弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由について
 上告人(原告、控訴人)は第一審において、「本件土地は何れも上告人の所有で
あつて訴外Dに賃貸して小作せしめていたが同人は昭和二十年中に上告人の承諾を
得ないで、本件土地の賃借権を被上告人(被告、被控訴人)三名に譲渡すると共に
土地の引渡をなし、被上告人等はこれを占有して耕作するに至つたので、上告人は
昭和二十一年五月三十日Dに対して民法六一二条の規定に基いて、同人との間の賃
貸借契約を解除した。それのみでなく、Dと被上告人等との間の賃借権譲渡契約は
地方長官の許可を受けていないので、臨時農地等管理令七条の二に違反し、その点
から言つても無効であるから、被上告人等は本件土地を占有する権原を有しない」
ことを請求原因として、土地所有権に基き、「(一)本件土地につき昭和二十年中
Dと被上告人等との間に為された賃借権譲渡契約の無効なることを確認する、(二)
上告人に対し被上告人等はそれぞれその占有している本件土地を引渡すべき」旨の
判決を求めた。
 上告人は第一審において敗訴し控訴したが、控訴繋属中である昭和二三年四月一
〇日頃自作農創設特別措置法によつて本件土地が買収せられたので、同年九月一七
日の口頭弁論において、前記請求趣旨(一)はそのまま維持しつつ、請求趣旨(二)
を変更して、「右土地につき上告人と被上告人との間に賃貸借契約の存在せざりし
ことを確定する」と改めた。以上が本件訴の概要である。そして原審における昭和
二三年九月一七日の口頭弁論における控訴人の請求趣旨の変更についての釈明なら
びに上告理由書において主張している所を綜合すると、上告人が原審において請求
趣旨(二)として主張しているところは、上告人が前示買収により本件土地所有権
を喪失した(此の事実は上告人の自認するところである)昭和二三年四月一〇日頃
以前には、上告人と被上告人等との間には本件土地につき賃貸借契約の存在しなか
つたとの過去における法律関係不存在の確認を求めていることは明らかであり、而
も請求趣旨(一)は(二)の変更以前にはその必要なきものであり、(二)の変更
以後はその表現に用いた文字の差はあるが結局同一内容のものであるか、少くとも
(一)は(二)の中に包含せられる申立たるに過ぎない。
 凡そ確認の訴は現在の権利又は法律関係の存否についてのみ許さるべきであり、
過去における権利又は法律関係の存否の確認を求める訴はその利益を欠くものとし
て許されないものと解するのが正当であるから、原審がこの理由により上告人の控
訴を棄却したのは正当といふべきである。
 上告理由は右と反対の見解に立つて原判決を非難し乃至は原判決の言はないとこ
ろ(原判決は上告人の控訴を棄却する理由として、上告人の主張によれば上告人が
取得することのあるべき損害賠償請求権等の消滅について言及していないことは判
文上明らかである)を、言つたものとして非難するに過ぎない。また記録に徴する
に、原審における昭和二三年二月一六日の口頭弁論(記録三五一丁表)において、
裁判長が前記請求趣旨(一)を維持する理由について釈明を求めたのに対し、控訴
人は次回に釈明すべき旨答えながら、その後これを為さないのみでなく、同年九月
一七日の口頭弁論(記録四二九丁表及び裏)においては、同日改めた前記請求趣旨
(二)を過去における権利関係不存在の確認なりとして釈明すると共に、請求趣旨
(一)は従前通りこれを維持する旨を供述している事実その他原審における弁論の
全趣旨を参酌すれば、この点について原審が釈明権の行使を怠り審理をつくさなか
つた違法をしたとの上告理由も亦到底採用することを得ない。
 仍て本件上告を理由なしと認めて之を棄却すべく、民訴法四〇一条、九五条、八
九条を適用し、裁判官全員の一致を以て主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔

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