乗じた額を交付する(4条1項。)
会派に所属しない議員に対する政務調査費は,基準日に在職する会派に
所属しない議員に対して,月額7000円を交付する(5条1項。)
なお,京都府下において,会派及び会派に所属しない議員に政務調査費
,,,を交付している市町村は木津川市以外に京田辺市δ町及びε町があり
会派に対する交付額の算定基礎となる所属議員1名当たりの月額と会派に
所属しない議員に対する交付額の月額の差額は京田辺市が5000円(=
1万5000円−1万円,δ町とε町がいずれも2000円(=500)
0円−3000円)であり,いずれも会派に対する交付額の算定基礎とな
る所属議員1名当たりの月額の方が高い(ちなみに,平成17年7月1日
現在で,全国1614町村議会のうち,政務調査費を条例化しているのは
299議会,そのうち会派及び議員を交付の対象としているのは103議
会であり,そのうち会派への交付額の算定基礎となる所属議員1名当たり
の額と会派に所属しない議員への交付額が異なるのは6議会である。。)
ウ交付の方法
政務調査費は,年額交付するものとする。ただし,議員の任期満了に当
たる年度においては,任期満了日の属する月までの政務調査費を交付する
(3条1項。)
エ使途基準
会派及び会派に所属しない議員は政務調査費を別に定める使途基準後,(
記(4)の本件使途基準)に従って使用するものとし,市政に関する調査研
究に資するため必要な経費以外のものに充ててはならない(9条。)
オ経理責任者
会派は,政務調査費に関する経理責任者を置かなければならない(10
条。)
カ収支報告書の提出
政務調査費の交付を受けた会派の代表者及び会派に所属しない議員は,
政務調査費に係る収支報告書を作成し議長に提出しなければならない1,(
1条1項。)
(4)本件条例に基づく政務調査費の使途基準
木津川市議会政務調査費の交付に関する規則(平成19年5月10日規則
第146号。以下「本件使途基準」という)によれば,会派に対する政務。
調査費の使途基準と会派に所属しない議員に対する政務調査費の使途基準と
で異なる主な項目は,研修費と会議費であり,前者については,会派では会
,,派が行う研修会講演会の実施に必要な経費並びに他団体が開催する研修会
(,,,講演会等への所属議員の参加に要する経費会場費機材借上費講師謝金
会費,交通費,宿泊費等,会派に所属しない議員では団体等が開催する研)
修会,講演会等への会派に所属しない議員の参加に要する経費(会費,交通
費,宿泊費等)とされ,後者については,会派では会派における各種会議に
要する経費(会場費,機材借上費,資料印刷費,茶菓子代等,会派に所属)
しない議員では会派に所属しない議員が行う市政に関する住民の要望,意見
を聴取するための各種会議に要する経費(会場費,機材借上費,交通費,資
料印刷費等)とされている。
なお,木津川市議会における政務調査費に係る申し合わせにより,議員個
人名による会報は支出の対象にしないことととされている。
(5)本件条例に基づく政務調査費の交付
ア本件各会派は,被控訴人に対し,平成19年6月13日,本件条例に基
づき,平成19年度分の政務調査費として,Aは110万円(1万円×1
0か月〔翌年3月までの分〕×11人=110万円,Bは80万円(1)
万円×10か月×8人=80万円,Cは40万円(1万円×10か月×)
)()4人=40万円及びDは20万円1万円×10か月×2人=20万円
の交付をそれぞれ申請し,被控訴人は,同月18日,本件各会派に対する
政務調査費の交付決定をした。
上記交付決定に基づき,C及びDは同月19日に,A及びBは同月25
日に,被控訴人に対し,それぞれ政務調査費の交付請求をし,同年7月2
日に支出命令がされ,同月17日に支払がされた。
イ控訴人は,政務調査費の交付申請をしなかった。
(6)住民監査請求
控訴人は平成19年5月14日本件各会派が後に交付申請した上記(5),,
アの政務調査費のうち,本件上積み分(Aについて33万円,Bについて2
4万円,Cについて12万円及びDについて6万円)の支出の事前差止めを
求めて住民監査請求を行ったが,同請求は同年6月21日に棄却された。
2争点及び当事者の主張
本件の争点は,会派に対する政務調査費の交付額を月額1万円に所属議員数
を乗じた額とし,会派に所属しない議員に対する政務調査費の交付額を月額7
