弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人真砂泰三、同中川雅章、西川悠紀子の上告理由について
 本件につき適用される昭和四五年法律第四六号による改正前の自動車損害賠償保
障法(以下「自賠法」という。)が、自動車保有者の損害賠償責任を定めるととも
に、右保有者に対し原則として自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」とい
う。)に加入することを義務づけることにしたほか、更に、政府をして自動車損害
賠償保障事業(以下「保障事業」という。)を行わせることにしたのは、同法一条
の掲げる目的及び同法五章の規定の趣旨を総合してみると、交通事故による被害者
をおしなべて救済するという社会的要請に基づき自賠責保険を中核とする制度を設
けることにしたが、そのような保険の制度によつては、自動車の保有者が明らかで
ないため保有者に対し責任の追及をすることができないとき、あるいは、自動車の
保有者が明らかであつても、保有者が自賠責保険に加入していないか、又は加入し
ていても事故につき被保険者とならないときにおけるような、保険の制度になじま
ない特殊の場合における被害者を救済することができないので、等しく交通事故の
被害者でありながら自賠責保険によつては全く救済を受けることができない者が生
じるのは適当でないとして、社会保障政策上の見地から特に、とりあえず政府にお
いて被害者に対し損害賠償義務者に代わり損害の填補をすることによつて、上記の
ような特殊の場合の被害者を救済することにするためであつた、と考えられる。政
府が行う保障事業の制度目的が叙上のとおりであることにかんがみると、政府の保
障事業による救済は、他の手段によつては救済を受けることができない交通事故の
被害者に対し、最終的に最小限度の救済を与える趣旨のものであると解するのが相
当であり、したがつて、自賠法七二条一項により政府の保障事業に対して被害者が
する保障金の請求は、複数の自動車の運行によつて生命又は身体が害されるに至つ
た共同不法行為の場合についていうと、全加害車の保有者が明らかでないか、又は
そのなかに保有者の明らかなものがあつても当該保有者が自賠責保険に加入してい
ないか若しくは加入していても事故につき被保険者となるべき者でないため、被害
者が自賠責保険から損害の填補を受けることができないときにおいて、することが
できるのであつて、複数の加害車の保有者のうち一名だけでも明らかであり、かつ、
同人が自賠責保険に加入していて事故につき被保険者となるべき者であるため、同
人の加入している自賠責保険から損害の填補を受けることができるときにおいては、
することができない、と解するのが相当である。
 これを本件についてみるのに、原審の確定した事実によれば、上告人らの子Dは、
昭和四五年七月一九日E株式会社が保有しその被用者であるFが運転する普通乗用
自動車の運行と、事故後逃走したため保有者、運転者ともに明らかでない貨物自動
車の運行とによる、共同加害の結果死亡するに至つたものであり、上告人らは、右
貨物自動車の保有者に対しては自賠法三条の規定による損害賠償の請求をすること
ができないが、右普通自動車の保有者である右会社がG株式会社との間に締結して
いた自賠責保険から右事故につき加害者を右Fとする保険金五〇〇万円を受領した、
というのであるから、さきに説示したところに照らせば、上告人らは、政府が行う
保障事業に対する保障金請求権を有するものではないといわなければならない。こ
れと同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用す
ることができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    環       昌   一
            裁判官    横   井   大   三

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