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平成23年3月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第610号損害賠償請求事件
口頭弁論終結の日平成22年11月18日
判決
主文
1被告は,原告に対し,335万9710円及びこれに対する平成21年7月
24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,原告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,1億1902万0153円及びこれに対する平成21
年7月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,a県立高等学校の生徒であった原告が,水泳実習における自由練習
中に,スタート台からプールに飛び込んだところ,プールの底に頭部を衝突さ
せ(以下「本件事故」という。),頚髄損傷の傷害を負い,第7頚椎節以下完
全四肢麻痺等の後遺障害が生じたとし,担当教諭に指導上の注意義務違反があ
ったと主張して,被告に対し,安全配慮義務違反(債務不履行)による損害賠
償請求権に基づき,1億1902万0153円及びこれに対する平成21年7
月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支払を求めた事案である。
2前提事実(証拠を掲記しない事実は争いがない。)
⑴当事者
ア原告(昭和57年2月17日生)は,本件事故当時17歳であり,a県
立b農業高等学校(現在はa県立b総合高等学校。以下「b農高」とい
う。)の農業土木科3年に在籍していた。
イ被告は,平成20年3月まで,b農高を設置していた地方公共団体であ
る。
⑵b農高のプール
b農高のプールは,縦の長さ約25メートル,横の長さ約16メートルで
全7コースを有し,各コースには,満水時の水面から高さ約0.6∼0.
65メートルのところにスタート台が設置されている。また,満水時の水
面からの深さは,中央部が最も深く約1.4メートル,スタート台の直近
が最も浅く約1.2メートルである。(乙4)
⑶本件事故の経緯
ア平成11年6月30日,農業土木科3年の第6時限目の授業として,
原告を含む男子生徒30名が参加して,上記プールで水泳実習が行われ
た(以下「本件授業」という。)。
指導担当教諭は,A教諭(以下「A教諭」という。)のみであった。
イ本件授業中の自由練習の際に,原告は,第6ないし第7コースのスタ
ート台に乗って,頭からプールに飛び込み,これによって,第6頚椎脱
臼骨折,第7頚椎破裂骨折による頚髄損傷の傷害を負った。
3争点及びこれについての当事者の主張
⑴被告の安全配慮義務違反の有無
(原告)
ア安全配慮義務の根拠について
在学契約という特別の社会的接触関係に入った当事者である被告は,
原告に教育をする義務を負うとともに,その附随的義務として,学校教
育において,他方当事者である原告の生命・身体等に危険が生じないよ
うに配慮すべき義務を負っている。
イ具体的な安全配慮義務の内容とその違反について
(ア)危険性周知徹底及び飛び込み禁止指導義務について
学校の水泳授業においては,学校の種別にかかわらず,飛び込み・
スタートによる死亡ないし重篤な障害が残る傷害に至る重大な事故が
発生しているから,水泳の授業の担当教諭は,生徒に対し,事前に,
飛び込みを行った場合,深く水に入ってプール底に頭部を衝突させ,
場合によっては頚椎・頚髄損傷をきたす可能性があることを,危険性
のある動作を具体的に説明するなどしながら周知徹底したうえで,未
経験者や未習熟者に対して,一律に飛び込みを禁止する義務がある。
しかるに,A教諭は,平成11年当時の各水泳授業の前に,原告を含
む生徒らに対し,安全面に関する注意指導を特段行っておらず,また,
自由練習時間の設定をした時点を含む本件授業のいずれの段階におい
ても,これを行わなかったのであるから,上記注意義務に違反してい
るというべきである。
仮に,A教諭が,安全に関する注意を行っていたとしても,その指示
は抽象的なものにすぎなかったから,注意義務を怠ったことには変わ
りがない。
(イ)監視ないし危険行為制止義務について
水泳授業中の自由練習の時間においては,事故発生の危険性が高い
ので,担当教諭は,専任の監視係を置く等して,常時プールを監視す
るとともに,危険な行為を発見した場合にはこれを制止すべき高度の
注意義務を負っている。したがって,監視係が,一時的にその場を離
れなければならない場合には,事前に生徒全員にプールから出るよう
に指示したり,あらためて飛び込み等の危険行為をしないように厳重
注意するなど,事故の発生を防止し,生徒の安全を確保するための具
体的で十分な措置を講じる義務がある。
しかるに,A教諭は,自ら設定した自由練習時間に,更衣室に設置さ
れたシャワー室でシャワーの点検をするなどし,生徒に対する監視を
解いたうえ,代わりの監視係を置いたり,生徒全員をプールから上が
らせ,又は飛び込み禁止などの注意をあらためて徹底するなどの監視
に代替する容易な手段を講じることもなく,原告の飛び込みを見逃し,
これを制止することができなかったのであるから,同教諭には上記注
意義務に違反した過失があるというべきである。
仮に,被告が主張するように,プールサイドを離れた時間が約1分
程度であったとしても,自由練習という事故の生じやすい状況や,飛
び込み事故により生じる結果の重大性に鑑みれば,上記注意義務を免
れることはできない。
(ウ)A教諭の上記注意義務違反の結果,原告は,飛び込みによりプール
の底に頭部を衝突させ頚髄損傷の傷害を負ったものである。
(被告)
ア安全配慮義務の根拠について
被告が,県立高校の在学生であった原告に対し,一定の安全配慮義務
を負うことは認める。しかし,被告が負う安全配慮義務は在学契約に基
づくものではなく,入学許可によるものである。
イ具体的な安全配慮義務の内容とその違反について
(ア)危険性周知徹底ないし飛び込み禁止指導義務について
b農高では,平成11年4月初旬ころ,体育科主任のB教諭(以下
「B教諭」という。)が,体育教員を対象として,安全指導に関するオ
