弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人植木敬夫の上告趣意第一点について。
 所論は、原判決の是認した第一審判決は、被告人の常習として、かつ営利の目的
で、麻薬を譲り受け、譲り渡し、所持した行為に対し、麻薬取締法六七条二項等を
適用して処断したが、右規定は、職業選択の自由を制限するものであるから、憲法
二二条一項に違反すると主張するに帰する。
 しかし麻薬は、その用法によつては人の心身にきわめて危険な害悪を生ずるおそ
れがあるから、麻薬取締法は公共の保健衛生の要請上、その取扱を制限しているの
であり(昭和二七年(あ)四二二三号昭和三一年七月一八日大法廷判決、集一〇巻
七号一一七三頁参照)、本件違反物件たる塩酸ジアセチルモルヒネの取扱について
は特に厳重な規定を設けて、厚生大臣の許可を受けた例外の場合を除くほか、何人
に対してもその譲受、譲渡、所持等を禁止しているのである(麻薬取締法一二条一
項)。そして右の禁止は、公共の福祉のため必要であるから、これに違反した者を
処罰する所論麻薬取締法の規定は、憲法二二条一項に違反するものではない。
 同第二点について。
 所論は、本件第一、二審の審理は、裁判公開の原則を侵すものであつて、憲法八
二条に違反すると主張する。記録によれば、第一審裁判所は、被告人、弁護人の出
頭した公開の公判廷で審理を行い、被告人は犯罪事実をすべて自認し、弁護人同意
の下に第一審判決挙示の証拠書類について適法に証拠調を終つた上、弁論を終結し
て有罪の判決を宣告したものであり、原審もまた公開した公判廷において出頭した
弁護人の控訴趣意書に基く弁論並びにこれに対する検察官の意見をきいた上結審し
て、控訴を理由ないものとして棄却する旨の判決を宣告したことが明らかである。
されば本件の審判は、公開の法廷で行われたこと論をまたないのであるから、憲法
八二条に違反するところはない。
 同第三点について。
 所論は、旧麻薬取締法には、現行麻薬取締法六七条のような常習犯の処罰規定が
ないのに、原判決は、被告人の旧法時代の行為までをも現行法時代の行為と一括し
て常習犯としてこれに現行麻薬取締法六七条を適用しているのであるから、憲法三
九条に違反すると主張する。
 よつて麻薬取締法の改正経過を調べてみると、昭和二三年法律第一二三号として
制定された麻薬取締法(同年七月一〇日から施行)は、何人に対しても塩酸ジアセ
チルモルヒネの譲渡、譲受、所持等を禁止処罰したが、同法には「常習」及び「営
利」による右各行為の処罰規定はなく、右「常習」及び「営利」による違反罪を処
罰する規定は、昭和二七年法律第一五二号による同法の一部改正(同年五月二八日
から施行)により同法五七条の三、五七条の四として追加新設され、その附則によ
り右改正法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については従前の例によると
されたものであり、昭和二八年法律第一四号による同法の全面的改正(同年四月一
日から施行)により右五七条の三は六六条、五七条の四は六七条にそれぞれ内容を
変更することなくそのまま受け継がれて現行法となるとともに、同法律附則二項に
より従前の麻薬取締法は廃止され、同一六項により罰則の適用については、なお従
前の例によるとされるに至つたものある。ところで、右麻薬取締法五七条の三(現
行法六六条)五七条の四(現行法六七条)の法意は、これらの規定が新設施行され
た昭和二七年五月二八日前の行為をも「常習」及び「営利」の加重処罰の対象とす
る趣旨ではなく、同日以後の該行為のみをその対象とするものであると解すべきこ
とは、前記同法附則の趣旨からみてもいうまでもないところであるから、施行期日
の前後にまたがる行為が不可分の関係にあつて一罪と認められる場合でない限り、
これをその前後によつて区分し、それぞれ行為時法に従つて法律上の処遇を判断す
べきものと解するを相当とする。
 しかるに、原判決の是認した第一審判決は、昭和二七年五月二八日前の行為であ
る判示第一犯罪表1乃至3及び14の譲受行為並びに右施行期日以後であるかどう
か不明である4、5の譲受行為をも、同日以後のその他の行為とともに、「常習」
及び「営利」による違反罪の一罪を構成するものとして、これに現行麻薬取締法六
七条二項、六六条を適用処断しているのであるが、これらの行為には前記のように
改正法規は適用されない結果、常習として不可分の一罪と認めるわけにはいかない
場合であるからこれを区分せずに一括して前記のように処断したことは、その擬律
に違法あるものといわねばならない。しかし、被告人の前記1乃至5及び14の行
為は、その行為時法の麻薬取締法によつても違法な譲受行為として処罰を免れず、
それは前記施行期日以後の「常習」及び「営利」による違反罪と併合罪の関係にあ
るものであるから、これに正しく罰条を適用するとすれば結局において重い後者の
刑に併合罪の加重をして処断することとなり、第一審判決の処断したところよりも
反つて被告人の不利益に帰するので、前記の違法は適法な上告理由とならない。
 同第四点について。
 所論は、原判決は憲法三九条後段の一事不再理の原則に違反すると主張する。
 記録によれば、昭和二七年五月二八日以後の本件犯罪は、「常習」及び「営利」
による麻薬取締法違反の包括一罪を構成するものであるところ、本件には三通の起
訴状(昭和二八年五月一九目附起訴状、同年六月二日附及び同年八月一三日附追起
訴状)が存在するので、これらの書面からみれば右一罪につき重複して起訴された
