弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人奥村文輔、同金井塚修の上告理由について
 一 原審の認定したところによれば、本件の事実関係は、(一) 第一審判決添付
目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)は上告人の所有であり、本件土地
上にある同目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)の不動産登記簿上の所
有者は被上告人B1であり、被上告人B2が現在本件建物を占有している、(二) 
上告人は、昭和四〇年八月一二日被上告人B1に対し本件土地を建物所有目的で賃
貸借の期間を定めずに賃貸した、(三) 被上告人B1は、本件建物を所有してこれ
に居住していたが、昭和五〇年秋ごろに大津市内に転居し、本件建物を必要としな
くなつたため、その売却を考えていたところ、昭和五一年後半になつて、D(第一
審被告であり、昭和五七年一月一五日死亡し、被上告人B1を除くその余の被上告
人ら七名が相続し、訴訟も承継した。以下「亡D」という。)が買受を希望した、
そして、被上告人B1は、亡Dに対し、昭和五一年一二月末ごろに、(1) 代金を
七五〇万円、手附金を三〇〇万円とする、(2) 昭和五二年八月三一日に所有権移
転登記と同時に残代金を完済する、(3) 亡Dは契約締結後直ちに本件建物に入居
することができるものとする、(4) 本件建物の所有権の移転に伴う本件土地の賃
借権の譲渡についての上告人の承諾は、被上告人B1において得るものとし、もし
右承諾を得ることができなかつたときは、当事者双方において協議し、円満に取引
を完了することとする(以下右の約定を「本件特約事項」という。)、(5) 契約
締結と同時に亡Dのため本件建物につき売買予約を原因とする所有権移転請求権保
全の仮登記をする、との約定で、本件建物を売り渡す旨の契約をし、即日亡Dから
被上告人B1に対し右手附金三〇〇万円が支払われた、(四) 亡D及びその家族は、
契約締結のころ本件建物に入居し、亡Dは、その後居住に便利なように本件建物に
つき若干の造作工事をした、(五) 被上告人B1は、右売買契約の約定に基づいて、
昭和五一年初めごろから上告人に対し本件土地の賃借権の譲渡についての承諾を求
めていたが、上告人はこれを拒絶した、(六) 右のような状況のもとで、亡Dの長
男である被上告人B2もまた、その家族とともに、昭和五二年春ごろに本件建物に
入居した、(七) 上告人は、被上告人B1に対し、昭和五二年一〇月二八日到達の
書面をもつて、被上告人B1が亡Dに対し本件土地の賃借権を無断で譲渡したこと
を理由として、本件土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした、というので
ある。
 二 原審は、右の事実関係のもとにおいて、次のとおり、本件土地の賃貸借契約
の解除に基づき建物収去土地明渡を求める上告人の請求は理由がないものと判断し
て、これを棄却すべきものとした。
 本件建物の売買契約は、被上告人B1が亡Dに対し、被上告人B1から亡Dに対
する本件土地の賃借権の譲渡についての上告人の承諾を停止条件として、本件建物
を売り渡すことを約した契約であると解すべきであるから、右停止条件が成就され
なかつた以上、被上告人B1は亡Dに対し本件建物の所有権を移転したことがなく、
したがつて、本件土地の賃借権を譲渡したこともないといわなければならない。そ
うすると、被上告人B1が本件土地の賃借権を無断譲渡したことを理由としてした
上告人の本件土地の賃貸借契約解除の意思表示は無効である。
 三 しかしながら、原審の右の判断は、にわかに是認することができない。その
理由は、次のとおりである。
 本件建物の売買契約の約定をみるに、売買契約書中には、本件建物の売渡ないし
本件土地の賃借権の譲渡の効力発生について、上告人の承諾を停止条件とする趣旨
を直接定めた条項はなく、かつ、右の趣旨の特約が口頭によつてされたとの主張立
証もないから、専ら、売買契約書中の本件特約事項が売買契約の約定全体との関係
及び契約前後の当事者の行為などから右の趣旨に解釈されるか否かという契約の解
釈の問題に帰するところ、(一) 原審の認定したところによれば、売買代金七五〇
万円のうちその四割にも相当する三〇〇万円もの代金が手附金として契約時に支払
うべき約定になつており、かつ、右の手附金は約定どおり支払済みであり、また、
買受人である亡Dは、約定によれば契約締結と同時に本件建物に入居することがで
き、かつ、亡Dは、右約定どおり契約締結のころ家族とともに本件建物に入居して
おり、しかも、亡Dは、本件建物に入居後その程度はともかくとして本件建物に造
作工事を施している、というのであつて、売買契約の右の約定及び契約当事者の右
の行為は、本件建物の売渡及び本件土地の賃借権の譲渡の効力発生は契約締結と同
時であったと解してはじめて矛盾なく説明しうるものであり、(二) 本件特約事項
は、地主たる上告人の承諾が得られずに本件建物の売買契約を解消せざるをえなく
なつた場合には、契約締結によつて発生した法律上及び事実上の関係の処理につき、
両者が協議によつて円満に解決するといういわば当然の事理をうたつたにすぎない
ものと解するのが自然であり、(三) 更に、記録によれば、亡D、被上告人B2及
びその家族は、本訴の提起された昭和五二年一一月七日から原審が口頭弁論を終結
した昭和五八年八月九日までの長期間、本件建物に入居したままの状態であり、し
かも、上告人が本件土地の賃借権の譲渡についての承諾を拒絶する意思を明らかに
して本件訴訟を提起・維持しているにもかかわらず、被上告人らは、被上告人B1
と亡Dないし被上告人B2との間の本件建物利用の法律関係を明確にしないまま、
右の状態を変更する意思を示していないことがうかがわれ、以上の点に照らすなら
ば、他に特段の事情のない限り、本件建物の売買契約は、契約締結と同時に本件建
物の所有権移転の効果が発生し、したがつて、本件土地の賃借権の譲渡の効力も発
生するものとして締結されたものと解釈するのが相当である。
 四 そうすると、以上と異なり、原審の認定した前記事実関係から、本件建物の
所有権移転及び本件土地の賃借権の譲渡の効力発生について停止条件が付されてい
たものと解釈すべきであるとして、上告人のした本件土地の賃貸借契約解除の意思
表示は民法六一二条一項の賃借権の譲渡がないのにされたもので無効であるとした
原審の判断には、契約の解釈を誤つた違法があるものといわざるをえず、かつ、右
の違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は、右の趣旨をいう
点において理由があり、原判決は破棄を免れない。また、上告人は、原審において、
本件建物を実質上買い受けたのは被上告人B2であるとの被上告人らの主張を援用
し、本件建物収去、本件土地明渡の請求を、被上告人B1に対して求める外は、被
上告人B2に対してのみ求めているが、この主張事実と原判決が認定した、亡Dが
本件建物を買い受けたとの前記事実関係との関連についても、更に審理を尽くすの
が相当である。したがつて、本件を原審に差し戻すべきである。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    四 ツ 谷       巖

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