弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人高芝利徳の上告理由第一について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人が第一審判決末尾添付
目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」という。)について上告人名義に仮装
の所有権移転登記手続を経由したことは、民法九〇条にいう公序良俗に反するもの
というに足りず、同法七〇八条にいう不法原因給付にもあたらないと解するのが相
当である(最高裁昭和三二年(オ)第六五一号同三七年三月八日第一小法廷判決・
民集一六巻三号五〇〇頁、昭和四〇年(オ)第七四〇号同四一年七月二八日第一小
法廷判決・民集二〇巻六号一二六五頁参照)。それゆえ、原判決に所論の違法はな
く、論旨は採用することができない。
 同第二について
 原審の適法に確定した事実によれば、被上告人は、昭和三六年二月ころ、当時田
であつた本件土地をその所有者である訴外Dから、当時被上告人が株式の大部分を
所有し経営を事実上支配していた上告会社の名義で買い受け、農地法五条の許可も
そのころ上告会社名義で申請し、所有権移転登記も同年八月一五日上告会社名義で
経由した、登記簿上の地目もすでに宅地に変更されている、被上告人は、その地上
に昭和三八年中に前記目録(3)記載の建物を建築し、その後これを上告会社の営業
所として使用している、右建物についても同年九月二七日上告会社名義で保存登記
を経由した、というのであり、また、右農地法五条の許可申請に対してその許可が
あつたこと及び本件土地がすでに恒久的に宅地化されていることは、原審認定の趣
旨とするところから明らかである。
 ところで、譲受人を上告会社名義とする農地法五条の許可が、右のような事実関
係のもとにおいても、被上告人に対してその効力を生ずるものではなく、右許可が
あつてもなお被上告人は本件土地の所有権を取得することができないものと解すべ
きことは、所論のとおりであるが、上告会社が前記Dから本件土地の所有権を取得
すべき実体上の事由があることは原審の認定しないところであるから、上告会社も
また右許可により本件土地の所有権を取得するものではない。そして、被上告人が
みずから株式の大部分を所有し経営を事実上支配していた上告会社の名義で同法五
条の許可を受け、本件土地上に建物を建築してこれを右許可を受けた名義人である
上告会社の営業所に使用し、本件土地がすでに恒久的に宅地化されている等、前示
のような事実関係のもとにおいては、右宅地化により、本件売買は、知事の許可を
経ることなしに、完全にその効力を生ずるに至つたものと解するのが相当である。そ
れゆえ、被上告人が本件売買により本件土地の所有権を取得した旨の原審の判断は、
結論において正当であり、是認することができる。論旨は、ひつきよう、原審の認
定しない事実を前提とするか、又は原判決に影響を及ぼさない部分について原判決
を論難するものであつて、採用することができない。
 同第三について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審
の専権に属する証拠の取捨、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することが
できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光

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