リエンテーションを実施したほか,当該年度の最初の体育の授業及び
最初の水泳授業において,生徒対象のオリエンテーションを実施した。
上記水泳授業のオリエンテーションにおける指導内容は,助走や回
転を加えて飛び込んだり,頭から飛び込んだりすると,プールの底で
頭部を強打し,頚椎や脳に大きな傷害を負うことがあるので,飛び込
みは,各コースに整列して教諭の指示でスタートする一斉指導を行う
場合に限り,スイミングスクール等の経験者や飛び込みの習得者に対
し,教諭が許可したときにのみ認め,それ以外はすべて禁止とするこ
となどであった。
A教諭も,これらの注意・指導事項を踏まえ,担当する水泳授業にお
いて,毎回,上記の場合を除き,飛び込みの禁止を徹底して注意して
いた。
したがって,A教諭らが,危険性周知徹底ないし飛び込み禁止指導義
務を負っていたとしても,これに違反したということはできない。
(イ)監視ないし危険行為制止義務について
一般に,高校3年生ともなれば,成人とほとんど同等の判断能力を
有しているのであるから,高校3年生を対象とする授業においては,
生徒各自の自律的判断を尊重すべきであり,それに伴って教諭に課さ
れる注意義務も軽減されるというべきである。したがって,水泳授業
を担当する教諭は,生徒の行動等を逐一監視するまでの義務はない。
本件で,A教諭がシャワーから出ている水を止めるためにプールサイ
ドを離れたのは,長くても約1分間程度であることに加えて,本件授
業が高校3年生を対象とするものであったことや,上記のとおり事前
に十分な注意指導をしていたことからすれば,A教諭において,そのわ
ずかな時間に生徒が危険な飛び込みをすることなど予見することは不
可能であった。
したがって,A教諭に監視ないし危険行為制止義務に違反した過失が
あるということはできない。
(ウ)以上のとおり,被告は安全配慮義務を尽くしており,本件事故は,
A教諭らの再三の注意,指導にもかかわらず,原告がほんのわずかな時
間,同教諭がプールサイドを離れた隙を狙って禁止されていた飛び込み
を行い,受傷したことによって発生したものであり,原告自身の過失に
基づく自招事故というべきである。
なお,原告は飛び込みによりプールの底に頭部を衝突させたもので
はなく,高く飛びすぎ垂直に近い角度で入水してしまったため水面の
水圧で首が引っかかって頚椎を支点として圧力がかかり頚椎を損傷し
たものである。
ウ過失相殺について
仮に,被告に安全配慮義務違反が認められるとしても,上記のとおり,
A教諭らの指導を無視して飛び込みを行った原告の責任は大きく,大幅な
過失相殺がなされるべきである。
⑵原告の損害
(原告)
本件事故により,原告には以下の損害が生じた。
ア治療関係費
(ア)入院治療費
原告は,本件事故当日の平成11年6月30日から平成12年1月
9日まで(入院期間194日)及び同年2月22日から同年7月24
日まで(入院期間154日)の間,c県d市にあるCセンター(以下
「Cセンター」という。)に入院していた。同センターにおける入院治
療費は,別表1記載のとおりであり,その合計額は,178万384
5円である。
(イ)通院治療費
①Cセンター関係
原告は,平成12年1月9日に同センターを退院してから同年2
月22日まで及び同年7月24日に同センターを退院してから平成
13年2月16日までの間,同センターにおいて通院し治療を受け
た。
そのために要した通院治療費は,別表2「Cセンター通院分」記載
のとおりであり,その合計額は,6万1673円である。
②その他の病院関係
原告は,Cセンターを退院した後,e市及びa市内の病院において
検査,治療及び投薬等を受けたほか,平成14年にD株式会社(以
下「D」という。)に入社した後は,f市内の医療法人Eクリニック
(以下「Eクリニック」という。)において検査及び治療等を受けた。
そのために要した通院治療費は,別表2「他病院通院分」記載のと
おりであり,その合計額は,15万4610円である。
(ウ)将来の治療費
原告は,カテーテルによって排尿しているため,現在約3か月に1
度Eクリニックに通院し,尿道の消毒や腎臓の検査等を受けており,
今後も継続して上記消毒及び検査等を受ける必要があるところ,平成
18年度から平成20年度における平均通院治療費8049円を基礎
とし,訴え提起当時27歳であった原告の推定余命期間を平成19年
簡易生命表により52年として,ライプニッツ方式により中間利息を
控除すると,将来の通院治療費は,14万8246円となる。
(計算式)
2683点(検査,画像診断及び医学管理等の1年間の平均診療報
酬点数)×10円(診療報酬点数1点当たりの金額)×0.3(自
己負担率)=8049円
8049円×18.418(ライプニッツ係数)=14万8246
円(1円未満切捨て。以下同じ)
(エ)なお,症状固定後の分については,症状の悪化を防止するとともに,
上記治療のために必要なものである。
イ付添看護費
(ア)入院付添費
原告のCセンターでの入院期間は合計348日であるところ,近親
者である原告の両親の付添看護費を1日6000円として計算すると,
その合計額は,208万8000円となる。
(イ)通院付添費
原告は,平成12年7月から平成13年2月までの間,合計25回C
センターに通院していたところ,原告には移動手段がなかったので,
原告の両親が毎回付き添っていた。そこで,通院付添費を1日300
0円として計算すると,その合計額は7万5000円となる。
ウ入院雑費
Cセンターへの入院期間は合計348日であるところ,入院雑費を1日
1300円として計算すると,その合計額は45万2400円となる。
エ通院交通費
(ア)原告入院時における近親者の通院交通費
原告の両親が,原告を看護するために要した交通費は,別表3「近
親者の通院交通費」欄記載のとおり,合計18万8488円である。
(イ)原告通院時における原告の通院交通費
原告が,Cセンターに通院する際に要した交通費は,別表3「本人の
通院交通費」欄記載のとおり,合計1万8488円である。
オ宿泊費
(ア)原告入院時における近親者の宿泊費
原告の両親は,原告の入院期間中,付添看護のために,居住地であ
るa県g郡h町(現在のa県e市h町)からc県d市所在のCセンター
に通院していたが,長時間の通院が極めて負担となることから,別表