000円とする規定(以下「本件規定」という)は,憲法又は法に違反して。
無効といえるか否かである。
(控訴人の主張)
(1)木津川市は普通地方公共団体であるところ,その議会の議員は選挙によ
って選出された議員によって構成され,各議員は,会議体の一構成員として
各々が同一の権能を有しており,各々が独立して議会の意思決定に関与する
ことになる。つまり,議員は,その経歴,性別,年齢,教育,財産,社会的
な地位,職業,所属政党,思想信条その他の如何に関わりなく,議員として
はすべて平等・対等であることを原則とする。
しかし,本件規定によれば,結果的に会派に所属する議員は会派に所属し
ない議員よりも月額3000円も多額の政務調査費の交付を受けることがで
き,会派に所属する議員を会派に所属しない議員よりも優遇する内容となっ
ている。
ちなみに,全国都道府県議会議長会の参考条例等によれば,所属議員が1
人の場合を含む会派に政務調査費を交付できるとされており,会派に所属す
るか否かによって議員を区別・差別することは全く想定されていない。
被控訴人は合理的な区別は許されると主張するが,会派に所属する議員に
対し,会派に所属しない議員の約1.5倍の額の政務調査費を交付しなけれ
ばならない必要性はなく,その点については本件条例の制定に当たっても審
議されていないし,政務調査費の実際の使途によれば,会派に対する政務調
査費の支出に占める広報費の割合が大きいが,会派発行の会報の実態は議員
個人の議員活動の広報にすぎず,会派に対する政務調査費は所属議員の議員
活動に使用されており,会派に対する政務調査費の交付額の算定基礎である
所属議員1名当たりの月額に3000円を加算する必要性はない。
したがって,本件規定は,憲法14条1項に反することはもちろん,会派
に所属しない議員に対し投票を行った住民の民意をも制約するものとして憲
法93条にも違反する。
(2)法100条13項(ただし,平成20年の法改正前のもの。以下同じ)。
は,会派又は議員に対して政務調査費を交付することができると規定してい
ることから,同項は会派の存在を認めているとはいえるが,被控訴人の主張
するように同項が会派の重要性を認めているとはいえないから,会派に所属
する議員と会派に所属しない議員との間に差異をもうけたり,会派に所属す
る議員を不当に優遇することまで許容するものではない。
,(「」。)また本件条例によれば所属議員が1名の会派以下一人会派という
の当該所属議員は会派に所属しない議員として扱われるが,所属議員が2名
以上いる会派に所属するかしないかは議員の自由であるうえ,法100条1
3項が政務調査費の交付の対象を会派又は議員と規定しているのは一人会派
の存在を想定しているからであり,一人会派の当該所属議員を会派に所属し
ない議員として扱う本件条例は法に違反するものである。
したがって,本件規定は,法及び条例制定権の限界について規定する憲法
92条に違反する。
(被控訴人の主張)
(1)法100条13項は,会派又は議員に対して政務調査費を交付すること
ができると規定しており,本件条例は,同項の委任を受けて,交付の対象を
会派及び会派に所属しない議員と規定しているが,会派に所属する議員は交
付の対象ではないから,本件条例は会派に所属する議員と会派に所属しない
議員との間に差異をもうけるものではない。
(2)もっとも,本件規定によれば,会派に対する政務調査費の交付額を所属
議員数で除した月額は1万円であり,会派に所属しない議員に対する交付額
である月額7000円より月額3000円が加算されており,これが会派に
所属する議員と会派に所属しない議員との間に差異をもうけるものであると
しても,①法100条13項は,議員のみならず,会派に対しても政務調査
費を交付することを許容しており,このことから同項は会派の存在が必要不
可欠であること及び議員単独の活動と会派の活動に違いがあることを認めて
いるのであり,会派に所属する議員と会派に所属しない議員との間に差異を
もうけることを想定していること,②政策集団である会派が実施する調査研
究活動等と会派に所属しない議員のそれとではその規模に差異があるから,
地方議会の活性化を図り,審議能力を強化していくために会派活動が重要で
あることを考慮すれば,会派に所属する議員と会派に所属しない議員の政務
調査費の交付額に3000円程度の差額をもうけることは合理的な区別であ
る。