部分があるかの観があるけれども、右二個の追起訴状の提出は、所論事由に関する
限り常習営利の一罪を構成する行為で起訴状に洩れたものを追加補充する趣旨でな
されたものであつて、一つの犯罪に対し重ねて公訴を提起したものではないこと、
検察官の第一審公判廷における釈明によつて明らかであり、右釈明に対しては被告
人側からもなんら異議がなかつたのである。されば、原審の判断は、結局において
正当であるから、論旨は理由がない。
 同第五点及び第六点並びに弁護人柴田昇の上告趣意について。
 所論は、事実誤認、採証法則違反又は量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴四
〇五条の上告理由に当らない。なお、記録を調べても、刑訴四一一条を適用すべき
事由は認められない。
 よつて、刑訴四〇八条に従い、裁判官池田克の左記意見を除くほか裁判官全員一
致の意見により主文のとおり判決する。
 弁護人植木敬夫の上告趣意第三点に対する裁判官池田克の意見は次のとおりであ
る。
 昭和二七年法律第一五二号による麻薬取締法の一部改正により加えられた五七条
の四の二項(現六七条二項)は、麻薬の譲受、譲渡等の違反行為をした者のうち、
常習として且つ営利の目的でした者を特に重視して刑罰を加重するものとしたもの
であり、麻薬取締法の通常違反罪の加重規定である。右改正前の同法においては、
このような違反常習性を情状として重く評価しうる(改正前の五七条二項)ものと
すると共に、違反常習者の個々の違反行為を併合罪として処断すべきものとしてい
たのであるが、改正法律は、これを以て刑罰加重の特別構成要素としているのであ
る。従つて、改正法律五七条の四の二項の常習違反罪の構成要件としては、当該違
反行為の反覆累行を当然に予想しているのであり、現実の問題として違反常習者が
当該違反行為を反覆累行した場合でも、これを包括して単一な同条の常習違反罪が
成立するものと解しなければならない(改正法律五七条の四の二項は、常習の外、
営利の目的をも刑罰加重の要件としているが、このことは、当該違反行為の常習犯
たることを妨げるものでないこと勿論である)。そして右常習違反罪は、改正法律
施行前における麻薬の譲受、譲渡等の違反行為をも認定資料とすることができるの
であり、これと改正法律施行後における同種の違反行為が集合して麻薬の譲受、譲
渡等の違反行為をする習癖を表象しているものと認められる以上、改正法律施行の
前後を通じ、それらの違反行為は包括されて改正法律五七条の四の二項の常習違反
罪たる単一罪を構成するものと認定することを妨げないのである。けだし、このよ
うな場合には、違反常習性が持続されているのであるから、改正法律施行の前後に
わたる違反行為は相互に不可分離の関係にあつて、これをその前後によつて区分す
べきものではないからである。すなわち、麻薬の譲受、譲渡等の違反行為が反覆累
行されている間に刑罰法規の変更があつても、違反者において違反常習性を持続す
る限り、それらの違反行為全部につき違反者に対し新法たる右改正法律五七条の四
の二項を適用処断するを以て足りるのであつて、いわゆる事後法の禁止に関する憲
法の条規に抵触する場合に当らないことは勿論、そもそも又、改正法律施行前の部
分につき、従前の例によつて処罰(同法附則二項)するというような問題を容れる
余地がないのである。のみならず、右改正法律の施行に当つての経過法を定めた附
則二項は、その施行前において麻薬の単純な譲受、譲渡等の違反行為をした者を、
その施行後において処罰する場合の規定であつて、改正法律施行の前後にわたる違
反常習者には、その適用がないものと解するを相当とする。しからずして、多数意
見のように改正法律施行の前後により違反行為を区分し、施行前の部分については
右附則により従前の罰則を適用し、施行後の部分については改正法律の加重規定を
適用し、更に二者を併合罪として処断すべきものとするにおいては、改正法律の常
習違反罪よりも重い刑を以て処断することとなり、右附則二項が従前の例によると
した折角の規定も死文に帰するわけであつて、それにも拘らず、右附則はかような
実質上の不当の結果をも是認したものとし、新旧両法にわたる常習違反罪に対する
新法適用の法理を排除する趣旨において立法されたものと解すべきものとすること
は、如何に考えてみても解釈の当を得ないものといわなければならない。
 ところで、本件の場合はどうかというと、多数意見が指摘しているとおり、本件
公訴事実中には、改正法律施行前の違反行為である第一審判決判示第一犯罪表1乃
至3及び14の譲受行為並びに改正法律の施行後であるかどうかが明らかでない4
及び5の譲受行為が含まれているのではあるが、第一審判決は、これらの違反行為
をも改正法律施行後のその他の違反行為と包括して常習として且つ営利の目的でな
された単純な一罪を構成するものと認定し、現麻薬取締法六七条二項、六六条(右
旧改正法律五七条の四の二項、五七条の三)を適用処断しているのであつて、その
挙示する証拠によれば右事実を肯認するに足り、その間経験則に反する違法は認め
られないから、これを是認した原判決は正当であるといわなければならない。
  昭和三一年一二月二六日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    垂   水   克   己

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