4「近親者宿泊分」欄記載のとおり,同センターの付属施設に宿泊し
ていた。したがって,その宿泊費合計30万6600円は,本件事故
に起因する損害というべきである。
(イ)原告通院時における原告及び近親者の宿泊費
原告は,Cセンターに通院する際,居住地であるa県g郡h町から両
親の運転する車で移動していたが,長時間の通院が極めて負担であっ
たことから,別表4「本人及び近親者宿泊分」欄記載のとおり,両親
とともに同センターの付属施設に宿泊していた。したがって,その宿
泊費合計12万6525円も,本件事故に起因する損害というべきで
ある。
カ器具購入費等
(ア)車椅子購入費
原告は,平成12年2月3日,車椅子購入費15万2125円を支
出した。
(イ)自動車教習所教習料
原告は,本件事故の後遺障害によって,生活及び就業に自動車運転
免許が必要となり,下肢障害者用の教習車を用意していたF自動車専
門学校で教習を受けることになったのであるから,自動車教習所の教
習料26万2650円は,本件事故に起因する損害というべきである。
(ウ)自動車改造費
原告は,上記(イ)のとおり,生活及び通勤のため自動車の運転が必要
となり,そのためには,通常の自動車に手動運転装置を付け,身体障
害者用の特別仕様に改造することを要したのであるから,3回の自動
車改造費合計76万7000円(28万円,27万円,21万700
0円)は,本件事故に起因する損害である。
(エ)将来の自動車改造費
原告は,今後継続して自動車を使用しなければならず,自動車を買
い換える度に改造を行う必要があるところ,上記(ウ)の自動車改造費1
回当たりの平均額である25万5666円を基礎とし,買換え予定回
数を8回(平均余命期間52年で,自動車を6年ごとに買い換えた場
合)として,ライプニッツ方式により中間利息を控除すると,将来の
自動車改造費は67万9472円となる。
(オ)家屋改造費
原告は,平成12年7月から平成13年4月まで両親の居宅で生活
し,平成17年12月以降現在の自宅で生活しているところ,原告が
両居宅内において安全に移動,排便・排尿及び入浴等を行えるように,
家屋の改造を行なったのであるから,両親の居宅改造費183万50
00円,現在の自宅改造費15万0205円は,いずれも本件事故に
起因する損害というべきである。
(カ)不妊治療費
原告は,性機能障害及び精路通過障害による不妊症となり,現在不
妊治療を行っているところ,子を持ちたいというのは自然な感情であ
り,また,上記各障害が本件事故によって生じたことは明らかである
から,1回分の不妊治療費33万5750円は,本件事故に起因する
損害である。
キ逸失利益
原告は,本件事故当時17歳の健康な高校生であったが,後遺障害に
より,18歳から67歳まで49年間を通じてその労働能力を喪失した
ものである。
原告の症状固定日は,平成11年9月7日であるから,平成11年度
賃金センサス男子労働者全学歴全年齢平均賃金である562万3900
円を基礎とし,労働能力喪失率を100パーセント,原告が症状固定当
時17歳の未就労者であったことから労働能力喪失期間を49年間とし
て,ライプニッツ方式(ライプニッツ係数18.2559−0.952
3)により中間利息を控除すると,原告の逸失利益は,9731万37
16円となる。
なお,原告は,現在,障害者の雇用の促進等に関する法律に基づき認
定された特例会社であるDにおいて,平均年収256万3189円を得
ているものの,これは原告のリハビリ等の不断の努力により獲得維持さ
れているものであるし,今後同様の努力を続けられるか不確実であるう
え,仮に退職せざるを得ない状況になった場合,他の企業に再就職する
ことは困難であること等からすれば,上記収入があることをもって,原
告に逸失利益が存在しないとすることはできないし,また,将来の分を
含め上記収入を控除すべきではない。
ク慰謝料
(ア)入通院慰謝料
原告のCセンターにおける入院期間(合計348日,約12か月)
及び通院期間(207日,約7か月)からすれば,原告の入通院慰謝
料としては,400万円が相当である。
(イ)後遺症慰謝料
原告は,身体障害者等級第1級の後遺障害を負い,その症状の改善
は困難であること,17歳という若年時に上記後遺障害を負ったもの
であること,日常生活が極めて不便であること,今後も不妊治療を必
要とすること等を考慮すれば,原告の後遺障害慰謝料は,3100万
円とするのが相当である。
ケ損害の補
以上からすると,本件事故により原告が被った損害の合計は1億41
90万0153円となるところ,原告は,本件事故後,当時のGセンタ
ーから障害見舞金として3370万円の支払を受けている。
コ弁護士費用
原告は,本件訴訟の追行を弁護士に依頼し,1082万円の支払を約
束したところ,本件事案の内容,困難性からすれば,上記金額は,本件
事故と相当因果関係のある損害というべきである。
(被告)
ア治療関係費
(ア)入院治療費
①原告は,平成11年9月7日に症状固定していることから,症状
固定後の治療は必要ない。
②また,原告がCセンターに再入院したのは,父親が交通事故で入
院し,原告を介護する者がいなくなったことや,原告が自動車運転
免許を取得するための訓練をすることなどを主な理由とするもので
あるから,再入院の治療費は,本件事故とは直接関係がない。
(イ)通院治療費
上記①と同じ。
(ウ)将来の治療費
上記①と同じ。
イ付添看護費
Cセンターは完全看護体制の病院であるうえ,近親者の付添看護が必要
であるとの医師の診断がなされていない。
ウ入院雑費
当初の入院分については認めるが,再入院分については争う。
エ通院交通費
ガソリン代のすべてがCセンターへの通院に要したものとは認められ
ない。
オ宿泊費
原告入院時における症状固定日までの近親者の宿泊分は認めるが,そ
の余は争う。
カ器具購入費等
(ア)車椅子購入費
認める。
(イ)自動車教習所教習料
原告は,本件事故に遭わなかったとしても,自動車運転免許を取得
したものと推測され,自動車教習所教習料は,本件事故に起因する損
害とはいえない。仮に損害に当たるとしても,特別の教習車を使用す
る教習料と通常の教習車を使用する教習料との差額に限られるべきで
ある。
(ウ)自動車改造費
原告は,自動車改造費用として,3回にわたり合計76万7000