(3)本件条例においては一人会派は政務調査費の交付の対象とはされていな
いが,これは本件幹事会規程においても会派とは認められていない一人会派
に政務調査費を交付することは市民の理解を得られないと考えられたためで
ある。
(4)控訴人は,会派に対する政務調査費の支出に占める広報費の割合が大き
く,会派発行の会報の実態は議員個人の議員活動の広報にすぎないなどと主
張するが,木津市議会の申し合わせにより,議員個人名による会報は政務調
査費の支出の対象としないこととされており,会派に所属するか否かを問わ
ず,議員個人の会報のために政務調査費を支出することはできないものであ
る。
(5)以上によれば,本件規定は憲法14条に違反するとはいえず,憲法93
条又は憲法92条及び法に違反するともいえない。
第3争点に対する判断
1法100条13項は,普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,会
派又は議員に対して政務調査費を交付することができると規定しており,これ
によれば,政務調査費の交付の対象としては会派と議員があり,具体的には会
派のみに交付する場合,議員のみに交付する場合,会派及び議員に交付する場
合の3つの場合があり得るが,この点については,同項は,各普通地方公共団
体が,それぞれの地方の実情に応じて定めるのが相当であることから,各普通
。,,,地方公共団体の条例に委任しているそしてこの委任を受けて本件条例は
政務調査費の交付の対象を会派と会派に所属しない議員と規定し,会派に対す
る政務調査費については,会派に対して一括して交付するとともに,会派は経
理責任者を置いて政務調査費を管理し,会派の代表者は収支の報告をしなけれ
ばならないと規定している。
したがって,本件条例によれば,そもそも政務調査費は会派に所属する議員
に対して交付されるものではないから,本件条例は,政務調査費の交付に関し
て,形式的には会派に所属する議員と会派に所属しない議員の間に差異をもう
けるものであるとはいえない。
しかし,本件規定によれば,会派に対して交付される政務調査費の額を所属
議員数で除した額が会派に所属しない議員に対する交付額を月額にして300
0円上回っているから,会派に所属しない議員は会派に所属している議員に比
べて不利な取り扱いを受ける結果となっており,このような差異を生じる合理
的な理由がない限り,本件規定は,議員を会派に所属するか否かによって差別
するものとして,憲法14条に抵触するおそれがあることは否定できない。
2そこで,進んで,そのような差異を生じることに合理的な理由があるか否か
検討する。
(1)前記前提となる事実(2)アのとおり,政務調査費の交付については,平成
12年5月の法改正によって,法100条13項及び14項(ただし,当時
は12項及び13項)がもうけられ,制度化されたものであるが,上記法改
正以前においても,同様の趣旨の金員が補助金(又は寄付金)として,地方
議会の会派に対して交付されてきており,上記法改正はこのような実態に法
律上の根拠を与えるとともに,併せて,これまでは補助金(又は寄付金)の
交付の対象とされていなかった議員についてもこれを交付の対象とすること
ができることを規定し,会派だけでなく議員の調査活動の基盤の充実を図る
ものである。
したがって,上記法改正においては,地方議会における会派の調査活動の
重要性が考慮されているといえる。また,社会情勢の変化に伴い,新たな政
治課題や地域住民の行政に対する需要が生まれ,これらを汲み上げ行政の施
策に反映させるためには,地方議会の審議能力の充実強化を図ることが必要
であるが,そのためには議員が単独で活動するだけでは限界があり,同じ志
向を有する議員が集まって活動することが必要であることは明らかであり,
会派の重要性は否定することはできない。
,,,この点控訴人は法100条13項は会派の存在は認めているとしても
会派の重要性を認めているものではないと主張するが,同項が政務調査の交
,,付の対象として会派をあげているのは会派が存在していることだけでなく
上記法改正までにすでに会派が果たしていた役割や将来的にも会派の役割が
必要かつ重要になってくることを前提にしたものであって,このことは同項
が交付の対象としてまず会派をあげていることからも明らかであり,控訴人
の上記主張は採用できない。
