弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人森長英三郎、同青柳盛雄、同小沢茂の上告趣意第一点について。
 原判決挙示の各証拠を綜合すれば、判示の戸別訪問につき被告人と氏名不詳の男
との間に共謀のあつたことが推認できる。従つて被告人には戸別訪問の意思がなか
つたと主張する所論は採用できない。
 なお原判決は、共犯者を「某男性」と判示しているが、これはその氏名が明白で
ないというだけのことであつて、挙示の証拠に照らしてみれば実在の人物であるこ
とは明らかであるから、このように判示したからとて、所論のような違法あるもの
ということはできない。
 要するに論旨はいずれの点も採用することができない。
 同上第二点について。
 原判決は、被告人が立候補者Aに「投票を得させる目的を以て」B外二名の宅を
順次訪問し「A候補に投票方を依頼し」た旨判示している。これは、被告人におい
てB外二名の者が選挙権者であること、又は少くとも選挙権者であるかも知れない
という認識をもつていたという事実の認定を含むものと解すべきである。そうして
原則として凡ての成年者が選挙権を有している現行制度並びに原判決挙示の各証拠
を照らし合せて考えれば、右のような認定は肯認できることであつて、被告人は相
手方に選挙権があるかどうかを知らなかつたという所論は、原判決が採用しなかつ
た証拠に基く主張であるから採用することができない。
 同上第三点について。
 選挙運動としての戸別訪問には種々の弊害を伴うので衆議院議員選挙法九八条、
地方自治法七二条及び教育委員会法二八条等は、これを禁止している。その結果と
して言論の自由が幾分制限せられることもあり得よう。
 しかし憲法二一条は絶対無制限の言論の自由を保障しているのではなく、公共の
福祉のためにその時、所、方法等につき合理的制限のおのずから存することは、こ
れを容認するものと考うべきであるから、選挙の公正を期するために戸別訪問を禁
止した結果として、言論自由の制限をもたらすことがあるとしても、これ等の禁止
規定を所論のように憲法に違反するものということはできない。それ故論旨は理由
がない。
 以上の理由により旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 小幡勇三郎関与
  昭和二五年九月二七日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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