円を支出しているが,2回目(改造費27万円)は車椅子テニス用の
車椅子を積んだり,就職先の意向に沿うためであること,3回目(改
造費21万7000円)は原告の妻の運転車両を買い換えるためであ
ることなどからすれば,いずれも本件事故と直接関係がない。
(エ)将来の自動車改造費
争う。
自動車を6年ごとに買い換える必要性は認められない。
(オ)家屋改造費
認める。
(カ)不妊治療費
争う。
キ逸失利益
原告は,高校卒業後,就職を希望していたのであるから,男子高校卒
計全年齢平均賃金を基礎とすべきであるし,賃金センサスは,口頭弁論
終結時である平成22年のものを用いるべきである。
また,原告が,現在に至るまで平均年収256万3189円を得てい
ることからすれば,労働能力喪失率を100パーセントとするのは公平
に反し,仮に100パーセントとするのであれば,原告が過去に得た収
入と今後得られる収入の総額を控除すべきである。
ク慰謝料
争う。
仮に,逸失利益について現実収入を考慮しないのであれば,慰謝料の
算定にあたって減額すべきである。
ケ損害の填補
原告は,自認するとおりGセンターから障害見舞金3370万円の支
払を受けたほか,同センターから災害共済給付金として118万335
6円の支払を受けているので,合計3488万3356円を上記各損害
の合計額から控除すべきである。
コ弁護士費用
争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実,証拠(甲1,8∼10,31の1・2,42,乙5∼7,証
人A,原告)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
⑴本件事故当時の水泳事故の状況
プールでの飛び込みによる事故は,脊髄損傷をきたすスポーツ事故のう
ち,主要な位置を占めており,性別及び学校種別でみると,男子中学生及
び男子高校生の事例が多いことなどが,財団法人日本水泳連盟により「月
刊水泳」(平成4年11月号)で紹介されていた(甲31の1・2)。
また,A教諭自身も,本件事故当時,教育委員会からの学校のプール事故
に関する通達があったことなどから,学校のプールで頚椎損傷などのプー
ル事故が発生していることを認識していた(証人A203∼210項)。
⑵平成11年度のオリエンテーション
アb農高においては,平成11年4月初めころ,同校の体育科主任である
B教諭によって,体育教員対象の体育の安全指導に関するオリエンテーシ
ョンが実施されたほか,当該年度の最初の体育授業と最初の水泳授業に
おいて,生徒を対象とするオリエンテーションが実施された。
上記体育教員対象のオリエンテーションにおいて,B教諭は,A教諭を
含む体育教員らに対し,水泳授業での生徒の健康管理方法や監視態勢等
に加えて,大事なことは繰り返し注意することなどを指導した。
また,上記水泳授業での生徒対象のオリエンテーションにおいて,B教
諭は,助走や回転を加えて飛び込んだり,頭から飛び込んだりするとプ
ールの底で頭部を強打し頚椎や脳に大きな傷害を負うことがあるため,
プールへの飛び込みは原則として禁止とすることなどを説明した。この
オリエンテーションには,担当教諭であるA教諭も立ち会っていた。
(以上につき,証人A113∼135,192∼196項)
イなお,A教諭は,B教諭から,「本校の生徒は繰り返し何度も注意をし
ないとなかなか指導に従わない生徒が多い。」と忠告を受けていた(証
人A175,270項)。
⑶本件事故の発生
ア(ア)本件授業開始後である平成11年6月30日(以下は,特記しない
限り同日である。)午後2時過ぎころ,A教諭は,生徒らをプールサイ
ドに整列させ,出欠と健康状態の確認を行ったうえで,生徒らに対し,
当日の授業内容として,①生徒ら全員で,クロール,平泳ぎ及び背泳
ぎ,バタフライ又は横泳ぎのうち1種目を選択して泳ぐ自由泳法によ
り25メートルを1本ずつ泳ぐウォーミングアップを行った後,②ク
ロール及び平泳ぎで泳げる距離を測定する泳力調査が未了の生徒2名
についてこれを実施するとともに,その他の生徒については,自由泳
法を習得するための個別練習を行うことを説明した。
(イ)A教諭は,上記⑵を踏まえて,各水泳授業の冒頭で,生徒らに対し,
許可なくプールに飛び込むことや,プールサイドを走り回ることがな
いように注意指導を行っており,本件授業においても,授業内容を説
明する際に,同様の注意指導を行っていた(乙7のHの回答部分,証
人A92,175項)。
イ(ア)準備体操の後,午後2時20分ころからウォーミングアップが開始
され,午後2時25分ころ,第1コースで泳力調査が,第2ないし第
7コースで個別練習が開始された。
(イ)従前からA教諭は,ウォーミングアップにおいては,スイミングス
クール等の経験者や事前に申入れのあった生徒につき,適宜飛び込み
によるスタートを許可していたが,個別練習及び自由練習においては,
一律にこれを禁止していた(証人A97項)。
それにもかかわらず,個別練習中に,第7コース付近で,1人の生
徒が,プールサイドから助走をつけて,プールに浮かべたビート板の
上に足から飛び込んだ。泳力調査を担当していたA教諭は,これを目
撃し,反対側のプールサイドから大きな声で,同生徒に対し,危険な
行為をやめるように注意した(証人A27∼39,214∼221項)。
(ウ)午後2時30分ころ,泳力調査が終了したので,A教諭は,大きな
声で,生徒全員に対し自由練習を指示した。
自由練習の間,A教諭は,プールサイドを巡回しながら,生徒らの様
子を監視していたが,第2コースのスタート台付近まで来た時に,別
紙図面記載のプールの北側にある附属棟(以下「附属棟」という。)
の男子更衣室に接するシャワー室の入り口を通して,シャワーの水が
出しっぱなしになっていることに気づいた。そこで,シャワー室に入
ってシャワーの水を止めた後,さらに同室の排水溝(乙5の写真16
∼18)に髪の毛やゴミが溜まって水が流れにくくなっていたことか
ら,これを取り除く作業を行った。
(プールと附属棟の位置関係及び同棟の状況につき乙5)
(エ)建物の構造上,附属棟からプールを監視することはできないが(乙
5の写真19,20),A教諭は,本件授業の自由練習中に,シャワー