(2)次に,会派による調査研究活動と会派に所属しない議員の調査研究活動
を比較検討すると,本件条例にいう会派は複数の所属議員がいるものをいう
ところ,その所属議員に対する研修や所属議員間の意見交換などが必要とな
ることは明らかであるうえ,また,大規模な調査活動など議員単独では行う
ことが困難な調査研究活動が可能になるから,これに伴い,会派の調査研究
活動に要する経費が,議員が単独で活動する場合の経費を単純に合計したも
のを超える場合のあることは容易に推測することができる。
そして,前記前提となる事実(4)のとおり,本件条例に基づく政務調査費
にかかる使途基準によれば,会派に対する政務調査費の使途基準と会派に所
属しない議員に対する政務調査費の使途基準とで異なる主な項目は,研修費
と会議費であるが,前者については,会派では会派自体が研修会や講演会を
実施する場合があることを前提にし,その開催に要する経費が使途に含まれ
ているが,他方,会派に所属しない議員では他団体が実施する研修会や講演
会等への参加に要する経費のみに使途が限定されており,後者については,
会派では会派の各種会議に要する経費が使途に含まれているが,会派に所属
しない議員ではそのような使途は認められていないのであって,会派に対す
る政務調査費の使途の方が会派に所属しない議員に対する政務調査費の使途
よりも広いといえるが,これは会派に対する政務調査費の対象とする活動範
囲・規模が,議員が会派に所属しないで単独で活動する場合よりも大きいこ
とによるものといえる。
この点について,控訴人は,会派に所属する議員と会派に所属しない議員
との間で政務調査費の交付額に差異をもうける必要性はなく,また,この点
について本件の条例制定の際には審議されていないと主張するが,前者につ
いては,本件規定はそもそも会派に所属する議員と会派に所属しない議員と
の間で政務調査費の交付額に差異をもうけたものとはいえないうえ,上記の
とおり,議員が会派を結成して会派として活動する場合には議員単独で活動
する場合とは異なった活動が必要又は可能となるのであって,そのための経
費が必要になることは明らかであり,会派と会派に所属しない議員とで上記
交付の基準に差をもうけてもそれだけで不合理ということはできない。そし
て,現実に差のある部分は議員1名当たり3000円であるところ,これは
会派活動の前提となる会派に所属する議員の意見調整等のための会議費や交
通費にも充たない金額ともいい得る。後者は本件条例制定の際の審議の程度
を問題とするものであるが,これは議会の専権に属する問題であって,裁判
所が判断すべき事柄ではない。したがって,控訴人の主張はいずれも採用で
きない。
さらに,控訴人は,会派に対する政務調査費の支出の実態をみれば,支出
に占める広報費の割合が多く,会派に対する政務調査は議員個人の広報費に
使用されているものであり,会派としての活動の経費に充てられているもの
ではないなどと主張するので,これについて検討する。
確かに,甲27,28によれば,本件各会派のうち,A,B及びCについ
ては政務調査費の支出に占める広報費の割合は多いといえる(Aについては
約6割,Bについては約2割,Cについては約6割。しかし,これら3会)
派の会報(Aについて甲12の1ないし3,25,Bについて甲12の4,
,),,Cについて甲12の56によれば会報の中で所属議員が紹介されたり
所属議員の活動や意見が記載されているが,会派が議員からなる団体である
以上,所属議員を紹介したり,所属議員の活動や意見を掲載するのは会派か
ら有権者に対する情報提供として必要かつ相当であり,また,各会報にはそ
れだけでなく,木津川市における行政課題を指摘し,これに対する各会派の
取り組み状況や所属議員の活動報告も掲載されているのであり,会派の活動
は具体的には所属議員によってなされる以上,会派の活動を報告するに当た
って所属議員の活動が取り上げられるのは当然であるといえ,これを議員個
人の活動と同視することは相当でない。したがって,会派の会報の発行経費
に充てられた政務調査費が実質的には議員個人の広報費に使用されていると
はいえず,控訴人の主張は採用できない。
(3)以上の検討結果を総合すれば,会派に対する政務調査費の交付額の算定
基礎として,会派に所属しない議員に対する政務調査費の交付額である月額
7000円に月額3000円を加算した月額1万円を会派に対する政務調査
費の交付額の算定基礎とすることには合理的な理由があるうえ,上記月額3
000円の差額は,前記前提となる事実(3)イによれば,同様の差異をもう
けている京都府下の他の市町村と比べても過大であるとはいえず,本件規定
が会派に所属する議員と会派に所属しない議員を差別し,憲法14条に違反
するものとはいえない。
3本件条例によれば政務調査費の交付の対象となる会派は所属議員が2名以上
いる会派であるから,一人会派は会派として政務調査費の交付を受けることは
できず,その結果,一人会派の所属議員は会派に所属しない議員として政務調
査費の交付を受けるしかない。
この点について,控訴人は,所属議員が2名以上いる会派に所属するかしな
いかは議員の自由であるうえ,法100条13項は一人会派を想定しており,
政務調査費の交付の対象となる会派を所属議員が2名以上いる会派と規定する
本件条例は法に違反すると主張するので検討する。
法100条13項は政務調査費の交付の対象となる会派の要件については法
,,自体では規定していないから同項によって条例に委任されたものと認められ
その意味では控訴人の主張するように法100条1項は一人会派を政務調査費
の交付の対象とすることを認めているといえる。
そして,所属議員が2名以上いる会派であっても,選挙の結果によっては所
属議員が1名になることもあり得ることであり,逆に一人会派であっても,同
じ志向を有する議員が参加すれば,所属議員が2名以上いる会派となり得るか
ら,ある時点で所属議員が1名であるからといって,会派としてではなく,会
派に所属しない議員としてしか政務調査費の交付を受けることができず,しか
も会派に対する政務調査費の交付額の算定基礎である所属議員1名当たり月額
1万円より月額3000円低い月額7000円しか交付を受けられないという
のは,会派としての活動の継続性を考えれば問題がないとはいえず,現に,甲
29の控訴人の調査によれば,政務調査費の交付の対象となる会派に一人会派
を含めている市町村が大多数であり,一人会派を会派としての交付の対象とし
ていない場合でも会派に対する交付額の算定基礎となる所属議員1名当たりの
額と会派に所属しない議員に対する交付額に差異をもうけていないことが多い
ことが認められ,本件条例のように会派に対する交付額の算定基礎となる所属
議員1名当たりの額と会派に所属しない議員に対する交付額に差異を設け,か
つ,交付の対象となる会派に一人会派を含めないことを規定している条例はき
わめて異例であるといえ,このような条例は京都府下の市町村議会に集中して
いると認められる(京都府下では木津川市,京田辺市,δ町及びε町が会派に
対する交付額の算定基礎となる所属議員1名当たりの額と会派に所属しない議
員に対する交付額に差異を設けているが,いずれも会派には一人会派は含まれ
ないものとしている〔甲23。〕。)
しかし,一人会派については,現に所属議員が1名である以上,会派と所属
議員は実質的に同一であって,これを認めるか否かは木津市議会の立法裁量の
範囲に属するものであり,一人会派を政務調査費の交付の対象である会派に含
めないことをもって直ちに法に違反するとはいえないし,会派に所属しない議
員についても政務調査費の交付の対象とされている以上,一人会派の所属議員
を会派に所属しない議員として扱うことが当該議員を不当に差別するものとい
うことはできない。
4以上によれば,本件規定が憲法14条に違反するとか,法100条13項に
よる条例への委任の趣旨に反し又は委任の範囲を超えるとはいえないから,憲
法92条及び法に違反するともいえない。また,本件規定によって会派に所属
しない議員に対する住民の選挙権等が制約を受けるものでもないから,憲法9
3条に違反するということもできない。
5したがって,本件規定は無効であるといえないから,本件各会派が本件上積
み分を法律上の原因なく利得したとはいえない。
第4結論
以上によれば,控訴人の請求を理由がないとして棄却した原判決は相当であ
り,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり決定する。
大阪高等裁判所第9民事部
裁判長裁判官松本哲泓
裁判官田中義則
裁判官岡口基一

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