の水を止めるために附属棟に入る際,生徒らに対し,あらためて危険
行為を禁止する等特段の措置を講じることはなかった(証人A226∼
232項)。
ウ原告を含む生徒数名は,A教諭が附属棟に入っていったのを見て,同人
による監視が解かれたものと考え,第6ないし第7コースのスタート台
のあたりから,助走をつけてプールに飛び込むなどして遊び始めた。上
記生徒らが,前転や後転をしながら数回飛び込みを繰り返した後,原告
は,他の生徒に対し,「今度は高く飛ぶよ。」と言って,助走したうえ
で同スタート台の上から飛び込み,頭から水面に対し垂直に近い角度で
プールに入水したところ,頭部が着水した際にかかる水圧の衝撃によっ
て第6頚椎脱臼骨折,第7頚椎破裂骨折による頚髄損傷の傷害を負った
(乙7,原告22∼36,136,146∼149項)。
(この点について,原告は,頭部をプールの底で打ち付けた旨主張する
が,原告はそのような供述をするものではない。また,甲1(報告書)
には,プールの底で頭部を強打した旨の記載があるが,推測にすぎない
し,乙7(Iの回答2)には,「ごん」という音がした旨の記載もあるが,
その表現の正確性には疑問があるから,これらはいずれも上記認定を左
右しないというべきである。)
⑷本件事故後の経緯
ア原告がおぼれていることに気づいた生徒数名が,原告を第7コース東
側のプールサイドに引き上げ,生徒らに呼ばれて附属棟からプールサイ
ドに戻ってきたA教諭は,プールサイドで仰向けに寝かされていた原告
に対し,触診をするなどしたうえで,他の生徒に事務室へ行って救急車
を呼んでもらうように指示した。
イ原告は,午後2時52分ころ,救急車でa県立b病院に,その後さらに
防災ヘリコプターでCセンターに搬送され,即日同センターに入院した。
原告は,その後,同センターにおいて,第6頚椎脱臼骨折,第7頚椎
破裂骨折により身体障害者福祉法別表の1級に相当する第7頚髄節以下
四肢機能全廃,神経因性膀胱直腸障害の後遺障害が生じ,平成11年9
月7日に症状が固定したとの診断を受けた(甲3,8,9。なお,a県発
行の身体障害者手帳によれば,両下肢機能全廃1級・両手指機能全廃2
級の併合1級とされている(甲10)。)。
2争点⑴(被告の安全配慮義務違反の有無)について
⑴安全配慮義務について
学校の教師は,学校における教育活動により生ずるおそれのある危険か
ら生徒を保護すべき義務を負っており,危険を伴う技術を指導する場合に
は,事故の発生を防止するために十分な措置を講じるべき注意義務がある
ところ(最高裁昭和62年2月6日第二小法廷判決・集民150号75頁
参照),水泳授業が,死亡や重篤な障害が残る傷害事故等を生じる危険性
を有するものであることからすれば,本件授業を担当したA教諭らにおい
て,上記のような一般的な注意義務を負っていたことは明らかである。
そこで,以下では,A教諭らに具体的な注意義務違反があるか否かを検討
する。
⑵危険性周知徹底ないし飛び込み禁止指導義務について
高等学校の水泳授業を担当する教諭は,前記のとおりの飛び込みの危険
性等に照らせば,水泳授業の開始等に当たり,生徒に対し,飛び込みの危
険性を説明したうえ,むやみに飛び込むことを禁止指導すべき注意義務が
あるというべきである。
しかし,前記認定事実⑵ア及び同⑶ア(イ),イ(イ)のとおり,B教諭は,生
徒対象のオリエンテーションにおいて,助走や回転を加えて飛び込んだり,
頭から飛び込んだりするとプールの底で頭部を強打し頚椎や脳に大きな傷
害を負うことがあるため,プールへの飛び込みは原則として禁止とするこ
となどを説明し,A教諭は,これを受け,本件授業を含む各水泳授業の冒頭
で,生徒らに対し,許可なくプールに飛び込むことがないように注意指導
を行い,ウォーミングアップ等,生徒が一斉にスタートする練習において,
スイミングスクール等の経験者や事前に申入れをした生徒につき,習熟度
に応じて適宜飛び込みを許可するほかは,一律にこれを禁止していたので
あるから,B教諭及びA教諭に,上記注意義務に違反する過失があるとい
うことはできない。
この点について,原告は,これらの教諭の指導は具体性に欠ける旨主張
するが,上記に照らせば,採用し難い。
⑶監視ないし危険行為制止義務について
ア前記認定の本件事故当時の水泳事故の状況(前記認定事実1⑴),A教
諭が立ち会ったオリエンテーションの内容(同1(2)ア)等に加えて,A
教諭は,かねてから,B教諭より,指導に従わない生徒が多い旨の忠告を
受けていたうえ(同1(2)イ),飛び込みを禁止していたにもかかわらず,
本件事故直前の個別練習中に,A教諭の目を盗んでプールに浮かべられた
ビート板に向かって飛び込んだ生徒もいて同教諭はこれを目撃していた
こと(同1(3)イ(イ))に照らせば,A教諭は,自己がプールの監視を解け
ば,生徒が開放的になって事前の禁止事項を守らず,危険な態様でプー
ルに飛び込むなどして,頚髄損傷等の重大な事故を起こす危険性がある
ことを十分予見しえたというべきである。
したがって,A教諭には,上記事故を防止するために,プールサイドで
継続的に生徒らを監視するとともに,危険行為に及ぶ生徒を発見した場
合には,これを制止すべき注意義務を負っていたと認められ,A教諭にお
いてプールサイドを離れなければならない事情がある場合には,それが
短時間であったとしても,監視を解く前に,生徒らに対しあらためて飛
び込み等の危険行為を厳重に禁止したり,あるいは臨時の監視係を置く
などして(甲34の57頁参照),事故を未然に防止するための措置を
講じるべき注意義務があったというべきである。
イしかるに,A教諭は,自由練習を指示した後,生徒らがもはや危険な行
為に及ぶことはないと軽信し,前記認定事実⑶イ(エ)のとおり,特段の措
置を講じることなく,シャワー室に行ってシャワーの水を止め,排水溝
にたまったゴミを取り除く作業を開始したというのであり,その間,監
視のない状況となったプールサイドにおいて,原告を含む生徒数名が危
険な飛び込みをした結果,本件事故が生じたものと認められるから,被
告の履行補助者であるA教諭には,上記注意義務に違反した過失がある
といわざるを得ない。
なお,本件事故が本件授業中に発生している以上,原告が自ら招いた
行為によるものであるとして,A教諭の過失を全面的に否定するのは相当
ではなく,このような事情は後記過失相殺の事情として斟酌することに
する。
ウそして,A教諭が生徒らに対する監視を解かず,あるいは上記のような
措置を講じていれば,本件事故が生じていなかったことは前記認定の事
実に照らせば,容易に推測できる。
なお,本件事故の原因は,前記のとおり,頭部が着水した際にかかる
水圧の衝撃によって生じたものであり,プールの底で頭を打ち付けた旨
の原告の主張とは異なるものの,仮に,これが主要事実に当たるとして
も,被告も主張している事実であるから,このような認定が弁論主義に
反するものとは考えられないし,また,これによって上記A教諭の注意
義務違反の判断が左右されるものではない。
エそうすると,被告には,安全配慮義務違反があったというべきであり,
被告は,原告が被った後記損害について賠償すべき義務を負うことにな
る。
(4)過失相殺について
上記のとおり,被告は安全配慮義務違反を免れないというべきであるが,
他方,原告が成人に近い判断能力を有する高校3年生であり,前記認定事
実⑵の生徒対象のオリエンテーションを受けながら,スタート台付近では
深さ約1.2メートルしかないプールに助走をつけたうえで頭から水面に
対し,垂直に近い形で飛び込んだ場合,プールの底に頭部を衝突させるな
どして,頚髄損傷の傷害を負うことは容易に予見しえたこと,前記認定事
実⑶ア(イ)及びウのとおり,原告は,A教諭により許可のない飛び込みを禁
止されていたにもかかわらず,A教諭が附属棟に入り,同人の監視が届かな
くなったことを見計らって,上記のような危険な態様での飛び込みを始め
たこと等の事情に鑑みると,原告にも重大な過失があったことは明らかで
ある。
そして,以上の事情に加え,本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,原告
の過失割合を7割と認めるのが相当である。
3争点⑵(原告の損害)について
⑴治療関係費
ア入院治療費153万0765円
証拠(甲4,5の1∼4,11の1∼25,39∼41,原告)及び
弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア)原告は,本件事故当日の平成11年6月30日,Cセンターに入院
し,頚椎及び胸椎固定術等の手術を受けたほか,完全介護体制の下,
画像診断や各種検査を受けながら,リハビリテーションを行うなどし
たうえで,平成12年1月9日に退院した(以下「第1入院」とい
う。)。
(イ)その後,原告の父親が交通事故で入院したため,居住地で原告が十
分な介護を受けることができなくなったこと及び自動車運転免許を取
得することを主な理由として,原告は,同年2月22日同センターに
再度入院し,完全介護体制の下,排便訓練を含むリハビリテーション
を行い,同年7月24日に退院した(以下「第2入院」という。)。
(ウ)原告は,上記第1,第2入院に係る治療費(診断書代を含む。)と
して,別表1記載の金額から食事負担金25万3080円を除いた合
計153万0765円を支出した。
以上のとおり,原告の入院治療は,そのほとんどが症状固定日(平
成11年9月7日)以後のものであること,第2入院に至る経緯を考
慮しても,原告の後遺障害の部位・程度,及び上記治療内容等に鑑み
れば,上記治療費はすべて本件事故と相当因果関係のある損害である
と認めるのが相当である。
イ通院治療費
(ア)Cセンター関係6万1673円
証拠(甲12の1∼の32)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,
平成12年2月8日から同月18日まで及び同年8月10日から平成
13年2月16日まで,別表2「Cセンター通院分」の「年月日」及び
「金額」欄記載とおり,原告の父母による付添の下,同センターに通
院し,診察を受けたり,リハビリテーション等を行ったうえ,治療費
として6万1673円を支出したことが認められるところ,この支出
は,上記同様,本件事故と相当因果関係のある損害であると認められ
る。
(イ)その他の病院関係15万4610円
証拠(甲13の1∼8,14の1∼15)及び弁論の全趣旨によれ
ば,原告は,別表2「他病院通院分」の「年月日」,「金額」及び
「備考」欄記載のとおり,a県立b病院,J病院,K病院,L病院及び
Eクリニックにそれぞれ通院し(在宅医療分を含む。),診察や後記ウ
の尿道の消毒等を受けるなどし,その治療費として合計15万461
0円を支出したことが認められるところ,原告の後遺障害の部位・程
度及び上記治療行為の内容等に照らせば,上記治療費は,症状悪化を
防ぐために必要な治療に要した費用であると認められるから,本件事
故と相当因果関係のある損害というべきである。
ウ将来の治療費9万1010円
証拠(甲14の1∼15)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件
事故の後遺障害によって,カテーテルで排尿をすることになったため,
約3か月に1度,尿道を消毒するとともに,腎臓の画像撮影等の検査を
行うことが必要となり,平成18年から平成20年まで,Eクリニックに
おいて上記消毒等の費用として,合計7万1820円(1年当たり平均
支出額2万3940円)を支出したことが認められるところ,原告主張
の検査,画像診断,医学管理等の診療報酬点数に基づく治療費の原告負
担分は,年平均8062円となるが,原告が主張する8049円の限度
で認めることとする。
上記治療は今後も継続する必要があることから,上記1年当たりの平
均支出額8049円を基礎とし,訴え提起時(平成21年6月8日)2
7歳であった原告の推定余命期間を平成19年簡易生命表により52年
間(52.89)としたうえで,ライプニッツ方式により中間利息を控
除すると,上記治療費の訴え提起時の現価は14万8247円となり,
これをさらに同方式により症状固定日(平成11年9月7日)の現価に
引き直して計算すると,本件事故と相当因果関係のある損害としての将
来の治療費は9万1010円となる。
(計算式)
8049円×18.4181(ライプニッツ係数)=14万8247

14万8247円×0.61391325(ライプニッツ係数)=9
万1010円(同係数については10年分として扱った。)
⑵付添看護費
ア入院付添費116万4000円
証拠(甲17の1∼34,19の1∼19)及び弁論の全趣旨によれ
ば,第1入院期間中は,原告の父母が毎日(日数について,被告は争う
ことを明らかにしない。)付添看護していたことが認められるところ,
原告の後遺障害の部位・程度及び原告の当時の17歳という年齢に加え
て,前記⑴ア(ア)で認定した第1入院期間中における治療行為の内容に鑑
みると,第1入院期間においては,同センターが完全介護体制であるこ
とを考慮しても,なお付添看護の必要性を否定することはできないとい
うべきである。
これに反し,第2入院期間においては,実際の付添看護の有無を問う
までもなく(第2入院の経緯に照らせば,毎日看護できたのかも疑問で
ある。),もはや付添看護の必要まではないというべきである。
そうすると,近親者の入院付添費は1日当たり6000円と認めるの
が相当であるから,本件事故と相当因果関係のある損害は,194日分
である116万4000円となる。
イ通院付添費7万5000円
前記⑴イ(ア)のとおり,原告は,平成12年2月8日から同月18日ま
で及び同年8月10日から平成13年2月16日までの間,合計25回C
センターに通院していることが認められるところ,いずれも症状固定後
の通院ではあるものの,前記のとおり,上記通院の必要性があったうえ,
原告は,平成12年8月22日ころになって,初めて自動車を改造し,
運転が可能になったことが認められること(甲23及び弁論の全趣旨)
などからすると,同日以降の通院が多いものの運転経験が少ないことか
ら,上記各通院については,両親による付添の必要性を否定することは
できないというべきである。
そして,近親者の通院付添費は,1日3000円と認めるのが相当で
あるから,本件事故と相当因果関係のある損害は,7万5000円とな
る。
⑶入院雑費45万2400円
前記⑴アのとおり,第1及び第2入院ともその必要性は否定できないか
ら,入院雑費については,1日当たり1300円として,45万2400
円となる(第1入院分については争いがない。)。
⑷通院交通費
ア原告入院時における近親者の通院交通費8万6851円
証拠(甲17の1∼34)及び弁論の全趣旨によれば,原告の第1入
院期間中,原告の父母は,居住地であるa県g郡h町からc県d市所在の
Cセンターに通院する際,別表3「近親者の通院交通費」の「年月日」,
「金額」及び「備考」欄記載のとおり,8万6851円を支出したこと
が認められ(h町はi県よりであるから,もっぱら九州道を利用),ガソ
リン代を含め(移動距離に照らし不相当な金額とまではいえない。)本
件事故と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。
これに反し,第2入院期間中の分については,付添の必要がないから,
損害と認めない。
イ原告通院時における原告の交通費1万8848円
証拠(甲18の1∼6)及び弁論の全趣旨によれば,原告がa県g郡h
町から上記センターに通院する際,別表3「本人の通院交通費」の「年
月日」,「金額」及び「備考」欄記載のとおり,高速道路及び有料道路
の通行料合計8400円及びガソリン代合計1万0448円を支出した
ことが認められる。そして,前記⑴イ(ア)からすると,上記通院交通費は,
すべて本件事故と相当因果関係のある損害に当たると認めるのが相当で
ある。
⑸宿泊費
ア原告入院時における原告の近親者の宿泊費19万3200

証拠(甲19の1∼33)及び弁論の全趣旨によれば,原告の入院期
間中,原告の父母その他の近親者がCセンターの附属施設に宿泊した費
用として,別表4「近親者宿泊分」欄記載のとおり,合計30万660
0円が支出されたことが認められるところ,前記⑵アのとおり,第1入
院期間中に限っては,付添看護が必要であると認められるうえ,宿泊回
数及びその費用も,居住地とCセンターの所在地との距離等からすれば,
必要かつ相当といえる範囲内ということができるから,本件事故と相当
因果関係のある損害は,上記支出額のうち第1入院期間分である19万
3200円と認めるのが相当である(症状固定日までの近親者の宿泊分
は争いがない。)。
イ原告通院時における原告及び原告の父母の宿泊費12万6525円
証拠(甲20の1∼13)及び弁論の全趣旨によれば,原告がa県g郡
h町からCセンターまで通院している間,原告及び原告の父母の宿泊費と
して,別表4「本人及び近親者宿泊分」欄記載のとおり合計12万65
25円が支出されたことが認められるところ,前記⑴イ(ア)及び⑵イのと
おり,通院治療及び付添の必要はあるというべきであるし,通院のため
に要する移動距離(重篤な後遺障害を負った原告にとっては特に身体的
な負担も大きい。)等にも鑑みれば,上記宿泊費は,本件事故と相当因
果関係がある損害に当たると認められる。
⑹器具購入費等
ア車椅子購入費15万2125円
当事者間に争いがない。
イ自動車教習所教習料26万2650円
原告のために,平成12年5月17日,自動車教習所教習料として2
6万2650円が支出されたことが認められるが(甲22),原告は障
害からの自立のために,自動車の運転免許を取得したものと考えられる
から(原告が高校卒業後直ちに免許を取得する予定であったというよう
な事情は窺えない。),上記支出額は,本件事故と相当因果関係のある
損害と認められる。
ウ自動車改造費56万2000円
証拠(甲23,24の1・2,25,原告)及び弁論の全趣旨によれ
ば,次の事実が認められる。
(ア)原告は,自動車に手動運転装置を付け,身体障害者用の特別仕様に
改造しなければ運転できなくなったことから,平成12年8月22日
に父親からもらった自動車(クラウン)を29万2000円(税込
み)で改造した。
(イ)その後,平成14年3月26日,車椅子テニス用の車椅子を乗せる
ことができるように,就業先の意向によりその親会社製の自動車(オ
デッセイ)に買い換えるとともに,27万円で購入車を改造した。
(ウ)さらに,原告は,平成19年7月23日,原告の妻の自動車が古く
なったことから,原告の名義で中古自動車(フィット)を購入すると
ともに,21万7000円で購入車を改造した。しかし,原告は,も
っぱらオデッセイを使用していた。
以上からすれば,当初の自動車改造費は,本件事故と相当因果関係が
あることは明らかであるが,その後,2,3回目の改造費は,利用状況
等に照らし,必ずしも必要であったか疑問であるが,エの自動車の耐用
年数を考慮して,2回目の改造費に限って本件事故と相当因果関係があ
ると認める。これらの合計は56万2000円である。
エ将来の自動車改造費41万7136円
1回の改造費は,上記ウの2回の改造費の平均である28万1000
円のうち,原告が主張する25万5666円の限度で認めるのが相当で
あるところ,自動車の耐用年数を6年とし(弁論の全趣旨),前記のと
おり,原告の推定余命期間を52年とすると,将来の自動車の改造は8
回行われることとなり,中間利息を6年ごとのライプニッツ係数で控除
すると,訴え提起時の現価は67万9472円となる。そして,これを
さらにライプニッツ方式により症状固定時(平成11年9月7日)の現
価に引き直し,本件事故と相当因果関係のある将来の自動車改造費を算
定すると,41万7136円となる。
(計算式)
25万5666円×(0.74621540+0.55683742
+0.41552065+0.3100679
1+0.23137745+0.172657
41+0.12883962+0.09614
211)
=67万9472円
67万9472円×0.61391325=41万7136円
オ家屋改造費
(ア)原告の父母の居宅改造費183万5000円
当事者間に争いがない。
(イ)原告の自宅改造費15万0205円
当事者間に争いがない。
カ不妊治療費33万5750円
証拠(甲28,42〔6頁〕)及び弁論の全趣旨によれば,原告には,
本件事故によって勃起障害及び射精障害が生じ,原告が不妊治療費1回
分として,33万5750円を支出したことが認められるところ,上記
支出額は,治療回数及び金額に照らして,社会通念上相当といえる範囲
内であることから,本件事故と相当因果関係のある損害というべきであ
る。
(7)逸失利益8714万0474円
原告は,前記のとおり,重篤な後遺障害を負ったところ,その部位・程
度に照らせば,本件事故により労働能力を100パーセント喪失したとみ
る余地がないではない。
しかし,他方,証拠(甲30の1∼7,原告)及び弁論の全趣旨によれ
ば,原告は,平成14年2月ころから現在に至るまで,障害者の雇用の促
進等に関する法律に基づき認定された特別法人であるDに勤務し,約20
0ないし300万円の年収を得ていることが認められ,これが,リハビリ
や職業訓練(甲6)といった原告の特別な努力とともに,上記特別法人へ
の就職という偶然ともいうべき機会があったために得られたものであり,
将来も永続してこのような形で勤務できるのか保証の限りではないが,上
記の事情に加え,原告についても転職の機会があったこと(原告〔68∼
71項〕)等の事情を考慮すると,原告は本件事故によって90パーセン
トの労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。
原告は,本件事故当時,健康な17歳の高校生であったが,本件事故が
なければ高校卒業後18歳で就職し,67歳まで49年間稼働して収入を
得られたと推測しうるから,原告の症状が固定した当時である平成11年
度の賃金センサス第1巻第1表により認められる男子労働者の産業計,企
業規模計,学歴計,全年齢平均給与額562万3900円を基礎とし,ラ
イプニッツ方式により中間利息を控除すると,原告の逸失利益は,次の計
算のとおり,8714万0474円となる。
(計算式)
562万3900円×90%×(18.1687−0.9524)=8
714万0474円
(8)慰謝料
ア入通院慰謝料300万円
本件事案の内容,原告の後遺障害の部位・程度及び入通院の期間等,
諸般の事情によれば,原告に生じた入通院慰謝料は,300万円と認め
るのが相当である。
イ後遺症慰謝料2800万円
本件事案の内容,原告の後遺障害の部位・程度及び治療経過等,諸般
の事情によれば,原告に生じた後遺症慰謝料は,2800万円と認める
のが相当である。
(9)過失相殺
上記⑴ないし(8)の損害額は計1億2581万0222円となるところ,
原告には,前記のとおり,7割の過失が認められるから,被告が賠償すべ
き損害額は,3774万3066円となる。
(10)損失の補
原告が本件事故後,Gセンターから,障害見舞金として3370万円の支
払を受けたことは原告の自認するところであり,また,原告は,同センタ
ーから,災害共済給付金118万3356円の支払を受けたことが認めら
れる(乙1の1∼7)。
そして,原告は,前者については,填補分を元金に充当しているので,
後者の分を含め元金への充当を認めることについては異議がないものと解
されるから,上記受領金合計3488万3356円を原告の上記⑴ないし
(9)によって算出された損害金合計から控除すると,控除後の原告の損害は
285万9710円となる。
(11)弁護士費用50万円
原告が本件訴訟の提起及びその追行を弁護士である原告訴訟代理人らに
委任したことは弁論の全趣旨上明らかであるところ,本件事案の性質,審
理経過,認容額その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると,本件事故に
よる損害としての弁護士費用は,50万円と認めるのが相当である。
4以上によれば,被告は,原告に対し,安全配慮義務違反(債務不履行)
による損害賠償として,335万9710円及びこれに対する平成21年7月
24日(訴状送達の日の翌日であることは記録上明らかである。)から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
5よって,原告の請求は,上記の限度で理由があるので,その範囲で認容
し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
大分地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官金光健二
裁判官横山真通
裁判官前川悠
(別紙)※添付省略
【訴状添付別表1∼5】
【別紙図面】

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